JP2004332062A - 球状黒鉛鋳鉄成形体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体を提供する。
【解決手段】球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体である。最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満である。
【選択図】 なし
【解決手段】球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体である。最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、球状黒鉛鋳鉄成形体及びその製造方法に係り、更に詳しくは、破壊靭性等の物理的特性に優れ、加工精度が良好である等の特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体、及びこの球状黒鉛鋳鉄の低コスト製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】鋳鉄の中でも、球状黒鉛鋳鉄は特に機械的性質に優れ、比較的安価であることから様々な用途に採用されており、例えば自動車部品、特に、ロアーアーム、アッパーアーム、ナックルハウジング、サスペンション等の足回り部品に好適に用いられている。球状黒鉛鋳鉄は、ダクタイル鋳鉄とも呼ばれ、3%程度の炭素及び2%程度の珪素を含有する溶融状態の鉄にMgなどの元素を添加して、凝固時に生成する黒鉛の形を球形にしたものであって、球状の黒鉛の断面である円形の組織とその外周部のフェライト相、及びそれを取り囲むパーライト組織から構成されている。黒鉛の形状を球状化することにより、靭性と延性が向上するため、かなりの強度を必要とする部品にも使用されている。
【0003】また、球状黒鉛鋳鉄は鋼に比べて融点が低く、溶解設備なども含めて小規模な設備を使用し、簡単な製造工程で目的とする形状の成形体を生産することができる。
【0004】ここで、特に高度な寸法精度が要求される最終的な製品形状の部品等を、球状黒鉛鋳鉄を用いて製造するには、鋳放し状態の球状黒鉛鋳鉄について切削加工や、冷間での塑性加工(例えば、冷間鍛造加工、冷間転造加工等)等の二次的加工を施す必要がある(例えば、特許文献1参照)。これは、加工精度が良好ではないといった鋳造加工の特徴に基づくものである。
【0005】しかしながら、切削加工により球状黒鉛鋳鉄を最終的な製品形状となるように加工するためには、得ようとする最終製品(最終成形体)の形状が複雑である場合には、複数回にわたって切削を施す必要性があり、コスト面での問題がある。更に、切削加工面は、予備成形体表面の黒皮が除去されるために耐蝕性に問題がある。
【0006】また、冷間での塑性加工により球状黒鉛鋳鉄を最終成形体に加工すると、塑性加工率が高い場合にはひび割れ等の不具合を生じ易く、更に、得ようとする最終成形体の形状が複雑である場合には、複数回にわたって塑性加工を施す必要がある。そのため、工程が煩雑化してしまい、加工に用いる型の数も多くなることからコスト面での問題を生ずる場合もある。
【0007】一方、塑性加工を施した球状黒鉛鋳鉄は、その塑性加工を施した部分(塑性加工部)の破壊靭性等が低下してしまい、このような塑性加工部を有する成形体は、応力が負荷される状況下において用いられる部品等としては適当ではないといった問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−310123号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体、及びこのような特徴を備えた球状黒鉛鋳鉄成形体の効率的かつ低コストな製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明によれば、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であって、前記最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体が提供される。
【0011】本発明においては、最終成形体の表面が、黒皮により被覆されてなることが好ましく、最終成形体の全表面積に対する黒皮の被覆率が、85%以上であることが好ましい。
【0012】本発明によれば、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、得られた前記予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得ることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法が提供される。
【0013】本発明においては、予備成形体を、下記で定義される塑性加工率(10%以下)で最終形状に塑性加工することが好ましい。
【0014】塑性加工率:試験片としての球状黒鉛鋳鉄からなる材料に圧縮荷重を負荷して塑性加工し、前記材料の長さ(初期長さ(D1))が加工後長さ(D2)となる場合における、下記式(2)で表される値R(%)
【0015】
【数2】
塑性加工率R(%)={(D1−D2)/D1}×100 …(2)
(但し、上記式(2)中、D1>D2である。)
