JP2004361897A - 光ファイバケーブル及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スロット型光ファイバケーブルにおけるスロットロッドのスロット溝内に収納した複数の光ファイバテープ心線の移動の適正化を図る。
【解決手段】光ファイバケーブル1は、スロットロッド5の外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝7内に1つ又は複数の光ファイバ心線11を収納すると共に前記スロットロッド5の外周にシース樹脂が被覆されている。しかも、前記光ファイバ心線11とスロット溝7との摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂が、前記スロット溝7の内面に塗布されている。したがって、各スロット溝7内に収納された光ファイバ心線11は摩擦力調整樹脂によるスロット溝7との間の適正な摩擦力によって光ファイバ心線11の保持力の適正化が図られる。
【選択図】 図1
【解決手段】光ファイバケーブル1は、スロットロッド5の外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝7内に1つ又は複数の光ファイバ心線11を収納すると共に前記スロットロッド5の外周にシース樹脂が被覆されている。しかも、前記光ファイバ心線11とスロット溝7との摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂が、前記スロット溝7の内面に塗布されている。したがって、各スロット溝7内に収納された光ファイバ心線11は摩擦力調整樹脂によるスロット溝7との間の適正な摩擦力によって光ファイバ心線11の保持力の適正化が図られる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、光ファイバケーブル及びその製造方法に関し、特にスロット型光ファイバケーブルにおけるスロットロッドのスロット溝内に光ファイバ心線が収納されている光ファイバケーブル及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、スロット型光ファイバケーブルとしては、中心部にテンションメンバを収納したスロットロッドの外周面に複数のスロット溝がスロットロッドの長手方向に沿って設けられており、前記複数の各スロット溝内には、心線集合工程により例えば複数の光ファイバテープ心線(以下、「テープ心線」という)が積層されるように収納されている。このように多数のテープ心線が収納されたスロットロッドの外周上には押え巻きテープが巻かれ、さらにその上に樹脂などのシースが被覆されている。
【0003】
上記のスロット型光ファイバケーブル(以下、「光ケーブル」という)において、各テープ心線がスロット溝内に保持される力が弱すぎる場合は、光ケーブルが曲げられるときにスロット溝内でテープ心線の移動が発生する。このような光ケーブルの場合は、ケーブル布設後に、心線移動に起因する損失増加、すなわちクロージャ部分での局部的な心線曲がりが発生する可能性がある。
【0004】
一方、テープ心線がスロット溝内で強固に固定されてしまった場合は、光ケーブル内でテープ心線にかかる歪みをテープ心線自体が解消できないために、光ケーブルの損失特性が劣化する。例えば、光ケーブルが曲げられた場合、各テープ心線が移動しにくくなるために、特に曲げの外側に位置するテープ心線が許容される限度以上の歪みを受けるので、テープ心線の信頼性、特に光ファイバの破断までの寿命が短くなる。
【0005】
これらの問題を解決するために、従来のスロット型光ケーブルにおいてはさまざまな処置が施されているが、その中の一つとして、テープ心線相互間の摩擦の適正化を図るために、テープ心線自体に例えばタルク粉などの滑り摩擦適正化用の粉体が塗布されている(例えば、特許文献1参照)。また、スロットロッドの溝内面に粉塵を塗布することも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−43570号公報
【0007】
【特許文献2】
特開2001−296461号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来のスロット型光ケーブルにおいては、スロット溝とテープ心線の間の滑り摩擦の適正化を図るためにテープ心線自体にタルク粉等の粉体を塗布するという方法では、以下のような問題点があった。
【0009】
(1)テープ心線の本数が多数であることから、テープ心線集合工程においてテープ心線にタルク粉等の粉体を塗布するとき、集塵装置系が大規模且つ複雑なものになってしまう。しかし、集塵装置を設けなければ作業環境が劣悪になる。
【0010】
