JP2004526059A - 硬度の喪失または変形なしで、摩擦特性を改良するための鉄合金構成部材の処理方法 - Google Patents

硬度の喪失または変形なしで、摩擦特性を改良するための鉄合金構成部材の処理方法 Download PDF

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Abstract

極めて高い焼付き荷重に極めて低いばらつきにおいて耐える鉄合金構成部材を取得する方法であって、上記構成部材上に、適切な厚さとFe/S比を有する硫化鉄コーティングを塗布することからなり、上記コーティングが、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングから選ばれることを特徴とする方法。
上記方法に従って得られた構成部材。

Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦特性、主として焼付きおよび粘着抵抗性を硬度の喪失または変形のリスクなしで改良するための、鉄合金構成部材の処理方法に関する。
本発明は、高機械特性を有する、即ち、焼戻し温度が200℃よりも低い鉄鋼または鋳鉄における構成部材に応用する。
【背景技術】
【0002】
当業者であれば、互いにこすり合う2つの鉄鋼構成部材が、潤滑剤の不存在下では、極めて急速に焼付くことは承知している。また、当業者であれば、潤滑剤の役割が、滑りと熱の放出を促進するフィルムによって、表面の接触を分離することからなることも承知している。潤滑剤フィルムは、焼付きおよび材料の移送に起因する微細熔接の発生を抑制するのを可能にする。
有効であるためには、潤滑剤フィルムは、表面突起部の高さよりも大きい厚さを有しなければならない。フィルム厚は、フィルムの物理化学表面特性および顕微鏡尺度での表面形態に大いに依存している。しかしながら、機械加工からそのままの鉄鋼は、潤滑剤のフィルム厚が、概して、荷重または速度が大きくなる場合の連続潤滑性を確立するには不十分であるような表面特性を有する。
鉄鋼類の表面処理は、潤滑剤の吸収性または熔接防止特性のいずれかを或いはその両方を同時に改良する目的において発展してきている。
機械加工業においては、2つのカテゴリーの処理、即ち、リン酸処理と低温硫化が潤滑剤保持性を改良するために現在使用されている。リン酸処理は、主として、滑り接触の焼付きに対する抵抗性を増大させることを意図しており、そして、硫化は、硫化鉄(六方晶FeS)の形成による熔接抑制特性を有する表面をさらに与え、この場合、その焼付き防止特性はリン酸処理によって得られる焼付き防止特性よりも優れている。
【0003】
リン酸鉄または硫化鉄のような化合物の物理化学特性は、これらの成分の表面エネルギーが鉄鋼の表面エネルギーよりもはるかに高いことから、潤滑剤の改良された湿潤性に寄与している。さらにまた、これらの成分は、低い剪断抵抗性、並びに据付運転条件および表面疲労を被る接触磨耗に対する抵抗性の改良を可能とする優れた順応能力も有する。
塩水中での融解塩の電気分解硫化は、特許文献1に記載されている。
低温硫化は、陽極電解を使用して、約200℃の温度の融解塩混合物中で実施し、六方晶硫化鉄FeSを生成させている。この最近開示された方法は、本出願人の特許である特許文献2に記載されている。
にもかかわらず、従来技術に従ってコーティングした構成部材類は、新しい要件を、とりわけ新世代の直噴エンジンにおいて使用するメカニズムに関しては満たしていない。
【0004】
【特許文献1】
FR-A-1 406 530号
【特許文献2】
FR-A-2 050 754号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、圧力と速度の端的条件下において改良された摩擦特性、主として、硬度の喪失または変形なしで焼付きおよび粘着に対する抵抗性を有する鉄合金構成部材を取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の説明により明らかとなるであろう上記目的および他の目的は、本発明の方法によって満たされる。
驚くべきことに、本出願人は、硫化鉄コーティングを有する鉄合金構成部材において、その硫化鉄コーティング表面のフラクタル特性(fractal dimension)が決定的な役割を奏し、如何なる場合も、化学量論結晶構造、即ち、純粋物よりもはるかに大きい影響を有することを見出した。
従って、本出願人は、極めて高い焼付き荷重を極めて低いばらつきおよび多数回のサイクルでもって支持する鉄合金構成部材を取得する方法であって、上記構成部材上に、適切な厚さとFe/S比を有する硫化鉄コーティングを塗布することからなり、上記コーティングが、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングから選ばれることを特徴とする方法を開発した。
