JP2004338185A - ポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】十分な耐熱性を有するため夏季日中の自動車内のような高温環境に一時的に放置され、高温に加熱された後でも変形せず、各部材に求められる性能を損なうことがなく、また自然界に放置されても最終的に微生物によって分解され、環境上の問題が生じるおそれがなく、さらに、射出成形における離型性にも優れる生分解性のポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法の提供。
【解決手段】金型温度を、示差走査熱量計で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、前記金型温度に調整された金型に、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、前記金型に射出した前記組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法および該方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品。
【選択図】なし
【解決手段】金型温度を、示差走査熱量計で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、前記金型温度に調整された金型に、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、前記金型に射出した前記組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法および該方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法に関し、特に、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、多くの工業製品を構成する部材、部品等には、求められる機能、性能、性状等に応じて、各種の樹脂素材を単独または複合してなる成形材料を所要の形状に成形した樹脂成形品が使用されている。例えば、写真記録材料、磁気記録材料、光記録材料等の記録材料を収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態保持等のための容器、筐体、蓋、巻き芯、また、カセットケース等の部材には、各種の樹脂成形品が使用されている。例えば、記録材料本体を収納する機能部材として、カセット、マガジン、レンズ付きフィルムケース等、あるいは単に記録材料を保護するための容器、オーディオカセットテープ、ビデオテープ等の収納ケース、CD、MD等の収納ケース等にも各種の樹脂素材からなる樹脂成形品が使用されている。
【0003】
これらの樹脂成形品は永久に保存されるものは少なく、その大部分は、その樹脂成形品が組み込まれた工業製品が役割を終えて廃棄されるとき、あるいは樹脂成形品自体がその機能を発揮した後には、廃棄処理されるか、再利用可能であれば、分別され再生処理される。例えば、前記記録材料を構成する各種の部材または部品等の樹脂成形品は、記録材料の使用時または使用中に分離されて廃棄され、また、廃棄される記録材料に付随して廃棄される。
しかし、従来の樹脂成形品は廃棄された際に自然環境では分解されにくく、環境を汚染する一つの要因となっている。
【0004】
そこで、近年、自然環境下で分解される素材を使用することが検討されている。このような自然環境下で分解される樹脂素材として生分解性樹脂が知られているが、従来のプラスチックに比べて耐熱性に劣り、夏場の自動車内のように高温となる条件では変形し、その機能を発揮することができるものは無かった。例えば、近年、トウモロコシ澱粉を原料とするポリ乳酸が安価に大量生産可能となった。このポリ乳酸は再生利用が可能で資源の有効利用を図ることができるとともに、廃棄されても自然環境下で分解され環境に悪影響を与えないため、地球環境に優しい生分解性樹脂として注目されている。
【0005】
結晶化していないポリ乳酸は、ガラス転移温度が58℃と低いため、60℃を超えると軟化が甚だしくなり、例えば、夏場の自動車内のように高温となる環境条件では変形するため、耐熱性が必要とされる用途には利用が困難である。そこで、耐熱性の要求される樹脂成形品にポリ乳酸等の生分解性樹脂を利用可能にする技術開発が望まれている。
【0006】
一方、樹脂成形品の射出成形方法としては、金型温度を低く設定し、溶融樹脂の固化を早め、成形サイクルを短くする方法が一般的に用いられる。しかし、この方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品は、耐熱性に劣り、アニール処理等による耐熱性の改善を行う必要があり、製造工程が多く生産性に劣るという問題がある。またアニール処理による外観不良等も生じる場合がある。
また、特定の樹脂組成物を混合、溶融し、85〜125℃に設定した成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形することを特徴とする、100〜160℃の耐熱温度を有する成形加工品の製造方法が提案されている(特許文献1参照。)。この方法では、金型の設定温度を上記特定の組成物によらず一定範囲に調整するため、該組成物の物性の変動等により、結晶化の程度がばらつく場合がある。
さらには、上記した方法においては、溶融樹脂組成物を金型に射出して成形した後、該成形品を取り出す際に金型に密着し金型から成形品が速やかに離型できず(離型不良)、生産性の低下、および、成形不良という問題も生じる場合がある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−120887号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、樹脂部材または部品として必要な諸機能および性能を保持するとともに、十分な耐熱性を有し夏季日中の自動車内のような高温環境に一時的に放置され、高温に加熱された後でも変形せず、各部材に求められる性能を損なうことがなく、また自然界に放置されても最終的に微生物によって分解され、環境上の問題が生じるおそれがなく、さらに、射出成形における離型性にも優れる生分解性のポリ乳酸樹脂成形品を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記特性に加え、生産性が高いポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するため、ポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法について鋭意検討したところ、溶融ポリ乳酸樹脂組成物を特定温度に調整された金型内で結晶化させると、ポリ乳酸の結晶化に必要なアニール処理をしなくても得られる樹脂成形品の耐熱性を向上させられ、生産性も向上できることを知見した。
また、本発明者らは、上記方法によってポリ乳酸樹脂組成物が金型に密着し樹脂成形品が離型しにくく、該樹脂成形品の白化や亀裂等による成形不良が起こることを知見し、この対策として、離型剤を用いることにより、これらの成形不良を解消できることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明は、これらの知見を基になされたものであり、以下の(1)〜(6)を提供する。
(1)金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0011】
(2)金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0012】
(3)金型に離型剤を塗布した後、
前記金型の金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型にポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0013】
(4)前記離型剤が、離型剤を含む塗布液である上記(2)または(3)に記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0014】
(5)あらかじめ、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定する工程をさらに具備する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0015】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品。
【0016】
なお、本発明において、金型の金型温度とは、金型キャビティ表面の温度をいう。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリ乳酸樹脂成形品(以下、「本発明の樹脂成形品」という。)およびその製造方法(以下、「本発明の方法」という。)について詳細に説明する。
本発明の方法は、まず、金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程を行う。
該工程により、後述するポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物(以下、「ポリ乳酸樹脂組成物等」という。)を、金型内で結晶化させることができる。したがって、アニール処理等が不要となり生産性に優れ、またアニール処理を行わなくても耐熱性に優れる成形品が得られる。
なお、上記金型温度の調整は、後述する成形する工程においても同様に行う。
【0018】
上記工程における金型温度の設定範囲が上記結晶化温度のピーク値±30℃の範囲であれば、ポリ乳酸樹脂組成物等の金型内での結晶化を行うことができるうえ、該結晶化を短時間で終了させることができる。また、該金型温度の管理・制御を容易に行うことができる。さらに、結晶化温度のピーク値を個々の後述するポリ乳酸樹脂組成物等について測定し該組成物の物性に応じて金型温度を設定するため、得られる成形品の結晶化の程度を均一にできる。
上記結晶化をより確実に行え耐熱性により優れる点で、該温度範囲は、上記結晶化温度のピーク値±20℃の範囲であるのが好ましい。
【0019】
金型温度を上記範囲に管理・制御する手段としては、特に限定されず、例えば、射出成形用の金型の周りを加熱ジャケット等の加熱手段で覆い、該金型には熱伝対等の温度計を設けて管理・調整する手段、金型内に所定の温度に加熱した潤滑油(例えば、後述する離型剤を含む塗布液等)を塗布し、該金型には熱伝対等の温度計を設けて管理・調整する手段、またはこれらを併用する手段等が挙げられる。金型を加熱する手段として、上記手段の他に、金型内に導電層を設けて電熱加熱する手段、高周波誘導加熱する手段等も選択できる。
【0020】
本発明の方法においては、上記工程の前に、後述するポリ乳酸樹脂組成物を硬化させ、あらかじめ示差走査熱量計(DSC)で降温測定し、該組成物の結晶化温度のピーク値を測定するのが好ましい。あらかじめ結晶化温度のピーク値を測定することにより、上記温度範囲の設定を正確にできる。
なお、該測定は、後述するポリ乳酸樹脂組成物等を射出成形する毎に行ってもよく、同一の組成および純度等の物性を有する組成物等であれば、最初の射出成形時に行い、2回目以降は行わなくてもよい。
【0021】
示差走査熱量計(DSC)による降温結晶化ピーク値の測定は、試料(ポリ乳酸樹脂組成物等)20mgをDSCの測定セルにセットし、10℃/分の降温速度で200℃から室温まで冷却し、140℃〜80℃の間で観測された結晶化による発熱ピークのピーク値をその組成物等の結晶化温度のピーク値とする。
結晶化温度のピーク値が予めわかっている組成物を成形する場合は予め測定する必要はない。
【0022】
上記降温結晶化ピーク値の測定に用いられるポリ乳酸樹脂組成物は、射出されるポリ乳酸樹脂組成物そのものであってもよく、射出されるポリ乳酸樹脂組成物と同一の組成および純度等の物性を有する組成物であってもよく、またポリ乳酸樹脂単独であってもよい。DSC測定されるポリ乳酸樹脂組成物には後述する離型剤を含有しないのが好ましい。
【0023】
本発明の方法は、次に、1)上記金型温度に調整された金型に、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程、2)上記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程、または、3)上記金型温度の調整前または調整中に、金型に離型剤を塗布した後、上記金型温度に調整された金型に、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程のいずれか、またはこれらの工程を任意に組合せて行う。
