JP2004325870A - 吸音材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた吸音性能を有し、且つ広い範囲の要求特性に対応できる優れた物性を有する新規な吸音材料を提供する。
【解決手段】一定方向に成長した開放気孔を含む多孔質金属体からなる吸音材料、及び該吸音材料を、該吸音材料の開放気孔を有する面が音の入射方向に面するように設置することを特徴とする吸音方法。
【選択図】図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸音材料及び該吸音材料を用いる吸音方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、工業の発達に伴い、騒音問題が大きく取り上げられるようになり、騒音の低減に対する一般に関心が高まりつつある。騒音を低減するためには、通常は、吸音材料や遮音材料が用いられる。
【0003】
吸音材料としては、従来、グラスウール、石綿等の鉱物繊維が多く用いられている。この様な材料に音が当たると、空気振動が直接材料内部に含まれる空気に伝搬して空気の粘性摩擦が生じ、音のエネルギーの一部が熱エネルギーに変換されることにより、吸音作用を生じるものと考えられる。
【0004】
しかしながら、グラスウール等の鉱物繊維は、経年変化による老化によって繊維の飛散、吸水による吸音率の低下などを生じ、特に、飛散すると人の健康に悪影響があるものとみなされている。
【0005】
また、軟質ウレタンフフォームなどの発泡樹脂材料も吸音材料として広く用いられているが、吸音性能以外の面でいくつかの問題点がある。例えば、室内の音響調整用の吸音材料については、建築の防火規定の強化によって、発泡樹脂材料の使用が制限されており、材料の選択範囲が非常に狭くなっている。
【0006】
さらに、その他、実際の適用場所に応じて、吸音性能以外に、耐熱、耐水、耐油、耐風圧、清浄性等の諸特性を満足ことが必要とされており、これらの要求特性に対応するために、発泡樹脂材料以外の新たな吸音材料の開発が望まれている。
【0007】
また、吸音性を有する金属系材料として、発泡アルミニウムが知られている(下記、非特許文献1参照)。この材料は、多くの気泡を含む構造から非常に軽量であり、同時に吸音性も有する材料とされている。しかしながら、発泡アルミニウムは、吸音性能の点で更に向上が望まれており、また、広い範囲の要求を満足するためには、強度等についても改善が必要である。
【0008】
【非特許文献1】
秋山他、「九州工業技術試験所報告」、No.46,1991,2928−2934
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、優れた吸音性能を有し、且つ広い範囲の要求特性に対応できる優れた物性を有する新規な吸音材料を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、一定方向に成長した多数の開放気泡を含む金属材料は、従来の発泡金属と比較して優れた吸音性能を有するものであり、しかも各種の要求特性を満足し得る優れた性能を有する吸音材料となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の吸音材料及び吸音方法を提供するものである。
1.一定方向に成長した開放気孔を含む多孔質金属体からなる吸音材料。
2.多孔質金属体が下記条件を満足するものである上記項1に記載の吸音材料:
(1)表面の開口部における気孔の平均直径が100〜800μm、
(2)気孔の平均長さが、0.2mm〜60mmであって、気孔直径の2〜200倍、
(3)気孔率が20〜80%、
(4)気孔の成長方向の延長線同士が作る角度が最大で30度。
3.上記項1又は2に記載の吸音材料を、該吸音材料の開放気孔を有する面が音の入射方向に面するように設置することを特徴とする吸音方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
