JP2009239093A - 量子カスケードレーザ - Google Patents

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Tadataka Edamura
忠孝 枝村
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直大 秋草
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厚志 杉山
Takahide Ochiai
隆英 落合
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Abstract

【課題】 消費電力が低減されて高効率、高出力での動作が可能な量子カスケードレーザを提供する。
【解決手段】 半導体基板と、基板上に設けられ、発光層17及び注入層18からなる単位積層体16が多段に積層されることでカスケード構造が形成された活性層15とを備えて量子カスケードレーザを構成する。単位積層体16のサブバンド準位構造は、発光上準位Lupと、発光下準位Llowと、緩和ミニバンドMとを有する。注入層18のn個の井戸層は、最も後段側の第n井戸層の層厚が第n−1井戸層の層厚よりも薄くなるように構成され、第n井戸層において、最低緩和準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギーのミニバンドMの準位であって、第n井戸層で波動関数が最大となって後段の発光層への電子の注入に用いられる注入緩和準位Lが形成される。
【選択図】 図2

Description

本発明は、量子井戸構造でのサブバンド間遷移を利用した量子カスケードレーザに関するものである。
中赤外の波長領域(例えば波長3〜30μm)の光は、分光分析分野において重要な波長領域となっている。このような波長領域でのコンパクトで高性能な半導体光源として、近年、量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)が注目を集めている(量子カスケードレーザについては、例えば、特許文献1〜5、非特許文献1参照)。
量子カスケードレーザは、半導体量子井戸構造中に形成されるサブバンドによる準位構造を利用し、サブバンド間での電子遷移によって光を生成するモノポーラ型のレーザ素子であり、量子井戸構造で構成され活性領域となる量子井戸発光層を多段にカスケード結合することによって、高効率、高出力動作を実現することが可能である。また、この量子井戸発光層のカスケード結合は、発光上準位へと電子を注入するための電子注入層を用い、量子井戸発光層と注入層とを交互に積層することによって実現される。
特開平10−4242号公報 特開2000−12983号公報 特開平8−279647号公報 特開2000−101201号公報 特表2004−521481号公報 M. Beck et al., "Continuous Wave Operation of a Mid-InfraredSemiconductor Laser at Room Temperature", Science Vol.295 (2002)pp.301-305
量子カスケードレーザでは、近年、急速に高性能化が進みつつあり、M. Beck らによる2002年の室温連続発振(CW動作)の成功(非特許文献1)以降、現在では3.8〜10μmの波長領域において室温連続発振が達成されている。また、活性層での発光構造については、例えば3QW構造(特許文献1)、CSL(Chirped Superlattice)構造(特許文献4)、4QW構造(double phonon resonance 構造、特許文献5)など、様々な構造が提案されている。
また、注入層における電子の輸送構造についても、Funnel Injector(特許文献1)、Flat Injector(特許文献2)など、いくつかの構造が提案されている。例えば、Funnel Injector では、注入層での電子の緩和、輸送にミニバンドを用いる。そして、緩和ミニバンドのエネルギー幅が後段の発光層に向かって、ミニバンドでの最低エネルギーの基底準位Lへと減少していき、その基底準位Lから後段の発光上準位Lup’へと電子が注入されるように注入層を構成する。
また、Flat Injector では、発光下準位Llowと、後段の発光上準位Lup’とが等しいエネルギーとなる動作電界において両準位が共鳴するように、注入層での緩和ミニバンドが設計される。また、この構造では、さらに高い動作電界、すなわちミニバンドでの基底準位Lと、後段の発光上準位Lup’とが等しいエネルギーとなる動作電界においても電子の輸送が行われるように、緩和ミニバンドが設計される。
ここで、量子カスケードレーザでは、上記したように量子井戸発光層と注入層とが複数段交互に積層されるモノポーラ型のカスケード構造のため、その消費電力が従来のバイポーラ型の半導体レーザに比べて大きいという問題がある。
例えば、ミニバンドを利用した上記構成の注入層の場合、活性層における発光層及び注入層からなる1段の単位積層体での電圧降下量は、発光層での発光遷移エネルギーEEM=hνに対応する電圧降下分と、注入層の緩和ミニバンドでの発光下準位Llowと基底準位Lとのエネルギー間隔Δに対応する電圧降下分とを合わせたものとなる。また、複数段の単位積層体からなる活性層の全体での動作電圧Vは、(1段当たりの電圧降下量)×(単位積層体の積層段数)となり、そのカスケード構造のために消費電力W=I×Vが増大する。このように消費電力が大きくなると、活性層での発熱量が増大し、その動作特性が低下する原因となる。
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、消費電力が低減されて高効率、高出力での動作が可能な量子カスケードレーザを提供することを目的とする。
