JP2005003503A - 誘導コイルを用いた磁気遮蔽方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】環境磁気ノイズを誘導コイルで検出し、補償コイルで補償磁場を計測空間に加える方法で、能動的に磁気ノイズを低減する安価で施工性に優れた技術を提供する。
【解決手段】誘導コイル4、補償コイル5、磁界制御用コントローラからなる磁気遮蔽システムは約1mの立方体で、誘導コイル4と補償コイル5が補償磁場を介してフィードバックループを形成しており、床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するシステムである。誘導コイル4で検出した環境磁場の電圧出力は磁界制御用コントローラ内で増幅され、磁場変換された出力が補償コイル5を介して誘導コイル4にフィードバックされることで、計測空間に逆位相の磁場が加わり検出磁場が打ち消される仕組みである。本磁気遮蔽システムを用いて商用電源ノイズ(50Hz)とその高調波成分(150Hz,250Hz)を15dB〜30dB低減した。
【選択図】図2
【解決手段】誘導コイル4、補償コイル5、磁界制御用コントローラからなる磁気遮蔽システムは約1mの立方体で、誘導コイル4と補償コイル5が補償磁場を介してフィードバックループを形成しており、床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するシステムである。誘導コイル4で検出した環境磁場の電圧出力は磁界制御用コントローラ内で増幅され、磁場変換された出力が補償コイル5を介して誘導コイル4にフィードバックされることで、計測空間に逆位相の磁場が加わり検出磁場が打ち消される仕組みである。本磁気遮蔽システムを用いて商用電源ノイズ(50Hz)とその高調波成分(150Hz,250Hz)を15dB〜30dB低減した。
【選択図】図2
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は誘導コイルを用いた磁気検出センサにより環境磁気ノイズを検出し補償コイルより補償磁場を計測空間に印加する方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
非侵襲で脳磁界や心臓磁界等を計測する生体磁気計測、磁気性材を用いた抗原抗体反応の観察等における微小磁場計測では計測空間周辺の環境磁気ノイズが低減されている必要がある。特に計測機器などから発生する商用電源磁気ノイズなどは計測空間で大きなノイズとして存在する。また電車、車、エレベータなどの金属体の移動は磁気ノイズ源となり、極低周波帯に大きな影響を及ぼす。そのため環境磁気ノイズの低減を目的とした低磁場空間の生成技術に関する様々な研究が行われている。
【0003】
従来の環境磁気ノイズの低減にはパーマロイ等の高透磁率材で囲まれた磁気遮蔽室(MSR:Magnetically Shielded Room)を用いるが、MSRの遮蔽率は高透磁率材の厚さ、層数で決まる。そのため高い遮蔽率を実現する場合は建設コスト及び設置場所の制限(1階もしくは地下)という問題が生じ、MSRの汎用性は低下し、微小磁場計測の応用や普及の妨げの一因となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明ではこれらの制限を取り除くために、誘導コイルを用いた磁気検出センサにより環境磁気ノイズを検出し補償コイルより補償磁場を計測空間に加える方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する技術を提供する。特に高透磁率材一層で構成されるMSRが実現する20dB程度の遮蔽率を磁気検出センサと補償コイルによって実現した場合、建設コストは1/10〜1/100に抑えられ、遮蔽空間の設置場所の自由度が飛躍的に向上する。また単層もしくは二層程度で構成されるMSRに本技術を併用することで多層構造MSRのもつ高い遮蔽率を実現することが可能となる。さらに磁気検出センサに誘導コイルを採用することで磁気遮蔽システムのさらなる低コスト化を図る。
【0005】
低磁場空間の生成において競合状態にあると考えられる技術は単層の高透磁率材で構成される簡易型MSRである。簡易型MSRは大きさが2m程度の立方体で重量がおおよそ500kgである。簡易型MSRが実現する環境磁気ノイズの低減率は1Hz〜100Hzの帯域において20dB程度、低磁場空間の広さは0.2m3程度である。また販売価格は5百万円〜1千万円程度である。一方、本技術は磁気検出センサと補償コイルのみの組み合わせで環境磁気ノイズを低減するため、簡易型MSRと比べ販売価格が1/5〜1/10で実現できる。また競合技術の重量に対して本技術が想定するシステムの総重量は10kg程度であるため施工性においても大いに優れる。そこで本発明における磁気遮蔽システムは施工性を考慮して約1mの立方体で、0.1m3程度の低磁場空間を生成する技術とする。
【0006】
【課題が解決するための手段】
本発明は環境磁気ノイズを誘導コイルで検出し、補償コイルから補償磁場を計測空間に印加する方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する、安価で施工性に優れた技術である(請求項1)。