【0024】
上記金型温度を上記範囲に管理・制御する工程および後述する成形する工程により、耐熱性および生産性に優れる成形品が得られるが、これらの工程のみでは、ポリ乳酸樹脂組成物等の結晶化に伴う収縮等により、樹脂成形品が金型に強く密着し離型性が悪く、樹脂成形品の白化や亀裂等の成形不良が生じてしまう場合がある。これを解決するために本発明では、上記離型剤をあらかじめ金型に塗布し、または、該ポリ乳酸樹脂組成物に含有させて優れた耐熱性を保持しながら、離型性を改良することができ、上記優れた生産性を向上させることができる。
【0025】
上記1)の工程は、上記金型温度に調整された金型に、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を該金型に射出する工程である。
該金型に射出するポリ乳酸樹脂組成物に離型剤をあらかじめ含有させることにより、上記効果を実現できる。
なお、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物については後述する。
【0026】
上記2)の工程は、上記金型温度に調整された金型に、離型剤(離型剤を含む塗布液)を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を該金型に射出する工程である。
金型にあらかじめ離型剤を塗布してポリ乳酸樹脂組成物を射出することにより、上記効果を実現できる。
【0027】
上記2)の工程においては、離型剤を金型にそのまま(固体のまま)塗布してもよいが、金型への塗布均一性に優れる点で、離型剤を含む塗布液(離型剤を含む溶液)として塗布するのが好ましい。
離型剤としては、後述する、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物で例示した離型剤を好適に用いることができ、これらの離型剤は1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤を含む塗布液の溶媒としては、特に限定されず、離型剤を溶解しうる溶媒、例えば、水等の無機溶媒、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒等の有機溶媒等を特に制限されずに用いることができ、これらの混合溶媒を用いることもできる。
【0028】
該離型剤を含む塗布液の離型剤濃度は、特に制限されず、樹脂成形品の品質および塗布量と樹脂成形品の離型性の改善効果とを比較考量して任意に設定できる。
好ましくは、塗布量が少なく離型性の改善効果に優れる点で、0.1〜10質量%であり、より好ましくは、1〜7質量%である。
【0029】
該離型剤を含む塗布液の塗布手段は、特に限定されず通常行われる手段・方法を選択でき、例えば、スプレー等により塗布する手段、布等により金型内に塗布する手段等が挙げられる。
【0030】
上記3)の工程は、上記金型温度の調整前または調整中に、金型に離型剤(離型剤を含む塗布液)を塗布した後、上記金型温度に調整された金型に、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程である。
上記2)の工程との違いは、上記金型温度の調整前または調整中に離型剤を塗布するか、該調整後に離型剤を塗布するかの点であり、それ以外は、基本的に上記2)の工程と同様であり、該上記2)の工程と同様の効果を有する。
【0031】
本発明の方法においては、上記1)〜3)の工程のいずれか1種を行ってもよく、また、2種以上を任意に組合せて行ってもよい。
作業性、生産性等を考慮するといずれか1種を行うのが好ましく、離型性の改善効果がより必要となる場合は、2種以上を任意に組合せるのが好ましい。
【0032】
上記1)〜3)の工程において、ポリ乳酸樹脂組成物等の金型への射出手段は、特に限定されず、通常行われる手段を任意に選択できる。該手段としては、例えば、溶融ポリ乳酸樹脂組成物等を射出ノズル等から射出する手段が挙げられる。
【0033】
本発明の方法は、次に、上記金型に射出した上記ポリ乳酸樹脂組成物等を該金型内で結晶化させて成形する工程を行う。
該特定の温度範囲に調整された金型内で上記ポリ乳酸樹脂組成物等を結晶化させることにより、生産性および耐熱性に優れる樹脂成形品が得られる。
また、上記射出する工程により、離型性が改善されているため、射出成形後の樹脂成形品の離型性に優れ成形不良を改善することができる。
【0034】
該工程は、特定の金型温度で成形するため、ポリ乳酸樹脂組成物等の成形と同時にまたは連続してポリ乳酸の結晶化も行うことができる。すなわち、ポリ乳酸の結晶化による樹脂成形品の優れた耐熱性を、アニール処理しなくても獲得することができる。したがって、耐熱性および生産性に優れ、アニール処理による欠点、例えば、繊維や充填剤の成形品表面への浮き上がりによる外観不良等を抑えることができる。
【0035】
成形の方法は特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、圧空成形等のいずれの方法を任意に選択できるが、射出成形が好ましい。
【0036】
本発明の方法は、上記した工程を具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法であるが、上記工程およびその条件等以外は、通常行われる、溶融・計量工程、加圧流動・賦型工程、固化工程および取出し工程等を任意に選択して行うことができる。
本発明の製造方法においては、ポリ乳酸樹脂組成物等の結晶化が十分に進行し耐熱性に優れるためアニール処理は行わなくてもよいが、より結晶化度を向上させるためにアニール処理を行ってもよい。この場合のアニール処理は、通常行われる条件・方法を任意に選択できる。
【0037】
本発明の製造方法は、金型温度を特定温度範囲に調整し該金型内でポリ乳酸樹脂組成物を結晶化すること、および、離型剤を用いることを特徴とする。
本発明者らは、溶融ポリ乳酸樹脂組成物を特定温度に調整された金型内で結晶化させることにより、ポリ乳酸の結晶化に必要なアニール処理をしなくても得られる樹脂成形品の耐熱性を向上させられ、生産性の向上ができることを知見したのである。しかし、該工程を行って製造したのでは、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化による収縮等により樹脂成形品が金型に強く密着し離型性が悪く、樹脂成形品の白化や亀裂等の成形不良が生じてしまう場合があることを発見した。そして、これを解決するために鋭意検討したことろ、離型剤をあらかじめ金型に塗布し、または、該ポリ乳酸樹脂組成物に含有させることにより、上記特定温度の金型内で結晶化することによる優れた生産性および耐熱性を損うことなく、離型性を改善でき成形不良を解消できることを知見したのである。
すなわち、本発明の製造方法により、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品を得ることができるのである。そして、これらにより、生産性をも改善でき、さらに樹脂成形品の外観にも優れる。
【0038】
次に、本発明の製造方法に用いるポリ乳酸樹脂組成物等について説明する。
本発明の樹脂成形品は、ポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物を用いて上記した製造方法により得られる樹脂成形品である。
【0039】
すなわち、本発明の樹脂成形品は、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に金型温度を調整し、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を上記金型温度に調整された金型に射出し、該金型内で(該ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0040】
また、本発明の樹脂成形品は、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に金型温度を調整し、上記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出し、該金型内で(該ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0041】
さらに、本発明の樹脂成形品は、金型に離型剤を塗布した後、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に該金型の金型温度を調整し、上記金型温度に調整された金型にポリ乳酸樹脂組成物を射出し、該金型内で(上記ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0042】
上記金型温度の設定、離型剤の塗布、射出および結晶化等については、上記本発明の製造方法で述べたとおりである。
【0043】
本発明の製造方法および本発明の樹脂成形品に用いられるポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物について説明する。
該樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物であり、ポリ乳酸樹脂組成物を必須成分とする。
ここで、ポリ乳酸樹脂組成物とは、樹脂成分としてポリ乳酸を主成分とするのが好ましく、例えば、ポリ乳酸以外に生分解性樹脂を含む場合は、ポリ乳酸を含めた生分解性樹脂全質量に対してポリ乳酸が50質量%以上含まれるものが好ましい。
本発明の製造方法では、樹脂成分としてポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸樹脂組成物を用いるため、本発明の製造方法により得られる樹脂成形品は、生分解性を有する。
【0044】
ポリ乳酸樹脂組成物等に用いるポリ乳酸は、L−乳酸のホモポリマー、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、またはL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、あるいはこれらの混合物である。
ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
一般に、ポリ乳酸には、D体、L体等の光学異性体が存在するが、L体のみが生分解が可能である。ポリ乳酸は工業的には天然物であるデンプンを乳酸発酵させて乳酸を得、これを重合させて作られ、この過程で異性化反応が生じる。したがって、通常、ポリ乳酸には不純物として少量のD体が含まれている。D体の含量が高い、すなわち、L体の純度が低いと、ポリ乳酸の結晶化が阻害され耐熱性の改善効果が十分に発揮されない場合があるため、本発明で用いられるポリ乳酸はL体純度が88%以上であるものが好ましく、さらに95%以上であるものが好ましく、特に97%以上であるものが好ましい。
このポリ乳酸の具体例として、三井化学(株)から商品名:LACEAで市販されているもの等が挙げられる。
【0045】
なお、本発明において、ポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)で昇温測定による結晶化温度(溶融に伴う吸熱ピーク)が存在し、かつ、示差走査熱量計(DSC)で降温測定による結晶化温度(結晶化に伴う発熱ピーク)が存在するものを用いる。
【0046】
一般に結晶性のポリマーは分子量が低いほど結晶化し易い性質を有するが、結晶化に伴い機械的強度も低下する。質量平均分子量が50000より低いポリ乳酸を用いると、得られる樹脂成形品の機械的強度が低くなり、ある程度の強度を要する用途には適用できない。また、ポリ乳酸は、溶融状態で水分に接すると、容易に加水分解して分子量の低下を招き易い。そこで、成形材料の含水率を50ppm程度以下にまで十分に乾燥してから成形機に供給すれば、分子量の低下が少ないが、含水率が50ppm程度の乾燥度を得るためには大規模な乾燥設備が必要で、また、乾燥した成形材料の管理も煩雑となる。
そこで、本発明において、ポリ乳酸を用いて射出成形により樹脂成形品を製造する場合には、用いるポリ乳酸の質量平均分子量およびL体純度に対応して成形材料の含水率を、特定の範囲に調整することが好ましい。これにより、特にアニール処理を行わずに、本発明の目的とする樹脂成形品を得ることができる。 成形材料の含水率は、汎用の真空乾燥機等で調整することで、成形工程での分子量低下をある程度抑えることができる。