吸音材料
本発明の吸音材料は、一定方向に成長した開放気孔を含む多孔質金属体からなるものである。
【0013】
本発明の吸音材料において、一定方向に成長した開放気孔とは、材料表面に開口部を有し、且つ成長方向がほぼ一定方向の気孔を意味する。この場合、全ての気孔が完全に一定方向に成長していること、即ち、気孔の成長方向が全て平行であることが望ましいが、気孔の成長方向の延長線同士が交差して作る角度が最大で30度程度の範囲内であればよく、好ましくは20度程度の範囲内であればよい。ここで、気孔の成長方向の延長線同士が交差して作る角度については、該吸音材料を気孔の成長方向に平行な面で切断した際に、断面に存在する気孔について求めたものである。
【0014】
尚、本発明の吸音材料では、全ての気孔が開放気孔である必要はなく、後述する気孔の形状、気孔率などの条件を満足すれば、非開放気孔が含まれていても良い。また、開放気孔は、材料の一面に開口部があれば良く、他方の面まで貫通していなくても良い。
【0015】
多孔質金属体表面の開口部における気孔の平均直径は、100〜800μm程度であることが好ましく、300〜600μm程度であることがより好ましい。また、多孔質金属体内部に存在する非開放気孔についても、平均直径は同様の範囲内であることが好ましい。尚、本発明の吸音材料では、通常、気孔率が同一の場合には、気孔の直径が小さい程、吸音率が大きくなる傾向がある。これは、気孔率が同一であれば、気孔径が小さい程気孔の内表面積が大きくなって空気と気孔内壁との摩擦が増加し、音のエネルギーが熱エネルギーに変換され易くなることによるものと考えられる。従って、目的とする吸音率や、その他、吸音材料の強度などを考慮して適宜気孔径を決めればよい。
【0016】
気孔の形状については特に限定的ではないが、通常、長さが平均で0.2mm〜60mm程度、好ましくは10〜50mm程度であって、直径の2倍〜200倍程度、好ましくは10〜100倍程度の長さのほぼ円柱形の形状であることが望ましい。
【0017】
尚、上記した平均気孔径及び気孔の平均の長さは、顕微鏡写真で観察した範囲内の200個の気孔の平均値である。
【0018】
該多孔質金属体における気孔率は、20〜80%程度であることが好ましく、 30〜60%程度であることがより好ましい。該多孔質金属体の表面部には、この範囲の気孔率に相当する比率の開口部が存在すればよい。本発明の吸音材料では、気孔径が同一であれば、気孔率が増加するに従って、吸音率が増加する傾向がある。これは、気孔率の増加に伴って気孔の内表面積が増加し、これにより空気と気孔内壁の摩擦が大きくなることによると思われる。
【0019】
本発明の吸音材料として用いる多孔質金属体は、上記した条件を満足する開放気孔を有するものであれば良く、その材質については特に限定的ではなく、具体的な使用目的、適用場所等に応じて、適宜適切な材質の材料を選択すればよい。具体例としては、マグネシウムおよびその合金、アルミニウムおよびその合金、鉄およびその合金、ニッケルおよびその合金、チタンおよびその合金、銅およびその合金等を例示できる。特に望ましい材料は、マグネシウム合金、アルミニウム合金、炭素鋼、ステンレス鋼などである。
【0020】
本発明吸音材料では、形状、大きさなどについては特に限定的ではなく、適用場所、使用方法などに応じて、適宜決めればよい。例えば、充分な吸音効果を発揮するためには、音の入射方向に平行な方向の材料の厚さが、10〜50mm程度となる範囲とすればよい。この場合、吸音材料の厚さが増加すると、空気と気孔内壁の摩擦が大きくなり、吸音率が大きくなる傾向がある。
吸音材料の製造方法
本発明の吸音材料の製造方法については、特に限定的ではなく、上記した条件を満足する多孔質金属体を形成できる方法であればよい。
【0021】
以下に、該吸音材料の製造方法の具体例を記載する。
(I)第一方法
まず、第一方法として、国際公開WO 01/04367号公報に記載の方法を挙げることができる。この方法について、簡単に説明すると以下の通りである。
