JP2005058057A - カルボン酸類の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 フェニル基を有する有機低分子化合物においてフェニル基をカルボン酸に変換する一般的な方法を提供する。
【解決手段】 下記式(I)、(II)又は(III):
【化1】
Figure 2005058057

(式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)
で表されるフェニル基を含む芳香族化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ等とを反応させて、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
【化2】
Figure 2005058057

(式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
を得ることを含むカルボン酸類の製造方法。

Description

本発明の属する技術分野は有機低分子化合物の生触媒工学(biocatalytic engineering;又は、酵素工学(enzyme engineering)とも言う)である。具体的には、組換え大腸菌等の組換え微生物を用いた生物変換(バイオコンバージョン;bioconversion)により、産業上有用な有機低分子化合物(工業原料)を製造しようとするものである。さらに具体的には、本発明は、種々のフェニル基を含む芳香族化合物を原料として用い、そこから、フェニル基がカルボン酸に置換された有機化合物(カルボン酸化合物)を製造する方法に関するものである。このような手法は、有機化学合成の世界に、画期的で新たな可能性を提供するものである。
シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)KF707株は、北九州で単離されたビフェニルやポリ塩化ビフェニル(PCB)の分解細菌である。本細菌から、ビフェニルの分解酵素遺伝子群が世界で始めて単離された(Furukawa,K., and Miyazaki,T., Cloning of gene cluster encoding biphenyl and chlorobiphenyl degradation in Pseudomonas pseudoalcaligenes. J. Bacteriol., 166, 392-398, 1986)。現在では、ビフェニル分解細菌由来のビフェニル分解酵素遺伝子群を用いた研究は、環境浄化関連のニーズから数多くなされており、遺伝子や酵素の構造や機能に関して多くの知見が集積している(たとえば、Furukawa,K., Engineering dioxygenases for efficient degradation of environmental pollutants, Curr. Opinion Biotechnol.,11,244-249.2000参照)。最初の4反応のビフェニル分解酵素の機能を以下に示す(Suenaga,H.,Goto,M., and Furukawa,K., Emergence of multifunctional oxygenase activities by random priming recombination. J. Biol. Chem., 276, 22500-22506, 2001)。
Figure 2005058057
上記の全遺伝子、すなわち、bphA(bphA1A2A3A4)、bphBbphC、及び、bphD遺伝子を大腸菌に導入し発現させると、その大腸菌は、ビフェニルを代謝して安息香酸を作ることができる。このことは、ビフェニルにおける1つのフェニル基がカルボン酸に置換されたことを意味している。ただ、ビフェニルを基質として生物工学的に安息香酸を合成できるという、この報告以外には、フェニル基をカルボン酸に置換できるという報告は存在しないのが現状であった。一方、安息香酸は有機化学合成法、すなわち、アルキルベンゼンやアシルベンゼンのKMnO4存在下酸性条件での酸化反応により簡単に得られるので、生物工学的製造方法のメリットは低い。
本発明者らはすでに、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子として、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来のビフェニルジオキシゲナーゼ遺伝子(bphA)を分子進化工学的手法により改変したものを作製し、これを導入・発現させた大腸菌または放線菌を用いて、種々のフェニル基等を含む芳香族化合物からジヒドロジオール体を作製することに成功した(下記の非特許文献1、2又は特許文献1参照)。すなわち、我々は、ビフェニルやPCBの分解細菌であるシュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株から単離されたビフェニルジオキシゲナーゼにおける大サブユニット(BphA1)をコードするDNAを、他のビフェニル分解細菌であるブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)LB400株由来のビフェニルジオキシゲナーゼの大サブユニット(BphA1)をコードするDNAとの間でDNAシャフリング(DNA shuffling)を行い基質特異性の幅を広げた遺伝子[bphA1(2072)遺伝子と呼ぶ]を作製した。このbphA1(2072)遺伝子と、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来のビフェニルジオキシゲナーゼの大サブユニット以外の3つの構成要素をコードする遺伝子(bphA2A3A4遺伝子)からなる改変ビフェニルジオキシゲナーゼ遺伝子(群)を作製した。本遺伝子を導入・発現させた大腸菌(一部、放線菌)の形質転換体を用いて、種々のフェニル基等を含む芳香族化合物を変換できるか(基質として認識できるか)どうかの検討を行ったところ、これまで広範に同種の変換実験が行われてきたにもかかわらず、報告が無かった複素環基とフェニル基を分子内に含む有機低分子化合物(2-フェニルキノリン、2-ベンジルベンゾキサゾール、2-フェニルインドール、2-フェニルピリジン、1-フェニルピラゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-ベンジルー4-ピロリドン等)の生物変換が可能であることを見出した(非特許文献1、2参照)。すなわち、DNAシャフリングした改変ビフェニルジオキシゲナーゼ遺伝子[bphA1(2072)bphA2A3A4]を含む大腸菌が、上記有機低分子化合物を変換し、フェニル基の隣合った位置(置換基が入っている位置を1とすると、2と3の位置)にレジオ特異的に2つの水酸基と2つの水素が導入された芳香族-シス(cis)-ジヒドロジオール体を立体選択的に生成できることがわかった。この改変ビフェニルジオキシゲナーゼの大サブユニット[BphA1(2072)]のアミノ酸配列はDDBJ/Genbank accession AB085748に示されている。また、KF707株の小サブユニット(BphA2)、フェレドキシン(BphA3)、及び、フェレドキシンレダクターゼ(BphA4)のアミノ酸配列は、DDBJ/Genbank accession M83673に示されている。
特開2003-269号公報 Misawa, N., Shindo, K., Takahashi, H., Suenaga, H., Iguchi, K., Okazaki, H., Harayama, S., and Furukawa, K., Hydroxylation of various molecules including heterocyclic aromatics using recombinant Escherichia coli cells expressing modified biphenyl dioxygenase genes. "Tetrahedron" , 58, 9605-9612, 2002. Shindo, K., Nakamura, R., Chinda, I., Ohnishi, Y. Horinouchi,S., Takahashi, H., Iguchi, K., Harayama, S., Furukawa, K., and Misawa, N., Hydroxylation of ionized aromatics including carboxylic acid or amine using recombinant Streptomyces lividans cells expressing modified biphenyl dioxygenase genes. "Tetrahedron" , 59, 1895-1900, 2003.
