JP2004500066A - 異種間核移植により生成する胚あるいは幹様細胞 - Google Patents
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Abstract
分化したドナー細胞の核を、適合する細胞質かつ/またはミトコンドリア(ドナーと同一種の)と共に、ドナー細胞とは異なる動物種の脱核した卵母細胞中に移植するための核移植法を提供する。得られた核移植ユニットは、イソジェニックな胚性幹細胞、特にヒトのイソジェニックな胚細胞あるいは幹細胞を作成する上で有用である。これらの胚細胞あるいは幹様細胞は、目的とする分化細胞を作成する上で、および例えば同種組換えによりこれらの細胞のゲノムの特定の部位において目的とする遺伝子を導入、除去あるいは修飾する上で、有用である。これらの細胞は、異種遺伝子を含有する可能性があり、細胞移植療法やin vitroでの細胞分化の研究のために特に有用である。適合する細胞質あるいはミトコンドリアDNA(ドナー細胞または核と同一種もしくは類似種)を導入することによって、核移植効率を上昇させることが可能である。また、特定の細胞周期を選択することにより、かつ/または胚の生育および発達を促進する条件下で培養することにより、アポトーシスを阻害するようドナー細胞を遺伝的に操作することで、核移植効率をさらに上昇させることが可能である。
Description
【0001】
(発明の分野)
本発明は全般的に、動物あるいはヒト細胞に由来する細胞核を、ドナー核と異種の動物の除核した卵母細胞に移植することによる、胚あるいは幹様細胞の生成に関する。より具体的には、本発明は、霊長類あるいはヒトの細胞核を、例えば霊長類あるいは有蹄類の卵母細胞、および好ましい実施態様においてはウシ除核卵母細胞などの除核した動物卵母細胞に移植することによる、霊長類あるいはヒトの胚あるいは幹様細胞の生成に関する。
【0002】
さらに本発明は、好ましくは霊長類あるいはヒト胚細胞あるいは幹様細胞である生成した胚あるいは幹様細胞の、治療、診断への応用、同じく治療あるいは診断に用いる分化細胞の生成、およびトランスジェニック胚細胞あるいはトランスジェニック分化細胞、細胞株、組織および臓器の生成を目的とした使用に関する。また、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞自体を、好ましくはトランスジェニック、クローンあるいはキメラ動物であるキメラあるいはクローンの生成を目的とした核移植において、細胞核ドナーとして用いても良い。
【0003】
(発明の背景)
In vitroにおいてマウスの初期着床前胚より胚幹(ES)細胞株を生成する方法は周知である。(Evans et al.,Nature,29:154−156(1981);Martin,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78:7634−7638(1981)を参照のこと)。ES細胞は、線維芽細胞(Evans et al.,Id.)あるいは分化抑制源(Smith et al.,Dev.Biol.,121:1−9(1987))からなるフィーダー層が存在すれば、未分化段階で継代することが可能である。
【0004】
ES細胞は、これまでに様々な用途を有することが報告されている。例えば、ES細胞を分化のin vitroモデル、特に発生初期の調節に関与する遺伝子の研究に使用できることが報告されている。マウスES細胞を着床前マウス胚に導入すると、生殖細胞系キメラが成長し、その多能性が証明される(Bradley et al.,Nature,309:255−256(1984))。
【0005】
ES細胞は、自らのゲノムを次世代に伝達する能力の点から見ると、所望の遺伝子修飾の有無に関わらず、ES細胞を用いることにより家畜の生殖細胞系操作にとって有用である可能性がある。さらに、例えば有蹄類などの家畜の場合は、同じく着床前の家畜胚に由来する核が、除核した卵母細胞の発生の完了を助ける(Smith et al.,Biol.Reprod.,40:1027−1035(1989);and Keefer et al.,Biol.Reprod.,50:935−939(1994))。このことは、移植後8細胞期を過ぎたマウス胚に由来する細胞核が、除核卵母細胞の発生を助けないと報告されていることと対照的である(Cheong et al,Biol.Reprod.,48:958(1993))。よって家畜由来のES細胞は、遺伝子操作を加えるか、そうでなければ核移植操作に用いる全能ドナー細胞核の供給源となる可能性があるために、非常に望ましい。
【0006】
一部の研究グループは、多能性であるといわれている胚細胞株の分離を報告している。例えばNotarianni et al.,J.Reprod.Fert.Suppl.,43:255−260(1991)は、ヒツジ胚盤胞より免疫手術により摘出した内部細胞塊の一次培養における細胞と、形態および成長の特性が幾分類似しているブタおよびヒツジの胚盤胞より、安定で多能性といわれている細胞株を樹立したと報告している。(Id.)また、Natarianni et al.,J.Reprod.Fert.Suppl.,41:51−56(1990)は、ブタ胚盤胞に由来する、多能性と考えられる胚細胞株の培養の保守管理および分化を開示している。さらに、Gerfen et al.,Anim.Biotech,6(1):1−14(1995)では、ブタ胚盤胞由来の胚細胞株の分離を開示している。これらの細胞は、調節培地を用いることなく、マウス胚線維芽細胞フィーダー層で安定に維持される。これらの細胞は、培養中に異なる数種類の細胞型に分化すると報告されている(Gerfen et al.,Id.)。
【0007】
さらに、Saito et al.,Roux’s Arch.Dev.Biol.,201:134−141(1992)では、ウシ胚幹細胞様細胞株を培養すると3世代継代時は生存したが、第4世代目で消失したと報告している。またさらに、Handyside et al.,Roux’s Arch.Dev.Biol.,196:185−190(1987)では、マウスICM由来のマウスES細胞が分離する条件下で、免疫手術により摘出した、ヒツジ胚の内部細胞塊の培養法を開示している。Handyside et al.,(1987)(Id.)は、こうした条件下では該ヒツジICMが接着し、拡散し、かつES細胞様および内胚葉様細胞の領域を生じせしめるが、長期間培養後は内胚葉様細胞のみが認められると報告している。(Id.)
【0008】
最近、Cherny et al.,Theriogenology,41:175(1994)では、多能性といわれているウシ始原生殖細胞由来の細胞株が、長期間培養で維持されると報告した。これらの細胞は、約7日間培養した後、アルカリフォスファターゼ(AP)染色に陽性であるES様コロニーを生成し、胚様体形成能を示し、少なくとも2種類の異なる細胞型に自然分化した。これらの細胞は、報告によると、ES細胞のみに発現すると考えられているホメオボックス遺伝子パターンである転写因子OCT4,OCT6およびHES1のmRNAを発現した。
【0009】
また最近、Campbell et al., Nature,380:64−68(1996)は、マウスのES細胞株の分離を促進する条件下で培養した、9日目のヒツジ胚より摘出して培養した杯盤(ED)細胞の核移植後に、子ヒツジの産子を生成したと報告した。著者らは、その結果に基づき、9日目ヒツジ胚に由来するED細胞は、核移植により全能性となり、培養中は全能性が維持されると結論付けた。
【0010】
Van Stekelenburg−Hamers et al.,Mol.Reprod.Dev.,40:444−454(1995)は、ウシ胎盤胞の内部細胞塊細胞に由来する、永久的といわれる細胞株の分離および同定を報告した。著者らは、8あるいは9日目のウシ胚盤胞より、最も効果的にウシICM細胞の接着および外殖を助けるフィーダー細胞および培地の判定を目的として、様々な条件下でICMを分離して培養した。著者らは、その結果に基づき、培養ICM細胞の接着および外殖は、STO(マウス線維芽細胞)フィーダー細胞(ウシ子宮上皮細胞の代用)の使用、および培地に添加するためのチャコール処理血清(通常血清より優れている)の使用により促進されると結論付けた。しかしVan Stekelenburg et alは、その細胞株が多能性ICM細胞よりも上皮細胞に類似していると報告した。(Id.)
【0011】
またさらに、1994年10月27日に公表されたSmith et al.,WO 94/24274、1990年4月5日に公表されたEvans et al.,WO 90/03432、1994年11月24日に公表されたWheeler et al.,WO 94/26889では、トランスジェニック動物の生成に使用できるといわれている動物幹細胞の分離、選択および増殖を報告している。また1990年4月5日に公表されたEvans et al.,WO 90/03432では、トランスジェニック動物の生成に有用であることが確実であるブタおよびウシに由来する多能性であるといわれている胚幹細胞の生成を報告した。さらに、1994年11月24日に公表されたWheeler et al.,WO 94/26884では、キメラおよびトランスジェニック有蹄類の製造に有用であることが確実である胚幹細胞を開示した。このため、前述の事項に基づいて、数多くのグループが、例えばクローン化あるいはトランスジェニック胚の生成および核移植への応用の可能性などにより、ES細胞株の生成を試みていることは明らかである。
【0012】
有蹄類ICM細胞の核移植への使用についても報告されている。例えば、Collas et al.,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)では、溶解したドナー細胞を除核した成熟卵細胞にマイクロインジェクションすることによる、ウシICMの核移植を開示している。該参照文献では、in vitroで胚を7日間培養して15個の胚盤胞を生成し、これをウシレシピエントに移植して妊娠4例と産子2例を得たことを開示した。またKeefer et al.,Biol.Reprod.,50:935−939(1994)では、胚盤胞の生成を目的とした核移植操作におけるウシICM細胞のドナー核としての使用によって生成した胚幹細胞を、ウシレシピエントに移植したところ、数匹の産子が得られたことを開示している。さらに、Sims et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:6143−6147(1993)では、in vitroで短期間培養したウシICM細胞から除核した成熟卵細胞への核移植による仔ウシの生産を開示した。
【0013】
また、培養した杯盤細胞の核移植後の子ヒツジの生産が報告されている(Champbell et al.,Nature,380:64−68(1996))。またさらに、核移植におけるウシ多能性胚細胞の使用およびキメラ胎児の生成も報告されている(Stice et al.,Biol.Reprod.,54:100−110(1996));Collas et al,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)。
【0014】
さらに、異種間NT単位の生成が過去に試みられている(Wolfe et al.,Theriogenology,33:350(1990)。具体的には、ウシ胚細胞をヤギュウの卵母細胞と融合し、内部細胞塊を有していると思われる異種間NTユニットをいくつか生成した。しかし、核移植操作におけるドナー核としては、成体細胞ではなく胚細胞を用いた。原則は、胚細胞は生体細胞よりも容易にリプログラミングされることであった。これは、カエルを用いた初期のNT研究にさかのぼる(DiBerardinoによる総説,Differentiation,17:17−30(1980))。また、この研究は系統発生論的に極めて類似した動物(ウシ細胞核とヤギュウ卵母細胞)が関与するものであった。対比してみると、これまではNTにより融合する種の差が大きくなると(ウシ細胞核をハムスター卵母細胞に移植)、内部細胞塊構造は得られらなかった。さらに、NTユニット由来の内部細胞塊細胞を用いて、増殖可能なES細胞様コロニーを形成するできることは、これまで報告されていない。
【0015】
また、Collas et al(Id.)は、ウシ核移植胚の生成を目的とした顆粒膜細胞(成体体性細胞)の使用を報告した。しかし、本発明とは異なり、これらの実験は異種間の細胞核移植に関するものではなかった。また本発明とは異なり、ES−様細胞コロニーは得られなかった。
【0016】
最近、1998年12月1日にJames A.Thomsonに対して発行し、Wisconsin Alumni Reseach Foundationに譲渡された米国特許第5,843,780号では、(i)1年以上にわたってin vitro培養における増殖が可能で、(ii)霊長類種の特徴を有する染色体が全て存在し、長期間の培養でも顕著に変化せずに核型を維持し、(iii)培養を通じて内胚葉、中胚葉、外胚葉組織の派生物に分化する可能性を維持し、(iv)線維芽細胞フィーダー層上で培養したとき分化しない霊長類精製胚幹細胞の調製の開示を意図している。これらの細胞は、報告によるとSSEA−1マーカー陰性、SEA−3マーカー陽性、SSEA−4マーカー陽性であり、アルカリフォスファターゼ活性を示し、多能性であり、霊長類種の特徴を有する全染色体の存在を含み、染色体のいずれもが変化しない核型を有している。さらに、これらの細胞はTRA−1−60およびTRA−1−81マーカーにそれぞれ陽性である。細胞をSCIDマウスに注入すると、内胚葉、中胚葉、および外胚葉細胞に分化するといわれている。また、ヒトあるいは霊長類胚の胚盤胞に由来するといわれる胚幹細胞株については、Thomson et al.,Science 282:1145−1147およびProc.Natl.Acad.Sci.,USA 92:7844−7848(1995)に論じられている。
【0017】
このように、Thomsonはヒト以外の霊長類およびヒト胚あるいは幹様細胞といわれるものおよびその生成法を開示している。しかし、その顕著な治療および診断における可能性を考えた場合、意図する移植レシピエントにとって自己由来であるヒト胚あるいは幹様細胞を生成する方法の大きな必要性はまだ存在する。
【0018】
この点に関して、細胞移植によって治療できると思われるヒトの疾患が数多く同定されている。例えば、パーキンソン病は黒質内のドパミン作動性ニューロンの変性に起因する。パーキンソン病の標準的治療法には、ドパミンの消失を一時的に改善するL−DOPAの投与が含まれるが、重度の副作用を引き起こし、最終的には疾患の進行を回復させることはできない。パーキンソン病の異なる治療法は、数多くの脳疾患および中枢神経損傷の治療への幅広い応用性が期待され、動物の胎児あるいは新生児の細胞あるいは組織の成人脳への移植を含んでいる。脳の様々な領域より採取した胎児ニューロンは、成人脳に組み込まれることが可能である。このような移植片は、実験動物に対して実験的に誘発した、複合認知機能を含む行動欠損を軽減することが証明されている。ヒト臨床試験の最初の試験結果も有望であった。しかし、流産により得られるヒト胎児細胞あるいは組織の供給は極めて限られている。さらに、流産した胎児から細胞あるいは組織を採取することには激しい異論がある。
【0019】
現在該患者から「胎児様」細胞を生成できる方法はない。さらに、同種移植組織片の確保は容易ではなく、また同種移植片および異種移植片組織は移植片拒絶反応を被る。さらに、移植前の細胞あるいは組織に遺伝子的修飾を施すことが有益と思われる場合もある。しかし、このような修飾が望ましい細胞あるいは組織の多くは、培養時に良好に分割せず、大部分の遺伝子変異の型は急速に分裂する細胞を必要とする。
【0020】
このため、移植および細胞および遺伝子治療における使用を目的とした、ヒト胚あるいは幹様未分化細胞の供給には、明らかな技術上の必要性がある。
【0021】
(発明の目的)
本発明の目的は、胚あるいは幹様細胞を生成する新規かつ改善された方法の提供である。
【0022】
本発明のより具体的な目的は、哺乳動物あるいはヒトの細胞核の、種の異なる除核卵母細胞への移植を包含する、胚あるいは幹様細胞を生成する新規かつ改善された方法の提供である。
【0023】
本発明のもう1つの具体的な目的は、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの細胞核の、例えば有蹄類、ヒトあるいは霊長類の除核卵母細胞などの動物あるいはヒトの除核卵母細胞への移植を包含する、ヒト以外の霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を生成する新規の方法を提供することである。
【0024】
本発明のもう1つの目的は、ドナー細胞あるいは細胞核と互換性のある(同種の)卵母細胞、割球あるいはその他の胚細胞から細胞質を誘導することにより、異種間核移植の効率を高めることである。
【0025】
本発明のより具体的な目的は、細胞質がドナー細胞あるいは細胞核と互換性のある(同種あるいは近縁種の)1個あるいはそれ以上の未成熟卵母細胞より細胞質を誘導することにより、異種間核移植の効率を高めることである。このような未成熟卵母細胞は、細胞質の採取およびレシピエント除核卵母細胞への細胞質の導入の前に、任意にin vitroでの成熟、および/あるいはin vitroでの活性化を行っても良い。
【0026】
本発明のもう1つの目的は、ドナー細胞と同種あるいは近縁種(同種が好ましい)に由来するミトコンドリアDNAを、除核前あるいは除核後に、核移植に使用する異種の卵母細胞に添加、あるいは核移植ユニットに添加(ドナー細胞の誘導後)して異種間核移植の効率を高めることである。
【0027】
さらに本発明のもう1つの目的は、除核した体性細胞(例えば除核したヒト体性細胞)(核体)を、活性化した、あるいは活性化していない、除核あるいは除核しない、例えばウシなどの異種卵母細胞に融合させるか、あるいは活性化したあるいは活性化していない開裂してもしなくともよい異種間NTユニットと融合することにより、異種間核移植の効率を高めることである。
【0028】
本発明のもう1つの目的は、例えば成人細胞などの、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの細胞核の、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの除核卵母細胞への移植を包含する、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの系統欠損胚あるいは幹様細胞の新規の製造法を提供することであり、この場合、このような細胞は、例えばアンチセンスあるいはリボジームテロメラーゼ遺伝子の発現の操作など、遺伝子的に加工を受けて、個別の細胞系統への分化が不可能となっているか、あるいは修飾を受けて細胞が「致死的」となっているために、産子が生じなくなっている。
【0029】
さらに本発明のもう1つの目的は、核移植の効率を高めること、具体的には例えばMHC Iファミリー、また特にQ7および/あるいはQ9などのPed遺伝子などの、胚の発生を促進する遺伝子の発現をもたらすことを目的とした核移植に用いた遺伝子操作ドナー体性細胞による核移植により生成した着床前の胚の発生の促進である。
【0030】
本発明のもう1つの目的は、BAX,Apaf−1などの細胞死遺伝子あるいはカプサーゼあるいはその一部、あるいはデメチラーゼをコードするアンチセンスDNAの発現をもたらす核移植前あるいは核移植後の導入遺伝子の導入により、例えば異種間核移植胚などの核移植胚の生成を促進することである。
【0031】
さらに本発明のもう1つの目的は、IVPによる核移植胚の生成、より具体的には、例えばBcl−2あるいはBcl−2ファミリー遺伝子などのアポトーシスを阻害する遺伝子の発現をもたらすDNA構成の導入、および/あるいは胚発生の初期段階でアポトーシスを誘導する遺伝子に特異的なアンチセンスリボジームの発現などにより、核移植に用いるドナー細胞の遺伝子を変化させてアポトーシスに耐性とすることによる核移植胚の生成の促進である。
【0032】
さらに本発明のもう1つの目的は、例えばG1期などの特定の細胞周期にあるドナー細胞の改善された選別法によって、DNA構成が、例えば視覚化(例えば蛍光タグなど)マーカー蛋白などの検出可能なマーカーと結合した特定のサイクリンをコードするようなドナー細胞の遺伝子操作による核移植の効率を改善することである。
【0033】
また本発明の目的は、in vitroで生成した胚を、好ましくは1種類あるいはそれ以上のカプサーゼ阻害物質である、1種類あるいはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質の存在下で培養してアポトーシスを阻害することにより、こうした胚の発生を促進することである。
【0034】
本発明のもう1つの目的は、動物あるいはヒト細胞核の異種の除核卵母細胞への移植により生成した胚あるいは幹様細胞を提供することである。
【0035】
本発明のより具体的な目的は、霊長類あるいはヒト細胞核の、例えばヒト、霊長類あるいは有蹄類除核卵細胞などの除核動物卵母細胞への移植により生成した霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を提供することである。
【0036】
本発明のもう1つの目的は、このような胚あるいは幹様細胞を治療あるいは診断目的で使用することである。
【0037】
本発明の具体的な目的は、このような霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を、細胞、組織あるいは臓器の移植が治療上あるいは診断上有益である何らかの疾患の治療あるいは診断を目的として使用することである。
【0038】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞を、分化細胞、組織あるいは臓器の生成を目的として使用することである。
【0039】
本発明のより具体的な目的は、本発明に従って生成した霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を、ヒト分化細胞、組織あるいは臓器の生成を目的として使用することである。
【0040】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞を、例えば遺伝子治療の用途を有する、遺伝子操作したあるいは形質転換した分化ヒト細胞、組織あるいは器官の生成に用いることができる細胞より構成される、遺伝子操作した胚あるいは幹様細胞の生成を目的として使用することである。
【0041】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従ってin vitroで生成した胚あるいは幹様細胞を、例えば細胞の分化および薬物の試験などのための分析を目的として使用することである。
【0042】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞より生成した同系の細胞、組織あるいは臓器の利用を具備する、改善された移植療法を提供することである。このような治療法は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー症、糖尿病、肝疾患、心疾患、軟骨の置換、熱傷、血管疾患、尿路疾患の他とりわけ免疫欠損、骨髄移植、癌などを含む疾患および損傷の治療を例として含んでいる。
【0043】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した、形質転換あるいは遺伝子操作胚あるいは幹様細胞を、遺伝子治療、特に上で特定した疾患および損傷の治療および/あるいは予防を目的として使用することである。
【0044】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞、あるいは本発明に従って生成したトランスジェニックあるいは遺伝子操作胚あるいは幹様細胞を、核移植用の核ドナーとして使用することである。
【0045】
さらに本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した遺伝子操作ES細胞を、例えばヒト以外の霊長類、げっ歯類、有蹄類などのトランスジェニック動物の生成を目的として使用することである。このようなトランスジェニック動物は、ヒト疾患の動物モデルなどの生成を目的として、あるいは治療用あるいは栄養薬学用などの所望のポリペプチドの生成を目的として使用することができる。
【0046】
本発明の前述およびその他の目的、長所および特徴を以下で明らかにすれば、後述の発明の好ましい態様の詳細な説明、および添付した請求項を参照することにより、本発明の性質をさらに明らかに理解することができる。
【0047】
(発明の詳細な説明)
本発明は、胚あるいは幹様細胞、より具体的には、核移植によるヒト以外の霊長類あるいはヒトの胚あるいは幹様細胞の新規生成法を提供する。標題の出願においては、核移植あるいはNTは互換的に使用される。
【0048】
上述のように、核移植による胚あるいは幹様細胞の分離の実現については報告されていない。むしろ、これまでに報告されたES様細胞の分離は、受精胚由来のものであった。また、遺伝的に類似していない種の細胞あるいはDNA、あるいはより具体的には、ある種(例えばヒトなど)の成体細胞あるいはDNAおよび他の非近縁種の卵母細胞による核移植の成功は報告されていない。むしろ、例えばウシ−ヤギおよびウシ−ヤギュウなどの近縁種の細胞の融合により生成した胚について報告されているが、これらはES細胞を生成しなかった。(Wolfe et al,Theriogenology,33(1):350(1990))。また、非胎児組織源に由来する霊長類あるいはヒトES細胞の生成法も報告されていない。むしろ、現在入手できる限られたヒト胎児細胞および組織は、自然流産組織および流産胎児より入手あるいは由来しなければならない。
【0049】
また、本発明以前には、異種間核移植によって胚あるいは幹様細胞を得た者はいなかった。
【0050】
非常に予測し難いことであったが、本発明者は、ヒト胚あるいは幹様細胞および細胞コロニーがヒト細胞核の移植によって得られること、例えば分化した成人細胞を核移植(NT)ユニットの生成に使用する除核した動物卵母細胞に移植し、これらの細胞を培養するとヒト胚および幹様細胞あるいは細胞コロニーが生成することなどを発見した。この結果は、分化したドナー細胞あるいは核を、遺伝的に類似していない種の除核した卵母細胞に導入する、例えば分化した動物あるいはヒト細胞の核、例えば成体細胞を他種の動物の除核した卵に移植するなどして、適切な条件下で培養すれば胚あるいは幹様細胞及び細胞コロニーを生成する細胞を含む核移植ユニットを生成することを含む、有効な異種間核移植の最初の証明であるため、非常に驚異的なものである。
【0051】
レシピエント卵母細胞は、好ましくは(i)ドナー細胞あるいは細胞核および(ii)互換性のあるミトコンドリアDNAあるいは互換性のある細胞質のうち少なくとも1つを組み合わせて移植する。本明細書中の「互換性がある」という用語は、ミトコンドリアDNAあるいは細胞質がドナー細胞あるいは細胞核と同種、あるいはドナー細胞あるいは細胞核と極めて近い種の細胞に由来することを意味する。例えば、ドナー細胞あるいは細胞核がヒト細胞あるいは細胞核である場合、ミトコンドリアDNAあるいは細胞質はヒト由来、あるいは例えばチンパンジー、ゴリラ、あるいはヒヒなどの高等霊長類のものとなるであろう。同様に、ドナー細胞あるいは細胞核がウシ細胞あるいは細胞核であれば、互換性のある細胞質は近縁種である有蹄類、例えば水牛などの細胞質となるであろう。最も好ましくは、互換性のあるミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質がドナーと同種の細胞に由来し、また最も好ましくは、ドナー細胞あるいは細胞核と同一の個体に由来する。
【0052】
好ましい実施態様では、細胞質は未熟卵母細胞あるいは割球に由来し、このような未熟卵母細胞より細胞質を採取する前に、これを適宜in vitroで成熟および/あるいはin vitroで活性化させてもよい。ヒト卵母細胞を含む卵母細胞をin vitroで活性化する方法については後述する。同様に、in vitroで卵母細胞を成熟させる方法は文献に報告されている。
【0053】
好ましくは、ES様細胞の生成に用いられているNTユニットは、細胞の個数が少なくとも2〜400個となる大きさ、好ましくは4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個となる大きさまで培養する。
【0054】
本発明では、胚あるいは幹様細胞は本発明に従って生成した細胞を意味する。本明細書では、このような細胞が代表的に生成される方法、すなわち異種間核移植による生成から、これを幹細胞ではなく幹様細胞と呼ぶ。これらの細胞は通常の幹細胞と類似した分化能を有することが予測されるが、その生成方法によりわずかな差を有することがある。例えば、これらの幹様細胞は核移植に用いた卵母細胞のミトコンドリアを有すると思われるので、従来の胚幹細胞と同一の挙動を示さないか、あるいは形態学的に同一でない場合がある。
【0055】
この発見は、成人細胞核の核移植、具体的にはヒトドナーの口腔より採取したヒト上皮細胞を、除核したウシ卵母細胞に移植すると、核移植ユニットを形成し、その細胞を培養するとヒト幹様あるいは胚細胞およびヒト胚あるいは幹様細胞コロニーを形成するという所見に基づいてなされた。最近この結果は、成人から採取した角化細胞を除核ウシ卵母細胞に移植して、胚盤胞およびES細胞株の生成に成功したことにより、再現された。これに基づき本発明者らは、ウシ卵母細胞とヒト卵母細胞、またおそらく一般的哺乳類卵母細胞は、胚発生中に成熟過程を経なければならず、ウシ卵母細胞がヒト卵母細胞の有効な置換物あるいは代替物として機能できるように、この過程が十分に類似しているかあるいは維持されているという仮説を立てている。明らかに、一般的な卵母細胞は自然の状態でおそらくはタンパク質あるいは核酸である因子を具備し、これが適当な条件下で胚の発生を誘発し、これらの機能は異種間で同じであるか、あるいは極めて類似している。これらの因子はRNA物質および/あるいはテロメラーゼを具備していると思われる。
【0056】
ヒト細胞核をウシ卵母細胞に有効に移植することができるという事実に基づけば、ヒト細胞を、例えば有蹄類その他の動物などの、他の非近縁種卵母細胞に移植できると予測することは妥当である。特に、例えばブタ、ヒツジ、馬、ヤギなどの他の有蹄類の卵母細胞がふさわしいはずである。また例えばチンパンジー、マカク類、ヒヒ、ゴリラ、アカゲザルなどの他の霊長類に由来する卵母細胞、両生類、げっ歯類、ウサギ、モルモットなどの他の動物に由来する卵母細胞もふさわしいはずである。さらに、同様の方法を用いて、ヒト細胞あるいはヒト細胞核をヒト卵母細胞に移植し、生成した胚盤胞を用いてヒトES細胞を生成することも可能なはずである。
【0057】
