JP2004520362A - 慢性炎症性腸疾患の治療のためのslpiの使用 - Google Patents

慢性炎症性腸疾患の治療のためのslpiの使用 Download PDF

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Abstract

本発明は、ヒトおよび動物の慢性炎症性腸疾患を治療するために分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、またはSLPIをコードする核酸を含みかつSLPI生成能力を有する非病原性微生物を使用することに関する。本発明はまた、作用物質SLPIまたはSLPIを発現する微生物を含有する経口または直腸投与用の医薬組成物、ならびに、かかる医薬組成物の調製方法に関する。

Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)の、またはSLPIをコードする核酸を含みかつSLPI生成能力を有する非病原性微生物の、ヒトおよび動物の慢性炎症性腸疾患を治療するための使用、作用物質SLPIまたはSLPI発現可能微生物を含む経口または直腸投与用の医薬組成物、ならびに、かかる医薬組成物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症性腸疾患は、広い意味で壊疽性腸炎、限局性クローン腸炎(クローン病)、嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、重症大腸炎、出血性大腸炎、虚血性大腸炎、粘液性大腸炎および潰瘍性大腸炎を含み、腸粘膜の段階的な破壊性炎症反応を特徴とする。最も重篤な形態であるクローン病と潰瘍性大腸炎はその分布パターンと、肉眼的および組織学的臨床像で区別される。
【0003】
クローン病は食道から肛門に至る消化管のすべての部分を襲う非特異的肉芽腫性炎症であるが、中でも下部回腸と結腸の区域に現われる。全症例の約40%で、もっぱら終末回腸が、まれには食道および胃が罹患する。潰瘍性大腸炎は潰瘍とその間に残存する粘膜の島を特徴とする大腸粘膜のび漫性持続性炎症であり、まれな場合にはこの疾患が小腸にも及ぶ。慢性炎症性腸疾患の確定診断はしばしば慢性的経過を通してのみ成功する。潰瘍性大腸炎では粘膜だけが侵されるが、クローン病は肉芽腫を有し、すべての壁膜が罹患し、しばしば瘻孔が形成される。ところがクローン病と潰瘍性大腸炎は区別できないことが多い。
【0004】
慢性炎症性腸疾患の発症の原因はまだほとんど不明である。クローン病は免疫学的因子、遺伝的因子(例えば、多因子遺伝)、栄養因子(例えば、キャンディーの頻繁な摂取)、感染因子(例えば、ロタウイルス、無莢膜マイコバクテリアおよびシュードモナス)に起因するとされる。同様に精神社会的環境および病前の人格構造も重要とされる。潰瘍性大腸炎は家族的素因、ギネコトロピー、心身因子および自己免疫機構と関連づけられる。最近の研究は、慢性炎症性腸疾患の発病に対しておそらく粘膜免疫系の病的に亢進した活性化が決定的な意義をもつと指摘する。
【0005】
原因療法はまだ不可能であるから、クローン病および潰瘍性大腸炎の治療は主として症状の軽減を目標にしている。慢性炎症性腸疾患に対して現在確立されている療法はおおむね非特異的な炎症抑制物質(例えば、グルココルチコイドおよびアミノサリチル酸)によるものである。
【0006】
グルココルチコイドは、核因子κBの減少により、ほとんどすべての炎症性サイトカインの合成、接着分子の発現、およびプロスタグランジンとロイコトリエンの生産を阻害する。ところが長期投与は重大な望ましくない作用を伴うことが判明したので、グルココルチコイドによる長期予防は合理的でない。グルココルチコイド療法の絶対禁忌は膿瘍であり、相対禁忌は凝塊腫瘍または腹腔内抵抗および腸瘻である。新たに開発されたグルココルチコイド、例えばブデソニド(Budesonid)では、ステロイド療法の副作用を少なくとも短期的に減少できることが示された。ところが急性期では、ブデソニドを極めて大量に投与しなければならないので、局所的作用だけでなく、比較的少ないにせよ全身的作用が認められる。
【0007】
アミノサリチル酸も核因子κBを減少させ、それとともに炎症性サイトカインまたはその受容体の形成を抑制する。ところがこの効果はステロイド治療の場合よりはるかに微弱に現われる。慢性炎症性腸疾患の治療でアミノサリチル酸は総じてグルココルチコイドより効果が小さい。現在使用されるガレン製剤は種々の放出特性、即ち近位小腸から近位結腸までの放出を目標として設計された。しかし、種々の解剖学的放出部位が局所標的療法として実際に治療上有利であるかは、まだ確認されていない。
【0008】
臨床状況によっては、グルココルチコイドまたはアミノサリチル酸の投与に栄養摂取の変更が伴う。重症期のクローン病および潰瘍性大腸炎の場合は、完全な非経口的栄養摂取が避けられない。とりわけ成長障害や重いステロイド副作用がある幼児の場合は、バランスのとれた腸内食が処方される。ところが除外食、減炭水化物食または魚油製剤の研究が一部で矛盾する結果をもたらしたので、クローン病または大腸炎用の効果が確実な食事はないことが明らかになった(StangeおよびSchreiber,Deutsches Arzteblatt,22(1997),1493−1498)。
【0009】
慢性活動性患者の場合は、狭義の免疫抑制療法、即ちアザチオプリン、その代謝産物6−メルカプトプリン、メトトレキセートおよびシクロスポリンによる療法が適用される。
【0010】
瘻孔の治癒と除去に対するアザチオプリンおよびその代謝産物6−メルカプトプリンの肯定的効果が臨床的に再三記述されてきたが、大規模な治験で前向きに検査して確認されたことはない(Presentら、N.Engl.J.Med.,302(1980),981−987;Presentら、Annals Internal Medicine,111(1989),641−649)。治療効果に至るまでの平均潜伏期が約3ヶ月で、しかも約20%の患者が治療に応答するのに4〜6ヶ月を要することも欠点である。潰瘍性大腸炎の場合はアザチオプリンの使用について少数の研究しか行われていない。ところがこの研究はこの薬物が急性潰瘍性大腸炎に適応しないことを示した。アザチオプリンは一連の副作用を引き起こし、用量に無関係のアレルギー反応(例えば、悪心、下痢、関節痛および肝酵素の増加)並びに用量依存性の副作用(例えば、血球減少症、感染および中毒性肝炎)が含まれる。
【0011】
メトトレキセートはジヒドロ葉酸レダクターゼ酵素を阻害し、こうしてプリン代謝に干渉する免疫抑制剤である。メトトレキセートはヒト免疫系に対し多数の効果を及ぼし、B細胞の抗体生産、単球の活性化、血管新生および顆粒球の活性化を抑制する。現在メトトレキセートの使用は、クローン病がアザチオプリン耐性の経過をたどるときだけ行われ、潰瘍性大腸炎では行われない。
【0012】
シクロスポリンAはリンパ球に対して優先的に作用し、そのクローン性増殖を阻害する。4件の研究中3件で慢性活動性クローン病の治療でのシクロスポリンAの臨床使用が無効であることが証明された(NeurathおよびStange,Deutsche Arzteblatt,28−29(2000),1672−1678)。しかもシクロスポリンAはしばしば、高血圧、糖尿病的代謝状態、腎不全、場合によっては日和見感染などの副作用を引き起こす。
【0013】
慢性再発性の非特異的腸炎症を治療するために、選択的な免疫調節手法が1980年以来開発されている。これは腸内の炎症促進性サイトカインと炎症抑制性サイトカインとの平衡を調節するものである。これは、炎症性サイトカインの分泌を抑制するか、または抗炎症性サイトカイン、例えばインターロイキン10(IL−10)またはインターロイキン4の生成を刺激もしくは置換することによって、得られる。
【0014】
動物実験的研究でIL−10遺伝子の不活性化が慢性腸疾患の発生をもたらした。また組換えIL−10は実験的大腸炎の発症に対して予防効果があり、治療に必要なステロイド量が減少した。幾つかの研究では、クローン病患者でIL−10の潜在的治療効果が評価された。臨床的内視鏡的基準によれば、約30%の患者で寛解が観察された。IL−11を使用した場合も同様の結果を得た(NeurathおよびStange,Deutsche Arzteblatt,97(2000),1672−1678)。Steidlerら(Science,289(2000),1352−1355)は、IL−10を分泌する組換えLactococcus lactis株を、マウスモデルでの慢性炎症性腸疾患の治療に使用することを記述する。その場合、生きている組換えL.lactis菌を14日の期間にわたり罹患動物に毎日投与した。この方法によってIL−10またはデキサメタゾンの全身投与の場合と同様の効果が得られることが判明した。L.lactisは天然の腸内微生物叢に属さない非病原性グラム陽性菌である。
【0015】
しかしながら、抗炎症性サイトカイン、例えばインターロイキン4、を使用すると、大きな副作用の可能性も示される。Dullemenら(Gastroenterology,109(1995),129−135)の研究では、クローン病患者でヒト化抗TNFα抗体の1回の適用で8〜10人の患者に少なくとも2,3週間持続する治癒が得られされることが示されたが、しかし強い副作用も認められた。例えば、このマウス/ヒト・ハイブリッド抗体に対して抗体形成が起こり、この抗体形成は一部で血清病、場合によってはリンパ腫の発症を伴った。また抗体によって引き起こされる細胞集団の不可逆的減少が、特に複数回投与の場合に、大きな免疫学的危険を示すことが判明した。
【0016】