【0022】
即ち、下記(1)〜(3)の工程を備えた方法によって、多孔質金属体を製造できる:
(1)密閉容器内において減圧下に金属原料を常温から金属の融点未満の温度域で保持することにより、金属原料の脱ガスを行う工程;
(2)上記密閉容器内にガスを導入して、加圧下に金属原料を溶融させるとともに、ガスを溶融金属中に溶解させる工程;および
(3)上記密閉容器内のガス圧および溶融金属の温度を制御しつつ、溶融金属を冷却凝固させることにより、多孔質金属体を形成させる工程。
【0023】
上記工程(1)における減圧条件は、原料金属の種類、原料金属中に含まれる除去されるべき不純成分(酸素、窒素、水素など)により異なるが、通常10−1Torr以下であり、好ましくは10−1〜10−6Torrの範囲内とすればよい。減圧が不十分である場合には、残存する不純成分が多孔質金属体の耐食性、耐薬品性、靱性などを阻害することがある。一方、過度の減圧を行う場合には、多孔質金属体の性能は若干改善されるものの、装置の製造コストおよび運転コストが増大するので、好ましくない。
【0024】
工程(1)における金属原料の保持温度は、常温から金属原料の融点未満(2種以上の金属を併用する場合には、最低融点未満)までの範囲内であり、より好ましくは、融点よりも50〜200℃程度低い温度である。脱ガスは、常温で密閉容器内に金属原料を装入した後、次第に温度を上昇させて行うことが、操作上容易である。脱ガス効果を高めるためには、工程(2)の開始前に、金属原料の融点未満のできるだけ高い温度としておくことが、好ましい。工程(1)における金属原料の保持温度を高めておく場合には、後述の金属溶融に要する時間を短縮することができる。
【0025】
工程(1)における金属保持時間は、金属に含まれる不純物の種類および量ならびに要求される脱ガスの程度などに応じて、適宜定めれば良い。
【0026】
脱ガス処理を終えた金属原料は、次いで、工程(2)において、加圧下に溶融される。加圧用ガスとしては、水素、窒素、アルゴンおよびヘリウムの少なくとも1種を使用する。安全性を特に重視するならば、加圧用ガスとしては、窒素、アルゴンおよびヘリウムの少なくとも1種を使用することが好ましい。また、多孔質金属体内の孔の寸法と気孔率とをより正確に制御するためには、窒素−アルゴン混合物、窒素−ヘリウム混合物或いは窒素−アルゴン−ヘリウム混合物を使用することが好ましい。
【0027】
この工程(2)において、加圧条件下にガスの一部が溶融金属中に溶解する。溶融金属中には、所定加圧条件下における共晶点形成量を含む一定範囲量のガスを溶解させることが好ましい。溶融金属中のガス溶解量は、金属の種類、ガスの種類およびガスの圧力、所望の多孔質金属体の孔構造などを考慮して、定めることができる。
【0028】
工程(2)における加圧条件は、金属の種類、最終的に得られる多孔質金属体中の孔形状、孔径、気孔率などに応じて定められるが、通常0.1〜10MPa程度であり、より好ましくは0.2〜2.5MPa程度である。
【0029】
加圧用ガスは、最終的に得られる多孔質金属体の特性を阻害しない限り、上記のガス群から選択すれば良いが、金属とガスとの間には、好ましい組み合わせがある。この様な好ましい組み合わせとしては、例えば、鉄−窒素/アルゴン(「窒素/アルゴン」とは、窒素とアルゴンとの混合ガスを意味する;以下同様)、鉄−窒素/ヘリウム、鉄系合金(工業用純鉄、普通鋼、ステンレス鋼など)−窒素/アルゴン、鉄系合金(普通鋼、ステンレス鋼など)−窒素/ヘリウム、銅−アルゴン、銅−水素、銅−水素/アルゴン、ニッケル−窒素/アルゴンなどが例示される。
【0030】
