JP2004521481A - 量子カスケードレーザー - Google Patents
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Abstract
・各々が量子障壁の性質を示す第一の型の薄層(22)と各々が量子井戸の性質を示す第二の型の薄層(24)(前記薄層は、それぞれ前記量子障壁と量子井戸とを形成する第一の半導体材料と第二の半導体材料とからなっている)とを各層が交互に有する数個の層(20)を有してなる利得領域(14)、並びに
前記利得領域(14)の両側に配置された2つの光閉じ込め層(12、16)
を有する量子カスケードレーザー。
本発明においては、利得領域(14)の各層(20)が活性領域が3つの副帯を有し、2つの最も離れた副帯間の電子の遷移によって、2つの光学フォノンの放出に必要なエネルギーに対応するエネルギー(EGH、EHJ)の放出を伴うように副帯間のポテンシャルの差が設定されている。
【選択図】図1
Description
本発明は量子カスケードレーザーに関する。より詳しくは、制御電場を与えるための2つの電極と、該2つの電極の間に配置される導波管を有するレーザーであって、
・各々が量子障壁の性質を示す第一の型の薄層と各々が量子井戸の性質を示す第二の型の薄層(前記薄層はそれぞれ量子障壁と量子井戸とを形成する第一の半導体材料と第二の半導体材料とからなっている)とを各層が交互に有する数個の層を有してなる利得領域、並びに
・前記利得領域の両側に配置された2つの光閉じ込め層
を有するレーザーに関する。
【0002】
この明細書において、「薄層」という用語はその組成がある程度均一である薄い層を意味し、「層」という用語は同一の機能を与える1セットの薄層を意味する。
【0003】
この型のレーザーは米国特許第5,457,709に記載されている。該米国特許のレーザーはそれぞれ障壁と量子井戸とを形成する第一の型の薄層と第二の型の薄層とからなる。障壁と井戸とを構成する材料は、レーザーの厚み全体に単一の結晶構造を保つために、基板の格子定数に実質的に等しい格子定数を有するように選択される。
【0004】
第一の型の薄層を形成する第一の材料の結晶ポテンシャルと、第二の型の薄層を形成する第二の材料の結晶ポテンシャルとの相違によって、副帯と呼ばれる、量子効果による1以上の2次元状態が定められる。
【0005】
前記層の各々は活性領域とエネルギー緩和領域とを有する。前記電極の両端に電場を与えることにより、特に利得領域内に荷電キャリヤの流れを発生させる。
【0006】
レーザー光線の放出は、活性領域において、第一の副帯から第二の副帯に荷電キャリヤが遷移することによって起こる。通常、これらの荷電キャリヤは電子である。副帯間遷移と呼ばれるこの現象は、光子の放出を伴う。
【0007】
より詳細には、活性領域の井戸は少なくとも3つの副帯を有しており、それぞれ、上側副帯(upper subband)、中間副帯(middle subband)及び下側副帯(lower subband)と称されている。光子の放出は、上側副帯と中間副帯との間で遷移が起こるときに発生する。光フォノンの放出と共にその電子が下側副帯の方に移ることによって中間副帯における電子の分布が小さくなるので、このような遷移が可能になる。このような状態を可能にするために、中間副帯から下側副帯へと荷電キャリヤが動くことによって失われるエネルギーが、使用される材料に特定の光フォノンのエネルギーよりも大きいか等しいことが必要である。
【0008】
本発明の主目的は、この型のレーザーを改良することである。このために、利得領域の各層は注入障壁層と少なくとも3対の薄層を含む活性領域とを有する。薄層の各対は、第一の型の薄層と第二の型の薄層とを有してなる。井戸の各々が少なくとも第一の上側副帯、第二の中間副帯、第三及び第四の下側副帯を有するように、各層の活性領域の薄層が配置されると共に、第二の副帯から第三の副帯への電子の遷移、又は第三の副帯から第四の副帯への電子の遷移が、この単一結晶の光フォノンの放出に必要なエネルギーに対応するエネルギーを放出するように、第二の副帯と第三の副帯との間のポテンシャルの相違、又は第三の副帯と第四の副帯との間のポテンシャルの相違が設定されている。
【0009】
本発明によるレーザーは、第二の型の薄層を少なくとも4つ有していると好ましい。
【0010】
このようなレーザーにおいては、障壁を形成する第一の材料と井戸を形成する第二の材料とが連続的に堆積されており、また、第二の材料は純粋であるか適切に不純物添加されており、隣り合う薄層に隣接する少しの原子層を除いては、各薄層は均一の組成を有している。このようにすることによって、殆ど垂直な側面を有する連続した井戸と障壁とを得ることができる。ここで、電子はこれらの薄層の接合面で分散する傾向があることがわかっている。
