JP2004352706A - 芳香族エーテル類および芳香族エーテル類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フェノール類とオキシラン化合物を原料として、副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有する芳香族エーテル類を選択率良く製造し得る方法を提供する。
【解決手段】フェノール類とオキシラン化合物を反応させて芳香族エーテル類を合成するに当たり、アニオン交換樹脂を触媒に用いることを特徴とする芳香族エーテル類の製造方法である。
【解決手段】フェノール類とオキシラン化合物を反応させて芳香族エーテル類を合成するに当たり、アニオン交換樹脂を触媒に用いることを特徴とする芳香族エーテル類の製造方法である。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノール類とオキシラン化合物から対応する芳香族エーテル類を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
β−フェノキシエタノール類を始めとする芳香族エーテル類は、分子内にアルコール性水酸基を有するため、各種用途に利用されている。上記芳香族エーテル類は、グリコールエーテルの一種であり高沸点であるが故に作業環境の面で優れた溶媒である。また、分子内のアルコール性水酸基の作用を利用して、ポリエステル原料、ポリウレタン原料、(メタ)アクリレート原料などを始めとする各種化学品の重要原料として用いられている。
【0003】
また、上記芳香族エーテル類が、フェノール性水酸基も分子内に有する場合には、特にフェノール性水酸基の殺菌作用を使用して、化粧品分野、医薬品分野、香料分野で幅広く使用されている。例えば、安全性の高い皮膚外用剤として有用であることが示されている。さらに、良好な解像度、焦点深度および現像性を有し、且つ感度、レジストパターン断面形状並びに保存安定性に優れた集積回路作製用レジスト組成物としての用途や、カチオン電着塗料組成物としての用途も知られている。
【0004】
上記芳香族エーテル類の合成は、無触媒では反応速度が極めて遅くまた副反応が多い。このため、上記芳香族エーテル類は、触媒を使用して製造されている。
【0005】
例えば、上記芳香族エーテル類に含まれるβ−フェノキシエタノール類の製法としては、従来からアルカリ金属塩と大量の水を用いて合成する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、大量の水の適用は、オキシラン化合物の使用効率の低下を招くのみならず、多量の工業廃水が発生するという潜在的な問題を抱えている。特にフェノール類には殺菌作用を持つものが多いため、廃水が未反応フェノール類を含有している場合には、該廃水の活性汚泥処理が困難である。
【0006】
このような理由から、上記芳香族エーテル類の製法としては、上記特許文献1に開示の水系プロセスではなく、非水系のプロセスが求められている。
【0007】
上記芳香族エーテル類の非水系プロセスによる製法としては、ハロゲン化ホスホニウム塩もしくは3級ホスフィンとハロゲン化アルキルからなる触媒(特許文献2)や、ハロゲン化トリアルキルベンジルアンモニウム類の存在下での反応が知られている(特許文献3)。
【0008】
ところで、反応生成物である上記芳香族エーテル類中に触媒が残存すると、製品(該芳香族エーテル類)に悪影響を及ぼす場合がある。よって、上記芳香族エーテル類の生成後には、触媒を取り除くことが好ましい。
【0009】
しかしながら、これら特許文献2や特許文献3に開示の技術は均一系触媒を用いていることから、反応物生成後の触媒の回収が困難である。
【0010】
例えば、特許文献2や特許文献3に開示の技術以外にも、一般的な触媒として、金属水酸化物やアンモニウム塩などの均一系触媒が知られている。これらの触媒を用いて上記芳香族エーテル類の合成を行った場合には、触媒は原料であるフェノール類と塩を形成する。この塩を取り除くには、酸中和、水洗浄などの煩雑な工程が必要となる。また、酸中和を行うと、フェノール類が遊離するため、未反応原料の増加に繋がる。
【0011】
フェノール類とオキシラン化合物との付加反応を過剰に行うことで、中和時の遊離フェノール類量を減らすことも可能であるが、その場合には、オキシラン化合物が過剰に付加した不純物の増加などを招き、純度の高い製品が得られ難いという問題が生じる。
【0012】
また、フェノール性水酸基を有する上記芳香族エーテル類の合成法としては、例えば、鉄イオンなどの遷移金属イオン触媒の存在下で、多価フェノール類にオキシラン化合物を付加させる方法が知られている(特許文献4)。
【0013】
しかしながら、本発明者等の検討によると、この方法では、触媒である遷移金属イオンによって反応系内に存在する微量の酸素が、原料の多価フェノール(カテコール)を酸化させるため、キノン類が生成し易いことが判明した。このようなキノン類は、フェノール類と所謂キンヒドロン類を形成する。このキンヒドロン類は、生成する芳香族エーテル類の着色の原因となるため、反応工程後の精製工程での負担が大きくなり、工業的に有利な方法ではない。
【0014】
なお、一般にキンヒドロンは、多価フェノールであるヒドロキノンと、その酸化生成物であるp−ベンゾキノンからなる分子化合物のことであるが、ここでいうキンヒドロン類とは、多価フェノール類と、その酸化生成物であるキノン類からなる分子化合物を指す。
【0015】
さらに、特許文献5では、ハロゲン化第4アンモニウム化合物、ハロゲン化第4ホスホニウム化合物を用いて、多価フェノール類にエチレンオキサイドを付加する方法が開示されている。しかしながら本発明者等の検討によると、この方法では選択的にフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類を合成することが困難であり、また触媒が低分子であるため、やはり反応終了後の反応粗液から触媒を分離することが困難であり、工業的に有利な方法ではないことが判明した。
【0016】
【特許文献1】
特公昭39−30272号公報
【特許文献2】
特公昭50−654号公報
【特許文献3】
特公昭49−33183号公報
【特許文献4】
オランダ国特許第6600198号明細書
【特許文献5】
特公昭54−1291号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フェノール類とオキシラン化合物を原料として、副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有する芳香族エーテル類を選択率良く製造し得る方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、フェノール類とオキシラン化合物を反応させて芳香族エーテル類を良好に製造する方法として、アニオン交換樹脂を触媒として使用する方法を見出した。
【0019】
アニオン交換樹脂を触媒とすることで、反応活性を高めて高収率で上記芳香族エーテル類を製造できる。また、実質的に水を使用しない反応条件でも反応が行えるため、オキシラン化合物の損失が少なく、且つ少ない廃水で上記芳香族エーテル類を製造することが可能である。
【0020】
アニオン交換樹脂が固体である場合には、目的化合物(芳香族エーテル類)と触媒を容易に分離することができ、繰り返し使用することができる。触媒を容易に分離できるため、反応後の触媒の中和工程を必要とせず、未反応フェノール類の塩類や不純物の塩類の増加が起こらない。また、未反応フェノール類を低下させ得ることから過剰にオキシラン化合物の付加を行う必要がないため、副生物の生成が少なく、目的とする構造の芳香族エーテル類の生成選択率が良好である。
【0021】
本発明法によって製造される上記芳香族エーテル類としては、第1に、原料であるフェノール類が多価フェノール類であり、オキシラン化合物との反応後において、該多価フェノール類の有する水酸基を少なくとも1つ残存させたもの、すなわち、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類が挙げられる。
【0022】
本発明法によって製造される上記芳香族エーテル類の第2の態様としては、原料であるフェノール類が単価または多価のフェノール類であり、該フェノール類のフェノール性水酸基を実質的に残存させることなくオキシラン化合物と反応させたものが挙げられる。
【0023】
また、上記芳香族エーテル類の製造においては、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後に実施する晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることが推奨される。このような方法の採用により、上記芳香族エーテル類を経済的に有利に得ることができる。
【0024】
この他、上記の芳香族エーテル類(アルコール性水酸基を有する芳香族エーテル類)であって、金属の含有量が100ppm未満(質量基準、以下同じ)であり、且つハロゲン元素の含有量が100ppm未満であるものも本発明に包含される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の芳香族エーテル類は、後述するフェノール類とオキシラン化合物を反応させることで合成可能な化合物であり、アルコール性水酸基およびフェノール性水酸基を有するもの、あるいはフェノール性水酸基は有さずにアルコール性水酸基を有するものが含まれる。なお、かかる芳香族エーテル類は、こうしたフェノール類とオキシラン化合物との反応に限られず、アルキレンカーボネート類、ハロゲン化アルカノール類あるいは多価アルコール類とフェノール類との反応など、公知の技術により合成することもできる。
【0026】
本発明法で使用される原料のフェノール類は、固体、液体のいずれであっても良く、形態(荷姿)、純度についても特に制限はない。
【0027】
上記フェノール類とは、分子内にフェノール性水酸基を1以上含有する芳香族化合物を意味する。芳香族化合物とは、芳香環を有する化合物であり、芳香環には、シクロペンタジエン環などの非ベンゼン系芳香環;ベンゼン環;ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの縮合芳香環;これら非ベンゼン系芳香環、芳香環あるいは縮合芳香環の1以上の炭素原子が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子に置き換えられている複素芳香環(ピロール環、ピリジン環、チオフェン環、フラン環など);などが含まれる。
【0028】
単価のフェノール類としては、フェノール;o,mまたはp−クレゾール、o,mまたはp−エチルフェノール、o,mまたはp−t−ブチルフェノール、o,mまたはp−オクチルフェノール、2,3−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノールなどの炭化水素置換基を有するフェノール;o,mまたはp−フェニルフェノール、p−(α−クミル)フェノール、4−フェノキシフェノールなどの芳香族置換基あるいは芳香環を含む置換基を有するフェノール;o,mまたはp−ヒドロキシベンズアルデヒドなどのアルデヒド基を有するフェノール;グアヤコール、グエトールなどのエーテル結合を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシフェネチルアルコールなどのアルコール性水酸基を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシフェニル酢酸メチルエステル、ヘプチルパラベンなどのエステル結合を含む置換基を有するフェノール;2,4,6−トリクロロフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノールなどのハロゲン基を有するフェノール;oまたはp−ニトロフェノールなどのニトロ基を有するフェノール;アミノフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノフェノール、p−ヒドロキシフェニルアセトアミドなどの窒素原子を含む置換基を有するフェノール;α−ナフトール、β−ナフトール;などが挙げられる。これらの中でもフェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0029】
多価フェノール類としては、カテコール類(カテコール、プロトカテキュ酸、クロルアセチルピロカテキン、アドレナロン、アドレナリン、アポモルフィン、ウルシオール、チロン、フェニルフルオロンなど)、レゾルシノール類(レゾルシノール、オルシン、ヘキシルレゾルシンなど)、ハイドロキノン類(2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−t−ブチルハイドロキノン、ホモゲンチジン酸エステルなど)などの2価フェノール;ピロガロール類(ピロガロール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、没食子酸ラウリル、没食子酸エステル、プルプロガリンなど)、フロログルシン類(フロログルシンなど)、オキシハイドロキノン類(オキシハイドロキノンなど)などの3価フェノール;ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2(β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、アルミノン、アトラノリン、エリトリン、カテキン、エピカテキン、イソカルタミン、クルクミン、コクラウリン、シアニジン、シリンギジン、スチルベストロール、タンニン酸エステル、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、フェノールレッド、フロリジン、ヘキセストロール、ヘマトキシリン、ペラルゴニジン、モリン、レカノール酸などのビスフェノール類;1,4−ジヒドロキシナフタレン、カルボニルJ酸、(R)−1,1’−ビ−2−ナフトール、(S)−1,1’−ビ−2−ナフトール、エリオクロムブラックT、α−ビナフトール、β―ビナフトール、γ―ビナフトールなどのヒドロキシナフタレン類;1,4−ジヒドロキシアントラキノン、ロイコ−1,4−ジアミノアントラキノン、ロイコ−1,4−ジヒドロキシアントラキノン、アントラヒドロキノン、アリザリン、アリザリンS、エモジン、キニザリン、ケルメス酸エステル、酸性アントラキノン染料(アリザリンサフィロールBなど)、プルプリン、プルプロキサンチンなどのヒドロキシアントラセン類またはヒドロキシアントラキノン類;シトラジン酸;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;ポリフェノール類、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、アトロメンチン、アントラキノン染料(建て染め紫)、ウスニン酸、デヒドロウルシオール、エキノクロム、オルセリン酸エステル、カルタミン、酸性媒染染料(ダイヤモンドブラックF、クロムファストネビーブルB、パラチンファストブルーなど)、ジヒドロフェニルアラニンエステル、ジロホール酸エステル、デルフィニジン、ビタミンP、フルオレセイン、ポリポル酸などの高分子系フェノール類;などが挙げられる。
【0030】
これら多価フェノール類の中でも、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の原料として好ましいのは、カテコール類、レゾルシノール類、ハイドロキノン類であり、より好ましいのはカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンである。また、フェノール性水酸基が実質的に残存しない芳香族エーテル類の原料として好ましいのはビスフェノール類であり、より好ましいのはビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンである。
【0031】
一方の原料であるオキシラン化合物とは、分子内に一つ以上のエポキシ基(三員環エーテル)を有する化合物をいう。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイドなどの脂肪族アルキレンオキサイド;スチレンオキサイドなどの芳香族アルキレンオキサイド;シクロヘキセンオキサイド;などが好適である。これらのオキシラン化合物は、1種単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。上記のオキシラン化合物の中でも、炭素数が2〜4の脂肪族アルキレンオキサイド、すなわち、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイドが好ましい。
【0032】
本発明に係る芳香族エーテル類の構造は、下記一般式(1)で表される。
【0033】
【化1】
【0034】
上記一般式(1)において、Zは芳香環を含む炭化水素残基であり、具体的には、フェノール類について上述した非ベンゼン系芳香環、ベンゼン環、縮合芳香環および複素芳香環を含む炭化水素残基を示す。「OH」および「O−A−OH」はZ上の水素原子を置換する基であり、nは1以上且つZ上の置換され得る水素原子の最大数以下の整数で、mは1以上n以下の整数を示す。Aは下記一般式(2)で示される。
【0035】
【化2】
【0036】
上記一般式(2)において、R1〜R4は各々独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。R1〜R4がアルキル基および/またはアリール基の場合には、各種置換基を有していてもよい。また、R1(あるいはR2)とR3(あるいはR4)が環状構造(例えば、5員環や6員環など)を形成していてもよい。
【0037】
上記一般式(1)中のZの芳香環に結合した水酸基が本明細書でいう「フェノール性水酸基」であり、Aに結合した水酸基が本明細書でいう「アルコール性水酸基」である。
【0038】
また、上記フェノール類の構造は、下記一般式(3)で示される。
【0039】
【化3】
【0040】
上記一般式(3)において、Zおよびnは、上記一般式(1)と同じ意味である。また、「OH」はZ上の水素原子を置換する基である。
【0041】
これらフェノール類の中でも、Zがフェニル基でn=1のもの(フェノール)、Zがメチルフェニル基でn=1のもの(クレゾール)、Zがフェニル基でn=2のもの(カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン)、Zが下記一般式(4)〜(7)で示される炭化水素残基でn=2のもの{ビスフェノールA[一般式(4)]、ビスフェノールS[一般式(5)]、ビスフェノールフルオレン[一般式(6)]、ビスクレゾールフルオレン[一般式(7)]}が好ましい。
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
さらに、上記オキシラン化合物の構造は、下記一般式(8)で示される。
【0045】
【化6】
【0046】
上記一般式(8)において、R5〜R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。R5〜R8がアルキル基および/またはアリール基の場合には、各種置換基を有していてもよい。また、R5(あるいはR6)とR7(あるいはR8)が環状構造(例えば、5員環や6員環など)を形成していてもよい。
【0047】
