JP2004357620A - キチン分解酵素 - Google Patents

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Tetsuya Fukazawa
徹也 深沢
Itsushin Tanaka
一新 田中
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Abstract

【課題】人体に安全な微生物に由来し、酸性条件及び高温条件において高い活性を有するキチナーゼを開発し提供すること。
【解決手段】アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の培養物から分離精製される、キチン分解酵素。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の培養物から分離精製されるキチン分解酵素に関する。また、該キチン分解酵素をコードするDNAおよび該キチン分解酵素の製造方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
〔1〕キチン分解酵素
キチン分解酵素(=キチナーゼ)は、パパイヤやイチジク等の植物及び微生物等から得られる酵素であり、キチン・キトサンの工業的利用において非常に重要な役割を果たしている。
【0003】
これまで、細菌由来のキチナーゼとしては、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属(非特許文献1参照)、サイトファーガ(Cytophaga)属、アクロモバクター・ヒテロプティカム(Acromobacter hyteropticum:非特許文献2参照)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属及びミクロコッカス・コルポゲネス(Micrococcus colpogenes)(非特許文献2参照)の生産するキチナーゼ並びに、アルテロモナス・エスピー(Alteromonas sp.)の生産するキチナーゼA(GenBank Accession No.D13762)等が知られている。
【0004】
また、放線菌の生産するキチナーゼとしては、ストレプトミセス(Streptomyces)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属及びアクチノミセス(Actinomyces)属の生産するキチナーゼが知られている(非特許文献3)。
【0005】
糸状菌の生産するキチナーゼとしては、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、タラロミセス(Talaromyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属及びペニシリウム(Penicillium)属の生産するキチナーゼが知られている。
【0006】
さらに、アスペルギルス属の生産する酵素としては、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans:非特許文献4参照)、アスペルギルス・カンディドス(Aspergillus candidus:非特許文献5参照)及びアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus:非特許文献6および7参照)の生産するキチナーゼが知られている。また、味噌やしょうゆ、日本酒の生産等、食品製造・加工において幅広く使用されているアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)に関しては、キチナーゼをコードすると考えられる遺伝子について学会発表があったとの報告(非特許文献8参照)がある。
【0007】
また、酵母の生産する酵素としては、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)の生産するキチナーゼを例示することができ、好適にはサッカロミセス・セレヴィシエの生産するキチナーゼ(GenBank Accession No.M74070)及びORF D9481.7(GenBank Accession No.U28373)である。
【0008】
〔2〕キチン・キトサン
キチン(β−1,4−ポリ−N−アセチルグルコサミン)は天然に非常に多く存在する多糖であり、主としてカニ・エビ等の甲殻類およびイカ軟甲から工業的規模で抽出され生産されている。
【0009】
キトサン(β−1,4−ポリグルコサミン)は、キチンを濃アルカリ水で処理することにより得られる、アミノ基を有する高分子多糖であり、さまざまな生理活性を有することが知られている(非特許文献9参照。)。なかでも、キトサンは天然物由来物質としては強力な抗菌作用を有し、かつ安全性が合成抗菌剤と比較して非常に高い(非特許文献10参照。)ことが知られている。
【0010】
特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methichilin−Resistant Staphylococcus aureus)(以下、「MRSA」と記す)を含むスタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(非特許文献11乃至非特許文献12参照)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(非特許文献13参照)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(非特許文献14および非特許文献15参照)等の細菌に対して効果があることが知られている。
【0011】
〔3〕キトサンの処理と問題点
カニ・エビ等の甲殻類やイカ軟甲から抽出されたキチンを濃アルカリ処理することによって製造されたキトサンは、分子量100万以上の高分子多糖であり、酸性条件では水に溶けるが、中性あるいはアルカリ性の条件では水に溶けない。そして、水に溶けない状態では、キトサンの生理活性は十分に発揮できない。
【0012】
また、甲殻類を含む食品材料を加工する際、これら高分子多糖が原因で非常に粘度が高い状態になってしまい、その後の処理に手間がかかるという問題もあった。
【0013】
キトサンの生理活性を十分に発揮させ、かつ、食品加工等の処理を効率化するには、キトサンの水に対する溶解性を増す必要がある。そのため、(i)高分子キトサンの誘導体化(非特許文献16)あるいは、(ii)低分子化する、といった試みがなされている。
【0014】
しかし、誘導体化には問題がある。キトサンを誘導体化することにより、天然物とは異なる構造となる可能性がある。その結果、誘導体化されたキトサンが、天然型のキトサンとは異なる性質を有するようになったり、使用に際しては安全性試験データ等が必要になったりする等の問題である。また、誘導体化反応に使用した有機溶媒の除去、処理が生産コストを引き上げるという問題もある。
【0015】
そこで、一般的に、水に対する溶解性を上げるためには、誘導体化する方法ではなく、低分子化が望ましいと考えられている。低分子化をしても、キトサンが有する抗菌活性は失われない。事実、キトサンが有する抗菌活性は、分子量が100万以上の高分子キトサンだけではなく、低分子キトサンでも発揮されることが知られている(非特許文献17)。
【0016】
しかし、一方で、分子量が1万以下のキトサンには、皮膚刺激性等の副作用があることが報告されていることから(特許文献1)、あまり低分子化し過ぎるのは好ましくなく、分子量1万以上の低分子キトサンの製造方法が検討されている。
【0017】
〔4〕低分子キトサンの製造法
低分子キトサンの製造方法としては、化学的あるいは酵素的手法による高分子キトサンの加水分解が検討されてきた。
【0018】
化学的製造方法としては、高分子キトサンを、(i)過酢酸等の酸化剤で処理する方法(特許文献2および特許文献3)、(ii)超音波処理する方法(非特許文献18)、(iii)塩酸処理する方法(特許文献4)等が挙げられる。
【0019】
しかし、酸化剤で処理する方法では分子量500−30,000のキトサンが大量に生成することが知られているものの、その中での分子量1万以上のキトサンの割合は定かではない。
【0020】
また、超音波で処理する方法では装置の大型化が困難であり、大量製造に不向きであると考えられる。さらに塩酸を用いる方法では、キトサンの塩酸塩以外の塩、例えば酢酸塩あるいは乳酸塩等の低分子キトサンを純粋に得ることは極めて困難である。
【0021】
一方、酵素的製造方法としては、キトサナーゼを用いる方法(特許文献5および特許文献6)、キチナーゼを用いる方法(非特許文献19)などが挙げられ、いずれの方法においても、分子量100万以上の高分子キトサンを酸性条件下水に可溶化し、酵素反応を行わせる。
【0022】
【特許文献1】
特開2000−169327号公報
【特許文献2】
特許第3076212号公報
【特許文献3】
特開平5−65368号公報
【特許文献4】
特開2003−128705号公報
【特許文献5】
特許第2763112号公報
【特許文献6】
特開平11−322809号公報
