JP2004360077A - プリカーサー及び炭素繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】製造装置の運転状態を安定化させ、高配向、高強度の炭素繊維用プリカーサー及び炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率などでスチーム処理することを特徴とするプリカーサーの製造方法、並びに、そのプリカーサーを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して酸化繊維を得、その後前記酸化繊維を不活性ガス雰囲気下で熱処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率などでスチーム処理することを特徴とするプリカーサーの製造方法、並びに、そのプリカーサーを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して酸化繊維を得、その後前記酸化繊維を不活性ガス雰囲気下で熱処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維製造用プリカーサー(前駆体繊維)の製造方法、及び前記プリカーサーを用いた炭素繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、炭素繊維製造用のプリカーサーは、ノズルから凝固液中に吐出された紡糸用液が凝固して得た粗プリカーサーを更に延伸して製造する。
【0003】
高配向、高強度の炭素繊維製造用のプリカーサーを得るためには、粗プリカーサーの延伸倍率は高いことが望ましく、このため 延伸操作は比較的高温の浴中やスチーム中で行われている。この延伸条件に応じ、得られるプリカーサーの性質が大きく左右し、ひいては得られる炭素繊維の物性に大きく影響している。延伸条件の検討も行われている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−292240号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平8−158162号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2000−345429号公報(特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、紡糸用液を紡糸し、必要により浴中延伸し、更に必要により乾燥、緻密化して得た粗プリカーサーを、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理することにより、又は、任意のにおいて延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理することにより、高強度及び高配向度の炭素繊維を製造することのできるプリカーサーが得られること知得し、本発明を完成するに到った。
【0006】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した、高配向、高強度の炭素繊維製造用のプリカーサー、及び前記プリカーサーを用いた炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0008】
〔1〕 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理すること、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理することを特徴とするプリカーサーの製造方法。
【0009】
〔2〕 スチーム温度が(T−4)〜(T+4)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの脈状化率が90%以下である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0010】
〔3〕 スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーのL値が30以下である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0011】
〔4〕 スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの比重が1.15以上である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0012】
〔5〕 延伸したプリカーサーの広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%以上である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0013】
〔6〕 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理を、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理をしてプリカーサーを得、その後前記プリカーサーを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して酸化繊維を得、その後前記酸化繊維を不活性ガス雰囲気下で熱処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<製造条件の決定>
本発明は、プリカーサーの製造に際し、粗プリカーサーの延伸温度(スチーム温度)及び延伸倍率等の延伸条件を決定し、これにより良好なプリカーサーを製造する方法、並びに、前記プリカーサーを酸化処理、炭素化処理することにより炭素繊維を製造する方法に関する。
【0016】
上記延伸条件の決定は、先ず予め決めた任意の延伸倍率でスチーム温度を変えて繰返しスチーム延伸処理をして得たプリカーサーについて、応力と伸び(ひずみ)との関係を測定し、応力−ひずみ曲線を求める。
【0017】
このようにして得られた応力−ひずみ曲線(図1参照)から、最も大きな応力を示す(応力−ひずみ曲線の降伏点後に最大の傾きを持つ)スチーム温度であって最も高い温度T℃を求める。
【0018】
又は、先ず予め決めた任意の温度のスチーム中で延伸倍率を変えて繰返しスチーム延伸処理して得たプリカーサーについて、応力と伸び(ひずみ)との関係を測定し、応力−ひずみ曲線を求める。このようにして得られた応力−ひずみ曲線から、最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を求める。
【0019】
前記求めたT℃から(T−6)〜(T+4)℃を決定し、その温度と、その時の延伸倍率を、又は、前記求めたP倍から(P−0.5)〜(P+1.0)倍を決定し、その延伸倍率と、その時の温度を、最適なプリカーサーの製造条件とするものである。
【0020】
<プリカーサーの製造>
本発明の炭素繊維製造用のプリカーサーとしては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、フェノール系、レーヨン系等のものが挙げられる。PAN系のものが最も高強度の炭素繊維が得られる。
【0021】
PAN系の場合、PAN系重合体を常法により紡糸し、必要により浴中延伸し、更に必要により乾燥、緻密化し、更にまた必要により含水率を調節して粗プリカーサーを得る。これらの工程自体は当業者に周知のもの例えば特開2002−309438号公報に記載されたものである。
【0022】
PAN系重合体としては、アクリロニトリルの単独重合体、及びイタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸等の極性単量体を5質量%以下共重合したPAN系共重合体を用いることができる。