このため、その最も広範な実施態様においては、本発明は動物あるいはヒト細胞核、または動物あるいはヒト細胞の、ドナー細胞核と異なる種の(好ましくは除核した)卵母細胞への、注入あるいは融合による移植、さらに胚あるいは幹様細胞および/あるいは細胞培養を得るのに用いることのできる細胞を含んだNTユニットを生成することを目的とした前記レシピエント卵母細胞への、好ましくはドナー細胞あるいは細胞核と同種である互換性のあるミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質の注入を適宜含む。除核(卵母細胞内の細胞核の除去)は核移植の前あるいは核移植後に実施することができる。例えば本発明は、有蹄類細胞核あるいは有蹄類細胞の、注入あるいは融合による、例えば他の有蹄類あるいは非有蹄類などの異種の除核卵母細胞への移植を含むことがあり、この注入あるいは融合により細胞および/あるいは細胞核を結合してNTユニットを生成し、次に、好ましくは少なくとも約2〜200個、より好ましくは4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個の細胞を含む多細胞NTユニットを得るのに適した条件下で培養する。このようなNTユニットの細胞は、培養時に胚あるいは幹様細胞あるいは細胞コロニーを生成するのに用いることができる。
【0058】
本発明の好ましい該実施態様は、ドナーヒト細胞核あるいはヒト細胞を、例えば有蹄類卵母細胞などの除核したヒト、霊長類、あるいは霊長類以外の動物の卵母細胞に、また好ましい実施態様においては、ウシ除核卵母細胞に移植することによる、ヒト以外の霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞の生成を具備している。好ましくは、除核卵母細胞に、ヒト細胞質(例えば少なくとも1個以上の未成熟あるいは成熟卵母細胞あるいは割球)を注入、あるいは核体?????(除核ヒト卵母細胞あるいは割球、あるいは高等霊長類の卵母細胞あるいは割球)および/あるいはヒトミトコンドリアDNAと融合せしめる。
【0059】
一般的に、胚あるいは幹様細胞は、以下の手順からなる核移植操作により生成される:
(i)ドナー細胞核源として用いる所望のヒトあるいは動物細胞を採取する(遺伝的に改変が加えられていても良い);
(ii)例えば哺乳類、より好ましくは霊長類あるいはウシなどの有蹄類の卵母細胞源などの適当な採取源より卵母細胞を採取する;
(iii)前期卵母細胞から細胞内の核を除去して除核する;
(iv)ヒトあるいは動物の細胞、あるいは細胞核を、ドナー細胞あるいは細胞核と異種の除核卵母細胞に、例えば融合あるいは注入などにより移植、ただし手順(iii)および(iv)はどちらを先に実施しても良い;
(v)生成したNT生成物あるいはNTユニットを培養して、複数の細胞からなる構造物(識別可能な内部細胞塊を有する胚様体構造物)を生成;
(vi)前記胚から得られた細胞を培養して胚あるいは幹様細胞および幹様細胞コロニーを得る。
【0060】
前述のように、核移植操作には、好ましくは互換性のある、すなわちドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは近縁種に由来するミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質の導入も含める。この実施はドナー細胞あるいは細胞核のレシピエント卵母細胞への導入の前でも、同時でも、あるいは後でも良い。好ましくは、互換性のある細胞質および/あるいはミトコンドリアDNAは、ドナー細胞あるいは細胞核のレシピエント卵母細胞への導入後早い時点、すなわちこのような導入より約24時間以内に、より好ましくはこのような導入より約6時間以内に、最も好ましくはこのような導入より約2〜4時間以内に導入する。
【0061】
互換性のある細胞質の採取源には、卵母細胞から多数得ることができる未成熟卵母細胞を特に含める。例えばヒトの場合は、例えば子宮摘出術を受けた女性など同意を得たドナーの卵巣から卵母細胞を採取することができる。
【0062】
このような未熟な卵母細胞から細胞質を採取する前に、これをin vitroで適宜成熟させる。卵母細胞をin vitroで成熟させる方法は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,945,577号に記載されている。
【0063】
さらに、このような未成熟の卵母細胞から細胞質を採取する前に、これをさらにin vitroで適宜活性化することができる。ヒト卵母細胞を含む卵母細胞を単為発生的に活性化させる方法は周知である。In vivoでの卵母細胞活性化法の例は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国出願番号No.08/888,057に記載されている。In vitroで活性化させる好ましい方法には、DMAPとイオノマイシンの使用、およびシクロヘキサミドとイオノマイシンの使用が含まれる。
【0064】
レシピエント卵母細胞に導入する細胞質の量は、好ましくは細胞の容積を最大で5倍にし、好ましくは約2倍を上回らず、最も好ましくは約1 1/2倍を上回らない量とする。これは、互換性のある卵母細胞に由来する細胞質をレシピエント卵母細胞に注入するか、あるいはその代わりに互換性のある卵体(レシピエント卵母細胞と同種であるか、極めて近縁である種の除核卵母細胞)のレシピエント卵母細胞と融合することにより実施することができる。適宜、レシピエント卵母細胞の細胞質の全体あるいは一部を除去し、互換性のある卵体を導入する容積を増加せしめることができる。文献では、そのことに関して、適切な細胞核/細胞質の比率および細胞の容積の維持が、胚盤胞の形成および発生において重要であることが示唆されている(Karyikova et al,Reprod,Nutr.Devel.38(6):665−670)。
【0065】
本発明者らはその考えに従うことを望まないが、卵母細胞の細胞質内には胚形成を助ける、例えば核酸配列および/あるいはタンパク質などの成分が存在するという仮説があり、このような因子は系統発生的に異なる種間である程度保たれていると考えられ、種の相違は異種間核移植の有効性を妨げるほどに重要であるという理論がある。よって、本発明者らは、このような有効性の問題を、胚形成を促進する同種あるいは極めて近い種の成分を含んでいると思われる互換性のある細胞質を導入することで軽減することを意図している。
【0066】
上記のように、互換性のある、すなわちドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは極めて近い種のミトコンドリアDNAを導入することにより、クローン化の有効性も改善することができる。この導入の実施は、ドナー細胞あるいは細胞核の導入前でも、導入と同時でも、あるいは導入後でも可能である。本質的に、本発明のもうひとつの目的は、ドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは極めて近い種のミトコンドリアDNAを、移植の前後、活性化の前後、および融合と開裂の前後にレシピエント卵母細胞に導入することによる、例えば異種間核移植などの核移植の有効性の改善である。好ましくは、ドナー細胞がヒト細胞であれば、ヒトミトコンドリアDNAを、同じドナーに由来する例えば肝細胞および組織などから採取する。
【0067】
ミトコンドリアの分離法は技術上周知である。ミトコンドリアは組織培養中の細胞、あるいは組織より分離することができる。個々の細胞あるいは組織は個々のドナー細胞に依存する。ミトコンドリア採取源として使用できる細胞あるいは組織の例には、線維芽細胞、上皮、肝臓、肺、角化細胞、胃、心臓、膀胱、膵臓、食道、リンパ球、単球、単核球、卵丘細胞、子宮細胞、胎盤細胞、腸細胞、造血細胞、卵母細胞、およびこのような細胞を含む組織が含まれる。
【0068】
例えば、ミトコンドリアは組織培養細胞およびラット肝臓から分離することができる。同一のあるいは類似した操作を用いて、他の細胞および組織、すなわちヒト細胞および組織からミトコンドリアを分離することができると予測される。上記のように、好ましいミトコンドリア採取源には、ヒト肝臓組織が含まれるが、これは、こうした細胞が多数のミトコンドリアを含んでいるからである。当業者は、個別の細胞株あるいは組織に応じて、該操作に必要な改変を行うことができる。分離したDNAは、所望すれば例えば密度勾配遠心法などの既知の方法でさらに精製することもできる。
【0069】
生成した分離ミトコンドリアDNAは、レシピエント卵母細胞に注入するのが好ましい。好ましくは、1個あるいは数個の細胞から分離したミトコンドリアDNAを全て導入して、レシピエント卵母細胞に互換性のあるミトコンドリアDNAの完全な成分を確保せしめる。好ましくは、ミトコンドリアDNAは自己採取源、すなわちドナー細胞あるいは細胞核の採取源であるヒト被験者、あるいは近縁者などこの被験者と遺伝的に互換性のあるヒトから採取した細胞あるいは組織から得る。また、互換性のあるミトコンドリアを未成熟卵母細胞より採取し、互換性のある細胞質とともに導入することができる。
【0070】
本発明で利用することのできる個別の核移植は、文献に報告されており、発明の背景の項で引用されている様々な参照文献に記載されている。特に、その全文を本明細書に参照文献として引用しているChampbell et al,Theriogenology,43:181(1995):Collas et al,Mol.Report Dev.,38:264−267(1994);Keefer et al,Biol.Reprod.,50:935−939(1994);Sims et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:6143−6147(1993);WO 94/26884;WO 94/24274およびWO 90/03432を参照のこと。また米国特許第4,944,384号および5,057,420号は、ウシ核移植の操作について記載している。また、いずれもその全文を本明細書に参照文献として引用しているCibelli et al,Science,Vol.280:1256−1258(1998),米国特許第5,945,577号;WO 97/07669;WO 97/07668およびWO 96/07732も参照のこと。
【0071】
ヒト、あるいは好ましくは哺乳類細胞である動物細胞は、周知の方法により採取し、培養することができる。本発明において有用であるヒトおよび動物細胞には、例として、上皮、神経細胞、表皮細胞、角化細胞、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(BおよびTリンパ球)、その他の免疫細胞、赤血球、マクロファージ、メラニン細胞、単球、単核球、幹細胞、線維芽細胞、心筋細胞、およびその他の筋肉細胞などが含まれる。さらに、核移植に用いられるヒト細胞は、皮膚、肺、膵臓、肝臓、胃、腸、心臓、生殖器官、膀胱、腎臓、尿道、および他の泌尿器などの様々な臓器より得ることができる。これらは適したドナー細胞の実例である。
【0072】
適したドナー細胞、すなわち標題の発明に有用な細胞は、身体のあらゆる細胞あるいは臓器から得ることができる。これには全ての体性細胞および胚細胞が含まれる。好ましくは、ドナー細胞あるいは細胞核は活発に分裂、すなわち非休止期にある(G1,SあるいはM細胞周期)細胞を含み、このような細胞はクローン化効率を高めると報告されている。さらにより好ましくは、このようなドナー細胞はG1細胞周期にある。しかし、休止期のドナー細胞(G0)も本発明の範囲内にある。例えば適切な培養条件で、血清の欠乏により、休止期細胞を採取することができる。
【0073】
生成した胚盤胞は、その全文を本明細書に参照文献として引用しているThomson et al.,Science,282:1145−1147(1998)およびThomson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,92:7544−7878(1995)で報告されている培養法に従い、胚幹細胞株を得るのに用いることができる。
【0074】
一方、識別可能な内部細胞塊を有する生成した胚盤胞は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,905,042号に開示された方法に従い培養することができる。この方法は、フィーダー層上での内部細胞塊の全体あるいはその一部の培養を本質的に具備し、このとき該フィーダー層との接触は培養期間を通して維持されている。この培養法は、培養を続けると培養した内部細胞塊の一部、すなわちES様の外観を有する細胞を含む培養された内部細胞塊の最外部の選択的除去をさらに具備する。次にこの細胞コロニーの最外部を、代表的には胎児線維芽細胞であるもう1つのフィーダー層上に導入する。この方法は、組織培養において未分化(胚幹)細胞、すなわちES様の形態を示し、フィーダー層より除去すると他の細胞型に分化する細胞の維持をもたらすことが判明している。
【0075】
後述の例では、核移植ドナーとして使用される細胞はヒトドナーの口腔から採取した上皮細胞、および成人角化細胞であった。しかし、論じたように、開示された方法は他のヒト細胞あるいは細胞核に適用可能である。さらに、細胞核はヒト体性細胞からも、胚細胞からも採取することができる。
【0076】
また、技術上既知の適当な方法を用いて、核移植前にドナー細胞を有糸分裂期で停止させることも可能である。様々な段階で細胞周期を止める方法は、その全文を参照文献として本明細書中に引用している米国特許第5,262,409号で幅広く検討されている。特に、シクロヘキサミドは有糸分裂阻害作用を有すると報告されているが(Bowen and Wilson(1955) J.Heredity,45:3−9)、電気パルス処理と組み合わせた場合は、成熟ウシ濾胞卵母細胞の活性化の改善に用いることもある(Yang et al.(1992)Biol.Reprod.,42(Suppl.1):117)。
【0077】
接合体遺伝子活性化はヒストンH4の過アセチル化を伴う。トリコスタチンAは、ヒストンデアセチラーゼを、他の化合物と同様に可逆的に阻害することが証明されている(Adenot et al,“Differential H4 acetylation of paternal and maternal chromatin precedes DNA replication and differential transcriptional activity in pronuclei of 1−cell mouse embryos.”Development (Nov.1997)124(22):4615−4625;Yoshida et al.“Trichostatin A and trapoxin:novel chemical probes for the role of histone acetylation in chromatin structure and function”Bioessays (May,1995) 17(5):423−430)。
【0078】
例えば、酪酸もヒストンデアセチラーゼを阻害することによりヒストン過アセチル化を惹起すると考えられている。酪酸は、全般的に遺伝子の発現を変化せしめ、ほとんど全ての場合これを細胞培養に添加することにより細胞の成長を止めると見られる。細胞の成長停止を目的とした酪産の使用は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,681,718号に記載されている。よってドナー細胞は、融合前にトリコスタチンAあるいはその他の適切なデアセチラーゼ阻害物質に曝露するか、あるいはゲノムを活性化する前にこの様な化合物を培地に添加しても良い。
【0079】
さらに、DNAの脱メチル化は、転写因子がDNA調節配列に適切に接触するための要件と考えられている。着床前の胚の8細胞期〜胚盤胞期におけるDNA全体の脱メチル化については、すでに報告されている(Stein et al.,Mol.Reprod.& Dev.,47(4):421−429)。また、Jaenisch et al.(1997)は、5−アザシチジンを用いて細胞内のDNAのメチル化レベルを低下させることにより、転写因子のDNA調節配列への接触が増大する可能性があると報告している。よって、融合前のドナー細胞を5−アザシチジン(5−Aza)に曝露するか、あるいは8細胞期〜胚盤胞期の培地に5−Azaを添加しても良い。これに替えて、DNAを脱メチル化する他の既知の方法を用いても良い。
【0080】
核移植のレシピエントとして、あるいは互換性のある細胞質の回収に用いられる卵母細胞は、哺乳類および両生類を含む動物から採取することができる。卵母細胞の採取に適した哺乳動物には、ヒツジ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヤギ、モルモット、マウス、ハムスター、ラット、霊長類、ヒトなどが含まれる。好ましい該実施態様では、霊長類、あるいは例えばウシなどの有蹄類より卵母細胞を採取する。ヒト卵母細胞の場合、適当な採取源には、子宮摘出術を受ける患者など同意を得た女性から採取した卵巣が含まれる。
【0081】
卵母細胞の分離法は技術上周知である。これは、本質的に例えばウシなどの哺乳類あるいは両生類の卵巣あるいは生殖管からの卵母細胞の分離を具備する。ウシ卵母細胞が容易に入手できる採取源は、屠畜場から得られる材料である。
【0082】
遺伝子操作、核移植およびクローン化などの技術を成功裏に使用するために、核移植のレシピエントとして使用できるようになるまで卵母細胞をin vitroで成熟させるのが好ましい。この操作は、全般的に、例えば屠畜場より入手したウシ卵巣などの動物の卵巣より未成熟(第I相)の卵母細胞を採取し、受精あるいは除核前に卵母細胞を成熟培地内で成熟させて、卵母細胞を、ウシ卵母細胞の場合は一般的に吸引後18〜24時間で起こる減数第二分裂中期とする必要がある。本発明の用途では、この期間は「成熟期間」として知られる。本明細書で期間の計算に用いられているように、「吸引」は、卵胞からの未成熟卵母細胞の吸引を意味する。
【0083】
さらに、in vivoで成熟させた減数第二分裂中期卵母細胞は、核移植術で成功裏に使用されている。例えば、成熟減数第二分裂中期卵母細胞は、非過剰排卵あるいは過剰排卵雌ウシあるは若雌ウシから、発情開始、あるいはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)あるいは類似のホルモンの注射より35〜48時間後に外科的に採取することができる。また、例えばヒツジ、ヤギ、ブタなどの他の種からもin vivo成熟卵母細胞を採取することができる。
【0084】
除核時および核移植時の卵母細胞の成熟段階は、NT法の成功にとって重要であると報告されている。(例えばPrather et al.,Differentiation,48,1−8,1991などを参照のこと)。全般的に、過去の哺乳類胚クローン化の成功例では、減数第二分裂中期においては卵母細胞は導入した核を受精精子と同様に扱えるまでに「活性化」が可能で、あるいは十分に「活性化」されると考えられるので、この段階の卵母細胞がレシピエント卵母細胞として使用された。家畜、特にウシでは、卵母細胞の活性化期は一般的に吸引より約16〜52時間後、好ましくは吸引より約28〜42時間後である。
【0085】
例えば、未成熟卵母細胞は、Seshagine et al.,Biol.Reprod.,40.544−606,1989に報告されているように、HEPES緩衝化ハムスター胚培養培地(HECM)内で洗浄し、39℃でウシ胎児血清を10%含んだ50μlの組織培養培地(TCM)199に黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)などの適切なゴナドトロピンを含ませた成熟培地数滴の中に移し、軽量パラフィンあるいはシリコン層の下にエストラジオールを入れる。
【0086】
代表的には約10〜40時間、また好ましくは約16〜18時間であり、in vivoあるいはin vitroのいずれで行っても良い一定の成熟期間の後で、卵母細胞を除核するのが好ましいであろう。除核の前に、好ましくは卵母細胞を取り出して1mg/mlのヒアルロニダーゼを含んだHECMに入れたのち卵丘細胞を摘出する。これは、内径の極めて小さいピペットによる反復ピペッティングか、あるいは短時間の振盪により行う。次に皮膜を取った卵母細胞を極体によってスクリーニングし、極体があれば減数第二分裂中期卵母細胞であると判定してこれを選択し、引き続き核移植に使用する。代表的にはこの時期に除核を実施する。しかし、ドナー細胞核は内生細胞核と容易に識別できるので、除核の実施はドナー細胞あるいは細胞核の導入前でも導入後でも良い。
【0087】
除核は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第4,994,384号に記載されているような既知の方法で実施することができる。例えば、減数第二分裂中期卵母細胞は、迅速除核用に適宜7.5μg/mlのサイトカラシンBを含んだHECMに入れるか、あるいは、例えばCR 1aaに10%発情期雌ウシ血清を加えたものなどの適当な培地に入れても良く、その後好ましくは24時間未満経過後、より好ましくは16〜18時間後に除核してもよい。
【0088】
除核は、マイクロピペットを用いた顕微手術により、極体および付属する細胞質を除去して行うことができる。次に卵母細胞をスクリーニングし、除核に成功した卵母細胞を同定することができる。このスクリーニングは、1μg/mlの33342 Hoechst染色剤のHECM溶液で卵母細胞を染色し、卵母細胞に紫外線を10秒未満照射して観察することで実施できる。除核に成功した卵母細胞は、次に適切な培地に移すことができる。
【0089】
本発明では、レシピエント卵母細胞は、代表的にはin vitroでの成熟開始より約10〜約40時間後の間、より好ましくはin vitroでの成熟開始より約16〜約24時間後、最も好ましくはin vitroでの成熟開始より約16〜18時間後に除核する。除核の実施は核移植前でも、核移植と同時でも、あるいは核移植後でもよい。また、除核の実施は活性化の前でも、活性化の後でも、あるいは活性化と同時でも良い。
【0090】
代表的には除核した卵母細胞と異種である1個の動物あるいはヒト細胞あるいはその細胞核は、その後代表的には除核されているNTユニットの生成を目的として用いられる卵母細胞の囲卵腔に移植する。しかし、その代わりに、核移植後に内生核の除去を実施しても良い。動物あるいはヒト細胞あるいは細胞核および除核した卵母細胞は、技術上既知の方法に従いNTユニットを生成することを目的として用いられる。例えば、細胞を電気融合法で融合してもよい。電気融合は、原形質膜を一過的に破壊するのに十分な電気パルスを与えて行う。原形質膜は速やかに修復されるため、この原形質膜の破壊はきわめて短時間である。本質的に、隣接する2枚の膜の破壊が誘導されれば、修復時に脂質2層膜が混合し、2個の細胞の間に小さなチャネルが開くであろう。このような小さな開口部は熱力学的に不安定であるため、2個の細胞が1つになるまで拡大する。この過程についての更なる議論についての参照文献は、Prather et al.による米国特許第4,997,384号(その全文を参照文献として本明細書に引用)である。例えばショ糖、マンニトール、ソルビトール、およびリン酸緩衝化溶液を含む様々な電気融合培地を用いることができる。センダイウイルスを細胞融合誘導物質として用いて融合を行うこともできる(Graham,Wister Inot.Symp.Monogr.9,19,1969)。
【0091】
また一部の例(例えばドナー細胞核が小さい場合など)では、細胞核を電気穿孔融合法を用いることなく、直接卵母細胞に注入するのが好ましいであろう。このような方法は、Collas and Barnes,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)に開示されており、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている。
【0092】
好ましくは、ヒトあるいは動物細胞および卵母細胞を、卵母細胞の成熟開始より約24時間後に90〜120Vの電気パルスを15μ秒間適用して500μmチャンバー内で電気融合する。融合後、生成した融合NTユニットは、好ましくは活性化するまで、例えば上記で指定した培地などの適切な培地内に入れておく。代表的には、この後すぐに活性化を、代表的には24時間未満経過後、好ましくは4〜9時間後に実施するであろう。しかし、核移植の前あるいは直前(同時)に、除核されている、あるいはされていないレシピエント卵母細胞を活性化することも可能である。例えば、核移植より約12時間前〜核移植より約24時間後に活性化を実施してもよい。より代表的には、核移植と同時あるいは直後、例えば約4〜9時間後などに活性化を実施する。
【0093】
NTユニットは既知の方法で活性化してよい。このような方法には、例えば低温とするか、あるいは実際に低温のショックをNTユニットに実質的に適用することによる、亜生理的温度でのNTユニットの培養が含まれる。これは、胚が通常曝露されている生理的温度条件よりも低温である室温でNTユニットを培養することにより最も簡便に実施できる。
【0094】
一方、既知の活性化物質により活性化を実施することができる。例えば、受精時の精子の卵母細胞への進入によって融合前の卵母細胞が活性化されることにより、核移植後のウシの生存子妊娠が増加し、かつ遺伝的に同一の子ウシが複数得られることが証明されている。また、電気的および化学的ショック、あるいはシクロヘキサミド処理などの処理も、融合後のNT胚の活性化を目的として用いることができる。適切に卵母細胞を活性化する方法は、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている、Susko−Parrich et al.,に対する米国特許第5,496,720号の標題である。
【0095】
例えば、卵母細胞の活性化は同時に行っても、順に行ってもよく:
(i)卵母細胞内の2価陽イオンの濃度を高め、
(ii)卵母細胞内の細胞蛋白のリン酸化を低下させる。
【0096】
これは、全般的に、卵母細胞の細胞質内に、例えばマグネシウム、ストロンチウム、バリウムあるいはカルシウムなどの2価の陽イオンを、例えばイオノフォアの形などで導入して実施されるであろう。2価陽イオンレベルを上昇せしめる方法には、電気ショックの使用、エタノール処理、およびケージドキレーター処理が含まれる。
【0097】
リン酸化は、例えば6−ジメチルアミノプリン、スタウロスポリン、2−アミノプリン、およびスフィンゴシンなどのセリン−トレオニンキナーゼ阻害物質などのキナーゼ阻害物質の添加などによる既知の方法で低下せしめてもよい。
【0098】
一方、細胞蛋白のリン酸化は、例えばフォスファターゼ2Aおよびフォスファターゼ2Bなどのフォスファターゼを卵母細胞内に導入して阻害してもよい。
【0099】
以下に具体的な活性化法を列挙する。
1. イオノマイシンおよびDMAPによる活性化
1− イオノマイシン(5μM)および2mM DMAPの溶液に卵母細胞を4分間入れる;
2− DMAPを2mM含む培地に該卵母細胞を移し、4時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
2. イオノマイシンDMAPおよびロスコビチンによる活性化
1− イオノマイシン(5μM)および2mM DMAP溶液に卵母細胞を4分間入れる;
2− 該卵母細胞をDMAP 2mMおよびロスコビチン200μMを含んだ培地に移し、3時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
3. イオノマイシン曝露後のサイトカラシンおよびシクロフォスファミドによる活性化
1− 卵母細胞をイオノマイシン(5μM)中に4分間入れる;
2− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド5μg/mlを含んだ培地に移し、5時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
4. 電気パルスによる活性化
1− 100μM CaCl2を含んだマンニトール培地に卵を入れる;
2− 1.0 kVcm−1のパルスを20μ秒間、各パルス間の間隔を22分として3回通電する;
3− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlを含んだ培地に移し、3時間置く。
5. エタノール曝露後のサイトカラシンおよびシクロヘキサミドによる活性化
1− 卵母細胞を7%エタノール中に1分間入れる;
2− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド5μg/mlを含んだ培地に移し、5時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
6. アデノフォスチンのマイクロインジェクションによる活性化
1− 卵母細胞に、アデノフォスチン10μMを含んだ溶液を10〜12pl注入する;
2− 卵母細胞を培養する。
7. 精子因子のマイクロインジェクションによる活性化
1− 卵母細胞に、例えば霊長類、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、あるいはハムスターなどから分離した精子因子を10〜12pl注入する。
2− 卵母細胞を培養する
8. 組換え精子因子のマイクロインジェクションによる活性化
9. DMAP曝露後のシクロヘキサミドおよびサイトカラシンBによる活性化
代表的には成熟の22〜28時間後に、卵母細胞あるいはNTユニットを約2mMのDMAP中に約1時間入れ、その後サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド20μg/ml中で2〜12時間、好ましくは約8時間インキュベーションする。
【0100】
上記の活性化プロトコルは、例えば霊長類あるいはヒトドナー細胞あるいは卵母細胞の使用を含む操作などの核移植操作に用いられているプロトコルの例である。しかし、上記の活性化プロトコルは、ドナー細胞および核が、例えばヒツジ、ヤギュウ、ウマ、ヤギ、ウシ、ブタなどの有蹄類由来で、かつ/あるいは卵母細胞が例えばヒツジ、ブタ、ヤギュウ、ウマ、ヤギ、ウシのほか他の種類の有蹄類由来のいずれかあるいは両者である場合に使用できる。
【0101】
前述のように、活性化の実施は、核移植前でも、核移植と同時でも、あるいは核移植後でもよい。活性化は、一般的には核移植および融合の約40時間前〜核移植および融合の約40時間後に、より好ましくは核移植および融合の約24時間前〜約24時間後に、最も好ましくは核移植および融合の約4〜9時間前〜核移植および融合の約4〜9時間後に実施する。活性化は、好ましくはin vitroあるいはin vivoで卵母細胞成熟後あるいは直前直後、例えばほぼ同時あるいは成熟より約40時間以内などに、より好ましくは成熟より約24時間以内に実施する。
【0102】
活性化されたNTユニットは適切なin vitro培地において、胚あるいは幹様細胞および細胞コロニーが生成するまで培養することができる。胚の培養および成熟に適した培地は技術上周知である。ウシ胚の培養および維持に用いられる既知の培地の例には、Ham’s F−10+10%ウシ胎児血清(FCS),Tissue Culture Medium−199(TCM−199)+10%ウシ胎児血清、Tyrodes−Albumin−Lactate−Pyruvate(TALP),Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(PBS)、Eagle’s and Whittens’s mediaが含まれる。卵母細胞の採取と維持に最も多く用いられる培地の1つはTCM−199、およびウシ胎児血清、新生児血清、発情牝ウシ血清、子ヒツジ血清あるいは去勢ウシ血清などの血清の1〜20%添加物である。好ましい維持培地にはEarl salt、10%ウシ胎児血清、0.2Maピルビン酸、および50μg/ml硫酸ゲンタマイシンを含むTCM−199が含まれる。上記の培地は、いずれも、顆粒層細胞、卵管細胞、BRL細胞および子宮細胞およびSTO細胞などの様々な種類の細胞による共培養にも使用できる。
【0103】