【0007】
能動的に磁気ノイズを低減する場合、磁気検出センサは低減しようとしている空間の環境磁気ノイズを正確に検出する必要があり、また補償コイルは均一磁界を生成しなくてはならない。そのため磁気検出センサの設置場所は微小磁場を計測する空間の近傍もしくは計測空間内の磁界の時空間特性と高い相関を示す場所に設置する必要がある。特に微小磁場計測空間では磁気検出センサ自体から発生する磁気ノイズが低減率の低下を招く原因となる場合もあるので、磁気検出センサは低雑音でなければならない。また環境磁気ノイズは周波数が低くなるにつれ大きくなる特性があるため増幅回路の1/fノイズが問題となる。補償コイルにおいては生成する補償磁場が低減しようとする空間内(本技術は0.1m3)で位相周波数特性が一定でなければならない。
【0008】
磁気検出センサは磁束を媒体として磁気環境の変化をとらえ、その変位量を電気信号に変換する方法で利用される。磁束を媒体とするため非接触で検出ができ、かつ信頼性の高いことが磁気検出センサの最大の特徴である。実用的な磁気検出センサにはホール素子を利用したもの、MR(Magneto−Resistivity)素子やMI(Magneto−Inpedance)素子を利用したもの、フラックスゲート磁束計、超伝導素子を利用したもの(SQUID:Superconducting Quantum Interference Devices)など様々な種類がある。検出対象となる磁気の強さは極めて幅広いため単独ですべてをカバーできる磁気検出センサは存在しない。そのため検出対象によって磁気検出センサを変える必要がある。以下にセンサの特徴を示す。
【表1】
【0009】
能動的に環境磁気ノイズを低減するためには、使用する磁気検出センサのノイズレベルと周波数位相特性が問題となる。誘導コイルを用いた磁気検出センサは高温超伝導体SQUID(HTS:High−Tc SQUID)やフラックゲート磁束計に比べ安価で取り扱いが容易であり、センサ固有の雑音はコイルの抵抗値で決まり、十分に小さい値となる。誘導コイルの電圧出力は磁界の時間変化(周波数)に比例するため周波数が高いほど高出力となり、またコイルの巻き数を増やすと出力が安定する。数Hz〜100Hz程度の低周波数における磁界検出には不向きであるが、高感度磁気検出センサに比べ非常に安価であり、検出感度も数百pT程度と磁気検出センサとしての有用性は高いと考えられる。したがって、フラックスゲート磁束計、HTSなどの高感度磁気検出センサの使用がコスト的に導入不可能なときに誘導コイルは極めて利便性のよい磁気検出センサであり、本発明では磁気検出センサとして誘導コイルを用いる。
【0010】
次に補償コイルの形状による磁場の空間特性であるが、ヘルムホルツコイルによって生成される均一磁界はコイルの大きさによって決定される。先に述べたように、本発明では施工性を考慮して1m立方程度で補償コイルを構成するが、約1mの立方体で0.1m3程度の均一磁界が得られるようなコイル形状について事前調査を行い、実際に使用する補償コイルの形状を決定した。
【0011】
これまでに提案されている補償コイルの形状調査では、ヘルムホルツコイルは内部磁場の一様性において非常に優れているがMSRなどに適用する場合、円形状では4隅に利用できない空間が生じるということが分かっている。また3−5重コイルは角型ヘルムホルツコイルよりも大きな一様磁場空間を作成することができる一方で磁場計算が非常に複雑になる。これらの理由から、本発明の補償コイルにはコイルの設計が比較的容易で中心付近と周辺部の磁場強度についての磁場計算が簡単な角型ヘルムホルツコイルを採用した。
【0012】
補償コイルを試作するための条件であるが、補償コイルは電流を流すために銅線で作られており、それ自体は形状を維持するだけの剛性を持ち合わせていないため、架台(フレーム)に固定する必要がある。よってフレームには補償コイルから発生する補償磁場の分布に影響を与えず、補償コイルの形状を維持するだけの剛性を持ち合わせた、非磁性かつ非金属材を用いる。
【0013】
さらにコイルの作成精度が生成される磁場の均一度にどの程度影響を及ぼすかを調査する必要がある。磁場測定機器の校正に用いる市販のヘルムホルツコイルの場合、その大きさは直径0.5m程度であり、木製またはプラスチック製の型枠に設けられた溝の部分に銅線を巻き付ける構造であるため、精度が大きく狂うことはない。一方、本発明の補償コイルは、使用用途にも依るが1m立方程度で当然ながら試作時に十分な配慮をしなければフレームの構築等で10mm程度の誤差が生じてしまう。
【0014】
4重の補償コイル内で生成される磁場のシミュレーションでは、わずか1辺の0.1%(仮に1辺が1mなら1mm)動いただけで1ppmの精度は実現不可能になることが分かった。また許容変動範囲を1ppm〜10ppmに設定すると、コイルに流す電流比がわずかに増加した場合やコイルを巻くことによる厚みの増加も均一磁界に大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0015】