【0023】
上記の粗プリカーサーは、必要によりその含水率が調節された後、スチーム延伸機に送られ、スチーム中で延伸(スチーム延伸)が行われる。
【0024】
スチーム延伸では、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度のうち最高温の温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理される。
【0025】
このスチーム延伸条件を逸脱した範囲で処理されたプリカーサーは、分子間のパッキングが未熟であり、高強度の炭素繊維を得るためには好ましくない。
【0026】
スチーム延伸条件においてスチーム温度がT℃未満の場合、延伸処理された糸(プリカーサー)に横縞ができる。この横縞を脈状という。延伸処理された糸100本を顕微鏡で観察し、脈状化した糸の本数の割合を脈状化率とする。
【0027】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−4)〜(T+4)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーの脈状化率が90%以下であることが好ましい(図2参照)。延伸した上記プリカーサーの脈状化率が90%を超える場合は、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多くなる。そのため、スチーム延伸装置、炭素化装置等の炭素繊維製造装置の運転状態を安定化させることが困難になる。
【0028】
スチーム延伸条件においてスチーム温度が(T−6)未満の場合又は(T+3)℃を超える場合、延伸処理された糸中にボイドを生じると共に、パッキングが悪くなる。パッキングが悪いと、得られる酸化繊維の比重(緻密性)が低くなるばかりでなく、最終的に高強度の炭素繊維を得る事が困難となる。さらに焼成工程での毛羽発生の原因ともなる。
【0029】
この糸中におけるボイド量の評価方法としては、以下の測定方法によって求められるL値を用いることができる。
【0030】
L値の測定では、標準白板に対する試料の明度をハンター色差計によって測定し、基準炭素繊維用前駆体繊維に対する明度を算出する。この値は、繊維中のボイドが多い場合に高い値を示し、緻密性が高くなると基準炭素繊維用前駆体繊維の値に近くなる。
【0031】
具体的には、炭素繊維用前駆体繊維は約5cmに切断してハンドカードにて綿上に開繊し2gをとる。油圧プレス機でプレスしてアニソール中に浸漬し、脱泡して、ハンター色差計にかけL値〔L値=測定値−標準値(5)〕を測定する。
【0032】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーのL値が30以下であることが好ましい(図3参照)。また、焼成工程での毛羽抑制や緻密性を保つためにも、得られたプリカーサーのL値は30以下であることが好ましい。
【0033】
スチーム延伸条件において、延伸処理されたプリカーサーの比重は、スチーム温度が(T−5)℃の時に最高値になり、その温度より高くても低くても低下する(図4参照)。
【0034】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーの比重が1.15以上であることが好ましい。延伸した上記プリカーサーの比重が1.15未満の場合は、このプリカーサーを酸化処理して得られる酸化繊維の比重(緻密性)が低くなるばかりでなく、最終的に高強度の炭素繊維を得る事が困難となる。さらに焼成工程での毛羽発生の原因ともなる。
【0035】
スチーム延伸条件において、延伸処理されたプリカーサーにおけるX線回折の配向度[広角X線測定(回折角17°(公知の値))における配向度]は、スチーム温度が(T−6)℃の時に最高値になり、その温度より高くても低くても低下する(図5参照)。
【0036】
広角X線測定(回折角17°)における配向度は、次のようにして求めることができる。
【0037】
延伸処理後のプリカーサーの単繊維約12000本を束にし、アセトンを用いて束を収束させながら繊維軸方向に繊維を引揃える。
【0038】
直径1.0cmの穴をあけた台紙に、繊維束の中央が穴の中央に来るように、繊維を緊張させた状態で貼付ける。その後、繊維軸と治具の軸が平行になるように、台紙を試料調整用治具に固定する。
【0039】
更に、この治具を透過法による広角X線回折測定試料台に固定する。X線源として、CuのKα線を使用し、試料に照射すると、2θが17度付近に回折パターン(二つのピークを有する)が現れる。
【0040】
この回折パターンのピーク角度を求め、それらの角度を含む360度の範囲について測定を行う。次いで得られたX線回折チャートのグラフ上にベースラインを引き、ピークの半値幅H1/2、H’1/2(度)を求め、下式
【0041】
【数1】
配向度=[360−(H1/2+H’1/2)]/360 (1)
によって配向度を計算する。
【0042】
本発明の方法で製造した上記プリカーサーは、その広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%以上であることが好ましい。
【0043】
延伸した上記プリカーサーの広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%未満の場合は、このプリカーサーから得られる炭素繊維の後述する広角X線測定(回折角26°)における配向度が低下するので好ましくない。
【0044】
以上、前記求めたT℃から(T−6)〜(T+4)℃を決定し、その温度と、その時の延伸倍率を、最適なプリカーサーの製造条件とする場合を説明したが、前記求めたP倍から(P−0.5)〜(P+1.0)倍を決定し、その延伸倍率と、その時の温度を、最適なプリカーサーの製造条件とする場合も同様である(図6参照)。
【0045】
<炭素繊維の製造>
以上の条件下で延伸処理されたプリカーサーは、公知の方法により、酸化性ガス雰囲気下で熱処理されて酸化繊維になる。その後、前記酸化繊維は不活性ガス雰囲気下で熱処理されて炭素繊維となり得る。さらに、炭素繊維の後加工をしやすくし、取扱性を向上させる目的で、サイジング処理することが好ましい。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。
【0046】
このようにして得られた炭素繊維は、高配向、且つ高強度を有し、毛羽や糸切れの少ない炭素繊維である。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を検討例、実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各検討例、実施例及び比較例における延伸後のプリカーサー及び炭素繊維の諸物性についての評価方法は、前述の方法又は以下の方法により実施した。
【0048】
<比重>
アルキメデス法により測定した。試料繊維はアセトン中にて脱気処理し測定した。
【0049】
<広角X線測定(回折角17°)における配向度>
X線回折装置:理学電機製RINT2050を使用し、回折角17°における配向度を半値幅H1/2、H’1/2から前述の式(1)により求めた。
【0050】
<広角X線測定(回折角26°)における配向度>
回折角を26°にした以外は、上記広角X線測定(回折角17°)における配向度と同様にして求めた。
【0051】
<引張り強度>
JIS R 7601に規定された方法により測定した。
【0052】
検討例1
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を湿式又は乾湿式紡糸し、水洗・乾燥して繊維直径22.0μmの粗プリカーサーを得た。この粗プリカーサーをスチーム延伸機に送り、ここで延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)107℃、110℃、113℃、117℃、120℃、123℃、127℃の条件でスチーム延伸し、図1〜5に示す諸物性のプリカーサーを得た。