【非特許文献1】
ヴェルドカンプ(Veldkamp, H.)「ネイチャー(Nature)」1952年、169巻、p.500
【非特許文献2】
キャンプベルら(Campbell, Jr., L.L. et al.)「ジャーナル・オブ・ジェネラル・マイクロバイオロジー(Journal of General Microbiology)」1951年、5巻、p.894
【非特許文献3】
中神照太ら「工技院醗酵研究所報告」1966年、30巻、p.19
【非特許文献4】
タカヤら(Takaya, N., et al.)「(バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Bioscience Biotechnology and Biochemistry))1998年、62巻、p.60
【非特許文献5】
シェリフら(Sherif, A. A., et al.)「(アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Applied Microbiology and Biotechnology))1991年、35巻、p.228
【非特許文献6】
エスコットら(Escott, G. M., et al.)「(マイクロバイオロジー(Microbiology))1998年、144巻、p.1575
【非特許文献7】
キシャら(Xia, G., et al.)「(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Europian Journal of Biochemistry))2001年、268巻、p.4079
【非特許文献8】
「キチン・キトサン研究」2002年、第8巻、第2号、p.238−239
【非特許文献9】
「キチン・キトサンハンドブック」、1995年、技報堂、p.302−376
【非特許文献10】
「キチン・キトサンの活用法」、1998年、財界特別増刊第46巻28号、p.106−111
【非特許文献11】
「加工技術」1998年、33巻、p.512−515
【非特許文献12】
「加工技術」1998年、33巻、p.530−532
【非特許文献13】
トクラら(Tokura, S et al.)「マクロモレキュラー・シンポジア(Macromolecular Symposia)」1997年、120巻、p.1−9
【非特許文献14】
ロークら(Loke, WK et al.)「ジャーナル・オブ・バイオメディシナル・マテリアルズ・リサーチ(Journal of Biomedicinal Materials Research)」2000年、53巻、p.8−17
【非特許文献15】
キムら(Kim, H. J. et al.)「ジャーナル・オブ・バイオマテリアルズ・サイエンス、ポリマー・エディション(Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition)1999年、10巻、p.543−56
【非特許文献16】
「キチン・キトサンの活用法」財界特別増刊第46巻28号、1998年、p.78−81
【非特許文献17】
「日本農芸化学会誌74巻大会講演要旨集」講演番号2E183α、2000年
【非特許文献18】
「キチン・キトサン研究」1999年、5巻、p.75−79
【非特許文献19】
「日本農芸化学会誌74巻大会公演要旨集」講演番号2F313α、2000年
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、酵素的製造方法においては、酵素反応が酸性条件下で行なわれるので、酸性域で高い活性を有するとともに、安定性が高い酵素を使用することが望ましい。また、高分子キトサンの水溶液は常温では非常に高い粘度を有しており、可能な限り高い温度で酵素反応を行うことで粘度を減弱させ、反応効率の向上を図ることが望ましいことから、高温条件において高い活性を有する酵素を使用することが望ましい。加えて、食品加工や化粧品等に用いる場合、特にキチナーゼ産生微生物等、キチナーゼの由来に関して人体に安全なものが望ましい。
【0024】
したがって、人体に安全な微生物に由来し、酸性条件及び高温条件において高い活性を有するキチナーゼを開発し提供することは、この技術分野において非常に関心の高い事項であった。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、安全性に優れ、酸性域で高い活性を有するとともに安定性が高く、さらに耐熱性にすぐれた酵素を見出すべく鋭意検討を行い、いわゆる“コウジカビ”の一種として食品の製造等に有用である、アスペルギルス・ニガー由来のキチン分解酵素を精製し、該タンパク質をコードするDNAをクローニングし、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は、
(1) アスペルギルス・ニガーの培養物から分離精製されるキチン分解酵素。
【0027】
(2) アスペルギルス・ニガーがアスペルギルス・ニガー SANK 13603株である(1)記載のキチン分解酵素。
【0028】
(3) 配列番号1の部分アミノ酸配列を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載のキチン分解酵素。
【0029】
(4) 以下の性質:
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約40,000を示す;
2)等電点電気泳動法にて等電点pIが約3.5を示す;
3)30%アセチル化キトサン(粘度100〜300cps)を、pH3.0乃至pH11.0にて加水分解する;
4)グリコールキチンを、pH3.0乃至pH11.5にて加水分解する;
5)0℃乃至80℃で3)記載の加水分解活性を発揮する;
6)50℃以下の温度で安定である;
7)pH4.0乃至pH11.0のpH条件下で安定である;
を有する上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のキチン分解酵素。
【0030】
(5) 下記a)〜d):
a)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
b)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質;
c)a)またはb)に記載のアミノ酸配列において、一つまたは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、キチン分解活性を有することを特徴とするタンパク質;
d)a)またはb)に記載のアミノ酸配列を含むことからなるタンパク質、
のいずれか一つに記載のタンパク質である、キチン分解酵素。
【0031】
(6) 下記のa)〜e):
a)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列からなるDNA;
b)上記a)に記載のDNAと90%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、キチン分解活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とするDNA;
c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
d)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるDNA、
のいずれか一つに記載のDNA。
【0032】
(7) (6)に記載のDNAにコードされるタンパク質である、キチン分解酵素。
【0033】
(8) 下記のa)及びb):
a)30%アセチル化キトサン(粘度100〜300cps)を、pH3.5乃至pH10.5、0℃乃至80℃の条件にて加水分解する活性;
b)グリコールキチンを、pH4.0乃至pH10.5にて加水分解する活性、
に示される活性を有することを特徴とする、(5)または(7)に記載のキチン分解酵素。
【0034】
(9) 下記工程:
1)アスペルギルス・ニガーを、キチン分解酵素を産生する条件下で培養する工程、及び
2)1)の培養産物からキチン分解酵素を分離・精製する工程、
を含む、キチン分解酵素の製造方法。
【0035】
(10)アスペルギルス・ニガーを、オートミール及び/又は小麦ふすまを含有する培地を用いて培養する工程を含む、(9)に記載の方法。
【0036】
(11) アスペルギルス・ニガーが、アスペルギルス・ニガー SANK 13603株である、(9)又は(10)に記載の方法、及び
【0037】
(12) (9)〜(11)に記載の方法により製造されるキチン分解酵素
に関する。
【0038】
なお、上記(7)の6)及び7)に記載の、「安定である」とは、当該酵素が、約80%以上の残存活性(相対値)を有することをいう。これら上記6)、7)に相当する以下の記載についても同じである。
【0039】
本発明は、低分子キトサンを製造するために有用な糸状菌である、アスペルギルス・ニガー由来のキチナーゼに関する。