ガスを溶解した溶融金属は、次いで、工程(3)に送られ、冷却凝固される。金属中のガス溶解量は、融点の上下において、著しく相違する。すなわち、溶融状態の金属は、多量のガスを溶解するが、温度の低下に伴って凝固し始めると、ガス溶解量は急速に減少する。従って、溶融金属の温度とその雰囲気ガス圧とを適切に制御しつつ、一定方向に溶融金属を凝固させることにより、固相/液相界面近傍の固相部分には、液相部分に過飽和に溶解していたガスの析出による気泡を生成させることができる。この様なガス気泡は、金属の凝固とともに成長するので、固相部分には、一定方向に成長した多数の気孔が形成される。具体的には、溶融金属を下方から一方向に凝固させると、気孔の成長方向は下から上に向かう一方向性多芯状構造となり、側面から一方向に凝固させると、気孔の成長方向は円周から中心に向かって放射状構造になる。この工程(3)においては、溶融金属の冷却速度或いは凝固速度を制御し、かつ凝固雰囲気ガスの組成(例えば、窒素ガス/不活性ガスの混合比など)およびガス圧の調整(圧力増大、等圧維持或いは圧力減少)などを適切に行うことにより、気孔形状、気孔径、気孔率などを任意に制御した多孔質金属体が得られる。
(II)第二方法
また、ガス雰囲気下で、金属原料を移動させながら浮遊帯溶融法によって順次部分的に溶融させて、溶融した金属中にガスを溶解させた後、溶融した金属を順次冷却凝固させる方法によっても、多孔質金属体を製造することができる。以下、この方法を第二方法という。
【0031】
第二方法では、金属原料としては、液相状態におけるガスの溶解度が大きく、固相状態におけるガスの溶解度が小さい材料であれば特に限定無く使用可能である。特に、従来方法では均一な気孔を形成することが困難であった鉄鋼材料、ステンレス鋼、ニッケル基超合金等の熱伝導性が低い金属材料についても金属原料として使用できる。金属原料の具体例としては、 鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、タングステン、マンガン、クロム、ベリリウム、チタン、銀、金、白金、パラジウム、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、錫、鉛、ウランなどを挙げることができ、これらの金属の少なくとも1種を含む合金も使用することができる。
【0032】
第二方法では、まず、上記した金属原料を移動させながら、浮遊帯溶融法によって部分的に順次溶融させる。金属原料の移動方向については、特に限定はなく、例えば、重力に対して垂直方向、重力に対して平行方法等、任意の方向とすることができる。図1に、棒状の金属原料を垂直方向に移動させながら、部分的に順次溶融させる方法を模式的に示す。
【0033】
金属原料の形状については特に限定的ではなく、浮遊帯溶融法によって部分的な溶融と冷却凝固を連続的に行うことが可能な形状であればよい。例えば、棒状、板状、円筒状等の形状を有する長尺の金属原料を用いることができる。冷却時に金属原料の内部まで迅速な冷却を可能とするためには、棒状原料の場合には、直径0.3〜200mmの円柱状の棒状金属を用いることが好ましい。また、板状の原料の場合には、厚さが0.1〜100mm程度、幅が0.1〜500mm程度の長尺の板状金属を用いることが好ましい。
【0034】
浮遊帯溶融法の具体的な条件については特に限定はなく、公知の方法を適宜採用できる。
【0035】
溶融させる部分の加熱方法としては、浮遊帯溶融法において通常採用されている加熱方法を適宜適用できる。通常、高周波誘導加熱法を利用することが多いが、その他に、レーザー加熱、ジュール熱を利用した抵抗加熱、電気抵抗加熱炉による加熱、赤外線加熱、アーク加熱等の方法も使用可能である。
【0036】
溶融部分の温度は、高くなると溶解するガス量が増加するが、冷却凝固するための時間が長くなり、その結果、気孔径が大きくなる傾向がある。これらの点を考慮して適切な溶融温度を決めればよい。通常、融点以上であって、融点より500℃程度高い温度までの範囲内の温度とすることが好ましい。
【0037】
溶融させる部分の長さについては、使用する金属原料の種類、形状等に応じて、溶融部分が溶け落ちること無く、表面張力によって形状を維持できる範囲とすればよい。
【0038】
