JP2004350686A - ベロ毒素結合性ポリペプチド及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明によって提供されるポリペプチドは、少なくとも以下の5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列:Trp又はPhe−His又はGln−Trp又はPhe−Thr又はSer−Trp又はPheを有し、ベロ毒素に対して結合性を有するポリペプチドである。
好ましいベロ毒素結合性ポリペプチドは、前記5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む以下の(1)〜(3)のアミノ酸配列:(1)Trp−His−Trp−Thr−Trp−Leu−Ser(配列番号1);(2)Trp−Gln−Trp−Thr−Trp−Leu−Cys(配列番号2);(3)Phe−Gln−Trp−Ser−Trp−Tyr−Thr(配列番号3);のいずれかを有する。
【選択図】 図1
Description
例えば、特許文献1には、ベロ毒素1型と特異的に結合し得るアプタマー(1本鎖核酸分子)が記載されている。また、特許文献2には、ベロ毒素1型と特異的に結合し得る化学合成した糖鎖誘導体を使用したベロ毒素の迅速検出方法が記載されている。
そこで本発明は、核酸や糖鎖とは異なり、製造容易であり適用可能な用途も広いと考えられるベロ毒素結合性ポリペプチドの開発を目的とする。また、そのようなポリペプチドを使用してベロ毒素を処理する(典型的にはベロ毒素を検出する又は除去する又は中和する)組成物および方法を提供することを更なる目的とする。
ここで「天然に存在しない人為的に合成されたポリペプチド」とは、そのペプチド鎖(アミノ酸配列)がそれ単独で自然界に存在するものではなく、化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって人為的に製造されたポリペプチドをいう。すなわち、全アミノ酸配列のうちの一部が本明細書中において開示されたアミノ酸配列とたまたま一致するベロ毒素結合性に関係しない天然のタンパク質は、本発明のベロ毒素結合性ポリペプチドに含まれない。
ここで「ポリペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数(典型的には50以下)によって限定されない。アミノ酸残基数が10未満の所謂「オリゴペプチド」も本明細書におけるポリペプチドに包含される好適なペプチドであり得る。なお、「アミノ酸残基」は、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語とする。本明細書においては、アミノ酸残基は一般的な三文字表記で表す。
また、ここで「ベロ毒素に対して結合性を有する」とは、典型的には室温条件下で、通常の緩衝液(例えば生化学分野でよく使用されるトリス緩衝液(TBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))中において、対象ポリペプチドがベロ毒素に対して結合性(非特異吸着を除く)を有することをいう。
Trp又はPhe−His又はGln−Trp又はPhe−Thr又はSer−Trp又はPhe;
を有することを特徴とする。
本発明のポリペプチドは、主要構成要素として上記配列を包含することによって、ベロ毒素(典型的には1型のBサブユニット)に対して高い結合性を有する。このため、ベロ毒素の検出用途、或いはベロ毒素の除去又は中和用途に好ましく使用することができる。
上記配列を有するポリペプチドとして特に好ましいものは、前記5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む以下の(1)〜(3)のアミノ酸配列:
(1)Trp−His−Trp−Thr−Trp−Leu−Ser(配列番号1);
(2)Trp−Gln−Trp−Thr−Trp−Leu−Cys(配列番号2);
(3)Phe−Gln−Trp−Ser−Trp−Tyr−Thr(配列番号3);
のいずれかを有することを特徴とする。
これらの構成のポリペプチドによると、ベロ毒素結合に係る特異性が向上する。このため、高精度のベロ毒素検出システム(又は方法)及びベロ毒素処理システム(又は方法)を本構成のポリペプチドを使用して構築することができる。
(1)Trp−His−Trp−Thr−Trp−Leu−Ser(配列番号1);
(2)Trp−Gln−Trp−Thr−Trp−Leu−Cys(配列番号2);
(3)Phe−Gln−Trp−Ser−Trp−Tyr−Thr(配列番号3);
のうちのいずれかのアミノ酸配列において部分的な改変が施されて成るアミノ酸配列を有し、ベロ毒素に対して結合性を有するポリペプチドである。
この構成のポリペプチドは、ベロ毒素結合性に関して上記(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列と同等又はそれ以上の改変アミノ酸配列を有する。従って、本構成のポリペプチドは、ベロ毒素の検出用途、或いはベロ毒素の除去又は中和用途に好ましく使用することができる。