(2)テープ心線に直接粉体が塗布されてから、ライン上で次工程のテープ心線集合工程にて前記複数のテープ心線がスロットロッドの各スロット溝に収納される場合、テープ心線に塗布した粉体が前記テープ心線集合工程の前にライン上のガイドローラ等のガイド部材により除去されてしまうので、滑り摩擦の適正化を図ることが難しくなる。
【0011】
また、スロットロッドの溝内面に粉塵を塗布する場合でも、テープ心線自体に粉体を塗布する場合と同様の問題がある。
【0012】
この発明は上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、スロット型光ファイバケーブルにおけるスロットロッドのスロット溝内に収納した複数の光ファイバ心線の移動の適正化を図ること可能とする光ファイバケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1によるこの発明の光ファイバケーブルは、スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納すると共に前記スロットロッドの外周にシース樹脂を被覆してなる光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線とスロット溝との摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂が前記スロット溝の内面に塗布されていることを特徴とするものである。
【0014】
したがって、スロットロッドの各スロット溝の内面に摩擦力調整樹脂が塗布されているので、各スロット溝内に収納された光ファイバ心線は摩擦力調整樹脂によるスロット溝との間の適正な摩擦力によって光ファイバ心線の保持力の適正化が図られる。
【0015】
請求項2によるこの発明の光ファイバケーブルの製造方法は、スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝の内面に、このスロット溝内に収納される光ファイバ心線とスロット溝との間の摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂を塗布し、この摩擦力調整樹脂を塗布したスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納し、このスロットロッドの外周にシース樹脂を被覆することを特徴とするものである。
【0016】
したがって、スロットロッドのスロット溝の内面に摩擦力調整樹脂をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備が不要となる。また、従来のように光ファイバ心線に粉体が塗布される場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、摩擦力調整樹脂がスロットロッドに塗布された場合は、ライン上の他の部材と接することが少ないために除去され難いものである。その結果、従来に比べてより簡便に、適正な光ファイバ心線の保持力を有する光ケーブルが製造可能となった。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1及び図2を参照するに、この実施の形態に係るスロット型光ファイバケーブル1(以下、「光ケーブル」という)は、抗張力体としての例えば鋼線やガラス繊維強化樹脂からなるテンションメンバ3を中心部に備えたスロットロッド5が設けられており、このスロットロッド5の外周面には複数のスロット溝7がスロットロッド5の長手方向に沿って設けられている。
【0019】
また、上記の各スロット溝7の内面には、スロット溝7内に収納される後述する光ファイバ心線とスロット溝7との間の摩擦力を調整するための摩擦力調整樹脂9が直接塗布されている。
【0020】
この実施の形態では、スロットロッド5としては一般に用いられるポリエチレン製であるが、他の材質の樹脂であっても構わない。摩擦力調整樹脂9としては紫外線硬化型樹脂(UV樹脂)が用いられている。ただし、適正な表面摩擦力を持つものが選択される必要がある。なお、摩擦力調整樹脂9としては、上記の紫外線硬化型樹脂に限定されることなく、光ファイバ心線とスロット溝7との間の摩擦力を調整するために適正な表面摩擦力を有する他の形態の樹脂でも構わない。他の例としては、例えばシリコーン樹脂があげられる。
【0021】
前記複数の各スロット溝7内には、複数の光ファイバ心線としての例えば光ファイバテープ心線11(以下、「テープ心線」という)が積層されて収納されている。この実施の形態の光ケーブル1では5つのスロット溝7が設けられ、光ファイバテープ心線11としては4心テープ心線11であり、各スロット溝7内には5本の4心テープ心線11が積層されており、この実施の形態の光ケーブル1では合計100心の光ファイバ11Aが収納されている。なお、光ファイバ心線としては、テープ心線11に限らず、他の形態の光ファイバ心線であっても構わない。
【0022】