【0016】本発明においては、塑性加工が、冷間鍛造加工又は冷間転造加工であることが好ましく、球状黒鉛鋳鉄材料の鋳造を、ロストフォーム法、ロストワックス法、又はシェルモールド法のいずれかの方法により実施することが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】既に述べたように、塑性加工を施した球状黒鉛鋳鉄は、その塑性加工を施した部分(塑性加工部)の強度が低下してしまう。これは、鋳放し状態で球状であった黒鉛が、塑性加工部においてはその形状が扁平となることに起因する現象であって、塑性加工部に応力が負荷された場合、扁平化した黒鉛の縁の部分に応力が集中してしまい、この部分から破壊が起こり易いためであると考えられる。
【0019】本発明の第一の側面は、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であり、最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満であることを特徴とするものである。なお、最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)とは、最終成形体の任意断面における黒鉛の平均球状化率をいう。以下、その詳細について説明する。
【0020】本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、予備形状の予備成形体を塑性加工することによって得られるものである。ここで、本発明にいう「予備成形体」とは、最終成形体とは寸法・形状が若干異なるものの、近似した寸法・形状を有する成形体をいう。本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、この予備成形体の少なくとも一部を塑性加工し、最終成形体として製造されたものである。一般的に、塑性加工された球状黒鉛鋳鉄については、その加工箇所における黒鉛が扁平化するが、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、得られた最終成形体の内部における黒鉛球状化率が、70%以上、100%未満の範囲内であり、80%以上、100%未満の範囲内であることが更に好ましい。
【0021】即ち、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、所望とする最終成形体の形状・寸法に近似した予備成形体について、限られた加工度合いの塑性加工が施されることにより得られたものであり、塑性加工率が低いため、塑性加工部における黒鉛の扁平化が極めて小さく、塑性加工部に応力が負荷された場合であっても破壊され難い。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、極めて加工精度が良好であるという塑性加工品の利点と、破壊靭性や延性等の物理的特性に優れるという球状黒鉛鋳鉄の利点を兼ね備えているとともに、塑性加工に伴うひび割れ等の不具合のないものである。
【0022】なお、黒鉛球状化率が70%未満であると、塑性加工部の強度が顕著に低下してしまうために好ましくない。一方、黒鉛球状化率が100%、即ち、黒鉛が球状の状態が理論上最も好ましいが、実質的には黒鉛球状化率は95%以下である。
【0023】本発明においては、最終成形体の表面が、黒皮により被覆されてなることが好ましい。この黒皮は、鋳造の過程で鋳肌に形成される鉄の酸化物からなる層であり、鋳物に耐蝕性を付与する層である。鋼の塑性加工品にはこのような黒皮は存在しないため、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、一般的な鋼製の成形体、及び球状黒鉛鋳鉄を切削加工した成形体に比して耐蝕性に優れている。なお、最終成形体に優れた耐蝕性を付与する観点からは、最終成形体の全表面積に対する黒皮の被覆率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0024】また、本発明においては、球状黒鉛鋳鉄が、FCD350、FCD400、FCD450、及びFCD500からなる群より選択される少なくとも一の材料からなるものであることが好ましい。これらの球状黒鉛鋳鉄を用いると、最終成形体を、高靭性・高延性等の特性を有するものとすることができる。
【0025】本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、これを構成する材料である鋳鉄の優れた減衰性・耐磨耗性により、噛み合わせ等の際に生ずる騒音や磨耗が低減されるといった効果を奏する。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、騒音や磨耗の低減が要求されるような部品、例えば歯車形状の部分を有する部品や角型スプライン等に好適な特性を有する。
【0026】次に、本発明の第二の側面について説明する。本発明の第二の側面は、球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法であり、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、得られたこの予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得ることを特徴とするものである。以下、その詳細について説明する。
【0027】本発明では、先ず、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を製造する。このとき用いる球状黒鉛鋳鉄は、FCD350、FCD400、FCD450、及びFCD500からなる群より選択される少なくとも一の材料からなるものであることが好ましい。これらの材料を用いると、最終成形体に高靭性・高延性等の特性を付与することができる。
