JP2004505612A - 食道腺ガンに関する後成的配列 - Google Patents
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Abstract
ガン、その中でも胃腸腺ガンと食道腺ガンの診断法または予後予測法を開示する。特に、本発明により、胃腸腺ガン、食道腺ガン、バレット食道、正常な扁平粘膜上皮において、どの遺伝子が高メチル化され、どの遺伝子がメチル化されていないかなどを調べるCpG島の標準的なメチル化アッセイによって検査することのできるメチル化パターンが提供される。
Description
【0001】
〔発明の属する技術分野〕
関連出願の相互参照
本出願は、「EPIGENETIC SEQUENCES FOR ESOPHAGEAL ADENOCAR−CINOMA」という名称で2000年3月31日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願番号第06/193,839号に対する優先権を主張する。
【0002】
連邦政府から資金援助を受けた研究であることに関する宣言
この研究は、P.W.L.に対するNIH/NCI助成金R01 CA 75090の援助を受けた。アメリカ合衆国は、35U.S.C.§202(c)(6)に従い、本発明において所定の権利を有する。
【0003】
本発明の技術分野
本発明は、胃腸腺ガン、中でも食道腺ガン(“EAC”)の診断的または予後的なアッセイを提供する。さらに詳細には、本発明は、CpG島のメチル化状態を調べる標準的なメチル化アッセイによって検査で、且つ胃腸ガン、正常な扁平上皮細胞、およびEACの中の2つ以上の遺伝子の相対的メチル化状態を含んで成る多遺伝子後成的フィンガープリントまたはメチル化パターンを提供する。
【0004】
本発明の背景
DNAのメチル化とガン。DNAのメチル化パターンは、ヒトのガンにおいてしばしば変化している。これらのメチル化の変化には、ゲノム全体での低メチル化や、部分的高メチル化が含まれる(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年)。正常な組織ではCpG島は一般にメチル化されないが、ガン細胞における異常な高メチル化は、このCpG島においてしばしば起こる。プロモーターCpG島(すなわち遺伝子のプロモーター領域に位置するCpG島)の高メチル化は、ヒトの多くのタイプのガンにおける転写サイレンシングと関係している。
【0005】
遺伝子のメチル化パターンからは、ガン細胞に関するさまざまな種類の有用な情報を得ることができる。第1に、それぞれのタイプの腫瘍(すなわち乳ガン、結腸ガン、食道ガンなど)には、メチル化されやすい特徴的な遺伝子群がある(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)。例えばRB1は、網膜芽細胞腫で高メチル化されている(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Sakai他、Am. J. Hum. Genet.、第48巻、880〜888ページ、1991年)が、急性骨髄性白血病ではそうなっていない(KornblauとQiu、Leuk. Lymphoma、第35巻、283〜288ページ、1999年;Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年)ことが知られている。
【0006】
第2に、一人の患者の個々の腫瘍は、別の患者の同じタイプの腫瘍と比べると、その腫瘍の進行度を反映した独特な後成的フィンガープリントを持っている(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)。
【0007】
しかし一般には、ガンにおける後成的変化に関するほとんどの研究は、主として、ごく少数の既知の遺伝子群(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)、あるいは未知のCpG島の全体的分析(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)に焦点を絞ったものであり、そのため、適切な診断法および/または予後予測法の枠組みは提供されていない。
【0008】
食道腺ガン(“EAC”)。食道腺ガン(“EAC”)は、正常な扁平粘膜上皮が化生によって特殊な柱状上皮(腸上皮化生(IM)またはバレット食道)になり、それが最終的には異形成へと進行し、その後に悪性腫瘍になるという多段階ステップを経て発症する(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年;Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。西洋諸国では過去30年間にEACの発生が急速に増えてきている(Devesa他、Cancer、第83巻、2049〜2053ページ、1998年;Jankowski他、Am. J. Pathol.、第154巻、965〜973ページ、1999年)。
【0009】
残念なことに、このモデルの後成的研究は、これまでのところ、数個の遺伝子についてのDNAメチル化分析に限られている(Wong他、Cancer Res.、第57巻、2619〜2622ページ、1997年;Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年;Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。
【0010】
CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)。結腸直腸腫瘍と胃腫瘍の一部には、CpG島メチル化のある表現型(“CIMP”)が見られることが以前に報告されており(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。この表現型は、1つの腫瘍の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲の異常な高メチル化という変化を特徴とする。これは、一群の腫瘍においてメチル化されている遺伝子の数の頻度分布が2つのピークを持つことに反映されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年)。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子、またはタイプCの遺伝子において対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、新規ではっきりと識別できる、しかし主要な腫瘍発生の経路であると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。
【0011】
しかし、EACの進行におけるCIMP経路の役割は、もし役割があるとしてのことだが、まだ明らかになっていない。というのも、これまでの後成的研究で分析されたのは、1つの遺伝子(Wong他、Cancer Res.、第57巻、2619〜2622ページ、1997年;Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年)、または数個の遺伝子(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)だけだからである。
【0012】
したがって、ガンの検出、化学的予測および予後予測に関する新規な方法が、当業界で要求されている。ガンなどの病気のさまざまな段階を経て進行する間に多数の遺伝子座で見られるCpG島メチル化の変化の新規なコーディネート・パターンを明らかにすることが、当業界で要求されている。特定の腫瘍に特異的で、しかも個々の患者に特異的な後成的パターンまたはフィンガープリントを明らかにすることが、当業界で要求されている。ガン処置のための診断法および/または予後予測法で利用できるバイオマーカーまたはプローブ、例えばEAC特異的なバイオマーカーまたはプローブが、当業界で要求されている。食道腺ガンでCIMPが見られるかどうかを明らかにすることが、当業界で要求されている。腫瘍のステージを決定する新規な方法が、当業界で要求されている。本発明は、これらの要求に対処するものである。
【0013】
本発明の要約
本発明は、組織サンプルからガンまたはガン関連疾患を診断する方法であって、(a)診断する検査組織または検査領域から組織サンプルを取得し、(b)その組織サンプルのメチル化アッセイを行なって、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFR、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列のメチル化状態を決定し、(c)少なくとも部分的に、上記ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいたガンの診断的または予後的な予測を行なうことを含んで成る方法を提供する。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列は、CpG島のゲノムCpG配列に対応していることが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、またはその一部によって規定される配列であることが好ましい。CpG島は、前記遺伝子のプロモーター領域に位置することが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、およびTYMSの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0014】
ゲノムCpG配列は、APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMT、TIMP3からなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列は、CpG島のゲノムCpG配列に対応することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列は、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列であることが好ましい。CpG島は、遺伝子のプロモーター領域に位置することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列は、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0015】
好ましくは、ガンまたはガン関連疾患は、胃腸腺ガンまたは食道腺ガン、胃腸異形成または食道異形成、胃腸化成または食道化成、バレット腸組織、正常な食道扁平粘膜上皮の前ガン疾患、およびこれらの組み合わせからなるグループの中から選択される。ガンは食道腺ガンであることが好ましく、その場合、ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいてガンの診断または予後予測をすることにより、その腺ガンの悪性度またはステージを分類することが好ましい。
【0016】
ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイは、“メチライト(MethyLight:商標)”、Ms−SNuPE、MSP、COBRA、MCA、およびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択することが好ましい。
【0017】
ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイの少なくとも一部は、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するCpG配列を含んで成るアレイまたはマイクロアレイに基づいていることが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、およびTYMSの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜60、64、65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列、あるいはこれらに対応する配列であることが好ましい。
【0018】
明らかにされるゲノムCpG配列のメチル化状態は、高メチル化、低メチル化、正常なメチル化のいずれかであることが好ましい。
【0019】
本発明は、ガンまたはガン関連疾患の診断または予後に有用なキットであって、(a)APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置する配列の任意の領域とハイブリダイズするプローブまたはプライマーを含む容器、および(b)メチル化されたCpGを含む核酸の検出の少なくとも一部を、このプローブまたはプライマーに基づいて行なうのに必要な追加の標準的メチル化アッセイ試薬、を含んで成る1または複数の容器を備える担持手段を含んで成るキットも提供する。追加の標準的メチル化アッセイ試薬は、“メチライト(商標)”、MS−SNuPE、MSP、COBRA、MCAおよびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した、メチル化アッセイを行なうための標準的な試薬であることが好ましい。上記プローブまたはプライマーは、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドを含んで成ることが好ましい。
【0020】
本発明はさらに、ガンまたはガン関連疾患の診断または予後に有用なキットであって、(a)配列番号1〜60、64、65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドからなる配列と、配列番号1〜54、58〜60、64および65と関係したCpG島配列内に位置する任意の配列とを含んで成る1または複数の容器を備える担持手段を有するキットも提供する。
【0021】
本発明の詳細な説明
定義:
“EAC”という語は食道腺ガンを意味するが、この語には、正常な扁平粘膜上皮が化生によって特殊な柱状上皮(腸上皮化生(IM)またはバレット食道)になり、それがついには異形成へと進行し、その後悪性腫瘍になるという多段階プロセスを経る食道腺ガンのさまざまな組織学的段階も含まれる(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年;Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。
【0022】
“CIMP”という語はCpG島メチル化の表現型を意味し、1つの腫瘍の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲の異常な高メチル化という変化を特徴とする。これは、一群の腫瘍(16)においてメチル化されている遺伝子の数の頻度分布が2つのピークを持つことに反映されている。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子、またはタイプCの遺伝子で対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、新規ではっきりと識別できるしかし主要な腫瘍発生経路であると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)(上記の“背景”を参照のこと)。
【0023】
“PMR”という語は、メチル化された基準の割合を意味し、以下の実施例1に記載したようにして計算する。
【0024】
“GC含量”は、特定のDNA配列内の[(C塩基の数+G塩基の数)/各断片のバンドの長さ]を意味する。
【0025】
“観測値/予測値の比”(“O/E比”)は、特定のDNA配列内のCpGジヌクレオチドの頻度を表わし、[CpG部位の数/(C塩基の数×G塩基の数)]×各断片のバンドの長さに対応する。
【0026】
“CpG島”は、(1)CpGジヌクレオチドの頻度が“観測値/予測値の比”>0.6に対応することと、(2)“GC含量”>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列を意味する。CpG島は、一般に、長さが約0.2kb〜約1kbであるが、常にそうであるとは限らない。本発明の特定の配列番号の配列と関係するCpG島の配列は、その特定の配列番号の配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含むとともに、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0027】
“メチル化状態”は、DNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドに5−メチルシトシン(“5−mCyt”)が存在しているか不在であるかを意味する。
【0028】
“高メチル化”は、テストするDNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−mCytの量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べて多いことに対応するメチル化状態を意味する。
【0029】
“低メチル化”は、テストするDNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−mCytの量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べて少ないことに対応するメチル化状態を意味する。
【0030】
“メチル化アッセイ”は、DNA配列内のCpGジヌクレオチドのメチル化状態を明らかにするための任意のアッセイを意味する。
【0031】
“MS.AP−PCR”(メチル化感受性のある任意のプライマーを用いたポリメーラーゼ連鎖反応)は、CpGジヌクレオチドを含むことが非常に確からしい領域に焦点を絞ってCGリッチなプライマーを用いてゲノム全体をスキャンすることのできる公知の方法である。これについては、Gonzalgo他、Cancer Research、第57巻、594〜599ページ、1997年に記載されている。
【0032】
“メチライト”は、蛍光に基づいたリアルタイムPCR法として公知であり、Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年に記載されている。
【0033】
“Ms−SNuPE”(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)は、GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年に記載されている公知のアッセイである。
【0034】
“MSP”(メチル化特異的PCR)は、Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0035】
“COBRA”(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)は、XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0036】
“MCA”(メチル化されたCpG島の増幅)は、Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年とWO 00/26401A1に記載されているメチル化アッセイである。
【0037】
“DMH”(ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション)は、Huang他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年とYan他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0038】
遺伝子と関連参考文献:
“APC”は、大腸腺維症遺伝子である(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Hiltunen他、Int. J. Cancer、第70巻、644〜648ページ、1997年)。
【0039】
“ARF”は、P14の細胞周期を調節する腫瘍抑制遺伝子である(Esteller他、Cancer Res.、第60巻、129〜133ページ、2000年;RobertsonとJones、Mol. Cell. Biol.、第18巻、6457〜6473ページ、1998年)。
【0040】
“CALCA”は、カルシトニン遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Hakkarainen他、Int. J. Cancer、第69巻、471〜474ページ、1996年)。
【0041】
“CDH1”は、E−カドヘリン遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0042】
“CDKN2A”は、P16遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0043】
“CDKN2B”は、P15遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年)。
【0044】
“CTNNB1”は、β−カテニン遺伝子である。
【0045】
“ESR1”は、エストロゲン受容体α遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)。
【0046】
“GSTP1”は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼP1遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Tchou他、Int. J. Oncol.、第16巻、663〜676ページ、2000年)。
【0047】
“HIC1”は、ガン1において高メチル化されている遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Wales他、Nat. Med.、第1巻、570〜577ページ、1995年)。
【0048】
“MGMT”は、O6−メチルグアニン−DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子である(Esteller他、Cancer Res.、第59巻、793〜797ページ、1999年)。
【0049】
“MLH1”は、Mut Lホモログ1遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Esteller他、Am. J. Pathol.、第155巻、1767〜1772ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0050】
“MTHFR”は、メチル−テトラヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子である(Pereira他、Oncol. Rep.、第6巻、597〜599ページ、1999年)。
【0051】
“MYOD1”は、筋原決定基1遺伝子である(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Cheng他、Br. J. Cancer、第75巻、396〜402ページ、1997年)。
【0052】
“PTGS2”は、シクロオキシゲナーゼ2遺伝子である(Zimmermann他、Cancer Res.、第59巻、198〜204ページ、1999年)。
【0053】
“RB1”は、網膜芽細胞腫遺伝子である(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Sakai他、Am. J. Hum. Genet.、第48巻、880〜888ページ、1991年)。
【0054】
“TGFBR2”は、トランスフォーミング増殖因子β受容体II遺伝子である(Kang他、Oncogene、第18巻、7280〜7286ページ、1999年;Hougaard他、Br. J. Cancer、第79巻、1005〜1011ページ、1999年)。
【0055】
“THBS1”は、トロンボスポンジン1遺伝子である(Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年;Li他、Oncogene、第18巻、284〜289ページ、1999年)。
【0056】
“TIMP3”は、メタロプロテアーゼ3組織インヒビター遺伝子である(Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年;Bachman他、Cancer Res.、第59巻、798〜802ページ、1999年)。
【0057】
“TYMS1”は、チミジル酸シンターゼ遺伝子である(L. Herrera編、『家族性大腸腺種症』の中のSakamoto他、315〜324ページ、ニューヨーク:アラン・R. リス社、1990年)。
【0058】
概要
本発明は、多彩な遺伝子へのアプローチを含んでおり、遺伝子間で共通して見られるメチル化の状態に関して新規で治療に役に立つ見通しを与える。本発明の特別な実施態様では、食道腺ガン(EAC)の異なる組織学的ステージにおける新規な後成的フィンガープリントを提供する。
【0059】
より詳細には、本発明は、ターゲットを絞った方法と総合的な方法の両方の利点を合わせ持っており、定量的ハイスループット・メチル化アッセイである“メチライト(商標)”(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)を利用して異なる20種類の遺伝子を分析することにより、(i)食道腺ガン(EAC)におけるメチル化の変化の特徴をより詳細に明らかにすること;(ii)EACの異なる組織学的ステージについて後成的フィンガープリントを作ること;(iii)病気の診断および予防に有効な後成的バイオマーカーを同定すること;(iv)CIMPが食道腺ガンの腫瘍発生に関与しているかどうかを明らかにすることを実現する。
【0060】
バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンのステージが異なる51人の患者から採取した合計で104個の組織サンプルを分析した。中でも、これら組織サンプルのうちの84個につき20種類の遺伝子すべてのスクリーニングを行なったところ、異なる組織においてメチル化パターンがはっきりと異なることが明らかになった。
【0061】
本発明の目的にとって最も多くの情報をもたらした遺伝子は、有意な高メチル化の頻度が中間的な値の遺伝子である(すなわちサンプルの約15%(CDKN2A)から約60%(MGMT)の範囲の遺伝子)。このような遺伝子群は、さらに細かい3つのクラスに分類することができた。すなわち、(1)正常な食道粘膜および胃におけるメチル化がない(CDKN2A、ESR1、MYOD1)、(2)正常な食道粘膜および胃においてメチル化がある(CALCA、MGMT、TIMP3)、(3)正常な食道粘膜でメチル化があまり頻繁には起こっていないが、正常な胃のサンプルではすべてメチル化が起こっている(APC)という分類である。
【0062】
他の遺伝子は、これよりも情報が少なかった。というのも、組織のタイプに関係なく、高メチル化の頻度が約5%未満だった(ARF、CDH1、CDKN2B、GSTP1、MLH1、PTGS2、THBS1)か、高メチル化がまったくない(CTNNB1、RB1、TGFBR2、TYMS1)か、高メチル化が常に見られた(HIC1、MTHFR)からである。
【0063】
それぞれの遺伝子クラスは、EACの異なる進行段階において独特の後成的変化をしている。これは、CpG島が高メチル化されることに対する多重保護障壁が段階的に失われることと合致している。異常な高メチル化は、同じ組織の異なる多数の遺伝子座で起こる。これは、EACの腫瘍発生においてメチル化の制御が全体的に異常になることと合致している。しかし、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)が見られる腫瘍のグループを識別できるというはっきりとした証拠はなかった。
【0064】
さらに、異形成またはガンを伴っているという証拠のある患者から採取した正常組織および化生組織では、病気がもはや進行していない患者から採取した同様の組織におけるよりも高メチル化の程度が有意に大きかった。これら2つのグループの患者から採取したサンプルを組織学的に識別することはできないが、分子レベルでは識別できるという事実は、本発明により、そのような高メチル化の発生が、前ガン状態のバレット食道患者の中から病気がさらに進行するリスクを有する患者を同定するための臨床上の新規かつ有用なツールとなることを示唆している。
【0065】
表Iは、EACに関してメチライト(商標)アッセイにより分析した遺伝子の名称と機能のリストである。遺伝子は、HUGO(ヒトゲノム国際機構)によって与えられた名称に基づき、アルファベット順に掲載してある。遺伝子は、CpG島を有するかどうか、他の腫瘍においてメチル化することが知られているかどうかに従い、3つのグループに分類した。各遺伝子の機能に関する簡単な説明も記載してある。
【表1】
【表2】
【表3】
【0066】
ガンの診断法および予後予測法
本発明は、ここに示した20種類の遺伝子配列(APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFR;表Iと表IIを参照のこと;上記の“定義”を参照のこと)のうちの1または複数のメチル化状態、またはメチル化によってこれら遺伝子において変化したDNA配列を明らかにすることに基づいたガンの診断アッセイおよび予後予測アッセイを提供する。20種類あるこれら遺伝子配列領域は、配列番号1〜60、64、65(以下の表IIを参照のこと)に対応するオリゴマー・プライマーおよびプローブによって規定される。配列番号61〜63は、この分析で用いるACTB“対照”遺伝子領域に対応する(以下の実施例1を参照のこと)。
【0067】
さらに、20種類あるこれら遺伝子配列領域のうちの19種類は、その遺伝子の(GC含量とO/E比に基づいた)CpG島またはCpG領域に対応する;19種類の遺伝子とは、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSである(上記の表Iを参照のこと)。したがって、所定のCpG島の一部におけるメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づくと、本発明にはさらに、(ガンの診断および予後予測への応用においては、配列番号1〜60、64、65に対応するプライマーおよびプローブ(以下の表IIを参照のこと)によって規定される)これら19種類の遺伝子配列領域と関係する19の完全なCpG島の中にある任意の配列の新規な使用法も含まれている。ここに、これら19種類の遺伝子配列と関係するCpG島配列は、これら19種類の遺伝子配列のうちの1つの少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0068】
一般に、このようなアッセイには、検査組織から組織サンプルを採取し、その組織サンプルに由来するDNAについてメチル化アッセイを行なってそのDNAに付随するメチル化状態を明らかにし、その結果に基づいて診断または予後予測をする操作が含まれる。
【0069】
メチル化アッセイは、DNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドのメチル化状態を明らかにするのに用いる。本発明によれば、可能なメチル化状態としては、正常な状態(すなわちガンでない対照の状態)と比べて高メチル化の状態と低メチル化の状態がある。高メチル化と低メチル化は、検査サンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−メチルシトシン(“5−mCyt”)の量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べてそれぞれ多いこと、少ないことに対応するメチル化状態を意味する。
【0070】
診断または予後予測の少なくとも一部は、ガンでない正常な組織から得られた対照データと比較することによって明らかになる、サンプルのDNA配列のメチル化状態に基づく。
【0071】
メチル化アッセイの方法
メチル化アッセイの方法はさまざまなものが従来技術で知られており、本発明でも利用することができる。これらアッセイにより、DNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチド(例えばCpG島)のメチル化状態を明らかにすることができる。このようなアッセイとしては、特に、亜硫酸水素塩で処理したDNAのシークエンシング、(配列特異的な増幅を行なうための)PCR、サザンブロット分析、メチル化感受性制限酵素の利用などの方法が挙げられる。
【0072】
例えばDNAのメチル化パターンと5−メチルシトシンの分布を分析するためのゲノム・シークエンシングは、亜硫酸水素塩処理を行なうことにより簡単になった(Frommer他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)。さらに、亜硫酸水素塩を使用して変換したDNAから増幅したPCR産物を制限酵素で消化させる。この方法は、例えばサルディとホーンズビー(Nucl. Acids Res.、第24巻、5058〜5059ページ、1996年)によって、あるいはCOBRA(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)(XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年)として記載されている。
【0073】
“メチライト(商標)”(蛍光に基づいたリアルタイムPCR法)(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年)、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長(“Ms−SnuPE”;GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年)、メチル化特異的PCR(“MSP”;Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号)、メチル化されたCpG島の増幅(“MCA”;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年)などのアッセイは、単独で、あるいは他の方法と組み合わせて利用することが好ましい。本発明のさまざまな実施態様で用いることのできるメチル化アッセイとしては、以下のアッセイが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0074】