また、必要に応じて、金属原料を毎分1〜100回程度の回転速度で回転させながら移動させても良い。金属原料を回転させながら移動させることにより、溶融時に金属原料を均一に加熱することができる。特に、直径の大きい棒状の金属原料を用いる場合には、棒の中心軸を中心として回転させることによって、均一加熱効果が大きくなり、短時間での均一な溶融が可能となる。
【0039】
第二方法では、溶融した部分については、溶解させるガスを含む雰囲気下におくことが必要である。溶解用ガス雰囲気下で金属原料を溶融させることによって、金属原料の溶融部分に多量のガスを溶解させることができる。
【0040】
溶解させるガスとしては、使用する金属原料の種類に応じて、液相状態における溶解度が大きく、固相状態における溶解度が小さいガスを使用すればよい。この様なガスとしては、水素、窒素、酸素、フッ素、塩素等を例示できる。これらのガスは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらのガスの内で、安全性の点からは、水素、窒素、酸素等が好ましい。尚、形成される気孔中には、これらのガスがそのまま含まれる場合の他、溶融した金属中に含まれる成分と溶解したガス成分との反応によって生じたガスが含まれる場合がある。例えば、溶解用ガスとして酸素を用い、溶融した金属原料中に炭素が含まれる場合には、形成される気孔中には、一酸化炭素、二酸化炭素などが含まれる場合がある。
【0041】
金属原料が、鉄、ニッケル、これらを含む合金等の場合には、溶解用ガスとしては、水素及び窒素から選ばれた少なくとも一種のガスを用いることが好ましい。金属原料が、銅、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、タングステン、マンガン、クロム、ベリリウム、チタン、パラジウム、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、錫、鉛、ウラン、これらを含む合金等の場合には、溶解用ガスとしては水素が好ましい。金属原料が銀、金、これらを含む合金等の場合には、溶解用ガスとしては酸素が好ましい。
【0042】
溶解用ガスは、圧力が高くなるとガスの溶解量が増加して最終的に得られる金属多孔質体の気孔率が増加する傾向がある。従って、溶解用ガスの圧力は、金属原料の種類、最終的に得られる多孔質体中の孔形状、孔径、気孔率などを考慮して適宜決めればよい。通常は、溶解用ガスの圧力を10−3Pa〜100MPa程度とすることが好ましく、10Pa〜10MPa程度とすることがより好ましい。
【0043】
浮遊帯溶融法では、一般に、溶融部分と冷却凝固部分は、同一のガス雰囲気下におかれるが、この場合には、溶解用ガスを不活性ガスと混合して用いることによって、得られる金属多孔質体の気孔径、気孔率等をより正確に制御することができる。
【0044】
具体的には、溶解用ガスと不活性ガスの混合物を用いる場合には、不活性ガスの圧力が一定である場合には、溶解用ガス圧の増大とともに、多孔質体中の気孔率が増加し、逆に、溶解用ガスの圧力が一定である場合には、不活性ガスのガス圧の増大とともに、多孔質体の気孔率が低下する傾向がある。これは、不活性ガスは、溶融した金属中にほとんど溶解することがないので、不活性ガスの圧力が高い場合には、溶融した金属が冷却凝固する際に、不活性ガスの圧力によって、多孔質体が加圧されて気孔内のガス圧が高くなり、その結果、気孔容積が小さくなることによるものと考えられる。尚、多孔質体の気孔率は、混合ガス全体のガス圧が増大するとともに、増加する傾向にある。
【0045】
不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等を例示でき、これらを一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0046】
不活性ガスの圧力については特に限定はなく、目的とする多孔質体が形成されるように適宜決めればよいが、通常、90MPa程度以下とすることが好ましい。溶解用ガスと不活性ガスの混合比率は、特に限定的ではないが、通常、両者の合計圧を基準として、不活性ガスの圧力を95%程度以下とすればよい。また、不活性ガスを混合することによる効果を有効に発揮するためには、溶解用ガスと不活性ガスの合計圧を基準として、通常、不活性ガスの圧力を5%程度以上とすればよい。