これらオキシラン化合物の中でも、R5〜R8が水素原子(エチレンオキサイド)、R5〜R8のいずれか1つがメチル基で他の3つが水素原子(プロピレンオキサイド)、R5およびR6メチル基で、R7およびR8が水素(イソブチレンオキサイド)、R5およびR7メチル基で、R6およびR8が水素(2,3−ブチレンオキサイド)が好ましい。
【0048】
本発明法で触媒として用いるアニオン交換樹脂とは、アニオン交換能を有する高分子化合物をいう。このアニオン交換樹脂は、反応溶媒(後述する)に溶解するものを用いてもよく、溶解せずに固体のままで存在するものを用いてもよい。すなわち、上記反応時におけるアニオン交換樹脂の形態としては、反応液に均一に溶解している他、反応液とスラリーを形成していたり、反応液中に固体で存在していてもよい。固体で存在する場合には、顆粒、粒子、粉末、支持体に担持された状態などを採り得る。
【0049】
なお、フェノール類とオキシラン化合物との反応終了後、触媒を分離し繰り返し使用する観点からは、反応溶媒に溶解せず、固体のままで存在するアニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0050】
上記アニオン交換樹脂としては、主鎖およびアニオン交換基を必須とし、さらに架橋部位を有するものが好ましい。アニオン交換基としては、3級のアミン、4級アンモニウム塩、3級のホスフィン、または4級ホスホニウム塩の各構造を有する基が挙げられ、その中でも、4級アンモニウム塩構造および4級ホスホニウム塩構造を有する基が好ましい。さらには、アニオン交換基は耐熱性に優れる構造を有していることが好ましく、具体的には、以下の2構造を有することが推奨される。
【0051】
第1には、アニオン交換基が環状構造を有していることが挙げられる。環状構造の形態としては、5員環、6員環などであることが好ましく、5員環であることがより好ましい。特に4級アンモニウム塩構造を有する場合には、ピペリジン骨格またはピリジン骨格を有していることが好ましい。このような環状4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換基を含むアニオン交換樹脂としては、かかる樹脂が容易に形成される観点から、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドによって合成されるものが推奨される。
【0052】
第2には、アニオン交換基が炭素数4以上のアルキレン鎖を介して主鎖に結合されている構造が挙げられる。
【0053】
また、上記の4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩は、陽イオン化したヘテロ原子と対をなす陰イオンを有する。本発明におけるアニオン交換樹脂の初期の陰イオン種は、特に限定されるものではない。例えば水酸化物イオン;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン化物イオン;有機酸のアニオン(カルボン酸アニオン、フェノキシアニオン類など);無機酸のアニオン;などが挙げられる。無機酸のアニオンには、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、チオシアン酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(たとえばモリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、リンタングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオンなど)などが含まれる。上記例示の陰イオン種の中でも、各種有機酸のアニオン、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオンが好ましい。
【0054】
また、上記アニオン交換樹脂としては、低分子アニオン交換樹脂、高分子アニオン交換樹脂のいずれも使用可能である。低分子アニオン交換樹脂の場合には、フェノール類とオキシラン化合物の反応後、触媒を分離し繰り返し使用し得るものが好ましいといった観点から、分子量500以上のものが望ましく、1000以上のものがより望ましい。
【0055】
以上説明したアニオン交換樹脂の具体例としては、例えば、アニオン交換基が上記第2の構造を有するものとして、三菱化学社製「ダイヤイオンTSA1200」が挙げられる。
【0056】
また、耐熱性は比較的低いが、三菱化学社製「ダイヤイオンPA300シリーズ」、「ダイヤイオンPA400シリーズ」、「ダイヤイオンHPA25,75」;DOW社製「ダウエックス」(SBR、SBR−P−C、SAR、MSA−1、MSA−2、22、マラソンA、マラソンALB、マラソンA2、モノスフィアー550A);ローム・アンド・ハース社製「デュオライト」(A113、A113LF、A113MB、A109D、A116、A116LF、A161TRSO4、A162LF、A368S、A378D、A375LF、A561、A568K、A7);などの市販のアニオン交換樹脂も使用可能である。
【0057】
本発明法では、フェノール類とオキシラン化合物を反応させる際に、溶媒を用いても良く、用いなくても良い。溶媒を用いる場合には、水溶媒、有機溶媒、これらの混合溶媒が使用できるが、フェノール類を含む廃水は、活性汚泥処理が困難であることから、水以外の溶媒を使うことがより好ましい。
【0058】
ちなみに、本発明法で使用する上記の触媒は、実質的に水の非存在下で、フェノール類とオキシラン化合物との反応を有利に進行させることができるため、水は不要である。ここでいう実質的な水の非存在とは、原料(フェノール類およびオキシラン化合物)に対する水の含有量が1質量%未満の状態をいい、さらに好ましくは1000ppm未満(質量基準)の状態をいう。
【0059】
本発明法で使用し得る溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの炭素数1〜6のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの炭素数3〜6のグリコールエーテル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの炭素数2〜6のエーテル類;などが挙げられる。また、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;エチレングリコールなどのグリコール類;ピリジン;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;エチレンカーボネート;などを用いることもできる。
【0060】
加えて、上記溶媒としては、溶解度パラメーターが7.0以上20.0以下のものが好ましい。特に多価フェノール類とオキシラン化合物との反応の際に、このような溶媒を上記触媒と組み合わせて用いると、反応条件の選択次第では、多価フェノール類の有するフェノール性水酸基の一部を残存させつつ反応を進めることが可能であり、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の生成の選択性が非常に高くなる。その理由は定かではないが、溶媒の溶解度パラメーターが上記範囲内の場合は、触媒であるアニオン交換樹脂の主鎖などとの溶解度パラメーターと近く、このことが反応選択性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0061】
なお、本発明でいう「溶解度パラメーター」(δ)とは、液体間の混合性の尺度を表す指標で、正則溶液理論における凝集エネルギー密度の平方根であり、下記式(9)で表される。
【0062】
δ=(ΔEV/V)1/2 (9)
ここで、Vは溶媒のモル容積(cm3/mol)を表し、ΔEVは25℃における溶媒の蒸発熱(cal/mol)を表す。
【0063】
本発明法で使用し得る溶媒の中でも、特に溶解度パラメーターが上記範囲内にあるものとしては、例えば、ペンタン(δ=7.0)、ヘキサン(δ=7.3)、ヘプタン(δ=7.4)、シクロヘキサン(δ=8.2)、メチルイソブチルケトン(δ=8.4)、酢酸ブチル(δ=8.5)、o−キシレン(δ=8.8)、p−キシレン(δ=8.8)、トルエン(δ=8.9)、テトラヒドロフラン(δ=9.1)、酢酸エチル(δ=9.1)、ベンゼン(δ=9.2)、メチルエチルケトン(δ=9.3)、ジクロロメタン(δ=9.7)、1,2−ジクロロエタン(δ=9.8)、シクロヘキサノン(δ=9.9)、アセトン(δ=9.9)、1,4−ジオキサン(δ=10.0)、ピリジン(δ=10.7)、エチレングリコールモノメチルエーテル(δ=11.4)、1−ブタノール(δ=11.4)、2−プロパノール(δ=11.5)、アセトニトリル(δ=11.9)、ジメチルスルホキシド(δ=12.0)、ジメチルホルムアミド(δ=12.1)、エタノール(δ=12.7)、メタノール(δ=14.5)、エチレングリコール(δ=14.6)、エチレンカーボネート(δ=14.7)などが例示できる。このような溶媒の溶解度パラメーターは、例えば「A.F.M.Burton,Chemical Reviews,1975,Vol.75,No.6,p731−753」に開示されている。
【0064】
本発明法では、これら例示の溶媒を1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の溶媒を混合する場合には、混合溶媒の溶解度パラメーターが上記範囲内にあればよく、混合される各溶媒の溶解度パラメーターは特に限定されない。混合溶媒の溶解度パラメーターδmixは下記式(10)により求められる。
δmix=(x1V1δ1+x2V2δ2+・・・xnVnδn)/(x1V1+x2V2+・・・xnVn) (10)
ここで、nは混合する溶媒の種類を表し、x,V,δは、各溶媒のモル分率、モル容積、溶解度パラメーターを表す。
【0065】
なお、使用する溶媒の溶解度パラメーターが上記下限値を下回ると、多価フェノール類の溶解度が小さく濃度が薄くなるために上記芳香族エーテル類の生産性が低くなる傾向にある。より好ましい下限値は8.0、さらに好ましい下限値は8.5である。他方、溶解度パラメーターが上記上限値を超えると、上記触媒の有する炭化水素残基の溶解度パラメーターとの差が大きくなり、生成する上記芳香族エーテル類の選択性(フェノール性水酸基を有する芳香族フェノール類の収率)が低下する傾向にある。より好ましい上限値は12.5、さらに好ましい上限値は11.5、特に好ましい上限値は10.5である。上記の溶媒の中でも、例えば、酢酸ブチル(δ=8.5)、トルエン(δ=8.9)、メチルエチルケトン(δ=9.3)、1,4−ジオキサン(δ=10.0)などが特に好ましい。
【0066】
本発明法における上記反応の形態は特に限定されず、例えば上記反応をバッチ方式で実施してもよく、連続方式で実施しても構わない。連続方式の場合は触媒を反応釜内に懸濁させることもでき、触媒を固定床として反応原料を通過させることで反応を進行させることもできる。また、本発明法では、原料は反応中に均一に混合していることが好ましいが、反応できる状態にある限り2層に分離していても構わない。
【0067】
上記反応の実施に際しては、原料仕込み量、触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は特に制限されず、目的とする芳香族エーテル類の構造に応じてこれらの条件を適宜選択すればよい。
【0068】
例えば、フェノール類として多価フェノール類を用いて、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類を製造する場合には、以下の条件を採用することが望ましい。原料仕込み量は、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基のうち、オキシラン化合物を付加させるべきフェノール性水酸基の量に対し、オキシラン化合物の量を、モル比で0.1〜2.0とすることが好ましく、経済性の観点からは、0.5〜1.5とすることがより好ましい。さらに好ましくは0.9〜1.2である。
【0069】
他方、フェノール類に単価または多価のフェノール類を用いて、フェノール性水酸基をできる限り残存させずにオキシラン化合物と反応させた芳香族エーテル類を製造するには、以下の条件を採用することが推奨される。原料仕込み量は、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基量に対し、オキシラン化合物の量を、モル比で、少なくとも0.9とすることが好ましい。より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは1.0以上である。また、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基量に対するオキシラン化合物量のモル比の上限は、5であることが好ましく、2であることがより好ましく、1.5であることがさらに好ましく、1.2であることが特に好ましく、1.05であることが最も好ましい。
【0070】
触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は、目的とする芳香族エーテル類の構造によらず、以下の範囲内から選択することが推奨される。
【0071】
触媒量は、触媒を含む反応液全体積に対して、1〜70体積%とすることが好ましく、さらに好ましくは5〜30体積%である。
【0072】
溶媒量は、原料である多価フェノール類に対し、質量比で0〜5とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜2.5である。
【0073】
反応温度は50〜150℃とすることが好ましく、80〜120℃とすることがより好ましい。反応時間は、生産性を考慮すると1〜24時間とすることが好ましく、1〜12時間とすることがより好ましい。
【0074】
本発明法により製造される上記芳香族エーテル類は、純度が高いため、上記反応後そのまま製品とすることもできるが、必要に応じて上記反応後に芳香族エーテル類のみを蒸留、抽出、晶析などの一般的な方法で分離して製品とすることも好ましい。また、原料であるフェノール類のみを蒸留、抽出、晶析などの方法で分離してもよい。この他、触媒を用いて原料であるフェノール類を転化させて系内をフェノール類が実質的に非存在な状態とし、フェノール類が転化した後の生成物を上述の如き一般的な方法で分離しても構わない。
【0075】
蒸留法としては、減圧蒸留、水蒸気蒸留、分子蒸留、抽出蒸留などが挙げられるが、これらに限定される訳でない。また、晶析法としては、(1)反応終了後の反応液を冷却する、(2)目的物に対する貧溶媒を、反応液に加える、(3)反応液中の溶媒を留去する、(4)反応液に徐々に加圧する、などの方法があり、これらを単独で、または組み合わせて実施できる。
【0076】
この中でも、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後の晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることが好ましい。この場合には、溶媒の損失や溶媒回収にかかる費用が少なく、目的化合物を経済的に有利に得ることができる。ここでいう「共通のものとする」とは、反応工程で得られた反応液に異なる種類の溶媒を加えないことを意味する。例えば、反応工程で得られた反応液を、実質的にそのまま晶析工程に供することや、該反応液に反応工程で使用したものと同一種の溶媒を加えて、これを晶析工程に供することが該当する。この場合、反応工程で用いる溶媒の全部または一部が晶析工程に係る晶析溶液に含まれていればよい。
【0077】
さらに、晶析工程は1つまたは複数の晶析段階で構成することができる。晶析工程中は大気開放状態ではなく、不活性ガスでシールされた状態とすることが好ましい。大気開放状態であると、晶析母液に酸素が吸収され、色相を悪化させ、高品質の製品を得ることが困難となる。晶析生成物を分離した晶析母液は、原料フェノール類の効率的利用の観点から、必要に応じて反応工程あるいは晶析工程に循環される。この場合、原料母液には、晶析工程で得られた晶析母液の少なくとも一部を用いることができる。通常、複数段の晶析工程と晶析生成物の固液分離分離工程が採用され、これに応じて複数種の母液(フェノール類の溶液)が得られるが、本発明法では、これらの任意の段階での母液を反応工程あるいは晶析工程の原料母液として用いることができる。なお、これらの工程では、上述の如く、反応工程と晶析工程の溶媒を共通のものとすることが、より一層効率的である。
【0078】
また、上記晶析工程に際しては、晶析時の溶媒の溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下であることが推奨される。晶析溶媒がこのような溶解度パラメーターを有していれば、例えば、晶析溶液の状態を僅かに変化させるだけで、芳香族エーテル類の結晶が良好に析出するように該溶液を調製することが容易である。
【0079】
晶析溶媒の溶解度パラメーターが上記下限値を下回ると、該溶媒への芳香族エーテル類の溶解度が小さくなる傾向にあるため、晶析が困難または実質上不可能となる場合がある。より好ましい下限値は8.0、さらに好ましい下限値は8.5である。他方、晶析溶媒の溶解度パラメーターが上記上限値を超えると、該溶媒への芳香族エーテル類の溶解度が大きいことから、結晶を析出させるために必要となる晶析溶液の状態変化の程度を大きくする必要が生じる場合があり、晶析効率が低下する傾向にある。より好ましい上限値は11.0、さらに好ましい上限値は10.0、特に好ましい上限値は9.5である。
【0080】
例えば、上記反応工程に用いた溶媒の溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の場合には、該反応液から直接晶析を実施してもよく、さらに溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒を投入したり、蒸留などにより溶媒の一部を除去したりすることで、溶液濃度を調節してから実施してもよい。
【0081】
他方、反応液に用いている溶媒の溶解度パラメーターが7.5未満あるいは12.5超の場合には、溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の範囲となるように他の溶媒を添加混合するか、または溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒で反応溶媒を置換して晶析を行ってもよい。
【0082】
ただし、上記した通り、反応工程時の溶媒と晶析工程時の溶媒を共通にすることが好ましいため、反応工程時の溶媒に、溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒を選択しておくことが望ましい。
【0083】
さらに、晶析工程に先立って、反応に使用した触媒を反応液(晶析溶液)から除去しておくことも望ましい。例えば、反応溶媒に溶解し得るアニオン交換樹脂触媒を使用した場合などでは、晶析を行った際に、該触媒が目的化合物に含有されることがあるからである。触媒の除去方法としては、吸着、ろ過、濃縮、蒸留、洗浄などの公知の方法の中から、使用した触媒に応じて好適な方法を適宜選択すればよい。なお、触媒の残存量の目安としては、晶析溶液に含まれる粗芳香族エーテル類中、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、この「粗芳香族エーテル類」には、目的化合物である上記芳香族エーテル類の他、未反応の原料や上記反応時に生成した副生物などの不純物も含まれている。
【0084】
