JP2005013457A - 魚類由来コラーゲンとその熱変性物から得られる成形体 - Google Patents
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Abstract
【課題】架橋剤を使用せず、十分な安定性と止血性を併せ持ち、かつ哺乳類由来コラーゲンやゼラチンが潜在的に有する病原体の危険性の少ない止血材を、魚類由来コラーゲンを用いて提供する。
【解決手段】魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物を、架橋剤を用いない方法で架橋処理して得られ、37℃のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水に対する溶解性が70%未満である成形体は、良好な止血性と適度な生体内安定性を有し、止血材として好適に用いることができる。
【選択図】 なし
【解決手段】魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物を、架橋剤を用いない方法で架橋処理して得られ、37℃のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水に対する溶解性が70%未満である成形体は、良好な止血性と適度な生体内安定性を有し、止血材として好適に用いることができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はコラーゲンとその熱変性物からなる止血材等として有用な成形体に関する。
具体的には、魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物に特定の架橋処理を施すことにより作成した、安定性、血小板接着性および安全性に優れた成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
外科手術時における毛細血管出血や血管吻合部からの出血に対し、従来から各種止血材が用いられてきた。止血材には血液凝固反応を惹起させ血栓形成を促進する性質が要求される。また、止血後に除去の必要な止血材を用いた場合、再度血液が滲出してくることがあるため、使用された止血材は生体内分解作用により徐々に消失することが望ましい。これらの理由から、生体内止血機構の一つである一次止血に関与し、かつ生体親和性に優れるコラーゲンあるいはその変性物であるゼラチンが止血材として好ましく用いられてきた。
【0003】
現在実用化されているゼラチン製止血材には、スポンジ、粉末、あるいはフィルム状に成形した架橋ゼラチンがある。コラーゲン製止血材には、シートや粉末状に成形した微線維性コラーゲン塩酸塩がある。しかし、上記ゼラチン製止血材は止血性に優れるものの安定性が十分でない場合があった。また、上記コラーゲン製止血材は安定性に優れるものの止血性が十分でなく、シートにすると剛直になり、粉末にすると静電気により飛散しやすく、操作性に難のある場合があった。
【0004】
前記の欠点を解決すべく、コラーゲンあるいはゼラチン止血材の操作性あるいは止血性の改良を目指した更なる研究が行われてきた。操作性を向上させるためにコラーゲンを綿状に加工した止血材が開示されている(人工臓器19(3),1235(1990)(非特許文献1))、架橋処理を施していないために止血時における安定性が不十分であり、良好な止血性が得られない場合があった。また、特開平7−163860公報(特許文献1)にはゼラチンとポリアニオンをカルボジイミドで架橋したゼラチンゲルが開示されている。該ゼラチンゲルは良好な接着性を有するため止血材としての有効性が示唆されている。しかしカルボジイミド等架橋剤の多くはコラーゲンの止血能を左右すると言われるフリーアミノ基をマスクする上、残留架橋剤を除去する手間がかかるという難点があった。更に、特開平8−196614号公報(特許文献2)には安定性と止血性をあわせ持つ綿状架橋コラーゲン繊維が開示されている。しかし、この止血材は牛皮由来コラーゲンを用いており、BSE(牛海綿状脳症)を引き起こす異常プリオンに代表される各種病原体の存在を否定できないという問題点があった。
【0005】
コラーゲンは、少なくとも部分的にコラーゲン螺旋構造を有するタンパク質あるいは糖タンパク質と定義される。グリシン残基が3個目ごとに、またその他のアミノ酸残基としてプロリン残基、ヒドロキシプロリン残基が高頻度に存在するペプチド鎖の3重らせん(コラーゲン螺旋)を形成する。
コラーゲンは無脊椎動物あるいは脊椎動物の組織、特に皮膚から多く抽出することができる。
コラーゲンには構造の違いによって19種類の型の存在が報告されており、さらに同じ型に分類されるコラーゲンにも数種類の異なる分子種が存在する場合がある。
【0006】
中でも、I、IIおよびIV型コラーゲンが主にバイオマテリアルの原料として用いられている。I型はほとんどすべての結合組織に存在し、生体内に最も多量に存在するコラーゲン型である。特に腱、真皮および骨に多く、工業的にはこれらの部位から抽出される場合が多い。II型は軟骨を形成するコラーゲンであり、IV型は基底膜を形成するコラーゲンである。IおよびII型はコラーゲン線維を形成する能力を有し、試験管内でコラーゲン線維構造を回復させることができる。IV型は線維形成能力を有しないが、基底膜における細胞分化に関与しているとされる。
【0007】
コラーゲンに熱を加えると分子量10万程度のポリペプチド鎖3本から成るコラーゲンの三重らせん構造がほぐれ、それぞれのポリペプチド鎖がランダムコイル状の熱変性物を与える。そのような構造変化を起こす温度は変性温度と呼ばれ、熱変性物はゼラチンと呼ばれる。コラーゲンの変性温度は溶液状態の時に最も低くなり、由来する生物の生活環境温度に対応すると言われている。哺乳類では37℃前後、魚類はおおむね哺乳類よりも低く、寒流系の魚類では20℃を下回る場合もある。ゼラチンはコラーゲンに比べ水溶性が高い他に、生体内プロテアーゼによる分解を受けやすいことが知られている。
【0008】