特に、着床前期および着床期中のヒト子宮内膜上皮細胞は白血病阻害因子(LIF)を分泌する。このため、培地へのLIFの添加は、in vitroにおける再構築された胚の発生の促進において重要となるであろう。LIFの胚あるいは幹様細胞培養への使用については、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている米国特許第5,712,156号に記載されている。
【0104】
もう1つの維持培地については、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている、Rosenkrans Jr.et al.,に対する米国特許第5,096,822号に記載されている。この胚培地の名称はCR1であり、胚を維持するのに必要な栄養素を含んでいる。CR1はL−酪酸ヘミカルシウムを1.0mM〜10mM、好ましくは1.0mM〜5.0mM含んでいる。L−酪酸ヘミカルシウムは、L−酪酸にヘミカルシウム塩が結合したものである。
【0105】
また、培養ヒト胚細胞の維持に適した培地については、Thomson et al.,Science,282:1145−1147(1998)およびProc.Natl.Acad.Sci.,USA,92:7844−7848(1995)に記載されている。さらに、該NTユニットは腹水、羊水、硝子体/房水およびリンパ液などの生物学的液体で培養することもできる。
【0106】
その後に、培養した1つあるいは複数のNTユニットは、好ましくは洗浄し、その後例えばCRIaa培地、Ham’s F−10,Tissue Culture Media−199(TCM−199)、Tyrodes−Albumin−Lactate−Pyruvate(TALP)、Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(PBS)、Eagle’s、あるいは好ましくは10%FCSを含むWhittens’s培地などの、上記で指定した培地などの適切な培地に移す。このような培養は、好ましくは適切な集密化フィーダー層を含んだウェルプレート内で実施する。適切なフィーダー層には、例えば有蹄類由来の線維芽細胞および子宮上皮細胞、ニワトリ線維芽細胞、ネズミ科(例えばマウスあるいはラット)線維芽細胞、STOおよびSI−m220フィーダー細胞株、およびBRL細胞などの、線維芽細胞および上皮細胞が例として含まれる。
【0107】
好ましい該実施態様では、フィーダー細胞はマウス胚線維芽細胞を具備している。適切な線維芽細胞のフィーダー層を調製する方法は、後述の例に記載されており、十分に通常の技術者の熟練の範囲内である。
【0108】
該NTユニットは、該NTユニットが胚幹様細胞あるいは細胞コロニーの生成を目的として使用できる細胞を採取するのに適した大きさに達するまで、該フィーダー層上で培養する。これらのNTユニットは、好ましくは細胞数が少なくとも約2〜400個、より好ましくは約4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個となる大きさに達するまで培養する。当該培養は、適切な条件下、すなわち約38.5℃でCO2濃度5%とし、成長を適正化するために、代表的には2〜5日ごとに、好ましくは約3日ごとに培地を交換しながら実施する。
【0109】
ヒト細胞/除核ウシ卵母細胞由来のNTユニットの場合は、代表的には約50個であるES細胞コロニーを生成するのに十分な細胞が、卵母細胞活性化より約12日後に採取される。しかし、これは核ドナーとして用いる個々の細胞、個々の卵母細胞の種、および培養条件によって異なることがある。当業者は、望ましい十分な個数の細胞が得られた場合、培養されたNTユニットの形態によって、肉眼で容易に確認できる。
【0110】
ヒト/ヒト核移植胚、あるいはヒト以外の霊長類ドナーあるいは卵母細胞を用いて生成したその他の胚の場合、組織培養中でヒトあるいは他の霊長類細胞を維持するのに有用であることが知られている培地を用いるのが有益であると思われる。ヒト胚培養に適した培地の例には、Jones et al,Human Reprod.,13(1):169−177(1998)に報告された培地、いずれも、Irvine Scientific,Santa Ana,Californiaより入手可能なP1−カタログ#99242培地、およびP−1カタログ#99292培地、およびその全文が本明細書中に参照文献として引用されているThomson et al.(1998)および(1995)によって使用されている培地が含まれる。
【0111】
もう1つの好ましい培地は、ACM+ウリジン+ブドウ糖+LIF 1000IUを具備する。
【0112】
さらに適当な培地の他の例には、腹水、硝子体/房水、羊水およびリンパ液などの自然に発生する生物学的液体が含まれる。
【0113】
上述のように、本発明で使用する細胞は、好ましくは哺乳類体性細胞を、最も好ましくは細胞が活発に増殖する(非静止期)哺乳類細胞培養に由来する細胞を具備している。特に好ましい実施態様では、所望のDNA配列の追加、欠失あるいは置換によってドナー細胞が遺伝的に修飾されている。例えば、ヒト、霊長類あるいはウシなどに由来する角化細胞あるいは線維芽細胞などのドナー細胞は、例えば治療用ポリペプチドなどの所望の遺伝子産物の発現をもたらすDNA構成に形質転換あるいは変換することができる。その例には、例えばIGF−I,IGF−II、インターフェロン、コロニー刺激因子などのリンフォカイン、コラーゲンなどの結合組織ポリペプチド、遺伝因子、凝固因子、酵素、酵素阻害物質などが含まれる。また、所望の遺伝子は、相同的組換えにより「ノック・イン」あるいは「ノック・アウト」することができる。
【0114】
また、上述のように、核移植の前に、例えば細胞の系統発生の障害、胚発生の促進および/あるいはアポトーシスの阻害などを目的としてドナー細胞を修飾することができる。望ましい修飾については後述する。
【0115】
本発明の態様の1つでは、例えばヒト細胞などのドナー細胞を遺伝的に修飾し、系統欠損とし、核移植に用いる場合には生産児を生じせしめない。これは、特にヒト核移植胚の場合に、倫理的な理由により生存胚の生成が望まれない場合に望ましい。これは、ヒト細胞を遺伝的に操作して、核移植に用いる際に特定の系統細胞への分化を不能とすることにより実施できる。特に、細胞を遺伝的に修飾し、核移植ドナーとして用いる場合には、生成した「胚」が中胚葉、内胚葉あるいは外胚葉組織のうち少なくとも1つを含まないか、相当量を欠損せしめることができる。
【0116】
これは、例えばノック・アウト、あるいは中胚葉、内胚葉あるいは外胚葉のうち1つあるいはそれ以上に特異的な遺伝子の発現を障害することなどにより実施できる。その例には、
中胚葉: SRF,MESP−1,HNF−4,β−Iインテグリン、MSD;
内胚葉: GATA−6,GATA−4;
外胚葉: RNAヘリカーゼA,Hβ58
が含まれる。
【0117】
上記のリストは、例示することを意図したもので、中胚葉、内胚葉および外胚葉の発生に関与する既知の遺伝子を網羅するものではない。中胚葉欠損、内胚葉欠損、および外胚葉欠損細胞および胚の生成は、すでに文献に報告されている。例えばArsenian et al,EMBO J.,Vol.17(2):6289−6299(1998);Saga Y.Mech.Dev.,Vol.75(1−2):53−66(1998);Holdener et al.,Development,Vol.120(5):1355−1346(1994);Chen et al,Genes Dev.Vol.8(20):2466−2477(1994);Rohwedel et al,Dev.Biol.,201(2):167−189(1998)(中胚葉);Morrisey et al,Genes,Dev.,Vol.12(22):3579−3590(1998);Soudais et al,Development,Vol.121(11):3877−3888(1995)(内胚葉);およびLee et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.95:(23):13709−13713(1998);およびRadice et al,Development,Vol.111(3):801−811(1991)(外胚葉)などを参照のこと。
【0118】
全般的に、例えばヒト角化細胞、上皮細胞あるいは線維芽細胞などの所望の体性細胞を遺伝子操作すると、特定の細胞系統に特異的な1つあるいはそれ以上の遺伝子が「ノック・アウト」され、かつ/あるいはこうした遺伝子の発現が顕著に障害される。これは、例えば相同組換えなどの既知の方法によって実施することができる。所望の遺伝子を「ノック・アウト」するための好ましい遺伝子系は、Capecchi et al,によって、米国特許第5,631,153号および第5,464,764号によって開示され、所望の哺乳類ゲノム中の標的とするDNA配列の修飾を可能にする陽性−陰性選択(PNS)ベクターが報告されている。こうした遺伝子修飾により、核移植ドナーとして用いた場合に特定の細胞系統への分化が不可能な細胞が生成するであろう。
【0119】
この遺伝子修飾された細胞は、系統欠損核移植胚、すなわち機能的中胚葉、内胚葉、あるいは外胚葉のうち少なくとも1つが発生しない胚を生成するのに用いられる。このため、生成した胚は、例えばヒト子宮などに移植しても、生産児を生じせしめないであろう。しかし、こうした核移植により発生したES細胞は、1つまたは2つの残った未障害系統の細胞を生成する上でまだ有用である。例えば、外胚葉欠損ヒト核移植胚は、まだ中胚葉および内胚葉由来の分化細胞を生成する。外胚葉欠損細胞は、RNAヘリカーゼAあるいはHβ58遺伝子の一方あるいは両者の欠失あるいは障害により生成することができる。
【0120】
これらの系統欠損ドナー細胞を遺伝子修飾して、もう1つの所望のDNA配列を発現せしめることも出来る。このため、遺伝子修飾されたドナー細胞は、系統欠損胚盤胞を生成し、これを平板培養すると、多くとも2つの胚葉に分化する。
【0121】
一方、ドナー細胞を修飾し、「不死性」とすることができる。これはアンチセンスあるいはリボジームテロメラーゼ遺伝子を発現せしめることにより達成できる。これは、アンチセンスDNAあるいはリボジームの発現をもたらす既知の遺伝的方法、あるいは遺伝子ノック・アウトにより実施できる。これらの「不死性」細胞は、核移植に用いた場合、分化して産子となることができないであろう。
【0122】
本発明のもう1つの好ましい実施態様は、組織培養中でより効率的に成長する核移植胚の生成である。これは、ES細胞および/あるいは産子(胚盤胞が代理雌に移植される場合)を生成するのに必要な時間および必要な融合を減少せしめる上で有利である。このことが望ましい理由は、核移植により生じた胚盤胞とES細胞が発生能力を障害されていることがあることが認められているためである。これらの問題は、多くの場合組織培養条件を変えることで軽減されるが、もう1つの解決法は、胚発生に関与する遺伝子の発現を促進することで胚発生を促進することである。
【0123】
例えば、MHC Iグループの一員であるPed型遺伝子産物は、胚の発育にとって重要であることが報告されている。より具体的には、マウスの着床前胚の例において、Q7およびQ9遺伝子が「急速成長」表現型を発現させることが報告されている。したがって、これらおよび関連する遺伝子を発現させるDNA、もしくはヒトあるいは他の哺乳類の同種DNAをドナー細胞に導入することによって、より速く成長する核移植胚が得られることが期待される。これは特に、異種間での核移植胚が同一動物種の細胞もしくは核の融合によって産生される核移植胚よりも組織培養液中での発育効率が悪い場合に、望ましい手法である。
【0124】
核移植の前に、Q7かつ/またはQ9遺伝子を含有するDNA構築物をドナー体細胞中に導入するのが望ましい。例えば、哺乳類の強力な構成プロモーターをQ7かつ/またはQ9遺伝子、IRES、ネオマイシンのような1つ以上の適切な選択用マーカー、ADA、DHFR、およびbGHポリA配列のようなポリA配列に機能的に結合させた発現用構築物を作成することが可能である。また、孤立遺伝子を加えることは、Q7およびQ9遺伝子の発現をさらに促進するために有益であると考えられる。これらの遺伝子は異なる動物種、例えばウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコおよびヒトにおける保存度がきわめて高いため、未分化胚芽細胞の発育の初期の段階で発現されると予想される。また、胚の発育を促進する他の遺伝子にも影響を与えるよう、ドナー細胞を設計することも可能であると考えられる。このように、遺伝子操作を施したこれらのドナー細胞は、未分化胚芽細胞および着床前段階の胚をより効率良く産生することができるはずである。
【0125】
本発明のさらに別の局面として、アポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死に対して耐性をもつドナー細胞の構築が含まれる。着床前段階の胚の中に細胞死に関連する遺伝子が存在することが文献中で報告されている(Adams et al.、Science、281(5381):1322−1326(1998))。アポトーシスを誘発することが報告されている遺伝子として、Bad、Bok、BH3、Bik、Hrk、BNIP3、BimL、Bad、Bid、およびEGL−1などが挙げられる。一方、プログラムされた細胞死から細胞を保護することが報告されている遺伝子には、例えばBcL−XL、Bc1−w、Mc1−1、A1、Nr−13、BHRF−1、LMW5−HL、ORF16、Ks−Bel−2、E1B−19K、およびCED−9などがある。
【0126】
したがって、胚の発育中にアポトーシスを誘発する遺伝子が「ノックアウト」されるように、あるいは細胞をアポトーシスから保護する遺伝子の発現を促進する、もしくは発現を引き起こすように、ドナー細胞を構築することが可能である。
【0127】
例えば、胚の発育の間にこのような保護遺伝子(例としてBcl−2)もしくは関連遺伝子を調節して発現させるDNA構築物を導入することによってこれを実現することができる。これにより、特定の発育条件下で胚を培養することによって遺伝子の「スイッチを入れる」ことが可能である。別の方法として、構成プロモーターに結合させてもよい。
【0128】
より具体的には、Bcl−2遺伝子を含有するDNA構築物をPGK、SV40、CMV、ユビキチンのような調節可能プロモーターもしくは構成プロモーター、あるいはβ−アクチン、IRES、適切な選択マーカー、およびポリA配列に機能的に結合させた構築物を作成し、目的とするドナー哺乳類細胞、例えばヒトケラチノサイトや線維芽細胞の中に導入することが可能である。
【0129】
これらのドナー細胞を利用して核移植胚を作成すれば、アポトーシスに耐性を有するはずであるから、組織培養中でより効率良く分化すると考えられる。それによって、核移植により産生される適切な着床前胚の速さかつ/または数が増加するであろう。
【0130】
これと同様の成果を得るための別の方法として、アポトーシスを誘発する1種類以上の遺伝子の発現を阻害する、というものがある。これは、胚の中で発現し発育の初期の段階でアポトーシスを誘発する遺伝子をノックアウトするか、あるいはアンチセンスもしくは遺伝子に対するリボザイムを用いるかによって実現可能である。これらの例は上述のとおりである。アンチセンスの方向で発現すると思われる細胞死遺伝子には、BAX、Apaf−1、およびカプサーゼがある。また、センスあるいはアンチセンスの方向にメチラーゼもしくはデメチラーゼをコードするトランスジーンを導入することも可能である。メチラーゼおよびデメチラーゼの酵素をコードするDNAに関しては、本分野においてよく知られている。さらに別の方法として、両方の調節、すなわちアポトーシス誘発遺伝子の阻害と、アポトーシスを阻害するあるいは予防する遺伝子の発現の促進とを含有するようにドナー細胞を構築することもできる。アポトーシスに影響を及ぼす遺伝子の構築および選択、そしてこのような遺伝子を発現する細胞株については、米国特許No.5,646,008中に開示されており、この特許は引用文により本特許に含まれる。アポトーシスを促進する、あるいは阻害する多くのDNAが報告されており、それに関する特許も数多く申請されている。
【0131】
クローニング効率を上げるための別の方法として、ドナー細胞と同一の特定の細胞周期にある細胞を選択するというものがある。これによって核移植効率が健著に上昇することが報告されている。(Barnes et al.、Mol.Reprod.Devel.、36(1):33−41(1993))。特定の細胞周期にある細胞を選択するための方法として種々のものが報告されており、血清枯渇(Campbell et al.、Nature、380:64−66(1996);Wilmut et al.、Nature、385:810−813(1997))、および化学物質による同調(Urbani et al.、Exp.Cell Res.、219(1):159−168(1995)などがある。例えば、特定のサイクリンDNAを検出用マーカー(例として緑色蛍光蛋白質(GFP))と共に調節配列に機能的に結合させ、その後ろにサイクリン破壊ボックス、そして任意で孤立配列を連結し、サイクリンおよびマーカー蛋白質の発現を促進させることができる。これによって、目的とする細胞周期にある細胞を肉眼で容易に検出することができ、核移植ドナーとして選択することが可能である。その例として、G1期にある細胞を選択するためのサイクリンD1遺伝子が挙げられる。しかし、本発明においてはどのようなサイクリン遺伝子でも使用可能なはずである。(King et al.、Mol.Biol.Cell、第7巻(9):1343−1357(1996)などを参照のこと)。
【0132】
しかし、目的とする細胞周期にある細胞を産生するために、できるだけ侵襲性が少なくより効率の高い方法が必要である。これは、検出可能な条件下で特定のサイクリンを発現するようにドナー細胞の遺伝子を修飾することによって実現可能であると期待される。それによって特定の細胞周期にある細胞を他の細胞周期にある細胞から用意に識別することができる。
【0133】
サイクリンは、細胞周期のうちの特定の段階においてのみ発現される蛋白質である。例としてG1期のサイクリンD1、D2およびD3、G2/M期のサイクリンB1およびB2、そしてS期のサイクリンE、AおよびHがある。これらの蛋白質はサイトゾル中で容易に翻訳され破壊される。これらの蛋白質がこのように「一時的に」発現する理由の1つは、「破壊ボックス」の存在である。これは、ユビキチン経路を通じてこれらの蛋白質の速やかな破壊を指令するタグとして機能する蛋白質の一部である短いアミノ酸配列である。(Adams et al.、Science、281(5321):1322−1326(1998))。
【0134】
本発明では、容易に検出できる条件下、望ましくは例えば蛍光標識を用いることによって肉眼で検出可能な条件下で、このようなサイクリン遺伝子を1つあるいはそれ以上発現するようにドナー細胞を構築する。例として、特定のサイクリンDNAを検出用マーカー(例として緑色蛍光蛋白質(GFP))と共に調節配列に機能的に結合させ、その後ろにサイクリン破壊ボックス、そして任意で孤立配列を連結し、サイクリンおよびマーカー蛋白質の発現を促進させることができる。これによって、目的とする細胞周期にある細胞を肉眼で容易に検出することができ、核移植ドナーとして選択することが可能である。その例として、G1期にある細胞を選択するためのサイクリンD1遺伝子が挙げられる。しかし、本発明においてはどのようなサイクリン遺伝子でも使用可能なはずである。(King et al.、Mol.Biol.Cell、第7巻(9):1343−1357(1996)などを参照のこと)。
【0135】
上述のように、本発明は、特に異種間核移植過程における核移植効率を上げるための種々の方法を提供するものである。本発明の発明者らは、ある動物種の核あるいは細胞を別の動物種の脱核卵母細胞に挿入もしくは融合させた場合に、未分化胚芽細胞を産生する核移植胚が得られ、その核移植胚がES細胞株にまで生育することを実証しているが、このような手法の効率はきわめて低い。このため、培養することによってES細胞およびES細胞株を産生し得る細胞である未分化胚芽細胞を産生するために、多くの融合を行う必要があるのが普通である。in vitroにおいて核移植胚の生育を促進するための別の方法として、培養条件を最適化することが挙げられる。このための1つの手段は、アポトーシスを阻害する条件下でNT胚を培養することである。本発明のこの態様に関して、カプサーゼのようなプロテアーゼは、他の細胞種と同様のアポトーシスによって卵母細胞の死を誘発する可能性があることが報告されている。(Jurisicosva et al.、Mol.Reprod.Devel.、51(3):243−253(1998)を参照。)
【0136】
未分化胚芽細胞の発育は、核移植および未分化胚芽細胞の維持、あるいは着床前段階の胚の培養のために使用する培地中に1種類以上のカプサーゼ阻害剤を添加することによって促進されると考えられる。このような阻害剤の例として、カプサーゼ−4阻害剤I、カプサーゼ−3阻害剤I、カプサーゼ−6阻害剤II、カプサーゼ−9阻害剤II、およびカプサーゼ−1阻害剤Iがある。アポトーシスを阻害するために必要なこれら阻害剤の量は、例えば培地の重量の0.00001から5.0%であり、より望ましくは培地の重量の0.01%から1.0%である。このように、前述の方法を用いて組織培養中における未分化胚芽細胞および胚のその後の発育を促進することにより、核移植の効率を上昇させることができる。
【0137】
目的とする大きさのNTユニットが得られた後、細胞を物理的にゾーンから除去し、胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株を産生するために使用する。これは、NTユニットを含有する細胞を通常50個以上含む細胞塊を洗い、例えば放射線照射した線維芽細胞のような支持細胞層上にこれらの細胞をプレーティングすることによって行うのが望ましい。一般に、幹様細胞もしくは細胞コロニーを産生するために使用する細胞は、最低50個の細胞から構成されるのが望ましい培養NTユニットの最も内部から採取する。しかし、細胞数がそれ以下もしくはそれ以上のNTユニットでも、またNTユニットの他の部分から採取した細胞でも、ES様細胞および細胞コロニーを産生するために使用できると思われる。
【0138】
さらに、ドナー細胞のDNAを卵母細胞のサイトゾルにより長時間接触させることによって、分化の過程が起こり易くなると推測される。これは、再クローニング、すなわち再構築した胚から割球を摘出し、新しい脱核卵母細胞と融合させることによって実現可能である。これとは別に、ドナー細胞を脱核卵母細胞と融合させ、4〜6時間後に活性化することなく染色体を摘出し、より若い卵母細胞と融合させるという方法もある。活性化はその後に起こると考えられる。
【0139】
細胞は、適切な生育用培地中の支持細胞層の中で維持する。培地の例として、10%FCSおよび0.1mMβ−メルカプトエタノール(Sigma)とL−グルタミンを添加したαMEM培地が挙げられる。生育用培地は、最大限に生育させるために必要な頻度、例えば約2〜3日毎に交換する。
【0140】
この培養過程によって、胚細胞あるいは幹様細胞もしくは細胞株が産生される。ヒト細胞/ウシ卵母細胞由来のNT胚の場合には、α−MEM培地中で培養を開始してから約2日後にコロニーが観察される。しかし、この時期は、個々の核ドナー細胞、卵母細胞および培養条件によって変動すると思われる。本分野の専門家であれば、特定の胚細胞あるいは幹様細胞を最大限に生育させるために、必要に応じて培養条件を変更することができるであろう。他の適切な培地もここに開示する。
【0141】
得られた胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーは、ドナー卵母細胞の動物種ではなく核細胞ドナーとして用いた動物種の胚あるいは幹様細胞と同様の外観を呈するのが普通である。例えば、ヒトの核ドナー細胞を脱核したウシ卵母細胞中に移植して得られた胚細胞あるいは幹様細胞の場合には、細胞はウシのES様細胞ではなくマウスの胚性幹細胞に似た形態を示す。
【0142】
より具体的には、ヒトES細胞株の細胞コロニーの個々の細胞は明瞭に識別することができず、コロニーの周囲は屈折性で滑らかな外観をもつ。さらに、細胞コロニーの細胞倍化時間は長く、マウスのES細胞の倍化時間の約2倍である。また、ウシおよびブタ由来のES細胞とは異なり、コロニーは上皮様外観をとらない。
【0143】
前述のように、米国特許5,843,780号の中でThomsonにより、霊長類の幹細胞はSSEA−1(−)、SSEA−4(+)、TRA−1−60(+)、TRA−1−81(+)およびアルカリ性ホスファターゼ(+)であることが報告されている。本発明の方法に従って作成したヒトおよび霊長類のES細胞も、同様あるいは同一のマーカー発現を示すものと予想される。
【0144】
これとは別に、これらの細胞が中胚葉、外胚葉および内胚葉のどれにでもなり得る能力を有することに基づき、このような細胞が実際のヒトあるいは霊長類の胚性幹細胞であることが確認される。これは、本発明に従い、適切な条件下(例として米国特許5,843,780号の中でThomsenが開示した条件、引用文によりそのすべてが本特許に含まれる)で作成したES細胞を培養することによって実証されるであろう。これとは別に、本発明に従って作成した細胞が多能性であるという事実は、このような細胞を動物、例えばSCIDマウス、あるいは大型の家畜などに注射し、その後当該着床細胞から生じる組織を採取することによって確認できると考えられる。これらの着床ES細胞は、あらゆる種類の分化細胞、すなわち中胚葉、外胚葉、および内胚葉組織に生育するはずである。
【0145】
このようにして得られた胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株、望ましくはヒトの胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株は、治療上および診断上非常に応用範囲が広い。特に、このような胚細胞あるいは幹様細胞は細胞移植療法のために利用可能である。ヒトの胚細胞あるいは幹様細胞は、各種疾患の治療において応用性をもつ。
【0146】
この点に関して、マウスの胚性幹(ES)細胞はほとんどあらゆる種類の細胞、例えば造血幹細胞などに分化し得ることが知られている。したがって、本発明に従って作成したヒト胚細胞あるいは幹様細胞も、同様の分化能を有するはずである。本発明に従って作成した胚細胞あるいは幹様細胞は、既知の方法を用いて誘導することにより目的とする細胞種に分化するものと考えられる。例えば、主題のヒト胚細胞あるいは幹様細胞を分化用培地中で細胞分化を起こす条件下において培養することによって、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿路細胞などに分化させることが可能である。胚性幹細胞の分化を引き起こすための培地および方法、そして適切な培養条件については、本分野においてよく知られている。
【0147】
例えば、Palacios et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、92:7530−7537(1995)は、幹細胞の凝集塊を最初にレチン酸を含まない懸濁培養液中で培養した後、レチン酸を含有する同培養液中で培養し、さらに細胞を付着させる基質に細胞凝集塊を移すという誘導手順を用いることにより、胚細胞株から造血幹細胞を作成することができると報告している。
【0148】
さらに、Pedersen、J.Reprod.Fertil.Dev.、6:543−552(1994)は、胚性幹細胞をin vitroで分化させ、造血幹細胞、筋、心筋、神経細胞などの各種分化細胞型を作成するための方法を開示した数多くの文献を引用する総説論文である。
【0149】
また、Bain et al.、Dev.Biol.、168:342−357(1995)は、ニューロンの特性を有する神経細胞を作成するためのin vitroにおける胚性幹細胞の分化について述べている。これらの参考文献は、胚細胞あるいは幹様細胞から分化した細胞を作成するための方法として報告されたものの代表例である。これらの参考文献、およびその中でも特に胚性幹細胞を分化させるための方法に関連する開示内容は、引用文によりすべて本特許に含まれる。
【0150】
このように、本分野の専門家であれば、既知の方法および培地を用いることにより、主題の胚細胞あるいは幹様細胞を培養して目的とする分化した細胞種、例えば神経細胞、筋細胞、造血幹細胞などを作成することができる。また、特定の細胞系列のin vitroにおける生育を促進するために、誘導可能なBcl−2あるいはBcl−xlを用いるのも有用であると考えられる。in vivoにおいてBcl−2は、リンパ系および神経系の発達の間に起こるアポトーシスによる細胞死のすべてではないが多くの型を防止する。Bcl−2の発現をどのように利用してドナー細胞のトランスフェクションの後の目的とする細胞系のアポトーシスを阻害し得るか、についの詳細な議論は、米国特許No.5,646,008の中で開示されており、引用文により本発明に含まれる。
【0151】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞を利用して、希望するあらゆる種類の分化細胞を作成することができると考えられる。このような分化したヒト細胞の治療上の使途は計り知れないものがある。例えば、ヒトの造血幹細胞は、骨髄移植を必要とする治療のために使用可能である。このような手法は、卵巣ガンおよび白血病などの末期ガン、AIDSのような免疫不全疾患など、多くの疾患の治療に利用されている。造血幹細胞は、例えばガンあるいはAIDS患者の成熟した体細胞(例として上皮細胞もしくはリンパ球)を脱核した卵母細胞(例としてウシ卵母細胞)と融合させて上述のようにして胚細胞あるいは幹様細胞を作成し、造血幹細胞が得られるまで分化に適した条件下でそれらの細胞を培養することによって得ることができる。こうして得られた造血細胞は、ガンおよびAIDSを含めた疾患の治療のために利用可能である。
【0152】
これとは別に、神経疾患のある患者からの成熟した体細胞を脱核した動物卵母細胞(例として霊長類またはウシの卵母細胞)と融合させ、これらの細胞を分化する条件下で培養し神経細胞系を作成することも可能である。このようなヒト神経細胞の移植によって治療可能な疾患の具体的な例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALSおよび脳性小児麻痺など多くの疾患がある。パーキンソン病の場合には、移植した胎児脳の神経細胞が周囲の細胞と正しく連結し、ドパミンを産生することが確認されている。これによって、パーキンソン病の症状を長期的に改善することができる。
【0153】
分化した細胞を特異的に選択するために、誘導可能なプロモーターを通じて発現する選択的マーカーを用いてドナー細胞をトランスフェクトすることにより、分化が起きた時点で特定の細胞系統を選択、もしくは濃縮することが可能である。例えば、CD34−neoは造血細胞の選択に使用することができ、Pw1−neoは筋細胞、Mash−1−neoは交感神経ニューロン、Mal−neoはヒト大脳皮質の灰白質CNSニューロンの選択に使用することができる、などである。また、組織の発達を助ける基質を用いることも有益であろう。
【0154】
