JP2005010130A - 距離等測定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】絶対距離を精度良く測定できる距離等測定装置を提供する。
【解決手段】周波数掃引回路12で送信信号e1の周波数を変化させ、それを送受信部13で放射して反射波を受信し、その受信信号e2と等価信号e0とからビート信号出力回路14でビート信号E1を抽出し、演算制御回路21でビート信号E1から計測距離Rmを求めるため、90°移相器23で移相信号E2を生成し、ビート信号E1,E2のサンプリング値E1(i),E2(i)から回転位相の漸化式にてビート信号の位相φ(i)を随時求め(位相算出手段25)、その位相変化率を直線近似式による傾きaで算出し(位相変化率算出手段26)、さらに回転位相関係式にて計測距離Rmを算出する(距離算出手段27)。このようにビート周波数の直接算出を行うのでなく位相変化率を算出することにより、絶対距離を精度良く測定することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】周波数掃引回路12で送信信号e1の周波数を変化させ、それを送受信部13で放射して反射波を受信し、その受信信号e2と等価信号e0とからビート信号出力回路14でビート信号E1を抽出し、演算制御回路21でビート信号E1から計測距離Rmを求めるため、90°移相器23で移相信号E2を生成し、ビート信号E1,E2のサンプリング値E1(i),E2(i)から回転位相の漸化式にてビート信号の位相φ(i)を随時求め(位相算出手段25)、その位相変化率を直線近似式による傾きaで算出し(位相変化率算出手段26)、さらに回転位相関係式にて計測距離Rmを算出する(距離算出手段27)。このようにビート周波数の直接算出を行うのでなく位相変化率を算出することにより、絶対距離を精度良く測定することができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、波を出射して、それを測定対象の経路に沿って伝搬させ、対象距離の時間的または空間的変化量を非接触測定する距離等測定装置に関する。
例えば、車両の走行時における乗り心地や交通振動に影響する舗装路面の平坦度を非接触に測定する距離測定装置に関する。
また、距離一定条件下での濃度計や流量計、その他のビート周波数対応物理量を測定する装置にも関する。
これらの装置を本明細書では距離等測定装置と呼ぶ。
【0002】
測定のために出射しうる波は、マイクロ波やミリ波などの電波でも良く、超音波などの音波でも良く、レーザ光などの光波でも良い。
測定原理は、測定用波の周波数を掃引して送受信信号間のビート信号を得、そのビート周波数と伝搬距離等との関係式に基づいてビート周波数対応物理量を算出するものである。
ビート周波数対応物理量としては、絶対距離や、距離が固定されていれば伝搬遅延時間に対応する誘電率、比誘電率に対応している濃度、その他にも、ビート周波数と一対一の対応関係にある物理量や、ビート周波数に基づいて一意に定まる物理量が挙げられる。配管径や流体物性等を一定としたときの流速や流量などもビート周波数対応物理量と言える。
【0003】
【従来の技術】
図11(a)に概要ブロック図を示した従来の距離測定装置は(例えば特許文献1参照)、周波数掃引して得たビート信号に基づいて距離を測定するために、演算や制御を司り具体的には周波数掃引の状態を制御するための制御電圧E0を生成する演算制御回路11と、制御電圧E0に従って送信信号e1及びこれに等価な等価信号e0の周波数を変化させる周波数掃引回路12と、電気信号の送信信号e1を出射可能な例えばマイクロ波に変換して外部の路面等の測定対象物9へ送出するとともにその反射波を受信して電気信号の受信信号e2に変換する送受信部13と、その受信信号e2と等価信号e0とからビート信号E1を抽出するビート信号出力回路14とを備えており、さらに演算制御回路11は、波の伝搬距離Rに対応する計測距離Rmをビート信号E1から演算にて求め、計測距離Rmをディスプレイやレコーダ等の出力部15に送出するようになっている。
【0004】
後に詳述するが(或いは特許文献1参照)、周波数掃引時間Tで周波数掃引幅Bの周波数掃引を直線的に行うと、マイクロ波の伝搬距離Rとマイクロ波の波長λとビート周波数fbを用いて、ビート信号E1の位相φは、時刻tのとき、
【数1】
となる。
ここでは、tの掛かっている第1項すなわち2π×fbを回転位相関係式と呼び、tの掛かからない第2項すなわち4π×R/λを固定位相と呼ぶ。
また、光速cと回路内の固定遅延時間τ0も用いて、ビート周波数fbは、
【数2】
となる。
【0005】
図11(b)にブロック図を示した演算制御回路11は、計測距離Rmの算出に回転位相関係式を利用するものであり、ビート周波数fbをFFT(高速フーリエ変換)で求めるようになっている。具体的には、ビート信号E1を所定周期でサンプリングし、それにFFTの演算を施してパワースペクトルを算出し、更にそのピーク値を与える周波数からビート周波数fbを求めて、上述したビート周波数fbと伝搬距離Rとの関係式から、計測距離Rmを算出するようになっている。
【0006】
この手法では、ビート周波数fbをFFTで求めるため、ビート周波数fbの分解能Δfbは、周波数掃引時間Tで制限され、Δfb=1/Tである。この値を伝搬距離Rの分解能ΔRで表すと、上述した式より、導出過程は省略するが、ΔR=c/(2×B)である。例えば、周波数掃引幅Bが1.5GHzという典型的な事例で、ΔRは10cmとなる。これでは、それより精密な測定目的には使えない。例えば1mm〜2mm程度の分解能を必要とする路面の平坦性測定には用いることができない。
【0007】
図11(c)にブロック図を示した演算制御回路11は(例えば特許文献1参照)、計測距離Rmの算出に固定位相の方を重用するものであり、固定位相項φ0=4π×R/λから伝搬距離Rの変化量ΔRを求めるようになっている。具体的には、ビート信号E1を所定周期でサンプリングし、それと基準の正弦波信号sinや余弦波信号cosとの積和を演算し、更に比を演算して固定位相φ0を算出し、上述した固定位相項φ0と伝搬距離Rとの関係式から、計測距離Rmを算出するようになっている。
【0008】
この手法では、1mm以下の分解能で計測することができるが、上述したような算出式では、位相φ0の値を0〜2πの範囲でしか確定できない。例えば、導出過程は省略するが、マイクロ波の周波数が10GHzという典型的な事例で、λが3cmのとき、伝搬距離Rの変化量ΔRが採りうる値は、0〜1.5cmである。そのような限られた範囲における相対距離変化量を検出するのである。これでは、それより測定範囲の広い測定目的には使えない。例えば10cm以上の高低差を計測しなけばならない路面の平坦性測定には用いることができない。そのため、測定範囲を広げるべく、ビート信号E1から別途手法で波数変化量を検出し、これと相対距離変化量とを組み合わせて全計測距離Rmを求めることも、行われている(特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−4741号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような波数検出と固定位相検出とを組み合わせた距離測定手法では、測定精度は高いが、固定位相検出のための演算量が多いうえ、波数検出を安定して行うのが難しい。このため、それより分解能が多少劣っていても、安直に絶対距離を得ることのできる距離測定装置の方が、利用範囲も広く、低価格化も期待できて、実用化に適しており、具現化が望まれる。かかる観点からは、回転位相関係式を利用する手法の方が、安定して絶対距離が得られるので、実用化に適している。とはいえ、ビート周波数をFFT等で直接算出する上述の手法では、精度が粗すぎて、応用が限られる。
【0011】
そこで、それよりは高い精度・分解能で絶対距離が得られよう、回転位相関係式を利用する手法を改善することが、要請され、課題となる。また、その手法を距離算出以外に応用することも更なる課題となる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、回転位相関係式を利用するに際してビート周波数の直接算出を行うのでなく位相変化率を算出することにより絶対距離等を精度良く測定しうる距離等測定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明では位相変化率を算出するが、この位相変化率の分解能は、直接算出のビート周波数と異なり、周波数掃引時間Tの支配を受けない。位相変化率とビート周波数は、比例関係にあり、一見では等価に思われるが、算出手法が異なるため、ビート周波数が周波数掃引時間Tの逆数で離散的にしか得られないのに対し、位相変化率にはそのような制約が無い。位相変化率は、ビート周波数を間接的に精度良く算出したものである、とも言える。本発明は、このようなビート周波数の間接的算出手法の発見を本旨とするものなので、先ず、位相変化率の算出式の導出過程を説明し、それから本発明の距離等測定装置の構成等を説明する。
【0013】
上述した図11(a)のハードウェア装備を前提として、周波数掃引にて時刻tで周波数fになる送信信号e1を
【数3】
とおけば、受信信号e2は、
【数4】
と表される。ここで、Aは受信信号レベル、τは送信信号e1が周波数掃引回路12を出てから受信信号e2がビート信号出力回路14に入るまでの遅延時間である。送受信部13における送受信アンテナと測定対象物9との間の伝搬距離Rをマイクロ波が往復する遅延時間をτ1とし、回路内の固定遅延時間をτ0とし、光速をcとすると、遅延時間τは、
【数5】
と表される。よって、(4)式は、
【数6】
となる。
【0014】
ここで、等価信号e0を e0=e1 に設定すれば、ビート信号出力回路14では、受信信号e2と等価信号e0とが掛け合わされるので、その積Eは、
【数7】
となるが、そのうち低周波成分がビート信号出力回路14によって取り出されるので、第1項は無視でき、ビート信号E1の式として、
【数8】
が得られる。
【0015】
ここで、中心周波数f0を挟む周波数掃引幅Bの周波数掃引が周波数掃引時間Tで繰り返し行われていれば、送信周波数fは、各周波数掃引毎に、
【数9】
と表すことができる。この(9)式を上記(8)式に代入して整理すれば、
【数10】
となる。ここで、
【数11】
であり、fbはビート周波数、λはマイクロ波の波長である。
【0016】
なお、(10)式における固定位相項2π・f0・τ0は、nを整数として、一般性を失うことなく、2nπとおけるので、
【数12】
と表すことができる。
この(12)式のE1は、送信信号e1と受信信号e2とを混合して得られる低周波成分であるビート信号とみなすことができる。
ここで、具体例として、周波数掃引時間T=5ms、周波数掃引幅B=1.5GHz、中心周波数f0=10GHzとし、伝搬距離R=25cm、固定遅延時間τ0=6.33nsに設定すると、ビート周波数fb及び波長λは、(11)式より、 fb=3kHz, λ=3cm となる。
【0017】
また、ビート信号E1の位相を移相器等で90°変化させて移相信号E2を生成すると、その移相信号E2は、
【数13】
となるが、信号処理の演算をコンピュータで実行し易いよう、これらの信号E1,E2を時間刻みΔt毎にサンプリングするものとする。そうすると、各周波数掃引においてi番目にサンプリングされる信号E1,E2のサンプリング値E1(i),E2(i)は、t=ti=i・Δtとおいて、
【数14】
【数15】
【数16】
で表される。
【0018】
ここで、(14)式と(15)式を組み合わせてベクトルEiで表せば
【数17】
とおける。ただし、
【数18】
である。
【0019】
したがって、(18)式のビート信号の位相φ(i)は、iの増加とともに直線的に増加し、その増加の傾きaは、ビート周波数fbに比例している。また、(11)式から、ビート周波数fbは、伝搬距離Rに比例しているので、結局、ビート信号の位相φ(i)において時刻tiに対する直線的変化の傾きaを求めれば、伝搬距離Rの計測値である計測距離Rmを得ることができる。
そこで、サンプリング値E1(i),E2(i)から傾きaを求める実用的な手順を説明する。
【0020】
ビート信号の位相φ(i)は時刻tiに対して直線的に変化するので、その傾きをaとし、オフセットをbとすれば、位相φ(i)は、
【数19】
とおける。ここで、(18)式より
【数20】
であるから、(11)式を用いれば、傾きaは、
【数21】
である。
【0021】
また、(18)式の位相φ(i)に関して、(i−1)番目のサンプリングとi番目のサンプリングとの間における位相φ(i)の変化である位相進み量Δφ(i)は、
【数22】
