JP2005001348A - 液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】既存の製造工程をそのまま流用しつつ、基板と感光性樹脂層との剥離や、感光性樹脂層とノズルを形成したシートとの剥離を防止できるヘッドの製造方法とする。
【解決手段】エネルギー発生素子を配した基板14上に、感光性樹脂層21を形成する工程と、感光性樹脂層21の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、液室をパターニング形成する工程と、基板14上に残った感光性樹脂層21の露光表面に、ノズルを形成したシートを貼り付ける工程とを有し、液室をパターニング形成した後に、少なくとも感光性樹脂層21の露光表面を保護膜22でコーティングしておくとともに、シートを貼り付ける前に、保護膜22を剥離させておく。
【選択図】 図3
【解決手段】エネルギー発生素子を配した基板14上に、感光性樹脂層21を形成する工程と、感光性樹脂層21の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、液室をパターニング形成する工程と、基板14上に残った感光性樹脂層21の露光表面に、ノズルを形成したシートを貼り付ける工程とを有し、液室をパターニング形成した後に、少なくとも感光性樹脂層21の露光表面を保護膜22でコーティングしておくとともに、シートを貼り付ける前に、保護膜22を剥離させておく。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置に関する。詳しくは、基板上に液室をパターニング形成した感光性樹脂層と、ノズルを形成したシートとの貼り付けに際し、少なくとも感光性樹脂層の貼り付け部を保護膜でコーティングしておくことによって、シートの剥がれを防止することができる液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンタにおいては、通常、ノズルが直線状に並べられたインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)を備えている。そして、このヘッドの各ノズルから、ノズル面に対向して配置された印画紙等の被記録媒体に向けて微小なインクの液滴を順次吐出することにより、略円形のドットを縦横に形成し、点画として画像や文字を表現している。
【0003】
ここで、インクの吐出方式の1つとして、熱エネルギーを用いてインクを吐出させるサーマル方式が知られている。
このサーマル方式のインク吐出装置は、液体としてのインクを収容するインク液室と、インク液室内に設けられたエネルギー発生素子としての発熱抵抗体と、インクを液滴として吐出するノズルとを備えている。そして、インクを発熱抵抗体で急速に加熱し、発熱抵抗体上のインクに気泡を発生させ、気泡発生時のエネルギーによって、インクの液滴をノズルから吐出させている。
【0004】
また、インクの吐出方式として、静電吐出方式も知られている。
静電吐出方式は、エネルギー発生素子として、サーマル方式の発熱抵抗体に代えて、振動板と、この振動板の下側に、空気層を介した2つの電極を設けたものである。そして、両電極間に電圧を印加し、振動板を下側にたわませ、その後、電圧を0Vにして静電気力を開放する。このとき、振動板が元の状態に戻るので、その際の弾性力を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
【0005】
さらに、インクの吐出方式として、ピエゾ方式も知られている。
ピエゾ方式のエネルギー発生素子は、両面に電極を有するピエゾ素子と振動板との積層体を用いたものである。そして、ピエゾ素子の両面の電極に電圧を印加すると、圧電効果により振動板に曲げモーメントが発生し、その結果振動板がたわみ、変形する。したがって、この変形を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
【0006】
一方、ヘッド構造の観点からは、ヘッドを被記録媒体の幅方向に移動させて印画を行うシリアル方式と、多数のヘッドを被記録媒体の幅方向に並べて配置し、印画幅分のラインヘッドを形成したライン方式とが挙げられる。
【0007】
ライン方式においては、被記録媒体の全幅にわたるヘッドを、シリコンウエハやガラス等で一体に形成することは、製造方法、歩留まり問題、発熱問題、コスト問題等、様々な問題があって、現実的ではない。
このため、小さなヘッド(これにも様々な制約があり、大きくてもノズルの並び方向の長さが1インチ以下程度が実用的な限界である。)を、端部同士が繋がるように複数並設して、それぞれのヘッドに適当な信号処理を行うことにより、被記録媒体に印画する段階で、被記録媒体の全幅にわたる記録を行うようにしている。
【0008】
ところで、前述したような各種のインク吐出方式で、ライン方式やシリアル方式のヘッドを製造するには、主に、以下のような工程が必要とされる。
すなわち、最初に、エネルギー発生素子を、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら、Si・ガラス・セラミックス等の基板上に形成する第1工程、
次に、インク液室を、エネルギー発生素子を囲むように、感光性樹脂を利用して基板上に形成する第2工程、
液室が形成された基板を、ダイシング装置によって適当な大きさに切り分ける第3工程、
ダイシングされた基板の液室上に、ノズルを形成したシートを、ノズルとエネルギー発生素子との位置が合うように貼り合わせる第4工程
等である。
そして、このようにして製造されたヘッドを、必要に応じて外部の基板と配線したり、別の筐体に組み付けたりして、インクジェットプリンタを完成させるのである。
【0009】
ここで、第2工程におけるインク液室の形成は、基板上の感光性樹脂層の一部を露光し、その後、未露光部分を除去することにより行い、第4工程では、残った感光性樹脂層の露光表面に、液室上に蓋をするがごとくシートを貼り付けている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
そして、ノズルを形成したシートの貼り付けについてさらに詳述すると、シートは、熱・光・電子線・超音波等によって、感光性樹脂層と接着させる。この接着は、感光性樹脂層を液室が形成されるようにパターニングした後、多少の架橋成分が残った状態にしておいて、ダイシング等の方法により基板を切り出し、シートとの貼り合わせ時に、この残った架橋成分を用いる。すなわち、熱・光・電子線・超音波等によって架橋すると同時に、架橋により発生する界面接着力によって強固な接着を行うのである。
【0011】
【特許文献1】
特開平10−338798号公報 (第2−3頁、図1)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来のシート貼り付け方法では、以下の問題点があった。
すなわち、この製造方法においては、感光性樹脂層に残留架橋成分がある状態で基板をダイシングする必要が生じる。
ダイシング工程では通常、ダイサーと呼ばれる専用の設備が使用され、その設備に装着された非常に薄いダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)を高速で回転させ、被切削物(エネルギー発生素子を配し、感光性樹脂層で液室を形成した基板)を、基板とダイヤモンドブレードとの間に切削水を流しながら所定の速度にて切削する。なお、水と被切削物との摩擦による帯電を防止し、帯電による被切削物の表面へのゴミの付着等を防止するため、多くの場合、切削水は、炭酸ガスを含浸させたイオン交換水や純水を使用する。
【0013】
このため、被切削物はその表面が大量の水で曝されることとなるが、基板上の感光性樹脂層には、ダイシング工程の時点において、多少の架橋成分が残留していることから、切削水によって未架橋な感光性樹脂が加水分解を起こしたり、架橋のために使用される硬化剤が溶出したり、未架橋部分に水が浸入して膨潤したりするという問題がある。また、ダイシング時にダイヤモンドブレードから与えられる衝撃や、切削水の水圧によって、微細にパターニング形成された液室の一部に欠損や剥がれが生じることがあるという問題もある。さらに、感光性樹脂層の表面には多少の粘着性が残っていることから、ダイシング時の切り屑の付着も問題となる。
【0014】
このように、特にダイシング工程において様々な問題が生じるが、他の工程においても、周辺設備や治具から発生した微小なパーティクル等の付着といった、基板搬送時の環境に基づく問題がある。また、感光性樹脂層が環境中に曝露された状態で放置されると、未架橋部分の架橋が進行して接着力が低下することとなるので、保管時のきめ細かな管理が必要となる。
【0015】
そして、前述した問題が生じた感光性樹脂層であると、基板からの剥がれが生じたり、感光性樹脂層の露光表面にノズルを形成したシートを貼り付けてヘッドを製造した場合、シートの剥離が発生しやすいものとなってしまう。
また、このようなヘッドのノズルからインクを吐出し、写真や文字等を印画・印刷すると、インク漏れが発生して、インクジェットプリンタが本来持つ美麗な印字・印画能力が極端に低下してしまう。