【0028】更に、本発明においては、予備成形体を得るに際して行う球状黒鉛鋳鉄材料の鋳造を、ロストフォーム法、ロストワックス法、又はシェルモールド法のいずれかの方法により実施することが好ましい。これらの方法は、最終成形体の寸法・形状に近似した高精度の寸法・形状を有する予備成形体を製造することができるために好ましく、また、簡便に実施可能な鋳造方法であり、コスト面からも好ましい鋳造方法である。
【0029】なお、ロストフォーム法とは、例えば、発泡ポリスチレンや発泡ポリメチルメタクリレート、又はこれらの複合樹脂に代表される熱分解性の発泡樹脂からなる模型(発泡模型)に耐火塗型剤を塗布し、砂中に埋設、湯口より注湯される金属溶湯の熱で模型を消失させながら金属溶湯と置換させて模型と同一形状の鋳物を鋳造する方法をいう。また、ロストワックス法とは、例えばろう・樹脂製の型を鋳砂内に埋め込んだ後、加熱処理等することにより前記型を溶融・除去し、得られた鋳型を使用して行う鋳造法をいう。また、シェルモールド法とは、熱硬化性の鋳型砂を予熱した金型で焼成して鋳型を作製し、この鋳型を使用して行う鋳造法をいう。
【0030】本発明では、前述の鋳造方法により製造した予備成形体を使用して、最終形状に塑性加工することにより、所望とする高精度の寸法・形状を有する最終成形体を得るが、この際、黒鉛球状化率が70%以上、100%未満となるように塑性加工することが必要であり、80%以上、100%未満となるように塑性加工することが更に好ましい。即ち、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法では、先ず所望とする最終成形体の形状・寸法に近似した予備成形体を製造し、この予備成形体について限られた加工度合いで、即ち、塑性加工部における黒鉛の扁平化が極めて小さくなるように塑性加工を実施して最終成形体を製造するため、破壊靭性や延性等の物理的特性に優れた球状黒鉛鋳鉄成形体を、極めて良好な加工精度で製造することができ、更に、塑性加工に伴うひび割れ等の不具合も生じ難いために、歩留まりよく効率的に所望とする形状の球状黒鉛鋳鉄成形体を製造することができる。また、塑性加工の度合いを小さく実施するため、塑性加工の際に用いる型等の数や工程数が少なく、効率的、かつ、低コストな製造方法である。
【0031】なお、黒鉛球状化率が70%未満となるように塑性加工すると、得られる最終成形体のうち、特に塑性加工部の強度が顕著に低下してしまうために好ましくない。一方、黒鉛球状化率が100%、即ち、黒鉛が球状の状態となることが理論上最も好ましいが、実質的には塑性加工することによって黒鉛球状化率が95%以下となる。
【0032】本発明においては、塑性加工の度合いとして、予備成形体を、下記で定義される塑性加工率(10%以下)で最終形状に塑性加工することが好ましい。
【0033】塑性加工率:試験片としての球状黒鉛鋳鉄からなる材料に圧縮荷重を負荷して塑性加工し、前記材料の、圧縮荷重の負荷方向の長さ(初期長さ(D1))が加工後長さ(D2)となる場合における、下記式(3)で表される値R(%)
【0034】
【数3】
塑性加工率R(%)={(D1−D2)/D1}×100 …(3)
(但し、上記式(3)中、D1>D2である。)
【0035】図1(a)、図1(b)は、塑性加工率を説明する図面であり、図1(a)は圧縮前の状態、図1(b)は圧縮後の状態を示す模式図である。球状黒鉛鋳鉄からなる、試験片としての材料となる予備成形体(圧縮前)1a、十分な機械的強度を有する圧縮治具2、及び支持台3を用意する。予備成形体(圧縮前)1aを、その一方の端面を支持台3に向けて載置するとともに、その他方の端面に圧縮治具2を配置する。次いで、圧縮治具2にて予備成形体(圧縮前)1aに圧縮荷重を負荷することにより圧縮変形させて最終成形体(圧縮後)1bとする。この場合において、予備成形体(圧縮前)1aの圧縮荷重の負荷方向の長さである両端面間長さ(D1:初期長さ)と、得られた最終成形体(圧縮後)1bの長さ(D2:加工後長さ)から、試験片の塑性加工率R(%)を算出することができる。
【0036】塑性加工率10%超で塑性加工すると、破壊靭性や延性等の物理的特性が低下したり、ひび割れ等の不具合が発生する場合があるために好ましくない。なお、より靭性等の機械的強度に優れ、ひび割れ等の不具合のない最終成形体である球状黒鉛鋳鉄成形体を製造するといった観点からは、塑性加工率5%以下の範囲で塑性加工することが更に好ましい。
【0037】本発明においては、最終成形体を得るに際しての塑性加工が、冷間鍛造加工又は冷間転造加工であることが好ましい。冷間鍛造加工とは、非加熱条件下である室温付近の温度条件下で実施する鍛造加工をいい、高度な寸法精度を有する最終成形体を得ることができるために好ましい。
【0038】冷間転造加工とは、非加熱条件下である室温付近の温度条件下で実施する転造加工をいい、また、転造加工とは、創成される形状の裏になるような凹凸を持った工具を駆動し、素材(予備成形体)を工具に押し付けて従動回転させながら順次製品(最終成形体)の形状とする加工法をいう。冷間転造加工によれば、高度な寸法精度を有する最終成形体を得ることができる。
【0039】なお、一般的に、冷間鍛造加工又は冷間転造加工に際しては、材料の加工硬化が生じて変形抵抗が高くなるために、加工の程度に制約がある。しかし、本発明では最終成形体に近似した形状の予備成形体を得、これに僅かな程度の加工を施して最終成形体とするため、冷間鍛造加工又は冷間転造加工に伴う加工の程度に制約されることがない。