COBRA(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)。COBRA分析は、少量のゲノムDNA中の特定の遺伝子座におけるDNAのメチル化レベルを明らかにするのに有用な定量的メチル化アッセイである(XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年)。一言で述べるならば、制限酵素による消化を利用して、亜硫酸水素ナトリウムで処理したDNAのPCR産物中にある、メチル化に依存した配列の違いを明らかにする。メチル化に依存した配列の違いは、フロマー他(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)によって記載された方法に従って標準的な亜硫酸水素塩で処理することにより、ゲノムDNAにまず最初に導入される。次に、亜硫酸水素塩で変換したこのDNAを、興味の対象であるCpG島に特異的なプライマーを用いてPCR増幅した後、制限エンドヌクレアーゼで消化させ、電気泳動をかけ、標識された特異的ハイブリダイゼーション・プローブを用いて検出する。元のDNAサンプル中のメチル化レベルは、消化されたPCR産物と消化されなかったPCR産物の相対量により、幅広いDNAメチル化レベルにわたって定量的に一次式で表現される。さらに、この方法は、顕微解剖したパラフィン包埋組織サンプルから得られるDNAに安心して適用することができる。COBRA分析のための(例えばCOBRAに基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)一般的な試薬としては、特定の遺伝子のためのPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);制限酵素と適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーション用オリゴ;対照ハイブリダイゼーション用オリゴ;オリゴ・プローブのためのキナーゼ標識キット;放射性ヌクレオチド(蛍光法やリン光法など、公知の他の標識法も用いることができる)などが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。さらに、亜硫酸水素塩による変換のための試薬としては、DNA変性用緩衝液;スルホン化用緩衝液;DNA再生用の試薬またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティ・カラム);脱スルホン化用緩衝液;DNA再生成分などが挙げられる。
【0075】
Ms−SnuPE(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)。Ms−SnuPE法は、DNAを亜硫酸水素塩で処理した後、単一ヌクレオチド・プライマーにより伸長させることに基づいて特定のCpG部位におけるメチル化の違いを評価する定量的方法である(GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年)。一言で述べるならば、ゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムと反応させてメチル化されていないシトシンをウラシルに変換し、その一方で5−メチルシトシンは変化させずにそのままにしておく。次に、亜硫酸水素塩で変換したDNAに対して特異的なPCRプライマーを用いて望む標的配列を増幅し、得られた産物を単離し、それを興味の対象であるCpG部位におけるメチル化分析のための鋳型として用いる。少量のDNA(例えば顕微解剖した病理切片)を分析することができるため、CpG部位におけるメチル化状態を明らかにするのに制限酵素を利用せずにすむ。(例えばMs−SnuPEに基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)Ms−SnuPE分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子用のPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;ゲル抽出キット;正の制御用プライマー;特定の遺伝子用のMs−SnuPEプライマー;(Ms−SnuPE反応用の)反応緩衝液;放射性ヌクレオチドなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。さらに、亜硫酸水素塩による変換のための試薬としては、DNA変性用緩衝液;スルホン化用緩衝液;DNA再生のための試薬またはキット(例えば、沈殿、超濾過、アフィニティ・カラム);脱スルホン化用緩衝液;DNA再生成分などが挙げられる。
【0076】
MSP(メチル化特異的PCR)。MSPにより、メチル化感受性制限酵素を使用するかどうかには関係なく、CpG島内のほとんどすべてのCpG部位群のメチル化状態を評価することができる(Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号)。一言で述べるならば、メチル化されているシトシンを除き、亜硫酸水素ナトリウムを用いてメチル化されていないすべてのシトシンをウラシルに変換することによりDNAを変化させた後、メチル化されていないDNAではなくメチル化されたDNAに対して特異的なプライマーを用いて増幅する。MSPは、ほんの少量のDNAしか必要とせず、所定のCpG島遺伝子座の0.1%メチル化された対立遺伝子に対して感受性があり、パラフィン包埋サンプルから抽出したDNAに対して実行することができる。(例えばMSPに基づいた典型的なキットに見られるような)MSP分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子用のメチル化された、またはメチル化されていないPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;特異的なプローブなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0077】
MCA(メチル化されたCpG島の増幅)。MCA法は、ゲノムDNA中の変化したメチル化パターンをスクリーニングし、その変化に関係した特別な配列を単離するのに用いることのできる方法である(Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年)。一言で述べるならば、シトシンのメチル化に対する認識部位での感受性が異なる複数の制限酵素を用い、原発腫瘍、細胞系、正常な組織からのゲノムDNAを消化させた後、AP−PCR増幅を行なう。PCR産物を高分解能ポリアクリルアミドゲル上で分離した後、メチル化の程度が異なる断片をクローニングし、配列を決定する。次に、クローニングした断片をプローブとして用いてサザンブロット分析を行ない、これら断片のメチル化の違いを確認する。(例えばMCAに基づいた典型的なキットに見られるような)MCA分析のための典型的な試薬としては、ゲノムDNAに自由に結合するPCRプライマー;PCR緩衝液とヌクレオチド、制限酵素と適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーション用のオリゴまたはプローブ;対照ハイブリダイゼーション用のオリゴまたはプローブが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0078】
DMH(ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション)。DMHは、アレイに基づいた公知のメチル化アッセイであり、フアン他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年とヤン他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年に記載されている。DMHにより、ガン細胞系のCpG島の高メチル化をゲノム全体でスクリーニングすることができる。一言で述べるならば、CpG島のタグを固体支持体(例えばナイロン膜、シリコンなど)上に配置し、検査サンプル(例えば腫瘍)または基準サンプルからのメチル化されたCpG DNAである“アンプリコン”を用いて調べる。スクリーニングされたCpG島アレイに関して検査サンプルと基準サンプルの間に見られる信号強度の差は、検査用DNA中の対応する配列がメチル化により変化したことを反映している。
【0079】
メチライト(商標)。好ましい実施態様では、メチライト(商標)アッセイを用いて1または複数のCpG配列のメチル化状態を明らかにする。メチライト(商標)アッセイは、PCRステップの後にさらに操作を行なう必要のない、蛍光に基づいたリアルタイムPCR(タックマン(商標))法を利用したハイスループットの定量的メチル化アッセイである(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。一言で述べるならば、メチライト(商標)法は、ゲノムDNAの混合サンプルを用意し、それを標準的な方法に従って亜硫酸水素ナトリウムと反応させて変換し(亜硫酸水素塩プロセスによって、メチル化されていないシトシン残基がウラシルに変換される)、メチル化に依存した違いを有する配列が混合したプールにする。次に、蛍光に基づいたPCRを、“偏りのない”(既知のCpGメチル化部位と重なっていないプライマーを用いた)PCR反応として、または“偏りのある”(既知のCpGジヌクレオチドと重なったPCRプライマーを用いた)反応として行なう。配列の識別は、増幅プロセスまたは蛍光検出プロセスにおいて、あるいはその両方においてなされる可能性がある。
【0080】
メチライト(商標)アッセイは、ゲノムDNAサンプル中のメチル化パターンの定量的検査に用いることができる。この場合には、配列の識別は、プローブがハイブリダイゼーションするときになされる。この定量的方法では、PCR反応により、特定の推定メチル化部位と重なる蛍光プローブの存在下で、偏りのない増幅が行なわれる。入れたDNAに対する偏りのない対照は、プライマーとプローブのいずれもCpGジヌクレオチドとまったく重なっていない反応によって与えられる。また、ゲノムのメチル化に関する定性的検査は、偏りのあるPCRプールを、既知のメチル化部位を“カバー”していない対照オリゴヌクレオチド(蛍光に基づいた“MSP”法)と結合させることによって、またはメチル化部位の可能性がある部位をカバーしているオリゴヌクレオチドと結合させることによって実現される。
【0081】
メチライト(商標)プロセスは、増幅プロセスにおいて“タックマン(TaqMan:商標)”プローブとともに用いることができる。例えば、二本鎖ゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムで処理し、次いでタックマン(商標)プローブを用いて2通りあるPCR反応の一方を行なう;例えば、偏りのあるプライマーとタックマン(商標)プローブを用いるか、あるいは偏りのないプライマーとタックマン(商標)プローブを用いる。タックマン(商標)プローブは、蛍光性“レポーター”分子と“クエンチャー”分子で二重に標識されており、比較的GC含量の多い領域に対して特異的になるよう設計されているため、PCRサイクルにおいて順プライマーまたは逆プライマーよりも約10℃高い温度で溶解する。そのため、タックマン(商標)プローブは、PCRのアニーリング/伸長ステップを通じ、完全にハイブリダイズしたままになる。Taqポリメラーゼという酵素はPCRの間に新しい鎖を合成するため、場合によってはアニールされたタックマン(商標)プローブに達することがある。次に、Taqポリメラーゼの5’→3’エンドヌクレアーゼ活性により、タックマン(商標)プローブが消化されて蛍光性レポーター分子が放出される。そのため、リアルタイム蛍光検出システムを用いて、今やクエンチされていない信号を定量的に検出することができる。
【0082】
(例えばメチライト(商標)に基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)メチライト(商標)分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島)のためのPCRプライマー;タックマン(商標)プローブ;最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;Taqポリメラーゼなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。メチライト(商標)アッセイの異なる4つの方法(“A”から“D”)に関しては、後に詳しく説明する。定量的メチライト(商標)プロセス“B”を利用することが好ましい。
【0083】
メチル化された核酸をメチライト(商標)に基づいて検出することは比較的迅速にでき、その検出は、特異的オリゴヌクレオチド・プローブが増幅により置換されることに基づいている。好ましい実施態様では、増幅と検出は、実際には、特異的な二重標識タックマン(商標)オリゴヌクレオチド・プローブを用いて蛍光に基づいたリアルタイム定量的PCR(“RT−PCR”)により測定を行なうとき、同時に行なわれる。その後に何らかの操作をすることも分析することも必要ない。この置換可能なプローブは、修飾されていない元の核酸サンプル中に存在するメチル化されたCpG部位とメチル化されていないCpG部位を識別できるように特別な設計にすることができる。
【0084】
メチライト(商標)は、メチル化特異的PCR法(“MSP”;アメリカ合衆国特許第5,786,146号)と同様、メチル化パターンを明らかにする上で、従来のPCRに基づいた方法やその他の方法(例えばサザンブロット分析)よりも有意に優れている。メチライト(商標)は、サザンブロット分析よりも実質的に高感度であり、メチライト(商標)を用いると、非常に少数の核酸サンプル中やパフィン包埋サンプル中のメチル化された少数(少ない割合)の対立遺伝子を容易に検出できる。さらに、ゲノムDNAの場合には、分析できるのがメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼによって認識されるDNA配列だけではないため、CpGリッチな領域のより広い範囲にわたってメチル化パターンを細かくマッピングすることができる。メチライト(商標)を使用しなかったならば、従来のPCRに基づいたメチル化法では不可避なメチル化感受性制限酵素による不完全な消化の結果として偽の結果が生じる可能性があるが、メチライト(商標)を使用すると、偽の結果をすべて排除することができる。
【0085】
メチライト(商標)は、メチル化の量を測定する定量的方法として利用することができ、しかも他の方法よりも実質的に早い。メチライト(商標)は、PCR後の操作または処理をまったく必要としない。そのため、亜硫酸水素塩で処理したDNAの分析に関係する仕事を大きく減らせるだけでなく、PCR産物を取り扱うことで後に実施する反応を汚染させる可能性を避けることもできる。
【0086】
一実施態様では、メチライト(商標)を利用することにより、修飾されていない元のDNA配列内のどのCpG配列もカバーしないプライマーを用いて、可能なあらゆるメチル化状態を偏りなく増幅する。すべてのメチル化パターンが同等に増幅されるからには、DNAのメチル化パターンに関する定量的情報は、配列の違いを検出することのできる任意の方法(例えば蛍光に基づいたPCR)によって、得られたPCRプールから取り出されることになる。
【0087】
メチライト(商標)では、1つまたは複数のCpG特異的タックマン(商標)プローブを利用しており、それぞれのタックマン(商標)プローブが、所定の増幅されたDNA領域中の特定のメチル化部位に対応している。次に、変化した単一のDNAサンプルについての複数のアリコートを用いた並列増幅反応においてこのプローブ群を利用し、修飾されていない元のゲノムDNAサンプル中に存在しているすべてのメチル化パターンを同時に明らかにする。これは、ゲノムDNAサンプルを直接シークエンシングするよりも少ない時間と費用で実現され、しかも実質的に感受性がより大きい。さらに、メチライト(商標)の一実施態様では、このようなメチル化パターンを定量的に評価することができる。
【0088】
本発明は、この明細書に記載してあるように、さまざまなメチル化アッセイを利用して実施することができる。メチライト(商標)の実施態様に関しては、メチル化に依存した核酸修飾試薬(例えば亜硫酸水素塩)を用いて核酸サンプル(例えばゲノムDNAサンプル)中のCpGのメチル化状態を定性的かつ定量的に明らかにする4つの方法と、その方法に関係した診断キットがある。これら4つの方法をこの明細書ではプロセス“A”、プロセス“B”、プロセス“C”、プロセス“D”として説明する。結局、メチル化されたCpG配列の識別が、増幅段階またはプローブのハイブリダイゼーション段階で、あるいはその両方でなされるように設計する。例えばプロセスCとDでは、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる“偏りのある”プライマーを用いることで、PCR増幅の段階でメチル化されたCpG配列を識別する。プロセスBでは、修飾された核酸を偏りなしに増幅するために(CpGメチル化部位をカバーしていない)“偏りのない”プライマーを用いるが、プローブとしては、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できるプローブを用い、検出段階で(例えば蛍光(または発光)プローブのハイブリダイゼーション段階でだけ)メチル化されたCpG配列を定量的に識別する。プロセスAそれ自体は、増幅段階でも検出段階でもメチル化されたCpG配列を識別しないが、入れたDNAに対する対照反応を提供することによって他の3つの方法の裏付けを与えてそれらの方法を意味あるものにする。
【0089】
メチライト(商標)プロセスD。本発明によるメチライト(商標)の第1の実施態様では、メチル化されたCpGを含む核酸を定性的に検出する方法であって、核酸を含むサンプルを、メチル化されていないシトシンを修飾する修飾剤と接触させて、変換された核酸を生成させ;特異的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション・プローブの存在下で、2つのオリゴヌクレオチド・プライマーを用いてこの変換された核酸を増幅し(プライマーとプローブの両方とも、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる);増幅によるプローブの置換に基づいて、“メチル化された”核酸を検出する操作を含む方法が提供される。
【0090】
この明細書で用いる“修飾する”という用語は、修飾剤を用いてメチル化されていないシトシンを別のヌクレオチドに変換することを意味する。この変換によって、元の核酸サンプル中でメチル化されていないシトシンがメチル化されたシトシンから識別される。修飾剤は、メチル化されていないシトシンをウラシルに変化させることが好ましい。メチル化されていないシトシンを変化させるのに用いる修飾剤は亜硫酸水素ナトリウムであることが好ましいが、メチル化されていないシトシンを選択的に変化させるがメチル化されたシトシンは変化させない他の等価な修飾剤も、本発明の方法で代わりに用いることができる。亜硫酸水素ナトリウムは、メチル化されたシトシンとは反応せずにシトシンの5, 6−二重結合と簡単に反応してスルホン化されたシトシン中間体を生成させる。この中間体は、アルカリ条件のもとで脱アミノ化反応によりウラシルになる。Taqポリメラーゼはウラシルをチミンとして認識し、5−メチルシチジン(m5C)をシチジンとして認識するため、亜硫酸水素ナトリウムによる処理とPCR増幅を順番に組み合わせることにより、最終的に、メチル化されていないシトシン残基はチミンに変換され(C→U→T)、メチル化されたシトシン残基(“mC”)はシトシンに変換される(mC→mC→C)。したがってゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムで処理すると、メチル化されていないシトシンがウラシルに変換されることにより、メチル化に依存した配列の違いが生まれ、PCRを行なうと、得られた産物は、修飾されていない核酸内でメチル化されたシトシンが生成される位置だけにシトシンを含むようになる。
【0091】
この明細書で用いるオリゴヌクレオチド“プライマー”とは、修飾された核酸または修飾されていない核酸に相補的な鎖と配列特異的なハイブリダイゼーション(アニーリング)をすることのできる、直線状で一本鎖になったオリゴマーのデオキシリボ核酸分子またはリボ核酸分子を意味する。特異的プライマーは、この明細書で用いられているように、DNAであることが好ましい。本発明のプライマーには、適切な配列で十分な長さがあり、増幅プロセスにおいて重合(プライマーの伸長)を特異的かつ効果的に開始させるオリゴヌクレオチドが含まれる。本発明の方法で用いられているように、オリゴヌクレオチド・プライマーは、一般に、12〜30個またはそれ以上のヌクレオチドを含んでいるが、ヌクレオチドの数はそれよりも少なくてもよい。プライマーは18〜30個のヌクレオチドを含んでいることが好ましい。正確な長さは、(増幅中の)温度、緩衝液、ヌクレオチドの組成など、多くの因子に依存するであろう。プライマーは一本鎖であることが好ましいが、二本鎖のプライマーも、鎖が最初に分離するのであれば用いることができる。プライマーは、適切な任意の方法を用いて調製することができる。例えば、従来のホスホトリエステル法、ホスホジエステル法や、従来技術でよく知られている自動化された方法がある。
【0092】
この明細書に記載した本発明の実施態様におけるように、特異的プライマーは、興味の対象であるゲノム遺伝子座の各鎖と実質的に相補的になるように設計することが好ましい。一般に、一方のプライマーは、遺伝子座のマイナス(−)鎖(水平に置いた二本鎖DNA分子の“下方の”鎖)と相補的であり、他方のプライマーは、プラス(+)鎖(“上方の”鎖)と相補的である。プロセスDの実施態様で用いられているように、プライマーは、DNAがメチル化される可能性のある部位(CpGヌクレオチド)と重なるように設計し、修飾されたメチル化されていないDNAをメチル化されたDNAから特異的に識別できるようにすることが好ましい。この配列識別は、完全に一致したオリゴヌクレオチドと一致しないオリゴヌクレオチドでアニーリング温度に差があることに基づいていることが好ましい。プロセスDの実施態様では、プライマーは、一般に、1〜数個のCpG配列と重なるように設計する。プライマーは、1〜5個のCpG配列と重なるように設計することが好ましく、非常に好ましいのは1〜4個のCpG配列と重なることである。対照的に、本発明の実施例における定量的実施態様では、プライマーはどのCpG配列とも重なっていない。
【0093】
十分に“メチル化されていない”(修飾されたメチル化されていない核酸鎖と相補的な)プライマー・セットの場合には、アンチセンス・プライマーは、対応する(−)鎖配列内にグアノシン残基(“G”)の代わりにアデノシン残基(“A”)を含んでいる。アンチセンス・プライマー中の置換されたこれらA残基は、メチル化されていないC残基(“C”)を亜硫酸水素塩で変化させた後に増幅を行なうことによって生成する対応する(+)鎖領域であり、ウラシル残基およびチミジン残基(“U”と“T”)と相補的になるであろう。この場合、センス・プライマーは、アンチセンス・プライマー伸長産物と相補的になるよう設計し、対応する(+)鎖配列内のメチル化されていないC残基の代わりにT残基を含むようにすることが好ましい。このセンス・プライマー中の置換されたこれらT残基は、元の(+)鎖の中の修飾されたC(U)残基と相補的な位置においてアンチセンス・プライマー伸長産物中に組み込まれたA残基と相補的になるであろう。
【0094】
十分にメチル化された(メチル化されたCpGを含む核酸鎖と相補的な)プライマーの場合には、アンチセンス・プライマーは、元の(+)鎖中のメチル化されたC残基(すなわちmCpG配列)と相補的な対応する(−)鎖配列内にG残基の代わりにA残基を含むことはなかろう。同様に、この場合には、センス・プライマーは、対応する(+)鎖のmCpG配列中にあるメチル化されたC残基の代わりにT残基を含むことはなかろう。しかし十分にメチル化されたプライマーによってカバーされる領域内のCpG配列中に存在しておらず、しかもメチル化されていないC残基は、メチル化されていないプライマーについて上で説明したように、十分にメチル化されたプライマー・セットの中に含まれるであろう。
【0095】
プロセスDの実施態様におけるように、増幅プロセスにより、特異的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション・プローブの存在下で、亜硫酸水素塩で変換された核酸を2つのオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて増幅することが好ましい。プライマーとプローブの両方とも、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる。さらに、“メチル化された”核酸の検出は、増幅により得られるプローブの蛍光に基づいている。一実施態様では、蛍光は、ポリメラーゼ酵素の5’→3’エキソヌクレオチド活性によってプローブが分解されることによって発生する。別の実施態様では、蛍光は、2つの互いに隣接したハイブリダイゼーション・プローブ(ライトサイクラー(Lightcycler:商標))の間で、またはハイブリダイゼーション・プローブとプライマーの間で蛍光エネルギーが移動することによって発生する。別の実施態様では、蛍光は、プライマー自身から発生する(サンライズ(Sunrise:商標)法)。増幅プロセスは、オリゴヌクレオチド・プライマーを用いた酵素による連鎖反応であることが好ましく、この連鎖反応により、標的となる遺伝子座から、関係する反応ステップの数からして指数関数的な量の増幅産物を生成させる。
【0096】
上で説明したように、プライマー・セットのうちの一方は(−)鎖と相補的であり、他方は(+)鎖と相補的である。プライマーは、興味の対象となる増幅領域、すなわち“アンプリコン”を挟むように選択する。標的となる変性した核酸にプライマーをハイブリダイズさせた後、DNAポリメラーゼとヌクレオチドを用いてプライマーを伸長させると、アンプリコンに対応する新しい核酸鎖が合成される。DNAポリメラーゼは、従来技術で一般に用いられているTaqポリメラーゼであることが好ましい。しかし、5’→3’ヌクレアーゼ活性を有する同等なポリメラーゼを代わりに使用することもできる。新しいアンプリコンの配列もプライマーおよびポリメラーゼの鋳型であるため、変性、プライマーのアニーリング、伸長というサイクルを繰り返すことにより、アンプリコンが指数関数的に生成される。連鎖反応の産物は、アンプリコン配列に対応していて、端部が、使用した特異的プライマーの端部によって決まる別々の核酸のコピーである。利用する増幅法は、PCR法(Mullis他、Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol.、第51巻、263〜273ページ;Gibbs、Anal. Chem.、第62巻、1202〜1214ページ、1990年)であることが好ましいが、それよりも好ましいのは、従来技術でよく知られている、この方法を自動化した方法である。
【0097】
メチル化に依存した配列の違いは、蛍光に基づいた定量的PCR法(リアルタイム定量的PCR、Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年;Gibson他、Genome Res.、第6巻、995〜1001ページ、1996年)(例えば“タックマン(商標)”法、“ライトサイクラー(商標)”法、“サンライズ(商標)”法)で検出することが好ましい。タックマン(商標)法とライトサイクラー(商標)法の場合には、配列の識別は、(1)増幅ステップと(2)蛍光検出ステップという2つのステップの一方または両方においてなされうる。サンライズ(商標)法の場合には、増幅ステップと蛍光検出ステップが一致している。FRETハイブリダイゼーションの場合には、ライトサイクラー(商標)に関するプローブのフォーマットとして、配列の違いを識別するためにFRETオリゴヌクレオチドの一方または両方を用いることができる。非常に好ましい増幅法は、この明細書に記載した本発明のすべての実施態様で用いられているように、二重標識した蛍光オリゴヌクレオチド・プローブを利用した、蛍光に基づいたリアルタイム定量的PCR法(Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年)である(ABIプリズム7700配列検出システム(パーキン・エルマー・アプライド・バイオシステムズ社、フォスター・シティ、カリフォルニア州)を使用したタックマン(商標)PCR)。
【0098】
“タックマン(商標)”PCR反応では、ペアの増幅用プライマーと、タックマン(商標)プローブと呼ばれる、応答を引き出すための伸長不能なオリゴヌクレオチドとを用いる。このプローブは、順プライマーと逆プライマー(すなわちセンス・プライマーとアンチセンス・プライマー)の間に位置するGCリッチな配列とハイブリダイズするよう設計されている。タックマン(商標)プローブは、さらに、蛍光性“レポーター部分”と、タックマン(商標)オリゴヌクレオチドのヌクレオチドに結合しているリンカー部分(例えばホスホラミダイト)と共有結合する“クエンチャー部分”とを備えている。適切なレポーター分子とクエンチャー分子の具体例としては、5’蛍光レポーター染料6FAM(“FAM”;2, 7−ジメトキシ−4, 5−ジクロロ−6−カルボキシ−フルオレセイン)、TET(6−カルボキシ−4, 7, 2’, 7’−テトラクロロフルオレセイン)、3’クエンチャー染料TAMRA(6−カルボキシテトラメチルローダミン)(Livak他、PCR Methods Appl.、第4巻、357〜362ページ、1995年;Gibson他、Genome Res.、第6巻、995〜1001ページ、1996年;Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年)が挙げられる。
【0099】
適切なタックマン(商標)プローブを設計する1つの方法では、“プライマー・エクスプレス(Primer Express)”などの支援用ソフトウエア・ツールを用いる。この“プライマー・エクスプレス”は、特異的配列(AT塩基対と比べてCG塩基対は結合が強い)であるために、またはプライマーの長さのために(プライマーの融点と比べて)融点に少なくとも10℃の違いを与えるGCリッチな配列内のCpG島の位置に関する変数を決定することができる。
【0100】
タックマン(商標)プローブは、本発明のどの方法を利用するかに応じ、既知のCpGメチル化部位をカバーしている場合としていない場合が可能である。プロセスDの実施態様では、タックマン(商標)プローブは、1〜5個のCpG配列を重ねることにより、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できるように設計することが好ましい。十分にメチル化されていないプライマー・セットと十分にメチル化されたプライマー・セットについて上に説明したように、タックマン(商標)プローブは、修飾されていない核酸と相補的になるように、あるいは適切な塩基置換により、亜硫酸水素塩処理で変換した配列と相補的になるように設計することができる。なお亜硫酸水素塩処理で変換した配列は、修飾されていない元の核酸サンプル中で十分にメチル化されていない配列か、十分にメチル化されている配列である。
【0101】
タックマン(商標)PCR反応におけるそれぞれのオリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブは、0個から異なる多数個のCpGジヌクレオチドにまたがることが可能であるため、それぞれ、亜硫酸水素塩処理の後に、2つの異なる配列となることができる(mCpGまたはUpG)。例えば、1つのオリゴヌクレオチドが3つのCpGジヌクレオチドにまたがっている場合、ゲノムDNAに生じる可能な異なる配列の数は、23=8種類である。順プライマーと逆プライマーのそれぞれが3つのCpGジヌクレオチドにまたがっており、プローブ・オリゴヌクレオチド(またはFRETフォーマットの場合には両方のオリゴヌクレオチド)が別の3つのCpGジヌクレオチドにまたがっている場合、配列の組み合わせの合計数は8×8×8=512通りになる。理論上は、これら512通りの配列それぞれの相対量を定量的に分析するのに別々のPCR反応を設計することができよう。実際には、メチル化に関する定量的情報のほとんどは、はるかに少数の異なる配列を分析することで得られる。したがって、最も単純な形態として、仮想的な実施例における最も極端な配列である、十分にメチル化された配列と十分にメチル化されていない配列に対する反応を設計することによって、本発明の方法を実施することができる。これら2つの反応の比、またはメチル化された配列の反応と対照反応(プロセスA)の比から、この遺伝子座におけるDNAメチル化レベルの指標が得られよう。
【0102】
プロセスDのメチライト(商標)の実施態様におけるメチル化の検出は、この明細書に記載した他のメチライト(商標)の実施態様におけるのと同様、増幅によるプローブの置換に基づいている。理論上は、プローブの置換プロセスは、プローブをそのままにするか、あるいはプローブを消化させるように設計することができる。プローブの置換は、この明細書におけるのと同様、増幅中にプローブの消化によって起こることが好ましい。PCRサイクルの伸長段階において、蛍光ハイブリダイゼーション・プローブを、DNAポリメラーゼの5’→3’ヌクレアーゼ活性によって開裂させる。プローブが開裂すると、レポーター部分の放出はもはやクエンチャー部分に効果的には伝わらないため、518nmにおけるレポーター部分の蛍光放出スペクトルが大きくなる。クエンチャー部分(例えばTAMRA)の蛍光強度は、PCR増幅の間を通じてほんのわずかしか変化しない。タックマン(商標)PCR反応の効率にはいくつかの因子が影響を与える可能性がある。そのような因子としては、例えば、磁性や塩の濃度;反応条件(時間と温度);プライマーの配列;PCRの標的のサイズ(すなわちアンプリコンのサイズ)と組成などがある。所定のゲノム遺伝子座について最適の蛍光強度を得るためにこれらの因子を最適化する方法は、PCRの当業者には明らかであるが、好ましい条件をこの明細書の“実施例”においてさらに詳しく説明する。アンプリコンのサイズは、50〜8,000塩基対またはそれ以上が可能であるが、これよりも短くてもよい。一般に、アンプリコンは100〜1,000塩基対であり、好ましいのは100〜500塩基対である。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスDはプロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0103】