【0016】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、前述した既存の製造工程(特に、架橋成分が残留した感光性樹脂層を含む基板をダイシングする工程)をそのまま流用しつつ、基板と感光性樹脂層との剥離、感光性樹脂層とノズルを形成したシートとの剥離を防止できる製造方法とすることである。
また、剥離が防止されたヘッドを、例えばインクジェットプリンタに使用することで、美麗な印字・印画能力を最大限に引き出し、かつ、長期にわたり高い信頼性を得ることができるようにすることである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の解決手段によって、上述の課題を解決する。
本発明の1つである請求項1に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層を形成する工程と、前記感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、前記液室をパターニング形成する工程と、前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを形成したシートを貼り付ける工程とを有し、前記液室をパターニング形成した後に、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングしておくとともに、前記シートを貼り付ける前に、前記保護膜を剥離させておくことを特徴とする。
【0018】
上記の発明においては、液室をパターニング形成した後(ダイシング工程を有する場合には、特に、基板をダイシングする前)に、少なくとも感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングしておく。
したがって、基板上に形成された感光性樹脂層の表面に直接ゴミ等が付着することがなくなり(付着しても保護膜の上となり)、ダイシング時に水と接しても感光性樹脂層自体が水による影響を受けることがなくなる。すなわち、ダイシング時の切削水によって、基板と感光性樹脂層との間に水が染み込んだり、感光性樹脂自体が加水分解したりして、長期間経過後に基板と感光性樹脂層とが剥離するような問題を回避しているのである。また、ダイヤモンドブレードから与えられる衝撃や切削水の水圧によって、微細にパターニング形成された液室が欠損することも防ぐことができるようになる。
【0019】
そして、シートを貼り付ける前(ダイシング工程を有する場合には、特に、基板をダイシングした後)に、保護膜を剥離させておく(取り除いておく)。すると、たとえゴミ等が保護膜の上に付着していたとしても、保護膜ごと取り去ることができる。
したがって、その後の工程でノズルを形成したシートを貼り付ける感光性樹脂層の表面は、液室をパターニング形成するために露光した際の状態(シートとの接着力を確保するための架橋成分が残った状態)が維持されることとなり、感光性樹脂自体の加水分解等を原因とするシートの剥がれが防げる。
【0020】
また、本発明の他の1つである請求項9に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを含む液体吐出部を複数並設したヘッドを備え、前記ヘッド中の各前記液体吐出部の前記ノズルから吐出される液滴を被記録媒体に着弾させてドットを形成する液体吐出装置であって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層が形成され、一部を露光した前記感光性樹脂層の未露光部分が除去されて、前記液室がパターニング形成され、前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを複数形成したシートが貼り付けられて前記ヘッドが構成されており、前記感光性樹脂層と前記シートとの貼り付け部が、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜で一旦コーティングした後、前記保護膜を剥離させてから貼り付けたものとなっていることを特徴とする。
【0021】
ここで、請求項9に係る発明は、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を、少なくとも感光性樹脂層の露光表面を保護膜で一旦コーティングした後、保護膜を剥離させてから貼り付けるという製造方法によって特定している。
このように、製造方法によって液体吐出装置を特定したのは、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を、その構造によって表現することは適当でないからである。
【0022】
すなわち、シートは、熱・光・電子線・超音波等によって感光性樹脂層と接着させるが、この接着は、感光性樹脂層に多少の架橋成分が残った状態にしておいて、シートとの貼り合わせ時に、この残った架橋成分を用いるようにしている。そして、感光性樹脂層における架橋成分の残留状況は、使用する感光性樹脂自体の架橋成分や、液室をパターニング形成する工程での露光条件等によっても変動するものであるから、残留の程度は相対的なものでしかない。そのため、感光性樹脂層の貼り付け部を架橋成分の残留で表現することは難しい。
【0023】
また、保護膜でコーティングすることによって、少なくともコーティング前の残留架橋成分が維持されるから、他の条件が同一であるとすれば、コーティングの有無によって架橋成分の残留程度には差異が生じる。すると、一旦コーティングした後に保護膜を剥離させて貼り付けたシートの接着力は、コーティングせずに貼り付けた場合の接着力よりも大きくなる。しかし、必要な接着力もヘッド構造等によって異なるから、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を接着力で特定することも難しい。
【0024】
したがって、請求項9の記載は、ノズルを形成したシートの剥離防止に関し、有意差のある感光性樹脂層の貼り付け部を製造方法によって特定したものであって、製造方法の如何にかかわらず、最終的に得られた液体吐出装置を意味するものである。
【0025】
なお、本発明における「パターニング形成される液室」とは、必ずしも液室の全体を指すものではなく、少なくとも液室の一部を構成する部分を指すものである。下記の実施形態において、液室の実施形態に対応するインク液室12では、基板14及び発熱抵抗体13がインク液室12の底壁を構成し、バリア層16(及び密着性向上層15)がインク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17がインク液室12の天壁を構成している。そして、バリア層16(インク液室12の側壁を構成する部分)がパターニング形成されるものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本発明における液体吐出ヘッドは、下記実施形態のインクジェットプリンタ用のヘッド11又はラインヘッド10に相当し、液体吐出装置はインクジェットプリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)に相当する。また、液体としてインクを使用し、インクを収容する液室がインク液室12で、ノズル18から吐出される微少量(例えば数ピコリットル)のインクがインク液滴である。
さらにまた、エネルギー発生素子として発熱抵抗体13を使用しており、この発熱抵抗体13はインク液室12の一面(底壁部分)をも構成している。そして、発熱抵抗体13によってインク液室12中のインクが急速に加熱され、気泡が発生し、インク液滴を吐出する。
【0027】
さらに、本明細書において、1つの液室と、この液室内に配置されたエネルギー発生素子と、このエネルギー発生素子の上部に配置されて液滴の吐出口となるノズルとを含む部分を、「液体吐出部」と称する。すなわち、液体吐出ヘッドは、複数の液体吐出部を並設したものといえる。
なお、本発明に係る液体吐出ヘッド及び液体吐出装置は、下記実施形態に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0028】
図1は、本発明の方法により製造されたヘッド11を示す部分斜視図である。
図1に示すヘッド11において、基板14は、シリコン等からなる半導体基板であって、その一方の面には、半導体プロセスを用いて析出形成された微細な発熱抵抗体13を備えている。この発熱抵抗体13は、基板14上に形成された導体部(図示せず)を介して外部回路と電気的に接続されている。
【0029】
また、バリア層16は、基板14の発熱抵抗体13が形成された側の面に形成されたものであり、基板14の上面全体に感光性樹脂を積層し、この感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、パターニング形成されている。なお、図1に示すヘッド11においては、基板14とバリア層16との界面密着性を向上させるため、感光性樹脂を積層する前に、基板14に密着性向上層15を形成してある。
【0030】
さらに、ノズルシート17は、複数のノズル18が設けられたものであり、例えばニッケルによる電鋳技術により形成されている。そして、ノズル18の位置が発熱抵抗体13の位置と合うように、すなわちノズル18が発熱抵抗体13に対向するように精密に位置決めがなされ、バリア層16の上に貼り合わされている。
【0031】
