JP2004342678A - Cu(In1−xGax)Se2膜の製造方法及び太陽電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】高い変換効率を有する太陽電池とそれを可能にするCIGSの製造方法の提供。
【解決手段】基板上にIn−Ga−Se膜を堆積し、次いで加熱下でIn−Ga−Se膜にCu−Seを供給してIn−Ga−SeをCu過剰のCu(In1−xGax)Se2膜に変換し、さらに当該Cu(In1−xGax)Se2膜にIn−Ga−Seを供給して過剰のCuをCu(In1−xGax)Se2に変換して基板上にCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)膜を形成した後、Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程をさらに有することを特徴とするCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。膜の表面にCu2−ySeが存在しないCu(In1−xGax)Se2(0.4≦x≦1)膜を光電層として含むことを特徴とする太陽電池。
【選択図】 なし
【解決手段】基板上にIn−Ga−Se膜を堆積し、次いで加熱下でIn−Ga−Se膜にCu−Seを供給してIn−Ga−SeをCu過剰のCu(In1−xGax)Se2膜に変換し、さらに当該Cu(In1−xGax)Se2膜にIn−Ga−Seを供給して過剰のCuをCu(In1−xGax)Se2に変換して基板上にCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)膜を形成した後、Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程をさらに有することを特徴とするCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。膜の表面にCu2−ySeが存在しないCu(In1−xGax)Se2(0.4≦x≦1)膜を光電層として含むことを特徴とする太陽電池。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面にCu−Se系化合物が存在しないCu(In1−xGax)Se2膜の製造方法及びその膜を含む太陽電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Cu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)(以下、CIGSと略す。)は薄膜太陽電池の中で最も変換効率が高く、また、Gaを添加することで禁制帯幅を変化させることができるため、次世代薄膜太陽電池材料として有力視されている。これまで、この太陽電池材料においては、Ga組成比が約30%、禁制帯幅1.1〜1.2eVにおいて高い変換効率が得られている。しかしながら、太陽光との整合性を考えた場合、禁制帯幅の最適値(1.4eV)とは約0.2eV程度の開きがある。
【0003】
そこで、太陽光スペクトルとのマッチングを取るため、現在Ga組成比60%程度を有するCIGSが注目されている。
【0004】
この多結晶Cu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜の成長は、三段階法を用いて行われている。三段階法では真空中で、はじめにIn−Ga−Seプリカーサを基板温度約350℃で形成し、次に約550℃でCu−Seを照射してCu過剰なCIGS薄膜を形成する。最後に再びIn−Ga−Seを供給し、最終的にIII族が少し過剰な多結晶CIGS薄膜を作製する。
【0005】
しかし、ワイドギャップCIGS膜を用いた太陽電池では、現在のところ高い変換効率を有する太陽電池の作製には成功していない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は上記従来技術の現状に鑑み、高い変換効率を有する太陽電池とそれを可能にするCIGSの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では、上記目的を達成するべく検討した結果、多結晶Cu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜は三段階法では作製上表面にCu−Se系化合物が残留することは避けられず、このCu−Se系化合物が表面に存在すると太陽電池の変換効率が低下すること、しかし、このCu(In1−xGax)Se2作製後、水素雰囲気中でアニールすることでCu−Se系化合物を表面に存在しない高い変換効率を有する太陽電池の作製に成功して、本発明を完成したものである。こうして、本発明は下記を提供する。
【0008】
(1)基板上にIn−Ga−Se膜を堆積し、次いで加熱下でIn−Ga−Se膜にCu−Seを供給してIn−Ga−SeをCu−Se過剰のCu(In1−xGax)Se2膜に変換し、さらに当該Cu(In1−xGax)Se2膜にIn−Ga−Seを供給して過剰のCu−SeをCu(In1−xGax)Se2に変換して基板上にCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)膜を形成した後、Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程をさらに有することを特徴とするCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0009】