本発明が解決しようとする課題は、フェニル基を有する有機低分子化合物におけるフェニル基をカルボン酸に置換する一般的な方法を提供するという、従来の化学合成法の常識では考えられなかった課題を達成することである。具体的には、改変ビフェニルジオキシゲナーゼ[BphA1(2072)BphA2A3A4]より合成された芳香族-シス(cis)-ジヒドロジオール体を基質として、さらに芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ(必要なら分子進化工学的に改変したもの)を、順次働かせて、芳香族-シス(cis)-ジヒドロジオール体部分がカルボン酸に置換された有機化合物の製造方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、改変芳香環(改変ビフェニル)ジオキシゲナーゼ[BphA1(2072)A2A3A4]、芳香環(ビフェニル)ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(BphB)、芳香環(ビフェニル)ジオールジオキシゲナーゼ(BphC)、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ(BphD)をコードする遺伝子を導入し発現させた組換え大腸菌の細胞と、フェニル基を分子内に有する有機低分子化合物を混合培養すると、フェニル基がカルボン酸に置換された有機低分子化合物が産物として生成されることを見出し本発明を完成するに至った。フェニル基を分子内に有する有機低分子化合物としては、複素環とフェニル環がビフェニル結合したもの(例:フラボン、2-フェニルキノリン)だけでなく、環化炭化水素基とフェニル環がビフェニル結合したもの(例:1-フェニルナフタレン、2-フェニルナフタレン)や芳香環とフェニル基の間に炭素数3の置換アルケニレン基を有するもの[例:(トランス-)カルコン]を基質として認識し、カルボン酸化合物を合成できることがわかった。
先にも述べたように、今まで数多くのビフェニル分解系酵素の機能解析関連の研究が行われてきたにも関わらず、ビフェニルから安息香酸を合成するという知見以外は存在しなかったので、上記のような発見は予想外のことであった。これは、本発明で用いた芳香環ジヒドロジオール(ビフェニルジヒドロジオール)デヒドロゲナーゼ(デサチュラーゼ)、芳香環ジオール(ビフェニルジオール)ジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼが、改変芳香環(改変ビフェニル)ジオキシゲナーゼにより生成された種々の反応産物(芳香族ジヒドロジオール体)を連続的に基質として認識し、変換反応を行うことができたことを意味している。
本発明は以上のような知見を基に完成されたものである。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 下記式(I)、(II)又は(III):
Figure 2005058057
(式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)で表されるフェニル基を含む芳香族化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼとを反応させて、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
Figure 2005058057
(式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
を得ることを含むカルボン酸類の製造方法。
(2) 芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼがビフェニル分解細菌由来のもの、又は、それらを分子進化工学的手法により改変したものである前記(1)記載の製造方法。
(3) 芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼをコードする遺伝子を導入した組換え微生物を、下記式(I)、(II)又は(III):
Figure 2005058057
(式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)
で表される化合物を含む培地で培養して、その培養物又は菌体から、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
Figure 2005058057
(式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
、又はそのエステル体を得ることを含むカルボン酸類の製造方法。
(4) 組換え微生物が、ビフェニル分解細菌由来の芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ、又は、それらを分子進化工学的手法により改変したものをコードする遺伝子を導入したものである前記(3)記載の製造方法。
(5) 組換え微生物が組換え大腸菌である前記(3)又は(4)記載の製造方法
(6) 式(I)、(II)又は(III)で表される化合物が、フラボン、2-フェニルキノリン、 (トランス-)カルコン、1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンからなる群より選択されるものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
本発明によれば、カルボン酸化合物の新規な製造方法が提供される。本発明によれば、原料としてフェニル基を有する低分子有機化合物を用いるため、大量に生産されるコールタール等の石油留分を有効利用することができる。また、本発明の方法はフェニル基をカルボキシル基に変換する方法を提供するものであり、有機化学合成において非常に有用な反応である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ビフェニル分解系酵素
本発明では、ビフェニル分解系の最初の4つの酵素、すなわち、改変芳香環(改変ビフェニル)ジオキシゲナーゼ(今後は単に「芳香環ジオキシゲナーゼ」と記載)、芳香環(ビフェニル)ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(デサチュラーゼ) (今後は単に「芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ」と記載)、芳香環ジオール(ビフェニルジオール)ジオキシゲナーゼ(今後は単に「芳香環ジオールジオキシゲナーゼ」と記載)、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼの活性を利用している。これらの酵素は上記酵素をコードする遺伝子を有する微生物から得ることができる。そのような微生物としては、例えば、ビフェニルやPCB等を分解するビフェニル分解細菌、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、コマモナス(Comamonas)属、ブルクホルデリア(Burkholderia)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ラルストニア(Ralstonia)属等に属する細菌を挙げることができる。これらの属に属する細菌の例としては、シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcalienes)、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)、ブルクホルテリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、スフィンゴモナス・アロマティシボランス(Sphingomonas aromaticivorans)、ロドコッカス・クロベルラズ(Rodococcus globerulus)、ラルストニア・オキサラティカ(Ralstonia oxalatica)等を挙げることができる。これらの細菌は、ATCCやDSMZ等のカルチャーコレクションから入手可能である。ただし、本発明で利用可能な微生物は上記のものに限定されず、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼまたは、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一つを有する微生物であれぱどのようなものでも利用することができる。なお、上記の遺伝子は通常、ゲノムDNAまたはプラスミドDNA内において、隣同士かごく近傍に存在しているので、いずれか一つの遺伝子の配列を含むクローン、たとえばコスミドクローン等をコロニーハイブリダイゼーション法等により単離すれば、簡単に残りの遺伝子も一緒に単離することができる。
芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼまたは、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子を有する微生物の一例として、本発明者らは、シュードモナス・アルカリゲネスKF707株(Furukawa,K. and Miyazaki,T., Cloning of gene cluster encoding biphenyl and chlorobiphenyl degradation in Pseudomonas pseudoalcalienes. J. Bacteriol., 166, 392-398, 1986)及びブルクホルデリア・セパシアLB400株(Pseudomonas属に近い) (Erickson,B.D., Mondello,F.J.,Nucleotide sequencing and transcriptional mapping of the genes encoding biphenyl dioxgenase, a multicomponent polychlorinated-biphenyl-degrading enzyme in Pseudomonas strain LB400. J. Bacteriol., 174, 2903-2912, 1992)の解析を行い、ビフェニル分解系酵素遺伝子を単離している。シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来の芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子(bphA1A2A3A4)を組み込んだ大腸菌JM109(pKF6622)は、2000年9月13目付けで旧通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)に寄託されている(受託番号FERM BP-7300)。また、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株とブルクホルデリア・セパシアLB400株由来のbphA1との間でDNAシャフリングを行い分子進化させたbphA1(2072)遺伝子を含む芳香環ジオキシゲナーセ遺伝子[bphA1(2072)A2A3A4]を組み込んだ大腸菌JM109(pKF2072)は、2000年9月13目付けで1日通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)に寄託されている(受託番号FERM BP-7299)。また、上記の芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子[bphA1(2072)A2A3A4]とともに、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来の芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bphB)、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ(bphC)、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子(bphD)を組み込んだJM109(pBPA2072BCD)は、2003年6月26付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に寄託されている(受託番号FERM P-19417)。なお、改変ビフェニルジオキシゲナーゼの大サブユニット[BphA1(2072)]のアミノ酸配列はDDBJ/Genbank accession AB085748に示されている。また、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株のビフェニルジオキシゲナーゼ小サブユニット(BphA2)、フェレドキシン(BphA3)、フェレドキシンレダクターゼ(BphA4)、及び、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(BphB)、及び、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ(BphC)のアミノ酸配列は、DDBJ/Genbank accession M83673に示されている。さらに、本KF707株のメタ開裂化合物ヒドロラーゼ(BphD)のアミノ酸配列はDDBJ/Genbankaccession D85851に示されている。上記4種類の酵素の元々報告されていた機能を下図に示す(Suenaga,H.,Goto,M.,and Furukawa,K.,Emergence of multifunctional oxygenase activities by random priming recombination. J. Biol. Chem,276, 22500-22506, 2001)。
Figure 2005058057
芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子は、bphA1bphA2bphA3bphA4からなり、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子はbphBからなり、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ遺伝子はbphCからなり、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子はbphDからなっている。本明細書でいう芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及びメタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子には、上記の遺伝子を有する微生物から産生されるものだけでなく、例えば、それらの遺伝子間でDNAシャフリング等の分子進化工学的手法を施して得られる改変遺伝子を導入した組換え微生物から産生される改変芳香環ジオキシゲナーゼ、改変芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、改変芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び改変メタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子等も含まれる。
本発明者らは、本発明において、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株のbphA1とブルクホルデリア・セパシアLB400株のbphA1間でDNAシャフリングを行い、コードされる酵素の基質特異性を広げたbphA1遺伝子(DDBJ/Genbank accession AB085748)、及び、シュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来のbphA2bphA3bphA4bphBbphC遺伝子(DDBJ/Genbank accession M83673)及び、bphD遺伝子(DDBJ/Genbank accession D85851)を用いた。しかしながら、同様の酵素活性を有する相当遺伝子は他にもあるので、本発明はこれらの遺伝子配列を有する組換え微生物から産生される酵素を利用するものに限定されるものではないことはいうまでもない。
