JP2004515644A - 特に電磁アクチュエータの可動コア用の鉄−コバルト合金、およびその製造方法 - Google Patents

特に電磁アクチュエータの可動コア用の鉄−コバルト合金、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、重量%の単位で、Coを10から22%と、Siを微量から2.5%と、Alを微量から2%と、Mnを0.1から1%と、Cを微量から0.0100%と、O、N、およびSの含有率の合計が微量から0.0070%と、Si、Al、Cr、Mo、V、およびMnの合計で含有率が1.1から3.5%、好ましくは1.5から3.5%と、Cr、Mo、およびVの含有率の合計が微量から3%と、TaおよびNbの含有率の合計が微量から1%と、を含み、残分は鉄と精錬で生じる不純物であり、1.23×(Al+Mo)%+0.84(Si+Cr+V)%−0.15×(Co%−15)≦2.1であり、14.5×(Al+Cr)%+12×(V+Mo)%+25×Si%≧21であることを特徴とする鉄−コバルト合金に関する。本発明の合金は電磁アクチュエータ可動コアの製造に有用である。

Description

【0001】
本発明は磁性鉄−コバルト合金の分野に関する。より具体的には、本発明は、電磁アクチュエータのコアの製造を意図した鉄−コバルト合金に関する。
【0002】
電磁アクチュエータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電磁装置である。この種のアクチュエータのうちのいくつかは、リニアアクチュエータと呼ばれるものであり、これらは電気エネルギーを可動部分の直線運動に変換する。このようなアクチュエータは、ソレノイドバルブや電気インジェクタに見られる。このような電気インジェクタの好ましい用途は、内燃機関、特にディーゼルエンジンへの燃料の直接注入である。別の好ましい用途は、内燃(ガソリンまたはディーゼル)機関のバルブを電磁的に制御するために使用される非常に特殊な種類のソレノイドバルブに関する。
【0003】
これらのアクチュエータでは、電気エネルギーは一連の電流パルスによってコイルに供給され、磁界が発生し、その磁界により、閉じておらずしたがってギャップを有する磁気ヨークを磁化する。ヨークの幾何学的性質によって、ギャップ領域に関して軸方向に大部分の磁力線を向けられ得る。電気パルスの影響下では、ギャップには磁位差がかかる。アクチュエータは、コイル内の電流の作用によって移動するように作製されたコアも有する。これは、ヨークの一方の極にある可動コアとヨークの反対の極との間でコイルによって誘導された磁位差によって、磁界勾配を介して磁化したコアに電磁力が発生するからである。こうして磁化したコアは移動する。剛性であることから可動部分の動きに好都合な2つの対称的なばねを使用することで、ギャップ中央に静止位置を配置することもできる(電磁制御バルブの場合)。
【0004】
可動コアは、電気パルスが発生した瞬間の位相変化によって動く。アクチュエータの動作を最適化するために、高電気抵抗で低抗電界となるよう構成される金属が必要であることを示すことができる。これらの条件によって、ヨークおよび磁気コアにおける低い誘導電流を得ることが可能となり、コアを移動させる最小磁化に迅速に到達することが可能になる。パルス終了時にできる限り高い最大力が得られるようにするためコアが高い飽和磁化を有することも重要である。というのはこの力によってアクチュエータが開放位置または閉鎖位置に維持されることを確実にするからである。このことは、高圧流体流の完全な停止および/または1つ以上のばねの復元力の補償などが問題となる場合には特に重要である。
【0005】
これらの磁気コアはさまざまな形状を有し、ロッドまたはバーから製造することができる。この場合、破損の危険性がなく変形可能となるように、これらの材料は高い塑性変形性を有するべきである。材料の破断時伸びは少なくとも35%であることが望ましい。このようなコアは圧延プレートまたはシートを切断することによって製造することもできる。この場合、材料は高い穿刺性を有する必要があり、それによって最小の硬度および機械的強度が要求される。コアがさらされる機械的衝撃が繰り返される条件下で磁気特性を十分に保持することも必要である。これらの硬度および機械的強度特性も、コアを効率的に切断するのに好都合である。これらの用途では、材料の焼きなまし後の硬度が200HVより大きいことが推奨される。
【0006】