しかしながら磁場の一様度はシステムをどのような用途に使うかで決まるものであり、1/100程度の一様度で済むのであれば、補償コイル内の5割程度の空間が実用に供することになる。この点を考慮して、求められる性能に見合う作成精度を決めるようにする。本発明で用いるコイルの作成精度については、塩化ビニル製のフレーム外周に銅線(ホルマル線)を巻き付けて固定するため大きく狂うことはないと仮定した。
【0016】
銅線の直径と巻き数については、これまでに試作されている補償コイルの例を参考にし、直径0.6mmのホルマル線を30回巻いてフレームの外周に固定し補償コイルとした。ホルマル線の直径と巻数の妥当性については試験研究により検討する。
【0017】
試験研究では誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムを試作し、磁場の絶対値をフラックスゲート磁束計により評価した。システムは床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するものとした。1mの塩化ビニルパイプ12本とプラスチック製の3軸ジョイント8個を用いて1mの立方体フレームを組み立て、この立方体の6面の外周にそれぞれ角型ヘルムホルツコイル(直径0.6mm,30回巻)を取り付けた。このとき向かい合う面のコイルを一対とし、対のホルマル線には同じ方向に電流が流れるようにした。誘導コイルはフレーム外周(1m×1m)に角型ソレノイドコイル(直径0.6mm,100回巻)を固定するが、床面に対して平行に取り付け、コイルを設置する高さはフレームの設置面から約0.5mとした。
【0018】
補償コイル内部のほぼ中心の位置[X,Y,Z空間において(X,Y,Z)=(0,0,0)とする]にフラックスゲート磁束計を固定し、10Hz〜200Hzの周波数において、発振器からの入力波形とフラックスゲート磁束計からの出力波形の位相差と、フラックスゲート磁束計からの出力振幅をそれぞれ計測し、空間内の磁場を計算した。補償コイル内のX,Y,Z空間において(X,Y,Z)=(x,0,0),(x=0〜0.35)(m)の範囲での磁束密度をフラックスゲート磁束計により測定し、磁場の一様性の変化を計算した。
【0019】
補償コイル内部の周波数−位相特性結果では、位相遅れが小さくなる周波数帯域があるが、計測した各点においても同様の傾向が見られるため、中心より半径0.3mの距離では位相のそろった一様な補償磁場が生成されると考えられる。したがって本システムは補償コイルが3軸で構成されるため0.1m3の均一な磁場空間を補償することが可能であるとした。
【0020】
また補償コイルが作り出す静磁場は、透磁率が一様な環境ではビオサバールの法則を適用して、コンピュータシミュレーションを行うことが可能である。事前のシミュレーションにより、空間内の各点での磁場密度がわかれば、生成される磁場の一様性についてある程度の予測ができる。以下にビオサバールの法則を示す。
【数1】
μ0:真空中の透磁率
r:センサの位置ベクトル
r´:電流源の位置ベクトル
B(r):位置rにおける磁束密度(ベクトル)
J(r´):位置r´における電流密度(スカラ)
【0021】
ビオサバールの法則は、磁場密度の大きさが知りたい場所を決定すると、そこから電流源までの距離および電流源の大きさが既知であれば、電流源の存在する空間に渡って積分を行うことで、磁束密度の大きさがベクトル表示で求まることを示している。周囲に透磁率の大きく異なる物体が存在する場合や、補償コイルの空間内に故意に透磁率の大きな物体を配置する場合には、ビオサバールの法則はそのままでは適用できないため、有限要素法を用いた数値解析を行う。
【0022】
さらに補償コイルの設置場所についてであるが、フレームに十分な剛性が得られない場合、床面は硬いものが好ましい。フレーム自体が揺れてしまうと理想的な反対位相の補償磁場は作ることができない。設計の時点で、設置予定場所の状況を十分に把握しておくことが必要である。
【0023】
磁界制御用コントローラは、低雑音増幅回路、積分器、フィルタ回路、電流増幅回路から構成されている(請求項2)。
【0024】
誘導コイルからの電圧出力は低雑音アンプで増幅した後、積分器を通すことで磁場出力として扱われ、磁場変換した後の出力は補償コイルを介して誘導コイルにフィードバックされ、その結果フィードバック量を計測することにより、誘導コイルで検出される磁場を求めることができる。さらに誘導コイルの出力をフィードバックすることで、誘導コイルによって検出される空間の磁場に対して逆向きの磁場が補償コイルより印加され、検出された環境磁場が打ち消される仕組みになっている。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムの概念図を示す。本システムは床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するものである。図1に示すように、誘導コイル4(角型ソレノイドコイル)、補償コイル5(角型ヘルムホルツコイル)、磁界制御用コントローラ6から構成され、誘導コイル4と補償コイル5は補償磁場を介してフィードバックループを形成している。
【0027】
図2に立方体非磁性材フレームの全体図を示す。立方体非磁性材フレーム3は1mの塩化ビニルパイプ12本とプラスチック製の3軸ジョイント8個から構成され、立方体の一辺は約1mである。
【0028】