なお、DNAシャフリング等の分子進化工学的手法は、現在では一般的な手法であり、常法により容易に実施できる(例えば、Kurtzman,A.L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A.,Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001)。
2.微生物への導入・発現
本発明では、例えば、上記1で説明した改変芳香環(改変ビフェニル)ジオキシゲナーセ遺伝子[bphA1(2072)A2A3A4] [bphA(2072)と略することがある]、芳香環(ビフェニル)ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(bphB)遺伝子、芳香環(ビフェニル)ジオールジオキシゲナーゼ(bphC)遺伝子、及びメタ開裂化合物ヒドロラーゼ(bphD)遺伝子を導入・発現させた組換え大腸菌及びその組換え大腸菌が産生する酵素を用いることができる。外来遺伝子を大腸菌に導入・発現する方法は常法により行うことができる(例えば、Sambrook,J.,Russell, D. W., "Molecular cloning -A laboratory manual", Third edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。例えば、大腸菌ベクターとしてpBluescript II SKを用いて、bphA(2072)BCD遺伝子の発現にはlacプロモータを利用することができる。
なお、宿主としての微生物は大腸菌に限定されるものではない。たとえば、放線菌であるストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌で、上記遺伝子を導入・発現させることも可能であり、そのような形質転換した組換え微生物も用いることができる(Chun,H.K.,Ohnishi,Y.,Shindo,K.,Misawa,N.,Furukawa, K., Horinouchi, S., Biotransformation of flavone and flavanone by Streptomyce lividans cells carrying shuffled biphenyl dioxygenase genes. J. Mol. Catalysis B: Enzymatic, 21, 113-121, 2003) 。
3.フェニル化合物の変換
さらに、組換え大腸菌等の微生物から、必要な酵素を産生させて、それらを用いて物質変換を行うことも容易である。即ち、本発明は組換え微生物と変換したい基質との混合培養によりカルボン酸化合物を製造するだけでなく、該組み換え微生物または相当遺伝子を有する非組換え微生物が産生する酵素を抽出し、その抽出酵素を用いてカルボン酸化合物を製造することもできる。
本発明では、上述のような、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ遺伝子、及びメタ開裂化合物ヒドロラーゼ遺伝子、又はそれらの改変遺伝子を有する微生物が産生する芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及びメタ開裂化合物ヒドロラーゼを用いて、下記式(I)、(II)又は(III):
Figure 2005058057
(式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)
で表されるフェニル基を含む芳香族化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼとを反応させて、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
Figure 2005058057
(式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
を得ることを含むカルボン酸の製造方法である。
本明細書でいう「複素環式基」とは、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子からなる群から選択される1以上の異種原子を環原子として含んでなる単環式または二環式の環状基であって、置換基により置換されていてもよいものを意味する。「複素環式基」の例としては、C1-4アルキル基により置換されていてもよい5〜7員の飽和または不飽和の単環性複素環式基、およびC1-4アルキル基により置換されていてもよい9〜11員の飽和または不飽和の二環性複素環式基が挙げられる。「複素環式基」を構成する複素環の具体的な例としては、キノリン、インドール、インダノン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、ピリジン、3-メチルピリジン、ピリミジン、ピロール、ピラゾール、3-メチルピラゾール、イミダゾール、インチアゾール、ベンゾフラン、チオフェン、クロモン(4H-クロメン-4-オン)、クロマン-4-オン、6-ヒドロキシ-クロマン-4-オン、およびフタルイミド等が挙げられる。
アルキレン基は-(CH2)n-(式中、nは1〜4の整数)であって、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、プロピレン基等が挙げられる。
アルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基等が挙げられる。
上記複素環式基、アルキレン基及びアルケニレン基は、その基内に-(C=O)-、-O-等の構造を含んでいてもよい。さらに、上記複素環式基、アルキレン基及びアルケニレン基は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、アミノ基、ヒドロキシル基、シアノ基等が挙げられる。
また、環式炭化水素基としては炭素数5〜14の飽和又は不飽和の環式炭化水素基が挙げられ、具体的には1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基等の芳香族化合物が挙げられる。
本発明において好適に用いられる化合物としては、例えば、以下のような化合物が挙げられる。
式(I)の化合物の具体例:
Figure 2005058057
式(II)の化合物の具体例:
Figure 2005058057
式(III)の化合物の具体例:
Figure 2005058057
上記式(I)〜(III)の化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼとを反応させるか、又はこれらの酵素を産生する微生物とともに培養することにより、下記式のように、式(I')〜(III')のフェニル基カルボン酸に置換できる。
Figure 2005058057
(式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。) ただし、上記の酵素を産生する微生物とともに培養する場合は、菌体内のエステル化酵素が働き、カルボン酸のエチルエステル体などのエステル体が生じる場合がある。この場合でも、5% KOH-メタノール(MeOH)中、室温で数時間加水分解処理すること等により、簡単にエステル体から元のカルボン酸に戻すことができる。即ち、本発明の方法により、例えば、上で示した式(I)〜(III)の具体例の内の2-フェニルキノリンを除いた4個の化合物からは以下の対応するカルボン酸化合物(1(フラボンから)、2((トランス-)カルコンから)、3(1-フェニルナフタレンから)、4(2-フェニルナフタレンから))を得ることができる。
Figure 2005058057
また、上で示した式(I)の具体例の2-フェニルキノリンからは以下に対応するカルボン酸化合物(5)またはそのエチルエステル体(6)を得ることができる。
Figure 2005058057
上記の例のうち特に、化合物3(1-ナフトエ酸)と化合物4(2-ナフトエ酸)は、ポリマー等の種々の工業原料として多量に合成されているものである。これらの基質である1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンはコールタール中に含まれる余剰石油成分である。したがって、本発明により、用途価値が低い余剰石油成分から、用途価値の高いカルボン酸を製造できるようになったことは意義深い。
