JP2004325794A - フッ化物光学素子の製造方法およびフッ化物光学素子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のフッ化物光学素子の製造方法は、
(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨してフッ化物光学素子とする工程と、
(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程と
を有することを特徴としている。
【効果】本発明によれば、従来の洗浄方法では除去できない、フッ化物光学素子表面に残留する微量の研磨砥粒成分を、効率よく除去することができ、表面部の組成が内部とほぼ同一であって、平滑で清浄な表面性状を有し、短波長光に対しても表面における光吸収損失が極めて少ないフッ化物光学素子を、容易にかつ効率よく製造する方法、およびフッ化物光学素子を提供することができる。
【選択図】 なし
(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨してフッ化物光学素子とする工程と、
(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程と
を有することを特徴としている。
【効果】本発明によれば、従来の洗浄方法では除去できない、フッ化物光学素子表面に残留する微量の研磨砥粒成分を、効率よく除去することができ、表面部の組成が内部とほぼ同一であって、平滑で清浄な表面性状を有し、短波長光に対しても表面における光吸収損失が極めて少ないフッ化物光学素子を、容易にかつ効率よく製造する方法、およびフッ化物光学素子を提供することができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、フッ化物光学素子の製造方法および該製造方法により得られるフッ化物光学素子に関する。詳しくは、本発明は、表面の研磨およびフッ素系ガスとの接触を伴う洗浄により、平滑で清浄な表面を有するフッ化物光学素子を製造する方法、および該方法により得られる表面性状に優れたフッ化物光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の半導体集積回路の高集積化、高密度化に伴って、回路パターンはより精細になり、回路の線幅の微細化が求められている。そして、フォトリソグラフィで精細な回路パターンを製造するためには、より短波長の光による露光が必要となるため、真空紫外光を露光光源とした半導体回路製造用縮小投影露光装置の開発が進められている。
【0003】
フッ化物固体は、長波長から真空紫外域の短波長までの広範な光波長範囲にわたって透明であるという優れた光学特性を有しており、窒化物固体や酸化物固体とは異なり、波長180nm以下の真空紫外領域においても透明であるため、真空紫外用縮小投影露光装置など、真空紫外領域光を利用する場合のレンズやプリズムなどの光学素子として必要不可欠な材料である。
【0004】
一般に、フッ化物固体をレンズやプリズムなどの所望の光学素子形状に加工する工程は、切断、研削、粗研磨、精密研磨(最終研磨)の順に行われる。精密研磨の仕上がり状況は、干渉計で研磨面の面形状を測定し、測定値が設計値とどの程度ずれているかを示すRMS(root mean square)値を求めて判断する。通常、光の波長(nm)をλで示した場合、研磨面のRMS値が数〜数10λ/10000以下に達して初めて、精密研磨が完了したと判断する。すなわち、使用する光の波長が短くなるほど、研磨面はより高い仕上がり精度を要求されるわけである。そして、このような条件を満たす精密研磨を完了して初めて、設計値どおりの光学特性を呈する光学素子となる。得られた光学素子は、中性洗剤、蒸留水およびイソプロピルアルコールで順次洗浄され、光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などが取り除かれる。
【0005】
縮小投影露光装置では、レーザ光源から半導体回路が露光されるウエハまでの間に、数十枚にも及ぶ様々な形状・用途のフッ化物光学素子が配置されており、これらのフッ化物光学素子表面には、光反射を低減する目的で、反射防止膜や反射膜などのフッ化物光学薄膜がコートされている。フッ化物光学素子材料、フッ化物光学素子表面及びフッ化物光学薄膜には、多少の光吸収があるため、最終的にウエハ表面へ到達する光量はかなり小さくなる。露光性能、生産性を向上するために、この光量減少量をできる限り小さくするための技術の開発が求められている。
【0006】
最近の活発な研究の成果から、フッ化物光学素子の材料やフッ化物光学薄膜に関しては、光吸収の原因となる欠陥や不純物の含有量を低減する方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、育成の前段階でスカベンジャーを用いた前処理を行って高純度の前処理品を得ることにより、不純物が少なく高純度なフッ化カルシウム単結晶を製造する方法が提案されている。また、特許文献2には、蒸着により基板に成膜されたフッ素欠損のあるフッ化物薄膜を、活性フッ素雰囲気中に格納することにより、膜全体をフッ素化し、フッ素欠損を補う方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、フッ化物光学素子自体の光吸収損失をさらに減少させる技術の出現が強く求められていた。
本発明者は、このような状況に鑑みて鋭意研究した結果、より波長の短い真空紫外光用途のフッ化物光学素子では、精密研磨(最終研磨)後の従来洗浄法において、新たな問題があることを見出した。
【0008】
精密研磨(最終研磨)後のフッ化物光学素子表面には、研磨砥粒が残留している。従来洗浄方法により、フッ化物光学素子表面を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールを用いて順次洗浄すると、光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などの大部分は取り除かれる。しかしながら、このような従来洗浄では、フッ化物光学素子表面に刺さった微量の研磨砥粒や、フッ化物光学素子表面と研磨砥粒との化学反応の結果としてフッ化物光学素子表面に生成した加工変質層を取り除くことが出来ない。本発明者は、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や生成した加工変質層に起因する光吸収損失が、フッ化物光学素子全体の光吸収損失に大きく影響していることを明らかにし、刺さった研磨砥粒や加工変質層を除去する方法を見出して本発明を完成させた。このような問題は、フッ化物光学素子を使用してきた従来の波長領域、すなわち赤外光〜可視光〜紫外光の領域では全く問題とならなかったものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−315893号公報