以下、上記芳香族エーテル類のうち、β−フェノキシエタノール類に含まれるジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を例に取り、好適な晶析条件を説明する。他の芳香族エーテル類の場合には、夫々の特性に応じて各条件を変更して実施すればよい。例えば、晶析溶液の濃度や晶析温度を決定する場合には、使用する芳香族エーテル類と溶媒について、溶解度曲線(温度と芳香族エーテル類の溶解度との関係を示す曲線)を求め、該溶解度曲線に基づいて容易に決定することができる。
【0085】
ここで、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類とは、ジヒドロキシベンゼン類の有するフェノール性水酸基の一つが、ヒドロキシエトキシ基に変換された構造を有する物質である。ジヒドロキシベンゼン類には、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、およびこれらのベンゼン環上の1以上の水素原子が炭化水素残基(アルキル基など)、ハロゲン原子などで置換された置換体が含まれる。
【0086】
晶析溶液の濃度は、溶液全量に対し、粗ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類が0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であることが推奨される。上記下限値を下回ると、生産性[反応液から取り出されるジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の収量]が低く、多量の溶媒を回収する必要があるため、コストの上昇を招くことになり好ましくない。
【0087】
他方、上記晶析溶液の濃度の上限値は40質量%、より好ましくは30質量%、さらに好ましくは20質量%であることが望ましい。上記上限値を超えると、結晶析出時の固−液撹拌が困難となり、工業的実施において支障をきたすおそれがある。また、後述するように、晶析溶液を撹拌しつつ結晶を析出させることが好ましいが、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類濃度が上記範囲を超えると、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出した後の固−液撹拌が困難となり、良好なスラリーが得られず、精製が不十分となったり、結晶の取り出しが難しくなる傾向にある。
【0088】
結晶の析出に先立って、晶析溶液を調製後加温し、不溶分が存在する場合には、これを除去するための分離操作を行うことも好ましい。分離方法としては、減圧濾過、加圧濾過などの濾過;遠心分離;など、公知の各種方法を採用することができる。濾過の場合に用いる濾布やフィルターは特に限定されず、不溶分の除去が可能な開度のものを選択すればよい。
【0089】
晶析の際の好適温度は、使用する晶析溶媒によって変動するが、通常、−50℃以上、晶析溶媒の沸点以下の温度とする。ここでいう晶析の際の温度とは、晶析工程の開始から終了までの温度を意味している。例えば、晶析方法として、晶析溶液を加温し、その後冷却して結晶を析出させる方法が取り得る(後述する)が、この場合でも、晶析溶液の加温温度および、該溶液の冷却が進んで晶析工程が終了した時点での晶析溶液の温度が上記範囲内であることが推奨される。
【0090】
晶析の際の温度が上記範囲を下回ると、コストの面で不利益が大きく、他方、晶析の際の温度が上記範囲を超えると、使用する溶媒の蒸発が顕著になり、晶析中の溶媒濃度の変化が問題となることがある。より好ましい実施態様としては、沸点が100℃以上の溶媒を用いて、−50〜100℃の条件で晶析を実施することが挙げられ、このような条件を採用すれば、晶析の際の温度制御の面で有利である。
【0091】
ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類は、溶媒によっては常温では溶解し難く、懸濁液(スラリー)となる場合がある。この場合には、上記スラリーを一旦加温して溶液としてから晶析する。加温する際の温度は、上述の結晶析出の際の好適範囲内で選択すればよい。
【0092】
晶析の際の圧力は、常圧とすることが一般的であるが、例えば低沸点溶媒を使用する場合であれば、加圧条件下で晶析を行うことも好ましい。
【0093】
晶析法としては、上述したように、原料ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を溶媒に完全溶解させて溶液とし、(I)溶液の温度を徐々に低下させる方法;(II)溶媒を徐々に揮発させる方法;(III)該溶液をジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の貧溶媒に徐々に添加する方法;(IV)該溶液を徐々に加圧する方法;などが採用できる。このようにジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶を析出させるために晶析溶液の状態を変化させる際には、系内を撹拌しつつ行うことが好ましい。
【0094】
上記晶析法の中でも、原料ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類が溶媒に完全溶解してから、溶液の温度を徐々に低下させる方法が好ましい。この場合、完全溶解させる温度は80〜100℃とすることが好ましく、晶析初期の温度がこのような範囲内であれば、その後の冷却が容易である。また、このように加温して得た晶析溶液を冷却する際の速度としては、40℃/時間以下とすることが好ましく、より好ましくは30℃/時間以下、さらに好ましくは20℃/時間以下である。冷却速度が上記上限値を超えると、精製が不十分となったり、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が細かくなり、晶析溶媒から結晶を取り出す際に濾過速度が遅くなる傾向にある。
【0095】
上記のように、晶析溶液の温度を下げるなど、晶析溶液の状態を変化させることでジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出してくるが、晶析溶液の状態変化の程度が比較的大きくなっても、結晶の析出が良好でない場合には、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶を晶析溶液に投入し、結晶の析出を促すことも好ましい。
【0096】
このような操作によって晶析溶媒中にジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出するが、結晶析出前の晶析溶液濃度を上記範囲内としておけば、析出した結晶を含む晶析溶媒(スラリー)が粘性ペーストなどとはならず、スラリーの撹拌が困難となることはない。また、スラリーからの結晶の分離も容易に実施できる。
【0097】
結晶が十分に析出した後は、スラリーから結晶を取り出すための分離操作を行う。分離方法としては、減圧濾過、加圧濾過などの濾過;遠心分離;などの公知の方法が実施可能であり、その際の条件は特に限定されない。濾過に用いる濾布やフィルターも特に限定されず、結晶が十分に濾収可能な開度のものを採用すればよい。
【0098】
結晶を取り出した後は、乾燥機などで乾燥を施し、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を得る。
【0099】
また、上記の晶析法などにより反応液から取り出した粗製物を、公知の精製法によって純度をより高めた精製物とすることも好ましい。ちなみに、上記の溶解度パラメーターを有する溶媒を用いた晶析法は、反応液から上記芳香族エーテル類を取り出す際のみならず、反応液から取り出した後の上記芳香族エーテル類の精製にも利用可能である。
【0100】
上記芳香族エーテル類中の未反応多価フェノール類は、高温で酸化され易く、容易にキノン類(ベンゾキノン類など)に変化し、精製物の着色原因である上記キンヒドロン類を生成する。また、キノン類は昇華性を有しており、蒸留精製によっても除去することが困難である。さらに、上述の芳香族エーテル類は常温で固体であるため、蒸留精製時においては、該芳香族エーテル類を液体状態に保つために蒸留装置の各部位を常に保温する必要があり、膨大なエネルギーを必要とされていた。
【0101】
しかしながら、溶解度パラメーターが上記範囲内の溶媒を晶析溶媒に用いた上記晶析法であれば、精製工程における未反応の多価フェノール類の酸化(キノン類の生成)を抑制できると共に、該キノン類が生成したとしても、この晶析工程において、十分に除去できる。よって、精製された芳香族エーテル類は、着色が抑えられた純度の高いものとなる。また、上記晶析法では、蒸留法を採用していた従来法に比べて、精製工程で必要とするエネルギー量を非常に低減できる。
【0102】
なお、上記芳香族エーテル類の精製工程に上記晶析法を採用する場合、該精製工程に供する原料芳香族エーテル類(上記「粗芳香族エーテル類」に相当)中には、目的化合物である芳香族エーテル類が40質量%以上98質量%以下含まれていることが好ましい。上記下限値を下回ると、目的化合物である芳香族エーテル類の精製収率が低下する傾向にある。より好ましい下限値は50質量%、さらに好ましい下限値は60質量%である。他方、上記上限値を超えると、目的化合物である芳香族エーテル類の精製の効果が低下する傾向にある。より好ましい上限値は95質量%、さらに好ましい上限値は90質量%である。また、晶析工程に先立って、原料芳香族エーテル類中の芳香族エーテル類量が上記範囲内になるように、他の精製を行ってもよい。他の精製としては、濃縮、蒸留、洗浄など、公知の各種方法が挙げられる。
【0103】
上述した通り、製造された上記芳香族エーテル類は、用途に応じて使用上問題が無ければ、その範囲において、上記反応終了後、未反応の原料やその他の不純物を含有したままの状態で製品として使用できる。
【0104】
上記芳香族エーテル類を製造するに当たり、従来から用いられている触媒としては、上述したように、アルカリ金属塩、金属水酸化物、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化ホスホニウム塩などが知られている。しかし、これら公知の触媒を本発明に係る芳香族エーテル類の製造に用いた場合には、触媒除去工程を設けたとしても、微量の金属(例えば、上記アルカリ金属塩ではアルカリ金属、上記金属水酸化物ではこの金属)あるいはハロゲン(例えば、上記ハロゲン化アンモニウム塩および上記ハロゲン化ホスホニウム塩では、これらのハロゲンで、具体的には、F、Cl、Br、I)が製品である芳香族エーテル類に混入することは避けられない。
【0105】
上記芳香族エーテル類の用途では、物性低下の原因となることから、また環境への配慮の観点から、こうした金属やハロゲンの混入量の低減が求められている。金属の混入の許容量の上限値は100ppmであり、好ましくは50ppm、より好ましくは30ppm、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは1ppmである。また、ハロゲンの混入の上限値は100ppmであり、好ましくは50ppm、より好ましくは30ppm、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは1ppmである。金属またはハロゲンの混入量がこれらの上限値を越えると、芳香族エーテル類の使用時に、各種物性が低下する。
【0106】
これに対し、本発明法では、触媒にアニオン交換樹脂を用いるため、上記反応終了後の粗製物、および精製物には、不純物である金属やハロゲンの含有量が少なく、実質的に金属やハロゲンを含まない製品も製造可能である。具体的には、金属および/またはハロゲンの含有量が100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは30ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満、特に好ましくは1ppm未満のものが得られる。
【0107】
なお、本明細書でいう金属の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法で測定した値であり、ハロゲンの含有量は蛍光X線分析法により測定した値である。
【0108】
具体的には、金属の含有量を測定する際には、分析装置としてセイコー電子工業株式会社製の誘導結合プラズマ発光分析装置「SPS4000」を用いる。
【0109】
また、ハロゲンの含有量の測定には、分析装置にPHILPS社製の蛍光X線分析装置「PW2404」を用い、装置に備えられている定性分析プログラムを使用し、ハロゲン元素(F、Cl、Br、I)の標準試料と比較することにより定量する。
【0110】
なお、ハロゲンの含有量が蛍光X線分析装置の検出限界を下回るような場合は、イオンクロマトグラフィーとしてDionex社製「DX−500」を用いて測定することもできる。このイオンクロマトグラフィーでは、ハロゲンがイオン状態の場合に検出可能であるため、必要に応じてハロゲンをイオン化した後に測定を行う。測定条件は以下の通りである。
検出器:CD−20(電気伝導度検出器)
カラム:AS4A−SC
ガードカラム:AG4A−SC
溶離液:1.8mmol/L Na2CO3,1.7mmol/L NaHCO3
再生液:25mmol/L H2SO4。
【0111】
また、本発明法では、触媒にアニオン交換樹脂を用いるため、不純物の含有量が少なく、効率よく目的化合物を製造できる。さらに、触媒の分離が容易であるため、生成物の精製を効率的に実施することができる。未反応フェノール類の量は、該芳香族エーテル類に対して500ppm以下(質量基準、以下同じ)、好ましくは100ppm以下、より好ましくは30ppm以下とすることができる。また、上記芳香族エーテル類のフェノール性水酸基にオキシラン化合物が過剰に付加した不純物の割合は、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下とすることが可能である。
【0112】
加えて、本発明法では、目的化合物がフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の場合も、高選択率で製造できる。例えば、2価のフェノール類であるカテコールにオキシラン化合物のエチレンオキサイドを反応させる際には、1つのフェノール性水酸基を残存させた2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノールを高選択率で得ることが可能である。この化合物では、1g当たり6mmol以上のフェノール性水酸基を有することが好ましい。なお、このフェノール水酸基の好適量は、原料フェノール類および目的とする芳香族エーテル類によって異なる。
【0113】
このようにして得られる上記芳香族エーテル類は、用途に応じて単独で、または他の成分と混合して使用し得る。形状や状態についても特に限定されず、固体(例えば、粉体、フレーク、顆粒など)、スラリー、溶液(例えば、有機溶媒溶液)などの形態で取り扱うことができる。
【0114】
また、上記芳香族エーテル類の輸送や保存の形態としては、反応終了後の粗製物、および精製物に、希釈剤や安定剤などを加えたものなどが挙げられる。例えば、フェノール性水酸基の酸化防止の観点から、不活性ガスにより気相部を置換し(通常、酸素濃度:0.01vol%以下、好ましくは0.001vol%以下)、遮光された状態とすることが好ましい。さらには、ラジカル捕捉剤(例えば、亜リン酸または亜リン酸ジエステル10〜100質量ppm程度)を共存させることも、より好ましい。色相悪化防止の観点からは、微酸性条件(例えば、pH=6〜7程度)にしておくことも推奨される。この場合、例えば、脂肪族カルボン酸(ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、グリセリン酸など、より好ましくは、低揮発性の乳酸、コハク酸など)などの有機酸を添加することができる。添加量は、好ましくは1〜1000質量ppm、より好ましくは5〜100質量ppm程度である。これらの添加剤(希釈剤、安定剤)の添加時期は特に制約されない。すなわち、反応工程、晶析工程、製品化工程などの工程のいずれの時期であってもよい。
【0115】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例において、「ppm」は質量基準である。
【0116】
触媒合成例
以下に、本実施例で触媒として用いたアニオン交換樹脂Aの調製法を示す。まず、1リットルのセパラブルフラスコに、トルエン:350mlと流動パラフィン:50mlを仕込み、ソルビタンパルミテート:0.07g、およびエチルセルロース:0.21gを添加、溶解させて分散媒とした。また、濃度が65質量%のジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液:41.8gと、N,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC、架橋剤):8.3g、および水:5.4gを混合、溶解させ、モノマー溶液とした。さらに、重合開始剤の2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製「V−50」):0.32gと、水:3.5gとを混合した溶液を調製し、これをモノマー溶液に添加した。なお、架橋剤のTADPPCとは、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンにアリルクロライドを付加させてテトラアリル化した化合物である。
【0117】
次に、モノマー溶液を撹拌しながら分散媒に添加し、55℃で4時間、60℃で16時間、さらに92〜95℃で6時間反応させた。その後、生成した粒子を濾過により分離し、これをトルエン:600mlで1回、さらにメタノール:800mlで3回洗浄し、真空乾燥させて乾燥粒子:36.2gを得た。得られた粒子をアニオン交換樹脂A(Cl型)とした。
【0118】
また、アニオン交換樹脂A(OH型)の調製を、以下のようにして行った。上記樹脂A(Cl型)を水で膨潤させてクロマトカラムに充填し、このカラムに樹脂Aの体積の20倍体積量の2規定NaOH水溶液、20倍体積量のイオン交換水、10倍体積量のメタノールを順次通液した。ここで、通液速度はSV2で行った。続いて真空乾燥によりメタノールを除去し、アニオン交換樹脂A(OH型)を得た。
【0119】
実験1<原料フェノール類の水酸基を実質的に残存させずにオキシラン化合物と反応させてなる芳香族エーテル類の製造>
実施例1
単価のフェノール類であるフェノールへのエチレンオキサイド(EO)の付加反応を行った。ガス供給管、および攪拌装置を備えた500mlのオートクレーブに、フェノール:90g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:239g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体)を15.5g投入し、密閉した。続いて、脱気操作により液中の溶存酸素を除き、さらに気相部を窒素置換し、1kg/cm2・Gに加圧した。次に、内温を100℃に昇温し、ガス供給管を通してEO:48gを30分間かけて添加した。さらに、内温を90〜100℃に維持して6.5時間反応を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0120】