【0053】
図1は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、繊維長方向に応力を掛け、繊維長の伸びと応力とを各スチーム温度で層別し、プロットして得た応力−ひずみ曲線(SSC)を示すグラフである。
【0054】
図1に示すように、スチーム温度が低い程(図1右上の矢印方向)、伸びに対する応力の傾きであって降伏点からの傾きが上昇し、パッキングが良くなった。但し、この傾きはスチーム温度117℃以下では、変化しなくなった。
【0055】
図2は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と脈状化率とをプロットして得たグラフである。
【0056】
図2に示すように、スチーム温度が高い程、脈状化率が低下し、スチーム温度113℃以上で脈状化率は90%以下となった。
【0057】
図3は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度とL値とをプロットして得たグラフである。
【0058】
図3に示すように、スチーム温度が113℃以下ではスチーム温度が高い程、L値が低下し、スチーム温度が113℃以上ではスチーム温度が高い程、L値が上昇した。このように、スチーム温度107〜120℃でL値は30以下となった。
【0059】
図4は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と比重とをプロットして得たグラフである。
【0060】
図4に示すように、スチーム温度が112℃以下ではスチーム温度が高い程、比重が上昇し、スチーム温度が112℃以上ではスチーム温度が高い程、比重が低下した。このように、スチーム温度107〜120℃で比重は1.15以上となった。
【0061】
図5は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と広角X線測定(回折角17°)における配向度とをプロットして得たグラフである。
【0062】
図5に示すように、スチーム温度が111℃以下ではスチーム温度が高い程、配向度が上昇し、スチーム温度が111℃以上ではスチーム温度が高い程、配向度が低下した。このように、スチーム温度110〜123℃で配向度は90.4%以上となった。
【0063】
実施例1〜3
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃の条件で得たプリカーサーを、酸化処理、炭素化処理を施して炭素繊維を製造した。これらの製造条件及び製造装置は通常のものであった。
【0064】
これらの後工程における炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れの発生は少なく、製造装置の運転状態を安定化させることができた。
【0065】
なお、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃で、それぞれ6350MPa、6400MPa、6300MPaであった。
【0066】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は何れも高いものであった。
【0067】
また、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃で、それぞれ81.7%、81.5%、81.4%であった。
【0068】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は何れも高いものであった。
【0069】
比較例1
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)107℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0070】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0071】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6000MPaと低いものであった。
【0072】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.2%であった。
【0073】
比較例2
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)110℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0074】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、炭素化工程の焼成において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0075】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6220MPaと低いものであった。
【0076】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.6%であった。
【0077】
比較例3
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)123℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0078】
本比較例で用いたプリカーサーは、比重が1.14と低く、酸化処理して得られた酸化繊維の比重も低かった。ひいては、この酸化繊維を炭素化処理して得られた炭素繊維は、その引張り強度が6200MPaと低いものであった。
【0079】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.3%であった。
【0080】
比較例4
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)127℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0081】
本比較例で用いたプリカーサーは、比重が1.12と低く、酸化処理して得られた酸化繊維の比重も低かった。ひいては、この酸化繊維を炭素化処理して得られた炭素繊維は、その引張り強度が6050MPaと低いものであった。
【0082】
本比較例で用いたプリカーサーは、広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.0%と低く、このプリカーサーを酸化処理、炭素化処理して得られた炭素繊維は、その広角X線測定(回折角26°)における配向度が81.1%と低いものであった。
【0083】
検討例2
検討例1で得た粗プリカーサーをスチーム延伸機に送り、ここでスチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率3.5倍、4.5倍、5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍、6.9倍、7.2倍の条件でスチーム延伸し、スチーム延伸条件検討用のプリカーサーを得た。
【0084】
図6は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、繊維長方向に応力を掛け、繊維長の伸びと応力とを各延伸倍率で層別し、プロットして得た応力−ひずみ曲線(SSC)を示すグラフである。
【0085】