誘導コイル4と補償コイル5には共に直径0.6mmのホルマル線を使用しており、誘導コイル4は100回巻の角型ソレノイドコイル、補償コイル5は30回巻の角型ヘルムホルツコイルである。
【0029】
誘導コイル4と補償コイル5は、図2に示されるような一辺が約1mの立方体非磁性材フレーム3(塩化ビニルパイプ)に固定されている。この立方体非磁性材フレーム3の6面の外周にそれぞれ3対の角型ヘルムホルツコイル(5X1−5X2,5Y1−5Y2,5Z1−5Z2)が補償コイル5として取り付けられ、3対の角型ヘルムホルツコイルには同じ大きさの電流が同じ方向に流れるようになっている。また誘導コイル4として角型ソレノイドコイルが立方体非磁性材フレーム3の設置面から約0.5mの位置(補償コイル5Z1と5Z2のほぼ中央)に固定されている。
【0030】
立方体非磁性材フレーム3内の磁場の一様性については、先に行った試験研究により、中心から半径0.3m以内の範囲では位相のそろった一様な補償磁場が生成されることが分かっている。補償コイル5は3軸(5X1−5X2,5Y1−5Y2,5Z1−5Z2)で構成されるため、誘導コイル4を用いた磁気遮蔽システムは約0.1m3の均一な補償磁場空間を実現する。
【0031】
実際に除去しようとする雑音磁界は通常最大振幅で観測される商用電源由来の雑音やエレベータの移動に伴う遷移的な雑音のように変動磁場である。よって補償磁場の発生システムも除去しようとする雑音に含まれる周波数成分を上回る特性を有する必要がある。この評価を行うには、補償回路のセンサに人工的に雑音磁界を加え、入力した信号とそれによって発生した補償磁場との間の振幅特性と位相特性を測るとよい。この場合、単一の周波数の入力を加え、補償空間内の磁場をそれぞれ3軸の方向に空間的に観測する。
【0032】
本磁気遮蔽システムの補償コイル5は立方体非磁性材フレーム3に取り付けるタイプであるため、透磁率の変化のようなものは考慮する必要がない。ただし、システムを大きな磁性体のそばに設置する場合は、補償磁場中のゆがみが生じる可能性もあるため、設置場所ごとに性能試験を行うべきである。
【0033】
図3に磁界制御用コントローラのブロック図を示す。磁界制御用コントローラ6は図3に示すように低雑音増幅回路7、積分器、フィルタ回路8、電流増幅回路9から構成されている。低雑音増幅回路7はホワイトノイズレベルが0.8nV/Hz1/2のものを作製した。
【0034】
次に本磁気遮蔽方法の原理について述べる。誘導コイル4が環境磁場を検出し、図3に示されるように、誘導コイル4からの電圧出力を低雑音アンプで増幅した後、積分器を通す。誘導コイル4の電圧出力は磁場の微分信号であるため積分器を通すことで磁場出力として扱うことができる。磁場変換した後の出力は補償コイル5を介して誘導コイル4にフィードバックされる。その結果、フィードバック量を計測することにより、誘導コイル4で検出される環境磁場を求めることができる。またさらに、誘導コイル4の出力をフィードバックすることで、誘導コイル4で検出される環境磁場は補償コイル5によって逆向きの磁場が加わるため、検出する環境磁場が打ち消されるという仕組みになっている。
【0035】
実際に本磁気遮蔽システムの遮蔽率を測定するため、誘導コイル4の中央部にフラックスゲート磁束計を配置し、その出力変化によって遮蔽効果を確認した。フラックスゲート磁束計の出力から地磁気に伴う直流成分と励振磁界による影響を取り除くため、バンドパスフィルタ(0.1Hz,1kHz)を用いて時間波形の観測を行った。同時にスペクトルアナライザを用いたスペクトル観測を行った。
【0036】
磁気遮蔽を行わない場合のフラックスゲート磁束計の出力は図4に示すように商用電源ノイズ(50Hz)が主な成分で約70nTppの振幅を示した。この状態に補償磁場を作用させることで補償前に比べて約30dB低減した(図5)。また同時に商用電源周波数の高調波成分(150Hz,250Hz)についても15dB〜20dBの低減効果を得ることができた。
【0037】
しかしながら建物の振動に伴う10Hz〜40Hzの磁気ノイズは5dB〜20dB程度の低減率にとどまった。誘導コイル4とフラックスゲート磁束計は独立した支持体を用いて計測されているため、互いの振動数に違いが生じる。そのため振動由来のノイズを確実に低減するには、剛性の高い同一のフレームに計測センサ(本発明ではフラックスゲート磁束計)を固定する必要がある。
【0038】
一方、10Hz以下のノイズの低減効果では5dB程度であった。これは、磁界制御用コントローラ6中の低雑音増幅回路7のもつ低周波ノイズの影響によるもので、フィードバック方式を採用する本システムでは誘導コイル4の巻数を増やしその出力を増加させることで改善することが可能である。
【0039】
【発明の効果】
誘導コイル4と補償コイル5からなる磁気遮蔽技術により商用電源磁気ノイズとその高調波成分を15dB〜30dB低減することができる。本発明はコイルと非磁性材フレームからなる、汎用性とコストパフォーマンスに優れた磁気遮蔽システムであり、高重量、高コストのために制限の多い従来技術に比べ様々な応用が考えられる。また施工性にも優れ、建設コストを大幅に削減することも可能である。本システムは強力な磁気遮蔽を要求されない半導体製造施設などにおいて単体で効果を発揮すると考えられ、低コストな磁気遮蔽を実現する。さらに低周波数から高周波数までの広帯域の遮蔽が必要な生体磁気計測施設などでは、従来のMSRと併用することでより効果的な環境磁気ノイズの低減を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムの概念図である。