上記の如き特徴から魚類由来コラーゲンは生体内において不安定である考えられ、バイオマテリアルあるいは医療材料の原料としてはほとんど注目されてこなかった。しかし、現状の主なコラーゲン供給源であるウシ、ブタなどの家畜が潜在的に有している病原体が伝播して供給が停止する可能性や、製品を用いる人間に対して病原体が感染する可能性が低いという利点がある。
【0009】
【非特許文献1】
人工臓器19(3),1235(1990)
【特許文献1】
特開平7−163860公報
【特許文献2】
特開平8−196614号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のコラーゲン製あるいはゼラチン製止血材が有する課題を同時に解決する止血材を提供することを目的としている。すなわち、架橋剤を使用せず、十分な安定性と止血性を併せ持ち、かつ哺乳類由来コラーゲンやゼラチンが潜在的に有する病原体伝播の危険性の少ない止血材を、魚類由来コラーゲンを用いて提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこのような状況に鑑み、前記問題点を改善すべく鋭意研究を重ねた結果、魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物の混合物に、架橋剤を用いないで架橋処理を施した成形体が前記問題点を同時に解決することを見出し、本発明をするに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物との混合を架橋剤を用いない架橋方法により安定化した成形体を提供するものである。
1.魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物を、架橋剤を用いない方法で架橋処理して得られる成形体。
2.カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水(Phosphate−buffered Saline)に対する溶解性が70%未満である前記1に記載の成形体。
3.紫外線またはγ線を用いて架橋処理して得られる前記2に記載の成形体。
4.加熱により架橋処理して得られる前記2に記載の成形体。
5.スポンジ状多孔体である前記3または4に記載の成形体。
6.綿状物である前記3または4に記載の成形体.
7.フィルム状である前記3または4に記載の成形体。
8.シートである前記3または4に記載の成形体.
9.止血材用である前記1ないし8のいずれかに記載の成形体。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明における魚類由来コラーゲンとは、魚類から抽出されるコラーゲンであれば特に限定されない。収量等の観点から、魚皮から得られるI型コラーゲン、またはI型コラーゲンを主成分とする各型コラーゲンの混合物が好ましく用いられる。本発明の目的を達成できる範囲で、該コラーゲンの物理化学的性質を変化させるべく公知の化学修飾を施しても良い。化学修飾としてはメチル化、スクシニル化、アセチル化などが挙げられる。既知の如く、コラーゲン分子はその両末端にテロペプチドと呼ばれる螺旋構造を持たないペプチド鎖が存在する。この中には12〜27個のアミノ酸残基を含んでおり、コラーゲンの抗原性はこの部分によって発現すると言われている。そのため、本発明における魚類由来コラーゲンもテロペプチドを取り除くことが好ましい。テロペプチドはペプシン等のたんぱく質分解酵素により公知の方法で取り除くことができる。
【0014】
本発明において使用する魚類はその種類について特に限定されるものではない。しかし、希少な種ではコラーゲンの安定供給が困難であることと、水産加工工程で発生する大量の魚皮が水産廃棄物として処理されている現状に鑑み、これらの廃棄物を新たな資源として有効利用するという観点から水産廃棄物として発生する魚皮を用いることが好ましい。
【0015】
前述の通り、コラーゲンに熱を加えるとコラーゲンの三重らせん構造がほぐれ、それぞれのポリペプチド鎖がランダムコイル状の熱変性物(ゼラチン)を与える。熱変性したコラーゲンは必ずしも完全に三重らせん構造を失っているわけではなく、中性水溶液中、変性温度以下で部分的に三重らせん構造を回復する場合がある。本発明におけるコラーゲンの熱変性物とは、加熱することによりコラーゲンらせん構造を少なくとも部分的に失ったコラーゲンを意味する。該熱変性物は、コラーゲン水溶液を加温することにより、あるいはコラーゲン乾燥体を加温した水に直接溶かすことにより得ることができる。本発明においては、コラーゲンサスペンション(コラーゲンが不完全に溶解した状態で溶媒中均一に分散している状態)も水溶液として扱う。
【0016】
コラーゲン水溶液の濃度は0.1〜1.0(w/v)%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2〜0.5(w/v)%である。コラーゲン水溶液の濃度が低すぎると、得られる成形体がスポンジ状あるいは綿状の場合は粗になり、フィルム状の場合は薄くなるために、扱いにくくなる場合や、止血性を十分に発揮できなくなる場合がある。コラーゲン水溶液の濃度が高すぎると、粘度が高くなり扱いが困難になる場合がある。水溶液のpHは、低すぎても高すぎてもコラーゲンの分解を引き起こす場合があり好ましくない。水溶液のpHは2.0〜10の範囲が好ましい。
【0017】
魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液は、上記魚類由来コラーゲン水溶液を加熱処理することにより得ることができるし、魚類由来コラーゲン凍結乾燥物を加熱した溶媒に加えることにより得ることもできる。コラーゲン熱変性物水溶液の粘度に対する濃度依存性は、コラーゲン水溶液に比べ大幅に低く、コラーゲンよりも高濃度で水溶液を調製することができる。コラーゲン熱変性物濃度は0.1〜10(w/v)%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2〜5(w/v)%である。水溶液のpHはコラーゲン水溶液に準ずる。
【0018】
本発明におけるコラーゲンとその熱変性物を混合する方法としては、コラーゲン水溶液と熱変性物水溶液を別途調製し、それらを混合して均一にする方法であれば特に限定されないが、コラーゲンの変性を防ぐため、両水溶液はコラーゲンの変性温度以下であることが望ましい。該水溶液のイオン強度や酸性度によってはコラーゲン分子が凝集して水溶液に濁りを生じさせたりゲル化したりする場合があるが、本発明の目的を達成できる限りは起こっても構わない。