(2)残存するCu−Se系化合物を除去する工程が、水素を含む雰囲気で加熱する工程である上記(1)に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0010】
(3)前記加熱が300〜400℃で5分以下の加熱である上記(2)に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0011】
(4)最終的に形成されたCu(In1−xGax)Se2膜の表面にCu2−ySeが存在しない上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0012】
(5)Cu(In1−xGax)Se2膜において0.4≦x≦1である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0013】
(6)Cu(In1−xGax)Se2膜において0.5≦x≦1である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0014】
(7)膜の表面にCu2−ySeが存在しないCu(In1−xGax)Se2(0.4≦x≦1)膜を光電層として含むことを特徴とする太陽電池。
【0015】
(8)Cu(In1−xGax)Se2(0.5≦x≦1)膜を光電変換層として含み、光電変換効率が10%以上である上記(7)に記載の太陽電池。
【0016】
【発明の実施の形態】
Cu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)混晶半導体を用いた太陽電池は、蒸着法の一種である3段階法で作製される。この時、表面に低抵抗なCu−Se系化合物が残留し、変換効率が低下する。従って、従来の太陽電池構造は、Cu(In1−xGax)Se2/Cu−Se系化合物/CdSとなっている。
【0017】
本発明によれば、Cu(In1−xGax)Se2/Cu−Se系化合物からCu−Se系化合物を選択的に除去することで、表面に低抵抗なCu−Se系化合物が残留しない、変換効率が高いCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1、好ましくは0.4≦x≦1、特に0.4≦x≦0.7)/CdSの構造を持つ太陽電池を製造できることが見出された。
【0018】
工程を追って説明する。最初に、基板上に、In−Ga−Se膜を堆積する。In−Ga−SeはCu(In1−xGax)Se2に比べて融点が低く、Cu(In1−xGax)Se2結晶を成長させるためのプリカーサである。200〜350℃程度の温度で堆積される。堆積方法は特に限定されないが、蒸着法あるいは分子線エピタキシー法が好適である。In−Ga−Seの組成及び膜厚はIn:Ga:Se=2(1−x):2x:3(0<x≦1)で1.8〜2.3μmでよい。
【0019】
次いで、基板温度を500〜550℃程度に上昇させて、In−Ga−Se膜上にCu−Seを供給するとIn−Ga−Seプリカーサ膜がCu(In1−xGax)Se2に変換される。一般には、目的の膜組成の化学量論的量に対して過剰量のCu−Seが供給される。この温度ではIn−Ga−Seは融解しており、これにCu−Seを過剰になるように供給すると、Cu−Seは液相であり、これがフラックスとして作用して、これを介してCu(In1−xGax)Se2結晶が成長し、液相と固相の2相共存状態が得られ、最終的にCu(In1−xGax)Se2膜が形成される。しかし、この反応メカニズムからも予想されるように、余剰のCu−Se系化合物の残存は不可避である。
【0020】
そこで、上記の如くCu(In1−xGax)Se2膜を形成後に、当該Cu(In1−xGax)Se2膜にさらにIn−Ga−Seを供給して、表面に存在する過剰のCu−Seをできるだけ多くCu(In1−xGax)Se2に変換して、最終的に基板上にCu(In1−xGax)Se2膜を形成している。この段階のIn−Ga−Seは、図2に示すようにCu−Seを供給している段階(第2段階目)で基板温度が1度程低下した時点から極小値を取り、再び極小値から1度基板温度が上昇する時点まで行う(第3段階目)。従来は、このような3段階成長法で成膜が行われていた。
【0021】
しかし、この従来の3段階成長法では、表面にCu−Se系化合物、特にCu2−ySeが残存することが避けられず、このためxを0.6付近まで増加して禁制帯幅を高くしたにもかかわらず光電変換効率が低下した原因であることが判明した。特に、Gaの割合を増加させると、Cu(In1−xGax)Se2の成長が遅くなることも判明しており、より過剰のCu−Se系化合物の残留が高いと考えられる。
【0022】
本発明によれば、こうして従来の3段階成長法で成膜されたにCu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物、特にCu2−ySeを除去する工程を付加することで、光電変換効率を高くする。ここでCu−Se系化合物は主としてCu−Seの2元化合物であり、特にCuxSeyあるいはさらにCu2−ySeで表すことができる。
【0023】
Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程は、簡単には、水素を含む雰囲気、例えば、フォーミングガス雰囲気で短時間加熱、所謂ラピッドサーマル処理をすることでよい。好適には窒素などの不活性ガス中に限定するものではないが約0.1体積%以上、より好適には約1〜10体積%、特に約3〜7体積%の水素ガスを含む雰囲気が使用できる。水素以外でもCu−Se系化合物を除去できる雰囲気であればよい。例えば、赤外線ランプなどを用いて、昇温速度約2.5〜7.5℃/秒、温度約300〜400℃に5分以下保持でよい。