また、スロットロッド5のスロット位置(例えば、スロット番号)を識別するために、例えばそのスロット溝7の両側のリブ13の外周面には、1本組の着色線条15Aと2本組の着色線条15Bがリブ13の長手方向に沿って付与され、スロット位置の特定が容易に行えるようにされている。これらの着色線条15Aと着色線条15Bはリブ13の外周面に露出する形のリブエッジに着色線条用樹脂が埋設されている。
【0023】
また、上記のように多数のテープ心線11が収納されたスロットロッド5の外周上には押え巻きテープ17が巻かれ、さらにその上にはシース樹脂19で被覆されている。
【0024】
次に、上記のスロット型光ファイバケーブル1の製造装置について説明する。
【0025】
図3を併せて参照するに、光ファイバケーブル製造装置21としては、スロットロッド5を送り出すためのロッド送出装置23と、複数のテープ心線11を送り出すためのテープ心線送出装置25と、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9を塗布するための樹脂塗布装置27と、摩擦力調整樹脂9が紫外線硬化型樹脂であるとき、この紫外線硬化型樹脂を硬化させるUVランプ29と、複数のテープ心線11を集合するための心線集合装置31と、この心線集合装置31で集合されたテープ心線11及びスロットロッド5の周囲に押え巻きテープ17を上巻きするための押え巻き装置33と、押え巻きテープ17が巻かれた上にシース樹脂19を被覆して光ケーブル1を押出成形するための押出機35と、この押出機35で押し出された光ケーブル1を冷却するための冷却水槽37と、この冷却水槽37で冷却後の光ケーブル1を巻き取るためのケーブル巻取り装置39と、から構成されている。
【0026】
この実施の形態では、ロッド送出装置23は1個のロッド送出ボビン41が備えられ、テンションメンバ3を備えたスロットロッド5が巻かれている。なお、この実施の形態ではスロットロッド5はSZ撚りの5つのスロット溝7が図1に示されているように設けられている。
【0027】
樹脂塗布装置27としては、例えばスロットロッド5が樹脂吹付け室内を通過し、この樹脂吹付け室内で紫外線硬化型樹脂が吹付ノズルからスロット溝7の内面に吹き付けられて塗布される。あるいは、他の例としては、スロット溝7に嵌合する複数個の樹脂転写用ローラが装置本体内に、当該装置本体内を通過するスロットロッド5の周囲に配置され、紫外線硬化型樹脂が樹脂転写用ローラを介してスロット溝7に直接塗布される。
【0028】
テープ心線送出装置25としては25個のテープ心線送出ボビン43が備えられ、各テープ心線送出ボビン43にはそれぞれ4心テープ心線11が巻かれている。
【0029】
心線集合装置31としては、例えば撚り合せ制御板(図示省略)が備えられている。この撚り合せ制御板には中央にスロットロッド5を通過可能な1個のロッド挿通孔が設けられ、このロッド挿通孔の周囲に光ファイバテープ心線11を通過可能な5個のテープ心線挿通孔が設けられている。なお、撚り合せ制御板はテープ心線11をSZ撚りするために、正逆方向に、つまりスロットロッド5の送り方向に向かって時計、反時計回り方向に交互に繰り返し回転するように構成されている。
【0030】
上記のロッド送出ボビン41が回転されてスロットロッド5が撚り合せ制御板のロッド挿通孔を通過するようにして送り出されると共に、上記の25個のテープ心線送出ボビン43が回転されてテープ心線11が撚り合せ制御板の5個のテープ心線挿通孔に、つまり各テープ心線挿通孔に対してそれぞれ5本のテープ心線11が通過するようにして送り出される。
【0031】
心線集合装置31では、撚り合せ制御板がスロットロッド5のSZ撚りの各スロット溝7にそれぞれ5本の光ファイバテープ心線11が積層されて挿入されるように正逆方向に交互に回転される。
【0032】
押え巻き装置33では、各スロット溝7に5本のテープ心線11が積層して挿入された状態のスロットロッド5の周囲に押え巻きテープ17が巻き回わされて、押出機35のシース樹脂用ダイス45に送り出される。
【0033】
押出機35では、スロットロッド5に巻かれた押え巻きテープ17上にシース樹脂19がシース樹脂用ダイス45にてシースされて光ケーブル1が押出成形され、前方へ押し出される。次いで、この光ケーブル1は冷却水槽37を経て冷却されてからケーブル巻取り装置39に備えた巻取り用の光ケーブルドラム47に巻き取られる。
【0034】
次に、この実施の形態の光ケーブル1の本願例と従来の光ケーブルの比較例とを比較するために、比較例の光ケーブルは本願例の光ケーブル1と同様の構造の100心型スロット型光ケーブルとして製作した。
【0035】
従来例の光ケーブルは、従来通りの製造方法で製作したケーブルであり、テープ心線11にタルク粉等の粉体を直接塗布し、テープ心線集合工程に搬入し、押え巻きテープ17で上巻きし、押出機35によりシース樹脂19を被覆して押出成形したものである。