感染が慢性炎症性腸疾患症状の発生に寄与するという多数の指摘もある。例えば大腸菌リポ多糖抽出物で処理したリンパ球は上皮細胞コロニーに対して細胞傷害活性がある(Shorterら、Gastroenterology,58(1970),692−698)。潰瘍性大腸炎患者は健康な被験者よりも溶血性、腸管毒性または壊疽毒性大腸菌株を有することが多い。従って、例えば潰瘍性大腸炎の治療戦略は広域抗生物質を投与することである。ところがバンコマイシンでは治療効果がまったく認められなかった。活性が主としてグラム陰性菌(例えば大腸菌)に向けられたトブラマイシンは、潰瘍性大腸炎ではいずれにせよ短期的効果を有するようである。
【0017】
慢性炎症性腸疾患患者の腸内細菌叢を長期的に変える試みも取り上げられた。例えば潰瘍性大腸炎患者をゲンタマイシンで予備治療し、続いて非病原性大腸菌株(Nissle 1917)(Mutaflor)で治療した(Rembackenら、The Lancet,354(1999),635−639)。この大腸菌株はメサザリン(5−アミノサリチル酸)に似た効果があり、寛解および寛解期間は同等であることが判明した。
【0018】
天然または組換え細菌株はヒトおよび動物の他の病患の治療にも使用された。例えば、国際特許公開WO99/26642は獣医分野での下痢の治療のための非病原性大腸菌株DSM6601の使用を記載する。Vandenplas(Clin.Mikrobiol. and Infect.,5(1999),299−307)は、急性および慢性感染性胃腸炎の治療のための生物治療剤、特に生存している細菌および酵母細胞の使用を記述する。Patonら(Nature Medicine,6(2000),265−270)は、細胞表面にシガトキシン受容体を形成する組換え細菌(例えば組換え大腸菌)を、シガトキシン産生菌に起因する胃腸病の治療に使用することを記述する。Beninatiら(Nature Biotechnology,18(2000),1060−1064)は、殺菌性一本鎖抗体を分泌し、かつラット膣に安定的にコロニーを形成することができる2つの組換えStreptococcus gordonii株を、実験的に生じさせたカンジダアルビカンス膣炎の治療に使用することを記述する。
【0019】
幾つかの内在性タンパク質分解酵素について、それらはヒトまたは動物の身体の種々の疾患の発病に直接または間接に関与することが知られている。内在性タンパク質分解酵素はとりわけ侵入する微生物、抗原−抗体複合体および生体がもはや必要としない特定の組織タンパク質の分解のために利用される。正常な健康な生物ではタンパク質分解酵素は限られた量で生産され、一連のプロテアーゼ阻害剤の合成によって調節される。特にタンパク質分解性攻撃および感染にさらされた組織(例えば呼吸器官の組織)は通常極めて多くのプロテアーゼ阻害剤を含有する。ある場合には、例えば敗血症や急性白血病のような重症の病理的過程では、遊離のタンパク質分解酵素の量が増加する。プロテアーゼとプロテアーゼ阻害剤の平衡が乱されると、例えばプロテアーゼ介在の組織破壊が起こるので、関係する生物に重大な損傷を与える。気腫、関節炎、糸球体腎炎、歯周炎、筋ジストロフィー、腫瘍侵入およびその他の病状がこれに属する。
【0020】
これまでに同定されたプロテアーゼ阻害剤の1つに、セリンプロテアーゼ活性を有する酵素を阻害する分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)がある。とりわけ外界と直接接触する身体部位、例えば耳下腺並びに副鼻腔、気管および気管支の上皮に12キロダルトンのタンパク質が検出された。SLPIはとりわけヒト白血球エラスターゼ、カテプシンGおよびヒト・トリプシンを阻害する。白血球エラスターゼは、細胞外に放出されたとき、結合組織およびそれに関連したタンパク質を分解することから、特に興味深いセリンプロテアーゼである。白血球エラスターゼは種々の病状、例えば気腫および慢性関節リウマチと関連づけられる。トリプシンは特定の内部器官組織(例えば膵炎罹病時の膵臓組織)の分解を開始することが知られているから、トリプシンも特に興味深いプロテアーゼである。カテプシンGについては、このプロテアーゼがin vitroで一連のタンパク質(例えば補体代謝経路のタンパク質)を分解できることが知られている。SLPIはさらに抗ウイルス、抗真菌および抗細菌効果を有する。
【0021】
SLPIは慢性胃炎の発症でも役割を果たすようである。例えばNiliusら(Cellular Peptidases in Immune Functions and Diseases 2(LangerおよびAnsorge監修)、(2000)、445−454,Kluwer Academic/Plenum Publishers所載)は、胃粘膜のヘリコバクター・ピロリ感染の際に、胃粘膜上皮細胞によって生成され分泌されるSLPIが著しく減少することを示す。
【0022】
種々の疾患の治療にSLPIを使用することは知られている。
【0023】
例えば米国特許第5,633,227号は、薬理的に有効なSLPI断片またはその突然変異体を投与することによる、哺乳動物におけるマスト細胞介在病状の治療方法を開示する。またSLPIを使用することによる喘息またはアレルギー性鼻炎の治療方法が記載される。この刊行物はSLPIペプチドまたはタンパク質部分の投与によるトリプターゼまたはトリプターゼ仲介症状の抑制方法も開示する。
【0024】
米国特許第5,851,983号は、SLPIのC末端部分を含み、それゆえエラスターゼを阻害することができるポリペプチドを開示する。またこのポリペプチドを含む医薬組成物および好中球の過剰活性化によって引き起こされるかまたは好中球プロテアーゼと関連がある疾病の治療方法が記載される。その場合に問題になるのは、例えば炎症性疾患、血小板凝集性血栓症および虚血後再潅流障害、さらには慢性気管支炎、ARDS[成人型呼吸窮迫症候群]、腎炎、肺炎等のような疾患である。
【0025】
国際特許公開WO94/06454号は、SLPIタンパク質またはその類似体もしくは誘導体を投与するレトロウイルス感染(特にHIV感染)の阻止方法を記載する。またこの刊行物は特定のSLPIをコードするヌクレオチド配列およびこの配列によりコードされたタンパク質を開示する。
【0026】
国際特許公開WO99/17800号はSLPIタンパク質を含有する医薬組成物を開示する。この医薬は特に呼吸器疾患(例えば肺疾患)の治療、プロテアーゼ量の増加を特徴とする疾患の治療、および白血球またはマスト細胞が介在する疾患の治療のために設計されたものである。
【0027】
米国特許第6,132,990号は組換えセリンプロテアーゼ阻害剤の調製方法およびそのために使用できるDNA配列を開示する。開示されたタンパク質はキモトリプシンおよびエラスターゼを阻害するが、トリプシンは阻害しない。
【0028】
特開平07−103977号公報は、SLPIに対する抗体を使用するSLPIおよびSLPI−エラスターゼ複合体の検出方法を記載する。このシステムは特に呼吸器感染症の検出のために使用される。
【0029】
しかし、腸内のSLPIの存在と機能についてはほとんど研究がなく、結果が一部で大変矛盾している。例えばBergenfeldtら(J.Gastroenterol.,31(1996),18−23)はヒト腸粘膜の上皮細胞でのSLPIの免疫染色を記述する。Si−Taherら(Gastroenterology,118(2000),1061−1071)はヒト腸上皮細胞のSLPIの構成的調節的分泌を記述し、また病源体ネズミチフス菌に対するSLPIの抗菌活性を示す。ところが、Frankenら(J.Histochem.Cytochem.,37(1989),493−498)はSLPIが消化管にまったくまたはほとんど存在しないことを報告する。Nystromらの研究(Scand.J.Clin.Lab.Invest.,57(2)(1997),119−125)では、唾液起源の嚥下されたSLPIが腸内に見られるSLPI量にどの程度寄与するかという問題を研究した。著者らは、嚥下されたSLPIが胃と十二指腸で急速に分解され、その結果腸管の炎症性疾患に対して何の役割も果たさないとの結論に達した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
そこで、本発明の根底にあるのは、慢性炎症性腸疾患の治療に使用することができる薬剤、並びにこのような薬剤の調製方法および使用を提供するという技術的課題である。その場合、薬剤は従来使用された薬剤より高度に慢性炎症性腸疾患の原因の治療を可能にすべきであり、また、従来使用された薬剤と対照的に、先行技術で述べられた全身的副作用を呈することなく、局所的治療を可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、その断片、その複合体、その誘導体、その類似体、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸、および該核酸を含みかつSLPI生成能力を有する非病原性微生物からなる群から選ばれた作用物質を、壊疽性腸炎、限局性クローン腸炎(クローン病)、嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、重症大腸炎、出血性大腸炎、虚血性大腸炎、粘液性大腸炎および潰瘍性大腸炎からなる群から選ばれたヒトまたは動物の疾患の治療に使用することによって、この技術問題を解決する。
【発明の効果】
【0032】