【0040】鋳鉄は、優れた減衰性・耐磨耗性を併せ持った材料であるため、これを使用する本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法によれば、噛み合わせ等の際に生ずる騒音や磨耗の低減を目的とする部品、例えば歯車形状の部分を有する部品や角型スプライン等の部品を、より効率的に、かつ、低コストで製造することができる。
【0041】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(角型スプラインの製造(実施例1,2、比較例1))
一般的な機械において、動力伝達を行う軸と穴とを結合するために用いられる角型スプラインを製造した。具体的には、図2(a)に示す形状の、球状黒鉛鋳鉄製の予備成形体(圧縮前)1aをロストフォーム法により作製し、この予備成形体(圧縮前)1aについて、図2(b)に示すパンチ12、及びダイス穴5を有する鍛造型13を使用して、表1に示す塑性加工率(%)で鍛造加工を実施することにより、図2(c)に示す最終成形体(圧縮後)1b(角型スプライン(実施例1,2、比較例1))を製造した。
【0043】
(評価)
製造した最終成形体である角型スプライン(実施例1,2、比較例1)について、黒鉛球状化率(%)、黒皮被覆率(%)、引張強さ(MPa)、伸び(%)、及びシャルピー衝撃値(J/cm2)の各物性値を測定した。結果を表1に示す。なお、各物性値の測定方法を以下に示す。
【0044】
(黒鉛球状化率の測定方法)
黒鉛球状化率については、画像処理装置を用いて、外接円に対し球状化した黒鉛が占める面積率を算出し、これを黒鉛球状化率の値とした。
【0045】
(黒皮被覆率の測定方法)
黒皮被覆率(Q(%))については、下記式(4)により算出した。
【0046】
【数4】
黒皮被覆率Q(%)=(S2/S1)×100 …(4)
(但し、上記式(4)中、S1は最終成形体の全表面積、S2は最終成形体の表面のうちの、黒皮で被覆されている部分の表面積である。)
【0047】
(引張強さ、伸びの測定方法)
引張強さ、伸びについては、JIS Z2201に記載の14号試験片(円形断面)を用いて、JIS Z2241に記載の方法に準拠して測定した。
【0048】
(シャルピー衝撃値の測定方法)
シャルピー衝撃値については、JIS Z2202に記載のUノッチ試験片を用いて、JIS Z2242に記載の方法に準拠して測定した。
【0049】
【表1】
【0050】表1に示す結果から、実施例1,2の角型スプラインは、比較例1の角型スプラインに比して、引張強さ、伸び、及びシャルピー衝撃値のいずれについても極めて優れていることが明らかである。これは、実施例1,2の角型スプラインについては、塑性加工率が10%以下となるように塑性加工した結果、黒鉛球状化率が高い値に維持されたためであると考えられる。また、実施例1,2の角型スプラインについては、比較例1の角型スプラインに比して黒皮被覆率も高いことが明らかである。このため、実施例1,2の角型スプラインは、比較例1の角型スプライン、及び一般的な鋼製の成形体や球状黒鉛鋳鉄を切削加工した成形体等と比較しても、極めて耐蝕性に優れているものであることが想定される。
【0051】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であって、この最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が所定の数値範囲内であるため、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する。
【0052】また、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法によれば、先ず、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、次いでこの予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が所定の数値範囲内となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得るため、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体を、効率的に、かつ、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】塑性加工率を説明する図面であり、図1(a)は圧縮前の状態、図1(b)は圧縮後の状態を示す模式図である。
【図2】実施例の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法を説明する図面であり、図2(a)は予備成形体を示す斜視図、図2(b)は鍛造加工の方法を模式的に示す正面図、図2(c)は最終成形体を示す斜視図である。
【符号の説明】
1a…予備成形体(圧縮前)、1b…最終成形体(圧縮後)、2…圧縮治具、3…支持台、5…ダイス穴、12…パンチ、13…鍛造型、D1…初期長さ、D2…加工後長さ。
【発明の属する技術分野】本発明は、球状黒鉛鋳鉄成形体及びその製造方法に係り、更に詳しくは、破壊靭性等の物理的特性に優れ、加工精度が良好である等の特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体、及びこの球状黒鉛鋳鉄の低コスト製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】鋳鉄の中でも、球状黒鉛鋳鉄は特に機械的性質に優れ、比較的安価であることから様々な用途に採用されており、例えば自動車部品、特に、ロアーアーム、アッパーアーム、ナックルハウジング、サスペンション等の足回り部品に好適に用いられている。球状黒鉛鋳鉄は、ダクタイル鋳鉄とも呼ばれ、3%程度の炭素及び2%程度の珪素を含有する溶融状態の鉄にMgなどの元素を添加して、凝固時に生成する黒鉛の形を球形にしたものであって、球状の黒鉛の断面である円形の組織とその外周部のフェライト相、及びそれを取り囲むパーライト組織から構成されている。黒鉛の形状を球状化することにより、靭性と延性が向上するため、かなりの強度を必要とする部品にも使用されている。