上記反応液の分析を、ガスクロマトグラフィー(GC)で行った。以下、分析条件を述べる。本実施例におけるGC分析は、全て下記条件に従って実施した。GC装置には島津製作所製「GC−15A」、カラムにはJ&W社製「DB−1(φ32mm×30m)」、キャリアにはヘリウムを用いた。温度条件は、サンプル注入後70℃で5分保持してから、300℃まで毎分15℃の速度で昇温し、その後300℃で保持するというパターンで行った。測定試料中の組成は、得られたGCチャートに示される対応ピークのエリア比で示す。
【0121】
GC分析の結果、反応液中の原料フェノールは70ppmであり、フェノールのEO1付加物(β−フェノキシエタノール)が98.6%であり、フェノールのEO2付加物が1.4%であった。なお、フェノールのEO2付加物とは、2分子のEOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。
【0122】
実施例2
フェノールへのEO付加反応を、無溶媒で且つ以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。フェノール:225.8g、アニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに仕込み、EO:110gを100℃で2時間かけてフィードした。さらに100℃で7時間熟成した後、反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0123】
GC測定による反応液の組成は、原料フェノールが90ppm、β−フェノキシエタノールが95%、フェノールのEO2付加物が4.9%であった。
【0124】
実施例3
多価フェノール類であるビスフェノールS(BPS)へのEO付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BPS:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):13.6gをオートクレーブに投入し、密閉した。次に、内温を100℃に昇温し、EO:44gを30分間かけて添加した。さらに内温を100℃に維持して5.5時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。分離した反応液を冷却すると、白色の固形物が析出してきた。
【0125】
上記反応液の分析は、ジメチルホルムアミドを添加して均一に溶解させた後、液体クロマトグラフィー(LC)で行った。以下、LC分析条件を述べる。LC装置には日立製作所製(ポンプL−7100、UV検出器L−7450H)、カラムにはGLサイエンス社製「イナートシルODS(φ4.6mm×25cm)」、キャリアには0.1質量%リン酸/メタノール混合溶液(体積で40/60)を用いた。カラム温度は40℃とし、流量を1ml/minとして分析した。測定試料中の組成は、得られたLCチャートに示される対応ピークのエリア比で示す。
【0126】
LC分析の結果、原料のBPSは100.0%転化しており、BPSのEO2付加物が95%、BPSのEO3付加物が4.1%であり、BPSのEO1付加物は検出されなかった。なお、BPSのEO1付加物とは、BPSの有する2つの水酸基のうち、いずれか一方のみとEOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPSのEO2付加物とは、BPSの有する2つの水酸基のいずれもが、EOと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPSのEO3付加物とは、BPSの有する水酸基の片方が1分子のEOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のEOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0127】
実施例4
フェノールへのプロピレンオキサイド(PO)の付加反応を行った。フェノール:10.0g、PO:7.4g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):0.8gを50mlのガラス製耐圧容器に投入した。続いて、気相部を窒素置換し密閉して、振とうしながら100℃のオイルバス中で加熱した。12時間反応させた後、反応液とアニオン交換樹脂Aを濾過により分離した。
【0128】
GC分析による反応液中の組成は、原料フェノールが10ppmで、フェノールのPO1付加物が94.4%、フェノールのPO2付加物が5.3%であった。なお、フェノールのPO1付加物とは、1分子のPOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。また、フェノールのPO2付加物とは、2分子のPOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。
【0129】
実施例5
ビスフェノールA(BPA)へのPOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例4と同様にして行った。BPA:5.0g、PO:2.8g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:10.0g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(OH型):0.5gを仕込み、100℃で加熱した。6時間反応させた後、反応液とアニオン交換樹脂Aを濾過により分離した。
【0130】
GC分析による反応液中の組成は、BPAのPO1付加物が0.1%、BPAのPO2付加物が99.0%、BPAの3PO付加物が0.8%であった。なお、BPAのPO1付加物とは、BPAの有する2つ水酸基のうち、いずれか一方のみとPOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPAのPO2付加物とは、BPAの有する2つの水酸基のいずれもが、POと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPAのPO3付加物とは、BPAの有する水酸基の片方が1分子のPOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のPOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0131】
実施例6
BPAへのEOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。すなわち、BPA:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに投入し、密閉した。次にEO:44gを添加し、100℃で7時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0132】
GC分析による反応液中の組成は、BPAのEO1付加物(BPA−1EO)が0.4%、BPAのEO2付加物(BPA−2EO)が97.7%、BPAの3PO付加物(BPA−3EO)が1.9%であった。原料のBPAは検出されなかった。なお、BPAのEO1付加物(BPA−1EO)、BPAのEO2付加物(BPA−2EO)、BPAのEO3付加物(BPA−3EO)は、夫々実施例5におけるBPAのPO1付加物、BPAのPO2付加物、BPAのPO3付加物のPOをEOに読み替えたものを意味している。
【0133】
実施例7
実施例6の反応液を室温で静置すると、白色の固形物が析出してきた。さらに−20℃まで冷却して3時間静置した後、濾過により固形物を分離し、乾燥した。
【0134】
GC分析による固形物の組成は、BPA−1EOが0.1%、BPA−2EOが98.3%、BPA−3EOが1.6%であった。また、BPA−2EOの回収率(原料の量から計算されるオキシラン化合物付加物の理論収量に対する収率、以下同じ)は80%であった。
【0135】
実施例8
触媒の再利用実験を行った。実施例6で使用し回収したアニオン交換樹脂Aを用いて、実施例6と同様して実験を行った。ただし、EO添加量は39gに、熟成は9時間に変更した。GC分析による反応液中の組成は、BPA−1EOが0.3%、BPA−2EOが97.1%、BPA−3EOが2.6%であり、BPAは検出されなかった。この実験により、アニオン交換樹脂触媒は再利用できることが判明した。
【0136】
実施例9
溶媒をメタノール:200gに、熟成を9時間に変更した他は、実施例6と同様に反応を行った。GC分析による反応液中の組成は、BPA−1EOが0.5%、BPA−2EOが97.7%、BPA−3EOが1.9%であり、BPAは検出されなかった。
【0137】
続いて、反応液を25℃で3時間静置した後、析出した固形物を回収、乾燥した。GC分析による固形物の組成は、BPA−1EOが0.1%、BPA−2EOが98.9%、BPA−3EOが1.0%であった。BPA−2EOの回収率は70%であった。
【0138】
実施例10
ビスフェノールフルオレン(BPF)へのEOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BPF:100g、エチレングリコールモノメチルエーテル:200g、アニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに仕込み、EO:31gを添加した。次に100℃で12時間反応させ、その後反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0139】
GC分析による反応液中の組成は、BPF−2EOが97.1%、BPF−3EOが2.7%であった。BPF、BPF−1EOは検出されなかった。
【0140】
実施例11
実施例10で得られた反応液を25℃で静置すると、白色の固形物が析出してきた。この固形物を回収、乾燥した。GC分析による固形物の組成は、BPF−2EOが98.0%、BPF−3EOが2.0%であった。BPF−2EOの回収率は60%であった。
【0141】
実施例12
多価フェノール類であるビスクレゾールフルオレン(BCF)へのEO付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BCF:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに投入し、密閉した。次に、EO:29.1gを添加し、100℃で10時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0142】
反応液組成を、LC分析した。LC分析の条件は、体積比35/65の0.1質量%リン酸/メタノール混合溶液を用いた他は、実施例3と同じ条件とした。LC分析の結果、原料のBCFは100.0%転化しており、BCFのEO2付加物が96.3%、BCFのEO3付加物が3.4%であり、BCFのEO1付加物は検出されなかった。なお、BCFのEO1付加物とは、BCFの有する2つの水酸基のうち、いずれか一方のみとEOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BCFのEO2付加物とは、BCFの有する2つの水酸基のいずれもが、EOと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BCFのEO3付加物とは、BCFの有する水酸基の片方が1分子のEOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のEOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0143】
実施例13
実施例12で得られた反応液の晶析精製を行った。撹拌機、冷却器および温度計付きのセパラブルフラスコに上記反応液からなる晶析溶液を投入し、オイルバスで95℃に加温した。次に、回転数:200rpmで撹拌しながら、上記溶晶析液を95℃から40℃まで、5℃/時間の速度で冷却した。晶析溶液は全体的に流動性のあるスラリーとなっていた。さらに40℃で1時間保持して晶析を終了した。得られたスラリーを濾過し、濾収物を常温のエチレングリコールモノメチルエーテル:40gによって洗浄し、60℃で減圧乾燥して精製物を得た。この精製物について、実施例12と同様にしてLC分析を行った結果、この精製物の組成は、BCFの2EO付加物が99.2%、BCFの3EO付加物が0.8%であり、BCFの2EO付加物の回収率は60%であった。
【0144】
実験2<フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の製造>
実施例14
カテコール(CC)へのEOの付加反応を行った。ガス供給管、および攪拌装置を備えた500mlのオートクレーブに、CC:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体)を14g投入し、密閉した。続いて、脱気操作により液中の溶存酸素を除き、さらに気相部を窒素置換し、加圧した。次に、内温を100℃に昇温し、ガス供給管を通してEO:44gを30分間かけて添加した。さらに内温を100℃に保持し、3時間熟成を行った。反応終了後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0145】
反応液の組成分析は、GCで行った。原料のCCは88%反応し、生成物中に占める目的物[CCのEO1付加物=β−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール]の比率(以下、「反応選択率」という)は82%であった。
【0146】
実施例15
溶媒をトルエンに変更して、実施例14と同様に反応を行った。反応結果を表1に示す。さらに反応終了後、100℃を保ったまま反応液を加圧濾過にかけ、樹脂Aと反応液を分離した。得られた反応液を室温で静置し、放冷したところ、白色の固形物が析出した。GC分析(検量線法)の結果、この固形物の組成は、CC:0.6質量%、CCのEO1付加物:96.8質量%、CCのEO2付加物:2.6質量%であり、その収量は85gであった。なお、CCのEO2付加物とは、CCの両水酸基がEOと反応してエーテルとなっているものを意味する。
【0147】
得られた固形物中のナトリウム(金属)含有量を誘導結合プラズマ発光分析法で測定した。分析装置にはセイコー電子工業株式会社製「SPS4000」を用いた。その結果、ナトリウム含有量は固形物に対して1ppm未満であった。
【0148】
また、得られた固形物中のハロゲン元素の含有量を蛍光X線分析法により測定した。分析装置にはPHILIP社製「PW2404」を用い、装置に備えられている定性分析プログラムを使用し、ハロゲン元素(F、Cl、Br、I)の標準試料と比較することにより定量した。その結果、ハロゲン元素は確認されず、その含有量は100ppm未満であった。
【0149】
実施例16〜18
各種条件を変更して、実施例14と同様に反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。ただし、実施例17および18においては、EOの添加時間を3時間にした。
【0150】
実施例19
実施例14で用いたアニオン交換樹脂Aを減圧濾過により反応液と分離して回収した。次に、回収したアニオン交換樹脂Aを300mlのメタノールで洗浄して真空乾燥にかけ、乾燥させた。続いて、得られた回収アニオン交換樹脂Aを触媒として実施例1と同様に反応を行い、触媒の再利用実験を行った。表1に示したように、大きな活性低下は認められず、アニオン交換樹脂触媒は再利用できることがわかった。
【0151】
実施例20
CCへのPOの付加反応を行った。CC:5.0g、PO:3.2g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:10.0g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):0.8gを50mlのガラス製耐圧容器に投入した。続いて、気相部を窒素置換し、密閉して、振とうしながら90℃のオイルバス中で加熱した。反応終了後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0152】
反応液の組成分析は、GCで行った。その結果、反応12時間で原料のCCは89%反応し、生成物中に占める目的物[CCのPO1付加物=α−メチル−β−(2‐ヒドロキシフェノキシ)エタノール、およびβ−メチル−β−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール]の選択率は84%であった。
【0153】
実施例21〜27
各種条件を変更し、実施例20と同様に反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。実施例23において、アニオン交換樹脂BはダイヤイオンTSA1200(三菱化学社製の耐熱性アニオン交換樹脂、塩素イオン型乾燥体で使用)である。
【0154】
比較例1〜3
上記特許文献5で開示されているハロゲン化第4アンモニウム化合物の代表的な例として、テトラメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。比較例ではこれを触媒として用い、実施例20と同様に各種反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。この結果より、各種反応において、アニオン交換樹脂に比べて目的物の反応選択率が低いことが分かった。また、触媒であるアニオン交換樹脂は、反応液との分離も、濾過という容易な操作で実施可能であったのに対し、比較例で用いた触媒(テトラメチルアンモニウムクロライド)は、反応液からの分離・回収が非常に困難であった。
【0155】
【表1】
【0156】
表1中の略号は、以下の通りである。CC:カテコール、HQ:ハイドロキノン、RC:レゾルシン、EO:エチレンオキサイド、PO:プロピレンオキサイド、樹脂A:アニオン交換樹脂A、樹脂B:アニオン交換樹脂B、TMAC:テトラメチルアンモニウムクロライド、EGMME:エチレングリコールモノメチルエーテル、MIBK:メチルイソブチルケトン。
【0157】
また、「目的物の反応選択率」について、目的物とはフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類(β−フェノキシエタノール類)であり、ここでは、多価フェノールにオキシラン化合物が1分子付加した化合物である。反応選択率は、全生成物に対するGCエリア比で表示している。さらに、「反応条件」における時間(反応時間)は、EOまたはPO添加開始を0時間として表示している。
【0158】
【発明の効果】
本発明法によれば、フェノール類とオキシラン化合物を反応させて対応する芳香族エーテル類を製造するに当たり、アニオン交換樹脂を触媒として用いることで、反応活性を高めると共に、副生物の生成を抑えて、目的の構造を有する芳香族エーテル類を収率良く製造することができる。また、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後に実施する晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることで、目的とする構造の芳香族エーテル類を経済的に有利に得ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノール類とオキシラン化合物から対応する芳香族エーテル類を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