例えば、本発明の方法に従って得られる構成部材は、約5%に等しい最大許容度でもって少なくとも約3000 daNに等しいASTM-D-2670規格に従うファビレ レバリー(FAVILLE LEVALLY)装置での試験における焼付き荷重、並びに少なくとも約300回に等しいハムスレー(Hamsler)試験に従うサイクル数に耐える。
当業者であれば、上記の適切な厚さおよびFe/S比は、容易に決定し得るであろう。下記の実施例において示すように、厚さが薄すぎると、フラクタル特性が少なくとも2.6に等しいにもかかわらず、焼付き抵抗性を担保するには不十分であり、また、厚さが厚すぎると、少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を得るのができなくなる。これらのパラメーターは、各個々の場合において、経験的に調整すべきである。
有利には、上記コーティングは、表面が2.65〜2.75のフラクタル特性を有するコーティングから選択する。
本発明の好ましい実施態様においては、約0.69〜0.85のFe/S比に相当する化学量論を有するコーティングから選択する。
また、上記コーティングは、約15μm未満、より良好には約6μm未満の厚さを有するコーティングから選択するのが好ましい。
【0007】
フラクタル特性は、粗さ指示計、例えば、下記の特性を有する無接触型共焦点タイプの3D粗さ指示計によって得られる:
横方向解像力 300 nm
縦方向解像力 30 nm
縦方向変位 1 mm
その後、上記粗さ指示計を使用して得られたデータは、フラクタル特性を得るのに必要な数量を抽出する特別な算出アルゴリズムに入力する。
上記の高解像力粗さ指示計の使用は、フラクタル特性の正確な測定を確かにするのに不可欠であることに留意すべきである。また、無接触型粗さ指示計を使用して、表面形態が粗さ形状の測定中に如何なる形でも変化しないことを担保することも重要である。
硫化鉄コーティングは、鉄合金構成部材上に、当業者にとって公知の処理によって、例えば、特許FR-A-1 406 530号に従う融解塩浴中での電気分解硫化、或いは本出願人が経験的に示しているような塩水中での硫化または塩浴中での硫化によって生成させる。
また、本発明は、上述の方法によって選択した構成部材にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施例により、本発明を非限定的に例示する。
【実施例1】
【0009】
浸炭、焼入れおよび表面処理に供したスチール16 NC6内の直径6.35 mmおよび高さ40 mmを有する各円筒状試験片(シリンダー)を下記の条件で処理した:
条件1:特許 FR-A-1 406 530 号に従う融解塩浴中での電気分解硫化
‐処理温度:190℃
‐浸漬時間:15分
塩水の組成(質量%):
SCN= 62.75%
Na+= 7.1%
K+= 30.15%
‐電流密度:2.8〜3.2 A/dm2
条件2:塩水中での硫化
‐処理温度:100〜135℃
‐浸漬時間:3〜10時間
‐塩水の組成(質量%):
OH= 8.50%
S2O8 2 = 12.10%
S2O3 2 = 8.86%
Cl= 1.52%
Na+= 19.02%
条件3:塩浴中での硫化
‐処理温度:180〜280℃
‐浸漬時間:1.5〜3時間
‐塩水の組成(質量%):
OH= 2.10%
S2O8 2 = 24.20%
S2O3 2 = 17.75%
HSO4 == 33.75%
NH4 == 6.25%
Na+= 15.95%
【0010】
処理後、各試験片は、硫化鉄のコーティングを有する。その後、各試験片を油処理し、ファブレ レバリー装置で試験し(ASTM-D-2670に従って)、処理シリンダーを、浸炭および焼入れに供したがさらなる処理は行っていないスチール16NC6の2つの入口間で回転せしめる。試験は、上記シリンダーに加える荷重を焼付きが起るまで増大させることからなる。その後、焼付き荷重を測定し、試験を5回繰り返して平均の焼付き荷重および測定のばらつきを評価する。
各シリンダーを、処理後のコーティング表面のフラクタル特性を測定するための試験の前に、特性決定する。フラクタル特性は、下記の特性を有する無接触型共焦点タイプの3D粗さ指示計によって得る:
横方向解像力 300 nm
縦方向解像力 30 nm
縦方向変位 1 mm
その後、上記粗さ指示計によって得られたデータは、フラクタル特性を得るのに必要な数量を抽出する特別な算出アルゴリズムに入力する。
本発明に従い、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングを選択する。
得られた結果を下記の表1に示し、同じ試験条件において比較する。比較において、未処理試験片は、試験の開始時に直ぐに焼付く。
【0011】
表1
Figure 2004526059