図6に示すように、延伸倍率が高い程(図6右上の矢印方向)、伸びに対する応力の傾きであって降伏点からの傾きが上昇し、パッキングが良くなった。但し、この傾きは延伸倍率5.5倍以上では、ほぼ変化しなくなった。
【0086】
実施例4〜7
検討例2の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍の条件で得たプリカーサーを、酸化処理、炭素化処理を施して炭素繊維を製造した。これらの製造条件及び製造装置は通常のものであった。
【0087】
これらの後工程における炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れの発生は少なく、製造装置の運転状態を安定化させることができた。
【0088】
なお、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍で、それぞれ6260MPa、6350MPa、6390MPa、6300MPaであった。
【0089】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は何れも高いものであった。
【0090】
また、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍で、それぞれ81.4%、81.7%、82.0、82.0%であった。
【0091】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は何れも高いものであった。
【0092】
比較例5
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率3.5倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0093】
本比較例で用いたプリカーサーは、配向度が89.0%と低く、このプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0094】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、5700MPaと低いものであった。
【0095】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、80.4%であった。
【0096】
比較例6
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率4.5倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0097】
本比較例で用いたプリカーサーは、配向度が90.3%と低いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0098】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6100MPaと低いものであった。
【0099】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、80.9%であった。
【0100】
比較例7
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率6.9倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0101】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が98%と高く、このプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0102】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6200MPaと低いものであった。
【0103】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.6%であった。
【0104】
比較例8
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率7.2倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0105】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0106】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6000MPaと低いものであった。
【0107】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.0%であった。
【0108】
実施例1〜7及び比較例1〜8におけるスチーム延伸条件、製造工程の状況、得られた炭素繊維評価を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【発明の効果】
本発明のプリカーサーの製造方法によれば、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理を、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理をするようにしているので、スチーム延伸処理するに際し、更に後工程の炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れを低減させ、製造装置の運転状態を安定化させることができる。
【0111】
また、本発明の製造方法によって得られるプリカーサー及び炭素繊維は、高配向、高強度のものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーの伸びと応力との関係を示すグラフである。
【図2】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と脈状化率との関係を示すグラフである。
【図3】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度とL値との関係を示すグラフである。
【図4】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と比重との関係を示すグラフである。
【図5】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と広角X線測定(回折角17°)における配向度との関係を示すグラフである。
【図6】検討例2における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーの伸びと応力との関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維製造用プリカーサー(前駆体繊維)の製造方法、及び前記プリカーサーを用いた炭素繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、炭素繊維製造用のプリカーサーは、ノズルから凝固液中に吐出された紡糸用液が凝固して得た粗プリカーサーを更に延伸して製造する。
【0003】