3つの大きな分類の合金が、上述のような電磁アクチュエータのコアの製造に従来使用されてきた。
【0007】
第1の分類は、2から3%のケイ素を含有する鉄−ケイ素合金からなる。これらは比較的抵抗率が高いという利点を有する。一方、それらの飽和磁化は比較的低い。
【0008】
第2の分類は、約50%の高いコバルト含有率を有する鉄−コバルト合金からなる。このような合金は、上記の鉄−ケイ素合金よりもはるかに高い飽和磁化を有する。一方、抵抗率は幾分低い。さらに、コバルト含有率が非常に高いため、これらの合金は非常に高価である。さらに、これらの機械的性質は最適ではなく、そのためコアの製造は困難である。
【0009】
第3の分類は、約6から30%のコバルトと種々の他の合金元素とを含む鉄−コバルト合金からなる。文献の欧州特許出願第715 320号にはこのような合金の例が挙げられている。この特許は、6から30%のコバルトと、クロム、モリブデン、バナジウム、およびタングステンから選択される3から8%の1種類以上の元素と、残部の鉄とを含む電磁アクチュエータコア用鉄−コバルト合金を開示している。好ましくは、コバルト含有率は10から20%であり、クロム、モリブデン、バナジウム、および/またはタングステンの含有率は4から8%である。これらの合金は50μΩ・cmを超えることもある良好な電気抵抗を有するが、飽和磁化は約1.9から2Tと比較的低く、例外は最高コバルト含有率の種類のもの(したがって最も高価である)でこの飽和磁化は2.3Tに達することもある。一般に、この文献の実施例で挙げられている合金の抗電界(coercive field)も高く、実質的に1.5Oeを超える。一般に、この文献の実施例で挙げられている合金では、高飽和磁化、低抗電界、および高抵抗率の間の最適な妥協が達成されていない。
【0010】
文献WO 96/19001号は、5から20%のコバルトを含有し、アルミニウム、およびマンガン、またはバナジウムの含有率が数%に到達することがあり、すなわち最大7%のアルミニウム、最大8%のマンガンまたは最大4%のバナジウムとなる鉄/コバルト合金の使用を提案している。その文献で開示されている合金は非常に高い抵抗率(60μΩ・cmを超える)および非常に高い飽和磁化(2から2.2T)を有する。しかしながら、これらの合金の機械的性質、および抗電界に関する正確な情報は提供されていない。
【0011】
本発明の目的は、電磁アクチュエータ用コアを経済的に製造するのに特に好適である鉄/コバルト合金を提供することである。これらのコアは、種々の電磁特性、すなわち飽和磁化、抵抗率、および抗電界の間で既存の材料よりも好都合な妥協点が存在する必要がある。これらの材料は製造を特に容易にするための機械的性質を有する必要もある。
【0012】
この目的に関して、本発明の主題は鉄−コバルト合金であって、重量%の単位で、
Coを10から20%と、
Siを微量から2.5%と、
Alを微量から2%と、
Mnを0.1から1%と、
Cを微量から0.0100%と、
O、N、およびSの含有率の合計が微量から0.0070%と、
Si、Al、Cr、V、Mo、およびMnの含有率の合計が1.1から3.5%、好ましくは1.5から3.5%と、
Cr、Mo、およびVの含有率の合計が微量から3%と、
TaおよびNbの含有率の合計が微量から1%と、
を含み、残分は鉄と精錬で生じる不純物であり、
1.23(Al+Mo)%+0.84(Si+Cr+V)%−0.15(Co%−15)≦2.1であり、
14.5(Al+Cr)%+12(V+Mo)%+25Si%≧21、好ましくは≧40、
であることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、この鉄−コバルト合金は14から20%のCoと、TaとNbの含有率の合計が0.05から0.8%である。
【0014】
本発明の変形によると、破断時伸びが少なくとも35%となるためには、CrとVの含有率の合計が1.1から3%、好ましくは1.5から3%であり、Si、Al、およびMoの含有率の合計が微量から1%である。
【0015】
本発明の別の変形によると、焼きなまし後の硬度が少なくとも200HVとなるためには、SiとAlの含有率の合計は1から2.6%であり、Cr、V、Mo、Ta、およびNbの含有率の合計は微量から2%である。
【0016】
本発明による合金の飽和磁化は150℃で少なくとも2.1T、20℃で少なくとも2.12Tであり、抵抗率は150℃で少なくとも35μΩ・cm、20℃で少なくとも31μΩ・cmであり、抗電界は20℃および150℃で1.5Oe未満、好ましくは1Oe以下である。