【0003】また、球状黒鉛鋳鉄は鋼に比べて融点が低く、溶解設備なども含めて小規模な設備を使用し、簡単な製造工程で目的とする形状の成形体を生産することができる。
【0004】ここで、特に高度な寸法精度が要求される最終的な製品形状の部品等を、球状黒鉛鋳鉄を用いて製造するには、鋳放し状態の球状黒鉛鋳鉄について切削加工や、冷間での塑性加工(例えば、冷間鍛造加工、冷間転造加工等)等の二次的加工を施す必要がある(例えば、特許文献1参照)。これは、加工精度が良好ではないといった鋳造加工の特徴に基づくものである。
【0005】しかしながら、切削加工により球状黒鉛鋳鉄を最終的な製品形状となるように加工するためには、得ようとする最終製品(最終成形体)の形状が複雑である場合には、複数回にわたって切削を施す必要性があり、コスト面での問題がある。更に、切削加工面は、予備成形体表面の黒皮が除去されるために耐蝕性に問題がある。
【0006】また、冷間での塑性加工により球状黒鉛鋳鉄を最終成形体に加工すると、塑性加工率が高い場合にはひび割れ等の不具合を生じ易く、更に、得ようとする最終成形体の形状が複雑である場合には、複数回にわたって塑性加工を施す必要がある。そのため、工程が煩雑化してしまい、加工に用いる型の数も多くなることからコスト面での問題を生ずる場合もある。
【0007】一方、塑性加工を施した球状黒鉛鋳鉄は、その塑性加工を施した部分(塑性加工部)の破壊靭性等が低下してしまい、このような塑性加工部を有する成形体は、応力が負荷される状況下において用いられる部品等としては適当ではないといった問題がある。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−310123号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体、及びこのような特徴を備えた球状黒鉛鋳鉄成形体の効率的かつ低コストな製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明によれば、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であって、前記最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体が提供される。
【0011】本発明においては、最終成形体の表面が、黒皮により被覆されてなることが好ましく、最終成形体の全表面積に対する黒皮の被覆率が、85%以上であることが好ましい。
【0012】本発明によれば、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、得られた前記予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得ることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法が提供される。
【0013】本発明においては、予備成形体を、下記で定義される塑性加工率(10%以下)で最終形状に塑性加工することが好ましい。
【0014】塑性加工率:試験片としての球状黒鉛鋳鉄からなる材料に圧縮荷重を負荷して塑性加工し、前記材料の長さ(初期長さ(D1))が加工後長さ(D2)となる場合における、下記式(2)で表される値R(%)
【0015】
【数2】
塑性加工率R(%)={(D1−D2)/D1}×100 …(2)
(但し、上記式(2)中、D1>D2である。)
【0016】本発明においては、塑性加工が、冷間鍛造加工又は冷間転造加工であることが好ましく、球状黒鉛鋳鉄材料の鋳造を、ロストフォーム法、ロストワックス法、又はシェルモールド法のいずれかの方法により実施することが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】既に述べたように、塑性加工を施した球状黒鉛鋳鉄は、その塑性加工を施した部分(塑性加工部)の強度が低下してしまう。これは、鋳放し状態で球状であった黒鉛が、塑性加工部においてはその形状が扁平となることに起因する現象であって、塑性加工部に応力が負荷された場合、扁平化した黒鉛の縁の部分に応力が集中してしまい、この部分から破壊が起こり易いためであると考えられる。
【0019】本発明の第一の側面は、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であり、最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満であることを特徴とするものである。なお、最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)とは、最終成形体の任意断面における黒鉛の平均球状化率をいう。以下、その詳細について説明する。