β−フェノキシエタノール類を始めとする芳香族エーテル類は、分子内にアルコール性水酸基を有するため、各種用途に利用されている。上記芳香族エーテル類は、グリコールエーテルの一種であり高沸点であるが故に作業環境の面で優れた溶媒である。また、分子内のアルコール性水酸基の作用を利用して、ポリエステル原料、ポリウレタン原料、(メタ)アクリレート原料などを始めとする各種化学品の重要原料として用いられている。
【0003】
また、上記芳香族エーテル類が、フェノール性水酸基も分子内に有する場合には、特にフェノール性水酸基の殺菌作用を使用して、化粧品分野、医薬品分野、香料分野で幅広く使用されている。例えば、安全性の高い皮膚外用剤として有用であることが示されている。さらに、良好な解像度、焦点深度および現像性を有し、且つ感度、レジストパターン断面形状並びに保存安定性に優れた集積回路作製用レジスト組成物としての用途や、カチオン電着塗料組成物としての用途も知られている。
【0004】
上記芳香族エーテル類の合成は、無触媒では反応速度が極めて遅くまた副反応が多い。このため、上記芳香族エーテル類は、触媒を使用して製造されている。
【0005】
例えば、上記芳香族エーテル類に含まれるβ−フェノキシエタノール類の製法としては、従来からアルカリ金属塩と大量の水を用いて合成する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、大量の水の適用は、オキシラン化合物の使用効率の低下を招くのみならず、多量の工業廃水が発生するという潜在的な問題を抱えている。特にフェノール類には殺菌作用を持つものが多いため、廃水が未反応フェノール類を含有している場合には、該廃水の活性汚泥処理が困難である。
【0006】
このような理由から、上記芳香族エーテル類の製法としては、上記特許文献1に開示の水系プロセスではなく、非水系のプロセスが求められている。
【0007】
上記芳香族エーテル類の非水系プロセスによる製法としては、ハロゲン化ホスホニウム塩もしくは3級ホスフィンとハロゲン化アルキルからなる触媒(特許文献2)や、ハロゲン化トリアルキルベンジルアンモニウム類の存在下での反応が知られている(特許文献3)。
【0008】
ところで、反応生成物である上記芳香族エーテル類中に触媒が残存すると、製品(該芳香族エーテル類)に悪影響を及ぼす場合がある。よって、上記芳香族エーテル類の生成後には、触媒を取り除くことが好ましい。
【0009】
しかしながら、これら特許文献2や特許文献3に開示の技術は均一系触媒を用いていることから、反応物生成後の触媒の回収が困難である。
【0010】
例えば、特許文献2や特許文献3に開示の技術以外にも、一般的な触媒として、金属水酸化物やアンモニウム塩などの均一系触媒が知られている。これらの触媒を用いて上記芳香族エーテル類の合成を行った場合には、触媒は原料であるフェノール類と塩を形成する。この塩を取り除くには、酸中和、水洗浄などの煩雑な工程が必要となる。また、酸中和を行うと、フェノール類が遊離するため、未反応原料の増加に繋がる。
【0011】
フェノール類とオキシラン化合物との付加反応を過剰に行うことで、中和時の遊離フェノール類量を減らすことも可能であるが、その場合には、オキシラン化合物が過剰に付加した不純物の増加などを招き、純度の高い製品が得られ難いという問題が生じる。
【0012】
また、フェノール性水酸基を有する上記芳香族エーテル類の合成法としては、例えば、鉄イオンなどの遷移金属イオン触媒の存在下で、多価フェノール類にオキシラン化合物を付加させる方法が知られている(特許文献4)。
【0013】
しかしながら、本発明者等の検討によると、この方法では、触媒である遷移金属イオンによって反応系内に存在する微量の酸素が、原料の多価フェノール(カテコール)を酸化させるため、キノン類が生成し易いことが判明した。このようなキノン類は、フェノール類と所謂キンヒドロン類を形成する。このキンヒドロン類は、生成する芳香族エーテル類の着色の原因となるため、反応工程後の精製工程での負担が大きくなり、工業的に有利な方法ではない。
【0014】
なお、一般にキンヒドロンは、多価フェノールであるヒドロキノンと、その酸化生成物であるp−ベンゾキノンからなる分子化合物のことであるが、ここでいうキンヒドロン類とは、多価フェノール類と、その酸化生成物であるキノン類からなる分子化合物を指す。
【0015】
さらに、特許文献5では、ハロゲン化第4アンモニウム化合物、ハロゲン化第4ホスホニウム化合物を用いて、多価フェノール類にエチレンオキサイドを付加する方法が開示されている。しかしながら本発明者等の検討によると、この方法では選択的にフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類を合成することが困難であり、また触媒が低分子であるため、やはり反応終了後の反応粗液から触媒を分離することが困難であり、工業的に有利な方法ではないことが判明した。
【0016】
【特許文献1】
特公昭39−30272号公報
【特許文献2】
特公昭50−654号公報
【特許文献3】
特公昭49−33183号公報
【特許文献4】
オランダ国特許第6600198号明細書
【特許文献5】
特公昭54−1291号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フェノール類とオキシラン化合物を原料として、副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有する芳香族エーテル類を選択率良く製造し得る方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、フェノール類とオキシラン化合物を反応させて芳香族エーテル類を良好に製造する方法として、アニオン交換樹脂を触媒として使用する方法を見出した。
【0019】
アニオン交換樹脂を触媒とすることで、反応活性を高めて高収率で上記芳香族エーテル類を製造できる。また、実質的に水を使用しない反応条件でも反応が行えるため、オキシラン化合物の損失が少なく、且つ少ない廃水で上記芳香族エーテル類を製造することが可能である。
【0020】
アニオン交換樹脂が固体である場合には、目的化合物(芳香族エーテル類)と触媒を容易に分離することができ、繰り返し使用することができる。触媒を容易に分離できるため、反応後の触媒の中和工程を必要とせず、未反応フェノール類の塩類や不純物の塩類の増加が起こらない。また、未反応フェノール類を低下させ得ることから過剰にオキシラン化合物の付加を行う必要がないため、副生物の生成が少なく、目的とする構造の芳香族エーテル類の生成選択率が良好である。
【0021】
本発明法によって製造される上記芳香族エーテル類としては、第1に、原料であるフェノール類が多価フェノール類であり、オキシラン化合物との反応後において、該多価フェノール類の有する水酸基を少なくとも1つ残存させたもの、すなわち、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類が挙げられる。
【0022】
本発明法によって製造される上記芳香族エーテル類の第2の態様としては、原料であるフェノール類が単価または多価のフェノール類であり、該フェノール類のフェノール性水酸基を実質的に残存させることなくオキシラン化合物と反応させたものが挙げられる。
【0023】
また、上記芳香族エーテル類の製造においては、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後に実施する晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることが推奨される。このような方法の採用により、上記芳香族エーテル類を経済的に有利に得ることができる。
【0024】
この他、上記の芳香族エーテル類(アルコール性水酸基を有する芳香族エーテル類)であって、金属の含有量が100ppm未満(質量基準、以下同じ)であり、且つハロゲン元素の含有量が100ppm未満であるものも本発明に包含される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の芳香族エーテル類は、後述するフェノール類とオキシラン化合物を反応させることで合成可能な化合物であり、アルコール性水酸基およびフェノール性水酸基を有するもの、あるいはフェノール性水酸基は有さずにアルコール性水酸基を有するものが含まれる。なお、かかる芳香族エーテル類は、こうしたフェノール類とオキシラン化合物との反応に限られず、アルキレンカーボネート類、ハロゲン化アルカノール類あるいは多価アルコール類とフェノール類との反応など、公知の技術により合成することもできる。
【0026】
本発明法で使用される原料のフェノール類は、固体、液体のいずれであっても良く、形態(荷姿)、純度についても特に制限はない。
【0027】
上記フェノール類とは、分子内にフェノール性水酸基を1以上含有する芳香族化合物を意味する。芳香族化合物とは、芳香環を有する化合物であり、芳香環には、シクロペンタジエン環などの非ベンゼン系芳香環;ベンゼン環;ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの縮合芳香環;これら非ベンゼン系芳香環、芳香環あるいは縮合芳香環の1以上の炭素原子が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子に置き換えられている複素芳香環(ピロール環、ピリジン環、チオフェン環、フラン環など);などが含まれる。
【0028】
単価のフェノール類としては、フェノール;o,mまたはp−クレゾール、o,mまたはp−エチルフェノール、o,mまたはp−t−ブチルフェノール、o,mまたはp−オクチルフェノール、2,3−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノールなどの炭化水素置換基を有するフェノール;o,mまたはp−フェニルフェノール、p−(α−クミル)フェノール、4−フェノキシフェノールなどの芳香族置換基あるいは芳香環を含む置換基を有するフェノール;o,mまたはp−ヒドロキシベンズアルデヒドなどのアルデヒド基を有するフェノール;グアヤコール、グエトールなどのエーテル結合を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシフェネチルアルコールなどのアルコール性水酸基を含む置換基を有するフェノール;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシフェニル酢酸メチルエステル、ヘプチルパラベンなどのエステル結合を含む置換基を有するフェノール;2,4,6−トリクロロフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノールなどのハロゲン基を有するフェノール;oまたはp−ニトロフェノールなどのニトロ基を有するフェノール;アミノフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノフェノール、p−ヒドロキシフェニルアセトアミドなどの窒素原子を含む置換基を有するフェノール;α−ナフトール、β−ナフトール;などが挙げられる。これらの中でもフェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0029】
多価フェノール類としては、カテコール類(カテコール、プロトカテキュ酸、クロルアセチルピロカテキン、アドレナロン、アドレナリン、アポモルフィン、ウルシオール、チロン、フェニルフルオロンなど)、レゾルシノール類(レゾルシノール、オルシン、ヘキシルレゾルシンなど)、ハイドロキノン類(2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−t−ブチルハイドロキノン、ホモゲンチジン酸エステルなど)などの2価フェノール;ピロガロール類(ピロガロール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、没食子酸ラウリル、没食子酸エステル、プルプロガリンなど)、フロログルシン類(フロログルシンなど)、オキシハイドロキノン類(オキシハイドロキノンなど)などの3価フェノール;ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2(β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、アルミノン、アトラノリン、エリトリン、カテキン、エピカテキン、イソカルタミン、クルクミン、コクラウリン、シアニジン、シリンギジン、スチルベストロール、タンニン酸エステル、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、フェノールレッド、フロリジン、ヘキセストロール、ヘマトキシリン、ペラルゴニジン、モリン、レカノール酸などのビスフェノール類;1,4−ジヒドロキシナフタレン、カルボニルJ酸、(R)−1,1’−ビ−2−ナフトール、(S)−1,1’−ビ−2−ナフトール、エリオクロムブラックT、α−ビナフトール、β―ビナフトール、γ―ビナフトールなどのヒドロキシナフタレン類;1,4−ジヒドロキシアントラキノン、ロイコ−1,4−ジアミノアントラキノン、ロイコ−1,4−ジヒドロキシアントラキノン、アントラヒドロキノン、アリザリン、アリザリンS、エモジン、キニザリン、ケルメス酸エステル、酸性アントラキノン染料(アリザリンサフィロールBなど)、プルプリン、プルプロキサンチンなどのヒドロキシアントラセン類またはヒドロキシアントラキノン類;シトラジン酸;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;ポリフェノール類、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、アトロメンチン、アントラキノン染料(建て染め紫)、ウスニン酸、デヒドロウルシオール、エキノクロム、オルセリン酸エステル、カルタミン、酸性媒染染料(ダイヤモンドブラックF、クロムファストネビーブルB、パラチンファストブルーなど)、ジヒドロフェニルアラニンエステル、ジロホール酸エステル、デルフィニジン、ビタミンP、フルオレセイン、ポリポル酸などの高分子系フェノール類;などが挙げられる。
【0030】
これら多価フェノール類の中でも、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の原料として好ましいのは、カテコール類、レゾルシノール類、ハイドロキノン類であり、より好ましいのはカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンである。また、フェノール性水酸基が実質的に残存しない芳香族エーテル類の原料として好ましいのはビスフェノール類であり、より好ましいのはビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレンである。
【0031】
一方の原料であるオキシラン化合物とは、分子内に一つ以上のエポキシ基(三員環エーテル)を有する化合物をいう。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイドなどの脂肪族アルキレンオキサイド;スチレンオキサイドなどの芳香族アルキレンオキサイド;シクロヘキセンオキサイド;などが好適である。これらのオキシラン化合物は、1種単独で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。上記のオキシラン化合物の中でも、炭素数が2〜4の脂肪族アルキレンオキサイド、すなわち、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイドが好ましい。
【0032】
本発明に係る芳香族エーテル類の構造は、下記一般式(1)で表される。
【0033】
【化1】
【0034】
上記一般式(1)において、Zは芳香環を含む炭化水素残基であり、具体的には、フェノール類について上述した非ベンゼン系芳香環、ベンゼン環、縮合芳香環および複素芳香環を含む炭化水素残基を示す。「OH」および「O−A−OH」はZ上の水素原子を置換する基であり、nは1以上且つZ上の置換され得る水素原子の最大数以下の整数で、mは1以上n以下の整数を示す。Aは下記一般式(2)で示される。
【0035】
【化2】
【0036】
上記一般式(2)において、R1〜R4は各々独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。R1〜R4がアルキル基および/またはアリール基の場合には、各種置換基を有していてもよい。また、R1(あるいはR2)とR3(あるいはR4)が環状構造(例えば、5員環や6員環など)を形成していてもよい。
【0037】
上記一般式(1)中のZの芳香環に結合した水酸基が本明細書でいう「フェノール性水酸基」であり、Aに結合した水酸基が本明細書でいう「アルコール性水酸基」である。
【0038】
また、上記フェノール類の構造は、下記一般式(3)で示される。
【0039】
【化3】
【0040】
上記一般式(3)において、Zおよびnは、上記一般式(1)と同じ意味である。また、「OH」はZ上の水素原子を置換する基である。
【0041】
これらフェノール類の中でも、Zがフェニル基でn=1のもの(フェノール)、Zがメチルフェニル基でn=1のもの(クレゾール)、Zがフェニル基でn=2のもの(カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン)、Zが下記一般式(4)〜(7)で示される炭化水素残基でn=2のもの{ビスフェノールA[一般式(4)]、ビスフェノールS[一般式(5)]、ビスフェノールフルオレン[一般式(6)]、ビスクレゾールフルオレン[一般式(7)]}が好ましい。
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
さらに、上記オキシラン化合物の構造は、下記一般式(8)で示される。
【0045】
【化6】
【0046】
上記一般式(8)において、R5〜R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。R5〜R8がアルキル基および/またはアリール基の場合には、各種置換基を有していてもよい。また、R5(あるいはR6)とR7(あるいはR8)が環状構造(例えば、5員環や6員環など)を形成していてもよい。
【0047】
これらオキシラン化合物の中でも、R5〜R8が水素原子(エチレンオキサイド)、R5〜R8のいずれか1つがメチル基で他の3つが水素原子(プロピレンオキサイド)、R5およびR6メチル基で、R7およびR8が水素(イソブチレンオキサイド)、R5およびR7メチル基で、R6およびR8が水素(2,3−ブチレンオキサイド)が好ましい。
【0048】
本発明法で触媒として用いるアニオン交換樹脂とは、アニオン交換能を有する高分子化合物をいう。このアニオン交換樹脂は、反応溶媒(後述する)に溶解するものを用いてもよく、溶解せずに固体のままで存在するものを用いてもよい。すなわち、上記反応時におけるアニオン交換樹脂の形態としては、反応液に均一に溶解している他、反応液とスラリーを形成していたり、反応液中に固体で存在していてもよい。固体で存在する場合には、顆粒、粒子、粉末、支持体に担持された状態などを採り得る。
【0049】
なお、フェノール類とオキシラン化合物との反応終了後、触媒を分離し繰り返し使用する観点からは、反応溶媒に溶解せず、固体のままで存在するアニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0050】