メチライト(商標)プロセスC。メチライト(商標)プロセスを変更し、PCR産物の検出段階で配列を識別することを回避できる。そこで、追加の定性的方法では、プライマーだけがCpGジヌクレオチドをカバーするように設計し、増幅段階においてだけ配列が識別されるようにする。この実施態様で用いるプローブはやはりタックマン(商標)プローブであるが、このプローブは、修飾されていない元の核酸中に存在するどのCpG配列とも重ならないように設計することが好ましい。プロセスCのこの実施態様は、MSP法をハイスループットで蛍光に基づいたリアルタイムの方法にしたものであり、メチル化されたCpG配列を検出するのに必要な時間を短くすることによって顕著な改善が達成されている。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスCは(下に示す)プロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0104】
メチライト(商標)プロセスB。本発明の好ましい実施態様では、やはりメチライト(商標)プロセスを変更し、PCR産物の検出段階で配列を識別することを回避できる。定量的プロセスBの一実施態様では、プローブだけがCpGジヌクレオチドをカバーするように設計し、プローブのハイブリダイゼーション段階においてだけ配列が識別されるようにする。タックマン(商標)プローブを使用することが好ましい。その場合、もともと増幅に偏りがあるのでない限り、亜硫酸水素塩による変換ステップで生成されるさまざまな配列が同じ効率で増幅される(Warnecke他、Nucleic Acids Res.、第25巻、4422〜4426ページ、1997年)。特定の1つのメチル化パターンに関係する異なる配列のそれぞれについて別々のプローブを設計すると(例えば3個のCpGの場合には23=8個のプローブ)、いろいろなPCR産物が混合したプール内のそれぞれの配列の相対的割合を定量的に決定することができよう。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスBは下に示すプロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0105】
メチライト(商標)プロセスA。メチライト(商標)プロセスAそれ自体は、増幅段階でも検出段階でもメチル化されたCpG配列を識別しないが、入れたDNAの対照反応を提供することによって他の3つの方法の裏付けを与えてそれらの方法を意味あるものにするとともに、トレイごとのデータを規格化する。したがって、プライマーとプローブのいずれもどのCpGジヌクレオチドとも重なっていない場合には、反応は偏りのない増幅であり、蛍光に基づいた定量的リアルタイムPCRを利用した増幅の測定結果は、入れたDNAの量に対する対照となる。プロセスAは、増幅プロセスによる亜硫酸水素塩による処理が何らかの差をもたらすことを回避できるよう、プライマーおよびプローブ中にCpGジヌクレオチドがないだけでなく、アンプリコンにもCpGをまったく含んでいないことが好ましい。プロセスAのためのアンプリコンは、遺伝子増幅や遺伝子欠失などでコピー数がしばしば変化することのないDNA領域であることが好ましい。
【0106】
定性的メチライト(商標)法(プロセス“B”の実施態様)で得られた結果を以下の実施例で説明する。ヒトの腫瘍に関する多数のサンプルをこの方法で分析し、良好な結果を得た。
【0107】
ガンの診断法および予後予測法と、そのためのキット
一般に、本発明の診断法および/または予後予測法には、検査組織から組織サンプルを取得し、その組織サンプルに由来するDNAについてメチル化アッセイを行なって付随するメチル化状態を明らかにし、その結果に基づいて診断または予後予測を行なう操作が含まれる。
【0108】
好ましい実施態様では、ガンの診断法および予後予測法は、配列番号1〜60、64、65(以下の表IIを参照のこと)に対応するオリゴマー・プライマーおよびプローブによって規定されるここに示した20種類の遺伝子配列(APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFR、またはメチル化によってこれら遺伝子において修飾されたDNA配列)のうちの1または複数のメチル化状態を明らかにすることに基づいている。配列番号61〜63は、この分析で用いるACTB“対照”遺伝子領域に対応する(以下の実施例1を参照のこと)。
【0109】
さらに、所定のCpG島の一部におけるメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づくと、この明細書で用いるAPC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSに関係するCpG島の他の配列領域に対応する他のプライマーまたはプローブも用いることができる。
【0110】
そこで、公知の1または複数のメチル化アッセイ(上に説明したものも含む)を実行するのに必要な試薬をこのようなプライマーおよび/またはプローブ、またはその一部と組み合わせ、CpGを含む核酸のメチル化状態を明らかにする。
【0111】
例えば、メチライト(商標)、Ms−SNuPE、MCA、COBRA、MSPというメチル化アッセイを単独で、あるいは組み合わせ、配列番号1〜65の配列またはその一部を含むプライマーまたはプローブを使用することで、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFRに対応する20種類の遺伝子配列領域のうちの1または複数の中にあるCpGジヌクレオチドのメチル化状態、あるいはこれら20種類の配列領域のうちの19種類(すなわちMTHFRを除くすべて)の場合には、これら配列に付随する他のCpG島配列のメチル化状態を明らかにする。なお、これら19種類の遺伝子配列に関係する他のCpG島配列は、これら19種類の遺伝子配列領域のうちの1つの少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0112】
実施例1
EACの進行とともに増加するCpG島の高メチル化
この実施例では、合計で20の遺伝子座の発ガンに関与することが知られているか、あるいは他の腫瘍でメチル化されていることが明らかになっているということで選んだ19の異なる遺伝子(表Iと上記の“定義”を参照のこと)と関係したCpG島のメチル化状態と、1つの非CpG島配列(MTHFR対照配列)のメチル化状態の分析結果を示す。
【0113】
バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンがさまざまなステージにある患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子に関するメチル化の定量的データから、病気のステージが進むにつれてCpG島が高メチル化される頻度と程度が一般に大きくなることがわかった。そこで、組織ごとに、高メチル化の頻度と程度の両方に基づき、遺伝子をメチル化状態に従って異なるクラスに分けた(図1)。
【0114】
材料と方法
サンプルの採取と組織病理学的検査。腺ガンになっているか、IMが最も進んだ段階にある、合計で51人の患者(年齢は39歳〜86歳)から、多数の組織サンプル(正常な食道(NE)、正常な胃(S)、腸上皮化生(IM)、異形成(DYS)および/または腺ガン(T))を採取した。
【0115】
分析した最初のサンプル群は31人の患者から採取したバイオプシー用組織である。採取してすぐに分割し、各サンプルの一部を液体窒素にただちに浸して凍らせ、パラフィン中に埋めた。それを病理学者(K.W.)が組織病理学的に調べた。すべての患者について、病気になっている領域から正常な食道の組織を10cmまたはそれ以上採取した。診断がはっきりしない場合には、凍らせた組織の凍結切片の検査を行なった。接合部を胃粘膜の皺の近位縁であると定義すると、ガンの中心が解剖学的な胃食道接合部よりも上である場合には、ガンの原発部位の分類を食道にした。TNM病期分類を用いて各腺ガンのステージを分類した。
【0116】
20の症例について追試研究を行なうため、第2のサンプル群を採取した。2種類のIMサンプル群を採取した。一方のサンプル群は、最も進行したステージのIMだけを有する患者(8人)からのものであり、他方のサンプル群は、IMとそれに付随した異形成/腺ガンが食道の別の領域にある患者(12人)からのものである。各サンプルについてH&Eスライド(5ミクロンの切片)を用意し、病理学者(K.W.)が検査してIM組織を確認し、異常のある位置を特定した。分析に用いたパラフィン・ブロック中に異形成または腺ガンの何らかの徴候が見られたケースをこの追試研究では除外した。5ミクロンのH&E切片に隣接する30ミクロンの切片から、IM組織を注意深く顕微解剖して他のタイプの細胞と分離した。サンプル中に存在する最も進行した組織病理学的病変がどのステージにあるかに従って、すべてのサンプルを分類した。この研究に関しては、南カリフォルニア大学ケック医学部の審査委員会から承認を得た。
【0117】
核酸の単離。簡単化したプロテイナーゼK消化法により、凍らせたバイオプシー用組織からゲノムDNAを単離した(Laird他、Nucleic Acids Res.、第19巻、4293ページ、1991年)。パラフィン包埋組織からのDNAを一晩かけて50℃にて溶解用緩衝液(100mMのトリスHCl、pH8;10mMのEDTA;1mg/mlのプロテイナーゼK)中に抽出した(Shibata他、Am. J. Pathol.、第141巻、539〜543ページ、1992年)。
【0118】
亜硫酸水素ナトリウムによる変換。亜硫酸水素ナトリウムによるゲノムDNAの変換を、以前に報告されているようにして行なった(Olek他、Nucleic Acids Res.、第24巻、5064〜5066ページ、1996年)。ビーズを50℃にて14時間にわたって培養し、完全に変換されるようにした。亜硫酸水素ナトリウムによる処理は、メチル化されていないシトシンがウラシルに変換されるのに対し、メチル化されたシトシン残基はそのままになる(Frommer他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)。
【0119】
メチライト(商標)分析。亜硫酸水素ナトリウムによる変換の後、この明細書に記載したようにして、また以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)、蛍光に基づいたリアルタイムPCRアッセイであるメチライト(商標)によりメチル化分析を行なった。亜硫酸水素塩で変換したDNAに対して特異的になるように設計したプライマーとプローブを2セット用いた。用いたのは、興味の対象である遺伝子用のメチル化されたセットと、入れたDNAに対する規格化用のβ−アクチン(ACTB)という基準セットである。ヒト精子のDNAと、SssI(ニュー・イングランド・バイオラブズ社)で処理した精子のDNA(高度にメチル化されている)とを用い、以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)、メチル化されたDNAに対する反応の特異性を別々に確認した。
【0120】
サンプルの遺伝子/ACTBの比を、SssIで処理した精子のDNAの遺伝子/ACTBの比で割り、100を掛けることにより、特定の遺伝子座における十分にメチル化された分子の割合を計算した。PMR(メチル化された基準の割合)という略号を用い、この測定結果を示した。亜硫酸水素塩による処理の後、付随している異形成の状態がサンプル中でどうなっているかを知らない人が、上に説明したようにして、顕微解剖したパラフィン包埋サンプルに関するメチル化分析を行なった。
【0121】
表IIには、本発明のメチル化分析で用いたメチライト(商標)プライマーとプローブの配列(配列番号1〜65)を、Genbankの配列データに基づき(配列番号64と65は除く、下の説明を参照のこと)、リストにしてある。以下の3つのオリゴをすべての反応で用いた。すなわち、用いたのは、5’蛍光レポーター染料(6FAM)と3’クエンチャー染料(TAMTRA)を有する1つのオリゴヌクレオチド・プライマーが隣接した、遺伝子座特異的な2つのPCRプライマー(Livak他、PCR Methods Appl.、第4巻、357〜362ページ、1995年)である。各配列についてのGenbank登録番号を、この配列内の対応するPCRアンプリコンの位置とともにリストにしてある。メチライト・アンプリコンを含む200塩基対についてのGC含量%、CpGの観測値/期待値の比、CpG:GpCの比を、それぞれの遺伝子について示してある。反応のタイプは、メチル化反応については“M”で、対照反応については“C”で示してある。亜硫酸水素塩で処理したDNA鎖(上(“T”)と下(“B”))とアンプリコンの方向(平行(“P”)または反平行(“A”))も示してある。すべてのプライマーとプローブの配列を5’から3’の方向に示してある。それぞれのプライマーまたはプローブの配列の後ろにある括弧内の数字は、関係する配列番号に対応している。星印1つ(*)は、このGenbankの配列とは異なる塩基が2つ、われわれのCDKN2Aプライマーの中に存在していることを示す。そうなったのも、予備的ハイスループットGenbankの入力データが、出願人がプライマーを設計したときに利用できる唯一の配列だったからである。正しいプライマーは、以下のようでなければならない。順プライマーは、TGGAGTTTTCGGTTGATTGGTT(配列番号64)、逆プライマーは、AACAACGCCCGCACCTCCT(配列番号65)。Genbankの配列と異なる塩基に下線を施してある。星印2つ(**)は、開始部位がはっきりしていないことを意味する。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0122】
統計。統計処理をするため、以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)、メチライト(商標)により得られたPMR値(上の説明を参照のこと)を4PRMを境にして“2つに分けた”。2つに分けることにより、グラフ表示が容易になる。また、2つに分けることにより、高メチル化のレベルが異なる遺伝子座が数値に及ぼす影響が和らげられる結果、遺伝子相互間で高メチル化の頻度を比較するときの信頼性が高まる。特に、2つに分けることにより、各クラスでメチル化された遺伝子が数値に及ぼす影響が等しくなり、メチル化の頻度を遺伝子相互間で比較するのが容易になる。
【0123】
4PRMという二分点は、すべてのCpG島について正常な組織と悪性組織を最もよく区別できることから選択した(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。しかしこの明確な二分点は、統計に有意に影響することはなく、結論を変えることもないため、他の二分点も本発明の範囲に含まれる(下の説明を参照のこと)。
【0124】
そこで、4PRMまたはそれ以上のサンプルはメチル化されたとして値1を与え、4PRM未満のサンプルはメチル化されていないとして値0を与えた。次に、各クラス(下の“後成的遺伝子クラス”を参照のこと)、または全部で19の遺伝子についてメチル化された遺伝子の積算値を、サンプル数が均等でない場合に使用できるようにしたフィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定(SASスタットヴュー・ソフトウエア)における連続変数として用い、p値を得た。組織のタイプ、付随する異形成の存在、腫瘍のステージなどのさまざまなパラメータを名義変数として用いた。IMにおける高メチル化と、付随する異形成および/またはガンの存在に関する上記の“追試”研究におけるIMサンプルを、メチル化されたクラスA遺伝子が1個以下と2個以上の地点でさらに2つに分けた。次に、フィッシャーの検定を厳密に行なって統計的有意性を明らかにした。
【0125】
結果
CpG島の高メチル化とEACの進行。合計で20の遺伝子座についての、19の異なる遺伝子に付随する一群のCpG島のメチル化状態と、1つの非CpG島配列のメチル化状態とを、定量的ハイスループット・メチライト(商標)アッセイで分析した(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。メチル化反応の効率は、それぞれの分析においてメチル化されていない対照DNAとメチル化された対照DNAを含めることによって制御した(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。20種類の遺伝子は、腫瘍発生への関与が知られているという理由で、または他の腫瘍でメチル化されていることがわかっているという理由で選択した(表Iと上記の“定義”を参照のこと)。MTHFR遺伝子内に位置する1つの領域を、CpG島としての条件(上記の“定義”を参照のこと)を満たさない単一コピー配列のための“非CpG島”対照として含めた。島の外にあるCpGジヌクレオチドは、CpG島内のCpGジヌクレオチドとは異なり、おそらく普通にメチル化される。
【0126】
図1は、さまざまなステージにあるバレット食道および/またはそれに付随する腺ガンの患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子について、メチル化を定量分析したデータを示している。メチル化の分析は、メチライト・アッセイを利用して行なった(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。特定の遺伝子座において十分にメチル化された分子の割合(PMR=メチル化された基準の割合)は、サンプルの遺伝子/ACTB比を、SssIで処理した精子DNAの遺伝子/ACTB比で割り、その数値を100倍することによって計算した。次に、得られた値を4%PRMの位置で2つに分け、グラフを描きやすくするとともに、組織特異的パターンが明らかになるようにした。多数の正方形は、4通りのグレーで示した強度レベル(図1の最下部を参照のこと)のいずれかであり、それぞれ、PMRが4未満、4〜20、21〜50、51以上のサンプルを表わしている。なお、グレイが濃くなるほど、PMR値が大きくなっている。組織のタイプは左側に示してある。TNM病期分類を、“1”、“2”、“3”、“4”で表わしてある。異形成および/または腺ガンが離れた位置に発生した患者がいる場合には、図の右側に“はい”、いない場合には“いいえ”と表示してある。“N”は、その特定のサンプルの分析におけるメチル化反応については、対照とした遺伝子ACTBが1PMRという最小値を検出できるほど十分なレベルに達していなかったことを意味している。
【0127】
病気が重くなるにつれて、CpG島の高メチル化の頻度と定量的レベルが一般に増加していた。しかし遺伝子が異常にメチル化する傾向は一定ではなかった。遺伝子は、高メチル化の頻度とレベルの両方が組織ごとに異なっていた。
【0128】
したがって、本発明によれば、遺伝子は、メチル化の状態に基づいてクラス(図1の上部に示したようにクラスA〜G)に分けることができる。このようにすることで、腫瘍発生のさまざまなステージにおいて遺伝子がメチル化している様子を目で見て評価することができた。それぞれの遺伝子クラスについての説明は、以下のセクションで行なう。
【0129】
後成的遺伝子クラス。DNAのメチル化レベルが異なる複数の遺伝子の状態を合わせて分析すると、適切なデータ処理をしなければ、グループの振る舞いは、DNAのメチル化状態が高いレベルにある遺伝子に引っ張られて偏ることが予測される。例えば、ほとんどの腫瘍サンプルについて、遺伝子“クラスB”に関する平均値は、主としてTIMP3の値によって左右されよう。というのも、この遺伝子は、このグループ内の他の2つの遺伝子よりもメチル化の程度が大きい傾向があったからである(図1を参照のこと)。
【0130】
そこで、図1を作成するのに用いたメチル化値は、それぞれの後成的クラス内でメチル化された遺伝子が数値に及ぼす影響を等しくするため、4PMRという二分点を有する二値変数にした。4PMR以上のサンプルはメチル化されたとして値1を与え、4PRM未満のサンプルはメチル化されていないとして値0を与えた(上記“材料と方法”の中の“統計”を参照のこと)。このように2つに分けることにより、高度にメチル化された遺伝子の効果が和らげられ、図2に示したようにメチル化の頻度を遺伝子相互間で比較するのが容易になり、図3(下方の図)に示したように、メチル化の頻度のクラス平均を計算することが可能になる。
【0131】
図2は、各遺伝子についてメチル化されたサンプルの割合を組織のタイプごとに示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。遺伝子は、本発明により、図1に示したようにそれぞれの後成的遺伝子クラス(A〜G)に従ってグループ分けした。“n”は、各組織について分析したサンプルの数である。
【0132】
4PMRという二分点が適切であることは、図1〜図3に示したように、この点が組織のタイプを識別する能力を持っていることに基づいている(Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年も参照のこと)。高度にメチル化された遺伝子が統計に及ぼす効果を和らげ、遺伝子相互間のメチル化の頻度の比較が簡単にできるようにし、メチル化の頻度のクラス平均の計算を簡単にできるような他の二分点も本発明の範囲に含まれる。例えばデータを10PRMで二分する場合には、(19遺伝子のうちで)メチル化された遺伝子の割合の平均値を正常な食道粘膜とIM組織(p=0.0003)、DYS組織(p<0.0001)、T組織(p<0.0001)の間で比べると、やはり統計的に有意な差がある。
【0133】
さらに、付随した異形成を伴う、あるいは伴っていないNEとIM(以下の実施例3を参照のこと)のメチル化の頻度に関する統計的に有意な発見はすべて、二分点を4PRMではなく10PRMにしても有意なままである。4PRMは、単一のCpGジヌクレオチドの4%というメチル化レベルとは比較できないことに注目することが大切である。これは、このサンプルでは、DNA分子の4%が、3つのメチライト(商標)プライマーによってカバーされるすべてのCpGジヌクレオチド(通常は約8個のCpG)において完全にメチル化されていたことを示唆する。メチライト(商標)アッセイは、存在する可能性のある他のすべてのメチル化パターンを無視するという性質がある(Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。
【0134】
したがって4PRMは、メチル化の平均レベルが4%よりも大きいことを示している可能性が大きい。メチライト(商標)アッセイで調べる高度にメチル化された分子は、CpG島の高メチル化によって完全に不活性状態になった対立遺伝子を示している可能性が大きいが、これについてはこの明細書では触れなかった。
【0135】
20種類の遺伝子群のうち、もっとも多くの情報をもたらした遺伝子は、高メチル化の頻度が中間的な値の遺伝子である(4PRMというメチル化カットオフ値よりも大きいサンプルの数が15%(CDKN2A)から60%(MGMT)まで)。このグループは正常な食道粘膜および胃にメチル化がない(クラス“A”)、正常な食道粘膜および胃にメチル化がある(クラス“B”)、正常な食道粘膜ではメチル化があまり頻繁には起こっていないが、正常な胃のサンプルではすべてメチル化が起こっている(クラス“C”)に従い、さらに3つの後成的遺伝子クラスに分類することができた。他の遺伝子はより少ない情報しかもたらさなかった。というのも、高メチル化の発生は、非常に稀である(クラス“D”)、まったくない(クラス“E”)、組織のタイプに関係なくすべてにある(クラス“F”と“G”)という状態だったからである(図1、図2、図3)。
【0136】
後成的遺伝子クラスAには、CDKN2A、ESR1、MYOD1の遺伝子が含まれる(図1、図2、図3)。正常な食道(NE)では、IM組織と比較すると、メチル化の頻度に関する統計的に有意な差が、ESR1(p=0.0001)とMYOD1(p=0.0038)において存在していたが、CDKN2A(p=0.097)には存在していなかった。CDKN2Aのメチル化の頻度は、腺ガン(T)のさらに進んだステージで有意に増加した(p<0.0001)。
【0137】
後成的遺伝子クラスBには、CALCA、MGMT、TIMP3の遺伝子が含まれる。クラスAと比べると、このクラスは正常な食道粘膜(NE)と胃(S)の組織でメチル化を示す(図1と図2)。TIMP3だけが、メチル化の頻度に関してNE値とIM値の間で有意な差を示した(p=0.0074)。
【0138】
後成的遺伝子クラスCには、APCの遺伝子が含まれる。この遺伝子は、クラスAおよびクラスBの遺伝子とは異なり、正常な胃のサンプルすべてでメチル化されていた(図1と図2)。これは、正常な胃の組織でAPCがメチル化されているという以前の文献の結果を確認したことになっている(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。正常な胃の組織(S)ではなく正常な食道組織(NE)でAPCがメチル化されるのを防いでいるメカニズムははっきりしていない。
【0139】
後成的遺伝子クラスDには、あまりメチル化されていないARF、CDH1、CDKN2B、GSTP1、MLH1、PTGS2、THBS1の遺伝子が含まれる(図1と図2)。このクラスの遺伝子のメチル化の頻度は腺ガン(T)においてわずかに増加していたが、統計的に有意というほどではなかった(図3)。興味深いことに、他の系ではまだ調べられていないPTGS2を除き、クラスDのそれ以外の遺伝子は、他のタイプの腫瘍で高メチル化されていることがしばしばある。(表II)。
【0140】
後成的遺伝子クラスEには、EACが進行する各ステージでメチル化されていなかったCTNNB1、RB1、TGFBR2、TYMSの遺伝子が含まれる。クラスDのほとんどの遺伝子と同様、RB1とTGFBR2は、他のタイプの腫瘍で高メチル化されていることが見いだされた(表Iと、上記の“定義”に掲載した参考文献を参照のこと)。すべてのサンプルが、対照遺伝子(ACTB)と比較して、入れたDNAに対してプラスの反応を示したことに注目されたい。したがって、DNAのメチル化が検出されないのは、入れたDNAが不足していたからではありえない。対照反応はそれぞれのサンプルで十分に起こったため、テストする所定の遺伝子について、1PRMという低いレベルまで検出することができた。すべてのメチル化反応が完全で特異的であることは、インビトロでメチル化されたヒトDNAを用いて確認した。
【0141】
後成的遺伝子クラスFには、組織のタイプに関係なく完全にメチル化されたHIC1遺伝子が含まれる(図1と図2)。HIC1は、他のタイプのガンでも一般にメチル化されており(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)、乳ガン患者の正常な胸管組織やAML患者の骨髄サンプルでもメチル化されていることがわかっている(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Fujii他、Oncogene、第16巻、2159〜2164ページ、1998年)。しかし正常な組織のCpG島で100%メチル化されているという発見は予想外であった。したがって、HIC1に対するメチライト(商標)アッセイの結果の有効性は、別の方法(HpaII−PCR)(Singer−Sam他、Nucleic Acids Res.、第18巻、687ページ、1990年)で確認した。
【0142】
後成的遺伝子クラスGには、この明細書で対照として用いる非CpG島遺伝子MTHFRが含まれる。興味深いことに、100%の割合で見られるHIC1のメチル化パターンは、対照である非CpG島遺伝子MTHFR(クラスG)と似ているが、メチル化された分子の割合はHIC1のほうが量的に多い(図1)。
【0143】
EACの進行の後成的パターン。それぞれのタイプの組織は、病気の進行とともに変化する独特の後成的パターンまたはフィンガープリントを示した(図3の上方の図)。
【0144】
図3は、本発明による後成的パターンを比較した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。誤差を示す棒は、平均値の標準偏差を表わしている。上方の図:各遺伝子クラス(A〜F、または19あるCpG島の合計)においてメチル化された遺伝子の割合の平均値を組織のタイプ別(N、正常な食道;S、胃;IM、腸上皮化生;DYS、異形成;T、腺ガン)に示したもの。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。下方の図:遺伝子の各クラス(A〜F)と、19のCpG島をすべて合わせた場合(合計)につき、さまざまな組織でメチル化された遺伝子の割合の平均値の違いを統計的に分析した結果。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【0145】
クラスA、B、Cは、正常な食道粘膜(NE)よりもIM組織において有意に高い頻度でメチル化されていた(図3の上下の図)。さらに、IMから異形成(DYS)または悪性(T)への移行は、クラスAにおけるメチル化の増加と関係していた(図3の上下の図)。どの遺伝子クラスについても、また19種類の遺伝子をすべて合計した場合でも(図3の上下の図)、異形成と腺ガンの間に有意な差がない。これは、こうした異常な後成的変化のほとんどが、EACの進行の初期に起こることを示唆している。
【0146】
この実施例のまとめ。本発明によれば、バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンがさまざまなステージにある患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子(上記の表Iと表II)に関するメチル化の定量的データから、病気の段階が進むにつれてCpG島が高メチル化される頻度と程度が一般に大きくなることがわかった(上記の図1〜図3)。
【0147】
さらに、遺伝子を、腫瘍形成の間のメチル化の状態に基づき、新たな後成的クラスに分類した(図1〜図3に示したクラスA〜G)。こうすることにより、腫瘍発生のさまざまなステージにおいて異なる遺伝子が一斉にメチル化されている様子をグラフに表わすことができた。すると単に目で見るだけで簡単に評価することができる。
【0148】
それぞれのタイプの組織は、病気が進行するにつれて変化する後成的パターンまたはフィンガープリントを示した(図3の上方の図)。クラスA、B、Cは、正常な食道粘膜(NE)よりもIM組織において有意に高い頻度でメチル化されていた(図3の上下の図)。さらに、IMから異形成(DYS)または悪性(T)への移行は、クラスAにおけるメチル化の増加と関係していた(図3の上下の図)。
【0149】
実施例2
高メチル化は、EACの腫瘍の悪性度とステージを反映していた
この実施例では、食道腺ガンの悪性度またはステージが、CpG島の高メチル化の頻度が大きいほど進んでいることと相関しているかどうかを調べた。本発明によれば、EACの場合には、後成的遺伝子クラスAの遺伝子は、ステージII、III、IVの腫瘍のほうが、それよりも前のステージIの腫瘍よりも有意に多くメチル化されていることがわかる(図4)。
【0150】
材料と方法
TNM病期分類法。ガンに関するアメリカ両院合同委員会(“AJCC”)は、TNM(腫瘍:リンパ節転移、遠方転移)分類による病期分類を提示している。TNM病期分類法を用い、実施例1の組織からそれぞれの食道腺ガンのステージを分類した。
【0151】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、この明細書の実施例1のところで説明した。
【0152】
結果
クラスA遺伝子のメチル化の頻度は、腫瘍のステージが進むほど大きくなる。ある程度分化した腫瘍は、あまり分化していない腫瘍と比べてクラスA遺伝子のメチル化が有意に少ない(p=0.045)。しかも、図4(上下の図)から、ステージII、III、IVの腫瘍においては、それよりも前のステージIの腫瘍よりもメチル化されているクラスA遺伝子の平均数が有意に多いことがわかる。ステージIの腫瘍とステージII、III、IVの腫瘍の差は、他のどの後成的遺伝子クラスでも統計的に有意ではなかった。
【0153】
図4は、クラスA遺伝子のメチル化の頻度と腫瘍のステージの関係を、本発明に従って示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。上方の図:メチル化されたクラスA遺伝子の平均数を腫瘍のステージ(I〜IV)ごとに示したもの(図1を参照のこと)。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、腫瘍の各ステージについて分析したサンプルの数である。下方の図:腫瘍のステージそれぞれにつき、メチル化された遺伝子の数の平均値の違いを統計的に分析したもの。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【0154】
この実施例のまとめ。本発明によれば、発ガン的な進行を評価するのに後成的パターンまたはフィンガープリント(この明細書に記載した遺伝子クラスを含む)を利用できることに加え、メチル化されたクラスA遺伝子の平均数もEAC腫瘍の相対的ステージを評価するのに用いることができる。
【0155】
実施例3
付随する異形成を伴った、あるいは伴わない前ガン組織のメチル化
この実施例は、正常な食道(NE)におけるクラスB遺伝子のメチル化の頻度が、付随する異形成/腫瘍を伴った患者で有意に大きかったことを示している(p=0.0037)(図1)。さらに、クラスA遺伝子のメチル化は、異形成またはガンを伴っている患者からのIMサンプルにおいて、病気が以前よりも進行しているという何らの証拠もない患者からのIMサンプルにおけるよりも頻度が大きいことがわかった(p<0.0001)(図1と図5)。すなわち、IMサンプル中の後成的クラスAの遺伝子の高メチル化と、付随する異形成またはガンの存在の間には、有意に正の相関関係が存在していた(図5)。
【0156】
材料と方法