であるから、両辺のtanをとると、
【数23】
である。ここで、(17)式から、
【数24】
【数25】
であるから、これらを(23)式に代入して整理すれば、
【数26】
が得られる。
【0022】
よって、
【数27】
となる。したがって、(22)式より
【数28】
において、(27)式を用いれば
【数29】
の漸化式が得られる。
【0023】
いま、(28)式において、i=1,2,・・・,Nとおけば
【数30】
であるので、φ(i)を測定値とすれば、(19)式の右辺の直線からのずれは雑音によるものであり、誤差をεiとして
【数31】
が発生する。
【0024】
よって、求めたい傾きaの値は、(31)式の誤差εiの2乗和、すなわち、
【数32】
を最小にするaであるから、最小2乗法を適用すれば
【数33】
【数34】
から
【数35】
【数36】
が得られる。
【0025】
したがって、(35)式と(36)式を解けば、傾きaは、
【数37】
で与えられる。または、
【数38】
の関係式を用いれば、(37)式は、
【数39】
で与えられる。
【0026】
よって、(29)式を用いればサンプリング値E1(i),E2(i)からビート信号E1の位相φ(i)が求められ、これを用いて(39)式から傾きaが算出できる。したがって、この傾きaから(21)式を用いれば
【数40】
により、測定対象物9までの伝搬距離Rが求められることになる。なお、この(40)式の値は、実際の伝搬距離Rではなく、伝搬距離Rの測定値なので、本明細書では区別のため計測距離Rmと呼ぶ。
【0027】
本発明の距離等測定装置は、かかる考察に基づいて創案されたものであり、送信信号の周波数を変化させる周波数掃引回路と、前記送信信号を電波や音波などの出射可能な波に変換して外部へ送出するとともにその反射波または透過波を受信する送受信部と、その受信信号と前記送信信号または等価な信号とからビート信号を抽出するビート信号出力回路と、次の演算制御回路とを備えたものである。前記演算制御回路は、前記ビート信号の位相を随時求める位相検出手段と、その位相の変化率を周波数掃引毎に一つに纏める位相変化率算出手段と、その位相変化率および前記送信信号の周波数変化率から前記波の伝搬距離などのビート周波数対応物理量を求める距離等算出手段とを具備している。
【0028】
また、本発明では、前記位相変化率算出手段が、前記ビート信号の位相の時間変化を誤差最小で近似する直線の傾きを算出することで前記位相変化率を得るようになっていても良い。
さらに、前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器を具備していて、その出力信号と前記ビート信号とから前記ビート信号の位相を得るようになっていても良い。
また、前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器と、その出力信号と前記ビート信号とをサンプリングするサンプリング回路と、そのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていても良い。
また、前記位相検出手段が、前記ビート信号をサンプリングするサンプリング回路と、位相をずらす移相演算を行って前記サンプリング回路によるサンプリング値から位相の異なる疑似サンプリング値を算出する移相手段と、その疑似サンプリング値と前記サンプリング値とから前記サンプリング回路でのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていても良い。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の距離等測定装置の実施形態を説明する。先ず絶対距離の測定装置への適用例を説明する。図1(a)は、距離測定装置の概要ブロック図、同図(b)は、演算制御回路のブロック図である。また、図2(a)は、周波数掃引の典型例であり、同図(b)は、その幾つかの変形例である。図2(c)は、演算内容を示している。図3は、ビート信号の位相φ(i)に係る近似直線の傾きa1〜a3と伝搬距離R1〜R3との関係を例示したグラフである。
【0030】
図1(a)に示した本発明の距離測定装置20は、図11(a)のハードウェアをほぼ引き継いでいる。
すなわち、周波数掃引回路12と送受信部13とビート信号出力回路14と出力部15は従来同様で足りる。
演算制御回路21は改良されており演算制御回路11と異なる。
【0031】
周波数掃引回路12は(図1(a)参照)、送信信号e1の周波数を変化させるために、大抵、制御電圧E0に従って発振状態を変える具体的には発振周波数を変える電圧制御発振器を具えている。制御電圧E0が直線的に変化させられて、送信信号e1の周波数も直線的に変化する。即ち(図2(a)参照)、周波数掃引時間Tの間に周波数掃引幅Bだけ周波数が変化するが、そのとき、周波数変化量が一定になっている。周波数掃引は、間欠的に繰り返しても良く(図2(a)参照)、連続的に繰り返しても良く(図2(b)参照)、不連続な変化や急変を回避するため増加と減少を交互に行うようにしても良く、周波数掃引の各繰り返し中の先頭部分を周波数掃引幅Bや周波数掃引時間Tから除外して過渡的状態の信号を演算に使わないで捨てるようにしても良い。周波数掃引回路12は、大抵、図1(a)に示したように、ビート信号出力回路14のために、送信信号e1と同じ波形か又は振幅のみ異なる等価信号e0も生成するが、ビート信号出力回路14が送信信号e1をそのまま利用できる場合は(例えば特許文献1の図11,図12参照)、等価信号e0の生成を行わない。
【0032】
送受信部13は(図1(a)参照)、電気信号の送信信号e1を出射可能な波に変換して外部へ送出する送信部と、測定対象物9に当たって戻って来た反射波を拾いこれを電気信号に変換して受信信号e2を生成する受信部とを具えている。送信部は送信アンテナとその駆動回路などで構成され、受信部は受信アンテナと受信アンプ等で構成されるが、両アンテナ(トランスジューサ)は別体であっても良く(例えば特許文献1の図2,図12参照)、一体のものであっても良い(例えば特許文献1の図10,図11参照)。
【0033】
ビート信号出力回路14は(図1(a)参照)、受信信号e2と送信信号e1又は等価信号e0とからビート信号E1を抽出するために、掛け算器・混合回路などのミキシング手段と、送信信号e1や受信信号e2さらにはその高調波からそれらよりも周波数の低いビート信号E1を分離するフィルタとを具えている。フィルタは、ローパスフィルタでも良いが、測定距離の変動範囲が予め判明している場合は、バンドパスフィルタが良い。
出力部15は、計測距離Rmを外部利用可能とするものであれば良く、ディスプレイやレコーダに限らず、応用目的に応じて種々のものが採用される。
【0034】
演算制御回路21は(図1(a)参照)、制御電圧E0を生成して周波数掃引回路12へ送出するとともに、それに従って繰り返される周波数掃引回路12での周波数掃引の度に、ビート信号E1を取り込んで計測距離Rmを算出するものである。ここまでは演算制御回路11と同様であるが、回路構成の一部と具体的な演算内容は以下のように改良されている。すなわち(図1(b)参照)、ビート信号E1の位相φ(i)を随時求める位相検出手段22〜25と、その位相φ(i)の位相変化率2πfbを周波数掃引毎に一つに纏める位相変化率算出手段26と、その位相変化率2πfbおよび送信信号e1の掃引周波数変化率B/Tから波の伝搬距離Rに対応した計測距離Rmを算出する距離算出手段27とを具備している。
【0035】
位相検出手段22〜25は(図1(b)参照)、ビート信号E1を所定の時間刻みΔt毎にサンプリングするA/D変換器22と、ビート信号E1の位相をずらして移相信号E2を生成する移相器23と、移相信号E2を所定の時間刻みΔt毎にサンプリングするA/D変換器24と、A/D変換器22で得たサンプリング値E1(i)とA/D変換器24で得たサンプリング値E2(i)を逐次取り込んで回転位相の漸化式に基づく演算を行って各サンプリング時間におけるビート信号の位相φ(i)を算出する位相算出手段25とを具えている。この位相算出手段25と位相変化率算出手段26と距離算出手段27はコンピュータやデジタルシグナルプロセッサ等のデジタル演算回路で具現するのが実用に適しているので、その前である信号上流に、A/D変換器からなるサンプリング回路22+24が置かれ、移相器23はアナログ回路で具体化される。移相器23は、上述の(27)式の導出の前提に基づけば90°移相器であるが、その式を適宜変形すれば90°以外の移相器でも良い。
【0036】
位相算出手段25は(図2(c)参照)、時間刻みΔt毎に即ち各サンプリング毎にi番目のサンプリングでビート信号E1の位相進み量Δφ(i)を算出する位相差算出手段25aと、その位相進み量Δφ(i)を足し合わせて各サンプリング時すなわちi番目におけるビート信号の位相φ(i)を算出する位相漸化手段25bとを具えている。具体的には、位相差算出手段25aは、上述した(27)式の演算を実行し、位相漸化手段25bは、上述した(28)式の演算を実行するようになっている。
【0037】
位相変化率算出手段26は(図2(c)参照)、ビート周波数fbに対応しているが離散値に限定されない位相変化率2πfbを一連の位相φ(i)から算出するものであるが、そのとき位相変化率2πfbを一つに纏めるために、ビート信号の位相φ(i)の時間変化を誤差最小で近似する直線の傾きaを得る。具体的には、上述した(39)式の演算を実行するようになっている。
距離算出手段27は(図2(c)参照)、位相変化率2πfbの項を傾きaで置換した上述の(40)式の演算を実行して、計測距離Rmを算出する。
【0038】
このような距離測定装置20を用いて測定対象物9までの伝搬距離Rを変えながら測定すると、例えば短い距離R1と中間の距離R2と長い距離R3を測定すると、周波数掃引がなされる度に、どの距離R1,R2,R3でも位相φ(i)は概ね直線的に変化するが、距離に応じて傾き具合が異なる(図3の太い実線グラフを参照)。そして、演算制御回路21の演算によって、誤差を最小とする近似直線に係る傾きa1,a2,a3が求められ(図3の細い二点鎖線グラフを参照)、最終的には、それぞれの距離R1,R2,R3に対応した計測距離Rmが得られる。
【0039】
このように、本発明は、マイクロ波帯のFM−CW信号等を周波数掃引させてビート信号を抽出することやその回転位相関係式に基づく演算を行って距離の計測値を求める点では従来の手法を踏襲していると言えるが、回転位相関係式の演算実行のためビート信号からビート周波数または対応物理量を算出する手法が従来と異なっている。すなわち、従来手法では、ビート周波数をビート信号からFFT等で直接算出しているのに対し、本発明では、ビート周波数fbと数式上は等価な位相変化率2πfbが、位相φ(i)の近似直線の傾きaで、求められる。
【0040】
具体的には、上述の(18)式で示したように、ビート信号の位相項φ(i)が時刻ti(0≦ti≦T)に比例しており、その比例係数(時刻tiに対する傾き)すなわち位相変化率2πfbがビート周波数fbに比例していることに着目したもので、この時刻tiに対する位相φ(i)の傾きaを演算して、位相変化率2πfbを求めるようになっている。図3に示すように、ビート信号の位相φ(i)を時刻tiに対して描けば、グラフ位相φ(i)の近似曲線の傾きaが距離Rの増加とともに大きくなっていく様子が分かる。
【0041】
したがって、本発明のように、FM−CW(周波数掃引)のビート信号E1に対して例えば90°位相差を持つ移相信号E2を作り、この2つのビート信号(上記(12)式および(13)式)を時刻tの刻みΔt毎にサンプリングして得たベクトル信号(上記(17)式)から、時刻tiに対する傾きaを求めることにより、ビート周波数fb相当値を算出すれば、測定対象物9までの絶対的な距離Rを1〜2mm以下の分解能で求めることができるのである。
【0042】
以下、より具体的な実施例を幾つか説明するが、実施例1〜3は、距離測定装置への適用例であり、実施例4は、比誘電率計(濃度計)への適用例である。
【0043】
【実施例1】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。図4(a)は、本発明の距離測定装置20を搭載した路面プロファイラー30の模式図であり、同図(b)は、距離測定装置20のブロック図である。また、図5(a)は制御電圧E0の波形例、同図(b)は移相器23の回路図、同図(c)はコンピュータ29の機能ブロック図である。
【0044】