【0024】
なお、実施例のEDX(エネルギー分散型回折)元素分析ではSeの減少が確認されCuの減少は確認されなかったが、ラマン散乱分光法でCu2−ySeのピークの消失は確認されている。Cu2−ySeなどのCu−Se系化合物が存在しなくなることが重要であると考えられる。
【0025】
先に述べたように、現在、Cu(In1−xGax)Se2膜においてx=0.3程度の膜についての報告が多い。この場合、禁制帯幅は1.1〜1.2eVであり、最適値の1.4eV(x=約0.6)には及ばないが、従来0.4≦x≦1では優れた光電変換効率を実現するCu(In1−xGax)Se2膜を形成することができていなかった。本発明によれば、好ましくは0.4≦x≦1、より好ましくは0.5≦x≦1、特にx=0.6付近においても、高い光電変換効率を示す良好なCu(In1−xGax)Se2膜を成長することが可能にされる。xの上限値は0.7が好ましい。本発明の比較実験ではCu−Se系化合物を除去する前後で変換効率7%台から11%台に向上した。この本発明により成長される良好なCu(In1−xGax)Se2膜の特徴は表面にCu2−ySeなどのCu−Se系化合物が存在しないことである。これはラマン散乱分光法などで調べることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、上記の如く、高い光電変換効率を示す良好なCu(In1−xGax)Se2膜を成長することが可能であるので、この高い光電変換効率を示すCu(In1−xGax)Se2膜を光電変換層そして利用した太陽電池も提供される。
【0027】
図1に限定的ではない代表的な太陽電池を模式的に示す。ソーダライムガラス(SLG)の基板1の上に、順に、スパッタで形成されたモリブデン(Mo)層の電極2、本発明のCu(In1−xGax)Se2膜による光電変換層又は光吸収層3、溶液成長法で形成したCdS層からなるバッファ層4、さらにMOCVD法で堆積したZnOからなる窓層5、最後に蒸着又はスパッタ及びパターニングしたアルミニウムからなる電極6を有する。
【0028】
光電変換層又は光吸収層3は1層構成ではなく、Cu(In1−xGax)Se2膜のxの値を変えた2層以上から構成して複数の波長の光を効率良く吸収するようにしたタンデム構造でもよい。その場合、そのうちの1層がCuInSe2膜又はCuGaSe2膜でもよい。
【0029】
【実施例】
多結晶CIGS薄膜の成長は、MBE装置を用いて三段階法により行った。基板にはMoを1.5〜2.0μmスパッタで堆積したソーダライム・ガラス(SLG)基板を用いた。はじめに分子線エピタキシー蒸着装置でIn−Ga−Seプリカーサ(In−Ga−Seの組成比はIn:Ga:Se=2(1−x):2x:3(0<x≦1))を基板温度約350℃で膜厚1.8〜2.3μmに堆積した。次に基板温度を550℃に上昇させて、同じく分子線エピタキシー蒸着装置でCu−Se(Cu−Seは基板温度をモニターしながら、図2に示すように約1度低下するまで)照射してCu−richなCu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜を形成した。第2段階が終了した後の膜厚は2.0〜2.5μmである。最後に基板温度550℃のままで再びIn−Ga−Seを(照射後図2に示すように基板温度が極小値を取った後再び約1度上昇するまで)供給し、最終的にIII 族が少し過剰な多結晶CIGS薄膜を作製した。最終的な膜厚は2.0〜2.5μmであった。
【0030】
上記のようにして形成した多結晶CIGS薄膜を用いて、図1に示した構成Al/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGを有する太陽電池を作製した。CdSは溶液成長法で、ZnOはMOCVD法で作製し、最後に真空蒸着法でAlを電極として蒸着した。また、この試料には反射防止膜を使用していない。
【0031】
上記の如く、高いGa組成比を有するCIGS薄膜の作製に、三段階法を用いた。しかし、CIGS膜中のGa組成比を高くすると、三段階法の二段階目と三段階目において、製膜時間が長くなるという現象が見られた。図2は、二段階目と三段階目の製膜時間を模式的に示したものである(図2中のCGSはCuGaSe2である)。Gaの組成比が高くなるにつれて、二段階目及び三段階目の製膜時間、基板温度の低下及び上昇が、非常に遅くなっていることが分かる。特にGa組成比30%のものに比べ、100%のもの(CGS)は二段階目以降の製膜時間が最大約3倍程度かかっている。三段階法においては、二段階目は液相であるCu−Seと固相のCIGSの二相共存状態であると推定されており、Cu−Seがフラックスとして結晶薄膜表面に存在し、これを介してCIGSが成長すると考えられている。三段階目は、二段階目終了時に表面に存在する低抵抗Cu2−xSe層を除去するために行う。二段階目以降の製膜時間が非常に長くなることから、三段階法における一段階目のIn−Ga−Seプリカーサと、二段階目の液相であるCu−Se層の反応が、Ga組成比が高くなったことで遅くなったと考えられる。すなわち、Gaを介した反応の方が、Inを介した反応よりも遅いと推定される。
【0032】