高配向、高強度の炭素繊維製造用のプリカーサーを得るためには、粗プリカーサーの延伸倍率は高いことが望ましく、このため 延伸操作は比較的高温の浴中やスチーム中で行われている。この延伸条件に応じ、得られるプリカーサーの性質が大きく左右し、ひいては得られる炭素繊維の物性に大きく影響している。延伸条件の検討も行われている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−292240号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平8−158162号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2000−345429号公報(特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、紡糸用液を紡糸し、必要により浴中延伸し、更に必要により乾燥、緻密化して得た粗プリカーサーを、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理することにより、又は、任意のにおいて延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理することにより、高強度及び高配向度の炭素繊維を製造することのできるプリカーサーが得られること知得し、本発明を完成するに到った。
【0006】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した、高配向、高強度の炭素繊維製造用のプリカーサー、及び前記プリカーサーを用いた炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0008】
〔1〕 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理すること、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理することを特徴とするプリカーサーの製造方法。
【0009】
〔2〕 スチーム温度が(T−4)〜(T+4)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの脈状化率が90%以下である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0010】
〔3〕 スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーのL値が30以下である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0011】
〔4〕 スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの比重が1.15以上である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0012】
〔5〕 延伸したプリカーサーの広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%以上である〔1〕に記載のプリカーサーの製造方法。
【0013】
〔6〕 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理を、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理をしてプリカーサーを得、その後前記プリカーサーを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して酸化繊維を得、その後前記酸化繊維を不活性ガス雰囲気下で熱処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<製造条件の決定>
本発明は、プリカーサーの製造に際し、粗プリカーサーの延伸温度(スチーム温度)及び延伸倍率等の延伸条件を決定し、これにより良好なプリカーサーを製造する方法、並びに、前記プリカーサーを酸化処理、炭素化処理することにより炭素繊維を製造する方法に関する。
【0016】
上記延伸条件の決定は、先ず予め決めた任意の延伸倍率でスチーム温度を変えて繰返しスチーム延伸処理をして得たプリカーサーについて、応力と伸び(ひずみ)との関係を測定し、応力−ひずみ曲線を求める。
【0017】
このようにして得られた応力−ひずみ曲線(図1参照)から、最も大きな応力を示す(応力−ひずみ曲線の降伏点後に最大の傾きを持つ)スチーム温度であって最も高い温度T℃を求める。
【0018】
又は、先ず予め決めた任意の温度のスチーム中で延伸倍率を変えて繰返しスチーム延伸処理して得たプリカーサーについて、応力と伸び(ひずみ)との関係を測定し、応力−ひずみ曲線を求める。このようにして得られた応力−ひずみ曲線から、最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を求める。
【0019】
前記求めたT℃から(T−6)〜(T+4)℃を決定し、その温度と、その時の延伸倍率を、又は、前記求めたP倍から(P−0.5)〜(P+1.0)倍を決定し、その延伸倍率と、その時の温度を、最適なプリカーサーの製造条件とするものである。
【0020】
<プリカーサーの製造>
本発明の炭素繊維製造用のプリカーサーとしては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、フェノール系、レーヨン系等のものが挙げられる。PAN系のものが最も高強度の炭素繊維が得られる。
【0021】
PAN系の場合、PAN系重合体を常法により紡糸し、必要により浴中延伸し、更に必要により乾燥、緻密化し、更にまた必要により含水率を調節して粗プリカーサーを得る。これらの工程自体は当業者に周知のもの例えば特開2002−309438号公報に記載されたものである。
【0022】
PAN系重合体としては、アクリロニトリルの単独重合体、及びイタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸等の極性単量体を5質量%以下共重合したPAN系共重合体を用いることができる。
【0023】
上記の粗プリカーサーは、必要によりその含水率が調節された後、スチーム延伸機に送られ、スチーム中で延伸(スチーム延伸)が行われる。
【0024】
スチーム延伸では、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度のうち最高温の温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理される。
【0025】
このスチーム延伸条件を逸脱した範囲で処理されたプリカーサーは、分子間のパッキングが未熟であり、高強度の炭素繊維を得るためには好ましくない。
【0026】
スチーム延伸条件においてスチーム温度がT℃未満の場合、延伸処理された糸(プリカーサー)に横縞ができる。この横縞を脈状という。延伸処理された糸100本を顕微鏡で観察し、脈状化した糸の本数の割合を脈状化率とする。
【0027】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−4)〜(T+4)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーの脈状化率が90%以下であることが好ましい(図2参照)。延伸した上記プリカーサーの脈状化率が90%を超える場合は、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多くなる。そのため、スチーム延伸装置、炭素化装置等の炭素繊維製造装置の運転状態を安定化させることが困難になる。
【0028】
スチーム延伸条件においてスチーム温度が(T−6)未満の場合又は(T+3)℃を超える場合、延伸処理された糸中にボイドを生じると共に、パッキングが悪くなる。パッキングが悪いと、得られる酸化繊維の比重(緻密性)が低くなるばかりでなく、最終的に高強度の炭素繊維を得る事が困難となる。さらに焼成工程での毛羽発生の原因ともなる。
【0029】
この糸中におけるボイド量の評価方法としては、以下の測定方法によって求められるL値を用いることができる。
【0030】
L値の測定では、標準白板に対する試料の明度をハンター色差計によって測定し、基準炭素繊維用前駆体繊維に対する明度を算出する。この値は、繊維中のボイドが多い場合に高い値を示し、緻密性が高くなると基準炭素繊維用前駆体繊維の値に近くなる。