このような目的を達成するために、本発明による量子カスケードレーザは、(1)半導体基板と、(2)半導体基板上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで量子井戸発光層と注入層とが交互に積層されたカスケード構造が形成された活性層とを備え、(3)上記活性層に含まれる複数の単位積層体のそれぞれは、そのサブバンド準位構造において、発光上準位Lupと、発光下準位Llowと、複数の準位を含む緩和ミニバンドMとを有し、(4)量子井戸発光層における発光上準位から発光下準位への電子のサブバンド間遷移によって光が生成され、サブバンド間遷移を経た電子は、緩和ミニバンドを介して、注入層から後段の単位積層体の量子井戸発光層へと注入され、(5)注入層は、量子井戸発光層から注入層への抽出障壁層を含んで、それぞれn個(nは3以上の整数)の障壁層及び井戸層から構成され、n個の井戸層は、最も量子井戸発光層側の井戸層を第1井戸層として、後段の単位積層体側の第n井戸層まで順に設けられるとともに、第n井戸層の層厚が隣接する第n−1井戸層の層厚よりも薄くなるように構成され、(6)注入層は、第n井戸層において、緩和ミニバンドの複数の準位のうちで第n井戸層で波動関数が最大となって注入層から後段の単位積層体の量子井戸発光層への電子の注入に用いられる注入緩和準位Lが形成されるように構成され、注入緩和準位Lは、緩和ミニバンドの最低エネルギーの準位である最低緩和準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギーの準位であることを特徴とする。
上記した量子カスケードレーザでは、発光層及び注入層からなる単位積層体でのサブバンド準位構造を、発光上準位Lup、発光下準位Llow、及び緩和ミニバンドMを含んで構成する。そして、緩和ミニバンドMの準位構造について、その基底準位Lである最低緩和準位Lよりも高い準位を後段の発光上準位Lup’への電子の注入に用いる注入緩和準位Lとしている。これにより、動作電圧印加時における単位積層体1段当たりの電圧降下量のうちで、注入層のミニバンドでの電圧降下分を低減することができ、量子カスケードレーザの消費電力を低減することが可能となる。
また、このような緩和ミニバンドMの準位構造について、注入層を構成する第1井戸層〜第n井戸層のうちで、最も後段の単位積層体側の第n井戸層の層厚を第n−1井戸層の層厚よりも薄く設定して、この第n井戸層において、第n井戸層で波動関数が最大となる注入緩和準位Lを形成する構成としている。これにより、上記した注入緩和準位L及び最低緩和準位Lを含む緩和ミニバンドMの準位構造を好適に形成して、注入緩和準位Lから後段の発光上準位Lup’へと効率的に電子が注入される構造を実現することができる。以上により、消費電力が低減されて、高温、高効率、高出力での動作が可能な量子カスケードレーザが実現される。
ここで、注入層の第n井戸層での注入緩和準位の形成については、上記したように、緩和ミニバンドは、注入緩和準位Lの波動関数が第n井戸層で最大となるように構成されていることが好ましい。これにより、注入層内で最も後段側の第n井戸層において、注入緩和準位Lを好適に局在させることが可能となる。また、このような構成では、注入層で緩和ミニバンドによって緩和、輸送された電子は、注入緩和準位Lから後段の発光上準位Lup’へと効率的に注入されることとなる。
また、上記した量子カスケードレーザでは、注入層において、n個の井戸層は、第1井戸層から第n井戸層に向かって井戸層の層厚が単調減少するように構成されていることが好ましい。このような構成によれば、注入緩和準位L及び最低緩和準位Lを含む緩和ミニバンドMの準位構造を好適に形成することができる。
また、注入層において、n個の井戸層は、第n−1井戸層と第n井戸層との間での層厚の減少量が、他のすべての隣接する井戸層の間での層厚の減少量よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。これにより、第n井戸層の層厚を充分に薄く設定して、第n井戸層において、最低緩和準位Lよりも高いエネルギーの注入緩和準位Lを好適に形成することが可能となる。
また、上記した量子カスケードレーザでは、注入層において、緩和ミニバンドは、最低緩和準位Lの波動関数が、第n井戸層以外の井戸層で最大となるように構成されていることが好ましい。これにより、最低緩和準位Lからではなく、注入緩和準位Lから後段の発光上準位Lup’へと電子を注入する上記した準位構造を、好適に構成することができる。また、このような準位構造は、例えば、上記したように注入層の第n井戸層の層厚を充分に薄く設定することで実現可能である。
また、注入層において、緩和ミニバンドは、最低緩和準位Lと発光下準位Llowとのエネルギー間隔が50meV以上となるように構成されていることが好ましい。このように、最低緩和準位Lと発光下準位Llowとのエネルギー間隔を充分に広く設定することにより、最低緩和準位Lから発光下準位Llowへの電子の熱的な再分布(thermal backfilling)を抑制することができる。
また、上記量子カスケードレーザにおいて、サブバンド間遷移を経た電子は、縦光学フォノン(LOフォノン)散乱によって発光下準位から緩和ミニバンドへと緩和される構成としても良い。このような構成では、サブバンド間の発光遷移を経た電子は、LOフォノン散乱、及び緩和ミニバンドM内での緩和を介して発光下準位Llowから高速に引き抜かれる。したがって、量子井戸発光層における効率的な反転分布の形成、及びそれによるレーザ動作の低閾値化を実現して、そのレーザ動作性能を向上することが可能となる。
本発明の量子カスケードレーザによれば、活性層の単位積層体でのサブバンド準位構造を、発光上準位Lup、発光下準位Llow、及び緩和ミニバンドMを含んで構成し、緩和ミニバンドの最低緩和準位Lよりも高い準位を電子の注入に用いる注入緩和準位Lとするとともに、注入層を構成する井戸層のうちで最も後段側の第n井戸層の層厚を第n−1井戸層の層厚よりも薄く設定して、この第n井戸層において注入緩和準位Lを形成する構成とすることにより、動作電圧印加時における単位積層体1段当たりの電圧降下量のうちで、注入層のミニバンドでの電圧降下分を低減することができ、量子カスケードレーザの消費電力を低減することが可能となる。
以下、図面とともに本発明による量子カスケードレーザの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、本発明による量子カスケードレーザの基本構成を概略的に示す図である。本実施形態の量子カスケードレーザ1Aは、半導体量子井戸構造におけるサブバンド間の電子遷移を利用して光を生成するモノポーラタイプのレーザ素子である。この量子カスケードレーザ1Aは、半導体基板10と、半導体基板10上に形成された活性層15とを備えて構成されている。また、量子カスケードレーザ1Aの側面のうちで対向している所定の2面には、光共振器を構成する鏡面(図示していない)が形成されている。