本発明の大きな長所は、移植に適した同系(イソジェニック即ちシンジェニック)のヒト細胞をほぼ無限に供給できる、という点である。したがって、現時点での移植法における重大な問題、すなわち宿主対移植片あるいは移植片対宿主拒絶反応が原因で起こる可能性のある移植組織の拒絶を回避することができる。従来、拒絶反応はシクロスポリンなどの拒絶反応防止薬を投与することによって予防、あるいは軽減している。しかし、このような薬剤には免疫抑制、発ガン性などの重大な副作用があり、また非常に高価である。本発明によって、シクロスポリン、イムラン、FK−506、グルココルチコイド、ラパマイシン、およびその誘導体などの拒絶反応防止薬を投与する必要性がなくなる、あるいは少なくとも低くなるはずである。
【0155】
イソジェニック細胞療法によって治療が可能であるその他の疾患や病態の例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、肝臓疾患、すなわち高コレステロール血症、心臓疾患、軟骨置換、火傷、脚部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎臓疾患、尿路疾患、および老化に起因する疾患や病態などが挙げられる。
【0156】
また、本発明に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞は、遺伝子操作した、もしくはトランスジェニックなヒト分化細胞を作成するためにも利用可能である。実際には、目的とする1個もしくは複数の遺伝子(異種でもかわまない)を導入するか、本発明に従って作成したヒト胚細胞あるいは幹様細胞の内在性遺伝子の全部または一部を除去し、これらの細胞を目的とする細胞型に分化させることによってこれが可能となるであろう。このような修飾を行うための望ましい方法とは、同種間での組換えである。何故なら、この手法を幹様細胞のゲノム中の特異的な部位(1個でも複数でも)にある1個もしくは複数の遺伝子を挿入、欠損、または修飾するために用いることができるからである。
【0157】
この方法を利用して、欠損した遺伝子、例えば欠損した免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子などを補充したり、成長因子、リンホカイン類、サイトカイン類、酵素などの治療上有用な蛋白質の発現を引き起こす遺伝子を導入したりすることができる。例えば、脳由来の成長因子をコードする遺伝子をヒトの胚細胞あるいは幹様細胞中に導入し、それらの細胞を神経細胞に分化させてパーキンソン病の患者に移植すれば、この疾患の間に起こる神経細胞の消失を遅らせることが可能である。
【0158】
以前は、BDNFによってトランスフェクトする細胞の種類は、初代の細胞から無限に増殖する細胞株まで、また神経細胞に由来する細胞や非神経系の細胞(筋原細胞および線維芽細胞)など、さまざまであった。例えば、星状神経膠細胞はレトロウイルスベクターを用いてBDNF遺伝子によりトランスフェクトされ、これらの細胞はパーキンソン病モデルのラットに移植された(Yoshimoto et al.、Brain Research、691:25−36、(1995))。
【0159】
このex vivo治療法により、移植後32日目にはラットにおけるパーキンソン病様の症状が45%まで軽減した。また、チロシンヒドロキシラーゼ遺伝子を星状神経膠細胞中に導入した場合にも、同様の結果が得られた(Lundberg et al.、Develop.Neurol.、139:39−53(1996)参考文献はここに引用する)。
【0160】
しかし、このようなex vivo系には問題点がある。特に、現在使用されているレトロウイルスベクターはin vivoでダウンレギュレートされるため、トランスジーンは一時的にしか発現しない(Mulliganによる総説、Science、260:926−932(1993))。また、これらの研究では初代の細胞、星状神経膠細胞を使用したが、これらの寿命は有限で、複製速度も遅い。この特性はトランスフェクション率に悪影響を及ぼし、安定してトランスフェクトされた細胞の選択を妨害する。さらに、遺伝子の標的となる初代の細胞を大量に増殖させ同種組換え手法において使用することはほぼ不可能である。
【0161】
これに対して、レトロウイルス系に起因する問題点は、ヒトの胚細胞あるいは幹様細胞を使用することによって解消するはずである。主題の讓受人によって以前に、ウシおよびブタの胚細胞株をトランスフェクトし異種DNAが安定して組み込まれた細胞を選択し得ることが実証された。この方法については、米国特許No.5,905,042に記載されており、引用文によりそのすべてが本特許に含まれる。したがって、これらの方法あるいはその他の既知の方法を用いることにより、目的とする遺伝子を主題のヒト胚細胞あるいは幹様細胞中に導入し、それらの細胞を目的とする細胞型、例えば造血細胞、神経細胞、膵臓細胞、軟骨細胞などに分化させることが可能となる。
【0162】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞中に導入することのできる遺伝子の例として、上皮増殖因子、基礎型線維芽細胞増殖因子、神経膠由来神経栄養増殖因子、インシュリン様増殖因子(IおよびII)、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン4/5、毛様体神経栄養因子、AFT−1、サイトカイン遺伝子(インターロイキン、インターフェロン、コロニー形成促進因子、腫瘍壊死因子(αおよびβ)など)、治療用の酵素をコードする遺伝子、コラーゲン、ヒト血清アルブミンなどが挙げられる。
【0163】
また、必要に応じて患者から治療用の細胞を除去するために、本分野において知られた負の選択系のうちのいずれかを利用することも可能である。例えば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子によってトランスフェクトしたドナー細胞は、TK遺伝子を含有する胚細胞を産生するようになる。これらの細胞が分化すれば、やはりTK遺伝子を発現する当該治療用細胞を分離することができる。これらの細胞は、患者に対してガンシクロビルを投与することによりどの時点においても患者から選択的に除去することが可能である。このような負の選択系については、米国特許No.5,698,446に記載されており、引用文により本特許に含まれる。
【0164】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞、望ましくはヒトの細胞は、in vitroにおける分化モデルとして、特に初期発育の調節に関与する遺伝子の研究のために利用することができる。
【0165】
また、主題の胚細胞あるいは幹様細胞を用いて分化させた細胞組織および臓器は、薬物試験においても使用可能である。
【0166】
さらに、主題の細胞は組換えDNAを発現させるために使用することもできる。
【0167】
さらにまた、主題の胚細胞あるいは幹様細胞は、他の胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーを作成するための核ドナーとして用いることができる。
【0168】
また、本発明に従って作成した培養内細胞塊、あるいは幹細胞を腎臓カプセルもしくは筋肉内投与により例えばSCIDマウス、ウシ、ブタなどの動物に導入し、そこで奇形腫を誘発させるために使用することができる。この奇形腫は、種々の組織型を派生させるために用いることができる。また、X−種核移植によって作成した内細胞塊を、生体内で分解される生体適合性のポリマー基質と共に導入し、3次元の組織を形成させることが可能である。組織が形成された後、ポリマーは分解し、ドナーの組織、例えば心臓、膵臓、神経、肺、肝臓などをそのまま残すのが理想である。場合によっては、成長因子および血管新生を促進する蛋白質を含めるのが有用であるかもしれない。これとは別に、適切な培養用培地および条件、成長因子および生体内で分解するポリマー基質を使用することによって、in vitroにおいて完全に組織を形成させることが可能である。
【0169】
本発明をより明確に説明するために、以下の例を挙げる。
【0170】
例1
材料および方法
核移植のためのドナー細胞
同意を得た成人の口腔内壁から、標準スライドグラスを用いて上皮細胞を軽く掻き取る。細胞をスライドから洗出し、CaあるいはMgを含まないリン酸緩衝溶液の入ったペトリ皿に入れる。細胞を径の細いピペットで吸って細胞塊を壊し、1個ずつの細胞の懸濁液とする。次に、脱核したウシ卵母細胞中に核移植するためのオイルの下で、10%ウシ胎児血清(FCS)を含有するTL−HEPES培地のマイクロドロップ中に細胞を移す。
【0171】
核移植の手順
核移植の基本的な手順については以前に報告したとおりである。簡単に述べると、屠殺場で採取した卵母細胞をin vitroで成熟させた後、成熟後約18時間目に(hpm)卵母細胞から堆積細胞を除去し、斜面マイクロピペットを用いて脱核した。ビスベンツイミド(Hoechst 33342、3μg/ml;Sigma)を添加したTL−HEPES培地中で脱核を確認した。その後、個々のドナー細胞を受容側の卵母細胞の卵黄周囲腔内に注入した。電気細胞融合法を用いて、ウシ卵母細胞の細胞質とドナーの核(NTユニット)を一緒に融合させる。NTユニットに対して、1回に90Vの融合パルスを15μ秒間与えた。成熟開始後24時間目(hpm)の卵母細胞を用いてこれを行った。NTユニットを28hpmまでCR1aa培地中で維持した。
【0172】
卵母細胞を人工的に活性化するための方法は、別の所に報告されている。NTユニットの活性化は28hpmにおいて行った。活性化の手順に関する簡単な説明は次のとおりである:1mg/mlのBSAを添加したTL−HEPES中でNTユニットをイオノマイシン(5μM;CalBiochem、La Jolla、CA)に4分間曝露させた後、30mg/mlのBSAを添加したTL−HEPES中で5分間洗浄した。次に、0.2mMのDMAP(Sigma)を含有するCR1aa培地のマイクロドロップ中にNTユニットを移し、5%CO2存在下で38.5℃において4〜5時間培養した。NTユニットを洗浄した後、マウス胚線維芽細胞の集密支持細胞層を形成させた4穴プレート中のCR1aa培地+10%FCSおよび6mg/ml BSAに移した(以下に説明)。5%CO2存在下で38.5℃においてNTユニットをさらに3日間培養した。活性化の時点から12日後まで、培地を3日毎に交換した。この時点で、NTユニットは目的とする細胞数、すなわち約50個に到達しており、物理的にゾーンから除去し、胚細胞株を作成するために使用した。上述のようにして作成したNTユニットの写真を図1に示す。
【0173】
線維芽細胞による支持細胞層
第14〜16日のマウス胎児から、胚線維芽細胞の初代培養を作成した。頭、肝臓、心臓および消化管を無菌的に除去した後、胚を細かく刻んで、予め加温したトリプシンEDTA溶液(0.05%トリプシン/0.02%EDTA;GIBCO、Grand Island、NY)中で37℃において30分間インキュベートした。線維芽細胞を組織培養用フラスコに入れ、10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone、Logen、UT)、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(50μl/ml)を添加したα−MEM培地(Bio Whittaker、Walkersville、MD)中で培養した。3〜4日継代した後、胚線維芽細胞を35×10Nunc培養用ディッシュ(Baxter Scientific、McGaw Park、IL)中で照射した。照射した線維芽細胞は、5%CO2存在下の加湿空気中で37℃において生育させ維持した。均一な細胞単層が形成された培養プレートを用いて胚細胞株の培養を行った。
【0174】
胚細胞株の作成
上述のようにして作成したNTユニット細胞を洗浄し、照射した線維芽細胞の支持層の上に直接プレーティングした。これらの細胞は、NTユニットの内部のものを用いた。10%FCSおよび0.1mMβ−メルカプトエタノール(Sigma)を添加した生育用培地中で細胞を維持した。生育用培地は2〜3日毎に交換した。培養第2日に1個目のコロニーが観察された。コロニーは増殖し、以前に開示したマウス胚性幹(ES)細胞と同様の形態を示すようになる。コロニー内の個々の細胞は明瞭に識別することができず、コロニーの周囲は屈折性で滑らかな外観をもつ。細胞コロニーの細胞倍化時間はマウスのES細胞よりも長いようである。また、ウシおよびブタ由来のES細胞とは異なり、コロニーはこれまでのところ上皮様外観を呈していない。上述のようにして得られたES様細胞コロニーの写真を図2から5に示す。
【0175】
分化したヒト細胞の作成
作成したヒト胚細胞を分化用培地に移し、分化したヒト細胞型が得られるまで培養する。
【0176】
結果
【0177】
16個以上の細胞をもつ構造まで発育したNTユニット1個を、線維芽細胞支持層の上にプレーティングした。この構造体を支持細胞層に付着させ、ES細胞様の形態をもつコロニーを形成するまで増殖させた(例として図2を参照)。さらに、4〜16細胞期の構造体を用いてES細胞コロニーの作成を試すことはしなかったが、この期でもES細胞あるいはES様細胞株を作成し得ることが以前に示されている(マウス、Eistetter et al.、Devel.Growth and Differ.、31:275−282(1989);ウシ、Stice et al.、1996))。したがって、4〜16細胞期のNTユニットからも胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーを作成し得るはずであると期待される。
【0178】
また、ヒト成人のケラチノサイト細胞株を脱核したウシ卵母細胞と融合させ、ACM、ウリジン、グルコース、および1000IUのLIFを含有する培地中で培養した場合にも、同様の結果が得られた。再構築した胚50個のうち、22個が細胞分裂し、1個が約12日目に未分化胚芽細胞にまで発育した。この未分化胚芽細胞をプレーティングし、現在ES細胞株を作成中である。
【0179】
例2
A.細胞からミトコンドリアを分離する手順
この例は、ミトコンドリアの分離と、異種間核移植の効率を上昇させるためのその利用に関するものである。細胞1個当たりのミトコンドリアの数は、細胞株によって異なる。例えば、マウスのL細胞の1細胞当たりのミトコンドリア含有数は〜100個であるのに対して、HeLa細胞では少なくともその2倍はある。低張緩衝液中で細胞を膨張させ、造作のきつい乳棒を用いてDounceホモジナイザーの中で数回ストロークすることによって細胞を破壊し、分画遠心によりミトコンドリアを分離する。
【0180】
溶液、試験管、およびホモジナイザーは、氷上で予冷しておかなければならない。遠心手順はすべて40℃において行う。本手順は、洗浄した1〜2mlの細胞ペレットから開始するものである。細胞ペレットを11mlの氷冷RSB中に再懸濁し、16ml Dounceホモジナイザーに移す。
【0181】
RSB緩衝液
RSB(組織培養細胞を膨張させるための低張緩衝液)
10mM NaCl
1.5mM MgCl2
10mM Tris−HCl、pH7.5
MgCl2
【0182】
細胞を5〜10分間膨張させる。位相差顕微鏡を用いて膨張の進行を確認する。膨張した細胞を、望ましくは乳棒の数回のストロークにより、破壊する。直後に、8mlの2.5×MS緩衝液を添加し、最終濃度が1×MSとなるようにする。次にホモジナイザーの上部をParafilmで覆い、数回反転させることによって混合する。
【0183】
2.5×MS緩衝液
525mMマンニトール
175mMショ糖
12.5mM Tris−HCl、pH7.5
215mM EDTA pH 7.5
【0184】
1×MS緩衝液
210mMマンニトール
70mMショ糖
5mM Tris−HCl、pH7.5
1mM EDTA、pH7.5
【0185】
MS緩衝液は、細胞小器官の張度を維持し、凝集を防ぐための等浸透圧性緩衝液である。
【0186】
その後、ホモジネートを遠心チューブに移し、分画遠心を行う。ホモジナイザーを少量のMS緩衝液ですすぎ、ホモジネートに添加する。MS緩衝液を用いて容積を30mlにする。次に、ホモジネートを1300gにおいて5分間遠心し、核、破壊した細胞、および大きい膜断片を除去する。その後、上清を清潔な遠心チューブに移す。核スピンダウンを2回繰り返す。さらに、上清を清潔な遠心チューブに移し、ミトコンドリアを含む沈渣を17,000gで15分間遠心する。上清を捨て、チューブの内側をKimwipeで拭う。沈渣を1×MSに再懸濁し、17,000gでの遠心を繰り返すことによってミトコンドリアを洗浄する。上清を捨て、沈渣を緩衝液中に再懸濁する。ミトコンドリアは、−80℃において長期間、例えば1年間程度保管することができるが、NTのためにはすぐに使用するのが望ましい。
【0187】
この基本手順は、変更可能である。特に、ミトコンドリアのDNAをさらに分離し、NTのために同様に使用するのが望ましい。この場合には、細胞小器官ではなく核の混入が問題となる可能性があるため、次のような変更を加えるのがよい。例えば、ほとんどの細胞が活発に分裂していない定常期に細胞を回収し、MgCl2の代わりにCaCl2を添加したRSB中で核膜を安定化させる。密度勾配精製法の場合と同様に、ミトコンドリア沈渣の洗浄は省略する。その代わりに、ミトコンドリア沈渣を単純に再懸濁させて溶解し、残っている核DNAからミトコンドリアのDNAを精製する。前述のとおり、ミトコンドリアおよびミトコンドリアDNAを精製するために適した方法は、本分野においてよく知られている。
【0188】
最も効率良くホモジナイズすることができるのは、細胞沈渣の容積の少なくとも5〜10倍の溶液に再懸濁した場合であり、また細胞懸濁液がホモジナイザーの少なくとも半分を満たしている場合である。ホモジナイザーの乳棒をチューブに向って真っ直ぐに押し、安定した強い圧力を維持する。Dounceホモジナイザーは、膨張した組織培養細胞を圧力の変化によって破壊するものである。乳房を押し下げた時には、細胞周辺の圧力が上昇する;細胞が乳棒の端をすべって通過する再に圧力が突然低下し、細胞が崩壊する。乳棒の造作が非常にきつければ、同時に物理的な破壊も起こるであろう。
【0189】
B.組織からのミトコンドリア分離
ミトコンドリア分離手順は、個々の組織に応じて選択する。例えば、組織に応じて最適なホモジナイズ用緩衝液、最適なホモジナイズ法を使用する必要がある。最適な方法については、この分野でよく知られている。
【0190】
ラット肝臓は、入手が容易であり、ホモジナイズし易く、細胞中に多数のミトコンドリア(一細胞当たり1000〜2000個)が含まれるため、ミトコンドリア調製のために最もよく用いられる組織である。例えば、ラット肝臓をホモジナイズするためには、モーター駆動式テフロン(登録商標)ガラスPotter−Elvehjemホモジナイザーを使用することができる。一方、組織が柔らかい場合には、ゆるい乳棒のついたDounceホモジナイザーを使用する。ミトコンドリア調製の回収率および純度は、調製方法、調製の速さ、動物の年齢および生理学的状態によって変動する。前述のように、ミトコンドリアを精製するための方法は良く知られている。
【0191】
緩衝液、チューブ、およびホモジナイザーを予冷しておくのが望ましい。ガラステフロン(登録商標)型のホモジナイザーを予冷することによって、チューブと乳棒の間に適正な空隙ができる。遠心過程は、40℃で行うのが望ましい。
【0192】
基本的な手順として、胆嚢を破裂させないように注意しながら肝臓を摘出することが重要である。摘出した肝臓を氷上のビーカーに入れ、結合組織を除去する。組織を確認し、ビーカーに戻す。例えば非常に鋭利な鋏、小刀、あるいは剃刀の刃を用いて1〜2片に切断する。次に断片をホモジナイズ用緩衝液(1×MS)で望ましくは2回すすいで血液の大半を除去し、組織をホモジナイザーのチューブに移す。ホモジナイズ用緩衝液を1:10(w/v)ホモジネートの比率になるよう添加する。
【0193】
NT効率を上昇させるための分離ミトコンドリアまたはミトコンドリアDNAの使用
発明者らは、ドナー細胞もしくは核と同一動物種のミトコンドリアあるいはミトコンドリアDNAを導入することによって異種間核移植の効率が上昇する可能性がある、との理論づけをしている。その結果、得られたNTユニットの核DNAが種適合性をもつようになると考えられる。
【0194】
上述の方法、もしくは他に知られた方法によって分離したミトコンドリアは、次のうちのいずれか(ヒトドナー細胞/ウシ卵母細胞核移植の場合)に導入する(一般に、注射による):
(i)活性化していない、脱核していないウシ卵母細胞;
(ii)活性化していない、脱核したウシ卵母細胞;
(iii)活性化し、脱核したウシ卵母細胞;
(iv)活性化していない、融合した(ヒトドナー細胞または核と)ウシラン母細胞;
(v)活性化し、融合して切断して再構築した(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚;もしくは
(vi)活性化し、融合した1細胞再構築(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚。
これと同一の手順によって、他の異種間NTも促進することができる。基本的には、ミトコンドリアを同様にドナー細胞あるいは核と同じ動物種の(i)から(vi)のいずれかに導入し、異なる動物種に由来する卵母細胞を使用する。一般に、約1〜200ピコリットルのミトコンドリア懸濁液を、上記のいずれかに注射する。このようにミトコンドリアを導入することによって、ミトコンドリアDNAとドナーDNAが適合するNTユニットが得られる。
【0195】
例3
異種間核移植の効率を上昇させるための別の方法として、1個または複数個の脱核した体細胞(一般にはヒト、ドナー細胞または核と同一の動物種の細胞)を次のうちのいずれかと融合させる、というものがある:
(i)活性化していない、脱核していない(例えばウシの)卵母細胞;
(ii)活性化していない、脱核した(例えばウシの)卵母細胞;
(iii)活性化し、脱核した(例えばウシの)卵母細胞;
(iv)活性化していない、融合した(ヒト細胞と)卵母細胞(一般にウシ);
(v)活性化し、融合して切断して再構築した(例えばウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚;
(vi)活性化し、融合した1細胞再構築(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚。 (vii)活性化していない、融合した(例えばヒト細胞と)卵母細胞(一般にウシ卵母細胞)。
【0196】
融合は、電気パルスを用いて、あるいはSendaiウイルスを用いて行うのが望ましい。脱核した細胞(例えばヒト細胞)を作成するための方法は、本分野においてよく知られている。望ましい手順を以下に記載する。
【0197】
脱核の手順
サイトカラシンBを用いて細胞の大規模な脱核を行うための方法は、本分野においてよく知られている。脱核は、単層法を用いて行うのが望ましい。この方法は培養ディスクの生育表面に付着した少数の細胞を利用するもので、ドナー細胞が限られた数しか入手できない場合に理想的である。もう1つの適切な手段である勾配法では、Ficoll勾配によって細胞を遠心する必要があるため、大量(>107)の細胞の脱核に最も適している。
【0198】
単層法。単層法は、生育表面に付着して増殖する細胞であれば、ほぼすべての細胞に適している。
【0199】
ポリカーボネート製あるいはポリプロピレン製のねじ蓋付き広口遠心チューブ(容積250ml)をオートクレーブにより滅菌する。キャップは、遠心ボトルへの損傷を防ぐために、ボトルとは別にオートクレーブすることが望ましい。各ボトルに30ml DMEM、2mlウシ血清、および0.32mlサイトカラシンB(1mg/ml)を無菌的に添加し、脱核手順のための準備をする。ボトルにキャップをはめ、使用時までボトルを37℃に保温する。
【0200】
脱核を行う細胞(数百個〜105個の細胞)を培養ディッシュ(35×15mm;Nunc Inc.、Naperville、IL)上に接種する。一般に、細胞を生育表面に最大限に付着させるために、細胞を少なくとも24時間、ディッシュ上で生育させる。細胞が集密状態にならないようにするのが望ましい。滅菌の目的のため、培養ディッシュ(細胞を含む)の外側の下半分を70%(v/v)エタノールで拭って遠心の準備をする。これ以外に、細胞培養の間にディッシュをさらに大きい無菌の培養ディッシュ内にいれておくことにより、ディッシュを無菌状態に保つことも可能である。ディッシュから培地を捨て、ディッシュ(蓋なし)を遠心ボトル内で上下逆になるよう置く。
【0201】
ローター(GSA、DuPont、Wilmington、DE)および遠心機は、8000rpmで30〜45分間遠心することにより、37℃まで予熱しておくのが望ましい。これ以外に、HS−4スイングバケットローター(DuPont)を使用してもよい。最適な遠心時間および速度は、細胞の種類によって異なる。筋原細胞および線維芽細胞の場合には、培養ディッシュの入った遠心ボトルを予熱したローターに入れ、約20分間遠心する(ローターが目的とする速度に到達してから遠心機のスイッチを切るまでの時間)。6500から7200rpmの速度を用いるのが望ましい。
【0202】
遠心が終了した後、遠心ボトルをローターから取り出し、鉗子を用いてボトルから培養プレートを取り出す。細胞の生存能を維持するため、細胞の水分を保つようプレート中に少量の培地を残す。ディッシュの外側を蓋の端も含めて滅菌ワイパーで拭き取った後、95%(v/v)エタノールを添加し、残りの培地を除去して乾燥させる。滅菌した蓋をディッシュにかぶせる。脱核した細胞の準備がすぐにできない場合には、完全培地(適切な濃度の血清を添加した培地)をディッシュに添加し、細胞をCO2インキュベーター内で維持しなければならない。得られた脱核細胞(核質)を上記の(i)から(viii)のいずれかと融合させる。
【0203】
本発明に関して、各種の具体的な材料、手順、および例を引用してここに説明し例示しているが、本発明は特定の材料、材料の組み合わせ、および当該目的のために選択した手順に限定されるものではない。このような具体例には数多くの変法があり、本分野における専門家であればその真価が理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【図1】成人細胞核を、除核ウシ卵母細胞に移植して生成した核移植(NT)ユニットの写真である。
【図2】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図3】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図4】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図5】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
(発明の分野)
本発明は全般的に、動物あるいはヒト細胞に由来する細胞核を、ドナー核と異種の動物の除核した卵母細胞に移植することによる、胚あるいは幹様細胞の生成に関する。より具体的には、本発明は、霊長類あるいはヒトの細胞核を、例えば霊長類あるいは有蹄類の卵母細胞、および好ましい実施態様においてはウシ除核卵母細胞などの除核した動物卵母細胞に移植することによる、霊長類あるいはヒトの胚あるいは幹様細胞の生成に関する。
【0002】
さらに本発明は、好ましくは霊長類あるいはヒト胚細胞あるいは幹様細胞である生成した胚あるいは幹様細胞の、治療、診断への応用、同じく治療あるいは診断に用いる分化細胞の生成、およびトランスジェニック胚細胞あるいはトランスジェニック分化細胞、細胞株、組織および臓器の生成を目的とした使用に関する。また、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞自体を、好ましくはトランスジェニック、クローンあるいはキメラ動物であるキメラあるいはクローンの生成を目的とした核移植において、細胞核ドナーとして用いても良い。
【0003】
(発明の背景)
In vitroにおいてマウスの初期着床前胚より胚幹(ES)細胞株を生成する方法は周知である。(Evans et al.,Nature,29:154−156(1981);Martin,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78:7634−7638(1981)を参照のこと)。ES細胞は、線維芽細胞(Evans et al.,Id.)あるいは分化抑制源(Smith et al.,Dev.Biol.,121:1−9(1987))からなるフィーダー層が存在すれば、未分化段階で継代することが可能である。
【0004】
ES細胞は、これまでに様々な用途を有することが報告されている。例えば、ES細胞を分化のin vitroモデル、特に発生初期の調節に関与する遺伝子の研究に使用できることが報告されている。マウスES細胞を着床前マウス胚に導入すると、生殖細胞系キメラが成長し、その多能性が証明される(Bradley et al.,Nature,309:255−256(1984))。
【0005】
ES細胞は、自らのゲノムを次世代に伝達する能力の点から見ると、所望の遺伝子修飾の有無に関わらず、ES細胞を用いることにより家畜の生殖細胞系操作にとって有用である可能性がある。さらに、例えば有蹄類などの家畜の場合は、同じく着床前の家畜胚に由来する核が、除核した卵母細胞の発生の完了を助ける(Smith et al.,Biol.Reprod.,40:1027−1035(1989);and Keefer et al.,Biol.Reprod.,50:935−939(1994))。このことは、移植後8細胞期を過ぎたマウス胚に由来する細胞核が、除核卵母細胞の発生を助けないと報告されていることと対照的である(Cheong et al,Biol.Reprod.,48:958(1993))。よって家畜由来のES細胞は、遺伝子操作を加えるか、そうでなければ核移植操作に用いる全能ドナー細胞核の供給源となる可能性があるために、非常に望ましい。
【0006】
一部の研究グループは、多能性であるといわれている胚細胞株の分離を報告している。例えばNotarianni et al.,J.Reprod.Fert.Suppl.,43:255−260(1991)は、ヒツジ胚盤胞より免疫手術により摘出した内部細胞塊の一次培養における細胞と、形態および成長の特性が幾分類似しているブタおよびヒツジの胚盤胞より、安定で多能性といわれている細胞株を樹立したと報告している。(Id.)また、Natarianni et al.,J.Reprod.Fert.Suppl.,41:51−56(1990)は、ブタ胚盤胞に由来する、多能性と考えられる胚細胞株の培養の保守管理および分化を開示している。さらに、Gerfen et al.,Anim.Biotech,6(1):1−14(1995)では、ブタ胚盤胞由来の胚細胞株の分離を開示している。これらの細胞は、調節培地を用いることなく、マウス胚線維芽細胞フィーダー層で安定に維持される。これらの細胞は、培養中に異なる数種類の細胞型に分化すると報告されている(Gerfen et al.,Id.)。
【0007】
さらに、Saito et al.,Roux’s Arch.Dev.Biol.,201:134−141(1992)では、ウシ胚幹細胞様細胞株を培養すると3世代継代時は生存したが、第4世代目で消失したと報告している。またさらに、Handyside et al.,Roux’s Arch.Dev.Biol.,196:185−190(1987)では、マウスICM由来のマウスES細胞が分離する条件下で、免疫手術により摘出した、ヒツジ胚の内部細胞塊の培養法を開示している。Handyside et al.,(1987)(Id.)は、こうした条件下では該ヒツジICMが接着し、拡散し、かつES細胞様および内胚葉様細胞の領域を生じせしめるが、長期間培養後は内胚葉様細胞のみが認められると報告している。(Id.)