【図2】立方体非磁性材フレームの全体図である。
【図3】磁界制御用コントローラのブロック図である。
【図4】磁気遮蔽空間中心部における遮蔽前の磁場の時間波形である。
【図5】磁気遮蔽空間中心部における遮蔽後の磁場の時間波形である。
【符号の説明】
3 立方体非磁性材フレーム
4 誘導コイル
5 補償コイル
6 磁界制御用コントローラ
7 低雑音増幅回路
8 フィルタ回路
9 電流増幅回路
【発明が属する技術分野】
本発明は誘導コイルを用いた磁気検出センサにより環境磁気ノイズを検出し補償コイルより補償磁場を計測空間に印加する方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
非侵襲で脳磁界や心臓磁界等を計測する生体磁気計測、磁気性材を用いた抗原抗体反応の観察等における微小磁場計測では計測空間周辺の環境磁気ノイズが低減されている必要がある。特に計測機器などから発生する商用電源磁気ノイズなどは計測空間で大きなノイズとして存在する。また電車、車、エレベータなどの金属体の移動は磁気ノイズ源となり、極低周波帯に大きな影響を及ぼす。そのため環境磁気ノイズの低減を目的とした低磁場空間の生成技術に関する様々な研究が行われている。
【0003】
従来の環境磁気ノイズの低減にはパーマロイ等の高透磁率材で囲まれた磁気遮蔽室(MSR:Magnetically Shielded Room)を用いるが、MSRの遮蔽率は高透磁率材の厚さ、層数で決まる。そのため高い遮蔽率を実現する場合は建設コスト及び設置場所の制限(1階もしくは地下)という問題が生じ、MSRの汎用性は低下し、微小磁場計測の応用や普及の妨げの一因となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明ではこれらの制限を取り除くために、誘導コイルを用いた磁気検出センサにより環境磁気ノイズを検出し補償コイルより補償磁場を計測空間に加える方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する技術を提供する。特に高透磁率材一層で構成されるMSRが実現する20dB程度の遮蔽率を磁気検出センサと補償コイルによって実現した場合、建設コストは1/10〜1/100に抑えられ、遮蔽空間の設置場所の自由度が飛躍的に向上する。また単層もしくは二層程度で構成されるMSRに本技術を併用することで多層構造MSRのもつ高い遮蔽率を実現することが可能となる。さらに磁気検出センサに誘導コイルを採用することで磁気遮蔽システムのさらなる低コスト化を図る。
【0005】
低磁場空間の生成において競合状態にあると考えられる技術は単層の高透磁率材で構成される簡易型MSRである。簡易型MSRは大きさが2m程度の立方体で重量がおおよそ500kgである。簡易型MSRが実現する環境磁気ノイズの低減率は1Hz〜100Hzの帯域において20dB程度、低磁場空間の広さは0.2m3程度である。また販売価格は5百万円〜1千万円程度である。一方、本技術は磁気検出センサと補償コイルのみの組み合わせで環境磁気ノイズを低減するため、簡易型MSRと比べ販売価格が1/5〜1/10で実現できる。また競合技術の重量に対して本技術が想定するシステムの総重量は10kg程度であるため施工性においても大いに優れる。そこで本発明における磁気遮蔽システムは施工性を考慮して約1mの立方体で、0.1m3程度の低磁場空間を生成する技術とする。
【0006】
【課題が解決するための手段】
本発明は環境磁気ノイズを誘導コイルで検出し、補償コイルから補償磁場を計測空間に印加する方法で能動的に環境磁気ノイズを低減する、安価で施工性に優れた技術である(請求項1)。
【0007】
能動的に磁気ノイズを低減する場合、磁気検出センサは低減しようとしている空間の環境磁気ノイズを正確に検出する必要があり、また補償コイルは均一磁界を生成しなくてはならない。そのため磁気検出センサの設置場所は微小磁場を計測する空間の近傍もしくは計測空間内の磁界の時空間特性と高い相関を示す場所に設置する必要がある。特に微小磁場計測空間では磁気検出センサ自体から発生する磁気ノイズが低減率の低下を招く原因となる場合もあるので、磁気検出センサは低雑音でなければならない。また環境磁気ノイズは周波数が低くなるにつれ大きくなる特性があるため増幅回路の1/fノイズが問題となる。補償コイルにおいては生成する補償磁場が低減しようとする空間内(本技術は0.1m3)で位相周波数特性が一定でなければならない。
【0008】
磁気検出センサは磁束を媒体として磁気環境の変化をとらえ、その変位量を電気信号に変換する方法で利用される。磁束を媒体とするため非接触で検出ができ、かつ信頼性の高いことが磁気検出センサの最大の特徴である。実用的な磁気検出センサにはホール素子を利用したもの、MR(Magneto−Resistivity)素子やMI(Magneto−Inpedance)素子を利用したもの、フラックスゲート磁束計、超伝導素子を利用したもの(SQUID:Superconducting Quantum Interference Devices)など様々な種類がある。検出対象となる磁気の強さは極めて幅広いため単独ですべてをカバーできる磁気検出センサは存在しない。そのため検出対象によって磁気検出センサを変える必要がある。以下にセンサの特徴を示す。
