JP2004520270A - ヒストン中のメチル化されたリジンに特異的な抗体 - Google Patents
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Abstract
本発明は、メチルリジンに特異的なヒストンの抗体の生成に関する。特に、H3 リジン4メチル化特異的抗体(Methyl(K4)H3)は、リジン4でメチル化されたヒストンH3に結合する。ヒストンH3のリジン4(K4)のメチル化は、クロマチンの転写的に活性な領域に関連している。第二の抗体であるH3 リジン9メチル化特異的抗体(Methyl(K9)H3)は、リジン9でメチル化されたヒストンH3に特異的に結合する。ヒストンH3のリジン9(K9)のメチル化は、遺伝子のサイレンシングに関連している。これらの抗体は、ヘテロクロマチンおよびユークロマチンの領域の同定ならびに診断的手段およびスクリーニング手段としての利用に有用である。
Description
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2001年7月3日出願の米国仮特許出願番号第60/302,747号および2000年8月25日出願の米国仮特許出願番号第60/227,767号(これらの開示は、その全体が参考として本明細書中に援用される)の優先権を主張する。
【0002】
(米国政府の権利)
本発明は、国立衛生研究所により賞与された助成金番号RO1 GM40922およびRO1 GM53512の下で、米国政府の支持により行われた。米国政府は本発明の特定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾により生成されたヒストンエピトープに結合する抗体、このような抗体を含む組成物、および診断手段およびスクリーニング手段としてのこのような組成物の使用に関する。
【0004】
(発明の背景)
真核生物において、DNAは、ヒストンタンパク質と複合体化され、クロマチンの反復サブユニットであるヌクレオソームを形成する。このDNAのパッケージングは、DNAをテンプレートにするプロセス(例えば、転写または複製)のために、タンパク質がDNAへのアクセスを求めることに厳重な制限を課している。ヒストンアミノ末端の翻訳後修飾が、真核生物細胞ゲノムのクロマチン構造の決定および細胞内遺伝子の発現の調節において重要な役割を果たしていることがますます明らかになってきた。
【0005】
ヒストンアミノ末端の翻訳後修飾は、クロマチンの構造および機能の制御において中心的な役割を果たすと長い間考えられてきた。ヒストンの多くの共有結合修飾が証明されており、これには、ヒストンのアミノ末端「テール」ドメインに生じるアセチル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化、およびADPリボシル化が挙げられる。修飾の型におけるこのような多様性およびこれらの修飾を生じる残基の顕著な特異性は、未知のままの複雑な階層の順序(order)および組み合わせの機能を示唆する。ヒストンアミノ末端に生じる公知の共有結合修飾のうちアセチル化は、おそらく最も研究され、そして理解されている。最近の研究は、クロマチンにおける標的プロモーターへのそれらの補充に応答して、ヒストンにおいてそれぞれ特異的にリジン残基をアセチル化または脱アセチル化する、予め特徴付けられたコアクチベーターおよびコサプレッサーを同定している(Berger(1999)Curr.Opin.Genet.Dev.11,336−341を参照のこと)。これらの研究は、クロマチンの再構築が、ヌクレオソームテンプレートからの転写の調節において基本的な役割を果たしている有力な証拠を提供する。
【0006】
高等真核生物の染色体は、ユークロマチンおよびヘテロクロマチン(これらは、基礎をなすDNA配列の凝縮の程度および転写活性のレベルにより識別される)の領域からなると歴史的に考えられてきた。構成的なヘテロクロマチンの特定領域はセントロメアのような特徴的な構造においてかまたはその周囲において見出され、そして遺伝子学的に不活性な反復配列の大部分から構成される。対照的に、同様な初期のDNA配列を有する他の領域は、クロマチンのいずれかの型の特徴を示し得、これは、ヒストンおよびクロマチン関連タンパク質によるDNAのパッケージングのような後成的因子が、それらの遺伝子座でヘテロクロマチン状態を決定することを示唆している。
【0007】
特定の翻訳後修飾を保有するヒストンを特異的に認識する抗体の使用によって、出願人らは、「ヒストンコード」を解明している。特に、ヒストンタンパク質およびその関連する共有結合修飾が、クロマチン構造を変更し得るメカニズムに寄与することの証拠が明らかになっており、それにより、転写的な「オン−オフ」状態における遺伝的な相違、または特定の高次構造を規定することによる染色体の安定な伝搬を導く。
【0008】
ヒストンメチル化は、よく理解されていないヒストンに影響を与える翻訳後修飾の1つである。初期の研究は、H3およびH4が、メチル化よって修飾される主要なヒストンであることを示唆し、そして大量のヒストンを用いる配列決定の研究は、いくつかのリジン(例えば、H3の9および27ならびにH4の20)が、種特異的な相違が存在するようではあるけれども、しばしばメチル化の好ましい部位であることを示唆する。興味深いことに、各々の修飾されたリジンは、モノメチル化、ジメチル化、またはトリメチル化される能力を有し得、この翻訳後の「標識」に対する別のレベルのバリエーションをさらに加える。本発明は、特異的リジンでメチル化されるヒストンH3およびH4に特異的である抗体に関する。より詳細には、本発明の1つの局面は、ヒストンH3のリジン4および9に関する。これら2つのリジン残基は、インビボにおいてメチル化されることが見出され、そしてメチル化された形態はそれぞれユークロマチンおよびヘテロクロマチンに関連する。
【0009】
(定義)
本発明の明細書および請求項において、以下の用語は下に記載される定義に従って使用される。
【0010】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」とは、RNAおよび一本鎖DNAおよび二本鎖DNAならびにcDNAを含む。さらに、用語「核酸」、「DNA]、「RNA]および類似の用語はまた、核酸アナログ(すなわち、リン酸ジエステル骨格以外を有するアナログ)が挙げられる。例えば、いわゆる「ペプチド核酸」(当該分野に公知であり、骨格にリン酸ジエステル結合のかわりにペプチド結合を有する)は、本発明の範囲内と考えられる。
【0011】
用語「ペプチド」は、3以上のアミノ酸配列を有し、ここで、このアミノ酸は天然に存在するアミノ酸または合成(天然には存在しない)アミノ酸である。ペプチド模倣物としては、1つ以上の以下の修飾を有するペプチドが挙げられる:
1.1つ以上のペプチジル(peptidyl)−−C(O)NR−−連結(結合)が以下のような非ペプチジル連結によって置換されているペプチド:−−CH2−カルバメート連結(−−CH2OC(O)NR−−),ホスホネート結合、−CH2−スルホンアミド(−CH2−−S(O)2NR−)連結、尿素(−−NHC(O)NH−−)連結、−−CH2−二級アミン連結、またはアルキル化ペプチジル連結(−−C(O)NR−−)、ここで、RC1〜C4アルキルである;
2.N−末端が以下に誘導されるペプチド:−−NRR1基、−−NRC(O)R基、−−NRC(O)OR基、−−NRS(O)2R基、NHC(O)NHR基、ここで、RおよびR1は、水素であるか、またはCl〜C4アルキルであり、ただし、RおよびRlは両方とも水素ではない;
3.C末端が以下に誘導されるペプチド:−−C(O)R2、ここで、R2は、Cl〜C4アルコキシおよび−−NR3R4からなる群より選択され、ここで、R3およびR4は、独立して、水素およびC1〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0012】
ペプチドにおいて天然に存在するアミノ酸残基は、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されるように、以下のように省略される:フェニルアラニンはPheまたはFであり;ロイシンはLeuまたはLであり;イソロイシンはIleまたはIであり;メチオニンはMetまたはMであり;ノルロイシンはNleであり;バリンはVatまたはVであり;セリンはSerまたはSであり;プロリンはProまたはPであり;スレオニンはThrまたはTであり;アラニンはAlaまたはAであり;チロシンはTyrまたはYであり;ヒスチジンはHisまたはHであり;グルタミンはGlnまたはQであり;アスパラギンはAsnまたはNであり;リジンはLysまたはKであり;アスパラギン酸はAspまたはDであり;グルタミン酸はGluまたはEであり;システインはCysまたはCであり;トリプトファンはTrpまたはWであり;アルギニンはArgまたはRであり;グリシンはGlyまたはGであり、そしてXは、任意のアミノ酸である。他の天然に存在するアミノ酸としては、4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリジンといったようなものなどが挙げられる。
【0013】
本明細書中で使用される場合、用語「保存的アミノ酸置換」は、以下の5つの群のうち1つ以内の交換として本明細書中で規定される:
I.小さな脂肪族の非極性またはわずかに極性な残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.負に荷電した極性残基およびそのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III.正に荷電した極性残基:
His、Arg、Lys;
IV.大きな脂肪族の非極性残基:
Met Leu、Ile、Val、Cys
V.大きな脂肪族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0014】
本明細書中で使用される場合、用語「精製された」および類似の用語は、ネイティブかまたは自然環境における分子または化合物に関連する典型的な混入物を実質的に含んでいない形態における分子または化合物の単離をいう。
【0015】
「作動可能に連結(される)」とは、化合物がそれらの通常の機能を実施するために構成されるような並列をいう。例えば、制御配列またはコード配列に作動可能に連結されたプロモーターは、コード配列の発現を行う能力がある。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「相補的(な)」または「相補性」とは、塩基対合則に関連するポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)を参照して使用される。例えば、配列「A−G−T」にとって相補的な配列は、配列「T−C−A」である。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「ハイブリダイゼーション」とは、相補的な核酸の対を参照して使用される。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(すなわち、核酸間の結合の強さ)は、核酸間の相補性の程度、関連するストリンジェンシーの条件、形成されるハイブリッドの長さ、および核酸内でのG:C比率のような要素により影響を受ける。
【0018】
「治療剤」、「薬剤」または「薬物」とは、患者における疾病、苦痛、疾患または傷害の処置(予防、診断、軽減、または治癒を含む)において使用され得る任意の治療剤または予防剤をいう。
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「処置する(こと)」とは、特異的な障害または状態に関連する症状を軽減させること、および/あるいは前記の症状を予防するかまたは取り除くことを含む。例えば、癌の処置としては、癌細胞の増殖および/もしくは分裂を予防するか、または遅らせること、ならびに癌細胞を死滅させることが挙げられる。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的受容可能なキャリア」とは、標準的な薬学的キャリア(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水およびエマルジョン(例えば、油/水または水/油のエマルジョン)、ならびに種々の型の湿潤剤)のいずれかを含む。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「H3リジン4の抗原性フラグメント」とは、ヒストン3のアミノ末端の天然ペプチドフラグメント(配列番号1、配列番号2、および配列番号3のペプチドフラグメントを含む)およびそれらのフラグメントの合成等価物の両方を含む。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」とは、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体あるいはそれらの結合フラグメント(例えば、Fab,F(ab’)2およびFvフラグメント)をいう。
【0023】
本明細書中で使用される場合、Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体の用語「生物学的に活性なフラグメント」とは、それぞれ配列番号4または配列番号5のペプチドに特異的に結合する能力のある、それぞれの全長抗体の、天然部分または合成部分を含む。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「非経口」とは、皮下的投与、静脈内投与または筋内投与を含む。
【0025】
本明細書中で使用される場合、文字K(太文字の書体)
【0026】
【化12】
は、アミノ酸配列に関連して使用される場合、リジンのアミノ酸がメチル化されていることを表している。
【0027】
(本発明の要旨)
本発明は、ヒストンH3ペプチドおよびH4ペプチドのアミノ末端の特異的修飾に結合する抗体に関する。より詳細には、本発明はメチルリジン特異的ヒストン抗体の生成に関する。これらの抗体は、特異的にメチル化され、そしてヒトの生態および疾患に関連し得るヒストンH3およびH4のリジン残基を認識する。これらの抗体を含む組成物は、診断手段およびスクリーニング手段として使用される。
【0028】
(発明の詳細な説明)
ヒストンメチル化は、ヒストンに影響する不十分にしか理解されていない翻訳後修飾である。この修飾は、ヒストンのアミノ末端における選択されたリジン残基において生じる。ヒストンをメチル化する酵素が、遺伝子活性化および抑制の両方に関与していることが、現在明らかになっている。本発明は、メチルリジン特異的ヒストン抗体の産生に関する。これらの抗体は、特異的にメチル化されたヒストンH3およびH4におけるリジン残基を認識し、そしてヒトの生物学および疾患に関連し得る。
【0029】
本発明は、コアヒストンタンパク質H3およびH4の可撓性のN末端テール上で生じる翻訳後修飾に関する。より詳細には、本発明は、メチル化リジン残基に関する。本出願人らは、H3のアミノ末端の最初の15アミノ酸(配列番号7)およびH4のアミノ末端の最初の15アミノ酸(配列番号8)内のリジン残基のメチル化が、転写の調節において重要な役割を果たしていることを発見した。たとえば、ヒストンH3上のリジン4(K4)のメチル化を、クロマチンの転写的に活性な領域に関連付け、一方、ヒストンH3上のリジン9(K9)のメチル化を、遺伝子スプライシングに関連付けた。従って、本発明の1つの局面に従って、ヒストンH3上のリジン4(K4)およびリジン9(K9)のメチル化は、それぞれユークロマチンおよびヘテロクロマチンのマーカーとして役立ち、そしてこれらの修飾されたタンパク質を認識する抗体は、重要な診断ツールとしての用途を有する。
【0030】
本発明の1つの局面は、H3のアミノ末端に特異的な抗体およびH4のアミノ末端に特異的な抗体を産生するために使用される抗原に関する。1つの実施形態において、この抗原は、リジンがメチル化されたH3またはH4のアミノ末端の精製された抗原性フラグメントであり、
【0031】
【化13】
またはそれらの合成等価物からなる群より選択され、ここで、太字のKは、メチル化されたリジン残基を示す。1つの実施形態において、この抗原は、20アミノ酸以下のH3アミノ末端フラグメント、ならびに配列
【0032】
【化14】
およびこれらのアミノ酸配列の誘導体を含み、ここで、このアミノ酸配列は、1つ以上のアミノ酸置換を含む。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、
【0033】
【化15】
またはペプチド配列のいずれかの末端に付加されたネイティブでないさらなるアミノ酸を含むそれらの誘導体である。
【0034】
代替的な実施形態において、精製された抗原は、適切なキャリア(例えば、ウシ血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン)に結合したポリペプチドを含む。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、
【0035】
【化16】
およびこのアミノ酸配列の誘導体からなる群より選択される配列を含むH3ペプチドフラグメント、およびこのペプチドに結合されたキャリアタンパク質からなり、ここで、このアミノ酸配列は、1つ以上の保存されたアミノ酸置換を含む。例えば、この抗原は、配列
【0036】
【化17】
を有するペプチドを含み得、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示し、そして下線を付したGCは、天然のヒストン配列に付加された人工アミノ酸をいう。さらに、この抗原は、必要に応じて、キャリアタンパク質に結合され得る。
【0037】
上記の抗原に加えて、本発明はまた、リジン残基がメチル化されたH3またはH4タンパク質のペプチドフラグメントに特異的に結合する、抗体に関する。好ましくは、この抗体は、H3ヒストンおよびH4ヒストンのアミノ末端の最初の20アミノ酸残基に存在する1つ以上のメチル化されたリジン残基を認識する。より詳細には、本発明は、ペプチド
【0038】
【化18】
に特異的に結合する抗体に関し、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示し、そして下線を引かれたGCは、その抗体の産生を補助するように天然のヒストン配列に付加された人工アミノ酸を示す。1つの実施形態において、この抗体は、
【0039】
【化19】
、および1つ以上の保存的アミノ酸置換によって配列番号4、配列番号5、または配列番号6と異なるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸を含むペプチドに特異的である。1つの好ましい実施形態において、この抗体は、ペプチド
【0040】
【化20】
に特異的に結合する。
【0041】
リジン4がメチル化されたH3ペプチド(すなわち、配列番号4のペプチド)に特異的に結合する抗体は、Methyl(K4)H3と称され、そしてリジン9がメチル化されたH3ペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号6のペプチド)に特異的に結合する抗体は、Methyl(K9)H3と称される。これらの2つの抗体は、交差反応せず、そしてそのメチル化されていないペプチド配列に結合しない。本発明はまた、メチル化されていないヒストンペプチドに結合する抗体を包含する。1つの実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0042】
本発明の抗体および抗体フラグメントは、組成物を形成するようにキャリアまたは希釈剤と組み合わされ得る。1つの実施形態において、このキャリアは、薬学的に受容可能なキャリアである。このようなキャリアおよび希釈剤は、界面活性剤および他の薬学的および生理学的に受容可能なキャリア(アジュバント、賦形剤または安定剤を含む)を添加してかまたは添加せずに、水および油のような滅菌液体を含む。例示的な油は、石油起源、動物起源、植物起源、または合成起源の油(例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、または鉱物油)である。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース、および関連糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールが、特に、注射可能な溶液のために、好ましい液体キャリアである。Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体、またはそれらの生理活性フラグメントと、キャリアまたは希釈剤とを含む組成物は、ユークロマチンに対してヘテロクロマチンを検出する方法と組み合わせて、使用され得る。
【0043】
本発明の抗体を産生するために使用される1つの方法は、配列
【0044】
【化21】
を含む抗原を、その抗原に特異的な抗体の産生を引き起こすために実験動物(代表的には、ウサギ)に投与する工程を包含する。抗体産生を引き起こすための抗原投与の用量およびレジメンならびに抗体の精製のための方法は、当業者に周知である。代表的には、このような抗体は、免疫前血清を獲得するために最初に出血させたニュージーランド白ウサギに目的の抗原を皮下投与することによって惹起され得る。この抗原は、6つの異なる部位において1つの部位当り100μlの総容量で注射され得る。各注射物質は、合成界面活性剤アジュバントプルロニック(pluronic)ポリオールを含むか、またはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のタンパク質またはポリペプチドを含む粉砕したアクリルアミドゲルを含む。
【0045】
次いで、ウサギを最初の注射の2週間後に出血させ、そして6週毎に3回、同じ抗原で定期的にブーストする。次いで、血清サンプルを、各ブーストの10日後に収集する。次いで、ポリクローナル抗体を、その抗体を捕捉する対応する抗原を使用するアフィニティークロマトグラフィーによって血清から回収する。最終的に、ウサギを、ペントバルビタール150mg/KgのIVで安楽死させる。ポリクローナル抗体を惹起するためのこの手順および他の手順は、E.Harlowら編、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)において開示され、これは、本明細書中に参考として援用される。抗体の特異性は、酵素結合免疫吸着アッセイもしくは免疫ブロッティング、または当業者に公知の同様の方法によって決定され得る。
【0046】
本発明はまた、それぞれの抗原
【0047】
【化22】
およびこれらのメチル化されていない対応ペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を包含する。モノクローナル抗体産生は、当業者に周知の技術を使用して行なわれ得る。基本的には、このプロセスは、インビボまたはインビトロのいずれかで目的の抗原で以前に免疫された哺乳動物(例えば、マウス)の脾臓から免疫細胞(リンパ球)を最初に獲得する工程を包含する。次いで、この抗体分泌リンパ球は、骨髄腫細胞または形質転換された細胞(これらの細胞は、細胞培養中に無限に複製し得る)と融合され、それにより、不死の免疫グロブリン分泌細胞株を生成し得る。得られた融合細胞(すなわち、ハイブリドーマ)は、培養され、そして得られたコロニーは、所望のモノクローナル抗体の産生についてスクリーニングされる。このような抗体を産生するコロニーがクローニングされ、そして大量の抗体を産生するためにインビボまたはインビトロのいずれかで増殖される。本発明の1つの実施形態は、本発明のメチル−リジンペプチドを結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株に関する。このような細胞を融合する理論的基礎および実際的な方法論の説明は、KohlerおよびMilstein,Nature,256:495(1975)に示され、これは、本明細書中に参考として援用される。
【0048】
抗体全体に加えて、抗体のフラグメントが、特定の抗原について結合特異性を保持し得る。抗体フラグメントは、タンパク質分解、または組換えDNA技術を使用する合成を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法によって産生され得る。このような実施形態の例は、Fabフラグメントを産生するためのパパインによる抗体の選択的タンパク質分解であるか、またはF(ab’)2フラグメントを産生するためのペプシンによる抗体の選択的タンパク質分解である。これらの抗体フラグメントは、J.Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice、98〜118頁(N.Y.Academic Press 1983)(これは、本明細書中に参考として援用される)において記載されるような、従来の手順によって作製され得る。抗体全体の特異的結合を保持する本発明の抗体の他のフラグメントは、当業者に公知の他の手段によって産生され得る。
【0049】
1つの実施形態において、抗体は標識されている。本発明は、いかなる特定の検出系または標識に限定されることを意図しない。抗体は、蛍光団(fluorophore)、放射性同位体、またはビオチンもしくはジゴキシゲニンのような非同位体標識試薬で標識され得;ビオチンを含む抗体は、蛍光色素のような任意の所望の標識に結合体化されたアビジンのような「検出試薬」を使用して検出され得る。1つの実施形態において、本発明のヒストン特異的抗体は、二次抗体の使用を介して検出され、ここで、この二次抗体は、標識されており、一次(ヒストン特異的)抗体に特異的である。あるいは、ヒストン特異的抗体は、放射性同位体、またはFITCもしくはローダミンのような蛍光色素で直接標識され得;このような場合において、二次検出試薬は、標識されたプローブの検出のために必要ではないかもしれない。