【特許文献2】
特開2001−264512号公報
【0010】
【発明の目的】
本発明はこのような背景の下になされたものであって、研磨後のフッ化物光学素子表面に刺さった微量の研磨砥粒や生成した加工変質層を除去して、光吸収損失が少なく、平滑で清浄な表面を有するフッ化物光学素子を製造する方法および該方法により得られるフッ化物光学素子を提供することを目的とする。
【0011】
【発明の概要】
本発明は以下の〔1〕〜〔9〕に関する。
〔1〕(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨してフッ化物光学素子とする工程と、
(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程とを有することを特徴とするフッ化物光学素子の製造方法。
〔2〕前記研磨砥粒が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記〔1〕に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔3〕前記研磨砥粒が二酸化ケイ素である上記〔2〕に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔4〕前記フッ化物固体が、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ランタン、フッ化アルミニウム、フッ化ネオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ディスプロシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ビスマス、フッ化ストロンチウム、フッ化鉛、フッ化セレン、クライオライトおよびチオライトよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ化物からなることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔5〕前記フッ素系ガスが、フッ素ガスを含むものである上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔6〕前記フッ素系ガスが、フッ素ガス、フッ化炭素、フッ化硫黄、フッ化窒素、金属フッ化物、フッ化水素、フッ化ハロゲンおよび希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む含フッ素化合物を、熱、電気またはプラズマにより解離して発生するフッ素を含むガスであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔7〕前記工程(II)における、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度が、10〜500℃の範囲であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法により得られることを特徴とするフッ化物光学素子。
〔9〕 前記工程(I)と前記工程(II)におけるフッ化物光学素子の157nmにおける表面の光吸収損失の差が、0.1%以上であることを特徴とする上記〔8〕に記載のフッ化物光学素子。
【0012】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のフッ化物光学素子の製造方法は、(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨し、フッ化物光学素子とする工程(以下、工程(I)という)と、(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程(以下、工程(II)という)とを有している。
【0013】
本発明に係るフッ化物固体としては、フッ化物光学素子を形成し得るフッ化物がいずれも好ましく用いられるが、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ランタン、フッ化アルミニウム、フッ化ネオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ディスプロシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ビスマス、フッ化ストロンチウム、フッ化鉛、フッ化セレン、クライオライトおよびチオライトからなる群から選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0014】
工程(I)に供するフッ化物固体は、通常、原料フッ化物を切断し、研削、粗研磨を経て、目的とする光学素子の形状におおむね加工したものであって、工程(I)における研磨は、精密研磨(最終研磨)に相当する。工程(I)では、通常、研磨砥粒を水などの溶媒に分散した懸濁液を用いて、フッ化物固体の表面研磨を行う。
【0015】
一般に、フッ化物固体表面の精密研磨に用いられる研磨砥粒の材質としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムなどの酸化物や炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、立方晶窒化ホウ素あるいはダイヤモンドなどが知られている。
本発明の工程(I)で用いる研磨砥粒としては、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の高い化合物を生成する材質の研磨砥粒をいずれも用いることができるが、二酸化ケイ素(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、立方晶窒化ホウ素(BN)およびダイヤモンド(C)からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、フッ化物光学素子材料の精密研磨(最終研磨)用の砥粒として、硬度などの物性値が特に優れている二酸化ケイ素であるのが特に好ましい。
【0016】
工程(I)により得られたフッ化物光学素子を従来洗浄法により洗浄した後のフッ化物光学素子表面には、刺さった研磨砥粒や、化学的な反応により生成した加工変質層が存在している。