特にクローン病に現われる深い溝のある潰瘍は、慢性炎症性腸疾患で腸組織のタンパク質分解性破壊が起こることを示す。腸は一般に表面で急速な代謝回転が起こるのが特徴である。従って、びらんおよび潰瘍の形成と、その結果としての腸機能障害を回避するために、健全な組織の細胞外基質の分解と再生が綿密に調節されなければならない。今回、免疫染色法によって、意外なことに、クローン病患者の腸粘膜の分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤の量が、健全な被験者の腸粘膜に比して激減していることが本発明に従って確認された。この驚くべき知見は、タンパク質分解作用を有するセリンプロテアーゼとプロテアーゼ阻害剤SLPIの平衡が慢性炎症性腸疾患患者の腸上皮細胞では妨げられていることを示す。従って、SLPIは、例えば気道の組織で証明されたように、上皮組織を保護する機能を発揮することができないから、タンパク質分解酵素が腸上皮層を分解してしまう。そこで罹病器官にSLPIを計画的に供給することによって、クローン病および潰瘍性大腸炎患者の腸上皮細胞においてプロテアーゼ阻害剤と炎症性プロテアーゼとの間に平衡を再確立することが可能である。このような炎症性プロテアーゼとしては、特に慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜に顕著に現われる好中球および好酸球並びにマクロファージに由来する、例えば好中球エラスターゼ、カテプシンGおよびキマセン(chymasen)がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
そこで、本発明の特に好ましい実施形態では、とりわけ単離・精製した形の作用物質SLPI自体を罹病器官に供給することによって、作用物質SLPI、その断片、その複合体、その誘導体またはその類似体を慢性炎症性腸疾患の治療に使用することが提供される。慢性炎症性腸疾患患者の罹病した解剖学的領域への作用物質(例えばSLPI自体)の計画的供給は、腸表面をプロテアーゼのタンパク質分解活性による破壊から保護する。またSLPIは抗レトロウイルス、抗真菌および抗細菌作用を有することが証明されているから、腸へのSLPIの計画的供給はさらに慢性炎症性腸疾患にしばしば随伴する二次感染の制圧をもたらす。例えばサルモネラ菌および腸毒素産生性大腸菌による感染がこれに属する。
【0034】
本発明の別の特に好ましい実施形態では、単離・精製された作用物質自体ではなく、SLPI生成能力がある生存している非病原性微生物に含まれる、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸を慢性炎症性腸疾患の治療のために使用することが提供される。その場合、作用物質例えばSLPIをコードする核酸を含み、かつその作用物質を発現する非病原性微生物が腸に送り込まれ、そこでとりわけ腸に定住し、腸内腔で所定の(とりわけ比較的長い)期間にわたって作用物質SLPIを発現し、罹患した腸上皮の細胞に作用物質SLPIを直接放出する。この方法では、罹患した腸領域に対して、単離精製した作用物質自体による治療と同様の有利な効果が得られる。かくして慢性炎症性腸疾患疾患の計画的な局所的治療が可能である。単離精製した作用物質による治療に比して、生存SLPI産生微生物による治療ははるかに低廉である。しかも治療に必要な用量が大幅に減少するから、副作用の可能性も少なくなる。
【0035】
この実施形態はさらに幾つかの利点をもたらす。使用される非病原性微生物が大腸菌株、例えば大腸菌株(Nissle 1917)であるならば、SLPIの有利な効果と、先行技術で説明された慢性炎症性腸疾患の寛解に対する大腸菌(Nissle 1917)の好ましい効果とを組み合わせることができる。微生物(例えば細菌)によって所定量の作用物質SLPIが長期間にわたって連続的に罹患組織に直接放出されるので、作用物質SLPIのバイオアベイラビリティーは例外的に高い。というのは、従来の薬剤において作用物質のバイオアベイラビリティーに影響を与える製薬上の要因(例えば調製方法、溶解度等)がなんの役割も果たさないからである。また、さもなくば作用物質のバイオアベイラビリティーを大幅に制限する前全身排除(初回通過効果)、即ち作用物質SLPIの代謝も、副次的な役割しか果たさない。さらに、細菌または動物もしくはヒト組織からの作用物質SLPIの単離精製を行わないことも過小評価できない利点である。
【0036】
本発明に関連して、「慢性炎症性腸疾患」なる概念は、腸の慢性/再発性特異的炎症、特に潰瘍性大腸炎およびクローン病を意味する。この概念は、「不定型大腸炎」という項目に入り、特定の臨床病像との明確な対応が可能でない、すべての疾患を包含する。またこの概念は慢性炎症性腸疾患を伴う腸管外疾患、例えば慢性肝炎、硬変症、肉芽腫、尿路結石症、アミロイド変性、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、アフタ性口内炎、関節炎、棍棒状指、ブドウ膜炎/虹彩炎、自己免疫性溶血性貧血、脈管炎、線維化隔膜炎、心膜炎、甲状腺機能亢進等も包含する。
【0037】
本発明に関連して「作用物質」とは、本発明による使用のために必要とされる生物学的活性を有する限り、SLPI自体、その断片、その複合体、その誘導体またはその類似体を意味する。以下ではSLPIの概念は一般に上記の作用物質の概念と同じ意味で使用される。従って本発明に関連して「作用物質」の概念は、病状の回避、軽減または除去のために予防的にまたは疾患に伴って使用することができる薬剤を意味する。
【0038】
「分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)」とは、本発明に基づきセリンプロテアーゼ、特に白血球エラスターゼ、トリプシンおよびカテプシンGに対して阻害作用を及ぼし、さらに抗レトロウイルス、抗真菌および抗細菌活性を有する真核生物タンパク質を意味する。本発明に基づき使用される作用物質SLPIは天然起源のものであってよく、例えば真核生物組織、とりわけ哺乳動物組織、好ましくはヒト組織から単離したタンパク質である。また作用物質SLPIは、DNA組換え技術により調製されたタンパク質または合成起源の、例えばMerrifieldの固相合成法(Angew.Chem.,97(1985),801)を使用して調製したタンパク質である。
【0039】
本発明に関連して「断片」とは、上記の活性を及ぼすのに十分な長さを有するSLPIタンパク質の部分を意味する。従って、本発明に基づきSLPIの断片とは、天然のSLPIより少ないアミノ酸(即ち、132個より少ないアミノ酸)を有するが、2つの主要ドメイン(即ち、抗プロテイナーゼ活性を有するカルボキシ末端領域と、例えば黄色ブドウ球菌に対して、抗菌作用を及ぼすアミノ末端領域)が保持されているタンパク質部分を意味する。好ましくは、このような断片は4個のジスルフィド架橋の存在を特徴とし、そのためタンパク質の三次構造がおおむね維持される。
【0040】
本発明に基づき「複合体」とは、SLPIのほかに複数の他の成分を含む化合物(例えば多酵素複合体)またはSLPIを含む機能的構造的に異なる酵素の規則的会合からなるヘテロマータンパク質(例えばSLPI−エラスターゼ−1複合体)を意味する。本発明によれば、SLPI複合体は天然のSLPI複合体であってもよい。しかし、他のプロテアーゼ阻害剤、例えばα−マクログロブリン、α1−プロテアーゼ阻害剤(α1−PI)、α1−抗キモトリプシン、α1−抗コラゲナーゼおよびα1−トリプシン阻害剤を含む、in vitroに調製されたSLPI複合体であってもよい。
【0041】
本発明に関連して「誘導体」とは、SLPIの基本構造を保ちつつ原子または分子基または残基の置換によって得られ、かつ/またはそのアミノ酸配列が天然起源のヒトまたは動物SLPIタンパク質の配列と少なくとも1つの位置で相違するが、アミノ酸レベルでおおむね高度の相同性を有しかつ同様の生物学的活性を示すSLPIの機能的均等物または誘導体を意味する。また本発明によれば「誘導体」の概念は、N末端部分またはC末端部分に他のタンパク質、例えば他のプロテアーゼ阻害剤の機能的ドメイン、が存在する融合タンパク質も包含する。「相同性」は少なくとも80%、特に少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも90%、95%、97%および99%の配列同一性を意味する。従って当業者に周知の「相同性」という表現は、配列間の一致で決まる2つ以上のポリペプチド分子の近縁度を表す。その場合、一致は同一による一致と、保存的アミノ酸交換の両方を意味する。
【0042】
誘導体と天然SLPIの相違は、例えば欠失、置換、挿入、付加、塩基交換および/またはアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の組換えなどの突然変異によって生じる。もちろんその場合、天然の配列変異体、例えば他の生物の配列または自然に突然変異した配列、または当業者に周知の慣用手段(例えば化学薬品および/物理的作用因子)により当該配列に計画的に導入された突然変異も関係する。
【0043】
本発明に関連して「SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸」とは、天然SLPIの機能的ドメイン、特に抗プロテアーゼ活性、抗レトロウイルス活性、抗細菌活性および抗真菌活性を有する、SLPIタンパク質、その断片または誘導体をコードする核酸を意味する。本発明に基づき使用される核酸配列は、線状または環状形態のDNAまたはRNA配列である。核酸は天然供給源、例えば真核生物組織、とりわけ哺乳動物組織、好ましくはヒト組織から単離された核酸であるか、または合成的に調製することができる。
【0044】
SLPI配列は真核生物、とりわけ哺乳動物、好ましくはヒトに由来するから、本発明に基づき使用されるSLPIコーディング配列は、非病原性微生物で使用する場合、細菌即ち原核微生物での発現を確実にする形態をとらねばならない。たいていの細菌はイントロン配列を正確に除去するための適当な細胞機構を持たないから、本発明に基づき使用される配列を原核生物で発現しなければならない場合は、天然供給源から単離された核酸を例えばイントロン配列が除去されるように改変する。細菌のタンパク質は要するに真核生物のタンパク質と異なるシグナル配列を有するから、この場合はシグナルペプチドをコードする核酸の天然配列も除去することが好ましい。場合によっては、原核生物宿主で真核生物遺伝子を有効に発現させるために、真核生物組織に由来する核酸のコドン組成も宿主生物に応じて変更する。原核生物は真核生物と異なるtRNA集団を有し、従ってしばしば別のコドンを利用することが知られている。この異なる「コドン使用頻度」は細菌での真核生物遺伝子の有効な発現を制限することがある。