【0008】
最近、Cherny et al.,Theriogenology,41:175(1994)では、多能性といわれているウシ始原生殖細胞由来の細胞株が、長期間培養で維持されると報告した。これらの細胞は、約7日間培養した後、アルカリフォスファターゼ(AP)染色に陽性であるES様コロニーを生成し、胚様体形成能を示し、少なくとも2種類の異なる細胞型に自然分化した。これらの細胞は、報告によると、ES細胞のみに発現すると考えられているホメオボックス遺伝子パターンである転写因子OCT4,OCT6およびHES1のmRNAを発現した。
【0009】
また最近、Campbell et al., Nature,380:64−68(1996)は、マウスのES細胞株の分離を促進する条件下で培養した、9日目のヒツジ胚より摘出して培養した杯盤(ED)細胞の核移植後に、子ヒツジの産子を生成したと報告した。著者らは、その結果に基づき、9日目ヒツジ胚に由来するED細胞は、核移植により全能性となり、培養中は全能性が維持されると結論付けた。
【0010】
Van Stekelenburg−Hamers et al.,Mol.Reprod.Dev.,40:444−454(1995)は、ウシ胎盤胞の内部細胞塊細胞に由来する、永久的といわれる細胞株の分離および同定を報告した。著者らは、8あるいは9日目のウシ胚盤胞より、最も効果的にウシICM細胞の接着および外殖を助けるフィーダー細胞および培地の判定を目的として、様々な条件下でICMを分離して培養した。著者らは、その結果に基づき、培養ICM細胞の接着および外殖は、STO(マウス線維芽細胞)フィーダー細胞(ウシ子宮上皮細胞の代用)の使用、および培地に添加するためのチャコール処理血清(通常血清より優れている)の使用により促進されると結論付けた。しかしVan Stekelenburg et alは、その細胞株が多能性ICM細胞よりも上皮細胞に類似していると報告した。(Id.)
【0011】
またさらに、1994年10月27日に公表されたSmith et al.,WO 94/24274、1990年4月5日に公表されたEvans et al.,WO 90/03432、1994年11月24日に公表されたWheeler et al.,WO 94/26889では、トランスジェニック動物の生成に使用できるといわれている動物幹細胞の分離、選択および増殖を報告している。また1990年4月5日に公表されたEvans et al.,WO 90/03432では、トランスジェニック動物の生成に有用であることが確実であるブタおよびウシに由来する多能性であるといわれている胚幹細胞の生成を報告した。さらに、1994年11月24日に公表されたWheeler et al.,WO 94/26884では、キメラおよびトランスジェニック有蹄類の製造に有用であることが確実である胚幹細胞を開示した。このため、前述の事項に基づいて、数多くのグループが、例えばクローン化あるいはトランスジェニック胚の生成および核移植への応用の可能性などにより、ES細胞株の生成を試みていることは明らかである。
【0012】
有蹄類ICM細胞の核移植への使用についても報告されている。例えば、Collas et al.,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)では、溶解したドナー細胞を除核した成熟卵細胞にマイクロインジェクションすることによる、ウシICMの核移植を開示している。該参照文献では、in vitroで胚を7日間培養して15個の胚盤胞を生成し、これをウシレシピエントに移植して妊娠4例と産子2例を得たことを開示した。またKeefer et al.,Biol.Reprod.,50:935−939(1994)では、胚盤胞の生成を目的とした核移植操作におけるウシICM細胞のドナー核としての使用によって生成した胚幹細胞を、ウシレシピエントに移植したところ、数匹の産子が得られたことを開示している。さらに、Sims et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:6143−6147(1993)では、in vitroで短期間培養したウシICM細胞から除核した成熟卵細胞への核移植による仔ウシの生産を開示した。
【0013】
また、培養した杯盤細胞の核移植後の子ヒツジの生産が報告されている(Champbell et al.,Nature,380:64−68(1996))。またさらに、核移植におけるウシ多能性胚細胞の使用およびキメラ胎児の生成も報告されている(Stice et al.,Biol.Reprod.,54:100−110(1996));Collas et al,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)。
【0014】
さらに、異種間NT単位の生成が過去に試みられている(Wolfe et al.,Theriogenology,33:350(1990)。具体的には、ウシ胚細胞をヤギュウの卵母細胞と融合し、内部細胞塊を有していると思われる異種間NTユニットをいくつか生成した。しかし、核移植操作におけるドナー核としては、成体細胞ではなく胚細胞を用いた。原則は、胚細胞は生体細胞よりも容易にリプログラミングされることであった。これは、カエルを用いた初期のNT研究にさかのぼる(DiBerardinoによる総説,Differentiation,17:17−30(1980))。また、この研究は系統発生論的に極めて類似した動物(ウシ細胞核とヤギュウ卵母細胞)が関与するものであった。対比してみると、これまではNTにより融合する種の差が大きくなると(ウシ細胞核をハムスター卵母細胞に移植)、内部細胞塊構造は得られらなかった。さらに、NTユニット由来の内部細胞塊細胞を用いて、増殖可能なES細胞様コロニーを形成するできることは、これまで報告されていない。
【0015】
また、Collas et al(Id.)は、ウシ核移植胚の生成を目的とした顆粒膜細胞(成体体性細胞)の使用を報告した。しかし、本発明とは異なり、これらの実験は異種間の細胞核移植に関するものではなかった。また本発明とは異なり、ES−様細胞コロニーは得られなかった。
【0016】
最近、1998年12月1日にJames A.Thomsonに対して発行し、Wisconsin Alumni Reseach Foundationに譲渡された米国特許第5,843,780号では、(i)1年以上にわたってin vitro培養における増殖が可能で、(ii)霊長類種の特徴を有する染色体が全て存在し、長期間の培養でも顕著に変化せずに核型を維持し、(iii)培養を通じて内胚葉、中胚葉、外胚葉組織の派生物に分化する可能性を維持し、(iv)線維芽細胞フィーダー層上で培養したとき分化しない霊長類精製胚幹細胞の調製の開示を意図している。これらの細胞は、報告によるとSSEA−1マーカー陰性、SEA−3マーカー陽性、SSEA−4マーカー陽性であり、アルカリフォスファターゼ活性を示し、多能性であり、霊長類種の特徴を有する全染色体の存在を含み、染色体のいずれもが変化しない核型を有している。さらに、これらの細胞はTRA−1−60およびTRA−1−81マーカーにそれぞれ陽性である。細胞をSCIDマウスに注入すると、内胚葉、中胚葉、および外胚葉細胞に分化するといわれている。また、ヒトあるいは霊長類胚の胚盤胞に由来するといわれる胚幹細胞株については、Thomson et al.,Science 282:1145−1147およびProc.Natl.Acad.Sci.,USA 92:7844−7848(1995)に論じられている。
【0017】
このように、Thomsonはヒト以外の霊長類およびヒト胚あるいは幹様細胞といわれるものおよびその生成法を開示している。しかし、その顕著な治療および診断における可能性を考えた場合、意図する移植レシピエントにとって自己由来であるヒト胚あるいは幹様細胞を生成する方法の大きな必要性はまだ存在する。
【0018】
この点に関して、細胞移植によって治療できると思われるヒトの疾患が数多く同定されている。例えば、パーキンソン病は黒質内のドパミン作動性ニューロンの変性に起因する。パーキンソン病の標準的治療法には、ドパミンの消失を一時的に改善するL−DOPAの投与が含まれるが、重度の副作用を引き起こし、最終的には疾患の進行を回復させることはできない。パーキンソン病の異なる治療法は、数多くの脳疾患および中枢神経損傷の治療への幅広い応用性が期待され、動物の胎児あるいは新生児の細胞あるいは組織の成人脳への移植を含んでいる。脳の様々な領域より採取した胎児ニューロンは、成人脳に組み込まれることが可能である。このような移植片は、実験動物に対して実験的に誘発した、複合認知機能を含む行動欠損を軽減することが証明されている。ヒト臨床試験の最初の試験結果も有望であった。しかし、流産により得られるヒト胎児細胞あるいは組織の供給は極めて限られている。さらに、流産した胎児から細胞あるいは組織を採取することには激しい異論がある。
【0019】
現在該患者から「胎児様」細胞を生成できる方法はない。さらに、同種移植組織片の確保は容易ではなく、また同種移植片および異種移植片組織は移植片拒絶反応を被る。さらに、移植前の細胞あるいは組織に遺伝子的修飾を施すことが有益と思われる場合もある。しかし、このような修飾が望ましい細胞あるいは組織の多くは、培養時に良好に分割せず、大部分の遺伝子変異の型は急速に分裂する細胞を必要とする。
【0020】
このため、移植および細胞および遺伝子治療における使用を目的とした、ヒト胚あるいは幹様未分化細胞の供給には、明らかな技術上の必要性がある。
【0021】
(発明の目的)
本発明の目的は、胚あるいは幹様細胞を生成する新規かつ改善された方法の提供である。
【0022】
本発明のより具体的な目的は、哺乳動物あるいはヒトの細胞核の、種の異なる除核卵母細胞への移植を包含する、胚あるいは幹様細胞を生成する新規かつ改善された方法の提供である。
【0023】
本発明のもう1つの具体的な目的は、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの細胞核の、例えば有蹄類、ヒトあるいは霊長類の除核卵母細胞などの動物あるいはヒトの除核卵母細胞への移植を包含する、ヒト以外の霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を生成する新規の方法を提供することである。
【0024】
本発明のもう1つの目的は、ドナー細胞あるいは細胞核と互換性のある(同種の)卵母細胞、割球あるいはその他の胚細胞から細胞質を誘導することにより、異種間核移植の効率を高めることである。
【0025】
本発明のより具体的な目的は、細胞質がドナー細胞あるいは細胞核と互換性のある(同種あるいは近縁種の)1個あるいはそれ以上の未成熟卵母細胞より細胞質を誘導することにより、異種間核移植の効率を高めることである。このような未成熟卵母細胞は、細胞質の採取およびレシピエント除核卵母細胞への細胞質の導入の前に、任意にin vitroでの成熟、および/あるいはin vitroでの活性化を行っても良い。
【0026】
本発明のもう1つの目的は、ドナー細胞と同種あるいは近縁種(同種が好ましい)に由来するミトコンドリアDNAを、除核前あるいは除核後に、核移植に使用する異種の卵母細胞に添加、あるいは核移植ユニットに添加(ドナー細胞の誘導後)して異種間核移植の効率を高めることである。
【0027】
さらに本発明のもう1つの目的は、除核した体性細胞(例えば除核したヒト体性細胞)(核体)を、活性化した、あるいは活性化していない、除核あるいは除核しない、例えばウシなどの異種卵母細胞に融合させるか、あるいは活性化したあるいは活性化していない開裂してもしなくともよい異種間NTユニットと融合することにより、異種間核移植の効率を高めることである。
【0028】
本発明のもう1つの目的は、例えば成人細胞などの、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの細胞核の、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの除核卵母細胞への移植を包含する、ヒト以外の霊長類あるいはヒトの系統欠損胚あるいは幹様細胞の新規の製造法を提供することであり、この場合、このような細胞は、例えばアンチセンスあるいはリボジームテロメラーゼ遺伝子の発現の操作など、遺伝子的に加工を受けて、個別の細胞系統への分化が不可能となっているか、あるいは修飾を受けて細胞が「致死的」となっているために、産子が生じなくなっている。
【0029】
さらに本発明のもう1つの目的は、核移植の効率を高めること、具体的には例えばMHC Iファミリー、また特にQ7および/あるいはQ9などのPed遺伝子などの、胚の発生を促進する遺伝子の発現をもたらすことを目的とした核移植に用いた遺伝子操作ドナー体性細胞による核移植により生成した着床前の胚の発生の促進である。
【0030】
本発明のもう1つの目的は、BAX,Apaf−1などの細胞死遺伝子あるいはカプサーゼあるいはその一部、あるいはデメチラーゼをコードするアンチセンスDNAの発現をもたらす核移植前あるいは核移植後の導入遺伝子の導入により、例えば異種間核移植胚などの核移植胚の生成を促進することである。
【0031】
さらに本発明のもう1つの目的は、IVPによる核移植胚の生成、より具体的には、例えばBcl−2あるいはBcl−2ファミリー遺伝子などのアポトーシスを阻害する遺伝子の発現をもたらすDNA構成の導入、および/あるいは胚発生の初期段階でアポトーシスを誘導する遺伝子に特異的なアンチセンスリボジームの発現などにより、核移植に用いるドナー細胞の遺伝子を変化させてアポトーシスに耐性とすることによる核移植胚の生成の促進である。
【0032】
さらに本発明のもう1つの目的は、例えばG1期などの特定の細胞周期にあるドナー細胞の改善された選別法によって、DNA構成が、例えば視覚化(例えば蛍光タグなど)マーカー蛋白などの検出可能なマーカーと結合した特定のサイクリンをコードするようなドナー細胞の遺伝子操作による核移植の効率を改善することである。
【0033】
また本発明の目的は、in vitroで生成した胚を、好ましくは1種類あるいはそれ以上のカプサーゼ阻害物質である、1種類あるいはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質の存在下で培養してアポトーシスを阻害することにより、こうした胚の発生を促進することである。
【0034】
本発明のもう1つの目的は、動物あるいはヒト細胞核の異種の除核卵母細胞への移植により生成した胚あるいは幹様細胞を提供することである。
【0035】
本発明のより具体的な目的は、霊長類あるいはヒト細胞核の、例えばヒト、霊長類あるいは有蹄類除核卵細胞などの除核動物卵母細胞への移植により生成した霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を提供することである。
【0036】
本発明のもう1つの目的は、このような胚あるいは幹様細胞を治療あるいは診断目的で使用することである。
【0037】
本発明の具体的な目的は、このような霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を、細胞、組織あるいは臓器の移植が治療上あるいは診断上有益である何らかの疾患の治療あるいは診断を目的として使用することである。
【0038】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞を、分化細胞、組織あるいは臓器の生成を目的として使用することである。
【0039】
本発明のより具体的な目的は、本発明に従って生成した霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞を、ヒト分化細胞、組織あるいは臓器の生成を目的として使用することである。
【0040】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞を、例えば遺伝子治療の用途を有する、遺伝子操作したあるいは形質転換した分化ヒト細胞、組織あるいは器官の生成に用いることができる細胞より構成される、遺伝子操作した胚あるいは幹様細胞の生成を目的として使用することである。
【0041】
本発明のもう1つの具体的な目的は、本発明に従ってin vitroで生成した胚あるいは幹様細胞を、例えば細胞の分化および薬物の試験などのための分析を目的として使用することである。
【0042】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞より生成した同系の細胞、組織あるいは臓器の利用を具備する、改善された移植療法を提供することである。このような治療法は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー症、糖尿病、肝疾患、心疾患、軟骨の置換、熱傷、血管疾患、尿路疾患の他とりわけ免疫欠損、骨髄移植、癌などを含む疾患および損傷の治療を例として含んでいる。
【0043】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した、形質転換あるいは遺伝子操作胚あるいは幹様細胞を、遺伝子治療、特に上で特定した疾患および損傷の治療および/あるいは予防を目的として使用することである。
【0044】
本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した胚あるいは幹様細胞、あるいは本発明に従って生成したトランスジェニックあるいは遺伝子操作胚あるいは幹様細胞を、核移植用の核ドナーとして使用することである。
【0045】
さらに本発明のもう1つの目的は、本発明に従って生成した遺伝子操作ES細胞を、例えばヒト以外の霊長類、げっ歯類、有蹄類などのトランスジェニック動物の生成を目的として使用することである。このようなトランスジェニック動物は、ヒト疾患の動物モデルなどの生成を目的として、あるいは治療用あるいは栄養薬学用などの所望のポリペプチドの生成を目的として使用することができる。
【0046】
本発明の前述およびその他の目的、長所および特徴を以下で明らかにすれば、後述の発明の好ましい態様の詳細な説明、および添付した請求項を参照することにより、本発明の性質をさらに明らかに理解することができる。
【0047】
(発明の詳細な説明)
本発明は、胚あるいは幹様細胞、より具体的には、核移植によるヒト以外の霊長類あるいはヒトの胚あるいは幹様細胞の新規生成法を提供する。標題の出願においては、核移植あるいはNTは互換的に使用される。
【0048】
上述のように、核移植による胚あるいは幹様細胞の分離の実現については報告されていない。むしろ、これまでに報告されたES様細胞の分離は、受精胚由来のものであった。また、遺伝的に類似していない種の細胞あるいはDNA、あるいはより具体的には、ある種(例えばヒトなど)の成体細胞あるいはDNAおよび他の非近縁種の卵母細胞による核移植の成功は報告されていない。むしろ、例えばウシ−ヤギおよびウシ−ヤギュウなどの近縁種の細胞の融合により生成した胚について報告されているが、これらはES細胞を生成しなかった。(Wolfe et al,Theriogenology,33(1):350(1990))。また、非胎児組織源に由来する霊長類あるいはヒトES細胞の生成法も報告されていない。むしろ、現在入手できる限られたヒト胎児細胞および組織は、自然流産組織および流産胎児より入手あるいは由来しなければならない。
【0049】
また、本発明以前には、異種間核移植によって胚あるいは幹様細胞を得た者はいなかった。
【0050】
非常に予測し難いことであったが、本発明者は、ヒト胚あるいは幹様細胞および細胞コロニーがヒト細胞核の移植によって得られること、例えば分化した成人細胞を核移植(NT)ユニットの生成に使用する除核した動物卵母細胞に移植し、これらの細胞を培養するとヒト胚および幹様細胞あるいは細胞コロニーが生成することなどを発見した。この結果は、分化したドナー細胞あるいは核を、遺伝的に類似していない種の除核した卵母細胞に導入する、例えば分化した動物あるいはヒト細胞の核、例えば成体細胞を他種の動物の除核した卵に移植するなどして、適切な条件下で培養すれば胚あるいは幹様細胞及び細胞コロニーを生成する細胞を含む核移植ユニットを生成することを含む、有効な異種間核移植の最初の証明であるため、非常に驚異的なものである。
【0051】
レシピエント卵母細胞は、好ましくは(i)ドナー細胞あるいは細胞核および(ii)互換性のあるミトコンドリアDNAあるいは互換性のある細胞質のうち少なくとも1つを組み合わせて移植する。本明細書中の「互換性がある」という用語は、ミトコンドリアDNAあるいは細胞質がドナー細胞あるいは細胞核と同種、あるいはドナー細胞あるいは細胞核と極めて近い種の細胞に由来することを意味する。例えば、ドナー細胞あるいは細胞核がヒト細胞あるいは細胞核である場合、ミトコンドリアDNAあるいは細胞質はヒト由来、あるいは例えばチンパンジー、ゴリラ、あるいはヒヒなどの高等霊長類のものとなるであろう。同様に、ドナー細胞あるいは細胞核がウシ細胞あるいは細胞核であれば、互換性のある細胞質は近縁種である有蹄類、例えば水牛などの細胞質となるであろう。最も好ましくは、互換性のあるミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質がドナーと同種の細胞に由来し、また最も好ましくは、ドナー細胞あるいは細胞核と同一の個体に由来する。
【0052】
好ましい実施態様では、細胞質は未熟卵母細胞あるいは割球に由来し、このような未熟卵母細胞より細胞質を採取する前に、これを適宜in vitroで成熟および/あるいはin vitroで活性化させてもよい。ヒト卵母細胞を含む卵母細胞をin vitroで活性化する方法については後述する。同様に、in vitroで卵母細胞を成熟させる方法は文献に報告されている。
【0053】
好ましくは、ES様細胞の生成に用いられているNTユニットは、細胞の個数が少なくとも2〜400個となる大きさ、好ましくは4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個となる大きさまで培養する。
【0054】
本発明では、胚あるいは幹様細胞は本発明に従って生成した細胞を意味する。本明細書では、このような細胞が代表的に生成される方法、すなわち異種間核移植による生成から、これを幹細胞ではなく幹様細胞と呼ぶ。これらの細胞は通常の幹細胞と類似した分化能を有することが予測されるが、その生成方法によりわずかな差を有することがある。例えば、これらの幹様細胞は核移植に用いた卵母細胞のミトコンドリアを有すると思われるので、従来の胚幹細胞と同一の挙動を示さないか、あるいは形態学的に同一でない場合がある。
【0055】
この発見は、成人細胞核の核移植、具体的にはヒトドナーの口腔より採取したヒト上皮細胞を、除核したウシ卵母細胞に移植すると、核移植ユニットを形成し、その細胞を培養するとヒト幹様あるいは胚細胞およびヒト胚あるいは幹様細胞コロニーを形成するという所見に基づいてなされた。最近この結果は、成人から採取した角化細胞を除核ウシ卵母細胞に移植して、胚盤胞およびES細胞株の生成に成功したことにより、再現された。これに基づき本発明者らは、ウシ卵母細胞とヒト卵母細胞、またおそらく一般的哺乳類卵母細胞は、胚発生中に成熟過程を経なければならず、ウシ卵母細胞がヒト卵母細胞の有効な置換物あるいは代替物として機能できるように、この過程が十分に類似しているかあるいは維持されているという仮説を立てている。明らかに、一般的な卵母細胞は自然の状態でおそらくはタンパク質あるいは核酸である因子を具備し、これが適当な条件下で胚の発生を誘発し、これらの機能は異種間で同じであるか、あるいは極めて類似している。これらの因子はRNA物質および/あるいはテロメラーゼを具備していると思われる。
【0056】
ヒト細胞核をウシ卵母細胞に有効に移植することができるという事実に基づけば、ヒト細胞を、例えば有蹄類その他の動物などの、他の非近縁種卵母細胞に移植できると予測することは妥当である。特に、例えばブタ、ヒツジ、馬、ヤギなどの他の有蹄類の卵母細胞がふさわしいはずである。また例えばチンパンジー、マカク類、ヒヒ、ゴリラ、アカゲザルなどの他の霊長類に由来する卵母細胞、両生類、げっ歯類、ウサギ、モルモットなどの他の動物に由来する卵母細胞もふさわしいはずである。さらに、同様の方法を用いて、ヒト細胞あるいはヒト細胞核をヒト卵母細胞に移植し、生成した胚盤胞を用いてヒトES細胞を生成することも可能なはずである。
【0057】
このため、その最も広範な実施態様においては、本発明は動物あるいはヒト細胞核、または動物あるいはヒト細胞の、ドナー細胞核と異なる種の(好ましくは除核した)卵母細胞への、注入あるいは融合による移植、さらに胚あるいは幹様細胞および/あるいは細胞培養を得るのに用いることのできる細胞を含んだNTユニットを生成することを目的とした前記レシピエント卵母細胞への、好ましくはドナー細胞あるいは細胞核と同種である互換性のあるミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質の注入を適宜含む。除核(卵母細胞内の細胞核の除去)は核移植の前あるいは核移植後に実施することができる。例えば本発明は、有蹄類細胞核あるいは有蹄類細胞の、注入あるいは融合による、例えば他の有蹄類あるいは非有蹄類などの異種の除核卵母細胞への移植を含むことがあり、この注入あるいは融合により細胞および/あるいは細胞核を結合してNTユニットを生成し、次に、好ましくは少なくとも約2〜200個、より好ましくは4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個の細胞を含む多細胞NTユニットを得るのに適した条件下で培養する。このようなNTユニットの細胞は、培養時に胚あるいは幹様細胞あるいは細胞コロニーを生成するのに用いることができる。
【0058】
本発明の好ましい該実施態様は、ドナーヒト細胞核あるいはヒト細胞を、例えば有蹄類卵母細胞などの除核したヒト、霊長類、あるいは霊長類以外の動物の卵母細胞に、また好ましい実施態様においては、ウシ除核卵母細胞に移植することによる、ヒト以外の霊長類あるいはヒト胚あるいは幹様細胞の生成を具備している。好ましくは、除核卵母細胞に、ヒト細胞質(例えば少なくとも1個以上の未成熟あるいは成熟卵母細胞あるいは割球)を注入、あるいは核体?????(除核ヒト卵母細胞あるいは割球、あるいは高等霊長類の卵母細胞あるいは割球)および/あるいはヒトミトコンドリアDNAと融合せしめる。
【0059】
一般的に、胚あるいは幹様細胞は、以下の手順からなる核移植操作により生成される:
(i)ドナー細胞核源として用いる所望のヒトあるいは動物細胞を採取する(遺伝的に改変が加えられていても良い);
(ii)例えば哺乳類、より好ましくは霊長類あるいはウシなどの有蹄類の卵母細胞源などの適当な採取源より卵母細胞を採取する;
(iii)前期卵母細胞から細胞内の核を除去して除核する;
(iv)ヒトあるいは動物の細胞、あるいは細胞核を、ドナー細胞あるいは細胞核と異種の除核卵母細胞に、例えば融合あるいは注入などにより移植、ただし手順(iii)および(iv)はどちらを先に実施しても良い;
(v)生成したNT生成物あるいはNTユニットを培養して、複数の細胞からなる構造物(識別可能な内部細胞塊を有する胚様体構造物)を生成;
(vi)前記胚から得られた細胞を培養して胚あるいは幹様細胞および幹様細胞コロニーを得る。
【0060】
前述のように、核移植操作には、好ましくは互換性のある、すなわちドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは近縁種に由来するミトコンドリアDNAおよび/あるいは細胞質の導入も含める。この実施はドナー細胞あるいは細胞核のレシピエント卵母細胞への導入の前でも、同時でも、あるいは後でも良い。好ましくは、互換性のある細胞質および/あるいはミトコンドリアDNAは、ドナー細胞あるいは細胞核のレシピエント卵母細胞への導入後早い時点、すなわちこのような導入より約24時間以内に、より好ましくはこのような導入より約6時間以内に、最も好ましくはこのような導入より約2〜4時間以内に導入する。
【0061】
互換性のある細胞質の採取源には、卵母細胞から多数得ることができる未成熟卵母細胞を特に含める。例えばヒトの場合は、例えば子宮摘出術を受けた女性など同意を得たドナーの卵巣から卵母細胞を採取することができる。
【0062】
このような未熟な卵母細胞から細胞質を採取する前に、これをin vitroで適宜成熟させる。卵母細胞をin vitroで成熟させる方法は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,945,577号に記載されている。
【0063】
さらに、このような未成熟の卵母細胞から細胞質を採取する前に、これをさらにin vitroで適宜活性化することができる。ヒト卵母細胞を含む卵母細胞を単為発生的に活性化させる方法は周知である。In vivoでの卵母細胞活性化法の例は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国出願番号No.08/888,057に記載されている。In vitroで活性化させる好ましい方法には、DMAPとイオノマイシンの使用、およびシクロヘキサミドとイオノマイシンの使用が含まれる。
【0064】
レシピエント卵母細胞に導入する細胞質の量は、好ましくは細胞の容積を最大で5倍にし、好ましくは約2倍を上回らず、最も好ましくは約1 1/2倍を上回らない量とする。これは、互換性のある卵母細胞に由来する細胞質をレシピエント卵母細胞に注入するか、あるいはその代わりに互換性のある卵体(レシピエント卵母細胞と同種であるか、極めて近縁である種の除核卵母細胞)のレシピエント卵母細胞と融合することにより実施することができる。適宜、レシピエント卵母細胞の細胞質の全体あるいは一部を除去し、互換性のある卵体を導入する容積を増加せしめることができる。文献では、そのことに関して、適切な細胞核/細胞質の比率および細胞の容積の維持が、胚盤胞の形成および発生において重要であることが示唆されている(Karyikova et al,Reprod,Nutr.Devel.38(6):665−670)。
【0065】