【0019】
本発明における架橋剤を用いない架橋方法は特に限定されないが、紫外線照射、γ線照射、真空下における加熱処理などの公知の方法を用いることができる。
【0020】
加熱処理の場合、真空下で行わなければ架橋が生成しない。真空下であっても、温度が低すぎると架橋が生成せず、温度が高すぎると架橋は生成するもののコラーゲンのほとんどが変性してしまい好ましくない。具体的には、真空下、90〜160℃の範囲で加熱処理することが好ましい。より好ましくは100〜140℃である。なお、本発明における真空とは、気圧20Pa以下の減圧状態を指すものとする。
【0021】
これらの架橋方法は、止血材の乾燥体を用途(使用目的)に合わせて、所望の形状に成形した後に行ってもよいし、紫外線照射あるいはγ線照射の場合、窒素等の不活性ガスで置換した前記コラーゲン/熱変性物水溶液に対して架橋処理を施してもよい。
窒素等の不活性ガスで置換せずに紫外線照射あるいはγ線照射を行うと、コラーゲンの変性あるいは切断が起こり好ましくない。
【0022】
本発明における溶解性とは、下記の方法により止血材試験片を37℃のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水(Phosphate−buffered Saline)(以下、PBSと略す。)に2日間浸漬した場合に溶出するコラーゲンペプチドの割合により求めた値(%)を言う。実際に生体内で使用した場合、コラーゲンおよびゼラチンは各種のタンパク質分解酵素による分解を受けるが、その際の安定性を本発明における溶解性によりおおむね見積もることができる。ゼラチンは水に対する溶解性が極めて高く、架橋処理を施さない場合は37℃PBSに対して速やかに溶解する。一方、コラーゲンは特有の3重らせん構造によってゼラチンよりも水に対する溶解性は低いが、架橋処理を施さない場合は37℃PBSに対して徐々に溶解する。魚類由来コラーゲンは変性温度が低く、哺乳類由来コラーゲンよりも溶解性が高い。
【0023】
止血剤は溶解性が高すぎると、出血部に適用した際、止血が成される前に止血材が溶け出してしまい好ましくない。本発明の止血材では溶解性は70%未満が好ましく、より好ましくは50%未満である。
【0024】
本発明のスポンジ状多孔体は、コラーゲン/熱変性物水溶液を型に流し込んだ後、凍結乾燥により成形して得られるものであれば特に限定されない。空孔サイズを制御するために、本発明の効果を阻害しない範囲でポリエチレングリコールや流動パラフィンなど無毒性の添加物を加えてもよい。また、空孔サイズはコラーゲン/ 熱変性物水溶液の濃度、凍結時の温度などにより制御可能である。本発明のスポンジ状多孔体は、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合は各種溶液に膨潤させて用いることができる。該溶液は精製水や生理食塩水などの水溶液が好ましく用いられるが、それに血液凝固を促進する物質を含ませることもできる。
血液凝固を促進する物質としては、例えば、フィブリン、トロンビン等が挙げられる。
【0025】
本発明において、綿状物はコラーゲン/熱変性物水溶液の紡糸により得られる綿状成形体であれば特に限定されないが、凝固液中に射出して紡糸する公知の湿式紡糸法により作成した綿状成形体が好ましく用いられる。凝固液としては、エタノール等の極性有機溶媒、塩濃度の高い中性水溶液、アルカリ水溶液が好ましく用いられる。本発明の綿状物は、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合はスポンジ状多孔体と同様の方法で各種溶液に膨潤させて使用することができる。
【0026】
本発明において、フィルムとは、厚さ100μm未満の薄膜状成形体を言う。フィルムの製造法は特に限定されるものではないが、風乾あるいは溶媒キャスティング法により作成したフィルムが好ましく用いられる。本発明のフィルムは、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合はスポンジ状多孔体と同様の方法で各種溶液に膨潤させて使用することができる。
【0027】
本発明において、シートとは、厚さ100μm以上のシート状成形体を言う。シートの製造法は特に限定されないが、(1)本発明の綿状物をプレス等によりシート状に成形する方法、(2)型に流し込んだコラーゲン溶液あるいはダイから押し出したコラーゲン溶液を凝固相中で固化させる方法、(3)本発明のスポンジ状多孔体をプレス等によりシート状に成形する方法により作成したシートが好ましく用いられる。
【0028】
本発明における成形体には、本発明で目的とする効果を阻害しない範囲で他の天然高分子などが加えられても構わない。天然高分子としてはアルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、フィブリンなどが挙げられる。
【0029】
本発明における成形体は止血材として好適に用いることができるが、本発明の成形体が有する良好な安定性、血小板接着性および安全性を利用する用途であれば特に限定されない。具体的には、生体接着剤、閉鎖材、創傷被覆材等の用途が挙げられる。
【0030】
以下に本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0031】
【実施例】
1.魚類由来コラーゲンの抽出および精製:
室温下、サケ(Oncorhynchus Keta)の皮をクロロホルム/メタノール混合溶媒に3回浸して十分に脱脂した後、皮に含まれるクロロホルムをメタノールで洗浄し、さらに水で洗浄してメタノールを除去した。脱脂皮約130gを3リットルの0.5M酢酸溶液に加え、4℃で3日間静置抽出した。膨潤した鮭皮をガーゼでろ過して除き、ろ液を10,000G、4℃で30分間遠心分離し、鮭皮の破片などを沈殿させた。100,000G、4℃で30分間超遠心分離した。
【0032】