【0045】
本発明に基づき使用されるSLPIコーディング配列を非病原性真菌微生物、例えば子嚢胞子形成酵母Saccharomyces boulardiiに使用するならば、天然のイントロン配列を場合によっては除去しなければならない。酵母細胞はイントロン配列を除去するための細胞機構を有するが、しかし高等真核生物とは相違する。酵母細胞は哺乳動物タンパク質の幾つかのシグナル配列を認識し正確にプロセッシングするが、すべての配列をそうするわけでないことが判明した。従って本発明に基づき使用される配列の天然のシグナルペプチドコーディング配列も必要に応じて除去しなければならい。しかし酵母細胞では異種遺伝子、特に真核生物遺伝子の高い発現率が観察されるから、本発明に基づき使用される配列のコドン組成を変更する必要はない。
【0046】
本発明に関連して「SLPI生成能力を有する非病原性微生物」という表現は、本発明に基づき使用される微生物がこの微生物を送り込もうとするマクロ生物(即ちヒトまたは動物)に対して病原作用がないこと、そして真核生物に由来する(場合によっては発現可能な形にされた)核酸を正確に転写および翻訳することができ、微生物の細胞質中でSLPI活性を有するタンパク質を産生し、細胞質から外膜を経て少なくとも周辺腔へ輸送し、とりわけ微生物の周囲に放出することを意味する。かくして、本発明に基づき慢性炎症性腸疾患患者の罹病した腸部分に送り込まれた微生物は、所定の期間にわたって、SLPI活性のあるタンパク質を発現し、腸上皮組織に直接放出することができる。とりわけ非病原性微生物は所定の期間にわたってヒトまたは動物の腸内で生存し、場合によってはここにコロニーを形成することができる。こうして慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜に観察されるSLPI不足を補い、これに関連する臨床的発現を取り除くことができる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態では、とりわけ単離精製された作用物質を医薬組成物として投与することによって、慢性炎症性腸疾患患者を治療するために作用物質SLPIが使用される。本発明に関連して「医薬組成物」とは診断、治療および/または予防目的のために使用され、作用物質が患者に適用しやすい形で含まれている天然の、または合成的に調製された作用物質を含む混合物を意味する。医薬組成物は固形または液状混合物でありうる。例えばSLPIを含む医薬組成物は1種以上の製薬上許容される賦形剤を含むことができる。医薬組成物は別の添加剤、例えば安定化剤、増粘剤、離型剤、滑沢剤、着色剤、香料、味覚物質、乳化剤または当技術分野で使用される類似の物質を含むことができる。
【0048】
本発明によれば医薬組成物に含まれる単離精製された作用物質は、特に慢性炎症性腸疾患の状態を治療し、またはこれを予防し、慢性炎症性腸疾患の進行を停止しおよび/または慢性炎症性腸疾患の症状を軽減するのに十分な用量で慢性炎症性腸疾患患者に投与される。従って重大な有害副作用なしに最適な治療効果が得られ、治療の成果が長期間持続するように作用物質を投与する。
【0049】
本発明によれば、医薬組成物に含まれる単離精製された作用物質は、特に1〜5000mgの用量で1日1〜3回投与される。患者に投与される作用物質の量は、とりわけ投薬形態、治療される患者の年齢、性別および体重並びに疾患の重症度に左右される。従って患者を治療する正確な用量は、治療する医師が個別に確定しなければならない。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、医薬組成物に含まれる単離精製された作用物質は経口投与される。作用物質の経口投与は特に上部腸管、例えば十二指腸または小腸が罹患している慢性炎症性腸疾患患者に好ましい。作用物質は懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、舌下錠、顆粒剤、粉剤または類似の適当な投薬形態で投与することが好ましい。SLPIは酸に対して比較的安定であるが(Nystromら、Scand.J.Clin.Lab.Invest.,57(1997),119−125)、作用物質が支障なく胃を通過することができ、とりわけ上部腸部分で初めて溶解するように、胃液に抵抗するコーティングをもつ剤形が好ましい。胃液抵抗性のコーティングの組成とその調製方法は当技術分野で周知である。特に慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜を内腔側から長時間にわたり局所的に治療するために、作用物質遅延放出機構を有する経口投与剤形が好ましい。作用物質遅延放出型のこのような剤形の構造と組成も当技術分野で周知である。
【0051】
本発明の別の実施形態では、単離精製した作用物質を含む医薬組成物が直腸に投与される。特に下部腸領域が罹患した慢性炎症性腸疾患、例えば常に直腸で始まり、多くの罹病者で近位方向に広がってゆく潰瘍性大腸炎の治療には、作用物質の直腸投与が好ましい。作用物質の投与は坐薬、浣腸剤、フォーム剤または類似の適当な投薬形態で行うことが好ましい。
【0052】
本発明の別の実施形態では、とりわけ単離精製された作用物質が非経口的に、即ち胃腸管を通らずに投与される。作用物質の非経口投与は特に慢性炎症性腸疾患の治療に非経口的栄養が付随する場合に好適である。またこの治療形態は成長障害のある幼児で有利である。本発明によれば非経口投与は特に注射または輸液によって行われる。
【0053】
本発明の特に好ましい実施形態では、慢性炎症性腸疾患患者の治療が単離精製された作用物質SLPI自体によってではなく、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸を含み、SLPI生成能力を有する非病原性微生物によって行われる。本発明によれば、特に非病原性微生物はヒトまたは動物への投与の前、間または後に作用物質を産生し、産生された作用物質を投与の後に消化管の罹病器官に放出することができる。
【0054】
本発明の特に好ましい実施形態では、使用される非病原性微生物はヒトまたは動物の共生生物に属する細菌または真菌微生物である。本発明に関連して「共生生物」とは、宿主(例えばヒトまたは動物)の食物もしくはその分泌物(例えば唾液または粘液)によって生きている非病原性微生物を意味する。このような共生生物はとりわけ口、呼吸器、泌尿器、性器または腸の粘膜で生存する。本発明に基づき使用される共生生物はとりわけ雑菌性微生物であり、多くは病原性がある寄生的な共生微生物ではない。
【0055】
本発明の特に好ましい実施形態では、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸のための宿主細胞として真菌の非病原性共生微生物が使用される。真核生物異種遺伝子の発現のための宿主生物として、真核生物に属する真菌微生物、例えば酵母は、原核生物に属する細菌に比して幾つかの決定的な利点を有する。例えば酵母細胞は真核生物遺伝子の遺伝子産物を分泌することができる。即ち遺伝子産物を細胞から輸送し、周囲に放出することができる。分泌の際にタンパク質がグリコシル化される。また酵母細胞には極めて大きなDNA断片をクローニングすることができる。従って酵母細胞はSLPIのクローニングと発現および腸上皮へのSLPIの放出のために特に適している。
【0056】
好ましくは、真菌微生物はサッカロミセス属、即ち子嚢胞子を形成する酵母に属するものである。特に好ましい実施形態では、本発明に基づき使用される真菌の非病原性共生微生物はSaccharomyces boulardiiである。
【0057】
本発明の特に好ましい実施形態では、非病原性微生物はヒトまたは動物の天然腸内微生物叢に属するものである。天然腸内微生物叢の組成または慢性炎症性腸疾患に関連する病理的事象への影響が不明であるかまたは評価しにくい微生物が患者の腸内微生物叢に侵入しない限り、天然腸内微生物叢が特に有利である。さらに本発明に基づき使用される微生物は、哺乳動物の腸内の特殊な条件に生理的に極めてよく適応するので、本発明に基づき使用される微生物が患者の腸内に生息している微生物と栄養物をめぐってうまく競合できることが特に好都合である。こうして本発明に基づき使用される微生物の長期間の生存と、それに伴う作用物質SLPIの長期間の発現が確実となる。しかも正常な腸内微生物叢の微生物は病原性または日和見微生物に対する感染防御を仲介する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、使用される非病原性微生物はヒトまたは動物の天然腸内微生物叢の好気性または嫌気性グラム陰性菌である。好ましくは、本発明に基づき使用されるグラム陰性宿主細菌はエシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属またはプロテウス属に属するものである。
【0059】