Ga組成比を変化させたCIGS膜について、Raman散乱分光法を用いて評価した。結果を図3(a)に示す。注目すべきところは、250〜300cm−1付近の波数領域である。この拡大図を図3(b)に示す。最も高い変換効率を得ている[Ga]/[III ]比が約30%のものは、260〜280cm−1付近には、特徴的なピークは見られない。しかし、Ga組成比を高くすると、この波数範囲にピークが確認された。このピークは、低抵抗層であるCu2−ySeのピークである。この低抵抗層であるCu2−ySeの存在は、太陽電池特性を劣化させる主な要因の一つであると考えられる。またGa組成比を高くすると、Cu2−ySeのピーク強度が増加する。成長時間の観測より、二段階目でCu−SeとGaとの化学反応が遅いことを示した。このRaman測定結果は、この結果を示唆するものである。すなわち、Ga組成比が高いCIGS膜は、GaとCu−Seの反応が遅いため、表面にCu−Se系の化合物が残留し易いと考えられる。またこのことは、断面SEMのCuの面分析によって確認した。これが禁制帯幅を増加させても開放電圧が上昇しない一因であると考えられ、CIGS製膜時にCu2−ySeを形成させないことが、高いGa組成比を有するCIGS薄膜太陽電池の高効率化につながると考えられる。
【0033】
次に、CIGS薄膜製膜終了後に赤外ランプによるRTA(Rapid Thermal annealing)を行うことで、表面に残留しているCu2−xSeを除去することを試みた。上記の如く、3段階堆積法で形成した、Cu−Se系化合物が残留したCu(In1−xGax)Se2薄膜を真空容器内に封入した。残留ガスを除去するため、真空容器を真空ポンプにより排気した。真空容器内を、アニール時のガス(フォーミングガス)で充填した。この時のアニール時のガスは、水素を5%含む窒素ガスである。ガス充填後、赤外ランプを用いて当該試料を加熱した。この時の温度範囲は、基板裏面温度で400℃であった。昇温時の温度上昇率は、150〜450℃/分であった。アニール温度保持時間は、1秒から5分であった。アニール後は、自然冷却により室温まで冷却した。
【0034】
作製した試料はSEM、EDX、Raman散乱分光法、及びI−V測定を用いて評価した。
【0035】
図4は、基板裏面温度400℃において RTA処理を行った前後のRaman散乱分光法による測定結果である。グラフより260〜280cm−1付近に存在するCu2−ySe層のピークが減少していることがわかる。SEMでの表面観察の結果、膜自身には損傷はなく、RMS(root mean square)値にも変化はなかった。また、RTA処理前後の膜のEDX測定を行った結果、RTA処理前後でCuの濃度はあまり変化せず、Se濃度が10%程度減少していることが確認された。このことから、表面に存在しているSeが昇華したものと考えられる。
【0036】
図5に、Ga組成比約60%における、上から順に開放端電圧、短絡光電流、曲線因子(F.F.)及び変換効率のRTA処理温度依存性を示す。RTA処理温度の上昇に伴い、開放電圧及び曲線因子が向上している。これは表面の低抵抗層であるCu2−ySe化合物が除去された結果であると考えられる。
【0037】
このRTA処理をCIGS製膜後に施し、上記と同様に、太陽電池を作製した。太陽電池の構造はAl/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGである。RTA処理を最適化することにより、Ga含有量60%(Eg=1.4eV)のものにおいて、開放電圧750mV、変換効率11.2%が達成された(図6)。
【0038】
以上のことから下記のことが判明した。
【0039】
CIGS薄膜中のGa組成比を増加させると、三段階法の二段階目と三段階目に要する製膜時間が長くなるという現象が見られた。これはGaとCuの化学反応が、InとCuの化学反応よりも遅いためであると考えられる。また、Ga組成比を高くすることによって、表面に低抵抗層であるCu2−ySe化合物が残留し、この低抵抗層が開放電圧の上昇を妨げていることが明らかとなった。
【0040】
この低抵抗層を除去するために、Ga組成比の高いCIGS薄膜製膜後にRTA処理を施した。その結果、Cu2−ySe層の除去に成功し、開放電圧の向上が図られた。さらにRTA処理を最適化したところ、RTA処理温度400℃で、11.2%の変換効率が得られた。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、CIGS薄膜のGa組成比を高くして禁制帯幅を理想的な1.4eVに近づけて、光電変換効率を向上させた太陽電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】太陽電池の構成を示す模式断面図である。
【図2】3段階堆積法におけるCIGS膜中のGa組成比を高くした場合の二段階目と三段階目の製膜時間を基板温度を目安として示したものである。
【図3】Ga組成比を変化させたCIGS膜について、Raman散乱分光法を用いて評価した結果を図3(a)に示す。この拡大図を図3(b)に示す。
【図4】実施例のCIGS薄膜を基板裏面温度400℃において RTA処理を行った前後のRaman散乱分光法による測定結果である。
【図5】Ga組成比約60%における、上から順に開放端電圧、短絡光電流、曲線因子(F.F.)及び変換効率のRTA処理温度依存性を示す。
【図6】実施例のGa含有量60%(Eg=1.4eV)のCIGSを用いたAl/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGの構造を有する太陽電池の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1…ソーダライムガラス(SLG)の基板
2…モリブデン(Mo)層の電極
3…Cu(In1−xGax)Se2膜による光電変換層又は光吸収層