インク液室12は、発熱抵抗体13を囲むように、基板14とバリア層16(及び密着性向上層15)とノズルシート17とから構成されている。すなわち、基板14及び発熱抵抗体13は、図1中、インク液室12の底壁を構成し、バリア層16(及び密着性向上層15)は、インク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17は、インク液室12の天壁を構成する。これにより、インク液室12は、図1中、左下方面に開口領域を有することとなり、この開口領域とインク流路(図示せず)とが連通される。
【0032】
上記の1個のヘッド11には、通常、100個単位の規模で、インク液室12と、各インク液室12内にそれぞれ配置された発熱抵抗体13と、各発熱抵抗体13上に位置するノズル18とから構成される液体吐出部が複数並設される。そして、プリンタの制御部からの指令によってこれら発熱抵抗体13のそれぞれを一意に選択することで、発熱抵抗体13に対応するインク液室12内のインクを、そのインク液室12に対向するノズル18からインク液滴として吐出させることができる。
【0033】
すなわち、ヘッド11と結合されたインクタンク(図示せず)からインクが供給され、インク液室12にインクが満たされる。そして、発熱抵抗体13に短時間、例えば1〜3μsecの間パルス電流を流すことにより、発熱抵抗体13が急速に加熱され、その結果、発熱抵抗体13と接する部分に気相のインク気泡が発生し、そのインク気泡の膨張によってある体積のインクが押しのけられる(インクが沸騰する)。これによって、ノズル18に接する部分の上記押しのけられたインクと同等の体積のインクが、インク液滴としてノズル18から吐出され、被記録媒体である印画紙上に着弾し、ドットが形成される。
【0034】
さらに、本実施形態では、複数のヘッド11を被記録媒体の幅方向に並べて、ラインヘッドを形成している。
図2は、ラインヘッド10の一実施形態を示す平面図である。図2では、4つのヘッド11(「N−1」、「N」、「N+1」及び「N+2」)のみを図示している。
ラインヘッド10を形成する場合には、図1中、ヘッド11からノズルシート17を除く部分(ヘッドチップ)を複数並設する。そして、これらのヘッドチップの上部であって、全てのヘッドチップの各インク液室12に対応する位置に、ノズル18が形成された1枚のノズルシート17を貼り合わせることにより、ラインヘッド10を形成する。
【0035】
ここで、各ヘッド11の配置は、隣接するヘッド11の各端部にあるノズル18同士のピッチ、すなわち、図2中のA部詳細図における、N番目のヘッド11の右端部にあるノズル18と、N+1番目のヘッド11の左端部にあるノズル18との間の間隔が、ヘッド11のノズル18間の間隔に等しくなるようにしてある。
また、このようなラインヘッド10を必要数だけノズル18の並び方向と直交する方向に並べてヘッド列を構成し、ヘッド列ごとに異なる色のインクを供給することで、カラー印画に対応させることもできる。
【0036】
このようなラインヘッド10を備えるプリンタでは、シリアル方式のものに対し、ラインヘッド10を被記録媒体の幅方向に移動させる走査機構が不要となるので、走査時間が必要なくなり、印画時間の短縮化に大きく寄与するので、このラインヘッド10を搭載したプリンタの付加価値を大きく高めるものとなる。
【0037】
なお、多数の液体吐出部を並設する場合には、液体吐出部の吐出特性、例えばインク液滴の吐出方向が液体吐出部ごとに不揃いとなる場合がある。また、ラインヘッド10のように複数のヘッド11を並設する場合には、ヘッド11ごとの液体吐出部の吐出特性が不揃いとなる場合がある。このような場合には、インク液滴の着弾位置ずれとなって表れる。そこで、既に本件出願人によって提案されている技術(例えば、特願2003−55236)のように、1つのインク液室12内に複数の発熱抵抗体13を設け、複数の発熱抵抗体13へのエネルギーの供給の仕方を変えることによって、インク液滴の吐出方向を複数の方向に可変とすることで、インク液滴の着弾位置を調整することが可能である。
【0038】
次に、上記ヘッドを製造する方法の一実施形態について説明する。
図3及び図4は、ヘッドの製造方法を工程ごとに順序立てて説明したものである。なお、図3及び図4に示す工程においては、図1に示した密着性向上層15がないもので説明する。
【0039】
図3に示す工程1では、まず、発熱抵抗体13が作り込まれた基板14を準備する。
この発熱抵抗体13は、先にも説明した通り、エネルギー発生素子であってインクに気泡を生じさせるものであり、シリコン、ガラス、セラミックス等の基板14の上に、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら作り込まれている。
【0040】
続く工程2では、基板14上に、図1に記載されたバリア層16を構成する感光性樹脂を塗布し、感光性樹脂層21を形成する。
この感光性樹脂としては、半導体・ディスプレイ製造用に多種上市されているフォトレジストや、感光性層間絶縁材料、メッキ用マスクとして上市されているドライフィルムレジスト、プリント基板用途等に上市されている各種の感光性材料、印刷用製版等に用いられる感光性材料等の様々な種類のものの中から、最適なものを選定することが可能である。一例としては、環化イソプレンを主成分とし、これに感光剤や各種添加物(レベリング剤、シランカップリング剤等)を同時に適正量含有させ、これをまた適正量の溶媒等で希釈した、ネガレジスト等の感光性樹脂があげられる。
【0041】
また、感光性樹脂の基板14への塗布方法としては、使用する基板14の形状によって様々な可能性が考えられるが、スピンコート、バーコート、カーテンコート、メニスカスコート、スプレイコート等の中から最適なものを選択すればよい。この場合、感光性樹脂を液体状態として供給する必要があることは言うまでもない。なお、感光性樹脂の塗布後に、樹脂溶液中に含まれる溶剤を、しかるべき加熱(ベーキング)方式にて基板14を加熱することにより、揮散させる工程を導入しても差し支えない。
【0042】
工程3では、感光性樹脂層21に、しかるべき形状のパターンを描いたフォトマスク31を介して、感光性樹脂を感光するに最適な波長帯の放射光32を持った露光機(図示せず)による露光を行う。
露光機には、マスクと形成されるパターンとが1:1になるコンタクトアライナーやミラープロジェクションアライナー等を用いても良いし、マスクが実際に形成されるパターンよりも大きく、同じパターンを基板上に複数回繰り返し露光(ステップ&リピート露光)するステッパー等を用いても良い。なお、露光後に露光された部分のパターニング特性を向上させたり、感光性樹脂が酸発生剤を利用してパターニングしたりするものである場合には、露光後に、ベークする工程を追加しても差し支えない。
【0043】
工程4では、工程3にて露光した感光性樹脂層21を所定の現像液で現像し、未露光部分を除去することによって基板14上にバリア層16を形成する。すなわち、工程3及び工程4により、インク液室12の一部を構成しているバリア層16がパターニング形成される。
現像液は、使用する感光性樹脂によって異なるが、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)やモノエタノールアミン等の水溶液、各種有機溶剤等が一般的に使用される。なお、感光性樹脂として、上記の環化イソプレンを主成分とするものを用いた場合には、キシレン含有溶剤やイソパラフィン系炭化水素等の溶剤が現像液に使用される。
【0044】
また、現像後には、必要に応じ、残留現像液の置換や表面洗浄を目的として、所定のリンス液や水(純水やイオン交換水)でリンスすることも可能である。さらにその後、基板14の表面に残った水分や溶媒を揮散させるための加熱や、スピンナーを使用した振り切り乾燥、真空チャンバーによる真空乾燥、大気中や窒素雰囲気中での自然放置を行っても良い。
【0045】
このように、工程1〜4にて基板14上にバリア層16が形成されるが、本実施形態における基板14は、後述する工程6にてダイシングされ、適当な大きさに切り分けられる。そこで、ダイシング工程(工程6)の前に保護膜22でコーティングしておく。
すなわち、工程5では、表面に露出している基板14、発熱抵抗体13、工程4にて形成されたバリア層16(以下、これらを「基板14」で代表させる。)の上に、保護膜22をコーティングする。
【0046】
コーティング材料には、液状樹脂や、固体樹脂を溶剤又は水に溶かしたものを使用し、溶媒や水を揮散させて保護膜22とする。
ここで、液状樹脂の具体例としては、離型用シリコーンゴム(例えば、信越シリコーン製の型取り用RTVゴム等が好適なものである。)や、液状パラフィン等があげられる。離型用シリコーンゴム等の液状樹脂は、基板14の表面に塗布後、適当な温度にすることによって、また、適当な時間だけ放置することによって硬化して保護膜22となる。そして、下地である基板14との離型性が良く、後述するダイシング工程(工程6)にて基板14を切断した後、基板14の表面(保護膜22の表面側)に粘着性シート(図示せず)を貼り付けることにより、簡単に剥離させることが可能である。
【0047】