本発明の特に好ましい実施形態では、使用されるグラム陰性宿主細菌は大腸菌株(Nissle 1917)である。これは大腸菌DSM6601に相当する。この菌株はヒトに対して非病原性である。大腸菌Nissle 1917(血清型06:K5:H)については、この菌株が種々の病原性および非病原性腸内細菌に対して拮抗作用を示すことが知られている。大腸菌(Nissle 1917)の拮抗作用は、おそらくバクテリオシンまたはマイクロシンの生産に起因するが(Blum,MarreおよびHacker,Infection,23(1995),234−236)、腸粘膜の受容体の遮断にも関連するようである(Rembackenら、The Lancet,354(1999),635−639)。さらに大腸菌(Nissle 1917)については、この菌株で治療した潰瘍性大腸炎患者が薬剤メサラジン(Mesalazin)に匹敵する寛解を示し、しかもメサラジンで公知の副作用が現われないことが知られている(Rembackenら、The Lancet,354(1999),635−639)。このように大腸菌株(Nissle 1917)は、慢性炎症性腸疾患患者の病状に対する野生型株の好ましい効果と、慢性炎症性腸疾患の病状の治癒過程に対するSLPI供給の本発明に基づく有利な効果とを組み合わせることができるという特別の利点をもたらす。大腸菌(Nissle 1917)はArdeypharm GmbH(ドイツ国ヘルデッケ所在)から“Mutaflor”の名称で市販されている。大腸菌はさらに遺伝子工学的実験で最も頻繁に使用される、極めてよく研究された微生物であるという大きな利点がある。この細菌のためには極めて多くの遺伝子技術方法とクローニングベクターが開発されている。
【0060】
本発明の別の好ましい実施形態では、使用される非病原性微生物は天然腸内微生物叢の好気性または嫌気性グラム陽性菌である。正常な腸内微生物叢に多数のグラム陽性菌が定住することは周知である。例えばビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、コリネバクテリウム属の菌種がこれに数えられる。例えばBifidobacterium bifidumは、母乳栄養児の主要な腸定住菌とみなされるが、人工栄養児および成人、おそらくすべての温血動物の正常な腸内微生物叢でも大きな割合を占めている。真核生物遺伝子の発現のための宿主生物として、グラム陽性菌はグラム陰性菌に比して、真核生物遺伝子の遺伝子産物を分泌することができ、即ち遺伝子産物を細胞から外へ輸送し、周囲に放出することができるという決定的な利点を有する。従ってグラム陽性宿主細菌はSLPIの発現と腸上皮への放出に特に適している。
【0061】
そこで本発明の好ましい実施形態は、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸のための宿主細菌としての、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属およびコリネバクテリウム属のグラム陽性菌の使用を包含する。特に好ましい実施形態では、使用されるグラム陽性宿主細菌は自然に形質転換可能な非病原性の共生細菌であるStreptococcus gordoniiである(Beninatiら、Nature Biotechnology,18(2000),1060−1064を参照)。
【0062】
本発明の別の好ましい実施形態では、SLPI生成能力を有し、かつ導入先の宿主に対して非病原性である限り、天然腸内微生物叢に属さないか、またはヒトもしくは動物の共生生物でない非病原性微生物も、作用物質SLPIをコードする核酸の発現のために使用される。このような微生物は、少なくとも所定の期間にわたってヒトまたは動物の腸の中で生存することができる細菌であることが好ましい。またこのような細菌は慢性炎症性腸疾患の経過またはSLPIの治療効果に対して不利な作用を及ぼしてはならない。天然腸内微生物叢に属さないか、または共生生物でないが、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸の宿主細胞として本発明に基づき使用することができる細菌の好ましい例は、食品の発酵製造のために使用される細菌である。特に好ましい例は、乳酸菌、例えばLactococcus lactis、Lactobacillus delbrueckii 亜種 bulgaricus、Lactobacillus caucasicus、Lactobacillus casei、Lactobacillus kefir、Streptococcus thermophilus、幾つかのロイコノストック属(Leuconostoc)の2,3の菌種等である。
【0063】
本発明の別の好ましい実施形態では、作用物質SLPIをコードする核酸の発現のために、本発明に基づき使用される非病原性微生物の突然変異体が使用される。この場合、発現された特定のタンパク質が細胞を出て、細胞の周辺に達することができるように、細胞外被が改変されている。このような突然変異体は「漏出性突然変異体」とも呼ばれる。細胞外被が変異した漏出性突然変異体は公知の方法、例えばニトロソグアニジンを使用する突然変異誘発法によって得ることができる。様々なタイプの漏出性突然変異体の例は、Anderson、WilsonおよびOxenderがJ.Bacteriol.,140(1979),351−358で、また、Fung、MacAlisterおよびRothfieldがJ.Bacteriol.,133(1978),1467−1471で述べている。このように、作用物質SLPIをコードする核酸のための宿主細胞としての漏出性突然変異体の使用は、特に発現されたSLPIタンパク質の周囲への、即ち慢性炎症性腸疾患患者の腸上皮への放出が保証されるという利点がある。
【0064】
別の有利な実施形態では、グラム陰性またはグラム陽性宿主細菌もしくは真菌宿主細胞のスフェロプラスト、L型またはプロトプラストを使用することができる。細菌スフェロプラストは、グラム陰性菌をリゾチームで処理することによって得られる細胞である。細菌プロトプラストはグラム陽性菌をリゾチームで処理することによって得られる細胞である。ペニシリンまたはリゾチーム−EDTAで処理することによってもスフェロプラストを得ることができる。グラム陰性菌またはグラム陽性菌のL型は、機能性細胞壁の形成能力を失っていることが特徴である。細菌のL型を得る方法は、例えばMakemsonおよびDarwish,Infect.Immunol.,6(1972),880に記載されている。酵母細胞からも周知の方法でスフェロプラストを得ることができる。
【0065】
本発明によれば、特に、非病原性微生物に含まれるSLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸はベクターに挿入される。本発明に関連して「ベクター」の概念は染色体外DNAを意味し、とりわけプラスミド、コスミド、バクテリオファージ、ウイルス、シャトルベクターおよび遺伝子技術で常用されるその他のベクターが挙げられる。本発明に基づくベクターは、宿主生物内でのベクターの安定化、選択および/または複製を生じさせ、または少なくともそれに寄与する別の機能単位を含んでいてもよい。
【0066】
本発明によれば、遺伝子配列のクローニングのために常用されるベクターとは相違して、本発明に基づきSLPI配列の挿入のために使用されるベクターは抗生物質耐性に基づく選択マーカーを含まない。作用物質の発現のためのベクターが導入される宿主細胞は、ある期間にわたって慢性炎症性腸疾患患者の腸に安定的に定住するはずであるから、もし上記の選択マーカーを含むならば、ベクターに含まれた抗生物質耐性が腸内微生物叢の他の菌に引き継がれ、こうして腸内微生物叢の中で伝搬することになろう。
【0067】
従って本発明によれば、好ましい実施形態でのベクターに含まれる選択マーカーは、その遺伝子産物がヒトまたは動物に無害でありかつ容易に検出される遺伝子である。好ましい実施形態において、ベクターに含まれる選択マーカーは「緑色蛍光タンパク質」(GFP)をコードする配列であり、その場合GFP産物の検出を、例えばFACSまたはフローサイトメトリーを用いて行う。
【0068】
本発明の特に好ましい実施形態では、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸をベクターに挿入するにあたり、該核酸が、投与の前または間または後に該核酸の翻訳可能RNAへの転写および/または該RNAのタンパク質への翻訳を確実にする少なくとも1つの調節エレメントの機能的制御下に置かれるようにする。
【0069】
調節エレメントは、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、シグナル配列および/または転写終止シグナルでありうる。SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸と機能的に結合された調節エレメントは、SLPIをコードするヌクレオチド配列とは別の生物または別の遺伝子に由来するヌクレオチド配列であってよい。
【0070】
本発明によれば、使用されるプロモーターは構成性または誘導性プロモーターである。プロモーターとは、酵素RNAポリメラーゼが結合して遺伝子転写過程を開始させるDNAの領域である。「構成性プロモーター」は、外部刺激なしでコーディングDNA配列の転写を連続的に生じさせる非調節プロモータ−である。「誘導性プロモーター」は、直接的には化学薬品の存在または不在により、間接的には環境からの刺激(例えば温度変化)により活性化される調節プロモーターである。構成性プロモーターは、誘導性プロモーターと比較して、例えば細菌宿主細胞での異種タンパク質の制御不能な発現によりこの宿主細胞の死滅を招くという欠点がある。
【0071】
そこで本発明に基づきSLPIをコードする核酸の発現のために特に誘導性プロモーターの使用が予定される。本発明の好ましい実施形態では、栄養不足によって誘導される誘導性プロモーターが使用される。栄養不足によって誘導されるプロモーターは、細胞機能の維持のために不可欠な化学物質の濃度が著しく低下するかまたは完全に欠如すると活性化される。このようなプロモーターは、腸内で微生物が出会う特殊な増殖条件に特に適合する。腸内では微生物の栄養補給が極めて大きな変動をこうむる。従って腸内の増殖条件はしばしば「飽食または飢餓」と説明される。そこで腸内で栄養不足が支配すれば、即ち腸にキームス(部分的に消化された食物の半流動体の塊)が僅かしかまたはまったくなければ、本発明に基づき使用される誘導性プロモーターによってSLPIをコードする核酸の転写が誘導される。続いて形成されるSLPIタンパク質は、本発明に基づき使用される宿主細胞から放出された後、腸にキームスが僅かしかまたはまったくないので、比較的自由に腸上皮に拡散することができる。