4…CdS層からなるバッファ層
5…ZnOからなる窓層
6…アルミニウム電極
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面にCu−Se系化合物が存在しないCu(In1−xGax)Se2膜の製造方法及びその膜を含む太陽電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Cu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)(以下、CIGSと略す。)は薄膜太陽電池の中で最も変換効率が高く、また、Gaを添加することで禁制帯幅を変化させることができるため、次世代薄膜太陽電池材料として有力視されている。これまで、この太陽電池材料においては、Ga組成比が約30%、禁制帯幅1.1〜1.2eVにおいて高い変換効率が得られている。しかしながら、太陽光との整合性を考えた場合、禁制帯幅の最適値(1.4eV)とは約0.2eV程度の開きがある。
【0003】
そこで、太陽光スペクトルとのマッチングを取るため、現在Ga組成比60%程度を有するCIGSが注目されている。
【0004】
この多結晶Cu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜の成長は、三段階法を用いて行われている。三段階法では真空中で、はじめにIn−Ga−Seプリカーサを基板温度約350℃で形成し、次に約550℃でCu−Seを照射してCu過剰なCIGS薄膜を形成する。最後に再びIn−Ga−Seを供給し、最終的にIII族が少し過剰な多結晶CIGS薄膜を作製する。
【0005】
しかし、ワイドギャップCIGS膜を用いた太陽電池では、現在のところ高い変換効率を有する太陽電池の作製には成功していない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は上記従来技術の現状に鑑み、高い変換効率を有する太陽電池とそれを可能にするCIGSの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では、上記目的を達成するべく検討した結果、多結晶Cu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜は三段階法では作製上表面にCu−Se系化合物が残留することは避けられず、このCu−Se系化合物が表面に存在すると太陽電池の変換効率が低下すること、しかし、このCu(In1−xGax)Se2作製後、水素雰囲気中でアニールすることでCu−Se系化合物を表面に存在しない高い変換効率を有する太陽電池の作製に成功して、本発明を完成したものである。こうして、本発明は下記を提供する。
【0008】
(1)基板上にIn−Ga−Se膜を堆積し、次いで加熱下でIn−Ga−Se膜にCu−Seを供給してIn−Ga−SeをCu−Se過剰のCu(In1−xGax)Se2膜に変換し、さらに当該Cu(In1−xGax)Se2膜にIn−Ga−Seを供給して過剰のCu−SeをCu(In1−xGax)Se2に変換して基板上にCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)膜を形成した後、Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程をさらに有することを特徴とするCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0009】
(2)残存するCu−Se系化合物を除去する工程が、水素を含む雰囲気で加熱する工程である上記(1)に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0010】
(3)前記加熱が300〜400℃で5分以下の加熱である上記(2)に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0011】
(4)最終的に形成されたCu(In1−xGax)Se2膜の表面にCu2−ySeが存在しない上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0012】
(5)Cu(In1−xGax)Se2膜において0.4≦x≦1である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0013】
(6)Cu(In1−xGax)Se2膜において0.5≦x≦1である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
【0014】
(7)膜の表面にCu2−ySeが存在しないCu(In1−xGax)Se2(0.4≦x≦1)膜を光電層として含むことを特徴とする太陽電池。
【0015】
(8)Cu(In1−xGax)Se2(0.5≦x≦1)膜を光電変換層として含み、光電変換効率が10%以上である上記(7)に記載の太陽電池。
【0016】
【発明の実施の形態】
Cu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)混晶半導体を用いた太陽電池は、蒸着法の一種である3段階法で作製される。この時、表面に低抵抗なCu−Se系化合物が残留し、変換効率が低下する。従って、従来の太陽電池構造は、Cu(In1−xGax)Se2/Cu−Se系化合物/CdSとなっている。
【0017】