上記アニオン交換樹脂としては、主鎖およびアニオン交換基を必須とし、さらに架橋部位を有するものが好ましい。アニオン交換基としては、3級のアミン、4級アンモニウム塩、3級のホスフィン、または4級ホスホニウム塩の各構造を有する基が挙げられ、その中でも、4級アンモニウム塩構造および4級ホスホニウム塩構造を有する基が好ましい。さらには、アニオン交換基は耐熱性に優れる構造を有していることが好ましく、具体的には、以下の2構造を有することが推奨される。
【0051】
第1には、アニオン交換基が環状構造を有していることが挙げられる。環状構造の形態としては、5員環、6員環などであることが好ましく、5員環であることがより好ましい。特に4級アンモニウム塩構造を有する場合には、ピペリジン骨格またはピリジン骨格を有していることが好ましい。このような環状4級アンモニウム塩構造を有するアニオン交換基を含むアニオン交換樹脂としては、かかる樹脂が容易に形成される観点から、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドによって合成されるものが推奨される。
【0052】
第2には、アニオン交換基が炭素数4以上のアルキレン鎖を介して主鎖に結合されている構造が挙げられる。
【0053】
また、上記の4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩は、陽イオン化したヘテロ原子と対をなす陰イオンを有する。本発明におけるアニオン交換樹脂の初期の陰イオン種は、特に限定されるものではない。例えば水酸化物イオン;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン化物イオン;有機酸のアニオン(カルボン酸アニオン、フェノキシアニオン類など);無機酸のアニオン;などが挙げられる。無機酸のアニオンには、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、チオシアン酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、メタレートイオン(たとえばモリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、リンタングステン酸イオン、メタバナジン酸イオン、ピロバナジン酸イオン、水素ピロバナジン酸イオン、ニオブ酸イオン、タンタル酸イオンなど)などが含まれる。上記例示の陰イオン種の中でも、各種有機酸のアニオン、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオンが好ましい。
【0054】
また、上記アニオン交換樹脂としては、低分子アニオン交換樹脂、高分子アニオン交換樹脂のいずれも使用可能である。低分子アニオン交換樹脂の場合には、フェノール類とオキシラン化合物の反応後、触媒を分離し繰り返し使用し得るものが好ましいといった観点から、分子量500以上のものが望ましく、1000以上のものがより望ましい。
【0055】
以上説明したアニオン交換樹脂の具体例としては、例えば、アニオン交換基が上記第2の構造を有するものとして、三菱化学社製「ダイヤイオンTSA1200」が挙げられる。
【0056】
また、耐熱性は比較的低いが、三菱化学社製「ダイヤイオンPA300シリーズ」、「ダイヤイオンPA400シリーズ」、「ダイヤイオンHPA25,75」;DOW社製「ダウエックス」(SBR、SBR−P−C、SAR、MSA−1、MSA−2、22、マラソンA、マラソンALB、マラソンA2、モノスフィアー550A);ローム・アンド・ハース社製「デュオライト」(A113、A113LF、A113MB、A109D、A116、A116LF、A161TRSO4、A162LF、A368S、A378D、A375LF、A561、A568K、A7);などの市販のアニオン交換樹脂も使用可能である。
【0057】
本発明法では、フェノール類とオキシラン化合物を反応させる際に、溶媒を用いても良く、用いなくても良い。溶媒を用いる場合には、水溶媒、有機溶媒、これらの混合溶媒が使用できるが、フェノール類を含む廃水は、活性汚泥処理が困難であることから、水以外の溶媒を使うことがより好ましい。
【0058】
ちなみに、本発明法で使用する上記の触媒は、実質的に水の非存在下で、フェノール類とオキシラン化合物との反応を有利に進行させることができるため、水は不要である。ここでいう実質的な水の非存在とは、原料(フェノール類およびオキシラン化合物)に対する水の含有量が1質量%未満の状態をいい、さらに好ましくは1000ppm未満(質量基準)の状態をいう。
【0059】
本発明法で使用し得る溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの炭素数1〜6のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの炭素数3〜6のグリコールエーテル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの炭素数2〜6のエーテル類;などが挙げられる。また、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;エチレングリコールなどのグリコール類;ピリジン;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;エチレンカーボネート;などを用いることもできる。
【0060】
加えて、上記溶媒としては、溶解度パラメーターが7.0以上20.0以下のものが好ましい。特に多価フェノール類とオキシラン化合物との反応の際に、このような溶媒を上記触媒と組み合わせて用いると、反応条件の選択次第では、多価フェノール類の有するフェノール性水酸基の一部を残存させつつ反応を進めることが可能であり、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の生成の選択性が非常に高くなる。その理由は定かではないが、溶媒の溶解度パラメーターが上記範囲内の場合は、触媒であるアニオン交換樹脂の主鎖などとの溶解度パラメーターと近く、このことが反応選択性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0061】
なお、本発明でいう「溶解度パラメーター」(δ)とは、液体間の混合性の尺度を表す指標で、正則溶液理論における凝集エネルギー密度の平方根であり、下記式(9)で表される。
【0062】
δ=(ΔEV/V)1/2 (9)
ここで、Vは溶媒のモル容積(cm3/mol)を表し、ΔEVは25℃における溶媒の蒸発熱(cal/mol)を表す。
【0063】
本発明法で使用し得る溶媒の中でも、特に溶解度パラメーターが上記範囲内にあるものとしては、例えば、ペンタン(δ=7.0)、ヘキサン(δ=7.3)、ヘプタン(δ=7.4)、シクロヘキサン(δ=8.2)、メチルイソブチルケトン(δ=8.4)、酢酸ブチル(δ=8.5)、o−キシレン(δ=8.8)、p−キシレン(δ=8.8)、トルエン(δ=8.9)、テトラヒドロフラン(δ=9.1)、酢酸エチル(δ=9.1)、ベンゼン(δ=9.2)、メチルエチルケトン(δ=9.3)、ジクロロメタン(δ=9.7)、1,2−ジクロロエタン(δ=9.8)、シクロヘキサノン(δ=9.9)、アセトン(δ=9.9)、1,4−ジオキサン(δ=10.0)、ピリジン(δ=10.7)、エチレングリコールモノメチルエーテル(δ=11.4)、1−ブタノール(δ=11.4)、2−プロパノール(δ=11.5)、アセトニトリル(δ=11.9)、ジメチルスルホキシド(δ=12.0)、ジメチルホルムアミド(δ=12.1)、エタノール(δ=12.7)、メタノール(δ=14.5)、エチレングリコール(δ=14.6)、エチレンカーボネート(δ=14.7)などが例示できる。このような溶媒の溶解度パラメーターは、例えば「A.F.M.Burton,Chemical Reviews,1975,Vol.75,No.6,p731−753」に開示されている。
【0064】
本発明法では、これら例示の溶媒を1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の溶媒を混合する場合には、混合溶媒の溶解度パラメーターが上記範囲内にあればよく、混合される各溶媒の溶解度パラメーターは特に限定されない。混合溶媒の溶解度パラメーターδmixは下記式(10)により求められる。
δmix=(x1V1δ1+x2V2δ2+・・・xnVnδn)/(x1V1+x2V2+・・・xnVn) (10)
ここで、nは混合する溶媒の種類を表し、x,V,δは、各溶媒のモル分率、モル容積、溶解度パラメーターを表す。
【0065】
なお、使用する溶媒の溶解度パラメーターが上記下限値を下回ると、多価フェノール類の溶解度が小さく濃度が薄くなるために上記芳香族エーテル類の生産性が低くなる傾向にある。より好ましい下限値は8.0、さらに好ましい下限値は8.5である。他方、溶解度パラメーターが上記上限値を超えると、上記触媒の有する炭化水素残基の溶解度パラメーターとの差が大きくなり、生成する上記芳香族エーテル類の選択性(フェノール性水酸基を有する芳香族フェノール類の収率)が低下する傾向にある。より好ましい上限値は12.5、さらに好ましい上限値は11.5、特に好ましい上限値は10.5である。上記の溶媒の中でも、例えば、酢酸ブチル(δ=8.5)、トルエン(δ=8.9)、メチルエチルケトン(δ=9.3)、1,4−ジオキサン(δ=10.0)などが特に好ましい。
【0066】
本発明法における上記反応の形態は特に限定されず、例えば上記反応をバッチ方式で実施してもよく、連続方式で実施しても構わない。連続方式の場合は触媒を反応釜内に懸濁させることもでき、触媒を固定床として反応原料を通過させることで反応を進行させることもできる。また、本発明法では、原料は反応中に均一に混合していることが好ましいが、反応できる状態にある限り2層に分離していても構わない。
【0067】
上記反応の実施に際しては、原料仕込み量、触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は特に制限されず、目的とする芳香族エーテル類の構造に応じてこれらの条件を適宜選択すればよい。
【0068】
例えば、フェノール類として多価フェノール類を用いて、フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類を製造する場合には、以下の条件を採用することが望ましい。原料仕込み量は、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基のうち、オキシラン化合物を付加させるべきフェノール性水酸基の量に対し、オキシラン化合物の量を、モル比で0.1〜2.0とすることが好ましく、経済性の観点からは、0.5〜1.5とすることがより好ましい。さらに好ましくは0.9〜1.2である。
【0069】
他方、フェノール類に単価または多価のフェノール類を用いて、フェノール性水酸基をできる限り残存させずにオキシラン化合物と反応させた芳香族エーテル類を製造するには、以下の条件を採用することが推奨される。原料仕込み量は、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基量に対し、オキシラン化合物の量を、モル比で、少なくとも0.9とすることが好ましい。より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは1.0以上である。また、多価フェノール類が有するフェノール性水酸基量に対するオキシラン化合物量のモル比の上限は、5であることが好ましく、2であることがより好ましく、1.5であることがさらに好ましく、1.2であることが特に好ましく、1.05であることが最も好ましい。
【0070】
触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は、目的とする芳香族エーテル類の構造によらず、以下の範囲内から選択することが推奨される。
【0071】
触媒量は、触媒を含む反応液全体積に対して、1〜70体積%とすることが好ましく、さらに好ましくは5〜30体積%である。
【0072】
溶媒量は、原料である多価フェノール類に対し、質量比で0〜5とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜2.5である。
【0073】
反応温度は50〜150℃とすることが好ましく、80〜120℃とすることがより好ましい。反応時間は、生産性を考慮すると1〜24時間とすることが好ましく、1〜12時間とすることがより好ましい。
【0074】
本発明法により製造される上記芳香族エーテル類は、純度が高いため、上記反応後そのまま製品とすることもできるが、必要に応じて上記反応後に芳香族エーテル類のみを蒸留、抽出、晶析などの一般的な方法で分離して製品とすることも好ましい。また、原料であるフェノール類のみを蒸留、抽出、晶析などの方法で分離してもよい。この他、触媒を用いて原料であるフェノール類を転化させて系内をフェノール類が実質的に非存在な状態とし、フェノール類が転化した後の生成物を上述の如き一般的な方法で分離しても構わない。
【0075】
蒸留法としては、減圧蒸留、水蒸気蒸留、分子蒸留、抽出蒸留などが挙げられるが、これらに限定される訳でない。また、晶析法としては、(1)反応終了後の反応液を冷却する、(2)目的物に対する貧溶媒を、反応液に加える、(3)反応液中の溶媒を留去する、(4)反応液に徐々に加圧する、などの方法があり、これらを単独で、または組み合わせて実施できる。
【0076】
この中でも、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後の晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることが好ましい。この場合には、溶媒の損失や溶媒回収にかかる費用が少なく、目的化合物を経済的に有利に得ることができる。ここでいう「共通のものとする」とは、反応工程で得られた反応液に異なる種類の溶媒を加えないことを意味する。例えば、反応工程で得られた反応液を、実質的にそのまま晶析工程に供することや、該反応液に反応工程で使用したものと同一種の溶媒を加えて、これを晶析工程に供することが該当する。この場合、反応工程で用いる溶媒の全部または一部が晶析工程に係る晶析溶液に含まれていればよい。
【0077】
さらに、晶析工程は1つまたは複数の晶析段階で構成することができる。晶析工程中は大気開放状態ではなく、不活性ガスでシールされた状態とすることが好ましい。大気開放状態であると、晶析母液に酸素が吸収され、色相を悪化させ、高品質の製品を得ることが困難となる。晶析生成物を分離した晶析母液は、原料フェノール類の効率的利用の観点から、必要に応じて反応工程あるいは晶析工程に循環される。この場合、原料母液には、晶析工程で得られた晶析母液の少なくとも一部を用いることができる。通常、複数段の晶析工程と晶析生成物の固液分離分離工程が採用され、これに応じて複数種の母液(フェノール類の溶液)が得られるが、本発明法では、これらの任意の段階での母液を反応工程あるいは晶析工程の原料母液として用いることができる。なお、これらの工程では、上述の如く、反応工程と晶析工程の溶媒を共通のものとすることが、より一層効率的である。
【0078】
また、上記晶析工程に際しては、晶析時の溶媒の溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下であることが推奨される。晶析溶媒がこのような溶解度パラメーターを有していれば、例えば、晶析溶液の状態を僅かに変化させるだけで、芳香族エーテル類の結晶が良好に析出するように該溶液を調製することが容易である。
【0079】
晶析溶媒の溶解度パラメーターが上記下限値を下回ると、該溶媒への芳香族エーテル類の溶解度が小さくなる傾向にあるため、晶析が困難または実質上不可能となる場合がある。より好ましい下限値は8.0、さらに好ましい下限値は8.5である。他方、晶析溶媒の溶解度パラメーターが上記上限値を超えると、該溶媒への芳香族エーテル類の溶解度が大きいことから、結晶を析出させるために必要となる晶析溶液の状態変化の程度を大きくする必要が生じる場合があり、晶析効率が低下する傾向にある。より好ましい上限値は11.0、さらに好ましい上限値は10.0、特に好ましい上限値は9.5である。
【0080】
例えば、上記反応工程に用いた溶媒の溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の場合には、該反応液から直接晶析を実施してもよく、さらに溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒を投入したり、蒸留などにより溶媒の一部を除去したりすることで、溶液濃度を調節してから実施してもよい。
【0081】
他方、反応液に用いている溶媒の溶解度パラメーターが7.5未満あるいは12.5超の場合には、溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の範囲となるように他の溶媒を添加混合するか、または溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒で反応溶媒を置換して晶析を行ってもよい。
【0082】
ただし、上記した通り、反応工程時の溶媒と晶析工程時の溶媒を共通にすることが好ましいため、反応工程時の溶媒に、溶解度パラメーターが7.5以上12.5以下の溶媒を選択しておくことが望ましい。
【0083】
さらに、晶析工程に先立って、反応に使用した触媒を反応液(晶析溶液)から除去しておくことも望ましい。例えば、反応溶媒に溶解し得るアニオン交換樹脂触媒を使用した場合などでは、晶析を行った際に、該触媒が目的化合物に含有されることがあるからである。触媒の除去方法としては、吸着、ろ過、濃縮、蒸留、洗浄などの公知の方法の中から、使用した触媒に応じて好適な方法を適宜選択すればよい。なお、触媒の残存量の目安としては、晶析溶液に含まれる粗芳香族エーテル類中、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。なお、この「粗芳香族エーテル類」には、目的化合物である上記芳香族エーテル類の他、未反応の原料や上記反応時に生成した副生物などの不純物も含まれている。
【0084】
以下、上記芳香族エーテル類のうち、β−フェノキシエタノール類に含まれるジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を例に取り、好適な晶析条件を説明する。他の芳香族エーテル類の場合には、夫々の特性に応じて各条件を変更して実施すればよい。例えば、晶析溶液の濃度や晶析温度を決定する場合には、使用する芳香族エーテル類と溶媒について、溶解度曲線(温度と芳香族エーテル類の溶解度との関係を示す曲線)を求め、該溶解度曲線に基づいて容易に決定することができる。
【0085】
ここで、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類とは、ジヒドロキシベンゼン類の有するフェノール性水酸基の一つが、ヒドロキシエトキシ基に変換された構造を有する物質である。ジヒドロキシベンゼン類には、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、およびこれらのベンゼン環上の1以上の水素原子が炭化水素残基(アルキル基など)、ハロゲン原子などで置換された置換体が含まれる。
【0086】