このように、表面に刺さった研磨砥粒や、表面に生成した加工変質層を、物理的な方法で除去して清浄な表面のフッ化物光学素子を得ることは極めて困難であるが、工程(I)に続いて実施される工程(II)において、充分にフッ素化反応が進行した場合には、反応式例<1>〜<5>に一例として示すように、フッ素系ガスとの反応により揮発性の高い物質が生成して、化学的にエッチング除去することが可能となる。
【0017】
SiO2 + 2F2 → SiF4↑ + O2↑ ・・・<1>
SiC + 4F2 → SiF4↑ + CF4↑ ・・・<2>
B4C + 8F2 → 4BF3↑ + CF4↑ ・・・<3>
BN + 3/2F2 → BF3↑ + 1/2N2↑ ・・・<4>
C + 2F2 → CF4↑ ・・・<5>
一方、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化セリウムなどの、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の低い化合物を生成する材質の研磨砥粒の使用は、残留した研磨砥粒が工程(II)において充分に除去されないため好ましくない。
【0018】
たとえば、酸化アルミニウム(アルミナ(Al2O3))を研磨砥粒として用いて工程(I)を行い、従来洗浄を経て得られるフッ化物光学素子表面には、酸化アルミニウム研磨砥粒が刺さっていたり、酸化アルミニウムとフッ化物との化学反応によって加工変質層が生成していたりする。これに対して続く工程(II)を行い、充分にフッ素化反応が進行した場合であっても、残留元素のアルミニウムを除去することは困難である。これは、反応式例<6>に示すように、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や生成した加工変質層とフッ素系ガスとの反応生成物であるフッ化アルミニウムの揮発性が低いために、フッ化物光学素子表面から除去できないためである。
【0019】
Al2O3 + 3F2 → 2AlF3 + 3/2O2↑ ・・・<6>
このように、酸化アルミニウムを研磨砥粒として選択した場合には、反応生成物であるフッ化アルミニウムがフッ化物光学素子表面に残留してしまう。フッ化物光学素子表面に残留するフッ化アルミニウムは、フッ化物光学素子表面に強固に付着または刺さった状態、および/あるいは、フッ化物光学素子表面との化学的な反応により加工変質層を形成した状態として存在していると考えられる。フッ化アルミニウム自体は、真空紫外領域において透明であるため、工程(II)によりフッ化物光学素子表面の光吸収損失は低減されるように推測されるが、実際には、フッ化アルミニウムは化学的に不安定な物質であるため、大気中の酸素や水分との反応によって、真空紫外光を吸収する酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムに変化して、結果として光吸収損失を増加させてしまう場合がある。
【0020】
また、たとえば研磨砥粒として酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムを用いた場合にも、酸化アルミニウムを用いた場合と同様に、フッ素系ガスとの反応生成物であるフッ化ジルコニウムまたはフッ化セリウムの揮発性が低いため、工程(I)で残留した研磨砥粒や加工変質層を工程(II)で充分に除去することは困難である。このため本発明では、研磨砥粒として、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の低い化合物を生成する材料を選択することは好ましくない。
【0021】
工程(II)では、工程(I)により表面が研磨されたフッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させることにより、フッ化物光学素子表面に残留した微量の研磨砥粒由来の成分と、フッ素系ガスとを充分に反応させて、揮発性の高いフッ化物を生成させることにより、研磨砥粒由来の成分をフッ化物光学素子表面から除去する洗浄を行う。
【0022】
工程(II)で用いるフッ素系ガスは、フッ素(F)を含有するガスであるが、フッ素ガス(F2)を含むものであることが好ましい。また、フッ素ラジカルまたはフッ素イオンのような活性フッ素を含むガスなどの、反応性が高いフッ素ガス雰囲気を選択することができる。具体的には、フッ素系ガスとして、フッ素ガス;四フッ化炭素などのフッ化炭素;六フッ化硫黄などのフッ化硫黄;三フッ化窒素などのフッ化窒素;四フッ化マンガンや二フッ化銀などの金属フッ化物;フッ化水素;三フッ化塩素などのフッ化ハロゲン;二フッ化キセノンなどの希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む含フッ素化合物を、熱、電気、プラズマからなる群から選ばれるいずれか一つの手段により解離して発生するフッ素を含むガス雰囲気を選択して用いるのが好ましい。また、このようなフッ素系ガスは、研磨砥粒由来の成分と反応を生じない希ガスなどのガスで希釈して用いることも好ましい。
【0023】
工程(II)において、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度は、10〜500℃、好ましくは50〜400℃の範囲であることが好ましい。
このような工程(II)では、フッ化物光学素子の表面に残留する研磨砥粒由来の元素と、フッ素系ガスとが反応し、研磨砥粒由来の元素が揮発性物質としてフッ化物光学素子の表面から除去される。これによって、物理的洗浄では除去できなかった、刺さった研磨砥粒や加工変質層がフッ化物光学素子表面から好適に除去され、研磨砥粒および加工変質層に起因する光吸収損失が大幅に低減され、より光学特性に優れたフッ化物光学素子を得ることができる。
【0024】
このようにして得られたフッ化物光学素子は、研磨砥粒あるいは加工変質層に起因する光学素子表面の光吸収損失が小さく、特に短波長の光に対しても高度の透過性を示し、通常、157nmにおける表面の光吸収損失が、フッ素化反応により0.1%以上低減され、優れた光学特性を示す。
このような工程(II)の一例について、本発明を何ら限定するものではないが、図1を参照してさらに具体的に説明する。
【0025】
図1は、フッ化物光学素子表面をフッ素系ガスと接触させて洗浄する本発明の工程(II)を、実施することが可能な洗浄装置の例である。図1において、1はニッケルで製作されたフッ素ガス発生源、2はフッ素ガスを希釈するためのヘリウムガスボンベ、3はフッ素ガス、ヘリウムガス、およびフッ素/ヘリウム混合ガスを供給するためのモネル製ガス配管、4は接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ、5はニッケルで製作された洗浄炉、6はニッケルで製作されたフッ化物光学素子の固定治具、7はフッ化物光学素子、8は温度計測用熱電対、9はPID制御可能な外部ヒーター、10は圧力計、11は流量制御および圧力制御手段、12は排気系、13はフッ素ガス排出手段を示す。