図4(a)において、路面プロファイラー30は、移動しながら測定できるよう、8輪の支持車輪を持った3mの直線定規を具えたものであり、その中央に測定部31が取り付けられている。測定部31には、距離測定装置20が大部分格納されているが、距離測定装置20のうち送受信部13の送信アンテナ13bと受信アンテナ13cは、測定対象物9である路面に向けて露出した状態で設けられている。そのため、送信アンテナ13bからマイクロ波が放射されるると、路面9で反射して帰って来た反射波が受信アンテナ13cで受信されるようになっている。
【0045】
ここで、車輪によって路面プロファイラー30を路面9上で移動させながら、距離測定装置20を稼動させると、距離測定装置20は、後述のように、広帯域に亘って周波数変調をかけた送信信号(e1、FM−CW信号)を送信アンテナ13bに送出し、この信号(FM−CW信号)を用いて、受信アンテナ13cからの受信信号(e2)からビート信号(E1)を得、その位相変化を検出することにより、路面9の平坦度、言い換えれば、路面の空間的変化を検出するものである。
【0046】
図4(b)に詳細ブロック図を示した距離測定装置20は、周波数掃引回路12として、制御電圧E0を制御入力に受ける電圧制御発振器12aと、その発振信号を分配して送信信号e1と等価信号e0を生成する電力分配器12bとを具えている。また、送受信部13として、送信信号e1のレベル調整を行う減衰器13aと、その出力である電気信号をマイクロ波に変換して外部へ放射する送信アンテナ13bと、それが路面9で反射して帰って来たマイクロ波を受信して電気信号に変換する受信アンテナ13cと、それを増幅して受信信号e2を生成する受信アンプ13dとを具えている。さらに、ビート信号出力回路14として、受信信号e2と等価信号e0とを混合して積信号Eを生成する掛算器14a(ミキサ)と、積信号Eから低周波成分のビート信号E1を抽出するフィルタ14bとを具えている。これらのうち電圧制御発振器12aと電力分配器12bと掛算器14aは、既製のFM−CWモジュールで具現されている。
【0047】
また、距離測定装置20は、演算制御回路21として、ビート信号E1から移相信号E2を生成する90°移相器23と、時間刻みΔtでビート信号E1をサンプリングするA/D変換器22と、それと同時刻にビート信号E2をサンプリングするA/D変換器24と、位相算出手段25と位相変化率算出手段26と位相変化率算出手段26のプログラムがインストールされたコンピュータ29とを具えている。コンピュータ29には、計測距離Rmを表示可能な表示器からなる出力部15が接続されている。図5を参照して各部を詳述すると、制御電圧E0は、図5(a)に示すように、2Vから8Vまで直線的に漸増するのを周波数掃引時間T毎に繰り返す。この生成は演算制御回路21が行うので、その生成タイミングに合わせて演算制御回路21はビート信号E1,E2のサンプリングや計測距離Rm算出の演算を行うようになっている。
【0048】
図5(b)に示した移相器23は、抵抗値R1の3個の抵抗とコンデンサC1とオペアンプとを具備したものであり、アンプの正転入力と接地間にコンデンサC1が接続され、アンプの正転入力とビート信号E1のライン間に一個の抵抗が接続され、アンプの反転入力とビート信号E1のライン間に別の一個の抵抗が接続され、アンプの出力から反転入力への帰還ラインに残りの抵抗が接続されている。抵抗とコンデンサとの直列回路でビート信号E1の積分波形が得られ、その振幅がアンプと抵抗比等にて調整されて、ビート信号E1の位相を90°ずらした移相信号E2が生成されるようになっている。例えば、ビート信号E1の周波数fbが3kHzのとき、C1は0.01μF、R1は5.3kΩで良い。
【0049】
図5(c)にコンピュータ29のプログラム構成を示したが、この場合は、ビート信号E1,E2をサンプリング回路22+24から時間刻みΔt毎にN回取り込むサンプリングルーチン29aがインストールされ、その一連のサンプリング値E1(i)及びサンプリング値E2(i)を全部保持しておく配列が2組みメモリに割り付けられ、サンプリング値E1(i),値E2(i)からビート信号の位相φ(i)を算出する回転位相算出ルーチン29bがインストールされ、その一連の位相φ(i)を全部保持しておく配列も2つメモリに割り付けられ、位相φ(i)から回転位相の近似直線の傾きaを算出して計測距離Rmを算出し更にそれを出力部15に送出して表示させる位相変化率等算出ルーチン29cがインストールされている。このようなコンピュータ29では、各周波数掃引毎に、ルーチン29a,29b,29cが並行処理を行い、2組の配列の一方に最新のサンプリング値が貯め込まれているとき、他方の組の配列に保持されている一回前の周波数掃引時のサンプリング値を用いて位相φ(i)が算出されそれ用の配列の一方に保存される。また、一回前の周波数掃引時に算出され他方の配列に保持されている位相φ(i)を用いて傾きaの算出や計測距離Rmの算出が行われる。
【0050】
以下に、上記構成による作用を説明する。まず、コンピュータ29に接続されたD/A変換器28でアナログ信号に変換された制御電圧E0が電圧制御発振器12aに加えられると、電圧制御発振器12aでは、この制御電圧E0に応じて周波数変調されたFM−CW信号が発生する。図5(a)は、この制御電圧E0の波形を表しており、例えば、周波数掃引時間Tを5msとして、この5msの間に制御電圧E0を2Vから8Vへ直線的に変化させると、これに応じて電圧制御発振器12aによって、周波数fが9.25GHzから10.75GHzへ直線的に掃引されるFM−CW信号が生成され、これが電力分配器12bに送出される。制御電圧E0に対してFM−CW信号の周波数はこのようになる。
【0051】
このFM−CW信号は、電力分配器12bで送信信号e1と等価信号e0(基準信号)とに分けられ、送信信号e1は、減衰器13aで適切な送信レベルに調整された後、送信アンテナ13bでマイクロ波に変換されて送信アンテナ13bから路面9に向けて放射される。路面9で反射したマイクロ波は、受信アンテナ13cで受信されて電気信号に変換され、RFアンプの受信アンプ13dで増幅されて、受信信号e2となる。受信信号e2は等価信号e0と共に掛算器14aに入力されて積信号Eを生じ、この積信号Eからフィルタ14bによってビート信号E1が抽出される。例えば、上述したように、周波数掃引時間T=5ms、周波数掃引幅B=1.5GHz、中心周波数f0=10GHzとすると、伝搬距離R=25cmのとき、ビート周波数fbは上述したようにfb=3kHzとなる。この周波数を含む所定帯域のビート信号E1がフィルタ14bで抽出されるのである。
【0052】
ビート信号E1はA/D変換器22でサンプリング値E1(i)となってコンピュータ29に取り込まれるとともに、移相器23で90°だけ位相のずれた移相信号E2にされてからA/D変換器24でサンプリング値E2(i)となってコンピュータ29に取り込まれる。コンピュータ29で、周波数掃引の度にそれぞれN個ずつ得られた一連のサンプリング値E1(i),E2(i)は、サンプリングルーチン29aによってメモリ上の配列に記憶され、それと並行して、一回前の周波数掃引時にサンプリングされ記憶されていた一連のサンプリング値E1(i),値E2(i)からは上述の(27)式や(28)式の演算を行う回転位相算出ルーチン29bによってやはりN個からなる一連の位相φ(i)が算出され、それと並行して、一回前の周波数掃引時に算出され記憶されていた一連の位相φ(i)からは上述の(39)式や(40)式の演算を行う位相変化率等算出ルーチン29cによって傾きaや計測距離Rmが算出される。こうして、周波数掃引時間T毎に計測距離Rmが得られ、出力部15に表示される。
【0053】
図6(a)は、伝搬距離Rを18cmから35cmまで変えながら距離測定装置20で測定したときの計測距離Rmをグラフにしたものであり、横軸に伝搬距離Rを採り縦軸に計測距離Rmを採っている。また、図6(b)は、縦軸に計測距離Rmと伝搬距離Rとの差(Rm−R)を採って誤差をグラフ表示している。
この測定実験では、路面9としてコンクリート面を用いている。ただし、中心周波数f0が10GHz、周波数掃引幅Bが1.5GHz、周波数掃引時間Tが4ms、固定遅延時間τ0が6.33ns、電圧制御発振器12aの出力が−2dBm、減衰器13aが60dB、受信アンプ13dの利得が40dB、バンドパスフィルタ14bの中心周波数が3kHzでQが5である。距離Rは、25cmを中心として18cm〜35cmまで計測した。
その結果、ほぼ±2mm以内の精度で計測距離Rmが求まっており、路面プロファイラー30への応用としては十分に満足できる結果である。
【0054】
【実施例2】
本発明の他の実施例を説明する。図7のフローチャートは、コンピュータ29のプログラムの処理内容を示している。このプログラムによれば、サンプリング値E1(i),値E2(i)や位相φ(i)は直前すなわち時間刻みΔt前にサンプリングされたり算出されたものが保持されていれば足りる。具体的には、先ず周波数掃引の開始タイミングでサンプリング値や積算値を一時記憶するためのメモリ領域などを初期化する(ステップS1)。それから、サンプリング値E1(i),E2(i)をサンプリングして(ステップS2)、これと一時記憶していたE1(i−1),E2(i−1)とから位相進み量Δφ(i)を算出し、これを算出済みの位相φ(i−1)に加えて位相φ(i)を算出し、これを算出済みのi−1番目のΣφ(i)に加えてi番目のΣφ(i)を算出し、さらにi×φ(i)を算出済みのi−1番目のΣ(i×φ(i))に加えてi番目のΣ(i×φ(i))を算出する(ステップS3)。
【0055】
iが1から始まってNに達するまで、これらのサンプリングと演算を繰り返し(ステップS2〜S3)、N回の処理を終えたら(ステップS4)、傾きaを算出し(ステップS5)、さらに計測距離Rmを算出する。こうして得られた計測距離Rmは出力部15に送出して表示させる。
この場合、一連のサンプリング値E1(i),E2(i)や位相φ(i)を総て格納しておける大きな配列は不要であるが、各サンプリング毎に及び各周波数掃引毎に所要の演算を済ませなければならない。
実用化に当たっては、コンピュータ29の演算能力とメモリ容量とを比較考量して、上例(実施例1)か本例(実施例2)か或いは両者の折衷的な態様で具体化される。
【0056】
【実施例3】
本発明の更に他の実施例を説明する。図8(a)のブロック図は、演算制御回路21のうちの位相検出手段22〜25を示している。この位相検出手段22〜25は、上述した移相器23に代えて移相演算プログラム23’(移相手段)を導入したものである。移相演算プログラム23’はサンプリング値E1(i)からサンプリング値E2(i)同様の疑似サンプリング値E2’(i)を算出するものであるが、このプログラムがデジタル演算回路のコンピュータ29にインストールされているので、サンプリング回路は、A/D変換器24が不要となって、A/D変換器22だけとなっている。
【0057】
すなわち、この位相検出手段22〜25は、時間刻みΔtでビート信号E1をサンプリングするA/D変換器22と、そのサンプリング値E1(i)から90°位相の異なる疑似サンプリング値E2’(i)を算出する移相演算プログラム23’と、その疑似サンプリング値E2’(i)とサンプリング値E1(i)とからA/D変換器22でのサンプリング時間t(i)におけるビート信号E1の位相φ(i)の進み量Δφ(i)を算出し更にその位相進み量Δφ(i)を足し合わせて各サンプリング時t(i)におけるビート信号E1の位相φ(i)を算出する位相算出手段25(位相差算出手段25a+位相漸化手段25b)とを具えたものである。
【0058】
移相演算プログラム23’には、デジタル演算に適した高速フーリエ変換(FFT)やHilbert変換が採用される。図8(b)は、高速フーリエ変換とその逆変換を用いた例であり、図8(c)は、Hilbert変換を用いた例である。
先ず、図8(b)のフーリエ変換利用例を説明すると、一回の周波数掃引で得られた一連のサンプリング値E1(i)からフーリエ変換(FFT)を行ってスペクトルを求め、そのスペクトルから周波数が負の部分を除いて非負の部分を抽出し、それに逆高速フーリエ変換(IFFT)を施して、虚数部を抽出し、さらにそれを2倍する。これにより、サンプリング値E1(i)から位相の異なる疑似サンプリング値E2’(i)が算出される。
【0059】
このような演算で移相が行えることについて90°移相の場合を例に説明する。上述の(12)式で得られたビート信号E1をフーリエ変換すると、
【数41】
となるので、周波数が非負の部分である第1項を選んで逆フーリエ変換すれば、
【数42】
であるが、f→fbに近づけると、
sinπ(f−fb)T/π(f−fb)T→1となるので、
【数43】
となる。このうちの虚数部であるsinの項を2/T倍すれば、上述の(13)式すなわちビート信号E1と位相が90°異なる移相信号E2が得られる。