質量平均分子量50000以上120000未満のポリ乳酸を用い、成形直前の成形材料の含水率を200ppm未満に調整して射出成形して得られる樹脂成形品はアニール処理により容易に結晶化が進行し、かつ実用上十分な機械的強度を有するものが得られる。重量平均分子量50000以上120000未満のポリ乳酸を含み、含水率が200ppm以上の成形材料は、そのまま加熱成形した場合には、成形工程で加水分解し、分子量が低下する。 このため、得られる成形品の強度が低くなり、ある程度の強度を要する用途には適用できない。
【0047】
また、重量平均分子量が大きいポリ乳酸を用いる場合には、成形材料の含水率を、汎用の熱風乾燥機や棚式の真空乾燥機で容易に到達可能な1500ppm以下に調整し、加熱成形による、ある程度の分子量の低下を見込んでおき、あるいは結晶核剤を配合するとともに、含水率を調整して加熱成形することによって、所望の樹脂成形品を得ることができる。 例えば、重量平均分子量120000以上200000未満のポリ乳酸に結晶核剤を配合した成形材料を用い、成形直前の成形材料の含水率を200〜1500ppm、あるいは必要ならば含水率を200ppm未満に調整して射出成形して所望の樹脂成形品を得ることができる。 質量平均分子量50000以上120000未満およびL体純度88%以上のポリ乳酸、補強繊維および結晶核剤を含む成形材料を射出成形する場合には、含水率200ppm未満に調整すると、好ましい。 また、質量平均分子量120000以上200000未満およびL体純度88%以上のポリ乳酸、補強繊維および結晶核剤を含む成形材料を射出成形する場合には、含水率200〜1500ppmに調整すると、好ましい。さらに、 質量平均分子量120000以上200000未満およびL体純度95%以上のポリ乳酸および補強繊維を含む成形材料を成形する場合には、 含水率200〜1500ppmに調整した後、射出成形し、 さらにアニール処理により結晶化させることが好ましい。これにより、得られる樹脂成形品の結晶化は容易に結晶化が進行し、かつ実用上十分な機械的強度を有するものが得られる。成形材料の含水率が1500ppmを超えると、成形工程でポリ乳酸の加水分解が激しく、ポリ乳酸が所期の分子量よりも低分子化され、得られる樹脂成形品の物性が低下し、所期の耐熱性、機械的強度等を有する樹脂成形品が得られない恐れがある。
【0048】
本発明の樹脂組成物には、得られる成形品の耐熱性、剛性の向上を目的として補強繊維、シリカ等の充填剤を含有させる。
該補強繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、窒化ケイ素繊維等の無機系繊維、また、アラミド繊維等の有機系繊維、ケナフや竹の天然植物繊維等が挙げられ、これらは1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手が容易である点で、ガラス繊維または炭素繊維が好ましい。
【0049】
また、この補強繊維は、繊維長が5mm以下であるものが好ましく、アスペクト比が1500以下であるものが好ましく、断面積が2.7×10−4mm2 以下であるものがより好ましい。
【0050】
また、補強繊維は、ポリ乳酸との相溶性を向上させるため、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、脂肪酸系カップリング剤、油脂、ワックス、界面活性剤等によって表面処理が施されていると、さらに好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物における充填剤の含量は、ポリ乳酸/充填剤の質量比で95/5〜50/50の割合で配合するのが、本発明の樹脂成形品の耐熱性、剛性の向上に有効である点で好ましく、該効果がより有効である点で92/8〜65/35質量部の割合が特に好ましい。上記質量比で95/5未満では添加による補強効果が小さくなる恐れがあり、同50/50を超えると得られる成形品が脆くなる恐れがある。
また、成形後、アニール処理を行う場合には、収縮や自重による変形を防止するために有効であり、充填剤の含量は、上記ポリ乳酸/充填剤の質量比で95/5〜70/30の割合が好ましく、特に、90/10〜80/20の割合が好ましい。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、上記製造方法に応じて、離型剤を含有させて、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物とする。
金型内でポリ乳酸樹脂組成物を結晶化させた後冷却して成形させると、該組成物の結晶化が進行すると共に該組成物自体が収縮し成形品が該金型に強く密着するため、該金型から離型しにくく、成形品の突出し工程において、成形品の白化や亀裂が生じ、生産性の低下等を生じる。該問題を解決するために、および成形サイクルの短縮、加工工程搬送時の成形品の削れ防止のために、本発明では、離型剤を用い、その1態様として上記ポリ乳酸樹脂組成物に含有させるのである。
【0053】
本発明で用いられる離型剤は、特に限定されないが、例えば、シリコン系滑剤、オレイン酸アミド系滑剤、エルカ酸アミド系滑剤、ステアリン酸アミド系滑剤、ビス脂肪酸アミド系滑剤、アルキルアミン系滑剤、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、アルコール系滑剤、金属石けん等が挙げられる。
【0054】
より具体的には、シリコン系滑剤として、例えば、ジメチルポリシロキサン、カルボキシル変性シリコーンオイル(信越シリコーン(株)製、東レシリコーン(株)製等)等が挙げられる。オレイン酸アミド系滑剤として、例えば、アーモスリップCP(ライオン・アクゾ(株)製)、ニュートロン(日本精化(株)製)、ニュートロンE−18(日本精化(株)製)、アマイドO(日東化学(株)製)、アルフローE−10(日本油脂(株)製)、ダイヤミッドO−200(日本化成(株)製)等が挙げられる。
【0055】
エルカ酸アミド系滑剤として、例えば、アルフローP−10(日本化成(株)製)、ニュートロンS(日本精化(株)製)等が挙げられる。ステアリン酸アミド系滑剤として、例えば、アルフローS−10(日本油脂(株)製)、ニュートロン2(日本精化(株)製)、ダイヤミッド200(日本化成)等が挙げられる。ビス脂肪酸アミド系滑剤として、例えば、ビスアマイド(日本化成(株)製)、ダイヤミッド200ビス(日本化成(株)製)、アーモワックスEBS(ライオン・アクゾ(株)製)等が挙げられる。
【0056】
アルキルアミン系滑剤としては、例えば、エレクトロストリッパーTS−2(花王石鹸(株)製)等が挙げられる。炭化水素系滑剤として、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、塩素化炭化水素、フロオロカーボン等が挙げられる。脂肪酸系滑剤として、例えば、高級脂肪酸(C12以上が好ましい)、オキシ脂肪酸等が挙げられる。エステル系滑剤として、例えば、脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル等が挙げられる。
【0057】
アルコール系滑剤として、例えば、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等が挙げられる。金属石けんとして、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、リシレノール酸、ナフテン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸と、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Al、Sn、Pb等の金属との化合物等が挙げられる。
【0058】
これらの離型剤の中でも、オレイン酸アミド系滑剤が、廉価であり好ましい。
これらの離型剤は、1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記離型剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の全成分の合計質量に対して、0.01〜2質量%であるのが、上記離型剤を配合することによる効果が得られる点で好ましく、0.1〜1質量%であるのが、上記効果により優れる点で、より好ましい。
【0060】
本発明においては、上記ポリ乳酸樹脂組成物(離型剤の配合の有無にかかわらず)に、さらに、結晶核剤を配合してもよい。結晶核剤を配合すると得られる樹脂成形品の結晶化により実用上十分な機械的強度を得ることができる。 特に、重量平均分子量が50,000〜200,000でありL体純度が88%以上であるポリ乳酸と、充填剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物の含水率を1500ppm以下に調整した後、射出成形して樹脂成形品を製造する場合に、該成形材料に結晶核剤を配合すると、有効である。
【0061】
用いられる結晶核剤は、無機系核剤と有機系核剤に大別される。
無機系核剤としては、例えば、タルク、カオリン、カオリナイト、カオリンクレー、硫酸バリウム、乳酸カルシウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
有機系核剤としては、例えば、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール系核剤;ヒドロキシ−ジ(t−Bu安息香酸)アルミニウム;リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、メチレンビス(2, 4−ジ−t−Bu−フェニル)ホスフェート塩等のリン系核剤;ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩;ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩;パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩;オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩;イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩;ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、べヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、べヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩;モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等の脂肪族ポリエステル系核剤;脂肪族アルコール系核剤(脂肪族モノアルコール類、脂肪族多価アルコール類、環状アルコール類)等が挙げられる。
【0063】
脂肪族アルコール系核剤としては、例えば、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類;1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類;シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類が挙げられる。
【0064】
また、例えば、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、べヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類;モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類;ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類;モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類;ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類;トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等の脂肪族カルボン酸エステル系核剤等も挙げられる。
【0065】
これらの結晶核剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、廉価であることから、タルク、カオリン、硫酸バリウム等の無機系核剤が好ましい。
【0066】
本発明において、成形材料に結晶核剤を配合する用いる場合には、ポリ乳酸/結晶核剤の質量割合は、成形品の結晶化により実用上十分な機械的強度が得られる点で、99.99/0.01〜90/10の割合が好ましく、特に99.9/0.1〜95/5の割合が好ましい。結晶核剤の配合割合が99.99/0.01未満であると、成形品の結晶化が不十分であり、得られる成形品は実用上十分な耐熱性を得ることができない場合がある。また、90/10を超えると、成形品の機械的強度の低下、成形材料のコストアップの場合がある。