本発明者らはその考えに従うことを望まないが、卵母細胞の細胞質内には胚形成を助ける、例えば核酸配列および/あるいはタンパク質などの成分が存在するという仮説があり、このような因子は系統発生的に異なる種間である程度保たれていると考えられ、種の相違は異種間核移植の有効性を妨げるほどに重要であるという理論がある。よって、本発明者らは、このような有効性の問題を、胚形成を促進する同種あるいは極めて近い種の成分を含んでいると思われる互換性のある細胞質を導入することで軽減することを意図している。
【0066】
上記のように、互換性のある、すなわちドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは極めて近い種のミトコンドリアDNAを導入することにより、クローン化の有効性も改善することができる。この導入の実施は、ドナー細胞あるいは細胞核の導入前でも、導入と同時でも、あるいは導入後でも可能である。本質的に、本発明のもうひとつの目的は、ドナー細胞あるいは細胞核と同種あるいは極めて近い種のミトコンドリアDNAを、移植の前後、活性化の前後、および融合と開裂の前後にレシピエント卵母細胞に導入することによる、例えば異種間核移植などの核移植の有効性の改善である。好ましくは、ドナー細胞がヒト細胞であれば、ヒトミトコンドリアDNAを、同じドナーに由来する例えば肝細胞および組織などから採取する。
【0067】
ミトコンドリアの分離法は技術上周知である。ミトコンドリアは組織培養中の細胞、あるいは組織より分離することができる。個々の細胞あるいは組織は個々のドナー細胞に依存する。ミトコンドリア採取源として使用できる細胞あるいは組織の例には、線維芽細胞、上皮、肝臓、肺、角化細胞、胃、心臓、膀胱、膵臓、食道、リンパ球、単球、単核球、卵丘細胞、子宮細胞、胎盤細胞、腸細胞、造血細胞、卵母細胞、およびこのような細胞を含む組織が含まれる。
【0068】
例えば、ミトコンドリアは組織培養細胞およびラット肝臓から分離することができる。同一のあるいは類似した操作を用いて、他の細胞および組織、すなわちヒト細胞および組織からミトコンドリアを分離することができると予測される。上記のように、好ましいミトコンドリア採取源には、ヒト肝臓組織が含まれるが、これは、こうした細胞が多数のミトコンドリアを含んでいるからである。当業者は、個別の細胞株あるいは組織に応じて、該操作に必要な改変を行うことができる。分離したDNAは、所望すれば例えば密度勾配遠心法などの既知の方法でさらに精製することもできる。
【0069】
生成した分離ミトコンドリアDNAは、レシピエント卵母細胞に注入するのが好ましい。好ましくは、1個あるいは数個の細胞から分離したミトコンドリアDNAを全て導入して、レシピエント卵母細胞に互換性のあるミトコンドリアDNAの完全な成分を確保せしめる。好ましくは、ミトコンドリアDNAは自己採取源、すなわちドナー細胞あるいは細胞核の採取源であるヒト被験者、あるいは近縁者などこの被験者と遺伝的に互換性のあるヒトから採取した細胞あるいは組織から得る。また、互換性のあるミトコンドリアを未成熟卵母細胞より採取し、互換性のある細胞質とともに導入することができる。
【0070】
本発明で利用することのできる個別の核移植は、文献に報告されており、発明の背景の項で引用されている様々な参照文献に記載されている。特に、その全文を本明細書に参照文献として引用しているChampbell et al,Theriogenology,43:181(1995):Collas et al,Mol.Report Dev.,38:264−267(1994);Keefer et al,Biol.Reprod.,50:935−939(1994);Sims et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:6143−6147(1993);WO 94/26884;WO 94/24274およびWO 90/03432を参照のこと。また米国特許第4,944,384号および5,057,420号は、ウシ核移植の操作について記載している。また、いずれもその全文を本明細書に参照文献として引用しているCibelli et al,Science,Vol.280:1256−1258(1998),米国特許第5,945,577号;WO 97/07669;WO 97/07668およびWO 96/07732も参照のこと。
【0071】
ヒト、あるいは好ましくは哺乳類細胞である動物細胞は、周知の方法により採取し、培養することができる。本発明において有用であるヒトおよび動物細胞には、例として、上皮、神経細胞、表皮細胞、角化細胞、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(BおよびTリンパ球)、その他の免疫細胞、赤血球、マクロファージ、メラニン細胞、単球、単核球、幹細胞、線維芽細胞、心筋細胞、およびその他の筋肉細胞などが含まれる。さらに、核移植に用いられるヒト細胞は、皮膚、肺、膵臓、肝臓、胃、腸、心臓、生殖器官、膀胱、腎臓、尿道、および他の泌尿器などの様々な臓器より得ることができる。これらは適したドナー細胞の実例である。
【0072】
適したドナー細胞、すなわち標題の発明に有用な細胞は、身体のあらゆる細胞あるいは臓器から得ることができる。これには全ての体性細胞および胚細胞が含まれる。好ましくは、ドナー細胞あるいは細胞核は活発に分裂、すなわち非休止期にある(G1,SあるいはM細胞周期)細胞を含み、このような細胞はクローン化効率を高めると報告されている。さらにより好ましくは、このようなドナー細胞はG1細胞周期にある。しかし、休止期のドナー細胞(G0)も本発明の範囲内にある。例えば適切な培養条件で、血清の欠乏により、休止期細胞を採取することができる。
【0073】
生成した胚盤胞は、その全文を本明細書に参照文献として引用しているThomson et al.,Science,282:1145−1147(1998)およびThomson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,92:7544−7878(1995)で報告されている培養法に従い、胚幹細胞株を得るのに用いることができる。
【0074】
一方、識別可能な内部細胞塊を有する生成した胚盤胞は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,905,042号に開示された方法に従い培養することができる。この方法は、フィーダー層上での内部細胞塊の全体あるいはその一部の培養を本質的に具備し、このとき該フィーダー層との接触は培養期間を通して維持されている。この培養法は、培養を続けると培養した内部細胞塊の一部、すなわちES様の外観を有する細胞を含む培養された内部細胞塊の最外部の選択的除去をさらに具備する。次にこの細胞コロニーの最外部を、代表的には胎児線維芽細胞であるもう1つのフィーダー層上に導入する。この方法は、組織培養において未分化(胚幹)細胞、すなわちES様の形態を示し、フィーダー層より除去すると他の細胞型に分化する細胞の維持をもたらすことが判明している。
【0075】
後述の例では、核移植ドナーとして使用される細胞はヒトドナーの口腔から採取した上皮細胞、および成人角化細胞であった。しかし、論じたように、開示された方法は他のヒト細胞あるいは細胞核に適用可能である。さらに、細胞核はヒト体性細胞からも、胚細胞からも採取することができる。
【0076】
また、技術上既知の適当な方法を用いて、核移植前にドナー細胞を有糸分裂期で停止させることも可能である。様々な段階で細胞周期を止める方法は、その全文を参照文献として本明細書中に引用している米国特許第5,262,409号で幅広く検討されている。特に、シクロヘキサミドは有糸分裂阻害作用を有すると報告されているが(Bowen and Wilson(1955) J.Heredity,45:3−9)、電気パルス処理と組み合わせた場合は、成熟ウシ濾胞卵母細胞の活性化の改善に用いることもある(Yang et al.(1992)Biol.Reprod.,42(Suppl.1):117)。
【0077】
接合体遺伝子活性化はヒストンH4の過アセチル化を伴う。トリコスタチンAは、ヒストンデアセチラーゼを、他の化合物と同様に可逆的に阻害することが証明されている(Adenot et al,“Differential H4 acetylation of paternal and maternal chromatin precedes DNA replication and differential transcriptional activity in pronuclei of 1−cell mouse embryos.”Development (Nov.1997)124(22):4615−4625;Yoshida et al.“Trichostatin A and trapoxin:novel chemical probes for the role of histone acetylation in chromatin structure and function”Bioessays (May,1995) 17(5):423−430)。
【0078】
例えば、酪酸もヒストンデアセチラーゼを阻害することによりヒストン過アセチル化を惹起すると考えられている。酪酸は、全般的に遺伝子の発現を変化せしめ、ほとんど全ての場合これを細胞培養に添加することにより細胞の成長を止めると見られる。細胞の成長停止を目的とした酪産の使用は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第5,681,718号に記載されている。よってドナー細胞は、融合前にトリコスタチンAあるいはその他の適切なデアセチラーゼ阻害物質に曝露するか、あるいはゲノムを活性化する前にこの様な化合物を培地に添加しても良い。
【0079】
さらに、DNAの脱メチル化は、転写因子がDNA調節配列に適切に接触するための要件と考えられている。着床前の胚の8細胞期〜胚盤胞期におけるDNA全体の脱メチル化については、すでに報告されている(Stein et al.,Mol.Reprod.& Dev.,47(4):421−429)。また、Jaenisch et al.(1997)は、5−アザシチジンを用いて細胞内のDNAのメチル化レベルを低下させることにより、転写因子のDNA調節配列への接触が増大する可能性があると報告している。よって、融合前のドナー細胞を5−アザシチジン(5−Aza)に曝露するか、あるいは8細胞期〜胚盤胞期の培地に5−Azaを添加しても良い。これに替えて、DNAを脱メチル化する他の既知の方法を用いても良い。
【0080】
核移植のレシピエントとして、あるいは互換性のある細胞質の回収に用いられる卵母細胞は、哺乳類および両生類を含む動物から採取することができる。卵母細胞の採取に適した哺乳動物には、ヒツジ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヤギ、モルモット、マウス、ハムスター、ラット、霊長類、ヒトなどが含まれる。好ましい該実施態様では、霊長類、あるいは例えばウシなどの有蹄類より卵母細胞を採取する。ヒト卵母細胞の場合、適当な採取源には、子宮摘出術を受ける患者など同意を得た女性から採取した卵巣が含まれる。
【0081】
卵母細胞の分離法は技術上周知である。これは、本質的に例えばウシなどの哺乳類あるいは両生類の卵巣あるいは生殖管からの卵母細胞の分離を具備する。ウシ卵母細胞が容易に入手できる採取源は、屠畜場から得られる材料である。
【0082】
遺伝子操作、核移植およびクローン化などの技術を成功裏に使用するために、核移植のレシピエントとして使用できるようになるまで卵母細胞をin vitroで成熟させるのが好ましい。この操作は、全般的に、例えば屠畜場より入手したウシ卵巣などの動物の卵巣より未成熟(第I相)の卵母細胞を採取し、受精あるいは除核前に卵母細胞を成熟培地内で成熟させて、卵母細胞を、ウシ卵母細胞の場合は一般的に吸引後18〜24時間で起こる減数第二分裂中期とする必要がある。本発明の用途では、この期間は「成熟期間」として知られる。本明細書で期間の計算に用いられているように、「吸引」は、卵胞からの未成熟卵母細胞の吸引を意味する。
【0083】
さらに、in vivoで成熟させた減数第二分裂中期卵母細胞は、核移植術で成功裏に使用されている。例えば、成熟減数第二分裂中期卵母細胞は、非過剰排卵あるいは過剰排卵雌ウシあるは若雌ウシから、発情開始、あるいはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)あるいは類似のホルモンの注射より35〜48時間後に外科的に採取することができる。また、例えばヒツジ、ヤギ、ブタなどの他の種からもin vivo成熟卵母細胞を採取することができる。
【0084】
除核時および核移植時の卵母細胞の成熟段階は、NT法の成功にとって重要であると報告されている。(例えばPrather et al.,Differentiation,48,1−8,1991などを参照のこと)。全般的に、過去の哺乳類胚クローン化の成功例では、減数第二分裂中期においては卵母細胞は導入した核を受精精子と同様に扱えるまでに「活性化」が可能で、あるいは十分に「活性化」されると考えられるので、この段階の卵母細胞がレシピエント卵母細胞として使用された。家畜、特にウシでは、卵母細胞の活性化期は一般的に吸引より約16〜52時間後、好ましくは吸引より約28〜42時間後である。
【0085】
例えば、未成熟卵母細胞は、Seshagine et al.,Biol.Reprod.,40.544−606,1989に報告されているように、HEPES緩衝化ハムスター胚培養培地(HECM)内で洗浄し、39℃でウシ胎児血清を10%含んだ50μlの組織培養培地(TCM)199に黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)などの適切なゴナドトロピンを含ませた成熟培地数滴の中に移し、軽量パラフィンあるいはシリコン層の下にエストラジオールを入れる。
【0086】
代表的には約10〜40時間、また好ましくは約16〜18時間であり、in vivoあるいはin vitroのいずれで行っても良い一定の成熟期間の後で、卵母細胞を除核するのが好ましいであろう。除核の前に、好ましくは卵母細胞を取り出して1mg/mlのヒアルロニダーゼを含んだHECMに入れたのち卵丘細胞を摘出する。これは、内径の極めて小さいピペットによる反復ピペッティングか、あるいは短時間の振盪により行う。次に皮膜を取った卵母細胞を極体によってスクリーニングし、極体があれば減数第二分裂中期卵母細胞であると判定してこれを選択し、引き続き核移植に使用する。代表的にはこの時期に除核を実施する。しかし、ドナー細胞核は内生細胞核と容易に識別できるので、除核の実施はドナー細胞あるいは細胞核の導入前でも導入後でも良い。
【0087】
除核は、その全文を本明細書に参照文献として引用している米国特許第4,994,384号に記載されているような既知の方法で実施することができる。例えば、減数第二分裂中期卵母細胞は、迅速除核用に適宜7.5μg/mlのサイトカラシンBを含んだHECMに入れるか、あるいは、例えばCR 1aaに10%発情期雌ウシ血清を加えたものなどの適当な培地に入れても良く、その後好ましくは24時間未満経過後、より好ましくは16〜18時間後に除核してもよい。
【0088】
除核は、マイクロピペットを用いた顕微手術により、極体および付属する細胞質を除去して行うことができる。次に卵母細胞をスクリーニングし、除核に成功した卵母細胞を同定することができる。このスクリーニングは、1μg/mlの33342 Hoechst染色剤のHECM溶液で卵母細胞を染色し、卵母細胞に紫外線を10秒未満照射して観察することで実施できる。除核に成功した卵母細胞は、次に適切な培地に移すことができる。
【0089】
本発明では、レシピエント卵母細胞は、代表的にはin vitroでの成熟開始より約10〜約40時間後の間、より好ましくはin vitroでの成熟開始より約16〜約24時間後、最も好ましくはin vitroでの成熟開始より約16〜18時間後に除核する。除核の実施は核移植前でも、核移植と同時でも、あるいは核移植後でもよい。また、除核の実施は活性化の前でも、活性化の後でも、あるいは活性化と同時でも良い。
【0090】
代表的には除核した卵母細胞と異種である1個の動物あるいはヒト細胞あるいはその細胞核は、その後代表的には除核されているNTユニットの生成を目的として用いられる卵母細胞の囲卵腔に移植する。しかし、その代わりに、核移植後に内生核の除去を実施しても良い。動物あるいはヒト細胞あるいは細胞核および除核した卵母細胞は、技術上既知の方法に従いNTユニットを生成することを目的として用いられる。例えば、細胞を電気融合法で融合してもよい。電気融合は、原形質膜を一過的に破壊するのに十分な電気パルスを与えて行う。原形質膜は速やかに修復されるため、この原形質膜の破壊はきわめて短時間である。本質的に、隣接する2枚の膜の破壊が誘導されれば、修復時に脂質2層膜が混合し、2個の細胞の間に小さなチャネルが開くであろう。このような小さな開口部は熱力学的に不安定であるため、2個の細胞が1つになるまで拡大する。この過程についての更なる議論についての参照文献は、Prather et al.による米国特許第4,997,384号(その全文を参照文献として本明細書に引用)である。例えばショ糖、マンニトール、ソルビトール、およびリン酸緩衝化溶液を含む様々な電気融合培地を用いることができる。センダイウイルスを細胞融合誘導物質として用いて融合を行うこともできる(Graham,Wister Inot.Symp.Monogr.9,19,1969)。
【0091】
また一部の例(例えばドナー細胞核が小さい場合など)では、細胞核を電気穿孔融合法を用いることなく、直接卵母細胞に注入するのが好ましいであろう。このような方法は、Collas and Barnes,Mol.Reprod.Dev.,38:264−267(1994)に開示されており、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている。
【0092】
好ましくは、ヒトあるいは動物細胞および卵母細胞を、卵母細胞の成熟開始より約24時間後に90〜120Vの電気パルスを15μ秒間適用して500μmチャンバー内で電気融合する。融合後、生成した融合NTユニットは、好ましくは活性化するまで、例えば上記で指定した培地などの適切な培地内に入れておく。代表的には、この後すぐに活性化を、代表的には24時間未満経過後、好ましくは4〜9時間後に実施するであろう。しかし、核移植の前あるいは直前(同時)に、除核されている、あるいはされていないレシピエント卵母細胞を活性化することも可能である。例えば、核移植より約12時間前〜核移植より約24時間後に活性化を実施してもよい。より代表的には、核移植と同時あるいは直後、例えば約4〜9時間後などに活性化を実施する。
【0093】
NTユニットは既知の方法で活性化してよい。このような方法には、例えば低温とするか、あるいは実際に低温のショックをNTユニットに実質的に適用することによる、亜生理的温度でのNTユニットの培養が含まれる。これは、胚が通常曝露されている生理的温度条件よりも低温である室温でNTユニットを培養することにより最も簡便に実施できる。
【0094】
一方、既知の活性化物質により活性化を実施することができる。例えば、受精時の精子の卵母細胞への進入によって融合前の卵母細胞が活性化されることにより、核移植後のウシの生存子妊娠が増加し、かつ遺伝的に同一の子ウシが複数得られることが証明されている。また、電気的および化学的ショック、あるいはシクロヘキサミド処理などの処理も、融合後のNT胚の活性化を目的として用いることができる。適切に卵母細胞を活性化する方法は、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている、Susko−Parrich et al.,に対する米国特許第5,496,720号の標題である。
【0095】
例えば、卵母細胞の活性化は同時に行っても、順に行ってもよく:
(i)卵母細胞内の2価陽イオンの濃度を高め、
(ii)卵母細胞内の細胞蛋白のリン酸化を低下させる。
【0096】
これは、全般的に、卵母細胞の細胞質内に、例えばマグネシウム、ストロンチウム、バリウムあるいはカルシウムなどの2価の陽イオンを、例えばイオノフォアの形などで導入して実施されるであろう。2価陽イオンレベルを上昇せしめる方法には、電気ショックの使用、エタノール処理、およびケージドキレーター処理が含まれる。
【0097】
リン酸化は、例えば6−ジメチルアミノプリン、スタウロスポリン、2−アミノプリン、およびスフィンゴシンなどのセリン−トレオニンキナーゼ阻害物質などのキナーゼ阻害物質の添加などによる既知の方法で低下せしめてもよい。
【0098】
一方、細胞蛋白のリン酸化は、例えばフォスファターゼ2Aおよびフォスファターゼ2Bなどのフォスファターゼを卵母細胞内に導入して阻害してもよい。
【0099】
以下に具体的な活性化法を列挙する。
1. イオノマイシンおよびDMAPによる活性化
1− イオノマイシン(5μM)および2mM DMAPの溶液に卵母細胞を4分間入れる;
2− DMAPを2mM含む培地に該卵母細胞を移し、4時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
2. イオノマイシンDMAPおよびロスコビチンによる活性化
1− イオノマイシン(5μM)および2mM DMAP溶液に卵母細胞を4分間入れる;
2− 該卵母細胞をDMAP 2mMおよびロスコビチン200μMを含んだ培地に移し、3時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
3. イオノマイシン曝露後のサイトカラシンおよびシクロフォスファミドによる活性化
1− 卵母細胞をイオノマイシン(5μM)中に4分間入れる;
2− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド5μg/mlを含んだ培地に移し、5時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
4. 電気パルスによる活性化
1− 100μM CaCl2を含んだマンニトール培地に卵を入れる;
2− 1.0 kVcm−1のパルスを20μ秒間、各パルス間の間隔を22分として3回通電する;
3− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlを含んだ培地に移し、3時間置く。
5. エタノール曝露後のサイトカラシンおよびシクロヘキサミドによる活性化
1− 卵母細胞を7%エタノール中に1分間入れる;
2− 卵母細胞を、サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド5μg/mlを含んだ培地に移し、5時間置く;
3− 4回すすいだ後培養する。
6. アデノフォスチンのマイクロインジェクションによる活性化
1− 卵母細胞に、アデノフォスチン10μMを含んだ溶液を10〜12pl注入する;
2− 卵母細胞を培養する。
7. 精子因子のマイクロインジェクションによる活性化
1− 卵母細胞に、例えば霊長類、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、あるいはハムスターなどから分離した精子因子を10〜12pl注入する。
2− 卵母細胞を培養する
8. 組換え精子因子のマイクロインジェクションによる活性化
9. DMAP曝露後のシクロヘキサミドおよびサイトカラシンBによる活性化
代表的には成熟の22〜28時間後に、卵母細胞あるいはNTユニットを約2mMのDMAP中に約1時間入れ、その後サイトカラシンB 5μg/mlおよびシクロヘキサミド20μg/ml中で2〜12時間、好ましくは約8時間インキュベーションする。
【0100】
上記の活性化プロトコルは、例えば霊長類あるいはヒトドナー細胞あるいは卵母細胞の使用を含む操作などの核移植操作に用いられているプロトコルの例である。しかし、上記の活性化プロトコルは、ドナー細胞および核が、例えばヒツジ、ヤギュウ、ウマ、ヤギ、ウシ、ブタなどの有蹄類由来で、かつ/あるいは卵母細胞が例えばヒツジ、ブタ、ヤギュウ、ウマ、ヤギ、ウシのほか他の種類の有蹄類由来のいずれかあるいは両者である場合に使用できる。
【0101】
前述のように、活性化の実施は、核移植前でも、核移植と同時でも、あるいは核移植後でもよい。活性化は、一般的には核移植および融合の約40時間前〜核移植および融合の約40時間後に、より好ましくは核移植および融合の約24時間前〜約24時間後に、最も好ましくは核移植および融合の約4〜9時間前〜核移植および融合の約4〜9時間後に実施する。活性化は、好ましくはin vitroあるいはin vivoで卵母細胞成熟後あるいは直前直後、例えばほぼ同時あるいは成熟より約40時間以内などに、より好ましくは成熟より約24時間以内に実施する。
【0102】
活性化されたNTユニットは適切なin vitro培地において、胚あるいは幹様細胞および細胞コロニーが生成するまで培養することができる。胚の培養および成熟に適した培地は技術上周知である。ウシ胚の培養および維持に用いられる既知の培地の例には、Ham’s F−10+10%ウシ胎児血清(FCS),Tissue Culture Medium−199(TCM−199)+10%ウシ胎児血清、Tyrodes−Albumin−Lactate−Pyruvate(TALP),Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(PBS)、Eagle’s and Whittens’s mediaが含まれる。卵母細胞の採取と維持に最も多く用いられる培地の1つはTCM−199、およびウシ胎児血清、新生児血清、発情牝ウシ血清、子ヒツジ血清あるいは去勢ウシ血清などの血清の1〜20%添加物である。好ましい維持培地にはEarl salt、10%ウシ胎児血清、0.2Maピルビン酸、および50μg/ml硫酸ゲンタマイシンを含むTCM−199が含まれる。上記の培地は、いずれも、顆粒層細胞、卵管細胞、BRL細胞および子宮細胞およびSTO細胞などの様々な種類の細胞による共培養にも使用できる。
【0103】
特に、着床前期および着床期中のヒト子宮内膜上皮細胞は白血病阻害因子(LIF)を分泌する。このため、培地へのLIFの添加は、in vitroにおける再構築された胚の発生の促進において重要となるであろう。LIFの胚あるいは幹様細胞培養への使用については、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている米国特許第5,712,156号に記載されている。
【0104】
もう1つの維持培地については、その全文が本明細書中に参照文献として引用されている、Rosenkrans Jr.et al.,に対する米国特許第5,096,822号に記載されている。この胚培地の名称はCR1であり、胚を維持するのに必要な栄養素を含んでいる。CR1はL−酪酸ヘミカルシウムを1.0mM〜10mM、好ましくは1.0mM〜5.0mM含んでいる。L−酪酸ヘミカルシウムは、L−酪酸にヘミカルシウム塩が結合したものである。
【0105】
また、培養ヒト胚細胞の維持に適した培地については、Thomson et al.,Science,282:1145−1147(1998)およびProc.Natl.Acad.Sci.,USA,92:7844−7848(1995)に記載されている。さらに、該NTユニットは腹水、羊水、硝子体/房水およびリンパ液などの生物学的液体で培養することもできる。
【0106】
その後に、培養した1つあるいは複数のNTユニットは、好ましくは洗浄し、その後例えばCRIaa培地、Ham’s F−10,Tissue Culture Media−199(TCM−199)、Tyrodes−Albumin−Lactate−Pyruvate(TALP)、Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(PBS)、Eagle’s、あるいは好ましくは10%FCSを含むWhittens’s培地などの、上記で指定した培地などの適切な培地に移す。このような培養は、好ましくは適切な集密化フィーダー層を含んだウェルプレート内で実施する。適切なフィーダー層には、例えば有蹄類由来の線維芽細胞および子宮上皮細胞、ニワトリ線維芽細胞、ネズミ科(例えばマウスあるいはラット)線維芽細胞、STOおよびSI−m220フィーダー細胞株、およびBRL細胞などの、線維芽細胞および上皮細胞が例として含まれる。
【0107】
好ましい該実施態様では、フィーダー細胞はマウス胚線維芽細胞を具備している。適切な線維芽細胞のフィーダー層を調製する方法は、後述の例に記載されており、十分に通常の技術者の熟練の範囲内である。
【0108】
該NTユニットは、該NTユニットが胚幹様細胞あるいは細胞コロニーの生成を目的として使用できる細胞を採取するのに適した大きさに達するまで、該フィーダー層上で培養する。これらのNTユニットは、好ましくは細胞数が少なくとも約2〜400個、より好ましくは約4〜128個、最も好ましくは少なくとも約50個となる大きさに達するまで培養する。当該培養は、適切な条件下、すなわち約38.5℃でCO2濃度5%とし、成長を適正化するために、代表的には2〜5日ごとに、好ましくは約3日ごとに培地を交換しながら実施する。
【0109】
ヒト細胞/除核ウシ卵母細胞由来のNTユニットの場合は、代表的には約50個であるES細胞コロニーを生成するのに十分な細胞が、卵母細胞活性化より約12日後に採取される。しかし、これは核ドナーとして用いる個々の細胞、個々の卵母細胞の種、および培養条件によって異なることがある。当業者は、望ましい十分な個数の細胞が得られた場合、培養されたNTユニットの形態によって、肉眼で容易に確認できる。
【0110】
ヒト/ヒト核移植胚、あるいはヒト以外の霊長類ドナーあるいは卵母細胞を用いて生成したその他の胚の場合、組織培養中でヒトあるいは他の霊長類細胞を維持するのに有用であることが知られている培地を用いるのが有益であると思われる。ヒト胚培養に適した培地の例には、Jones et al,Human Reprod.,13(1):169−177(1998)に報告された培地、いずれも、Irvine Scientific,Santa Ana,Californiaより入手可能なP1−カタログ#99242培地、およびP−1カタログ#99292培地、およびその全文が本明細書中に参照文献として引用されているThomson et al.(1998)および(1995)によって使用されている培地が含まれる。
【0111】