この明細書において、キチナーゼとは、キチン及び/又は部分アセチル化キトサンを加水分解する活性を有する酵素をいう。キチンを加水分解するとN−アセチルグルコサミンとそのオリゴ糖が生成する。この「キチン又は部分アセチル化キトサンを加水分解する活性」を「キチン分解活性」と定義する。
【0040】
また、この明細書においては、「キチン」と「部分アセチル化キトサン」とは特に区別せず、キチンとは、部分アセチル化キトサンのうち、アセチル化の割合が高いものであると理解され、本明細書においては、特に区別しない限り、「部分アセチル化キトサン」は、キチンをも含むと理解されなければならない。
また、本発明において、キチン分解酵素とキチナーゼはいずれも上記キチン分解活性を有する酵素を指し、同義語として用いる。
【0041】
本発明のキチナーゼには、キチナーゼを生産する微生物の培養物中のキチン分解活性を有するタンパク質が含まれる。このようなキチナーゼの例としては、アスペルギルス・ニガー由来のキチナーゼが挙げられる。より好適なものは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株由来のキチナーゼである。
【0042】
また、本発明のキチナーゼの別の例としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列を全て含み、かつ、キチン分解活性を有するタンパク質を挙げることができる。該タンパク質は、内部アミノ酸配列としてこれらの全てを含むものであればよい。
【0043】
また、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質において、1若しくは数個の部位に、1若しくは数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入および/または付加されたタンパク質も、キチン分解活性を有する限り、本発明に含まれる。
【0044】
また、本発明のキチナーゼの別の例としては、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。また、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むことからなるタンパク質であっても、キチン分解活性を有する限り本発明に含まれる。
【0045】
さらに、本発明のキチナーゼの別の例としては、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、N末端のα−アミノ基が修飾されているタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質を含むことからなるタンパク質も、キチン分解活性を有する限り本発明に含まれる。
【0046】
本発明のキチナーゼとして好適なものは、アスペルギルス・ニガー SANK13603株由来のキチナーゼ、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質および配列番号3に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、N末端のα−アミノ基が修飾されているタンパク質が挙げられるが、より好適なものは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株由来のキチナーゼおよび配列番号3に記載のアミノ酸配列からなり、かつ、N末端のα−アミノ基が修飾されているタンパク質である。
【0047】
本発明において、「本発明のDNA」とは、本発明のキチナーゼをコードするDNAをいう。DNAとしては、cDNA、ゲノムDNA、人工的に改変されたDNA、化学的に合成されたDNAなど、どのような形態をとっていてもよい。
【0048】
本発明のDNAの例としては、配列番号2のヌクレオチド番号233から1426に示されるヌクレオチド配列を有するDNAである。
【0049】
本発明のDNAの別の例としては、配列番号2のヌクレオチド番号233から1426に示されるヌクレオチド配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上のヌクレオチド配列相同性を有するDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、自然界で発見される変異型DNA、人為的に改変した変異型DNA、異種生物由来の相同DNAなどが含まれる。
【0050】
また、本発明のDNAのさらに他の例としては、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが挙げられる。なお、所望のアミノ酸に対応するコドンは、その選択も任意でよく、例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定できる。(Grantham, R. et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9, 143−174)。
【0051】
さらに、これらヌクレオチド配列のコドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した、部位特異的変異導入法(site specific mutagenesis/Mark, D. F. et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 5662−5666)などに従うことができる。
【0052】
なお、配列番号2のヌクレオチド番号233から1426に示されるヌクレオチド配列からなるDNAを含むことからなるDNAも、キチン分解活性を有するタンパク質をコードする領域を含む限り、本発明に含まれるものである。
【0053】
また、本発明のキチナーゼには、本発明のDNAによりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。また、本発明のキチナーゼにおいて、1若しくは数個のアミノ酸を欠失させた改変体を作製するためには、エキソヌクレアーゼBal31等を用いてDNAを末端から削る方法(岸本 利光ら“続生化学実験講座1・遺伝子研究法II”335−354)、カセット変異法(岸本 利光、“新生化学実験講座2・核酸III 組換えDNA技術”242−251)などに従うことができる。
【0054】
このように、本発明のDNAを元に遺伝子工学的手法により得られるタンパク質であっても、キチン分解活性を有する限り本発明に含まれる。
【0055】
このようなキチナーゼは、必ずしも配列番号3に記載のアミノ酸配列の全てを有するものである必要はなく、例えばその部分配列からなるタンパク質であっても、該タンパク質がキチン分解活性を示す限り、本発明のキチナーゼに包含される。さらに、このようなキチナーゼをコードするDNAも本発明に含まれる。
【0056】
本発明に用いるキチナーゼは、キチナーゼ生産菌から精製したもの、粗精製したもの、菌体の破砕液の他、菌体の培養上清をそのまま用いたものでも良い。
【0057】
ここで、キチナーゼ生産菌とは、キチナーゼ生産能を本質的に先天的に有する微生物をいい、キチナーゼを菌体内に蓄積する微生物や、菌体外に分泌する微生物等を含む。
【0058】
本発明に用いるキチナーゼ生産菌としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)を挙げることができ、好ましくはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株を挙げることができる。
【0059】
キチン分解酵素を産生する条件について以下に記載する。
キチナーゼ生産菌を培養する際には、培地中に炭素源、窒素源の他に粉末キチン、粉末キトサン、コロイダルキチン、コロイダルキトサン、オートミール、酵母細胞壁、小麦ふすま等を添加して培養するのが好ましい。キチナーゼ生産菌の培養終了後に遠心分離を行ない、菌体を除いた培養上清をそのまま粗酵素液として用いることができる。また、粗酵素液をイオン交換クロマトグラフィー等によって粗精製したり、精製したりしたものを用いることもできる。
【0060】
キチナーゼ生産菌の培養は、通常の培養装置、培地を用いて行なうことができる。培養は液体培養、固体培養等の方法を適宜選択できる。液体培養の場合はフラスコ培養や発酵槽を用いた培養を行なうことができ、培養開始後は培地の追加のないバッチ培養法や培養中に適宜培地を添加していく流加培養法を用いることができる。培地には炭素源、窒素源を添加し、必要に応じてビタミン、微量金属等を添加することができる。
【0061】
炭素源としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ラクトース、スクロース等の二糖類、デンプン等の多糖類、マルトエキストラクト等を挙げることができるがキチナーゼ生産菌が生育する限りこれらに限定されない。
【0062】
窒素源としてはアンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、イースト・エクストラクト、マルトエクストラクト、コーンスティープリカー、ペプトン等の有機窒素が用いられるがキチナーゼ生産菌が生育する限りこれらに限定されない。
【0063】