【0067】
また、本発明で用いられるポリ乳酸樹脂組成物等には、さらに、カーボンブラック等の遮光性充填剤、シリコンオイル等の摺動性改良剤、顔料等の着色剤、酸化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤等を必要に応じて配合することもできる。
【0068】
本発明の樹脂成形品は、上記ポリ乳酸樹脂組成物等を用いて、上述した製造方法により製造される。
該製造される成形品は、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品であり、またその生産性をも改善できる。
さらに、得られる樹脂成形品は、上記充填剤が成形品の表面にブリードアウトせず光沢不良を起さない。したがって、樹脂成形品の外観にも優れる。
【0069】
このようにして得られる本発明の樹脂成形品の結晶化の程度は、耐熱性を有する樹脂成形品が得られる点で、結晶融解熱量20mJ/mg以上を示すものが好ましく、さらに好ましくは30mJ/mg以上、結晶生成量が多くなると耐熱性がさらに向上するため、特に、35mJ/mg以上を示すものが好ましい。本発明において、樹脂成形品の結晶融解熱量は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の降温速度で測定される値である。
【0070】
本発明において、樹脂成形品は、さらに必要な場合は、塗装、めっき等の処理を行うことができる。
【0071】
本発明において、樹脂成形品とは、機能性材料を構成する構造部材、または、収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態支持等のために用いられる容器、蓋およびそれに付随する付属部品、あるいは、上記機能性材料を装填して機能を発揮させるために成形された成形品をいう。機能性材料としては、例えば、各種の記録材料等が挙げられる。
該記録材料としては、具体的には、例えば、ネガフィルム、リバーサルフィルム、印画紙、モノシートまたはピールアパート式のインスタント写真フィルム等の写真感光材料;オーディオカセットテープ、ビデオカセットテープ、フロッピーディスク、コンピュータデータ記録用磁気テープ等の磁気記録材料;CD、CD−R、CD−RW、DVD、DVD−R、DVD−RW、MD等の光記録材料等が挙げられる。
【0072】
この樹脂成形品の具体例として、写真感光材料、磁気記録材料および光記録材料等の各種記録材料に用いられる記録材料用樹脂部材とは、上記記録材料を収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態支持等のために用いられる容器、蓋およびそれに付随する付属部品、あるいは、上記記録材料を装填して機能を発揮する各種部材をいう。
より具体的には、写真感光材料としては、例えば、135、110、120、220等の各種規格のネガまたはリバーサルフィルムの容器、本体、蓋またはスプール等、あるいは、インスタントフィルムのフィルムパック用ケース等の構成部材(例えば、容器本体、遮光シート、弾性板、可撓性遮光シート、遮光片、底面遮光シート等の構成部材)、レンズ付きフィルムの筐体、機構部品等の各種の部材が挙げられる。また、磁気記録材料としては、例えば、オーディオカセットテープ、ビデオカセットテープ、コンピュータデータ記録用磁気テープ、フロッピーディスク等を収納するカセット筐体およびその構成部品やこれらを収納するケースが挙げられる。さらに光記録材料としては、例えば、MDのカセットやCD、CD−R、CD−RW、DVD、DVD−R、DVD−RW、MD等を収納するケースが挙げられる。
【0073】
【実施例】
以下、本発明の樹脂成形品およびその製造方法について具体例を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0074】
<実施例1>
ポリ乳酸(島津製作所製、Lacty9020)のペレットに、カーボンブラック(三菱化学(株)製、#950)0.1質量%と、カーボン繊維(東邦レーヨン(株)製、ベスファイトHTA−C6−S)15質量%とを混合し、得られた混合物を真空乾燥機(120℃、600Pa)で6時間乾燥し、2軸混練機を用いて230℃で混練してストランド状に押し出し、水冷してペレット化した。
【0075】
得られた原料ペレットを80℃の熱風乾燥機で4時間乾燥後、試料20mgをDSCの測定セルにセットし、DSC(セイコーインスツルメント(株)製、SSC/5200)による降温結晶化ピークを、10℃/分の降温速度で200℃から室温まで冷却し測定した。結晶化温度のピーク値は、94.6℃であった。
【0076】
上記樹脂組成物を射出成形機に供給し、金型温度を94.6℃±20℃に制御して、離型剤スプレー(NUCシリコーン、日本工材(株)製)を金型のキャビティ部分(金型のポリ乳酸樹脂組成物と接触する部分)に吹き付け、不織布(ベンコット、旭化成工業(株)製)で飛沫が残らないように金型表面を拭いた。
その後、離型剤を塗布した金型に上記樹脂組成物を射出し、該金型内に充填された該樹脂組成物を金型内で5分経時する条件で、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。この離型剤の塗布および射出成形を上記樹脂組成物を用いて10回行った。
【0077】
上記射出成形を10回行ったうち、得られた成形品(作製した枠体と裏蓋)のすべてにおいて、樹脂成形品の取出しが容易に行え一連の射出成形が速やかに進行し離型性に優れた。白化や亀裂は確認されず成形不良は認められなかった。
また、該成形品は表面が非常に滑らかで均質であり、上記組成物の添加剤等が表面にブリードアウトすることもなく光沢を有し、外観に優れるものであった。
【0078】
これらの枠体の1つから採取した試料20mgをDSCの測定セルにセットし、 10℃/分で室温から200℃まで昇温し、DSC曲線を測定した。結晶化に伴う吸熱ピークは無く、174.5℃にピークを持つ38.3mJ/mgの融解熱が観測された。
【0079】
得られた枠体3と裏蓋5のうち、任意の5つに、従来から使用されている非生分解性の部材である図1に示す上面遮光シート7、弾性板9、可撓性遮光シート13とフィルムユニット15を組み込んでインスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立てた。このインスタントフィルムパックをインスタントカメラ(富士写真フイルム(株)製、チェキ)に装填し、70℃の恒温槽に4時間放置した後、室温まで冷却し、インスタントカメラによる撮影を試みたが、すべてのサンプルにおいて特に異常は見られなかった。このことから、耐熱性に優れることが分かった。
【0080】
さらに、上記の射出成形方法(本発明の製造方法)では、上記したように、アニール処理を行わなくても耐熱性に優れる樹脂成形品が得られるため、生産性が向上した。
【0081】
<実施例2>
ポリ乳酸(島津製作所製、Lacty9020)のペレットに、カーボンブラック(三菱化学(株)製、#950)0.1質量%と、カーボン繊維(東邦レーヨン(株)製、ベスファイトHTA−C6−S)15質量%と、離型剤(オレイン酸アミド、Newtron、日本精化(株)製)0.1質量%とを混合し、得られた混合物を真空乾燥機(120℃、600Pa)で6時間乾燥し、2軸混練機を用いて230℃で混練してストランド状に押し出し、水冷してペレット化した。
なお、結晶化温度のピーク値は、実施例1で測定した94.6℃とした。
【0082】
上記樹脂組成物を射出成形機に供給し、金型温度を94.6℃±20℃に制御して、金型温度を調整した金型に上記樹脂組成物を射出し、該金型内に充填された該樹脂組成物を金型内で5分経時する条件で、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。この離型剤の塗布および射出成形を上記樹脂組成物を用いて10回行った。
【0083】
実施例1と同様に、上記射出成形を10回行ったうち、得られた樹脂成形品のすべてにおいて、離型性に優れ、成形不良は認められず、また、外観に優れるものであった。
得られた枠体の1つから採取した試料は、174.5℃にピークを持つ38.3mJ/mgの融解熱が観測された。
得られた枠体3と裏蓋5のうち、任意の5つを用いて、実施例1と同様にして、インスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立て、インスタントカメラによる撮影を試みたが、すべてのサンプルにおいて特に異常は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
さらに、アニール処理を行わなくても耐熱性に優れる樹脂成形品が得られるため、生産性が向上した。
【0084】
<比較例1>
金型温度を30℃に調整した以外は、実施例2と同様にしてインスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。これを10回行った。
これらの枠体の1つから採取した試料は結晶溶融に伴うピークは観察されず、実施例1と同様にして任意の5つの枠体と裏蓋を用いて、インスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立て、インスタントカメラによる撮影を試みたところ、すべてのサンプルにおいて耐熱性に劣った。
【0085】
上記枠体3と裏蓋5を120℃に加熱した熱風乾燥機で5分間アニール処理した。得られた枠体3と裏蓋5は、その耐熱性は改善されたが、上記ポリ乳酸樹脂組成物の添加剤がブリードアウトしたものが認められ、外観に劣る場合があった。
【0086】
<比較例2>
実施例1の離型剤の塗布液および実施例2の離型剤を用いなかった以外は、それぞれ実施例1および2と同様にして、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。これを連続して行ったところ、得られる成形品が徐々に突き出しによる白化や、亀裂が目立ち始め、5回目の成形で突き出しピンによりコアから抜くことができなくなった。
【0087】
【発明の効果】
本発明の樹脂成形品は、樹脂部材または部品として必要な諸機能および性能を保持するとともに、十分な耐熱性能を有するため、高温雰囲気に曝された場合でも、周囲の部材、部品等の機能または性能に悪影響を与えないとともに、部材として求められる機能を十分に果たすことができ、かつ廃棄された際に環境への悪影響の少なく、さらに、射出成形における離型性にも優れるものである。また、上記特性に加え、生産性が高い樹脂成形品である。
特に、十分な耐熱性を有するため夏季日中の自動車内のような高温環境に一時的に放置され、高温に加熱されたときにも変形せず、記録材料用部材としての性能を損なうことがなく、しかも自然界に放置されても最終的に微生物によって分解され、環境上の問題が生じるおそれがなく、射出成形における離型性にも優れ、さらには、その生産性にも優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0088】
また、写真感光材料において、各種規格のネガフィルムまたはリバーサルフィルムのスプール、本体容器、また、収納容器、蓋等、インスタントフィルムパック用ケース等の構成部材(例えば、容器本体、遮光シート、弾性板、可撓性遮光シート、遮光片、底面遮光シート等の構成部材または部品)、レンズ付きフィルムの筐体、内部機構部品等の各種の部材または部品を、本発明の樹脂成形品として構成すれば、夏場の自動車内のように高温となる環境に曝された場合でも変形せずに所期の機能を発揮することができ、また、樹脂として再利用が可能で、さらに廃棄された場合にも環境に悪影響を与えず、環境保全に有効である。
また、本発明の方法によれば、上記樹脂成形品を容易に高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で組み立てたインスタントフィルムパックの構成部材を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
1 インスタントフィルムパック
3 枠体
5 裏蓋
7 上面遮光シート
9 弾性板
13 可撓性遮光シート
15 フィルムユニット