【表1】
【0009】
能動的に環境磁気ノイズを低減するためには、使用する磁気検出センサのノイズレベルと周波数位相特性が問題となる。誘導コイルを用いた磁気検出センサは高温超伝導体SQUID(HTS:High−Tc SQUID)やフラックゲート磁束計に比べ安価で取り扱いが容易であり、センサ固有の雑音はコイルの抵抗値で決まり、十分に小さい値となる。誘導コイルの電圧出力は磁界の時間変化(周波数)に比例するため周波数が高いほど高出力となり、またコイルの巻き数を増やすと出力が安定する。数Hz〜100Hz程度の低周波数における磁界検出には不向きであるが、高感度磁気検出センサに比べ非常に安価であり、検出感度も数百pT程度と磁気検出センサとしての有用性は高いと考えられる。したがって、フラックスゲート磁束計、HTSなどの高感度磁気検出センサの使用がコスト的に導入不可能なときに誘導コイルは極めて利便性のよい磁気検出センサであり、本発明では磁気検出センサとして誘導コイルを用いる。
【0010】
次に補償コイルの形状による磁場の空間特性であるが、ヘルムホルツコイルによって生成される均一磁界はコイルの大きさによって決定される。先に述べたように、本発明では施工性を考慮して1m立方程度で補償コイルを構成するが、約1mの立方体で0.1m3程度の均一磁界が得られるようなコイル形状について事前調査を行い、実際に使用する補償コイルの形状を決定した。
【0011】
これまでに提案されている補償コイルの形状調査では、ヘルムホルツコイルは内部磁場の一様性において非常に優れているがMSRなどに適用する場合、円形状では4隅に利用できない空間が生じるということが分かっている。また3−5重コイルは角型ヘルムホルツコイルよりも大きな一様磁場空間を作成することができる一方で磁場計算が非常に複雑になる。これらの理由から、本発明の補償コイルにはコイルの設計が比較的容易で中心付近と周辺部の磁場強度についての磁場計算が簡単な角型ヘルムホルツコイルを採用した。
【0012】
補償コイルを試作するための条件であるが、補償コイルは電流を流すために銅線で作られており、それ自体は形状を維持するだけの剛性を持ち合わせていないため、架台(フレーム)に固定する必要がある。よってフレームには補償コイルから発生する補償磁場の分布に影響を与えず、補償コイルの形状を維持するだけの剛性を持ち合わせた、非磁性かつ非金属材を用いる。
【0013】
さらにコイルの作成精度が生成される磁場の均一度にどの程度影響を及ぼすかを調査する必要がある。磁場測定機器の校正に用いる市販のヘルムホルツコイルの場合、その大きさは直径0.5m程度であり、木製またはプラスチック製の型枠に設けられた溝の部分に銅線を巻き付ける構造であるため、精度が大きく狂うことはない。一方、本発明の補償コイルは、使用用途にも依るが1m立方程度で当然ながら試作時に十分な配慮をしなければフレームの構築等で10mm程度の誤差が生じてしまう。
【0014】
4重の補償コイル内で生成される磁場のシミュレーションでは、わずか1辺の0.1%(仮に1辺が1mなら1mm)動いただけで1ppmの精度は実現不可能になることが分かった。また許容変動範囲を1ppm〜10ppmに設定すると、コイルに流す電流比がわずかに増加した場合やコイルを巻くことによる厚みの増加も均一磁界に大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0015】
しかしながら磁場の一様度はシステムをどのような用途に使うかで決まるものであり、1/100程度の一様度で済むのであれば、補償コイル内の5割程度の空間が実用に供することになる。この点を考慮して、求められる性能に見合う作成精度を決めるようにする。本発明で用いるコイルの作成精度については、塩化ビニル製のフレーム外周に銅線(ホルマル線)を巻き付けて固定するため大きく狂うことはないと仮定した。
【0016】
銅線の直径と巻き数については、これまでに試作されている補償コイルの例を参考にし、直径0.6mmのホルマル線を30回巻いてフレームの外周に固定し補償コイルとした。ホルマル線の直径と巻数の妥当性については試験研究により検討する。
【0017】
試験研究では誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムを試作し、磁場の絶対値をフラックスゲート磁束計により評価した。システムは床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するものとした。1mの塩化ビニルパイプ12本とプラスチック製の3軸ジョイント8個を用いて1mの立方体フレームを組み立て、この立方体の6面の外周にそれぞれ角型ヘルムホルツコイル(直径0.6mm,30回巻)を取り付けた。このとき向かい合う面のコイルを一対とし、対のホルマル線には同じ方向に電流が流れるようにした。誘導コイルはフレーム外周(1m×1m)に角型ソレノイドコイル(直径0.6mm,100回巻)を固定するが、床面に対して平行に取り付け、コイルを設置する高さはフレームの設置面から約0.5mとした。