また、キチナーゼ生産菌のキチナーゼの生産量を増やすために、培地中に粉末キチン、粉末キトサン、コロイダルキチン、コロイダルキトサン、オートミール、酵母細胞壁、小麦ふすま等を添加することもできる。
【0064】
ここで、本発明者は、特にアスペルギルス・ニガーを用いる場合、オートミール及び/又は小麦ふすまを含有する培地で培養することにより、キチナーゼ生産量が飛躍的に上昇することを見出した。
【0065】
通常、基質分解酵素を産生する微生物から当該酵素を得ようとする場合、基質を添加した培地中で微生物を培養する方法が採用される。
しかしながら、従来、糸状菌を用いる場合、キチン質を基質として添加した培地を用いる通常の培養方法ではすぐに生育障害が起こり、キチナーゼが得られないか、又は、ごくわずかしか得られなかった。
【0066】
ところが、本発明者らは偶然にも、アスペルギルス・ニガーを用いた培養系において、オートミール及び/又は小麦ふすまを含有する培地を用いた場合に、キチナーゼの生産量が飛躍的に上昇することを見出したのである。
【0067】
これらの培地中の組成物量は適宜選択することができる。培養温度、pH、通気攪拌量はキチナーゼ生産に適するように適宜選択することができる。ただし、オートミール及び/又は小麦ふすまを用いる場合、その濃度(両者を用いる場合にはその合計の濃度)は、好ましくは0.05〜10%(w/v)であり、さらに好ましくは0.1〜5.0%、最も好ましくは0.3〜1.0%の範囲である。
【0068】
本発明に用いるキチナーゼとしては、アスペルギルス・ニガー由来のキチナーゼを用いることができ、好ましくはアスペルギルス・ニガーSANK 13603株由来のキチナーゼを用いることができる。
【0069】
キチナーゼは、これらキチナーゼ生産菌自身が生産するものでもよいし、その変異体または修飾体が生産するものであってもよく、更に、これらキチナーゼ生産菌のキチナーゼをコードする遺伝子を宿主に導入して得られた形質転換体から生産される組換えタンパク質であってもよい。
【0070】
キチナーゼ生産菌の入手
本発明の酵素の製造法において用いられるアスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌株としては、例えばアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger Tiegh.)SANK 13603株を挙げることができる。SANK 13603株は茨城県つくば市において採集した土壌より分離したものである。
【0071】
SANK 13603株をクリックとピットの文献(Klich M. A. & Pitt J. I. 1988. A laboratory guide to common Aspergillus species and their teleomorphs. CSIRO, North Ryde)に従い、3種類の培地(CYA培地,MEA培地, CY20S培地)に接種して、菌学的性状を観察した。
【0072】
色調の表示は「メチューン・ハンドブック・オブ・カラー」(Kornerup A. & Wanscher J. H. 1978. Methuen handbook of colour(3rd. edition). Erye Methuen, London)に従った。
3種類の培地(CYA培地,MEA培地,CY20S培地)の組成は以下の通りである。
【0073】
CYA培地{ザペックイーストアガー(Czapek Yeast Extract Agar)培地}(KHPO 1.0g,*ザペック濃縮液10ml,イーストエキス 5g,スクロース 30g,寒天 15g,蒸留水 1000ml)
【0074】
*ザペック濃縮液(NaNO 30g,KCl 5g,MgSO・7HO 5g,FeSO・7HO 0.1g,ZnSO・7HO 0.1g,CuSO・5HO 0.05g 蒸留水 100ml)
【0075】
MEA培地{モルトエキスアガー(Malt Extract Agar)培地}(モルトエキス20g,ペプトン 1g,グルコース 20g,寒天 20g,蒸留水 1000ml)
【0076】
CY20S培地{20%シュークロースザペックイーストアガー(Czapek Yeast Extract Agar with 20% Sucrose)培地}(KHPO 1.0g,*ザペック濃縮液 10ml,イーストエキス 5g,シュークロース 200g,寒天 15g,蒸留水 1000ml)
【0077】
菌学的性状
CYA培地上でのコロニーは、25℃、7日の培養で直径27−31mmである。コロニーは綿毛状である。分生子形成はコロニー中心部で旺盛、放射状に溝を有し、分生子形成部は黒色である。菌糸は白色乃至淡黄色である。菌核、浸出液や可溶性色素は観察されない。裏面はイエロイッシュホワイト(3A2)を呈する。MEA培地上でのコロニーは、25℃、7日の培養で直径38−45mmである。コロニーは綿毛状である。菌糸は白色乃至黄色である。分生子形成は中心部で旺盛であり、分生子形成部は黒色である。裏面はペールイエロー(3A3)を呈する。
【0078】
CY20S培地上でのコロニーは、25℃、7日の培養で直径32−36mmである。コロニーはCYA培地上のコロニーに似る。裏面はパステルイエロー(3A4)を呈する。CYA培地37℃でのコロニーは、7日の培養で直径44−48mmである。分生子形成は旺盛で菌糸は目立たない。
【0079】
分生子頭は放射状。分生子柄は550−700×10−23μm、平滑で厚壁、無色である。頂のうは幅25−55μm、ほぼ球形で全体にメトレを形成する。メトレは6−16×3.5−5μm。フィアライドは5−10×3−4μmである。分生子は直径3.5−5μm、球形で、微細な粗面乃至粗面である。
【0080】
以上の菌学的性状より、本菌に該当する菌を検索したところ、クリックとピットの文献(Klich M. A. & Pitt J. I. 1988. A laboratory guide to common Aspergillus species and their teleomorphs. CSIRO, North Ryde)、ジアンらの文献(Tzean S. S. et al. 1990. Aspergillus and related telemorphs from Taiwan. Food Industry Research and Development Institute, Hsinchu)、クリックの文献(Klich M. A. 2002. Identification of common Aspergillus species. The Centraalbureau voor Schimmelcultures, Utrecht)に記載されているアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger Tiegh.)の性状に、各培地上での生育が遅い点を除きほぼ一致した。よって本菌株をアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger Tiegh.)と同定した。
【0081】
尚、SANK 13603株は、アスペルギルス ニガー SANK 13603株として、平成15年5月30日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託され、受託番号 FERM BP−8389が付された。
【0082】
周知の通り、糸状菌は自然界において、または人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こしやすく、本発明のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株もその点は同じである。
【0083】
本発明にいうアスペルギルス・ニガーSANK 13603株はその全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組み換え、形質導入、形質転換等によりえられたものも含有される。即ち、キチナーゼを生産するアスペルギルス・ニガーSANK 13603株、それらの変異株およびそれらと明確に区別されない菌株は全てアスペルギルス・ニガーSANK 13603株に包含される。
【0084】
また、本発明のキチナーゼは、ベクターに本発明のDNAが挿入された組換えプラスミドで宿主細胞を形質転換し、該形質転換された細胞の培養産物から得る事もできる。このように適当なベクターに本発明のDNAが挿入された組換えプラスミドも本発明に含まれる。
【0085】
このような目的に用いるベクターとしては、一般に知られているさまざまなベクターを用いることができる。好適なものとしては、原核細胞用ベクター、真核細胞用ベクター、哺乳動物由来の細胞用ベクターなどが挙げられるが、これに限定されない。このような組換えプラスミドにより、他の原核生物、または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。
【0086】