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法に関し、特に、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、多くの工業製品を構成する部材、部品等には、求められる機能、性能、性状等に応じて、各種の樹脂素材を単独または複合してなる成形材料を所要の形状に成形した樹脂成形品が使用されている。例えば、写真記録材料、磁気記録材料、光記録材料等の記録材料を収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態保持等のための容器、筐体、蓋、巻き芯、また、カセットケース等の部材には、各種の樹脂成形品が使用されている。例えば、記録材料本体を収納する機能部材として、カセット、マガジン、レンズ付きフィルムケース等、あるいは単に記録材料を保護するための容器、オーディオカセットテープ、ビデオテープ等の収納ケース、CD、MD等の収納ケース等にも各種の樹脂素材からなる樹脂成形品が使用されている。
【0003】
これらの樹脂成形品は永久に保存されるものは少なく、その大部分は、その樹脂成形品が組み込まれた工業製品が役割を終えて廃棄されるとき、あるいは樹脂成形品自体がその機能を発揮した後には、廃棄処理されるか、再利用可能であれば、分別され再生処理される。例えば、前記記録材料を構成する各種の部材または部品等の樹脂成形品は、記録材料の使用時または使用中に分離されて廃棄され、また、廃棄される記録材料に付随して廃棄される。
しかし、従来の樹脂成形品は廃棄された際に自然環境では分解されにくく、環境を汚染する一つの要因となっている。
【0004】
そこで、近年、自然環境下で分解される素材を使用することが検討されている。このような自然環境下で分解される樹脂素材として生分解性樹脂が知られているが、従来のプラスチックに比べて耐熱性に劣り、夏場の自動車内のように高温となる条件では変形し、その機能を発揮することができるものは無かった。例えば、近年、トウモロコシ澱粉を原料とするポリ乳酸が安価に大量生産可能となった。このポリ乳酸は再生利用が可能で資源の有効利用を図ることができるとともに、廃棄されても自然環境下で分解され環境に悪影響を与えないため、地球環境に優しい生分解性樹脂として注目されている。
【0005】
結晶化していないポリ乳酸は、ガラス転移温度が58℃と低いため、60℃を超えると軟化が甚だしくなり、例えば、夏場の自動車内のように高温となる環境条件では変形するため、耐熱性が必要とされる用途には利用が困難である。そこで、耐熱性の要求される樹脂成形品にポリ乳酸等の生分解性樹脂を利用可能にする技術開発が望まれている。
【0006】
一方、樹脂成形品の射出成形方法としては、金型温度を低く設定し、溶融樹脂の固化を早め、成形サイクルを短くする方法が一般的に用いられる。しかし、この方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品は、耐熱性に劣り、アニール処理等による耐熱性の改善を行う必要があり、製造工程が多く生産性に劣るという問題がある。またアニール処理による外観不良等も生じる場合がある。
また、特定の樹脂組成物を混合、溶融し、85〜125℃に設定した成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形することを特徴とする、100〜160℃の耐熱温度を有する成形加工品の製造方法が提案されている(特許文献1参照。)。この方法では、金型の設定温度を上記特定の組成物によらず一定範囲に調整するため、該組成物の物性の変動等により、結晶化の程度がばらつく場合がある。
さらには、上記した方法においては、溶融樹脂組成物を金型に射出して成形した後、該成形品を取り出す際に金型に密着し金型から成形品が速やかに離型できず(離型不良)、生産性の低下、および、成形不良という問題も生じる場合がある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−120887号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、樹脂部材または部品として必要な諸機能および性能を保持するとともに、十分な耐熱性を有し夏季日中の自動車内のような高温環境に一時的に放置され、高温に加熱された後でも変形せず、各部材に求められる性能を損なうことがなく、また自然界に放置されても最終的に微生物によって分解され、環境上の問題が生じるおそれがなく、さらに、射出成形における離型性にも優れる生分解性のポリ乳酸樹脂成形品を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記特性に加え、生産性が高いポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するため、ポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法について鋭意検討したところ、溶融ポリ乳酸樹脂組成物を特定温度に調整された金型内で結晶化させると、ポリ乳酸の結晶化に必要なアニール処理をしなくても得られる樹脂成形品の耐熱性を向上させられ、生産性も向上できることを知見した。
また、本発明者らは、上記方法によってポリ乳酸樹脂組成物が金型に密着し樹脂成形品が離型しにくく、該樹脂成形品の白化や亀裂等による成形不良が起こることを知見し、この対策として、離型剤を用いることにより、これらの成形不良を解消できることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明は、これらの知見を基になされたものであり、以下の(1)〜(6)を提供する。
(1)金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0011】
(2)金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0012】
(3)金型に離型剤を塗布した後、
前記金型の金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型にポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程とを具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0013】
(4)前記離型剤が、離型剤を含む塗布液である上記(2)または(3)に記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0014】
(5)あらかじめ、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定する工程をさらに具備する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
【0015】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品。
【0016】
なお、本発明において、金型の金型温度とは、金型キャビティ表面の温度をいう。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリ乳酸樹脂成形品(以下、「本発明の樹脂成形品」という。)およびその製造方法(以下、「本発明の方法」という。)について詳細に説明する。
本発明の方法は、まず、金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程を行う。
該工程により、後述するポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物(以下、「ポリ乳酸樹脂組成物等」という。)を、金型内で結晶化させることができる。したがって、アニール処理等が不要となり生産性に優れ、またアニール処理を行わなくても耐熱性に優れる成形品が得られる。
なお、上記金型温度の調整は、後述する成形する工程においても同様に行う。
【0018】
上記工程における金型温度の設定範囲が上記結晶化温度のピーク値±30℃の範囲であれば、ポリ乳酸樹脂組成物等の金型内での結晶化を行うことができるうえ、該結晶化を短時間で終了させることができる。また、該金型温度の管理・制御を容易に行うことができる。さらに、結晶化温度のピーク値を個々の後述するポリ乳酸樹脂組成物等について測定し該組成物の物性に応じて金型温度を設定するため、得られる成形品の結晶化の程度を均一にできる。
上記結晶化をより確実に行え耐熱性により優れる点で、該温度範囲は、上記結晶化温度のピーク値±20℃の範囲であるのが好ましい。
【0019】
金型温度を上記範囲に管理・制御する手段としては、特に限定されず、例えば、射出成形用の金型の周りを加熱ジャケット等の加熱手段で覆い、該金型には熱伝対等の温度計を設けて管理・調整する手段、金型内に所定の温度に加熱した潤滑油(例えば、後述する離型剤を含む塗布液等)を塗布し、該金型には熱伝対等の温度計を設けて管理・調整する手段、またはこれらを併用する手段等が挙げられる。金型を加熱する手段として、上記手段の他に、金型内に導電層を設けて電熱加熱する手段、高周波誘導加熱する手段等も選択できる。
【0020】
本発明の方法においては、上記工程の前に、後述するポリ乳酸樹脂組成物を硬化させ、あらかじめ示差走査熱量計(DSC)で降温測定し、該組成物の結晶化温度のピーク値を測定するのが好ましい。あらかじめ結晶化温度のピーク値を測定することにより、上記温度範囲の設定を正確にできる。
なお、該測定は、後述するポリ乳酸樹脂組成物等を射出成形する毎に行ってもよく、同一の組成および純度等の物性を有する組成物等であれば、最初の射出成形時に行い、2回目以降は行わなくてもよい。
【0021】
示差走査熱量計(DSC)による降温結晶化ピーク値の測定は、試料(ポリ乳酸樹脂組成物等)20mgをDSCの測定セルにセットし、10℃/分の降温速度で200℃から室温まで冷却し、140℃〜80℃の間で観測された結晶化による発熱ピークのピーク値をその組成物等の結晶化温度のピーク値とする。
結晶化温度のピーク値が予めわかっている組成物を成形する場合は予め測定する必要はない。
【0022】
上記降温結晶化ピーク値の測定に用いられるポリ乳酸樹脂組成物は、射出されるポリ乳酸樹脂組成物そのものであってもよく、射出されるポリ乳酸樹脂組成物と同一の組成および純度等の物性を有する組成物であってもよく、またポリ乳酸樹脂単独であってもよい。DSC測定されるポリ乳酸樹脂組成物には後述する離型剤を含有しないのが好ましい。
【0023】
本発明の方法は、次に、1)上記金型温度に調整された金型に、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程、2)上記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程、または、3)上記金型温度の調整前または調整中に、金型に離型剤を塗布した後、上記金型温度に調整された金型に、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程のいずれか、またはこれらの工程を任意に組合せて行う。
【0024】
上記金型温度を上記範囲に管理・制御する工程および後述する成形する工程により、耐熱性および生産性に優れる成形品が得られるが、これらの工程のみでは、ポリ乳酸樹脂組成物等の結晶化に伴う収縮等により、樹脂成形品が金型に強く密着し離型性が悪く、樹脂成形品の白化や亀裂等の成形不良が生じてしまう場合がある。これを解決するために本発明では、上記離型剤をあらかじめ金型に塗布し、または、該ポリ乳酸樹脂組成物に含有させて優れた耐熱性を保持しながら、離型性を改良することができ、上記優れた生産性を向上させることができる。
【0025】
上記1)の工程は、上記金型温度に調整された金型に、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を該金型に射出する工程である。
該金型に射出するポリ乳酸樹脂組成物に離型剤をあらかじめ含有させることにより、上記効果を実現できる。
なお、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物については後述する。
【0026】
上記2)の工程は、上記金型温度に調整された金型に、離型剤(離型剤を含む塗布液)を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を該金型に射出する工程である。
金型にあらかじめ離型剤を塗布してポリ乳酸樹脂組成物を射出することにより、上記効果を実現できる。
【0027】
上記2)の工程においては、離型剤を金型にそのまま(固体のまま)塗布してもよいが、金型への塗布均一性に優れる点で、離型剤を含む塗布液(離型剤を含む溶液)として塗布するのが好ましい。