ここで所定のアミノ酸配列に対して「部分的な改変が施されて成るアミノ酸配列(改変配列)」とは、当該所定のアミノ酸配列が有するベロ毒素結合性を損なうことなく、1個、2個または3個程度のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列をいう。例えば、(1)〜(3)のアミノ酸配列又は後述する(4)〜(7)のアミノ酸配列のうちの1個〜数個のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative substitution)によって生じた配列(例えば芳香族アミノ酸残基(Phe, Tyr, Trp, His, Pro)が別の芳香族アミノ酸残基に置換した配列)、或いは、(1)〜(7)のアミノ酸配列に1個又は数個(例えば2〜3個程度)のアミノ酸残基が付加(挿入)された配列等は、本明細書でいう「部分的な改変が施されて成るアミノ酸配列(改変配列)」に包含される典型例である。これらは、ここで開示された配列番号1〜7から派生して(又は付随して)得られ得るベロ毒素結合性ポリペプチドであり、本願特許請求の範囲に包含されるポリペプチドである。
この構成により、ベロ毒素結合に係る特異性を更に向上させることができる。
このため、本構成のポリペプチドを使用することによって、より高い精度のベロ毒素検出システム(又は方法)及びベロ毒素処理システム(又は方法)を構築することができる。
この構成によるとベロ毒素結合に係る特異性を更に向上させることができる。
この組成物をベロ毒素を含有する対象物(生体、生体から採取した組織及び体液、ならびに、食品、水その他のベロ毒素又はベロ毒素産生菌により汚染される可能性のある有機物及び無機物を包含する。以下同じ。)に対して使用すると、その主成分である上記ポリペプチド又はその塩(典型的には酸付加塩)がベロ毒素を結合(吸着)し、処理(典型的には除去処理又は中和処理)することができる。
ここで開示されるポリペプチド(オリゴペプチドを包含する。)は、天然に存在しない人為的に合成されたポリペプチドであり、上述したベロ毒素結合に係るアミノ酸配列が組み込まれた又は当該アミノ酸配列のみから成る一次構造を有する。本発明のポリペプチドは、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、ベロ毒素結合性を失わない限りにおいて、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。また、ベロ毒素結合性を失わない限り、ペプチド鎖を構成する個々のアミノ酸残基が種々の修飾(例えば、C末端アミノ酸のカルボキシル基のアミド化、N末端アミノ酸のアミノ基のアシル化)を受けたものであってもよい。
(1)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser(配列番号1);
(2)Trp-Gln-Trp-Thr-Trp-Leu-Cys(配列番号2);
(3)Phe-Gln-Trp-Ser-Trp-Tyr-Thr(配列番号3);
(4)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser-Asp-Tyr-Pro-Pro-Pro(配列番号4);
(5)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser-Glu-Tyr-Pro-Pro-Pro(配列番号5);
(6)Trp-Gln-Trp-Thr-Trp-Leu-Cys-Glu-His-Pro-Pro-Pro(配列番号6);
(7)Phe-Gln-Trp-Ser-Trp-Tyr-Thr-Pro-Ser-Arg-Pro-Ser(配列番号7);
から成るポリペプチド若しくは該配列を含むポリペプチド或いはそれらアミノ酸配列において部分的な改変が施されて成るアミノ酸配列から成るポリペプチド若しくは該改変配列を含むポリペプチドが挙げられる。なお、改変配列においては、ベロ毒素結合性を有する限り、上記5アミノ酸残基から成るコア配列を含まないものであってもよい。
すなわち、当業者には自明であるが、本発明によると、所望するベロ毒素結合性ポリペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号1〜7のいずれかのアミノ酸配列)をコードするヌクレオチド配列及び該配列と相補的なヌクレオチド配列もまた提供される。さらには所望するベロ毒素結合性ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが提供される。
ベロ毒素結合性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を有するか又はそれら配列から実質的に構成されるポリヌクレオチドは、従来公知の方法によって容易に製造(合成)することができる。すなわち、ベロ毒素結合性ポリペプチドのアミノ酸配列を構成する各アミノ酸残基に対応するコドンを選択し、ベロ毒素結合性ポリペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列が容易に決定される。ひとたびヌクレオチド配列が決定されれば、DNA合成機等を利用して、所望するヌクレオチド配列に対応するポリヌクレオチド(一本鎖)を容易に得ることができる。さらに得られた一本鎖DNAを鋳型として用い、種々の酵素的合成手段を採用して目的の二本鎖DNAを得ることも容易に行える。
本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、RNA(mRNA等)の形態であってもよく、DNAの形態であってもよい。DNAは、二本鎖又は一本鎖で提供され得る。一本鎖で提供される場合は、コード鎖(センス鎖)であってもよく、それと相補的な配列の非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