晶析溶液の濃度は、溶液全量に対し、粗ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類が0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であることが推奨される。上記下限値を下回ると、生産性[反応液から取り出されるジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の収量]が低く、多量の溶媒を回収する必要があるため、コストの上昇を招くことになり好ましくない。
【0087】
他方、上記晶析溶液の濃度の上限値は40質量%、より好ましくは30質量%、さらに好ましくは20質量%であることが望ましい。上記上限値を超えると、結晶析出時の固−液撹拌が困難となり、工業的実施において支障をきたすおそれがある。また、後述するように、晶析溶液を撹拌しつつ結晶を析出させることが好ましいが、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類濃度が上記範囲を超えると、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出した後の固−液撹拌が困難となり、良好なスラリーが得られず、精製が不十分となったり、結晶の取り出しが難しくなる傾向にある。
【0088】
結晶の析出に先立って、晶析溶液を調製後加温し、不溶分が存在する場合には、これを除去するための分離操作を行うことも好ましい。分離方法としては、減圧濾過、加圧濾過などの濾過;遠心分離;など、公知の各種方法を採用することができる。濾過の場合に用いる濾布やフィルターは特に限定されず、不溶分の除去が可能な開度のものを選択すればよい。
【0089】
晶析の際の好適温度は、使用する晶析溶媒によって変動するが、通常、−50℃以上、晶析溶媒の沸点以下の温度とする。ここでいう晶析の際の温度とは、晶析工程の開始から終了までの温度を意味している。例えば、晶析方法として、晶析溶液を加温し、その後冷却して結晶を析出させる方法が取り得る(後述する)が、この場合でも、晶析溶液の加温温度および、該溶液の冷却が進んで晶析工程が終了した時点での晶析溶液の温度が上記範囲内であることが推奨される。
【0090】
晶析の際の温度が上記範囲を下回ると、コストの面で不利益が大きく、他方、晶析の際の温度が上記範囲を超えると、使用する溶媒の蒸発が顕著になり、晶析中の溶媒濃度の変化が問題となることがある。より好ましい実施態様としては、沸点が100℃以上の溶媒を用いて、−50〜100℃の条件で晶析を実施することが挙げられ、このような条件を採用すれば、晶析の際の温度制御の面で有利である。
【0091】
ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類は、溶媒によっては常温では溶解し難く、懸濁液(スラリー)となる場合がある。この場合には、上記スラリーを一旦加温して溶液としてから晶析する。加温する際の温度は、上述の結晶析出の際の好適範囲内で選択すればよい。
【0092】
晶析の際の圧力は、常圧とすることが一般的であるが、例えば低沸点溶媒を使用する場合であれば、加圧条件下で晶析を行うことも好ましい。
【0093】
晶析法としては、上述したように、原料ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を溶媒に完全溶解させて溶液とし、(I)溶液の温度を徐々に低下させる方法;(II)溶媒を徐々に揮発させる方法;(III)該溶液をジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の貧溶媒に徐々に添加する方法;(IV)該溶液を徐々に加圧する方法;などが採用できる。このようにジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶を析出させるために晶析溶液の状態を変化させる際には、系内を撹拌しつつ行うことが好ましい。
【0094】
上記晶析法の中でも、原料ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類が溶媒に完全溶解してから、溶液の温度を徐々に低下させる方法が好ましい。この場合、完全溶解させる温度は80〜100℃とすることが好ましく、晶析初期の温度がこのような範囲内であれば、その後の冷却が容易である。また、このように加温して得た晶析溶液を冷却する際の速度としては、40℃/時間以下とすることが好ましく、より好ましくは30℃/時間以下、さらに好ましくは20℃/時間以下である。冷却速度が上記上限値を超えると、精製が不十分となったり、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が細かくなり、晶析溶媒から結晶を取り出す際に濾過速度が遅くなる傾向にある。
【0095】
上記のように、晶析溶液の温度を下げるなど、晶析溶液の状態を変化させることでジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出してくるが、晶析溶液の状態変化の程度が比較的大きくなっても、結晶の析出が良好でない場合には、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶を晶析溶液に投入し、結晶の析出を促すことも好ましい。
【0096】
このような操作によって晶析溶媒中にジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類の結晶が析出するが、結晶析出前の晶析溶液濃度を上記範囲内としておけば、析出した結晶を含む晶析溶媒(スラリー)が粘性ペーストなどとはならず、スラリーの撹拌が困難となることはない。また、スラリーからの結晶の分離も容易に実施できる。
【0097】
結晶が十分に析出した後は、スラリーから結晶を取り出すための分離操作を行う。分離方法としては、減圧濾過、加圧濾過などの濾過;遠心分離;などの公知の方法が実施可能であり、その際の条件は特に限定されない。濾過に用いる濾布やフィルターも特に限定されず、結晶が十分に濾収可能な開度のものを採用すればよい。
【0098】
結晶を取り出した後は、乾燥機などで乾燥を施し、ジヒドロキシベンゼンのモノ(ヒドロキシエチル)エーテル類を得る。
【0099】
また、上記の晶析法などにより反応液から取り出した粗製物を、公知の精製法によって純度をより高めた精製物とすることも好ましい。ちなみに、上記の溶解度パラメーターを有する溶媒を用いた晶析法は、反応液から上記芳香族エーテル類を取り出す際のみならず、反応液から取り出した後の上記芳香族エーテル類の精製にも利用可能である。
【0100】
上記芳香族エーテル類中の未反応多価フェノール類は、高温で酸化され易く、容易にキノン類(ベンゾキノン類など)に変化し、精製物の着色原因である上記キンヒドロン類を生成する。また、キノン類は昇華性を有しており、蒸留精製によっても除去することが困難である。さらに、上述の芳香族エーテル類は常温で固体であるため、蒸留精製時においては、該芳香族エーテル類を液体状態に保つために蒸留装置の各部位を常に保温する必要があり、膨大なエネルギーを必要とされていた。
【0101】
しかしながら、溶解度パラメーターが上記範囲内の溶媒を晶析溶媒に用いた上記晶析法であれば、精製工程における未反応の多価フェノール類の酸化(キノン類の生成)を抑制できると共に、該キノン類が生成したとしても、この晶析工程において、十分に除去できる。よって、精製された芳香族エーテル類は、着色が抑えられた純度の高いものとなる。また、上記晶析法では、蒸留法を採用していた従来法に比べて、精製工程で必要とするエネルギー量を非常に低減できる。
【0102】
なお、上記芳香族エーテル類の精製工程に上記晶析法を採用する場合、該精製工程に供する原料芳香族エーテル類(上記「粗芳香族エーテル類」に相当)中には、目的化合物である芳香族エーテル類が40質量%以上98質量%以下含まれていることが好ましい。上記下限値を下回ると、目的化合物である芳香族エーテル類の精製収率が低下する傾向にある。より好ましい下限値は50質量%、さらに好ましい下限値は60質量%である。他方、上記上限値を超えると、目的化合物である芳香族エーテル類の精製の効果が低下する傾向にある。より好ましい上限値は95質量%、さらに好ましい上限値は90質量%である。また、晶析工程に先立って、原料芳香族エーテル類中の芳香族エーテル類量が上記範囲内になるように、他の精製を行ってもよい。他の精製としては、濃縮、蒸留、洗浄など、公知の各種方法が挙げられる。
【0103】
上述した通り、製造された上記芳香族エーテル類は、用途に応じて使用上問題が無ければ、その範囲において、上記反応終了後、未反応の原料やその他の不純物を含有したままの状態で製品として使用できる。
【0104】
上記芳香族エーテル類を製造するに当たり、従来から用いられている触媒としては、上述したように、アルカリ金属塩、金属水酸化物、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化ホスホニウム塩などが知られている。しかし、これら公知の触媒を本発明に係る芳香族エーテル類の製造に用いた場合には、触媒除去工程を設けたとしても、微量の金属(例えば、上記アルカリ金属塩ではアルカリ金属、上記金属水酸化物ではこの金属)あるいはハロゲン(例えば、上記ハロゲン化アンモニウム塩および上記ハロゲン化ホスホニウム塩では、これらのハロゲンで、具体的には、F、Cl、Br、I)が製品である芳香族エーテル類に混入することは避けられない。
【0105】
上記芳香族エーテル類の用途では、物性低下の原因となることから、また環境への配慮の観点から、こうした金属やハロゲンの混入量の低減が求められている。金属の混入の許容量の上限値は100ppmであり、好ましくは50ppm、より好ましくは30ppm、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは1ppmである。また、ハロゲンの混入の上限値は100ppmであり、好ましくは50ppm、より好ましくは30ppm、さらに好ましくは10ppm、特に好ましくは1ppmである。金属またはハロゲンの混入量がこれらの上限値を越えると、芳香族エーテル類の使用時に、各種物性が低下する。
【0106】
これに対し、本発明法では、触媒にアニオン交換樹脂を用いるため、上記反応終了後の粗製物、および精製物には、不純物である金属やハロゲンの含有量が少なく、実質的に金属やハロゲンを含まない製品も製造可能である。具体的には、金属および/またはハロゲンの含有量が100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは30ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満、特に好ましくは1ppm未満のものが得られる。
【0107】
なお、本明細書でいう金属の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法で測定した値であり、ハロゲンの含有量は蛍光X線分析法により測定した値である。
【0108】
具体的には、金属の含有量を測定する際には、分析装置としてセイコー電子工業株式会社製の誘導結合プラズマ発光分析装置「SPS4000」を用いる。
【0109】
また、ハロゲンの含有量の測定には、分析装置にPHILPS社製の蛍光X線分析装置「PW2404」を用い、装置に備えられている定性分析プログラムを使用し、ハロゲン元素(F、Cl、Br、I)の標準試料と比較することにより定量する。
【0110】
なお、ハロゲンの含有量が蛍光X線分析装置の検出限界を下回るような場合は、イオンクロマトグラフィーとしてDionex社製「DX−500」を用いて測定することもできる。このイオンクロマトグラフィーでは、ハロゲンがイオン状態の場合に検出可能であるため、必要に応じてハロゲンをイオン化した後に測定を行う。測定条件は以下の通りである。
検出器:CD−20(電気伝導度検出器)
カラム:AS4A−SC
ガードカラム:AG4A−SC
溶離液:1.8mmol/L Na2CO3,1.7mmol/L NaHCO3
再生液:25mmol/L H2SO4。
【0111】
また、本発明法では、触媒にアニオン交換樹脂を用いるため、不純物の含有量が少なく、効率よく目的化合物を製造できる。さらに、触媒の分離が容易であるため、生成物の精製を効率的に実施することができる。未反応フェノール類の量は、該芳香族エーテル類に対して500ppm以下(質量基準、以下同じ)、好ましくは100ppm以下、より好ましくは30ppm以下とすることができる。また、上記芳香族エーテル類のフェノール性水酸基にオキシラン化合物が過剰に付加した不純物の割合は、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下とすることが可能である。
【0112】
加えて、本発明法では、目的化合物がフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の場合も、高選択率で製造できる。例えば、2価のフェノール類であるカテコールにオキシラン化合物のエチレンオキサイドを反応させる際には、1つのフェノール性水酸基を残存させた2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノールを高選択率で得ることが可能である。この化合物では、1g当たり6mmol以上のフェノール性水酸基を有することが好ましい。なお、このフェノール水酸基の好適量は、原料フェノール類および目的とする芳香族エーテル類によって異なる。
【0113】
このようにして得られる上記芳香族エーテル類は、用途に応じて単独で、または他の成分と混合して使用し得る。形状や状態についても特に限定されず、固体(例えば、粉体、フレーク、顆粒など)、スラリー、溶液(例えば、有機溶媒溶液)などの形態で取り扱うことができる。
【0114】
また、上記芳香族エーテル類の輸送や保存の形態としては、反応終了後の粗製物、および精製物に、希釈剤や安定剤などを加えたものなどが挙げられる。例えば、フェノール性水酸基の酸化防止の観点から、不活性ガスにより気相部を置換し(通常、酸素濃度:0.01vol%以下、好ましくは0.001vol%以下)、遮光された状態とすることが好ましい。さらには、ラジカル捕捉剤(例えば、亜リン酸または亜リン酸ジエステル10〜100質量ppm程度)を共存させることも、より好ましい。色相悪化防止の観点からは、微酸性条件(例えば、pH=6〜7程度)にしておくことも推奨される。この場合、例えば、脂肪族カルボン酸(ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、グリセリン酸など、より好ましくは、低揮発性の乳酸、コハク酸など)などの有機酸を添加することができる。添加量は、好ましくは1〜1000質量ppm、より好ましくは5〜100質量ppm程度である。これらの添加剤(希釈剤、安定剤)の添加時期は特に制約されない。すなわち、反応工程、晶析工程、製品化工程などの工程のいずれの時期であってもよい。
【0115】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例において、「ppm」は質量基準である。
【0116】
触媒合成例
以下に、本実施例で触媒として用いたアニオン交換樹脂Aの調製法を示す。まず、1リットルのセパラブルフラスコに、トルエン:350mlと流動パラフィン:50mlを仕込み、ソルビタンパルミテート:0.07g、およびエチルセルロース:0.21gを添加、溶解させて分散媒とした。また、濃度が65質量%のジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液:41.8gと、N,N,N’,N’−テトラアリルジピペリジルプロパニウムジクロライド(TADPPC、架橋剤):8.3g、および水:5.4gを混合、溶解させ、モノマー溶液とした。さらに、重合開始剤の2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製「V−50」):0.32gと、水:3.5gとを混合した溶液を調製し、これをモノマー溶液に添加した。なお、架橋剤のTADPPCとは、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパンにアリルクロライドを付加させてテトラアリル化した化合物である。
【0117】
次に、モノマー溶液を撹拌しながら分散媒に添加し、55℃で4時間、60℃で16時間、さらに92〜95℃で6時間反応させた。その後、生成した粒子を濾過により分離し、これをトルエン:600mlで1回、さらにメタノール:800mlで3回洗浄し、真空乾燥させて乾燥粒子:36.2gを得た。得られた粒子をアニオン交換樹脂A(Cl型)とした。
【0118】
また、アニオン交換樹脂A(OH型)の調製を、以下のようにして行った。上記樹脂A(Cl型)を水で膨潤させてクロマトカラムに充填し、このカラムに樹脂Aの体積の20倍体積量の2規定NaOH水溶液、20倍体積量のイオン交換水、10倍体積量のメタノールを順次通液した。ここで、通液速度はSV2で行った。続いて真空乾燥によりメタノールを除去し、アニオン交換樹脂A(OH型)を得た。
【0119】
実験1<原料フェノール類の水酸基を実質的に残存させずにオキシラン化合物と反応させてなる芳香族エーテル類の製造>
実施例1
単価のフェノール類であるフェノールへのエチレンオキサイド(EO)の付加反応を行った。ガス供給管、および攪拌装置を備えた500mlのオートクレーブに、フェノール:90g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:239g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体)を15.5g投入し、密閉した。続いて、脱気操作により液中の溶存酸素を除き、さらに気相部を窒素置換し、1kg/cm2・Gに加圧した。次に、内温を100℃に昇温し、ガス供給管を通してEO:48gを30分間かけて添加した。さらに、内温を90〜100℃に維持して6.5時間反応を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0120】
上記反応液の分析を、ガスクロマトグラフィー(GC)で行った。以下、分析条件を述べる。本実施例におけるGC分析は、全て下記条件に従って実施した。GC装置には島津製作所製「GC−15A」、カラムにはJ&W社製「DB−1(φ32mm×30m)」、キャリアにはヘリウムを用いた。温度条件は、サンプル注入後70℃で5分保持してから、300℃まで毎分15℃の速度で昇温し、その後300℃で保持するというパターンで行った。測定試料中の組成は、得られたGCチャートに示される対応ピークのエリア比で示す。
【0121】
GC分析の結果、反応液中の原料フェノールは70ppmであり、フェノールのEO1付加物(β−フェノキシエタノール)が98.6%であり、フェノールのEO2付加物が1.4%であった。なお、フェノールのEO2付加物とは、2分子のEOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。
【0122】
実施例2
フェノールへのEO付加反応を、無溶媒で且つ以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。フェノール:225.8g、アニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに仕込み、EO:110gを100℃で2時間かけてフィードした。さらに100℃で7時間熟成した後、反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0123】