さらに、適当なプロモーター配列および/または形質発現に関わる配列を有するベクターを用いるか、もしくはそのような配列を導入することにより、発現ベクターとすることで、それぞれの宿主において遺伝子を発現させることが可能である。このような発現ベクターは、本発明の組換えプラスミドの好適な態様である。
【0087】
本発明の組換えプラスミドを、各種細胞に導入することにより、宿主細胞を得ることができる。このような細胞は、プラスミドを導入することができる細胞であれば原核細胞であっても真核細胞であってもよい。
【0088】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などが挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0089】
例えば、大腸菌としてはK12株などがよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株、およびベクターがいずれも使用できる。
【0090】
プロモーターとしては、大腸菌においては、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等が挙げられ、どのプロモーターも本発明のキチナーゼの産生に使用することができる。
【0091】
枯草菌としては、例えば207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura, K. et al. (1984) J. Biochem. 95, 87−93)などが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0092】
プロモーターとしては、枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
【0093】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、哺乳動物由来の細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y. (1981) Cell 23, 175−182、ATCC CRL−1650)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4126−4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0094】
脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani, S. et al. (1981) Mol. Cell. Biol. 1, 854−864)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0095】
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、およびRNAスプライス部位を具えたものを用いることができる。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res, 11, 1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J. (1973) Virology 52, 456−457)、および電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al. (1982) EMBO J. 1, 841−845)などによりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989): ”Molecular Cloning A Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory, NY)やpSV2−neo(Southern, P. J. and Berg, P. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1, 327−341)などをコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、本発明のキチナーゼを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
【0096】
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf−9またはSf−21)やTrichoplusia niの卵細胞由来 High Five細胞(Wickham, T. J. et al, (1992) Biotechnol. Prog. I: 391−396)などが宿主細胞としてよく用いられ、バキュロウイルストランスファーベクターとしてはオートグラファ核多角体ウイルス(AcNPV)のポリヘドリンタンパク質のプロモーターを利用したpVL1392/1393がよく用いられる(Kidd, I. M. and V.C. Emery (1993) The use of baculoviruses as expression vectors. Applied Biochemistry and Biotechnology 42, 137−159)。
【0097】
この他にも、バキュロウイルスのP10や同塩基性タンパク質のプロモーターを利用したベクターも使用できる。さらに、AcNPVのエンベロープ表面タンパク質GP67の分泌シグナル配列を目的タンパク質のN末端側に繋げることにより、組換えタンパク質を分泌タンパク質として発現させることも可能である(Zhe−mei Wang, et al. (1998) Biol. Chem., 379, 167−174)。
【0098】
真核微生物を宿主細胞とした発現系としては、酵母が一般によく知られており、その中でもサッカロミセス属酵母、例えばパン酵母Saccharomyces cerevisiaeや石油酵母Pichia pastorisが好ましい。該酵母などの真核微生物の発現ベクターとしては、例えば、アルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター(Bennetzen, J. L. and Hall, B. D. (1982) J. Biol. Chem. 257, 3018−3025)や酸性フォスファターゼ遺伝子のプロモーター(Miyanohara, A. et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 1−5)などを好ましく利用できる。
【0099】
また、分泌型タンパク質として発現させる場合には、分泌シグナル配列と宿主細胞の持つ内在性プロテアーゼあるいは既知のプロテアーゼの切断部位をN末端側に持つ組換え体として発現することも可能である。例えば、トリプシン型セリンプロテアーゼのヒトマスト細胞トリプターゼを石油酵母で発現させた系では、N末端側に酵母のαファクターの分泌シグナル配列と石油酵母の持つKEX2プロテアーゼの切断部位をつなぎ発現させることにより、活性型トリプターゼが培地中に分泌されることが知られている(Andrew, L. Niles,et al. (1998) Biotechnol.Appl. Biochem. 28, 125−131)。
【0100】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、または細胞外に本発明のキチナーゼが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ改変イーグル培地(以下「DMEM」という)などの培地に、必要に応じウシ胎児血清などの血清成分を添加したものを使用できる。
【0101】
培養条件としては、CO2濃度は0乃至50%の範囲であればよく、好適には1乃至10%でありより好適には5%である。培養温度は0乃至99℃であればよく、好適には20乃至50℃であり、より好適には35乃至40℃である。
【0102】
上記培養により形質転換体の細胞内または細胞外に組換えタンパク質として産生される本発明のキチナーゼは、培養産物中から、そのタンパク質の物理化学的性質、化学的性質、生化学的性質(酵素活性など)等を利用した各種の分離操作(「生化学データブックII」、1175−1259項、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, vol. 25, No.25, p8274−8277 (1986); Eur. J. Biochem., 163, p313−321 (1987)等参照)により分離、精製することができる。
【0103】
該方法としては、具体的には、例えば通常の再構成処理、タンパク沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、凍結融解法、超音波破砕、限外ろ過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、それらの組み合わせ等を例示できる。上記により、高収率で所望の組換えタンパク質を工業的規模で製造できる。また、発現させる組換えタンパク質に6残基からなるヒスチジンを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。上記方法を組み合わせることにより容易に高収率、高純度で本発明のキチナーゼを大量に製造できる。