【0017】
本発明のさらなる主題は、鉄−コバルト合金から製造される圧延バー、ロッド、プレートまたはシートであって、前記合金は前述の種類のものであり、熱間圧延方向に対して20°未満でずれた方向に、バー、ロッド、プレート、またはシートのグレイン(grains)の少なくとも30%(材料の体積%)、好ましくは少なくとも50%が、バーまたはロッドの場合には優先的な<100>軸繊維集合組織を有し、あるいは圧延プレートまたはシートの場合には強い<100>集合組織成分を有することを特徴とする。
【0018】
本発明のさらなる主題は、上記の種類の圧延バー、ロッド、プレート、またはシートの製造方法であって、オーステナイト相で開始しフェライト相で終了する圧延操作を実施することによって、本発明の合金から製造したブランクから圧延バー、ロッド、プレート、またはシートが製造され、フェライト相のバー、ロッド、プレート、またはシートの厚さは少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%減少し、場合によって行われる後の焼きなまし処理はオーステナイト変態温度よりも低温で行われることを特徴とする。
【0019】
本発明のさらなる主題は、電磁アクチュエータ用の可動コアであって、上記方法によるバーまたはロッドまたはプレートまたはシートから製造され、電磁アクチュエータは鉄−コバルト合金から作製された可動コアを含み、前記コアは上記種類のものであり、優先的な<100>軸集合組織を有し、この軸は励起場の主方向とほぼ並行であることを特徴とする。
【0020】
本発明のさらなる主題は、電子制御によって制御される内燃機関用インジェクタであって、高体積出力、短い応答時間、および使用時の高い信頼性を有する上記種類の電磁アクチュエータを含むことを特徴とする。
【0021】
最後に、本発明の主題は、内燃機関の電子制御バルブ用の電磁アクチュエータであって、上述の種類のものであることを特徴とする。
【0022】
理解されているように、本発明による鉄/コバルト合金は、低または中コバルト含有率のFe−Co合金に分類され、他の合金元素を比較的中程度の含有率で有する。しかしながら、これらの合金元素はそれぞれが十分に規定された比率で存在する必要がある。これらの条件に従った場合にのみ、これらの合金およびそれらから製造される電磁アクチュエータのコアに関して、磁気的および機械的の両方の観点から最適の性質が得られ、50%のコバルトを含有するFe−Co合金と比較すると適度な材料コスト(コバルトの存在と関連する)が得られる。
【0023】
本発明による合金は、2から3%のケイ素を含有する鉄/ケイ素合金とほぼ同様の抵抗率を有する。この抵抗率は150℃で35μΩ・cmより大きく、そのため、動作温度において受ける応力に対するアクチュエータの反応性が良好に保たれる。20℃では、この抵抗率は31Ω・cmより大きい。同時に、このアクチュエータの良好な反応性には、20℃および150℃で1.5Oeに制限される低い抗電界も寄与している。この低い抗電界値は、合金の炭素含有率を0.0100%未満にして、酸素、窒素、および硫黄の全含有率を70ppmに制限することによって本発明により得ることができる。この低い抗電界はパルス時間をさらに短縮する。同じ目的で、コアが製造される部分に優先的な<100>軸集合組織が形成されることも推奨され、それによってコアの使用中に、この優先的な集合組織は場の主励起方向とほぼ平行となる。
【0024】
さらに、本発明による合金は、150℃における飽和磁化が2.1Tより大きい。この値は、3%のケイ素を含有する鉄/ケイ素合金に通常見られる値よりも実質的に大きい。20℃では、本発明による合金の飽和磁化は2.12Tより大きい。
【0025】
20℃と150℃の間の前述のパラメータの値の差は、抗電界と飽和磁化は20℃から150の間でそれぞれ最大4%および1%変化するが、抵抗率は20℃から150℃の間で約16%増加すると説明される。従ってこの性質は実質的に変動し、温度の影響を考慮する必要があり、150℃における最小抵抗率35Ω・cmは20℃における最小抵抗率31Ω・cmに対応する。150℃における抗電界(coercive field)は20℃における値よりも常に約4%小さいため、20℃で十分低い場合(最大1.5Oe)、150℃の場合にはいっそう低い値になると言える。一方、温度が上昇すると飽和磁化が減少するので、150℃で2.1T以上の飽和磁化を保証するためには、20℃における飽和磁化は150℃の値よりも1%を超えて高くなる必要があり、すなわち2.12T以上となる必要がある。