離型剤としては、後述する、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物で例示した離型剤を好適に用いることができ、これらの離型剤は1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤を含む塗布液の溶媒としては、特に限定されず、離型剤を溶解しうる溶媒、例えば、水等の無機溶媒、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒等の有機溶媒等を特に制限されずに用いることができ、これらの混合溶媒を用いることもできる。
【0028】
該離型剤を含む塗布液の離型剤濃度は、特に制限されず、樹脂成形品の品質および塗布量と樹脂成形品の離型性の改善効果とを比較考量して任意に設定できる。
好ましくは、塗布量が少なく離型性の改善効果に優れる点で、0.1〜10質量%であり、より好ましくは、1〜7質量%である。
【0029】
該離型剤を含む塗布液の塗布手段は、特に限定されず通常行われる手段・方法を選択でき、例えば、スプレー等により塗布する手段、布等により金型内に塗布する手段等が挙げられる。
【0030】
上記3)の工程は、上記金型温度の調整前または調整中に、金型に離型剤(離型剤を含む塗布液)を塗布した後、上記金型温度に調整された金型に、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程である。
上記2)の工程との違いは、上記金型温度の調整前または調整中に離型剤を塗布するか、該調整後に離型剤を塗布するかの点であり、それ以外は、基本的に上記2)の工程と同様であり、該上記2)の工程と同様の効果を有する。
【0031】
本発明の方法においては、上記1)〜3)の工程のいずれか1種を行ってもよく、また、2種以上を任意に組合せて行ってもよい。
作業性、生産性等を考慮するといずれか1種を行うのが好ましく、離型性の改善効果がより必要となる場合は、2種以上を任意に組合せるのが好ましい。
【0032】
上記1)〜3)の工程において、ポリ乳酸樹脂組成物等の金型への射出手段は、特に限定されず、通常行われる手段を任意に選択できる。該手段としては、例えば、溶融ポリ乳酸樹脂組成物等を射出ノズル等から射出する手段が挙げられる。
【0033】
本発明の方法は、次に、上記金型に射出した上記ポリ乳酸樹脂組成物等を該金型内で結晶化させて成形する工程を行う。
該特定の温度範囲に調整された金型内で上記ポリ乳酸樹脂組成物等を結晶化させることにより、生産性および耐熱性に優れる樹脂成形品が得られる。
また、上記射出する工程により、離型性が改善されているため、射出成形後の樹脂成形品の離型性に優れ成形不良を改善することができる。
【0034】
該工程は、特定の金型温度で成形するため、ポリ乳酸樹脂組成物等の成形と同時にまたは連続してポリ乳酸の結晶化も行うことができる。すなわち、ポリ乳酸の結晶化による樹脂成形品の優れた耐熱性を、アニール処理しなくても獲得することができる。したがって、耐熱性および生産性に優れ、アニール処理による欠点、例えば、繊維や充填剤の成形品表面への浮き上がりによる外観不良等を抑えることができる。
【0035】
成形の方法は特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、圧空成形等のいずれの方法を任意に選択できるが、射出成形が好ましい。
【0036】
本発明の方法は、上記した工程を具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法であるが、上記工程およびその条件等以外は、通常行われる、溶融・計量工程、加圧流動・賦型工程、固化工程および取出し工程等を任意に選択して行うことができる。
本発明の製造方法においては、ポリ乳酸樹脂組成物等の結晶化が十分に進行し耐熱性に優れるためアニール処理は行わなくてもよいが、より結晶化度を向上させるためにアニール処理を行ってもよい。この場合のアニール処理は、通常行われる条件・方法を任意に選択できる。
【0037】
本発明の製造方法は、金型温度を特定温度範囲に調整し該金型内でポリ乳酸樹脂組成物を結晶化すること、および、離型剤を用いることを特徴とする。
本発明者らは、溶融ポリ乳酸樹脂組成物を特定温度に調整された金型内で結晶化させることにより、ポリ乳酸の結晶化に必要なアニール処理をしなくても得られる樹脂成形品の耐熱性を向上させられ、生産性の向上ができることを知見したのである。しかし、該工程を行って製造したのでは、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化による収縮等により樹脂成形品が金型に強く密着し離型性が悪く、樹脂成形品の白化や亀裂等の成形不良が生じてしまう場合があることを発見した。そして、これを解決するために鋭意検討したことろ、離型剤をあらかじめ金型に塗布し、または、該ポリ乳酸樹脂組成物に含有させることにより、上記特定温度の金型内で結晶化することによる優れた生産性および耐熱性を損うことなく、離型性を改善でき成形不良を解消できることを知見したのである。
すなわち、本発明の製造方法により、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品を得ることができるのである。そして、これらにより、生産性をも改善でき、さらに樹脂成形品の外観にも優れる。
【0038】
次に、本発明の製造方法に用いるポリ乳酸樹脂組成物等について説明する。
本発明の樹脂成形品は、ポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物を用いて上記した製造方法により得られる樹脂成形品である。
【0039】
すなわち、本発明の樹脂成形品は、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に金型温度を調整し、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を上記金型温度に調整された金型に射出し、該金型内で(該ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0040】
また、本発明の樹脂成形品は、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に金型温度を調整し、上記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出し、該金型内で(該ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0041】
さらに、本発明の樹脂成形品は、金型に離型剤を塗布した後、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に該金型の金型温度を調整し、上記金型温度に調整された金型にポリ乳酸樹脂組成物を射出し、該金型内で(上記ポリ乳酸樹脂組成物を)結晶化させ成形されてなるポリ乳酸樹脂成形品である。
【0042】
上記金型温度の設定、離型剤の塗布、射出および結晶化等については、上記本発明の製造方法で述べたとおりである。
【0043】
本発明の製造方法および本発明の樹脂成形品に用いられるポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物について説明する。
該樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂組成物または離型剤を0.01〜2質量%の含有率で含有させたポリ乳酸樹脂組成物であり、ポリ乳酸樹脂組成物を必須成分とする。
ここで、ポリ乳酸樹脂組成物とは、樹脂成分としてポリ乳酸を主成分とするのが好ましく、例えば、ポリ乳酸以外に生分解性樹脂を含む場合は、ポリ乳酸を含めた生分解性樹脂全質量に対してポリ乳酸が50質量%以上含まれるものが好ましい。
本発明の製造方法では、樹脂成分としてポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸樹脂組成物を用いるため、本発明の製造方法により得られる樹脂成形品は、生分解性を有する。
【0044】
ポリ乳酸樹脂組成物等に用いるポリ乳酸は、L−乳酸のホモポリマー、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、またはL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、あるいはこれらの混合物である。
ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
一般に、ポリ乳酸には、D体、L体等の光学異性体が存在するが、L体のみが生分解が可能である。ポリ乳酸は工業的には天然物であるデンプンを乳酸発酵させて乳酸を得、これを重合させて作られ、この過程で異性化反応が生じる。したがって、通常、ポリ乳酸には不純物として少量のD体が含まれている。D体の含量が高い、すなわち、L体の純度が低いと、ポリ乳酸の結晶化が阻害され耐熱性の改善効果が十分に発揮されない場合があるため、本発明で用いられるポリ乳酸はL体純度が88%以上であるものが好ましく、さらに95%以上であるものが好ましく、特に97%以上であるものが好ましい。
このポリ乳酸の具体例として、三井化学(株)から商品名:LACEAで市販されているもの等が挙げられる。
【0045】
なお、本発明において、ポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)で昇温測定による結晶化温度(溶融に伴う吸熱ピーク)が存在し、かつ、示差走査熱量計(DSC)で降温測定による結晶化温度(結晶化に伴う発熱ピーク)が存在するものを用いる。
【0046】
一般に結晶性のポリマーは分子量が低いほど結晶化し易い性質を有するが、結晶化に伴い機械的強度も低下する。質量平均分子量が50000より低いポリ乳酸を用いると、得られる樹脂成形品の機械的強度が低くなり、ある程度の強度を要する用途には適用できない。また、ポリ乳酸は、溶融状態で水分に接すると、容易に加水分解して分子量の低下を招き易い。そこで、成形材料の含水率を50ppm程度以下にまで十分に乾燥してから成形機に供給すれば、分子量の低下が少ないが、含水率が50ppm程度の乾燥度を得るためには大規模な乾燥設備が必要で、また、乾燥した成形材料の管理も煩雑となる。
そこで、本発明において、ポリ乳酸を用いて射出成形により樹脂成形品を製造する場合には、用いるポリ乳酸の質量平均分子量およびL体純度に対応して成形材料の含水率を、特定の範囲に調整することが好ましい。これにより、特にアニール処理を行わずに、本発明の目的とする樹脂成形品を得ることができる。 成形材料の含水率は、汎用の真空乾燥機等で調整することで、成形工程での分子量低下をある程度抑えることができる。
質量平均分子量50000以上120000未満のポリ乳酸を用い、成形直前の成形材料の含水率を200ppm未満に調整して射出成形して得られる樹脂成形品はアニール処理により容易に結晶化が進行し、かつ実用上十分な機械的強度を有するものが得られる。重量平均分子量50000以上120000未満のポリ乳酸を含み、含水率が200ppm以上の成形材料は、そのまま加熱成形した場合には、成形工程で加水分解し、分子量が低下する。 このため、得られる成形品の強度が低くなり、ある程度の強度を要する用途には適用できない。
【0047】
また、重量平均分子量が大きいポリ乳酸を用いる場合には、成形材料の含水率を、汎用の熱風乾燥機や棚式の真空乾燥機で容易に到達可能な1500ppm以下に調整し、加熱成形による、ある程度の分子量の低下を見込んでおき、あるいは結晶核剤を配合するとともに、含水率を調整して加熱成形することによって、所望の樹脂成形品を得ることができる。 例えば、重量平均分子量120000以上200000未満のポリ乳酸に結晶核剤を配合した成形材料を用い、成形直前の成形材料の含水率を200〜1500ppm、あるいは必要ならば含水率を200ppm未満に調整して射出成形して所望の樹脂成形品を得ることができる。 質量平均分子量50000以上120000未満およびL体純度88%以上のポリ乳酸、補強繊維および結晶核剤を含む成形材料を射出成形する場合には、含水率200ppm未満に調整すると、好ましい。 また、質量平均分子量120000以上200000未満およびL体純度88%以上のポリ乳酸、補強繊維および結晶核剤を含む成形材料を射出成形する場合には、含水率200〜1500ppmに調整すると、好ましい。さらに、 質量平均分子量120000以上200000未満およびL体純度95%以上のポリ乳酸および補強繊維を含む成形材料を成形する場合には、 含水率200〜1500ppmに調整した後、射出成形し、 さらにアニール処理により結晶化させることが好ましい。これにより、得られる樹脂成形品の結晶化は容易に結晶化が進行し、かつ実用上十分な機械的強度を有するものが得られる。成形材料の含水率が1500ppmを超えると、成形工程でポリ乳酸の加水分解が激しく、ポリ乳酸が所期の分子量よりも低分子化され、得られる樹脂成形品の物性が低下し、所期の耐熱性、機械的強度等を有する樹脂成形品が得られない恐れがある。