移相演算プログラム23’は、これを、デジタル演算で、具体的にはFFT及びIFFTで、実行するようにしたものである。
【0060】
なお、移相演算がHilbert変換の場合、
【数44】
と等価なデジタル演算を移相演算プログラム23’で行う。この場合、ビート信号の周波数が広い範囲で変化しても、安定して90°移相がなされる。
【0061】
【実施例4】
本発明を濃度計(比誘電率計)に適用した実施例を説明する。図9のブロック図は、上述した各実施例1〜3の距離測定装置20との相違点を明記したものである。
この濃度計40は、送信アンテナ13bと受信アンテナ13cとが測定対象物9を挟んで対向するようになっている。また、距離算出手段27に代えて濃度算出手段27’がコンピュータ29にインストールされている。他の点は、上例と同様である。
【0062】
濃度算出手段27’は、傾きaから比誘電率εrを算出するプログラムであり、具体的には、次の(45)式を演算するようになっている。
【数45】
ここで、周波数掃引時間T,周波数掃引幅B,固定遅延時間τ0,測定対象物の厚さd,光速cは、既知であり、傾きaは位相変化率算出手段26にて得られているので、比誘電率εrが求まる。比誘電率εrは例えば汚泥濃度と比例関係にあるので、本装置を用いて試料(測定対象物9’)の比誘電率εrを求めれば、定数倍するだけで直ちに濃度が分かる。
【0063】
なお、上記(45)式の導出等についても説明する。その原理は、測定対象の
物質の比誘電率εrにより光速cよりも遅くなること、及び比誘電率εrが濃度等と比例関係にあることを利用している。そして、これらの物理的関係に基づき
【数46】
が得られるので、この(46)式をεrについて解くと(45)式が得られる。
このような比誘電率計は、液体や,汚泥濃度計,材木等の水分計,米麦等の水分計などにも使用できる。
【0064】
【実施例5】
本発明を流量計に適用した実施例を説明する。図10のブロック図は、上述の濃度計40同様、各実施例1〜3の距離測定装置20との相違点を明記したものである。
図10(a)の流量計50は、マイクロ波用のアンテナ13b,13cに代えて超音波トランスジューサ13b’,13c’(超音波振動子,超音波センサ)が採用されている。また、距離算出手段27や濃度算出手段27’に代えて流量算出手段27”がコンピュータ29にインストールされている。他の点は、上例(実施例1〜4)と同様である。
【0065】
送信用の超音波トランスジューサ13b’が超音波を送信しているとき、その超音波を受信用の超音波トランスジューサ13c’が受信するようになっている。このような超音波トランスジューサ13b’,13c’が配管9”(測定対象物)の上流側と下流側に分かれて送受信可能にセットされることを前提として流量算出手段27”が機能するようになっている。また、超音波トランスジューサ13b’,13c’間の距離R1や,配管9”中の流体が静止しているときの音速c1が、固定値として、或いはメニュー画面等で設定変更可能なパラメータとして、コンピュータ29に保持されるようになっている。
【0066】
流量算出手段27”は、位相変化率算出手段26にて得られたビート信号E1の位相φ(i)の傾きaから配管9”内の流体の流量Qを算出するプログラムであり、具体的には、以下の演算を行うようになっている。
先ず、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13b’から出て配管9”内を伝搬して超音波トランスジューサ13c’で受信されたときの位相φ(i)の傾きaを求め、この傾きaから次式で流速Vを算出する。
【数47】
次に、この流速Vを平均流速とみなして、管内面積Aを掛け、
【数48】
によって流量Qを算出するのである。
【0067】
ここでも上式の導出について説明する。この場合、上述の(21)式に対して
2R=R1、c=c1とおけば、
【数49】
であるから、この式をVについて解けば、上記の(47)式が得られる。
なお、実際の流量計では、実験等にて得た流量補正係数を掛けるといったことも行われて、最終的な流量Qが算出される。
【0068】
図10(b)の流量計50は、超音波トランスジューサ13b’,13c’の何れか一方を減衰器13aの出力先に選択する切換スイッチSW1と、超音波トランスジューサ13b’,13c’の何れか他方を受信アンプ13dの入力先に選択する切換スイッチSW2とを具えたものである。超音波トランスジューサ13b’,13c’は、送信も受信も可能なものであって、スイッチSW1,SW2の切換によって交互に送信駆動されるようになっている。その切換は周波数掃引の繰り返しに同期して行われる。そして、超音波トランスジューサ13b’が超音波を出しているときにはそれを超音波トランスジューサ13c’が受信し、超音波トランスジューサ13c’が超音波を出しているときにはそれを超音波トランスジューサ13b’が受信するようになっている。
【0069】
そのような送受信方向切換を伴った測定に対応して、流量算出手段27”は次のように改造されている。すなわち、流量算出手段27”は、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13b’から出て、向かって来る流体を向かい風状態で伝搬し、それから超音波トランスジューサ13c’で受信されたとき、位相変化率算出手段26から受け取った傾きaをa1として一時記憶しておき、さらにSW1,SW2が切り替わって、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13c’から出て、逃げて行く流体を追い風状態で伝搬し、それから超音波トランスジューサ13b’で受信されたとき、位相変化率算出手段26から受け取った傾きaをa2として、次の式で流速Vを算出するようになっている。
【数50】
流速Vが得られれば、上述したようにして流量Qが求まる。しかも、この式には音速c1が含まれていないので、その設定が必要なくて、装置が使い易い。
【0070】
ここでも上式の導出について説明すると、上述した(48)式より、向かい風状態で超音波が伝搬したときの流速Vは、
【数51】
となり、追い風状態で超音波が伝搬したときの流速Vは、
【数52】
となる。これらを足して2で割って平均化すると、上式(50)が得られる。
【0071】
図10(c)の流量計は、真っ直ぐな配管9”での流量Qを測定するために、超音波トランスジューサ13b’,13c’を、配管9”を挟んで対向するところに、設置するタイプのものである。この場合、超音波トランスジューサ13b’,13c’は、配管9”の長手方向から角度θだけ傾けた仮想直線上に配置される。この角度θは、固定値として、或いは設定変更可能なパラメータとして、コンピュータ29に保持され、流量算出手段27”の演算に供される。流量算出手段27”は、上述した流速V算出式をcosθで除して、適切な流量Qを得る。
【0072】
図10(d)の流量計は、超音波トランスジューサ13b’,13c’の設置位置がずれていることに対応して、超音波トランスジューサ13b’,13c’が互いに正対するよう、超音波トランスジューサ13b’,13c’を配管9”に対して傾けて取り付けたものである。
この場合、超音波トランスジューサ13b’,13c’が正対しているので、超音波のロスが少なくて済む。
【0073】
図10(e)の流量計は、超音波トランスジューサ13b’同様の超音波トランスジューサ13b”と、超音波トランスジューサ13c’同様の超音波トランスジューサ13c”も、用いるものである。この例では、超音波トランスジューサ13b’,13c’が上流側の対向位置に配置され、超音波トランスジューサ13b”,13c”が下流側の対向位置に配置される。切換スイッチSW1は、超音波トランスジューサ13b’,13b”の何れか一方を減衰器13aの出力先に選択し、切換スイッチSW2は、超音波トランスジューサ13c’,13c”の何れか一方を受信アンプ13dの入力先に選択するようになっている。
この場合、超音波トランスジューサ13b’から出た超音波が超音波トランスジューサ13c”で受信されたときの傾きaをa1とし、超音波トランスジューサ13b”から出た超音波が超音波トランスジューサ13c’で受信されたときの傾きaをa2として、上述したような演算が行われ、流量Qが求まる。
【0074】
図10(f)の流量計50は、超音波トランスジューサ対の二重化に加えて、基本部分(すなわち回路12〜14及び回路やプログラム22〜26)も二重化したものである。それぞれの超音波の周波数掃引範囲は、干渉や混信を避けるため、異なる周波数帯域にされる。
この場合、一方の基本部分で算出された傾きaをa1とし、他方の基本部分で算出された傾きaをa2として、流量算出手段27”による上述の演算で、流量Qが算出される。切換が不要なのでスイッチSW1,SW2は省かれており、周波数掃引の度に流量Qが得られる。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、測定用の波の周波数を掃引して送受信信号のビート信号を得、そのビート周波数と伝搬距離との関係式に基づいて絶対距離を算出するに際して、ビート周波数の直接算出に代えて位相変化率を算出するようにしたことにより、直接算出したビート周波数に付きものの分解能に関する制約事項から開放されるので、絶対距離を精度良く測定することができる。
また、位相変化率を誤差最小の近似直線の傾きにて求めることで、更に精度を良くすることができる。
さらに、移相器でビート信号の移相を行うことで、サンプリングを伴うデジタル演算が行い易くなる。
また、移相演算を行ってサンプリング値から位相の異なる疑似サンプリング値を算出するようにしたことにより、移相器の機能をデジタル演算で代行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を説明する図であり、(a)は距離測定装置の概要ブロック図、(b)は演算制御回路のブロック図である。
【図2】(a)は周波数掃引の典型例であり、(b)はその変形例である。(c)は演算内容を示している。
【図3】ビート信号の位相φ(i)に係る近似直線の傾きa1〜a3と伝搬距離R1〜R3との関係を例示したグラフである。
【図4】本発明の実施例1について、(a)は、距離測定装置20を搭載した路面プロファイラー30の模式図、(b)は距離測定装置20のブロック図である。
【図5】(a)は制御電圧E0の波形例、(b)は移相器23の回路図、(c)はコンピュータ29の機能ブロック図である。
【図6】計測結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2について、コンピュータ29による演算の内容を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例3について、(a)が位相検出手段のブロック図、(b)及び(c)が何れも移相演算のブロック図である。
【図9】本発明の実施例4について濃度計のブロック図である。
【図10】本発明の実施例5について、(a)〜(f)何れも流量計の要部ブロック図である。
【図11】従来の距離測定装置について、(a)は概要ブロック図、(b)及び(c)は演算制御回路のブロック図である。
【符号の説明】
9…測定対象物、
10…距離測定装置、
11…演算制御回路、 12…周波数掃引回路、
12a…電圧制御発振器、 12b…電力分配器、
13…送受信部、
13a…減衰器、 13b…送信アンテナ、
13c…受信アンテナ、 13d…受信アンプ、
14…ビート信号出力回路、
14a…掛算器、14b…フィルタ、15…出力部、
20…距離測定装置、
21…演算制御回路、 22〜25…位相検出手段、
22+24…サンプリング回路、
22…A/D変換器(サンプリング回路、位相検出手段)、
23…移相器(位相検出手段)、
24…A/D変換器(サンプリング回路、位相検出手段)、
25…位相算出手段(位相検出手段)、
25a…位相差算出手段、 25b…位相漸化手段、
26…位相変化率算出手段、 27…距離算出手段、
28…D/A変換器、 29…コンピュータ、
30…路面プロファイラー、 31…測定部、
E0…制御電圧、T…周波数掃引時間、B…周波数掃引幅、
B/T…掃引周波数変化率、f…周波数、f0…中心周波数、
e0…等価信号、 e1…送信信号、 e2…受信信号、
λ…波長、 R…伝搬距離、 Rm…計測距離、
E1…ビート信号、 E1(i)…サンプリング値、
E2…移相信号、 E2(i)…サンプリング値、
φ(i)…位相、 Δφ(i)…位相進み量、 a…傾き、
fb…ビート周波数、 2πfb…位相変化率
【発明の属する技術分野】
本発明は、波を出射して、それを測定対象の経路に沿って伝搬させ、対象距離の時間的または空間的変化量を非接触測定する距離等測定装置に関する。
例えば、車両の走行時における乗り心地や交通振動に影響する舗装路面の平坦度を非接触に測定する距離測定装置に関する。