上清にペプシン30mgを加え、4℃で撹拌しながら2日間ペプシン消化した。ついで、5%塩化ナトリウムにて24時間塩析し、10,000G、4℃で30分間遠心分離した。上清は捨てて、コラーゲン残渣を0.5M酢酸溶液に4℃、2日間溶解した後、5%塩化ナトリウムにて24時間塩析する操作を2回繰り返した。
得られたコラーゲンの0.5 M酢酸溶液を透析膜に入れ、脱イオン水に透析し、完全中性化したコラーゲン溶液を凍結乾燥した。
【0033】
2.魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物水溶液の調製:
魚類由来コラーゲン凍結乾燥物の質量を測り、4℃、pH3希塩酸水溶液に0.4(W/V)%になるように加え、撹拌しながら完全に溶解させ、魚類由来コラーゲン水溶液を得た。
また、この魚類由来コラーゲン水溶液を約60℃に加温して魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液は、魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を得た。
【0034】
3.止血材試験片の作成
上記魚類由来コラーゲン水溶液および魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を適宜、混合、撹拌し、プラスチック製細胞用ディッシュに流し込み、乾燥剤入りデシケーター中で乾燥してフィルムに成形した。流し込む水溶液量はフィルム厚みが約10μmになるように調整した。乾燥後、254nm単波長紫外線を強度0.17mW/cm2で24時間照射し、約1cm2の大きさに切り取り止血材試験片とした。
【0035】
4.止血性の測定
止血性は、以下の方法で血小板接着性を測ることにより評価した。
すなわち、採血管(テルモ製、ベノジェクトII真空採血管;3.13%クエン酸ナトリウム0.5ml含有)を用いてヒト静脈血(23歳男子)を採取し、1時間以内に300Gで10分間遠心し、上清をPlatelet Rich Plasma(以下、PRPと略記する。)とした。
プラスチック製細胞用ディッシュ上で、止血材試験片約1cm2にPRPを0.04ml滴下した、37℃、CO2濃度5%で2時間インキュベートした。
ついで、止血材試験片をPBSで3回洗浄して未接着の血小板を除去した後、2.5%グルタルアルデヒド含有PBSに24時間浸漬し、コラーゲンを十分に固定化した後、止血材試験片をPBSで3回洗浄した。この洗浄後の止血材試験片を10、20、50、75、90、95、99.5(v/v)%エタノールに順次浸漬して脱水し、更に酢酸イソアミルに30分間、2回浸漬してエタノールを酢酸イソアミルに置換し、CO2使用の臨界点乾燥で止血材試験片を乾燥した。乾燥止血材試験片にイオンコーターを用いて金蒸着し、走査型電子顕微鏡(以下、SEM)を用いて25,000倍の倍率で10視野を観察し、1視野当たりの平均血小板数を求めて血小板接着数(個)とした。
【0036】
5.溶解性の測定:
止血材試験片を、五酸化リン入りデシケーター中にて室温で24時間減圧乾燥後、精秤して試料質量とした。
試験片を10倍量のPBSに浸漬させ、37℃で2日間静置し、上清をポアサイズ0.45μmメンブランフィルターでろ過した。同様の操作で濃度を変えて精秤したコラーゲンの水溶液を60℃で1時間加熱して、熱変性コラーゲン(ゼラチン)水溶液とし、これらゼラチン水溶液を用いて246nmの吸光度とゼラチン濃度の検量線を作成した。
試験片ろ液について246nmの吸光度を測定し、検量線に当てはめることによりろ液中のゼラチン濃度を定量し、ゼラチン濃度と試料質量から溶解性(%)を求めた。
【0037】
実施例1
前述の方法で調製した魚類由来コラーゲン水溶液および魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を、コラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液(容積比)=80:20の割合になるように混合し、前述の方法で止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0038】
実施例2
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=40:60に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0039】
実施例3
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=20:80に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0040】
比較例1
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=100:0に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0041】
比較例2
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=0:100に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【発明の効果】
本発明の魚類由来コラーゲンとその熱変性物から得られる成形体は、表に示した通り良好な止血性と適度な生体内安定性を有し、止血材として好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はコラーゲンとその熱変性物からなる止血材等として有用な成形体に関する。
具体的には、魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物に特定の架橋処理を施すことにより作成した、安定性、血小板接着性および安全性に優れた成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