本発明によれば、Cu(In1−xGax)Se2/Cu−Se系化合物からCu−Se系化合物を選択的に除去することで、表面に低抵抗なCu−Se系化合物が残留しない、変換効率が高いCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1、好ましくは0.4≦x≦1、特に0.4≦x≦0.7)/CdSの構造を持つ太陽電池を製造できることが見出された。
【0018】
工程を追って説明する。最初に、基板上に、In−Ga−Se膜を堆積する。In−Ga−SeはCu(In1−xGax)Se2に比べて融点が低く、Cu(In1−xGax)Se2結晶を成長させるためのプリカーサである。200〜350℃程度の温度で堆積される。堆積方法は特に限定されないが、蒸着法あるいは分子線エピタキシー法が好適である。In−Ga−Seの組成及び膜厚はIn:Ga:Se=2(1−x):2x:3(0<x≦1)で1.8〜2.3μmでよい。
【0019】
次いで、基板温度を500〜550℃程度に上昇させて、In−Ga−Se膜上にCu−Seを供給するとIn−Ga−Seプリカーサ膜がCu(In1−xGax)Se2に変換される。一般には、目的の膜組成の化学量論的量に対して過剰量のCu−Seが供給される。この温度ではIn−Ga−Seは融解しており、これにCu−Seを過剰になるように供給すると、Cu−Seは液相であり、これがフラックスとして作用して、これを介してCu(In1−xGax)Se2結晶が成長し、液相と固相の2相共存状態が得られ、最終的にCu(In1−xGax)Se2膜が形成される。しかし、この反応メカニズムからも予想されるように、余剰のCu−Se系化合物の残存は不可避である。
【0020】
そこで、上記の如くCu(In1−xGax)Se2膜を形成後に、当該Cu(In1−xGax)Se2膜にさらにIn−Ga−Seを供給して、表面に存在する過剰のCu−Seをできるだけ多くCu(In1−xGax)Se2に変換して、最終的に基板上にCu(In1−xGax)Se2膜を形成している。この段階のIn−Ga−Seは、図2に示すようにCu−Seを供給している段階(第2段階目)で基板温度が1度程低下した時点から極小値を取り、再び極小値から1度基板温度が上昇する時点まで行う(第3段階目)。従来は、このような3段階成長法で成膜が行われていた。
【0021】
しかし、この従来の3段階成長法では、表面にCu−Se系化合物、特にCu2−ySeが残存することが避けられず、このためxを0.6付近まで増加して禁制帯幅を高くしたにもかかわらず光電変換効率が低下した原因であることが判明した。特に、Gaの割合を増加させると、Cu(In1−xGax)Se2の成長が遅くなることも判明しており、より過剰のCu−Se系化合物の残留が高いと考えられる。
【0022】
本発明によれば、こうして従来の3段階成長法で成膜されたにCu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物、特にCu2−ySeを除去する工程を付加することで、光電変換効率を高くする。ここでCu−Se系化合物は主としてCu−Seの2元化合物であり、特にCuxSeyあるいはさらにCu2−ySeで表すことができる。
【0023】
Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程は、簡単には、水素を含む雰囲気、例えば、フォーミングガス雰囲気で短時間加熱、所謂ラピッドサーマル処理をすることでよい。好適には窒素などの不活性ガス中に限定するものではないが約0.1体積%以上、より好適には約1〜10体積%、特に約3〜7体積%の水素ガスを含む雰囲気が使用できる。水素以外でもCu−Se系化合物を除去できる雰囲気であればよい。例えば、赤外線ランプなどを用いて、昇温速度約2.5〜7.5℃/秒、温度約300〜400℃に5分以下保持でよい。
【0024】
なお、実施例のEDX(エネルギー分散型回折)元素分析ではSeの減少が確認されCuの減少は確認されなかったが、ラマン散乱分光法でCu2−ySeのピークの消失は確認されている。Cu2−ySeなどのCu−Se系化合物が存在しなくなることが重要であると考えられる。
【0025】
先に述べたように、現在、Cu(In1−xGax)Se2膜においてx=0.3程度の膜についての報告が多い。この場合、禁制帯幅は1.1〜1.2eVであり、最適値の1.4eV(x=約0.6)には及ばないが、従来0.4≦x≦1では優れた光電変換効率を実現するCu(In1−xGax)Se2膜を形成することができていなかった。本発明によれば、好ましくは0.4≦x≦1、より好ましくは0.5≦x≦1、特にx=0.6付近においても、高い光電変換効率を示す良好なCu(In1−xGax)Se2膜を成長することが可能にされる。xの上限値は0.7が好ましい。本発明の比較実験ではCu−Se系化合物を除去する前後で変換効率7%台から11%台に向上した。この本発明により成長される良好なCu(In1−xGax)Se2膜の特徴は表面にCu2−ySeなどのCu−Se系化合物が存在しないことである。これはラマン散乱分光法などで調べることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、上記の如く、高い光電変換効率を示す良好なCu(In1−xGax)Se2膜を成長することが可能であるので、この高い光電変換効率を示すCu(In1−xGax)Se2膜を光電変換層そして利用した太陽電池も提供される。
【0027】
図1に限定的ではない代表的な太陽電池を模式的に示す。ソーダライムガラス(SLG)の基板1の上に、順に、スパッタで形成されたモリブデン(Mo)層の電極2、本発明のCu(In1−xGax)Se2膜による光電変換層又は光吸収層3、溶液成長法で形成したCdS層からなるバッファ層4、さらにMOCVD法で堆積したZnOからなる窓層5、最後に蒸着又はスパッタ及びパターニングしたアルミニウムからなる電極6を有する。