【0031】
具体的には、炭素繊維用前駆体繊維は約5cmに切断してハンドカードにて綿上に開繊し2gをとる。油圧プレス機でプレスしてアニソール中に浸漬し、脱泡して、ハンター色差計にかけL値〔L値=測定値−標準値(5)〕を測定する。
【0032】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーのL値が30以下であることが好ましい(図3参照)。また、焼成工程での毛羽抑制や緻密性を保つためにも、得られたプリカーサーのL値は30以下であることが好ましい。
【0033】
スチーム延伸条件において、延伸処理されたプリカーサーの比重は、スチーム温度が(T−5)℃の時に最高値になり、その温度より高くても低くても低下する(図4参照)。
【0034】
上記プリカーサーの製造条件においてスチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内であり、得られたプリカーサーの比重が1.15以上であることが好ましい。延伸した上記プリカーサーの比重が1.15未満の場合は、このプリカーサーを酸化処理して得られる酸化繊維の比重(緻密性)が低くなるばかりでなく、最終的に高強度の炭素繊維を得る事が困難となる。さらに焼成工程での毛羽発生の原因ともなる。
【0035】
スチーム延伸条件において、延伸処理されたプリカーサーにおけるX線回折の配向度[広角X線測定(回折角17°(公知の値))における配向度]は、スチーム温度が(T−6)℃の時に最高値になり、その温度より高くても低くても低下する(図5参照)。
【0036】
広角X線測定(回折角17°)における配向度は、次のようにして求めることができる。
【0037】
延伸処理後のプリカーサーの単繊維約12000本を束にし、アセトンを用いて束を収束させながら繊維軸方向に繊維を引揃える。
【0038】
直径1.0cmの穴をあけた台紙に、繊維束の中央が穴の中央に来るように、繊維を緊張させた状態で貼付ける。その後、繊維軸と治具の軸が平行になるように、台紙を試料調整用治具に固定する。
【0039】
更に、この治具を透過法による広角X線回折測定試料台に固定する。X線源として、CuのKα線を使用し、試料に照射すると、2θが17度付近に回折パターン(二つのピークを有する)が現れる。
【0040】
この回折パターンのピーク角度を求め、それらの角度を含む360度の範囲について測定を行う。次いで得られたX線回折チャートのグラフ上にベースラインを引き、ピークの半値幅H1/2、H’1/2(度)を求め、下式
【0041】
【数1】
配向度=[360−(H1/2+H’1/2)]/360 (1)
によって配向度を計算する。
【0042】
本発明の方法で製造した上記プリカーサーは、その広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%以上であることが好ましい。
【0043】
延伸した上記プリカーサーの広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%未満の場合は、このプリカーサーから得られる炭素繊維の後述する広角X線測定(回折角26°)における配向度が低下するので好ましくない。
【0044】
以上、前記求めたT℃から(T−6)〜(T+4)℃を決定し、その温度と、その時の延伸倍率を、最適なプリカーサーの製造条件とする場合を説明したが、前記求めたP倍から(P−0.5)〜(P+1.0)倍を決定し、その延伸倍率と、その時の温度を、最適なプリカーサーの製造条件とする場合も同様である(図6参照)。
【0045】
<炭素繊維の製造>
以上の条件下で延伸処理されたプリカーサーは、公知の方法により、酸化性ガス雰囲気下で熱処理されて酸化繊維になる。その後、前記酸化繊維は不活性ガス雰囲気下で熱処理されて炭素繊維となり得る。さらに、炭素繊維の後加工をしやすくし、取扱性を向上させる目的で、サイジング処理することが好ましい。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。
【0046】
このようにして得られた炭素繊維は、高配向、且つ高強度を有し、毛羽や糸切れの少ない炭素繊維である。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を検討例、実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各検討例、実施例及び比較例における延伸後のプリカーサー及び炭素繊維の諸物性についての評価方法は、前述の方法又は以下の方法により実施した。
【0048】
<比重>
アルキメデス法により測定した。試料繊維はアセトン中にて脱気処理し測定した。
【0049】
<広角X線測定(回折角17°)における配向度>
X線回折装置:理学電機製RINT2050を使用し、回折角17°における配向度を半値幅H1/2、H’1/2から前述の式(1)により求めた。
【0050】
<広角X線測定(回折角26°)における配向度>
回折角を26°にした以外は、上記広角X線測定(回折角17°)における配向度と同様にして求めた。
【0051】
<引張り強度>
JIS R 7601に規定された方法により測定した。
【0052】
検討例1
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を湿式又は乾湿式紡糸し、水洗・乾燥して繊維直径22.0μmの粗プリカーサーを得た。この粗プリカーサーをスチーム延伸機に送り、ここで延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)107℃、110℃、113℃、117℃、120℃、123℃、127℃の条件でスチーム延伸し、図1〜5に示す諸物性のプリカーサーを得た。
【0053】
図1は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、繊維長方向に応力を掛け、繊維長の伸びと応力とを各スチーム温度で層別し、プロットして得た応力−ひずみ曲線(SSC)を示すグラフである。
【0054】
図1に示すように、スチーム温度が低い程(図1右上の矢印方向)、伸びに対する応力の傾きであって降伏点からの傾きが上昇し、パッキングが良くなった。但し、この傾きはスチーム温度117℃以下では、変化しなくなった。
【0055】
図2は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と脈状化率とをプロットして得たグラフである。
【0056】
図2に示すように、スチーム温度が高い程、脈状化率が低下し、スチーム温度113℃以上で脈状化率は90%以下となった。
【0057】
図3は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度とL値とをプロットして得たグラフである。
【0058】
図3に示すように、スチーム温度が113℃以下ではスチーム温度が高い程、L値が低下し、スチーム温度が113℃以上ではスチーム温度が高い程、L値が上昇した。このように、スチーム温度107〜120℃でL値は30以下となった。
【0059】
図4は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と比重とをプロットして得たグラフである。
【0060】
図4に示すように、スチーム温度が112℃以下ではスチーム温度が高い程、比重が上昇し、スチーム温度が112℃以上ではスチーム温度が高い程、比重が低下した。このように、スチーム温度107〜120℃で比重は1.15以上となった。
【0061】
図5は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と広角X線測定(回折角17°)における配向度とをプロットして得たグラフである。