また、固体樹脂を有機溶剤に溶かしたものの具体例としては、半導体やフラットパネルディスプレイやその他の電子機器類の微細加工用に使用されるフォトレジスト等があげられる。例えば、ノボラック型フェノール樹脂とナフトキノンジアジドと有機溶剤と各種添加物とからなるポジ型液状フォトレジストが好適に用いられる。具体的には、東京応化工業製の厚膜ポジ型レジストPMER−900Pや、クラリアント社製厚膜ポジ型レジストAZ9200シリーズ等があげられる。なお、このような厚膜タイプの高粘度のものではなく、薄膜形成用の低粘度品でも全く問題は無いし、その他の材料でも、下地であるバリア層16を構成する感光性樹脂を溶かしたり変形させたりしないものであれば使用可能である。
【0048】
一方、固体樹脂を水に溶かしたものの具体例としては、PVA(ポリビニルアルコール)の水溶液があげられる。PVAの場合、材料自体が水溶性であることから、使用後に不要となった保護膜22は、水又は温水によって比較的簡単に剥離させることができる。
ただし、ダイシング時の切削水によって剥離してしまう可能性も大きいことから、PVA樹脂そのものに鹸化度の高いものを使用することが好ましい。鹸化度としては、ダイシングに使用する切削水の温度が通常25℃前後であることから考えて、50〜99.5mol%の範囲のもの、好適には90〜99.5mol%のものである。具体的には、クラレ社製のポバールがあげられ、その中でも樹脂の塗布、ダイシング、膜剥離のそれぞれのプロセス条件によって、最適な鹸化度の材料を選定する。
このように、比較的高鹸化度の材料を使用することによって、ダイシング時の切削水には溶けにくく、後述する剥離工程(工程7)で温水を使用することにより、保護膜22の剥離を確実なものとすることができるようになる。
【0049】
これらのコーティング材料の塗布方法は、通常のソルベントコート法にて行うことが一般的である。ソルベントコート法としては、スピンコート、バーコート、グラビアロールコート、スプレイコート、メニスカスコート等をあげることができる。
また、コーティング後の後処理や、溶媒や水を揮散させて保護膜22を固体膜化するために、ホットプレートやオーブン等を利用した適温の加熱処理を施しても良い。
【0050】
図4に示す工程6では、工程5にて保護膜22をコーティングした基板14をダイサー(図示せず)のステージ上にセットし、切削水42を適宜流しながら、ダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)41を高速で回転させ、チップ61のカットラインに沿って基板14を切断する。
この際、保護膜22がコーティングされていることから、切削水42が基板14とバリア層16との間に染み込んだり、バリア層16を構成する最終キュア前の感光性樹脂が加水分解してしまうことはない。そのため、経年変化によって基板14とバリア層16との間に剥離が生じることもなく、本実施形態の方法により製造したヘッドを使用したプリンタは、このヘッドが本来持つ美麗な印字・印画能力を維持したものとなる。
【0051】
続く工程7では、工程6にて切り出された基板14を、チップ61単位で、又は切削用シート(図示せず)上に貼り付けたままの状態で、保護膜剥離用装置(図示せず)のステージ51上に乗せ、しかるべき剥離液52によって保護膜22の剥離を行う。
この際、ステージ51を回転させながら剥離プロセスを行っても良いし、場合によっては、ステージ51ごと剥離液中にしかるべき時間浸漬するようにしても良い。また、同時に、剥離液52を加熱したり、超音波を併用したりしても良いが、下地であるバリア層16、基板14上に作り込まれた発熱抵抗体13、発熱抵抗体13の駆動回路等に影響を与えない範囲で行うことは言うまでもない。
【0052】
なお、保護膜22にレジスト等の溶剤可溶樹脂を使用した場合には、これを溶解できる溶剤を剥離液52として使用できるが、前述したように、保護膜22の下地であるバリア層16の感光性樹脂を溶かしにくい溶媒を選定する。
また、保護膜22にPVA等の水溶性樹脂を使用した場合には、温水を剥離液52として使用することが可能であるが、極度なオーバー剥離(バリア層16が露出した状態で温水に曝される状態)を行うと、水に曝さないようにするために保護膜22をコーティングした趣旨が没却され、キュア前である感光性樹脂が剥離用の水(温水)に曝されて本末転倒になってしまう可能性があることから、剥離液52の温度、剥離状態、時間等の管理を行っておく。
【0053】
工程8では、工程7にて保護膜22が剥離されたバリア層16の上に、ノズルシート17を貼り付ける。
ノズルシート17の貼り付けには、熱・光・電子線・超音波及びこれらの1つ以上とプレス等の手段とを併用する。この貼り付けプロセスでは、基板14上の発熱抵抗体13と、ノズルシート17のノズル18とを正確に位置合わせした上で行う。この位置合わせが不正確であると、このヘッドをプリンタに使用した場合、インクの吐出角度が不正確になったりインクの吐出に不具合が生じることがあり、プリンタ本来の美麗な印字・印画能力が最大限に引き出せなくなる。
また、ノズルシート17の貼り付けと同時に、バリア層16を構成する感光性樹脂を強固にするための最終キュアを行うこともできる。
【0054】
したがって、前述した工程1〜8により、最終的に図1に示すヘッド11が製造されることとなり、このヘッド11を被記録媒体の幅方向に複数並べれば、図2に示すラインヘッド10が形成される。
【0055】
なお、本実施形態では、サーマル方式の吐出構造として発熱抵抗体13を設けたものを例に挙げたが、エネルギー発生素子は発熱抵抗体に限らず、他の発熱素子(抵抗以外のもの)であっても良く、さらに、静電吐出方式やピエゾ方式のものについても適用可能である。
【0056】
また、ライン方式だけでなくシリアル方式にも適用でき、しかも、プリンタのみならず、種々の液体吐出装置に適用できるものであり、例を示せば、染め物に対する染料の吐出や、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置等に適用することも可能である。
【0057】
【発明の効果】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法によれば、感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングするようにしたので、基板からの感光性樹脂層の剥離や、感光性樹脂層とノズルを形成したシートとの剥離を防止することができるようになる。また、特にダイシング時の切り屑や、基板の搬送時において、環境や設備や治具から発生した、印画品質に影響するような微小なパーティクル等の付着も防止できるようになる。さらには、感光性樹脂層でパターニング形成された液室の欠損をも防ぐことができるようになる。
【0058】
また、本発明の液体吐出装置によれば、耐久性が向上し、長期間にわたり高い信頼性を得ることができる。特に、本発明の液体吐出装置をインクジェットプリンタとした場合には、その性能を十分に発揮することができ、インクジェットプリンタが本来持つ美麗な印字・印画能力を最大限に引き出せるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法により製造された液体吐出ヘッドを示す部分斜視図である。
【図2】ラインヘッドの実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程1〜工程5まで)を示す図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程6〜工程8まで)を示す図である。
【符号の説明】
10 ラインヘッド(液体吐出ヘッド)
11 ヘッド(液体吐出ヘッド)
12 インク液室(液室)
13 発熱抵抗体(エネルギー発生素子)
14 基板
15 密着性向上層
16 バリア層
17 ノズルシート
18 ノズル
21 感光性樹脂層
22 保護膜
31 フォトマスク
32 放射光
41 ダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)
42 切削水
51 ステージ
52 剥離液
61 チップ
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置に関する。詳しくは、基板上に液室をパターニング形成した感光性樹脂層と、ノズルを形成したシートとの貼り付けに際し、少なくとも感光性樹脂層の貼り付け部を保護膜でコーティングしておくことによって、シートの剥がれを防止することができる液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンタにおいては、通常、ノズルが直線状に並べられたインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)を備えている。そして、このヘッドの各ノズルから、ノズル面に対向して配置された印画紙等の被記録媒体に向けて微小なインクの液滴を順次吐出することにより、略円形のドットを縦横に形成し、点画として画像や文字を表現している。
【0003】
ここで、インクの吐出方式の1つとして、熱エネルギーを用いてインクを吐出させるサーマル方式が知られている。
このサーマル方式のインク吐出装置は、液体としてのインクを収容するインク液室と、インク液室内に設けられたエネルギー発生素子としての発熱抵抗体と、インクを液滴として吐出するノズルとを備えている。そして、インクを発熱抵抗体で急速に加熱し、発熱抵抗体上のインクに気泡を発生させ、気泡発生時のエネルギーによって、インクの液滴をノズルから吐出させている。