【0018】
補償コイル内部のほぼ中心の位置[X,Y,Z空間において(X,Y,Z)=(0,0,0)とする]にフラックスゲート磁束計を固定し、10Hz〜200Hzの周波数において、発振器からの入力波形とフラックスゲート磁束計からの出力波形の位相差と、フラックスゲート磁束計からの出力振幅をそれぞれ計測し、空間内の磁場を計算した。補償コイル内のX,Y,Z空間において(X,Y,Z)=(x,0,0),(x=0〜0.35)(m)の範囲での磁束密度をフラックスゲート磁束計により測定し、磁場の一様性の変化を計算した。
【0019】
補償コイル内部の周波数−位相特性結果では、位相遅れが小さくなる周波数帯域があるが、計測した各点においても同様の傾向が見られるため、中心より半径0.3mの距離では位相のそろった一様な補償磁場が生成されると考えられる。したがって本システムは補償コイルが3軸で構成されるため0.1m3の均一な磁場空間を補償することが可能であるとした。
【0020】
また補償コイルが作り出す静磁場は、透磁率が一様な環境ではビオサバールの法則を適用して、コンピュータシミュレーションを行うことが可能である。事前のシミュレーションにより、空間内の各点での磁場密度がわかれば、生成される磁場の一様性についてある程度の予測ができる。以下にビオサバールの法則を示す。
【数1】
μ0:真空中の透磁率
r:センサの位置ベクトル
r´:電流源の位置ベクトル
B(r):位置rにおける磁束密度(ベクトル)
J(r´):位置r´における電流密度(スカラ)
【0021】
ビオサバールの法則は、磁場密度の大きさが知りたい場所を決定すると、そこから電流源までの距離および電流源の大きさが既知であれば、電流源の存在する空間に渡って積分を行うことで、磁束密度の大きさがベクトル表示で求まることを示している。周囲に透磁率の大きく異なる物体が存在する場合や、補償コイルの空間内に故意に透磁率の大きな物体を配置する場合には、ビオサバールの法則はそのままでは適用できないため、有限要素法を用いた数値解析を行う。
【0022】
さらに補償コイルの設置場所についてであるが、フレームに十分な剛性が得られない場合、床面は硬いものが好ましい。フレーム自体が揺れてしまうと理想的な反対位相の補償磁場は作ることができない。設計の時点で、設置予定場所の状況を十分に把握しておくことが必要である。
【0023】
磁界制御用コントローラは、低雑音増幅回路、積分器、フィルタ回路、電流増幅回路から構成されている(請求項2)。
【0024】
誘導コイルからの電圧出力は低雑音アンプで増幅した後、積分器を通すことで磁場出力として扱われ、磁場変換した後の出力は補償コイルを介して誘導コイルにフィードバックされ、その結果フィードバック量を計測することにより、誘導コイルで検出される磁場を求めることができる。さらに誘導コイルの出力をフィードバックすることで、誘導コイルによって検出される空間の磁場に対して逆向きの磁場が補償コイルより印加され、検出された環境磁場が打ち消される仕組みになっている。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムの概念図を示す。本システムは床面に対して垂直方向の磁界のみを遮蔽するものである。図1に示すように、誘導コイル4(角型ソレノイドコイル)、補償コイル5(角型ヘルムホルツコイル)、磁界制御用コントローラ6から構成され、誘導コイル4と補償コイル5は補償磁場を介してフィードバックループを形成している。
【0027】
図2に立方体非磁性材フレームの全体図を示す。立方体非磁性材フレーム3は1mの塩化ビニルパイプ12本とプラスチック製の3軸ジョイント8個から構成され、立方体の一辺は約1mである。
【0028】
誘導コイル4と補償コイル5には共に直径0.6mmのホルマル線を使用しており、誘導コイル4は100回巻の角型ソレノイドコイル、補償コイル5は30回巻の角型ヘルムホルツコイルである。
【0029】
誘導コイル4と補償コイル5は、図2に示されるような一辺が約1mの立方体非磁性材フレーム3(塩化ビニルパイプ)に固定されている。この立方体非磁性材フレーム3の6面の外周にそれぞれ3対の角型ヘルムホルツコイル(5X1−5X2,5Y1−5Y2,5Z1−5Z2)が補償コイル5として取り付けられ、3対の角型ヘルムホルツコイルには同じ大きさの電流が同じ方向に流れるようになっている。また誘導コイル4として角型ソレノイドコイルが立方体非磁性材フレーム3の設置面から約0.5mの位置(補償コイル5Z1と5Z2のほぼ中央)に固定されている。
【0030】
立方体非磁性材フレーム3内の磁場の一様性については、先に行った試験研究により、中心から半径0.3m以内の範囲では位相のそろった一様な補償磁場が生成されることが分かっている。補償コイル5は3軸(5X1−5X2,5Y1−5Y2,5Z1−5Z2)で構成されるため、誘導コイル4を用いた磁気遮蔽システムは約0.1m3の均一な補償磁場空間を実現する。
【0031】