【0062】
図5に示すように、スチーム温度が111℃以下ではスチーム温度が高い程、配向度が上昇し、スチーム温度が111℃以上ではスチーム温度が高い程、配向度が低下した。このように、スチーム温度110〜123℃で配向度は90.4%以上となった。
【0063】
実施例1〜3
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃の条件で得たプリカーサーを、酸化処理、炭素化処理を施して炭素繊維を製造した。これらの製造条件及び製造装置は通常のものであった。
【0064】
これらの後工程における炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れの発生は少なく、製造装置の運転状態を安定化させることができた。
【0065】
なお、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃で、それぞれ6350MPa、6400MPa、6300MPaであった。
【0066】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は何れも高いものであった。
【0067】
また、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、スチーム温度(処理温度)113℃、117℃、120℃で、それぞれ81.7%、81.5%、81.4%であった。
【0068】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は何れも高いものであった。
【0069】
比較例1
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)107℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0070】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0071】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6000MPaと低いものであった。
【0072】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.2%であった。
【0073】
比較例2
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)110℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0074】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、炭素化工程の焼成において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0075】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6220MPaと低いものであった。
【0076】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.6%であった。
【0077】
比較例3
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)123℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0078】
本比較例で用いたプリカーサーは、比重が1.14と低く、酸化処理して得られた酸化繊維の比重も低かった。ひいては、この酸化繊維を炭素化処理して得られた炭素繊維は、その引張り強度が6200MPaと低いものであった。
【0079】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.3%であった。
【0080】
比較例4
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、延伸倍率5.5倍、スチーム温度(処理温度)127℃の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例1〜3と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0081】
本比較例で用いたプリカーサーは、比重が1.12と低く、酸化処理して得られた酸化繊維の比重も低かった。ひいては、この酸化繊維を炭素化処理して得られた炭素繊維は、その引張り強度が6050MPaと低いものであった。
【0082】
本比較例で用いたプリカーサーは、広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.0%と低く、このプリカーサーを酸化処理、炭素化処理して得られた炭素繊維は、その広角X線測定(回折角26°)における配向度が81.1%と低いものであった。
【0083】
検討例2
検討例1で得た粗プリカーサーをスチーム延伸機に送り、ここでスチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率3.5倍、4.5倍、5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍、6.9倍、7.2倍の条件でスチーム延伸し、スチーム延伸条件検討用のプリカーサーを得た。
【0084】
図6は、上記の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、繊維長方向に応力を掛け、繊維長の伸びと応力とを各延伸倍率で層別し、プロットして得た応力−ひずみ曲線(SSC)を示すグラフである。
【0085】
図6に示すように、延伸倍率が高い程(図6右上の矢印方向)、伸びに対する応力の傾きであって降伏点からの傾きが上昇し、パッキングが良くなった。但し、この傾きは延伸倍率5.5倍以上では、ほぼ変化しなくなった。
【0086】
実施例4〜7
検討例2の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍の条件で得たプリカーサーを、酸化処理、炭素化処理を施して炭素繊維を製造した。これらの製造条件及び製造装置は通常のものであった。
【0087】
これらの後工程における炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れの発生は少なく、製造装置の運転状態を安定化させることができた。
【0088】
なお、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍で、それぞれ6260MPa、6350MPa、6390MPa、6300MPaであった。
【0089】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は何れも高いものであった。
【0090】
また、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、延伸倍率5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍で、それぞれ81.4%、81.7%、82.0、82.0%であった。
【0091】
このように、各スチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は何れも高いものであった。
【0092】
比較例5
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率3.5倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0093】