【0036】
本願例の光ケーブル1は前述した構成のケーブルであり、テープ心線集合工程にて、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9として紫外線硬化性樹脂を塗布し、さらに紫外線硬化性樹脂を硬化させた後、テープ心線11をスロットロッド5に集合した。このスロットロッド5に押え巻きテープ17で上巻きし、押出機35によりシース樹脂19で被覆して押出成形したものである。なお、テープ心線11自体にはタルク等の粉体は塗布されていない。また、これらの作業はすべてタンデムで行われた。
【0037】
上記のように製作した本願例の光ケーブル1と比較例の光ケーブルにおける伝送損失特性、スロット溝7内のテープ心線11の保持特性についての調査が行われた。
【0038】
伝送損失特性については、初期伝送損失、損失温度特性(−30/+70℃のヒートサイクルを3サイクル作用させた)について調査した。つまり、OTDR(Optical time domain reflectometer)により1.55μm波長帯で初期伝送損失及び損失温度特性の測定が行われた。その結果、本願例と比較例との間に有意差は見られなかった。
【0039】
スロット溝7内のテープ心線11の保持特性については、延線した光ケーブル1からスロット溝7内のテープ心線11を引抜くときの力が測定された。試験ケーブル長は任意に3水準を設定した。本願例の光ケーブル1は、比較例の光ケーブルに比較してどれ位の保持力を有しているかを確認した。その試験結果は、表1に示されている通りである。
【0040】
【表1】
表1から分かるように、本願例は比較例に比べて同等から約1.6倍の心線保持力を有している。心線保持力が大きい場合に懸念されるのは伝送損失特性であるが、この伝送損失特性については、前述したように本願例と比較例との間で有意差がないので、比較例に比べて約1.6倍の心線保持力が伝送損失特性に与える影響はないことが分かる。
【0041】
以上のことから、スロットロッド5の各スロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9が直接塗布されているので、各スロット溝7内に収納されたテープ心線11は摩擦力調整樹脂9によるスロット溝7との間の適正な摩擦力によってテープ心線11の保持力の適正化が図られる。
【0042】
また、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備が不要となる。また、従来例の光ケーブルのようにテープ心線に粉体が塗布される場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、スロットロッド5のスロット溝7に直接塗布された摩擦力調整樹脂9はライン上のガイドローラなどの他の部材と接することが少ないために除去されにくいものである。したがって、この実施の形態の光ケーブル1では、比較例の光ケーブルに比べて、より簡便に、適正なテープ心線11の保持力を有する光ケーブル1を製造することが可能となった。すなわち、製造作業性上の効果が認められる。
【0043】
なお、この発明は前述した実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことによりその他の態様で実施し得るものである。
【0044】
【発明の効果】
以上のごとき発明の実施の形態の説明から理解されるように、請求項1の発明によれば、スロットロッドの各スロット溝の内面に摩擦力調整樹脂を塗布したので、摩擦力調整樹脂によるスロット溝との間の適正な摩擦力によって、各スロット溝内に収納された光ファイバ心線の保持力の適正化を図ることができる。
【0045】
請求項2の発明によれば、スロットロッドのスロット溝の内面に摩擦力調整樹脂をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備を不要とすることができる。また、従来のように光ファイバ心線に粉体を塗布した場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、摩擦力調整樹脂をスロットロッドに塗布した場合は、ライン上の他の部材と接することが少ないために除去されにくいものである。したがって、従来に比べて、より簡便に、適正な光ファイバ心線の保持力を有する光ケーブルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態のスロット型光ファイバケーブルの断面図である。
【図2】図1のIIの部分の拡大図である。
【図3】この発明の実施の形態のスロット型光ファイバケーブルの製造装置の概略的な全体説明図である。
【符号の説明】
1 光ケーブル(スロット型光ファイバケーブル)
3 テンションメンバ(抗張力体)
5 スロットロッド
7 スロット溝
9 摩擦力調整樹脂