外科手術時における毛細血管出血や血管吻合部からの出血に対し、従来から各種止血材が用いられてきた。止血材には血液凝固反応を惹起させ血栓形成を促進する性質が要求される。また、止血後に除去の必要な止血材を用いた場合、再度血液が滲出してくることがあるため、使用された止血材は生体内分解作用により徐々に消失することが望ましい。これらの理由から、生体内止血機構の一つである一次止血に関与し、かつ生体親和性に優れるコラーゲンあるいはその変性物であるゼラチンが止血材として好ましく用いられてきた。
【0003】
現在実用化されているゼラチン製止血材には、スポンジ、粉末、あるいはフィルム状に成形した架橋ゼラチンがある。コラーゲン製止血材には、シートや粉末状に成形した微線維性コラーゲン塩酸塩がある。しかし、上記ゼラチン製止血材は止血性に優れるものの安定性が十分でない場合があった。また、上記コラーゲン製止血材は安定性に優れるものの止血性が十分でなく、シートにすると剛直になり、粉末にすると静電気により飛散しやすく、操作性に難のある場合があった。
【0004】
前記の欠点を解決すべく、コラーゲンあるいはゼラチン止血材の操作性あるいは止血性の改良を目指した更なる研究が行われてきた。操作性を向上させるためにコラーゲンを綿状に加工した止血材が開示されている(人工臓器19(3),1235(1990)(非特許文献1))、架橋処理を施していないために止血時における安定性が不十分であり、良好な止血性が得られない場合があった。また、特開平7−163860公報(特許文献1)にはゼラチンとポリアニオンをカルボジイミドで架橋したゼラチンゲルが開示されている。該ゼラチンゲルは良好な接着性を有するため止血材としての有効性が示唆されている。しかしカルボジイミド等架橋剤の多くはコラーゲンの止血能を左右すると言われるフリーアミノ基をマスクする上、残留架橋剤を除去する手間がかかるという難点があった。更に、特開平8−196614号公報(特許文献2)には安定性と止血性をあわせ持つ綿状架橋コラーゲン繊維が開示されている。しかし、この止血材は牛皮由来コラーゲンを用いており、BSE(牛海綿状脳症)を引き起こす異常プリオンに代表される各種病原体の存在を否定できないという問題点があった。
【0005】
コラーゲンは、少なくとも部分的にコラーゲン螺旋構造を有するタンパク質あるいは糖タンパク質と定義される。グリシン残基が3個目ごとに、またその他のアミノ酸残基としてプロリン残基、ヒドロキシプロリン残基が高頻度に存在するペプチド鎖の3重らせん(コラーゲン螺旋)を形成する。
コラーゲンは無脊椎動物あるいは脊椎動物の組織、特に皮膚から多く抽出することができる。
コラーゲンには構造の違いによって19種類の型の存在が報告されており、さらに同じ型に分類されるコラーゲンにも数種類の異なる分子種が存在する場合がある。
【0006】
中でも、I、IIおよびIV型コラーゲンが主にバイオマテリアルの原料として用いられている。I型はほとんどすべての結合組織に存在し、生体内に最も多量に存在するコラーゲン型である。特に腱、真皮および骨に多く、工業的にはこれらの部位から抽出される場合が多い。II型は軟骨を形成するコラーゲンであり、IV型は基底膜を形成するコラーゲンである。IおよびII型はコラーゲン線維を形成する能力を有し、試験管内でコラーゲン線維構造を回復させることができる。IV型は線維形成能力を有しないが、基底膜における細胞分化に関与しているとされる。
【0007】
コラーゲンに熱を加えると分子量10万程度のポリペプチド鎖3本から成るコラーゲンの三重らせん構造がほぐれ、それぞれのポリペプチド鎖がランダムコイル状の熱変性物を与える。そのような構造変化を起こす温度は変性温度と呼ばれ、熱変性物はゼラチンと呼ばれる。コラーゲンの変性温度は溶液状態の時に最も低くなり、由来する生物の生活環境温度に対応すると言われている。哺乳類では37℃前後、魚類はおおむね哺乳類よりも低く、寒流系の魚類では20℃を下回る場合もある。ゼラチンはコラーゲンに比べ水溶性が高い他に、生体内プロテアーゼによる分解を受けやすいことが知られている。
【0008】
上記の如き特徴から魚類由来コラーゲンは生体内において不安定である考えられ、バイオマテリアルあるいは医療材料の原料としてはほとんど注目されてこなかった。しかし、現状の主なコラーゲン供給源であるウシ、ブタなどの家畜が潜在的に有している病原体が伝播して供給が停止する可能性や、製品を用いる人間に対して病原体が感染する可能性が低いという利点がある。
【0009】
【非特許文献1】
人工臓器19(3),1235(1990)
【特許文献1】
特開平7−163860公報
【特許文献2】
特開平8−196614号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のコラーゲン製あるいはゼラチン製止血材が有する課題を同時に解決する止血材を提供することを目的としている。すなわち、架橋剤を使用せず、十分な安定性と止血性を併せ持ち、かつ哺乳類由来コラーゲンやゼラチンが潜在的に有する病原体伝播の危険性の少ない止血材を、魚類由来コラーゲンを用いて提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこのような状況に鑑み、前記問題点を改善すべく鋭意研究を重ねた結果、魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物の混合物に、架橋剤を用いないで架橋処理を施した成形体が前記問題点を同時に解決することを見出し、本発明をするに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物との混合を架橋剤を用いない架橋方法により安定化した成形体を提供するものである。
1.魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物を、架橋剤を用いない方法で架橋処理して得られる成形体。
2.カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水(Phosphate−buffered Saline)に対する溶解性が70%未満である前記1に記載の成形体。
3.紫外線またはγ線を用いて架橋処理して得られる前記2に記載の成形体。
4.加熱により架橋処理して得られる前記2に記載の成形体。
5.スポンジ状多孔体である前記3または4に記載の成形体。
6.綿状物である前記3または4に記載の成形体.