また、上記変換産物2においては、元々の基質((トランス-)カルコン)が有していたアルケニレン基(1つの炭素間二重結合)が飽和のアルキレン基に変わっている。これは、宿主の大腸菌が持つ内在性のサチュレーション酵素の働きの結果であると考えられる。コントロールのベクターpUC118を有する大腸菌においても、同様のサチュレーション反応が観察されたからである。
上記式(I)〜(III)で表される化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ(又は、これらの酵素を含む破砕微生物、微生物培養液、粗酵素、精製酵素等)との反応、あるいは上記4つの酵素を産生する微生物とともに培養する方法は、通常の酵素反床又は培養方法と同様にして常法により行なうことができる。
例えば、上記式(I)〜(III)で表される化合物とともに、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼを産生する微生物を培養する方法は以下のようにして行なうことができる。
微生物を培養する培地としては通常、該微生物が生育し得る培地であれば良く、具体的には、LB培地、M9培地、KB培地、YM培地、KY培地、F101培地、等が例示される。
炭素源としては菌体が資化し生育できる炭素化合物であればいずれでも使用可能である。窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素源、酵母エキス、ペプトン、肉エキスなどの有機窒素源を使用することができる。これらの他に、必要に応じて、無機塩類、金属塩、ビタミンなどを添加することもできる。
培養は、通常、温度20〜40℃、より好ましくは25〜35℃であり、pHは5〜9が好ましい。また、適宜、振盤培養や回転培養としてもよい。
培養終了後、培養液を遠心分離機にかけ、上清を回収し、上清液を酢酸エチル等の有機溶媒を用いて抽出する。次いで、抽出液をカラムクロマトグラフィー等で処理することにより目的とするカルボン酸化合物を得ることができる。
以下、実施例により本発明について具体的に説明する。もっとも、本発明はこれにより限定されるものではない。
[実施例1]改変芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子発現用プラスミドpKF2072の作製
改変芳香環(改変ビフェニル)ジオキシゲナーゼ遺伝子発現用プラスミドpKF2072は、例えば、特許文献1(特開2003-269号公報)等に記載の方法を参照することにより作製することができる。
ブルクホルデリア・セパシアLB400株由来の芳香環(ビフェニル)ジオキシゲナーゼ大サブユニットをコードする遺伝子(bphA1)(この塩1基配列はGenBank accession M86348に登録されている)とシュードモナス・シュードアルカリゲネスKF707株由来の芳香環(ビフェニル)ジオキシゲナーゼの大サブユニットをコードするDNA(bphA1)(この塩基配列はGenBank accession M83673に登録されている)を、共通のブランキング配列からなるbphA1プライマーを用いたPCRにより単離した。bphA1プライマーの塩基配列を示すと、
フォワード側:5'-CCGAATTCAAGGAGACGTTGAATCATGAGCTCAGC-3'
リバース側:5'-TTGAATTCTTCCGGTTGACAGATCT-3'
なお、フォワード側にはSacI部位が、リバース側にはBglII部位があり、両側にさらにEcoRI部位が付与されている(いずれも、アンダーラインで示されている)。PCRの条件は、94℃1分、52℃1.5分、72℃1分で、25サイクル行った。
単離された上記の2種類のbphA1を混ぜ合わせ、0.15ユニットのDnase I(宝酒造)で15℃6分間、分解処理した。10-50 bp DNA断片をアガロースゲルから回収後、混合し、セルフプライミングPCR、bphA1プライマーを加えたPCRを行い、ランダムにアミノ酸配列が入れ替わった(DNAシャフリング)種々のキメラbphA1を含むPCR産物を得た。なお、PCRは上記と同じ条件で行い、種々のキメラbphA1を含むPCR産物は、SacI/BglIIで二重消化後、アガロースゲルから精製した。
P.seudoalcalienes KF707株のbphA1A2A3A4-bphB-bphC遺伝子群(GenBank accession M83673に登録されている)を含む発現プラスミドpJHF18(Hirose, J., Auyama, A., Hayashida, S., Furukawa, K., Gene, 128, 27-33, 1994)を有する大腸菌は、メタ開裂まで反応が進むので、ビフェニルを基質とした場合はメタ開裂産物として、2-ヒドロキシ-6-オキソ-6-フェニルヘキサ-2,4-ジエン酸(2-hydroxy-6-oxo-6-phenylhexa-2,4-dienoic acid)を生成する。一般に、メタ開裂産物は黄色を呈するので、434mmでモニターすることが可能である。プラスミドpJHF18において、1ヵ所のMluI部位がbphA1内にあるので、MluIで消化、filled-in後、re-ligationを行うことにより、bphA1のみを破壊したプラスミドpJHF18ΔM1uIを作製した(T.Kumamaru,H.Suenaga,M.Mitsuoka, T. Watanabe, K. Furukawa, Nature Biotechnology, 16, 663-666, 1998)。
次に、PJHF18ΔM1uIをSacI/BglIIで二重消化により、ΔbphA1遺伝子をのみを含む1.39kb断片を除き、代わりに、上記で作製した種々のキメラ地を含むPCR産物(SacI/BglIIで二重消化後のもの)を挿入し、種々の改変芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子(modified bphA1::bphA2A3A4遺伝子)とbphBbphC遺伝子を含む種々のプラスミド(pSHF1000シリーズ)を得た。
これら種々のプラスミドを有する大腸菌XL1-B1ueにビフェニル蒸気を充て、メタ開裂により黄色を呈することができるコロニーを選抜し、以後の実験に用いた。メタ開裂により黄色を呈することができるコロニーにおいては、DNAシャフリングにより得られたmodified bphA1遺伝子が正常に機能できることを意味している。
ビフェニル蒸気により黄色を呈することができた、いくつかの大腸菌形質転換体のうちの1つ(この大腸菌に含まれるプラスミドをpSHF1072と命名)は、ビフェニルに対するメタ開裂の分解効率が、それぞれの親(KF707及びLB400)のbphA1遺伝子を持つものより、2倍近く高かっただけでなく、それぞれの親(KF707及びLB400)のbphA1遺伝子を持つものが分解できないベンゼンやトルエンをもメタ開裂により分解することができた。ただし、この分解効率は、P. putida F1の相当遺伝子todC1遺伝子を持つものの1/3位であった。
次に、プラスミドpSHF1072に含まれるシャフリングしたbphA1::bphA2A3A4遺伝子群が大腸菌ベクターpUC118の1acプロモーターの転写のリードスルーを受ける方向に挿入された、改変芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子発現用プラスミドpKF2072を作製した。より具体的には、プラスミドpSHF1072からシャフリングしたbphA1-A2A3A4-bphB-bphC遺伝子群を含む6.78kb XhoI断片を切りだし、pUC118のXhoI部位に挿入した。次に、bphBbphC内にまたがって存在していた1.43kb PpuMI断片を、PpuMI消化、re-ligationにより欠失させた。これにより、シャフリングしたbphA1(pSHF1072由来)::bphA2A3A4遺伝子のみを含む5.35kb断片がpUC118のlacプロモーターの転写のリードスルーを受ける方向に挿入されたプラスミドpKF2072を得た。このプラスミドpKF2072におけるシャフリングしたbphA1(pSHF1072由来)遺伝子を以後、bphA1(2072)遺伝子と呼ぶ。本遺伝子の塩基配列はGenBank accession AB085748に登録されている。また、bphA2A3A4の塩基配列は前述したように、GenBank accession M83673に登録されている。