【0047】
上記した方法に従って金属原料を溶融させた後、溶融した金属を冷却して凝固させことにより、固相/液相界面近傍の固相部分には、液相部分に溶解していたガスが析出し、固相部分に多数の気孔が形成される。本発明方法では、浮遊帯溶融法を採用して、金属原料を移動させながら連続的に冷却するので、金属の長手方向における冷却速度がほぼ一定となり、長手方向について、気孔形状、気孔径、気孔率などを制御でき、長手方向に成長した均一な気孔を有する多孔質体を得ることができる。
【0048】
この際、金属原料の移動速度を変化させることによって、形成される多孔質体の気孔径を制御することができる。即ち、金属原料の移動速度が大きいほど冷却速度が速くなり、形成される気泡が合一して大きくなることが防止されて、気孔径の小さい多孔質体を得ることができる。
【0049】
金属原料の移動速度については特に限定的ではなく、金属原料の大きさ、目的とする気孔径等を考慮して適当な冷却速度となるように決めれば良く、通常、10μm/秒〜10000μm/秒程度の範囲の移動速度とすればよい。
【0050】
更に、溶融した金属を冷却凝固させる際に、溶融した金属を強制的に冷却することによって、自然冷却する場合と比較して、金属の全体を迅速に冷却することができる。その結果、金属の内部における気孔の成長が抑制されて、より径の小さい気孔を形成することができる。特に、強制的な冷却を行う場合には、冷却速度を適宜設定することによって、熱伝導性が低い金属であっても内部まで迅速に冷却でき、均一な気孔を形成することが可能となる。
【0051】
強制的な冷却を行う方法については特に限定的ではないが、例えば、気体を噴霧して冷却する方法、金属原料の形状に応じた内面形状を有する冷却用ジャケットを用いて接触冷却する方法、金属原料の一端又は両端部を水冷ブロックに接触させる方法などを採用できる。図2の左図に気体を噴霧して冷却する方法の概要を模式的に示し、図2の右図に水冷ジャケットを用いて冷却する方法の概要を模式的に示す。気体を噴霧する方法としては、例えば、装置底部に滞留する低温の雰囲気ガスを循環させて凝固させる部分に加圧噴霧する方法などを採用できる。
【0052】
この様な方法で強制的な冷却を行う場合には、温度勾配が移動速度に関係なく大きく保たれるので、移動速度が大きいほど冷却速度が速くなって、気孔径の小さい多孔質体を得ることができる。
【0053】
更に、本発明方法では、浮遊帯溶融法によって金属原料を溶融させることに先立って、必要に応じて、多孔質体の金属原料を気密容器内に収容し、減圧下に常温から金属の融点未満の温度で保持することによって、金属原料の脱ガスを行ってもよい。この操作により、金属中に含まれる不純物量を減少させて、最終的により高品質の多孔質金属体を得ることができる。
【0054】
脱ガスの具体的な条件にいついては、上記した第一方法における工程(1)と同様でよい。
【0055】
凝固した金属では、溶融状態の金属に溶解したガスが析出して気泡が生成し、ガス気泡は金属の凝固とともに長手方向に成長して、多数の気孔を有する多孔質金属体が形成される。
【0056】
得られる多孔質金属体では、気孔形状、孔径、気孔率などについては、溶融温度、溶解用ガスの種類、圧力、不活性ガスとの混合割合、金属原料の移動速度、冷却条件等を適宜調整することによって、自由に制御可能である。
以上の第一方法及び第二方法によれば多孔質金属体を製造できる。但し、これらの方法では、溶融金属が凝固する際に、金属の表面部分から凝固が始まるため、形成される金属多孔質体の表面には、気孔の開口部が存在しないことが多い。このため、得られた金属多孔質体が、上記条件を満足する開放気孔を含まない場合には、表面部分に上記条件を満足する開放気孔が現れるように材料を切断して用いればよい。
吸音方法