【0011】
より詳細には、ケイ.エル.キャンプマン(K. L. Campman)らによってなされ、1996年10月21日付のAppl. Phys. Letters 69 (17)に「境界面の粗さ及び合金不規則分散の副帯間遷移線幅への寄与(Interface roughness and alloy−disorder scattering contributions to intersubband transition linewidths)」という題で発表された研究は、薄層の境界面が、しきい電流を増加させる副帯間遷移を広げるのに決定的な影響を与えることを示している。
【0012】
この電流を低減するために、特に有益な態様においては、第一の型の薄層と第二の型の薄層とは、その中央部において、それぞれ100%の濃度の第一の材料と第二の材料とを有する。一方、それら2つの中央部の間では、前記2つの材料の合金で薄層が形成され、その濃度は連続的に変化する。
【0013】
一般には、レーザーはリン化インディウム(InP)で出来た基板を有しており、その上に様々な層が載置される。
【0014】
InP基板を用いた場合は、第二の材料がInGaAsであり、第一の材料がAlGaAs、InP及びAlInAsから選択されるのが好ましい。
【0015】
用途によっては、レーザー光線の波長は比較的短くなくてはならない。「緊張補償InGaAs/AlInAsに基づく短波長量子カスケードレーザー(Short wavelength quantum cascade laser based on strained compensated InGaAs/AlInAs)」と題され、1998年2月9日発行のAppl. Phys. Letters第72巻第6号に発表された、ジェイ.フェイスト(J. Faist)らによる研究が、薄層を形成する二種類の材料の結晶ポテンシャルの相違を増加させて、結果として、放出される光子の波長を小さくすることが可能であることを示している。この理由によって、第一の材料と第二の材料を、片方の格子定数が他方の格子定数よりも大きく、また、他方の格子定数が基板の格子定数よりも小さくなるように選択すると有利である。
【0016】
ある用途においては、放出スペクトル幅の狭い光線にする必要がある。この目的のために、基板から離れている方の閉じ込め層は、その放出スペクトルの所望の波長の半分の倍数に等しいピッチを有する回折格子を特長とする構造を有している。
【0017】
本発明の他の効果及び特徴は、添付の図面を参照しながらなされる以下の記載によって理解されるであろう。
【0018】
図1は、一例として、本発明による量子カスケードレーザーの断面を概略的に示している。このレーザーはユニポーラ型であって、電子が荷電キャリヤである。
【0019】
この図では、厚さが特に小さい層があるので、相対的な層厚比は反映されていない。このレーザーは、単一の結晶性リン化インディウムの基板10を有しており、電極の場所を取っている。第一の光閉じ込め層12、薄層を積層した構造によって形成されている利得領域14、第二の光閉じ込め層16及び電極18からなる導波管がこの基板10の上に積層されている。基板10は、図示されていない支持体に留め付けられている。ワイヤ19が、通常、半田付けによって電極18に取り付けられている。基板とワイヤ19との間に電圧を印加することによって、レーザーは電力を供給される。
【0020】
光閉じ込め層12及び16は、砒素化インジウムの割合が52%、砒素化ガリウムの割合が48%であるインジウムとガリウムとの砒素化物の合金から作られている。このような組成によって、InPの格子定数に等しく、また、同じ格子定数を有する結晶構造が得られる。
【0021】
このように、図1の拡大部分から理解されるように、利得領域14は連続層20を有しており、連続層20は、第一の型の薄層22と第二の型の薄層24とからなっており、その2つの層が交互に配置されている。各連続層20は3つの異なる領域を有しており、それは、注入障壁層26、活性領域28、並びに注入及び緩和領域30である。
【0022】
量子障壁を形成する薄層22の各々は、主として、砒素化インディウム53モル%、砒素化アルミニウム47%のAlInAs合金よりなっている。この組成によって、InPの結晶構造と全く同じ結晶構造を形成することができる。
【0023】
量子井戸を形成する薄層24の各々は、主として、光閉じ込め層12及び16と同じ組成を有するInGaAsよりなっている。
【0024】
次の表1に示されている構造に従って本発明のレーザーを製造した。
【0025】
【表1】
【0026】