【0026】
洗浄炉5内には、予めフッ素ガスを導入して加熱し、洗浄炉内壁およびフッ化物光学素子の固定治具をフッ素化させて、表面にフッ化ニッケルを析出させて不働態化処理を施しておくことが望ましい。
また、洗浄炉内壁、ガス配管内壁、バルブの接ガス部の材質は、ニッケル、ニッケル系合金、銅、銅系合金、アルミニウムおよびアルミニウム系合金の中の少なくとも一つであることが望ましく、かつ、クロム、チタンの含有濃度が1%以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下である材料で構成されていることが望ましい。
【0027】
フッ化物光学素子を研磨した後のフッ素洗浄方法は、フッ化物光学素子の格納工程、洗浄炉内の水分脱気工程、フッ素化反応工程、フッ化物光学素子の取り出し工程、までの4工程の連続作業により行われる。なお、洗浄炉内の水分脱気工程は省略しても良いが、フッ化物光学素子の格納工程およびフッ素化反応工程およびフッ化物光学素子の取り出し工程は必須の工程である。以下に各工程の詳細を述べる。
【0028】
フッ化物光学素子の格納工程においては、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドからなる群から選ばれる少なくとも一種である研磨砥粒を分散させた懸濁液にて精密研磨(最終研磨)を終え、従来洗浄を施したフッ化物光学素子7を洗浄炉5内のフッ化物光学素子固定治具6に固定した後、洗浄炉5を閉止する。
【0029】
洗浄炉内の水分脱気工程においては、たとえば、洗浄炉5内を排気系12により10−5Paまで排気した後、洗浄炉5内にガス配管3を通じてヘリウムガスを流しながら、外部ヒーター9を用いて洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度を150℃まで加熱しながら12時間保持して、水分を脱気する。温度計測には熱電対8を用いる。この洗浄炉内の水分脱気工程は、洗浄炉5内壁の腐食劣化防止に有効である。なお、洗浄炉内の水分脱気工程を行わない場合でも、フッ化物光学素子の研磨面に対する洗浄効果は低減しないため、洗浄炉内の水分脱気工程を省略することも可能である。
【0030】
表面が研磨されたフッ化物光学素子7とフッ素系ガスとを接触させることにより行うフッ素化反応工程においては、たとえば、フッ素ガス発生源1から供給されるフッ素ガスを、ヘリウムガスにより1%程度の濃度に希釈し、ガス配管3およびバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入する。洗浄炉5内のガス雰囲気の温度を100℃として、フッ化物光学素子の研磨面におけるフッ素化反応を進行させる。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示値が0.1MPa(大気圧)となるように調節して、計時開始する。排気系を開放して、ガス流通を継続する開放系洗浄炉としても良いし、排気系を閉止して、ガスを流通しない密閉系洗浄炉としても良い。この状態で所定時間経過させる。なお、フッ素化反応工程においては、フッ化物光学素子の研磨面におけるフッ素化反応が進行する条件を選択すれば良く、洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度、すなわち、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度は10〜500℃、好ましくは50〜400℃、より好ましくは100〜300℃に設定する。10℃未満の温度では、フッ素化反応の進行速度が遅いために洗浄効率が低くなり、500℃を越える温度では、洗浄炉5内壁やフッ化物光学素子固定用治具6の材料が腐食劣化する問題が生じる場合がある。フッ素ガスの濃度は1ppm〜100%の任意の濃度を選択することができる。ガスの圧力についても10−5〜107Paの任意の圧力を選択することができる。また、所定時間とは、フッ化物光学素子の研磨面を充分に洗浄するのに必要な時間を意味しており、フッ化物光学素子の材質、精密研磨(最終研磨)工程における研磨砥粒の材質や研磨条件、フッ素化反応工程における洗浄炉5内のガス雰囲気の温度およびフッ素ガス濃度、およびガスの圧力によって決定される。これまでの実験結果から、二酸化ケイ素(SiO2)系研磨砥粒を用いて蛍石(フッ化カルシウム)表面を研磨した後の洗浄では、洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度を100℃として、フッ素濃度を1%とした場合には、所定時間は1時間で充分であることが確認されている。所定時間経過後に、洗浄炉5内を加熱している場合には加熱を停止して、洗浄炉5内におけるフッ化物光学素子7の温度が室温程度となるまで冷却させる。
【0031】
フッ素化反応工程においては、フッ素系ガス雰囲気として、反応性が高いフッ素ガス雰囲気を選択することが好ましいが、フッ素ガス、四フッ化炭素などのフッ化炭素、六フッ化硫黄などのフッ化硫黄、三フッ化窒素などのフッ化窒素、四フッ化マンガンや二フッ化銀などの金属フッ化物、フッ化水素、三フッ化塩素などのフッ化ハロゲン、二フッ化キセノンなどの希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むフッ素化合物を、熱、電気、プラズマからなる群から選ばれるいずれか一つの手段により解離して発生するフッ素を含むガス雰囲気を選択しても良い。
【0032】
フッ化物光学素子の取り出し工程においては、フッ素系ガスの導入を停止して、洗浄炉5内を排気し、続いてヘリウムガスで充分に置換する。その後、ヘリウムガスによる置換を停止して、洗浄炉5を開放し、洗浄処理を完了したフッ化物光学素子を取り出す。
フッ素化反応工程において、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や加工変質層が、フッ素化反応により除去されて、フッ化物光学素子表面が洗浄される。本発明で得られる洗浄後のフッ化物光学素子の表面は、内部と同様な化学量論組成のフッ化物となる。
【0033】
本発明のフッ化物光学素子は、上述した本発明のフッ化物光学素子の製造方法により得られたものであり、研磨砥粒由来の元素が揮発性物質としてフッ化物光学素子の表面から除去されることにより、研磨砥粒の残留に起因する光吸収損失がほぼゼロまたは極めて小さく、特に短波長の光に対しても高度の透過性を示し、通常、157nmにおける表面の光吸収損失が、フッ素化反応により0.1%以上低減され、優れた光学特性を示す。