【0026】
最後に、本発明による合金は、電磁アクチュエータ用コアの製造に特に好適な機械的性質を有する。
【0027】
ある好ましい実施例では、本発明の合金は、破断時の最大伸長が少なくとも35%であるので、鍛造やスタンピングや延伸によって塑性変形が起こりやすい。本発明による別の種類の合金では、これらの合金は、焼きなまし後の硬度が少なくとも200HVであるため、高い切削性および機械加工性を有する。
【0028】
本発明による鉄/コバルト合金は必然的に以下の性質を有する。すべてのパーセンテージは重量%である。
【0029】
鉄/ケイ素合金と比べて飽和磁化を有意に増加させ、同時に高い抵抗率を維持するため、コバルト含有率は10から22%、好ましくは14から20%である。さらに、コバルト含有率の限度の22%では、50%のコバルトを含有する鉄/コバルト合金よりも好都合な機械的性質および製造コストが得られる。
【0030】
高温転移を促進するため、ケイ素含有率は2.5%を超えず、アルミニウム含有率は2%を超えず、クロム、モリブデン、およびバナジウムのそれぞれの含有率およびこれらの含有率の合計は3%を超えず、マンガン含有率は0.1から1%、好ましくは0.1から0.5%である。これらの元素のそれぞれ(マンガンは除く)は、精錬後には微量としてのみ存在しうる。
【0031】
さらに、ケイ素、アルミニウム、クロム、バナジウム、モリブデン、およびマンガンの含有率の合計は1.1から3.5%、好ましくは1.5から3.5%である。これらの条件を満たせば、合金の抵抗率は2から3%ケイ素を含有する鉄/ケイ素合金と同等となる。さらに、これらの元素の含有率は以下の2つの式を満たす必要がある。
飽和磁化が150℃で2.1T以上となり20℃で2.12T以上となるために、
1.23(Al+Mo)%+0.84(Si+Cr+V)−0.15(Co%−15)%≦2.1 (1)
抵抗率が150℃で35μΩ・cm以上となり20℃で31μΩ・cm以上となるために、
14.5(Al+Cr)%+12(V+Mo)%+25Si%≧21、好ましくは≧40 (2)
さらに、材料の飽和磁化が低下しないようにするため、クロム、モリブデン、およびバナジウムの含有率の合計は最大で3%となる必要がある。
【0032】
タンタルおよびニオブの含有率、ならびにこれらの含有率の合計のそれぞれは1%以下となる必要がある。好ましくはこれらの含有率の合計は0.05から0.08%である。タンタルの作用は合金の延性を増加させることであり、ニオブの作用は機械的強度、耐摩耗性、および抵抗率を増加させることである。上限の1%は、材料の飽和磁化の低下を避ける必要性によるものである。これらの元素は精錬後には微量としてのみ存在しうる。
【0033】
炭素含有率は100ppm以下となる必要があり、酸素、窒素、および硫黄の含有率の合計は70ppm以下となる必要がある。これらの条件によって、抗電界を減少させ、合金の動的透過率を増加させることが可能になる。これらの炭素、酸素、窒素、および硫黄の元素は不純物と見なされ、精錬後には微量としてのみ存在しうる。
【0034】
合金の鍛造またはスタンピングまたは延伸操作が意図される場合、合金は高い最大塑性延び(35%以上)を有することが望ましく、好ましくは合金は、
クロムとバナジウムの含有率の合計は1.1から3%、好ましくは1.5から3%となること、および
ケイ素、アルミニウム、およびモリブデンの含有率の合計は微量から1%となること、
の2つの条件を満たす必要がある。
【0035】
このような冷間鍛造またはスタンピングおよび延伸操作は、バー、ロッド、または厚い(少なくとも1mm)のプレートの形態の合金に対して初めに行われる。
【0036】
コアがバー、プレート、またはシートから作製され、このバー、プレート、またはシートは切削または機械加工が必要である場合、合金組成が
・ケイ素とアルミニウムの含有率の合計が1から2.6%、および
・クロム、バナジウム、モリブデン、タンタル、およびニオブの含有率の合計が微量から2%、
の2つの特徴を充足することが好ましい。
【0037】
上記のようにして、焼きなまし後に硬度が200HVより大きい合金が得られる。
【0038】
表1は、本発明による合金と従来技術の合金の例について、それらの化学組成と、これらの組成物から得られる破断時伸び、焼きなまし後硬度、飽和磁化、抵抗率、および抗電界の性質を示している。組成物の100%に達するまでの残部は、鉄と精錬によって生じる不純物とからなる。式(1)および(2)の左辺の計算結果も示している。