【0050】
本発明の1つの実施形態に従って、H3ヒストンおよびH4ヒストンにおけるメチル化リジン残基の存在を検出するための方法が提供される。この方法は、ヒストンタンパク質を、標識された抗体と接触させる工程を包含し、ここで、この抗体は、リジン4でメチル化されたH3またはリジン9でメチル化されたH3のみに特異的に結合する。
【0051】
1つの実施形態に従って、本発明の抗体は、診断画像化における使用のために標識される。本発明に従う診断画像化に有用な標識の例は、131I、111In、123I、99mTc、32P、125I、3H、14C、および188Rhのような放射性標識、フルオロセインおよびローダミンのような蛍光標識、核磁気共鳴活性標識、電子高密度物質および放射線不透過性物質、ポジトロン放出断層撮影(「PET」)スキャナーによって検出可能なポジトロン放出同位体、ルシフェリンのような化学発光物質(chemilluminescer)、およびペルオキシダーゼまたはホスファターゼのような酵素学的マーカーである。短距離放射線エミッタ(例えば、短距離検出プローブ(例えば、経直腸的プローブ)によって検出可能な同位体)もまた、使用され得る。これらの同位体および経直腸的検出プローブは、組み合わせて使用される場合、前立腺の窩(prostatic fossa)の再発および骨盤結節性疾患(pelvic nodal disease)を検出する際に特に有用である。本発明の抗体は、当該分野で公知の技術を使用してこのような試薬で標識され得る。抗体の放射性標識に関連する技術については、例えば、WenselおよびMeares,Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy,Elsevier,New York(1983)(これは、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。D.Colcherら、「Use of Monoclonal Antibodies as Radiopharmaceuticals for the Localization of Human Carcinoma Xenografts in Athymic Mice」Meth.EnzvmQL,121:802−816(1986)(これは、本明細書中に参考として援用される)もまた参照のこと。1つの好ましい実施形態に従って、その抗体は、当該分野で公知の標準的部分を使用して蛍光団または発色団で標識される。
【0052】
出願人らは、リジン4および9(K4およびK9)におけるヒストンH3のメチル化が、それぞれ、修飾されたヒストンに近接する遺伝子の発現の活性化および不活化に関連することを発見した。ヒストンH3は、K9においてメチル化される場合、ヘテロクロマチンタンパク質HP1について好ましい結合部位であり、次いで、HP1は、K9メチル化を担う酵素Suv39hを補充し得、不活化シグナルが広げられ得る機構を作製する。K9のメチル化はまた、その部位でのアセチル化を妨げ、抑制にさらに寄与する。K9における反応とは対照的に、ヒストンH3 K4におけるメチル化は、転写活性に相関する。従って、本発明の1つの実施形態に従って、K4メチル化ヒストンH3に特異的な抗体は、クロマチンの転写的に活性な領域を検出するために使用され得、そしてK9メチル化ヒストンH3に特異的な抗体は、クロマチンの転写的に不活性領域を検出するために使用され得る。実際、染色体のインサイチュ染色によって、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体によって生成される染色パターンが、互いの鏡像を生成することが明らかにされる。
【0053】
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体は、診断剤および治療剤として、ヒトにおける使用のための可能性を有するので、本発明の1つの実施形態は、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体のヒト化バージョンに関する。抗体のヒト化バージョンは、治療適用のために必要である。なぜなら、非ヒト種由来の抗体は、ヒト免疫系によって外来物質として認識され得、そして中和され得、これらは、あまり有用ではない。ヒト化抗体は、ヒト部分および非ヒト部分を含む免疫グロブリン分子である。より具体的には、ヒト化抗体の抗原結合領域(可変領域)は、非ヒト供給源(例えば、マウス)に由来し、そしてヒト化抗体の定常領域は、ヒト供給源に由来する。ヒト化抗体は、非ヒト抗体分子の抗原結合特異性、およびヒト抗体分子によって付与されるエフェクター機能を有する。代表的には、ヒト化抗体の作製は、組換えDNA技術の使用を含む。
【0054】
本発明の抗体は、細胞からユークロマチンまたはヘテロクロマチンを単離する手段を提供するために、不溶性の支持体に結合され得る。この支持体は、微粒子形態または固体形態で存在し得、そしてこれらには、プレート、試験管、ビーズ、球、フィルターまたは膜が含まれ得るが、これらに限定されない。抗体を不溶性支持体に固定するための方法は、当業者に公知である。1つの実施形態において、本発明の抗体は、アフィニティークロマトグラフィーにおける使用に適した不溶性支持体に固定される。
【0055】
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体は、境界エレメントによっていくらか設定される、大規模またはドメイン感受性クロマチン標識である。詳細には、Lsy4においてメチル化されたH3を含むヒストンに関連するクロマチンは、「オン」ドメイン、または転写活性についてコンピテントである少なくとも1つのドメインを表す。あるいは、Lsy9においてメチル化されたH3を含むヒストンに関連するクロマチンは、「オフ」ドメインを示し、このドメインは、転写活性についてコンピテントではない。このパターンは、多様な範囲の種にわたって保存されている。これらの抗体を用いる動物ブロットにより、「単純な」生物(出芽酵母)およびテトラヒメナ由来のH3ヒストンのほとんどが、メチル化Lys4(オン)を含み、これに対して、著しく対照的には、「複雑な」生物に存在するH3ヒストンのほとんどが、メチル化Lys9(オフ)を有することが示唆される(図3を参照のこと)。このことは、酵母およびテトラヒメナにおけるゲノムDNAのほとんどが、発現される(オン)が、ヒト、マウスなどにおけるDNAのほとんどは、オフであるという知見と一致する。従って、より複雑な真核生物における「デフォルト」または基底状態はオフであることが、十分であり得る。Lys4メチル標識の使用を介するオンクロマチンの同定の仕方を知ることは、より「当りがいい」クロマチンに対する導入遺伝子のより優れた標的化のためのストラテジーを開発する際に貴重であると証明され得る。
【0056】
クロマチン免疫沈降データによって、上の「オン/オフ」標識系モデルが支持される。詳細には、公開されたS.pombeクロマチンIPデータ(Science Nakayamaら、2001)およびヒトにおける不活性X染色体上の作業(実施例2を参照のこと)は、このモデルを支持する。さらに、「不活性」X染色体上にLys4 H3メチル化の「ホットスポット」が存在し、そしていくつかの場合において、腫瘍抑制遺伝子が、この染色体領域にマッピングされている。この遺伝子におけるヘテロ接合性の喪失は、有意な数の進行した場合の卵巣癌と相関する。従って、本発明の抗体は、癌を検出するため、そして治療ストラテジーを決定するための診断剤としてもまた使用され得る。1つの実施形態に従って、疾患状態に関連するクロマチン変更を検出するための方法が提供される。用語「疾患状態」は、先天性欠損を含む生きている動物または植物の正常な状態の機能障害に関連する任意の状態、癌のような病理学的状態、ならびに環境因子および病原体(細菌、ウイルスなど)に対する応答を包含することが意図される。この方法は、正常組織および罹患組織の両方からクロマチンを単離する工程、Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体のいずれかと、このクロマチンの2つのプールを接触させる工程、および正常組織から単離されたクロマチンの染色パターンを罹患組織のそれと比較する工程を包含する。さらに、クロマチン免疫沈降を使用して、固有の腫瘍抑制遺伝子は、本発明の抗体を使用するディファレンシャルスクリーニングによって単離され得る。
【0057】
本発明の1つの実施形態に従って、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体を使用して、ヘテロクロマチン領域およびユークロマチン領域を同定し、そしてクロマチンの転写的に活性な領域および不活性な領域を検出する。より詳細には、抗体は、所定の疾患状態に関連するクロマチン構造における変化を検出するために使用され得る。従って、抗体は、発現パターンにおける変更(すなわち、優性なネイティブなパターンに比較した、ヘテロクロマチンパターン対ユークロマチンパターンにおける差異)に関連するクロマチン構造の変更を検出するための診断剤として使用され得る。クロマチンの特定の領域についてのクロマチン構造における変更は、特定の疾患状態の診断因子であり得る。例えば、ヘテロクロマチンへのゲノムのユークロマチン領域の通常の転換は、癌または前癌の状態を示す腫瘍抑制遺伝子の抑制を示し得る。同様に、ユークロマチンへのヘテロクロマチンの領域の転換は、宿主細胞/生物の対して有害な影響を与える遺伝子の不適切な発現または過剰発現と関連し得る。
【0058】
本発明はまた、罹患組織において発現パターンが変更された核酸領域を単離するための広範囲のディファレンシャルスクリーニング技術を使用する方法に関する。例えば、クロマチンは、罹患組織から単離され得、そして罹患状態に関連するクロマチン構造における任意の差異(すなわち、ヘテロクロマチン対ユークロマチンにおける変化)が存在するか否かを決定するために、健全組織から単離されたクロマチンと比較され得る。クロマチン構造におけるこのような差異は、疾患において直接的または間接的な役割を果たす遺伝子の抑制または過剰発現を示し得る。抗メチル(Lys9)H3抗体および抗メチル(Lys4)H3抗体は、クロマチン構造におけるこのような変化を検出し、そして罹患状態に関連する遺伝子を同定するのを助けるために使用され得る。このような遺伝子の同定は、疾患を処置するためのより効果的な治療を設計する際に補助となる。
【0059】
1つの実施形態において、特定の疾患に関連するクロマチン構造における変更を検出するための方法は、修飾特異的ヒストン抗体を使用するクロマチン免疫沈降アッセイを包含する。このプロセスは、クロマチン環境によって管理される広範なDNA鋳型プロセスの分析を可能にする。より詳細には、この方法は、罹患組織および健全組織の両方からクロマチンを単離する工程、DNAをフラグメント化する工程(好ましくは超音波処理によって)、および
【0060】
【化23】
のアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を使用してクロマチンを免疫沈降させる工程(ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示す)、ならびに健全組織から免疫沈降したクロマチン(および関連したDNA配列)を罹患した組織と比較する工程を包含する。この免疫沈降したクロマチンの2つのプールの比較は、罹患した組織と健全組織との間の差異の同定を可能にする。
【0061】
1つの実施形態において、この免疫沈降したクロマチンの2つのプールの比較は、この免疫沈降したクロマチンの2つのプールに関連した核酸配列を単離する工程、および得られた核酸配列の2つのプールを比較する工程を包含する。この核酸配列の2つのプールの比較は、PCR、ゲル電気泳動、核酸配列決定、および核酸ハイブリダイゼーション分析を含む、標準的な分子技術のいずれかを使用して行なわれ得る。次いで、この核酸配列の2つのプールの1つのみに存在するこれらの核酸配列は、回収される。これらの核酸配列は、正常な組織または罹患した組織のいずれかに関連する発現された/抑制された遺伝子を示す。1つの実施形態において、クロマチンを免疫沈降するために使用される抗体は、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体からなる群より選択される。
【0062】
クロマチン免疫沈降(クロマチンIP)アッセイにおけるメチルLys4/Lys9ヒストンH3抗体の使用は、ヒトゲノム(および同様に他のゲノム)の後成的な「オン/オフ」状態に対応するゲノムDNAを濃縮する1つの方法である。クロマチン免疫沈降されたDNAを、(チップ上での)現在のゲノムマイクロアレイ技術と組み合わせることによって、「ヒストンコード」を介するこれらのオン/オフ状態に関してヒト(または他の)ゲノムの任意の部分を調査する可能性を有する。例えば、Methyl(K4)H3抗体を使用して免疫沈降したDNAは、固体表面または「チップ」に固定され得、そして転写についてコンピテントである所定の細胞の全ての核酸配列を示し得る。同様に、Methyl(K9)H3抗体を使用して免疫沈降したDNAは、固体表面または「チップ」に固定され得、そして転写についてコンピテントでない所定の細胞の全ての核酸配列を示し得る。標的細胞からmRNAを収穫し、そしてcDNAを調製し、標的核酸を標識し、次いで、標的DNAを固定されたDNAとハイブリダイズさせることによって、遺伝子の異常な発現が明らかにされる。
【0063】
この情報を知ることは、種々のヒト癌における重要な腫瘍抑制タンパク質または発癌性タンパク質のオン/オフ状態を決定する際に貴重であると証明され得る。この後成的標識化が、どのようにゲノムDNAに対応するかを知ることはまた、しばしば、ほとんどのトランスジェニックDNAが「悪い」(Lys9)クロマチン環境に侵入しそしてサイレンシングされることが見出される場合に、トランスジェニック動物および植物を作製する能力を誘導する。従って、DNAを、動物および植物のトランスジェニック作業のために「良好な」(Lys4)クロマチン環境により良く「誘導する」方法を知ることについての意味は、高い。ヒトにおいて、このことは、遺伝子治療組織に対しても同様に影響を与える。
【0064】
1つの実施形態において、クロマチンの免疫沈降は、マイクロアレイの使用を介してゲノムの広範なレベルで活性な遺伝子の位置をマッピングするために使用される。例えば、1つの好ましい実施形態において、免疫沈降されたクロマチンの2つのプール(すなわち、罹患組織由来の免疫沈降したクロマチン対健全組織由来の免疫沈降したクロマチン)を比較する方法は、当業者に公知の標準技術を使用する、遺伝子チップ、DNAマイクロアレイ、またはプロテオミクスチップの使用を包含する。例えば、WO01/16860、WO01/16860、WO01/05935、WO00/79326、WO00/73504、WO00/71746およびWO00/53811(これらの開示は、本明細書中に明確に援用される)において記載されるようなシステムのいずれかは、本発明における使用に適している。好ましくは、このチップは、既知の化合物(例えば、既知のDNA配列)の順序付けられたアレイを含み、その結果、チップの特定の位置における免疫沈降したクロマチンの相互作用が、その免疫沈降したクロマチンに関連したDNA配列を同定し、そしてその単離を可能にする。
【0065】
この技術に対して鍵となることは、種々の修飾に対して特異的な抗体を使用することである。なぜなら、それらの抗体は、ヒストンコードに関連するからである。このことをヒトゲノムおよび他のゲノムに適用することが、エピゲノミクスの基盤を据える。本発明は、Lys4/Lys9 methyl H3抗体を各々ON/OFF抗体として使用することを詳述してきたが、この概念は、より一般的には、「ヒストンコード」に関して開発される任意のすべての抗体に適用される。例えば、Lys9 methyl抗体対Ser10 phos H3抗体はまた、分化対増殖を調節する「methyl/phos」スイッチでもあり得る。本発明はまた、H3ヒストンのアミノ末端の他のメチル化領域およびH4ヒストンのアミノ末端の他のメチル化領域(H3のリジン27およびリジン36、ならびにH4のリジン20を含む)に関する抗体も包含する。これらの抗体を生成するために使用されるペプチドが、以下に列挙される:
【0066】
【化24】
ここで、太字のKは、メチル化されたリジン残基であり、そして下線を付したGCは、この抗体の生成を補助するためにH3配列に付加された人工アミノ酸を指す。
【0067】
本発明の抗体は、標準的な分子生物学技術(例えば、ウェスタンブロット分析、免疫蛍光、および免疫沈降)において使用され得る。上記のように、リジン4においてメチル化したH3の存在は、転写的に活性な核に関連する。従って、このH3抗体は、遺伝子調節の理解において有用であり得る。さらに、このMethyl(K4)H3抗体を細胞中にマイクロインジェクションすることにより、特定の遺伝子の活性化が妨害され得ることが、理解される。
【0068】
本発明の1つの実施形態において、ユークロマチンおよびヘテロクロマチンを検出するためのキットが、提供される。このキットは、以下:
【0069】
【化25】
からなる群より選択されるリジンメチル化修飾ペプチドに特異的に結合する抗体を含む。より具体的には、このキットは、以下のペプチド:
【0070】
【化26】
に結合する抗体を含み、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示す。1つの実施形態において、これらの抗体は、不溶性支持体に付着され、その支持体は、モノリシック固体であるか、または特定の形態であるかのいずれかである。1つの好ましい実施形態において、これらの抗体は、モノクローナル抗体であり、そしてさらなる実施形態において、これらの抗体は、標識されている。この目的のために、本発明の抗体は、種々の容器(例えば、バイアル、チューブ、マイクロタイターウェルプレート、ボトルなど)中にパッケージングされ得る。他の試薬が、別の容器中に含まれ得、そしてこのキットとともに提供され得る。他の試薬は、例えば、陽性コントロールサンプル、陰性コントロールサンプル、緩衝液、細胞培養培地などである。
【0071】
本発明の別の実施形態において、サンプルがメチラーゼ活性を有するか否かを決定するためのアッセイにおける使用のためのキットが、提供される。このキットは、ペプチドと抗体とを含み、そのペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択され、そしてその抗体は、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択されるリジンメチル化修飾ペプチドに特異的に結合する。1つの実施形態において、それらの抗体は、不溶性支持体に付着されており、その支持体は、モノリシック固体であるか、または特定の形態であるかのいずれかである。別の実施形態において、このキットは、非メチル化ペプチドに特異的に結合する抗体をさらに備えており、この非メチル化ペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択される。このような抗体は、陰性コントロールとして役立つ。
【0072】
1つの実施形態において、サンプルのメチラーゼ活性を検出するための方法は、メチラーゼ活性を有すると疑われるサンプルを、所定の長さの時間の間、ペプチドと接触させる工程を包含し、このペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択される。その基質に結合するメチル化特異的抗体(すなわち、Methyl(K4)H3またはMethyl(K9)H3)の量は、その基質が所定の時間の間メチル化された程度の直接相関であり、従ってそのサンプルのメチラーゼ活性を示す。このアッセイはまた、メチラーゼの潜在的インヒビターについてスクリーニングするために使用され得る。例えば、1つの実施形態において、アルギニンメチル転移活性のインヒビターについてスクリーニングする方法は、サンプルを提供する工程(そのサンプルは、メチラーゼと、そのメチラーゼによりメチル化される基質と、を含む)、そのサンプルにそのメチラーゼの潜在的インヒビターを添加する工程、およびそのメチル化基質には特異的に結合するが非メチル化基質には特異的には結合しない抗体と、そのサンプルとを接触させる工程、を包含する。1つの実施形態において、その抗体は、以下のペプチド
【0073】
【化27】
に特異的である。そのペプチドに結合した抗体の量を定量することは、そのサンプル中のメチラーゼのレベル活性の直接相関である。1つの好ましい実施形態において、検出されるべきメチラーゼ活性は、SuVar3−9(Lys9について)またはSet1(Lys4について)である。
【0074】
出芽酵母中に存在する非必須遺伝子のすべて(約4,800個)について「ノックアウト」株が入手可能である。本発明の抗体は、非常に高い程度の特異性を有するので、酵母の全細胞溶解物中の主要な1つまたは2つのバンドのみを検出し、それによりこれらのノックアウト株のすべてを観察するためのロボット利用型スクリーニング方法の開発が可能になる。Lys4メチルH3を使用することは、そのオン酵素およびオフ酵素を含む「調節因子」の上流経路全体を導くはずである(ただし、その遺伝子産物が非必須である場合)。
【0075】
「旧式」ブロットにおける上記のアプローチを使用して、Set1が、酵母におけるLys4 H3メチル標識を担う酵素であり、かつまたヒトにおけるLys4 HMTアーゼのうちの1つであることが、見出された。驚くべきことに、酵母全細胞溶解物を探索するため読み出し表示としてこのメチルLys4 H3抗体を使用して、Lys4メチル化が、ヌクレオソームの反対側にある保存リジンにおけるH2Bユビキチン結合によって調節されることが、発見された。これは、「トランス−テール」効果の最初の例であり、この効果は、一方のテールにおける1つのヒストン修飾が、それ程近くない別のテールにおける別の修飾をもたらすことを意味する。ヒトおよびマウスにおいて、ユビキチンをタンパク質に付加する酵素は、ヒトRad6(HR6)であり、そしてHR6は、2つのアイソフォーム(HR6AおよびHR6B)になる。マウスノックアウトHR6B−/−は、既知ではないが精子形成の間にクロマチン欠損をもたらして精子の死をもたらすようである経路において、雄性不稔性である。従って、HR6Bが、H2Bに対するユビキチン付加を担うこと、従って、Lys4 H3メチル抗体が、雄性不妊症についての診断剤であることが可能であることが、理解される。さらに、Lys9メチル化を欠損し、X染色体不活性化に影響し得、かつ雌性不妊症をもたらす、可能性が存在する。従って、本発明の1つの実施形態により、Methyl(K4)H3抗体およびMethl(K9)H3抗体が、雄性不妊症欠損および雌性不妊症欠損についてスクリーニングするための診断剤として使用される。
【0076】
現在のモデルは、Lys9メチル化が、少なくともいくつかの場合、SuVar3−9によって触媒されることを、示唆する。このLys9メチル標識は、クロモドメイン(クロマチンの「ベルクロ」パッチとして作用する、短いタンパク質モジュール)によって読み取られるようである。ヘテロクロマチンタンパク質HP1のクロモドメインが、最もよく示されている。興味深いことに、HP1からのクロモドメインは、Lys9メチルH3ペプチドにはよく結合するが、Lys4ペプチドまたは非修飾ペプチドには、それよりかなり弱くしか結合しない。SuVar3−9自体(触媒性HMTアーゼ)もまたクロモドメイン(メチル化ヒストンペプチドについての部位特異性がいまだ試験されていないモジュール)を有することもまた、興味深い。
【0077】
H3におけるLys4メチル標識は、おそらく、HP1のクロモドメインとは異なるクロモドメインによって読み取られるようである。1つの実施形態において、本発明の独自に修飾されたペプチド(
【0078】
【化28】
を含む)は、Lys4 H3ペプチドに結合するポリペプチドを探索するための親和性試薬として使用される。いくつかの魅力的候補としては、2つのヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)であるEsa1およびCDYが挙げられ、これらは両方とも、クロモドメインを有する。興味深いことに、CDYは、雄性Y染色体上にコードされる、精巣特異的HATであり、そして体性ヒストンは、プロタミンによる置換をもたらす反応の間に、過剰アセチル化されることが周知である。
【0079】
それは、精子形成の間に、以下の一連の協調的反応が生じることであり得る:
1.H2Bユビキチン結合が生じる(HR6Bによって触媒される)
2.クロマチンが開く
3.ヒトSet1または別のLys4 HMTアーゼによって触媒されるLys4メチル化
4.HAT CDYが、そのクロモドメインを介してLys4メチル化標識に結合する
5.ヒストン過剰アセチル化が生じ、CDYにより触媒される
6.体性ヒストンが、その後、変遷タンパク質により置換され、その後プロタミンにより置換される。
【0080】
上記の工程のうちのいずれかにおける欠損は、精子死亡および雄性不妊症をもたらし得る。
【0081】
これらの工程のうちの3つが、以下のクロマチン修飾酵素:
i)HR6B(E2ユビキチン結合酵素)
ii)Set1(能力のあるLys4 HMTアーゼ)
iii)CDY(雄性特異的HAT)
を必要とすることに留意すること。
【0082】
ユビキチン結合H2Bに対する抗体およびユビキチン結合H2Aに対する抗体、Lys4メチルH3に対する抗体およびCDY触媒化アセチル化の部位に対する抗体はすべて、雄性不妊症のスクリーニングにおいて、診断的に有用である可能性がある。
【0083】
(実施例1)
(Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体の調製)
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体を生成するために、リジン4の周囲のヒストンH3のアミノ酸配列(配列番号4;
【0084】
【化29】
またはリジン9の周囲のヒストンH3のアミノ酸配列(配列番号5;
【0085】
【化30】
)に対応する短いポリペプチドをまず化学合成した。ここで、太字のKは、メチル化リジン残基であり、そして下線を付したGCは、この抗体の生成を補助するようにH3配列に付加された人工アミノ酸を示す。その後、このポリペプチドを、カチオン化ウシ血清アルブミン(BSA)に結合し、そしてこの結合ペプチドをウサギに注射した。この手順に対する1つの重要な局面は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にペプチドを結合する標準技術が、高品質のメチルリジン4(H3)特異的抗血清を生成する際には効果がないと示された事実である。従って、この特定のカチオン化BSAの使用は、今や、メチルリジン特異的抗体を生成する際の特異な「方法」とみなされる。
【0086】
ウサギ血清を、免疫後に規則正しい間隔で収集し、そしてMethyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体がその血清中に存在することを、標準的酵素結合免疫吸着アッセイによって示した。これらの抗体は、ウェスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、および免疫沈降アッセイにおける使用のために、適切である。
【0087】
(実施例2)
(ヘテロクロマチンアセンブリのエピゲノム制御における、ヒストンH3リジン9メチル化の役割)
高次クロマチン構造のアセンブリを、ヒストンテールの共有結合修飾と関連付けた。インビボでの証拠が、ヒストンH3のリジン9(H3 Lys9)が、融合酵母におけるヘテロクロマチン結合領域にてClr4タンパク質によって優先的にメチル化されることを、示す。Clr4の保存クロモドメインおよびSETドメインの両方が、インビボでのH3 Lys9メチル化に必要である。
【0088】
その高次クロマチン構造の組織化を、ヒストンテールの翻訳後修飾(アセチル化、リン酸化、およびメチル化を含む)と関連付けた。共有結合ヒストン修飾の個別の組み合わせ(「ヒストンコード」ともいう)が、下流のクロマチン修飾タンパク質を動員するための、ヒストンテール上の「標識(mark)」を提供することが、示唆された。このことは、いくつかの転写活性化補助因子の保存ブロモドメインがヒストンテール上のアセチル化リジン残基に特異的に結合することを示す、最近の研究によって最もよく示される。同じヒストンテールまたは異なるヒストンテール内の複数の共有結合修飾の確立および維持を担う機構は、完全には理解されていない。
【0089】
ヒストンテールの修飾もまた、ヘテロクロマチンのアセンブリに関連付けた。ヒストンH3およびヒストンH4は、酵母、ハエ、および哺乳動物ほどに多様な生物におけるヘテロクロマチン性染色体領域において、ほとんど低アセチル化されている。融合酵母において、ヒストンの低アセチル化は、サイレント接合型領域およびセントロメア(高等真核生物におけるヘテロクロマチン領域と多くの類似点を共有する染色体ドメイン)と関連している。内部(imr)反復および外部(otr)反復により囲まれる独特の配列の中心コアを含むセントロメア領域は、サイレントクロマチン構造へとアセンブルされる。同様に、接合型(mat2/3)領域の大きな15kb染色体ドメイン(mat2遺伝子座およびmat3遺伝子座、ならびにそれらの間の区間(K領域として公知)を含む)が、サイレントエピゲノム状態において維持される。これらの領域のサイレント化に影響するトランス作用性因子の中で、Clr3およびClr6が、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)のファミリーに属する。Swi6タンパク質およびClr4タンパク質は、クロモドメイン(HP1タンパク質およびPolycombタンパク質において最初に同定された進化的に保存されたモチーフ)を含む。最近、Clr4およびその哺乳動物対応物SUV39H1の両方が、インビトロで内在性ヒストンH3特異的メチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)活性を有することが示された(S.Reaら、Nature 406、593(2000))。しかし、ヒストンが、インビボでこれらのメチルトランスフェラーゼの生理学的標的であるか否かは、わからない。
【0090】
以前の知見と一致して、組換えClr4(rClr4)は、ヒストンH3に対して排他的にHMTase活性を有することが見出された。rClr4によってメチル化されたH3の特定の残基を同定するために、H3のNH2末端由来の合成ペプチドを、インビトロHMTaseアッセイにおける基質として使用した。詳細には、5mgのHeLaコアヒストンまたはニワトリコアヒストンを、25mlのHMTase緩衝液[10%グリセロール中、50mM Tris(pH 8.0)、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、0.5mM ジチオトレイトール]中、0.55mCiのS−アデノシル−L−[メチル−3H]メチオニン(3H−AdoMet;72Ci/mmol;1mM pnal)および2mgの組換えClr4野生型タンパク質または変異体タンパク質と共に、30℃にて1時間インキュベートした。SDSローディング緩衝液を各サンプルの半分に添加し、そして煮沸して、その後、15% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)ゲル上で分離した。得られたヒストンのバンドを、クーマシー染色およびフルオログラフィーによって可視化した。ペプチド分析のために、COOH末端システインを含む、ヒトヒストンH3のNH2末端由来の各ペプチド5mgを使用した。半分のサンプルを、Whatman P−81濾紙にスポットし、50mM NaHCO2(pH 9.0)中で10分間、4回洗浄し、その後、液体シンチレーション計数を行った(B.D.Strahl、R.Ohba、R.G.Cook、C.D.Allis、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96、14967(1999))。Clr4は、H3 1−20非修飾ペプチドを優先的にメチル化したが、H3 19−35非修飾ペプチドをメチル化せず、これは、Clr4 HMTaseの標的残基がH3の最初の20アミノ酸に存在することを示す。
【0091】
この標的残基を決定するために、異なるアミノ酸に対して共有結合修飾を含む、合成H3 1−20ペプチドセットを開発した。これらのペプチドを基質として用いた場合、Lys9に対するアセチル修飾またはメチル修飾のみが、rClr4のHMTase活性を効果的にブロックし、これは、Clr4が、その哺乳動物ホモログSUV39H1と同様に、H3のLys9を選択的にメチル化することを示す。さらに、SUV39H1と同様に、rClr4のHMTase活性は、セリン10のリン酸化によって阻害された。これらの結果は、Su(var)3−9タンパク質ファミリーの酵素的特徴が、分裂酵母からヒトへと進化的に保存されていることを実証する。近年の研究は、保存されたSETドメインおよび2つの隣接システインリッチ領域が、インビトロでのSUV39H1のHMTase活性に必要とされることを実証した。これらの保存されたドメイン、クロモ領域、SET領域およびシステインリッチ領域がClr4のHMTase活性にもまた重要であるか否かを決定するために、変異体Clr4タンパク質を、HMTase活性について試験した。クロモドメインにおける変異[Trp31からGly(W31G)およびTrp41からGly(W41G)]は、Clr4のHMTase活性に対してほとんど効果を有さないが、SETドメインにおける変異[Gly328からSer(G378S)]および両方のシステインリッチ領域における変異[Arg320からHis(R320H)およびGly486からAsp(G486D)]は、Clr4のHMTase活性を大いに減少し、これは、これらの3つの領域が、インビトロでのClr4のHMTase活性に重要であることを示す。
【0092】
H3 Lys9メチル化とサイレンシングとの間の仮定の相関性を試験するために、H3 Lys9−メチル特異的抗体を開発した。酵素連結イムノソルベントアッセイにおいて、H3 Lys9−メチル抗体は、広範な抗体希釈度でH3 1−20 Lys9−メチルペプチドを特異的に認識した。さらに、H3 Lys9−メチル抗体は、HeLaコアヒストン陽性コントロールと比較して、組換えヒストンH3(rH3)単独を検出しなかったが、rClr4によって選択的にメチル化されたrH3を検出し、これは、この抗体の特異性をさらに実証する(Nakayamaら(2001)Science、292、110−113頁(この開示は本明細書中に援用される)を参照のこと)。
【0093】
この抗体をクロマチン免疫沈降(ChIP)実験(Nakayamaら(2000)Cell、101、307)において使用して、H3 Lys9−メチル修飾が、サイレンシングされた染色体領域に特異的に局在化されることが発見された。H3 Lys9のメチル化およびSwi6は、サイレンシングされたmat2/3染色体ドメイン内に挿入されたマーカー遺伝子(Kint2::ura4 1)で、その内因性の位置にあるコントロールura4DS/E遺伝子座と比較して、優先的に富化された。同様に、H3 Lys9のメチル化はまた、cen1の非常に抑制された最も内側の反復内(imr1R::ura4 1)および外側の反復内(otr1R::ura4 1)に挿入されたura4 1マーカーで優先的に富化されたが、弱く抑制された中心コア(cnt1::ura4 1)では富化されなかった。さらに、H3 Lys9のメチル化は、これらの領域でSwi6の存在と同時に生じた(Partridgeら(2000)、Genes Dev.、14、783)。これらの知見は、H3 Lys9−メチル修飾およびSwi6がサイレントな染色体領域に優先的に局在されること、および、Swi6の局在がH3 Lys9のメチル化に機能的に依存することを示唆する。
【0094】
野生型細胞におけるKint2::ura4 1およびotr1R::ura4 1の両方での比較的高いレベルのSwi6およびH3 Lys9メチル化と比較して、Swi6およびH3 Lys9メチル化は、clr4D株において両方の遺伝子座に存在しなかった。この結果は、H3 Lys9がClr4 HMTase活性の生理学的標的であること、および、Clr4がmatおよびcen遺伝子座での排他的なインビボH3 Lys9−特異的HMTaseであるようであることを、示唆する。SETドメインのみがClr4 HMTase活性に必要とされることを示すインビトロ結果と比較して、クロモドメインおよびSETドメインの両方が、インビボでのH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化に必要される。まとめると、これらの結果は、クロモドメインが、おそらく、mat2/3領域およびセントロメアへClr4を標的化するために必要とされ、一方、Clr4のSETドメインおよび関連するシステインリッチ領域が、触媒部位を構成することを示す。異なるclr4変異体バックグラウンドにおけるmatおよびcenでのSwi6レベルは、H3 Lys9メチル化のレベルと直接的に相関し、これは、サイレントな染色体ドメインでのSwi6の局在化が、H3 Lys9のメチル化に機能的に依存することをさらに示唆する。
【0095】
インビボ分析の重要性は、インビトロでHMTase活性を減少するClr4におけるいくつかの変異が、インビボでH3 Lys9メチル化およびSwi6の局在化を実質的に減少しないという観察によって、さらに強調された。さらに、Clr4のSETドメインおよびNH2末端システインリッチ領域における変異(G378SおよびR320H)は、mat遺伝子座でのH3 Lys9メチル化およびSwi6の局在化を大いに減少するが;これらの変異は、cen1では中程度またはわずかな効果しか有さない。これらの変異はまた、接合型サイレンシングと比較して、セントロメアサイレンシングに対して弱い効果を有する。これらの結果は、インビトロで組換えモノマータンパク質によって示された酵素的欠損が、インビボでのマルチサブユニットの複合体の状態で機能することによって「レスキュー」され得るという概念と一致する。さらに、mat2/3領域およびセントロメアの機能的構成が異なり得、そしてさらなる因子が、セントロメアでのClr4活性の促進を補助し得る。
【0096】
clr3 HDAC(これは、H3 Lys14を特異的に脱アセチル化する)における変異は、matおよびcenでのサイレンシングに影響する(S.I.S.Grewal、M.J.Bonaduce、A.J.S.Klar、Genetics 150、563(1998))。ChIP分析は、H3 Lys14のHDAC活性において部分的に欠損性のclr3−735変異体が、そのHDAC活性の明らかな減少と同時に、otr1::ura4+でのH3 Lys9メチル化およびSwi6局在化における中程度の減少を示すことを実証した。この結果は、H3 Lys14のアセチル化が、インビボでClr4のHMTase活性を阻害することを示唆する。Clr3とClr4との間の機能的相互作用をさらに調査するために、clr3−735およびclr4R320H変異を含む二重変異体株を作製した。このclr4変異は、otr1R::ura4+でのH3 Lys9メチル化に対する最小の効果を有する。この二重変異体のChIP分析は、H3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化が、その単一の変異体と比較して、ほとんど消失されることを実証した。これらの知見は、Clr3が、Clr4と相乗的に作用し、Swi6をヘテロクロマチンドメインに効果的に局在化させることを示す。言い換えると、Clr3によるH3 Lys14の脱アセチル化は、Clr4によるH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化に、間接的(Clr4活性を変化させることによって)にかまたは直接的にかのいずれかで、あるいはその両方で必要とされる。これらのデータはまた、Lys9に隣接する残基、および潜在的にはそれらの修飾状態が、適切なH3 Lys9−メチル標識の確立に重要な役割を果たすという理論を支持する。以前の研究は、rik1+が、サイレンシングおよびサイレントな遺伝子座でのSwi6の局在化に影響することを示した。コンピューター分析は、Rik1が、WD−40反復タンパク質内に代表的に見出され、かつタンパク質:タンパク質相互作用に関与することが理論付けられているb−プロペラドメインを含むことを明らかにした。rik1における変異は、野生型と比較して、matおよびcenの両方でH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化を完全に消失させた。
【0097】
WD−40タンパク質は、クロマチン再構成およびヒストン代謝の多くの局面(例えば、クロマチンアセンブリおよびヒストンのアセチル化または脱アセチル化)に関与する。従って、Rik1のb−プロペラドメインは、Clr4と複合体を形成して、そのHMTase活性をヘテロクロマチン領域に動員し得、そして他のトランス作用性因子(例えば、Swi6およびヒストンデアセチラーゼ)の結合において役割を果たし得る。
【0098】
H3 Lys9のClr4依存性メチル化に対する、Swi6の可能な役割もまた試験した。Swi6タンパク質レベルが大いに減少された、swi6−115(W269R)変異を保持する株を使用した。予測されたとおり、matおよびcenの両方でのSwi6局在化は、ChIP分析によって実証されるように、消失された。このswi6−115変異は、野生型株と比較した場合、H3 Lys9のメチル化において検出可能な変化を全く生じなかった。これらのデータは、Swi6が、Clr4機能に不必要であることを示し、そしてSwi6がClr4のH3 Lys9メチル化の下流で作用することを示唆する。まとめると、上記の結果は、H3 NH2−末端テールの共有結合修飾について、サイレンシングされたクロマチン状態の確立を導く事象の時系列を規定する。HDACおよびHMTaseは、協同的に作用して「ヒストンコード」を確立し、次いで、このヒストンコードが、Swi6によって認識される。より詳細には、HDAC(Clr6および/またはHda1)が、H3 Lys9を脱アセチル化し、Clr3が、Clr4/Rik1 HMTase複合体によるH3 Lys9メチル化の前に、H3 Lys14を脱アセチル化する。次いで、H3 Lys9−メチル修飾へのSwi6結合は、ヘテロクロマチンアセンブリの自己増幅を生じる。Swi6のヘテロクロマチン結合ドメインは、そのクロモドメインにマッピングされたので、このタンパク質モチーフは、H3 Lys9−メチル修飾を認識するよう進化したという可能性が最も高い。
【0099】
Swi6が、細胞周期を通してmat2/3領域に会合されたままであり、その領域でSwi6が、後成性の細胞記憶の重要な決定基として作用し、このことが、サイレンシングされた状態の遺伝を促進することが、最近示された。Swi6のマウスホモログであるM31は、Su(var)3−9に会合するので、Clr4とSwi6との間の類似の相互作用が予測される。Clr4のHMTase酵素活性の密接な関係、その後の、そのクロモドメインを介するH3におけるLys9メチル「標識」へのSwi6の動員および結合は、後成的遺伝の経路を示唆する。Clr4のクロモドメインがH3 Lys9−メチル標識を認識する程度は未知であるが、その標識は、Clr4がその後のメチル化事象を行う場合の、クロマチンに結合する手段をその酵素に提供する。高等真核生物におけるClr4/SUV39H1タンパク質およびSwi6/HP1タンパク質の保存およびH3 Lys9−メチル修飾の存在に基づいて、類似の機構が、分裂酵母からヒトにわたる生物における高次のクロマチンアセンブリを担い得る。ハエおよび哺乳動物におけるPolycomb群のタンパク質による転写抑制と分裂酵母におけるサイレンシングとの間の類似点を考慮すると、ヒストンの脱アセチル化と組み合わせたヒストンのメチル化が、ホメオ遺伝子発現の調節を導く経路においてPolycombを局在化するのを補助し得るという可能性がある。
【0100】
(実施例3)
(ヒストンH3のメチル化の差示的部位は、ヒトX染色体上の活性な遺伝子および不活性な遺伝子を標識する)
高等真核生物における染色体は、ユークロマチンおよびヘテロクロマチンの領域からなると歴史的に考えられており、これらは、凝縮の程度およびその根底にあるDNA配列の転写活性のレベルによって区別される。構成ヘテロクロマチンの特定の領域は、セントロメアのような特殊化された構造またはその付近に見出され、そしてほとんど、遺伝的に不活性な反復配列からなる。対照的に、同じ一次DNA配列を有する他の領域は、いずれかの型のクロマチンの特徴を示し得、これは、後成的な要因(例えば、ヒストンおよびクロマチン関連タンパク質によるDNAのパッケージング)が、これらの遺伝子座でのヘテロクロマチン状態を指示することを示唆する。
【0101】
後成的サイレンシングの最も劇的な例の1つは、哺乳動物の雌性細胞に見られるX染色体不活性化である。このプロセスは、X連鎖遺伝子の遺伝子量補償を可能にし、それによって、雌性細胞におけるX染色体の2つのコピーの一方が、胚発生中にランダムに不活性化される。現在の証拠は、X不活性化が、非コードXIST転写物の上方調節および不活性化されるべき染色体とのそのシスでの会合によって開始されることを示唆する。XIST RNAによるそのコーティング後、不活性なX染色体は、遅い複製時点、間期細胞における凝縮された外見(バークロマチン体)、ハウスキーピング遺伝子のCpG島のDNAメチル化、および低アセチル化ヒストンから構成されそしてH2A改変体MacroH2Aについて富化されている修飾されたヌクレオソームとの会合のような、ヘテロクロマチン特徴を獲得する。X不活性化の発生におけるこれらの特性の正確な役割は、依然明らかではないが、一旦、不活性な状態が確立されると、これらの後成的特徴は、相乗的に作用して、成体ソーマにおいて多くの細胞分裂を介して不活性Xの顕著な安定性を維持するようである。
【0102】
近年、いくつかの刊行物により、ヒストンH3のメチル化が、マウスおよびS.pombeにおけるヘテロクロマチンのアセンブリに重要であることが示された(Lachnerら,Nature 410,116(2001);Bannisterら,Nature 410,120(2001)およびNakayamaら,Science 292,110(2001))。マウスHP1(およびS.pombeにおけるSwi6)のクロモドメイン(chromodomain)は、リジン9でメチル化されたH3に結合し得、そしてこの部位でのH3のメチル化は、ヘテロクロマチンのアセンブリに関与する因子を選び出して補充すると考えられる。さらに、リジン9でのH3のアセチル化およびメチル化は、インビボにおいて、競合事象であり得る(Cheungら,Cell 103,263(2000))。H3が不活性なX染色体上では低アセチル化状態にあり、そしてH3のリジン9でのメチル化がヘテロクロマチンのアセンブリに重要であると仮定して、Lys9メチル化H3の富化について不活性なXを調べた。
【0103】
Lys9メチル化H3に特異的な抗体を使用して、間接免疫蛍光法により、正常なリンパ芽球細胞株(HH)からの雌性ヒト中期染色体を試験した。特に、正常なヒト雌性リンパ芽球細胞株(HH)および5つのX染色体を含む雌性リンパ芽球細胞株(6061B)を増殖させ、収集し、そしてCytospinでの3回の遠心分離で顕微鏡スライド上に集めた。修飾されたヒストンを、本質的に他で詳細に記載された(CostanziおよびJ.R.Pehrson,Nature 393,599(1998))ようにして、間接免疫蛍光法により検出した。簡潔には、細胞を、Lys9メチルH3またはアセチルH4の一次抗血清の段階希釈物と共に、加湿チャンバー内において37℃で1時間インキュベートし、そしてKCM(120mM KCl,20mM NaCl,10mM TRIS−CL(pH8.0),0.5M EDTA,0.1% Triton)中において洗浄した。次いで、この細胞を、Cy3と結合体化されアフィニティー精製されたロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)(KCM中において1:40に希釈)と共に、室温にて30分間インキュベートした。細胞を、再度KCMで洗浄し、そして室温にて10分間にわたり4%ホルムアルデヒド中で固定した。滅菌水中で洗浄した後、染色体を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で対比染色し、抗退色剤(antifade)(Vectashield)中にマウントし、そしてZeiss Axiophot蛍光顕微鏡で観察した。
【0104】
Lys9メチル化H3に特異的な抗体を使用する間接免疫蛍光法によって、大半の染色体はLys9メチル化H3のいくつかの領域を有するが、各中期スプレッド(spread)における1つの染色体は一貫して、より強くかつ均一に染色されることが明らかにされた(図1A、白色矢印)。Lys9メチル化H3を富化した染色体が、不活性なX染色体であるか否かを調べるために、5つのX染色体を含む細胞株由来の中期スプレッドもまた染色した。これらの細胞において、5つのX染色体のうちの4つは、不活性であることが既知である。そして実際、同じサイズの4つの染色体は、Lys9メチルH3抗体による濃厚な染色を示す。まとめると、これらのデータにより、不活性なXにおけるH3分子は大部分が低アセチル化状態であるが、そのH3分子はリジン9で高度にメチル化されていることが示唆される。
【0105】
ヒストンH3のN末端は、複数の部位で翻訳後修飾される。そしてH3のリジン4は、証明された別のメチル化部位である。しかし、リジン9とは対照的に、リジン4のメチル化は、活性な転写と相関した。不活性なX染色体におけるこれらの2つのH3メチル化部位をさらに比較するため、Lys4メチル化H3に特異的な抗体を用いて、中期染色体を染色した。雌性細胞株HHおよび6061B由来の中期染色体を、Lys4メチルH3抗血清と共にインキュベートし、そしてその染色パターンを、先に記載した間接免疫蛍光法によって分析した。顕著なことに、この抗体は、1スプレッドあたり一つの染色体を除いて、中期スプレッドのすべての染色体を強度に染色する(図1B)。この独特の染色体は、H3リジン4メチル化のいくつかの「ホットスポット」を除いて、ほぼ全く染色されない。5X細胞株の中期スプレッドの染色は、これらの染色体のうちの4つが、Lys4メチルH3抗体を使用すると過少染色(understain)であること示す。このことは、低H3 Lys4メチル化染色体が、不活性なX染色体であることを示唆している。
【0106】
不活性なX染色体に関するより精密な試験によって、Lys4メチルH3抗体で強い染色を示す、この染色体のいくつかの異なる領域が存在することが示されている。1つの領域は、p腕の遠位末端の偽常染色体領域に位置付けられるようであり、別の領域は、q腕のXq25−26付近に位置付けられる。そして、かすかな染色が、Xp11周辺で時折観察される。Xq25−26を除いて、不活性なXにおけるLys4メチルH3染色の他の領域は、不活性化を回避することが公知の複数の遺伝子の位置に対応する(Carrelら,Proc Natl Acad Sci USA 96,14440(1999))。従って、これらのデータは、H3のLys4メチル化が、活性な遺伝子発現と関連付けられるという考えと一致する。