また、距離一定条件下での濃度計や流量計、その他のビート周波数対応物理量を測定する装置にも関する。
これらの装置を本明細書では距離等測定装置と呼ぶ。
【0002】
測定のために出射しうる波は、マイクロ波やミリ波などの電波でも良く、超音波などの音波でも良く、レーザ光などの光波でも良い。
測定原理は、測定用波の周波数を掃引して送受信信号間のビート信号を得、そのビート周波数と伝搬距離等との関係式に基づいてビート周波数対応物理量を算出するものである。
ビート周波数対応物理量としては、絶対距離や、距離が固定されていれば伝搬遅延時間に対応する誘電率、比誘電率に対応している濃度、その他にも、ビート周波数と一対一の対応関係にある物理量や、ビート周波数に基づいて一意に定まる物理量が挙げられる。配管径や流体物性等を一定としたときの流速や流量などもビート周波数対応物理量と言える。
【0003】
【従来の技術】
図11(a)に概要ブロック図を示した従来の距離測定装置は(例えば特許文献1参照)、周波数掃引して得たビート信号に基づいて距離を測定するために、演算や制御を司り具体的には周波数掃引の状態を制御するための制御電圧E0を生成する演算制御回路11と、制御電圧E0に従って送信信号e1及びこれに等価な等価信号e0の周波数を変化させる周波数掃引回路12と、電気信号の送信信号e1を出射可能な例えばマイクロ波に変換して外部の路面等の測定対象物9へ送出するとともにその反射波を受信して電気信号の受信信号e2に変換する送受信部13と、その受信信号e2と等価信号e0とからビート信号E1を抽出するビート信号出力回路14とを備えており、さらに演算制御回路11は、波の伝搬距離Rに対応する計測距離Rmをビート信号E1から演算にて求め、計測距離Rmをディスプレイやレコーダ等の出力部15に送出するようになっている。
【0004】
後に詳述するが(或いは特許文献1参照)、周波数掃引時間Tで周波数掃引幅Bの周波数掃引を直線的に行うと、マイクロ波の伝搬距離Rとマイクロ波の波長λとビート周波数fbを用いて、ビート信号E1の位相φは、時刻tのとき、
【数1】
となる。
ここでは、tの掛かっている第1項すなわち2π×fbを回転位相関係式と呼び、tの掛かからない第2項すなわち4π×R/λを固定位相と呼ぶ。
また、光速cと回路内の固定遅延時間τ0も用いて、ビート周波数fbは、
【数2】
となる。
【0005】
図11(b)にブロック図を示した演算制御回路11は、計測距離Rmの算出に回転位相関係式を利用するものであり、ビート周波数fbをFFT(高速フーリエ変換)で求めるようになっている。具体的には、ビート信号E1を所定周期でサンプリングし、それにFFTの演算を施してパワースペクトルを算出し、更にそのピーク値を与える周波数からビート周波数fbを求めて、上述したビート周波数fbと伝搬距離Rとの関係式から、計測距離Rmを算出するようになっている。
【0006】
この手法では、ビート周波数fbをFFTで求めるため、ビート周波数fbの分解能Δfbは、周波数掃引時間Tで制限され、Δfb=1/Tである。この値を伝搬距離Rの分解能ΔRで表すと、上述した式より、導出過程は省略するが、ΔR=c/(2×B)である。例えば、周波数掃引幅Bが1.5GHzという典型的な事例で、ΔRは10cmとなる。これでは、それより精密な測定目的には使えない。例えば1mm〜2mm程度の分解能を必要とする路面の平坦性測定には用いることができない。
【0007】
図11(c)にブロック図を示した演算制御回路11は(例えば特許文献1参照)、計測距離Rmの算出に固定位相の方を重用するものであり、固定位相項φ0=4π×R/λから伝搬距離Rの変化量ΔRを求めるようになっている。具体的には、ビート信号E1を所定周期でサンプリングし、それと基準の正弦波信号sinや余弦波信号cosとの積和を演算し、更に比を演算して固定位相φ0を算出し、上述した固定位相項φ0と伝搬距離Rとの関係式から、計測距離Rmを算出するようになっている。
【0008】
この手法では、1mm以下の分解能で計測することができるが、上述したような算出式では、位相φ0の値を0〜2πの範囲でしか確定できない。例えば、導出過程は省略するが、マイクロ波の周波数が10GHzという典型的な事例で、λが3cmのとき、伝搬距離Rの変化量ΔRが採りうる値は、0〜1.5cmである。そのような限られた範囲における相対距離変化量を検出するのである。これでは、それより測定範囲の広い測定目的には使えない。例えば10cm以上の高低差を計測しなけばならない路面の平坦性測定には用いることができない。そのため、測定範囲を広げるべく、ビート信号E1から別途手法で波数変化量を検出し、これと相対距離変化量とを組み合わせて全計測距離Rmを求めることも、行われている(特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−4741号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような波数検出と固定位相検出とを組み合わせた距離測定手法では、測定精度は高いが、固定位相検出のための演算量が多いうえ、波数検出を安定して行うのが難しい。このため、それより分解能が多少劣っていても、安直に絶対距離を得ることのできる距離測定装置の方が、利用範囲も広く、低価格化も期待できて、実用化に適しており、具現化が望まれる。かかる観点からは、回転位相関係式を利用する手法の方が、安定して絶対距離が得られるので、実用化に適している。とはいえ、ビート周波数をFFT等で直接算出する上述の手法では、精度が粗すぎて、応用が限られる。
【0011】
そこで、それよりは高い精度・分解能で絶対距離が得られよう、回転位相関係式を利用する手法を改善することが、要請され、課題となる。また、その手法を距離算出以外に応用することも更なる課題となる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、回転位相関係式を利用するに際してビート周波数の直接算出を行うのでなく位相変化率を算出することにより絶対距離等を精度良く測定しうる距離等測定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明では位相変化率を算出するが、この位相変化率の分解能は、直接算出のビート周波数と異なり、周波数掃引時間Tの支配を受けない。位相変化率とビート周波数は、比例関係にあり、一見では等価に思われるが、算出手法が異なるため、ビート周波数が周波数掃引時間Tの逆数で離散的にしか得られないのに対し、位相変化率にはそのような制約が無い。位相変化率は、ビート周波数を間接的に精度良く算出したものである、とも言える。本発明は、このようなビート周波数の間接的算出手法の発見を本旨とするものなので、先ず、位相変化率の算出式の導出過程を説明し、それから本発明の距離等測定装置の構成等を説明する。
【0013】
上述した図11(a)のハードウェア装備を前提として、周波数掃引にて時刻tで周波数fになる送信信号e1を
【数3】
とおけば、受信信号e2は、
【数4】
と表される。ここで、Aは受信信号レベル、τは送信信号e1が周波数掃引回路12を出てから受信信号e2がビート信号出力回路14に入るまでの遅延時間である。送受信部13における送受信アンテナと測定対象物9との間の伝搬距離Rをマイクロ波が往復する遅延時間をτ1とし、回路内の固定遅延時間をτ0とし、光速をcとすると、遅延時間τは、
【数5】
と表される。よって、(4)式は、
【数6】
となる。
【0014】
ここで、等価信号e0を e0=e1 に設定すれば、ビート信号出力回路14では、受信信号e2と等価信号e0とが掛け合わされるので、その積Eは、
【数7】
となるが、そのうち低周波成分がビート信号出力回路14によって取り出されるので、第1項は無視でき、ビート信号E1の式として、
【数8】
が得られる。
【0015】
ここで、中心周波数f0を挟む周波数掃引幅Bの周波数掃引が周波数掃引時間Tで繰り返し行われていれば、送信周波数fは、各周波数掃引毎に、
【数9】
と表すことができる。この(9)式を上記(8)式に代入して整理すれば、
【数10】
となる。ここで、
【数11】
であり、fbはビート周波数、λはマイクロ波の波長である。
【0016】
なお、(10)式における固定位相項2π・f0・τ0は、nを整数として、一般性を失うことなく、2nπとおけるので、
【数12】
と表すことができる。
この(12)式のE1は、送信信号e1と受信信号e2とを混合して得られる低周波成分であるビート信号とみなすことができる。
ここで、具体例として、周波数掃引時間T=5ms、周波数掃引幅B=1.5GHz、中心周波数f0=10GHzとし、伝搬距離R=25cm、固定遅延時間τ0=6.33nsに設定すると、ビート周波数fb及び波長λは、(11)式より、 fb=3kHz, λ=3cm となる。
【0017】
また、ビート信号E1の位相を移相器等で90°変化させて移相信号E2を生成すると、その移相信号E2は、
【数13】
となるが、信号処理の演算をコンピュータで実行し易いよう、これらの信号E1,E2を時間刻みΔt毎にサンプリングするものとする。そうすると、各周波数掃引においてi番目にサンプリングされる信号E1,E2のサンプリング値E1(i),E2(i)は、t=ti=i・Δtとおいて、
【数14】
【数15】
【数16】
で表される。
【0018】
ここで、(14)式と(15)式を組み合わせてベクトルEiで表せば
【数17】
とおける。ただし、
【数18】
である。
【0019】
したがって、(18)式のビート信号の位相φ(i)は、iの増加とともに直線的に増加し、その増加の傾きaは、ビート周波数fbに比例している。また、(11)式から、ビート周波数fbは、伝搬距離Rに比例しているので、結局、ビート信号の位相φ(i)において時刻tiに対する直線的変化の傾きaを求めれば、伝搬距離Rの計測値である計測距離Rmを得ることができる。
そこで、サンプリング値E1(i),E2(i)から傾きaを求める実用的な手順を説明する。
【0020】
ビート信号の位相φ(i)は時刻tiに対して直線的に変化するので、その傾きをaとし、オフセットをbとすれば、位相φ(i)は、
【数19】
とおける。ここで、(18)式より
【数20】
であるから、(11)式を用いれば、傾きaは、
【数21】
である。
【0021】
また、(18)式の位相φ(i)に関して、(i−1)番目のサンプリングとi番目のサンプリングとの間における位相φ(i)の変化である位相進み量Δφ(i)は、
【数22】
であるから、両辺のtanをとると、
【数23】
である。ここで、(17)式から、
【数24】
【数25】
であるから、これらを(23)式に代入して整理すれば、
【数26】
が得られる。
【0022】
よって、
【数27】
となる。したがって、(22)式より
【数28】
において、(27)式を用いれば
【数29】
の漸化式が得られる。
【0023】
いま、(28)式において、i=1,2,・・・,Nとおけば
【数30】
であるので、φ(i)を測定値とすれば、(19)式の右辺の直線からのずれは雑音によるものであり、誤差をεiとして
【数31】
が発生する。
【0024】
よって、求めたい傾きaの値は、(31)式の誤差εiの2乗和、すなわち、
【数32】
を最小にするaであるから、最小2乗法を適用すれば
【数33】
【数34】
から
【数35】
【数36】
が得られる。
【0025】
したがって、(35)式と(36)式を解けば、傾きaは、
【数37】
で与えられる。または、
【数38】
の関係式を用いれば、(37)式は、
【数39】
で与えられる。
【0026】
よって、(29)式を用いればサンプリング値E1(i),E2(i)からビート信号E1の位相φ(i)が求められ、これを用いて(39)式から傾きaが算出できる。したがって、この傾きaから(21)式を用いれば
【数40】
により、測定対象物9までの伝搬距離Rが求められることになる。なお、この(40)式の値は、実際の伝搬距離Rではなく、伝搬距離Rの測定値なので、本明細書では区別のため計測距離Rmと呼ぶ。
【0027】
本発明の距離等測定装置は、かかる考察に基づいて創案されたものであり、送信信号の周波数を変化させる周波数掃引回路と、前記送信信号を電波や音波などの出射可能な波に変換して外部へ送出するとともにその反射波または透過波を受信する送受信部と、その受信信号と前記送信信号または等価な信号とからビート信号を抽出するビート信号出力回路と、次の演算制御回路とを備えたものである。前記演算制御回路は、前記ビート信号の位相を随時求める位相検出手段と、その位相の変化率を周波数掃引毎に一つに纏める位相変化率算出手段と、その位相変化率および前記送信信号の周波数変化率から前記波の伝搬距離などのビート周波数対応物理量を求める距離等算出手段とを具備している。