【0039】
【表1】
Figure 2004515644
【0040】
対照合金9は、約50%のコバルトを含有する鉄/コバルト合金である。磁気特性が優れており、そのままの硬度で切削または機械加工が可能である。一方、破断時伸びは非常に低いため、大きな塑性変形を起こすには適していない。さらに、これは非常に高価な合金である。
【0041】
対照例10は、約30%のコバルトを含有する鉄/コバルト合金である。上記合金と比較すると、抵抗率は大幅に小さい。さらに、破断時伸びは良好であるが優れているわけではなく、この合金は焼きなまし後の硬度が実質的に低いため、切削および機械加工にはあまり適していない。
【0042】
対照合金11は、3%のケイ素を含有する鉄/ケイ素合金である。抵抗率と抗電界は満足できる値であるが、飽和磁化は比較的低い。さらに、破断時伸びは非常に制限される。
【0043】
対照合金12は、約20%のコバルトを有し、バナジウムを含有する合金である。その組成は式(1)を満たし、そのため良好な飽和磁化を有する。しかし、式(2)は満たさず、そのため抵抗率は不十分である。さらに、O+N+S含有率が比較的高いため、抗電界が高くなりすぎる。
【0044】
対照合金13は、クロムを含有する18%コバルト合金である。式(2)を満たし(元素Al、V、Mo、およびSiの混入が避けられない場合は不純物とみなす)、式(1)も満たす。したがって飽和磁化と抵抗率は十分である。破断時伸びが高いため、塑性変形による成形に好適である。しかしながら、O+N+S含有率が高いため、抗電界が高くなりすぎる。
【0045】
対照合金14は、タンタルが加えられたことを除けば上記合金と同様である。破断時伸びはさらに向上したが、抗電界はなお高すぎるため、この組成は本発明の範囲内ではない。
【0046】
対照合金15は、ケイ素とアルミニウムも含有する15%コバルト合金である。式(2)を満たし良好な抵抗率が得られるが、式(1)は満たさず、そのため飽和磁化は望ましい値と比較して極めて小さい。O+S+N含有率が低いため、抗電界が非常に低くなり、ケイ素とアルミニウムによって焼きなまし後硬度が高くなったことに注目されたい。
【0047】
対照合金16および17は、上記合金と同様の性質を有する。これらは、ケイ素とアルミニウムの含有率の合計と比べるとコバルト含有率が低すぎるため式(1)を満たさず、20℃における飽和磁化はわずかに低い。
【0048】
対照合金18は、15%のコバルトを含有するが、その他の合金元素は有意量を含有しない鉄−コバルト合金である。飽和磁化と抗電界は良好であるが(式(1)を満たし、O+N+S含有率が低い)、抵抗率が不十分である(式(2)は満たさない)。さらに、破断時伸びまたは焼きなまし後硬度に関して機械的性質も特に優れているわけでもない。
【0049】
対照合金19は、15%のコバルトを含有するが、ケイ素は1%のみ含有する鉄−コバルト合金である。この合金に関して、ただしケイ素が存在することで硬度と抵抗率が向上することを除けば合金16と同じ説明が可能であるが、それによって抵抗率が十分な値まで到達するわけではない。
【0050】
対照合金20は、18%のコバルトと3.2%のバナジウムを含有する鉄−コバルト合金である。その電磁特性は良好であるが、許容最大量(3%)と比較するとバナジウムが過剰に存在するため破断時伸びが不十分である。
【0051】
本発明による合金1から8の中で、合金1から3は焼きなまし後硬度が高く210HVを超える値であり、そのため切削または機械加工に特に好適である。したがってこれらの合金はバー、プレート、またはシートの作製に好適であり,これらから所望の部品が製造される。これらは約15%または18%のコバルトと、有意量のケイ素と、場合によってアルミニウムとを含有する鉄−コバルト合金である。さらに、合金1はタンタルを含有し、合金2はモリブデンを含有し、合金3は有意量の別の合金元素は含有しない。これらの合金は飽和磁化および抵抗率の両方に関して優れた電磁特性を有し、そのため意図する用途の種々の要求を満たす非常によい妥協点が存在する。最後に、合金1および2にタンタルとモリブデンが存在することで、非常に高い破断時伸びが得られ、そのためこれらの合金も、許容できる条件で、あるいは合金1の場合には非常によい条件でも、鍛造やスタンピングや延伸によって成形することができる。通常、この分類の合金では、18%のコバルト、0.5から1%のクロム+バナジウム、0.05から0.5%のタンタル+ケイ素、および1から2.5%のケイ素+アルミニウム+モリブデンを含む組成が選択される。