電極18の性質並びに光閉じ込め層12及び16の性質の例は、本願の出願人による特許出願PCT/CH 99/00572とPCT/CH 00/00159とに完全に記載されている。したがって、それらの構造についてはこの明細書では詳述しない。
【0027】
表2は、利得領域14の注入障壁層26、及び連続層20を形成する35層ある薄層の組成を示している。
【0028】
【表2】
【0029】
したがって、障壁層26は第一の型の薄層ただ一層からなり、活性領域28は各型の薄層4層ずつから形成され、緩和及び注入領域30は第一の型の薄層6層と第二の型の層7層とからなっている。
【0030】
このレーザーにおいては、電気的励起場の存在下で、活性領域内のポテンシャルが図2に示されるように変化する。このポテンシャルは銃眼模様状の構造を有している。即ち、第一の型の薄層に対応する空洞A、及び空洞とは別の障壁に対応する銃眼Bとを有する、
公知のレーザー、特に先に言及した米国特許第5,457,709号に記載されているレーザーにおいては、電子は光フォノンを用いて共鳴によって抽出される。これらのレーザーにおいては、図4の線図a)によって示されるように、各井戸において、電子はいくつかの副帯、即ち、上側副帯F、中間副帯G及び下側副帯Hを占有することができる。
【0031】
上側副帯Fは電子の注入ポテンシャルに対応する。活性電子はこの副帯からスタートする。これらの電子は中間副帯Gへと移動するときにレーザー光線を発生する。レーザー光線の放出を行わせるためには、上側副帯Fの分布が中間副帯Gの分布よりも大きい必要があり、これは、光フォノンを用いた共鳴によって得ることができる。この共鳴は、中間副帯Gと下側副帯Hとのポテンシャルの差が、電子の遷移に際して、エネルギー損失EGHに対応することによって発生する。このエネルギー損失は、この単一結晶によって放出される光フォノンのエネルギーに実質的に等しく、表1及び2に示されている材料を有する単一結晶において34 meVに等しい。
【0032】
2つのフォノンによる共鳴を用いると、例えば、図2の線図bに示されるような配置を採用すると、結果はより大きくなる場合がある。この配置において、電子は、第二下側副帯と呼ばれる第四の副帯Jを占有してもよい。第一下側副帯Hと第二下側副帯Jとの間のポテンシャルの差は、電子の遷移に際して、エネルギー損失EHJに対応する。これは実質的にEGHに等しいので、結果として放出される光フォノンのエネルギーに等しい。
【0033】
光フォノンの放出を伴う遷移としては、以下の3つの型が可能である。
−1つの光フォノンの放出を伴う、副帯Gから副帯Hへの遷移、
−1つの光フォノンの放出を伴う、副帯Hから副帯Jへの遷移、
−2つの光フォノンの放出を伴う、副帯Gから副帯Jへの遷移。
【0034】
これら全ての遷移によって副帯Gの分布を大きく低減させることが可能であるので、反転分布を強化し、結果としてレーザー操作を改良することができる。この改良は図3に説明されている。図3は供給される電力[mW]が電流[A]の関数としてどのように変化するかを示す2つの曲線を表示している。図中、切れ目のない線は本発明のレーザーについてのものであり、破線は1999年9月13日発行のAppl. Phys. Letters, 第75巻、第11号に「電気的に調節可能な室温量子カスケードレーザー」という題の論文に記載されている態様に対応するレーザーについての結果である。この2つのレーザーは同じ大きさであり、30℃という同じ温度で測定し、近い波長の光線を放出する。以下の表によって、得られた結果を比較することができる。
【0035】
【表3】
【0036】
図3の態様についての表より理解されるように、本発明のレーザーは従来のものよりも際だって高い効率を有し、さらに、同じ大きさであっても遙かに大きな電流を供給することができる。
【0037】
本発明によるレーザーは、図4によって示されるように、利得領域における薄層の化学組成を変更することによって改良することができる。この図において、化学組成は化学式GaxAl( 1−x )InAs(但し、xは層の厚さの範囲内において、考慮されている位置に応じて、0〜1である。)に対応すると推定される。x軸は構造体の厚さeに関し、y軸は上記変数xに関する。曲線Lは、従来技術のレーザーにおいて、及び上記例において示された組成の変化を示し、一方、曲線Mは本発明の特定の態様に関する。
【0038】
曲線Lに対応する組成を有する構造体を製造するためには、材料(InGaAsとAlInAsとを)続けて堆積させる。このように積層して行くことによって、井戸層と障壁層とがほぼ垂直な側壁を形成し、薄層間の分散が小さくなる。ケイ.エル.キャンプマン(K. L. Campman)らによって先に記載した論文中で説明されているように、これらの薄層間の境界面で電子が分散し易いことが発見されている。
【0039】