【0020】本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、予備形状の予備成形体を塑性加工することによって得られるものである。ここで、本発明にいう「予備成形体」とは、最終成形体とは寸法・形状が若干異なるものの、近似した寸法・形状を有する成形体をいう。本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、この予備成形体の少なくとも一部を塑性加工し、最終成形体として製造されたものである。一般的に、塑性加工された球状黒鉛鋳鉄については、その加工箇所における黒鉛が扁平化するが、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、得られた最終成形体の内部における黒鉛球状化率が、70%以上、100%未満の範囲内であり、80%以上、100%未満の範囲内であることが更に好ましい。
【0021】即ち、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、所望とする最終成形体の形状・寸法に近似した予備成形体について、限られた加工度合いの塑性加工が施されることにより得られたものであり、塑性加工率が低いため、塑性加工部における黒鉛の扁平化が極めて小さく、塑性加工部に応力が負荷された場合であっても破壊され難い。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、極めて加工精度が良好であるという塑性加工品の利点と、破壊靭性や延性等の物理的特性に優れるという球状黒鉛鋳鉄の利点を兼ね備えているとともに、塑性加工に伴うひび割れ等の不具合のないものである。
【0022】なお、黒鉛球状化率が70%未満であると、塑性加工部の強度が顕著に低下してしまうために好ましくない。一方、黒鉛球状化率が100%、即ち、黒鉛が球状の状態が理論上最も好ましいが、実質的には黒鉛球状化率は95%以下である。
【0023】本発明においては、最終成形体の表面が、黒皮により被覆されてなることが好ましい。この黒皮は、鋳造の過程で鋳肌に形成される鉄の酸化物からなる層であり、鋳物に耐蝕性を付与する層である。鋼の塑性加工品にはこのような黒皮は存在しないため、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、一般的な鋼製の成形体、及び球状黒鉛鋳鉄を切削加工した成形体に比して耐蝕性に優れている。なお、最終成形体に優れた耐蝕性を付与する観点からは、最終成形体の全表面積に対する黒皮の被覆率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0024】また、本発明においては、球状黒鉛鋳鉄が、FCD350、FCD400、FCD450、及びFCD500からなる群より選択される少なくとも一の材料からなるものであることが好ましい。これらの球状黒鉛鋳鉄を用いると、最終成形体を、高靭性・高延性等の特性を有するものとすることができる。
【0025】本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、これを構成する材料である鋳鉄の優れた減衰性・耐磨耗性により、噛み合わせ等の際に生ずる騒音や磨耗が低減されるといった効果を奏する。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、騒音や磨耗の低減が要求されるような部品、例えば歯車形状の部分を有する部品や角型スプライン等に好適な特性を有する。
【0026】次に、本発明の第二の側面について説明する。本発明の第二の側面は、球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法であり、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、得られたこの予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得ることを特徴とするものである。以下、その詳細について説明する。
【0027】本発明では、先ず、球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を製造する。このとき用いる球状黒鉛鋳鉄は、FCD350、FCD400、FCD450、及びFCD500からなる群より選択される少なくとも一の材料からなるものであることが好ましい。これらの材料を用いると、最終成形体に高靭性・高延性等の特性を付与することができる。
【0028】更に、本発明においては、予備成形体を得るに際して行う球状黒鉛鋳鉄材料の鋳造を、ロストフォーム法、ロストワックス法、又はシェルモールド法のいずれかの方法により実施することが好ましい。これらの方法は、最終成形体の寸法・形状に近似した高精度の寸法・形状を有する予備成形体を製造することができるために好ましく、また、簡便に実施可能な鋳造方法であり、コスト面からも好ましい鋳造方法である。
【0029】なお、ロストフォーム法とは、例えば、発泡ポリスチレンや発泡ポリメチルメタクリレート、又はこれらの複合樹脂に代表される熱分解性の発泡樹脂からなる模型(発泡模型)に耐火塗型剤を塗布し、砂中に埋設、湯口より注湯される金属溶湯の熱で模型を消失させながら金属溶湯と置換させて模型と同一形状の鋳物を鋳造する方法をいう。また、ロストワックス法とは、例えばろう・樹脂製の型を鋳砂内に埋め込んだ後、加熱処理等することにより前記型を溶融・除去し、得られた鋳型を使用して行う鋳造法をいう。また、シェルモールド法とは、熱硬化性の鋳型砂を予熱した金型で焼成して鋳型を作製し、この鋳型を使用して行う鋳造法をいう。