【0052】
本発明による合金4から8は高い破断時伸び(少なくとも35%)を有するため、鍛造やスタンピングや延伸による成形に好適である。好ましくは、これらの合金はバーまたはロッドの製造に使用され、これらから所望の部品が製造される。これらは約18%のコバルトを含有するが、ケイ素とアルミニウムはほとんどまたは全く含有しない鉄−コバルト合金である。一方、これらはクロムを含有する(2から2.9%)。この元素は、少なくとも部分的にはモリブデンおよび/またはバナジウムで置き換えることができる。これらの合金の電磁特性は、合金1から3の種々の要求における妥協と同じ妥協を表している。通常、この分類の合金では、18%のコバルト、2から3%のクロム、0から1%のバナジウム、0.05から0.5%のタンタル+ケイ素、および0から0.5%のケイ素+アルミニウム+モリブデンを含む組成が選択される。
【0053】
バー、ロッド、プレート、またはシートの形態で本発明による合金が得られると、この合金を使用して電磁アクチュエータ(または同様の特性が要求される任意の他の部品)を製造することが望ましい場合には、要求される最適な集合組織が得られる金属の加工熱処理を実施することが重要である。この処理の目的は、材料、グレイン(grains)、または結晶の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%(体積基準)が、熱間または冷間圧延方向に対して20°未満ずれた<100>軸を含む結晶軸配向を有することである。結晶のある<100>軸が特定の集合組織によって磁束の使用される主方向と接近すると、軟磁性鋼と合金の磁気特性は有意に向上する。圧延プレートまたはシートの形状で作製した本発明の合金の場合、これらの合金は圧延平面と平行な{100}または{110}型の優先的な集合組織を有する必要があり、材料の体積比率および材料の圧延方向に対する<100>配向は前述の基準を満たす必要がある。
【0054】
本発明の合金について、これらの性質に適合する集合組織を得るための方法の1つは以下の通りである。
【0055】
バー、ロッド、プレート、またはシートの形態のブランク(組成は前述の規定の通り)はオーステナイト−フェライト熱間圧延操作に付される。「オーステナイト−フェライト圧延」という表現は、オーステナイト相から出発し(そのためα→α+γ変態温度(Tα/γは表1の例として各合金について明記している)より高温で行われる)、フェライト相で終了する(したがってTα/γより低温)圧延を意味するものと理解されたい。この熱間圧延は、合金がフェライト相にあるときに変形比が少なくとも30%(好ましくは少なくとも50%)の収縮工程を行う必要がある(変形比は、(初期断面積−最終断面積)/(初期断面積)の比によって定義される)。例えば、直径20mmのバーを希望する場合、熱間圧延中に、フェライト相で中間直径が少なくとも24mm、好ましくは少なくとも28mmになる必要がある。同様に、厚さ2.5mmのプレートを希望する場合、熱間圧延中に、フェライト相で中間層厚さが少なくとも3.6mm、好ましくは少なくとも5mmになる必要がある。
【0056】
さらに、熱間圧延後に場合によって行われる焼きなまし処理は、製品温度をTα/γより高くしてはならず、この温度は930から990℃を変動し、本発明による合金の場合は表1に示している。
【0057】
最後に、最も好都合な集合組織は製品の上部層で主に得られるため、後の酸洗い(pickling)または研磨操作中に材料の表面の除去をできるだけ制限することが推奨される。好ましくは、これらの操作後の製品の重量減は10%を超えるべきではなく、より好ましくは5%を超えるべきではない。
【0058】
前述したように、本発明による合金の好ましい用途は電磁アクチュエータ用コアの製造である。このようなコアを含む小型で、迅速で、信頼性のあるアクチュエータは、直接注入内燃機関(特にディーゼルエンジン)、および内燃機関のバルブの移動を制御する電磁アクチュエータの可動部品に使用すると好都合となりうる。

Claims (16)

  1. 重量%の単位で、
    Coを10から20%と、
    Siを微量から2.5%と、
    Alを微量から2%と、
    Mnを0.1から1%と、
    Cを微量から0.0100%と、
    O、N、およびSの含有率の合計が微量から0.0070%と、
    Si、Al、Cr、V、Mo、およびMnの含有率の合計が1.1から3.5%、好ましくは1.5から3.5%と、