組織病理学。組織病理学的分類については、上記の実施例1の“材料と方法”で説明した。
【0157】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、実施例1で説明したのと同じである。
【0158】
結果
付随する異形成を伴った、あるいは伴わない前ガン組織のメチル化。本発明によれば、クラスAに関するいくつかのIMのケースとクラスBに関する正常な食道粘膜のいくつかのケースにおいてCpG島に高メチル化が起こっていることから、こうしたメチル化が、異形成のないこれらの組織における正常なメチル化パターンを表わしているのか、それとも病気をさらに進行させようとするメチル化の変化を反映しているのかという疑問が湧いた。後者の場合、すでに病気が進行した患者のこれら組織において、CpG島の高メチル化がより高い頻度で見いだされることが予測されよう。したがって、CpG島の高メチル化の頻度を、(この研究の)付随する異形成を伴った組織と付随する異形成を伴わない組織で比較した。
【0159】
最初の研究では、バレット食道(IM)が最も進行した段階であるかどうか、あるいは付随する異形成および/または腺ガンが食道の別の領域に存在しているかどうか(図1、“はい”、“いいえ”)に基づき、患者を分類した。実際には、正常な食道(NE)におけるクラスB遺伝子のメチル化の頻度は、付随する異形成を伴った患者において有意に大きかった(p=0.0037)(図1)。さらに、クラスA遺伝子のメチル化は、異形成またはガンを伴っている患者からのIMサンプルにおいて、病気が以前よりも進行しているという何らの証拠もない患者からのIMサンプルにおけるよりも頻度が大きいことがわかった(p<0.0001)(図1)。
【0160】
この分析に対して寄せられる可能性のある批判は、遺伝子のクラスを説明するのに臨床パラメータとの関係をテストするのに用いたのと同じサンプル群を用いているという点である。そこで、IMに関する別の20症例についての追試研究を、最初のデータ群とは完全に独立に実施した。
【0161】
20の症例に関するこの追試研究では、2つのグループからIMサンプルを採取した。1つは、最も進行した段階のIMだけを有する患者(8人)で、もう1つは、付随した異形成/腺ガンが食道の別の領域にあるIMを有する患者(12人)である。各サンプルについてH&Eスライド(5ミクロンの切片)を用意し、病理学者(K.W.)が検査してIM組織を確認し、異常のある位置を特定した。分析に用いたパラフィン・ブロック中に異形成または腺ガンの何らかの徴候が見られたケースをこの追試研究では除外した。5ミクロンのH&E切片に隣接する30ミクロンの切片から、IM組織を注意深く顕微解剖して他のタイプの細胞と分離した。サンプル中に存在する最高ステージの組織病理学的病巣に従ってすべてのサンプルを分類した。
【0162】
最初の研究により、病気がより進行したすべてのIMサンプル(“はい”)ではクラスAの少なくとも2つの遺伝子がメチル化されていたのに対し、付随する異形成または腺ガンがないすべてのIMサンプル(“いいえ”)ではクラスAのどの遺伝子もメチル化されていなかったことが明らかにされていた(図1、バレット食道(IM)の項)。したがって、クラスAの2つ以上の遺伝子がメチル化されているという状態は、付随する異形成または腺ガンが存在しているリスクが大きいことの指標であるとされた。
【0163】
われわれの最初の研究でのデータから、この関連性に関してフィッシャーの検定を厳密に行なったところ、p値が0.0048となった(図5、左図)。それとは独立な20症例での追試研究からは、p値として0.018が得られた(図5、右図)。
【0164】
図5は、付随する異形成および/または腺ガンを伴っている場合(“Y”)または伴っていない場合(“N”)について、腸上皮化生(“IM”)組織においてメチル化されているクラスAの2つ以上の遺伝子の割合を示している。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。左側の図:図1に示したIMに関するデータの中のクラスA遺伝子のメチル化。右側の図:顕微解剖した20の異なるIMサンプルに関して行なった完全に独立な追試研究におけるIM組織中のクラスA遺伝子のメチル化。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、それぞれの組織群について分析したサンプルの数である。
【0165】
したがって、クラスA遺伝子の高メチル化と、付随する異形成またはガンの存在の間には、有意な正の相関関係がある。この追試研究において、付随する異形成のないIMサンプル(図5、右図)の中で少なくとも2つの遺伝子がメチル化されているサンプルが、少ない頻度で存在していたことに注意されたい。これは、最初の研究でメチル化されたサンプルが存在していなかったことと対照的である(図1と、図5の左図)。このような結果になったのは、追試研究でのサンプルはパラフィン包埋切片から顕微解剖したからである可能性がある。したがって、サンプル中には、背景となるメチル化されていないストロマ細胞がより少ない。この場合、メチル化信号が他の正常な細胞によってそれほど弱められることはなく、したがって全DNAに対するメチル化された分子の比が4PRMという閾値を超える可能性がある。これ以外にも、内視鏡によるサンプル採取の限界のため、病気が以前と比べて進行していないと判定されたいくつかのケースにおいて、内視鏡検査の間に異形成またはガンの組織が見逃されていた可能性がある。これは、食道腺ガンの検出において詳しく報告されている問題である(Peters他、J. Thorac. Cardiovasc. Surg.、第108巻、813〜821ページ、1994年)。
【0166】
実施例4
EACに関しては、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)が存在する明らかな証拠はない
この実施例は、EACのこの研究に関し、直腸ガンと胃ガンで以前に明らかにされたように(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)、独立したCIMP腫瘍群が存在する明らかな証拠はないことを示している。しかしEACにおけるCpG島の高メチル化が、特定のサンプル中の多数の遺伝子座で実際に起こった。さらに、1つのサンプル中では、高メチル化された遺伝子座の数が、病気がさまざまな組織学的ステージを経て進行するにつれて増加した(図6)。IM組織において見られるピークが2つある分布(図6)は、上に説明したように、異形成またはガンも同時に発生していることで十分に説明できる。
【0167】
材料と方法
組織病理学。組織病理学的分類については、上記の実施例1の“材料と方法”で説明した。
【0168】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、実施例1で説明したのと同じである。
【0169】
結果
CIMP分析。直腸ガンと胃ガンの一部ではCpG島メチル化の表現型(“CIMP”)として、単一の腫瘍中の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲にわたる異常な高メチル化変化を特徴とする表現型が見られることが以前から報告されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。これは、一群の腫瘍でメチル化された遺伝子数の頻度が2つのピークを有する分布になることに反映されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年)。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子またはタイプCの遺伝子で対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、腫瘍形成の道筋として、はっきりと識別できる、新規だがすでに主要なものになっていると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。
【0170】
そこで、食道腺ガンにおいてCpG島メチル化の表現型(CIMP)が見られるかどうかという疑問を調べた。
【0171】
本発明のクラスAの遺伝子は、“タイプC”遺伝子の最もよい具体例となっている。というのも、正常な組織ではメチル化されていないからである。メチル化されたクラスA遺伝子の数の分布をEACについて調べた(図6)。
【0172】
図6は、本発明に従い、食道腺ガンの進行に伴うメチル化の頻度分布を調べたグラフである。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。それぞれの組織においてメチル化されたCpG島の数が0〜3(クラスA)、0〜9(クラスA+D)、0〜14(クラスA+B+C+D)であった患者の割合が示してある。クラスEとクラスFのCpG島は含まれていない。というのも、組織間でメチル化の頻度に違いが見られなかったからである。“n”は、それぞれの組織について分析したサンプルの数である。
【0173】
しかし腺ガン組織中では、メチル化された遺伝子の頻度は、CIMPで予想される2つのピークを有する分布を示さなかった(図6)(Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。同様の結果が、クラスAに加えて、やはりタイプCのメチル化を示すクラスDの遺伝子を含めた場合(図6の真中の図)と、クラスA、B、C、Dの遺伝子を合計した場合(図6の右図)に観察された。クラスEとGの遺伝子は、組織のタイプが違ってもメチル化に変化がなかったので含めなかった。
【0174】
クラスA〜Dの14個の遺伝子のうちの10個がメチル化されたサンプルが1つあった(図1のケース3と図6)。しかしこのサンプルは、正常な食道粘膜においてメチル化されているためにCIMP表現型を構成する“タイプC”遺伝子の定義にあてはまらないクラスBの遺伝子を含めているから目立っているだけである。
【0175】
したがって、食道腺ガンに関するこの研究では、以前に直腸ガンと胃ガンで見られたような、独立したCIMP腫瘍群が存在する明らかな証拠は見つからなかった。
【0176】
しかしEACにおけるCpG島の高メチル化は、特定のサンプル中の多数の遺伝子座で実際に起こった。さらに、1つのサンプル中では、高メチル化された遺伝子座の数が、病気がさまざまな組織学的段階を経て進行するにつれて増加した(図6)。IM組織において見られるピークが2つある分布(図6)は、上で説明したように、異形成またはガンも同時に発生していることで十分に説明できる。
【0177】
実施例5
アレイまたはマイクロアレイに基づいた応用
マイクロアレイに基づいた実施態様も本発明の範囲に含まれる。例えば、アレイに基づいたそのような1つの実施態様では、ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション(“DMH”)が用いられている(Huang他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年;Yan他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年)。DMHにより、テストするサンプルと正常なサンプルをペアにしてスクリーニングしたり、特定の後成的変化のパターン(実施例1の“後成的パターン”を参照のこと)が、分析する組織サンプル中の病理学的パラメータと相関しているかどうかを明らかにしたりすることができる。これらサンプルに由来するメチル化されたCpG DNAのプールである“アンプリコン”(同上)は、本発明のCpG島タグを含むアレイ・パネルにおけるハイブリダイゼーション用のプローブとして用いられる。
【0178】
したがって、この明細書に開示した20種類の遺伝子配列のうちの19種類(すなわちAPC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS(上記の表Iと表II;上記の“定義”を参照のこと))またはこれら遺伝子がメチル化によって変化したDNA配列と関係するCpG島配列のうちの1または複数を、アレイまたはマイクロアレイに基づいたアッセイの実施態様におけるCpG島タグとして用いることができる。これら19種類の遺伝子配列領域は、配列番号1〜54、58〜60、64、65(上記の表IIを参照のこと;配列番号61〜63は、本発明の分析で用いるATCB“対照”遺伝子領域に対応する(上記の実施例1を参照のこと))に対応するオリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブによって規定される。関係したCpG島配列とは、(所定のCpG島の一部のメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づき)これらの特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0179】
次に、これらのCpG島タグを固体支持体(例えばナイロン膜、シリコンなど)上に配置し、検査用サンプル(例えば腫瘍)または基準サンプルからの、メチル化された一群のCpG DNAを表わすアンプリコンで調べる。スクリーニングされたCpG島に関する検査用サンプルと基準サンプルの信号強度の差は、検査用DNA中の対応する配列がメチル化により変化したことを反映している。
【0180】
得られたデータをこの明細書に開示した後成的パターンと比較すると、診断または予後予測ができる。
【0181】
したがって、この実施態様によれば、アレイまたはマイクロアレイを形成するために固体支持体に固定したCpG島タグの一部におけるパターン分析(上記の実施例1〜4を参照のこと)を利用して、ガンが進行するさまざまなステージ(例えば、胃腸異形成および食道異形成、胃腸上皮化生および食道上皮化生、バレット食道、正常な食道扁平粘膜上皮における前ガン状態)における進行状態を追試するとともに、食道腺ガンなどの腫瘍の組織学的悪性度またはステージを明らかにすることができる。
【0182】
本発明の他のアレイまたはマイクロアレイの実施態様は、当業者には明らかであろう。そのような実施態様としては、配列番号1〜54、58〜60、64、65(上記の表IIを参照のこと;配列番号61〜63は、本発明の分析で用いるATCB“対照”遺伝子領域に対応する(上記の実施例1を参照のこと))に対応する、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS(上記の表Iと表II;上記の“定義”を参照のこと)に対する特異的プライマーおよび/またはプローブが固体支持体上に配置されているものが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0183】
考察
ガンの検出、化学的予測、予後予測に関する新規でより感度の高い方法が、従来技術において要求されている。ガンなどの病気が進行する間に多数の遺伝子座で見られるCpG島のメチル化変化の新規なコーディネート・パターン(すなわち新規な後成的パターン)を明らかにすることが、従来技術において要求されている。特定の腫瘍に特異的で、個々の患者に特異的な後成的パターンまたはフィンガープリントを明らかにすることが、従来技術において要求されている。ガンの処置のための診断法および/または予後予測法で用いることができるバイオマーカーまたはプローブ、例えばEAC特異的なバイオマーカーまたはプローブが、従来技術において要求されている。食道腺ガンがCIMPを示すかどうかを明らかにすることが、従来技術において要求されている。腫瘍のステージを決定する新規な方法が、従来技術において要求されている。本発明は、これらの要求に対処しようとするものである。
【0184】
蛍光に基づいたハイスループットのメチル化アッセイ(メチライト(商標))を利用して、食道腺ガン(“EAC”)が進行する間の19のCpG島と1つの非CpG島の新規な高メチル化パターンを調べ、その特徴を明らかにした。そうすることにより、遺伝子を、さまざまなタイプの組織において見られる6通りの後成的パターンに分けた。これは、病気が進行するにつれて明確に異なる非常に多数の組織学的ステージを有するシステムに関してこれまでになされた最も包括的なメチル化検査である。さらに、DNAの異常な高メチル化に関するこの分析は、一般的な制限因子である汚染源となる正常細胞が存在している中での感度が、遺伝子発現分析などの他の方法におけるよりも大きいという顕著な利点を有する。
【0185】
この明細書に記載してあるように、DNAの高メチル化は、EACが多段階で進行していくときの初期の後成的変化である。前ガン性の腸上皮化生(“IM”またはバレット食道)は、正常な組織(正常な扁平粘膜上皮)よりもすでに有意に多くメチル化されている。本発明は、いくつかの実施態様において、この腫瘍系においてさらに5つの遺伝子(MYOD1、MGMT、CALCA、TIMP3、HIC1)で頻繁に高メチル化が起こっているという新たな発見を提供している。
【0186】
正常な組織のMGMT、TIMP3、HIC1でメチル化が観察されたのは、われわれがメチル化を分析したのが特別な遺伝子領域であったからである可能性がある(Stoger他、Cell、第73巻、61〜71ページ、1993年;Larsen他、Hum. Mol. Genet.、第2巻、775〜780ページ、1993年;Jones, P.A.、Trends Genet.、第15巻、34〜37ページ、1999年)。これら3つの遺伝子は、転写開始部位またはそれよりも下流に位置するCpG島において分析した(表II)。しかしこれではわれわれが観察したCALCAのメチル化を説明できない。というのも、われわれはこの遺伝子のプロモータ領域を分析したからである。CALCAのメチル化が低いレベルであることは、AML患者の骨髄サンプルで以前に報告されている(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年)。これは、この遺伝子座が、ガン患者の正常な組織の中ではよりメチル化されやすくなっていることを示唆している。
【0187】
特に指摘しておくべきなのは、ステージIの腫瘍よりも異形成組織で多くメチル化されている状態が、クラスA(p<0.0001)とクラスB(p=0.0174)の両方で見られることである(図1)。これは、遺伝子の異常(LOH、欠失、突然変異)が、ステージが進んだ異形成を有するバレット食道には存在するが、隣接する浸潤性EACには存在していないという発見(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年)と似ている。ステージII〜IVの腫瘍はクラスAの遺伝子に関して異形成と同じ頻度でメチル化されているように見えるため、ステージIの腫瘍は、実際には、異形成組織よりステージが進んだ腫瘍とは異なる原発巣から進展してきたか、あるいは異形成の後にクローンが増大する間にステージII〜IVの腫瘍とは独立に大きくなってきた可能性があることが示唆される。また、より可能性は小さいものの、ステージIの腫瘍では、高メチル化の一時的逆転が起こった可能性がある。バレット食道における腫瘍は、化生−異形成−腫瘍という直線的な多段階経路を通じてクローン化により進行していくことが提案されている(Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。しかし、遺伝子の変化が起こり、本発明により明らかにされたように直線的な順番でない後成的変化が起こるということは、クローン化によるEACの進行が元々予想されていたよりも複雑であることを示唆している(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年)。同様の観察結果が、膀胱ガンのさまざまなステージについて報告されている(Salem他、Cancer Res.、第60巻、2473〜2476ページ、2000年)。
【0188】
ここでの分析では、メチル化された10種類の遺伝子を有する腫瘍が1つあることは別にして、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)であることを示唆する、広範囲にわたる一斉メチル化が見られる独立の腫瘍群が存在しているというはっきりとした証拠はなかった。同様の結果が、CIMP(ガンではメチル化され、正常な組織ではメチル化されていない;Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)を特徴づける“タイプC”遺伝子を調べただけで得られた。興味深いことに、EACの“タイプC”遺伝子は、直腸ガンについて報告されている遺伝子とは異なっている(同上)。例えば、ESR1は、老人の正常な結腸上皮でしばしばメチル化されているため、直腸ガンでは“タイプC”遺伝子ではなく(老化した正常な組織でメチル化されている)“タイプA”遺伝子に分類される(同上)。しかし食道腺ガンでは、ESR1は明らかに“タイプC”遺伝子のように振る舞う。これは、高メチル化を測定するのに用いる方法の違いか、あるいはそれ以上に組織のタイプの違いが原因となっている可能性がある。
【0189】
本発明によれば、個々の遺伝子の高メチル化には組織特異的かつ腫瘍特異的な傾向がある。例えば、APCは正常な胃で高メチル化されているが、正常な食道粘膜では高メチル化されていない。高メチル化が腫瘍特異的であることは、胃ガンと肺ガンでしばしば高メチル化されている遺伝子TGFBR2、網膜芽繊維症でしばしば高メチル化されているRB1というクラスEの2つの遺伝子でメチル化が検出されないことに現われている(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Hougaard他、Br. J. Cancer、第79巻、1005〜1011ページ、1999年)。
【0190】
CpG島の高メチル化が腫瘍特異性を有するという事実は、食道腺ガンと他のタイプの腫瘍では異なっていて、腫瘍発生の間にこれらCpG島のメチル化の変化を制御している腫瘍特異的なトランス作用因子が存在する可能性があることを示唆している。また、食道腺ガンにおいてDNAのメチル化によりこれら遺伝子が不活性になることには、特別な利点がない可能性がある。これがあてはまる可能性のある2つのシナリオがある。1つは、問題の遺伝子が別の遺伝的メカニズムによって不活化されていて、高メチル化にはもはや特別な利点がない場合である。もう1つは、遺伝子がこの特別な腫瘍系で腫瘍抑制において役割を果たしていない場合である。
【0191】
DNAのメチル化状態が変化するのは腫瘍発生において一般的であるが、裏に隠れているメカニズムははっきりしていない。異常なメチル化が、少なくとも直腸ガンではDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の単なるアップレギュレーションにはよらないというのは、他の主要なプレイヤーが関与していることを示唆している(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年)。本発明は、こうした異常なメチル化の裏にあるプロセスを初めて覗き見るものである。
【0192】
本発明によれば、機能が互いに無関係のさまざまな遺伝子は、メチル化の変化に関しては、EACが進行しているさまざまな組織において、明確に異なるクラスの遺伝子として機能することができる。CpG島の高メチル化は、(確率的な要素があるにもかかわらず)確率的なプロセスではなく、複数の異なる変化を含む段階的なプロセスであるらしい。これは、CpG島が高メチル化されないようにするいくつかの異なるメカニズムが存在していることと両立する。このシナリオでは、異なるCpG島で一斉に見られる変化は、病気進行のさまざまな段階において異なるタイプの保護要素が失われた結果であろう。この発見は、遺伝子に対するCpG島の位置に依存しているようには見えない。というのも、プロモーターと内部CpG島の両方がすべての遺伝子クラスで観察されたからである。この分析において、GC含量%、CpGの観測値/予測値の比、CpG:GpC比を分析することによりこれらCpG島の構造上の特徴も調べたが、遺伝子クラスとの関係は見いだせなかった(表II)。
【0193】
本発明によれば、IMまたはNEのサンプル自体は、付随する異形成またはガンがある場合もない場合も、組織学的には識別できなかったが、分子レベルでは識別できた。離れた位置に異形成またはガンも同時に有する人に由来するNEサンプルとIMサンプルでは、CpG島の高メチル化が統計的に高い頻度で起こっている。この発見は、この明細書において、完全に独立な別の研究の中でIM組織において確認した。これは、後成的マーカー、特にクラスAとBの遺伝子を病気のスクリーニング・ツールとして、また病気がさらに進行していくことの予測をするマーカーとして用いる際の強い支持材料となる。
【0194】
本発明のメチル化パターンは、ガンを初期の段階で検出するための方法と組成物を提供する。ガンがあるかガンになるリスクが高いかを正常な組織および/または前ガン状態の組織を用いて明らかにするこのような分子診断法は、初期治療の機会を提供する。さらに、診断または予後予測のためのマーカーとしてCpG島の高メチル化を用いることの利点は、汚染源となる正常細胞を含むサンプル中では遺伝子発現のないこと(例えばLOHや欠失の分析)を明らかにするのが難しいのと異なり、高メチル化をプラスの信号として汚染源となる正常細胞中で容易に検出できることにある。
【0195】
要約
本発明によれば、研究した19のCpG島(表Iと表II)は、さまざまなタイプの組織で6通りの後成的パターンに分類される。それぞれの分類クラスは、EACが進行していくさまざまな段階で独特の後成的変化をする。これらメチル化パターンは、ガンを初期段階で検出するための方法と組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
さまざまな段階にあるバレット食道(“IM”)、異形成(“DYS”)および/またはそれに付随する食道腺ガン(“T”)の患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子について、メチル化を本発明に従って定量分析した図である。メチル化の分析は、メチライト(商標)アッセイを利用して行なった(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。特定の遺伝子座において十分にメチル化された分子の割合(PMR=メチル化された基準の割合)は、サンプルの遺伝子/ACTB比を、SssIで処理した精子DNAの遺伝子/ACTB比で割り、その数値を100倍することによって計算した。次に、(この明細書に説明してあるように)得られた数値を4%PRMの位置で2つに分け、グラフを描きやすくするとともに、組織特異的パターンが明らかになるようにした。“N”は、その特定のサンプルの分析におけるメチル化反応については、対照とした遺伝子ACTBが、1PMRという最小値を検出できるほど十分なレベルに達していなかったことを意味している。
【図2】
各遺伝子についてメチル化されたサンプルの割合を組織のタイプごとに示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。遺伝子は、本発明により、図1に示したようにそれぞれの後成的遺伝子クラス(A〜G)に従ってグループ分けした。“n”は、各組織について分析したサンプルの数である。
【図3】
本発明による後成的パターンを比較した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。誤差を示す棒は、平均値の標準偏差を表わしている。上方の図:各遺伝子クラス(A〜F、または19あるCpG島の合計)においてメチル化された遺伝子の割合の平均値を組織のタイプ別(N、正常な食道;S、胃;IM、腸上皮化生;DYS、異形成;T、腺ガン)に示したもの。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。下方の図:遺伝子の各クラス(A〜F)と、19のCpG島をすべて合わせた場合(合計)につき、さまざまな組織でメチル化された遺伝子の割合の平均値の違いを統計的に分析した結果。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(Statview:商標)ソフトウエア)。
【図4】
クラスA遺伝子のメチル化の頻度と腫瘍のステージの関係を、本発明に従って示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。上方の図:メチル化されたクラスA遺伝子の平均数を腫瘍のステージ(I〜IV)ごとに示したもの(図1を参照のこと)。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、腫瘍の各ステージについて分析したサンプルの数である。下方の図:腫瘍のステージそれぞれにつき、メチル化された遺伝子の数の平均値の違いを統計的に分析したもの。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【図5】
本発明に従い、腸上皮化生(“IM”)において、それに付随する異形成および/または腺ガンを伴っている場合(“Y”)または伴っていない場合(“N”)について、クラスAの2つ以上の遺伝子がメチル化されている割合を示している。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。左側の図:図1の中のIMに関するデータの中でメチル化されているクラスA遺伝子の割合。右側の図:顕微解剖した20の異なるIMサンプルに関する完全に独立な追試研究において、IM中でメチル化されているクラスA遺伝子の割合。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、それぞれの組織群について分析したサンプルの数である。
【図6】
本発明に従い、食道腺ガンの進行に伴うメチル化の頻度分布を調べたグラフである。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。それぞれの組織においてメチル化されたCpG島の数が0〜3(クラスA)、0〜9(クラスA+D)、0〜14(クラスA+B+C+D)であった患者の割合が示してある。クラスEとクラスFのCpG島は含まれていない。というのも、組織間でメチル化の頻度に違いが見られなかったからである。“n”は、それぞれの組織について分析したサンプルの数である。
〔発明の属する技術分野〕
関連出願の相互参照
本出願は、「EPIGENETIC SEQUENCES FOR ESOPHAGEAL ADENOCAR−CINOMA」という名称で2000年3月31日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願番号第06/193,839号に対する優先権を主張する。
【0002】
連邦政府から資金援助を受けた研究であることに関する宣言
この研究は、P.W.L.に対するNIH/NCI助成金R01 CA 75090の援助を受けた。アメリカ合衆国は、35U.S.C.§202(c)(6)に従い、本発明において所定の権利を有する。
【0003】
本発明の技術分野
本発明は、胃腸腺ガン、中でも食道腺ガン(“EAC”)の診断的または予後的なアッセイを提供する。さらに詳細には、本発明は、CpG島のメチル化状態を調べる標準的なメチル化アッセイによって検査で、且つ胃腸ガン、正常な扁平上皮細胞、およびEACの中の2つ以上の遺伝子の相対的メチル化状態を含んで成る多遺伝子後成的フィンガープリントまたはメチル化パターンを提供する。
【0004】
本発明の背景
DNAのメチル化とガン。DNAのメチル化パターンは、ヒトのガンにおいてしばしば変化している。これらのメチル化の変化には、ゲノム全体での低メチル化や、部分的高メチル化が含まれる(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年)。正常な組織ではCpG島は一般にメチル化されないが、ガン細胞における異常な高メチル化は、このCpG島においてしばしば起こる。プロモーターCpG島(すなわち遺伝子のプロモーター領域に位置するCpG島)の高メチル化は、ヒトの多くのタイプのガンにおける転写サイレンシングと関係している。
【0005】
遺伝子のメチル化パターンからは、ガン細胞に関するさまざまな種類の有用な情報を得ることができる。第1に、それぞれのタイプの腫瘍(すなわち乳ガン、結腸ガン、食道ガンなど)には、メチル化されやすい特徴的な遺伝子群がある(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)。例えばRB1は、網膜芽細胞腫で高メチル化されている(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Sakai他、Am. J. Hum. Genet.、第48巻、880〜888ページ、1991年)が、急性骨髄性白血病ではそうなっていない(KornblauとQiu、Leuk. Lymphoma、第35巻、283〜288ページ、1999年;Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年)ことが知られている。
【0006】
第2に、一人の患者の個々の腫瘍は、別の患者の同じタイプの腫瘍と比べると、その腫瘍の進行度を反映した独特な後成的フィンガープリントを持っている(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)。
【0007】
しかし一般には、ガンにおける後成的変化に関するほとんどの研究は、主として、ごく少数の既知の遺伝子群(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)、あるいは未知のCpG島の全体的分析(Costello他、Nat. Genet.、第24巻、132〜138ページ、2000年)に焦点を絞ったものであり、そのため、適切な診断法および/または予後予測法の枠組みは提供されていない。
【0008】
食道腺ガン(“EAC”)。食道腺ガン(“EAC”)は、正常な扁平粘膜上皮が化生によって特殊な柱状上皮(腸上皮化生(IM)またはバレット食道)になり、それが最終的には異形成へと進行し、その後に悪性腫瘍になるという多段階ステップを経て発症する(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年;Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。西洋諸国では過去30年間にEACの発生が急速に増えてきている(Devesa他、Cancer、第83巻、2049〜2053ページ、1998年;Jankowski他、Am. J. Pathol.、第154巻、965〜973ページ、1999年)。
【0009】