GC測定による反応液の組成は、原料フェノールが90ppm、β−フェノキシエタノールが95%、フェノールのEO2付加物が4.9%であった。
【0124】
実施例3
多価フェノール類であるビスフェノールS(BPS)へのEO付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BPS:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):13.6gをオートクレーブに投入し、密閉した。次に、内温を100℃に昇温し、EO:44gを30分間かけて添加した。さらに内温を100℃に維持して5.5時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。分離した反応液を冷却すると、白色の固形物が析出してきた。
【0125】
上記反応液の分析は、ジメチルホルムアミドを添加して均一に溶解させた後、液体クロマトグラフィー(LC)で行った。以下、LC分析条件を述べる。LC装置には日立製作所製(ポンプL−7100、UV検出器L−7450H)、カラムにはGLサイエンス社製「イナートシルODS(φ4.6mm×25cm)」、キャリアには0.1質量%リン酸/メタノール混合溶液(体積で40/60)を用いた。カラム温度は40℃とし、流量を1ml/minとして分析した。測定試料中の組成は、得られたLCチャートに示される対応ピークのエリア比で示す。
【0126】
LC分析の結果、原料のBPSは100.0%転化しており、BPSのEO2付加物が95%、BPSのEO3付加物が4.1%であり、BPSのEO1付加物は検出されなかった。なお、BPSのEO1付加物とは、BPSの有する2つの水酸基のうち、いずれか一方のみとEOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPSのEO2付加物とは、BPSの有する2つの水酸基のいずれもが、EOと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPSのEO3付加物とは、BPSの有する水酸基の片方が1分子のEOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のEOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0127】
実施例4
フェノールへのプロピレンオキサイド(PO)の付加反応を行った。フェノール:10.0g、PO:7.4g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):0.8gを50mlのガラス製耐圧容器に投入した。続いて、気相部を窒素置換し密閉して、振とうしながら100℃のオイルバス中で加熱した。12時間反応させた後、反応液とアニオン交換樹脂Aを濾過により分離した。
【0128】
GC分析による反応液中の組成は、原料フェノールが10ppmで、フェノールのPO1付加物が94.4%、フェノールのPO2付加物が5.3%であった。なお、フェノールのPO1付加物とは、1分子のPOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。また、フェノールのPO2付加物とは、2分子のPOとフェノールの水酸基が反応してエーテルとなっているものを意味している。
【0129】
実施例5
ビスフェノールA(BPA)へのPOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例4と同様にして行った。BPA:5.0g、PO:2.8g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:10.0g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(OH型):0.5gを仕込み、100℃で加熱した。6時間反応させた後、反応液とアニオン交換樹脂Aを濾過により分離した。
【0130】
GC分析による反応液中の組成は、BPAのPO1付加物が0.1%、BPAのPO2付加物が99.0%、BPAの3PO付加物が0.8%であった。なお、BPAのPO1付加物とは、BPAの有する2つ水酸基のうち、いずれか一方のみとPOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPAのPO2付加物とは、BPAの有する2つの水酸基のいずれもが、POと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BPAのPO3付加物とは、BPAの有する水酸基の片方が1分子のPOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のPOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0131】
実施例6
BPAへのEOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。すなわち、BPA:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに投入し、密閉した。次にEO:44gを添加し、100℃で7時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0132】
GC分析による反応液中の組成は、BPAのEO1付加物(BPA−1EO)が0.4%、BPAのEO2付加物(BPA−2EO)が97.7%、BPAの3PO付加物(BPA−3EO)が1.9%であった。原料のBPAは検出されなかった。なお、BPAのEO1付加物(BPA−1EO)、BPAのEO2付加物(BPA−2EO)、BPAのEO3付加物(BPA−3EO)は、夫々実施例5におけるBPAのPO1付加物、BPAのPO2付加物、BPAのPO3付加物のPOをEOに読み替えたものを意味している。
【0133】
実施例7
実施例6の反応液を室温で静置すると、白色の固形物が析出してきた。さらに−20℃まで冷却して3時間静置した後、濾過により固形物を分離し、乾燥した。
【0134】
GC分析による固形物の組成は、BPA−1EOが0.1%、BPA−2EOが98.3%、BPA−3EOが1.6%であった。また、BPA−2EOの回収率(原料の量から計算されるオキシラン化合物付加物の理論収量に対する収率、以下同じ)は80%であった。
【0135】
実施例8
触媒の再利用実験を行った。実施例6で使用し回収したアニオン交換樹脂Aを用いて、実施例6と同様して実験を行った。ただし、EO添加量は39gに、熟成は9時間に変更した。GC分析による反応液中の組成は、BPA−1EOが0.3%、BPA−2EOが97.1%、BPA−3EOが2.6%であり、BPAは検出されなかった。この実験により、アニオン交換樹脂触媒は再利用できることが判明した。
【0136】
実施例9
溶媒をメタノール:200gに、熟成を9時間に変更した他は、実施例6と同様に反応を行った。GC分析による反応液中の組成は、BPA−1EOが0.5%、BPA−2EOが97.7%、BPA−3EOが1.9%であり、BPAは検出されなかった。
【0137】
続いて、反応液を25℃で3時間静置した後、析出した固形物を回収、乾燥した。GC分析による固形物の組成は、BPA−1EOが0.1%、BPA−2EOが98.9%、BPA−3EOが1.0%であった。BPA−2EOの回収率は70%であった。
【0138】
実施例10
ビスフェノールフルオレン(BPF)へのEOの付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BPF:100g、エチレングリコールモノメチルエーテル:200g、アニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに仕込み、EO:31gを添加した。次に100℃で12時間反応させ、その後反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0139】
GC分析による反応液中の組成は、BPF−2EOが97.1%、BPF−3EOが2.7%であった。BPF、BPF−1EOは検出されなかった。
【0140】
実施例11
実施例10で得られた反応液を25℃で静置すると、白色の固形物が析出してきた。この固形物を回収、乾燥した。GC分析による固形物の組成は、BPF−2EOが98.0%、BPF−3EOが2.0%であった。BPF−2EOの回収率は60%であった。
【0141】
実施例12
多価フェノール類であるビスクレゾールフルオレン(BCF)へのEO付加反応を、以下の点を変更した他は、実施例1と同様にして行った。BCF:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、およびアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):10.0gをオートクレーブに投入し、密閉した。次に、EO:29.1gを添加し、100℃で10時間熟成を行った後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0142】
反応液組成を、LC分析した。LC分析の条件は、体積比35/65の0.1質量%リン酸/メタノール混合溶液を用いた他は、実施例3と同じ条件とした。LC分析の結果、原料のBCFは100.0%転化しており、BCFのEO2付加物が96.3%、BCFのEO3付加物が3.4%であり、BCFのEO1付加物は検出されなかった。なお、BCFのEO1付加物とは、BCFの有する2つの水酸基のうち、いずれか一方のみとEOが反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BCFのEO2付加物とは、BCFの有する2つの水酸基のいずれもが、EOと反応してエーテルとなっているものを意味している。また、BCFのEO3付加物とは、BCFの有する水酸基の片方が1分子のEOと反応し、且つ他方の水酸基が、2分子のEOと反応して、エーテルとなっているものを意味している。
【0143】
実施例13
実施例12で得られた反応液の晶析精製を行った。撹拌機、冷却器および温度計付きのセパラブルフラスコに上記反応液からなる晶析溶液を投入し、オイルバスで95℃に加温した。次に、回転数:200rpmで撹拌しながら、上記溶晶析液を95℃から40℃まで、5℃/時間の速度で冷却した。晶析溶液は全体的に流動性のあるスラリーとなっていた。さらに40℃で1時間保持して晶析を終了した。得られたスラリーを濾過し、濾収物を常温のエチレングリコールモノメチルエーテル:40gによって洗浄し、60℃で減圧乾燥して精製物を得た。この精製物について、実施例12と同様にしてLC分析を行った結果、この精製物の組成は、BCFの2EO付加物が99.2%、BCFの3EO付加物が0.8%であり、BCFの2EO付加物の回収率は60%であった。
【0144】
実験2<フェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類の製造>
実施例14
カテコール(CC)へのEOの付加反応を行った。ガス供給管、および攪拌装置を備えた500mlのオートクレーブに、CC:100g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:200g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体)を14g投入し、密閉した。続いて、脱気操作により液中の溶存酸素を除き、さらに気相部を窒素置換し、加圧した。次に、内温を100℃に昇温し、ガス供給管を通してEO:44gを30分間かけて添加した。さらに内温を100℃に保持し、3時間熟成を行った。反応終了後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0145】
反応液の組成分析は、GCで行った。原料のCCは88%反応し、生成物中に占める目的物[CCのEO1付加物=β−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール]の比率(以下、「反応選択率」という)は82%であった。
【0146】
実施例15
溶媒をトルエンに変更して、実施例14と同様に反応を行った。反応結果を表1に示す。さらに反応終了後、100℃を保ったまま反応液を加圧濾過にかけ、樹脂Aと反応液を分離した。得られた反応液を室温で静置し、放冷したところ、白色の固形物が析出した。GC分析(検量線法)の結果、この固形物の組成は、CC:0.6質量%、CCのEO1付加物:96.8質量%、CCのEO2付加物:2.6質量%であり、その収量は85gであった。なお、CCのEO2付加物とは、CCの両水酸基がEOと反応してエーテルとなっているものを意味する。
【0147】
得られた固形物中のナトリウム(金属)含有量を誘導結合プラズマ発光分析法で測定した。分析装置にはセイコー電子工業株式会社製「SPS4000」を用いた。その結果、ナトリウム含有量は固形物に対して1ppm未満であった。
【0148】
また、得られた固形物中のハロゲン元素の含有量を蛍光X線分析法により測定した。分析装置にはPHILIP社製「PW2404」を用い、装置に備えられている定性分析プログラムを使用し、ハロゲン元素(F、Cl、Br、I)の標準試料と比較することにより定量した。その結果、ハロゲン元素は確認されず、その含有量は100ppm未満であった。
【0149】
実施例16〜18
各種条件を変更して、実施例14と同様に反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。ただし、実施例17および18においては、EOの添加時間を3時間にした。
【0150】
実施例19
実施例14で用いたアニオン交換樹脂Aを減圧濾過により反応液と分離して回収した。次に、回収したアニオン交換樹脂Aを300mlのメタノールで洗浄して真空乾燥にかけ、乾燥させた。続いて、得られた回収アニオン交換樹脂Aを触媒として実施例1と同様に反応を行い、触媒の再利用実験を行った。表1に示したように、大きな活性低下は認められず、アニオン交換樹脂触媒は再利用できることがわかった。
【0151】
実施例20
CCへのPOの付加反応を行った。CC:5.0g、PO:3.2g、溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル:10.0g、および触媒としてアニオン交換樹脂A(Cl型乾燥体):0.8gを50mlのガラス製耐圧容器に投入した。続いて、気相部を窒素置換し、密閉して、振とうしながら90℃のオイルバス中で加熱した。反応終了後、濾過により反応液とアニオン交換樹脂Aを分離した。
【0152】
反応液の組成分析は、GCで行った。その結果、反応12時間で原料のCCは89%反応し、生成物中に占める目的物[CCのPO1付加物=α−メチル−β−(2‐ヒドロキシフェノキシ)エタノール、およびβ−メチル−β−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール]の選択率は84%であった。
【0153】
実施例21〜27
各種条件を変更し、実施例20と同様に反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。実施例23において、アニオン交換樹脂BはダイヤイオンTSA1200(三菱化学社製の耐熱性アニオン交換樹脂、塩素イオン型乾燥体で使用)である。
【0154】
比較例1〜3
上記特許文献5で開示されているハロゲン化第4アンモニウム化合物の代表的な例として、テトラメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。比較例ではこれを触媒として用い、実施例20と同様に各種反応を行った。反応条件、および反応結果を表1に示す。この結果より、各種反応において、アニオン交換樹脂に比べて目的物の反応選択率が低いことが分かった。また、触媒であるアニオン交換樹脂は、反応液との分離も、濾過という容易な操作で実施可能であったのに対し、比較例で用いた触媒(テトラメチルアンモニウムクロライド)は、反応液からの分離・回収が非常に困難であった。
【0155】
【表1】
【0156】
表1中の略号は、以下の通りである。CC:カテコール、HQ:ハイドロキノン、RC:レゾルシン、EO:エチレンオキサイド、PO:プロピレンオキサイド、樹脂A:アニオン交換樹脂A、樹脂B:アニオン交換樹脂B、TMAC:テトラメチルアンモニウムクロライド、EGMME:エチレングリコールモノメチルエーテル、MIBK:メチルイソブチルケトン。
【0157】
また、「目的物の反応選択率」について、目的物とはフェノール性水酸基を有する芳香族エーテル類(β−フェノキシエタノール類)であり、ここでは、多価フェノールにオキシラン化合物が1分子付加した化合物である。反応選択率は、全生成物に対するGCエリア比で表示している。さらに、「反応条件」における時間(反応時間)は、EOまたはPO添加開始を0時間として表示している。
【0158】
【発明の効果】
本発明法によれば、フェノール類とオキシラン化合物を反応させて対応する芳香族エーテル類を製造するに当たり、アニオン交換樹脂を触媒として用いることで、反応活性を高めると共に、副生物の生成を抑えて、目的の構造を有する芳香族エーテル類を収率良く製造することができる。また、フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後に実施する晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることで、目的とする構造の芳香族エーテル類を経済的に有利に得ることができる。
Claims (4)
- フェノール類とオキシラン化合物を反応させて芳香族エーテル類を合成するに当たり、アニオン交換樹脂を触媒に用いることを特徴とする芳香族エーテル類の製造方法。
- 上記フェノール類が多価フェノール類であり、合成される芳香族エーテル類が、フェノール性水酸基を有するものである請求項1に記載の製造方法。
- フェノール類とオキシラン化合物との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後に実施する晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとする請求項1または2に記載の製造方法。
- アルコール性水酸基を有する芳香族エーテル類であって、金属の含有量が100ppm未満(質量基準、以下同じ)であり、且つハロゲン元素の含有量が100ppm未満であることを特徴とする芳香族エーテル類。
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WO2006030852A1 (ja) * | 2004-09-16 | 2006-03-23 | Nippon Shokubai Co., Ltd. | 芳香族エーテル類の製造方法 |
JP2008081453A (ja) * | 2006-09-28 | 2008-04-10 | Sanyo Chem Ind Ltd | ビスフェノール類のジオキシエチレンエーテルの製造方法および組成物 |
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2003
- 2003-07-24 JP JP2003201112A patent/JP2004352706A/ja active Pending
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