もう1つの好ましい培地は、ACM+ウリジン+ブドウ糖+LIF 1000IUを具備する。
【0112】
さらに適当な培地の他の例には、腹水、硝子体/房水、羊水およびリンパ液などの自然に発生する生物学的液体が含まれる。
【0113】
上述のように、本発明で使用する細胞は、好ましくは哺乳類体性細胞を、最も好ましくは細胞が活発に増殖する(非静止期)哺乳類細胞培養に由来する細胞を具備している。特に好ましい実施態様では、所望のDNA配列の追加、欠失あるいは置換によってドナー細胞が遺伝的に修飾されている。例えば、ヒト、霊長類あるいはウシなどに由来する角化細胞あるいは線維芽細胞などのドナー細胞は、例えば治療用ポリペプチドなどの所望の遺伝子産物の発現をもたらすDNA構成に形質転換あるいは変換することができる。その例には、例えばIGF−I,IGF−II、インターフェロン、コロニー刺激因子などのリンフォカイン、コラーゲンなどの結合組織ポリペプチド、遺伝因子、凝固因子、酵素、酵素阻害物質などが含まれる。また、所望の遺伝子は、相同的組換えにより「ノック・イン」あるいは「ノック・アウト」することができる。
【0114】
また、上述のように、核移植の前に、例えば細胞の系統発生の障害、胚発生の促進および/あるいはアポトーシスの阻害などを目的としてドナー細胞を修飾することができる。望ましい修飾については後述する。
【0115】
本発明の態様の1つでは、例えばヒト細胞などのドナー細胞を遺伝的に修飾し、系統欠損とし、核移植に用いる場合には生産児を生じせしめない。これは、特にヒト核移植胚の場合に、倫理的な理由により生存胚の生成が望まれない場合に望ましい。これは、ヒト細胞を遺伝的に操作して、核移植に用いる際に特定の系統細胞への分化を不能とすることにより実施できる。特に、細胞を遺伝的に修飾し、核移植ドナーとして用いる場合には、生成した「胚」が中胚葉、内胚葉あるいは外胚葉組織のうち少なくとも1つを含まないか、相当量を欠損せしめることができる。
【0116】
これは、例えばノック・アウト、あるいは中胚葉、内胚葉あるいは外胚葉のうち1つあるいはそれ以上に特異的な遺伝子の発現を障害することなどにより実施できる。その例には、
中胚葉: SRF,MESP−1,HNF−4,β−Iインテグリン、MSD;
内胚葉: GATA−6,GATA−4;
外胚葉: RNAヘリカーゼA,Hβ58
が含まれる。
【0117】
上記のリストは、例示することを意図したもので、中胚葉、内胚葉および外胚葉の発生に関与する既知の遺伝子を網羅するものではない。中胚葉欠損、内胚葉欠損、および外胚葉欠損細胞および胚の生成は、すでに文献に報告されている。例えばArsenian et al,EMBO J.,Vol.17(2):6289−6299(1998);Saga Y.Mech.Dev.,Vol.75(1−2):53−66(1998);Holdener et al.,Development,Vol.120(5):1355−1346(1994);Chen et al,Genes Dev.Vol.8(20):2466−2477(1994);Rohwedel et al,Dev.Biol.,201(2):167−189(1998)(中胚葉);Morrisey et al,Genes,Dev.,Vol.12(22):3579−3590(1998);Soudais et al,Development,Vol.121(11):3877−3888(1995)(内胚葉);およびLee et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.95:(23):13709−13713(1998);およびRadice et al,Development,Vol.111(3):801−811(1991)(外胚葉)などを参照のこと。
【0118】
全般的に、例えばヒト角化細胞、上皮細胞あるいは線維芽細胞などの所望の体性細胞を遺伝子操作すると、特定の細胞系統に特異的な1つあるいはそれ以上の遺伝子が「ノック・アウト」され、かつ/あるいはこうした遺伝子の発現が顕著に障害される。これは、例えば相同組換えなどの既知の方法によって実施することができる。所望の遺伝子を「ノック・アウト」するための好ましい遺伝子系は、Capecchi et al,によって、米国特許第5,631,153号および第5,464,764号によって開示され、所望の哺乳類ゲノム中の標的とするDNA配列の修飾を可能にする陽性−陰性選択(PNS)ベクターが報告されている。こうした遺伝子修飾により、核移植ドナーとして用いた場合に特定の細胞系統への分化が不可能な細胞が生成するであろう。
【0119】
この遺伝子修飾された細胞は、系統欠損核移植胚、すなわち機能的中胚葉、内胚葉、あるいは外胚葉のうち少なくとも1つが発生しない胚を生成するのに用いられる。このため、生成した胚は、例えばヒト子宮などに移植しても、生産児を生じせしめないであろう。しかし、こうした核移植により発生したES細胞は、1つまたは2つの残った未障害系統の細胞を生成する上でまだ有用である。例えば、外胚葉欠損ヒト核移植胚は、まだ中胚葉および内胚葉由来の分化細胞を生成する。外胚葉欠損細胞は、RNAヘリカーゼAあるいはHβ58遺伝子の一方あるいは両者の欠失あるいは障害により生成することができる。
【0120】
これらの系統欠損ドナー細胞を遺伝子修飾して、もう1つの所望のDNA配列を発現せしめることも出来る。このため、遺伝子修飾されたドナー細胞は、系統欠損胚盤胞を生成し、これを平板培養すると、多くとも2つの胚葉に分化する。
【0121】
一方、ドナー細胞を修飾し、「不死性」とすることができる。これはアンチセンスあるいはリボジームテロメラーゼ遺伝子を発現せしめることにより達成できる。これは、アンチセンスDNAあるいはリボジームの発現をもたらす既知の遺伝的方法、あるいは遺伝子ノック・アウトにより実施できる。これらの「不死性」細胞は、核移植に用いた場合、分化して産子となることができないであろう。
【0122】
本発明のもう1つの好ましい実施態様は、組織培養中でより効率的に成長する核移植胚の生成である。これは、ES細胞および/あるいは産子(胚盤胞が代理雌に移植される場合)を生成するのに必要な時間および必要な融合を減少せしめる上で有利である。このことが望ましい理由は、核移植により生じた胚盤胞とES細胞が発生能力を障害されていることがあることが認められているためである。これらの問題は、多くの場合組織培養条件を変えることで軽減されるが、もう1つの解決法は、胚発生に関与する遺伝子の発現を促進することで胚発生を促進することである。
【0123】
例えば、MHC Iグループの一員であるPed型遺伝子産物は、胚の発育にとって重要であることが報告されている。より具体的には、マウスの着床前胚の例において、Q7およびQ9遺伝子が「急速成長」表現型を発現させることが報告されている。したがって、これらおよび関連する遺伝子を発現させるDNA、もしくはヒトあるいは他の哺乳類の同種DNAをドナー細胞に導入することによって、より速く成長する核移植胚が得られることが期待される。これは特に、異種間での核移植胚が同一動物種の細胞もしくは核の融合によって産生される核移植胚よりも組織培養液中での発育効率が悪い場合に、望ましい手法である。
【0124】
核移植の前に、Q7かつ/またはQ9遺伝子を含有するDNA構築物をドナー体細胞中に導入するのが望ましい。例えば、哺乳類の強力な構成プロモーターをQ7かつ/またはQ9遺伝子、IRES、ネオマイシンのような1つ以上の適切な選択用マーカー、ADA、DHFR、およびbGHポリA配列のようなポリA配列に機能的に結合させた発現用構築物を作成することが可能である。また、孤立遺伝子を加えることは、Q7およびQ9遺伝子の発現をさらに促進するために有益であると考えられる。これらの遺伝子は異なる動物種、例えばウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコおよびヒトにおける保存度がきわめて高いため、未分化胚芽細胞の発育の初期の段階で発現されると予想される。また、胚の発育を促進する他の遺伝子にも影響を与えるよう、ドナー細胞を設計することも可能であると考えられる。このように、遺伝子操作を施したこれらのドナー細胞は、未分化胚芽細胞および着床前段階の胚をより効率良く産生することができるはずである。
【0125】
本発明のさらに別の局面として、アポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死に対して耐性をもつドナー細胞の構築が含まれる。着床前段階の胚の中に細胞死に関連する遺伝子が存在することが文献中で報告されている(Adams et al.、Science、281(5381):1322−1326(1998))。アポトーシスを誘発することが報告されている遺伝子として、Bad、Bok、BH3、Bik、Hrk、BNIP3、BimL、Bad、Bid、およびEGL−1などが挙げられる。一方、プログラムされた細胞死から細胞を保護することが報告されている遺伝子には、例えばBcL−XL、Bc1−w、Mc1−1、A1、Nr−13、BHRF−1、LMW5−HL、ORF16、Ks−Bel−2、E1B−19K、およびCED−9などがある。
【0126】
したがって、胚の発育中にアポトーシスを誘発する遺伝子が「ノックアウト」されるように、あるいは細胞をアポトーシスから保護する遺伝子の発現を促進する、もしくは発現を引き起こすように、ドナー細胞を構築することが可能である。
【0127】
例えば、胚の発育の間にこのような保護遺伝子(例としてBcl−2)もしくは関連遺伝子を調節して発現させるDNA構築物を導入することによってこれを実現することができる。これにより、特定の発育条件下で胚を培養することによって遺伝子の「スイッチを入れる」ことが可能である。別の方法として、構成プロモーターに結合させてもよい。
【0128】
より具体的には、Bcl−2遺伝子を含有するDNA構築物をPGK、SV40、CMV、ユビキチンのような調節可能プロモーターもしくは構成プロモーター、あるいはβ−アクチン、IRES、適切な選択マーカー、およびポリA配列に機能的に結合させた構築物を作成し、目的とするドナー哺乳類細胞、例えばヒトケラチノサイトや線維芽細胞の中に導入することが可能である。
【0129】
これらのドナー細胞を利用して核移植胚を作成すれば、アポトーシスに耐性を有するはずであるから、組織培養中でより効率良く分化すると考えられる。それによって、核移植により産生される適切な着床前胚の速さかつ/または数が増加するであろう。
【0130】
これと同様の成果を得るための別の方法として、アポトーシスを誘発する1種類以上の遺伝子の発現を阻害する、というものがある。これは、胚の中で発現し発育の初期の段階でアポトーシスを誘発する遺伝子をノックアウトするか、あるいはアンチセンスもしくは遺伝子に対するリボザイムを用いるかによって実現可能である。これらの例は上述のとおりである。アンチセンスの方向で発現すると思われる細胞死遺伝子には、BAX、Apaf−1、およびカプサーゼがある。また、センスあるいはアンチセンスの方向にメチラーゼもしくはデメチラーゼをコードするトランスジーンを導入することも可能である。メチラーゼおよびデメチラーゼの酵素をコードするDNAに関しては、本分野においてよく知られている。さらに別の方法として、両方の調節、すなわちアポトーシス誘発遺伝子の阻害と、アポトーシスを阻害するあるいは予防する遺伝子の発現の促進とを含有するようにドナー細胞を構築することもできる。アポトーシスに影響を及ぼす遺伝子の構築および選択、そしてこのような遺伝子を発現する細胞株については、米国特許No.5,646,008中に開示されており、この特許は引用文により本特許に含まれる。アポトーシスを促進する、あるいは阻害する多くのDNAが報告されており、それに関する特許も数多く申請されている。
【0131】
クローニング効率を上げるための別の方法として、ドナー細胞と同一の特定の細胞周期にある細胞を選択するというものがある。これによって核移植効率が健著に上昇することが報告されている。(Barnes et al.、Mol.Reprod.Devel.、36(1):33−41(1993))。特定の細胞周期にある細胞を選択するための方法として種々のものが報告されており、血清枯渇(Campbell et al.、Nature、380:64−66(1996);Wilmut et al.、Nature、385:810−813(1997))、および化学物質による同調(Urbani et al.、Exp.Cell Res.、219(1):159−168(1995)などがある。例えば、特定のサイクリンDNAを検出用マーカー(例として緑色蛍光蛋白質(GFP))と共に調節配列に機能的に結合させ、その後ろにサイクリン破壊ボックス、そして任意で孤立配列を連結し、サイクリンおよびマーカー蛋白質の発現を促進させることができる。これによって、目的とする細胞周期にある細胞を肉眼で容易に検出することができ、核移植ドナーとして選択することが可能である。その例として、G1期にある細胞を選択するためのサイクリンD1遺伝子が挙げられる。しかし、本発明においてはどのようなサイクリン遺伝子でも使用可能なはずである。(King et al.、Mol.Biol.Cell、第7巻(9):1343−1357(1996)などを参照のこと)。
【0132】
しかし、目的とする細胞周期にある細胞を産生するために、できるだけ侵襲性が少なくより効率の高い方法が必要である。これは、検出可能な条件下で特定のサイクリンを発現するようにドナー細胞の遺伝子を修飾することによって実現可能であると期待される。それによって特定の細胞周期にある細胞を他の細胞周期にある細胞から用意に識別することができる。
【0133】
サイクリンは、細胞周期のうちの特定の段階においてのみ発現される蛋白質である。例としてG1期のサイクリンD1、D2およびD3、G2/M期のサイクリンB1およびB2、そしてS期のサイクリンE、AおよびHがある。これらの蛋白質はサイトゾル中で容易に翻訳され破壊される。これらの蛋白質がこのように「一時的に」発現する理由の1つは、「破壊ボックス」の存在である。これは、ユビキチン経路を通じてこれらの蛋白質の速やかな破壊を指令するタグとして機能する蛋白質の一部である短いアミノ酸配列である。(Adams et al.、Science、281(5321):1322−1326(1998))。
【0134】
本発明では、容易に検出できる条件下、望ましくは例えば蛍光標識を用いることによって肉眼で検出可能な条件下で、このようなサイクリン遺伝子を1つあるいはそれ以上発現するようにドナー細胞を構築する。例として、特定のサイクリンDNAを検出用マーカー(例として緑色蛍光蛋白質(GFP))と共に調節配列に機能的に結合させ、その後ろにサイクリン破壊ボックス、そして任意で孤立配列を連結し、サイクリンおよびマーカー蛋白質の発現を促進させることができる。これによって、目的とする細胞周期にある細胞を肉眼で容易に検出することができ、核移植ドナーとして選択することが可能である。その例として、G1期にある細胞を選択するためのサイクリンD1遺伝子が挙げられる。しかし、本発明においてはどのようなサイクリン遺伝子でも使用可能なはずである。(King et al.、Mol.Biol.Cell、第7巻(9):1343−1357(1996)などを参照のこと)。
【0135】
上述のように、本発明は、特に異種間核移植過程における核移植効率を上げるための種々の方法を提供するものである。本発明の発明者らは、ある動物種の核あるいは細胞を別の動物種の脱核卵母細胞に挿入もしくは融合させた場合に、未分化胚芽細胞を産生する核移植胚が得られ、その核移植胚がES細胞株にまで生育することを実証しているが、このような手法の効率はきわめて低い。このため、培養することによってES細胞およびES細胞株を産生し得る細胞である未分化胚芽細胞を産生するために、多くの融合を行う必要があるのが普通である。in vitroにおいて核移植胚の生育を促進するための別の方法として、培養条件を最適化することが挙げられる。このための1つの手段は、アポトーシスを阻害する条件下でNT胚を培養することである。本発明のこの態様に関して、カプサーゼのようなプロテアーゼは、他の細胞種と同様のアポトーシスによって卵母細胞の死を誘発する可能性があることが報告されている。(Jurisicosva et al.、Mol.Reprod.Devel.、51(3):243−253(1998)を参照。)
【0136】
未分化胚芽細胞の発育は、核移植および未分化胚芽細胞の維持、あるいは着床前段階の胚の培養のために使用する培地中に1種類以上のカプサーゼ阻害剤を添加することによって促進されると考えられる。このような阻害剤の例として、カプサーゼ−4阻害剤I、カプサーゼ−3阻害剤I、カプサーゼ−6阻害剤II、カプサーゼ−9阻害剤II、およびカプサーゼ−1阻害剤Iがある。アポトーシスを阻害するために必要なこれら阻害剤の量は、例えば培地の重量の0.00001から5.0%であり、より望ましくは培地の重量の0.01%から1.0%である。このように、前述の方法を用いて組織培養中における未分化胚芽細胞および胚のその後の発育を促進することにより、核移植の効率を上昇させることができる。
【0137】
目的とする大きさのNTユニットが得られた後、細胞を物理的にゾーンから除去し、胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株を産生するために使用する。これは、NTユニットを含有する細胞を通常50個以上含む細胞塊を洗い、例えば放射線照射した線維芽細胞のような支持細胞層上にこれらの細胞をプレーティングすることによって行うのが望ましい。一般に、幹様細胞もしくは細胞コロニーを産生するために使用する細胞は、最低50個の細胞から構成されるのが望ましい培養NTユニットの最も内部から採取する。しかし、細胞数がそれ以下もしくはそれ以上のNTユニットでも、またNTユニットの他の部分から採取した細胞でも、ES様細胞および細胞コロニーを産生するために使用できると思われる。
【0138】
さらに、ドナー細胞のDNAを卵母細胞のサイトゾルにより長時間接触させることによって、分化の過程が起こり易くなると推測される。これは、再クローニング、すなわち再構築した胚から割球を摘出し、新しい脱核卵母細胞と融合させることによって実現可能である。これとは別に、ドナー細胞を脱核卵母細胞と融合させ、4〜6時間後に活性化することなく染色体を摘出し、より若い卵母細胞と融合させるという方法もある。活性化はその後に起こると考えられる。
【0139】
細胞は、適切な生育用培地中の支持細胞層の中で維持する。培地の例として、10%FCSおよび0.1mMβ−メルカプトエタノール(Sigma)とL−グルタミンを添加したαMEM培地が挙げられる。生育用培地は、最大限に生育させるために必要な頻度、例えば約2〜3日毎に交換する。
【0140】
この培養過程によって、胚細胞あるいは幹様細胞もしくは細胞株が産生される。ヒト細胞/ウシ卵母細胞由来のNT胚の場合には、α−MEM培地中で培養を開始してから約2日後にコロニーが観察される。しかし、この時期は、個々の核ドナー細胞、卵母細胞および培養条件によって変動すると思われる。本分野の専門家であれば、特定の胚細胞あるいは幹様細胞を最大限に生育させるために、必要に応じて培養条件を変更することができるであろう。他の適切な培地もここに開示する。
【0141】
得られた胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーは、ドナー卵母細胞の動物種ではなく核細胞ドナーとして用いた動物種の胚あるいは幹様細胞と同様の外観を呈するのが普通である。例えば、ヒトの核ドナー細胞を脱核したウシ卵母細胞中に移植して得られた胚細胞あるいは幹様細胞の場合には、細胞はウシのES様細胞ではなくマウスの胚性幹細胞に似た形態を示す。
【0142】
より具体的には、ヒトES細胞株の細胞コロニーの個々の細胞は明瞭に識別することができず、コロニーの周囲は屈折性で滑らかな外観をもつ。さらに、細胞コロニーの細胞倍化時間は長く、マウスのES細胞の倍化時間の約2倍である。また、ウシおよびブタ由来のES細胞とは異なり、コロニーは上皮様外観をとらない。
【0143】
前述のように、米国特許5,843,780号の中でThomsonにより、霊長類の幹細胞はSSEA−1(−)、SSEA−4(+)、TRA−1−60(+)、TRA−1−81(+)およびアルカリ性ホスファターゼ(+)であることが報告されている。本発明の方法に従って作成したヒトおよび霊長類のES細胞も、同様あるいは同一のマーカー発現を示すものと予想される。
【0144】
これとは別に、これらの細胞が中胚葉、外胚葉および内胚葉のどれにでもなり得る能力を有することに基づき、このような細胞が実際のヒトあるいは霊長類の胚性幹細胞であることが確認される。これは、本発明に従い、適切な条件下(例として米国特許5,843,780号の中でThomsenが開示した条件、引用文によりそのすべてが本特許に含まれる)で作成したES細胞を培養することによって実証されるであろう。これとは別に、本発明に従って作成した細胞が多能性であるという事実は、このような細胞を動物、例えばSCIDマウス、あるいは大型の家畜などに注射し、その後当該着床細胞から生じる組織を採取することによって確認できると考えられる。これらの着床ES細胞は、あらゆる種類の分化細胞、すなわち中胚葉、外胚葉、および内胚葉組織に生育するはずである。
【0145】
このようにして得られた胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株、望ましくはヒトの胚細胞あるいは幹様細胞および細胞株は、治療上および診断上非常に応用範囲が広い。特に、このような胚細胞あるいは幹様細胞は細胞移植療法のために利用可能である。ヒトの胚細胞あるいは幹様細胞は、各種疾患の治療において応用性をもつ。
【0146】
この点に関して、マウスの胚性幹(ES)細胞はほとんどあらゆる種類の細胞、例えば造血幹細胞などに分化し得ることが知られている。したがって、本発明に従って作成したヒト胚細胞あるいは幹様細胞も、同様の分化能を有するはずである。本発明に従って作成した胚細胞あるいは幹様細胞は、既知の方法を用いて誘導することにより目的とする細胞種に分化するものと考えられる。例えば、主題のヒト胚細胞あるいは幹様細胞を分化用培地中で細胞分化を起こす条件下において培養することによって、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿路細胞などに分化させることが可能である。胚性幹細胞の分化を引き起こすための培地および方法、そして適切な培養条件については、本分野においてよく知られている。
【0147】
例えば、Palacios et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、92:7530−7537(1995)は、幹細胞の凝集塊を最初にレチン酸を含まない懸濁培養液中で培養した後、レチン酸を含有する同培養液中で培養し、さらに細胞を付着させる基質に細胞凝集塊を移すという誘導手順を用いることにより、胚細胞株から造血幹細胞を作成することができると報告している。
【0148】
さらに、Pedersen、J.Reprod.Fertil.Dev.、6:543−552(1994)は、胚性幹細胞をin vitroで分化させ、造血幹細胞、筋、心筋、神経細胞などの各種分化細胞型を作成するための方法を開示した数多くの文献を引用する総説論文である。
【0149】
また、Bain et al.、Dev.Biol.、168:342−357(1995)は、ニューロンの特性を有する神経細胞を作成するためのin vitroにおける胚性幹細胞の分化について述べている。これらの参考文献は、胚細胞あるいは幹様細胞から分化した細胞を作成するための方法として報告されたものの代表例である。これらの参考文献、およびその中でも特に胚性幹細胞を分化させるための方法に関連する開示内容は、引用文によりすべて本特許に含まれる。
【0150】
このように、本分野の専門家であれば、既知の方法および培地を用いることにより、主題の胚細胞あるいは幹様細胞を培養して目的とする分化した細胞種、例えば神経細胞、筋細胞、造血幹細胞などを作成することができる。また、特定の細胞系列のin vitroにおける生育を促進するために、誘導可能なBcl−2あるいはBcl−xlを用いるのも有用であると考えられる。in vivoにおいてBcl−2は、リンパ系および神経系の発達の間に起こるアポトーシスによる細胞死のすべてではないが多くの型を防止する。Bcl−2の発現をどのように利用してドナー細胞のトランスフェクションの後の目的とする細胞系のアポトーシスを阻害し得るか、についの詳細な議論は、米国特許No.5,646,008の中で開示されており、引用文により本発明に含まれる。
【0151】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞を利用して、希望するあらゆる種類の分化細胞を作成することができると考えられる。このような分化したヒト細胞の治療上の使途は計り知れないものがある。例えば、ヒトの造血幹細胞は、骨髄移植を必要とする治療のために使用可能である。このような手法は、卵巣ガンおよび白血病などの末期ガン、AIDSのような免疫不全疾患など、多くの疾患の治療に利用されている。造血幹細胞は、例えばガンあるいはAIDS患者の成熟した体細胞(例として上皮細胞もしくはリンパ球)を脱核した卵母細胞(例としてウシ卵母細胞)と融合させて上述のようにして胚細胞あるいは幹様細胞を作成し、造血幹細胞が得られるまで分化に適した条件下でそれらの細胞を培養することによって得ることができる。こうして得られた造血細胞は、ガンおよびAIDSを含めた疾患の治療のために利用可能である。
【0152】
これとは別に、神経疾患のある患者からの成熟した体細胞を脱核した動物卵母細胞(例として霊長類またはウシの卵母細胞)と融合させ、これらの細胞を分化する条件下で培養し神経細胞系を作成することも可能である。このようなヒト神経細胞の移植によって治療可能な疾患の具体的な例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALSおよび脳性小児麻痺など多くの疾患がある。パーキンソン病の場合には、移植した胎児脳の神経細胞が周囲の細胞と正しく連結し、ドパミンを産生することが確認されている。これによって、パーキンソン病の症状を長期的に改善することができる。
【0153】
分化した細胞を特異的に選択するために、誘導可能なプロモーターを通じて発現する選択的マーカーを用いてドナー細胞をトランスフェクトすることにより、分化が起きた時点で特定の細胞系統を選択、もしくは濃縮することが可能である。例えば、CD34−neoは造血細胞の選択に使用することができ、Pw1−neoは筋細胞、Mash−1−neoは交感神経ニューロン、Mal−neoはヒト大脳皮質の灰白質CNSニューロンの選択に使用することができる、などである。また、組織の発達を助ける基質を用いることも有益であろう。
【0154】
本発明の大きな長所は、移植に適した同系(イソジェニック即ちシンジェニック)のヒト細胞をほぼ無限に供給できる、という点である。したがって、現時点での移植法における重大な問題、すなわち宿主対移植片あるいは移植片対宿主拒絶反応が原因で起こる可能性のある移植組織の拒絶を回避することができる。従来、拒絶反応はシクロスポリンなどの拒絶反応防止薬を投与することによって予防、あるいは軽減している。しかし、このような薬剤には免疫抑制、発ガン性などの重大な副作用があり、また非常に高価である。本発明によって、シクロスポリン、イムラン、FK−506、グルココルチコイド、ラパマイシン、およびその誘導体などの拒絶反応防止薬を投与する必要性がなくなる、あるいは少なくとも低くなるはずである。
【0155】
イソジェニック細胞療法によって治療が可能であるその他の疾患や病態の例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、肝臓疾患、すなわち高コレステロール血症、心臓疾患、軟骨置換、火傷、脚部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎臓疾患、尿路疾患、および老化に起因する疾患や病態などが挙げられる。
【0156】
また、本発明に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞は、遺伝子操作した、もしくはトランスジェニックなヒト分化細胞を作成するためにも利用可能である。実際には、目的とする1個もしくは複数の遺伝子(異種でもかわまない)を導入するか、本発明に従って作成したヒト胚細胞あるいは幹様細胞の内在性遺伝子の全部または一部を除去し、これらの細胞を目的とする細胞型に分化させることによってこれが可能となるであろう。このような修飾を行うための望ましい方法とは、同種間での組換えである。何故なら、この手法を幹様細胞のゲノム中の特異的な部位(1個でも複数でも)にある1個もしくは複数の遺伝子を挿入、欠損、または修飾するために用いることができるからである。
【0157】
この方法を利用して、欠損した遺伝子、例えば欠損した免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子などを補充したり、成長因子、リンホカイン類、サイトカイン類、酵素などの治療上有用な蛋白質の発現を引き起こす遺伝子を導入したりすることができる。例えば、脳由来の成長因子をコードする遺伝子をヒトの胚細胞あるいは幹様細胞中に導入し、それらの細胞を神経細胞に分化させてパーキンソン病の患者に移植すれば、この疾患の間に起こる神経細胞の消失を遅らせることが可能である。
【0158】
以前は、BDNFによってトランスフェクトする細胞の種類は、初代の細胞から無限に増殖する細胞株まで、また神経細胞に由来する細胞や非神経系の細胞(筋原細胞および線維芽細胞)など、さまざまであった。例えば、星状神経膠細胞はレトロウイルスベクターを用いてBDNF遺伝子によりトランスフェクトされ、これらの細胞はパーキンソン病モデルのラットに移植された(Yoshimoto et al.、Brain Research、691:25−36、(1995))。
【0159】
このex vivo治療法により、移植後32日目にはラットにおけるパーキンソン病様の症状が45%まで軽減した。また、チロシンヒドロキシラーゼ遺伝子を星状神経膠細胞中に導入した場合にも、同様の結果が得られた(Lundberg et al.、Develop.Neurol.、139:39−53(1996)参考文献はここに引用する)。