残念なことに、このモデルの後成的研究は、これまでのところ、数個の遺伝子についてのDNAメチル化分析に限られている(Wong他、Cancer Res.、第57巻、2619〜2622ページ、1997年;Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年;Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。
【0010】
CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)。結腸直腸腫瘍と胃腫瘍の一部には、CpG島メチル化のある表現型(“CIMP”)が見られることが以前に報告されており(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。この表現型は、1つの腫瘍の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲の異常な高メチル化という変化を特徴とする。これは、一群の腫瘍においてメチル化されている遺伝子の数の頻度分布が2つのピークを持つことに反映されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年)。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子、またはタイプCの遺伝子において対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、新規ではっきりと識別できる、しかし主要な腫瘍発生の経路であると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。
【0011】
しかし、EACの進行におけるCIMP経路の役割は、もし役割があるとしてのことだが、まだ明らかになっていない。というのも、これまでの後成的研究で分析されたのは、1つの遺伝子(Wong他、Cancer Res.、第57巻、2619〜2622ページ、1997年;Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年)、または数個の遺伝子(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)だけだからである。
【0012】
したがって、ガンの検出、化学的予測および予後予測に関する新規な方法が、当業界で要求されている。ガンなどの病気のさまざまな段階を経て進行する間に多数の遺伝子座で見られるCpG島メチル化の変化の新規なコーディネート・パターンを明らかにすることが、当業界で要求されている。特定の腫瘍に特異的で、しかも個々の患者に特異的な後成的パターンまたはフィンガープリントを明らかにすることが、当業界で要求されている。ガン処置のための診断法および/または予後予測法で利用できるバイオマーカーまたはプローブ、例えばEAC特異的なバイオマーカーまたはプローブが、当業界で要求されている。食道腺ガンでCIMPが見られるかどうかを明らかにすることが、当業界で要求されている。腫瘍のステージを決定する新規な方法が、当業界で要求されている。本発明は、これらの要求に対処するものである。
【0013】
本発明の要約
本発明は、組織サンプルからガンまたはガン関連疾患を診断する方法であって、(a)診断する検査組織または検査領域から組織サンプルを取得し、(b)その組織サンプルのメチル化アッセイを行なって、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFR、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列のメチル化状態を決定し、(c)少なくとも部分的に、上記ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいたガンの診断的または予後的な予測を行なうことを含んで成る方法を提供する。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列は、CpG島のゲノムCpG配列に対応していることが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、またはその一部によって規定される配列であることが好ましい。CpG島は、前記遺伝子のプロモーター領域に位置することが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、およびTYMSの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0014】
ゲノムCpG配列は、APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMT、TIMP3からなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列は、CpG島のゲノムCpG配列に対応することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列は、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列であることが好ましい。CpG島は、遺伝子のプロモーター領域に位置することが好ましい。APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列は、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0015】
好ましくは、ガンまたはガン関連疾患は、胃腸腺ガンまたは食道腺ガン、胃腸異形成または食道異形成、胃腸化成または食道化成、バレット腸組織、正常な食道扁平粘膜上皮の前ガン疾患、およびこれらの組み合わせからなるグループの中から選択される。ガンは食道腺ガンであることが好ましく、その場合、ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいてガンの診断または予後予測をすることにより、その腺ガンの悪性度またはステージを分類することが好ましい。
【0016】
ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイは、“メチライト(MethyLight:商標)”、Ms−SNuPE、MSP、COBRA、MCA、およびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択することが好ましい。
【0017】
ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイの少なくとも一部は、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するCpG配列を含んで成るアレイまたはマイクロアレイに基づいていることが好ましい。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、およびTYMSの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応することが好ましい。ここに、関係したCpG島配列とは、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列は、表IIに掲載した配列番号1〜60、64、65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列、あるいはこれらに対応する配列であることが好ましい。
【0018】
明らかにされるゲノムCpG配列のメチル化状態は、高メチル化、低メチル化、正常なメチル化のいずれかであることが好ましい。
【0019】
本発明は、ガンまたはガン関連疾患の診断または予後に有用なキットであって、(a)APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置する配列の任意の領域とハイブリダイズするプローブまたはプライマーを含む容器、および(b)メチル化されたCpGを含む核酸の検出の少なくとも一部を、このプローブまたはプライマーに基づいて行なうのに必要な追加の標準的メチル化アッセイ試薬、を含んで成る1または複数の容器を備える担持手段を含んで成るキットも提供する。追加の標準的メチル化アッセイ試薬は、“メチライト(商標)”、MS−SNuPE、MSP、COBRA、MCAおよびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した、メチル化アッセイを行なうための標準的な試薬であることが好ましい。上記プローブまたはプライマーは、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドを含んで成ることが好ましい。
【0020】
本発明はさらに、ガンまたはガン関連疾患の診断または予後に有用なキットであって、(a)配列番号1〜60、64、65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドからなる配列と、配列番号1〜54、58〜60、64および65と関係したCpG島配列内に位置する任意の配列とを含んで成る1または複数の容器を備える担持手段を有するキットも提供する。
【0021】
本発明の詳細な説明
定義:
“EAC”という語は食道腺ガンを意味するが、この語には、正常な扁平粘膜上皮が化生によって特殊な柱状上皮(腸上皮化生(IM)またはバレット食道)になり、それがついには異形成へと進行し、その後悪性腫瘍になるという多段階プロセスを経る食道腺ガンのさまざまな組織学的段階も含まれる(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年;Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。
【0022】
“CIMP”という語はCpG島メチル化の表現型を意味し、1つの腫瘍の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲の異常な高メチル化という変化を特徴とする。これは、一群の腫瘍(16)においてメチル化されている遺伝子の数の頻度分布が2つのピークを持つことに反映されている。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子、またはタイプCの遺伝子で対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、新規ではっきりと識別できるしかし主要な腫瘍発生経路であると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)(上記の“背景”を参照のこと)。
【0023】
“PMR”という語は、メチル化された基準の割合を意味し、以下の実施例1に記載したようにして計算する。
【0024】
“GC含量”は、特定のDNA配列内の[(C塩基の数+G塩基の数)/各断片のバンドの長さ]を意味する。
【0025】
“観測値/予測値の比”(“O/E比”)は、特定のDNA配列内のCpGジヌクレオチドの頻度を表わし、[CpG部位の数/(C塩基の数×G塩基の数)]×各断片のバンドの長さに対応する。
【0026】
“CpG島”は、(1)CpGジヌクレオチドの頻度が“観測値/予測値の比”>0.6に対応することと、(2)“GC含量”>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列を意味する。CpG島は、一般に、長さが約0.2kb〜約1kbであるが、常にそうであるとは限らない。本発明の特定の配列番号の配列と関係するCpG島の配列は、その特定の配列番号の配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含むとともに、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である。
【0027】
“メチル化状態”は、DNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドに5−メチルシトシン(“5−mCyt”)が存在しているか不在であるかを意味する。
【0028】
“高メチル化”は、テストするDNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−mCytの量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べて多いことに対応するメチル化状態を意味する。
【0029】
“低メチル化”は、テストするDNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−mCytの量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べて少ないことに対応するメチル化状態を意味する。
【0030】
“メチル化アッセイ”は、DNA配列内のCpGジヌクレオチドのメチル化状態を明らかにするための任意のアッセイを意味する。
【0031】
“MS.AP−PCR”(メチル化感受性のある任意のプライマーを用いたポリメーラーゼ連鎖反応)は、CpGジヌクレオチドを含むことが非常に確からしい領域に焦点を絞ってCGリッチなプライマーを用いてゲノム全体をスキャンすることのできる公知の方法である。これについては、Gonzalgo他、Cancer Research、第57巻、594〜599ページ、1997年に記載されている。
【0032】
“メチライト”は、蛍光に基づいたリアルタイムPCR法として公知であり、Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年に記載されている。
【0033】
“Ms−SNuPE”(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)は、GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年に記載されている公知のアッセイである。
【0034】
“MSP”(メチル化特異的PCR)は、Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0035】
“COBRA”(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)は、XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0036】
“MCA”(メチル化されたCpG島の増幅)は、Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年とWO 00/26401A1に記載されているメチル化アッセイである。
【0037】
“DMH”(ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション)は、Huang他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年とYan他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年に記載されている公知のメチル化アッセイである。
【0038】
遺伝子と関連参考文献:
“APC”は、大腸腺維症遺伝子である(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Hiltunen他、Int. J. Cancer、第70巻、644〜648ページ、1997年)。
【0039】
“ARF”は、P14の細胞周期を調節する腫瘍抑制遺伝子である(Esteller他、Cancer Res.、第60巻、129〜133ページ、2000年;RobertsonとJones、Mol. Cell. Biol.、第18巻、6457〜6473ページ、1998年)。
【0040】
“CALCA”は、カルシトニン遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Hakkarainen他、Int. J. Cancer、第69巻、471〜474ページ、1996年)。
【0041】
“CDH1”は、E−カドヘリン遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0042】
“CDKN2A”は、P16遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0043】
“CDKN2B”は、P15遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年)。
【0044】
“CTNNB1”は、β−カテニン遺伝子である。
【0045】
“ESR1”は、エストロゲン受容体α遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)。
【0046】
“GSTP1”は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼP1遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Tchou他、Int. J. Oncol.、第16巻、663〜676ページ、2000年)。
【0047】
“HIC1”は、ガン1において高メチル化されている遺伝子である(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Wales他、Nat. Med.、第1巻、570〜577ページ、1995年)。
【0048】
“MGMT”は、O6−メチルグアニン−DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子である(Esteller他、Cancer Res.、第59巻、793〜797ページ、1999年)。
【0049】
“MLH1”は、Mut Lホモログ1遺伝子である(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年;Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Esteller他、Am. J. Pathol.、第155巻、1767〜1772ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年)。
【0050】
“MTHFR”は、メチル−テトラヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子である(Pereira他、Oncol. Rep.、第6巻、597〜599ページ、1999年)。
【0051】
“MYOD1”は、筋原決定基1遺伝子である(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Cheng他、Br. J. Cancer、第75巻、396〜402ページ、1997年)。
【0052】
“PTGS2”は、シクロオキシゲナーゼ2遺伝子である(Zimmermann他、Cancer Res.、第59巻、198〜204ページ、1999年)。
【0053】
“RB1”は、網膜芽細胞腫遺伝子である(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Sakai他、Am. J. Hum. Genet.、第48巻、880〜888ページ、1991年)。
【0054】
“TGFBR2”は、トランスフォーミング増殖因子β受容体II遺伝子である(Kang他、Oncogene、第18巻、7280〜7286ページ、1999年;Hougaard他、Br. J. Cancer、第79巻、1005〜1011ページ、1999年)。
【0055】
“THBS1”は、トロンボスポンジン1遺伝子である(Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年;Li他、Oncogene、第18巻、284〜289ページ、1999年)。
【0056】
“TIMP3”は、メタロプロテアーゼ3組織インヒビター遺伝子である(Cameron他、Nat. Genet.、第21巻、103〜107ページ、1999年;Ueki他、Cancer Res.、第60巻、1835〜1839ページ、2000年;Bachman他、Cancer Res.、第59巻、798〜802ページ、1999年)。
【0057】
“TYMS1”は、チミジル酸シンターゼ遺伝子である(L. Herrera編、『家族性大腸腺種症』の中のSakamoto他、315〜324ページ、ニューヨーク:アラン・R. リス社、1990年)。
【0058】
概要
本発明は、多彩な遺伝子へのアプローチを含んでおり、遺伝子間で共通して見られるメチル化の状態に関して新規で治療に役に立つ見通しを与える。本発明の特別な実施態様では、食道腺ガン(EAC)の異なる組織学的ステージにおける新規な後成的フィンガープリントを提供する。
【0059】
より詳細には、本発明は、ターゲットを絞った方法と総合的な方法の両方の利点を合わせ持っており、定量的ハイスループット・メチル化アッセイである“メチライト(商標)”(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)を利用して異なる20種類の遺伝子を分析することにより、(i)食道腺ガン(EAC)におけるメチル化の変化の特徴をより詳細に明らかにすること;(ii)EACの異なる組織学的ステージについて後成的フィンガープリントを作ること;(iii)病気の診断および予防に有効な後成的バイオマーカーを同定すること;(iv)CIMPが食道腺ガンの腫瘍発生に関与しているかどうかを明らかにすることを実現する。
【0060】
バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンのステージが異なる51人の患者から採取した合計で104個の組織サンプルを分析した。中でも、これら組織サンプルのうちの84個につき20種類の遺伝子すべてのスクリーニングを行なったところ、異なる組織においてメチル化パターンがはっきりと異なることが明らかになった。
【0061】
本発明の目的にとって最も多くの情報をもたらした遺伝子は、有意な高メチル化の頻度が中間的な値の遺伝子である(すなわちサンプルの約15%(CDKN2A)から約60%(MGMT)の範囲の遺伝子)。このような遺伝子群は、さらに細かい3つのクラスに分類することができた。すなわち、(1)正常な食道粘膜および胃におけるメチル化がない(CDKN2A、ESR1、MYOD1)、(2)正常な食道粘膜および胃においてメチル化がある(CALCA、MGMT、TIMP3)、(3)正常な食道粘膜でメチル化があまり頻繁には起こっていないが、正常な胃のサンプルではすべてメチル化が起こっている(APC)という分類である。
【0062】
他の遺伝子は、これよりも情報が少なかった。というのも、組織のタイプに関係なく、高メチル化の頻度が約5%未満だった(ARF、CDH1、CDKN2B、GSTP1、MLH1、PTGS2、THBS1)か、高メチル化がまったくない(CTNNB1、RB1、TGFBR2、TYMS1)か、高メチル化が常に見られた(HIC1、MTHFR)からである。
【0063】
それぞれの遺伝子クラスは、EACの異なる進行段階において独特の後成的変化をしている。これは、CpG島が高メチル化されることに対する多重保護障壁が段階的に失われることと合致している。異常な高メチル化は、同じ組織の異なる多数の遺伝子座で起こる。これは、EACの腫瘍発生においてメチル化の制御が全体的に異常になることと合致している。しかし、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)が見られる腫瘍のグループを識別できるというはっきりとした証拠はなかった。
【0064】
さらに、異形成またはガンを伴っているという証拠のある患者から採取した正常組織および化生組織では、病気がもはや進行していない患者から採取した同様の組織におけるよりも高メチル化の程度が有意に大きかった。これら2つのグループの患者から採取したサンプルを組織学的に識別することはできないが、分子レベルでは識別できるという事実は、本発明により、そのような高メチル化の発生が、前ガン状態のバレット食道患者の中から病気がさらに進行するリスクを有する患者を同定するための臨床上の新規かつ有用なツールとなることを示唆している。
【0065】
表Iは、EACに関してメチライト(商標)アッセイにより分析した遺伝子の名称と機能のリストである。遺伝子は、HUGO(ヒトゲノム国際機構)によって与えられた名称に基づき、アルファベット順に掲載してある。遺伝子は、CpG島を有するかどうか、他の腫瘍においてメチル化することが知られているかどうかに従い、3つのグループに分類した。各遺伝子の機能に関する簡単な説明も記載してある。
【表1】
【表2】
【表3】
【0066】
ガンの診断法および予後予測法
本発明は、ここに示した20種類の遺伝子配列(APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFR;表Iと表IIを参照のこと;上記の“定義”を参照のこと)のうちの1または複数のメチル化状態、またはメチル化によってこれら遺伝子において変化したDNA配列を明らかにすることに基づいたガンの診断アッセイおよび予後予測アッセイを提供する。20種類あるこれら遺伝子配列領域は、配列番号1〜60、64、65(以下の表IIを参照のこと)に対応するオリゴマー・プライマーおよびプローブによって規定される。配列番号61〜63は、この分析で用いるACTB“対照”遺伝子領域に対応する(以下の実施例1を参照のこと)。
【0067】
さらに、20種類あるこれら遺伝子配列領域のうちの19種類は、その遺伝子の(GC含量とO/E比に基づいた)CpG島またはCpG領域に対応する;19種類の遺伝子とは、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSである(上記の表Iを参照のこと)。したがって、所定のCpG島の一部におけるメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づくと、本発明にはさらに、(ガンの診断および予後予測への応用においては、配列番号1〜60、64、65に対応するプライマーおよびプローブ(以下の表IIを参照のこと)によって規定される)これら19種類の遺伝子配列領域と関係する19の完全なCpG島の中にある任意の配列の新規な使用法も含まれている。ここに、これら19種類の遺伝子配列と関係するCpG島配列は、これら19種類の遺伝子配列のうちの1つの少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0068】
一般に、このようなアッセイには、検査組織から組織サンプルを採取し、その組織サンプルに由来するDNAについてメチル化アッセイを行なってそのDNAに付随するメチル化状態を明らかにし、その結果に基づいて診断または予後予測をする操作が含まれる。
【0069】
メチル化アッセイは、DNAサンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドのメチル化状態を明らかにするのに用いる。本発明によれば、可能なメチル化状態としては、正常な状態(すなわちガンでない対照の状態)と比べて高メチル化の状態と低メチル化の状態がある。高メチル化と低メチル化は、検査サンプルのDNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドにおける5−メチルシトシン(“5−mCyt”)の量が、正常な対照DNAサンプル中の対応するCpGジヌクレオチドにおいて見られる5−mCytの量と比べてそれぞれ多いこと、少ないことに対応するメチル化状態を意味する。
【0070】
診断または予後予測の少なくとも一部は、ガンでない正常な組織から得られた対照データと比較することによって明らかになる、サンプルのDNA配列のメチル化状態に基づく。
【0071】
メチル化アッセイの方法
メチル化アッセイの方法はさまざまなものが従来技術で知られており、本発明でも利用することができる。これらアッセイにより、DNA配列内の1つまたは複数のCpGジヌクレオチド(例えばCpG島)のメチル化状態を明らかにすることができる。このようなアッセイとしては、特に、亜硫酸水素塩で処理したDNAのシークエンシング、(配列特異的な増幅を行なうための)PCR、サザンブロット分析、メチル化感受性制限酵素の利用などの方法が挙げられる。
【0072】
例えばDNAのメチル化パターンと5−メチルシトシンの分布を分析するためのゲノム・シークエンシングは、亜硫酸水素塩処理を行なうことにより簡単になった(Frommer他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)。さらに、亜硫酸水素塩を使用して変換したDNAから増幅したPCR産物を制限酵素で消化させる。この方法は、例えばサルディとホーンズビー(Nucl. Acids Res.、第24巻、5058〜5059ページ、1996年)によって、あるいはCOBRA(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)(XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年)として記載されている。
【0073】
“メチライト(商標)”(蛍光に基づいたリアルタイムPCR法)(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年)、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長(“Ms−SnuPE”;GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年)、メチル化特異的PCR(“MSP”;Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号)、メチル化されたCpG島の増幅(“MCA”;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年)などのアッセイは、単独で、あるいは他の方法と組み合わせて利用することが好ましい。本発明のさまざまな実施態様で用いることのできるメチル化アッセイとしては、以下のアッセイが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0074】
COBRA(亜硫酸水素塩と制限酵素を組み合わせた分析)。COBRA分析は、少量のゲノムDNA中の特定の遺伝子座におけるDNAのメチル化レベルを明らかにするのに有用な定量的メチル化アッセイである(XiongとLaird、Nucleic Acids Res.、第25巻、2532〜2534ページ、1997年)。一言で述べるならば、制限酵素による消化を利用して、亜硫酸水素ナトリウムで処理したDNAのPCR産物中にある、メチル化に依存した配列の違いを明らかにする。メチル化に依存した配列の違いは、フロマー他(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)によって記載された方法に従って標準的な亜硫酸水素塩で処理することにより、ゲノムDNAにまず最初に導入される。次に、亜硫酸水素塩で変換したこのDNAを、興味の対象であるCpG島に特異的なプライマーを用いてPCR増幅した後、制限エンドヌクレアーゼで消化させ、電気泳動をかけ、標識された特異的ハイブリダイゼーション・プローブを用いて検出する。元のDNAサンプル中のメチル化レベルは、消化されたPCR産物と消化されなかったPCR産物の相対量により、幅広いDNAメチル化レベルにわたって定量的に一次式で表現される。さらに、この方法は、顕微解剖したパラフィン包埋組織サンプルから得られるDNAに安心して適用することができる。COBRA分析のための(例えばCOBRAに基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)一般的な試薬としては、特定の遺伝子のためのPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);制限酵素と適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーション用オリゴ;対照ハイブリダイゼーション用オリゴ;オリゴ・プローブのためのキナーゼ標識キット;放射性ヌクレオチド(蛍光法やリン光法など、公知の他の標識法も用いることができる)などが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。さらに、亜硫酸水素塩による変換のための試薬としては、DNA変性用緩衝液;スルホン化用緩衝液;DNA再生用の試薬またはキット(例えば、沈殿、限外濾過、アフィニティ・カラム);脱スルホン化用緩衝液;DNA再生成分などが挙げられる。
【0075】
Ms−SnuPE(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)。Ms−SnuPE法は、DNAを亜硫酸水素塩で処理した後、単一ヌクレオチド・プライマーにより伸長させることに基づいて特定のCpG部位におけるメチル化の違いを評価する定量的方法である(GonzalgoとJones、Nucleic Acids Res.、第25巻、2529〜2531ページ、1997年)。一言で述べるならば、ゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムと反応させてメチル化されていないシトシンをウラシルに変換し、その一方で5−メチルシトシンは変化させずにそのままにしておく。次に、亜硫酸水素塩で変換したDNAに対して特異的なPCRプライマーを用いて望む標的配列を増幅し、得られた産物を単離し、それを興味の対象であるCpG部位におけるメチル化分析のための鋳型として用いる。少量のDNA(例えば顕微解剖した病理切片)を分析することができるため、CpG部位におけるメチル化状態を明らかにするのに制限酵素を利用せずにすむ。(例えばMs−SnuPEに基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)Ms−SnuPE分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子用のPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;ゲル抽出キット;正の制御用プライマー;特定の遺伝子用のMs−SnuPEプライマー;(Ms−SnuPE反応用の)反応緩衝液;放射性ヌクレオチドなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。さらに、亜硫酸水素塩による変換のための試薬としては、DNA変性用緩衝液;スルホン化用緩衝液;DNA再生のための試薬またはキット(例えば、沈殿、超濾過、アフィニティ・カラム);脱スルホン化用緩衝液;DNA再生成分などが挙げられる。