【0072】
本発明によれば、SLPIをコードする核酸をグラム陰性宿主細菌、例えば大腸菌(Nissle 1917)で発現させるために、特にリン酸不足により誘導される誘導性プロモーターが使用される。特に好ましい実施形態では、使用されるプロモーターは大腸菌のphoAプロモーターである。ベクターがphoAプロモーターを含む場合は、プロモーターを効果的にスイッチオンおよびスイッチオフすることができるように、ベクターが調節遺伝子phoBおよびphoRをも含むことが好ましい。別の特に好ましい実施形態では、グラム陰性宿主細胞での作用物質の発現のために使用されるプロモーターは大腸菌のtrp−、lac−またはtac−プロモーターである。大腸菌のプロモーターは原則としてグラム陽性菌でも使用できる。
【0073】
本発明によれば、SLPIをコードする核酸の、酵母細胞(例えばSaccharomyces boulardii)での発現のために、特にリン酸不足によって誘導される誘導性プロモーターが使用される。特に好ましい実施形態では、使用されるプロモーターは酵母遺伝子PHO5のプロモーターである。別の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸の酵母細胞での発現のために、グルコース不足によって誘導される酵母ADH1遺伝子のプロモーターが使用される。
【0074】
本発明の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸が細菌宿主細胞での発現のためにリボソーム結合部位の機能的制御下に置かれる。本発明に関連して「リボソーム結合部位」の概念は、細菌の16S−rRNAの3’末端に対して相補的であり、リボソームの結合のために利用される配列を意味する。リボソーム結合部位は通常開始コドンの3〜12塩基前に位置し、3〜9塩基からなるのが普通である。本発明によれば、使用されるリボソーム結合部位は特にコンセンサス配列5’−AAGGAGGU−3’を有するシャイン・ダルガルノ配列である。
【0075】
本発明の別の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸は、本発明に基づく宿主細胞での発現のために、当該宿主に適したシグナル配列、即ち細菌または真菌シグナル配列と結合される。「シグナル配列」とは、微生物の細胞質から周辺腔または微生物の周囲にタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードする配列のことである。シグナルペプチドは、分泌および輸送されるタンパク質のN末端に局在化された約15〜30アミノ酸の短いセグメントである。タンパク質をプロセッシングするための宿主細胞の細胞機構は、このシグナル配列を認識し、その結果として、発現されたタンパク質が細胞膜または細胞小器官の膜を通って分泌されるが、シグナルペプチドはこの分泌過程で特異的プロテアーゼにより切断される。SLPIは通常、真核生物によって分泌されるタンパク質であるから、天然SLPIタンパク質の天然シグナルペプチドを本発明に基づき当該宿主細胞に適したシグナルペプチドに置き換えて、宿主細胞から周辺腔または宿主細胞の周囲への輸送が確実になるようにする。
【0076】
本発明の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸のグラム陰性宿主細菌、例えば大腸菌(Nissle 1917)での発現のために、特に大腸菌のβ−ラクタマーゼ遺伝子のシグナル配列または大腸菌のompA遺伝子のシグナル配列を使用すると、発現されたSLPIタンパク質が周辺腔および/または周囲に分泌される。また本発明によればハイブリッドシグナル配列、例えばKonrad(Annuals New York Academy of Science,413(1983),12−22)が記述する配列を使用することもできる。この配列はβ−ラクタマーゼ・シグナル配列の最初の12アミノ酸とヒトインスリン・シグナル配列の最後の13アミノ酸とを融合させたものである。
【0077】
本発明の別の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸のグラム陽性宿主細菌、例えばStreptococcus gordoniiでの発現のために、Bacillus amyloliquefaciensのα−アミラーゼ遺伝子のシグナル配列またはストレプトコッカス遺伝子M6のシグナル配列を使用すると、発現されたSLPIタンパク質が細胞壁を通って周囲に分泌される。
【0078】
本発明の別の好ましい実施形態では、SLPIをコードする核酸の真菌宿主細胞、例えばSaccharomyces boulardiiでの発現のために、酵母のα因子のシグナル配列または酵母のキラー毒素のシグナル配列を使用すると、発現されたSLPIタンパク質が細胞壁を通って周囲に分泌される。
【0079】
本発明の特に好ましい実施形態では、ベクターに挿入されたSLPIをコードする核酸を含み、SLPI発現能力を有する生存微生物宿主細胞が、医薬組成物として慢性炎症性腸疾患患者に投与される。本発明によれば、本発明に基づく医薬組成物の慢性炎症性腸疾患患者への複数回の投与により、慢性炎症性腸疾患の症状が治療され、慢性炎症性腸疾患の進行が食い止められ、かつ/または慢性炎症性腸疾患の症状が軽減されるように、医薬組成物はSLPI生成能力を有する宿主細胞の十分なコロニー形成単位(CFU)を含む。本発明によれば、医薬組成物は特に1×108〜1×1011、好ましくは1×109〜1×1010 CFUの本発明による宿主細胞を含む。
【0080】
本発明によれば、SLPI生成能力を有する微生物を含む医薬組成物を特に2〜4週の期間にわたり1日1〜3回投与する。正確な用量決定はとりわけ投薬形態、治療を受ける患者の年齢、性別、体重および疾患の重症度に依存し、治療する医師が個別に確定する必要がある。
【0081】
本発明に基づく生存している微生物宿主細胞を含む医薬組成物は、経口的投薬形態とすることが好ましい。経口投与される医薬組成物は液状または固形の形態を有する。医薬組成物は例えば懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤または粉剤の形で経口投与することができる。
【0082】
液状医薬組成物では、本発明に基づく生存微生物が好ましくは固定化されずに、自由に懸濁している。懸濁液は、特に細胞内の浸透圧が溶菌を生じないように、微生物のための生理的条件を保証する組成のものとする。液状医薬組成物はとりわけインタクトな細胞壁を有する微生物、特に細菌に適している。
【0083】
固形医薬組成物では、本発明に基づき使用される微生物が自由な、とりわけ凍結乾燥した形または固定化された形で存在する。例えば本発明の微生物を、細胞に物理的保護を与えるゲルマトリックスに封入することができる。ゲルマトリックスへの封入は、特に外膜の全部または一部が除去された微生物、即ち漏出性突然変異体、スフェロプラスト、プロトプラストまたはL型に適している。このような微生物形態は大変こわれやすく、ゲルマトリックスへの封入は機械的せん断力から細胞を保護する。
【0084】
濃厚な細胞溶液と溶解したゲル化基質とを混合し、この混合物を小さな径の針に通すことによって、本発明に基づく微生物(例えば細菌)をゲルマトリックスに封入することができる。その場合液滴が形成され、続いて液滴が溶液に落下し、この溶液がゲル化基質をゲル化させ、それとともに重合粒子が形成される。この方法の例と改良が、BrodeliusおよびMosbach,Adv.Appl.Microbiol.,28(1982),1−25、並びにKlein、StockおよびVorlop,Eur.J.Appl.Microbiol.Biotechnol.,18(1983),86−91に記載されている。微生物封入用のマトリックスとして使用できる材料は、生理的条件のもとでゲル化可能な寒天、アルギン酸塩、カラジーナン、アガロースもしくはヒトまたは動物に対して生理的に適合するその他の重合体である。
【0085】
別の形の細胞固定化は、本発明に基づく微生物宿主細胞の固体支持体への吸着または本発明に基づく宿主細胞の共有結合による固定化を包含する。これらの方法は、NavarroおよびDurand,Eur.J.Appl.Microbiol.Biotechnol.,4(1977),243に記載されている。本発明に基づく細菌の固定化は、細孔(細菌自体より小さいが、発現されたSLPIタンパク質の膜経由輸送を可能にするのに十分な大きさのもの)を有する膜の間に細胞を封入することによっても得られる。このようなデバイスはよく知られており、市販されている(例えばAmicon、MilliporeおよびDorr−Olivier)。
【0086】
固定化または非固定化形態の本発明宿主細胞を含む経口投与用の固形医薬組成物は、胃液抵抗性のコーティングを備えることが好ましい。それによって医薬組成物に含まれる生存微生物が胃を支障なく傷つかずに通過することができ、上部腸領域で初めて微生物の放出が行われる。
【0087】
本発明の別の好ましい実施形態では、生存している本発明の宿主細胞を含む医薬組成物が直腸に投与される。直腸投与はとりわけ坐薬、浣腸剤またはフォーム剤の形で行われる。直腸投与は特に腸の下部、例えば大腸を侵す慢性炎症性腸疾患に適している。
【0088】
そこで本発明はまた、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸を含む、SLPI生成能力を有する非病原性微生物の少なくとも1個の生細胞を包含する医薬組成物に関する。その場合非病原性微生物は好ましくはヒトまたは動物の天然腸内微生物叢の共生生物または構成部分であり、および/または食品の発酵製造に使用することができるものである。