すなわち、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ちベロ毒素結合性ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して所望するポリペプチドをインビトロ合成することができる。そして、適当な切断手段を採用して当該ポリペプチドから目的のペプチド断片(即ち目的のベロ毒素結合性ポリペプチド)を分離精製し回収することができる。例えば、開始コドンに対応するメチオニン残基のC末端側に目的のペプチド部分(但しメチオニン残基を含まないアミノ酸配列から成る。)が存在するポリペプチドを生産した場合、当該ポリペプチドを臭化シアンによって処理することによって、目的のペプチド断片(即ちメチオニン残基を含まないベロ毒素結合性ポリペプチド)を得ることができる。なお、無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。
例えば、ベロ毒素による溶血性貧血、腎不全その他の溶血性尿毒症症候群の症状が現れている患者及び大腸菌O157のようなベロ毒素産生菌に感染した患者の治療、或いは、食品、飲料水、化粧品等のベロ毒素及び/又はベロ毒素産生菌による汚染の可能性のある物からのベロ毒素の除去や中和の目的にベロ毒素処理用組成物(ベロ毒素中和剤)が用いられる。
このような目的に使用される中和剤は、主成分たるベロ毒素結合性ポリペプチドの他、医薬上許容され得る種々の担体を含み得る。希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体が好ましい。典型的には、水又は生理学的緩衝液が挙げられるが、これらの他、適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であってもよい。或いはリポソームであってもよい。また、ベロ毒素中和剤に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
或いは、ベロ毒素結合性を有する限り、本発明によって提供される塩は上述したような酸付加塩に限られず、他の付加塩(例えば金属塩)であってもよい。
中和剤中に含まれるベロ毒素結合性ポリペプチド又はその塩(典型的には酸付加塩)の含有量はベロ毒素の中和に有効な量である限り特に制限されず、中和剤の用途や形態に応じて適宜決定される設計事項である。なお、ベロ毒素結合性ポリペプチド(主成分)及び種々の担体や副成分を材料にして上記形態の薬剤を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。
これらは例示にすぎず、従来のペプチド系抗生物質やペプチドを構成成分とする農薬、医薬部外品等と同じ形態、使用方法を適用することができる。
抗Gb3モノクローナル抗体(生化学工業(株)製品)をパパイン処理して当該抗体のFab画分を作製・回収した(以下、当該Fabを指して抗Gb3抗体という。)。得られた抗Gb3抗体を含むTBS(150mM NaCl、50mMトリス塩酸塩:pH7.5)溶液(抗体濃度:100μg/ml)100μlをポリスチレン製96ウェルマイクロタイタープレート(岩城硝子(株)製)の各ウェルに注入し、4℃で一晩インキュベートすることによって、プレート表面に抗Gb3抗体を固定した。
次いで、各ウェルにブロッキング用緩衝液(5mg/mlのBSA(牛血清アルブミン)及び0.02%のNaN3を含む0.1M炭酸ナトリウム溶液:pH8.6)を200μlずつ加え、4℃で2時間インキュベートした。次に、各ウェルを0.1%のTween20を含むTBS(150mM NaCl、50mMトリス塩酸塩:pH7.5)で6回洗浄した。約1.5×1011pfu/100μlに調整したファージライブラリー(New England BioLabs社製品:Ph. D. -12Phage Display Peptide Library Kitを使用した。)の溶液100μlを各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。その後、0.1%のTween20を含むTBSで10回洗浄し、更に1mg/mlのBSAを含む0.2Mグリシン塩酸塩(pH2.2)を加え、室温で5分インキュベートし、ファージを溶出した。そして、トリス(pH9.1)を30μl加えて中和した。
なお、得られたファージ溶液のファージ数は一般的なタイターチェックにより調べた。すなわち、得られたファージ溶液10μlをLB培地により108、109、1010、1011希釈を行い、それぞれの希釈ファージ溶液10μlを対数増殖期まで培養した大腸菌培養液(LB培地:200μl)に加え、5分間インキュベートしてファージを感染させた。その後、感染液を45℃のトップアガロース(Top agarose:10gのバクト−トリプトン、5gのイーストエキストラクト、5gのNaCl、1gのMgCl2・6H2O及び7gのアガロースを1Lの水に加えた調製物)に添加し、それを適当量のIPTG及びXgalを含むLB培地入りプレートに注いで室温で約5分間放置し、アガローストップの添加された培地をプレート内で凝固させた。当該プレートを37℃で一晩インキュベートし、プレートに発現したプラーク数をカウントし、ファージ数を決定した。