【0076】
MSP(メチル化特異的PCR)。MSPにより、メチル化感受性制限酵素を使用するかどうかには関係なく、CpG島内のほとんどすべてのCpG部位群のメチル化状態を評価することができる(Herman他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、9821〜9826ページ、1996年とアメリカ合衆国特許第5,786,146号)。一言で述べるならば、メチル化されているシトシンを除き、亜硫酸水素ナトリウムを用いてメチル化されていないすべてのシトシンをウラシルに変換することによりDNAを変化させた後、メチル化されていないDNAではなくメチル化されたDNAに対して特異的なプライマーを用いて増幅する。MSPは、ほんの少量のDNAしか必要とせず、所定のCpG島遺伝子座の0.1%メチル化された対立遺伝子に対して感受性があり、パラフィン包埋サンプルから抽出したDNAに対して実行することができる。(例えばMSPに基づいた典型的なキットに見られるような)MSP分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子用のメチル化された、またはメチル化されていないPCRプライマー(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島);最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;特異的なプローブなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0077】
MCA(メチル化されたCpG島の増幅)。MCA法は、ゲノムDNA中の変化したメチル化パターンをスクリーニングし、その変化に関係した特別な配列を単離するのに用いることのできる方法である(Toyota他、Cancer Res.、第59巻、2307〜2312ページ、1999年)。一言で述べるならば、シトシンのメチル化に対する認識部位での感受性が異なる複数の制限酵素を用い、原発腫瘍、細胞系、正常な組織からのゲノムDNAを消化させた後、AP−PCR増幅を行なう。PCR産物を高分解能ポリアクリルアミドゲル上で分離した後、メチル化の程度が異なる断片をクローニングし、配列を決定する。次に、クローニングした断片をプローブとして用いてサザンブロット分析を行ない、これら断片のメチル化の違いを確認する。(例えばMCAに基づいた典型的なキットに見られるような)MCA分析のための典型的な試薬としては、ゲノムDNAに自由に結合するPCRプライマー;PCR緩衝液とヌクレオチド、制限酵素と適切な緩衝液;遺伝子ハイブリダイゼーション用のオリゴまたはプローブ;対照ハイブリダイゼーション用のオリゴまたはプローブが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0078】
DMH(ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション)。DMHは、アレイに基づいた公知のメチル化アッセイであり、フアン他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年とヤン他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年に記載されている。DMHにより、ガン細胞系のCpG島の高メチル化をゲノム全体でスクリーニングすることができる。一言で述べるならば、CpG島のタグを固体支持体(例えばナイロン膜、シリコンなど)上に配置し、検査サンプル(例えば腫瘍)または基準サンプルからのメチル化されたCpG DNAである“アンプリコン”を用いて調べる。スクリーニングされたCpG島アレイに関して検査サンプルと基準サンプルの間に見られる信号強度の差は、検査用DNA中の対応する配列がメチル化により変化したことを反映している。
【0079】
メチライト(商標)。好ましい実施態様では、メチライト(商標)アッセイを用いて1または複数のCpG配列のメチル化状態を明らかにする。メチライト(商標)アッセイは、PCRステップの後にさらに操作を行なう必要のない、蛍光に基づいたリアルタイムPCR(タックマン(商標))法を利用したハイスループットの定量的メチル化アッセイである(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。一言で述べるならば、メチライト(商標)法は、ゲノムDNAの混合サンプルを用意し、それを標準的な方法に従って亜硫酸水素ナトリウムと反応させて変換し(亜硫酸水素塩プロセスによって、メチル化されていないシトシン残基がウラシルに変換される)、メチル化に依存した違いを有する配列が混合したプールにする。次に、蛍光に基づいたPCRを、“偏りのない”(既知のCpGメチル化部位と重なっていないプライマーを用いた)PCR反応として、または“偏りのある”(既知のCpGジヌクレオチドと重なったPCRプライマーを用いた)反応として行なう。配列の識別は、増幅プロセスまたは蛍光検出プロセスにおいて、あるいはその両方においてなされる可能性がある。
【0080】
メチライト(商標)アッセイは、ゲノムDNAサンプル中のメチル化パターンの定量的検査に用いることができる。この場合には、配列の識別は、プローブがハイブリダイゼーションするときになされる。この定量的方法では、PCR反応により、特定の推定メチル化部位と重なる蛍光プローブの存在下で、偏りのない増幅が行なわれる。入れたDNAに対する偏りのない対照は、プライマーとプローブのいずれもCpGジヌクレオチドとまったく重なっていない反応によって与えられる。また、ゲノムのメチル化に関する定性的検査は、偏りのあるPCRプールを、既知のメチル化部位を“カバー”していない対照オリゴヌクレオチド(蛍光に基づいた“MSP”法)と結合させることによって、またはメチル化部位の可能性がある部位をカバーしているオリゴヌクレオチドと結合させることによって実現される。
【0081】
メチライト(商標)プロセスは、増幅プロセスにおいて“タックマン(TaqMan:商標)”プローブとともに用いることができる。例えば、二本鎖ゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムで処理し、次いでタックマン(商標)プローブを用いて2通りあるPCR反応の一方を行なう;例えば、偏りのあるプライマーとタックマン(商標)プローブを用いるか、あるいは偏りのないプライマーとタックマン(商標)プローブを用いる。タックマン(商標)プローブは、蛍光性“レポーター”分子と“クエンチャー”分子で二重に標識されており、比較的GC含量の多い領域に対して特異的になるよう設計されているため、PCRサイクルにおいて順プライマーまたは逆プライマーよりも約10℃高い温度で溶解する。そのため、タックマン(商標)プローブは、PCRのアニーリング/伸長ステップを通じ、完全にハイブリダイズしたままになる。Taqポリメラーゼという酵素はPCRの間に新しい鎖を合成するため、場合によってはアニールされたタックマン(商標)プローブに達することがある。次に、Taqポリメラーゼの5’→3’エンドヌクレアーゼ活性により、タックマン(商標)プローブが消化されて蛍光性レポーター分子が放出される。そのため、リアルタイム蛍光検出システムを用いて、今やクエンチされていない信号を定量的に検出することができる。
【0082】
(例えばメチライト(商標)に基づいた典型的なメチル化キットに見られるような)メチライト(商標)分析のための典型的な試薬としては、特定の遺伝子(またはメチル化によって変化したDNA配列またはCpG島)のためのPCRプライマー;タックマン(商標)プローブ;最適化されたPCR緩衝液とデオキシヌクレオチド;Taqポリメラーゼなどが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。メチライト(商標)アッセイの異なる4つの方法(“A”から“D”)に関しては、後に詳しく説明する。定量的メチライト(商標)プロセス“B”を利用することが好ましい。
【0083】
メチル化された核酸をメチライト(商標)に基づいて検出することは比較的迅速にでき、その検出は、特異的オリゴヌクレオチド・プローブが増幅により置換されることに基づいている。好ましい実施態様では、増幅と検出は、実際には、特異的な二重標識タックマン(商標)オリゴヌクレオチド・プローブを用いて蛍光に基づいたリアルタイム定量的PCR(“RT−PCR”)により測定を行なうとき、同時に行なわれる。その後に何らかの操作をすることも分析することも必要ない。この置換可能なプローブは、修飾されていない元の核酸サンプル中に存在するメチル化されたCpG部位とメチル化されていないCpG部位を識別できるように特別な設計にすることができる。
【0084】
メチライト(商標)は、メチル化特異的PCR法(“MSP”;アメリカ合衆国特許第5,786,146号)と同様、メチル化パターンを明らかにする上で、従来のPCRに基づいた方法やその他の方法(例えばサザンブロット分析)よりも有意に優れている。メチライト(商標)は、サザンブロット分析よりも実質的に高感度であり、メチライト(商標)を用いると、非常に少数の核酸サンプル中やパフィン包埋サンプル中のメチル化された少数(少ない割合)の対立遺伝子を容易に検出できる。さらに、ゲノムDNAの場合には、分析できるのがメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼによって認識されるDNA配列だけではないため、CpGリッチな領域のより広い範囲にわたってメチル化パターンを細かくマッピングすることができる。メチライト(商標)を使用しなかったならば、従来のPCRに基づいたメチル化法では不可避なメチル化感受性制限酵素による不完全な消化の結果として偽の結果が生じる可能性があるが、メチライト(商標)を使用すると、偽の結果をすべて排除することができる。
【0085】
メチライト(商標)は、メチル化の量を測定する定量的方法として利用することができ、しかも他の方法よりも実質的に早い。メチライト(商標)は、PCR後の操作または処理をまったく必要としない。そのため、亜硫酸水素塩で処理したDNAの分析に関係する仕事を大きく減らせるだけでなく、PCR産物を取り扱うことで後に実施する反応を汚染させる可能性を避けることもできる。
【0086】
一実施態様では、メチライト(商標)を利用することにより、修飾されていない元のDNA配列内のどのCpG配列もカバーしないプライマーを用いて、可能なあらゆるメチル化状態を偏りなく増幅する。すべてのメチル化パターンが同等に増幅されるからには、DNAのメチル化パターンに関する定量的情報は、配列の違いを検出することのできる任意の方法(例えば蛍光に基づいたPCR)によって、得られたPCRプールから取り出されることになる。
【0087】
メチライト(商標)では、1つまたは複数のCpG特異的タックマン(商標)プローブを利用しており、それぞれのタックマン(商標)プローブが、所定の増幅されたDNA領域中の特定のメチル化部位に対応している。次に、変化した単一のDNAサンプルについての複数のアリコートを用いた並列増幅反応においてこのプローブ群を利用し、修飾されていない元のゲノムDNAサンプル中に存在しているすべてのメチル化パターンを同時に明らかにする。これは、ゲノムDNAサンプルを直接シークエンシングするよりも少ない時間と費用で実現され、しかも実質的に感受性がより大きい。さらに、メチライト(商標)の一実施態様では、このようなメチル化パターンを定量的に評価することができる。
【0088】
本発明は、この明細書に記載してあるように、さまざまなメチル化アッセイを利用して実施することができる。メチライト(商標)の実施態様に関しては、メチル化に依存した核酸修飾試薬(例えば亜硫酸水素塩)を用いて核酸サンプル(例えばゲノムDNAサンプル)中のCpGのメチル化状態を定性的かつ定量的に明らかにする4つの方法と、その方法に関係した診断キットがある。これら4つの方法をこの明細書ではプロセス“A”、プロセス“B”、プロセス“C”、プロセス“D”として説明する。結局、メチル化されたCpG配列の識別が、増幅段階またはプローブのハイブリダイゼーション段階で、あるいはその両方でなされるように設計する。例えばプロセスCとDでは、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる“偏りのある”プライマーを用いることで、PCR増幅の段階でメチル化されたCpG配列を識別する。プロセスBでは、修飾された核酸を偏りなしに増幅するために(CpGメチル化部位をカバーしていない)“偏りのない”プライマーを用いるが、プローブとしては、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できるプローブを用い、検出段階で(例えば蛍光(または発光)プローブのハイブリダイゼーション段階でだけ)メチル化されたCpG配列を定量的に識別する。プロセスAそれ自体は、増幅段階でも検出段階でもメチル化されたCpG配列を識別しないが、入れたDNAに対する対照反応を提供することによって他の3つの方法の裏付けを与えてそれらの方法を意味あるものにする。
【0089】
メチライト(商標)プロセスD。本発明によるメチライト(商標)の第1の実施態様では、メチル化されたCpGを含む核酸を定性的に検出する方法であって、核酸を含むサンプルを、メチル化されていないシトシンを修飾する修飾剤と接触させて、変換された核酸を生成させ;特異的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション・プローブの存在下で、2つのオリゴヌクレオチド・プライマーを用いてこの変換された核酸を増幅し(プライマーとプローブの両方とも、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる);増幅によるプローブの置換に基づいて、“メチル化された”核酸を検出する操作を含む方法が提供される。
【0090】
この明細書で用いる“修飾する”という用語は、修飾剤を用いてメチル化されていないシトシンを別のヌクレオチドに変換することを意味する。この変換によって、元の核酸サンプル中でメチル化されていないシトシンがメチル化されたシトシンから識別される。修飾剤は、メチル化されていないシトシンをウラシルに変化させることが好ましい。メチル化されていないシトシンを変化させるのに用いる修飾剤は亜硫酸水素ナトリウムであることが好ましいが、メチル化されていないシトシンを選択的に変化させるがメチル化されたシトシンは変化させない他の等価な修飾剤も、本発明の方法で代わりに用いることができる。亜硫酸水素ナトリウムは、メチル化されたシトシンとは反応せずにシトシンの5, 6−二重結合と簡単に反応してスルホン化されたシトシン中間体を生成させる。この中間体は、アルカリ条件のもとで脱アミノ化反応によりウラシルになる。Taqポリメラーゼはウラシルをチミンとして認識し、5−メチルシチジン(m5C)をシチジンとして認識するため、亜硫酸水素ナトリウムによる処理とPCR増幅を順番に組み合わせることにより、最終的に、メチル化されていないシトシン残基はチミンに変換され(C→U→T)、メチル化されたシトシン残基(“mC”)はシトシンに変換される(mC→mC→C)。したがってゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムで処理すると、メチル化されていないシトシンがウラシルに変換されることにより、メチル化に依存した配列の違いが生まれ、PCRを行なうと、得られた産物は、修飾されていない核酸内でメチル化されたシトシンが生成される位置だけにシトシンを含むようになる。
【0091】
この明細書で用いるオリゴヌクレオチド“プライマー”とは、修飾された核酸または修飾されていない核酸に相補的な鎖と配列特異的なハイブリダイゼーション(アニーリング)をすることのできる、直線状で一本鎖になったオリゴマーのデオキシリボ核酸分子またはリボ核酸分子を意味する。特異的プライマーは、この明細書で用いられているように、DNAであることが好ましい。本発明のプライマーには、適切な配列で十分な長さがあり、増幅プロセスにおいて重合(プライマーの伸長)を特異的かつ効果的に開始させるオリゴヌクレオチドが含まれる。本発明の方法で用いられているように、オリゴヌクレオチド・プライマーは、一般に、12〜30個またはそれ以上のヌクレオチドを含んでいるが、ヌクレオチドの数はそれよりも少なくてもよい。プライマーは18〜30個のヌクレオチドを含んでいることが好ましい。正確な長さは、(増幅中の)温度、緩衝液、ヌクレオチドの組成など、多くの因子に依存するであろう。プライマーは一本鎖であることが好ましいが、二本鎖のプライマーも、鎖が最初に分離するのであれば用いることができる。プライマーは、適切な任意の方法を用いて調製することができる。例えば、従来のホスホトリエステル法、ホスホジエステル法や、従来技術でよく知られている自動化された方法がある。
【0092】
この明細書に記載した本発明の実施態様におけるように、特異的プライマーは、興味の対象であるゲノム遺伝子座の各鎖と実質的に相補的になるように設計することが好ましい。一般に、一方のプライマーは、遺伝子座のマイナス(−)鎖(水平に置いた二本鎖DNA分子の“下方の”鎖)と相補的であり、他方のプライマーは、プラス(+)鎖(“上方の”鎖)と相補的である。プロセスDの実施態様で用いられているように、プライマーは、DNAがメチル化される可能性のある部位(CpGヌクレオチド)と重なるように設計し、修飾されたメチル化されていないDNAをメチル化されたDNAから特異的に識別できるようにすることが好ましい。この配列識別は、完全に一致したオリゴヌクレオチドと一致しないオリゴヌクレオチドでアニーリング温度に差があることに基づいていることが好ましい。プロセスDの実施態様では、プライマーは、一般に、1〜数個のCpG配列と重なるように設計する。プライマーは、1〜5個のCpG配列と重なるように設計することが好ましく、非常に好ましいのは1〜4個のCpG配列と重なることである。対照的に、本発明の実施例における定量的実施態様では、プライマーはどのCpG配列とも重なっていない。
【0093】
十分に“メチル化されていない”(修飾されたメチル化されていない核酸鎖と相補的な)プライマー・セットの場合には、アンチセンス・プライマーは、対応する(−)鎖配列内にグアノシン残基(“G”)の代わりにアデノシン残基(“A”)を含んでいる。アンチセンス・プライマー中の置換されたこれらA残基は、メチル化されていないC残基(“C”)を亜硫酸水素塩で変化させた後に増幅を行なうことによって生成する対応する(+)鎖領域であり、ウラシル残基およびチミジン残基(“U”と“T”)と相補的になるであろう。この場合、センス・プライマーは、アンチセンス・プライマー伸長産物と相補的になるよう設計し、対応する(+)鎖配列内のメチル化されていないC残基の代わりにT残基を含むようにすることが好ましい。このセンス・プライマー中の置換されたこれらT残基は、元の(+)鎖の中の修飾されたC(U)残基と相補的な位置においてアンチセンス・プライマー伸長産物中に組み込まれたA残基と相補的になるであろう。
【0094】
十分にメチル化された(メチル化されたCpGを含む核酸鎖と相補的な)プライマーの場合には、アンチセンス・プライマーは、元の(+)鎖中のメチル化されたC残基(すなわちmCpG配列)と相補的な対応する(−)鎖配列内にG残基の代わりにA残基を含むことはなかろう。同様に、この場合には、センス・プライマーは、対応する(+)鎖のmCpG配列中にあるメチル化されたC残基の代わりにT残基を含むことはなかろう。しかし十分にメチル化されたプライマーによってカバーされる領域内のCpG配列中に存在しておらず、しかもメチル化されていないC残基は、メチル化されていないプライマーについて上で説明したように、十分にメチル化されたプライマー・セットの中に含まれるであろう。
【0095】
プロセスDの実施態様におけるように、増幅プロセスにより、特異的オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーション・プローブの存在下で、亜硫酸水素塩で変換された核酸を2つのオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて増幅することが好ましい。プライマーとプローブの両方とも、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できる。さらに、“メチル化された”核酸の検出は、増幅により得られるプローブの蛍光に基づいている。一実施態様では、蛍光は、ポリメラーゼ酵素の5’→3’エキソヌクレオチド活性によってプローブが分解されることによって発生する。別の実施態様では、蛍光は、2つの互いに隣接したハイブリダイゼーション・プローブ(ライトサイクラー(Lightcycler:商標))の間で、またはハイブリダイゼーション・プローブとプライマーの間で蛍光エネルギーが移動することによって発生する。別の実施態様では、蛍光は、プライマー自身から発生する(サンライズ(Sunrise:商標)法)。増幅プロセスは、オリゴヌクレオチド・プライマーを用いた酵素による連鎖反応であることが好ましく、この連鎖反応により、標的となる遺伝子座から、関係する反応ステップの数からして指数関数的な量の増幅産物を生成させる。
【0096】
上で説明したように、プライマー・セットのうちの一方は(−)鎖と相補的であり、他方は(+)鎖と相補的である。プライマーは、興味の対象となる増幅領域、すなわち“アンプリコン”を挟むように選択する。標的となる変性した核酸にプライマーをハイブリダイズさせた後、DNAポリメラーゼとヌクレオチドを用いてプライマーを伸長させると、アンプリコンに対応する新しい核酸鎖が合成される。DNAポリメラーゼは、従来技術で一般に用いられているTaqポリメラーゼであることが好ましい。しかし、5’→3’ヌクレアーゼ活性を有する同等なポリメラーゼを代わりに使用することもできる。新しいアンプリコンの配列もプライマーおよびポリメラーゼの鋳型であるため、変性、プライマーのアニーリング、伸長というサイクルを繰り返すことにより、アンプリコンが指数関数的に生成される。連鎖反応の産物は、アンプリコン配列に対応していて、端部が、使用した特異的プライマーの端部によって決まる別々の核酸のコピーである。利用する増幅法は、PCR法(Mullis他、Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol.、第51巻、263〜273ページ;Gibbs、Anal. Chem.、第62巻、1202〜1214ページ、1990年)であることが好ましいが、それよりも好ましいのは、従来技術でよく知られている、この方法を自動化した方法である。
【0097】
メチル化に依存した配列の違いは、蛍光に基づいた定量的PCR法(リアルタイム定量的PCR、Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年;Gibson他、Genome Res.、第6巻、995〜1001ページ、1996年)(例えば“タックマン(商標)”法、“ライトサイクラー(商標)”法、“サンライズ(商標)”法)で検出することが好ましい。タックマン(商標)法とライトサイクラー(商標)法の場合には、配列の識別は、(1)増幅ステップと(2)蛍光検出ステップという2つのステップの一方または両方においてなされうる。サンライズ(商標)法の場合には、増幅ステップと蛍光検出ステップが一致している。FRETハイブリダイゼーションの場合には、ライトサイクラー(商標)に関するプローブのフォーマットとして、配列の違いを識別するためにFRETオリゴヌクレオチドの一方または両方を用いることができる。非常に好ましい増幅法は、この明細書に記載した本発明のすべての実施態様で用いられているように、二重標識した蛍光オリゴヌクレオチド・プローブを利用した、蛍光に基づいたリアルタイム定量的PCR法(Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年)である(ABIプリズム7700配列検出システム(パーキン・エルマー・アプライド・バイオシステムズ社、フォスター・シティ、カリフォルニア州)を使用したタックマン(商標)PCR)。
【0098】
“タックマン(商標)”PCR反応では、ペアの増幅用プライマーと、タックマン(商標)プローブと呼ばれる、応答を引き出すための伸長不能なオリゴヌクレオチドとを用いる。このプローブは、順プライマーと逆プライマー(すなわちセンス・プライマーとアンチセンス・プライマー)の間に位置するGCリッチな配列とハイブリダイズするよう設計されている。タックマン(商標)プローブは、さらに、蛍光性“レポーター部分”と、タックマン(商標)オリゴヌクレオチドのヌクレオチドに結合しているリンカー部分(例えばホスホラミダイト)と共有結合する“クエンチャー部分”とを備えている。適切なレポーター分子とクエンチャー分子の具体例としては、5’蛍光レポーター染料6FAM(“FAM”;2, 7−ジメトキシ−4, 5−ジクロロ−6−カルボキシ−フルオレセイン)、TET(6−カルボキシ−4, 7, 2’, 7’−テトラクロロフルオレセイン)、3’クエンチャー染料TAMRA(6−カルボキシテトラメチルローダミン)(Livak他、PCR Methods Appl.、第4巻、357〜362ページ、1995年;Gibson他、Genome Res.、第6巻、995〜1001ページ、1996年;Heid他、Genome Res.、第6巻、986〜994ページ、1996年)が挙げられる。
【0099】
適切なタックマン(商標)プローブを設計する1つの方法では、“プライマー・エクスプレス(Primer Express)”などの支援用ソフトウエア・ツールを用いる。この“プライマー・エクスプレス”は、特異的配列(AT塩基対と比べてCG塩基対は結合が強い)であるために、またはプライマーの長さのために(プライマーの融点と比べて)融点に少なくとも10℃の違いを与えるGCリッチな配列内のCpG島の位置に関する変数を決定することができる。
【0100】
タックマン(商標)プローブは、本発明のどの方法を利用するかに応じ、既知のCpGメチル化部位をカバーしている場合としていない場合が可能である。プロセスDの実施態様では、タックマン(商標)プローブは、1〜5個のCpG配列を重ねることにより、修飾されたメチル化されていない核酸と修飾されたメチル化された核酸を識別できるように設計することが好ましい。十分にメチル化されていないプライマー・セットと十分にメチル化されたプライマー・セットについて上に説明したように、タックマン(商標)プローブは、修飾されていない核酸と相補的になるように、あるいは適切な塩基置換により、亜硫酸水素塩処理で変換した配列と相補的になるように設計することができる。なお亜硫酸水素塩処理で変換した配列は、修飾されていない元の核酸サンプル中で十分にメチル化されていない配列か、十分にメチル化されている配列である。
【0101】
タックマン(商標)PCR反応におけるそれぞれのオリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブは、0個から異なる多数個のCpGジヌクレオチドにまたがることが可能であるため、それぞれ、亜硫酸水素塩処理の後に、2つの異なる配列となることができる(mCpGまたはUpG)。例えば、1つのオリゴヌクレオチドが3つのCpGジヌクレオチドにまたがっている場合、ゲノムDNAに生じる可能な異なる配列の数は、23=8種類である。順プライマーと逆プライマーのそれぞれが3つのCpGジヌクレオチドにまたがっており、プローブ・オリゴヌクレオチド(またはFRETフォーマットの場合には両方のオリゴヌクレオチド)が別の3つのCpGジヌクレオチドにまたがっている場合、配列の組み合わせの合計数は8×8×8=512通りになる。理論上は、これら512通りの配列それぞれの相対量を定量的に分析するのに別々のPCR反応を設計することができよう。実際には、メチル化に関する定量的情報のほとんどは、はるかに少数の異なる配列を分析することで得られる。したがって、最も単純な形態として、仮想的な実施例における最も極端な配列である、十分にメチル化された配列と十分にメチル化されていない配列に対する反応を設計することによって、本発明の方法を実施することができる。これら2つの反応の比、またはメチル化された配列の反応と対照反応(プロセスA)の比から、この遺伝子座におけるDNAメチル化レベルの指標が得られよう。
【0102】
プロセスDのメチライト(商標)の実施態様におけるメチル化の検出は、この明細書に記載した他のメチライト(商標)の実施態様におけるのと同様、増幅によるプローブの置換に基づいている。理論上は、プローブの置換プロセスは、プローブをそのままにするか、あるいはプローブを消化させるように設計することができる。プローブの置換は、この明細書におけるのと同様、増幅中にプローブの消化によって起こることが好ましい。PCRサイクルの伸長段階において、蛍光ハイブリダイゼーション・プローブを、DNAポリメラーゼの5’→3’ヌクレアーゼ活性によって開裂させる。プローブが開裂すると、レポーター部分の放出はもはやクエンチャー部分に効果的には伝わらないため、518nmにおけるレポーター部分の蛍光放出スペクトルが大きくなる。クエンチャー部分(例えばTAMRA)の蛍光強度は、PCR増幅の間を通じてほんのわずかしか変化しない。タックマン(商標)PCR反応の効率にはいくつかの因子が影響を与える可能性がある。そのような因子としては、例えば、磁性や塩の濃度;反応条件(時間と温度);プライマーの配列;PCRの標的のサイズ(すなわちアンプリコンのサイズ)と組成などがある。所定のゲノム遺伝子座について最適の蛍光強度を得るためにこれらの因子を最適化する方法は、PCRの当業者には明らかであるが、好ましい条件をこの明細書の“実施例”においてさらに詳しく説明する。アンプリコンのサイズは、50〜8,000塩基対またはそれ以上が可能であるが、これよりも短くてもよい。一般に、アンプリコンは100〜1,000塩基対であり、好ましいのは100〜500塩基対である。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスDはプロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0103】
メチライト(商標)プロセスC。メチライト(商標)プロセスを変更し、PCR産物の検出段階で配列を識別することを回避できる。そこで、追加の定性的方法では、プライマーだけがCpGジヌクレオチドをカバーするように設計し、増幅段階においてだけ配列が識別されるようにする。この実施態様で用いるプローブはやはりタックマン(商標)プローブであるが、このプローブは、修飾されていない元の核酸中に存在するどのCpG配列とも重ならないように設計することが好ましい。プロセスCのこの実施態様は、MSP法をハイスループットで蛍光に基づいたリアルタイムの方法にしたものであり、メチル化されたCpG配列を検出するのに必要な時間を短くすることによって顕著な改善が達成されている。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスCは(下に示す)プロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0104】
メチライト(商標)プロセスB。本発明の好ましい実施態様では、やはりメチライト(商標)プロセスを変更し、PCR産物の検出段階で配列を識別することを回避できる。定量的プロセスBの一実施態様では、プローブだけがCpGジヌクレオチドをカバーするように設計し、プローブのハイブリダイゼーション段階においてだけ配列が識別されるようにする。タックマン(商標)プローブを使用することが好ましい。その場合、もともと増幅に偏りがあるのでない限り、亜硫酸水素塩による変換ステップで生成されるさまざまな配列が同じ効率で増幅される(Warnecke他、Nucleic Acids Res.、第25巻、4422〜4426ページ、1997年)。特定の1つのメチル化パターンに関係する異なる配列のそれぞれについて別々のプローブを設計すると(例えば3個のCpGの場合には23=8個のプローブ)、いろいろなPCR産物が混合したプール内のそれぞれの配列の相対的割合を定量的に決定することができよう。反応は、96ウエルの光学トレイおよびキャップと、配列検出装置(ABIプリズム)とを用いてPCR増幅を行なうことによりリアルタイムで監視し、PCR増幅中の熱サイクルにおける96ウエルすべての蛍光スペクトルを連続的に測定できるようにすることが好ましい。入れる核酸の量を制御し、トレイごとのデータを規格化するため、プロセスBは下に示すプロセスAと合わせて実行することが好ましい。
【0105】
メチライト(商標)プロセスA。メチライト(商標)プロセスAそれ自体は、増幅段階でも検出段階でもメチル化されたCpG配列を識別しないが、入れたDNAの対照反応を提供することによって他の3つの方法の裏付けを与えてそれらの方法を意味あるものにするとともに、トレイごとのデータを規格化する。したがって、プライマーとプローブのいずれもどのCpGジヌクレオチドとも重なっていない場合には、反応は偏りのない増幅であり、蛍光に基づいた定量的リアルタイムPCRを利用した増幅の測定結果は、入れたDNAの量に対する対照となる。プロセスAは、増幅プロセスによる亜硫酸水素塩による処理が何らかの差をもたらすことを回避できるよう、プライマーおよびプローブ中にCpGジヌクレオチドがないだけでなく、アンプリコンにもCpGをまったく含んでいないことが好ましい。プロセスAのためのアンプリコンは、遺伝子増幅や遺伝子欠失などでコピー数がしばしば変化することのないDNA領域であることが好ましい。
【0106】
定性的メチライト(商標)法(プロセス“B”の実施態様)で得られた結果を以下の実施例で説明する。ヒトの腫瘍に関する多数のサンプルをこの方法で分析し、良好な結果を得た。
【0107】
ガンの診断法および予後予測法と、そのためのキット
一般に、本発明の診断法および/または予後予測法には、検査組織から組織サンプルを取得し、その組織サンプルに由来するDNAについてメチル化アッセイを行なって付随するメチル化状態を明らかにし、その結果に基づいて診断または予後予測を行なう操作が含まれる。
【0108】