11 テープ心線(光ファイバテープ心線;光ファイバ心線)
17 押え巻きテープ
19 シース樹脂
21 光ファイバケーブル製造装置
23 ロッド送出装置
27 樹脂塗布装置
29 UVランプ
31 心線集合装置
33 押え巻き装置
35 押出機
37 冷却水槽
41 ロッド送出ボビン
43 テープ心線送出ボビン
45 シース樹脂用ダイス
47 光ケーブルドラム
【発明の属する技術分野】
この発明は、光ファイバケーブル及びその製造方法に関し、特にスロット型光ファイバケーブルにおけるスロットロッドのスロット溝内に光ファイバ心線が収納されている光ファイバケーブル及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、スロット型光ファイバケーブルとしては、中心部にテンションメンバを収納したスロットロッドの外周面に複数のスロット溝がスロットロッドの長手方向に沿って設けられており、前記複数の各スロット溝内には、心線集合工程により例えば複数の光ファイバテープ心線(以下、「テープ心線」という)が積層されるように収納されている。このように多数のテープ心線が収納されたスロットロッドの外周上には押え巻きテープが巻かれ、さらにその上に樹脂などのシースが被覆されている。
【0003】
上記のスロット型光ファイバケーブル(以下、「光ケーブル」という)において、各テープ心線がスロット溝内に保持される力が弱すぎる場合は、光ケーブルが曲げられるときにスロット溝内でテープ心線の移動が発生する。このような光ケーブルの場合は、ケーブル布設後に、心線移動に起因する損失増加、すなわちクロージャ部分での局部的な心線曲がりが発生する可能性がある。
【0004】
一方、テープ心線がスロット溝内で強固に固定されてしまった場合は、光ケーブル内でテープ心線にかかる歪みをテープ心線自体が解消できないために、光ケーブルの損失特性が劣化する。例えば、光ケーブルが曲げられた場合、各テープ心線が移動しにくくなるために、特に曲げの外側に位置するテープ心線が許容される限度以上の歪みを受けるので、テープ心線の信頼性、特に光ファイバの破断までの寿命が短くなる。
【0005】
これらの問題を解決するために、従来のスロット型光ケーブルにおいてはさまざまな処置が施されているが、その中の一つとして、テープ心線相互間の摩擦の適正化を図るために、テープ心線自体に例えばタルク粉などの滑り摩擦適正化用の粉体が塗布されている(例えば、特許文献1参照)。また、スロットロッドの溝内面に粉塵を塗布することも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−43570号公報
【0007】
【特許文献2】
特開2001−296461号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来のスロット型光ケーブルにおいては、スロット溝とテープ心線の間の滑り摩擦の適正化を図るためにテープ心線自体にタルク粉等の粉体を塗布するという方法では、以下のような問題点があった。
【0009】
(1)テープ心線の本数が多数であることから、テープ心線集合工程においてテープ心線にタルク粉等の粉体を塗布するとき、集塵装置系が大規模且つ複雑なものになってしまう。しかし、集塵装置を設けなければ作業環境が劣悪になる。
【0010】
(2)テープ心線に直接粉体が塗布されてから、ライン上で次工程のテープ心線集合工程にて前記複数のテープ心線がスロットロッドの各スロット溝に収納される場合、テープ心線に塗布した粉体が前記テープ心線集合工程の前にライン上のガイドローラ等のガイド部材により除去されてしまうので、滑り摩擦の適正化を図ることが難しくなる。
【0011】
また、スロットロッドの溝内面に粉塵を塗布する場合でも、テープ心線自体に粉体を塗布する場合と同様の問題がある。
【0012】
この発明は上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、スロット型光ファイバケーブルにおけるスロットロッドのスロット溝内に収納した複数の光ファイバ心線の移動の適正化を図ること可能とする光ファイバケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1によるこの発明の光ファイバケーブルは、スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納すると共に前記スロットロッドの外周にシース樹脂を被覆してなる光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線とスロット溝との摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂が前記スロット溝の内面に塗布されていることを特徴とするものである。
【0014】