【0028】
また、本発明では、前記位相変化率算出手段が、前記ビート信号の位相の時間変化を誤差最小で近似する直線の傾きを算出することで前記位相変化率を得るようになっていても良い。
さらに、前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器を具備していて、その出力信号と前記ビート信号とから前記ビート信号の位相を得るようになっていても良い。
また、前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器と、その出力信号と前記ビート信号とをサンプリングするサンプリング回路と、そのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていても良い。
また、前記位相検出手段が、前記ビート信号をサンプリングするサンプリング回路と、位相をずらす移相演算を行って前記サンプリング回路によるサンプリング値から位相の異なる疑似サンプリング値を算出する移相手段と、その疑似サンプリング値と前記サンプリング値とから前記サンプリング回路でのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていても良い。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の距離等測定装置の実施形態を説明する。先ず絶対距離の測定装置への適用例を説明する。図1(a)は、距離測定装置の概要ブロック図、同図(b)は、演算制御回路のブロック図である。また、図2(a)は、周波数掃引の典型例であり、同図(b)は、その幾つかの変形例である。図2(c)は、演算内容を示している。図3は、ビート信号の位相φ(i)に係る近似直線の傾きa1〜a3と伝搬距離R1〜R3との関係を例示したグラフである。
【0030】
図1(a)に示した本発明の距離測定装置20は、図11(a)のハードウェアをほぼ引き継いでいる。
すなわち、周波数掃引回路12と送受信部13とビート信号出力回路14と出力部15は従来同様で足りる。
演算制御回路21は改良されており演算制御回路11と異なる。
【0031】
周波数掃引回路12は(図1(a)参照)、送信信号e1の周波数を変化させるために、大抵、制御電圧E0に従って発振状態を変える具体的には発振周波数を変える電圧制御発振器を具えている。制御電圧E0が直線的に変化させられて、送信信号e1の周波数も直線的に変化する。即ち(図2(a)参照)、周波数掃引時間Tの間に周波数掃引幅Bだけ周波数が変化するが、そのとき、周波数変化量が一定になっている。周波数掃引は、間欠的に繰り返しても良く(図2(a)参照)、連続的に繰り返しても良く(図2(b)参照)、不連続な変化や急変を回避するため増加と減少を交互に行うようにしても良く、周波数掃引の各繰り返し中の先頭部分を周波数掃引幅Bや周波数掃引時間Tから除外して過渡的状態の信号を演算に使わないで捨てるようにしても良い。周波数掃引回路12は、大抵、図1(a)に示したように、ビート信号出力回路14のために、送信信号e1と同じ波形か又は振幅のみ異なる等価信号e0も生成するが、ビート信号出力回路14が送信信号e1をそのまま利用できる場合は(例えば特許文献1の図11,図12参照)、等価信号e0の生成を行わない。
【0032】
送受信部13は(図1(a)参照)、電気信号の送信信号e1を出射可能な波に変換して外部へ送出する送信部と、測定対象物9に当たって戻って来た反射波を拾いこれを電気信号に変換して受信信号e2を生成する受信部とを具えている。送信部は送信アンテナとその駆動回路などで構成され、受信部は受信アンテナと受信アンプ等で構成されるが、両アンテナ(トランスジューサ)は別体であっても良く(例えば特許文献1の図2,図12参照)、一体のものであっても良い(例えば特許文献1の図10,図11参照)。
【0033】
ビート信号出力回路14は(図1(a)参照)、受信信号e2と送信信号e1又は等価信号e0とからビート信号E1を抽出するために、掛け算器・混合回路などのミキシング手段と、送信信号e1や受信信号e2さらにはその高調波からそれらよりも周波数の低いビート信号E1を分離するフィルタとを具えている。フィルタは、ローパスフィルタでも良いが、測定距離の変動範囲が予め判明している場合は、バンドパスフィルタが良い。
出力部15は、計測距離Rmを外部利用可能とするものであれば良く、ディスプレイやレコーダに限らず、応用目的に応じて種々のものが採用される。
【0034】
演算制御回路21は(図1(a)参照)、制御電圧E0を生成して周波数掃引回路12へ送出するとともに、それに従って繰り返される周波数掃引回路12での周波数掃引の度に、ビート信号E1を取り込んで計測距離Rmを算出するものである。ここまでは演算制御回路11と同様であるが、回路構成の一部と具体的な演算内容は以下のように改良されている。すなわち(図1(b)参照)、ビート信号E1の位相φ(i)を随時求める位相検出手段22〜25と、その位相φ(i)の位相変化率2πfbを周波数掃引毎に一つに纏める位相変化率算出手段26と、その位相変化率2πfbおよび送信信号e1の掃引周波数変化率B/Tから波の伝搬距離Rに対応した計測距離Rmを算出する距離算出手段27とを具備している。
【0035】
位相検出手段22〜25は(図1(b)参照)、ビート信号E1を所定の時間刻みΔt毎にサンプリングするA/D変換器22と、ビート信号E1の位相をずらして移相信号E2を生成する移相器23と、移相信号E2を所定の時間刻みΔt毎にサンプリングするA/D変換器24と、A/D変換器22で得たサンプリング値E1(i)とA/D変換器24で得たサンプリング値E2(i)を逐次取り込んで回転位相の漸化式に基づく演算を行って各サンプリング時間におけるビート信号の位相φ(i)を算出する位相算出手段25とを具えている。この位相算出手段25と位相変化率算出手段26と距離算出手段27はコンピュータやデジタルシグナルプロセッサ等のデジタル演算回路で具現するのが実用に適しているので、その前である信号上流に、A/D変換器からなるサンプリング回路22+24が置かれ、移相器23はアナログ回路で具体化される。移相器23は、上述の(27)式の導出の前提に基づけば90°移相器であるが、その式を適宜変形すれば90°以外の移相器でも良い。
【0036】
位相算出手段25は(図2(c)参照)、時間刻みΔt毎に即ち各サンプリング毎にi番目のサンプリングでビート信号E1の位相進み量Δφ(i)を算出する位相差算出手段25aと、その位相進み量Δφ(i)を足し合わせて各サンプリング時すなわちi番目におけるビート信号の位相φ(i)を算出する位相漸化手段25bとを具えている。具体的には、位相差算出手段25aは、上述した(27)式の演算を実行し、位相漸化手段25bは、上述した(28)式の演算を実行するようになっている。
【0037】
位相変化率算出手段26は(図2(c)参照)、ビート周波数fbに対応しているが離散値に限定されない位相変化率2πfbを一連の位相φ(i)から算出するものであるが、そのとき位相変化率2πfbを一つに纏めるために、ビート信号の位相φ(i)の時間変化を誤差最小で近似する直線の傾きaを得る。具体的には、上述した(39)式の演算を実行するようになっている。
距離算出手段27は(図2(c)参照)、位相変化率2πfbの項を傾きaで置換した上述の(40)式の演算を実行して、計測距離Rmを算出する。
【0038】
このような距離測定装置20を用いて測定対象物9までの伝搬距離Rを変えながら測定すると、例えば短い距離R1と中間の距離R2と長い距離R3を測定すると、周波数掃引がなされる度に、どの距離R1,R2,R3でも位相φ(i)は概ね直線的に変化するが、距離に応じて傾き具合が異なる(図3の太い実線グラフを参照)。そして、演算制御回路21の演算によって、誤差を最小とする近似直線に係る傾きa1,a2,a3が求められ(図3の細い二点鎖線グラフを参照)、最終的には、それぞれの距離R1,R2,R3に対応した計測距離Rmが得られる。
【0039】
このように、本発明は、マイクロ波帯のFM−CW信号等を周波数掃引させてビート信号を抽出することやその回転位相関係式に基づく演算を行って距離の計測値を求める点では従来の手法を踏襲していると言えるが、回転位相関係式の演算実行のためビート信号からビート周波数または対応物理量を算出する手法が従来と異なっている。すなわち、従来手法では、ビート周波数をビート信号からFFT等で直接算出しているのに対し、本発明では、ビート周波数fbと数式上は等価な位相変化率2πfbが、位相φ(i)の近似直線の傾きaで、求められる。
【0040】
具体的には、上述の(18)式で示したように、ビート信号の位相項φ(i)が時刻ti(0≦ti≦T)に比例しており、その比例係数(時刻tiに対する傾き)すなわち位相変化率2πfbがビート周波数fbに比例していることに着目したもので、この時刻tiに対する位相φ(i)の傾きaを演算して、位相変化率2πfbを求めるようになっている。図3に示すように、ビート信号の位相φ(i)を時刻tiに対して描けば、グラフ位相φ(i)の近似曲線の傾きaが距離Rの増加とともに大きくなっていく様子が分かる。
【0041】
したがって、本発明のように、FM−CW(周波数掃引)のビート信号E1に対して例えば90°位相差を持つ移相信号E2を作り、この2つのビート信号(上記(12)式および(13)式)を時刻tの刻みΔt毎にサンプリングして得たベクトル信号(上記(17)式)から、時刻tiに対する傾きaを求めることにより、ビート周波数fb相当値を算出すれば、測定対象物9までの絶対的な距離Rを1〜2mm以下の分解能で求めることができるのである。
【0042】
以下、より具体的な実施例を幾つか説明するが、実施例1〜3は、距離測定装置への適用例であり、実施例4は、比誘電率計(濃度計)への適用例である。
【0043】
【実施例1】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。図4(a)は、本発明の距離測定装置20を搭載した路面プロファイラー30の模式図であり、同図(b)は、距離測定装置20のブロック図である。また、図5(a)は制御電圧E0の波形例、同図(b)は移相器23の回路図、同図(c)はコンピュータ29の機能ブロック図である。
【0044】
図4(a)において、路面プロファイラー30は、移動しながら測定できるよう、8輪の支持車輪を持った3mの直線定規を具えたものであり、その中央に測定部31が取り付けられている。測定部31には、距離測定装置20が大部分格納されているが、距離測定装置20のうち送受信部13の送信アンテナ13bと受信アンテナ13cは、測定対象物9である路面に向けて露出した状態で設けられている。そのため、送信アンテナ13bからマイクロ波が放射されるると、路面9で反射して帰って来た反射波が受信アンテナ13cで受信されるようになっている。
【0045】
ここで、車輪によって路面プロファイラー30を路面9上で移動させながら、距離測定装置20を稼動させると、距離測定装置20は、後述のように、広帯域に亘って周波数変調をかけた送信信号(e1、FM−CW信号)を送信アンテナ13bに送出し、この信号(FM−CW信号)を用いて、受信アンテナ13cからの受信信号(e2)からビート信号(E1)を得、その位相変化を検出することにより、路面9の平坦度、言い換えれば、路面の空間的変化を検出するものである。
【0046】
図4(b)に詳細ブロック図を示した距離測定装置20は、周波数掃引回路12として、制御電圧E0を制御入力に受ける電圧制御発振器12aと、その発振信号を分配して送信信号e1と等価信号e0を生成する電力分配器12bとを具えている。また、送受信部13として、送信信号e1のレベル調整を行う減衰器13aと、その出力である電気信号をマイクロ波に変換して外部へ放射する送信アンテナ13bと、それが路面9で反射して帰って来たマイクロ波を受信して電気信号に変換する受信アンテナ13cと、それを増幅して受信信号e2を生成する受信アンプ13dとを具えている。さらに、ビート信号出力回路14として、受信信号e2と等価信号e0とを混合して積信号Eを生成する掛算器14a(ミキサ)と、積信号Eから低周波成分のビート信号E1を抽出するフィルタ14bとを具えている。これらのうち電圧制御発振器12aと電力分配器12bと掛算器14aは、既製のFM−CWモジュールで具現されている。
【0047】