【0160】
しかし、このようなex vivo系には問題点がある。特に、現在使用されているレトロウイルスベクターはin vivoでダウンレギュレートされるため、トランスジーンは一時的にしか発現しない(Mulliganによる総説、Science、260:926−932(1993))。また、これらの研究では初代の細胞、星状神経膠細胞を使用したが、これらの寿命は有限で、複製速度も遅い。この特性はトランスフェクション率に悪影響を及ぼし、安定してトランスフェクトされた細胞の選択を妨害する。さらに、遺伝子の標的となる初代の細胞を大量に増殖させ同種組換え手法において使用することはほぼ不可能である。
【0161】
これに対して、レトロウイルス系に起因する問題点は、ヒトの胚細胞あるいは幹様細胞を使用することによって解消するはずである。主題の讓受人によって以前に、ウシおよびブタの胚細胞株をトランスフェクトし異種DNAが安定して組み込まれた細胞を選択し得ることが実証された。この方法については、米国特許No.5,905,042に記載されており、引用文によりそのすべてが本特許に含まれる。したがって、これらの方法あるいはその他の既知の方法を用いることにより、目的とする遺伝子を主題のヒト胚細胞あるいは幹様細胞中に導入し、それらの細胞を目的とする細胞型、例えば造血細胞、神経細胞、膵臓細胞、軟骨細胞などに分化させることが可能となる。
【0162】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞中に導入することのできる遺伝子の例として、上皮増殖因子、基礎型線維芽細胞増殖因子、神経膠由来神経栄養増殖因子、インシュリン様増殖因子(IおよびII)、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン4/5、毛様体神経栄養因子、AFT−1、サイトカイン遺伝子(インターロイキン、インターフェロン、コロニー形成促進因子、腫瘍壊死因子(αおよびβ)など)、治療用の酵素をコードする遺伝子、コラーゲン、ヒト血清アルブミンなどが挙げられる。
【0163】
また、必要に応じて患者から治療用の細胞を除去するために、本分野において知られた負の選択系のうちのいずれかを利用することも可能である。例えば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子によってトランスフェクトしたドナー細胞は、TK遺伝子を含有する胚細胞を産生するようになる。これらの細胞が分化すれば、やはりTK遺伝子を発現する当該治療用細胞を分離することができる。これらの細胞は、患者に対してガンシクロビルを投与することによりどの時点においても患者から選択的に除去することが可能である。このような負の選択系については、米国特許No.5,698,446に記載されており、引用文により本特許に含まれる。
【0164】
主題の胚細胞あるいは幹様細胞、望ましくはヒトの細胞は、in vitroにおける分化モデルとして、特に初期発育の調節に関与する遺伝子の研究のために利用することができる。
【0165】
また、主題の胚細胞あるいは幹様細胞を用いて分化させた細胞組織および臓器は、薬物試験においても使用可能である。
【0166】
さらに、主題の細胞は組換えDNAを発現させるために使用することもできる。
【0167】
さらにまた、主題の胚細胞あるいは幹様細胞は、他の胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーを作成するための核ドナーとして用いることができる。
【0168】
また、本発明に従って作成した培養内細胞塊、あるいは幹細胞を腎臓カプセルもしくは筋肉内投与により例えばSCIDマウス、ウシ、ブタなどの動物に導入し、そこで奇形腫を誘発させるために使用することができる。この奇形腫は、種々の組織型を派生させるために用いることができる。また、X−種核移植によって作成した内細胞塊を、生体内で分解される生体適合性のポリマー基質と共に導入し、3次元の組織を形成させることが可能である。組織が形成された後、ポリマーは分解し、ドナーの組織、例えば心臓、膵臓、神経、肺、肝臓などをそのまま残すのが理想である。場合によっては、成長因子および血管新生を促進する蛋白質を含めるのが有用であるかもしれない。これとは別に、適切な培養用培地および条件、成長因子および生体内で分解するポリマー基質を使用することによって、in vitroにおいて完全に組織を形成させることが可能である。
【0169】
本発明をより明確に説明するために、以下の例を挙げる。
【0170】
例1
材料および方法
核移植のためのドナー細胞
同意を得た成人の口腔内壁から、標準スライドグラスを用いて上皮細胞を軽く掻き取る。細胞をスライドから洗出し、CaあるいはMgを含まないリン酸緩衝溶液の入ったペトリ皿に入れる。細胞を径の細いピペットで吸って細胞塊を壊し、1個ずつの細胞の懸濁液とする。次に、脱核したウシ卵母細胞中に核移植するためのオイルの下で、10%ウシ胎児血清(FCS)を含有するTL−HEPES培地のマイクロドロップ中に細胞を移す。
【0171】
核移植の手順
核移植の基本的な手順については以前に報告したとおりである。簡単に述べると、屠殺場で採取した卵母細胞をin vitroで成熟させた後、成熟後約18時間目に(hpm)卵母細胞から堆積細胞を除去し、斜面マイクロピペットを用いて脱核した。ビスベンツイミド(Hoechst 33342、3μg/ml;Sigma)を添加したTL−HEPES培地中で脱核を確認した。その後、個々のドナー細胞を受容側の卵母細胞の卵黄周囲腔内に注入した。電気細胞融合法を用いて、ウシ卵母細胞の細胞質とドナーの核(NTユニット)を一緒に融合させる。NTユニットに対して、1回に90Vの融合パルスを15μ秒間与えた。成熟開始後24時間目(hpm)の卵母細胞を用いてこれを行った。NTユニットを28hpmまでCR1aa培地中で維持した。
【0172】
卵母細胞を人工的に活性化するための方法は、別の所に報告されている。NTユニットの活性化は28hpmにおいて行った。活性化の手順に関する簡単な説明は次のとおりである:1mg/mlのBSAを添加したTL−HEPES中でNTユニットをイオノマイシン(5μM;CalBiochem、La Jolla、CA)に4分間曝露させた後、30mg/mlのBSAを添加したTL−HEPES中で5分間洗浄した。次に、0.2mMのDMAP(Sigma)を含有するCR1aa培地のマイクロドロップ中にNTユニットを移し、5%CO2存在下で38.5℃において4〜5時間培養した。NTユニットを洗浄した後、マウス胚線維芽細胞の集密支持細胞層を形成させた4穴プレート中のCR1aa培地+10%FCSおよび6mg/ml BSAに移した(以下に説明)。5%CO2存在下で38.5℃においてNTユニットをさらに3日間培養した。活性化の時点から12日後まで、培地を3日毎に交換した。この時点で、NTユニットは目的とする細胞数、すなわち約50個に到達しており、物理的にゾーンから除去し、胚細胞株を作成するために使用した。上述のようにして作成したNTユニットの写真を図1に示す。
【0173】
線維芽細胞による支持細胞層
第14〜16日のマウス胎児から、胚線維芽細胞の初代培養を作成した。頭、肝臓、心臓および消化管を無菌的に除去した後、胚を細かく刻んで、予め加温したトリプシンEDTA溶液(0.05%トリプシン/0.02%EDTA;GIBCO、Grand Island、NY)中で37℃において30分間インキュベートした。線維芽細胞を組織培養用フラスコに入れ、10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone、Logen、UT)、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(50μl/ml)を添加したα−MEM培地(Bio Whittaker、Walkersville、MD)中で培養した。3〜4日継代した後、胚線維芽細胞を35×10Nunc培養用ディッシュ(Baxter Scientific、McGaw Park、IL)中で照射した。照射した線維芽細胞は、5%CO2存在下の加湿空気中で37℃において生育させ維持した。均一な細胞単層が形成された培養プレートを用いて胚細胞株の培養を行った。
【0174】
胚細胞株の作成
上述のようにして作成したNTユニット細胞を洗浄し、照射した線維芽細胞の支持層の上に直接プレーティングした。これらの細胞は、NTユニットの内部のものを用いた。10%FCSおよび0.1mMβ−メルカプトエタノール(Sigma)を添加した生育用培地中で細胞を維持した。生育用培地は2〜3日毎に交換した。培養第2日に1個目のコロニーが観察された。コロニーは増殖し、以前に開示したマウス胚性幹(ES)細胞と同様の形態を示すようになる。コロニー内の個々の細胞は明瞭に識別することができず、コロニーの周囲は屈折性で滑らかな外観をもつ。細胞コロニーの細胞倍化時間はマウスのES細胞よりも長いようである。また、ウシおよびブタ由来のES細胞とは異なり、コロニーはこれまでのところ上皮様外観を呈していない。上述のようにして得られたES様細胞コロニーの写真を図2から5に示す。
【0175】
分化したヒト細胞の作成
作成したヒト胚細胞を分化用培地に移し、分化したヒト細胞型が得られるまで培養する。
【0176】
結果
【0177】
16個以上の細胞をもつ構造まで発育したNTユニット1個を、線維芽細胞支持層の上にプレーティングした。この構造体を支持細胞層に付着させ、ES細胞様の形態をもつコロニーを形成するまで増殖させた(例として図2を参照)。さらに、4〜16細胞期の構造体を用いてES細胞コロニーの作成を試すことはしなかったが、この期でもES細胞あるいはES様細胞株を作成し得ることが以前に示されている(マウス、Eistetter et al.、Devel.Growth and Differ.、31:275−282(1989);ウシ、Stice et al.、1996))。したがって、4〜16細胞期のNTユニットからも胚細胞あるいは幹様細胞および細胞コロニーを作成し得るはずであると期待される。
【0178】
また、ヒト成人のケラチノサイト細胞株を脱核したウシ卵母細胞と融合させ、ACM、ウリジン、グルコース、および1000IUのLIFを含有する培地中で培養した場合にも、同様の結果が得られた。再構築した胚50個のうち、22個が細胞分裂し、1個が約12日目に未分化胚芽細胞にまで発育した。この未分化胚芽細胞をプレーティングし、現在ES細胞株を作成中である。
【0179】
例2
A.細胞からミトコンドリアを分離する手順
この例は、ミトコンドリアの分離と、異種間核移植の効率を上昇させるためのその利用に関するものである。細胞1個当たりのミトコンドリアの数は、細胞株によって異なる。例えば、マウスのL細胞の1細胞当たりのミトコンドリア含有数は〜100個であるのに対して、HeLa細胞では少なくともその2倍はある。低張緩衝液中で細胞を膨張させ、造作のきつい乳棒を用いてDounceホモジナイザーの中で数回ストロークすることによって細胞を破壊し、分画遠心によりミトコンドリアを分離する。
【0180】
溶液、試験管、およびホモジナイザーは、氷上で予冷しておかなければならない。遠心手順はすべて40℃において行う。本手順は、洗浄した1〜2mlの細胞ペレットから開始するものである。細胞ペレットを11mlの氷冷RSB中に再懸濁し、16ml Dounceホモジナイザーに移す。
【0181】
RSB緩衝液
RSB(組織培養細胞を膨張させるための低張緩衝液)
10mM NaCl
1.5mM MgCl2
10mM Tris−HCl、pH7.5
MgCl2
【0182】
細胞を5〜10分間膨張させる。位相差顕微鏡を用いて膨張の進行を確認する。膨張した細胞を、望ましくは乳棒の数回のストロークにより、破壊する。直後に、8mlの2.5×MS緩衝液を添加し、最終濃度が1×MSとなるようにする。次にホモジナイザーの上部をParafilmで覆い、数回反転させることによって混合する。
【0183】
2.5×MS緩衝液
525mMマンニトール
175mMショ糖
12.5mM Tris−HCl、pH7.5
215mM EDTA pH 7.5
【0184】
1×MS緩衝液
210mMマンニトール
70mMショ糖
5mM Tris−HCl、pH7.5
1mM EDTA、pH7.5
【0185】
MS緩衝液は、細胞小器官の張度を維持し、凝集を防ぐための等浸透圧性緩衝液である。
【0186】
その後、ホモジネートを遠心チューブに移し、分画遠心を行う。ホモジナイザーを少量のMS緩衝液ですすぎ、ホモジネートに添加する。MS緩衝液を用いて容積を30mlにする。次に、ホモジネートを1300gにおいて5分間遠心し、核、破壊した細胞、および大きい膜断片を除去する。その後、上清を清潔な遠心チューブに移す。核スピンダウンを2回繰り返す。さらに、上清を清潔な遠心チューブに移し、ミトコンドリアを含む沈渣を17,000gで15分間遠心する。上清を捨て、チューブの内側をKimwipeで拭う。沈渣を1×MSに再懸濁し、17,000gでの遠心を繰り返すことによってミトコンドリアを洗浄する。上清を捨て、沈渣を緩衝液中に再懸濁する。ミトコンドリアは、−80℃において長期間、例えば1年間程度保管することができるが、NTのためにはすぐに使用するのが望ましい。
【0187】
この基本手順は、変更可能である。特に、ミトコンドリアのDNAをさらに分離し、NTのために同様に使用するのが望ましい。この場合には、細胞小器官ではなく核の混入が問題となる可能性があるため、次のような変更を加えるのがよい。例えば、ほとんどの細胞が活発に分裂していない定常期に細胞を回収し、MgCl2の代わりにCaCl2を添加したRSB中で核膜を安定化させる。密度勾配精製法の場合と同様に、ミトコンドリア沈渣の洗浄は省略する。その代わりに、ミトコンドリア沈渣を単純に再懸濁させて溶解し、残っている核DNAからミトコンドリアのDNAを精製する。前述のとおり、ミトコンドリアおよびミトコンドリアDNAを精製するために適した方法は、本分野においてよく知られている。
【0188】
最も効率良くホモジナイズすることができるのは、細胞沈渣の容積の少なくとも5〜10倍の溶液に再懸濁した場合であり、また細胞懸濁液がホモジナイザーの少なくとも半分を満たしている場合である。ホモジナイザーの乳棒をチューブに向って真っ直ぐに押し、安定した強い圧力を維持する。Dounceホモジナイザーは、膨張した組織培養細胞を圧力の変化によって破壊するものである。乳房を押し下げた時には、細胞周辺の圧力が上昇する;細胞が乳棒の端をすべって通過する再に圧力が突然低下し、細胞が崩壊する。乳棒の造作が非常にきつければ、同時に物理的な破壊も起こるであろう。
【0189】
B.組織からのミトコンドリア分離
ミトコンドリア分離手順は、個々の組織に応じて選択する。例えば、組織に応じて最適なホモジナイズ用緩衝液、最適なホモジナイズ法を使用する必要がある。最適な方法については、この分野でよく知られている。
【0190】
ラット肝臓は、入手が容易であり、ホモジナイズし易く、細胞中に多数のミトコンドリア(一細胞当たり1000〜2000個)が含まれるため、ミトコンドリア調製のために最もよく用いられる組織である。例えば、ラット肝臓をホモジナイズするためには、モーター駆動式テフロン(登録商標)ガラスPotter−Elvehjemホモジナイザーを使用することができる。一方、組織が柔らかい場合には、ゆるい乳棒のついたDounceホモジナイザーを使用する。ミトコンドリア調製の回収率および純度は、調製方法、調製の速さ、動物の年齢および生理学的状態によって変動する。前述のように、ミトコンドリアを精製するための方法は良く知られている。
【0191】
緩衝液、チューブ、およびホモジナイザーを予冷しておくのが望ましい。ガラステフロン(登録商標)型のホモジナイザーを予冷することによって、チューブと乳棒の間に適正な空隙ができる。遠心過程は、40℃で行うのが望ましい。
【0192】
基本的な手順として、胆嚢を破裂させないように注意しながら肝臓を摘出することが重要である。摘出した肝臓を氷上のビーカーに入れ、結合組織を除去する。組織を確認し、ビーカーに戻す。例えば非常に鋭利な鋏、小刀、あるいは剃刀の刃を用いて1〜2片に切断する。次に断片をホモジナイズ用緩衝液(1×MS)で望ましくは2回すすいで血液の大半を除去し、組織をホモジナイザーのチューブに移す。ホモジナイズ用緩衝液を1:10(w/v)ホモジネートの比率になるよう添加する。
【0193】
NT効率を上昇させるための分離ミトコンドリアまたはミトコンドリアDNAの使用
発明者らは、ドナー細胞もしくは核と同一動物種のミトコンドリアあるいはミトコンドリアDNAを導入することによって異種間核移植の効率が上昇する可能性がある、との理論づけをしている。その結果、得られたNTユニットの核DNAが種適合性をもつようになると考えられる。
【0194】
上述の方法、もしくは他に知られた方法によって分離したミトコンドリアは、次のうちのいずれか(ヒトドナー細胞/ウシ卵母細胞核移植の場合)に導入する(一般に、注射による):
(i)活性化していない、脱核していないウシ卵母細胞;
(ii)活性化していない、脱核したウシ卵母細胞;
(iii)活性化し、脱核したウシ卵母細胞;
(iv)活性化していない、融合した(ヒトドナー細胞または核と)ウシラン母細胞;
(v)活性化し、融合して切断して再構築した(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚;もしくは
(vi)活性化し、融合した1細胞再構築(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚。
これと同一の手順によって、他の異種間NTも促進することができる。基本的には、ミトコンドリアを同様にドナー細胞あるいは核と同じ動物種の(i)から(vi)のいずれかに導入し、異なる動物種に由来する卵母細胞を使用する。一般に、約1〜200ピコリットルのミトコンドリア懸濁液を、上記のいずれかに注射する。このようにミトコンドリアを導入することによって、ミトコンドリアDNAとドナーDNAが適合するNTユニットが得られる。
【0195】
例3
異種間核移植の効率を上昇させるための別の方法として、1個または複数個の脱核した体細胞(一般にはヒト、ドナー細胞または核と同一の動物種の細胞)を次のうちのいずれかと融合させる、というものがある:
(i)活性化していない、脱核していない(例えばウシの)卵母細胞;
(ii)活性化していない、脱核した(例えばウシの)卵母細胞;
(iii)活性化し、脱核した(例えばウシの)卵母細胞;
(iv)活性化していない、融合した(ヒト細胞と)卵母細胞(一般にウシ);
(v)活性化し、融合して切断して再構築した(例えばウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚;
(vi)活性化し、融合した1細胞再構築(ウシ卵母細胞/ヒト細胞)胚。 (vii)活性化していない、融合した(例えばヒト細胞と)卵母細胞(一般にウシ卵母細胞)。
【0196】
融合は、電気パルスを用いて、あるいはSendaiウイルスを用いて行うのが望ましい。脱核した細胞(例えばヒト細胞)を作成するための方法は、本分野においてよく知られている。望ましい手順を以下に記載する。
【0197】
脱核の手順
サイトカラシンBを用いて細胞の大規模な脱核を行うための方法は、本分野においてよく知られている。脱核は、単層法を用いて行うのが望ましい。この方法は培養ディスクの生育表面に付着した少数の細胞を利用するもので、ドナー細胞が限られた数しか入手できない場合に理想的である。もう1つの適切な手段である勾配法では、Ficoll勾配によって細胞を遠心する必要があるため、大量(>107)の細胞の脱核に最も適している。
【0198】
単層法。単層法は、生育表面に付着して増殖する細胞であれば、ほぼすべての細胞に適している。
【0199】
ポリカーボネート製あるいはポリプロピレン製のねじ蓋付き広口遠心チューブ(容積250ml)をオートクレーブにより滅菌する。キャップは、遠心ボトルへの損傷を防ぐために、ボトルとは別にオートクレーブすることが望ましい。各ボトルに30ml DMEM、2mlウシ血清、および0.32mlサイトカラシンB(1mg/ml)を無菌的に添加し、脱核手順のための準備をする。ボトルにキャップをはめ、使用時までボトルを37℃に保温する。
【0200】
脱核を行う細胞(数百個〜105個の細胞)を培養ディッシュ(35×15mm;Nunc Inc.、Naperville、IL)上に接種する。一般に、細胞を生育表面に最大限に付着させるために、細胞を少なくとも24時間、ディッシュ上で生育させる。細胞が集密状態にならないようにするのが望ましい。滅菌の目的のため、培養ディッシュ(細胞を含む)の外側の下半分を70%(v/v)エタノールで拭って遠心の準備をする。これ以外に、細胞培養の間にディッシュをさらに大きい無菌の培養ディッシュ内にいれておくことにより、ディッシュを無菌状態に保つことも可能である。ディッシュから培地を捨て、ディッシュ(蓋なし)を遠心ボトル内で上下逆になるよう置く。
【0201】
ローター(GSA、DuPont、Wilmington、DE)および遠心機は、8000rpmで30〜45分間遠心することにより、37℃まで予熱しておくのが望ましい。これ以外に、HS−4スイングバケットローター(DuPont)を使用してもよい。最適な遠心時間および速度は、細胞の種類によって異なる。筋原細胞および線維芽細胞の場合には、培養ディッシュの入った遠心ボトルを予熱したローターに入れ、約20分間遠心する(ローターが目的とする速度に到達してから遠心機のスイッチを切るまでの時間)。6500から7200rpmの速度を用いるのが望ましい。
【0202】
遠心が終了した後、遠心ボトルをローターから取り出し、鉗子を用いてボトルから培養プレートを取り出す。細胞の生存能を維持するため、細胞の水分を保つようプレート中に少量の培地を残す。ディッシュの外側を蓋の端も含めて滅菌ワイパーで拭き取った後、95%(v/v)エタノールを添加し、残りの培地を除去して乾燥させる。滅菌した蓋をディッシュにかぶせる。脱核した細胞の準備がすぐにできない場合には、完全培地(適切な濃度の血清を添加した培地)をディッシュに添加し、細胞をCO2インキュベーター内で維持しなければならない。得られた脱核細胞(核質)を上記の(i)から(viii)のいずれかと融合させる。
【0203】
本発明に関して、各種の具体的な材料、手順、および例を引用してここに説明し例示しているが、本発明は特定の材料、材料の組み合わせ、および当該目的のために選択した手順に限定されるものではない。このような具体例には数多くの変法があり、本分野における専門家であればその真価が理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【図1】成人細胞核を、除核ウシ卵母細胞に移植して生成した核移植(NT)ユニットの写真である。
【図2】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図3】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図4】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
【図5】図1に示すようなNTユニットに由来する胚幹様細胞の写真である。
Claims (54)
- (i)ドナーである未分化ヒト細胞もしくは哺乳類細胞または細胞核を受容側の動物卵母細胞に挿入する方法で、卵母細胞は核移植(NT)ユニットの作成に適した条件下でヒトもしくは哺乳類細胞以外の動物種から採取し、ドナーの細胞または核の導入前、同時、あるいは後に内在する卵母細胞核を除去するか不活化すること
(ii)作成した核移植ユニットを活性化すること
(iii)ドナーの細胞または核と同一の動物種の卵母細胞もしくは割球に由来する当該卵母細胞細胞質(「適合する細胞質」)中に挿入すること
(iv)活性化した当該核移植ユニットを、2細胞期以上になるまで培養すること
(v)培養した当該NTユニットから作成した細胞を培養し、胚細胞あるいは幹様細胞を作成すること
から構成される胚細胞あるいは幹様細胞作成のための方法。 - ドナーの細胞あるいは核と同一種のミトコンドリアDNAを受容側の卵母細胞中に導入する(「適合するミトコンドリア」)手順をさらに含有する請求項1に記載の方法。
- 当該細胞質をドナーの細胞あるいは核の導入前、同時、もしくは後に導入する請求項1に記載の方法。
- 当該導入をドナーの細胞あるいは核の導入後約6時間以内に行う請求項4に記載の方法。
- 当該卵母細胞が未成熟な卵母細胞である請求項4に記載の方法。
- 当該卵母細胞が未成熟なヒト卵母細胞である請求項5に記載の方法。
- 当該未成熟ヒト卵母細胞から細胞質を分離する前にin vitroで卵母細胞を成熟させる請求項5に記載の方法。
- 当該未成熟卵母細胞から細胞質を分離する前にin vitroで卵母細胞を活性化する請求項4に記載の方法。
- 当該卵母細胞をカルシウム量を上昇させる物質と接触させることによって当該in vitro活性化を行う請求項8に記載の方法。
- 細胞質を導入する前に、ドナーの細胞あるいは核と同一種の最低1個の卵母細胞もしくは割球から受容側卵母細胞の細胞質の全部または一部を除去する請求項2に記載の方法。
- 脱核した動物卵母細胞中に挿入する細胞がヒトの細胞である請求項1に記載の方法。
- 当該ヒト細胞が成人細胞である請求項11に記載の方法。
- 当該ヒト細胞が上皮細胞、ケラチノサイト、リンパ球あるいは線維芽細胞である請求項11に記載の方法。
- 卵母細胞を哺乳類から採取する請求項11に記載の方法。
- 動物の卵母細胞を有蹄類から採取する請求項14に記載の方法。
- 当該有蹄類をウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ、およびスイギュウのグループから選択する請求項15に記載の方法。
- 脱核する卵母細胞を脱核の前に成熟させる請求項1に記載の方法。
- 融合した核移植ユニットをin vitroで活性化させる請求項1に記載の方法。
- 活性化した核移植ユニットを支持細胞層上で培養する請求項1に記載の方法。
- 支持細胞層が線維芽細胞である請求項19に記載の方法。
- (v)段階で16個以上の細胞を持つNTユニットからの細胞を支持細胞層上で培養する請求項1に記載の方法。
- 当該支持細胞層が線維芽細胞である請求項21に記載の方法。
- 当該線維芽細胞がマウス胚線維芽細胞である請求項22に記載の方法。
- 作成した胚細胞あるいは幹様細胞を誘導して分化させる請求項1に記載の方法。
- 作成した胚細胞あるいは幹様細胞を誘導して分化させる請求項11に記載の方法。
- 融合を電気融合によって行う請求項1に記載の方法。
- 請求項1に記載の方法に従って作成した胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項11に記載の方法に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項12に記載の方法に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項13に記載の方法に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項14に記載の方法に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項15に記載の方法に従って作成したヒトの胚細胞あるいは幹様細胞。
- 請求項25に記載の方法に従って作成したヒト分化細胞。
- 神経細胞、造血細胞、膵臓細胞、筋肉細胞、軟骨細胞、尿路細胞、肝臓細胞、脾臓細胞、生殖細胞、皮膚細胞、腸細胞、および胃細胞から選択する請求項33に記載のヒト分化細胞。
- 挿入した遺伝子を含有し発現する請求項33に記載のヒト分化細胞。
- 当該胚細胞あるいは幹様細胞において目的とする遺伝子を挿入、除去、もしくは修飾した請求項1に記載の方法。
- 目的とする遺伝子が治療用酵素、成長因子、あるいはサイトカインをコードする請求項36に記載の方法。
- 当該胚細胞あるいは幹様細胞がヒト胚細胞あるいは幹様細胞である請求項37に記載の方法。
- 目的とする遺伝子を同種組換えによって除去、修飾、あるいは欠損させた請求項36に記載の方法。
- 内胚葉、外胚葉および中胚葉のうち少なくとも1つの発生を阻害するためにドナー細胞を遺伝的に修飾した請求項1に記載の方法。
- 分化効率を上昇させるためにドナー細胞を遺伝的に修飾した請求項1に記載の方法。
- 培養核移植ユニットを少なくとも1種類のカプサーゼ阻害剤を含有する培地中で培養する請求項40に記載の方法。
- ドナー細胞が特定のサイクリンの発現を示す標識を検出可能な程度に発現する請求項1に記載の方法。
- ドナー細胞をSRF、MESP−1、HNF−4、β−1、インテグリン、MSD、GATA−6、GATA−4、RNAヘリカーゼA、およびHβ58から選択した遺伝子の発現が変化するよう修飾した請求項40に記載の方法。
- 当該ドナー細胞をQ7かつ/またはQ9遺伝子を発現するDNAを導入するよう遺伝的に修飾した請求項41に記載の方法。
- 当該遺伝子(1個または複数)を調節可能なプロモーターに機能的に結合させた請求項45に記載の方法。
- ドナー細胞をアポトーシスを阻害するよう遺伝的に修飾した請求項1に記載の方法。
- Bad、Bok、BH3、Bik、Blk、Hrk、BNIP3、GimL、Bid、EGL−1、Bcl−XL、Bcl−w、Mcl−1、A1、Nr−13、BHRF−1、LMW5−HL、ORF16、Ks−Bcl−2、E1B−19K、およびCED−9の中から選択した1種類以上の遺伝子の発現を変化させることによってアポトーシスを低下させる請求項47に記載の方法。
- 当該遺伝子のうち少なくとも1つを誘導可能なプロモーターに機能的に結合させた請求項48に記載の方法。
- 検出可能なマーカーをコードし、その発現が特定のサイクリンにリンクしているDNAを発現する哺乳類体細胞。
- サイクリンD1、D2、D3、B1、B2、E、AおよびHの中からサイクリンを選択する請求項50に記載の細胞。
- 検出可能なマーカーが蛍光ポリペプチドである請求項50に記載の細胞。
- 当該哺乳類細胞をヒト、霊長類、げっ歯類、有蹄類、イヌ、およびネコの細胞から選択する請求項52に記載の細胞。
- 当該細胞がヒト、ウシあるいは霊長類の細胞である請求項52の細胞。
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