活性層15は、光の生成に用いられる量子井戸発光層と、発光層への電子の注入に用いられる電子注入層とが交互かつ多段に積層されたカスケード構造を有する。具体的には、量子井戸発光層及び注入層からなる半導体積層構造を1周期分の単位積層体16とし、この単位積層体16が多段に積層されることで、カスケード構造を有する活性層15が構成されている。量子井戸発光層及び注入層を含む単位積層体16の積層数は適宜設定されるが、例えば数100程度である。また、活性層15は、半導体基板10上に直接に、あるいは他の半導体層を介して形成される。
図2は、図1に示した量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造の一例を示す図である。図2に示すように、活性層15に含まれる複数の単位積層体16のそれぞれは、量子井戸発光層17と、注入層18とによって構成されている。量子井戸発光層17及び注入層18は、後述するようにそれぞれ量子井戸層及び量子障壁層を含む所定の量子井戸構造を有して形成される。これにより、単位積層体16中においては、量子井戸構造によるエネルギー準位構造であるサブバンド準位構造が形成される。
本実施形態の量子カスケードレーザ1Aにおいて活性層15を構成している単位積層体16は、図2に示すように、そのサブバンド準位構造において、サブバンド間遷移による発光に関わる発光上準位Lupと、発光下準位Llowとに加えて、発光下準位Llowよりも低いエネルギーの複数の準位を含む緩和ミニバンドMを有している。なお、図2においては、動作電圧印加時における活性層15の量子井戸構造、及びサブバンド準位構造を示している。
量子井戸発光層17は、主に発光上準位Lup及び発光下準位Llowによる発光動作に用いられる積層部分であり、複数の障壁層、及び複数の井戸層を有して構成されている。また、発光層17を構成する半導体層のうちで電子の輸送方向について最も上流側(図中の左側)で、前段の注入層18aと接する障壁層171は、量子井戸発光層17と、前段の単位積層体での注入層18aとの間に位置し、注入層18aから発光層17へと注入される電子に対する注入障壁(injection barrier)層となっている。
また、電子注入層18は、主に緩和ミニバンドMによる電子の緩和、輸送に用いられる積層部分であり、複数の障壁層、及び複数の井戸層を有して構成されている。また、注入層18を構成する半導体層のうちで最も上流側で、同一段の発光層17と接する障壁層191は、量子井戸発光層17と、注入層18との間に位置し、発光層17から注入層18への電子に対する抽出障壁(exit barrier)層となっている。なお、図2においては、発光層17及び注入層18のそれぞれについて、図示の簡単のため、注入障壁層171及び抽出障壁層191以外の障壁層については図示を省略している。
より具体的には、抽出障壁層191を含む注入層18は、n個(nは3以上の整数)の障壁層、及びn個の井戸層を交互に積層することで構成されている。n個の障壁層は、最も発光層17側の障壁層を第1障壁層として、後段の単位積層体側の第n障壁層まで電子の輸送方向に沿って順に設けられている。また、n個の障壁層のうちで最も発光層17側の第1障壁層は、上記した抽出障壁層191となっている。
同様に、n個の井戸層は、最も発光層17側の井戸層を第1井戸層として、後段の単位積層体側の第n井戸層まで電子の輸送方向に沿って順に設けられている。また、これらのn個の井戸層について、最も後段側の第n井戸層の層厚が、隣接する第n−1井戸層の層厚よりも薄くなるように、各井戸層の層厚が設定されている。また、n個の井戸層の全体の構造については、好ましくは、第1井戸層から第n井戸層に向かって、井戸層の層厚が単調減少するように構成される。
このような単位積層体16の量子井戸構造において、図2に示したサブバンド準位構造では、後段の量子井戸発光層17bに隣接する注入層18の第n井戸層の層厚が薄く設定されていることにより、緩和ミニバンドMを構成する複数の準位のうちで最低エネルギーの準位である最低緩和準位L(=基底準位L)が、第n井戸層以外の内側の井戸層で波動関数が最大となっている。
また、上記構造において、注入層18は、第n井戸層を注入緩和準位形成用の井戸層として構成されている。すなわち、注入層18は、最も後段側の第n井戸層において、緩和ミニバンドMの複数の準位のうちで第n井戸層で波動関数が最大となって注入層18から後段の発光層17bへの電子の注入に用いられる注入緩和準位Lが形成されるように構成されている。また、この注入緩和準位Lは、緩和ミニバンドMにおいて、最低緩和準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギー(Elow>E>E)を有する準位となっている。なお、図2において、Δは発光下準位Llowと最低緩和準位Lとのエネルギー間隔Δ=Elow−Eを示し、また、Δは最低緩和準位Lと注入緩和準位Lとのエネルギー間隔Δ=E−Eを示している。
このようなサブバンド準位構造において、前段の注入層18aでのミニバンドMからの電子eは、注入障壁層171を介して発光層17の発光上準位Lupへと注入される。発光上準位Lupに注入された電子は発光下準位Llowへと発光遷移し、このとき、上準位Lupと下準位Llowとのサブバンド準位間のエネルギー差EEM=Eup−Elowに相当する波長の光hνが生成、放出される。
発光下準位Llowへと遷移した電子は、抽出障壁層191を介して注入層18へと輸送され、さらに複数の準位からなる緩和ミニバンドMによって緩和、輸送される。そして、ミニバンドMによって緩和、輸送された電子は、注入層18内において最も後段側の第n井戸層で最大の波動関数を有する注入緩和準位Lから、後段の発光層17bでの発光上準位Lup’へと、共鳴トンネル効果によってカスケード的に注入される。
このように、発光下準位LlowからミニバンドM内での緩和を介して高速で電子を引き抜くことにより、上準位Lupと下準位Llowとの間でレーザ発振を実現するための反転分布が形成される。なお、緩和ミニバンドMについては、発光層17内のミニバンドと、注入層18内のミニバンドとが結合したバンド構造を有する構成であっても良い。
活性層15を構成する複数の単位積層体16において、上記の電子の注入、発光遷移、及び緩和を繰り返すことにより、活性層15においてカスケード的な光の生成が起こる。すなわち、発光層17及び注入層18を多数、交互に積層することにより、電子は積層体16をカスケード的に次々に移動するとともに、各積層体16でのサブバンド間遷移の際に光hνが生成される。また、このような光がレーザ1Aの光共振器において共振されることにより、所定波長のレーザ光が生成される。