【0004】
また、インクの吐出方式として、静電吐出方式も知られている。
静電吐出方式は、エネルギー発生素子として、サーマル方式の発熱抵抗体に代えて、振動板と、この振動板の下側に、空気層を介した2つの電極を設けたものである。そして、両電極間に電圧を印加し、振動板を下側にたわませ、その後、電圧を0Vにして静電気力を開放する。このとき、振動板が元の状態に戻るので、その際の弾性力を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
【0005】
さらに、インクの吐出方式として、ピエゾ方式も知られている。
ピエゾ方式のエネルギー発生素子は、両面に電極を有するピエゾ素子と振動板との積層体を用いたものである。そして、ピエゾ素子の両面の電極に電圧を印加すると、圧電効果により振動板に曲げモーメントが発生し、その結果振動板がたわみ、変形する。したがって、この変形を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
【0006】
一方、ヘッド構造の観点からは、ヘッドを被記録媒体の幅方向に移動させて印画を行うシリアル方式と、多数のヘッドを被記録媒体の幅方向に並べて配置し、印画幅分のラインヘッドを形成したライン方式とが挙げられる。
【0007】
ライン方式においては、被記録媒体の全幅にわたるヘッドを、シリコンウエハやガラス等で一体に形成することは、製造方法、歩留まり問題、発熱問題、コスト問題等、様々な問題があって、現実的ではない。
このため、小さなヘッド(これにも様々な制約があり、大きくてもノズルの並び方向の長さが1インチ以下程度が実用的な限界である。)を、端部同士が繋がるように複数並設して、それぞれのヘッドに適当な信号処理を行うことにより、被記録媒体に印画する段階で、被記録媒体の全幅にわたる記録を行うようにしている。
【0008】
ところで、前述したような各種のインク吐出方式で、ライン方式やシリアル方式のヘッドを製造するには、主に、以下のような工程が必要とされる。
すなわち、最初に、エネルギー発生素子を、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら、Si・ガラス・セラミックス等の基板上に形成する第1工程、
次に、インク液室を、エネルギー発生素子を囲むように、感光性樹脂を利用して基板上に形成する第2工程、
液室が形成された基板を、ダイシング装置によって適当な大きさに切り分ける第3工程、
ダイシングされた基板の液室上に、ノズルを形成したシートを、ノズルとエネルギー発生素子との位置が合うように貼り合わせる第4工程
等である。
そして、このようにして製造されたヘッドを、必要に応じて外部の基板と配線したり、別の筐体に組み付けたりして、インクジェットプリンタを完成させるのである。
【0009】
ここで、第2工程におけるインク液室の形成は、基板上の感光性樹脂層の一部を露光し、その後、未露光部分を除去することにより行い、第4工程では、残った感光性樹脂層の露光表面に、液室上に蓋をするがごとくシートを貼り付けている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
そして、ノズルを形成したシートの貼り付けについてさらに詳述すると、シートは、熱・光・電子線・超音波等によって、感光性樹脂層と接着させる。この接着は、感光性樹脂層を液室が形成されるようにパターニングした後、多少の架橋成分が残った状態にしておいて、ダイシング等の方法により基板を切り出し、シートとの貼り合わせ時に、この残った架橋成分を用いる。すなわち、熱・光・電子線・超音波等によって架橋すると同時に、架橋により発生する界面接着力によって強固な接着を行うのである。
【0011】
【特許文献1】
特開平10−338798号公報 (第2−3頁、図1)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来のシート貼り付け方法では、以下の問題点があった。
すなわち、この製造方法においては、感光性樹脂層に残留架橋成分がある状態で基板をダイシングする必要が生じる。
ダイシング工程では通常、ダイサーと呼ばれる専用の設備が使用され、その設備に装着された非常に薄いダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)を高速で回転させ、被切削物(エネルギー発生素子を配し、感光性樹脂層で液室を形成した基板)を、基板とダイヤモンドブレードとの間に切削水を流しながら所定の速度にて切削する。なお、水と被切削物との摩擦による帯電を防止し、帯電による被切削物の表面へのゴミの付着等を防止するため、多くの場合、切削水は、炭酸ガスを含浸させたイオン交換水や純水を使用する。
【0013】
このため、被切削物はその表面が大量の水で曝されることとなるが、基板上の感光性樹脂層には、ダイシング工程の時点において、多少の架橋成分が残留していることから、切削水によって未架橋な感光性樹脂が加水分解を起こしたり、架橋のために使用される硬化剤が溶出したり、未架橋部分に水が浸入して膨潤したりするという問題がある。また、ダイシング時にダイヤモンドブレードから与えられる衝撃や、切削水の水圧によって、微細にパターニング形成された液室の一部に欠損や剥がれが生じることがあるという問題もある。さらに、感光性樹脂層の表面には多少の粘着性が残っていることから、ダイシング時の切り屑の付着も問題となる。
【0014】
このように、特にダイシング工程において様々な問題が生じるが、他の工程においても、周辺設備や治具から発生した微小なパーティクル等の付着といった、基板搬送時の環境に基づく問題がある。また、感光性樹脂層が環境中に曝露された状態で放置されると、未架橋部分の架橋が進行して接着力が低下することとなるので、保管時のきめ細かな管理が必要となる。
【0015】
そして、前述した問題が生じた感光性樹脂層であると、基板からの剥がれが生じたり、感光性樹脂層の露光表面にノズルを形成したシートを貼り付けてヘッドを製造した場合、シートの剥離が発生しやすいものとなってしまう。
また、このようなヘッドのノズルからインクを吐出し、写真や文字等を印画・印刷すると、インク漏れが発生して、インクジェットプリンタが本来持つ美麗な印字・印画能力が極端に低下してしまう。
【0016】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、前述した既存の製造工程(特に、架橋成分が残留した感光性樹脂層を含む基板をダイシングする工程)をそのまま流用しつつ、基板と感光性樹脂層との剥離、感光性樹脂層とノズルを形成したシートとの剥離を防止できる製造方法とすることである。
また、剥離が防止されたヘッドを、例えばインクジェットプリンタに使用することで、美麗な印字・印画能力を最大限に引き出し、かつ、長期にわたり高い信頼性を得ることができるようにすることである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の解決手段によって、上述の課題を解決する。
本発明の1つである請求項1に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層を形成する工程と、前記感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、前記液室をパターニング形成する工程と、前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを形成したシートを貼り付ける工程とを有し、前記液室をパターニング形成した後に、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングしておくとともに、前記シートを貼り付ける前に、前記保護膜を剥離させておくことを特徴とする。
【0018】
上記の発明においては、液室をパターニング形成した後(ダイシング工程を有する場合には、特に、基板をダイシングする前)に、少なくとも感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングしておく。
したがって、基板上に形成された感光性樹脂層の表面に直接ゴミ等が付着することがなくなり(付着しても保護膜の上となり)、ダイシング時に水と接しても感光性樹脂層自体が水による影響を受けることがなくなる。すなわち、ダイシング時の切削水によって、基板と感光性樹脂層との間に水が染み込んだり、感光性樹脂自体が加水分解したりして、長期間経過後に基板と感光性樹脂層とが剥離するような問題を回避しているのである。また、ダイヤモンドブレードから与えられる衝撃や切削水の水圧によって、微細にパターニング形成された液室が欠損することも防ぐことができるようになる。
【0019】
そして、シートを貼り付ける前(ダイシング工程を有する場合には、特に、基板をダイシングした後)に、保護膜を剥離させておく(取り除いておく)。すると、たとえゴミ等が保護膜の上に付着していたとしても、保護膜ごと取り去ることができる。
したがって、その後の工程でノズルを形成したシートを貼り付ける感光性樹脂層の表面は、液室をパターニング形成するために露光した際の状態(シートとの接着力を確保するための架橋成分が残った状態)が維持されることとなり、感光性樹脂自体の加水分解等を原因とするシートの剥がれが防げる。