【0107】
Lys4メチルH3抗体によるXq25−26領域の強い染色は、当惑させる。なぜなら、この領域は、Xの不活性化を回避するいかなる既知の遺伝子をも含まないからである。しかし、Xq25−26.1でのヘテロ接合性の損失は、進行したヒト卵巣癌腫と関連付けられるということは興味深い(Choiら,Genes Chromosomes Cancer 20,234(1997)を参照のこと)。不活性なX染色体上のこの領域でのLys4メチル化H3の富化に関するさらなる研究、およびH3のLys4/Lys9のメチル化が、この位置での推定癌抑制遺伝子の発現レベルと相関するか否かを決定することによって、ヒストンH3のメチル化と遺伝子発現との間の関係に関するさらなる情報が提供される。
【0108】
Lys4メチルH3抗体による不活性なX染色体の過少染色は、H4の過剰アセチル化形態に対する抗体でのこの染色体の染色パターンと類似するが、同一ではない。この研究において、不活性なX染色体のp腕のテロメア領域におけるいくらかの染色が、過剰アセチル化H4に対する抗体を用いて観察されたが、Xp11およびXq25−26の領域では観察されなかった。対照的に、以前に公表された結果は、不活性なX染色体上の3つの領域(Xpter−22.2、Xp11.3−11.2およびXq22)が、過剰アセチル化H4に対する抗体で染色されたこと、しかしこれが、酪酸ナトリウムで処理されたヒト細胞中においてのみ観察されたことを示した。現在、過剰アセチル化H4の抗体によって染色される領域と、Lys4メチルH3の抗体によって染色される領域との間の正確な関係は明確に規定されていない。にもかかわらず、これらのデータは、不活性なX染色体が、過剰アセチル化コアヒストンおよびLys4メチル化H3を欠くが、Lys9でメチル化されたH3を富化していることを示唆する。まとめると、ヒストン修飾のこれらの組み合わせは、不活性なXの転写的なサイレンシングを媒介する一連の協調的反応の一部であり得る。
【0109】
H3 Lys9メチル化と不活性なX染色体との間の関係をさらに確立するために、免疫蛍光法と蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)との組み合わせによって、ヒト雌性IMR90間期細胞を試験した。特に、IMR90(ATCC)細胞を、カバーガラス上で24〜48時間増殖させ、次いで、4%ホルムアルデヒド中において15分間室温で固定した;次いで、この細胞を、0.5%Triton−Xを含むPBS中において4分間氷上で透過化し、PBS中で洗浄し、次いで、2×SSC中で洗浄し、次いで、RNA FISHを行った。核の構造を保存するために、細胞を持続的に水和し続けた。RNA FISHハイブリダイゼーションおよび洗浄を、本質的に他で記載された(Lachnerら,Nature 410,116(2001))ようにして実施した。簡潔には、細胞を、合計4.5kbの配列にわたる4つのエキソン由来DNAフラグメントのプールを含むXISTプローブでハイブリダイズし、Spectrum RedまたはGreen dUTP(Vysis,Downer Grove,IL)でのニックトランスレーションにより標識した。37℃での一晩のハイブリダイゼーション後、RNA FISHについての標準的な洗浄(すなわち、50%ホルムアミド/2×SSC中で3回、および2×SSC中で3回)を実施した。次いで、細胞を、PBS/0.5%BSA中で洗浄し、次いで、免疫蛍光法を実施した。一次抗体を室温で1時間インキュベートし、細胞をPBS中において4回洗浄し、次いで、二次抗体(Texas red結合体化ヤギ抗ウサギ抗体)を室温で1時間適用し、次いで、PBS中で4回洗浄した。核を、DAPIで対比染色した。画像を、Orca 2 CCDカメラ(Hamamatsu)とImprovisionソフトウェア(IPLab)とを備えたZeiss Axioplan 2蛍光顕微鏡を使用して得た。
【0110】
XIST転写物が、中期ではなく間期の不活性なX染色体に特異的に位置付けられること、およびXist転写物の位置は、FISH分析によって検出され得ることは、十分に確証されている。Lys9メチルH3抗体は、DAPI濃密領域との共存によって示されるようなヘテロクロマチン濃密領域を優先的に染色する。この濃縮された領域はまた、XIST RNAシグナルと共存する。このことは、Lys9メチル化H3を富化した染色体が、実際に、不活性なXであることを示す。中期染色体の結果と一致して、Lys4メチルH3抗体でのヒト間期細胞の染色は、不活性なXに対応する領域(DAPI濃密染色およびXist RNAの位置に基づく)が、Lys4メチルH3の染色を欠くことを示している。興味深いことに、Lys4メチルH3を富化した異なるドットが、いくつかの細胞について、ネガティブ染色領域内で観察される。Lys4メチルH3染色のこの位置付けられた領域が、中期染色体で観察される強く染色される領域に対応するのか否かは、現在知られていない。間期細胞および中期細胞におけるLys9メチルH3染色およびLys4メチルH3染色を並べた比較によって、さらに、これらの2つの抗体のそれぞれの染色パターンが、ほぼ相反的な画像であることが示された。これらの結果は、H3のリジン4およびリジン9でのメチル化が、それぞれ、転写的に活性な領域および不活性な領域についての「相反マーカー」であり、従って、不活性なX染色体は、リジン4では低アセチル化状態であるが、リジン9では過剰メチル化状態であるという結論へと導いた。
【0111】
生ずる1つの予測は、Lys4メチルH3抗体およびLys9メチルH3抗体が、それぞれ、クロマチン免疫沈降(ChIP)によって、X染色体上の活性なFF43遺伝子および不活性な遺伝子について富化するということである。不活性なX染色体において、XIST遺伝子は転写的に活性であるが、PGK1遺伝子はサイレントである。逆に、活性なX染色体において、XIST遺伝子はサイレントであるが、PGK1遺伝子は活性に転写される。上記の仮説を調べるために、ChIPアッセイにおいて、単一の活性なヒトX染色体または不活性なヒトX染色体のいずれかを含む2つのCHO体細胞ハイブリッド細胞株を使用して、活性なX染色体または不活性なX染色体上に存在する遺伝子と関連付けられるヒストン修飾を試験した。これらの2つの細胞株由来のクロマチンを、Lys9メチル化H3、Lys4メチル化H3またはLys9/14アセチル化H3に対する抗体を用いて免疫沈降した。そして免疫沈降したDNAを、ヒトXist遺伝子およびPGK1遺伝子のプロモーター領域に対して特異的なプライマーを使用してPCR増幅した。
【0112】
特に、クロマチン免疫沈降アッセイを、Cheungら,Mol Cell 5,905(2000)に記載されるように実施した。この場合、ホルムアルデヒドで固定されたクロマチンを、活性なヒトX染色体または不活性なヒトX染色体のいずれかを含むCHO体細胞ハイブリッドから収集した。明細書に示される抗体を用いた免疫沈降反応1回あたり、約3×106細胞に値する超音波処理クロマチンを使用した。広範な洗浄、逆架橋化(reverse cross−linking)、RNaseAおよびプロテインキナーゼKでの消化の後に、免疫沈降されたDNAを、ヒトXIST遺伝子およびPGK1遺伝子のプロモーター領域に特異的なプライマー(プライマー配列およびPCR条件は、GilbertおよびP.A.Sharp,Proc Natl Acad Sci USA 96,13825(1999)に由来した)を使用するPCRによって分析し、そしてポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。
【0113】
以前に公表された報告と一致して、アセチル化H3抗体は、不活性なX染色体からはXIST DNAのみを免疫沈降し、そして活性な染色体からはPGK1 DNAのみを免疫沈降した。これらの結果と類似して、Lys4メチルH3抗体は、XISTを活性に発現する細胞から(不活性なX染色体を含む細胞から)はXIST DNAを優先的に免疫沈降し、そして活性なX染色体を含む細胞からはPGK1 DNAを優先的に免疫沈降した。従って、アセチル化H3およびLys4メチル化H3の両方は、活性なX染色体および不活性なX染色体の両方において、活性に転写されている遺伝子座で富化される。Lys9メチルH3抗体を使用する免疫沈降は、Lys4メチルH3抗体およびLys4アセチルH3抗体を用いて得られる免疫沈降に対して相反的な結果を示した。この場合、XIST DNAは、活性なX染色体を含む細胞からのみ免疫沈降されたが、PGK1 DNAは、不活性なX染色体からのみ免疫沈降された。
【0114】
まとめて考えると、このクロマチン免疫沈降データは、Lys4またはLys9でメチル化されたH3が、染色体の状況(活性なX 対 不活性なX)とは無関係に、活性な遺伝子および不活性な遺伝子と相反的に関連付けられることを示す。さらに、免疫蛍光での結果と組み合わせると、これらのデータは、H3における2つの異なるメチル化部位がそれぞれ、活性なクロマチンおよび不活性なクロマチンの標識領域であり得ることを示唆している。
【0115】
不活性なX染色体は、遺伝子発現の後成的な調節および転写サイレンシングを伴う特殊化されたヌクレオソーム構造の連結について、十分に研究された範例である。始めに言及したように、不活性なX染色体全体は、過剰アセチル化されたヒストンが大きく欠けているようであり、そしてコアヒストン改変体であるMacroH2Aは、不活性X染色体において富化されていることが見出されている。興味深いことに、上記の修飾単独では、いずれもこの型の後成的な調節と関連する安定性を説明することができない。しかし、ヒストンメチル化が、X不活性化におけるその機能であるより「安定な」後成的クロマチン標識、そして可能性のある細胞性「記憶」マーカーがなおも探索されるべきことに関して、近年記載されている。
【0116】
より最近、ヒストンH3のリジン9におけるメチル化が、ヘテロクロマチンアセンブリに関して重要な修飾であることが規定され、そして本明細書中に示されるように、この修飾はまた、不活性X染色体の任意のヘテロクロマチンにおいて富化されている。対照的に、H3のリジン4におけるメチル化は、不活性X染色体において相補的に欠けていて、このことは、これらの2つの異なる部位におけるH3のメチル化が相反的であり得ること、およびリジン4においてメチル化されたH3分子は、転写的に活性な遺伝子と優先的に関連し、一方、その逆がリジン9においてメチル化されたH3について真であることを示唆する。これらの知見は、ヒストンアミノ末端テイル上の特定の部位における特定の修飾が異なる特徴を与え得、そして異なる細胞性機能を実行し得るという概念を支持する強力な証拠を提供する。
【0117】
クロマチン結合因子を補充するように機能するリジン9においてメチル化されたH3についての優先度を示してきたが、この修飾がX染色体の不活性化にどのように関与し得るかについては、未だ明らかではない。同様に、リジン4においてメチル化されたH3は、転写促進因子を補充するためか、または転写抑制因子の結合をブロックするために機能し得る;しかし、これらの可能性についての直接的な証拠は、いずれもまた欠けている。現在のChIPアッセイは、X連結遺伝子のプロモーターを調べるのみであるが、これらそれぞれ2つの部位においてメチル化されたH3は染色体ドメインを区別するゲノムワイドな標識であるであることが予想される。真核生物ゲノムの活性領域および不活性領域は、対照クロマチン構造(ユークロマチン 対 ヘテロクロマチン)を適用するだけでなく、異なる核内ドメインを占有することもまた示されている。従って、リジン4またはリジン9におけるH3のメチル化は、転写許容環境 対 転写制限環境に関連する染色体領域の空間的な分布を規定し得る。
【0118】
同様に興味をそそることは、メチル化反応を担う酵素の問題である。これまでの研究により、hSuVar3−9がH3 リジン9特異的なヒストンメチルトランスフェラーゼであることが示されているが、SuVar3−9ノックアウト胚由来の線維芽細胞は、不活性X染色体においてメチル化されたリジン9の富化を保持している。
【0119】
(実施例4)
(プラダー−ウィリー刻印づけ中心におけるヒストンH3 Lys9メチル化およびヒストンH3 Lys4メチル化の親特異的相補パターン)
刻印付け遺伝子座位は、父系対立遺伝子と比較して、発生のいくつかの段階または発生の全段階においていくつかの組織または全組織で母系の差次的発現を示す。刻印付け遺伝子座位の母系対立遺伝子と父系対立遺伝子との間の機能的な差異は、これらの座位を含む領域において母系染色体と父系染色体との間の構造的な差異を反映するに相違ない。これらの構造的な差異の確立のための最も簡単なモデルは、染色体ドメインが卵形成および精子形成の間に差次的に標識され、そしてこれらの生殖体刻印付け標識が体細胞における受精後も維持されるということを保持する。しかし、生殖体刻印付け標識が、受精後の差次的な遺伝子発現の原因となる刻印付け標識と同一であることを想定する論理に基づいた理由は存在しない。生殖体標識が体細胞標識と同じでない場合、生殖体標識を読み取り、そしてその情報を用いて体細胞刻印付け標識を強いるための機構が存在するはずである。
【0120】
哺乳動物における刻印付け標識の同一性は、広範囲な推測および実験分析の対象である。興味をそそる候補の刻印付け標識は、CpGジヌクレオチド中の5−メチルシトシンである。多くの刻印付け座位が、刻印付け領域の親起源特異的DNAメチル化を示し、そしてこれらの親特異的DNAメチル化標識のうちのいくつかは、配偶子形成の間に確立され、そして体細胞において維持される。メチル化CpGジヌクレオチドを複製するための機構が存在する:メンテナンスDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)は半分メチル化されたDNA(一方の鎖でのみメチル化されたDNA)を認識し、そして相補鎖上のシトシン残基にメチル基を添加する。刻印付けとしてのシトシンメチル化の支持に頻繁に引用される実験は、DNMT1−/−胚(これは、胚発生の初期に消滅する)が、いくつかの刻印付け座位の二対立遺伝子(biallelic)発現(その正常な一対立遺伝子発現は、不活性対立遺伝子のシトシンメチル化と関連する)を示すことの観察である。
【0121】
豊富なデータが刻印付けとしてのシトシンメチル化と一致するが、さらなる分子刻印付けまたは代替的な分子刻印付けについてのいくつかの証拠の路線が存在する。第1に、マウスMash2、ヒトCDKN1C、およびヒトUBE3Aを含む多数の刻印付け遺伝子は、親特異的DNAメチル化の領域を示していない。第2に、いくつかの遺伝子は、差次的にメチル化される領域の保存を示さない刻印付けの進化的な保存を示し、このことは、差次的なシトシンメチル化が一次刻印付けの二次的な結果であり得ることを示唆する。第3に、Mash2刻印付けは、DNMT1−/−マウス胚において乱されていない。最後に、プラダー−ウィリー症候群(PWS)刻印付け中心(IC)中の刻印付けSNRPN遺伝子のプロモーター領域は、マウスおよびヒトの体組織において差次的なシトシンメチル化を示し、そしてこの領域は、マウス卵母細胞において重度にメチル化されるが、マウス精子においてはメチル化されていない;しかし、E1−Maarriら(Nature Genet.27,341(2001))は最近、この領域が、ヒト卵母細胞において全くメチル化されておらず(ヒト精子も同様)、ゆえに、差次的なシトシンメチル化は受精後に生じるに違いないということを示している。
【0122】
これらのデータは、少なくともいくつかの刻印付け遺伝子およびいくつかの刻印付け領域において、受精後に差次的な遺伝子発現を導く、生殖体から遺伝した母系対立遺伝子と父系対立遺伝子との間の構造的な差異が、シトシンメチル化以外の何かであるに違いないという結論を導く。原則として、この構造的な差異は、シトシンメチル化以外のDNAの遺伝性共有結合的修飾、体細胞分裂を介して生殖体由来の母系染色体または父系染色体のいずれかと安定に結合したままのDNA結合タンパク質、または親特異的様式で遺伝されるDNA結合タンパク質の共有結合的修飾であり得る。
【0123】
ヒストン修飾(特に、アセチル化)は、これまでに、おそらく他の転写因子への接近性を増大させるようにクロマチン構造を変化させることによって、多数の転写調節タンパク質の効果を媒介することが示されている。アセチル化ヒストン(これは、極めて不安定である)と異なり、ヒストンに結合したメチル基は、非常に低レベルの代謝回転を示し、このことが、ヒストンメチル化を刻印付けのような後成的プロセスにおける良好な候補修飾としている。従って、近年Drosophilaおよび分裂酵母中の安定なサイレンス(silenced)クロマチン領域の形成と関連付けられているヒストン修飾(ヒストンH3のLys9でのメチル化)は、ヒストンH3のLys4でのメチル化(これは、テトラヒメナにおける転写活性と相関付けられている)と共に調べられている。
【0124】
ヒト染色体15q11−q13中のプラダー−ウィリー症候群(PWS)/アンジェルマン症候群(AS)領域は、約2Mbの領域内に少なくとも10個の刻印付け遺伝子を含む(Nichollsら、Trends Genet.14、194(1998));これらの遺伝子のうち8個は、父系染色体から排他的に発現され、そしてこれらの遺伝子のうち活性な父系対立遺伝子の欠損は、PWS(これは、乳児低血圧、軽度の発達遅延、および後期発生型の摂食亢進および肥満によって特徴付けられる)を引き起こす。この領域における1つの遺伝子(UBE3A)の活性な母系対立遺伝子の欠損は、AS(これは、いくつかの精神遅滞、言語障害(lack of speech)、発作およびすぐに挑発される笑いによって特徴付けられる)を引き起こす。この領域は、2つの相互排除的な後成的状態(父系状態および母系状態)のいずれかで存在し得る。父系状態の確立は、SNRPNプロモーターをシスで含むPWS刻印付け中心(PWS−IC)と称されるDNAセグメントを必要とし;母系状態の確立は、AS−ICと称されるPWS−ICの動原体の、約30kbのDNAセグメントを必要とする。この領域の後成的状態を確立する際のPWS−ICおよびAS−ICの機能は、知られていない。
【0125】
コントロール(PWS個体(欠失または刻印付けの欠損を介して15q11−q13の父系コピーを欠いている)およびAS個体(15q11−q13の母系コピーを欠いている)の刺激リンパ球から調製したクロマチンを、Lys9でメチル化されたH3またはLys4でメチル化されたH3のいずれかに対して特異的な抗体を用いて免疫沈降した。免疫沈降から収集したDNAを、SNRPNプロモーターを含むPWS−IC中の配列およびこの領域中の他の配列についてPCRによってアッセイした。PWS刻印付け中心(PWSクロマチン中に存在する)の母系コピーを、抗メチルLys9 H3抗体によって免疫沈降し、一方で、(ASクロマチン中に存在する)父系コピー上のこの配列の沈降が劇的に低下した。この結果は、Drosophilaおよび分裂酵母の両方におけるサイレンスヘテロクロマチンの維持がLys9 ヒストンH3メチルトランスフェラーゼの機能を必要とするという観察と十分に相関する。母系特異的H3 Lys9メチル化領域は、SNRPNプロモーターから5’側に0.6kbおよび3’側に0.5kb延びる。逆に、PWS−ICの父系コピーを、抗メチルLys4 H3抗体によって免疫沈降した。この配列は、母系コピーに対して沈降しなかった。この修飾と活性クロマチンの関係についての以前の報告は、これらの知見と一致する。
【0126】
メチルLys9 H3の親特異的差次的結合は、父系で発現されるZNF127、NDN、MAGEL2、IPWならびに組織特異的な母系発現を示すUBE3AおよびATP10Cを含む15q11−q13中の他の刻印付け遺伝子のプロモーターで検出されなかった。メチルLys9 H3はまた、AS−ICと結合しなかった。しかし、メチルLys4 H3が、父系活性遺伝子であるNDNの父系対立遺伝子のプロモーター領域と特異的に結合することが見出された。リンパ球クロマチンにおける親特異的Lys4メチル化は、ZNF127、MAGEL2、IPW、UBE3A、またはATP10Cについて検出されなかった。
【0127】
記載された各修飾(シトシンメチル化、ヒストンH3およびH4のアセチル化、ヒストンH3 Lys4メチル化、およびヒストンH3 Lys9メチル化)は、異なる分布パターンおよび親特異性を示す。SNRPNプロモーターと重複するPWS−ICは、最も広範囲な修飾パターン(母系対立遺伝子上のシトシンメチル化およびH3 Lys9メチル化、ならびに父系対立遺伝子上のヒストンH3およびH4のアセチル化、およびヒストンH3 Lys4メチル化)を示す。父系SNRPNプロモーター領域はまた、母系染色体上に存在しない非常に顕著なヌクレア−ゼ過剰感作性部位の部位である。差次的なシトシンメチル化を示すNDNのプロモーター領域は、差次的なヒストンアセチル化も差次的なH3 Lys9メチル化もいずれも示さない。
【0128】
ヒトPWS刻印付け中心が卵母細胞においてシトシンメチル化を欠くことは明らかである;従って、この修飾は、AS/PWS領域に対する生殖体刻印付けであり得ない。PWS刻印付け中心の親特異的ヒストン修飾(H3アセチル化およびH4アセチル化、ならびにH3 Lys4メチル化)の間でもまた、精子がヒストンを欠くので生殖体刻印付けがなされ得ず、従って、父系生殖体刻印付けはヒストン修飾であり得ない。しかし、メチルLys9 H3は、配偶子形成の間にPWS刻印付け中心においてヒストンに対して強いられ得る潜在的な候補刻印付け標識である。母系ヒストン修飾刻印付けは、ヒストンがクロマチンから取り出され、プロタミンによって置換される場合、精子形成の間にプログラムされた抹消を引き起こす特徴的な特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1Aおよび図1Bは、Methyl(K9)H3抗体(図1A)またはMethyl(K4)H3抗体(図1B)のいずれかを用いて染色した正常雌性細胞株(HH)由来のヒト中期染色体の免疫蛍光検査法のパターンを示す。Methyl(K9)H3抗体またはMethyl(K4)H3抗体の局在は、Cy3結合二次抗体(red)を用いて検出した。一方の優先的に染色される染色体と他方の染色体(大きな矢印で示す)との比較を示す2つの抗体を用いて、各々の免疫蛍光検査法のパターンを得た。図1Bに示されるように、不活性なX染色体の小さな領域のみが、Lys4メチルH3染色について増強される。
【図2】
図2は、体細胞ハイブリッド細胞株のCHIP分析を示す。不活性(X不活性)または活性(X活性)ヒトX染色体を含む体性のハイブリッドCHO細胞由来のクロマチンは、以下の抗体を用いて免疫沈降される:
レーン1=抗体なし(コントロールレーン);レーン2=Methyl(K9)H3;
レーン3=Methyl(K4)H3;レーン4=Lys9/14−アセチル化H3;
レーン5=DNAなし(コントロール);レーン6=ゲノムDNA。
免疫沈降されたDNA中のXistおよびPGK1プロモーターDNA配列の存在は、PCRによってアッセイした。PCR産物を、15%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、デジタルカメラによってイメージ化し、そしてそのイメージを臭化エチジウムで染色したバンドの視覚化を促進するために電子的に反転させた。不活性なX染色体を含む細胞から示されるように、Methyl(K4)H3抗体およびLys9/14アセチルH3抗体は、活性Xist遺伝子を優先的に免疫沈降させる。ところが、Methyl(K9)H3抗体は、不活性PGK1遺伝子を優先的に免疫沈降させる。活性X染色体を含む細胞は、全く逆の免疫沈降パターンが観察された。
【図3】
図3は、単純な生物対複雑な生物との間のH3メチル化の免疫ブロット分析を示す。種々の供給源から単離したヒストン(各々の種からコアヒストンの総計5ug)は、1μgの組換えXenopus H3と一緒に、15%SDS−PAGE上で分離され、PVDF膜支持体に転写され、そしてMethyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体のいずれかを用いてプローブした。レーン1〜5は、組換えXenopus H3、出芽酵母、Tetrahymena、トリおよびヒト細胞株293Tのそれぞれから単離されたヒストンを示す。同一のサンプルを平行して分析し、ヒストンのローディングをモニターするためにクマシー染色によって試験した。
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2001年7月3日出願の米国仮特許出願番号第60/302,747号および2000年8月25日出願の米国仮特許出願番号第60/227,767号(これらの開示は、その全体が参考として本明細書中に援用される)の優先権を主張する。
【0002】
(米国政府の権利)
本発明は、国立衛生研究所により賞与された助成金番号RO1 GM40922およびRO1 GM53512の下で、米国政府の支持により行われた。米国政府は本発明の特定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾により生成されたヒストンエピトープに結合する抗体、このような抗体を含む組成物、および診断手段およびスクリーニング手段としてのこのような組成物の使用に関する。
【0004】
(発明の背景)
真核生物において、DNAは、ヒストンタンパク質と複合体化され、クロマチンの反復サブユニットであるヌクレオソームを形成する。このDNAのパッケージングは、DNAをテンプレートにするプロセス(例えば、転写または複製)のために、タンパク質がDNAへのアクセスを求めることに厳重な制限を課している。ヒストンアミノ末端の翻訳後修飾が、真核生物細胞ゲノムのクロマチン構造の決定および細胞内遺伝子の発現の調節において重要な役割を果たしていることがますます明らかになってきた。
【0005】