本実施形態による量子カスケードレーザ1Aの効果について説明する。
図1及び図2に示した量子カスケードレーザ1Aでは、発光層17及び注入層18からなる単位積層体16でのサブバンド準位構造を、発光上準位Lup、発光下準位Llow、及び緩和ミニバンドMを含んで構成する。そして、ミニバンドMの準位構造について、その基底準位Lである最低緩和準位Lよりも高い準位を後段の発光上準位Lup’への電子の注入に用いる注入緩和準位Lとしている。これにより、動作電圧印加時における単位積層体1段当たりの電圧降下量のうちで、注入層のミニバンドでの電圧降下分を低減することができ、量子カスケードレーザ1Aの消費電力を低減することが可能となる。
また、このような緩和ミニバンドMの準位構造について、注入層18を構成する第1井戸層〜第n井戸層のうちで、最も後段の単位積層体側の第n井戸層の層厚を第n−1井戸層の層厚よりも薄く設定して、この第n井戸層において、第n井戸層で波動関数が最大となる注入緩和準位Lを形成する構成としている。このように、第n井戸層の層厚を薄く設定することにより、上記した注入緩和準位L及び最低緩和準位Lを含む緩和ミニバンドMの準位構造を好適に形成して、準位Lから後段の発光上準位Lup’へと効率的に電子が注入される構造を実現することができる。以上により、消費電力が低減されて、高温、高効率、高出力での動作が可能な量子カスケードレーザ1Aが実現される。
ここで、注入層18の第n井戸層における注入緩和準位Lの形成については、上記したように、緩和ミニバンドMは、注入緩和準位Lの波動関数が、第n井戸層で最大となるように構成されていることが好ましい。これにより、注入層18内で最も後段側の第n井戸層において、注入緩和準位Lを好適に局在させることが可能となる。また、このような構成では、注入層18でミニバンドによって緩和、輸送された電子は、注入緩和準位Lから後段の発光上準位Lup’へと効率的に注入されることとなる。
また、量子カスケードレーザ1Aの注入層18において、緩和ミニバンドMは、上記したように、最低緩和準位Lの波動関数が、第n井戸層以外の井戸層で最大となるように構成されていることが好ましい。これにより、最低緩和準位Lからではなく、注入緩和準位Lから後段の発光上準位Lup’へと電子を注入する上記した準位構造を、好適に構成することができる。また、このような準位構造は、例えば、注入層の第n井戸層の層厚を充分に薄く設定することで実現可能である。
上記構成の量子カスケードレーザ1Aによる消費電力の低減効果について説明する。図3及び図4は、それぞれ従来の量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造について示す図であり、図3は動作電圧を印加していない状態、図4は動作電圧を印加した状態でのサブバンド準位構造を示している。ここでは、緩和ミニバンドMでの基底準位Lである最低緩和準位Lが、最も後段側の第n井戸層で波動関数が最大となっている従来構造について説明する。このような構成では、この最低準位Lが、後段の発光上準位Lup’へと電子を注入する注入緩和準位となる。
動作電圧が印加されていない状態では、図3に示すように、活性層の周期構造を構成する複数の単位積層体について、発光上準位Lup及び発光下準位Llowが全ての周期で同じエネルギーに位置する。これに対して、動作電圧が印加された動作状態では、図4に示すように、注入層での緩和ミニバンドMのうちで注入緩和準位である最低緩和準位Lのエネルギーが後段の発光層での発光上準位Lup’のエネルギーと略一致するように電圧が印加され、これによって活性層におけるカスケード動作が可能となる。
図4に示したサブバンド準位構造において、量子井戸発光層での発光遷移エネルギーをEEM=Eup−Elowとし、注入層での発光下準位Llowと最低緩和準位Lとのエネルギー間隔をΔ=Elow−Eとすると、発光層及び注入層からなる1段の単位積層体でのエネルギー降下量はそれらを合わせたエネルギーEEM+Δとなる。また、活性層の全体でのエネルギー降下量は(EEM+Δ)×(単位積層体の積層段数)となり、レーザの動作電圧Vは、このエネルギー降下量に対応して設定される。
また、このような電子の輸送構造において室温以上の動作温度で良好なレーザ特性を得るためには、発光下準位LlowとミニバンドMの最低準位Lとのエネルギー間隔Δをある程度大きく(例えばΔ≧2kT)する必要がある。これは、最低準位Lに存在する電子が発光下準位Llowまで熱的に再分布して、発光層での反転分布が減少することを防止するためである。このようにΔが大きくなると、(EEM+Δ)×(積層段数)で決まるレーザの動作電圧V、及びそれによる消費電力W=I×Vが大きくなる。
一方、量子カスケードレーザの室温CW動作では、活性層の温度は100℃程度に達するため、その電流−光出力特性も、パルス動作の場合とは大きく異なるものとなる。すなわち、パルス動作の場合、量子カスケードレーザの典型的な電流−光出力特性での最大電流(活性層に供給できる最大電子数)は共鳴トンネル効果により、注入層の最低準位Lと後段の発光上準位Lup’との波動関数の結合の強さ、及び各半導体層でのドーピングなどのパラメータから決まる。
しかしながら、量子カスケードレーザの動作電圧Vは、活性層のカスケード構造のために、上記したように従来の半導体レーザに比べて大きくなっている。例えば、典型的な活性層の構造の例として、発光遷移エネルギーをEEM=161meV(波長λ=7.7μm)とし、活性層での単位積層体の積層段数を33段とすると、仮にΔ=0とすれば動作電圧は
V=0.161×33=5.3V
である。一方、実際の動作条件としてΔ=150meVとすると動作電圧は
V=(0.161+0.15)×33=10.26V
と10V程度になる。また、このときの電流値を700mAとすると、消費電力Pは
P=10.26×0.7=7.18W
となる。
量子カスケードレーザをCW動作させた場合、上記したように大きい動作電圧V、及び消費電力Pのため、電流によって活性層の温度が上昇し、最大電流、及び最大光出力は熱飽和等によってパルス動作と比べて制限されてしまう。また、発光下準位Llowと、ミニバンドMの最低準位Lとのエネルギー間隔Δを小さくすることで消費電力Pを低減しようとすると、上記したように最低準位Lの電子が発光下準位Llowに熱的に再分布し、レーザにおける発光効率が低下する。