7.フィルム状である前記3または4に記載の成形体。
8.シートである前記3または4に記載の成形体.
9.止血材用である前記1ないし8のいずれかに記載の成形体。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明における魚類由来コラーゲンとは、魚類から抽出されるコラーゲンであれば特に限定されない。収量等の観点から、魚皮から得られるI型コラーゲン、またはI型コラーゲンを主成分とする各型コラーゲンの混合物が好ましく用いられる。本発明の目的を達成できる範囲で、該コラーゲンの物理化学的性質を変化させるべく公知の化学修飾を施しても良い。化学修飾としてはメチル化、スクシニル化、アセチル化などが挙げられる。既知の如く、コラーゲン分子はその両末端にテロペプチドと呼ばれる螺旋構造を持たないペプチド鎖が存在する。この中には12〜27個のアミノ酸残基を含んでおり、コラーゲンの抗原性はこの部分によって発現すると言われている。そのため、本発明における魚類由来コラーゲンもテロペプチドを取り除くことが好ましい。テロペプチドはペプシン等のたんぱく質分解酵素により公知の方法で取り除くことができる。
【0014】
本発明において使用する魚類はその種類について特に限定されるものではない。しかし、希少な種ではコラーゲンの安定供給が困難であることと、水産加工工程で発生する大量の魚皮が水産廃棄物として処理されている現状に鑑み、これらの廃棄物を新たな資源として有効利用するという観点から水産廃棄物として発生する魚皮を用いることが好ましい。
【0015】
前述の通り、コラーゲンに熱を加えるとコラーゲンの三重らせん構造がほぐれ、それぞれのポリペプチド鎖がランダムコイル状の熱変性物(ゼラチン)を与える。熱変性したコラーゲンは必ずしも完全に三重らせん構造を失っているわけではなく、中性水溶液中、変性温度以下で部分的に三重らせん構造を回復する場合がある。本発明におけるコラーゲンの熱変性物とは、加熱することによりコラーゲンらせん構造を少なくとも部分的に失ったコラーゲンを意味する。該熱変性物は、コラーゲン水溶液を加温することにより、あるいはコラーゲン乾燥体を加温した水に直接溶かすことにより得ることができる。本発明においては、コラーゲンサスペンション(コラーゲンが不完全に溶解した状態で溶媒中均一に分散している状態)も水溶液として扱う。
【0016】
コラーゲン水溶液の濃度は0.1〜1.0(w/v)%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2〜0.5(w/v)%である。コラーゲン水溶液の濃度が低すぎると、得られる成形体がスポンジ状あるいは綿状の場合は粗になり、フィルム状の場合は薄くなるために、扱いにくくなる場合や、止血性を十分に発揮できなくなる場合がある。コラーゲン水溶液の濃度が高すぎると、粘度が高くなり扱いが困難になる場合がある。水溶液のpHは、低すぎても高すぎてもコラーゲンの分解を引き起こす場合があり好ましくない。水溶液のpHは2.0〜10の範囲が好ましい。
【0017】
魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液は、上記魚類由来コラーゲン水溶液を加熱処理することにより得ることができるし、魚類由来コラーゲン凍結乾燥物を加熱した溶媒に加えることにより得ることもできる。コラーゲン熱変性物水溶液の粘度に対する濃度依存性は、コラーゲン水溶液に比べ大幅に低く、コラーゲンよりも高濃度で水溶液を調製することができる。コラーゲン熱変性物濃度は0.1〜10(w/v)%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2〜5(w/v)%である。水溶液のpHはコラーゲン水溶液に準ずる。
【0018】
本発明におけるコラーゲンとその熱変性物を混合する方法としては、コラーゲン水溶液と熱変性物水溶液を別途調製し、それらを混合して均一にする方法であれば特に限定されないが、コラーゲンの変性を防ぐため、両水溶液はコラーゲンの変性温度以下であることが望ましい。該水溶液のイオン強度や酸性度によってはコラーゲン分子が凝集して水溶液に濁りを生じさせたりゲル化したりする場合があるが、本発明の目的を達成できる限りは起こっても構わない。
【0019】
本発明における架橋剤を用いない架橋方法は特に限定されないが、紫外線照射、γ線照射、真空下における加熱処理などの公知の方法を用いることができる。
【0020】
加熱処理の場合、真空下で行わなければ架橋が生成しない。真空下であっても、温度が低すぎると架橋が生成せず、温度が高すぎると架橋は生成するもののコラーゲンのほとんどが変性してしまい好ましくない。具体的には、真空下、90〜160℃の範囲で加熱処理することが好ましい。より好ましくは100〜140℃である。なお、本発明における真空とは、気圧20Pa以下の減圧状態を指すものとする。
【0021】
これらの架橋方法は、止血材の乾燥体を用途(使用目的)に合わせて、所望の形状に成形した後に行ってもよいし、紫外線照射あるいはγ線照射の場合、窒素等の不活性ガスで置換した前記コラーゲン/熱変性物水溶液に対して架橋処理を施してもよい。
窒素等の不活性ガスで置換せずに紫外線照射あるいはγ線照射を行うと、コラーゲンの変性あるいは切断が起こり好ましくない。
【0022】