【0048】
本発明の樹脂組成物には、得られる成形品の耐熱性、剛性の向上を目的として補強繊維、シリカ等の充填剤を含有させる。
該補強繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、窒化ケイ素繊維等の無機系繊維、また、アラミド繊維等の有機系繊維、ケナフや竹の天然植物繊維等が挙げられ、これらは1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、入手が容易である点で、ガラス繊維または炭素繊維が好ましい。
【0049】
また、この補強繊維は、繊維長が5mm以下であるものが好ましく、アスペクト比が1500以下であるものが好ましく、断面積が2.7×10−4mm2 以下であるものがより好ましい。
【0050】
また、補強繊維は、ポリ乳酸との相溶性を向上させるため、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、脂肪酸系カップリング剤、油脂、ワックス、界面活性剤等によって表面処理が施されていると、さらに好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物における充填剤の含量は、ポリ乳酸/充填剤の質量比で95/5〜50/50の割合で配合するのが、本発明の樹脂成形品の耐熱性、剛性の向上に有効である点で好ましく、該効果がより有効である点で92/8〜65/35質量部の割合が特に好ましい。上記質量比で95/5未満では添加による補強効果が小さくなる恐れがあり、同50/50を超えると得られる成形品が脆くなる恐れがある。
また、成形後、アニール処理を行う場合には、収縮や自重による変形を防止するために有効であり、充填剤の含量は、上記ポリ乳酸/充填剤の質量比で95/5〜70/30の割合が好ましく、特に、90/10〜80/20の割合が好ましい。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、上記製造方法に応じて、離型剤を含有させて、離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物とする。
金型内でポリ乳酸樹脂組成物を結晶化させた後冷却して成形させると、該組成物の結晶化が進行すると共に該組成物自体が収縮し成形品が該金型に強く密着するため、該金型から離型しにくく、成形品の突出し工程において、成形品の白化や亀裂が生じ、生産性の低下等を生じる。該問題を解決するために、および成形サイクルの短縮、加工工程搬送時の成形品の削れ防止のために、本発明では、離型剤を用い、その1態様として上記ポリ乳酸樹脂組成物に含有させるのである。
【0053】
本発明で用いられる離型剤は、特に限定されないが、例えば、シリコン系滑剤、オレイン酸アミド系滑剤、エルカ酸アミド系滑剤、ステアリン酸アミド系滑剤、ビス脂肪酸アミド系滑剤、アルキルアミン系滑剤、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、アルコール系滑剤、金属石けん等が挙げられる。
【0054】
より具体的には、シリコン系滑剤として、例えば、ジメチルポリシロキサン、カルボキシル変性シリコーンオイル(信越シリコーン(株)製、東レシリコーン(株)製等)等が挙げられる。オレイン酸アミド系滑剤として、例えば、アーモスリップCP(ライオン・アクゾ(株)製)、ニュートロン(日本精化(株)製)、ニュートロンE−18(日本精化(株)製)、アマイドO(日東化学(株)製)、アルフローE−10(日本油脂(株)製)、ダイヤミッドO−200(日本化成(株)製)等が挙げられる。
【0055】
エルカ酸アミド系滑剤として、例えば、アルフローP−10(日本化成(株)製)、ニュートロンS(日本精化(株)製)等が挙げられる。ステアリン酸アミド系滑剤として、例えば、アルフローS−10(日本油脂(株)製)、ニュートロン2(日本精化(株)製)、ダイヤミッド200(日本化成)等が挙げられる。ビス脂肪酸アミド系滑剤として、例えば、ビスアマイド(日本化成(株)製)、ダイヤミッド200ビス(日本化成(株)製)、アーモワックスEBS(ライオン・アクゾ(株)製)等が挙げられる。
【0056】
アルキルアミン系滑剤としては、例えば、エレクトロストリッパーTS−2(花王石鹸(株)製)等が挙げられる。炭化水素系滑剤として、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、塩素化炭化水素、フロオロカーボン等が挙げられる。脂肪酸系滑剤として、例えば、高級脂肪酸(C12以上が好ましい)、オキシ脂肪酸等が挙げられる。エステル系滑剤として、例えば、脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル等が挙げられる。
【0057】
アルコール系滑剤として、例えば、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等が挙げられる。金属石けんとして、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、リシレノール酸、ナフテン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸と、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Al、Sn、Pb等の金属との化合物等が挙げられる。
【0058】
これらの離型剤の中でも、オレイン酸アミド系滑剤が、廉価であり好ましい。
これらの離型剤は、1種でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記離型剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の全成分の合計質量に対して、0.01〜2質量%であるのが、上記離型剤を配合することによる効果が得られる点で好ましく、0.1〜1質量%であるのが、上記効果により優れる点で、より好ましい。
【0060】
本発明においては、上記ポリ乳酸樹脂組成物(離型剤の配合の有無にかかわらず)に、さらに、結晶核剤を配合してもよい。結晶核剤を配合すると得られる樹脂成形品の結晶化により実用上十分な機械的強度を得ることができる。 特に、重量平均分子量が50,000〜200,000でありL体純度が88%以上であるポリ乳酸と、充填剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物の含水率を1500ppm以下に調整した後、射出成形して樹脂成形品を製造する場合に、該成形材料に結晶核剤を配合すると、有効である。
【0061】
用いられる結晶核剤は、無機系核剤と有機系核剤に大別される。
無機系核剤としては、例えば、タルク、カオリン、カオリナイト、カオリンクレー、硫酸バリウム、乳酸カルシウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
有機系核剤としては、例えば、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール系核剤;ヒドロキシ−ジ(t−Bu安息香酸)アルミニウム;リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、メチレンビス(2, 4−ジ−t−Bu−フェニル)ホスフェート塩等のリン系核剤;ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩;ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩;パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩;オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩;イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩;ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、べヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、べヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩;モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等の脂肪族ポリエステル系核剤;脂肪族アルコール系核剤(脂肪族モノアルコール類、脂肪族多価アルコール類、環状アルコール類)等が挙げられる。
【0063】
脂肪族アルコール系核剤としては、例えば、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類;1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類;シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類が挙げられる。
【0064】
また、例えば、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、べヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類;モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類;ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類;モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類;ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類;トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等の脂肪族カルボン酸エステル系核剤等も挙げられる。
【0065】
これらの結晶核剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、廉価であることから、タルク、カオリン、硫酸バリウム等の無機系核剤が好ましい。
【0066】
本発明において、成形材料に結晶核剤を配合する用いる場合には、ポリ乳酸/結晶核剤の質量割合は、成形品の結晶化により実用上十分な機械的強度が得られる点で、99.99/0.01〜90/10の割合が好ましく、特に99.9/0.1〜95/5の割合が好ましい。結晶核剤の配合割合が99.99/0.01未満であると、成形品の結晶化が不十分であり、得られる成形品は実用上十分な耐熱性を得ることができない場合がある。また、90/10を超えると、成形品の機械的強度の低下、成形材料のコストアップの場合がある。
【0067】
また、本発明で用いられるポリ乳酸樹脂組成物等には、さらに、カーボンブラック等の遮光性充填剤、シリコンオイル等の摺動性改良剤、顔料等の着色剤、酸化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤等を必要に応じて配合することもできる。
【0068】
本発明の樹脂成形品は、上記ポリ乳酸樹脂組成物等を用いて、上述した製造方法により製造される。
該製造される成形品は、射出成形における離型性が改善された、優れた耐熱性を有する生分解性のポリ乳酸樹脂成形品であり、またその生産性をも改善できる。
さらに、得られる樹脂成形品は、上記充填剤が成形品の表面にブリードアウトせず光沢不良を起さない。したがって、樹脂成形品の外観にも優れる。
【0069】
このようにして得られる本発明の樹脂成形品の結晶化の程度は、耐熱性を有する樹脂成形品が得られる点で、結晶融解熱量20mJ/mg以上を示すものが好ましく、さらに好ましくは30mJ/mg以上、結晶生成量が多くなると耐熱性がさらに向上するため、特に、35mJ/mg以上を示すものが好ましい。本発明において、樹脂成形品の結晶融解熱量は、示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の降温速度で測定される値である。
【0070】
本発明において、樹脂成形品は、さらに必要な場合は、塗装、めっき等の処理を行うことができる。
【0071】