【0034】
フッ素化反応によって低減された157nmにおける表面の光吸収損失は、真空紫外分光測定の結果から、以下のように計算することができる。
光学素子の157nmにおける光吸収損失L157nm%は、<A>式で表される。
ここで、表面吸収損失は、光の入射面と出射面の2面で生じるものである。
【0035】
一方、光学素子の157nmにおける透過率(T157nm:%)および反射率(R157nm:%)は、真空紫外分光器を用いて測定が可能であるため、工程(I)および工程(II)実施後の光学素子の157nmにおける光吸収損失L157nm(I)%およびはL157nm(II)%は、それぞれ<B>式および<C>式で求められる。
【0036】
L157nm(I)=100−T157nm(I)−R157nm(I) ・・・<B>
L157nm(II)=100−T157nm(II)−R157nm(II) ・・・<C>
ここで、T157nm(I)およびR157nm(I)は工程(I)実施後の光学素子の157nmにおける透過率および反射率を、T157nm(II)およびR157nm(II)は工程(II)実施後の光学素子の157nmにおける透過率および反射率を示す。
【0037】
本発明のフッ素化反応によって、157nmにおける内部吸収損失は変化しないと考えられることから、フッ素化反応によって低減された157nmにおける表面の光吸収損失ΔL157nm%は、<D>式により算出される。
ΔL157nm=〔L157nm(I)−L157nm(II)〕/2 ・・・<D>
【0038】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
【実施例1】
フッ化カルシウム(CaF2)の単結晶である蛍石を、平行平板形状に加工した。表面の精密研磨(最終研磨)として、二酸化ケイ素(SiO2)研磨砥粒を水に分散した懸濁液をスウェード布にまぶしてバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。得られた蛍石製光学素子を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで順次洗浄して、蛍石製光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などを取り除く従来の方法による洗浄を行った。
【0040】
次いで、図1に示す洗浄装置を用いて、蛍石製光学素子を純ニッケル製の洗浄炉5内の、純ニッケル製フッ化物光学素子固定治具6に固定した後、洗浄炉5を閉止し、蛍石製光学素子を格納した。
次に、洗浄炉5内を排気系12により10−5Paまで排気した後、モネル製フッ素ガス配管3を通じてヘリウムガスを洗浄炉5内に流しながら、PID制御可能な外部ヒーター9を用いて洗浄炉5内のガス雰囲気の温度を150℃まで加熱し、12時間保持して、洗浄炉5内の水分を脱気した。
【0041】
次に、フッ素ガス発生源1から供給されるフッ素ガスを、ヘリウムガスにより1%の濃度に希釈し、ガス配管3および接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入した。ここで、フッ素ガス発生源1では、フルオロニッケル化合物が充填されたニッケル製の容器を使用し、外部ヒーター14を用いてフッ素ガス発生源1を350℃に加熱して、フルオロニッケル化合物の熱分解反応により解離してフッ素ガスを発生させた。洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度は、100℃に設定した。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示値が0.1MPa(大気圧)となるように調節して、計時を開始した。排気系12を開放して、ガス流通を1時間継続し、蛍石製光学素子表面の研磨面におけるフッ素化反応を進行させた。1時間経過後に、洗浄炉5内の温度を室温まで冷却させ、フッ素化反応を終了した。
【0042】
次に、フッ素ガスの導入を停止して、洗浄炉5内を排気し、続いてヘリウムガスで充分に置換した。その後、ヘリウムガスによる置換を停止して、洗浄炉を開放し、洗浄処理を完了した蛍石製光学素子1を取り出した。
得られた蛍石製光学素子1の研磨表面を、TOF−SIMS(時間飛行型二次イオン質量分析)で測定した結果を図2に示す。図2より、実施例1で得られた蛍石製光学素子1は、後述する比較例1で得られた蛍石製光学素子2の表面に比べてCa原子およびF元素の両元素の検出量が共に高く、F/Ca比がほぼ化学量論組成の2であることが確認された。また、Si原子は全く検出されず、O原子は極僅かに検出される程度であった。なお、極僅かに検出されたO原子は物理吸着水由来のものであると考えられる。
【0043】
この結果より、実施例1では、研磨砥粒として用いたSiO2が、蛍石製光学素子表面に刺さった研磨砥粒、および/あるいは、蛍石製光学素子表面においてSiO2とCaF2との間で化学的な反応により生じた加工変質層(CaxSiyOmFn)が、たとえば前記反応式例<1>や下記反応式例<7>に示すようにフッ素ガスと反応して、化学的にエッチング除去され、洗浄されたことがわかる。
【0044】
また、得られた蛍石製光学素子1の透過率スペクトルT(%)、反射率スペクトルR(%)を真空紫外分光器で測定し、光吸収損失(100−T−R(%))を算出した。透過率スペクトルT(%)を図3に、光吸収損失(100−T−R(%))図4にそれぞれ示す。
【0045】
図3および図4より、実施例1で得た蛍石製光学素子1では、後述する従来の研磨・洗浄を施した比較例1で得た蛍石製光学素子2と比べて、波長が160nm以下の領域における吸収損失が小さく、透過率が高いことがわかる。さらに、波長が短くなるほど両者の差は顕著になっている。
これより、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素(SiO2)研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できていることが確認できた。
【0046】
なお、実施例1で得た蛍石製光学素子1においても、短波長域では1%程度の吸収損失が認められるが、これは蛍石内部の吸収に起因するものと考えられる。
これより、次世代のF2(157nm)リソグラフィなど、160nm以下の光学用途において、本発明のフッ化物光学素子の製造方法に係る研磨・洗浄は極めて有効であり、しかも、使用波長が短くなるほど従来の方法での研磨・洗浄に対する有効性は増加することがわかる。
【0047】