これに対して、図2に示した量子カスケードレーザ1Aでは、発光下準位LlowとミニバンドMの最低準位Lとのエネルギー間隔Δを充分に大きい値に保持するとともに、注入層18の第n井戸層において、第n井戸層で波動関数が最大となる注入緩和準位Lを形成する構成とする。そして、注入緩和準位Lを最低準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギーの準位とし、この準位Lから後段の発光上準位Lup’へと電子が注入されるように単位積層体16内でのサブバンド準位を構成している。
このような構成では、エネルギー間隔Δが大きい値に設定、保持されることにより、上記したように最低準位Lに存在する電子が発光下準位Llowまで熱的に再分布して、反転分布が減少することを防止することができる。
また、仮に最低準位Lから後段の発光上準位Lup’へと電子を注入する構成とした場合、その動作電圧Vは上記したように
V=(EEM+Δ)×(積層段数)
となる。これに対して、最低準位Lとは別に後段の発光上準位Lup’へと電子を注入する準位Lを設けた上記構成では、その動作電圧Vは
V=(EEM+Δ−Δ)×(積層段数)
となる。したがって、このような構成により、量子カスケードレーザ1Aの動作電圧V、及び消費電力を低減することができる。
ここで、発光下準位Llowと、ミニバンドMの最低準位Lとのエネルギー間隔Δについては、その好適な値は動作温度、半導体層でのドーピング濃度、及び発光層の具体的な積層構造などによって異なる。一般には、最低準位Lから発光下準位Llowへの電子の熱的な再分布(thermal backfilling)がボルツマン分布にしたがって起こること等を考慮して検討すると、Δに関して上述したように、エネルギー間隔Δを例えば2kT以上(Δ≧2kT)とすることが好ましい。
また、具体的なエネルギー間隔Δの値については、緩和ミニバンドMを、最低緩和準位Lと発光下準位Llowとのエネルギー間隔Δが、少なくとも50meV以上となるように構成する必要があり、特に、エネルギー間隔Δを100meV以上とすることが好ましい。このように、エネルギー間隔Δを充分に広く設定することにより、最低緩和準位Lから発光下準位Llowへの電子の熱的な再分布を抑制することができる。
また、注入層18内での最低緩和準位Lの位置(準位Lの波動関数が最大となる位置)については、最低準位Lが同一段の発光層17に近すぎると、注入層18でのミニギャップの生成が損なわれる可能性がある。一方、最低準位Lが後段の発光層17bに近すぎると、ミニバンドMの最低準位Lから後段の発光下準位Llow’への電子の漏れ出しが発生する可能性がある。したがって、このミニバンドMの最低緩和準位Lについては、注入層18の中央部、またはその近傍に準位Lが位置するように注入層18での量子井戸構造を構成することが好ましい。
また、ミニバンドMの最低準位Lと、注入緩和準位Lとのエネルギー間隔Δについては、ボルツマン分布では低いエネルギーの状態ほど電子の存在確率が高くなり、注入層18内に分布する電子数は、このボルツマン分布による電子の分布によって決まる。このため、後段の発光上準位Lup’への電子の注入効率の点ではエネルギー間隔Δを小さくすることが好ましい。しかしながら、Δを小さくすると、上記した消費電力の低減効果も小さくなる。したがって、エネルギー間隔Δについては、電子の注入効率と消費電力の低減との関係を考慮して、それらが好適に両立するように設定することが好ましい。
具体的には、量子カスケードレーザ1Aの想定される動作温度をTとし、その熱エネルギーをkT(k:ボルツマン定数)とすると、上記したエネルギー間隔Δをこの熱エネルギーkT程度に設定することにより、後段の発光上準位Lup’に充分な電子を供給することが可能である。例えば、レーザ1Aの動作温度が100℃程度であるとすると、対応する熱エネルギーは31meV程度である。この場合、Δ=31meV程度に設定すれば良い。
また、上述したようにCW動作では熱飽和等の影響で最大電流が小さくなることから、エネルギー間隔Δをさらに大きい値に設定することも可能である。この場合、条件kT≦Δ<Δを満たすようにエネルギー間隔Δを設定することが好ましい。例えば、消費電力の低減の観点からは、注入緩和準位Lが発光下準位Llowと同程度のエネルギーに位置するように注入層18を構成しても良い。このような構成は、注入層18の第n井戸層の層厚を充分に薄くすることで実現可能である。
注入層18で最も後段側の第n井戸層を注入緩和準位形成用の井戸層とする構成については、具体的には、注入層18のn個の井戸層において、第n−1井戸層と第n井戸層との間での層厚の減少量が、他のすべての隣接する井戸層の間での層厚の減少量よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。これにより、第n井戸層の層厚を充分に薄く設定して、第n井戸層において、最低緩和準位Lよりも高いエネルギーの注入緩和準位Lを好適に形成することが可能となる。
また、上記構成の量子カスケードレーザ1Aでは、注入層18のn個の井戸層が、第1井戸層から第n井戸層に向かって井戸層の層厚が単調減少するように構成されていることが好ましい。このような構成によれば、注入緩和準位L及び最低緩和準位Lを含む緩和ミニバンドMの準位構造を好適に形成することができる。
なお、単位積層体16を構成する発光層17及び注入層18での半導体積層構造、及びそれによって形成されるサブバンド準位構造については、具体的には様々な構成を用いて良い。例えば、発光層17での発光構造としては、上述した3QW構造(特許文献1)、CSL(Chirped Superlattice)構造(特許文献4)、4QW構造(double phonon resonance 構造、特許文献5)など、様々な構造を用いることが可能である。また、発光下準位Llowから後段の発光上準位Lup’への緩和ミニバンドMを用いた電子の緩和構造についても、具体的には様々な構成を用いることが可能である。
図5は、図1に示した量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造の他の例を示す図である。図5に示すサブバンド準位構造は、その基本的な構造については図2に示したサブバンド準位構造と同様である。