ヒストンアミノ末端の翻訳後修飾は、クロマチンの構造および機能の制御において中心的な役割を果たすと長い間考えられてきた。ヒストンの多くの共有結合修飾が証明されており、これには、ヒストンのアミノ末端「テール」ドメインに生じるアセチル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化、およびADPリボシル化が挙げられる。修飾の型におけるこのような多様性およびこれらの修飾を生じる残基の顕著な特異性は、未知のままの複雑な階層の順序(order)および組み合わせの機能を示唆する。ヒストンアミノ末端に生じる公知の共有結合修飾のうちアセチル化は、おそらく最も研究され、そして理解されている。最近の研究は、クロマチンにおける標的プロモーターへのそれらの補充に応答して、ヒストンにおいてそれぞれ特異的にリジン残基をアセチル化または脱アセチル化する、予め特徴付けられたコアクチベーターおよびコサプレッサーを同定している(Berger(1999)Curr.Opin.Genet.Dev.11,336−341を参照のこと)。これらの研究は、クロマチンの再構築が、ヌクレオソームテンプレートからの転写の調節において基本的な役割を果たしている有力な証拠を提供する。
【0006】
高等真核生物の染色体は、ユークロマチンおよびヘテロクロマチン(これらは、基礎をなすDNA配列の凝縮の程度および転写活性のレベルにより識別される)の領域からなると歴史的に考えられてきた。構成的なヘテロクロマチンの特定領域はセントロメアのような特徴的な構造においてかまたはその周囲において見出され、そして遺伝子学的に不活性な反復配列の大部分から構成される。対照的に、同様な初期のDNA配列を有する他の領域は、クロマチンのいずれかの型の特徴を示し得、これは、ヒストンおよびクロマチン関連タンパク質によるDNAのパッケージングのような後成的因子が、それらの遺伝子座でヘテロクロマチン状態を決定することを示唆している。
【0007】
特定の翻訳後修飾を保有するヒストンを特異的に認識する抗体の使用によって、出願人らは、「ヒストンコード」を解明している。特に、ヒストンタンパク質およびその関連する共有結合修飾が、クロマチン構造を変更し得るメカニズムに寄与することの証拠が明らかになっており、それにより、転写的な「オン−オフ」状態における遺伝的な相違、または特定の高次構造を規定することによる染色体の安定な伝搬を導く。
【0008】
ヒストンメチル化は、よく理解されていないヒストンに影響を与える翻訳後修飾の1つである。初期の研究は、H3およびH4が、メチル化よって修飾される主要なヒストンであることを示唆し、そして大量のヒストンを用いる配列決定の研究は、いくつかのリジン(例えば、H3の9および27ならびにH4の20)が、種特異的な相違が存在するようではあるけれども、しばしばメチル化の好ましい部位であることを示唆する。興味深いことに、各々の修飾されたリジンは、モノメチル化、ジメチル化、またはトリメチル化される能力を有し得、この翻訳後の「標識」に対する別のレベルのバリエーションをさらに加える。本発明は、特異的リジンでメチル化されるヒストンH3およびH4に特異的である抗体に関する。より詳細には、本発明の1つの局面は、ヒストンH3のリジン4および9に関する。これら2つのリジン残基は、インビボにおいてメチル化されることが見出され、そしてメチル化された形態はそれぞれユークロマチンおよびヘテロクロマチンに関連する。
【0009】
(定義)
本発明の明細書および請求項において、以下の用語は下に記載される定義に従って使用される。
【0010】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」とは、RNAおよび一本鎖DNAおよび二本鎖DNAならびにcDNAを含む。さらに、用語「核酸」、「DNA]、「RNA]および類似の用語はまた、核酸アナログ(すなわち、リン酸ジエステル骨格以外を有するアナログ)が挙げられる。例えば、いわゆる「ペプチド核酸」(当該分野に公知であり、骨格にリン酸ジエステル結合のかわりにペプチド結合を有する)は、本発明の範囲内と考えられる。
【0011】
用語「ペプチド」は、3以上のアミノ酸配列を有し、ここで、このアミノ酸は天然に存在するアミノ酸または合成(天然には存在しない)アミノ酸である。ペプチド模倣物としては、1つ以上の以下の修飾を有するペプチドが挙げられる:
1.1つ以上のペプチジル(peptidyl)−−C(O)NR−−連結(結合)が以下のような非ペプチジル連結によって置換されているペプチド:−−CH2−カルバメート連結(−−CH2OC(O)NR−−),ホスホネート結合、−CH2−スルホンアミド(−CH2−−S(O)2NR−)連結、尿素(−−NHC(O)NH−−)連結、−−CH2−二級アミン連結、またはアルキル化ペプチジル連結(−−C(O)NR−−)、ここで、RC1〜C4アルキルである;
2.N−末端が以下に誘導されるペプチド:−−NRR1基、−−NRC(O)R基、−−NRC(O)OR基、−−NRS(O)2R基、NHC(O)NHR基、ここで、RおよびR1は、水素であるか、またはCl〜C4アルキルであり、ただし、RおよびRlは両方とも水素ではない;
3.C末端が以下に誘導されるペプチド:−−C(O)R2、ここで、R2は、Cl〜C4アルコキシおよび−−NR3R4からなる群より選択され、ここで、R3およびR4は、独立して、水素およびC1〜C4アルキルからなる群より選択される。
【0012】
ペプチドにおいて天然に存在するアミノ酸残基は、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されるように、以下のように省略される:フェニルアラニンはPheまたはFであり;ロイシンはLeuまたはLであり;イソロイシンはIleまたはIであり;メチオニンはMetまたはMであり;ノルロイシンはNleであり;バリンはVatまたはVであり;セリンはSerまたはSであり;プロリンはProまたはPであり;スレオニンはThrまたはTであり;アラニンはAlaまたはAであり;チロシンはTyrまたはYであり;ヒスチジンはHisまたはHであり;グルタミンはGlnまたはQであり;アスパラギンはAsnまたはNであり;リジンはLysまたはKであり;アスパラギン酸はAspまたはDであり;グルタミン酸はGluまたはEであり;システインはCysまたはCであり;トリプトファンはTrpまたはWであり;アルギニンはArgまたはRであり;グリシンはGlyまたはGであり、そしてXは、任意のアミノ酸である。他の天然に存在するアミノ酸としては、4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリジンといったようなものなどが挙げられる。
【0013】
本明細書中で使用される場合、用語「保存的アミノ酸置換」は、以下の5つの群のうち1つ以内の交換として本明細書中で規定される:
I.小さな脂肪族の非極性またはわずかに極性な残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.負に荷電した極性残基およびそのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III.正に荷電した極性残基:
His、Arg、Lys;
IV.大きな脂肪族の非極性残基:
Met Leu、Ile、Val、Cys
V.大きな脂肪族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0014】
本明細書中で使用される場合、用語「精製された」および類似の用語は、ネイティブかまたは自然環境における分子または化合物に関連する典型的な混入物を実質的に含んでいない形態における分子または化合物の単離をいう。
【0015】
「作動可能に連結(される)」とは、化合物がそれらの通常の機能を実施するために構成されるような並列をいう。例えば、制御配列またはコード配列に作動可能に連結されたプロモーターは、コード配列の発現を行う能力がある。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「相補的(な)」または「相補性」とは、塩基対合則に関連するポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)を参照して使用される。例えば、配列「A−G−T」にとって相補的な配列は、配列「T−C−A」である。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「ハイブリダイゼーション」とは、相補的な核酸の対を参照して使用される。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(すなわち、核酸間の結合の強さ)は、核酸間の相補性の程度、関連するストリンジェンシーの条件、形成されるハイブリッドの長さ、および核酸内でのG:C比率のような要素により影響を受ける。
【0018】
「治療剤」、「薬剤」または「薬物」とは、患者における疾病、苦痛、疾患または傷害の処置(予防、診断、軽減、または治癒を含む)において使用され得る任意の治療剤または予防剤をいう。
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「処置する(こと)」とは、特異的な障害または状態に関連する症状を軽減させること、および/あるいは前記の症状を予防するかまたは取り除くことを含む。例えば、癌の処置としては、癌細胞の増殖および/もしくは分裂を予防するか、または遅らせること、ならびに癌細胞を死滅させることが挙げられる。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的受容可能なキャリア」とは、標準的な薬学的キャリア(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水およびエマルジョン(例えば、油/水または水/油のエマルジョン)、ならびに種々の型の湿潤剤)のいずれかを含む。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「H3リジン4の抗原性フラグメント」とは、ヒストン3のアミノ末端の天然ペプチドフラグメント(配列番号1、配列番号2、および配列番号3のペプチドフラグメントを含む)およびそれらのフラグメントの合成等価物の両方を含む。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」とは、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体あるいはそれらの結合フラグメント(例えば、Fab,F(ab’)2およびFvフラグメント)をいう。
【0023】
本明細書中で使用される場合、Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体の用語「生物学的に活性なフラグメント」とは、それぞれ配列番号4または配列番号5のペプチドに特異的に結合する能力のある、それぞれの全長抗体の、天然部分または合成部分を含む。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「非経口」とは、皮下的投与、静脈内投与または筋内投与を含む。
【0025】
本明細書中で使用される場合、文字K(太文字の書体)
【0026】
【化12】
は、アミノ酸配列に関連して使用される場合、リジンのアミノ酸がメチル化されていることを表している。
【0027】
(本発明の要旨)
本発明は、ヒストンH3ペプチドおよびH4ペプチドのアミノ末端の特異的修飾に結合する抗体に関する。より詳細には、本発明はメチルリジン特異的ヒストン抗体の生成に関する。これらの抗体は、特異的にメチル化され、そしてヒトの生態および疾患に関連し得るヒストンH3およびH4のリジン残基を認識する。これらの抗体を含む組成物は、診断手段およびスクリーニング手段として使用される。
【0028】
(発明の詳細な説明)
ヒストンメチル化は、ヒストンに影響する不十分にしか理解されていない翻訳後修飾である。この修飾は、ヒストンのアミノ末端における選択されたリジン残基において生じる。ヒストンをメチル化する酵素が、遺伝子活性化および抑制の両方に関与していることが、現在明らかになっている。本発明は、メチルリジン特異的ヒストン抗体の産生に関する。これらの抗体は、特異的にメチル化されたヒストンH3およびH4におけるリジン残基を認識し、そしてヒトの生物学および疾患に関連し得る。
【0029】
本発明は、コアヒストンタンパク質H3およびH4の可撓性のN末端テール上で生じる翻訳後修飾に関する。より詳細には、本発明は、メチル化リジン残基に関する。本出願人らは、H3のアミノ末端の最初の15アミノ酸(配列番号7)およびH4のアミノ末端の最初の15アミノ酸(配列番号8)内のリジン残基のメチル化が、転写の調節において重要な役割を果たしていることを発見した。たとえば、ヒストンH3上のリジン4(K4)のメチル化を、クロマチンの転写的に活性な領域に関連付け、一方、ヒストンH3上のリジン9(K9)のメチル化を、遺伝子スプライシングに関連付けた。従って、本発明の1つの局面に従って、ヒストンH3上のリジン4(K4)およびリジン9(K9)のメチル化は、それぞれユークロマチンおよびヘテロクロマチンのマーカーとして役立ち、そしてこれらの修飾されたタンパク質を認識する抗体は、重要な診断ツールとしての用途を有する。
【0030】
本発明の1つの局面は、H3のアミノ末端に特異的な抗体およびH4のアミノ末端に特異的な抗体を産生するために使用される抗原に関する。1つの実施形態において、この抗原は、リジンがメチル化されたH3またはH4のアミノ末端の精製された抗原性フラグメントであり、
【0031】
【化13】
またはそれらの合成等価物からなる群より選択され、ここで、太字のKは、メチル化されたリジン残基を示す。1つの実施形態において、この抗原は、20アミノ酸以下のH3アミノ末端フラグメント、ならびに配列
【0032】
【化14】
およびこれらのアミノ酸配列の誘導体を含み、ここで、このアミノ酸配列は、1つ以上のアミノ酸置換を含む。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、
【0033】
【化15】
またはペプチド配列のいずれかの末端に付加されたネイティブでないさらなるアミノ酸を含むそれらの誘導体である。
【0034】
代替的な実施形態において、精製された抗原は、適切なキャリア(例えば、ウシ血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン)に結合したポリペプチドを含む。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、
【0035】
【化16】
およびこのアミノ酸配列の誘導体からなる群より選択される配列を含むH3ペプチドフラグメント、およびこのペプチドに結合されたキャリアタンパク質からなり、ここで、このアミノ酸配列は、1つ以上の保存されたアミノ酸置換を含む。例えば、この抗原は、配列
【0036】
【化17】
を有するペプチドを含み得、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示し、そして下線を付したGCは、天然のヒストン配列に付加された人工アミノ酸をいう。さらに、この抗原は、必要に応じて、キャリアタンパク質に結合され得る。
【0037】
上記の抗原に加えて、本発明はまた、リジン残基がメチル化されたH3またはH4タンパク質のペプチドフラグメントに特異的に結合する、抗体に関する。好ましくは、この抗体は、H3ヒストンおよびH4ヒストンのアミノ末端の最初の20アミノ酸残基に存在する1つ以上のメチル化されたリジン残基を認識する。より詳細には、本発明は、ペプチド
【0038】
【化18】
に特異的に結合する抗体に関し、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示し、そして下線を引かれたGCは、その抗体の産生を補助するように天然のヒストン配列に付加された人工アミノ酸を示す。1つの実施形態において、この抗体は、
【0039】
【化19】
、および1つ以上の保存的アミノ酸置換によって配列番号4、配列番号5、または配列番号6と異なるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸を含むペプチドに特異的である。1つの好ましい実施形態において、この抗体は、ペプチド
【0040】
【化20】
に特異的に結合する。
【0041】
リジン4がメチル化されたH3ペプチド(すなわち、配列番号4のペプチド)に特異的に結合する抗体は、Methyl(K4)H3と称され、そしてリジン9がメチル化されたH3ペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号6のペプチド)に特異的に結合する抗体は、Methyl(K9)H3と称される。これらの2つの抗体は、交差反応せず、そしてそのメチル化されていないペプチド配列に結合しない。本発明はまた、メチル化されていないヒストンペプチドに結合する抗体を包含する。1つの実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0042】
本発明の抗体および抗体フラグメントは、組成物を形成するようにキャリアまたは希釈剤と組み合わされ得る。1つの実施形態において、このキャリアは、薬学的に受容可能なキャリアである。このようなキャリアおよび希釈剤は、界面活性剤および他の薬学的および生理学的に受容可能なキャリア(アジュバント、賦形剤または安定剤を含む)を添加してかまたは添加せずに、水および油のような滅菌液体を含む。例示的な油は、石油起源、動物起源、植物起源、または合成起源の油(例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、または鉱物油)である。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース、および関連糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールが、特に、注射可能な溶液のために、好ましい液体キャリアである。Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体、またはそれらの生理活性フラグメントと、キャリアまたは希釈剤とを含む組成物は、ユークロマチンに対してヘテロクロマチンを検出する方法と組み合わせて、使用され得る。
【0043】
本発明の抗体を産生するために使用される1つの方法は、配列
【0044】
【化21】
を含む抗原を、その抗原に特異的な抗体の産生を引き起こすために実験動物(代表的には、ウサギ)に投与する工程を包含する。抗体産生を引き起こすための抗原投与の用量およびレジメンならびに抗体の精製のための方法は、当業者に周知である。代表的には、このような抗体は、免疫前血清を獲得するために最初に出血させたニュージーランド白ウサギに目的の抗原を皮下投与することによって惹起され得る。この抗原は、6つの異なる部位において1つの部位当り100μlの総容量で注射され得る。各注射物質は、合成界面活性剤アジュバントプルロニック(pluronic)ポリオールを含むか、またはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のタンパク質またはポリペプチドを含む粉砕したアクリルアミドゲルを含む。
【0045】
次いで、ウサギを最初の注射の2週間後に出血させ、そして6週毎に3回、同じ抗原で定期的にブーストする。次いで、血清サンプルを、各ブーストの10日後に収集する。次いで、ポリクローナル抗体を、その抗体を捕捉する対応する抗原を使用するアフィニティークロマトグラフィーによって血清から回収する。最終的に、ウサギを、ペントバルビタール150mg/KgのIVで安楽死させる。ポリクローナル抗体を惹起するためのこの手順および他の手順は、E.Harlowら編、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)において開示され、これは、本明細書中に参考として援用される。抗体の特異性は、酵素結合免疫吸着アッセイもしくは免疫ブロッティング、または当業者に公知の同様の方法によって決定され得る。
【0046】
本発明はまた、それぞれの抗原
【0047】
【化22】
およびこれらのメチル化されていない対応ペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を包含する。モノクローナル抗体産生は、当業者に周知の技術を使用して行なわれ得る。基本的には、このプロセスは、インビボまたはインビトロのいずれかで目的の抗原で以前に免疫された哺乳動物(例えば、マウス)の脾臓から免疫細胞(リンパ球)を最初に獲得する工程を包含する。次いで、この抗体分泌リンパ球は、骨髄腫細胞または形質転換された細胞(これらの細胞は、細胞培養中に無限に複製し得る)と融合され、それにより、不死の免疫グロブリン分泌細胞株を生成し得る。得られた融合細胞(すなわち、ハイブリドーマ)は、培養され、そして得られたコロニーは、所望のモノクローナル抗体の産生についてスクリーニングされる。このような抗体を産生するコロニーがクローニングされ、そして大量の抗体を産生するためにインビボまたはインビトロのいずれかで増殖される。本発明の1つの実施形態は、本発明のメチル−リジンペプチドを結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株に関する。このような細胞を融合する理論的基礎および実際的な方法論の説明は、KohlerおよびMilstein,Nature,256:495(1975)に示され、これは、本明細書中に参考として援用される。
【0048】
抗体全体に加えて、抗体のフラグメントが、特定の抗原について結合特異性を保持し得る。抗体フラグメントは、タンパク質分解、または組換えDNA技術を使用する合成を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法によって産生され得る。このような実施形態の例は、Fabフラグメントを産生するためのパパインによる抗体の選択的タンパク質分解であるか、またはF(ab’)2フラグメントを産生するためのペプシンによる抗体の選択的タンパク質分解である。これらの抗体フラグメントは、J.Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice、98〜118頁(N.Y.Academic Press 1983)(これは、本明細書中に参考として援用される)において記載されるような、従来の手順によって作製され得る。抗体全体の特異的結合を保持する本発明の抗体の他のフラグメントは、当業者に公知の他の手段によって産生され得る。
【0049】
1つの実施形態において、抗体は標識されている。本発明は、いかなる特定の検出系または標識に限定されることを意図しない。抗体は、蛍光団(fluorophore)、放射性同位体、またはビオチンもしくはジゴキシゲニンのような非同位体標識試薬で標識され得;ビオチンを含む抗体は、蛍光色素のような任意の所望の標識に結合体化されたアビジンのような「検出試薬」を使用して検出され得る。1つの実施形態において、本発明のヒストン特異的抗体は、二次抗体の使用を介して検出され、ここで、この二次抗体は、標識されており、一次(ヒストン特異的)抗体に特異的である。あるいは、ヒストン特異的抗体は、放射性同位体、またはFITCもしくはローダミンのような蛍光色素で直接標識され得;このような場合において、二次検出試薬は、標識されたプローブの検出のために必要ではないかもしれない。
【0050】
本発明の1つの実施形態に従って、H3ヒストンおよびH4ヒストンにおけるメチル化リジン残基の存在を検出するための方法が提供される。この方法は、ヒストンタンパク質を、標識された抗体と接触させる工程を包含し、ここで、この抗体は、リジン4でメチル化されたH3またはリジン9でメチル化されたH3のみに特異的に結合する。
【0051】
1つの実施形態に従って、本発明の抗体は、診断画像化における使用のために標識される。本発明に従う診断画像化に有用な標識の例は、131I、111In、123I、99mTc、32P、125I、3H、14C、および188Rhのような放射性標識、フルオロセインおよびローダミンのような蛍光標識、核磁気共鳴活性標識、電子高密度物質および放射線不透過性物質、ポジトロン放出断層撮影(「PET」)スキャナーによって検出可能なポジトロン放出同位体、ルシフェリンのような化学発光物質(chemilluminescer)、およびペルオキシダーゼまたはホスファターゼのような酵素学的マーカーである。短距離放射線エミッタ(例えば、短距離検出プローブ(例えば、経直腸的プローブ)によって検出可能な同位体)もまた、使用され得る。これらの同位体および経直腸的検出プローブは、組み合わせて使用される場合、前立腺の窩(prostatic fossa)の再発および骨盤結節性疾患(pelvic nodal disease)を検出する際に特に有用である。本発明の抗体は、当該分野で公知の技術を使用してこのような試薬で標識され得る。抗体の放射性標識に関連する技術については、例えば、WenselおよびMeares,Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy,Elsevier,New York(1983)(これは、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。D.Colcherら、「Use of Monoclonal Antibodies as Radiopharmaceuticals for the Localization of Human Carcinoma Xenografts in Athymic Mice」Meth.EnzvmQL,121:802−816(1986)(これは、本明細書中に参考として援用される)もまた参照のこと。1つの好ましい実施形態に従って、その抗体は、当該分野で公知の標準的部分を使用して蛍光団または発色団で標識される。