本発明の吸音材料を用いて吸音を行うには、該吸音材料を、開放気孔を有する面が音の入射方向に面するように設置すればよい。この場合、該吸音材料における開放気孔の成長方向が、音の入射方向とほぼ平行になるように該吸音材料を設置することが好ましいが、これに限定されるものではなく、開放気孔の成長方向と音の入射方向が作る角度が60度程度以内であれば、充分な吸音効果を発揮できる。
【0057】
本発明の吸音材料により吸音できる音の周波数については、特に限定的ではなく、例えば、100Hz〜10kHz程度の周波数の音に対して充分な吸音効果を発揮できる。通常、周波数の増加と共に吸音率が増加する傾向があり、低周波数より高周波数の方が吸音率が高くなる。
【0058】
また、該吸音材料を剛壁に接した状態で開放気孔の成長方向が音の入射方向と平行になるように設置する場合には、入射する音の波長をλとすると、該吸音材料の厚さがλ/4に相当する場合にその波長に対する最大の吸音率となる。例えば、吸音材料の厚さが10mm、20mm、及び30mmの場合には、それぞれ、音の周波数が8.5KHz、4.25KHz及び2.5KHzの場合に最大の吸音率となる。従って、開放気孔による吸音効果を最大に発揮するためには、この点を考慮して、最適の材料厚さを決めればよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明の吸音材料は、従来の多孔質型の吸音材に近い音響特性を示すものであり、吸音材料として優れた性能を発揮できる。
【0060】
しかも、本発明の吸音材料は、従来のガラスウールなどの非金属吸音材料、発泡金属などと比較して高い強度を有し、更に、通常の金属と同様に機械加工や合金化による高強度化も可能である。また、該吸音材料は、電気伝導性や熱伝導性にも優れているので、広範囲の分野での利用が期待される。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0062】
製造例1
マグネシウムを真空の高圧チャンバー内で高周波溶解した後、チャンバー内に水素とアルゴンの高圧混合ガスを導入した。この際、水素分圧とアルゴン分圧の比は1:2、2:2、3:1の三種類で製造を行った。
【0063】
その後、1023K〜1063Kの温度で保持して水素を溶け込ませた溶湯を、底部に水冷チルを設けた鋳型に鋳込んで、一方向に凝結させて多孔質マグネシウムを作製した。得られた鋳塊は、直径100mmの円柱状であった。
【0064】
上記した方法で得られた多孔質マグネシウムの各試料について、ワイヤーカット放電加工機を用いて、表面に気孔の開口部が現れるように円柱状に切断し、厚さ10mm、20mm及び30mmの円柱状の試料を作製した。
【0065】
得られた試料は、いずれも切断面にほぼ垂直方向に成長した開放気孔を有するものであり、水素分圧:アルゴン分圧=1:2の条件で得た試料は、平均気孔径284μm、平均の気孔長さ15mm、気孔率31%であり、水素分圧:アルゴン分圧=2:2の条件で得た試料は、平均気孔径495μm、平均の気孔長さ25mm、気孔率53%であり、水素分圧:アルゴン分圧=3:1の条件で得た試料は、平均気孔径734μm、平均の気孔長さ35mm、気孔率44%であった。
【0066】
実施例1
製造例1と同様の方法で作製した多孔質マグネシウムを用いて、下記の方法でJIS A 1405に準じた定在波法によって吸音率を測定した。
【0067】
即ち、図3に模式的に示す測定装置を用い、管の一端に剛壁に接する状態で試料を取り付け、管の他端に設置したスピーカーから純音を発生させた。
【0068】
この方法において、入射波の振幅をA、反射波の振幅をBとすれば、音圧の極大値は|p|max=|A+B|、音圧の極小値は|p|min=|A−B|となり、
|p|max /|p|min=|A+B|/|A−B|=n
とおけば、試料の音圧反射率は、
|γ|=|A/B|=(n−1)/(n+1)
となるから、垂直入射吸音率は
α=1−|γ =4/(n+1/n+2)
となる。
【0069】