本発明において、樹脂成形品とは、機能性材料を構成する構造部材、または、収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態支持等のために用いられる容器、蓋およびそれに付随する付属部品、あるいは、上記機能性材料を装填して機能を発揮させるために成形された成形品をいう。機能性材料としては、例えば、各種の記録材料等が挙げられる。
該記録材料としては、具体的には、例えば、ネガフィルム、リバーサルフィルム、印画紙、モノシートまたはピールアパート式のインスタント写真フィルム等の写真感光材料;オーディオカセットテープ、ビデオカセットテープ、フロッピーディスク、コンピュータデータ記録用磁気テープ等の磁気記録材料;CD、CD−R、CD−RW、DVD、DVD−R、DVD−RW、MD等の光記録材料等が挙げられる。
【0072】
この樹脂成形品の具体例として、写真感光材料、磁気記録材料および光記録材料等の各種記録材料に用いられる記録材料用樹脂部材とは、上記記録材料を収納、包装、被覆、保護、搬送、保管、形態支持等のために用いられる容器、蓋およびそれに付随する付属部品、あるいは、上記記録材料を装填して機能を発揮する各種部材をいう。
より具体的には、写真感光材料としては、例えば、135、110、120、220等の各種規格のネガまたはリバーサルフィルムの容器、本体、蓋またはスプール等、あるいは、インスタントフィルムのフィルムパック用ケース等の構成部材(例えば、容器本体、遮光シート、弾性板、可撓性遮光シート、遮光片、底面遮光シート等の構成部材)、レンズ付きフィルムの筐体、機構部品等の各種の部材が挙げられる。また、磁気記録材料としては、例えば、オーディオカセットテープ、ビデオカセットテープ、コンピュータデータ記録用磁気テープ、フロッピーディスク等を収納するカセット筐体およびその構成部品やこれらを収納するケースが挙げられる。さらに光記録材料としては、例えば、MDのカセットやCD、CD−R、CD−RW、DVD、DVD−R、DVD−RW、MD等を収納するケースが挙げられる。
【0073】
【実施例】
以下、本発明の樹脂成形品およびその製造方法について具体例を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0074】
<実施例1>
ポリ乳酸(島津製作所製、Lacty9020)のペレットに、カーボンブラック(三菱化学(株)製、#950)0.1質量%と、カーボン繊維(東邦レーヨン(株)製、ベスファイトHTA−C6−S)15質量%とを混合し、得られた混合物を真空乾燥機(120℃、600Pa)で6時間乾燥し、2軸混練機を用いて230℃で混練してストランド状に押し出し、水冷してペレット化した。
【0075】
得られた原料ペレットを80℃の熱風乾燥機で4時間乾燥後、試料20mgをDSCの測定セルにセットし、DSC(セイコーインスツルメント(株)製、SSC/5200)による降温結晶化ピークを、10℃/分の降温速度で200℃から室温まで冷却し測定した。結晶化温度のピーク値は、94.6℃であった。
【0076】
上記樹脂組成物を射出成形機に供給し、金型温度を94.6℃±20℃に制御して、離型剤スプレー(NUCシリコーン、日本工材(株)製)を金型のキャビティ部分(金型のポリ乳酸樹脂組成物と接触する部分)に吹き付け、不織布(ベンコット、旭化成工業(株)製)で飛沫が残らないように金型表面を拭いた。
その後、離型剤を塗布した金型に上記樹脂組成物を射出し、該金型内に充填された該樹脂組成物を金型内で5分経時する条件で、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。この離型剤の塗布および射出成形を上記樹脂組成物を用いて10回行った。
【0077】
上記射出成形を10回行ったうち、得られた成形品(作製した枠体と裏蓋)のすべてにおいて、樹脂成形品の取出しが容易に行え一連の射出成形が速やかに進行し離型性に優れた。白化や亀裂は確認されず成形不良は認められなかった。
また、該成形品は表面が非常に滑らかで均質であり、上記組成物の添加剤等が表面にブリードアウトすることもなく光沢を有し、外観に優れるものであった。
【0078】
これらの枠体の1つから採取した試料20mgをDSCの測定セルにセットし、 10℃/分で室温から200℃まで昇温し、DSC曲線を測定した。結晶化に伴う吸熱ピークは無く、174.5℃にピークを持つ38.3mJ/mgの融解熱が観測された。
【0079】
得られた枠体3と裏蓋5のうち、任意の5つに、従来から使用されている非生分解性の部材である図1に示す上面遮光シート7、弾性板9、可撓性遮光シート13とフィルムユニット15を組み込んでインスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立てた。このインスタントフィルムパックをインスタントカメラ(富士写真フイルム(株)製、チェキ)に装填し、70℃の恒温槽に4時間放置した後、室温まで冷却し、インスタントカメラによる撮影を試みたが、すべてのサンプルにおいて特に異常は見られなかった。このことから、耐熱性に優れることが分かった。
【0080】
さらに、上記の射出成形方法(本発明の製造方法)では、上記したように、アニール処理を行わなくても耐熱性に優れる樹脂成形品が得られるため、生産性が向上した。
【0081】
<実施例2>
ポリ乳酸(島津製作所製、Lacty9020)のペレットに、カーボンブラック(三菱化学(株)製、#950)0.1質量%と、カーボン繊維(東邦レーヨン(株)製、ベスファイトHTA−C6−S)15質量%と、離型剤(オレイン酸アミド、Newtron、日本精化(株)製)0.1質量%とを混合し、得られた混合物を真空乾燥機(120℃、600Pa)で6時間乾燥し、2軸混練機を用いて230℃で混練してストランド状に押し出し、水冷してペレット化した。
なお、結晶化温度のピーク値は、実施例1で測定した94.6℃とした。
【0082】
上記樹脂組成物を射出成形機に供給し、金型温度を94.6℃±20℃に制御して、金型温度を調整した金型に上記樹脂組成物を射出し、該金型内に充填された該樹脂組成物を金型内で5分経時する条件で、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。この離型剤の塗布および射出成形を上記樹脂組成物を用いて10回行った。
【0083】
実施例1と同様に、上記射出成形を10回行ったうち、得られた樹脂成形品のすべてにおいて、離型性に優れ、成形不良は認められず、また、外観に優れるものであった。
得られた枠体の1つから採取した試料は、174.5℃にピークを持つ38.3mJ/mgの融解熱が観測された。
得られた枠体3と裏蓋5のうち、任意の5つを用いて、実施例1と同様にして、インスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立て、インスタントカメラによる撮影を試みたが、すべてのサンプルにおいて特に異常は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
さらに、アニール処理を行わなくても耐熱性に優れる樹脂成形品が得られるため、生産性が向上した。
【0084】
<比較例1>
金型温度を30℃に調整した以外は、実施例2と同様にしてインスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。これを10回行った。
これらの枠体の1つから採取した試料は結晶溶融に伴うピークは観察されず、実施例1と同様にして任意の5つの枠体と裏蓋を用いて、インスタントフィルムパック(INSTAX mini)を組み立て、インスタントカメラによる撮影を試みたところ、すべてのサンプルにおいて耐熱性に劣った。
【0085】
上記枠体3と裏蓋5を120℃に加熱した熱風乾燥機で5分間アニール処理した。得られた枠体3と裏蓋5は、その耐熱性は改善されたが、上記ポリ乳酸樹脂組成物の添加剤がブリードアウトしたものが認められ、外観に劣る場合があった。
【0086】
<比較例2>
実施例1の離型剤の塗布液および実施例2の離型剤を用いなかった以外は、それぞれ実施例1および2と同様にして、インスタントフィルムパックの枠体と裏蓋(図1に示すインスタントフィルムパック1の枠体3と裏蓋5)を作製した。これを連続して行ったところ、得られる成形品が徐々に突き出しによる白化や、亀裂が目立ち始め、5回目の成形で突き出しピンによりコアから抜くことができなくなった。
【0087】
【発明の効果】
本発明の樹脂成形品は、樹脂部材または部品として必要な諸機能および性能を保持するとともに、十分な耐熱性能を有するため、高温雰囲気に曝された場合でも、周囲の部材、部品等の機能または性能に悪影響を与えないとともに、部材として求められる機能を十分に果たすことができ、かつ廃棄された際に環境への悪影響の少なく、さらに、射出成形における離型性にも優れるものである。また、上記特性に加え、生産性が高い樹脂成形品である。
特に、十分な耐熱性を有するため夏季日中の自動車内のような高温環境に一時的に放置され、高温に加熱されたときにも変形せず、記録材料用部材としての性能を損なうことがなく、しかも自然界に放置されても最終的に微生物によって分解され、環境上の問題が生じるおそれがなく、射出成形における離型性にも優れ、さらには、その生産性にも優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0088】
また、写真感光材料において、各種規格のネガフィルムまたはリバーサルフィルムのスプール、本体容器、また、収納容器、蓋等、インスタントフィルムパック用ケース等の構成部材(例えば、容器本体、遮光シート、弾性板、可撓性遮光シート、遮光片、底面遮光シート等の構成部材または部品)、レンズ付きフィルムの筐体、内部機構部品等の各種の部材または部品を、本発明の樹脂成形品として構成すれば、夏場の自動車内のように高温となる環境に曝された場合でも変形せずに所期の機能を発揮することができ、また、樹脂として再利用が可能で、さらに廃棄された場合にも環境に悪影響を与えず、環境保全に有効である。
また、本発明の方法によれば、上記樹脂成形品を容易に高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で組み立てたインスタントフィルムパックの構成部材を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
1 インスタントフィルムパック
3 枠体
5 裏蓋
7 上面遮光シート
9 弾性板
13 可撓性遮光シート
15 フィルムユニット
Claims (5)
- 金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に、0.01〜2質量%の含有率で離型剤を含有させたポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程と
を具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。 - 金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型に離型剤を塗布した後、ポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程と
を具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。 - 金型に離型剤を塗布した後、
前記金型の金型温度を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定したポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値±30℃の範囲に調整する工程と、
前記金型温度に調整された金型にポリ乳酸樹脂組成物を射出する工程と、
前記金型に射出した前記ポリ乳酸樹脂組成物を該金型内で結晶化させて成形する工程と
を具備する、ポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。 - あらかじめ、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度のピーク値を、示差走査熱量計(DSC)で降温測定する工程をさらに具備する請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂成形品の製造方法により得られるポリ乳酸樹脂成形品。
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2003
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Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20060801 |