また、距離測定装置20は、演算制御回路21として、ビート信号E1から移相信号E2を生成する90°移相器23と、時間刻みΔtでビート信号E1をサンプリングするA/D変換器22と、それと同時刻にビート信号E2をサンプリングするA/D変換器24と、位相算出手段25と位相変化率算出手段26と位相変化率算出手段26のプログラムがインストールされたコンピュータ29とを具えている。コンピュータ29には、計測距離Rmを表示可能な表示器からなる出力部15が接続されている。図5を参照して各部を詳述すると、制御電圧E0は、図5(a)に示すように、2Vから8Vまで直線的に漸増するのを周波数掃引時間T毎に繰り返す。この生成は演算制御回路21が行うので、その生成タイミングに合わせて演算制御回路21はビート信号E1,E2のサンプリングや計測距離Rm算出の演算を行うようになっている。
【0048】
図5(b)に示した移相器23は、抵抗値R1の3個の抵抗とコンデンサC1とオペアンプとを具備したものであり、アンプの正転入力と接地間にコンデンサC1が接続され、アンプの正転入力とビート信号E1のライン間に一個の抵抗が接続され、アンプの反転入力とビート信号E1のライン間に別の一個の抵抗が接続され、アンプの出力から反転入力への帰還ラインに残りの抵抗が接続されている。抵抗とコンデンサとの直列回路でビート信号E1の積分波形が得られ、その振幅がアンプと抵抗比等にて調整されて、ビート信号E1の位相を90°ずらした移相信号E2が生成されるようになっている。例えば、ビート信号E1の周波数fbが3kHzのとき、C1は0.01μF、R1は5.3kΩで良い。
【0049】
図5(c)にコンピュータ29のプログラム構成を示したが、この場合は、ビート信号E1,E2をサンプリング回路22+24から時間刻みΔt毎にN回取り込むサンプリングルーチン29aがインストールされ、その一連のサンプリング値E1(i)及びサンプリング値E2(i)を全部保持しておく配列が2組みメモリに割り付けられ、サンプリング値E1(i),値E2(i)からビート信号の位相φ(i)を算出する回転位相算出ルーチン29bがインストールされ、その一連の位相φ(i)を全部保持しておく配列も2つメモリに割り付けられ、位相φ(i)から回転位相の近似直線の傾きaを算出して計測距離Rmを算出し更にそれを出力部15に送出して表示させる位相変化率等算出ルーチン29cがインストールされている。このようなコンピュータ29では、各周波数掃引毎に、ルーチン29a,29b,29cが並行処理を行い、2組の配列の一方に最新のサンプリング値が貯め込まれているとき、他方の組の配列に保持されている一回前の周波数掃引時のサンプリング値を用いて位相φ(i)が算出されそれ用の配列の一方に保存される。また、一回前の周波数掃引時に算出され他方の配列に保持されている位相φ(i)を用いて傾きaの算出や計測距離Rmの算出が行われる。
【0050】
以下に、上記構成による作用を説明する。まず、コンピュータ29に接続されたD/A変換器28でアナログ信号に変換された制御電圧E0が電圧制御発振器12aに加えられると、電圧制御発振器12aでは、この制御電圧E0に応じて周波数変調されたFM−CW信号が発生する。図5(a)は、この制御電圧E0の波形を表しており、例えば、周波数掃引時間Tを5msとして、この5msの間に制御電圧E0を2Vから8Vへ直線的に変化させると、これに応じて電圧制御発振器12aによって、周波数fが9.25GHzから10.75GHzへ直線的に掃引されるFM−CW信号が生成され、これが電力分配器12bに送出される。制御電圧E0に対してFM−CW信号の周波数はこのようになる。
【0051】
このFM−CW信号は、電力分配器12bで送信信号e1と等価信号e0(基準信号)とに分けられ、送信信号e1は、減衰器13aで適切な送信レベルに調整された後、送信アンテナ13bでマイクロ波に変換されて送信アンテナ13bから路面9に向けて放射される。路面9で反射したマイクロ波は、受信アンテナ13cで受信されて電気信号に変換され、RFアンプの受信アンプ13dで増幅されて、受信信号e2となる。受信信号e2は等価信号e0と共に掛算器14aに入力されて積信号Eを生じ、この積信号Eからフィルタ14bによってビート信号E1が抽出される。例えば、上述したように、周波数掃引時間T=5ms、周波数掃引幅B=1.5GHz、中心周波数f0=10GHzとすると、伝搬距離R=25cmのとき、ビート周波数fbは上述したようにfb=3kHzとなる。この周波数を含む所定帯域のビート信号E1がフィルタ14bで抽出されるのである。
【0052】
ビート信号E1はA/D変換器22でサンプリング値E1(i)となってコンピュータ29に取り込まれるとともに、移相器23で90°だけ位相のずれた移相信号E2にされてからA/D変換器24でサンプリング値E2(i)となってコンピュータ29に取り込まれる。コンピュータ29で、周波数掃引の度にそれぞれN個ずつ得られた一連のサンプリング値E1(i),E2(i)は、サンプリングルーチン29aによってメモリ上の配列に記憶され、それと並行して、一回前の周波数掃引時にサンプリングされ記憶されていた一連のサンプリング値E1(i),値E2(i)からは上述の(27)式や(28)式の演算を行う回転位相算出ルーチン29bによってやはりN個からなる一連の位相φ(i)が算出され、それと並行して、一回前の周波数掃引時に算出され記憶されていた一連の位相φ(i)からは上述の(39)式や(40)式の演算を行う位相変化率等算出ルーチン29cによって傾きaや計測距離Rmが算出される。こうして、周波数掃引時間T毎に計測距離Rmが得られ、出力部15に表示される。
【0053】
図6(a)は、伝搬距離Rを18cmから35cmまで変えながら距離測定装置20で測定したときの計測距離Rmをグラフにしたものであり、横軸に伝搬距離Rを採り縦軸に計測距離Rmを採っている。また、図6(b)は、縦軸に計測距離Rmと伝搬距離Rとの差(Rm−R)を採って誤差をグラフ表示している。
この測定実験では、路面9としてコンクリート面を用いている。ただし、中心周波数f0が10GHz、周波数掃引幅Bが1.5GHz、周波数掃引時間Tが4ms、固定遅延時間τ0が6.33ns、電圧制御発振器12aの出力が−2dBm、減衰器13aが60dB、受信アンプ13dの利得が40dB、バンドパスフィルタ14bの中心周波数が3kHzでQが5である。距離Rは、25cmを中心として18cm〜35cmまで計測した。
その結果、ほぼ±2mm以内の精度で計測距離Rmが求まっており、路面プロファイラー30への応用としては十分に満足できる結果である。
【0054】
【実施例2】
本発明の他の実施例を説明する。図7のフローチャートは、コンピュータ29のプログラムの処理内容を示している。このプログラムによれば、サンプリング値E1(i),値E2(i)や位相φ(i)は直前すなわち時間刻みΔt前にサンプリングされたり算出されたものが保持されていれば足りる。具体的には、先ず周波数掃引の開始タイミングでサンプリング値や積算値を一時記憶するためのメモリ領域などを初期化する(ステップS1)。それから、サンプリング値E1(i),E2(i)をサンプリングして(ステップS2)、これと一時記憶していたE1(i−1),E2(i−1)とから位相進み量Δφ(i)を算出し、これを算出済みの位相φ(i−1)に加えて位相φ(i)を算出し、これを算出済みのi−1番目のΣφ(i)に加えてi番目のΣφ(i)を算出し、さらにi×φ(i)を算出済みのi−1番目のΣ(i×φ(i))に加えてi番目のΣ(i×φ(i))を算出する(ステップS3)。
【0055】
iが1から始まってNに達するまで、これらのサンプリングと演算を繰り返し(ステップS2〜S3)、N回の処理を終えたら(ステップS4)、傾きaを算出し(ステップS5)、さらに計測距離Rmを算出する。こうして得られた計測距離Rmは出力部15に送出して表示させる。
この場合、一連のサンプリング値E1(i),E2(i)や位相φ(i)を総て格納しておける大きな配列は不要であるが、各サンプリング毎に及び各周波数掃引毎に所要の演算を済ませなければならない。
実用化に当たっては、コンピュータ29の演算能力とメモリ容量とを比較考量して、上例(実施例1)か本例(実施例2)か或いは両者の折衷的な態様で具体化される。
【0056】
【実施例3】
本発明の更に他の実施例を説明する。図8(a)のブロック図は、演算制御回路21のうちの位相検出手段22〜25を示している。この位相検出手段22〜25は、上述した移相器23に代えて移相演算プログラム23’(移相手段)を導入したものである。移相演算プログラム23’はサンプリング値E1(i)からサンプリング値E2(i)同様の疑似サンプリング値E2’(i)を算出するものであるが、このプログラムがデジタル演算回路のコンピュータ29にインストールされているので、サンプリング回路は、A/D変換器24が不要となって、A/D変換器22だけとなっている。
【0057】
すなわち、この位相検出手段22〜25は、時間刻みΔtでビート信号E1をサンプリングするA/D変換器22と、そのサンプリング値E1(i)から90°位相の異なる疑似サンプリング値E2’(i)を算出する移相演算プログラム23’と、その疑似サンプリング値E2’(i)とサンプリング値E1(i)とからA/D変換器22でのサンプリング時間t(i)におけるビート信号E1の位相φ(i)の進み量Δφ(i)を算出し更にその位相進み量Δφ(i)を足し合わせて各サンプリング時t(i)におけるビート信号E1の位相φ(i)を算出する位相算出手段25(位相差算出手段25a+位相漸化手段25b)とを具えたものである。
【0058】
移相演算プログラム23’には、デジタル演算に適した高速フーリエ変換(FFT)やHilbert変換が採用される。図8(b)は、高速フーリエ変換とその逆変換を用いた例であり、図8(c)は、Hilbert変換を用いた例である。
先ず、図8(b)のフーリエ変換利用例を説明すると、一回の周波数掃引で得られた一連のサンプリング値E1(i)からフーリエ変換(FFT)を行ってスペクトルを求め、そのスペクトルから周波数が負の部分を除いて非負の部分を抽出し、それに逆高速フーリエ変換(IFFT)を施して、虚数部を抽出し、さらにそれを2倍する。これにより、サンプリング値E1(i)から位相の異なる疑似サンプリング値E2’(i)が算出される。
【0059】
このような演算で移相が行えることについて90°移相の場合を例に説明する。上述の(12)式で得られたビート信号E1をフーリエ変換すると、
【数41】
となるので、周波数が非負の部分である第1項を選んで逆フーリエ変換すれば、
【数42】
であるが、f→fbに近づけると、
sinπ(f−fb)T/π(f−fb)T→1となるので、
【数43】
となる。このうちの虚数部であるsinの項を2/T倍すれば、上述の(13)式すなわちビート信号E1と位相が90°異なる移相信号E2が得られる。
移相演算プログラム23’は、これを、デジタル演算で、具体的にはFFT及びIFFTで、実行するようにしたものである。
【0060】
なお、移相演算がHilbert変換の場合、
【数44】
と等価なデジタル演算を移相演算プログラム23’で行う。この場合、ビート信号の周波数が広い範囲で変化しても、安定して90°移相がなされる。
【0061】
【実施例4】
本発明を濃度計(比誘電率計)に適用した実施例を説明する。図9のブロック図は、上述した各実施例1〜3の距離測定装置20との相違点を明記したものである。
この濃度計40は、送信アンテナ13bと受信アンテナ13cとが測定対象物9を挟んで対向するようになっている。また、距離算出手段27に代えて濃度算出手段27’がコンピュータ29にインストールされている。他の点は、上例と同様である。
【0062】
濃度算出手段27’は、傾きaから比誘電率εrを算出するプログラムであり、具体的には、次の(45)式を演算するようになっている。
【数45】
ここで、周波数掃引時間T,周波数掃引幅B,固定遅延時間τ0,測定対象物の厚さd,光速cは、既知であり、傾きaは位相変化率算出手段26にて得られているので、比誘電率εrが求まる。比誘電率εrは例えば汚泥濃度と比例関係にあるので、本装置を用いて試料(測定対象物9’)の比誘電率εrを求めれば、定数倍するだけで直ちに濃度が分かる。
【0063】
なお、上記(45)式の導出等についても説明する。その原理は、測定対象の
物質の比誘電率εrにより光速cよりも遅くなること、及び比誘電率εrが濃度等と比例関係にあることを利用している。そして、これらの物理的関係に基づき
【数46】
が得られるので、この(46)式をεrについて解くと(45)式が得られる。
このような比誘電率計は、液体や,汚泥濃度計,材木等の水分計,米麦等の水分計などにも使用できる。
【0064】
【実施例5】
本発明を流量計に適用した実施例を説明する。図10のブロック図は、上述の濃度計40同様、各実施例1〜3の距離測定装置20との相違点を明記したものである。
図10(a)の流量計50は、マイクロ波用のアンテナ13b,13cに代えて超音波トランスジューサ13b’,13c’(超音波振動子,超音波センサ)が採用されている。また、距離算出手段27や濃度算出手段27’に代えて流量算出手段27”がコンピュータ29にインストールされている。他の点は、上例(実施例1〜4)と同様である。