活性層15を構成している単位積層体16は、そのサブバンド準位構造において、発光上準位Lupと、発光下準位Llowと、緩和ミニバンドMとを有している。また、本構成例では、この緩和ミニバンドMは、図5に示すように、発光下準位LlowとミニバンドMとの間のエネルギー差が縦光学フォノン(LOフォノン)のエネルギーELOとなるように設定されている。
このようなサブバンド準位構造において、発光上準位Lupから発光下準位Llowへと遷移した電子は、LOフォノン散乱によって緩和ミニバンドMへと高速で緩和され、さらに、ミニバンドM内で高速緩和される。このように、発光下準位LlowからLOフォノン散乱及びミニバンド内での緩和を介して高速で電子を引き抜くことにより、上準位Lupと下準位Llowとの間でレーザ発振を実現するための反転分布が形成される。
また、本準位構造においては、緩和ミニバンドMは、図5に示すように、発光層17内でのミニバンドM1と、注入層18内でのミニバンドM2とが結合したバンド構造を有している。このような構成において、発光下準位Llowから緩和ミニバンドMへと緩和された電子は、注入層18を介して、ミニバンドMの注入緩和準位Lから、後段の発光層17bでの発光上準位Lup’へとカスケード的に注入される。このようなハイブリッド構造では、発光層17における効率的な反転分布の形成、及びそれによるレーザ動作の低閾値化を実現して、そのレーザ動作性能を向上することが可能となる。なお、上記のようなサブバンド準位構造は、活性層15を構成する単位積層体16での量子井戸構造の設計によって制御することが可能である。
本発明による量子カスケードレーザの構成について、活性層での量子井戸構造を含む素子構造の具体例とともにさらに説明する。図6は、図1及び図2に示した量子カスケードレーザ1Aにおいて活性層を構成する単位積層体の構成の一例を示す図である。
本構成例における活性層15の量子井戸構造では、発振波長を7.7μm、それに対応する発光遷移エネルギーを161meVとしている。また、活性層15に印加する動作電圧については、電界強度27kV/cm〜38kV/cmの範囲の動作電界で最も高効率な反転分布が得られ、また、注入層18において効率的に電子が輸送されるように設計を行っている。また、図6は、電界強度27kV/cmの条件で動作電圧を印加した状態でのサブバンド準位構造を示している。
なお、図6においては、活性層15を構成する発光層17及び注入層18による多段の繰返し構造のうちの一部について、その量子井戸構造及びサブバンド準位構造を示している。また、このような素子構造は、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、または有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法による結晶成長で形成することができる。
本構成例の量子カスケードレーザでは、半導体基板10(図1参照)としてn型InP基板を用い、その上に所定の半導体積層構造を形成することで、量子カスケードレーザを構成している。また、活性層15は、量子井戸発光層17及び電子注入層18を含む単位積層体16が、例えば33周期で積層されて構成されている。
活性層15を構成する1周期分の単位積層体16は、図6に示すように、11個の量子井戸層161〜164、181〜187、及び11個の量子障壁層171〜174、191〜197が交互に積層された量子井戸構造として構成されている。これらの各半導体層のうち、量子井戸層はInGaAs層によって構成されている。また、量子障壁層はAlInAs層によって構成されている。
また、このような単位積層体16において、井戸層161〜164、及び障壁層171〜174からなる積層部分が、主に発光層17として機能する部分となっている。また、井戸層181〜187、及び障壁層191〜197からなる積層部分が、主に注入層18として機能する部分となっている。また、発光層17の各半導体層のうちで、1段目の障壁層171が注入障壁層となっている。同様に、注入層18の各半導体層のうちで、1段目の障壁層191が抽出障壁層となっている。
図7は、活性層15における1周期分の単位積層体16の具体的な構造の一例を示している。本構成例では、注入層18での7個(n=7)の井戸層181〜187について、第1井戸層181から第7井戸層187に向かって井戸層の層厚が単調減少するように構成されている。また、隣接する井戸層の間での層厚の減少量については、最も後段側の第7井戸層187と隣接する第6井戸層186との間での層厚の減少量が、他のすべての隣接する井戸層の間での層厚の減少量よりも大きくなるように構成されている。
具体的には、注入層18において、第1井戸層と第2井戸層との間での層厚の減少量は0.1nm、第2井戸層と第3井戸層との間での層厚の減少量は0.1nm、第3井戸層と第4井戸層との間での層厚の減少量は0.1nm、第4井戸層と第5井戸層との間での層厚の減少量は0.2nm、第5井戸層と第6井戸層との間での層厚の減少量は0.2nmとなっている。これに対して、最も後段の単位積層体側の第6井戸層と第7井戸層との間での層厚の減少量は0.4nmであり、他のすべての隣接する井戸層の間での減少量よりも大きく設定されている。
このような積層構造により、図6に示す活性層15では、緩和ミニバンドMにおいて、波動関数が第7井戸層で最大となって注入層18から後段の発光層の発光上準位Lup’への電子の注入に用いられる注入緩和準位Lが、最低緩和準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギーの準位となっている。また、ミニバンドMの最低緩和準位Lについては、最低準位Lの波動関数が注入層18のほぼ中ほど(第4井戸層184及びその近傍)で最大となるように構成されている。
また、本構成例では、発光準位構造については、図5に示したように発光下準位LlowからLOフォノン散乱及びミニバンドでの緩和を介して電子が引き抜かれるハイブリッド構造(single phonon - continuum 構造)を用い、上記したように電界強度27kV/cm〜38kV/cmで最も高効率な反転分布が得られるように量子井戸構造等を設計している。また、発光層17及び注入層18での井戸層、障壁層のそれぞれの層厚は、量子力学に基づいて設計されている。