【0052】
出願人らは、リジン4および9(K4およびK9)におけるヒストンH3のメチル化が、それぞれ、修飾されたヒストンに近接する遺伝子の発現の活性化および不活化に関連することを発見した。ヒストンH3は、K9においてメチル化される場合、ヘテロクロマチンタンパク質HP1について好ましい結合部位であり、次いで、HP1は、K9メチル化を担う酵素Suv39hを補充し得、不活化シグナルが広げられ得る機構を作製する。K9のメチル化はまた、その部位でのアセチル化を妨げ、抑制にさらに寄与する。K9における反応とは対照的に、ヒストンH3 K4におけるメチル化は、転写活性に相関する。従って、本発明の1つの実施形態に従って、K4メチル化ヒストンH3に特異的な抗体は、クロマチンの転写的に活性な領域を検出するために使用され得、そしてK9メチル化ヒストンH3に特異的な抗体は、クロマチンの転写的に不活性領域を検出するために使用され得る。実際、染色体のインサイチュ染色によって、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体によって生成される染色パターンが、互いの鏡像を生成することが明らかにされる。
【0053】
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体は、診断剤および治療剤として、ヒトにおける使用のための可能性を有するので、本発明の1つの実施形態は、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体のヒト化バージョンに関する。抗体のヒト化バージョンは、治療適用のために必要である。なぜなら、非ヒト種由来の抗体は、ヒト免疫系によって外来物質として認識され得、そして中和され得、これらは、あまり有用ではない。ヒト化抗体は、ヒト部分および非ヒト部分を含む免疫グロブリン分子である。より具体的には、ヒト化抗体の抗原結合領域(可変領域)は、非ヒト供給源(例えば、マウス)に由来し、そしてヒト化抗体の定常領域は、ヒト供給源に由来する。ヒト化抗体は、非ヒト抗体分子の抗原結合特異性、およびヒト抗体分子によって付与されるエフェクター機能を有する。代表的には、ヒト化抗体の作製は、組換えDNA技術の使用を含む。
【0054】
本発明の抗体は、細胞からユークロマチンまたはヘテロクロマチンを単離する手段を提供するために、不溶性の支持体に結合され得る。この支持体は、微粒子形態または固体形態で存在し得、そしてこれらには、プレート、試験管、ビーズ、球、フィルターまたは膜が含まれ得るが、これらに限定されない。抗体を不溶性支持体に固定するための方法は、当業者に公知である。1つの実施形態において、本発明の抗体は、アフィニティークロマトグラフィーにおける使用に適した不溶性支持体に固定される。
【0055】
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体は、境界エレメントによっていくらか設定される、大規模またはドメイン感受性クロマチン標識である。詳細には、Lsy4においてメチル化されたH3を含むヒストンに関連するクロマチンは、「オン」ドメイン、または転写活性についてコンピテントである少なくとも1つのドメインを表す。あるいは、Lsy9においてメチル化されたH3を含むヒストンに関連するクロマチンは、「オフ」ドメインを示し、このドメインは、転写活性についてコンピテントではない。このパターンは、多様な範囲の種にわたって保存されている。これらの抗体を用いる動物ブロットにより、「単純な」生物(出芽酵母)およびテトラヒメナ由来のH3ヒストンのほとんどが、メチル化Lys4(オン)を含み、これに対して、著しく対照的には、「複雑な」生物に存在するH3ヒストンのほとんどが、メチル化Lys9(オフ)を有することが示唆される(図3を参照のこと)。このことは、酵母およびテトラヒメナにおけるゲノムDNAのほとんどが、発現される(オン)が、ヒト、マウスなどにおけるDNAのほとんどは、オフであるという知見と一致する。従って、より複雑な真核生物における「デフォルト」または基底状態はオフであることが、十分であり得る。Lys4メチル標識の使用を介するオンクロマチンの同定の仕方を知ることは、より「当りがいい」クロマチンに対する導入遺伝子のより優れた標的化のためのストラテジーを開発する際に貴重であると証明され得る。
【0056】
クロマチン免疫沈降データによって、上の「オン/オフ」標識系モデルが支持される。詳細には、公開されたS.pombeクロマチンIPデータ(Science Nakayamaら、2001)およびヒトにおける不活性X染色体上の作業(実施例2を参照のこと)は、このモデルを支持する。さらに、「不活性」X染色体上にLys4 H3メチル化の「ホットスポット」が存在し、そしていくつかの場合において、腫瘍抑制遺伝子が、この染色体領域にマッピングされている。この遺伝子におけるヘテロ接合性の喪失は、有意な数の進行した場合の卵巣癌と相関する。従って、本発明の抗体は、癌を検出するため、そして治療ストラテジーを決定するための診断剤としてもまた使用され得る。1つの実施形態に従って、疾患状態に関連するクロマチン変更を検出するための方法が提供される。用語「疾患状態」は、先天性欠損を含む生きている動物または植物の正常な状態の機能障害に関連する任意の状態、癌のような病理学的状態、ならびに環境因子および病原体(細菌、ウイルスなど)に対する応答を包含することが意図される。この方法は、正常組織および罹患組織の両方からクロマチンを単離する工程、Methyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体のいずれかと、このクロマチンの2つのプールを接触させる工程、および正常組織から単離されたクロマチンの染色パターンを罹患組織のそれと比較する工程を包含する。さらに、クロマチン免疫沈降を使用して、固有の腫瘍抑制遺伝子は、本発明の抗体を使用するディファレンシャルスクリーニングによって単離され得る。
【0057】
本発明の1つの実施形態に従って、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体を使用して、ヘテロクロマチン領域およびユークロマチン領域を同定し、そしてクロマチンの転写的に活性な領域および不活性な領域を検出する。より詳細には、抗体は、所定の疾患状態に関連するクロマチン構造における変化を検出するために使用され得る。従って、抗体は、発現パターンにおける変更(すなわち、優性なネイティブなパターンに比較した、ヘテロクロマチンパターン対ユークロマチンパターンにおける差異)に関連するクロマチン構造の変更を検出するための診断剤として使用され得る。クロマチンの特定の領域についてのクロマチン構造における変更は、特定の疾患状態の診断因子であり得る。例えば、ヘテロクロマチンへのゲノムのユークロマチン領域の通常の転換は、癌または前癌の状態を示す腫瘍抑制遺伝子の抑制を示し得る。同様に、ユークロマチンへのヘテロクロマチンの領域の転換は、宿主細胞/生物の対して有害な影響を与える遺伝子の不適切な発現または過剰発現と関連し得る。
【0058】
本発明はまた、罹患組織において発現パターンが変更された核酸領域を単離するための広範囲のディファレンシャルスクリーニング技術を使用する方法に関する。例えば、クロマチンは、罹患組織から単離され得、そして罹患状態に関連するクロマチン構造における任意の差異(すなわち、ヘテロクロマチン対ユークロマチンにおける変化)が存在するか否かを決定するために、健全組織から単離されたクロマチンと比較され得る。クロマチン構造におけるこのような差異は、疾患において直接的または間接的な役割を果たす遺伝子の抑制または過剰発現を示し得る。抗メチル(Lys9)H3抗体および抗メチル(Lys4)H3抗体は、クロマチン構造におけるこのような変化を検出し、そして罹患状態に関連する遺伝子を同定するのを助けるために使用され得る。このような遺伝子の同定は、疾患を処置するためのより効果的な治療を設計する際に補助となる。
【0059】
1つの実施形態において、特定の疾患に関連するクロマチン構造における変更を検出するための方法は、修飾特異的ヒストン抗体を使用するクロマチン免疫沈降アッセイを包含する。このプロセスは、クロマチン環境によって管理される広範なDNA鋳型プロセスの分析を可能にする。より詳細には、この方法は、罹患組織および健全組織の両方からクロマチンを単離する工程、DNAをフラグメント化する工程(好ましくは超音波処理によって)、および
【0060】
【化23】
のアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を使用してクロマチンを免疫沈降させる工程(ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示す)、ならびに健全組織から免疫沈降したクロマチン(および関連したDNA配列)を罹患した組織と比較する工程を包含する。この免疫沈降したクロマチンの2つのプールの比較は、罹患した組織と健全組織との間の差異の同定を可能にする。
【0061】
1つの実施形態において、この免疫沈降したクロマチンの2つのプールの比較は、この免疫沈降したクロマチンの2つのプールに関連した核酸配列を単離する工程、および得られた核酸配列の2つのプールを比較する工程を包含する。この核酸配列の2つのプールの比較は、PCR、ゲル電気泳動、核酸配列決定、および核酸ハイブリダイゼーション分析を含む、標準的な分子技術のいずれかを使用して行なわれ得る。次いで、この核酸配列の2つのプールの1つのみに存在するこれらの核酸配列は、回収される。これらの核酸配列は、正常な組織または罹患した組織のいずれかに関連する発現された/抑制された遺伝子を示す。1つの実施形態において、クロマチンを免疫沈降するために使用される抗体は、Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体からなる群より選択される。
【0062】
クロマチン免疫沈降(クロマチンIP)アッセイにおけるメチルLys4/Lys9ヒストンH3抗体の使用は、ヒトゲノム(および同様に他のゲノム)の後成的な「オン/オフ」状態に対応するゲノムDNAを濃縮する1つの方法である。クロマチン免疫沈降されたDNAを、(チップ上での)現在のゲノムマイクロアレイ技術と組み合わせることによって、「ヒストンコード」を介するこれらのオン/オフ状態に関してヒト(または他の)ゲノムの任意の部分を調査する可能性を有する。例えば、Methyl(K4)H3抗体を使用して免疫沈降したDNAは、固体表面または「チップ」に固定され得、そして転写についてコンピテントである所定の細胞の全ての核酸配列を示し得る。同様に、Methyl(K9)H3抗体を使用して免疫沈降したDNAは、固体表面または「チップ」に固定され得、そして転写についてコンピテントでない所定の細胞の全ての核酸配列を示し得る。標的細胞からmRNAを収穫し、そしてcDNAを調製し、標的核酸を標識し、次いで、標的DNAを固定されたDNAとハイブリダイズさせることによって、遺伝子の異常な発現が明らかにされる。
【0063】
この情報を知ることは、種々のヒト癌における重要な腫瘍抑制タンパク質または発癌性タンパク質のオン/オフ状態を決定する際に貴重であると証明され得る。この後成的標識化が、どのようにゲノムDNAに対応するかを知ることはまた、しばしば、ほとんどのトランスジェニックDNAが「悪い」(Lys9)クロマチン環境に侵入しそしてサイレンシングされることが見出される場合に、トランスジェニック動物および植物を作製する能力を誘導する。従って、DNAを、動物および植物のトランスジェニック作業のために「良好な」(Lys4)クロマチン環境により良く「誘導する」方法を知ることについての意味は、高い。ヒトにおいて、このことは、遺伝子治療組織に対しても同様に影響を与える。
【0064】
1つの実施形態において、クロマチンの免疫沈降は、マイクロアレイの使用を介してゲノムの広範なレベルで活性な遺伝子の位置をマッピングするために使用される。例えば、1つの好ましい実施形態において、免疫沈降されたクロマチンの2つのプール(すなわち、罹患組織由来の免疫沈降したクロマチン対健全組織由来の免疫沈降したクロマチン)を比較する方法は、当業者に公知の標準技術を使用する、遺伝子チップ、DNAマイクロアレイ、またはプロテオミクスチップの使用を包含する。例えば、WO01/16860、WO01/16860、WO01/05935、WO00/79326、WO00/73504、WO00/71746およびWO00/53811(これらの開示は、本明細書中に明確に援用される)において記載されるようなシステムのいずれかは、本発明における使用に適している。好ましくは、このチップは、既知の化合物(例えば、既知のDNA配列)の順序付けられたアレイを含み、その結果、チップの特定の位置における免疫沈降したクロマチンの相互作用が、その免疫沈降したクロマチンに関連したDNA配列を同定し、そしてその単離を可能にする。
【0065】
この技術に対して鍵となることは、種々の修飾に対して特異的な抗体を使用することである。なぜなら、それらの抗体は、ヒストンコードに関連するからである。このことをヒトゲノムおよび他のゲノムに適用することが、エピゲノミクスの基盤を据える。本発明は、Lys4/Lys9 methyl H3抗体を各々ON/OFF抗体として使用することを詳述してきたが、この概念は、より一般的には、「ヒストンコード」に関して開発される任意のすべての抗体に適用される。例えば、Lys9 methyl抗体対Ser10 phos H3抗体はまた、分化対増殖を調節する「methyl/phos」スイッチでもあり得る。本発明はまた、H3ヒストンのアミノ末端の他のメチル化領域およびH4ヒストンのアミノ末端の他のメチル化領域(H3のリジン27およびリジン36、ならびにH4のリジン20を含む)に関する抗体も包含する。これらの抗体を生成するために使用されるペプチドが、以下に列挙される:
【0066】
【化24】
ここで、太字のKは、メチル化されたリジン残基であり、そして下線を付したGCは、この抗体の生成を補助するためにH3配列に付加された人工アミノ酸を指す。
【0067】
本発明の抗体は、標準的な分子生物学技術(例えば、ウェスタンブロット分析、免疫蛍光、および免疫沈降)において使用され得る。上記のように、リジン4においてメチル化したH3の存在は、転写的に活性な核に関連する。従って、このH3抗体は、遺伝子調節の理解において有用であり得る。さらに、このMethyl(K4)H3抗体を細胞中にマイクロインジェクションすることにより、特定の遺伝子の活性化が妨害され得ることが、理解される。
【0068】
本発明の1つの実施形態において、ユークロマチンおよびヘテロクロマチンを検出するためのキットが、提供される。このキットは、以下:
【0069】
【化25】
からなる群より選択されるリジンメチル化修飾ペプチドに特異的に結合する抗体を含む。より具体的には、このキットは、以下のペプチド:
【0070】
【化26】
に結合する抗体を含み、ここで、太字のKは、メチル化リジン残基を示す。1つの実施形態において、これらの抗体は、不溶性支持体に付着され、その支持体は、モノリシック固体であるか、または特定の形態であるかのいずれかである。1つの好ましい実施形態において、これらの抗体は、モノクローナル抗体であり、そしてさらなる実施形態において、これらの抗体は、標識されている。この目的のために、本発明の抗体は、種々の容器(例えば、バイアル、チューブ、マイクロタイターウェルプレート、ボトルなど)中にパッケージングされ得る。他の試薬が、別の容器中に含まれ得、そしてこのキットとともに提供され得る。他の試薬は、例えば、陽性コントロールサンプル、陰性コントロールサンプル、緩衝液、細胞培養培地などである。
【0071】
本発明の別の実施形態において、サンプルがメチラーゼ活性を有するか否かを決定するためのアッセイにおける使用のためのキットが、提供される。このキットは、ペプチドと抗体とを含み、そのペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択され、そしてその抗体は、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択されるリジンメチル化修飾ペプチドに特異的に結合する。1つの実施形態において、それらの抗体は、不溶性支持体に付着されており、その支持体は、モノリシック固体であるか、または特定の形態であるかのいずれかである。別の実施形態において、このキットは、非メチル化ペプチドに特異的に結合する抗体をさらに備えており、この非メチル化ペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択される。このような抗体は、陰性コントロールとして役立つ。
【0072】
1つの実施形態において、サンプルのメチラーゼ活性を検出するための方法は、メチラーゼ活性を有すると疑われるサンプルを、所定の長さの時間の間、ペプチドと接触させる工程を包含し、このペプチドは、ARTKQTARGC(配列番号4)、QTARKSTGVCG(配列番号5)、ARTKQTAR(配列番号1)、QTARSTGV(配列番号2)およびARTKQTARKSTGV(配列番号9)からなる群より選択される。その基質に結合するメチル化特異的抗体(すなわち、Methyl(K4)H3またはMethyl(K9)H3)の量は、その基質が所定の時間の間メチル化された程度の直接相関であり、従ってそのサンプルのメチラーゼ活性を示す。このアッセイはまた、メチラーゼの潜在的インヒビターについてスクリーニングするために使用され得る。例えば、1つの実施形態において、アルギニンメチル転移活性のインヒビターについてスクリーニングする方法は、サンプルを提供する工程(そのサンプルは、メチラーゼと、そのメチラーゼによりメチル化される基質と、を含む)、そのサンプルにそのメチラーゼの潜在的インヒビターを添加する工程、およびそのメチル化基質には特異的に結合するが非メチル化基質には特異的には結合しない抗体と、そのサンプルとを接触させる工程、を包含する。1つの実施形態において、その抗体は、以下のペプチド
【0073】
【化27】
に特異的である。そのペプチドに結合した抗体の量を定量することは、そのサンプル中のメチラーゼのレベル活性の直接相関である。1つの好ましい実施形態において、検出されるべきメチラーゼ活性は、SuVar3−9(Lys9について)またはSet1(Lys4について)である。
【0074】
出芽酵母中に存在する非必須遺伝子のすべて(約4,800個)について「ノックアウト」株が入手可能である。本発明の抗体は、非常に高い程度の特異性を有するので、酵母の全細胞溶解物中の主要な1つまたは2つのバンドのみを検出し、それによりこれらのノックアウト株のすべてを観察するためのロボット利用型スクリーニング方法の開発が可能になる。Lys4メチルH3を使用することは、そのオン酵素およびオフ酵素を含む「調節因子」の上流経路全体を導くはずである(ただし、その遺伝子産物が非必須である場合)。
【0075】
「旧式」ブロットにおける上記のアプローチを使用して、Set1が、酵母におけるLys4 H3メチル標識を担う酵素であり、かつまたヒトにおけるLys4 HMTアーゼのうちの1つであることが、見出された。驚くべきことに、酵母全細胞溶解物を探索するため読み出し表示としてこのメチルLys4 H3抗体を使用して、Lys4メチル化が、ヌクレオソームの反対側にある保存リジンにおけるH2Bユビキチン結合によって調節されることが、発見された。これは、「トランス−テール」効果の最初の例であり、この効果は、一方のテールにおける1つのヒストン修飾が、それ程近くない別のテールにおける別の修飾をもたらすことを意味する。ヒトおよびマウスにおいて、ユビキチンをタンパク質に付加する酵素は、ヒトRad6(HR6)であり、そしてHR6は、2つのアイソフォーム(HR6AおよびHR6B)になる。マウスノックアウトHR6B−/−は、既知ではないが精子形成の間にクロマチン欠損をもたらして精子の死をもたらすようである経路において、雄性不稔性である。従って、HR6Bが、H2Bに対するユビキチン付加を担うこと、従って、Lys4 H3メチル抗体が、雄性不妊症についての診断剤であることが可能であることが、理解される。さらに、Lys9メチル化を欠損し、X染色体不活性化に影響し得、かつ雌性不妊症をもたらす、可能性が存在する。従って、本発明の1つの実施形態により、Methyl(K4)H3抗体およびMethl(K9)H3抗体が、雄性不妊症欠損および雌性不妊症欠損についてスクリーニングするための診断剤として使用される。
【0076】
現在のモデルは、Lys9メチル化が、少なくともいくつかの場合、SuVar3−9によって触媒されることを、示唆する。このLys9メチル標識は、クロモドメイン(クロマチンの「ベルクロ」パッチとして作用する、短いタンパク質モジュール)によって読み取られるようである。ヘテロクロマチンタンパク質HP1のクロモドメインが、最もよく示されている。興味深いことに、HP1からのクロモドメインは、Lys9メチルH3ペプチドにはよく結合するが、Lys4ペプチドまたは非修飾ペプチドには、それよりかなり弱くしか結合しない。SuVar3−9自体(触媒性HMTアーゼ)もまたクロモドメイン(メチル化ヒストンペプチドについての部位特異性がいまだ試験されていないモジュール)を有することもまた、興味深い。
【0077】
H3におけるLys4メチル標識は、おそらく、HP1のクロモドメインとは異なるクロモドメインによって読み取られるようである。1つの実施形態において、本発明の独自に修飾されたペプチド(
【0078】
【化28】
を含む)は、Lys4 H3ペプチドに結合するポリペプチドを探索するための親和性試薬として使用される。いくつかの魅力的候補としては、2つのヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)であるEsa1およびCDYが挙げられ、これらは両方とも、クロモドメインを有する。興味深いことに、CDYは、雄性Y染色体上にコードされる、精巣特異的HATであり、そして体性ヒストンは、プロタミンによる置換をもたらす反応の間に、過剰アセチル化されることが周知である。
【0079】
それは、精子形成の間に、以下の一連の協調的反応が生じることであり得る:
1.H2Bユビキチン結合が生じる(HR6Bによって触媒される)
2.クロマチンが開く
3.ヒトSet1または別のLys4 HMTアーゼによって触媒されるLys4メチル化
4.HAT CDYが、そのクロモドメインを介してLys4メチル化標識に結合する
5.ヒストン過剰アセチル化が生じ、CDYにより触媒される
6.体性ヒストンが、その後、変遷タンパク質により置換され、その後プロタミンにより置換される。
【0080】
上記の工程のうちのいずれかにおける欠損は、精子死亡および雄性不妊症をもたらし得る。
【0081】
これらの工程のうちの3つが、以下のクロマチン修飾酵素:
i)HR6B(E2ユビキチン結合酵素)
ii)Set1(能力のあるLys4 HMTアーゼ)
iii)CDY(雄性特異的HAT)
を必要とすることに留意すること。
【0082】
ユビキチン結合H2Bに対する抗体およびユビキチン結合H2Aに対する抗体、Lys4メチルH3に対する抗体およびCDY触媒化アセチル化の部位に対する抗体はすべて、雄性不妊症のスクリーニングにおいて、診断的に有用である可能性がある。
【0083】
(実施例1)
(Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体の調製)
Methyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体を生成するために、リジン4の周囲のヒストンH3のアミノ酸配列(配列番号4;
【0084】
【化29】
またはリジン9の周囲のヒストンH3のアミノ酸配列(配列番号5;
【0085】
【化30】
)に対応する短いポリペプチドをまず化学合成した。ここで、太字のKは、メチル化リジン残基であり、そして下線を付したGCは、この抗体の生成を補助するようにH3配列に付加された人工アミノ酸を示す。その後、このポリペプチドを、カチオン化ウシ血清アルブミン(BSA)に結合し、そしてこの結合ペプチドをウサギに注射した。この手順に対する1つの重要な局面は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にペプチドを結合する標準技術が、高品質のメチルリジン4(H3)特異的抗血清を生成する際には効果がないと示された事実である。従って、この特定のカチオン化BSAの使用は、今や、メチルリジン特異的抗体を生成する際の特異な「方法」とみなされる。
【0086】
ウサギ血清を、免疫後に規則正しい間隔で収集し、そしてMethyl(K4)H3抗体およびMethyl(K9)H3抗体がその血清中に存在することを、標準的酵素結合免疫吸着アッセイによって示した。これらの抗体は、ウェスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、および免疫沈降アッセイにおける使用のために、適切である。
【0087】
(実施例2)
(ヘテロクロマチンアセンブリのエピゲノム制御における、ヒストンH3リジン9メチル化の役割)
高次クロマチン構造のアセンブリを、ヒストンテールの共有結合修飾と関連付けた。インビボでの証拠が、ヒストンH3のリジン9(H3 Lys9)が、融合酵母におけるヘテロクロマチン結合領域にてClr4タンパク質によって優先的にメチル化されることを、示す。Clr4の保存クロモドメインおよびSETドメインの両方が、インビボでのH3 Lys9メチル化に必要である。
【0088】