【0030】本発明では、前述の鋳造方法により製造した予備成形体を使用して、最終形状に塑性加工することにより、所望とする高精度の寸法・形状を有する最終成形体を得るが、この際、黒鉛球状化率が70%以上、100%未満となるように塑性加工することが必要であり、80%以上、100%未満となるように塑性加工することが更に好ましい。即ち、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法では、先ず所望とする最終成形体の形状・寸法に近似した予備成形体を製造し、この予備成形体について限られた加工度合いで、即ち、塑性加工部における黒鉛の扁平化が極めて小さくなるように塑性加工を実施して最終成形体を製造するため、破壊靭性や延性等の物理的特性に優れた球状黒鉛鋳鉄成形体を、極めて良好な加工精度で製造することができ、更に、塑性加工に伴うひび割れ等の不具合も生じ難いために、歩留まりよく効率的に所望とする形状の球状黒鉛鋳鉄成形体を製造することができる。また、塑性加工の度合いを小さく実施するため、塑性加工の際に用いる型等の数や工程数が少なく、効率的、かつ、低コストな製造方法である。
【0031】なお、黒鉛球状化率が70%未満となるように塑性加工すると、得られる最終成形体のうち、特に塑性加工部の強度が顕著に低下してしまうために好ましくない。一方、黒鉛球状化率が100%、即ち、黒鉛が球状の状態となることが理論上最も好ましいが、実質的には塑性加工することによって黒鉛球状化率が95%以下となる。
【0032】本発明においては、塑性加工の度合いとして、予備成形体を、下記で定義される塑性加工率(10%以下)で最終形状に塑性加工することが好ましい。
【0033】塑性加工率:試験片としての球状黒鉛鋳鉄からなる材料に圧縮荷重を負荷して塑性加工し、前記材料の、圧縮荷重の負荷方向の長さ(初期長さ(D1))が加工後長さ(D2)となる場合における、下記式(3)で表される値R(%)
【0034】
【数3】
塑性加工率R(%)={(D1−D2)/D1}×100 …(3)
(但し、上記式(3)中、D1>D2である。)
【0035】図1(a)、図1(b)は、塑性加工率を説明する図面であり、図1(a)は圧縮前の状態、図1(b)は圧縮後の状態を示す模式図である。球状黒鉛鋳鉄からなる、試験片としての材料となる予備成形体(圧縮前)1a、十分な機械的強度を有する圧縮治具2、及び支持台3を用意する。予備成形体(圧縮前)1aを、その一方の端面を支持台3に向けて載置するとともに、その他方の端面に圧縮治具2を配置する。次いで、圧縮治具2にて予備成形体(圧縮前)1aに圧縮荷重を負荷することにより圧縮変形させて最終成形体(圧縮後)1bとする。この場合において、予備成形体(圧縮前)1aの圧縮荷重の負荷方向の長さである両端面間長さ(D1:初期長さ)と、得られた最終成形体(圧縮後)1bの長さ(D2:加工後長さ)から、試験片の塑性加工率R(%)を算出することができる。
【0036】塑性加工率10%超で塑性加工すると、破壊靭性や延性等の物理的特性が低下したり、ひび割れ等の不具合が発生する場合があるために好ましくない。なお、より靭性等の機械的強度に優れ、ひび割れ等の不具合のない最終成形体である球状黒鉛鋳鉄成形体を製造するといった観点からは、塑性加工率5%以下の範囲で塑性加工することが更に好ましい。
【0037】本発明においては、最終成形体を得るに際しての塑性加工が、冷間鍛造加工又は冷間転造加工であることが好ましい。冷間鍛造加工とは、非加熱条件下である室温付近の温度条件下で実施する鍛造加工をいい、高度な寸法精度を有する最終成形体を得ることができるために好ましい。
【0038】冷間転造加工とは、非加熱条件下である室温付近の温度条件下で実施する転造加工をいい、また、転造加工とは、創成される形状の裏になるような凹凸を持った工具を駆動し、素材(予備成形体)を工具に押し付けて従動回転させながら順次製品(最終成形体)の形状とする加工法をいう。冷間転造加工によれば、高度な寸法精度を有する最終成形体を得ることができる。
【0039】なお、一般的に、冷間鍛造加工又は冷間転造加工に際しては、材料の加工硬化が生じて変形抵抗が高くなるために、加工の程度に制約がある。しかし、本発明では最終成形体に近似した形状の予備成形体を得、これに僅かな程度の加工を施して最終成形体とするため、冷間鍛造加工又は冷間転造加工に伴う加工の程度に制約されることがない。
【0040】鋳鉄は、優れた減衰性・耐磨耗性を併せ持った材料であるため、これを使用する本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法によれば、噛み合わせ等の際に生ずる騒音や磨耗の低減を目的とする部品、例えば歯車形状の部分を有する部品や角型スプライン等の部品を、より効率的に、かつ、低コストで製造することができる。
【0041】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(角型スプラインの製造(実施例1,2、比較例1))
一般的な機械において、動力伝達を行う軸と穴とを結合するために用いられる角型スプラインを製造した。具体的には、図2(a)に示す形状の、球状黒鉛鋳鉄製の予備成形体(圧縮前)1aをロストフォーム法により作製し、この予備成形体(圧縮前)1aについて、図2(b)に示すパンチ12、及びダイス穴5を有する鍛造型13を使用して、表1に示す塑性加工率(%)で鍛造加工を実施することにより、図2(c)に示す最終成形体(圧縮後)1b(角型スプライン(実施例1,2、比較例1))を製造した。
【0043】
(評価)
製造した最終成形体である角型スプライン(実施例1,2、比較例1)について、黒鉛球状化率(%)、黒皮被覆率(%)、引張強さ(MPa)、伸び(%)、及びシャルピー衝撃値(J/cm2)の各物性値を測定した。結果を表1に示す。なお、各物性値の測定方法を以下に示す。