注入層18内のミニバンドM2については、発光下準位Llow、及び発光層17のミニバンドM1と同程度のエネルギーに位置し、かつ、そのエネルギー幅が充分に大きくなるように構成することが好ましい。また、ミニバンドの最低準位Lについては、上記したように注入層18のほぼ中ほどに位置するように設計する。また、最低緩和準位Lのエネルギー値については、電子の熱的な再分布を抑制するために、発光下準位Llowと最低準位Lとのエネルギー間隔Δが例えば50meV以上と充分に大きくなるように設計する必要がある。図6に示す構成では、動作電界27kV/cmの状態において、エネルギー間隔Δを約60meVに設定して、注入層18から発光層17への電子の熱的な再分布を抑制している。
図6に示した活性層での量子井戸構造について、図8及び図9を参照して、従来の量子カスケードレーザの活性層での量子井戸構造と比較しつつさらに説明する。ここで、以下においては、それぞれ7個の障壁層及び井戸層から構成される注入層の量子井戸構造を例として、本発明の構造と従来構造との相違について説明する。
また、以下に例示する注入層の構造において、同一段の発光層側で第1〜第4障壁層、井戸層からなる積層部分が、抽出障壁層を含んで主に発光層からの電子の抽出に用いられる抽出領域となっている。この抽出領域は、電子を輸送する輸送領域としても機能する。また、後段の発光層側で第5〜第7障壁層、井戸層からなる積層部分が、主に後段の発光層に向けてミニバンドのエネルギー幅を狭窄していく狭窄領域となっている。
図8は、従来の量子カスケードレーザにおける注入層での障壁層及び井戸層の層厚の変化を示す図である。図8のグラフ(a)、(b)において、横軸は注入層18の第1障壁層191を層番号N=1、第1井戸層181をN=2、第2障壁層192をN=3、…、第7井戸層187をN=14としたときの各半導体層の層番号Nを示し、縦軸は各半導体層の層厚(nm)を示している。また、図8のグラフ(a)は、注入層18の構造としてFlat Injectorを用いた場合の半導体層の層厚の変化を示し、グラフ(b)は、注入層18の構造としてFunnel Injectorを用いた場合の半導体層の層厚の変化を示している。
まず、注入層における障壁層の層厚の変化については、グラフ(a)、(b)のいずれの構造においても、第1障壁層がやや厚い抽出障壁層として構成されるとともに、第2障壁層〜第7障壁層の構成については、Flat InjectorとFunnel Injectorとで傾向が異なるものの、全体として上流側の抽出障壁側で層厚が薄く、後段の発光層への注入障壁に近づくにしたがって障壁層が厚くなる構成となっている。また、注入層における井戸層の層厚の変化については、いずれの構造においても、第1井戸層から第7井戸層に向かって井戸層の層厚が単調減少する構成となっている。
抽出障壁側で障壁層の層厚が薄くなっているのは、活性層内の発光下準位Llowに存在するキャリアが効率良く抽出されるように、注入層内のミニバンドのエネルギー幅を抽出障壁側で充分に広くするためである。また、注入障壁側で障壁層の層厚が厚くなっているのは、次周期の発光層の発光上準位Lup’へと電子が効率良く注入されるように、ミニバンドのエネルギー幅を狭窄するためである。
また、グラフ(a)のFlat Injectorでは、後段の発光層の発光上準位Lup’への電子の注入が低電圧で始まるように、緩和ミニバンドの出口でのエネルギー幅をあまり狭くはしないため、障壁層の層厚の変化も緩やかになっている。一方、グラフ(b)のFunnel Injectorでは、後段の発光層の発光上準位Lup’への電子の注入効率を最大にするため、ミニバンドの出口付近で障壁層の層厚を急激に厚くして、ミニバンドのエネルギー幅を狭窄している。
図9は、本発明の量子カスケードレーザにおける注入層での障壁層及び井戸層の層厚の変化を示す図である。図9のグラフ(a)は、図8のグラフ(a)、(b)と同様に、注入層18の構造として本発明による上記構造を用いた場合の半導体層の層厚の変化を示している。また、図9のグラフ(b)において、横軸は第1井戸層181〜第7井戸層187をそれぞれ層番号N=1〜7としたときの各井戸層の層番号Nを示し、縦軸は各井戸層の層厚(nm)を示している。また、グラフ(b)において、グラフG0は本発明の構造(図9(a))における井戸層厚の変化を、グラフG1はFlat Injector(図8(a))における井戸層厚の変化を、また、グラフG2はFunnel Injector(図8(b))における井戸層厚の変化をそれぞれ示している。
従来構造の注入層では、図9(b)のグラフG1、G2に示すように井戸層の層厚の変化は緩やかであり、最も後段側の2つの井戸層については、第6井戸層及び第7井戸層の層厚は同じ厚さとなっている。これに対して、図9(a)、及び図9(b)のグラフG0に示す本発明の構造では、井戸層の層厚は最後まで減少し、第7井戸層の層厚が第6井戸層の層厚よりも薄い構成となっている。
特に、本発明による注入層の構造では、図9(b)のグラフG0からわかるように、第6井戸層と第7井戸層との間での層厚の減少量が、他のすべての隣接する井戸層の間での層厚の減少量よりも大きく設定され、最終段の第7井戸層において井戸層の層厚が急激に減少している。このような最も後段側の第7井戸層の層厚の設定は、第7井戸層で波動関数が最大となり、かつ、最低緩和準位Lよりも高く発光下準位Llowよりも低いエネルギーの注入緩和準位L(図2参照)を好適に形成する上で重要である。
すなわち、注入層のn個の井戸層のうちで最終段の第n井戸層の層厚を薄く設定することで、必然的に注入緩和準位Lのエネルギーが押し上げられ、最低準位Lよりも高いエネルギーとなる。また、手前の第n−1井戸層については、その井戸層のみに波動関数が局在しないようにして、注入層内での電子の良好な輸送を確保するために井戸層幅を調節する必要がある。したがって、本発明の構造では、注入層の狭窄領域内において、井戸層の層厚の減少が従来構造に比べて急峻になる。
また、上記のように第n井戸層において最低準位Lよりも高いエネルギーの注入緩和準位Lが形成される構成では、狭窄領域内において障壁層の層厚が増大する構成のために最低準位Lの波動関数は後段の発光層への注入障壁に近づくことができず、確実に注入層の中央付近に位置することとなる。また、抽出領域内において従来構造と同様に層厚の変化を設定することにより、発光下準位Llowと最低準位Lとのエネルギー間隔Δを、例えば50meV以上と充分に大きく保つことができる。
また、レーザの高温動作を目的として、エネルギー間隔Δをさらに大きく設定したい場合には、障壁層の厚さを薄くして抽出領域でのミニバンドのエネルギー幅を大きくする構成を用いることができる。あるいは、抽出領域内において、他の井戸層よりもやや井戸幅が広い井戸層を設ける構成を用いても良い。