その高次クロマチン構造の組織化を、ヒストンテールの翻訳後修飾(アセチル化、リン酸化、およびメチル化を含む)と関連付けた。共有結合ヒストン修飾の個別の組み合わせ(「ヒストンコード」ともいう)が、下流のクロマチン修飾タンパク質を動員するための、ヒストンテール上の「標識(mark)」を提供することが、示唆された。このことは、いくつかの転写活性化補助因子の保存ブロモドメインがヒストンテール上のアセチル化リジン残基に特異的に結合することを示す、最近の研究によって最もよく示される。同じヒストンテールまたは異なるヒストンテール内の複数の共有結合修飾の確立および維持を担う機構は、完全には理解されていない。
【0089】
ヒストンテールの修飾もまた、ヘテロクロマチンのアセンブリに関連付けた。ヒストンH3およびヒストンH4は、酵母、ハエ、および哺乳動物ほどに多様な生物におけるヘテロクロマチン性染色体領域において、ほとんど低アセチル化されている。融合酵母において、ヒストンの低アセチル化は、サイレント接合型領域およびセントロメア(高等真核生物におけるヘテロクロマチン領域と多くの類似点を共有する染色体ドメイン)と関連している。内部(imr)反復および外部(otr)反復により囲まれる独特の配列の中心コアを含むセントロメア領域は、サイレントクロマチン構造へとアセンブルされる。同様に、接合型(mat2/3)領域の大きな15kb染色体ドメイン(mat2遺伝子座およびmat3遺伝子座、ならびにそれらの間の区間(K領域として公知)を含む)が、サイレントエピゲノム状態において維持される。これらの領域のサイレント化に影響するトランス作用性因子の中で、Clr3およびClr6が、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)のファミリーに属する。Swi6タンパク質およびClr4タンパク質は、クロモドメイン(HP1タンパク質およびPolycombタンパク質において最初に同定された進化的に保存されたモチーフ)を含む。最近、Clr4およびその哺乳動物対応物SUV39H1の両方が、インビトロで内在性ヒストンH3特異的メチルトランスフェラーゼ(HMTアーゼ)活性を有することが示された(S.Reaら、Nature 406、593(2000))。しかし、ヒストンが、インビボでこれらのメチルトランスフェラーゼの生理学的標的であるか否かは、わからない。
【0090】
以前の知見と一致して、組換えClr4(rClr4)は、ヒストンH3に対して排他的にHMTase活性を有することが見出された。rClr4によってメチル化されたH3の特定の残基を同定するために、H3のNH2末端由来の合成ペプチドを、インビトロHMTaseアッセイにおける基質として使用した。詳細には、5mgのHeLaコアヒストンまたはニワトリコアヒストンを、25mlのHMTase緩衝液[10%グリセロール中、50mM Tris(pH 8.0)、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、0.5mM ジチオトレイトール]中、0.55mCiのS−アデノシル−L−[メチル−3H]メチオニン(3H−AdoMet;72Ci/mmol;1mM pnal)および2mgの組換えClr4野生型タンパク質または変異体タンパク質と共に、30℃にて1時間インキュベートした。SDSローディング緩衝液を各サンプルの半分に添加し、そして煮沸して、その後、15% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)ゲル上で分離した。得られたヒストンのバンドを、クーマシー染色およびフルオログラフィーによって可視化した。ペプチド分析のために、COOH末端システインを含む、ヒトヒストンH3のNH2末端由来の各ペプチド5mgを使用した。半分のサンプルを、Whatman P−81濾紙にスポットし、50mM NaHCO2(pH 9.0)中で10分間、4回洗浄し、その後、液体シンチレーション計数を行った(B.D.Strahl、R.Ohba、R.G.Cook、C.D.Allis、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96、14967(1999))。Clr4は、H3 1−20非修飾ペプチドを優先的にメチル化したが、H3 19−35非修飾ペプチドをメチル化せず、これは、Clr4 HMTaseの標的残基がH3の最初の20アミノ酸に存在することを示す。
【0091】
この標的残基を決定するために、異なるアミノ酸に対して共有結合修飾を含む、合成H3 1−20ペプチドセットを開発した。これらのペプチドを基質として用いた場合、Lys9に対するアセチル修飾またはメチル修飾のみが、rClr4のHMTase活性を効果的にブロックし、これは、Clr4が、その哺乳動物ホモログSUV39H1と同様に、H3のLys9を選択的にメチル化することを示す。さらに、SUV39H1と同様に、rClr4のHMTase活性は、セリン10のリン酸化によって阻害された。これらの結果は、Su(var)3−9タンパク質ファミリーの酵素的特徴が、分裂酵母からヒトへと進化的に保存されていることを実証する。近年の研究は、保存されたSETドメインおよび2つの隣接システインリッチ領域が、インビトロでのSUV39H1のHMTase活性に必要とされることを実証した。これらの保存されたドメイン、クロモ領域、SET領域およびシステインリッチ領域がClr4のHMTase活性にもまた重要であるか否かを決定するために、変異体Clr4タンパク質を、HMTase活性について試験した。クロモドメインにおける変異[Trp31からGly(W31G)およびTrp41からGly(W41G)]は、Clr4のHMTase活性に対してほとんど効果を有さないが、SETドメインにおける変異[Gly328からSer(G378S)]および両方のシステインリッチ領域における変異[Arg320からHis(R320H)およびGly486からAsp(G486D)]は、Clr4のHMTase活性を大いに減少し、これは、これらの3つの領域が、インビトロでのClr4のHMTase活性に重要であることを示す。
【0092】
H3 Lys9メチル化とサイレンシングとの間の仮定の相関性を試験するために、H3 Lys9−メチル特異的抗体を開発した。酵素連結イムノソルベントアッセイにおいて、H3 Lys9−メチル抗体は、広範な抗体希釈度でH3 1−20 Lys9−メチルペプチドを特異的に認識した。さらに、H3 Lys9−メチル抗体は、HeLaコアヒストン陽性コントロールと比較して、組換えヒストンH3(rH3)単独を検出しなかったが、rClr4によって選択的にメチル化されたrH3を検出し、これは、この抗体の特異性をさらに実証する(Nakayamaら(2001)Science、292、110−113頁(この開示は本明細書中に援用される)を参照のこと)。
【0093】
この抗体をクロマチン免疫沈降(ChIP)実験(Nakayamaら(2000)Cell、101、307)において使用して、H3 Lys9−メチル修飾が、サイレンシングされた染色体領域に特異的に局在化されることが発見された。H3 Lys9のメチル化およびSwi6は、サイレンシングされたmat2/3染色体ドメイン内に挿入されたマーカー遺伝子(Kint2::ura4 1)で、その内因性の位置にあるコントロールura4DS/E遺伝子座と比較して、優先的に富化された。同様に、H3 Lys9のメチル化はまた、cen1の非常に抑制された最も内側の反復内(imr1R::ura4 1)および外側の反復内(otr1R::ura4 1)に挿入されたura4 1マーカーで優先的に富化されたが、弱く抑制された中心コア(cnt1::ura4 1)では富化されなかった。さらに、H3 Lys9のメチル化は、これらの領域でSwi6の存在と同時に生じた(Partridgeら(2000)、Genes Dev.、14、783)。これらの知見は、H3 Lys9−メチル修飾およびSwi6がサイレントな染色体領域に優先的に局在されること、および、Swi6の局在がH3 Lys9のメチル化に機能的に依存することを示唆する。
【0094】
野生型細胞におけるKint2::ura4 1およびotr1R::ura4 1の両方での比較的高いレベルのSwi6およびH3 Lys9メチル化と比較して、Swi6およびH3 Lys9メチル化は、clr4D株において両方の遺伝子座に存在しなかった。この結果は、H3 Lys9がClr4 HMTase活性の生理学的標的であること、および、Clr4がmatおよびcen遺伝子座での排他的なインビボH3 Lys9−特異的HMTaseであるようであることを、示唆する。SETドメインのみがClr4 HMTase活性に必要とされることを示すインビトロ結果と比較して、クロモドメインおよびSETドメインの両方が、インビボでのH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化に必要される。まとめると、これらの結果は、クロモドメインが、おそらく、mat2/3領域およびセントロメアへClr4を標的化するために必要とされ、一方、Clr4のSETドメインおよび関連するシステインリッチ領域が、触媒部位を構成することを示す。異なるclr4変異体バックグラウンドにおけるmatおよびcenでのSwi6レベルは、H3 Lys9メチル化のレベルと直接的に相関し、これは、サイレントな染色体ドメインでのSwi6の局在化が、H3 Lys9のメチル化に機能的に依存することをさらに示唆する。
【0095】
インビボ分析の重要性は、インビトロでHMTase活性を減少するClr4におけるいくつかの変異が、インビボでH3 Lys9メチル化およびSwi6の局在化を実質的に減少しないという観察によって、さらに強調された。さらに、Clr4のSETドメインおよびNH2末端システインリッチ領域における変異(G378SおよびR320H)は、mat遺伝子座でのH3 Lys9メチル化およびSwi6の局在化を大いに減少するが;これらの変異は、cen1では中程度またはわずかな効果しか有さない。これらの変異はまた、接合型サイレンシングと比較して、セントロメアサイレンシングに対して弱い効果を有する。これらの結果は、インビトロで組換えモノマータンパク質によって示された酵素的欠損が、インビボでのマルチサブユニットの複合体の状態で機能することによって「レスキュー」され得るという概念と一致する。さらに、mat2/3領域およびセントロメアの機能的構成が異なり得、そしてさらなる因子が、セントロメアでのClr4活性の促進を補助し得る。
【0096】
clr3 HDAC(これは、H3 Lys14を特異的に脱アセチル化する)における変異は、matおよびcenでのサイレンシングに影響する(S.I.S.Grewal、M.J.Bonaduce、A.J.S.Klar、Genetics 150、563(1998))。ChIP分析は、H3 Lys14のHDAC活性において部分的に欠損性のclr3−735変異体が、そのHDAC活性の明らかな減少と同時に、otr1::ura4+でのH3 Lys9メチル化およびSwi6局在化における中程度の減少を示すことを実証した。この結果は、H3 Lys14のアセチル化が、インビボでClr4のHMTase活性を阻害することを示唆する。Clr3とClr4との間の機能的相互作用をさらに調査するために、clr3−735およびclr4R320H変異を含む二重変異体株を作製した。このclr4変異は、otr1R::ura4+でのH3 Lys9メチル化に対する最小の効果を有する。この二重変異体のChIP分析は、H3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化が、その単一の変異体と比較して、ほとんど消失されることを実証した。これらの知見は、Clr3が、Clr4と相乗的に作用し、Swi6をヘテロクロマチンドメインに効果的に局在化させることを示す。言い換えると、Clr3によるH3 Lys14の脱アセチル化は、Clr4によるH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化に、間接的(Clr4活性を変化させることによって)にかまたは直接的にかのいずれかで、あるいはその両方で必要とされる。これらのデータはまた、Lys9に隣接する残基、および潜在的にはそれらの修飾状態が、適切なH3 Lys9−メチル標識の確立に重要な役割を果たすという理論を支持する。以前の研究は、rik1+が、サイレンシングおよびサイレントな遺伝子座でのSwi6の局在化に影響することを示した。コンピューター分析は、Rik1が、WD−40反復タンパク質内に代表的に見出され、かつタンパク質:タンパク質相互作用に関与することが理論付けられているb−プロペラドメインを含むことを明らかにした。rik1における変異は、野生型と比較して、matおよびcenの両方でH3 Lys9のメチル化およびSwi6の局在化を完全に消失させた。
【0097】
WD−40タンパク質は、クロマチン再構成およびヒストン代謝の多くの局面(例えば、クロマチンアセンブリおよびヒストンのアセチル化または脱アセチル化)に関与する。従って、Rik1のb−プロペラドメインは、Clr4と複合体を形成して、そのHMTase活性をヘテロクロマチン領域に動員し得、そして他のトランス作用性因子(例えば、Swi6およびヒストンデアセチラーゼ)の結合において役割を果たし得る。
【0098】
H3 Lys9のClr4依存性メチル化に対する、Swi6の可能な役割もまた試験した。Swi6タンパク質レベルが大いに減少された、swi6−115(W269R)変異を保持する株を使用した。予測されたとおり、matおよびcenの両方でのSwi6局在化は、ChIP分析によって実証されるように、消失された。このswi6−115変異は、野生型株と比較した場合、H3 Lys9のメチル化において検出可能な変化を全く生じなかった。これらのデータは、Swi6が、Clr4機能に不必要であることを示し、そしてSwi6がClr4のH3 Lys9メチル化の下流で作用することを示唆する。まとめると、上記の結果は、H3 NH2−末端テールの共有結合修飾について、サイレンシングされたクロマチン状態の確立を導く事象の時系列を規定する。HDACおよびHMTaseは、協同的に作用して「ヒストンコード」を確立し、次いで、このヒストンコードが、Swi6によって認識される。より詳細には、HDAC(Clr6および/またはHda1)が、H3 Lys9を脱アセチル化し、Clr3が、Clr4/Rik1 HMTase複合体によるH3 Lys9メチル化の前に、H3 Lys14を脱アセチル化する。次いで、H3 Lys9−メチル修飾へのSwi6結合は、ヘテロクロマチンアセンブリの自己増幅を生じる。Swi6のヘテロクロマチン結合ドメインは、そのクロモドメインにマッピングされたので、このタンパク質モチーフは、H3 Lys9−メチル修飾を認識するよう進化したという可能性が最も高い。
【0099】
Swi6が、細胞周期を通してmat2/3領域に会合されたままであり、その領域でSwi6が、後成性の細胞記憶の重要な決定基として作用し、このことが、サイレンシングされた状態の遺伝を促進することが、最近示された。Swi6のマウスホモログであるM31は、Su(var)3−9に会合するので、Clr4とSwi6との間の類似の相互作用が予測される。Clr4のHMTase酵素活性の密接な関係、その後の、そのクロモドメインを介するH3におけるLys9メチル「標識」へのSwi6の動員および結合は、後成的遺伝の経路を示唆する。Clr4のクロモドメインがH3 Lys9−メチル標識を認識する程度は未知であるが、その標識は、Clr4がその後のメチル化事象を行う場合の、クロマチンに結合する手段をその酵素に提供する。高等真核生物におけるClr4/SUV39H1タンパク質およびSwi6/HP1タンパク質の保存およびH3 Lys9−メチル修飾の存在に基づいて、類似の機構が、分裂酵母からヒトにわたる生物における高次のクロマチンアセンブリを担い得る。ハエおよび哺乳動物におけるPolycomb群のタンパク質による転写抑制と分裂酵母におけるサイレンシングとの間の類似点を考慮すると、ヒストンの脱アセチル化と組み合わせたヒストンのメチル化が、ホメオ遺伝子発現の調節を導く経路においてPolycombを局在化するのを補助し得るという可能性がある。
【0100】
(実施例3)
(ヒストンH3のメチル化の差示的部位は、ヒトX染色体上の活性な遺伝子および不活性な遺伝子を標識する)
高等真核生物における染色体は、ユークロマチンおよびヘテロクロマチンの領域からなると歴史的に考えられており、これらは、凝縮の程度およびその根底にあるDNA配列の転写活性のレベルによって区別される。構成ヘテロクロマチンの特定の領域は、セントロメアのような特殊化された構造またはその付近に見出され、そしてほとんど、遺伝的に不活性な反復配列からなる。対照的に、同じ一次DNA配列を有する他の領域は、いずれかの型のクロマチンの特徴を示し得、これは、後成的な要因(例えば、ヒストンおよびクロマチン関連タンパク質によるDNAのパッケージング)が、これらの遺伝子座でのヘテロクロマチン状態を指示することを示唆する。
【0101】
後成的サイレンシングの最も劇的な例の1つは、哺乳動物の雌性細胞に見られるX染色体不活性化である。このプロセスは、X連鎖遺伝子の遺伝子量補償を可能にし、それによって、雌性細胞におけるX染色体の2つのコピーの一方が、胚発生中にランダムに不活性化される。現在の証拠は、X不活性化が、非コードXIST転写物の上方調節および不活性化されるべき染色体とのそのシスでの会合によって開始されることを示唆する。XIST RNAによるそのコーティング後、不活性なX染色体は、遅い複製時点、間期細胞における凝縮された外見(バークロマチン体)、ハウスキーピング遺伝子のCpG島のDNAメチル化、および低アセチル化ヒストンから構成されそしてH2A改変体MacroH2Aについて富化されている修飾されたヌクレオソームとの会合のような、ヘテロクロマチン特徴を獲得する。X不活性化の発生におけるこれらの特性の正確な役割は、依然明らかではないが、一旦、不活性な状態が確立されると、これらの後成的特徴は、相乗的に作用して、成体ソーマにおいて多くの細胞分裂を介して不活性Xの顕著な安定性を維持するようである。
【0102】
近年、いくつかの刊行物により、ヒストンH3のメチル化が、マウスおよびS.pombeにおけるヘテロクロマチンのアセンブリに重要であることが示された(Lachnerら,Nature 410,116(2001);Bannisterら,Nature 410,120(2001)およびNakayamaら,Science 292,110(2001))。マウスHP1(およびS.pombeにおけるSwi6)のクロモドメイン(chromodomain)は、リジン9でメチル化されたH3に結合し得、そしてこの部位でのH3のメチル化は、ヘテロクロマチンのアセンブリに関与する因子を選び出して補充すると考えられる。さらに、リジン9でのH3のアセチル化およびメチル化は、インビボにおいて、競合事象であり得る(Cheungら,Cell 103,263(2000))。H3が不活性なX染色体上では低アセチル化状態にあり、そしてH3のリジン9でのメチル化がヘテロクロマチンのアセンブリに重要であると仮定して、Lys9メチル化H3の富化について不活性なXを調べた。
【0103】
Lys9メチル化H3に特異的な抗体を使用して、間接免疫蛍光法により、正常なリンパ芽球細胞株(HH)からの雌性ヒト中期染色体を試験した。特に、正常なヒト雌性リンパ芽球細胞株(HH)および5つのX染色体を含む雌性リンパ芽球細胞株(6061B)を増殖させ、収集し、そしてCytospinでの3回の遠心分離で顕微鏡スライド上に集めた。修飾されたヒストンを、本質的に他で詳細に記載された(CostanziおよびJ.R.Pehrson,Nature 393,599(1998))ようにして、間接免疫蛍光法により検出した。簡潔には、細胞を、Lys9メチルH3またはアセチルH4の一次抗血清の段階希釈物と共に、加湿チャンバー内において37℃で1時間インキュベートし、そしてKCM(120mM KCl,20mM NaCl,10mM TRIS−CL(pH8.0),0.5M EDTA,0.1% Triton)中において洗浄した。次いで、この細胞を、Cy3と結合体化されアフィニティー精製されたロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)(KCM中において1:40に希釈)と共に、室温にて30分間インキュベートした。細胞を、再度KCMで洗浄し、そして室温にて10分間にわたり4%ホルムアルデヒド中で固定した。滅菌水中で洗浄した後、染色体を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で対比染色し、抗退色剤(antifade)(Vectashield)中にマウントし、そしてZeiss Axiophot蛍光顕微鏡で観察した。
【0104】
Lys9メチル化H3に特異的な抗体を使用する間接免疫蛍光法によって、大半の染色体はLys9メチル化H3のいくつかの領域を有するが、各中期スプレッド(spread)における1つの染色体は一貫して、より強くかつ均一に染色されることが明らかにされた(図1A、白色矢印)。Lys9メチル化H3を富化した染色体が、不活性なX染色体であるか否かを調べるために、5つのX染色体を含む細胞株由来の中期スプレッドもまた染色した。これらの細胞において、5つのX染色体のうちの4つは、不活性であることが既知である。そして実際、同じサイズの4つの染色体は、Lys9メチルH3抗体による濃厚な染色を示す。まとめると、これらのデータにより、不活性なXにおけるH3分子は大部分が低アセチル化状態であるが、そのH3分子はリジン9で高度にメチル化されていることが示唆される。
【0105】
ヒストンH3のN末端は、複数の部位で翻訳後修飾される。そしてH3のリジン4は、証明された別のメチル化部位である。しかし、リジン9とは対照的に、リジン4のメチル化は、活性な転写と相関した。不活性なX染色体におけるこれらの2つのH3メチル化部位をさらに比較するため、Lys4メチル化H3に特異的な抗体を用いて、中期染色体を染色した。雌性細胞株HHおよび6061B由来の中期染色体を、Lys4メチルH3抗血清と共にインキュベートし、そしてその染色パターンを、先に記載した間接免疫蛍光法によって分析した。顕著なことに、この抗体は、1スプレッドあたり一つの染色体を除いて、中期スプレッドのすべての染色体を強度に染色する(図1B)。この独特の染色体は、H3リジン4メチル化のいくつかの「ホットスポット」を除いて、ほぼ全く染色されない。5X細胞株の中期スプレッドの染色は、これらの染色体のうちの4つが、Lys4メチルH3抗体を使用すると過少染色(understain)であること示す。このことは、低H3 Lys4メチル化染色体が、不活性なX染色体であることを示唆している。
【0106】
不活性なX染色体に関するより精密な試験によって、Lys4メチルH3抗体で強い染色を示す、この染色体のいくつかの異なる領域が存在することが示されている。1つの領域は、p腕の遠位末端の偽常染色体領域に位置付けられるようであり、別の領域は、q腕のXq25−26付近に位置付けられる。そして、かすかな染色が、Xp11周辺で時折観察される。Xq25−26を除いて、不活性なXにおけるLys4メチルH3染色の他の領域は、不活性化を回避することが公知の複数の遺伝子の位置に対応する(Carrelら,Proc Natl Acad Sci USA 96,14440(1999))。従って、これらのデータは、H3のLys4メチル化が、活性な遺伝子発現と関連付けられるという考えと一致する。
【0107】
Lys4メチルH3抗体によるXq25−26領域の強い染色は、当惑させる。なぜなら、この領域は、Xの不活性化を回避するいかなる既知の遺伝子をも含まないからである。しかし、Xq25−26.1でのヘテロ接合性の損失は、進行したヒト卵巣癌腫と関連付けられるということは興味深い(Choiら,Genes Chromosomes Cancer 20,234(1997)を参照のこと)。不活性なX染色体上のこの領域でのLys4メチル化H3の富化に関するさらなる研究、およびH3のLys4/Lys9のメチル化が、この位置での推定癌抑制遺伝子の発現レベルと相関するか否かを決定することによって、ヒストンH3のメチル化と遺伝子発現との間の関係に関するさらなる情報が提供される。
【0108】
Lys4メチルH3抗体による不活性なX染色体の過少染色は、H4の過剰アセチル化形態に対する抗体でのこの染色体の染色パターンと類似するが、同一ではない。この研究において、不活性なX染色体のp腕のテロメア領域におけるいくらかの染色が、過剰アセチル化H4に対する抗体を用いて観察されたが、Xp11およびXq25−26の領域では観察されなかった。対照的に、以前に公表された結果は、不活性なX染色体上の3つの領域(Xpter−22.2、Xp11.3−11.2およびXq22)が、過剰アセチル化H4に対する抗体で染色されたこと、しかしこれが、酪酸ナトリウムで処理されたヒト細胞中においてのみ観察されたことを示した。現在、過剰アセチル化H4の抗体によって染色される領域と、Lys4メチルH3の抗体によって染色される領域との間の正確な関係は明確に規定されていない。にもかかわらず、これらのデータは、不活性なX染色体が、過剰アセチル化コアヒストンおよびLys4メチル化H3を欠くが、Lys9でメチル化されたH3を富化していることを示唆する。まとめると、ヒストン修飾のこれらの組み合わせは、不活性なXの転写的なサイレンシングを媒介する一連の協調的反応の一部であり得る。
【0109】