本比較例で用いたプリカーサーは、配向度が89.0%と低く、このプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0094】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、5700MPaと低いものであった。
【0095】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、80.4%であった。
【0096】
比較例6
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率4.5倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0097】
本比較例で用いたプリカーサーは、配向度が90.3%と低いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0098】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6100MPaと低いものであった。
【0099】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、80.9%であった。
【0100】
比較例7
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率6.9倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0101】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が98%と高く、このプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0102】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6200MPaと低いものであった。
【0103】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.6%であった。
【0104】
比較例8
検討例1の各スチーム延伸条件で得たプリカーサーのうち、スチーム温度(処理温度)113℃、延伸倍率7.2倍の条件で得たプリカーサーを用いた以外は、実施例4〜7と同様の条件で炭素繊維を製造した。
【0105】
本比較例で用いたプリカーサーは、脈状化率が100%と高く、このプリカーサーを得るためのスチーム延伸工程の延伸処理、及びこのプリカーサーを酸化処理後焼成する炭素化工程において毛羽発生が多いものであった。このように、炭素繊維製造装置(スチーム延伸装置、炭素化装置)の運転状態を安定化させることはできなかった。
【0106】
また、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の引張り強度は、6000MPaと低いものであった。
【0107】
なお、本比較例のスチーム延伸条件のプリカーサーから得られた炭素繊維の広角X線測定(回折角26°)における配向度は、81.0%であった。
【0108】
実施例1〜7及び比較例1〜8におけるスチーム延伸条件、製造工程の状況、得られた炭素繊維評価を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【発明の効果】
本発明のプリカーサーの製造方法によれば、任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線(SSC)の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理を、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理をするようにしているので、スチーム延伸処理するに際し、更に後工程の炭素繊維製造の際において、毛羽や糸切れを低減させ、製造装置の運転状態を安定化させることができる。
【0111】
また、本発明の製造方法によって得られるプリカーサー及び炭素繊維は、高配向、高強度のものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーの伸びと応力との関係を示すグラフである。
【図2】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と脈状化率との関係を示すグラフである。
【図3】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度とL値との関係を示すグラフである。
【図4】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と比重との関係を示すグラフである。
【図5】検討例1における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーについて、スチーム温度と広角X線測定(回折角17°)における配向度との関係を示すグラフである。
【図6】検討例2における各スチーム延伸条件で得たプリカーサーの伸びと応力との関係を示すグラフである。
Claims (6)
- 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理すること、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理することを特徴とするプリカーサーの製造方法。
- スチーム温度が(T−4)〜(T+4)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの脈状化率が90%以下である請求項1に記載のプリカーサーの製造方法。
- スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーのL値が30以下である請求項1に記載のプリカーサーの製造方法。
- スチーム温度が(T−6)〜(T+3)℃の範囲内で、延伸したプリカーサーの比重が1.15以上である請求項1に記載のプリカーサーの製造方法。
- 延伸したプリカーサーの広角X線測定(回折角17°)における配向度が90.4%以上である請求項1に記載のプリカーサーの製造方法。
- 任意の延伸倍率においてスチーム温度を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示すスチーム温度であって最も高い温度T℃を含み(T−6)〜(T+4)℃の範囲内の温度及びその時の延伸倍率でスチーム処理を、又は、任意のスチーム温度において延伸倍率を変えて延伸したプリカーサーの応力−ひずみ曲線の降伏点を超えた領域において応力−ひずみ曲線の最も大きな応力を示す延伸倍率であって最も低い延伸倍率P倍を含み(P−0.5)〜(P+1.0)倍の範囲内の延伸倍率及びその時の温度でスチーム処理をしてプリカーサーを得、その後前記プリカーサーを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して酸化繊維を得、その後前記酸化繊維を不活性ガス雰囲気下で熱処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
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2003
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CN111088538B (zh) * | 2018-10-23 | 2021-06-18 | 中国石油化工股份有限公司 | 沥青混合料用聚丙烯腈纤维的制备方法 |
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