【0020】
また、本発明の他の1つである請求項9に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを含む液体吐出部を複数並設したヘッドを備え、前記ヘッド中の各前記液体吐出部の前記ノズルから吐出される液滴を被記録媒体に着弾させてドットを形成する液体吐出装置であって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層が形成され、一部を露光した前記感光性樹脂層の未露光部分が除去されて、前記液室がパターニング形成され、前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを複数形成したシートが貼り付けられて前記ヘッドが構成されており、前記感光性樹脂層と前記シートとの貼り付け部が、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜で一旦コーティングした後、前記保護膜を剥離させてから貼り付けたものとなっていることを特徴とする。
【0021】
ここで、請求項9に係る発明は、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を、少なくとも感光性樹脂層の露光表面を保護膜で一旦コーティングした後、保護膜を剥離させてから貼り付けるという製造方法によって特定している。
このように、製造方法によって液体吐出装置を特定したのは、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を、その構造によって表現することは適当でないからである。
【0022】
すなわち、シートは、熱・光・電子線・超音波等によって感光性樹脂層と接着させるが、この接着は、感光性樹脂層に多少の架橋成分が残った状態にしておいて、シートとの貼り合わせ時に、この残った架橋成分を用いるようにしている。そして、感光性樹脂層における架橋成分の残留状況は、使用する感光性樹脂自体の架橋成分や、液室をパターニング形成する工程での露光条件等によっても変動するものであるから、残留の程度は相対的なものでしかない。そのため、感光性樹脂層の貼り付け部を架橋成分の残留で表現することは難しい。
【0023】
また、保護膜でコーティングすることによって、少なくともコーティング前の残留架橋成分が維持されるから、他の条件が同一であるとすれば、コーティングの有無によって架橋成分の残留程度には差異が生じる。すると、一旦コーティングした後に保護膜を剥離させて貼り付けたシートの接着力は、コーティングせずに貼り付けた場合の接着力よりも大きくなる。しかし、必要な接着力もヘッド構造等によって異なるから、感光性樹脂層とシートとの貼り付け部を接着力で特定することも難しい。
【0024】
したがって、請求項9の記載は、ノズルを形成したシートの剥離防止に関し、有意差のある感光性樹脂層の貼り付け部を製造方法によって特定したものであって、製造方法の如何にかかわらず、最終的に得られた液体吐出装置を意味するものである。
【0025】
なお、本発明における「パターニング形成される液室」とは、必ずしも液室の全体を指すものではなく、少なくとも液室の一部を構成する部分を指すものである。下記の実施形態において、液室の実施形態に対応するインク液室12では、基板14及び発熱抵抗体13がインク液室12の底壁を構成し、バリア層16(及び密着性向上層15)がインク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17がインク液室12の天壁を構成している。そして、バリア層16(インク液室12の側壁を構成する部分)がパターニング形成されるものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本発明における液体吐出ヘッドは、下記実施形態のインクジェットプリンタ用のヘッド11又はラインヘッド10に相当し、液体吐出装置はインクジェットプリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)に相当する。また、液体としてインクを使用し、インクを収容する液室がインク液室12で、ノズル18から吐出される微少量(例えば数ピコリットル)のインクがインク液滴である。
さらにまた、エネルギー発生素子として発熱抵抗体13を使用しており、この発熱抵抗体13はインク液室12の一面(底壁部分)をも構成している。そして、発熱抵抗体13によってインク液室12中のインクが急速に加熱され、気泡が発生し、インク液滴を吐出する。
【0027】
さらに、本明細書において、1つの液室と、この液室内に配置されたエネルギー発生素子と、このエネルギー発生素子の上部に配置されて液滴の吐出口となるノズルとを含む部分を、「液体吐出部」と称する。すなわち、液体吐出ヘッドは、複数の液体吐出部を並設したものといえる。
なお、本発明に係る液体吐出ヘッド及び液体吐出装置は、下記実施形態に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0028】
図1は、本発明の方法により製造されたヘッド11を示す部分斜視図である。
図1に示すヘッド11において、基板14は、シリコン等からなる半導体基板であって、その一方の面には、半導体プロセスを用いて析出形成された微細な発熱抵抗体13を備えている。この発熱抵抗体13は、基板14上に形成された導体部(図示せず)を介して外部回路と電気的に接続されている。
【0029】
また、バリア層16は、基板14の発熱抵抗体13が形成された側の面に形成されたものであり、基板14の上面全体に感光性樹脂を積層し、この感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、パターニング形成されている。なお、図1に示すヘッド11においては、基板14とバリア層16との界面密着性を向上させるため、感光性樹脂を積層する前に、基板14に密着性向上層15を形成してある。
【0030】
さらに、ノズルシート17は、複数のノズル18が設けられたものであり、例えばニッケルによる電鋳技術により形成されている。そして、ノズル18の位置が発熱抵抗体13の位置と合うように、すなわちノズル18が発熱抵抗体13に対向するように精密に位置決めがなされ、バリア層16の上に貼り合わされている。
【0031】
インク液室12は、発熱抵抗体13を囲むように、基板14とバリア層16(及び密着性向上層15)とノズルシート17とから構成されている。すなわち、基板14及び発熱抵抗体13は、図1中、インク液室12の底壁を構成し、バリア層16(及び密着性向上層15)は、インク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17は、インク液室12の天壁を構成する。これにより、インク液室12は、図1中、左下方面に開口領域を有することとなり、この開口領域とインク流路(図示せず)とが連通される。
【0032】
上記の1個のヘッド11には、通常、100個単位の規模で、インク液室12と、各インク液室12内にそれぞれ配置された発熱抵抗体13と、各発熱抵抗体13上に位置するノズル18とから構成される液体吐出部が複数並設される。そして、プリンタの制御部からの指令によってこれら発熱抵抗体13のそれぞれを一意に選択することで、発熱抵抗体13に対応するインク液室12内のインクを、そのインク液室12に対向するノズル18からインク液滴として吐出させることができる。
【0033】
すなわち、ヘッド11と結合されたインクタンク(図示せず)からインクが供給され、インク液室12にインクが満たされる。そして、発熱抵抗体13に短時間、例えば1〜3μsecの間パルス電流を流すことにより、発熱抵抗体13が急速に加熱され、その結果、発熱抵抗体13と接する部分に気相のインク気泡が発生し、そのインク気泡の膨張によってある体積のインクが押しのけられる(インクが沸騰する)。これによって、ノズル18に接する部分の上記押しのけられたインクと同等の体積のインクが、インク液滴としてノズル18から吐出され、被記録媒体である印画紙上に着弾し、ドットが形成される。
【0034】
さらに、本実施形態では、複数のヘッド11を被記録媒体の幅方向に並べて、ラインヘッドを形成している。
図2は、ラインヘッド10の一実施形態を示す平面図である。図2では、4つのヘッド11(「N−1」、「N」、「N+1」及び「N+2」)のみを図示している。
ラインヘッド10を形成する場合には、図1中、ヘッド11からノズルシート17を除く部分(ヘッドチップ)を複数並設する。そして、これらのヘッドチップの上部であって、全てのヘッドチップの各インク液室12に対応する位置に、ノズル18が形成された1枚のノズルシート17を貼り合わせることにより、ラインヘッド10を形成する。
【0035】
ここで、各ヘッド11の配置は、隣接するヘッド11の各端部にあるノズル18同士のピッチ、すなわち、図2中のA部詳細図における、N番目のヘッド11の右端部にあるノズル18と、N+1番目のヘッド11の左端部にあるノズル18との間の間隔が、ヘッド11のノズル18間の間隔に等しくなるようにしてある。
また、このようなラインヘッド10を必要数だけノズル18の並び方向と直交する方向に並べてヘッド列を構成し、ヘッド列ごとに異なる色のインクを供給することで、カラー印画に対応させることもできる。