好ましい実施態様では、ガンの診断法および予後予測法は、配列番号1〜60、64、65(以下の表IIを参照のこと)に対応するオリゴマー・プライマーおよびプローブによって規定されるここに示した20種類の遺伝子配列(APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFR、またはメチル化によってこれら遺伝子において修飾されたDNA配列)のうちの1または複数のメチル化状態を明らかにすることに基づいている。配列番号61〜63は、この分析で用いるACTB“対照”遺伝子領域に対応する(以下の実施例1を参照のこと)。
【0109】
さらに、所定のCpG島の一部におけるメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づくと、この明細書で用いるAPC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSに関係するCpG島の他の配列領域に対応する他のプライマーまたはプローブも用いることができる。
【0110】
そこで、公知の1または複数のメチル化アッセイ(上に説明したものも含む)を実行するのに必要な試薬をこのようなプライマーおよび/またはプローブ、またはその一部と組み合わせ、CpGを含む核酸のメチル化状態を明らかにする。
【0111】
例えば、メチライト(商標)、Ms−SNuPE、MCA、COBRA、MSPというメチル化アッセイを単独で、あるいは組み合わせ、配列番号1〜65の配列またはその一部を含むプライマーまたはプローブを使用することで、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS、MTHFRに対応する20種類の遺伝子配列領域のうちの1または複数の中にあるCpGジヌクレオチドのメチル化状態、あるいはこれら20種類の配列領域のうちの19種類(すなわちMTHFRを除くすべて)の場合には、これら配列に付随する他のCpG島配列のメチル化状態を明らかにする。なお、これら19種類の遺伝子配列に関係する他のCpG島配列は、これら19種類の遺伝子配列領域のうちの1つの少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0112】
実施例1
EACの進行とともに増加するCpG島の高メチル化
この実施例では、合計で20の遺伝子座の発ガンに関与することが知られているか、あるいは他の腫瘍でメチル化されていることが明らかになっているということで選んだ19の異なる遺伝子(表Iと上記の“定義”を参照のこと)と関係したCpG島のメチル化状態と、1つの非CpG島配列(MTHFR対照配列)のメチル化状態の分析結果を示す。
【0113】
バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンがさまざまなステージにある患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子に関するメチル化の定量的データから、病気のステージが進むにつれてCpG島が高メチル化される頻度と程度が一般に大きくなることがわかった。そこで、組織ごとに、高メチル化の頻度と程度の両方に基づき、遺伝子をメチル化状態に従って異なるクラスに分けた(図1)。
【0114】
材料と方法
サンプルの採取と組織病理学的検査。腺ガンになっているか、IMが最も進んだ段階にある、合計で51人の患者(年齢は39歳〜86歳)から、多数の組織サンプル(正常な食道(NE)、正常な胃(S)、腸上皮化生(IM)、異形成(DYS)および/または腺ガン(T))を採取した。
【0115】
分析した最初のサンプル群は31人の患者から採取したバイオプシー用組織である。採取してすぐに分割し、各サンプルの一部を液体窒素にただちに浸して凍らせ、パラフィン中に埋めた。それを病理学者(K.W.)が組織病理学的に調べた。すべての患者について、病気になっている領域から正常な食道の組織を10cmまたはそれ以上採取した。診断がはっきりしない場合には、凍らせた組織の凍結切片の検査を行なった。接合部を胃粘膜の皺の近位縁であると定義すると、ガンの中心が解剖学的な胃食道接合部よりも上である場合には、ガンの原発部位の分類を食道にした。TNM病期分類を用いて各腺ガンのステージを分類した。
【0116】
20の症例について追試研究を行なうため、第2のサンプル群を採取した。2種類のIMサンプル群を採取した。一方のサンプル群は、最も進行したステージのIMだけを有する患者(8人)からのものであり、他方のサンプル群は、IMとそれに付随した異形成/腺ガンが食道の別の領域にある患者(12人)からのものである。各サンプルについてH&Eスライド(5ミクロンの切片)を用意し、病理学者(K.W.)が検査してIM組織を確認し、異常のある位置を特定した。分析に用いたパラフィン・ブロック中に異形成または腺ガンの何らかの徴候が見られたケースをこの追試研究では除外した。5ミクロンのH&E切片に隣接する30ミクロンの切片から、IM組織を注意深く顕微解剖して他のタイプの細胞と分離した。サンプル中に存在する最も進行した組織病理学的病変がどのステージにあるかに従って、すべてのサンプルを分類した。この研究に関しては、南カリフォルニア大学ケック医学部の審査委員会から承認を得た。
【0117】
核酸の単離。簡単化したプロテイナーゼK消化法により、凍らせたバイオプシー用組織からゲノムDNAを単離した(Laird他、Nucleic Acids Res.、第19巻、4293ページ、1991年)。パラフィン包埋組織からのDNAを一晩かけて50℃にて溶解用緩衝液(100mMのトリスHCl、pH8;10mMのEDTA;1mg/mlのプロテイナーゼK)中に抽出した(Shibata他、Am. J. Pathol.、第141巻、539〜543ページ、1992年)。
【0118】
亜硫酸水素ナトリウムによる変換。亜硫酸水素ナトリウムによるゲノムDNAの変換を、以前に報告されているようにして行なった(Olek他、Nucleic Acids Res.、第24巻、5064〜5066ページ、1996年)。ビーズを50℃にて14時間にわたって培養し、完全に変換されるようにした。亜硫酸水素ナトリウムによる処理は、メチル化されていないシトシンがウラシルに変換されるのに対し、メチル化されたシトシン残基はそのままになる(Frommer他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1827〜1831ページ、1992年)。
【0119】
メチライト(商標)分析。亜硫酸水素ナトリウムによる変換の後、この明細書に記載したようにして、また以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年;Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)、蛍光に基づいたリアルタイムPCRアッセイであるメチライト(商標)によりメチル化分析を行なった。亜硫酸水素塩で変換したDNAに対して特異的になるように設計したプライマーとプローブを2セット用いた。用いたのは、興味の対象である遺伝子用のメチル化されたセットと、入れたDNAに対する規格化用のβ−アクチン(ACTB)という基準セットである。ヒト精子のDNAと、SssI(ニュー・イングランド・バイオラブズ社)で処理した精子のDNA(高度にメチル化されている)とを用い、以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)、メチル化されたDNAに対する反応の特異性を別々に確認した。
【0120】
サンプルの遺伝子/ACTBの比を、SssIで処理した精子のDNAの遺伝子/ACTBの比で割り、100を掛けることにより、特定の遺伝子座における十分にメチル化された分子の割合を計算した。PMR(メチル化された基準の割合)という略号を用い、この測定結果を示した。亜硫酸水素塩による処理の後、付随している異形成の状態がサンプル中でどうなっているかを知らない人が、上に説明したようにして、顕微解剖したパラフィン包埋サンプルに関するメチル化分析を行なった。
【0121】
表IIには、本発明のメチル化分析で用いたメチライト(商標)プライマーとプローブの配列(配列番号1〜65)を、Genbankの配列データに基づき(配列番号64と65は除く、下の説明を参照のこと)、リストにしてある。以下の3つのオリゴをすべての反応で用いた。すなわち、用いたのは、5’蛍光レポーター染料(6FAM)と3’クエンチャー染料(TAMTRA)を有する1つのオリゴヌクレオチド・プライマーが隣接した、遺伝子座特異的な2つのPCRプライマー(Livak他、PCR Methods Appl.、第4巻、357〜362ページ、1995年)である。各配列についてのGenbank登録番号を、この配列内の対応するPCRアンプリコンの位置とともにリストにしてある。メチライト・アンプリコンを含む200塩基対についてのGC含量%、CpGの観測値/期待値の比、CpG:GpCの比を、それぞれの遺伝子について示してある。反応のタイプは、メチル化反応については“M”で、対照反応については“C”で示してある。亜硫酸水素塩で処理したDNA鎖(上(“T”)と下(“B”))とアンプリコンの方向(平行(“P”)または反平行(“A”))も示してある。すべてのプライマーとプローブの配列を5’から3’の方向に示してある。それぞれのプライマーまたはプローブの配列の後ろにある括弧内の数字は、関係する配列番号に対応している。星印1つ(*)は、このGenbankの配列とは異なる塩基が2つ、われわれのCDKN2Aプライマーの中に存在していることを示す。そうなったのも、予備的ハイスループットGenbankの入力データが、出願人がプライマーを設計したときに利用できる唯一の配列だったからである。正しいプライマーは、以下のようでなければならない。順プライマーは、TGGAGTTTTCGGTTGATTGGTT(配列番号64)、逆プライマーは、AACAACGCCCGCACCTCCT(配列番号65)。Genbankの配列と異なる塩基に下線を施してある。星印2つ(**)は、開始部位がはっきりしていないことを意味する。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0122】
統計。統計処理をするため、以前に報告されているようにして(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)、メチライト(商標)により得られたPMR値(上の説明を参照のこと)を4PRMを境にして“2つに分けた”。2つに分けることにより、グラフ表示が容易になる。また、2つに分けることにより、高メチル化のレベルが異なる遺伝子座が数値に及ぼす影響が和らげられる結果、遺伝子相互間で高メチル化の頻度を比較するときの信頼性が高まる。特に、2つに分けることにより、各クラスでメチル化された遺伝子が数値に及ぼす影響が等しくなり、メチル化の頻度を遺伝子相互間で比較するのが容易になる。
【0123】
4PRMという二分点は、すべてのCpG島について正常な組織と悪性組織を最もよく区別できることから選択した(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。しかしこの明確な二分点は、統計に有意に影響することはなく、結論を変えることもないため、他の二分点も本発明の範囲に含まれる(下の説明を参照のこと)。
【0124】
そこで、4PRMまたはそれ以上のサンプルはメチル化されたとして値1を与え、4PRM未満のサンプルはメチル化されていないとして値0を与えた。次に、各クラス(下の“後成的遺伝子クラス”を参照のこと)、または全部で19の遺伝子についてメチル化された遺伝子の積算値を、サンプル数が均等でない場合に使用できるようにしたフィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定(SASスタットヴュー・ソフトウエア)における連続変数として用い、p値を得た。組織のタイプ、付随する異形成の存在、腫瘍のステージなどのさまざまなパラメータを名義変数として用いた。IMにおける高メチル化と、付随する異形成および/またはガンの存在に関する上記の“追試”研究におけるIMサンプルを、メチル化されたクラスA遺伝子が1個以下と2個以上の地点でさらに2つに分けた。次に、フィッシャーの検定を厳密に行なって統計的有意性を明らかにした。
【0125】
結果
CpG島の高メチル化とEACの進行。合計で20の遺伝子座についての、19の異なる遺伝子に付随する一群のCpG島のメチル化状態と、1つの非CpG島配列のメチル化状態とを、定量的ハイスループット・メチライト(商標)アッセイで分析した(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。メチル化反応の効率は、それぞれの分析においてメチル化されていない対照DNAとメチル化された対照DNAを含めることによって制御した(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。20種類の遺伝子は、腫瘍発生への関与が知られているという理由で、または他の腫瘍でメチル化されていることがわかっているという理由で選択した(表Iと上記の“定義”を参照のこと)。MTHFR遺伝子内に位置する1つの領域を、CpG島としての条件(上記の“定義”を参照のこと)を満たさない単一コピー配列のための“非CpG島”対照として含めた。島の外にあるCpGジヌクレオチドは、CpG島内のCpGジヌクレオチドとは異なり、おそらく普通にメチル化される。
【0126】
図1は、さまざまなステージにあるバレット食道および/またはそれに付随する腺ガンの患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子について、メチル化を定量分析したデータを示している。メチル化の分析は、メチライト・アッセイを利用して行なった(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。特定の遺伝子座において十分にメチル化された分子の割合(PMR=メチル化された基準の割合)は、サンプルの遺伝子/ACTB比を、SssIで処理した精子DNAの遺伝子/ACTB比で割り、その数値を100倍することによって計算した。次に、得られた値を4%PRMの位置で2つに分け、グラフを描きやすくするとともに、組織特異的パターンが明らかになるようにした。多数の正方形は、4通りのグレーで示した強度レベル(図1の最下部を参照のこと)のいずれかであり、それぞれ、PMRが4未満、4〜20、21〜50、51以上のサンプルを表わしている。なお、グレイが濃くなるほど、PMR値が大きくなっている。組織のタイプは左側に示してある。TNM病期分類を、“1”、“2”、“3”、“4”で表わしてある。異形成および/または腺ガンが離れた位置に発生した患者がいる場合には、図の右側に“はい”、いない場合には“いいえ”と表示してある。“N”は、その特定のサンプルの分析におけるメチル化反応については、対照とした遺伝子ACTBが1PMRという最小値を検出できるほど十分なレベルに達していなかったことを意味している。
【0127】
病気が重くなるにつれて、CpG島の高メチル化の頻度と定量的レベルが一般に増加していた。しかし遺伝子が異常にメチル化する傾向は一定ではなかった。遺伝子は、高メチル化の頻度とレベルの両方が組織ごとに異なっていた。
【0128】
したがって、本発明によれば、遺伝子は、メチル化の状態に基づいてクラス(図1の上部に示したようにクラスA〜G)に分けることができる。このようにすることで、腫瘍発生のさまざまなステージにおいて遺伝子がメチル化している様子を目で見て評価することができた。それぞれの遺伝子クラスについての説明は、以下のセクションで行なう。
【0129】
後成的遺伝子クラス。DNAのメチル化レベルが異なる複数の遺伝子の状態を合わせて分析すると、適切なデータ処理をしなければ、グループの振る舞いは、DNAのメチル化状態が高いレベルにある遺伝子に引っ張られて偏ることが予測される。例えば、ほとんどの腫瘍サンプルについて、遺伝子“クラスB”に関する平均値は、主としてTIMP3の値によって左右されよう。というのも、この遺伝子は、このグループ内の他の2つの遺伝子よりもメチル化の程度が大きい傾向があったからである(図1を参照のこと)。
【0130】
そこで、図1を作成するのに用いたメチル化値は、それぞれの後成的クラス内でメチル化された遺伝子が数値に及ぼす影響を等しくするため、4PMRという二分点を有する二値変数にした。4PMR以上のサンプルはメチル化されたとして値1を与え、4PRM未満のサンプルはメチル化されていないとして値0を与えた(上記“材料と方法”の中の“統計”を参照のこと)。このように2つに分けることにより、高度にメチル化された遺伝子の効果が和らげられ、図2に示したようにメチル化の頻度を遺伝子相互間で比較するのが容易になり、図3(下方の図)に示したように、メチル化の頻度のクラス平均を計算することが可能になる。
【0131】
図2は、各遺伝子についてメチル化されたサンプルの割合を組織のタイプごとに示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。遺伝子は、本発明により、図1に示したようにそれぞれの後成的遺伝子クラス(A〜G)に従ってグループ分けした。“n”は、各組織について分析したサンプルの数である。
【0132】
4PMRという二分点が適切であることは、図1〜図3に示したように、この点が組織のタイプを識別する能力を持っていることに基づいている(Klump他、Gastroenterology、第115巻、1381〜1386ページ、1998年も参照のこと)。高度にメチル化された遺伝子が統計に及ぼす効果を和らげ、遺伝子相互間のメチル化の頻度の比較が簡単にできるようにし、メチル化の頻度のクラス平均の計算を簡単にできるような他の二分点も本発明の範囲に含まれる。例えばデータを10PRMで二分する場合には、(19遺伝子のうちで)メチル化された遺伝子の割合の平均値を正常な食道粘膜とIM組織(p=0.0003)、DYS組織(p<0.0001)、T組織(p<0.0001)の間で比べると、やはり統計的に有意な差がある。
【0133】
さらに、付随した異形成を伴う、あるいは伴っていないNEとIM(以下の実施例3を参照のこと)のメチル化の頻度に関する統計的に有意な発見はすべて、二分点を4PRMではなく10PRMにしても有意なままである。4PRMは、単一のCpGジヌクレオチドの4%というメチル化レベルとは比較できないことに注目することが大切である。これは、このサンプルでは、DNA分子の4%が、3つのメチライト(商標)プライマーによってカバーされるすべてのCpGジヌクレオチド(通常は約8個のCpG)において完全にメチル化されていたことを示唆する。メチライト(商標)アッセイは、存在する可能性のある他のすべてのメチル化パターンを無視するという性質がある(Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。
【0134】
したがって4PRMは、メチル化の平均レベルが4%よりも大きいことを示している可能性が大きい。メチライト(商標)アッセイで調べる高度にメチル化された分子は、CpG島の高メチル化によって完全に不活性状態になった対立遺伝子を示している可能性が大きいが、これについてはこの明細書では触れなかった。
【0135】
20種類の遺伝子群のうち、もっとも多くの情報をもたらした遺伝子は、高メチル化の頻度が中間的な値の遺伝子である(4PRMというメチル化カットオフ値よりも大きいサンプルの数が15%(CDKN2A)から60%(MGMT)まで)。このグループは正常な食道粘膜および胃にメチル化がない(クラス“A”)、正常な食道粘膜および胃にメチル化がある(クラス“B”)、正常な食道粘膜ではメチル化があまり頻繁には起こっていないが、正常な胃のサンプルではすべてメチル化が起こっている(クラス“C”)に従い、さらに3つの後成的遺伝子クラスに分類することができた。他の遺伝子はより少ない情報しかもたらさなかった。というのも、高メチル化の発生は、非常に稀である(クラス“D”)、まったくない(クラス“E”)、組織のタイプに関係なくすべてにある(クラス“F”と“G”)という状態だったからである(図1、図2、図3)。
【0136】
後成的遺伝子クラスAには、CDKN2A、ESR1、MYOD1の遺伝子が含まれる(図1、図2、図3)。正常な食道(NE)では、IM組織と比較すると、メチル化の頻度に関する統計的に有意な差が、ESR1(p=0.0001)とMYOD1(p=0.0038)において存在していたが、CDKN2A(p=0.097)には存在していなかった。CDKN2Aのメチル化の頻度は、腺ガン(T)のさらに進んだステージで有意に増加した(p<0.0001)。
【0137】
後成的遺伝子クラスBには、CALCA、MGMT、TIMP3の遺伝子が含まれる。クラスAと比べると、このクラスは正常な食道粘膜(NE)と胃(S)の組織でメチル化を示す(図1と図2)。TIMP3だけが、メチル化の頻度に関してNE値とIM値の間で有意な差を示した(p=0.0074)。
【0138】
後成的遺伝子クラスCには、APCの遺伝子が含まれる。この遺伝子は、クラスAおよびクラスBの遺伝子とは異なり、正常な胃のサンプルすべてでメチル化されていた(図1と図2)。これは、正常な胃の組織でAPCがメチル化されているという以前の文献の結果を確認したことになっている(Eads他、Cancer Res.、第60巻、5021〜5026ページ、2000年)。正常な胃の組織(S)ではなく正常な食道組織(NE)でAPCがメチル化されるのを防いでいるメカニズムははっきりしていない。
【0139】
後成的遺伝子クラスDには、あまりメチル化されていないARF、CDH1、CDKN2B、GSTP1、MLH1、PTGS2、THBS1の遺伝子が含まれる(図1と図2)。このクラスの遺伝子のメチル化の頻度は腺ガン(T)においてわずかに増加していたが、統計的に有意というほどではなかった(図3)。興味深いことに、他の系ではまだ調べられていないPTGS2を除き、クラスDのそれ以外の遺伝子は、他のタイプの腫瘍で高メチル化されていることがしばしばある。(表II)。
【0140】
後成的遺伝子クラスEには、EACが進行する各ステージでメチル化されていなかったCTNNB1、RB1、TGFBR2、TYMSの遺伝子が含まれる。クラスDのほとんどの遺伝子と同様、RB1とTGFBR2は、他のタイプの腫瘍で高メチル化されていることが見いだされた(表Iと、上記の“定義”に掲載した参考文献を参照のこと)。すべてのサンプルが、対照遺伝子(ACTB)と比較して、入れたDNAに対してプラスの反応を示したことに注目されたい。したがって、DNAのメチル化が検出されないのは、入れたDNAが不足していたからではありえない。対照反応はそれぞれのサンプルで十分に起こったため、テストする所定の遺伝子について、1PRMという低いレベルまで検出することができた。すべてのメチル化反応が完全で特異的であることは、インビトロでメチル化されたヒトDNAを用いて確認した。
【0141】
後成的遺伝子クラスFには、組織のタイプに関係なく完全にメチル化されたHIC1遺伝子が含まれる(図1と図2)。HIC1は、他のタイプのガンでも一般にメチル化されており(JonesとLaird、Nat. Genet.、第21巻、163〜167ページ、1999年;BaylinとHerman、Trends Genet.、第16巻、168〜174ページ、2000年)、乳ガン患者の正常な胸管組織やAML患者の骨髄サンプルでもメチル化されていることがわかっている(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年;Fujii他、Oncogene、第16巻、2159〜2164ページ、1998年)。しかし正常な組織のCpG島で100%メチル化されているという発見は予想外であった。したがって、HIC1に対するメチライト(商標)アッセイの結果の有効性は、別の方法(HpaII−PCR)(Singer−Sam他、Nucleic Acids Res.、第18巻、687ページ、1990年)で確認した。
【0142】
後成的遺伝子クラスGには、この明細書で対照として用いる非CpG島遺伝子MTHFRが含まれる。興味深いことに、100%の割合で見られるHIC1のメチル化パターンは、対照である非CpG島遺伝子MTHFR(クラスG)と似ているが、メチル化された分子の割合はHIC1のほうが量的に多い(図1)。
【0143】
EACの進行の後成的パターン。それぞれのタイプの組織は、病気の進行とともに変化する独特の後成的パターンまたはフィンガープリントを示した(図3の上方の図)。
【0144】
図3は、本発明による後成的パターンを比較した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。誤差を示す棒は、平均値の標準偏差を表わしている。上方の図:各遺伝子クラス(A〜F、または19あるCpG島の合計)においてメチル化された遺伝子の割合の平均値を組織のタイプ別(N、正常な食道;S、胃;IM、腸上皮化生;DYS、異形成;T、腺ガン)に示したもの。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。下方の図:遺伝子の各クラス(A〜F)と、19のCpG島をすべて合わせた場合(合計)につき、さまざまな組織でメチル化された遺伝子の割合の平均値の違いを統計的に分析した結果。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【0145】
クラスA、B、Cは、正常な食道粘膜(NE)よりもIM組織において有意に高い頻度でメチル化されていた(図3の上下の図)。さらに、IMから異形成(DYS)または悪性(T)への移行は、クラスAにおけるメチル化の増加と関係していた(図3の上下の図)。どの遺伝子クラスについても、また19種類の遺伝子をすべて合計した場合でも(図3の上下の図)、異形成と腺ガンの間に有意な差がない。これは、こうした異常な後成的変化のほとんどが、EACの進行の初期に起こることを示唆している。
【0146】
この実施例のまとめ。本発明によれば、バレット食道および/またはそれに付随する腺ガンがさまざまなステージにある患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子(上記の表Iと表II)に関するメチル化の定量的データから、病気の段階が進むにつれてCpG島が高メチル化される頻度と程度が一般に大きくなることがわかった(上記の図1〜図3)。
【0147】
さらに、遺伝子を、腫瘍形成の間のメチル化の状態に基づき、新たな後成的クラスに分類した(図1〜図3に示したクラスA〜G)。こうすることにより、腫瘍発生のさまざまなステージにおいて異なる遺伝子が一斉にメチル化されている様子をグラフに表わすことができた。すると単に目で見るだけで簡単に評価することができる。
【0148】
それぞれのタイプの組織は、病気が進行するにつれて変化する後成的パターンまたはフィンガープリントを示した(図3の上方の図)。クラスA、B、Cは、正常な食道粘膜(NE)よりもIM組織において有意に高い頻度でメチル化されていた(図3の上下の図)。さらに、IMから異形成(DYS)または悪性(T)への移行は、クラスAにおけるメチル化の増加と関係していた(図3の上下の図)。
【0149】
実施例2
高メチル化は、EACの腫瘍の悪性度とステージを反映していた
この実施例では、食道腺ガンの悪性度またはステージが、CpG島の高メチル化の頻度が大きいほど進んでいることと相関しているかどうかを調べた。本発明によれば、EACの場合には、後成的遺伝子クラスAの遺伝子は、ステージII、III、IVの腫瘍のほうが、それよりも前のステージIの腫瘍よりも有意に多くメチル化されていることがわかる(図4)。
【0150】
材料と方法
TNM病期分類法。ガンに関するアメリカ両院合同委員会(“AJCC”)は、TNM(腫瘍:リンパ節転移、遠方転移)分類による病期分類を提示している。TNM病期分類法を用い、実施例1の組織からそれぞれの食道腺ガンのステージを分類した。
【0151】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、この明細書の実施例1のところで説明した。
【0152】
結果
クラスA遺伝子のメチル化の頻度は、腫瘍のステージが進むほど大きくなる。ある程度分化した腫瘍は、あまり分化していない腫瘍と比べてクラスA遺伝子のメチル化が有意に少ない(p=0.045)。しかも、図4(上下の図)から、ステージII、III、IVの腫瘍においては、それよりも前のステージIの腫瘍よりもメチル化されているクラスA遺伝子の平均数が有意に多いことがわかる。ステージIの腫瘍とステージII、III、IVの腫瘍の差は、他のどの後成的遺伝子クラスでも統計的に有意ではなかった。
【0153】
図4は、クラスA遺伝子のメチル化の頻度と腫瘍のステージの関係を、本発明に従って示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。上方の図:メチル化されたクラスA遺伝子の平均数を腫瘍のステージ(I〜IV)ごとに示したもの(図1を参照のこと)。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、腫瘍の各ステージについて分析したサンプルの数である。下方の図:腫瘍のステージそれぞれにつき、メチル化された遺伝子の数の平均値の違いを統計的に分析したもの。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【0154】
この実施例のまとめ。本発明によれば、発ガン的な進行を評価するのに後成的パターンまたはフィンガープリント(この明細書に記載した遺伝子クラスを含む)を利用できることに加え、メチル化されたクラスA遺伝子の平均数もEAC腫瘍の相対的ステージを評価するのに用いることができる。
【0155】
実施例3
付随する異形成を伴った、あるいは伴わない前ガン組織のメチル化
この実施例は、正常な食道(NE)におけるクラスB遺伝子のメチル化の頻度が、付随する異形成/腫瘍を伴った患者で有意に大きかったことを示している(p=0.0037)(図1)。さらに、クラスA遺伝子のメチル化は、異形成またはガンを伴っている患者からのIMサンプルにおいて、病気が以前よりも進行しているという何らの証拠もない患者からのIMサンプルにおけるよりも頻度が大きいことがわかった(p<0.0001)(図1と図5)。すなわち、IMサンプル中の後成的クラスAの遺伝子の高メチル化と、付随する異形成またはガンの存在の間には、有意に正の相関関係が存在していた(図5)。
【0156】
材料と方法
組織病理学。組織病理学的分類については、上記の実施例1の“材料と方法”で説明した。
【0157】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、実施例1で説明したのと同じである。
【0158】
結果
付随する異形成を伴った、あるいは伴わない前ガン組織のメチル化。本発明によれば、クラスAに関するいくつかのIMのケースとクラスBに関する正常な食道粘膜のいくつかのケースにおいてCpG島に高メチル化が起こっていることから、こうしたメチル化が、異形成のないこれらの組織における正常なメチル化パターンを表わしているのか、それとも病気をさらに進行させようとするメチル化の変化を反映しているのかという疑問が湧いた。後者の場合、すでに病気が進行した患者のこれら組織において、CpG島の高メチル化がより高い頻度で見いだされることが予測されよう。したがって、CpG島の高メチル化の頻度を、(この研究の)付随する異形成を伴った組織と付随する異形成を伴わない組織で比較した。
【0159】
最初の研究では、バレット食道(IM)が最も進行した段階であるかどうか、あるいは付随する異形成および/または腺ガンが食道の別の領域に存在しているかどうか(図1、“はい”、“いいえ”)に基づき、患者を分類した。実際には、正常な食道(NE)におけるクラスB遺伝子のメチル化の頻度は、付随する異形成を伴った患者において有意に大きかった(p=0.0037)(図1)。さらに、クラスA遺伝子のメチル化は、異形成またはガンを伴っている患者からのIMサンプルにおいて、病気が以前よりも進行しているという何らの証拠もない患者からのIMサンプルにおけるよりも頻度が大きいことがわかった(p<0.0001)(図1)。
【0160】
この分析に対して寄せられる可能性のある批判は、遺伝子のクラスを説明するのに臨床パラメータとの関係をテストするのに用いたのと同じサンプル群を用いているという点である。そこで、IMに関する別の20症例についての追試研究を、最初のデータ群とは完全に独立に実施した。
【0161】
20の症例に関するこの追試研究では、2つのグループからIMサンプルを採取した。1つは、最も進行した段階のIMだけを有する患者(8人)で、もう1つは、付随した異形成/腺ガンが食道の別の領域にあるIMを有する患者(12人)である。各サンプルについてH&Eスライド(5ミクロンの切片)を用意し、病理学者(K.W.)が検査してIM組織を確認し、異常のある位置を特定した。分析に用いたパラフィン・ブロック中に異形成または腺ガンの何らかの徴候が見られたケースをこの追試研究では除外した。5ミクロンのH&E切片に隣接する30ミクロンの切片から、IM組織を注意深く顕微解剖して他のタイプの細胞と分離した。サンプル中に存在する最高ステージの組織病理学的病巣に従ってすべてのサンプルを分類した。
【0162】
最初の研究により、病気がより進行したすべてのIMサンプル(“はい”)ではクラスAの少なくとも2つの遺伝子がメチル化されていたのに対し、付随する異形成または腺ガンがないすべてのIMサンプル(“いいえ”)ではクラスAのどの遺伝子もメチル化されていなかったことが明らかにされていた(図1、バレット食道(IM)の項)。したがって、クラスAの2つ以上の遺伝子がメチル化されているという状態は、付随する異形成または腺ガンが存在しているリスクが大きいことの指標であるとされた。
【0163】
われわれの最初の研究でのデータから、この関連性に関してフィッシャーの検定を厳密に行なったところ、p値が0.0048となった(図5、左図)。それとは独立な20症例での追試研究からは、p値として0.018が得られた(図5、右図)。
【0164】
図5は、付随する異形成および/または腺ガンを伴っている場合(“Y”)または伴っていない場合(“N”)について、腸上皮化生(“IM”)組織においてメチル化されているクラスAの2つ以上の遺伝子の割合を示している。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。左側の図:図1に示したIMに関するデータの中のクラスA遺伝子のメチル化。右側の図:顕微解剖した20の異なるIMサンプルに関して行なった完全に独立な追試研究におけるIM組織中のクラスA遺伝子のメチル化。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、それぞれの組織群について分析したサンプルの数である。
【0165】