【0065】
送信用の超音波トランスジューサ13b’が超音波を送信しているとき、その超音波を受信用の超音波トランスジューサ13c’が受信するようになっている。このような超音波トランスジューサ13b’,13c’が配管9”(測定対象物)の上流側と下流側に分かれて送受信可能にセットされることを前提として流量算出手段27”が機能するようになっている。また、超音波トランスジューサ13b’,13c’間の距離R1や,配管9”中の流体が静止しているときの音速c1が、固定値として、或いはメニュー画面等で設定変更可能なパラメータとして、コンピュータ29に保持されるようになっている。
【0066】
流量算出手段27”は、位相変化率算出手段26にて得られたビート信号E1の位相φ(i)の傾きaから配管9”内の流体の流量Qを算出するプログラムであり、具体的には、以下の演算を行うようになっている。
先ず、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13b’から出て配管9”内を伝搬して超音波トランスジューサ13c’で受信されたときの位相φ(i)の傾きaを求め、この傾きaから次式で流速Vを算出する。
【数47】
次に、この流速Vを平均流速とみなして、管内面積Aを掛け、
【数48】
によって流量Qを算出するのである。
【0067】
ここでも上式の導出について説明する。この場合、上述の(21)式に対して
2R=R1、c=c1とおけば、
【数49】
であるから、この式をVについて解けば、上記の(47)式が得られる。
なお、実際の流量計では、実験等にて得た流量補正係数を掛けるといったことも行われて、最終的な流量Qが算出される。
【0068】
図10(b)の流量計50は、超音波トランスジューサ13b’,13c’の何れか一方を減衰器13aの出力先に選択する切換スイッチSW1と、超音波トランスジューサ13b’,13c’の何れか他方を受信アンプ13dの入力先に選択する切換スイッチSW2とを具えたものである。超音波トランスジューサ13b’,13c’は、送信も受信も可能なものであって、スイッチSW1,SW2の切換によって交互に送信駆動されるようになっている。その切換は周波数掃引の繰り返しに同期して行われる。そして、超音波トランスジューサ13b’が超音波を出しているときにはそれを超音波トランスジューサ13c’が受信し、超音波トランスジューサ13c’が超音波を出しているときにはそれを超音波トランスジューサ13b’が受信するようになっている。
【0069】
そのような送受信方向切換を伴った測定に対応して、流量算出手段27”は次のように改造されている。すなわち、流量算出手段27”は、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13b’から出て、向かって来る流体を向かい風状態で伝搬し、それから超音波トランスジューサ13c’で受信されたとき、位相変化率算出手段26から受け取った傾きaをa1として一時記憶しておき、さらにSW1,SW2が切り替わって、周波数掃引された超音波が超音波トランスジューサ13c’から出て、逃げて行く流体を追い風状態で伝搬し、それから超音波トランスジューサ13b’で受信されたとき、位相変化率算出手段26から受け取った傾きaをa2として、次の式で流速Vを算出するようになっている。
【数50】
流速Vが得られれば、上述したようにして流量Qが求まる。しかも、この式には音速c1が含まれていないので、その設定が必要なくて、装置が使い易い。
【0070】
ここでも上式の導出について説明すると、上述した(48)式より、向かい風状態で超音波が伝搬したときの流速Vは、
【数51】
となり、追い風状態で超音波が伝搬したときの流速Vは、
【数52】
となる。これらを足して2で割って平均化すると、上式(50)が得られる。
【0071】
図10(c)の流量計は、真っ直ぐな配管9”での流量Qを測定するために、超音波トランスジューサ13b’,13c’を、配管9”を挟んで対向するところに、設置するタイプのものである。この場合、超音波トランスジューサ13b’,13c’は、配管9”の長手方向から角度θだけ傾けた仮想直線上に配置される。この角度θは、固定値として、或いは設定変更可能なパラメータとして、コンピュータ29に保持され、流量算出手段27”の演算に供される。流量算出手段27”は、上述した流速V算出式をcosθで除して、適切な流量Qを得る。
【0072】
図10(d)の流量計は、超音波トランスジューサ13b’,13c’の設置位置がずれていることに対応して、超音波トランスジューサ13b’,13c’が互いに正対するよう、超音波トランスジューサ13b’,13c’を配管9”に対して傾けて取り付けたものである。
この場合、超音波トランスジューサ13b’,13c’が正対しているので、超音波のロスが少なくて済む。
【0073】
図10(e)の流量計は、超音波トランスジューサ13b’同様の超音波トランスジューサ13b”と、超音波トランスジューサ13c’同様の超音波トランスジューサ13c”も、用いるものである。この例では、超音波トランスジューサ13b’,13c’が上流側の対向位置に配置され、超音波トランスジューサ13b”,13c”が下流側の対向位置に配置される。切換スイッチSW1は、超音波トランスジューサ13b’,13b”の何れか一方を減衰器13aの出力先に選択し、切換スイッチSW2は、超音波トランスジューサ13c’,13c”の何れか一方を受信アンプ13dの入力先に選択するようになっている。
この場合、超音波トランスジューサ13b’から出た超音波が超音波トランスジューサ13c”で受信されたときの傾きaをa1とし、超音波トランスジューサ13b”から出た超音波が超音波トランスジューサ13c’で受信されたときの傾きaをa2として、上述したような演算が行われ、流量Qが求まる。
【0074】
図10(f)の流量計50は、超音波トランスジューサ対の二重化に加えて、基本部分(すなわち回路12〜14及び回路やプログラム22〜26)も二重化したものである。それぞれの超音波の周波数掃引範囲は、干渉や混信を避けるため、異なる周波数帯域にされる。
この場合、一方の基本部分で算出された傾きaをa1とし、他方の基本部分で算出された傾きaをa2として、流量算出手段27”による上述の演算で、流量Qが算出される。切換が不要なのでスイッチSW1,SW2は省かれており、周波数掃引の度に流量Qが得られる。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、測定用の波の周波数を掃引して送受信信号のビート信号を得、そのビート周波数と伝搬距離との関係式に基づいて絶対距離を算出するに際して、ビート周波数の直接算出に代えて位相変化率を算出するようにしたことにより、直接算出したビート周波数に付きものの分解能に関する制約事項から開放されるので、絶対距離を精度良く測定することができる。
また、位相変化率を誤差最小の近似直線の傾きにて求めることで、更に精度を良くすることができる。
さらに、移相器でビート信号の移相を行うことで、サンプリングを伴うデジタル演算が行い易くなる。
また、移相演算を行ってサンプリング値から位相の異なる疑似サンプリング値を算出するようにしたことにより、移相器の機能をデジタル演算で代行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を説明する図であり、(a)は距離測定装置の概要ブロック図、(b)は演算制御回路のブロック図である。
【図2】(a)は周波数掃引の典型例であり、(b)はその変形例である。(c)は演算内容を示している。
【図3】ビート信号の位相φ(i)に係る近似直線の傾きa1〜a3と伝搬距離R1〜R3との関係を例示したグラフである。
【図4】本発明の実施例1について、(a)は、距離測定装置20を搭載した路面プロファイラー30の模式図、(b)は距離測定装置20のブロック図である。
【図5】(a)は制御電圧E0の波形例、(b)は移相器23の回路図、(c)はコンピュータ29の機能ブロック図である。
【図6】計測結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2について、コンピュータ29による演算の内容を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例3について、(a)が位相検出手段のブロック図、(b)及び(c)が何れも移相演算のブロック図である。
【図9】本発明の実施例4について濃度計のブロック図である。
【図10】本発明の実施例5について、(a)〜(f)何れも流量計の要部ブロック図である。
【図11】従来の距離測定装置について、(a)は概要ブロック図、(b)及び(c)は演算制御回路のブロック図である。
【符号の説明】
9…測定対象物、
10…距離測定装置、
11…演算制御回路、 12…周波数掃引回路、
12a…電圧制御発振器、 12b…電力分配器、
13…送受信部、
13a…減衰器、 13b…送信アンテナ、
13c…受信アンテナ、 13d…受信アンプ、
14…ビート信号出力回路、
14a…掛算器、14b…フィルタ、15…出力部、
20…距離測定装置、
21…演算制御回路、 22〜25…位相検出手段、
22+24…サンプリング回路、
22…A/D変換器(サンプリング回路、位相検出手段)、
23…移相器(位相検出手段)、
24…A/D変換器(サンプリング回路、位相検出手段)、
25…位相算出手段(位相検出手段)、
25a…位相差算出手段、 25b…位相漸化手段、
26…位相変化率算出手段、 27…距離算出手段、
28…D/A変換器、 29…コンピュータ、
30…路面プロファイラー、 31…測定部、
E0…制御電圧、T…周波数掃引時間、B…周波数掃引幅、
B/T…掃引周波数変化率、f…周波数、f0…中心周波数、
e0…等価信号、 e1…送信信号、 e2…受信信号、
λ…波長、 R…伝搬距離、 Rm…計測距離、
E1…ビート信号、 E1(i)…サンプリング値、
E2…移相信号、 E2(i)…サンプリング値、
φ(i)…位相、 Δφ(i)…位相進み量、 a…傾き、
fb…ビート周波数、 2πfb…位相変化率
Claims (5)
- 送信信号の周波数を変化させる周波数掃引回路と、前記送信信号を電波や音波などの出射可能な波に変換して外部へ送出するとともにその反射波または透過波を受信する送受信部と、その受信信号と前記送信信号または等価な信号とからビート信号を抽出するビート信号出力回路と、そのビート信号の位相を随時求める位相検出手段とその位相の変化率を周波数掃引毎に一つに纏める位相変化率算出手段とその位相変化率および前記送信信号の周波数変化率から前記波の伝搬距離などのビート周波数対応物理量を求める距離等算出手段とを具備した演算制御回路とを備えている距離等測定装置。
- 前記位相変化率算出手段が、前記ビート信号の位相の時間変化を誤差最小で近似する直線の傾きを算出することで前記位相変化率を得るものであることを特徴とする請求項1記載の距離等測定装置。
- 前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器を具備していて、その出力信号と前記ビート信号とから前記ビート信号の位相を得るものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された距離等測定装置。
- 前記位相検出手段が、前記ビート信号を入力する移相器と、その出力信号と前記ビート信号とをサンプリングするサンプリング回路と、そのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された距離等測定装置。
- 前記位相検出手段が、前記ビート信号をサンプリングするサンプリング回路と、位相をずらす移相演算を行って前記サンプリング回路によるサンプリング値から位相の異なる疑似サンプリング値を算出する移相手段と、その疑似サンプリング値と前記サンプリング値とから前記サンプリング回路でのサンプリング時間における前記ビート信号の位相の進み量を算出する位相差算出手段と、その位相進み量を足し合わせて各サンプリング時における前記ビート信号の位相を算出する位相漸化手段とを具えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された距離等測定装置。
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- 2003-06-18 JP JP2003200780A patent/JP2005010130A/ja active Pending
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