なお、既に、本発明者らはこのpKF2072が導入された大腸菌JM109株[今後、大腸菌(pKF2072)と記述する場合がある]を用いて種々の生変換(bioconversion)実験を行なっており、その結果は、前述の非特許文献1(Misawa,N.,Shindo, K., Takahashi, H., Suenaga, H., Iguchi, K., Okazak i, H., Harayama,S., and Furukawa, K., Hydroxylation of various molecules including heterocyclic aromatics using recombinant Escherichia coli cells expressing modified biphenyl dioxygenase genes. Tetrahedron, 58, 9605-9612, 2002))、及び、特許文献1(特開2003-269号公報、三沢典彦、新藤一敏、岡崎寛、古川謙介、堀之内末治、水酸化された複素環化合物および芳香族カルボン酸の製造法および改変された芳香環ジオキシゲナーゼ)に開示している。
大腸菌(pKF2072)は、種々のフェニル基等を含む複素環芳香族化合物を変換し、フェニル基または複素環芳香族基内の隣合った位置に位置特異的に2つの水酸基と2つの水素が導入された芳香族-シス(cis)-ジヒドロジオール体を立体選択的に生成できることがわかっている。その中でも代表的な反応特異性の例は、複素環芳香族基とフェニル基が単結合(ビフェニル結合)した芳香環化合物を基質とし、産物として、複素環芳香族基-シス-2,3-ジヒドロベンゼンジオール(heteroaromatic group-cis-2,3-dihydrobenezenediol)を合成する立体特異的反応(stereo-specific reaction)である。
なお、上記の改変芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子を組み込んだ大腸菌JM109(pKF2072)は、2000年9月13日付で旧通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)に寄託されている。受託番号は、FERM BP-7299である。
[実施例2]改変芳香環ジオキシゲナーゼ/芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ/芳香環ジオールオキシゲナーゼ/メタ開裂ヒドロラーゼ遺伝子同時発現用プラスミドpBPA2072BCDの作製
実施例1で取得したプラスミドpSHF1072は、bphA1(2072)、bphA2bphA3bphA4bphB、及び、bphC遺伝子が、この順序で、大腸菌ベクターpUC118にlacプロモーターの転写のリードスルーを受けるように挿入されている。また、bphC遺伝子後方にはpUC118のマルチクローニングサイト上のHindIII部位が存在する。
プラスミドpHSG396-bphDを鋳型に、bphD遺伝子をPCRにより増幅した。なお、bphD遺伝子の塩基配列(配列番号1)はGenBank accession D85851に登録されている。bphDプライマーの塩基配列を示すと、
フォワード側:5'-CCAAAGCTTGGAGACAGTAATGACCGCACTCACCGAAAG-3'
リバース側:5'-CCAAAGCTTTTAGGCCTGCCGTAAAAAAT-3'
なお、フォワード側、リバース側共にHindIII部位が付加されている(いずれもアンダーラインで示されている)。また、フォワード側にはbphD遺伝子の開始コドン上流10残基の位置にシャイン-ダルガノ配列(即ち、GGAG)が付加されている。PCRの条件は、95℃1分、61℃1分、72℃1分で、30サイクル行った。
増幅されたbphD遺伝子をHindIIIで消化後、pSHF1072のHindIII部位に挿入した。作製されたプラスミドにはbphD遺伝子がプロモータ領域から見て正の方向と負の方向のものが存在する。作製されたプラスミドを複数単離し、bphC-bphD遺伝子部分の遺伝子配列を解析し、bphD遺伝子がプロモーター領域から見て正の方向に挿入されているものを選択し、プラスミドpBPA2072BCDを得た。
プラスミドpBPA2072BCDにおいて、bphA1(2072)、bphA2bphA3bphA4bphBbphC、及び、bphD遺伝子が、この順序で、大腸菌ベクターpUC118にlacプロモーターの転写のリードスルーを受けるように挿入されている。このpBPA2072BCDを大腸菌JM109株またはJM101株に導入することにより得られた形質転換体を以後の実験に用いた。なお、大腸菌JM109(pBPA2072BCD)は、2003年6月26日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に寄託されている(受託番号FERM P-19417)。
[実施例3]大腸菌形質転換体と基質[式(I)、(II)、又は(III)]との共存培養
大腸菌形質転換体と基質[式(I)、(II)、又は(III)]との共存培養の一般的な手順は以下のとおりである。
実施例2で作製した改変芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールオキシゲナーゼ、及びメタ開裂ヒドロラーゼ遺伝子を有する組換え大腸菌JM109、すなわち、大腸菌(pBPA2072BCD)を、150μg/m1のアンピシリン(Ap)を含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaC1)で対数期前半まで液体培養し、最終濃度が約30%になるようにグリセロールに懸濁し、-70〜-80℃のディープフリーザーに入れることにより、グリセロール保存株とした。また、コントロールとして、pUC118等のAp耐性のベクターのみを有する大腸菌(JM109株)も同様に培養してグリセロール保存株を作製した。
大腸菌(pBPA2072BCD)との共存培養による基質のカルボン酸への変換反応を開始するにあたって、まず、上記のグリセロール保存株から、大腸菌形質転換体を白金耳で掻き取り、150μg/mlのアンピシリン(Ap)を含むLB培地4mlに懸濁し、175rpm、30℃で7〜8時間培養した(前培養)。次に、この前培養液を、150μg/mlのAp,0.4%(w/v)のグルコース、及び10μg/mlのチアミン(thiamine)を含むM9培地(Sambrook,J.,Russell,D.W.,“Molecular cloning-Alaboratory manual”, Third edition, Cold Spring harbor Laboratory press, 2001)70mlに入れ、175rpm、30℃で16〜17時間(一晩)培養した(本培養)。これでOD 600nmが約1になる。これを8,000rpmで5分間遠心分離して菌体のみを集めた後、最終濃度1mMのイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)と7mgまたは1mM(最終濃度)の基質とを含む70mlのM9培地(150μg/mlのAp、0.4%(w/v)のグルコース、及び10μg/mlのチアミンを含む)に懸濁し、120rpm、30℃で2〜3日間さらに共存培養を行った。なお、基質は前もって、少量のDMSO又は70%エタノールに溶かしたものを培地に加えた。培養2〜3日目に70mlのメタノールを加え30分間攪拌することにより生成したカルボン酸を含む脂質成分を抽出し、8,000rpmで5分間遠心分離して上清を集めた。
[実施例4]変換産物のHPLC分析
大腸菌(pBPA2072BCD)と種々の基質との反応により得られた生成物はHPLCにより分析した。分析に用いたHPLC条件は以下の通りである。検出はphotodiode array detector(HITACHI L7100)を用い、200〜500nmの吸収を検出した。
カラム:Waters Xterra MSC18(5μm), 4.6 x 100mm
流速:1.0 mL/min.