【0044】
(黒鉛球状化率の測定方法)
黒鉛球状化率については、画像処理装置を用いて、外接円に対し球状化した黒鉛が占める面積率を算出し、これを黒鉛球状化率の値とした。
【0045】
(黒皮被覆率の測定方法)
黒皮被覆率(Q(%))については、下記式(4)により算出した。
【0046】
【数4】
黒皮被覆率Q(%)=(S2/S1)×100 …(4)
(但し、上記式(4)中、S1は最終成形体の全表面積、S2は最終成形体の表面のうちの、黒皮で被覆されている部分の表面積である。)
【0047】
(引張強さ、伸びの測定方法)
引張強さ、伸びについては、JIS Z2201に記載の14号試験片(円形断面)を用いて、JIS Z2241に記載の方法に準拠して測定した。
【0048】
(シャルピー衝撃値の測定方法)
シャルピー衝撃値については、JIS Z2202に記載のUノッチ試験片を用いて、JIS Z2242に記載の方法に準拠して測定した。
【0049】
【表1】
【0050】表1に示す結果から、実施例1,2の角型スプラインは、比較例1の角型スプラインに比して、引張強さ、伸び、及びシャルピー衝撃値のいずれについても極めて優れていることが明らかである。これは、実施例1,2の角型スプラインについては、塑性加工率が10%以下となるように塑性加工した結果、黒鉛球状化率が高い値に維持されたためであると考えられる。また、実施例1,2の角型スプラインについては、比較例1の角型スプラインに比して黒皮被覆率も高いことが明らかである。このため、実施例1,2の角型スプラインは、比較例1の角型スプライン、及び一般的な鋼製の成形体や球状黒鉛鋳鉄を切削加工した成形体等と比較しても、極めて耐蝕性に優れているものであることが想定される。
【0051】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体は、予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であって、この最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が所定の数値範囲内であるため、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する。
【0052】また、本発明の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法によれば、先ず、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、次いでこの予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が所定の数値範囲内となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得るため、破壊靭性や延性等の機械的性質に優れ、耐蝕性や加工精度が良好であるといった特徴を有する球状黒鉛鋳鉄成形体を、効率的に、かつ、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】塑性加工率を説明する図面であり、図1(a)は圧縮前の状態、図1(b)は圧縮後の状態を示す模式図である。
【図2】実施例の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法を説明する図面であり、図2(a)は予備成形体を示す斜視図、図2(b)は鍛造加工の方法を模式的に示す正面図、図2(c)は最終成形体を示す斜視図である。
【符号の説明】
1a…予備成形体(圧縮前)、1b…最終成形体(圧縮後)、2…圧縮治具、3…支持台、5…ダイス穴、12…パンチ、13…鍛造型、D1…初期長さ、D2…加工後長さ。
Claims (7)
- 球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体の少なくとも一部を最終形状となるように塑性加工することによって最終成形体として得られる球状黒鉛鋳鉄成形体であって、
前記最終成形体の内部における扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体。 - 前記最終成形体の表面が、黒皮により被覆されてなる請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄成形体。
- 前記最終成形体の全表面積に対する前記黒皮の被覆率が、85%以上である請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄成形体。
- 球状黒鉛鋳鉄材料を鋳造して、球状黒鉛鋳鉄からなる予備形状の予備成形体を得、
得られた前記予備成形体を、扁平化した黒鉛の球状化率(黒鉛球状化率)が、70%以上、100%未満となるように最終形状に塑性加工して最終成形体を得ることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法。 - 前記塑性加工が、冷間鍛造加工又は冷間転造加工である請求項4又は5に記載の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法。
- 前記球状黒鉛鋳鉄材料の鋳造を、ロストフォーム法、ロストワックス法、又はシェルモールド法のいずれかの方法により実施する請求項4〜6のいずれか一項に記載の球状黒鉛鋳鉄成形体の製造方法。
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