また、得られた蛍石製光学素子1と、後述する比較例1で得られた蛍石製光学素子2について、表面の凹凸を原子間力顕微鏡で観察した結果、両者の表面平滑度に顕著な差異は認められなかったので、本発明の製造方法はフッ化物光学素子に問題なく適用できる。
【0048】
【比較例1】
実施例1と同様にして、平行平板形状に加工した蛍石にバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。
次いで、得られた蛍石製光学素子を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで順次洗浄して、蛍石製光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などを取り除く従来の方法による洗浄を行い、蛍石製光学素子2を得た。
【0049】
得られた蛍石製光学素子2の研磨表面を、実施例1と同様にTOF−SIMS(時間飛行型二次イオン質量分析)で測定した結果を実施例1の結果と併せて図2に示す。蛍石製光学素子2では、F/Ca比は化学量論組成の2に比べてかなり小さく、Ca原子とF原子の他に、Si原子とO原子が非常に多く検出されている。これより、蛍石製光学素子2は、研磨砥粒として用いた二酸化ケイ素(SiO2)が、蛍石製光学素子表面に刺さった研磨砥粒、および/あるいは、蛍石製光学素子表面においてSiO2とCaF2が化学的な反応により加工変質層(CaxSiyOmFn)が形成された状態であると考察される。この結果から、従来の研磨・洗浄方法では、研磨後の蛍石製光学素子表面に残留する研磨砥粒(Si原子やO原子)を除去できないことが明らかである。
【0050】
また、得られた蛍石製光学素子2の透過率スペクトルT(%)、反射率スペクトルR(%)を実施例1と同様に真空紫外分光器で測定し、光吸収損失(100−T−R(%))を算出した。透過率スペクトルT(%)を図3に、光吸収損失(100−T−R(%))を図4にそれぞれ実施例1の結果と併せて示す。波長が160nm以下になると、蛍石製光学素子表面に残留する研磨砥粒に由来する光吸収が発生するために、透過率が低下していることがわかる。
【0051】
【実施例2】
実施例1において、図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、図5に示すようなフッ化水素(HF)の電解槽とした以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
図5において、15は電解槽、16は水素ガス、17は陰極、18は隔膜、19は直流電圧源、20は絶縁碍子、21はフッ素ガス、22は陽極、23は電解液を示す。ここで、電解液23はフッ化水素とフッ化カリウム(KF)の溶融混合物(HF/KFのモル組成比2)として、約100℃の温度で電気分解してフッ素ガスを発生させた。
【0052】
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源としてフッ化水素の電解槽を選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0053】
【実施例3】
図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、フッ素ガスが充填されたモネル製のシリンダーとした以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
【0054】
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源としてフッ素ガスを充填したシリンダーを選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0055】
【実施例4】
図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、図6に示すような四フッ化炭素ガス(CF4)のプラズマ発生装置として、フッ素化反応による洗浄処理条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
【0056】
図6において、24はプラズマチャンバー、25は四フッ化炭素ガス、26は陽極、27および28はアース、29は高周波電源、30はブロッキングコンデンサ、31は絶縁碍子、32は陰極、33はフッ素を含むガス、34はプラズマを示す。ここで、高周波の周波数を13.56MHz、出力を100Wとして、プラズマチャンバー内のガス圧力を10Paとして、四フッ化炭素をプラズマ分解してフッ素(F)を含むガスを発生させた。プラズマチャンバーから発生されるフッ素(F)を含むガスを、ガス配管3および接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入した。洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度は、300℃に設定した。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示が10Paとなるように調整して、経時を開始した。排気系12を開放して、ガス流通を1時間継続し、蛍石製光学素子表面におけるフッ素化反応を進行させた。1時間経過後に、洗浄炉5内の温度を室温まで冷却させ、フッ素化反応を終了した。
【0057】
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源として四フッ化炭素のプラズマ発生装置を選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0058】
【比較例2】
実施例1と同様にして、平行平板形状に加工した蛍石にバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。得られた蛍石製光学素子を、酸化セリウムなどの他の研磨砥粒を用いて、加工変質層を物理的に取り除くことを試みた。その後、中性洗剤、蒸留水およびイソプロピルアルコールで順次洗浄する従来の方法による洗浄を行ったが、研磨後の蛍石製光学素子表面には必ず最終研磨に使用した研磨砥粒が残留して、研磨砥粒に由来する光吸収を生じることが確認された。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、フッ化物光学素子表面に刺さっている研磨砥粒、および、フッ化物光学素子表面と研磨砥粒との化学的な反応によって形成された加工変質層を、効率よく除去することができ、表面部の組成が内部とほぼ同一であって、平滑で清浄な表面性状を有し、短波長光に対しても表面における光吸収損失が極めて少ないフッ化物光学素子を、容易にかつ効率よく製造する方法、およびフッ化物光学素子を提供することができる。本発明に係るフッ化物光学素子は、平滑で清浄な表面を有し、短波長光に対しても光吸収損失が極めて少なく、特に真空紫外領域用の光学素子として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の工程(II)を実施することができる洗浄装置の一例を示す。