【0089】
本発明の好ましい実施形態では、医薬組成物はヒトまたは動物の天然腸内微生物叢の嫌気性または好気性グラム陰性菌またはグラム陽性菌を含む。別の好ましい実施形態では、医薬組成物に含まれる微生物はヒトまたは動物の共生酵母である。別の好ましい実施形態では、医薬組成物に含まれる微生物は食品の発酵製造に使用することができる細菌である。別の好ましい実施形態では、医薬組成物は非病原性微生物の「漏出性突然変異体」を含む。
【0090】
本発明の特に好ましい実施形態では、医薬組成物は非病原性大腸菌株Nissle 1917の細胞を含む。別の特に好ましい実施形態では、医薬組成物は共生細菌Streptococcus gordoniiの細胞を含む。さらに別の好ましい実施形態では、医薬組成物は共生酵母Saccharomyces boulardiiの細胞を含む。
【0091】
特に有利な実施形態は、微生物が作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸を含む医薬組成物に関する。その場合この核酸は発現ベクターに挿入されており、ヒトまたは動物への医薬組成物の投与の前または間または後に作用物質が発現され、医薬組成物の投与の後に消化管の器官に放出されるように、核酸の発現が少なくとも1つの調節エレメントによって調節される。
【0092】
そこで本発明は医薬組成物の調製方法に関し、この方法は、
a)作用物質SLPIをコードする核酸配列を単離または合成すること、
b)SLPIをコードする核酸配列を細菌性発現ベクターまたは真菌性発現ベクターにクローニングすること、
c)b)で得られた組換え発現ベクターにより微生物宿主細胞を形質転換すること(ただし、宿主細胞はヒトもしくは動物の腸内微生物叢の共生生物であり、かつ/または食品の発酵製造に使用できるものである)、
d)形質転換した宿主細胞を増殖させること、
e)形質転換した宿主細胞の固定化した、凍結乾燥した、または液状の調製物を調製すること、
f)形質転換した宿主細胞のe)で得られた固定化した、凍結乾燥した調製物または懸濁物と、生理的に適合する賦形剤、安定化剤、増粘剤、離型剤、滑沢剤、乳化剤または医薬組成物を得るための類似の物質とを混合すること、
を含むことを特徴とする。
【0093】
作用物質SLPIをコードする核酸の単離は、遺伝子技術で常用される方法により行うことができる(Sambrookら、Molecular Cloning:A La−boratory Manual,2版(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY,USAを参照)。ヒトSLPI遺伝子のDNA配列は公知であるから(米国特許第5,851,983号および米国特許第6,132,990号を参照)、SLPIをコードする配列を例えば真核生物組織、とりわけ哺乳動物組織、好ましくはヒト組織から単離し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の方法を使用して、適当なプライマーにより増幅することができる。特にヒト組織のcDNAバンクを使用した増幅が好ましい。さらにコーディングSLPI配列の5’および3’末端に適当な制限部位が設けられるように、プライマーを設計することが好ましい。増幅産物は適当な制限酵素で切断し、例えばゲル電気泳動を使用して精製した後、適当なベクターにクローニングする。
【0094】
本発明の別の実施形態では、SLPIをコードする配列を合成的に調製することができる。核酸の化学的合成は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変えずに、核酸配列を例えばコドン使用頻度に関して修飾することができるという利点がある。DNA配列の合成は、例えば固相系で例えばホスホトリエステル法またはホスフェート法を使用して行うことができる。合成はDNA合成装置、例えばApplied Biosystemの自動DNA合成装置を使用して行うことが好ましい。合成された配列を精製した後、適当な方法を使用してこれをベクターに挿入する。
【0095】
増幅または合成によって得られたSLPIをコードする核酸配列の適当なバクターへの挿入は、当技術分野で常用される方法、例えば制限酵素切断および連結反応を使用して行われる。適当なベクターは一般に次の性質を持たねばならない。即ち
a)挿入される核酸を所定の位置および方向で組込むことができなければならない、
b)組込まれた核酸とともに宿主生物に入り込むこと、即ち細胞壁および細胞膜を無傷で通過することができなければならない、
c)宿主細胞でレプリコンとして、即ち独立の遺伝要素として振舞わなければならない、
d)すべての子孫が少なくとも1コピーのベクターを得るように、ベクターは細胞分裂のときに倍加することができなければならない。
【0096】
グラム陰性もしくはグラム陽性宿主細胞または酵母宿主細胞のための適当なベクターは当技術分野で周知である。SLPIをコードする核酸のクローニングのために本発明に基づき使用されるベクターは、前述のように抗生物質耐性に基づく選択マーカーを含まず、好ましくはGFPタンパク質をコードする遺伝子配列(その遺伝子産物はFACSまたはスルーフローサイトメトリーにより簡単に検出することができる)のようなマーカーを含む。またベクターは適当なプロモーター、適当なリボソーム結合部位、適当なシグナル配列および適当な転写終止配列を有する発現カセットをすでに含むことが好ましい。
【0097】
SLPIをコードする核酸を適当なベクターに挿入した後、その構築物を細菌宿主生物または酵母宿主生物に導入する。ベクターがバクテリオファージであるならば、これを形質導入により宿主に導入することができる(Sambrookら、1989年を参照)。使用するベクターがプラスミドであるならば、これを例えば形質転換法により宿主に送り込むことができる。大腸菌株には慣用のカルシウム形質転換法を使用することが好ましい(Sambrookら、1989年を参照)。ストレプトコッカス属細菌細胞のための形質転換法は、例えばClewell,Microbiol.Rev.,45(1984),409に記載されている。真菌宿主細胞、例えば酵母宿主細胞のための形質転換法も当技術分野でよく知られている。
【0098】
形質転換の後に、形質転換された宿主細胞を適当な培地で適当な条件のもとに培養し、適当な細胞密度に達するまで増殖させる。
【0099】
次に経口投与される懸濁液を調製するために、宿主細胞を無菌の生理的溶液に適当な細胞密度で懸濁させる。しかし、培養した宿主細胞を公知の方法により凍結乾燥または固定化することもできる。凍結乾燥または固定化の後に、適当なCFU(コロニー形成単位)量の細胞を製薬上許容される賦形剤、安定化剤、増粘剤、離型剤、滑沢剤、着色剤、香料、味覚物質、乳化剤等の材料または製薬上使用される類似の物質と混合すると、所望の医薬組成物が得られる。
【0100】
本発明は、前記疾患を治療するための、作用物質または作用物質生成能力を有する微生物の使用のみならず、上記で詳しく定義した慢性炎症性腸疾患の群から選ばれるヒトまたは動物の疾患の治療用医薬製剤を調製するための、作用物質または作用物質生成能力を有する微生物の使用にも関する。
【実施例】
【0101】
健全な被験者および罹病患者から得られた腸組織試料におけるSLPIの検出
健全な被検者および罹病患者由来の腸組織試料を内視鏡により回収して、直ちに凍結切片用の包埋媒質(OCT,Miles Scientific)に移し、次に液体窒素で凍結した。こうして包埋した試料から凍結切片を作り、免疫組織学的に染色した。
【0102】
こうして作成した凍結切片を染色のために一晩空気乾燥し、次にアセトン・メタノール・ホルムアルデヒド(AMF)により室温で10分間固定した。続いて固定された凍結切片をTris−HCl緩衝液、pH7.4〜7.6で5分ずつ3回洗浄した。続いて切片に30分の血清ブロッキングを行った。次に切片を第1抗体(ヒトSLPIに対するポリクローナルウサギ抗体)とともに1:1000〜1:2000の希釈率にて37℃で1時間インキュベートした。Tris−HCl緩衝液、pH7.4〜7.6で5分ずつ3回洗浄した後、切片を第2抗体(ビオチン化ヤギ抗ウサギ抗体;Vector ABCキット)とともに室温で30分インキュベートした。その後切片を再び前述のように3回洗浄した。続いてVector−ABC試薬とともに30分インキュベートした。次に切片を再び3回洗浄した。次にアルカリ性ホスファターゼを基質で発色させた(Vector赤色アルカリ性ホスファターゼ基質キットI)。その際SLPI陽性細胞が赤色に染色された。20〜30分後に水道水で発色を停止し、水道水で10分間洗浄した。続いて0.1%ヘマトキシリンで10分間の対比染色を行った。水道水で10分間洗浄して過剰の色素を除去した。次に切片を空気乾燥し、カバーをして評価した。
【0103】
例えば図1(特に下側の2個の細胞)にも見られるように、健全な被験者の腸粘膜の細胞は濃く(原写真では赤色に)染色されている。この濃い赤色染色は、健全な被験者の腸粘膜にSLPIが極めて大量に存在することを示す。これに対して、慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜の細胞はほとんど染色されない(図2を参照)。この僅かな染色は、慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜に存在するSLPI量が、健全な被験者の腸粘膜と比較して、大幅に減少していることを示す。慢性炎症性腸疾患患者の腸粘膜にSLPI量のこの大幅な減少が観察されたことは、慢性炎症性腸疾患の治療のためにSLPIが適していることを示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】ヒトSLPIに特異的なウサギ抗体を使用した、健全な被験者に由来する組織学的腸切片の免疫染色を示した図である。