本発明における溶解性とは、下記の方法により止血材試験片を37℃のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水(Phosphate−buffered Saline)(以下、PBSと略す。)に2日間浸漬した場合に溶出するコラーゲンペプチドの割合により求めた値(%)を言う。実際に生体内で使用した場合、コラーゲンおよびゼラチンは各種のタンパク質分解酵素による分解を受けるが、その際の安定性を本発明における溶解性によりおおむね見積もることができる。ゼラチンは水に対する溶解性が極めて高く、架橋処理を施さない場合は37℃PBSに対して速やかに溶解する。一方、コラーゲンは特有の3重らせん構造によってゼラチンよりも水に対する溶解性は低いが、架橋処理を施さない場合は37℃PBSに対して徐々に溶解する。魚類由来コラーゲンは変性温度が低く、哺乳類由来コラーゲンよりも溶解性が高い。
【0023】
止血剤は溶解性が高すぎると、出血部に適用した際、止血が成される前に止血材が溶け出してしまい好ましくない。本発明の止血材では溶解性は70%未満が好ましく、より好ましくは50%未満である。
【0024】
本発明のスポンジ状多孔体は、コラーゲン/熱変性物水溶液を型に流し込んだ後、凍結乾燥により成形して得られるものであれば特に限定されない。空孔サイズを制御するために、本発明の効果を阻害しない範囲でポリエチレングリコールや流動パラフィンなど無毒性の添加物を加えてもよい。また、空孔サイズはコラーゲン/ 熱変性物水溶液の濃度、凍結時の温度などにより制御可能である。本発明のスポンジ状多孔体は、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合は各種溶液に膨潤させて用いることができる。該溶液は精製水や生理食塩水などの水溶液が好ましく用いられるが、それに血液凝固を促進する物質を含ませることもできる。
血液凝固を促進する物質としては、例えば、フィブリン、トロンビン等が挙げられる。
【0025】
本発明において、綿状物はコラーゲン/熱変性物水溶液の紡糸により得られる綿状成形体であれば特に限定されないが、凝固液中に射出して紡糸する公知の湿式紡糸法により作成した綿状成形体が好ましく用いられる。凝固液としては、エタノール等の極性有機溶媒、塩濃度の高い中性水溶液、アルカリ水溶液が好ましく用いられる。本発明の綿状物は、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合はスポンジ状多孔体と同様の方法で各種溶液に膨潤させて使用することができる。
【0026】
本発明において、フィルムとは、厚さ100μm未満の薄膜状成形体を言う。フィルムの製造法は特に限定されるものではないが、風乾あるいは溶媒キャスティング法により作成したフィルムが好ましく用いられる。本発明のフィルムは、乾燥状態でも十分に柔軟性を有するが、患部の形状に合わない場合はスポンジ状多孔体と同様の方法で各種溶液に膨潤させて使用することができる。
【0027】
本発明において、シートとは、厚さ100μm以上のシート状成形体を言う。シートの製造法は特に限定されないが、(1)本発明の綿状物をプレス等によりシート状に成形する方法、(2)型に流し込んだコラーゲン溶液あるいはダイから押し出したコラーゲン溶液を凝固相中で固化させる方法、(3)本発明のスポンジ状多孔体をプレス等によりシート状に成形する方法により作成したシートが好ましく用いられる。
【0028】
本発明における成形体には、本発明で目的とする効果を阻害しない範囲で他の天然高分子などが加えられても構わない。天然高分子としてはアルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、フィブリンなどが挙げられる。
【0029】
本発明における成形体は止血材として好適に用いることができるが、本発明の成形体が有する良好な安定性、血小板接着性および安全性を利用する用途であれば特に限定されない。具体的には、生体接着剤、閉鎖材、創傷被覆材等の用途が挙げられる。
【0030】
以下に本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0031】
【実施例】
1.魚類由来コラーゲンの抽出および精製:
室温下、サケ(Oncorhynchus Keta)の皮をクロロホルム/メタノール混合溶媒に3回浸して十分に脱脂した後、皮に含まれるクロロホルムをメタノールで洗浄し、さらに水で洗浄してメタノールを除去した。脱脂皮約130gを3リットルの0.5M酢酸溶液に加え、4℃で3日間静置抽出した。膨潤した鮭皮をガーゼでろ過して除き、ろ液を10,000G、4℃で30分間遠心分離し、鮭皮の破片などを沈殿させた。100,000G、4℃で30分間超遠心分離した。
【0032】
上清にペプシン30mgを加え、4℃で撹拌しながら2日間ペプシン消化した。ついで、5%塩化ナトリウムにて24時間塩析し、10,000G、4℃で30分間遠心分離した。上清は捨てて、コラーゲン残渣を0.5M酢酸溶液に4℃、2日間溶解した後、5%塩化ナトリウムにて24時間塩析する操作を2回繰り返した。
得られたコラーゲンの0.5 M酢酸溶液を透析膜に入れ、脱イオン水に透析し、完全中性化したコラーゲン溶液を凍結乾燥した。
【0033】
2.魚類由来コラーゲンおよびその熱変性物水溶液の調製:
魚類由来コラーゲン凍結乾燥物の質量を測り、4℃、pH3希塩酸水溶液に0.4(W/V)%になるように加え、撹拌しながら完全に溶解させ、魚類由来コラーゲン水溶液を得た。