【図2】図2は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、TOF−SIMSによる測定結果を示す。
【図3】図3は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、真空紫外域透過率スペクトルを示す。
【図4】図4は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、真空紫外域光吸収損失スペクトルを示す。
【図5】図5は、実施例2に使用したフッ素発生源の概略図を示す。
【図6】図6は、実施例4に使用したフッ素発生源の概略図を示す。
【符号の説明】
1 … フッ素ガス発生源
2 … ヘリウムガスボンベ
3 … ガス供給配管
4 … バルブ
5 … 洗浄炉
6 … フッ化物光学素子の固定治具
7 … フッ化物光学素子
8 … 温度計測用熱電対
9 … 外部ヒーター
10 … 圧力計
11 … 流量・圧力制御手段
12 … 排気系
13 … フッ素ガス排出手段
14 … 外部ヒーター
15 … 電解槽
16 … 水素ガス
17 … 陰極
18 … 隔膜
19 … 直流電圧源
20 … 絶縁碍子
21 … フッ素ガス
22 … 陽極
23 … 電解液
24 … プラズマチャンバー
25 … 四フッ化炭素ガス
26 … 陽極
27 … アース
28 … アース
29 … 高周波電源
30 … ブロッキングコンデンサ
31 … 絶縁碍子
32 … 陰極
33 … フッ素(F)を含むガス
34 … プラズマ
【発明の技術分野】
本発明は、フッ化物光学素子の製造方法および該製造方法により得られるフッ化物光学素子に関する。詳しくは、本発明は、表面の研磨およびフッ素系ガスとの接触を伴う洗浄により、平滑で清浄な表面を有するフッ化物光学素子を製造する方法、および該方法により得られる表面性状に優れたフッ化物光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の半導体集積回路の高集積化、高密度化に伴って、回路パターンはより精細になり、回路の線幅の微細化が求められている。そして、フォトリソグラフィで精細な回路パターンを製造するためには、より短波長の光による露光が必要となるため、真空紫外光を露光光源とした半導体回路製造用縮小投影露光装置の開発が進められている。
【0003】
フッ化物固体は、長波長から真空紫外域の短波長までの広範な光波長範囲にわたって透明であるという優れた光学特性を有しており、窒化物固体や酸化物固体とは異なり、波長180nm以下の真空紫外領域においても透明であるため、真空紫外用縮小投影露光装置など、真空紫外領域光を利用する場合のレンズやプリズムなどの光学素子として必要不可欠な材料である。
【0004】
一般に、フッ化物固体をレンズやプリズムなどの所望の光学素子形状に加工する工程は、切断、研削、粗研磨、精密研磨(最終研磨)の順に行われる。精密研磨の仕上がり状況は、干渉計で研磨面の面形状を測定し、測定値が設計値とどの程度ずれているかを示すRMS(root mean square)値を求めて判断する。通常、光の波長(nm)をλで示した場合、研磨面のRMS値が数〜数10λ/10000以下に達して初めて、精密研磨が完了したと判断する。すなわち、使用する光の波長が短くなるほど、研磨面はより高い仕上がり精度を要求されるわけである。そして、このような条件を満たす精密研磨を完了して初めて、設計値どおりの光学特性を呈する光学素子となる。得られた光学素子は、中性洗剤、蒸留水およびイソプロピルアルコールで順次洗浄され、光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などが取り除かれる。
【0005】
縮小投影露光装置では、レーザ光源から半導体回路が露光されるウエハまでの間に、数十枚にも及ぶ様々な形状・用途のフッ化物光学素子が配置されており、これらのフッ化物光学素子表面には、光反射を低減する目的で、反射防止膜や反射膜などのフッ化物光学薄膜がコートされている。フッ化物光学素子材料、フッ化物光学素子表面及びフッ化物光学薄膜には、多少の光吸収があるため、最終的にウエハ表面へ到達する光量はかなり小さくなる。露光性能、生産性を向上するために、この光量減少量をできる限り小さくするための技術の開発が求められている。
【0006】
最近の活発な研究の成果から、フッ化物光学素子の材料やフッ化物光学薄膜に関しては、光吸収の原因となる欠陥や不純物の含有量を低減する方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、育成の前段階でスカベンジャーを用いた前処理を行って高純度の前処理品を得ることにより、不純物が少なく高純度なフッ化カルシウム単結晶を製造する方法が提案されている。また、特許文献2には、蒸着により基板に成膜されたフッ素欠損のあるフッ化物薄膜を、活性フッ素雰囲気中に格納することにより、膜全体をフッ素化し、フッ素欠損を補う方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、フッ化物光学素子自体の光吸収損失をさらに減少させる技術の出現が強く求められていた。
本発明者は、このような状況に鑑みて鋭意研究した結果、より波長の短い真空紫外光用途のフッ化物光学素子では、精密研磨(最終研磨)後の従来洗浄法において、新たな問題があることを見出した。
【0008】
精密研磨(最終研磨)後のフッ化物光学素子表面には、研磨砥粒が残留している。従来洗浄方法により、フッ化物光学素子表面を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールを用いて順次洗浄すると、光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などの大部分は取り除かれる。しかしながら、このような従来洗浄では、フッ化物光学素子表面に刺さった微量の研磨砥粒や、フッ化物光学素子表面と研磨砥粒との化学反応の結果としてフッ化物光学素子表面に生成した加工変質層を取り除くことが出来ない。本発明者は、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や生成した加工変質層に起因する光吸収損失が、フッ化物光学素子全体の光吸収損失に大きく影響していることを明らかにし、刺さった研磨砥粒や加工変質層を除去する方法を見出して本発明を完成させた。このような問題は、フッ化物光学素子を使用してきた従来の波長領域、すなわち赤外光〜可視光〜紫外光の領域では全く問題とならなかったものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−315893号公報