したがって、スロットロッドの各スロット溝の内面に摩擦力調整樹脂が塗布されているので、各スロット溝内に収納された光ファイバ心線は摩擦力調整樹脂によるスロット溝との間の適正な摩擦力によって光ファイバ心線の保持力の適正化が図られる。
【0015】
請求項2によるこの発明の光ファイバケーブルの製造方法は、スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝の内面に、このスロット溝内に収納される光ファイバ心線とスロット溝との間の摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂を塗布し、この摩擦力調整樹脂を塗布したスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納し、このスロットロッドの外周にシース樹脂を被覆することを特徴とするものである。
【0016】
したがって、スロットロッドのスロット溝の内面に摩擦力調整樹脂をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備が不要となる。また、従来のように光ファイバ心線に粉体が塗布される場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、摩擦力調整樹脂がスロットロッドに塗布された場合は、ライン上の他の部材と接することが少ないために除去され難いものである。その結果、従来に比べてより簡便に、適正な光ファイバ心線の保持力を有する光ケーブルが製造可能となった。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1及び図2を参照するに、この実施の形態に係るスロット型光ファイバケーブル1(以下、「光ケーブル」という)は、抗張力体としての例えば鋼線やガラス繊維強化樹脂からなるテンションメンバ3を中心部に備えたスロットロッド5が設けられており、このスロットロッド5の外周面には複数のスロット溝7がスロットロッド5の長手方向に沿って設けられている。
【0019】
また、上記の各スロット溝7の内面には、スロット溝7内に収納される後述する光ファイバ心線とスロット溝7との間の摩擦力を調整するための摩擦力調整樹脂9が直接塗布されている。
【0020】
この実施の形態では、スロットロッド5としては一般に用いられるポリエチレン製であるが、他の材質の樹脂であっても構わない。摩擦力調整樹脂9としては紫外線硬化型樹脂(UV樹脂)が用いられている。ただし、適正な表面摩擦力を持つものが選択される必要がある。なお、摩擦力調整樹脂9としては、上記の紫外線硬化型樹脂に限定されることなく、光ファイバ心線とスロット溝7との間の摩擦力を調整するために適正な表面摩擦力を有する他の形態の樹脂でも構わない。他の例としては、例えばシリコーン樹脂があげられる。
【0021】
前記複数の各スロット溝7内には、複数の光ファイバ心線としての例えば光ファイバテープ心線11(以下、「テープ心線」という)が積層されて収納されている。この実施の形態の光ケーブル1では5つのスロット溝7が設けられ、光ファイバテープ心線11としては4心テープ心線11であり、各スロット溝7内には5本の4心テープ心線11が積層されており、この実施の形態の光ケーブル1では合計100心の光ファイバ11Aが収納されている。なお、光ファイバ心線としては、テープ心線11に限らず、他の形態の光ファイバ心線であっても構わない。
【0022】
また、スロットロッド5のスロット位置(例えば、スロット番号)を識別するために、例えばそのスロット溝7の両側のリブ13の外周面には、1本組の着色線条15Aと2本組の着色線条15Bがリブ13の長手方向に沿って付与され、スロット位置の特定が容易に行えるようにされている。これらの着色線条15Aと着色線条15Bはリブ13の外周面に露出する形のリブエッジに着色線条用樹脂が埋設されている。
【0023】
また、上記のように多数のテープ心線11が収納されたスロットロッド5の外周上には押え巻きテープ17が巻かれ、さらにその上にはシース樹脂19で被覆されている。
【0024】
次に、上記のスロット型光ファイバケーブル1の製造装置について説明する。
【0025】
図3を併せて参照するに、光ファイバケーブル製造装置21としては、スロットロッド5を送り出すためのロッド送出装置23と、複数のテープ心線11を送り出すためのテープ心線送出装置25と、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9を塗布するための樹脂塗布装置27と、摩擦力調整樹脂9が紫外線硬化型樹脂であるとき、この紫外線硬化型樹脂を硬化させるUVランプ29と、複数のテープ心線11を集合するための心線集合装置31と、この心線集合装置31で集合されたテープ心線11及びスロットロッド5の周囲に押え巻きテープ17を上巻きするための押え巻き装置33と、押え巻きテープ17が巻かれた上にシース樹脂19を被覆して光ケーブル1を押出成形するための押出機35と、この押出機35で押し出された光ケーブル1を冷却するための冷却水槽37と、この冷却水槽37で冷却後の光ケーブル1を巻き取るためのケーブル巻取り装置39と、から構成されている。