すなわち、上記抗Gb3抗体溶液(但し抗体濃度は70μg/mlに調整した。)70μlを上記96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに注入し、4℃で14時間インキュベートすることによって、プレート表面に抗Gb3抗体を固定した。次いで、各ウェルに上記ブロッキング用緩衝液を200μl加え、4℃で2時間インキュベートし、続いて各ウェルを0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄した。約1.6×109pfu/100μlに調整した各ファージクローン溶液をウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。その後、0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄し、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識抗M13−pIIIモノクローナル抗体(アマシャムバイオサイエンス社製品)を上記ブロッキング用緩衝液で5000倍に希釈したものを各ウェルに200μl添加し、室温で1時間インキュベートした。そして、0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄し、TBS100mlに基質(30%過酸化水素)20μl及び発色剤(2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS))20mgを溶解したものを、200μlずつ全ウェルに分注した。室温で30分間インキュベートした後、5%SDSを50μlずつ加えて酵素反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製品)を使用して各反応液の405nmの吸光度(OD405)を測定した。
すなわち、上述のようにして抗Gb3抗体が固定された96ウェルマイクロタイタープレートを作製した。一方、上記ELISAに使用したのと同じ約1.6×109pfu/100μlの各ファージクローン溶液100μlに10当量のGb3セラミド(0.1mg/ml)0.5μlを添加して数分間プレインキュベートした後、これらの混合溶液をウェルに注いで、室温で1時間インキュベートした。その後、上記ELISAと同様に処理し、上記マイクロプレートリーダーを使用して各反応液の405nmの吸光度(OD405)を測定した。
すなわち、ベロ毒素1型溶液と2型溶液(ナカライテスク(株)製品)を、それぞれ10μg/mlに調整し、各70mlを使用して、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに注入し、4℃で16時間インキュベートすることによって、プレート表面にベロ毒素1型又は2型をそれぞれ固定化した。次いで、ベロ毒素1型及び2型のうちのいずれかが固定されている各ウェルに上記ブロッキング緩衝液を200μl加え、4℃で2時間インキュベートし、続いて各ウェルを0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄した。
約2.4×107pfu/100μlに調整した各ファージクローン溶液を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。その後、0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄し、西洋わさびペルオキシダーゼ(HPR)標識、抗M13−pIIIモノクローナル抗体(アマシャムバイオサイエンス社製品)を上記ブロッキング緩衝液で5000倍に希釈したものを各ウェルに200μl添加し、室温で1時間インキュベートした。そして、0.5%のTween20を含むTBSで6回洗浄し、TBS100mlに基質(30%過酸化水素)20μl及び発色剤(2'−アジノビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS))20mgを溶解したものを200μlずつ全ウェルに分注した。室温で30分間インキュベートした後、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製品)を使用して各反応液の405nmの吸光度(OD405)を測定した。
即ち、上述のようにしてベロ毒素1型、ベロ毒素2型がそれぞれ固定された96ウェルマイクロタイタープレートを製作した。一方、上記ELISAに使用したのと同じ約2.4×107pfu/100μlのファージクローンの10当量のGb3セラミド(0.1mg/ml)0.5μlを添加して数分間プレインキュベートした後、これらの混合溶液をウェルに注いで、室温で1時間インキュベートした。その後、上記ELISAと同様に処理をし、上記マイクロプレートリーダーを使用して各反応液の405nmの吸光度(OD405)を測定した。
すなわち、選別されたクローン(ファージ)を、誘導期の状態の大腸菌を含む培養液(ここではLB培地(pH7.5):1ml)に添加して感染させ、5.5時間インキュベートすることによって感染ファージを増幅させた。次いで、大腸菌培養液(ファージ増幅液)を4℃、15000rpmの条件で30秒間遠心分離し、上澄みを全て回収した。残渣を再び同条件で遠心分離し、上澄みのほぼ80%を回収した。こうして得られた上澄みに、上記20%(w/v)ポリエチレングリコール含有NaCl溶液を200μl添加し、室温で10分間インキュベートした。
その後、この溶液を4℃、15000rpmの条件で10分間遠心分離し、上澄みのほぼ80%を除去した。残渣を4℃、15000rpmの条件で30秒間遠心分離し、上澄みのほぼ全てを除去した。次いで、Lodideバッファー(10mMトリス塩酸塩(pH8.0)、1mM EDTA、4M NaI)を100μl加えて沈澱物を再び懸濁した。