以上のような方法により製造されたキチナーゼも本発明の好適な例としてあげる事ができる。
【0104】
部分アセチル化キトサンとは、キトサンのアミノ基の一部がアセチル化されているものをいい、キチンをアルカリで脱アセチル化することによって製造することができる。部分アセチル化キトサンのアセチル化度はアルカリ濃度、反応時間等により制御することができる。また、分子量が100万以上のものを特に高分子部分アセチル化キトサンと呼ぶ。分子量100万以上の高分子部分アセチル化キトサンとしては、例えば、エビ・カニ由来の30%、20%、10%アセチル化キトサン(商品名 キトサン7B、8B、9B(いずれも加ト吉(株)製))を用いることができるが、これらに限定されない。エビ、カニに含まれる天然のキチンは、よりアセチル化度が高い高分子部分アセチル化キトサンであり、これらも部分アセチル化キトサンとして用いることができる。
【0105】
キチナーゼの加水分解活性は、Schales変法(Imoto, T. and Yagashita, K., Agric. Biol. Chem., 35, 1154(1971))に従って測定できる。
グリコールキチンは、R. Senzyu and S. Okimasu, Nippon Nogeikagaku Kaishi, 23, 432 (1950)に記載されている方法によって製造することができる。
【0106】
キチナーゼ生産菌から得られたキチナーゼの具体的な性質について以下に示すが、本発明のキチナーゼの有する性質はこれらに限定されるものではない。
【0107】
アスペルギルス・ニガーSANK 13603株により生産され、精製されたキチナーゼは、以下の性質を有する。
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約40,000を示す。
2)等電点電気泳動法にて等電点pIが約3.5を示す。
3)キトサン7B(加ト吉(株)製)を、pH3.0乃至pH11.0にて加水分解する。
4)グリコールキチンを、pH3.0乃至pH11.5にて加水分解する。
5)80℃以下で3)記載の加水分解活性を発揮する。
6)3)記載の加水分解活性の最適pHはpH5.0である。
7)4)記載の加水分解活性の最適pHはpH9.0である。
8)3)記載の加水分解活性の最適温度はpH5.0では70℃である。
9)50℃以下の温度で安定である。
10)pH4.0乃至pH11.0のpH条件下で安定である。
11)キトサン7Bに対する酵素のpH5.0、温度37℃における10分間の加水分解活性を、相対値として表1に示す。
【0108】
表中、キトサン10Bは1%アセチル化キチン、キトサン9Bは10%アセチル化キチン、キトサン8Bは20%アセチル化キチン、キトサン7Bは30%アセチル化キチンである(いずれも加ト吉(株)製)。CM−セルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである(和光純薬社製)。グリコールキチンは、前述の方法により調製する。
【0109】
【表1】
Figure 2004357620
【0110】
表1から、この酵素は、pH5.0においてはグリコールキチンよりもアセチル化度が20〜30%の部分アセチル化キトサン(キトサン8B、7B)に対する加水分解活性が高く、アセチル化度が1%以下のキトサン(キトサン10B)に対する加水分解活性がほとんどないことがわかる。カルボキシメチルセルロースナトリウムに対する加水分解活性はない。
【0111】
12)下記に示す部分アミノ酸配列を有する。配列は、N末端側から記す。
Leu−Ser−Gln−Met−Thr−Pro−Tyr−Leu−Asp−Phe−Tyr−Asn−Leu−Met−Ala (配列番号1)
13)タンパクのN末端アミノ酸が修飾されている。
【0112】
以上のことから、本発明のキチナーゼの有する性質としては以下のようなものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約40,000を示す。
2)等電点電気泳動法にて等電点pIが約3.5を示す。
3)キトサン7Bを、pH3.0乃至pH11.0にて加水分解する。
4)グリコールキチンを、pH3.0乃至pH11.5にて加水分解する;
5)0℃乃至80℃で3)記載の加水分解活性を発揮する;
6)50℃以下の温度で安定である;
7)pH4.0乃至pH11.0のpH条件下で安定である。
【0113】
また、本発明のキチナーゼを製造する方法も本発明に含まれる。
アスペルギルス・ニガーSANK 13603株を初めとするキチナーゼ産生微生物を培地で培養することにより、キチナーゼを生産することができる。例えば、0.1〜5.0%マルトエクストラクト(Difco(株)製)及び0.1〜1.0%イーストエキストラクト(Difco(株)製)に加えて、
0.05〜1.0%キチン、
0.05〜1.0%キトサン、
0.05〜10%オートミール
0.05〜10%酵母細胞壁、及び/又は
0.05〜10%小麦ふすま
の培地で、16〜45℃で1〜15日間、100〜250rmpで振とう培養する。
【0114】
本発明のキチナーゼは、扱いにくい試料をより扱い易くする為にも有効に用いる事ができる。従来、甲殻類などを含む試料を、粉砕する,すり潰す、ミキサーにかけるなどの加工をした場合、粘度が非常に高くなり、扱いにくかった。これは、これら甲殻類に大量に含まれる高分子多糖(主成分は高分子部分アセチル化キトサン)が原因であった。たとえば、このような食品加工の過程に、本発明のキチナーゼを加えて反応させ、その液性成分中の高分子部分アセチル化キトサンを分解し、その液性成分中に高分子部分アセチル化キトサンを実質的に含まない、扱い易い試料を製造することが可能であり、キチナーゼを用いた扱い易い試料の製造方法も本発明に含まれる。
【0115】
このような製造方法に用いる原材料としては、高分子部分アセチル化キトサンを含む試料であれば特に限定されないが、好ましくは、甲殻類を含む試料であり,より好ましくはエビおよびカニのいずれか一つまたは両方を含む試料である。
【0116】
原材料とキチナーゼの反応条件としては上記のキトサン分解活性を発揮する条件を適用することができる。反応時間は10分以上であって、試料の粘度が低い状態になる時間であれば特に限定されないが、好ましくは10分間から10日間程度であり、より好ましくは1日間から5日間程度である。また、このような方法によって製造された試料も本発明に含まれる。
【0117】
「その液性成分中に高分子部分アセチル化キトサンを実質的に含まない」とは、試料に高分子部分アセチル化キトサンが含有される事によりもたらされる、高い粘性が減少または消失した状態を指し、厳密に濃度として0%であることを指さないが、好ましくは高分子部分アセチル化キトサンの含有量が20%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、最適には0%である。
【0118】
以下に、実施例及び試験例を挙げるが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0119】
【実施例】
実施例1.アスペルギルス・ニガーSANK 13603株からのキチナーゼの精製
1)粗酵素液の調製
滅菌した表2の組成の培地100mlが入っている500ml容の三角フラスコ(種フラスコ)にアスペルギルス・ニガーSANK 13603株の菌体を接種し、26℃にて8日間、170rpmの振とう培養を行った。
【0120】
【表2】
Figure 2004357620
【0121】
培養終了後、4℃、10,000×Gにて10分間の遠心分離を行った。得られた上清を粗酵素液とした。
【0122】
2)酵素活性測定法
キチナーゼの加水分解活性は以下のようにして測定した。
▲1▼部分アセチル化キトサンの加水分解反応
キトサン7B(30%アセチル化キトサン、加ト吉(株)製)125mgに水50mlおよび1N塩酸400μlを加え、粉末キトサンを完全に溶解させた。キトサン8B(20%アセチル化キトサン、加ト吉(株)製)、キトサン9B(10%アセチル化キトサン、加ト吉(株)製)、キトサン10B(ほぼ完全な脱アセチル化キトサン、加ト吉(株)製)も同様にして完全に水溶液とした。これらのキトサン水溶液96μl、400mM 酢酸緩衝液(pH5.0)150μlおよび水244μlの混合液に酵素液100μlを加え撹拌して均一にし、37℃で保温して10分間酵素反応を行った。
【0123】
▲2▼シェールズ変法による遊離還元糖の定量
フェリシアン化カリウム100mgを0.5N炭酸ナトリウム水溶液200mlに溶かした溶液800μlを酵素反応液に加えて反応を停止させた後、100℃で15分間保温した。氷冷後、沈殿物を遠心分離し上清の420nmにおける吸光度を測定した。酵素反応1分間当たり1μmolのアセチルグルコサミンを生成する酵素活性を1単位とした。
【0124】
3)精製酵素液の調製