【0026】
この実施の形態では、ロッド送出装置23は1個のロッド送出ボビン41が備えられ、テンションメンバ3を備えたスロットロッド5が巻かれている。なお、この実施の形態ではスロットロッド5はSZ撚りの5つのスロット溝7が図1に示されているように設けられている。
【0027】
樹脂塗布装置27としては、例えばスロットロッド5が樹脂吹付け室内を通過し、この樹脂吹付け室内で紫外線硬化型樹脂が吹付ノズルからスロット溝7の内面に吹き付けられて塗布される。あるいは、他の例としては、スロット溝7に嵌合する複数個の樹脂転写用ローラが装置本体内に、当該装置本体内を通過するスロットロッド5の周囲に配置され、紫外線硬化型樹脂が樹脂転写用ローラを介してスロット溝7に直接塗布される。
【0028】
テープ心線送出装置25としては25個のテープ心線送出ボビン43が備えられ、各テープ心線送出ボビン43にはそれぞれ4心テープ心線11が巻かれている。
【0029】
心線集合装置31としては、例えば撚り合せ制御板(図示省略)が備えられている。この撚り合せ制御板には中央にスロットロッド5を通過可能な1個のロッド挿通孔が設けられ、このロッド挿通孔の周囲に光ファイバテープ心線11を通過可能な5個のテープ心線挿通孔が設けられている。なお、撚り合せ制御板はテープ心線11をSZ撚りするために、正逆方向に、つまりスロットロッド5の送り方向に向かって時計、反時計回り方向に交互に繰り返し回転するように構成されている。
【0030】
上記のロッド送出ボビン41が回転されてスロットロッド5が撚り合せ制御板のロッド挿通孔を通過するようにして送り出されると共に、上記の25個のテープ心線送出ボビン43が回転されてテープ心線11が撚り合せ制御板の5個のテープ心線挿通孔に、つまり各テープ心線挿通孔に対してそれぞれ5本のテープ心線11が通過するようにして送り出される。
【0031】
心線集合装置31では、撚り合せ制御板がスロットロッド5のSZ撚りの各スロット溝7にそれぞれ5本の光ファイバテープ心線11が積層されて挿入されるように正逆方向に交互に回転される。
【0032】
押え巻き装置33では、各スロット溝7に5本のテープ心線11が積層して挿入された状態のスロットロッド5の周囲に押え巻きテープ17が巻き回わされて、押出機35のシース樹脂用ダイス45に送り出される。
【0033】
押出機35では、スロットロッド5に巻かれた押え巻きテープ17上にシース樹脂19がシース樹脂用ダイス45にてシースされて光ケーブル1が押出成形され、前方へ押し出される。次いで、この光ケーブル1は冷却水槽37を経て冷却されてからケーブル巻取り装置39に備えた巻取り用の光ケーブルドラム47に巻き取られる。
【0034】
次に、この実施の形態の光ケーブル1の本願例と従来の光ケーブルの比較例とを比較するために、比較例の光ケーブルは本願例の光ケーブル1と同様の構造の100心型スロット型光ケーブルとして製作した。
【0035】
従来例の光ケーブルは、従来通りの製造方法で製作したケーブルであり、テープ心線11にタルク粉等の粉体を直接塗布し、テープ心線集合工程に搬入し、押え巻きテープ17で上巻きし、押出機35によりシース樹脂19を被覆して押出成形したものである。
【0036】
本願例の光ケーブル1は前述した構成のケーブルであり、テープ心線集合工程にて、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9として紫外線硬化性樹脂を塗布し、さらに紫外線硬化性樹脂を硬化させた後、テープ心線11をスロットロッド5に集合した。このスロットロッド5に押え巻きテープ17で上巻きし、押出機35によりシース樹脂19で被覆して押出成形したものである。なお、テープ心線11自体にはタルク等の粉体は塗布されていない。また、これらの作業はすべてタンデムで行われた。
【0037】
上記のように製作した本願例の光ケーブル1と比較例の光ケーブルにおける伝送損失特性、スロット溝7内のテープ心線11の保持特性についての調査が行われた。
【0038】
伝送損失特性については、初期伝送損失、損失温度特性(−30/+70℃のヒートサイクルを3サイクル作用させた)について調査した。つまり、OTDR(Optical time domain reflectometer)により1.55μm波長帯で初期伝送損失及び損失温度特性の測定が行われた。その結果、本願例と比較例との間に有意差は見られなかった。
【0039】
スロット溝7内のテープ心線11の保持特性については、延線した光ケーブル1からスロット溝7内のテープ心線11を引抜くときの力が測定された。試験ケーブル長は任意に3水準を設定した。本願例の光ケーブル1は、比較例の光ケーブルに比較してどれ位の保持力を有しているかを確認した。その試験結果は、表1に示されている通りである。