こうして得られたサンプルをアプライドバイオシステム社製のDNAシークエンシングシステム(DNA Sequencing System)にアプライした。製造元の供給する操作マニュアルに準じ、サンプル中に含まれるM13ファージのpIIIコートタンパク質遺伝子上に挿入されている12merのアミノ酸配列をコードするDNAのヌクレオチド配列を解析・決定した。その結果(12アミノ酸残基から成るアミノ酸配列)を表3に示す。
表3から明らかなように、得られたクローンはいずれも抗Gb3抗体と強く結合し得る配列のN末端側に5アミノ酸残基から成る共通アミノ酸配列:
Trp又はPhe−His又はGln−Trp又はPhe−Thr又はSer−Trp又はPhe;
を有していた。従って、この部分が抗Gb3抗体及びベロ毒素との結合に関与することが示唆される。
上記共通配列を含む7アミノ酸残基(配列番号1〜3)から成る3種類のポリペプチドを化学合成した。
すなわち、各ポリペプチドは、市販のペプチド合成機(PEPTIDE SYNTHESIZER 9050、PerSeptive Biosystems社製品)を用いて固相合成法(Fmoc法)により合成した。なお、ペプチド合成試薬として、BOP(Benzotriazole-1-yl-oxy-tris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate)、HOBt(1-Hydroxy benzotriazole hydrate)を用いた。固相合成法に用いる樹脂としてWangレジンを国産化学(株)から購入した。
而して、上記ペプチド合成機の合成プログラムに準じて脱保護基反応及び縮合反応を反復して樹脂に結合するFmoc−アミノ酸からペプチド鎖を伸長していき、目的の鎖長の合成ペプチドを得た。固相合成後、合成したペプチド鎖を樹脂と共に遠沈管に移し、エタンジオール1.8ml、m-クレゾール0.6ml、チオアニソール3.6ml及びトリフルオロ酢酸24mlを加え、室温で2時間撹拌した。その後、ペプチド鎖に結合していた樹脂を濾過して除去した。
次いで、濾液に冷却エタノールを加え、氷冷水で冷却してペプチド沈澱物を得た。その後、遠心分離(2500rpm、5分)によって上澄みを除去した。沈澱物に冷ジエチルエーテルを新たに加えて十分に撹拌した後、上記と同じ条件で遠心分離を行った。この撹拌と遠心分離の処理を計3回反復して行った。
上記合成されたポリペプチドのうち配列番号1のポリペプチドについてのベロ毒素結合性を、ビアコア2000(ビアコア社製品)を使用し、調べた。
即ち、デキストランが固定されているCM5チップ(ビアコア社製品)の測定基板に上記のポリペプチドとNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)/EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩)溶液を用いてビアコア社が推奨しているマニュアル通りに操作し、上記ポリペプチドを測定基板に固定化した。次いでベロ毒素1型、ベロ毒素2型それぞれの濃度を50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/ml、3.125μg/mlに調整し、20μl/minの流量で基板上に流すことでそれぞれの応答性(Response)を求め、ビアコアソフトを用いてベロ毒素1型、ベロ毒素2型の吸着速度、解離速度、結合定数、解離定数を求めた。
上記合成されたポリペプチドのうち配列番号1のポリペプチドについてのベロ毒素結合性を、Gb3ミミック(Gb3C10disulfide)を固定化したQCM水晶発振子(Y.Miura,et al, Anal. Biochem., 310, 27-35(2002)参照)を使用して、水晶発振子(振動子)マイクロバランス(QCM)法に基づいて調べた。
すなわち、表面積が0.159cm2である金電極膜を備えた周波数9MHzのATカット水晶発振子をフレッシュなピラニア溶液(96%硫酸と31%過酸化水素水を容積比3:1で混合した溶液)で10分間、2回処理し、脱イオン水及びメタノールで洗浄した。次いで、0.01mMのGb3C10disulfide(ジ-O-[α-D-ガラクトピラノシル-(1-4)-β-D-ガラクトピラノシル-(1-4)-β-D-グルコピラノシル]p-N-ジチオジウンデカンアミドフェノキシド)のDMSO溶液に上記ピラニア溶液処理された水晶発振子を浸漬し、16時間インキュベートした。その後、DMSO続いて脱イオン水でリンスし、乾燥窒素ガス流下で乾燥させた。以上の処理により、金膜表面にGb3C10disulfideから成る単分子膜が形成された水晶発振子(以下「Gb3固定水晶発振子」という。)を得た。
この反応槽に市販のベロ毒素1型(ナカライテスク(株)製品)を濃度が2×10-9Mとなるように添加した。そして、約30分後にGb3固定水晶発振子にベロ毒素1型が付着することに起因する周波数の減少(ΔF:Hz)を計測し、Sauerbrey の式より質量変化量(Δm:ng)すなわちGb3固定水晶発振子に吸着されたベロ毒素量を求めた。
同様にして、反応槽にベロ毒素1型を濃度が5×10-9M、10×10-9M及び20×10-9Mとなるように添加した場合のΔmを求めた。図1にその結果(●のプロット)を示す。
図1から明らかなように、最大20×10-9Mの毒素を添加した場合、Gb3固定水晶発振子に約42.9ngの毒素が吸着された。