【0028】
光電変換層又は光吸収層3は1層構成ではなく、Cu(In1−xGax)Se2膜のxの値を変えた2層以上から構成して複数の波長の光を効率良く吸収するようにしたタンデム構造でもよい。その場合、そのうちの1層がCuInSe2膜又はCuGaSe2膜でもよい。
【0029】
【実施例】
多結晶CIGS薄膜の成長は、MBE装置を用いて三段階法により行った。基板にはMoを1.5〜2.0μmスパッタで堆積したソーダライム・ガラス(SLG)基板を用いた。はじめに分子線エピタキシー蒸着装置でIn−Ga−Seプリカーサ(In−Ga−Seの組成比はIn:Ga:Se=2(1−x):2x:3(0<x≦1))を基板温度約350℃で膜厚1.8〜2.3μmに堆積した。次に基板温度を550℃に上昇させて、同じく分子線エピタキシー蒸着装置でCu−Se(Cu−Seは基板温度をモニターしながら、図2に示すように約1度低下するまで)照射してCu−richなCu(In1−xGax)Se2(CIGS)薄膜を形成した。第2段階が終了した後の膜厚は2.0〜2.5μmである。最後に基板温度550℃のままで再びIn−Ga−Seを(照射後図2に示すように基板温度が極小値を取った後再び約1度上昇するまで)供給し、最終的にIII 族が少し過剰な多結晶CIGS薄膜を作製した。最終的な膜厚は2.0〜2.5μmであった。
【0030】
上記のようにして形成した多結晶CIGS薄膜を用いて、図1に示した構成Al/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGを有する太陽電池を作製した。CdSは溶液成長法で、ZnOはMOCVD法で作製し、最後に真空蒸着法でAlを電極として蒸着した。また、この試料には反射防止膜を使用していない。
【0031】
上記の如く、高いGa組成比を有するCIGS薄膜の作製に、三段階法を用いた。しかし、CIGS膜中のGa組成比を高くすると、三段階法の二段階目と三段階目において、製膜時間が長くなるという現象が見られた。図2は、二段階目と三段階目の製膜時間を模式的に示したものである(図2中のCGSはCuGaSe2である)。Gaの組成比が高くなるにつれて、二段階目及び三段階目の製膜時間、基板温度の低下及び上昇が、非常に遅くなっていることが分かる。特にGa組成比30%のものに比べ、100%のもの(CGS)は二段階目以降の製膜時間が最大約3倍程度かかっている。三段階法においては、二段階目は液相であるCu−Seと固相のCIGSの二相共存状態であると推定されており、Cu−Seがフラックスとして結晶薄膜表面に存在し、これを介してCIGSが成長すると考えられている。三段階目は、二段階目終了時に表面に存在する低抵抗Cu2−xSe層を除去するために行う。二段階目以降の製膜時間が非常に長くなることから、三段階法における一段階目のIn−Ga−Seプリカーサと、二段階目の液相であるCu−Se層の反応が、Ga組成比が高くなったことで遅くなったと考えられる。すなわち、Gaを介した反応の方が、Inを介した反応よりも遅いと推定される。
【0032】
Ga組成比を変化させたCIGS膜について、Raman散乱分光法を用いて評価した。結果を図3(a)に示す。注目すべきところは、250〜300cm−1付近の波数領域である。この拡大図を図3(b)に示す。最も高い変換効率を得ている[Ga]/[III ]比が約30%のものは、260〜280cm−1付近には、特徴的なピークは見られない。しかし、Ga組成比を高くすると、この波数範囲にピークが確認された。このピークは、低抵抗層であるCu2−ySeのピークである。この低抵抗層であるCu2−ySeの存在は、太陽電池特性を劣化させる主な要因の一つであると考えられる。またGa組成比を高くすると、Cu2−ySeのピーク強度が増加する。成長時間の観測より、二段階目でCu−SeとGaとの化学反応が遅いことを示した。このRaman測定結果は、この結果を示唆するものである。すなわち、Ga組成比が高いCIGS膜は、GaとCu−Seの反応が遅いため、表面にCu−Se系の化合物が残留し易いと考えられる。またこのことは、断面SEMのCuの面分析によって確認した。これが禁制帯幅を増加させても開放電圧が上昇しない一因であると考えられ、CIGS製膜時にCu2−ySeを形成させないことが、高いGa組成比を有するCIGS薄膜太陽電池の高効率化につながると考えられる。
【0033】
次に、CIGS薄膜製膜終了後に赤外ランプによるRTA(Rapid Thermal annealing)を行うことで、表面に残留しているCu2−xSeを除去することを試みた。上記の如く、3段階堆積法で形成した、Cu−Se系化合物が残留したCu(In1−xGax)Se2薄膜を真空容器内に封入した。残留ガスを除去するため、真空容器を真空ポンプにより排気した。真空容器内を、アニール時のガス(フォーミングガス)で充填した。この時のアニール時のガスは、水素を5%含む窒素ガスである。ガス充填後、赤外ランプを用いて当該試料を加熱した。この時の温度範囲は、基板裏面温度で400℃であった。昇温時の温度上昇率は、150〜450℃/分であった。アニール温度保持時間は、1秒から5分であった。アニール後は、自然冷却により室温まで冷却した。
【0034】
作製した試料はSEM、EDX、Raman散乱分光法、及びI−V測定を用いて評価した。
【0035】