溶媒:A=5% CH3CN, 20mMリン酸、B=95% CH3CN, 20mMリン酸
0→3min:A 100%
3→20min:A 100%→B 100%(リニアグラジエント)
20→30min:B 100%
温度:室温
[実施例5]共存培養により得られた産物の精製・同定
大腸菌(pBPA2072BCD)と種々の芳香族化合物(基質)とを用いて実施例3に記載の手順に準じて共存培養を行った。基質としては、具体的には、フラボン、2-フェニルキノリン、(トランス-)カルコン、1-フェニルナフタレン、2-フェニルナフタレンを用いた。
大腸菌(pBPA2072BCD)とこれらの基質との混合培養液700ml〜1400mlに等量のメタノールを添加し、室温で2時間攪拌した。
これを7,000rpm、10min遠心分離し、上清を回収した。上清は減圧下300ml〜500mlまで濃縮し、1N塩酸でpHを4前後に調整後、等量の酢酸エチルで2度抽出した。酢酸エチル層を減圧下濃縮し生成物含有エキスを得た。エキスをシリカゲル[0.25mm Silica Gel60,(Merck)]を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)にかけ、変換産物の確認を行った後、シリカゲルカラム[20 x 250mm, Silica Gel60(Merck)]を用いたカラムクロマトグラフィーに供し、純晶を得た。
なお、各基質におけるTLCの展開溶媒は以下の通りである。
フラボン :CH2Cl2-MeOH(30:1)
(トランス)-カルコン :CH2Cl2-MeOH(15:1)
1-フェニルナフタレン:ヘキサン-EtOAc (5:1)
2-フェニルナフタレン:ヘキサン-EtOAc (5:1).
2-フェニルキノリン :ヘキサン-EtOAc (10:1)。
また、各基質におけるカラムクロマトグラフィフィーの展開溶媒は以下の通りである。
フラボン :CH2Cl2-MeOH(30:1)
(トランス)-カルコン:CH2Cl2-MeOH(20:1)
2-フェニルキノリン :へキサン-EtOAc (10:1)。
[実施例5-1]フラボンの変換産物の同定
大腸菌(pBPA2072BCD)によりフラボン(flavone)の変換実験を行った粗抽出物(118 mg)をTLCに供したところ、Rf値0.3の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物1(4.8 mg)の純晶を得た。化合物1は以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較[Bevan,Peter S.,Ellis,Gwynn P.,Wilson,H.Kerr,Benzopyranes. Part 17.The synthesis of some bischromones and the reaction of cyanomethyl esters with sodium azide, Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1:Organic and Bio-0rganic Chemistry (1972-1999) (1981), (9), 2552-6]により、4-オキソクロメン-2-カルボン酸(4-oxochromene-2-carboxylic acid)(下図、化15)であると同定した。
化合物1(4-oxochromene-2-carboxylic acid)は新規化合物ではないが、フラボンから製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物1の製造法としても本発明による方法は有効である。
Figure 2005058057
[実施例5-2](トランス-)カルコンの変換産物の同定
大腸菌(pBPA2072BCD)により(トランス-)カルコンの変換実験を行った粗抽出物(125 mg)をTLCに供したところ、Rf値0.3の産物が生成していることが判明した。本産物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物2(8.6 mg)の純晶を得た。化合物2は以前に報告されたMSとNMRのスペクトルデータとの比較[Cavinato,G.,Toniolo,L.,Vavasori,A., Synthesis of e-keto carboxylic acids via reduction of e-keto-a-hydroxycarboxylic acids with carbon monoxide catalyzed by a Pd-HCl system, Journal of Molecular Catalysis, (1994), 89(1-2), 93-100]により、4-オキソ-4-フェニルブタン酸(4-oxo-4-phenylbutanoic acid)(下図、化16)であると同定した。
化合物2(4-oxo-4-phenylbutanoic acid)は新規化合物ではないが、(トランス-)カルコンより製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物2の製造法としても本発明による方法は有効である。
Figure 2005058057
なお、変換産物2においては、元々の基質[(トランス-)カルコン]が有していたアルケニレン基(1つの炭素間二重結合)が飽和のアルキレン基に変わっている。これは、宿主の大腸菌が持つ内在性のサチュレーション酵素の作用のためであると考えられる。コントロールのベクターpUC118を有する大腸菌においても、同様のサチュレーション反応が観察されたからである。
[実施例5-3]1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンの変換産物の同定
大腸菌(pBPA2072BCD)により1-フェニルナフタレン(1-phenylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物を、[実施例5]に書いたTLC条件及び[実施例4]にて示したHPLC条件により、予想される変換物である1-ナフトエ酸(1-naphthoic acid) (下図、化17、化合物3)の標晶と直接、比較分析した(TLC Rf値0.24、HPLC保持時間17.8分)。その結果、大腸菌(pBPA2072BCD)により、変換率40%で1-ナフトエ酸(下図、化17、化合物3)が得られることが明らかとなった。