【0040】
【表1】
表1から分かるように、本願例は比較例に比べて同等から約1.6倍の心線保持力を有している。心線保持力が大きい場合に懸念されるのは伝送損失特性であるが、この伝送損失特性については、前述したように本願例と比較例との間で有意差がないので、比較例に比べて約1.6倍の心線保持力が伝送損失特性に与える影響はないことが分かる。
【0041】
以上のことから、スロットロッド5の各スロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9が直接塗布されているので、各スロット溝7内に収納されたテープ心線11は摩擦力調整樹脂9によるスロット溝7との間の適正な摩擦力によってテープ心線11の保持力の適正化が図られる。
【0042】
また、スロットロッド5のスロット溝7の内面に摩擦力調整樹脂9をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備が不要となる。また、従来例の光ケーブルのようにテープ心線に粉体が塗布される場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、スロットロッド5のスロット溝7に直接塗布された摩擦力調整樹脂9はライン上のガイドローラなどの他の部材と接することが少ないために除去されにくいものである。したがって、この実施の形態の光ケーブル1では、比較例の光ケーブルに比べて、より簡便に、適正なテープ心線11の保持力を有する光ケーブル1を製造することが可能となった。すなわち、製造作業性上の効果が認められる。
【0043】
なお、この発明は前述した実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことによりその他の態様で実施し得るものである。
【0044】
【発明の効果】
以上のごとき発明の実施の形態の説明から理解されるように、請求項1の発明によれば、スロットロッドの各スロット溝の内面に摩擦力調整樹脂を塗布したので、摩擦力調整樹脂によるスロット溝との間の適正な摩擦力によって、各スロット溝内に収納された光ファイバ心線の保持力の適正化を図ることができる。
【0045】
請求項2の発明によれば、スロットロッドのスロット溝の内面に摩擦力調整樹脂をコーティングする場合、粉体を使用しないため、集塵装置等の大規模な設備を不要とすることができる。また、従来のように光ファイバ心線に粉体を塗布した場合は、この塗布された粉体が次工程の心線集合工程中あるいはその前に除去され易いが、摩擦力調整樹脂をスロットロッドに塗布した場合は、ライン上の他の部材と接することが少ないために除去されにくいものである。したがって、従来に比べて、より簡便に、適正な光ファイバ心線の保持力を有する光ケーブルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態のスロット型光ファイバケーブルの断面図である。
【図2】図1のIIの部分の拡大図である。
【図3】この発明の実施の形態のスロット型光ファイバケーブルの製造装置の概略的な全体説明図である。
【符号の説明】
1 光ケーブル(スロット型光ファイバケーブル)
3 テンションメンバ(抗張力体)
5 スロットロッド
7 スロット溝
9 摩擦力調整樹脂
11 テープ心線(光ファイバテープ心線;光ファイバ心線)
17 押え巻きテープ
19 シース樹脂
21 光ファイバケーブル製造装置
23 ロッド送出装置
27 樹脂塗布装置
29 UVランプ
31 心線集合装置
33 押え巻き装置
35 押出機
37 冷却水槽
41 ロッド送出ボビン
43 テープ心線送出ボビン
45 シース樹脂用ダイス
47 光ケーブルドラム
Claims (2)
- スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納すると共に前記スロットロッドの外周にシース樹脂を被覆してなる光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線とスロット溝との摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂が前記スロット溝の内面に塗布されていることを特徴とする光ファイバケーブル。 - スロットロッドの外周面にその長手方向に沿って設けたスロット溝の内面に、このスロット溝内に収納される光ファイバ心線とスロット溝との間の摩擦力を調整する摩擦力調整樹脂を塗布し、この摩擦力調整樹脂を塗布したスロット溝内に1つ又は複数の光ファイバ心線を収納し、このスロットロッドの外周にシース樹脂を被覆することを特徴とする光ファイバケーブルの製造方法。
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