H3 Lys9メチル化と不活性なX染色体との間の関係をさらに確立するために、免疫蛍光法と蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)との組み合わせによって、ヒト雌性IMR90間期細胞を試験した。特に、IMR90(ATCC)細胞を、カバーガラス上で24〜48時間増殖させ、次いで、4%ホルムアルデヒド中において15分間室温で固定した;次いで、この細胞を、0.5%Triton−Xを含むPBS中において4分間氷上で透過化し、PBS中で洗浄し、次いで、2×SSC中で洗浄し、次いで、RNA FISHを行った。核の構造を保存するために、細胞を持続的に水和し続けた。RNA FISHハイブリダイゼーションおよび洗浄を、本質的に他で記載された(Lachnerら,Nature 410,116(2001))ようにして実施した。簡潔には、細胞を、合計4.5kbの配列にわたる4つのエキソン由来DNAフラグメントのプールを含むXISTプローブでハイブリダイズし、Spectrum RedまたはGreen dUTP(Vysis,Downer Grove,IL)でのニックトランスレーションにより標識した。37℃での一晩のハイブリダイゼーション後、RNA FISHについての標準的な洗浄(すなわち、50%ホルムアミド/2×SSC中で3回、および2×SSC中で3回)を実施した。次いで、細胞を、PBS/0.5%BSA中で洗浄し、次いで、免疫蛍光法を実施した。一次抗体を室温で1時間インキュベートし、細胞をPBS中において4回洗浄し、次いで、二次抗体(Texas red結合体化ヤギ抗ウサギ抗体)を室温で1時間適用し、次いで、PBS中で4回洗浄した。核を、DAPIで対比染色した。画像を、Orca 2 CCDカメラ(Hamamatsu)とImprovisionソフトウェア(IPLab)とを備えたZeiss Axioplan 2蛍光顕微鏡を使用して得た。
【0110】
XIST転写物が、中期ではなく間期の不活性なX染色体に特異的に位置付けられること、およびXist転写物の位置は、FISH分析によって検出され得ることは、十分に確証されている。Lys9メチルH3抗体は、DAPI濃密領域との共存によって示されるようなヘテロクロマチン濃密領域を優先的に染色する。この濃縮された領域はまた、XIST RNAシグナルと共存する。このことは、Lys9メチル化H3を富化した染色体が、実際に、不活性なXであることを示す。中期染色体の結果と一致して、Lys4メチルH3抗体でのヒト間期細胞の染色は、不活性なXに対応する領域(DAPI濃密染色およびXist RNAの位置に基づく)が、Lys4メチルH3の染色を欠くことを示している。興味深いことに、Lys4メチルH3を富化した異なるドットが、いくつかの細胞について、ネガティブ染色領域内で観察される。Lys4メチルH3染色のこの位置付けられた領域が、中期染色体で観察される強く染色される領域に対応するのか否かは、現在知られていない。間期細胞および中期細胞におけるLys9メチルH3染色およびLys4メチルH3染色を並べた比較によって、さらに、これらの2つの抗体のそれぞれの染色パターンが、ほぼ相反的な画像であることが示された。これらの結果は、H3のリジン4およびリジン9でのメチル化が、それぞれ、転写的に活性な領域および不活性な領域についての「相反マーカー」であり、従って、不活性なX染色体は、リジン4では低アセチル化状態であるが、リジン9では過剰メチル化状態であるという結論へと導いた。
【0111】
生ずる1つの予測は、Lys4メチルH3抗体およびLys9メチルH3抗体が、それぞれ、クロマチン免疫沈降(ChIP)によって、X染色体上の活性なFF43遺伝子および不活性な遺伝子について富化するということである。不活性なX染色体において、XIST遺伝子は転写的に活性であるが、PGK1遺伝子はサイレントである。逆に、活性なX染色体において、XIST遺伝子はサイレントであるが、PGK1遺伝子は活性に転写される。上記の仮説を調べるために、ChIPアッセイにおいて、単一の活性なヒトX染色体または不活性なヒトX染色体のいずれかを含む2つのCHO体細胞ハイブリッド細胞株を使用して、活性なX染色体または不活性なX染色体上に存在する遺伝子と関連付けられるヒストン修飾を試験した。これらの2つの細胞株由来のクロマチンを、Lys9メチル化H3、Lys4メチル化H3またはLys9/14アセチル化H3に対する抗体を用いて免疫沈降した。そして免疫沈降したDNAを、ヒトXist遺伝子およびPGK1遺伝子のプロモーター領域に対して特異的なプライマーを使用してPCR増幅した。
【0112】
特に、クロマチン免疫沈降アッセイを、Cheungら,Mol Cell 5,905(2000)に記載されるように実施した。この場合、ホルムアルデヒドで固定されたクロマチンを、活性なヒトX染色体または不活性なヒトX染色体のいずれかを含むCHO体細胞ハイブリッドから収集した。明細書に示される抗体を用いた免疫沈降反応1回あたり、約3×106細胞に値する超音波処理クロマチンを使用した。広範な洗浄、逆架橋化(reverse cross−linking)、RNaseAおよびプロテインキナーゼKでの消化の後に、免疫沈降されたDNAを、ヒトXIST遺伝子およびPGK1遺伝子のプロモーター領域に特異的なプライマー(プライマー配列およびPCR条件は、GilbertおよびP.A.Sharp,Proc Natl Acad Sci USA 96,13825(1999)に由来した)を使用するPCRによって分析し、そしてポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。
【0113】
以前に公表された報告と一致して、アセチル化H3抗体は、不活性なX染色体からはXIST DNAのみを免疫沈降し、そして活性な染色体からはPGK1 DNAのみを免疫沈降した。これらの結果と類似して、Lys4メチルH3抗体は、XISTを活性に発現する細胞から(不活性なX染色体を含む細胞から)はXIST DNAを優先的に免疫沈降し、そして活性なX染色体を含む細胞からはPGK1 DNAを優先的に免疫沈降した。従って、アセチル化H3およびLys4メチル化H3の両方は、活性なX染色体および不活性なX染色体の両方において、活性に転写されている遺伝子座で富化される。Lys9メチルH3抗体を使用する免疫沈降は、Lys4メチルH3抗体およびLys4アセチルH3抗体を用いて得られる免疫沈降に対して相反的な結果を示した。この場合、XIST DNAは、活性なX染色体を含む細胞からのみ免疫沈降されたが、PGK1 DNAは、不活性なX染色体からのみ免疫沈降された。
【0114】
まとめて考えると、このクロマチン免疫沈降データは、Lys4またはLys9でメチル化されたH3が、染色体の状況(活性なX 対 不活性なX)とは無関係に、活性な遺伝子および不活性な遺伝子と相反的に関連付けられることを示す。さらに、免疫蛍光での結果と組み合わせると、これらのデータは、H3における2つの異なるメチル化部位がそれぞれ、活性なクロマチンおよび不活性なクロマチンの標識領域であり得ることを示唆している。
【0115】
不活性なX染色体は、遺伝子発現の後成的な調節および転写サイレンシングを伴う特殊化されたヌクレオソーム構造の連結について、十分に研究された範例である。始めに言及したように、不活性なX染色体全体は、過剰アセチル化されたヒストンが大きく欠けているようであり、そしてコアヒストン改変体であるMacroH2Aは、不活性X染色体において富化されていることが見出されている。興味深いことに、上記の修飾単独では、いずれもこの型の後成的な調節と関連する安定性を説明することができない。しかし、ヒストンメチル化が、X不活性化におけるその機能であるより「安定な」後成的クロマチン標識、そして可能性のある細胞性「記憶」マーカーがなおも探索されるべきことに関して、近年記載されている。
【0116】
より最近、ヒストンH3のリジン9におけるメチル化が、ヘテロクロマチンアセンブリに関して重要な修飾であることが規定され、そして本明細書中に示されるように、この修飾はまた、不活性X染色体の任意のヘテロクロマチンにおいて富化されている。対照的に、H3のリジン4におけるメチル化は、不活性X染色体において相補的に欠けていて、このことは、これらの2つの異なる部位におけるH3のメチル化が相反的であり得ること、およびリジン4においてメチル化されたH3分子は、転写的に活性な遺伝子と優先的に関連し、一方、その逆がリジン9においてメチル化されたH3について真であることを示唆する。これらの知見は、ヒストンアミノ末端テイル上の特定の部位における特定の修飾が異なる特徴を与え得、そして異なる細胞性機能を実行し得るという概念を支持する強力な証拠を提供する。
【0117】
クロマチン結合因子を補充するように機能するリジン9においてメチル化されたH3についての優先度を示してきたが、この修飾がX染色体の不活性化にどのように関与し得るかについては、未だ明らかではない。同様に、リジン4においてメチル化されたH3は、転写促進因子を補充するためか、または転写抑制因子の結合をブロックするために機能し得る;しかし、これらの可能性についての直接的な証拠は、いずれもまた欠けている。現在のChIPアッセイは、X連結遺伝子のプロモーターを調べるのみであるが、これらそれぞれ2つの部位においてメチル化されたH3は染色体ドメインを区別するゲノムワイドな標識であるであることが予想される。真核生物ゲノムの活性領域および不活性領域は、対照クロマチン構造(ユークロマチン 対 ヘテロクロマチン)を適用するだけでなく、異なる核内ドメインを占有することもまた示されている。従って、リジン4またはリジン9におけるH3のメチル化は、転写許容環境 対 転写制限環境に関連する染色体領域の空間的な分布を規定し得る。
【0118】
同様に興味をそそることは、メチル化反応を担う酵素の問題である。これまでの研究により、hSuVar3−9がH3 リジン9特異的なヒストンメチルトランスフェラーゼであることが示されているが、SuVar3−9ノックアウト胚由来の線維芽細胞は、不活性X染色体においてメチル化されたリジン9の富化を保持している。
【0119】
(実施例4)
(プラダー−ウィリー刻印づけ中心におけるヒストンH3 Lys9メチル化およびヒストンH3 Lys4メチル化の親特異的相補パターン)
刻印付け遺伝子座位は、父系対立遺伝子と比較して、発生のいくつかの段階または発生の全段階においていくつかの組織または全組織で母系の差次的発現を示す。刻印付け遺伝子座位の母系対立遺伝子と父系対立遺伝子との間の機能的な差異は、これらの座位を含む領域において母系染色体と父系染色体との間の構造的な差異を反映するに相違ない。これらの構造的な差異の確立のための最も簡単なモデルは、染色体ドメインが卵形成および精子形成の間に差次的に標識され、そしてこれらの生殖体刻印付け標識が体細胞における受精後も維持されるということを保持する。しかし、生殖体刻印付け標識が、受精後の差次的な遺伝子発現の原因となる刻印付け標識と同一であることを想定する論理に基づいた理由は存在しない。生殖体標識が体細胞標識と同じでない場合、生殖体標識を読み取り、そしてその情報を用いて体細胞刻印付け標識を強いるための機構が存在するはずである。
【0120】
哺乳動物における刻印付け標識の同一性は、広範囲な推測および実験分析の対象である。興味をそそる候補の刻印付け標識は、CpGジヌクレオチド中の5−メチルシトシンである。多くの刻印付け座位が、刻印付け領域の親起源特異的DNAメチル化を示し、そしてこれらの親特異的DNAメチル化標識のうちのいくつかは、配偶子形成の間に確立され、そして体細胞において維持される。メチル化CpGジヌクレオチドを複製するための機構が存在する:メンテナンスDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)は半分メチル化されたDNA(一方の鎖でのみメチル化されたDNA)を認識し、そして相補鎖上のシトシン残基にメチル基を添加する。刻印付けとしてのシトシンメチル化の支持に頻繁に引用される実験は、DNMT1−/−胚(これは、胚発生の初期に消滅する)が、いくつかの刻印付け座位の二対立遺伝子(biallelic)発現(その正常な一対立遺伝子発現は、不活性対立遺伝子のシトシンメチル化と関連する)を示すことの観察である。
【0121】
豊富なデータが刻印付けとしてのシトシンメチル化と一致するが、さらなる分子刻印付けまたは代替的な分子刻印付けについてのいくつかの証拠の路線が存在する。第1に、マウスMash2、ヒトCDKN1C、およびヒトUBE3Aを含む多数の刻印付け遺伝子は、親特異的DNAメチル化の領域を示していない。第2に、いくつかの遺伝子は、差次的にメチル化される領域の保存を示さない刻印付けの進化的な保存を示し、このことは、差次的なシトシンメチル化が一次刻印付けの二次的な結果であり得ることを示唆する。第3に、Mash2刻印付けは、DNMT1−/−マウス胚において乱されていない。最後に、プラダー−ウィリー症候群(PWS)刻印付け中心(IC)中の刻印付けSNRPN遺伝子のプロモーター領域は、マウスおよびヒトの体組織において差次的なシトシンメチル化を示し、そしてこの領域は、マウス卵母細胞において重度にメチル化されるが、マウス精子においてはメチル化されていない;しかし、E1−Maarriら(Nature Genet.27,341(2001))は最近、この領域が、ヒト卵母細胞において全くメチル化されておらず(ヒト精子も同様)、ゆえに、差次的なシトシンメチル化は受精後に生じるに違いないということを示している。
【0122】
これらのデータは、少なくともいくつかの刻印付け遺伝子およびいくつかの刻印付け領域において、受精後に差次的な遺伝子発現を導く、生殖体から遺伝した母系対立遺伝子と父系対立遺伝子との間の構造的な差異が、シトシンメチル化以外の何かであるに違いないという結論を導く。原則として、この構造的な差異は、シトシンメチル化以外のDNAの遺伝性共有結合的修飾、体細胞分裂を介して生殖体由来の母系染色体または父系染色体のいずれかと安定に結合したままのDNA結合タンパク質、または親特異的様式で遺伝されるDNA結合タンパク質の共有結合的修飾であり得る。
【0123】
ヒストン修飾(特に、アセチル化)は、これまでに、おそらく他の転写因子への接近性を増大させるようにクロマチン構造を変化させることによって、多数の転写調節タンパク質の効果を媒介することが示されている。アセチル化ヒストン(これは、極めて不安定である)と異なり、ヒストンに結合したメチル基は、非常に低レベルの代謝回転を示し、このことが、ヒストンメチル化を刻印付けのような後成的プロセスにおける良好な候補修飾としている。従って、近年Drosophilaおよび分裂酵母中の安定なサイレンス(silenced)クロマチン領域の形成と関連付けられているヒストン修飾(ヒストンH3のLys9でのメチル化)は、ヒストンH3のLys4でのメチル化(これは、テトラヒメナにおける転写活性と相関付けられている)と共に調べられている。
【0124】
ヒト染色体15q11−q13中のプラダー−ウィリー症候群(PWS)/アンジェルマン症候群(AS)領域は、約2Mbの領域内に少なくとも10個の刻印付け遺伝子を含む(Nichollsら、Trends Genet.14、194(1998));これらの遺伝子のうち8個は、父系染色体から排他的に発現され、そしてこれらの遺伝子のうち活性な父系対立遺伝子の欠損は、PWS(これは、乳児低血圧、軽度の発達遅延、および後期発生型の摂食亢進および肥満によって特徴付けられる)を引き起こす。この領域における1つの遺伝子(UBE3A)の活性な母系対立遺伝子の欠損は、AS(これは、いくつかの精神遅滞、言語障害(lack of speech)、発作およびすぐに挑発される笑いによって特徴付けられる)を引き起こす。この領域は、2つの相互排除的な後成的状態(父系状態および母系状態)のいずれかで存在し得る。父系状態の確立は、SNRPNプロモーターをシスで含むPWS刻印付け中心(PWS−IC)と称されるDNAセグメントを必要とし;母系状態の確立は、AS−ICと称されるPWS−ICの動原体の、約30kbのDNAセグメントを必要とする。この領域の後成的状態を確立する際のPWS−ICおよびAS−ICの機能は、知られていない。
【0125】
コントロール(PWS個体(欠失または刻印付けの欠損を介して15q11−q13の父系コピーを欠いている)およびAS個体(15q11−q13の母系コピーを欠いている)の刺激リンパ球から調製したクロマチンを、Lys9でメチル化されたH3またはLys4でメチル化されたH3のいずれかに対して特異的な抗体を用いて免疫沈降した。免疫沈降から収集したDNAを、SNRPNプロモーターを含むPWS−IC中の配列およびこの領域中の他の配列についてPCRによってアッセイした。PWS刻印付け中心(PWSクロマチン中に存在する)の母系コピーを、抗メチルLys9 H3抗体によって免疫沈降し、一方で、(ASクロマチン中に存在する)父系コピー上のこの配列の沈降が劇的に低下した。この結果は、Drosophilaおよび分裂酵母の両方におけるサイレンスヘテロクロマチンの維持がLys9 ヒストンH3メチルトランスフェラーゼの機能を必要とするという観察と十分に相関する。母系特異的H3 Lys9メチル化領域は、SNRPNプロモーターから5’側に0.6kbおよび3’側に0.5kb延びる。逆に、PWS−ICの父系コピーを、抗メチルLys4 H3抗体によって免疫沈降した。この配列は、母系コピーに対して沈降しなかった。この修飾と活性クロマチンの関係についての以前の報告は、これらの知見と一致する。
【0126】
メチルLys9 H3の親特異的差次的結合は、父系で発現されるZNF127、NDN、MAGEL2、IPWならびに組織特異的な母系発現を示すUBE3AおよびATP10Cを含む15q11−q13中の他の刻印付け遺伝子のプロモーターで検出されなかった。メチルLys9 H3はまた、AS−ICと結合しなかった。しかし、メチルLys4 H3が、父系活性遺伝子であるNDNの父系対立遺伝子のプロモーター領域と特異的に結合することが見出された。リンパ球クロマチンにおける親特異的Lys4メチル化は、ZNF127、MAGEL2、IPW、UBE3A、またはATP10Cについて検出されなかった。
【0127】
記載された各修飾(シトシンメチル化、ヒストンH3およびH4のアセチル化、ヒストンH3 Lys4メチル化、およびヒストンH3 Lys9メチル化)は、異なる分布パターンおよび親特異性を示す。SNRPNプロモーターと重複するPWS−ICは、最も広範囲な修飾パターン(母系対立遺伝子上のシトシンメチル化およびH3 Lys9メチル化、ならびに父系対立遺伝子上のヒストンH3およびH4のアセチル化、およびヒストンH3 Lys4メチル化)を示す。父系SNRPNプロモーター領域はまた、母系染色体上に存在しない非常に顕著なヌクレア−ゼ過剰感作性部位の部位である。差次的なシトシンメチル化を示すNDNのプロモーター領域は、差次的なヒストンアセチル化も差次的なH3 Lys9メチル化もいずれも示さない。
【0128】
ヒトPWS刻印付け中心が卵母細胞においてシトシンメチル化を欠くことは明らかである;従って、この修飾は、AS/PWS領域に対する生殖体刻印付けであり得ない。PWS刻印付け中心の親特異的ヒストン修飾(H3アセチル化およびH4アセチル化、ならびにH3 Lys4メチル化)の間でもまた、精子がヒストンを欠くので生殖体刻印付けがなされ得ず、従って、父系生殖体刻印付けはヒストン修飾であり得ない。しかし、メチルLys9 H3は、配偶子形成の間にPWS刻印付け中心においてヒストンに対して強いられ得る潜在的な候補刻印付け標識である。母系ヒストン修飾刻印付けは、ヒストンがクロマチンから取り出され、プロタミンによって置換される場合、精子形成の間にプログラムされた抹消を引き起こす特徴的な特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1Aおよび図1Bは、Methyl(K9)H3抗体(図1A)またはMethyl(K4)H3抗体(図1B)のいずれかを用いて染色した正常雌性細胞株(HH)由来のヒト中期染色体の免疫蛍光検査法のパターンを示す。Methyl(K9)H3抗体またはMethyl(K4)H3抗体の局在は、Cy3結合二次抗体(red)を用いて検出した。一方の優先的に染色される染色体と他方の染色体(大きな矢印で示す)との比較を示す2つの抗体を用いて、各々の免疫蛍光検査法のパターンを得た。図1Bに示されるように、不活性なX染色体の小さな領域のみが、Lys4メチルH3染色について増強される。
【図2】
図2は、体細胞ハイブリッド細胞株のCHIP分析を示す。不活性(X不活性)または活性(X活性)ヒトX染色体を含む体性のハイブリッドCHO細胞由来のクロマチンは、以下の抗体を用いて免疫沈降される:
レーン1=抗体なし(コントロールレーン);レーン2=Methyl(K9)H3;
レーン3=Methyl(K4)H3;レーン4=Lys9/14−アセチル化H3;
レーン5=DNAなし(コントロール);レーン6=ゲノムDNA。
免疫沈降されたDNA中のXistおよびPGK1プロモーターDNA配列の存在は、PCRによってアッセイした。PCR産物を、15%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、デジタルカメラによってイメージ化し、そしてそのイメージを臭化エチジウムで染色したバンドの視覚化を促進するために電子的に反転させた。不活性なX染色体を含む細胞から示されるように、Methyl(K4)H3抗体およびLys9/14アセチルH3抗体は、活性Xist遺伝子を優先的に免疫沈降させる。ところが、Methyl(K9)H3抗体は、不活性PGK1遺伝子を優先的に免疫沈降させる。活性X染色体を含む細胞は、全く逆の免疫沈降パターンが観察された。
【図3】
図3は、単純な生物対複雑な生物との間のH3メチル化の免疫ブロット分析を示す。種々の供給源から単離したヒストン(各々の種からコアヒストンの総計5ug)は、1μgの組換えXenopus H3と一緒に、15%SDS−PAGE上で分離され、PVDF膜支持体に転写され、そしてMethyl(K4)H3抗体またはMethyl(K9)H3抗体のいずれかを用いてプローブした。レーン1〜5は、組換えXenopus H3、出芽酵母、Tetrahymena、トリおよびヒト細胞株293Tのそれぞれから単離されたヒストンを示す。同一のサンプルを平行して分析し、ヒストンのローディングをモニターするためにクマシー染色によって試験した。
Claims (25)
- 前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項3に記載の抗体。
- 前記抗体が標識されている、請求項3に記載の抗体。
- 請求項2に記載の抗原性フラグメントに対する結合特異性を保持する、請求項4に記載の抗体のフラグメント。
- 請求項4に記載の抗体および希釈剤または薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
- 転写的に活性なクロマチンを検出する方法であって、該方法が、以下の工程:
該クロマチンと抗体とを接触させる工程、ここで、該抗体はH3ヒストン中のメチル化されたリジン4残基にのみ特異的に結合し;
結合しない抗体および非特異的に結合する抗体を、サンプルから取り除く工程;ならびに
該サンプルに結合した抗体を検出する工程、
を包含する、方法。 - 請求項12に記載の方法であって、前記検出する工程が、前記抗体と標識された二次抗体とを接触させる工程を包含し、ここで、該二次抗体が抗免疫グロブリン抗体である、方法。
- 転写的に不活性なクロマチンを検出する方法であって、該方法が、以下の工程:
該クロマチンと抗体とを接触させる工程、ここで、該抗体はH3ヒストン中のメチル化されたリジン9残基にのみ特異的に結合し;
結合しない抗体および非特異的に結合する抗体を、サンプルから取り除く工程;ならびに
該サンプルに結合した抗体を検出する工程、
を包含する、方法。 - 請求項14に記載の方法であって、前記検出する工程が、前記抗体と標識された二次抗体とを接触させる工程を包含し、ここで、該二次抗体が抗免疫グロブリン抗体である、方法。
- メチルリジン4(ヒストン)特異的血清を生成する方法であって、該方法が、以下の工程:
該標的のメチル化されたリジンに隣接するヒストンアミノ酸配列を含む短いポリペプチドを化学的に合成する工程;
該ポリペプチドとカチオン化されたウシ血清アルブミンとを結合体化させる工程;および
結合体化させたペプチドをウサギまたはマウスに注射する工程、
を包含する、方法。 - メチル化されたH3ヒストンの存在を検出する方法であって、該方法が、ヒストンタンパク質と抗体とを接触させる工程を包含し、ここで、該抗体がリジン4またはリジン9でメチル化されているH3に特異的に結合する、方法。
- 疾患状態に関連するクロマチンの変化を検出する方法であって、該方法が、以下の工程:
クロマチンの第一のプールおよび第二のプールを作製するために、正常組織および病変組織の両方からクロマチンを単離する工程;
該クロマチンの第一のプールおよび第二のプールとMethyl(K4)H3およびMethyl(K9)H3からなる群から選択される抗体とを接触させる工程;ならびに
正常組織から単離されたクロマチンに結合した抗体の染色パターンと病変組織から単離されたクロマチンに結合した抗体の染色パターンとを比較する工程、を包含する、方法。 - 前記クロマチンが中期染色体を含む、請求項21に記載の方法。
- 疾患状態に関連する核酸配列を同定する方法であって、該方法が、以下の工程:
クロマチンの第一のプールおよび第二のプールを作製するために、正常組織および病変組織の両方からクロマチンを単離する工程;
断片化したクロマチンをMethyl(K4)H3およびMethyl(K9)H3からなる群から選択される抗体を用いて免疫沈降させる工程;
該免疫沈降された断片化したクロマチンからDNAを単離する工程;ならびに
該クロマチンの第一のプールから単離したDNAと該クロマチンの第二のプールから単離したDNAとを比較する工程、
を包含する、方法。 - 前記免疫沈降させる工程の前に、前記単離したクロマチンを断片化する工程をさらに包含する、請求項23に記載の方法。
- 請求項24に記載の方法であって、前記DNAを比較する工程が以下の工程:
前記クロマチンの第一のプールから単離したDNAを、第一の固体表面に固定化する工程;
前記クロマチンの第二のプールから回収したDNAを、第二の固体表面に固定化する工程;
該第一および第二の固体表面を同一の標識された核酸配列を用いて探索する工程;ならびに
該クロマチンの第一のプールから単離された固定化されたDNAのみに結合する配列を同定する工程、
を包含する、方法。
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