1)で得られた粗酵素液500mlを10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)4,000mlに対して12時間ずつ5回透析した。これを、予め10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAEトヨパール(東ソー(株)製)カラム(直径2.2cm×長さ20cm)に添加し、吸着させた。10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で該カラムを十分洗浄した後、10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)600ml中に0乃至0.4Mの塩化ナトリウムの直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。キチン分解活性は塩化ナトリウム濃度が0.20M乃至0.25Mの画分(75ml)に溶出された。これを粗精製酵素画分とした。
【0125】
得られた活性画分75 mlを10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)4,000mlに対して12時間ずつ3回透析した後、予め10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したMonoQ(ファルマシア社製)カラム(直径7mm×長さ5cm)に添加し、吸着させた。該カラムを10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で十分洗浄した後、10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)250ml中に0乃至0.3Mの塩化ナトリウムの直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。キチン分解活性は塩化ナトリウム濃度が0.1M乃至0.115Mの画分(10ml)に溶出された。
この画分を精製酵素溶液とした。
【0126】
5)精製酵素の分子量測定
12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGE電気泳動法(Laemmli, U.K., Nature, 227, 680(1970)参照)により、精製酵素の分子量を求めた。標準タンパク質として次のものを用いた:a.ホスホリラーゼ(phosphorylase)、分子量94,000:b.アルブミン(albumin)、分子量67,000:c.オバルブミン(ovalbumin)、分子量43000:d.カルボニック・アンヒドラーゼ(carbonic anhydrase)、分子量30,000:e.トリプシン・インヒビター(trypsin inhibitor)、分子量20,100:f.α−ラクタルブミン(α−lactalbumin)、分子量14,400。
精製酵素は分子量約40,000の単一バンドを示した。
【0127】
6)精製酵素の等電点
精製酵素を等電点電気泳動(日本生化学会編「生化学実験講座1 タンパク質の化学I 分離精製、東京化学同人刊(1976年)」262乃至312頁参照)に供した。精製酵素の等電点は約pI3.5であった。
【0128】
7)部分アミノ酸配列の決定
精製した酵素溶液を約1mg/ml程度まで限外濾過膜(ADVANTEC社製 ULTRA FILTER UNIT USY−1、分子量分画1万)を用いて濃縮した。濃縮酵素液400μlにDenature buffer(6M塩酸グアニジン、10mM EDTA、0.1M炭酸水素アンモニウムpH 7.8)400μlおよび50mM ジチオスレイトール 8μlを加え、95℃で10分間反応させた。室温まで冷却後、反応液にDenature buffer溶液に溶解した50mM ヨードアセトアミド40μlを加え、暗所室温で1時間反応させた。この溶液をSlide−A−Lyzer Mini Dialysis Units Plus Float(PIERCE社製、分子量分画1万)で水1Lに対して透析した。得られた溶液にトリプシン(Modified、Promega社製)8μlを加え、37℃で7時間酵素反応させた。反応液をSMART system(Pharmacia Biotech社製)にかけて分解アミノ酸のピークを分離した。分離条件を以下に示す。
【0129】
カラム:Nomura Chemical Develosil 300 CDS−HG−5 (1mm×150mm)
A buffer:0.1%TFA/Water
B buffer:0.1%TFA/Acetonitril
グラジエント:10→70%B 2%/ml
Flow:50μl/分
【0130】
分離した分解アミノ酸のうち、ピーク(B buffer濃度48%程度)を分取し、これについてアミノ酸配列解析装置(Procise cLC、Applied Biosystem社製)でアミノ酸配列を解析した。その結果得られた部分アミノ酸配列をアミノ末端側から記す。
【0131】
Leu−Ser−Gln−Met−Thr−Pro−Tyr−Leu−Asp−Phe−Tyr−Asn−Leu−Met−Ala(配列番号1)。
【0132】
実施例2.アスペルギルス・ニガー由来のキチナーゼをコードするDNAの同定
2−1)アスペルギルス・ニガーの全RNAの精製
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株を液体培地(1% マルト エクストラクト、0.5% イースト エクストラクト、0.5% Glucose)20mlで30℃、3日間前培養した。その後、液体培地(1% マルト エクストラクト、0.5% イースト エクストラクト、0.5% スクロース)に1%植菌し、30℃で5日間培養した。培養した菌体を吸引集菌し、−80℃で冷やした乳鉢(オートクレーブ滅菌済)に移した。液体窒素を加えながら、乳棒で菌体を破砕し、粉末状にした。完全に粉末状になった菌体をRneasy Plant Mini Kit (キアゲン社製)を用いて全RNAの精製を行った。85ng/μlの濃度のものが50μl得られた。
【0133】
2−2)アスペルギルス・ニガー由来二本鎖cDNAライブラリーの作製
アスペルギルス・ニガーのcDNAライブラリーは、SMART cDNA Library Construction Kit (クロンテック社製)を用いて作製した。具体的には2−1)で精製したRNAを鋳型として逆転写酵素で一本鎖cDNAを作った後、PCRにより二本鎖cDNAライブラリーを構築した。
【0134】
2−3)キチナーゼ遺伝子配列の解読
2−2)で得たcDNAライブラリーを鋳型として、Ex TaqTM(タカラバイオ社製)を使用してPCRをおこなった。このときに使用したプライマーは、5’−GGTATCAACGCAGAGTGGCCATTAC−3’および5’−GGCATAGTCGTAGGCCATCAAATTG−3’の組み合わせで5’側の遺伝子配列を増幅した。また、3’側の配列は5’−ATTCTAGAGGCCGAGGCGGCCGACAT−3’および5’−GCCATTTACGGGCGCAACTACAATC−3’の組み合わせで増幅した。PCRサイクルは、94℃・5分、(94℃・30秒、50℃・30秒、72℃・2分)×30、72℃・5分、4℃で増幅した。5′側の遺伝子配列約850b.p.、3′側の遺伝子配列約1,300b.p.の長さのDNAが増幅された。
【0135】
各々のPCR産物をアガロースゲル電気泳動をおこなった後、QIAquick Gel Extarction Kit(Qiagen社製)で精製した。精製物をTOPOTMTAクローニングキット(インビトロジェン社製)を用いてベクターに連結し、形質転換をおこなった。形質転換した大腸菌を37℃、一晩寒天培地(LB/Agar(和光純薬製))上で培養した後、生育したコロニーを37℃、一晩液体培地(LBbroth(和光純薬製))で培養した。増殖した大腸菌からプラスミドをQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、DNA配列解析をおこなった。DNA配列解析の結果を配列番号2に示した。また、DNA配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号3に示した。
【0136】
試験例1.アスペルギルス・ニガー SANK 13603株由来のキチナーゼの精製酵素液の諸性質
実施例1.3)で得られた精製酵素液について、活性測定を行なった。
1)pH活性
キトサン7B溶液96μl、400mM緩衝液150μlおよび水244μlの混合液に、酵素液100μlを加え撹拌して均一にし、37℃で10分間酵素反応を行った。酵素反応後の遊離還元糖の定量は実施例1 2)記載の方法にしたがった。緩衝液は次のものを用いた:pH2.8乃至pH6.0の場合、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液:pH 6.0乃至pH8.2の場合、リン酸1水素2ナトリウム−リン酸2水素1ナトリウム緩衝液:pH7.7乃至pH9.3の場合、トリス−塩酸緩衝液:pH9.5乃至pH11.0の場合、炭酸1水素2ナトリウム−炭酸2水素1ナトリウム緩衝液:pH11.0乃至pH12.4の場合、リン酸1水素2ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液。最も活性が高かったpH条件での加水分解活性を100%とし、各pHにおける酵素の加水分解活性を相対値として図1に記載した。至適pHはpH5.0付近であった。グリコールキチンを基質として用いたときにも、同様の条件でpH活性を測定した。結果を図2に示した。至適pHはpH9.0付近であった。