【0036】
このようなラインヘッド10を備えるプリンタでは、シリアル方式のものに対し、ラインヘッド10を被記録媒体の幅方向に移動させる走査機構が不要となるので、走査時間が必要なくなり、印画時間の短縮化に大きく寄与するので、このラインヘッド10を搭載したプリンタの付加価値を大きく高めるものとなる。
【0037】
なお、多数の液体吐出部を並設する場合には、液体吐出部の吐出特性、例えばインク液滴の吐出方向が液体吐出部ごとに不揃いとなる場合がある。また、ラインヘッド10のように複数のヘッド11を並設する場合には、ヘッド11ごとの液体吐出部の吐出特性が不揃いとなる場合がある。このような場合には、インク液滴の着弾位置ずれとなって表れる。そこで、既に本件出願人によって提案されている技術(例えば、特願2003−55236)のように、1つのインク液室12内に複数の発熱抵抗体13を設け、複数の発熱抵抗体13へのエネルギーの供給の仕方を変えることによって、インク液滴の吐出方向を複数の方向に可変とすることで、インク液滴の着弾位置を調整することが可能である。
【0038】
次に、上記ヘッドを製造する方法の一実施形態について説明する。
図3及び図4は、ヘッドの製造方法を工程ごとに順序立てて説明したものである。なお、図3及び図4に示す工程においては、図1に示した密着性向上層15がないもので説明する。
【0039】
図3に示す工程1では、まず、発熱抵抗体13が作り込まれた基板14を準備する。
この発熱抵抗体13は、先にも説明した通り、エネルギー発生素子であってインクに気泡を生じさせるものであり、シリコン、ガラス、セラミックス等の基板14の上に、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら作り込まれている。
【0040】
続く工程2では、基板14上に、図1に記載されたバリア層16を構成する感光性樹脂を塗布し、感光性樹脂層21を形成する。
この感光性樹脂としては、半導体・ディスプレイ製造用に多種上市されているフォトレジストや、感光性層間絶縁材料、メッキ用マスクとして上市されているドライフィルムレジスト、プリント基板用途等に上市されている各種の感光性材料、印刷用製版等に用いられる感光性材料等の様々な種類のものの中から、最適なものを選定することが可能である。一例としては、環化イソプレンを主成分とし、これに感光剤や各種添加物(レベリング剤、シランカップリング剤等)を同時に適正量含有させ、これをまた適正量の溶媒等で希釈した、ネガレジスト等の感光性樹脂があげられる。
【0041】
また、感光性樹脂の基板14への塗布方法としては、使用する基板14の形状によって様々な可能性が考えられるが、スピンコート、バーコート、カーテンコート、メニスカスコート、スプレイコート等の中から最適なものを選択すればよい。この場合、感光性樹脂を液体状態として供給する必要があることは言うまでもない。なお、感光性樹脂の塗布後に、樹脂溶液中に含まれる溶剤を、しかるべき加熱(ベーキング)方式にて基板14を加熱することにより、揮散させる工程を導入しても差し支えない。
【0042】
工程3では、感光性樹脂層21に、しかるべき形状のパターンを描いたフォトマスク31を介して、感光性樹脂を感光するに最適な波長帯の放射光32を持った露光機(図示せず)による露光を行う。
露光機には、マスクと形成されるパターンとが1:1になるコンタクトアライナーやミラープロジェクションアライナー等を用いても良いし、マスクが実際に形成されるパターンよりも大きく、同じパターンを基板上に複数回繰り返し露光(ステップ&リピート露光)するステッパー等を用いても良い。なお、露光後に露光された部分のパターニング特性を向上させたり、感光性樹脂が酸発生剤を利用してパターニングしたりするものである場合には、露光後に、ベークする工程を追加しても差し支えない。
【0043】
工程4では、工程3にて露光した感光性樹脂層21を所定の現像液で現像し、未露光部分を除去することによって基板14上にバリア層16を形成する。すなわち、工程3及び工程4により、インク液室12の一部を構成しているバリア層16がパターニング形成される。
現像液は、使用する感光性樹脂によって異なるが、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)やモノエタノールアミン等の水溶液、各種有機溶剤等が一般的に使用される。なお、感光性樹脂として、上記の環化イソプレンを主成分とするものを用いた場合には、キシレン含有溶剤やイソパラフィン系炭化水素等の溶剤が現像液に使用される。
【0044】
また、現像後には、必要に応じ、残留現像液の置換や表面洗浄を目的として、所定のリンス液や水(純水やイオン交換水)でリンスすることも可能である。さらにその後、基板14の表面に残った水分や溶媒を揮散させるための加熱や、スピンナーを使用した振り切り乾燥、真空チャンバーによる真空乾燥、大気中や窒素雰囲気中での自然放置を行っても良い。
【0045】
このように、工程1〜4にて基板14上にバリア層16が形成されるが、本実施形態における基板14は、後述する工程6にてダイシングされ、適当な大きさに切り分けられる。そこで、ダイシング工程(工程6)の前に保護膜22でコーティングしておく。
すなわち、工程5では、表面に露出している基板14、発熱抵抗体13、工程4にて形成されたバリア層16(以下、これらを「基板14」で代表させる。)の上に、保護膜22をコーティングする。
【0046】
コーティング材料には、液状樹脂や、固体樹脂を溶剤又は水に溶かしたものを使用し、溶媒や水を揮散させて保護膜22とする。
ここで、液状樹脂の具体例としては、離型用シリコーンゴム(例えば、信越シリコーン製の型取り用RTVゴム等が好適なものである。)や、液状パラフィン等があげられる。離型用シリコーンゴム等の液状樹脂は、基板14の表面に塗布後、適当な温度にすることによって、また、適当な時間だけ放置することによって硬化して保護膜22となる。そして、下地である基板14との離型性が良く、後述するダイシング工程(工程6)にて基板14を切断した後、基板14の表面(保護膜22の表面側)に粘着性シート(図示せず)を貼り付けることにより、簡単に剥離させることが可能である。
【0047】
また、固体樹脂を有機溶剤に溶かしたものの具体例としては、半導体やフラットパネルディスプレイやその他の電子機器類の微細加工用に使用されるフォトレジスト等があげられる。例えば、ノボラック型フェノール樹脂とナフトキノンジアジドと有機溶剤と各種添加物とからなるポジ型液状フォトレジストが好適に用いられる。具体的には、東京応化工業製の厚膜ポジ型レジストPMER−900Pや、クラリアント社製厚膜ポジ型レジストAZ9200シリーズ等があげられる。なお、このような厚膜タイプの高粘度のものではなく、薄膜形成用の低粘度品でも全く問題は無いし、その他の材料でも、下地であるバリア層16を構成する感光性樹脂を溶かしたり変形させたりしないものであれば使用可能である。
【0048】
一方、固体樹脂を水に溶かしたものの具体例としては、PVA(ポリビニルアルコール)の水溶液があげられる。PVAの場合、材料自体が水溶性であることから、使用後に不要となった保護膜22は、水又は温水によって比較的簡単に剥離させることができる。
ただし、ダイシング時の切削水によって剥離してしまう可能性も大きいことから、PVA樹脂そのものに鹸化度の高いものを使用することが好ましい。鹸化度としては、ダイシングに使用する切削水の温度が通常25℃前後であることから考えて、50〜99.5mol%の範囲のもの、好適には90〜99.5mol%のものである。具体的には、クラレ社製のポバールがあげられ、その中でも樹脂の塗布、ダイシング、膜剥離のそれぞれのプロセス条件によって、最適な鹸化度の材料を選定する。
このように、比較的高鹸化度の材料を使用することによって、ダイシング時の切削水には溶けにくく、後述する剥離工程(工程7)で温水を使用することにより、保護膜22の剥離を確実なものとすることができるようになる。
【0049】
これらのコーティング材料の塗布方法は、通常のソルベントコート法にて行うことが一般的である。ソルベントコート法としては、スピンコート、バーコート、グラビアロールコート、スプレイコート、メニスカスコート等をあげることができる。
また、コーティング後の後処理や、溶媒や水を揮散させて保護膜22を固体膜化するために、ホットプレートやオーブン等を利用した適温の加熱処理を施しても良い。
【0050】
図4に示す工程6では、工程5にて保護膜22をコーティングした基板14をダイサー(図示せず)のステージ上にセットし、切削水42を適宜流しながら、ダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)41を高速で回転させ、チップ61のカットラインに沿って基板14を切断する。
この際、保護膜22がコーティングされていることから、切削水42が基板14とバリア層16との間に染み込んだり、バリア層16を構成する最終キュア前の感光性樹脂が加水分解してしまうことはない。そのため、経年変化によって基板14とバリア層16との間に剥離が生じることもなく、本実施形態の方法により製造したヘッドを使用したプリンタは、このヘッドが本来持つ美麗な印字・印画能力を維持したものとなる。
【0051】