また、この魚類由来コラーゲン水溶液を約60℃に加温して魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液は、魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を得た。
【0034】
3.止血材試験片の作成
上記魚類由来コラーゲン水溶液および魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を適宜、混合、撹拌し、プラスチック製細胞用ディッシュに流し込み、乾燥剤入りデシケーター中で乾燥してフィルムに成形した。流し込む水溶液量はフィルム厚みが約10μmになるように調整した。乾燥後、254nm単波長紫外線を強度0.17mW/cm2で24時間照射し、約1cm2の大きさに切り取り止血材試験片とした。
【0035】
4.止血性の測定
止血性は、以下の方法で血小板接着性を測ることにより評価した。
すなわち、採血管(テルモ製、ベノジェクトII真空採血管;3.13%クエン酸ナトリウム0.5ml含有)を用いてヒト静脈血(23歳男子)を採取し、1時間以内に300Gで10分間遠心し、上清をPlatelet Rich Plasma(以下、PRPと略記する。)とした。
プラスチック製細胞用ディッシュ上で、止血材試験片約1cm2にPRPを0.04ml滴下した、37℃、CO2濃度5%で2時間インキュベートした。
ついで、止血材試験片をPBSで3回洗浄して未接着の血小板を除去した後、2.5%グルタルアルデヒド含有PBSに24時間浸漬し、コラーゲンを十分に固定化した後、止血材試験片をPBSで3回洗浄した。この洗浄後の止血材試験片を10、20、50、75、90、95、99.5(v/v)%エタノールに順次浸漬して脱水し、更に酢酸イソアミルに30分間、2回浸漬してエタノールを酢酸イソアミルに置換し、CO2使用の臨界点乾燥で止血材試験片を乾燥した。乾燥止血材試験片にイオンコーターを用いて金蒸着し、走査型電子顕微鏡(以下、SEM)を用いて25,000倍の倍率で10視野を観察し、1視野当たりの平均血小板数を求めて血小板接着数(個)とした。
【0036】
5.溶解性の測定:
止血材試験片を、五酸化リン入りデシケーター中にて室温で24時間減圧乾燥後、精秤して試料質量とした。
試験片を10倍量のPBSに浸漬させ、37℃で2日間静置し、上清をポアサイズ0.45μmメンブランフィルターでろ過した。同様の操作で濃度を変えて精秤したコラーゲンの水溶液を60℃で1時間加熱して、熱変性コラーゲン(ゼラチン)水溶液とし、これらゼラチン水溶液を用いて246nmの吸光度とゼラチン濃度の検量線を作成した。
試験片ろ液について246nmの吸光度を測定し、検量線に当てはめることによりろ液中のゼラチン濃度を定量し、ゼラチン濃度と試料質量から溶解性(%)を求めた。
【0037】
実施例1
前述の方法で調製した魚類由来コラーゲン水溶液および魚類由来コラーゲン熱変性物水溶液を、コラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液(容積比)=80:20の割合になるように混合し、前述の方法で止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0038】
実施例2
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=40:60に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0039】
実施例3
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=20:80に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0040】
比較例1
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=100:0に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0041】
比較例2
容積比をコラーゲン水溶液:コラーゲン熱変性物水溶液=0:100に変更したこと以外は、実施例1と同様に止血材試験片の作成、止血性の測定および溶解性の測定を行った。結果を表に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【発明の効果】
本発明の魚類由来コラーゲンとその熱変性物から得られる成形体は、表に示した通り良好な止血性と適度な生体内安定性を有し、止血材として好適に用いることができる。
Claims (9)
- 魚類由来コラーゲンとその熱変性物との混合物を、架橋剤を用いない方法で架橋処理して得られる成形体。
- カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝食塩水(Phosphate−buffered Saline)に対する溶解性が70%未満である請求項1に記載の成形体。
- 紫外線またはγ線を用いて架橋処理して得られる請求項2に記載の成形体。
- 加熱により架橋処理して得られる請求項2に記載の成形体。
- スポンジ状多孔体である請求項3または4に記載の成形体。
- 綿状物である請求項3または4に記載の成形体。
- フィルム状である請求項3または4に記載の成形体。
- シートである請求項3または4に記載の成形体。
- 止血材用である請求項1ないし8のいずれかに記載の成形体。
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