なお、上記した注入層の構造において、同一段の発光層側の抽出領域、及び後段の発光層側の狭窄領域については、従来構造と本発明の構造とで、井戸層の層厚についての平均層厚変化の傾向も異なっている。すなわち、Flat Injectorを用いた注入層では、井戸層の平均層厚変化は抽出領域で約0.1233nm、狭窄領域で0.065nmとなっている。また、Funnel Injectorを用いた注入層では、井戸層の平均層厚変化は抽出領域で約0.1nm、狭窄領域で0.1nmとなっている。
これに対して、本発明による構造を用いた注入層では、井戸層の平均層厚変化は抽出領域で0.1nm、狭窄領域で0.3nmとなっている。このように、本発明による注入層の構造では、狭窄領域内での量子井戸層の平均層厚変化量は、抽出領域内での変化量に比べて1.5倍以上、あるいはさらに2倍以上となるように設定することが好ましい。これにより、上記したように注入層の狭窄領域内において、井戸層の層厚の減少が従来構造に比べて充分に急峻になる。
本発明による量子カスケードレーザは、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記した構成例では、半導体基板としてInP基板を用い、活性層をInGaAs/AlInAsによって構成した例を示したが、量子井戸構造でのサブバンド間遷移による発光遷移が可能であって上記したサブバンド準位構造を実現可能なものであれば、具体的には様々な構成を用いて良い。
このような半導体材料系については、上記したInGaAs/AlInAs以外にも、例えばGaAs/AlGaAs、InAs/AlSb、GaN/AlGaN、SiGe/Siなど、様々な材料系を用いることが可能である。また、半導体の結晶成長方法についても、様々な方法を用いて良い。また、活性層15を構成する単位積層体16の量子井戸構造、及びサブバンド準位構造についても、図6に示した構成例に限らず、具体的には様々な構成を用いることが可能である。
本発明は、消費電力が低減されて高効率、高出力での動作が可能な量子カスケードレーザとして利用可能である。
量子カスケードレーザの基本構成を概略的に示す図である。 図1に示した量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造の一例を示す図である。 従来の量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造を示す図である。 従来の量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造を示す図である。 図1に示した量子カスケードレーザの活性層におけるサブバンド準位構造の他の例を示す図である。 活性層を構成する単位積層体の構成の一例を示す図である。 活性層における1周期分の単位積層体の構造の一例を示す図表である。 従来の量子カスケードレーザにおける注入層での障壁層及び井戸層の層厚の変化を示す図である。 本発明の量子カスケードレーザにおける注入層での障壁層及び井戸層の層厚の変化を示す図である。
符号の説明
1A…量子カスケードレーザ、10…半導体基板、15…活性層、16…単位積層体、17…量子井戸発光層、18…電子注入層、171…注入障壁層、191…抽出障壁層、Lup…発光上準位、Llow…発光下準位、M…緩和ミニバンド、M1、M2…ミニバンド、L…最低緩和準位、L…注入緩和準位。

Claims (5)

  1. 半導体基板と、
    前記半導体基板上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで前記量子井戸発光層と前記注入層とが交互に積層されたカスケード構造が形成された活性層とを備え、
    前記活性層に含まれる複数の前記単位積層体のそれぞれは、そのサブバンド準位構造において、発光上準位と、発光下準位と、複数の準位を含む緩和ミニバンドとを有し、
    前記量子井戸発光層における前記発光上準位から前記発光下準位への電子のサブバンド間遷移によって光が生成され、前記サブバンド間遷移を経た電子は、前記緩和ミニバンドを介して、前記注入層から後段の前記単位積層体の前記量子井戸発光層へと注入され、
    前記注入層は、前記量子井戸発光層から前記注入層への抽出障壁層を含んで、それぞれn個(nは3以上の整数)の障壁層及び井戸層から構成され、前記n個の井戸層は、最も前記量子井戸発光層側の井戸層を第1井戸層として後段の前記単位積層体側の第n井戸層まで順に設けられるとともに、前記第n井戸層の層厚が隣接する第n−1井戸層の層厚よりも薄くなるように構成され、
    前記注入層は、前記第n井戸層において、前記緩和ミニバンドの複数の準位のうちで前記第n井戸層で波動関数が最大となって前記注入層から後段の前記単位積層体の前記量子井戸発光層への電子の注入に用いられる注入緩和準位が形成されるように構成され、前記注入緩和準位は、前記緩和ミニバンドの最低エネルギーの準位である最低緩和準位よりも高く前記発光下準位よりも低いエネルギーの準位であることを特徴とする量子カスケードレーザ。
  2. 前記注入層において、前記n個の井戸層は、前記第1井戸層から前記第n井戸層に向かって井戸層の層厚が単調減少するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の量子カスケードレーザ。
  3. 前記注入層において、前記n個の井戸層は、前記第n−1井戸層と前記第n井戸層との間での層厚の減少量が、他のすべての隣接する井戸層の間での層厚の減少量よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の量子カスケードレーザ。
  4. 前記注入層において、前記緩和ミニバンドは、前記最低緩和準位の波動関数が、前記第n井戸層以外の井戸層で最大となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の量子カスケードレーザ。
  5. 前記注入層において、前記緩和ミニバンドは、前記最低緩和準位と前記発光下準位とのエネルギー間隔が50meV以上となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の量子カスケードレーザ。
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