続く工程7では、工程6にて切り出された基板14を、チップ61単位で、又は切削用シート(図示せず)上に貼り付けたままの状態で、保護膜剥離用装置(図示せず)のステージ51上に乗せ、しかるべき剥離液52によって保護膜22の剥離を行う。
この際、ステージ51を回転させながら剥離プロセスを行っても良いし、場合によっては、ステージ51ごと剥離液中にしかるべき時間浸漬するようにしても良い。また、同時に、剥離液52を加熱したり、超音波を併用したりしても良いが、下地であるバリア層16、基板14上に作り込まれた発熱抵抗体13、発熱抵抗体13の駆動回路等に影響を与えない範囲で行うことは言うまでもない。
【0052】
なお、保護膜22にレジスト等の溶剤可溶樹脂を使用した場合には、これを溶解できる溶剤を剥離液52として使用できるが、前述したように、保護膜22の下地であるバリア層16の感光性樹脂を溶かしにくい溶媒を選定する。
また、保護膜22にPVA等の水溶性樹脂を使用した場合には、温水を剥離液52として使用することが可能であるが、極度なオーバー剥離(バリア層16が露出した状態で温水に曝される状態)を行うと、水に曝さないようにするために保護膜22をコーティングした趣旨が没却され、キュア前である感光性樹脂が剥離用の水(温水)に曝されて本末転倒になってしまう可能性があることから、剥離液52の温度、剥離状態、時間等の管理を行っておく。
【0053】
工程8では、工程7にて保護膜22が剥離されたバリア層16の上に、ノズルシート17を貼り付ける。
ノズルシート17の貼り付けには、熱・光・電子線・超音波及びこれらの1つ以上とプレス等の手段とを併用する。この貼り付けプロセスでは、基板14上の発熱抵抗体13と、ノズルシート17のノズル18とを正確に位置合わせした上で行う。この位置合わせが不正確であると、このヘッドをプリンタに使用した場合、インクの吐出角度が不正確になったりインクの吐出に不具合が生じることがあり、プリンタ本来の美麗な印字・印画能力が最大限に引き出せなくなる。
また、ノズルシート17の貼り付けと同時に、バリア層16を構成する感光性樹脂を強固にするための最終キュアを行うこともできる。
【0054】
したがって、前述した工程1〜8により、最終的に図1に示すヘッド11が製造されることとなり、このヘッド11を被記録媒体の幅方向に複数並べれば、図2に示すラインヘッド10が形成される。
【0055】
なお、本実施形態では、サーマル方式の吐出構造として発熱抵抗体13を設けたものを例に挙げたが、エネルギー発生素子は発熱抵抗体に限らず、他の発熱素子(抵抗以外のもの)であっても良く、さらに、静電吐出方式やピエゾ方式のものについても適用可能である。
【0056】
また、ライン方式だけでなくシリアル方式にも適用でき、しかも、プリンタのみならず、種々の液体吐出装置に適用できるものであり、例を示せば、染め物に対する染料の吐出や、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置等に適用することも可能である。
【0057】
【発明の効果】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法によれば、感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングするようにしたので、基板からの感光性樹脂層の剥離や、感光性樹脂層とノズルを形成したシートとの剥離を防止することができるようになる。また、特にダイシング時の切り屑や、基板の搬送時において、環境や設備や治具から発生した、印画品質に影響するような微小なパーティクル等の付着も防止できるようになる。さらには、感光性樹脂層でパターニング形成された液室の欠損をも防ぐことができるようになる。
【0058】
また、本発明の液体吐出装置によれば、耐久性が向上し、長期間にわたり高い信頼性を得ることができる。特に、本発明の液体吐出装置をインクジェットプリンタとした場合には、その性能を十分に発揮することができ、インクジェットプリンタが本来持つ美麗な印字・印画能力を最大限に引き出せるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法により製造された液体吐出ヘッドを示す部分斜視図である。
【図2】ラインヘッドの実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程1〜工程5まで)を示す図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程6〜工程8まで)を示す図である。
【符号の説明】
10 ラインヘッド(液体吐出ヘッド)
11 ヘッド(液体吐出ヘッド)
12 インク液室(液室)
13 発熱抵抗体(エネルギー発生素子)
14 基板
15 密着性向上層
16 バリア層
17 ノズルシート
18 ノズル
21 感光性樹脂層
22 保護膜
31 フォトマスク
32 放射光
41 ダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)
42 切削水
51 ステージ
52 剥離液
61 チップ
Claims (9)
- 吐出すべき液体を収容する液室と、
前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、
前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層を形成する工程と、
前記感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより、前記液室をパターニング形成する工程と、
前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを形成したシートを貼り付ける工程とを有し、
前記液室をパターニング形成した後に、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜でコーティングしておくとともに、
前記シートを貼り付ける前に、前記保護膜を剥離させておく
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記感光性樹脂層を形成する前に、前記基板上に密着性向上層を形成しておく
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記液室がパターニング形成された前記基板を、ダイシングによって切り出す工程を有し、
前記基板をダイシングする前に、前記基板上を保護膜でコーティングしておくとともに、
前記基板をダイシングした後に、前記保護膜を剥離させておく
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記液室がパターニング形成された前記基板上に、液状樹脂をコーティングして前記保護膜を形成する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記液室がパターニング形成された前記基板上に、有機溶剤に溶かした固体樹脂をコーティングして前記保護膜を形成する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記液室がパターニング形成された前記基板上に、水に溶かした固体樹脂をコーティングして前記保護膜を形成する
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
コーティングされた前記保護膜に、剥離液を塗布して前記保護膜を剥離させる
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記保護膜がコーティングされた前記基板を、剥離液に浸漬して前記保護膜を剥離させる
ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。 - 吐出すべき液体を収容する液室と、
前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、
前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルと
を含む液体吐出部を複数並設したヘッドを備え、
前記ヘッド中の各前記液体吐出部の前記ノズルから吐出される液滴を被記録媒体に着弾させてドットを形成する液体吐出装置であって、
前記エネルギー発生素子を配した基板上に、感光性樹脂層が形成され、
一部を露光した前記感光性樹脂層の未露光部分が除去されて、前記液室がパターニング形成され、
前記基板上に残った前記感光性樹脂層の露光表面に、前記ノズルを複数形成したシートが貼り付けられてヘッドが構成されており、
前記感光性樹脂層と前記シートとの貼り付け部が、少なくとも前記感光性樹脂層の露光表面を保護膜で一旦コーティングした後、前記保護膜を剥離させてから貼り付けたものとなっている
ことを特徴とする液体吐出装置。
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JP2003170271A JP2005001348A (ja) | 2003-06-16 | 2003-06-16 | 液体吐出ヘッドの製造方法及び液体吐出装置 |
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