    Cr、Mo、およびVの含有率の合計が微量から3%と、
    TaおよびNbの含有率の合計が微量から1%と、
    を含み、残分は鉄と精錬で生じる不純物であり、
    1.23(Al+Mo)%+0.84(Si+Cr+V)%−0.15(Co%−15)≦2.1であり、
    14.5(Al+Cr)%+12(V+Mo)%+25Si%≧21、好ましくは≧40
    であることを特徴とする鉄−コバルト合金。
  2. 14から20%のCoを含有することを特徴とする請求項1に記載の鉄−コバルト合金。
  3. TaおよびNbの含有率の合計が0.05から0.8%であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄−コバルト合金。
  4. CrおよびVの含有率の合計が1.1から3%、好ましくは1.5から3%であり、Si、Al、およびMoの含有率の合計が微量から1%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄−コバルト合金。
  5. 破断時伸びが35%以上であることを特徴とする請求項4に記載の鉄−コバルト合金。
  6. SiおよびAlの含有率の合計が1から2.6%であり、Cr、V、Mo、Ta、およびNbの含有率の合計が微量から2%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄−コバルト合金。
  7. 焼きなまし後硬度HVが200以上であることを特徴とする請求項6に記載の鉄−コバルト合金。
  8. 飽和磁化が150℃で2.1T以上、20℃で2.12T以上であり、抵抗率が150℃で35μΩ・cm以上、20℃で31μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の鉄−コバルト合金。
  9. 20℃および150℃における抗電界(coercive field)が1.5Oe未満、好ましくは1.0Oe未満であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の鉄−コバルト合金。
  10. 鉄−コバルト合金から製造されるバー、ロッド、またはプレートであって、前記合金は請求項1から9のいずれか1項に記載の種類のものであり、バー、ロッド、またはプレートのグレイン(grains)の少なくとも30%(材料の体積%)、好ましくは少なくとも50%が、熱間圧延方向に対して20°未満でずれた優先的な<100>軸繊維集合組織を有することを特徴とするバー、ロッド、またはプレート。
  11. 鉄−コバルト合金から製造される圧延プレートまたはシートであって、前記合金は請求項1から9のいずれか1項に記載の種類のものであり、グレインの少なくとも30%(材料の体積%)、好ましくは少なくとも50%が、熱間圧延方向に対して20°未満でずれた、強い<100>軸集合組織成分を有することを特徴とする圧延プレートまたはシート。
  12. 請求項10または11に記載の圧延バー、ロッド、プレート、またはシートの製造方法であって、フェライト相の少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%の変形比で圧延作業を行うことによって、請求項1から9のいずれか1項に記載の合金から製造したブランクから圧延バー、ロッド、プレート、またはシートが製造され、後の任意の焼きなましがオーステナイト変態温度より低温で実施されることを特徴とする製造方法。
  13. 請求項10または11に記載の圧延バーまたはロッドまたはプレートまたはシートから製造されたことを特徴とする電磁アクチュエータ用可動コア。
  14. 鉄−コバルト合金から製造された可動コアを含む電磁アクチュエータであって、前記コアは請求項13に記載の種類のものであって、前記コアの優先的な集合組織は、励起場の主方向とほぼ平行な<100>軸を有することを特徴とする電磁アクチュエータ。
  15. 高体積出力、短い応答時間、および使用時の高い信頼性を有する電磁アクチュエータを含む、電子制御によって制御される内燃機関用インジェクタであって、前記アクチュエータは請求項14に記載の種類のものであることを特徴とするインジェクタ。
  16. 請求項14に記載の種類のものであることを特徴とする内燃機関の電子制御バルブ用電磁アクチュエータ。
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