曲線Mに対応する層の組成であると、この欠点を軽減することができる。この曲線は薄層の中央部に最大値が来る形状を有しており、組成は2つの中央部の間で連続的に変化する。
【0040】
InGaAsの堆積とAlInAsの堆積とをより頻繁に交替させることによって、曲線Mによって示されているような層を作ることができる。各堆積層の厚さは薄層の部分を示し、2〜3の原子層に対応する。
【0041】
ある用途においては、光放出スペクトルを狭くする必要がある。この状態は上側閉じ込め層、即ち、基板から離れている方の閉じ込め層によって達成することができる。この層は、その放出スペクトルの所望の波長の倍数に等しいピッチを有する回折格子によって特徴付けられる構造を有している。このような格子の製造については、「赤外半導体レーザー(Laser semiconducteur infrarouge)」という題で提出された特許出願PCT/CH00/0159に記載されている。
【0042】
本発明による量子カスケードレーザーは、本発明の範囲から離れることなく、多くの変更を加えることができる。AlInAs以外の材料、例えば、InP又はAlGaAs等も障壁層を形成することができる。薄層の層及びその厚さも非常に大きく変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、本発明によるレーザーの構造を概略的に示しており、拡大部においては、注入障壁層、活性領域及び緩和領域を有する利得領域の層が示されている。
【図2】
図2は、活性領域、及び電子がその間を通過する副帯内のポテンシャルの変化を示している。
【図3】
図3は、曲線の形状で、本発明のレーザーによって得られた物理的性質を示している。
【図4】
図4は、利得領域の層における薄層の化学組成の変化を示している。
Claims (8)
- 制御電場を与えるための2つの電極(10、18)と、該2つの電極の間に配置される導波管を有すると共に
・各々が量子障壁の性質を示す第一の型の薄層(22)と各々が量子井戸の性質を示す第二の型の薄層(24)(前記薄層は、それぞれ前記量子障壁と量子井戸とを形成する第一の半導体材料と第二の半導体材料とからなっている)とを各層が交互に有する数個の層(20)を有してなる利得領域(14)、並びに
・前記利得領域(14)の両側に配置された2つの光閉じ込め層(12、16)
を有する量子カスケードレーザーであって、
利得領域(14)の各層(20)が注入障壁層(26)と少なくとも3対の薄層から形成されている活性領域(28)とを有し、該対の各々が第一の型の薄層(22)及び第二の型の薄層(24)からなっており、前記各層における活性領域の薄層が、各々の量子井戸が少なくとも第一の上側副帯(F)、第二の中間副帯(G)、第三の下側副帯(H)及び第四の下側副帯(J)を有し、第二の副帯と第三の副帯との間のポテンシャルの差、及び第三の副帯と第四の副帯との間のポテンシャルの差が、第二の副帯から第三の副帯への電子の遷移又は第三の副帯から第四の副帯への電子の遷移に伴って光フォノンの放出に必要なエネルギーに対応するエネルギー(EGH、EHJ)が放出されるようになっていることを特徴とすること。 - 前記領域(28)が第二の型の薄層を少なくとも4つ有していることを特徴とする請求項1に記載のレーザー。
- その中央部において、第一の型の薄層(22)と第二の型の薄層(24)とは、それぞれ第一の材料と第二の材料とを100%の濃度で有し、2つの中央部の間では薄層が前記2つの材料の合金で形成されており、2つの材料の合金中の濃度が連続的に変化することを特徴とする請求項1及び2に記載のレーザー。
- さらに基板(10)を有し、前記層(20)がその上に載置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザー。
- 前記基板(10)がリン化インジウムで作られていることを特徴とする請求項4に記載のレーザー。
- 前記第二の材料がInGaAsであり、第一の材料がAlGaAs、InP及びAlInAsより選択されることを特徴とする請求項5に記載のレーザー。
- 前記第一及び第二の材料が、一方の材料の格子定数が前記基板の格子定数よりも大きく、他方の材料の格子定数が基板の格子定数よりも小さくなるように選択されることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のレーザー。
- 前記基板(10)から離れている方の閉じ込め層(16)が、その所望の放出スペクトルの波長の半分の倍数に等しいピッチの回折格子を有する結晶構造であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載のレーザー。
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