大腸菌(pBPA2072BCD)により2-フェニルナフタレン(2-phenylnaphthalene)の変換実験を行った粗抽出物を、[実施例5]に書いたTLC条件及び[実施例4]にて示したHPLC条件により、予想される変換物である2-ナフトエ酸(2-naphthoic acid)(下図、化17、化合物4)の標品と直接、比較分析した(TLC Rf値0.27、HPLC保持時間17.2分)。その結果、大腸菌(pBPA2072BCD)により、変換率28%で、2-ナフトエ酸(下図、化17、化合物4)が得られることが明らかとなった。
Figure 2005058057
化合物3及び4は新規物質ではないが、それぞれ、1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンより製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物3、4の製造法としても本発明による方法は有効である。
1-ナフトエ酸(3)、2-ナフトエ酸(4)は、ポリマー等の種々の工業原料として多量に合成されているものである。これらの基質である1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンはコールタール中に含まれる余剰石油成分である。したがって、本発明により、用途価値が低い余剰石油成分から、用途価値の高いカルボン酸を製造できる。
[実施例5-4]2-フェニルキノリンの変換産物の同定
大腸菌(pBPA2072BCD)により2-フェニルキノリン(2-phenylquinoline)の変換実験を行った粗抽出物を、酢酸エチルで抽出後(180.1 mg)、[実施例5]に書いたシリカゲルカラム条件で精製した。精製物 (6)(12.3 mg)の分子式は、HR-EIMS [found 201.0792 , cald. 201.0790]よりC12H11NO2と決定された。化合物6のHMQC及びDQF COSYスペクトル分析により、化合物6は2-phenylquinolineのphenyl基がカルボン酸となり、ここにエチル基がエステル結合した化合物であると決定された(した表1参照)。これはHMBCスペクトルにおいて、H-3'(d 4.49), からC-1' (d 165.4)へ観測された遠隔スピン結合によっても確認された。以上の結果より、化合物6はキノリン-2-カルボン酸エチルエステル(quinoline-2-carboxylic acid ethyl ester)(下図、化18、6)と同定した。
化合物6(quinoline-2-carboxylic acid ethyl ester)はCASに構造登録のある既知物質であるが、化合物6を2-フェニルキノリンから製造できるという報告はこれが最初である。従って、化合物6の製造法としても本発明による方法は有効である。
Figure 2005058057
Figure 2005058057
他の4つの例(化15〜17)と違って、化合物6(化18)の場合はエチルエステル化されていた。これは、プラスミドpBPA2072BCDの上の一連の遺伝子(酵素)の働きにより、2-フェニルキノリンから キナルジン酸[quinaldic acid;別名、キノリン-2-カルボン酸(quinoline-2-carboxylic acid)](化18、化合物5)ができ、大腸菌内の自生のエステル化活性により、化合物6が生じたと考えられる。なお、エステル体である化合物6は、5% KOH-メタノール(MeOH)中、室温で数時間加水分解処理すること等により、簡単に 化合物5に戻すことができる。

Claims (6)

  1. 下記式(I)、(II)又は(III):
    Figure 2005058057
    (式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)
    で表されるフェニル基を含む芳香族化合物と、芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼとを反応させて、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
    Figure 2005058057
    (式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
    を得ることを含むカルボン酸類の製造方法。
  2. 芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼがビフェニル分解細菌由来のもの、又は、それらを分子進化工学的手法により改変したものである請求項1記載の製造方法。
  3. 芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼをコードする遺伝子を導入した組換え微生物を、下記式(I)、(II)又は(III):
    Figure 2005058057
    (式中、H1は置換基を有していてもよい複素環式基であり、A1は単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、P2は置換基を有していてもよいフェニル基であり、A2は置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキレン基若しくはアルケニレン基であり、C1は置換基を有してもよい環式炭化水素基(但し、フェニル基を除く)である。)
    で表される化合物を含む培地で培養して、その培養物又は菌体から、カルボン酸化合物(I')、(II')又は(III'):
    Figure 2005058057
    (式中、H1、A1、P2、A2及びC1は前記定義のとおりである。)
    、又はそのエステル体を得ることを含むカルボン酸類の製造方法。
  4. 組換え微生物が、ビフェニル分解細菌由来の芳香環ジオキシゲナーゼ、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、芳香環ジオールジオキシゲナーゼ、及び、メタ開裂化合物ヒドロラーゼ、又は、それらを分子進化工学的手法により改変したものをコードする遺伝子を導入したものである請求項3記載の製造方法。
  5. 組換え微生物が組換え大腸菌である請求項3又は4記載の製造方法。
  6. 式(I)、(II)又は(III)で表される化合物が、フラボン、2-フェニルキノリン、 (トランス-)カルコン、1-フェニルナフタレン及び2-フェニルナフタレンからなる群より選択されるものである請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN108314647A (zh) * 2018-04-24 2018-07-24 华中科技大学 一种喹啉-2-甲酸及喹啉-2-甲酸衍生物的制备方法

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