また、本明細書に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
配列番号1 設計されたベロ毒素結合性ポリペプチド。
配列番号2 設計されたベロ毒素結合性ポリペプチド。
配列番号3 設計されたベロ毒素結合性ポリペプチド。
Claims (13)
- 天然に存在しない人為的に合成されたポリペプチドであって、以下の5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列:
Trp又はPhe−His又はGln−Trp又はPhe−Thr又はSer−Trp又はPhe ;
を有し、ベロ毒素に対して結合性を有するポリペプチド。 - 前記5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列のC末端に、さらに以下の1又は2アミノ酸残基:
Xaa−Thr又はSer又はCys
(ここでXaaは、存在しないか又はGly, Ala, Val, Leu, Ile, Ser, Thr, Asp, Glu, Asn, Gln, Lys, Arg, Cys, Met, Phe, Tyr, Trp, His及び Proから成る群から選択される1アミノ酸残基である。)
が連結したアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のポリペプチド。 - 前記5アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む以下の(1)〜(3)のアミノ酸配列:
(1)Trp−His−Trp−Thr−Trp−Leu−Ser(配列番号1);
(2)Trp−Gln−Trp−Thr−Trp−Leu−Cys(配列番号2);
(3)Phe−Gln−Trp−Ser−Trp−Tyr−Thr(配列番号3);
のいずれかを有する、請求項2に記載のポリペプチド。 - 天然に存在しない人為的に合成されたポリペプチドであって、以下の(1)〜(3)のアミノ酸配列:
(1)Trp−His−Trp−Thr−Trp−Leu−Ser(配列番号1);
(2)Trp−Gln−Trp−Thr−Trp−Leu−Cys(配列番号2);
(3)Phe−Gln−Trp−Ser−Trp−Tyr−Thr(配列番号3);
のいずれかを有するか或いは該いずれかのアミノ酸配列において部分的な改変が施されて成るアミノ酸配列を有し、ベロ毒素に対して結合性を有するポリペプチド。 - 前記アミノ酸配列のC末端に、さらに酸性アミノ酸残基Asp又はGluが連結する、請求項2〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
- 全アミノ酸残基数が20以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチド。
- アミノ酸配列のC末端部分に、プロリン残基が2以上連続する配列を有する、請求項6に記載のポリペプチド。
- ベロ毒素に対して結合性を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチドの塩。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチド又はその塩を含む、ベロ毒素中和剤。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチド又はその塩と、担体とを含む、ベロ毒素処理用組成物。
- ベロ毒素を含有する対象物に対して請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチド又はその塩を付与し、該対象物に含まれるベロ毒素に該ポリペプチド又はその塩を結合させることを特徴とする、該対象物に含まれるベロ毒素の処理方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のベロ毒素結合性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を有する、天然に存在しない人為的に合成されたポリヌクレオチド。
- 以下の(1)〜(7)のアミノ酸配列:
(1)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser(配列番号1);
(2)Trp-Gln-Trp-Thr-Trp-Leu-Cys(配列番号2);
(3)Phe-Gln-Trp-Ser-Trp-Tyr-Thr(配列番号3);
(4)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser-Asp-Tyr-Pro-Pro-Pro(配列番号4);
(5)Trp-His-Trp-Thr-Trp-Leu-Ser-Glu-Tyr-Pro-Pro-Pro(配列番号5);
(6)Trp-Gln-Trp-Thr-Trp-Leu-Cys-Glu-His-Pro-Pro-Pro(配列番号6);
(7)Phe-Gln-Trp-Ser-Trp-Tyr-Thr-Pro-Ser-Arg-Pro-Ser(配列番号7);
のいずれかをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を有する、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
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