【0012】
本発明に従う構成部材(シリンダー)は、少なくとも約3000 daNに等しいASTM-D-2670規格に従うファビレ レバリー装置での試験における焼付き荷重を示している。
また、本発明に従って硫化鉄でコーティングした各シリンダーは、小フラクタル特性を有する硫化鉄によって従来得られた最良の結果よりも約3倍の焼付き荷重を有することも観察される。
さらに、結果のばらつきも、硫化鉄が2.6よりも大きいフラクタル特性を有するときは4倍小さい。
【実施例2】
【0013】
DIN 51350規格(パート1〜5)に従ういわゆる“フォアボール テスター(four-ball tester)”での試験を実施して上記焼付き試験を補完し、硫化鉄のFe/S比および層厚の影響を検証した。浸炭および焼入れに供してHRC 60とし、直径60 mmおよび厚さ10 mmを有するスチール15CrMo4の各ディスクを、実施例1に記載した条件1、2および3、並びに下記に示す追加の条件で処理した:
条件4:塩水中での硫化
‐処理温度:100〜130℃
‐浸漬時間:3時間10分
‐塩水の組成(質量%):
OH= 10.52%
S2O8 2 = 9.8%
S2O3 2 = 5.74%
Cl= 0.55%
Na+= 19.12%
処理後、各構成部材は、硫化鉄コーティングを有する。
試験は、60℃の純粋鉱油の浴中で実施した。5回の試験から得た平均焼付き荷重とばらつきを下記の表2に示す。コーティング表面のフラクタル特性は、実施例1に記載したのと同じ装置を使用して測定した。結果を表2に示す。
【0014】
表2
Figure 2004526059
【0015】
本発明に従い、コーティングを、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングから選択する。
また、Fe/S比が0.69〜0.85の範囲にあるコーティングを有する構成部材をさらに選択した場合、焼付き荷重およびばらつきは、影響を受けていないことも観察し得る。同じことは、1.5〜15μmのコーティング厚にも当てはまる。一方、0.5μmの厚さは焼付き抵抗性を担保するには不十分であり、20μmの厚さにおいては、少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有する硫化鉄を得ることができない。
【実施例3】
【0016】
フラクタル硫化鉄コーティングを有する構成部材選択の不安定な潤滑油との永続的に困難な接触条件に対する関連度を特性決定するために、同じ直径を有する2本のシリンダーを互いに対して5m.s-1の速度と1200 MPaの圧力で習動させて、シミュレーションを実施した。接触子に、1時間の据付運転期の間、80℃のオイル600 NS (16 cSt)を供給し、その後、給油をストップした。給油を、摩擦係数が0.085の臨界値(境界潤滑条件での摩擦)に達すると直ぐに再開し、その後、摩擦係数が0.04辺りの安定値に達したときに再度ストップした。その後、この操作を繰り返し、不可逆的な焼付き前のサイクル数を記録した。
各シリンダーは、前述の条件1、2および3で処理し、選択した。各シリンダーのコーティング表面のフラクタル特性は、実施例1に記載した装置を使用して測定した。
得られた結果は、表3に示す。
【0017】
表3
Figure 2004526059
本発明に従い、コーティングを、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングから選択する。

Claims (6)

  1. 極めて高い焼付き荷重を極めて低いばらつきおよび多数回のサイクルでもって支持する鉄合金構成部材を取得する方法であって、前記構成部材上に、適切な厚さとFe/S比を有する硫化鉄コーティングを塗布することからなる方法において、
    前記コーティングが、表面が少なくとも2.6に等しいフラクタル特性を有するコーティングから選ばれることを特徴とする前記方法。
  2. 前記コーティングが、表面が2.65〜2.75のフラクタル特性を有するコーティングから選ばれる、請求項1記載の方法。
  3. 前記コーティングが、約0.69〜0.85のFe/S比に相当する化学量論を有するコーティングから選ばれる、請求項1または2のいずれか1項記載の方法。
  4. 前記コーティングが、約15μm未満の厚さを有するコーティングから選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 前記コーティングが、約6μm未満の厚さを有するコーティングから選ばれる、請求項4記載の方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に従って得られた構成部材。
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