【図2】ヒトSLPIに特異的なウサギ抗体を使用した、慢性炎症性腸疾患患者に由来する組織学的腸切片の免疫染色を示した図である。

Claims (51)

  1. 分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、その断片、その複合体、その誘導体、その類似体、作用物質SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸、および該核酸を含みかつSLPI生成能力を有する非病原性微生物からなる群から選ばれた作用物質の、壊疽性腸炎、限局性クローン腸炎(クローン病)、嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、重症大腸炎、出血性大腸炎、虚血性大腸炎、粘液性大腸炎および潰瘍性大腸炎からなる慢性炎症性腸疾患の群から選ばれたヒトまたは動物の疾患を治療するための使用。
  2. 単離精製された作用物質を医薬組成物として投与することにより前記治療を行う、請求項1に記載の使用。
  3. 慢性炎症性腸疾患状態を治療または予防し、慢性炎症性腸疾患の進行を止め、かつ/または慢性炎症性腸疾患症状を軽減するのに十分な用量で作用物質を投与する、請求項2に記載の使用。
  4. 作用物質を1〜5000mgの用量で1日1〜3回投与する、請求項2または3に記載の使用。
  5. 作用物質を経口投与する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用。
  6. 作用物質を懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、舌下錠、顆粒剤または粉剤の形で投与する、請求項5に記載の使用。
  7. 作用物質を直腸投与する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用。
  8. 作用物質を坐薬、浣腸剤またはフォーム剤の形で投与する、請求項7に記載の使用。
  9. 作用物質を非経口投与する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用。
  10. 作用物質を注射または輸液の形で投与する、請求項9に記載の使用。
  11. 非病原性微生物が、ヒトまたは動物への投与の前、間または後に作用物質を生産し、生産された作用物質を投与の後に消化管の器官に放出することができる、請求項1に記載の使用。
  12. 非病原性微生物がヒトまたは動物の共生生物に属する細菌または真菌微生物である、請求項11に記載の使用。
  13. 真菌微生物がサッカロミセス属に属する、請求項12に記載の使用。
  14. 真菌微生物がSaccharomyces boulardiiである、請求項13に記載の使用。
  15. 非病原性微生物がヒトまたは動物の天然腸内微生物叢に属する、請求項12に記載の使用。
  16. 非病原性微生物が腸内微生物叢の好気性または嫌気性グラム陰性菌である、請求項15に記載の使用。
  17. グラム陰性菌がエシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属またはプロテウス属に属する、請求項16に記載の使用。
  18. グラム陰性菌が大腸菌(Nissle 1917)である、請求項17に記載の使用。
  19. 非病原性微生物が腸内微生物叢の好気性または嫌気性グラム陽性菌である、請求項15に記載の使用。
  20. グラム陽性菌がビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、またはコリネバクテリウム属に属する、請求項19に記載の使用。
  21. グラム陽性菌がStreptococcus gordoniiである、請求項20に記載の使用。
  22. 非病原性微生物がヒトまたは動物の共生生物に属さない微生物である、請求項11に記載の使用。
  23. 非病原性微生物が食品の発酵製造に使用される細菌である、請求項22に記載の使用。
  24. 前記細菌が乳酸菌、例えば、Lactococcus lactis、Lactococcus delbrueckii 亜種 bulgaricus、Lactobacillus caucasicus、Lactobacillus casei、Lactobacillus kefir、Streptococcus thermophilusまたはロイコノストック属(Leuconostoc)である、請求項22または23に記載の使用。
  25. 前記微生物が「漏出性」突然変異体である、請求項11〜24のいずれか1項に記載の使用。
  26. SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸がベクターに挿入されている、請求項11〜25にいずれか1項に記載の使用。
  27. 前記ベクターがプラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスである、請求項26に記載の使用。
  28. 前記ベクターに挿入された核酸が、投与の前、間または後に該核酸の翻訳可能RNAへの転写および/または該RNAのタンパク質への翻訳を確実にする、少なくとも1つの調節エレメントの機能的制御下にある、請求項26または27に記載の使用。
  29. 少なくとも1つの調節エレメントがプロモーター、リボソーム結合部位、シグナル配列または3’転写ターミネーターである、請求項28に記載の使用。
  30. 前記プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項29に記載の使用。
  31. 前記プロモーターが栄養不足によって誘導されるプロモーターである、請求項30に記載の使用。
  32. 前記プロモーターが大腸菌のtrp−、lac−またはtac−プロモーターである、請求項30または31に記載の使用。
  33. 前記プロモーターが大腸菌のphoA−プロモーターである、請求項30または31に記載の使用。
  34. 前記プロモーターが酵母のPHO5遺伝子のプロモーターである、請求項30または31に記載の使用。
  35. 前記プロモーターが酵母のADH1遺伝子のプロモーターである、請求項30または31に記載の使用。
  36. リボソーム結合部位がシャイン・ダルガルノ配列である、請求項29〜35のいずれか1項に記載の使用。
  37. シグナル配列が、タンパク質を微生物の細胞質から周辺腔へまたは微生物の周囲へ分泌させる、細菌または真菌のシグナル配列である、請求項29〜36のいずれか1項に記載の使用。
  38. 細菌のシグナル配列が大腸菌のβラクタマーゼ遺伝子のシグナル配列または大腸菌のompA遺伝子のシグナル配列である、請求項37に記載の使用。
  39. 真菌のシグナル配列が酵母のα因子のシグナル配列または酵母のキラー毒素のシグナル配列である、請求項37に記載の使用。
  40. SLPI生成能力を有する非病原性微生物が医薬組成物中に含まれている、請求項11〜39のいずれか1項に記載の使用。
  41. 微生物を含む医薬組成物を経口投与する、請求項40に記載の使用。
  42. 微生物を含む医薬組成物を懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、顆粒剤または粉剤の形で投与する、請求項41に記載の使用。
  43. 微生物を含む医薬組成物を直腸投与する、請求項40に記載の使用。
  44. 微生物を含む医薬組成物を坐薬、浣腸剤またはフォーム剤の形で投与する、請求項43に記載の使用。
  45. SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする発現可能な核酸を含み、SLPI生成能力を有する非病原性微生物の少なくとも1個の細胞を含有する医薬組成物。
  46. 前記微生物が腸内微生物叢の好気性または嫌気性グラム陰性菌またはグラム陽性菌である、請求項45に記載の医薬組成物。
  47. 前記微生物がヒトまたは動物の共生酵母である、請求項45に記載の医薬組成物。
  48. 前記微生物が食品の発酵製造に使用することができる細菌である、請求項45に記載の医薬組成物。
  49. 前記微生物が「漏出性」突然変異体である、請求項45に記載の医薬組成物。
  50. SLPIまたはその断片もしくは誘導体をコードする核酸が発現ベクターに挿入されており、該核酸の発現が少なくとも1つの調節エレメントの制御下にあり、その結果、作用物質がヒトまたは動物への医薬組成物の投与の前、間または後に発現され、医薬組成物の投与の後に消化管の器官に放出される、請求項45〜49のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  51. 医薬組成物を調製する方法であって、
    a)作用物質SLPIをコードする核酸配列を単離または合成すること、
    b)SLPIをコードする核酸配列を細菌性または真菌性発現ベクターにクローニングすること、
    c)ヒトまたは動物の腸内微生物叢の共生生物であり、かつ/または食品の発酵製造に使用できる微生物宿主細胞を、b)で得られた組換え発現ベクターで形質転換すること、
    d)形質転換した宿主細胞を増殖すること、
    e)形質転換した宿主細胞の固定化した、凍結乾燥した、または液体の調製物を調製すること、
    f)e)で得られた形質転換宿主細胞の固定化した、凍結乾燥した調製物または懸濁物と、生理的に適合する賦形剤、安定化剤、増粘剤、離型剤、乳化剤または医薬組成物を得るための類似の物質とを混合すること、
    を含んでなる上記方法。
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