図4は、基板裏面温度400℃において RTA処理を行った前後のRaman散乱分光法による測定結果である。グラフより260〜280cm−1付近に存在するCu2−ySe層のピークが減少していることがわかる。SEMでの表面観察の結果、膜自身には損傷はなく、RMS(root mean square)値にも変化はなかった。また、RTA処理前後の膜のEDX測定を行った結果、RTA処理前後でCuの濃度はあまり変化せず、Se濃度が10%程度減少していることが確認された。このことから、表面に存在しているSeが昇華したものと考えられる。
【0036】
図5に、Ga組成比約60%における、上から順に開放端電圧、短絡光電流、曲線因子(F.F.)及び変換効率のRTA処理温度依存性を示す。RTA処理温度の上昇に伴い、開放電圧及び曲線因子が向上している。これは表面の低抵抗層であるCu2−ySe化合物が除去された結果であると考えられる。
【0037】
このRTA処理をCIGS製膜後に施し、上記と同様に、太陽電池を作製した。太陽電池の構造はAl/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGである。RTA処理を最適化することにより、Ga含有量60%(Eg=1.4eV)のものにおいて、開放電圧750mV、変換効率11.2%が達成された(図6)。
【0038】
以上のことから下記のことが判明した。
【0039】
CIGS薄膜中のGa組成比を増加させると、三段階法の二段階目と三段階目に要する製膜時間が長くなるという現象が見られた。これはGaとCuの化学反応が、InとCuの化学反応よりも遅いためであると考えられる。また、Ga組成比を高くすることによって、表面に低抵抗層であるCu2−ySe化合物が残留し、この低抵抗層が開放電圧の上昇を妨げていることが明らかとなった。
【0040】
この低抵抗層を除去するために、Ga組成比の高いCIGS薄膜製膜後にRTA処理を施した。その結果、Cu2−ySe層の除去に成功し、開放電圧の向上が図られた。さらにRTA処理を最適化したところ、RTA処理温度400℃で、11.2%の変換効率が得られた。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、CIGS薄膜のGa組成比を高くして禁制帯幅を理想的な1.4eVに近づけて、光電変換効率を向上させた太陽電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】太陽電池の構成を示す模式断面図である。
【図2】3段階堆積法におけるCIGS膜中のGa組成比を高くした場合の二段階目と三段階目の製膜時間を基板温度を目安として示したものである。
【図3】Ga組成比を変化させたCIGS膜について、Raman散乱分光法を用いて評価した結果を図3(a)に示す。この拡大図を図3(b)に示す。
【図4】実施例のCIGS薄膜を基板裏面温度400℃において RTA処理を行った前後のRaman散乱分光法による測定結果である。
【図5】Ga組成比約60%における、上から順に開放端電圧、短絡光電流、曲線因子(F.F.)及び変換効率のRTA処理温度依存性を示す。
【図6】実施例のGa含有量60%(Eg=1.4eV)のCIGSを用いたAl/ZnO/CdS/CIGS/Mo/SLGの構造を有する太陽電池の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1…ソーダライムガラス(SLG)の基板
2…モリブデン(Mo)層の電極
3…Cu(In1−xGax)Se2膜による光電変換層又は光吸収層
4…CdS層からなるバッファ層
5…ZnOからなる窓層
6…アルミニウム電極
Claims (8)
- 基板上にIn−Ga−Se膜を堆積し、次いで加熱下でIn−Ga−Se膜にCu−Seを供給してIn−Ga−SeをCu−Se過剰のCu(In1−xGax)Se2膜に変換し、さらに当該Cu(In1−xGax)Se2膜にIn−Ga−Seを供給して過剰のCu−SeをCu(In1−xGax)Se2に変換して基板上にCu(In1−xGax)Se2(0<x≦1)膜を形成した後、Cu(In1−xGax)Se2膜の表面に残存するCu−Se系化合物を除去する工程をさらに有することを特徴とするCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- 残存するCu−Se系化合物を除去する工程が、水素を含む雰囲気で加熱する工程である請求項1に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- 前記加熱が300〜400℃で5分以下の加熱である請求項2に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- 最終的に形成されたCu(In1−xGax)Se2膜の表面にCu2−ySeが存在しない請求項1〜3のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- Cu(In1−xGax)Se2膜において0.4≦x≦1である請求項1〜4のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- Cu(In1−xGax)Se2膜において0.5≦x≦1である請求項1〜4のいずれか1項に記載のCu(In1−xGax)Se2膜の形成方法。
- 膜の表面にCu2−ySeが存在しないCu(In1−xGax)Se2(0.4≦x≦1)膜を光電層として含むことを特徴とする太陽電池。
- Cu(In1−xGax)Se2(0.5≦x≦1)膜を光電変換層として含み、光電変換効率が10%以上である請求項7に記載の太陽電池。
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