管内でマイクロホンを移動してnを測定することにより、上記式に基づいて垂直入射吸音率αを測定した。結果を以下に示す。
(1)気孔径と吸音率との関係
気孔率が一定で開口気孔径が異なる試料を作製し、気孔径と垂直入射吸音率との関係を求めた。厚さt=20mm、気孔率P=48%であって、気孔径dが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を図4に示す。
【0070】
図4から明らかなように、周波数の増加とともに垂直入射吸音率が増加する傾向がある。特に、低周波数より高周波数の方が吸音率が顕著に増大し、周波数2.5kHz付近に最大吸音率が認められた。また、気孔径が大きくなると垂直入射吸音率が減少する傾向であった。
(2)気孔率と吸音率の関係
気孔径が一定で気孔率が異なる試料を作製し、気孔率と垂直入射吸音率との関係を求めた。厚さt=20mm、平均気孔径d=320μmであって、気孔率Pが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を図5に示す。
【0071】
図5から明らかなように、これらの試料では、周波数(Frequency)を4kHz程度まで増加させると、垂直入射吸音率が大幅に増加する傾向があり、周波数2.5kHz付近に最大吸音率が認められた。また、気孔率を38%から57%まで増加させると、垂直入射吸音率が増加する傾向であった。
(3)厚さと吸音率との関係
気孔径及び気孔率が一定で厚さが異なる試料を作製し、厚さと垂直入射吸音率との関係を求めた。気孔率48%、平均気孔径d=390μmであって、厚さtが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を図6に示す。
【0072】
図6から明らかなように、試料の厚さを10mmから30mmに増加させると、吸音率が高くなる傾向があり、いずれの試料も周波数(Frequency)の増加とともに垂直入射吸音率が増加し、特に、低周波数より高周波数の方が顕著に増大した。また、厚さ30mmの試料では、周波数2kHz付近に最大吸音率が認められ、厚さ20mmの試料では、周波数3kHz付近に最大吸音率が認められた。厚さ10mmの試料では、周波数4kHzまで最大吸音率が認められ、試料の厚さを増すと周波数の低い低音域の吸音率が増大する傾向であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】多孔質金属体を製造する第二方法において、金属原料を垂直方向に移動させながら、部分的に溶融を行う方法を模式的に示す図面。
【図2】多孔質金属体を製造する第二方法において、溶融した金属を強制的に冷却する方法の一例を模式的に示す図面。
【図3】実施例1における垂直入射吸音率の測定装置を模式的に示す図面。
【図4】気孔径dが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を示すグラフ。
【図5】気孔率Pが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を示すグラフ。
【図6】厚さtが異なる試料について、周波数(Frequency)と吸音率(Absorption Coefficient)との関係を示すグラフ。

Claims (3)

  1. 一定方向に成長した開放気孔を含む多孔質金属体からなる吸音材料。
  2. 多孔質金属体が下記条件を満足するものである請求項1に記載の吸音材料:
    (1)表面の開口部における気孔の平均直径が100〜800μm、
    (2)気孔の平均長さが、0.2mm〜60mmであって、気孔直径の2〜200倍、
    (3)気孔率が20〜80%、
    (4)気孔の成長方向の延長線同士が作る角度が最大で30度。
  3. 請求項1又は2に記載の吸音材料を、該吸音材料の開放気孔を有する面が音の入射方向に面するように設置することを特徴とする吸音方法。
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