【0137】
2)温度活性
pH5.0の条件下において、種々の温度で加水分解活性を測定した。5分間予熱した実施例1で作製したキトサン7B溶液96μl、400mM酢酸緩衝液(pH5.0)150μlおよび水244μlの混合液に、酵素液100μlを加え撹拌して均一にし、10分間酵素反応を行った。酵素反応後の遊離還元糖の定量は実施例1にしたがった。最も高い活性を示した温度条件で測定された加水分解活性を100%とし、各温度における加水分解活性を相対値として図3にまとめた。
【0138】
3)温度安定性
精製酵素溶液を種々の温度で30分間処理した後、その残存加水分解活性を測定した。あらかじめ処理温度に保持した400mM酢酸緩衝液(pH5.0)180μlおよび水36μlに、精製酵素液24μlを加え撹拌して均一にし、30分間保温した。実施例1で作製したキトサン7B溶液96μlに加温処理した酵素液200μlを加え、37℃で15分間酵素反応を行った。遊離還元糖の定量は実施例1にしたがった。無処理(0℃保温)群の酵素および緩衝液の混合液が有する加水分解活性を100%とし、各温度における加水分解活性を相対値として図4にまとめた。
【0139】
4)pH安定性
精製酵素液37.5μlに、以下に述べる各pHの400mM緩衝液12.5μlを添加し、37℃にて1時間保温した。緩衝液は次のものを用いた:pH3.2乃至pH6.4の場合、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液:pH6.4乃至pH8.2の場合、リン酸1水素2ナトリウム−リン酸2水素1ナトリウム緩衝液:pH7.6乃至pH9.1の場合、トリス−塩酸緩衝液:pH9.2乃至pH10.6の場合、炭酸1水素2ナトリウム−炭酸2水素1ナトリウム緩衝液:pH11.3乃至pH12.2の場合、リン酸1水素2ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液。400mM酢酸緩衝液(pH5.0)150μl、水204μlおよび実施例1 2)記載の方法で作製したキトサン7B溶液96μlの混合液に、加温した酵素混合液に水325μlを加えた溶液のうち150μlを加え撹拌して均一にし、37℃で10分間酵素反応を行った。遊離還元糖の定量は実施例1にしたがった。無処理(0℃保温)群の酵素および緩衝液の混合液が有する加水分解活性を100%とし、各pHにおける加水分解活性を相対値として図5にまとめた。
【0140】
5)精製酵素の基質選択性
次に、pH5.0における基質選択性を測定した。実施例1の3)で調製した精製酵素液を用いた。0.25% wt/vの基質溶液96μlおよび400mM酢酸緩衝液(pH5.0)および水244μlの混合液に酵素液100μlを加え撹拌して均一にし反応を開始し、37℃で保温して10分間酵素反応を行った。酵素反応後の遊離還元糖の定量は実施例1の2)記載の方法により行った。最大活性を示す基質を用いたときの加水分解活性を100%としたときの、相対活性を表3に示す。
【0141】
【表3】
Figure 2004357620
【0142】
表3に示す通り、精製酵素はキトサン7Bに対して最も加水分解活性が高く、アセチル化度が小さくなるにつれて加水分解活性は低下した。また、セルロース加水分解活性は見られなかった。
【0143】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のキチナーゼを用いる事により、高分子部分アセチル化キトサンを酸性条件下比較的高い温度において加水分解することが可能になった。更に本発明のキチナーゼはアスペルギルス・ニガー由来であり、食品加工上使用に耐えうる安全性を有している。
【0144】
【配列表】
Figure 2004357620
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【図面の簡単な説明】
【図1】キトサン7Bを反応基質としたときのアスペルギルス・ニガー SANK 13603株由来の精製キチナーゼの活性とpHとの関係を示す図である。
【図2】グリコールキチンを反応基質としたときのアスペルギルス・ニガー SANK13603株由来の精製キチナーゼの活性とpHとの関係を示す図である。
【図3】アスペルギルス・ニガー SANK 13603株由来の精製キチナーゼの活性と温度との関係を示す図である。
【図4】アスペルギルス・ニガー SANK 13603株由来の精製キチナーゼの温度安定性を示す図である。
【図5】アスペルギルス・ニガー SANK 13603株由来の精製キチナーゼのpH安定性を示す図である。

Claims (12)

  1. アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の培養物から分離精製される、キチン分解酵素。
  2. アスペルギルス・ニガーが、アスペルギルス・ニガー SANK 13603株である、請求項1記載のキチン分解酵素。
  3. 配列番号1に示されたアミノ酸配列を含む、請求項1または請求項2に記載のキチン分解酵素。
  4. 以下の性質:
    1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約40,000を示す;
    2)等電点電気泳動法にて等電点pIが約3.5を示す;
    3)30%アセチル化キトサン(粘度100〜300cps)を、pH3.0乃至pH11.0にて加水分解する;
    4)グリコールキチンを、pH3.0乃至pH11.5にて加水分解する;
    5)0℃乃至80℃で3)記載の加水分解活性を発揮する;
    6)50℃以下の温度で安定である;及び
    7)pH4.0乃至pH11.0のpH条件下で安定である;
    を示す、請求項1〜3のいずれか1項記載のキチン分解酵素。
  5. 下記のa)〜d):
    a)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
    b)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    c)a)またはb)に記載のアミノ酸配列において、一つまたは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、キチン分解活性を有することを特徴とするタンパク質;
    d)a)またはb)に記載のアミノ酸配列を含むことからなるタンパク質;
    のいずれか一つに記載のタンパク質である、キチン分解酵素。
  6. 下記a)〜d):
    a)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列からなるDNA;
    b)上記a)に記載のDNAと90%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、キチン分解活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とするDNA;
    c)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    d)配列番号2のヌクレオチド番号233乃至1426に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるDNA
    のいずれか一つに記載のDNA。
  7. 請求項6に記載のDNAにコードされるタンパク質である、キチン分解酵素。
  8. 下記の活性:
    a)30%アセチル化キトサン(粘度100〜300cps)を、pH3.0乃至pH11.0、0℃乃至80℃の条件にて加水分解する活性;及び
    b)グリコールキチンを、pH3.0乃至pH11.5にて加水分解する活性、
    を有することを特徴とする、請求項5または請求項7に記載のキチン解酵素。
  9. 下記工程:
    1)アスペルギルス・ニガーを、キチン分解酵素を産生する条件下で培養する工程、及び
    2)1)の培養産物からキチン分解酵素を分離・精製する工程、
    を含む、キチン分解酵素の製造方法。
  10. アスペルギルス・ニガーを、オートミール及び/又は小麦ふすまを含有する培地を用いて培養する工程を含む、請求項9に記載の方法。
  11. アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)SANK 13603株である、請求項9又は10記載の方法。
  12. 請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法により製造される、キチン分解酵素。
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