実際に除去しようとする雑音磁界は通常最大振幅で観測される商用電源由来の雑音やエレベータの移動に伴う遷移的な雑音のように変動磁場である。よって補償磁場の発生システムも除去しようとする雑音に含まれる周波数成分を上回る特性を有する必要がある。この評価を行うには、補償回路のセンサに人工的に雑音磁界を加え、入力した信号とそれによって発生した補償磁場との間の振幅特性と位相特性を測るとよい。この場合、単一の周波数の入力を加え、補償空間内の磁場をそれぞれ3軸の方向に空間的に観測する。
【0032】
本磁気遮蔽システムの補償コイル5は立方体非磁性材フレーム3に取り付けるタイプであるため、透磁率の変化のようなものは考慮する必要がない。ただし、システムを大きな磁性体のそばに設置する場合は、補償磁場中のゆがみが生じる可能性もあるため、設置場所ごとに性能試験を行うべきである。
【0033】
図3に磁界制御用コントローラのブロック図を示す。磁界制御用コントローラ6は図3に示すように低雑音増幅回路7、積分器、フィルタ回路8、電流増幅回路9から構成されている。低雑音増幅回路7はホワイトノイズレベルが0.8nV/Hz1/2のものを作製した。
【0034】
次に本磁気遮蔽方法の原理について述べる。誘導コイル4が環境磁場を検出し、図3に示されるように、誘導コイル4からの電圧出力を低雑音アンプで増幅した後、積分器を通す。誘導コイル4の電圧出力は磁場の微分信号であるため積分器を通すことで磁場出力として扱うことができる。磁場変換した後の出力は補償コイル5を介して誘導コイル4にフィードバックされる。その結果、フィードバック量を計測することにより、誘導コイル4で検出される環境磁場を求めることができる。またさらに、誘導コイル4の出力をフィードバックすることで、誘導コイル4で検出される環境磁場は補償コイル5によって逆向きの磁場が加わるため、検出する環境磁場が打ち消されるという仕組みになっている。
【0035】
実際に本磁気遮蔽システムの遮蔽率を測定するため、誘導コイル4の中央部にフラックスゲート磁束計を配置し、その出力変化によって遮蔽効果を確認した。フラックスゲート磁束計の出力から地磁気に伴う直流成分と励振磁界による影響を取り除くため、バンドパスフィルタ(0.1Hz,1kHz)を用いて時間波形の観測を行った。同時にスペクトルアナライザを用いたスペクトル観測を行った。
【0036】
磁気遮蔽を行わない場合のフラックスゲート磁束計の出力は図4に示すように商用電源ノイズ(50Hz)が主な成分で約70nTppの振幅を示した。この状態に補償磁場を作用させることで補償前に比べて約30dB低減した(図5)。また同時に商用電源周波数の高調波成分(150Hz,250Hz)についても15dB〜20dBの低減効果を得ることができた。
【0037】
しかしながら建物の振動に伴う10Hz〜40Hzの磁気ノイズは5dB〜20dB程度の低減率にとどまった。誘導コイル4とフラックスゲート磁束計は独立した支持体を用いて計測されているため、互いの振動数に違いが生じる。そのため振動由来のノイズを確実に低減するには、剛性の高い同一のフレームに計測センサ(本発明ではフラックスゲート磁束計)を固定する必要がある。
【0038】
一方、10Hz以下のノイズの低減効果では5dB程度であった。これは、磁界制御用コントローラ6中の低雑音増幅回路7のもつ低周波ノイズの影響によるもので、フィードバック方式を採用する本システムでは誘導コイル4の巻数を増やしその出力を増加させることで改善することが可能である。
【0039】
【発明の効果】
誘導コイル4と補償コイル5からなる磁気遮蔽技術により商用電源磁気ノイズとその高調波成分を15dB〜30dB低減することができる。本発明はコイルと非磁性材フレームからなる、汎用性とコストパフォーマンスに優れた磁気遮蔽システムであり、高重量、高コストのために制限の多い従来技術に比べ様々な応用が考えられる。また施工性にも優れ、建設コストを大幅に削減することも可能である。本システムは強力な磁気遮蔽を要求されない半導体製造施設などにおいて単体で効果を発揮すると考えられ、低コストな磁気遮蔽を実現する。さらに低周波数から高周波数までの広帯域の遮蔽が必要な生体磁気計測施設などでは、従来のMSRと併用することでより効果的な環境磁気ノイズの低減を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘導コイルを用いた磁気遮蔽システムの概念図である。
【図2】立方体非磁性材フレームの全体図である。
【図3】磁界制御用コントローラのブロック図である。
【図4】磁気遮蔽空間中心部における遮蔽前の磁場の時間波形である。
【図5】磁気遮蔽空間中心部における遮蔽後の磁場の時間波形である。
【符号の説明】
3 立方体非磁性材フレーム
4 誘導コイル
5 補償コイル
6 磁界制御用コントローラ
7 低雑音増幅回路
8 フィルタ回路
9 電流増幅回路
Claims (2)
- 立方体非磁性材フレームに固定された誘導コイルと補償コイルが補償磁場を介してフィードバックループを形成する構造で、立方体非磁性材フレーム内の環境磁気ノイズを誘導コイルより検出し、補償コイルから立方体非磁性材フレームの計測空間に対して、検出した環境磁気ノイズと逆位相の磁場である補償磁場を印加する方法により、能動的に環境磁気ノイズを低減する磁気遮蔽方法。
- 低雑音増幅回路、積分器、フィルタ回路、電流増幅回路から構成される磁界制御用コントローラ。
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