したがって、クラスA遺伝子の高メチル化と、付随する異形成またはガンの存在の間には、有意な正の相関関係がある。この追試研究において、付随する異形成のないIMサンプル(図5、右図)の中で少なくとも2つの遺伝子がメチル化されているサンプルが、少ない頻度で存在していたことに注意されたい。これは、最初の研究でメチル化されたサンプルが存在していなかったことと対照的である(図1と、図5の左図)。このような結果になったのは、追試研究でのサンプルはパラフィン包埋切片から顕微解剖したからである可能性がある。したがって、サンプル中には、背景となるメチル化されていないストロマ細胞がより少ない。この場合、メチル化信号が他の正常な細胞によってそれほど弱められることはなく、したがって全DNAに対するメチル化された分子の比が4PRMという閾値を超える可能性がある。これ以外にも、内視鏡によるサンプル採取の限界のため、病気が以前と比べて進行していないと判定されたいくつかのケースにおいて、内視鏡検査の間に異形成またはガンの組織が見逃されていた可能性がある。これは、食道腺ガンの検出において詳しく報告されている問題である(Peters他、J. Thorac. Cardiovasc. Surg.、第108巻、813〜821ページ、1994年)。
【0166】
実施例4
EACに関しては、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)が存在する明らかな証拠はない
この実施例は、EACのこの研究に関し、直腸ガンと胃ガンで以前に明らかにされたように(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)、独立したCIMP腫瘍群が存在する明らかな証拠はないことを示している。しかしEACにおけるCpG島の高メチル化が、特定のサンプル中の多数の遺伝子座で実際に起こった。さらに、1つのサンプル中では、高メチル化された遺伝子座の数が、病気がさまざまな組織学的ステージを経て進行するにつれて増加した(図6)。IM組織において見られるピークが2つある分布(図6)は、上に説明したように、異形成またはガンも同時に発生していることで十分に説明できる。
【0167】
材料と方法
組織病理学。組織病理学的分類については、上記の実施例1の“材料と方法”で説明した。
【0168】
メチル化と統計的分析。メチル化と統計的分析については、実施例1で説明したのと同じである。
【0169】
結果
CIMP分析。直腸ガンと胃ガンの一部ではCpG島メチル化の表現型(“CIMP”)として、単一の腫瘍中の多数の遺伝子座に影響を与える広範囲にわたる異常な高メチル化変化を特徴とする表現型が見られることが以前から報告されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。これは、一群の腫瘍でメチル化された遺伝子数の頻度が2つのピークを有する分布になることに反映されている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年)。CIMP腫瘍は、はっきりと識別できる一群の腫瘍であり、ガンにおいてだけメチル化される遺伝子またはタイプCの遺伝子で対応するCpG島が高い割合で高メチル化されていることを特徴としている。CIMPは現在のところ、腫瘍形成の道筋として、はっきりと識別できる、新規だがすでに主要なものになっていると考えられている(Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。
【0170】
そこで、食道腺ガンにおいてCpG島メチル化の表現型(CIMP)が見られるかどうかという疑問を調べた。
【0171】
本発明のクラスAの遺伝子は、“タイプC”遺伝子の最もよい具体例となっている。というのも、正常な組織ではメチル化されていないからである。メチル化されたクラスA遺伝子の数の分布をEACについて調べた(図6)。
【0172】
図6は、本発明に従い、食道腺ガンの進行に伴うメチル化の頻度分布を調べたグラフである。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。それぞれの組織においてメチル化されたCpG島の数が0〜3(クラスA)、0〜9(クラスA+D)、0〜14(クラスA+B+C+D)であった患者の割合が示してある。クラスEとクラスFのCpG島は含まれていない。というのも、組織間でメチル化の頻度に違いが見られなかったからである。“n”は、それぞれの組織について分析したサンプルの数である。
【0173】
しかし腺ガン組織中では、メチル化された遺伝子の頻度は、CIMPで予想される2つのピークを有する分布を示さなかった(図6)(Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)。同様の結果が、クラスAに加えて、やはりタイプCのメチル化を示すクラスDの遺伝子を含めた場合(図6の真中の図)と、クラスA、B、C、Dの遺伝子を合計した場合(図6の右図)に観察された。クラスEとGの遺伝子は、組織のタイプが違ってもメチル化に変化がなかったので含めなかった。
【0174】
クラスA〜Dの14個の遺伝子のうちの10個がメチル化されたサンプルが1つあった(図1のケース3と図6)。しかしこのサンプルは、正常な食道粘膜においてメチル化されているためにCIMP表現型を構成する“タイプC”遺伝子の定義にあてはまらないクラスBの遺伝子を含めているから目立っているだけである。
【0175】
したがって、食道腺ガンに関するこの研究では、以前に直腸ガンと胃ガンで見られたような、独立したCIMP腫瘍群が存在する明らかな証拠は見つからなかった。
【0176】
しかしEACにおけるCpG島の高メチル化は、特定のサンプル中の多数の遺伝子座で実際に起こった。さらに、1つのサンプル中では、高メチル化された遺伝子座の数が、病気がさまざまな組織学的段階を経て進行するにつれて増加した(図6)。IM組織において見られるピークが2つある分布(図6)は、上で説明したように、異形成またはガンも同時に発生していることで十分に説明できる。
【0177】
実施例5
アレイまたはマイクロアレイに基づいた応用
マイクロアレイに基づいた実施態様も本発明の範囲に含まれる。例えば、アレイに基づいたそのような1つの実施態様では、ディファレンシャル・メチル化ハイブリダイゼーション(“DMH”)が用いられている(Huang他、Hum. Mol. Genet.、第8巻、459〜470ページ、1999年;Yan他、Clin. Cancer Res.、第6巻、1432〜1438ページ、2000年)。DMHにより、テストするサンプルと正常なサンプルをペアにしてスクリーニングしたり、特定の後成的変化のパターン(実施例1の“後成的パターン”を参照のこと)が、分析する組織サンプル中の病理学的パラメータと相関しているかどうかを明らかにしたりすることができる。これらサンプルに由来するメチル化されたCpG DNAのプールである“アンプリコン”(同上)は、本発明のCpG島タグを含むアレイ・パネルにおけるハイブリダイゼーション用のプローブとして用いられる。
【0178】
したがって、この明細書に開示した20種類の遺伝子配列のうちの19種類(すなわちAPC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS(上記の表Iと表II;上記の“定義”を参照のこと))またはこれら遺伝子がメチル化によって変化したDNA配列と関係するCpG島配列のうちの1または複数を、アレイまたはマイクロアレイに基づいたアッセイの実施態様におけるCpG島タグとして用いることができる。これら19種類の遺伝子配列領域は、配列番号1〜54、58〜60、64、65(上記の表IIを参照のこと;配列番号61〜63は、本発明の分析で用いるATCB“対照”遺伝子領域に対応する(上記の実施例1を参照のこと))に対応するオリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブによって規定される。関係したCpG島配列とは、(所定のCpG島の一部のメチル化状態が一般にその島全体を代表しているという事実に基づき)これらの特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の連続配列である。
【0179】
次に、これらのCpG島タグを固体支持体(例えばナイロン膜、シリコンなど)上に配置し、検査用サンプル(例えば腫瘍)または基準サンプルからの、メチル化された一群のCpG DNAを表わすアンプリコンで調べる。スクリーニングされたCpG島に関する検査用サンプルと基準サンプルの信号強度の差は、検査用DNA中の対応する配列がメチル化により変化したことを反映している。
【0180】
得られたデータをこの明細書に開示した後成的パターンと比較すると、診断または予後予測ができる。
【0181】
したがって、この実施態様によれば、アレイまたはマイクロアレイを形成するために固体支持体に固定したCpG島タグの一部におけるパターン分析(上記の実施例1〜4を参照のこと)を利用して、ガンが進行するさまざまなステージ(例えば、胃腸異形成および食道異形成、胃腸上皮化生および食道上皮化生、バレット食道、正常な食道扁平粘膜上皮における前ガン状態)における進行状態を追試するとともに、食道腺ガンなどの腫瘍の組織学的悪性度またはステージを明らかにすることができる。
【0182】
本発明の他のアレイまたはマイクロアレイの実施態様は、当業者には明らかであろう。そのような実施態様としては、配列番号1〜54、58〜60、64、65(上記の表IIを参照のこと;配列番号61〜63は、本発明の分析で用いるATCB“対照”遺伝子領域に対応する(上記の実施例1を参照のこと))に対応する、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMS(上記の表Iと表II;上記の“定義”を参照のこと)に対する特異的プライマーおよび/またはプローブが固体支持体上に配置されているものが挙げられるが、これだけに限定されるわけではない。
【0183】
考察
ガンの検出、化学的予測、予後予測に関する新規でより感度の高い方法が、従来技術において要求されている。ガンなどの病気が進行する間に多数の遺伝子座で見られるCpG島のメチル化変化の新規なコーディネート・パターン(すなわち新規な後成的パターン)を明らかにすることが、従来技術において要求されている。特定の腫瘍に特異的で、個々の患者に特異的な後成的パターンまたはフィンガープリントを明らかにすることが、従来技術において要求されている。ガンの処置のための診断法および/または予後予測法で用いることができるバイオマーカーまたはプローブ、例えばEAC特異的なバイオマーカーまたはプローブが、従来技術において要求されている。食道腺ガンがCIMPを示すかどうかを明らかにすることが、従来技術において要求されている。腫瘍のステージを決定する新規な方法が、従来技術において要求されている。本発明は、これらの要求に対処しようとするものである。
【0184】
蛍光に基づいたハイスループットのメチル化アッセイ(メチライト(商標))を利用して、食道腺ガン(“EAC”)が進行する間の19のCpG島と1つの非CpG島の新規な高メチル化パターンを調べ、その特徴を明らかにした。そうすることにより、遺伝子を、さまざまなタイプの組織において見られる6通りの後成的パターンに分けた。これは、病気が進行するにつれて明確に異なる非常に多数の組織学的ステージを有するシステムに関してこれまでになされた最も包括的なメチル化検査である。さらに、DNAの異常な高メチル化に関するこの分析は、一般的な制限因子である汚染源となる正常細胞が存在している中での感度が、遺伝子発現分析などの他の方法におけるよりも大きいという顕著な利点を有する。
【0185】
この明細書に記載してあるように、DNAの高メチル化は、EACが多段階で進行していくときの初期の後成的変化である。前ガン性の腸上皮化生(“IM”またはバレット食道)は、正常な組織(正常な扁平粘膜上皮)よりもすでに有意に多くメチル化されている。本発明は、いくつかの実施態様において、この腫瘍系においてさらに5つの遺伝子(MYOD1、MGMT、CALCA、TIMP3、HIC1)で頻繁に高メチル化が起こっているという新たな発見を提供している。
【0186】
正常な組織のMGMT、TIMP3、HIC1でメチル化が観察されたのは、われわれがメチル化を分析したのが特別な遺伝子領域であったからである可能性がある(Stoger他、Cell、第73巻、61〜71ページ、1993年;Larsen他、Hum. Mol. Genet.、第2巻、775〜780ページ、1993年;Jones, P.A.、Trends Genet.、第15巻、34〜37ページ、1999年)。これら3つの遺伝子は、転写開始部位またはそれよりも下流に位置するCpG島において分析した(表II)。しかしこれではわれわれが観察したCALCAのメチル化を説明できない。というのも、われわれはこの遺伝子のプロモータ領域を分析したからである。CALCAのメチル化が低いレベルであることは、AML患者の骨髄サンプルで以前に報告されている(Melki他、Cancer Res.、第59巻、3730〜3740ページ、1999年)。これは、この遺伝子座が、ガン患者の正常な組織の中ではよりメチル化されやすくなっていることを示唆している。
【0187】
特に指摘しておくべきなのは、ステージIの腫瘍よりも異形成組織で多くメチル化されている状態が、クラスA(p<0.0001)とクラスB(p=0.0174)の両方で見られることである(図1)。これは、遺伝子の異常(LOH、欠失、突然変異)が、ステージが進んだ異形成を有するバレット食道には存在するが、隣接する浸潤性EACには存在していないという発見(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年)と似ている。ステージII〜IVの腫瘍はクラスAの遺伝子に関して異形成と同じ頻度でメチル化されているように見えるため、ステージIの腫瘍は、実際には、異形成組織よりステージが進んだ腫瘍とは異なる原発巣から進展してきたか、あるいは異形成の後にクローンが増大する間にステージII〜IVの腫瘍とは独立に大きくなってきた可能性があることが示唆される。また、より可能性は小さいものの、ステージIの腫瘍では、高メチル化の一時的逆転が起こった可能性がある。バレット食道における腫瘍は、化生−異形成−腫瘍という直線的な多段階経路を通じてクローン化により進行していくことが提案されている(Zhuang他、Cancer Res.、第56巻、1961〜1964ページ、1996年)。しかし、遺伝子の変化が起こり、本発明により明らかにされたように直線的な順番でない後成的変化が起こるということは、クローン化によるEACの進行が元々予想されていたよりも複雑であることを示唆している(Barrett他、Nat. Genet.、第22巻、106〜109ページ、1999年)。同様の観察結果が、膀胱ガンのさまざまなステージについて報告されている(Salem他、Cancer Res.、第60巻、2473〜2476ページ、2000年)。
【0188】
ここでの分析では、メチル化された10種類の遺伝子を有する腫瘍が1つあることは別にして、CpG島メチル化の表現型(“CIMP”)であることを示唆する、広範囲にわたる一斉メチル化が見られる独立の腫瘍群が存在しているというはっきりとした証拠はなかった。同様の結果が、CIMP(ガンではメチル化され、正常な組織ではメチル化されていない;Toyota他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、8681〜8686ページ、1999年;Toyota他、Cancer Res.、第59巻、5438〜5442ページ、1999年)を特徴づける“タイプC”遺伝子を調べただけで得られた。興味深いことに、EACの“タイプC”遺伝子は、直腸ガンについて報告されている遺伝子とは異なっている(同上)。例えば、ESR1は、老人の正常な結腸上皮でしばしばメチル化されているため、直腸ガンでは“タイプC”遺伝子ではなく(老化した正常な組織でメチル化されている)“タイプA”遺伝子に分類される(同上)。しかし食道腺ガンでは、ESR1は明らかに“タイプC”遺伝子のように振る舞う。これは、高メチル化を測定するのに用いる方法の違いか、あるいはそれ以上に組織のタイプの違いが原因となっている可能性がある。
【0189】
本発明によれば、個々の遺伝子の高メチル化には組織特異的かつ腫瘍特異的な傾向がある。例えば、APCは正常な胃で高メチル化されているが、正常な食道粘膜では高メチル化されていない。高メチル化が腫瘍特異的であることは、胃ガンと肺ガンでしばしば高メチル化されている遺伝子TGFBR2、網膜芽繊維症でしばしば高メチル化されているRB1というクラスEの2つの遺伝子でメチル化が検出されないことに現われている(Stirzaker他、Cancer Res.、第57巻、2229〜2237ページ、1997年;Hougaard他、Br. J. Cancer、第79巻、1005〜1011ページ、1999年)。
【0190】
CpG島の高メチル化が腫瘍特異性を有するという事実は、食道腺ガンと他のタイプの腫瘍では異なっていて、腫瘍発生の間にこれらCpG島のメチル化の変化を制御している腫瘍特異的なトランス作用因子が存在する可能性があることを示唆している。また、食道腺ガンにおいてDNAのメチル化によりこれら遺伝子が不活性になることには、特別な利点がない可能性がある。これがあてはまる可能性のある2つのシナリオがある。1つは、問題の遺伝子が別の遺伝的メカニズムによって不活化されていて、高メチル化にはもはや特別な利点がない場合である。もう1つは、遺伝子がこの特別な腫瘍系で腫瘍抑制において役割を果たしていない場合である。
【0191】
DNAのメチル化状態が変化するのは腫瘍発生において一般的であるが、裏に隠れているメカニズムははっきりしていない。異常なメチル化が、少なくとも直腸ガンではDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の単なるアップレギュレーションにはよらないというのは、他の主要なプレイヤーが関与していることを示唆している(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年)。本発明は、こうした異常なメチル化の裏にあるプロセスを初めて覗き見るものである。
【0192】
本発明によれば、機能が互いに無関係のさまざまな遺伝子は、メチル化の変化に関しては、EACが進行しているさまざまな組織において、明確に異なるクラスの遺伝子として機能することができる。CpG島の高メチル化は、(確率的な要素があるにもかかわらず)確率的なプロセスではなく、複数の異なる変化を含む段階的なプロセスであるらしい。これは、CpG島が高メチル化されないようにするいくつかの異なるメカニズムが存在していることと両立する。このシナリオでは、異なるCpG島で一斉に見られる変化は、病気進行のさまざまな段階において異なるタイプの保護要素が失われた結果であろう。この発見は、遺伝子に対するCpG島の位置に依存しているようには見えない。というのも、プロモーターと内部CpG島の両方がすべての遺伝子クラスで観察されたからである。この分析において、GC含量%、CpGの観測値/予測値の比、CpG:GpC比を分析することによりこれらCpG島の構造上の特徴も調べたが、遺伝子クラスとの関係は見いだせなかった(表II)。
【0193】
本発明によれば、IMまたはNEのサンプル自体は、付随する異形成またはガンがある場合もない場合も、組織学的には識別できなかったが、分子レベルでは識別できた。離れた位置に異形成またはガンも同時に有する人に由来するNEサンプルとIMサンプルでは、CpG島の高メチル化が統計的に高い頻度で起こっている。この発見は、この明細書において、完全に独立な別の研究の中でIM組織において確認した。これは、後成的マーカー、特にクラスAとBの遺伝子を病気のスクリーニング・ツールとして、また病気がさらに進行していくことの予測をするマーカーとして用いる際の強い支持材料となる。
【0194】
本発明のメチル化パターンは、ガンを初期の段階で検出するための方法と組成物を提供する。ガンがあるかガンになるリスクが高いかを正常な組織および/または前ガン状態の組織を用いて明らかにするこのような分子診断法は、初期治療の機会を提供する。さらに、診断または予後予測のためのマーカーとしてCpG島の高メチル化を用いることの利点は、汚染源となる正常細胞を含むサンプル中では遺伝子発現のないこと(例えばLOHや欠失の分析)を明らかにするのが難しいのと異なり、高メチル化をプラスの信号として汚染源となる正常細胞中で容易に検出できることにある。
【0195】
要約
本発明によれば、研究した19のCpG島(表Iと表II)は、さまざまなタイプの組織で6通りの後成的パターンに分類される。それぞれの分類クラスは、EACが進行していくさまざまな段階で独特の後成的変化をする。これらメチル化パターンは、ガンを初期段階で検出するための方法と組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
さまざまな段階にあるバレット食道(“IM”)、異形成(“DYS”)および/またはそれに付随する食道腺ガン(“T”)の患者31人から採取した84個の組織サンプル中の20種類の遺伝子について、メチル化を本発明に従って定量分析した図である。メチル化の分析は、メチライト(商標)アッセイを利用して行なった(Eads他、Cancer Res.、第59巻、2302〜2306ページ、1999年;Eads他、Nucleic Acids Res.、第28巻、E32ページ、2000年)。特定の遺伝子座において十分にメチル化された分子の割合(PMR=メチル化された基準の割合)は、サンプルの遺伝子/ACTB比を、SssIで処理した精子DNAの遺伝子/ACTB比で割り、その数値を100倍することによって計算した。次に、(この明細書に説明してあるように)得られた数値を4%PRMの位置で2つに分け、グラフを描きやすくするとともに、組織特異的パターンが明らかになるようにした。“N”は、その特定のサンプルの分析におけるメチル化反応については、対照とした遺伝子ACTBが、1PMRという最小値を検出できるほど十分なレベルに達していなかったことを意味している。
【図2】
各遺伝子についてメチル化されたサンプルの割合を組織のタイプごとに示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。遺伝子は、本発明により、図1に示したようにそれぞれの後成的遺伝子クラス(A〜G)に従ってグループ分けした。“n”は、各組織について分析したサンプルの数である。
【図3】
本発明による後成的パターンを比較した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。誤差を示す棒は、平均値の標準偏差を表わしている。上方の図:各遺伝子クラス(A〜F、または19あるCpG島の合計)においてメチル化された遺伝子の割合の平均値を組織のタイプ別(N、正常な食道;S、胃;IM、腸上皮化生;DYS、異形成;T、腺ガン)に示したもの。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。下方の図:遺伝子の各クラス(A〜F)と、19のCpG島をすべて合わせた場合(合計)につき、さまざまな組織でメチル化された遺伝子の割合の平均値の違いを統計的に分析した結果。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(Statview:商標)ソフトウエア)。
【図4】
クラスA遺伝子のメチル化の頻度と腫瘍のステージの関係を、本発明に従って示した図である。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。上方の図:メチル化されたクラスA遺伝子の平均数を腫瘍のステージ(I〜IV)ごとに示したもの(図1を参照のこと)。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、腫瘍の各ステージについて分析したサンプルの数である。下方の図:腫瘍のステージそれぞれにつき、メチル化された遺伝子の数の平均値の違いを統計的に分析したもの。p値は、フィッシャーの保護された最小有意差(PLSD)検定をサンプル数が均等でない場合に使用できるようにして求めた(SASスタットヴュー(商標)ソフトウエア)。
【図5】
本発明に従い、腸上皮化生(“IM”)において、それに付随する異形成および/または腺ガンを伴っている場合(“Y”)または伴っていない場合(“N”)について、クラスAの2つ以上の遺伝子がメチル化されている割合を示している。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。左側の図:図1の中のIMに関するデータの中でメチル化されているクラスA遺伝子の割合。右側の図:顕微解剖した20の異なるIMサンプルに関する完全に独立な追試研究において、IM中でメチル化されているクラスA遺伝子の割合。誤差棒は、平均値の標準偏差(SEM)を示す。“n”は、それぞれの組織群について分析したサンプルの数である。
【図6】
本発明に従い、食道腺ガンの進行に伴うメチル化の頻度分布を調べたグラフである。データは、4PRMの位置で2つに分けた。4PRM以上だとメチル化されていて、4PRM未満だとメチル化されていないことを意味する。それぞれの組織においてメチル化されたCpG島の数が0〜3(クラスA)、0〜9(クラスA+D)、0〜14(クラスA+B+C+D)であった患者の割合が示してある。クラスEとクラスFのCpG島は含まれていない。というのも、組織間でメチル化の頻度に違いが見られなかったからである。“n”は、それぞれの組織について分析したサンプルの数である。
Claims (24)
- 組織サンプルからガンまたはガン関連疾患を診断する方法であって、
(a)診断する検査組織または検査領域から組織サンプルを取得し、
(b)その組織サンプルのメチル化アッセイを行なって、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFR、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列のメチル化状態を決定し、
(c)少なくとも部分的に、上記ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいて、ガンの診断または予後予測を行なう操作を含む方法。 - APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するゲノムCpG配列が、CpG島のゲノムCpG配列に対応している、請求項1に記載の方法。
- APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列が、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列である、請求項1に記載の方法。
- 上記CpG島が、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSの遺伝子のうちの1つまたはそれ以上のプロモーター領域内に存在している、請求項2に記載の方法。
- APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSの遺伝子の配列が、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、あるいはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応しており、関係した上記CpG島配列が、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である、請求項2に記載の方法。
- 上記ゲノムCpG配列が、APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置する、請求項1に記載の方法。
- APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3からなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置する上記ゲノムCpG配列が、CpG島のゲノムCpG配列に対応する、請求項6に記載の方法。
- APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列が、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列である、請求項6に記載の方法。
- 上記CpG島が、APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子のうちの1つまたはそれ以上のプロモーター領域内に存在している、請求項7に記載の方法。
- APC、CDKN2A、MYOD1、CALCA、ESR1、MGMTおよびTIMP3の遺伝子配列が、それぞれ、表IIに掲載した配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応しており、関係した上記CpG島配列が、配列番号19〜21、配列番号1〜3、配列番号7〜9、配列番号10〜12、配列番号4〜6、配列番号16〜18および配列番号13〜15に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNA中の隣接配列である、請求項7に記載の方法。
- 上記のガンまたはガン関連疾患を、胃腸腺ガンまたは食道腺ガン、胃腸異形成または食道異形成、胃腸化成または食道化成、バレット腸組織、正常な食道扁平粘膜上皮の前ガン疾患、およびこれらの組み合わせからなるグループの中から選択する、請求項1に記載の方法。
- 上記ガンが食道腺ガンであり、そしてゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいてガンの診断または予後予測をすることにより、その腺ガンの悪性度またはステージを分類する、請求項11に記載の方法。
- 上記のガンまたはガン関連疾患を、胃腸腺ガンまたは食道腺ガン、胃腸異形成または食道異形成、胃腸化成または食道化成、バレット腸組織、正常な食道扁平粘膜上皮の前ガン疾患、およびこれらの組み合わせからなるグループの中から選択する、請求項6に記載の方法。
- 上記ガンが食道腺ガンであり、その場合、ゲノムCpG配列のメチル化状態に基づいてガンの診断または予後予測をすることにより、その腺ガンの悪性度またはステージを分類する、請求項13に記載の方法。
- ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイを、“メチライト(商標)”、Ms−SNuPE、MSP、COBRA、MCAおよびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択する、請求項2に記載の方法。
- ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイを、“メチライト(商標)”、Ms−SNuPE、MSP、COBRA、MCAおよびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択する、請求項6に記載の方法。
- ゲノムCpG配列のメチル化状態を明らかにするのに用いるメチル化アッセイの少なくとも一部が、APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置するCpG含有配列を含んで成るアレイまたはマイクロアレイに基づいている、請求項1に記載の方法。
- APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2およびTYMSの遺伝子配列が、表IIに掲載した配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーまたはプローブ、またはその一部によって規定される配列と関係した任意のCpG島配列に対応しており、関係した上記CpG島配列が、配列番号1〜54、58〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブによって規定される配列の少なくとも1つのヌクレオチドを含み、CpGジヌクレオチドの頻度が観測値/予測値の比>0.6に対応することと、GC含量>0.5であることの両方の条件を満たす、ゲノムDNAの隣接配列である、請求項17に記載の方法。
- APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRの遺伝子配列が、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65に対応する特異的オリゴヌクレオチド・プライマーおよびプローブ、またはその一部によって規定される配列、あるいはこれらに対応する配列である、請求項17に記載の方法。
- 決定されるゲノムCpG配列のメチル化状態が、高メチル化、低メチル化または正常なメチル化である、請求項1に記載の方法。
- ガンまたはガン関連疾患を診断するのに役立つキットであって、
(a)APC、ARF、CALCA、CDH1、CDKN2A、CDKN2B、ESR1、GSTP1、HIC1、MGMT、MLH1、MYOD1、RB1、TGFBR2、THBS1、TIMP3、CTNNB1、PTGS2、TYMSおよびMTHFRからなるグループの中から選択した少なくとも1つの遺伝子配列内に位置する配列の任意の領域とハイブリダイズするプローブまたはプライマーを含む容器と、
(b)メチル化されたCpGを含む核酸の検出の少なくとも一部を、このプローブまたはプライマーに基づいて行なうのに必要な標準的メチル化アッセイ用添加試薬とを含んで成る1または複数の容器を含む担持手段を有するキット。 - 上記標準的メチル化アッセイ用添加試薬が、“メチライト(商標)”、MS−SNuPE、MSP、COBRA、MCAおよびDMH、ならびにこれらの組み合わせからなるグループの中から選択した、メチル化アッセイを行なうための標準的な試薬である、請求項21に記載のキット。
- 上記プローブまたはプライマーが、表IIに掲載した配列番号1〜60、64および65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドを含んで成る、請求項21に記載のキット。
- ガンまたはガン関連疾患を診断するのに役立つキットであって、
(a)配列番号1〜60、64、65からなるグループの中から選択した配列の少なくとも約12〜15個のヌクレオチドからなる配列と、配列番号1〜54、58〜60、64および65と関係したCpG島配列内に位置する任意の配列とを含んで成るアレイまたはマイクロアレイ、を含んで成る1または複数の容器を含む担持手段を有するキット。
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