【特許文献2】
特開2001−264512号公報
【0010】
【発明の目的】
本発明はこのような背景の下になされたものであって、研磨後のフッ化物光学素子表面に刺さった微量の研磨砥粒や生成した加工変質層を除去して、光吸収損失が少なく、平滑で清浄な表面を有するフッ化物光学素子を製造する方法および該方法により得られるフッ化物光学素子を提供することを目的とする。
【0011】
【発明の概要】
本発明は以下の〔1〕〜〔9〕に関する。
〔1〕(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨してフッ化物光学素子とする工程と、
(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程とを有することを特徴とするフッ化物光学素子の製造方法。
〔2〕前記研磨砥粒が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記〔1〕に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔3〕前記研磨砥粒が二酸化ケイ素である上記〔2〕に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔4〕前記フッ化物固体が、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ランタン、フッ化アルミニウム、フッ化ネオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ディスプロシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ビスマス、フッ化ストロンチウム、フッ化鉛、フッ化セレン、クライオライトおよびチオライトよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ化物からなることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔5〕前記フッ素系ガスが、フッ素ガスを含むものである上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔6〕前記フッ素系ガスが、フッ素ガス、フッ化炭素、フッ化硫黄、フッ化窒素、金属フッ化物、フッ化水素、フッ化ハロゲンおよび希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む含フッ素化合物を、熱、電気またはプラズマにより解離して発生するフッ素を含むガスであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔7〕前記工程(II)における、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度が、10〜500℃の範囲であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法により得られることを特徴とするフッ化物光学素子。
〔9〕 前記工程(I)と前記工程(II)におけるフッ化物光学素子の157nmにおける表面の光吸収損失の差が、0.1%以上であることを特徴とする上記〔8〕に記載のフッ化物光学素子。
【0012】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のフッ化物光学素子の製造方法は、(I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨し、フッ化物光学素子とする工程(以下、工程(I)という)と、(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程(以下、工程(II)という)とを有している。
【0013】
本発明に係るフッ化物固体としては、フッ化物光学素子を形成し得るフッ化物がいずれも好ましく用いられるが、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ランタン、フッ化アルミニウム、フッ化ネオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ディスプロシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ビスマス、フッ化ストロンチウム、フッ化鉛、フッ化セレン、クライオライトおよびチオライトからなる群から選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0014】
工程(I)に供するフッ化物固体は、通常、原料フッ化物を切断し、研削、粗研磨を経て、目的とする光学素子の形状におおむね加工したものであって、工程(I)における研磨は、精密研磨(最終研磨)に相当する。工程(I)では、通常、研磨砥粒を水などの溶媒に分散した懸濁液を用いて、フッ化物固体の表面研磨を行う。
【0015】
一般に、フッ化物固体表面の精密研磨に用いられる研磨砥粒の材質としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムなどの酸化物や炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、立方晶窒化ホウ素あるいはダイヤモンドなどが知られている。
本発明の工程(I)で用いる研磨砥粒としては、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の高い化合物を生成する材質の研磨砥粒をいずれも用いることができるが、二酸化ケイ素(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、立方晶窒化ホウ素(BN)およびダイヤモンド(C)からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、フッ化物光学素子材料の精密研磨(最終研磨)用の砥粒として、硬度などの物性値が特に優れている二酸化ケイ素であるのが特に好ましい。
【0016】
工程(I)により得られたフッ化物光学素子を従来洗浄法により洗浄した後のフッ化物光学素子表面には、刺さった研磨砥粒や、化学的な反応により生成した加工変質層が存在している。
このように、表面に刺さった研磨砥粒や、表面に生成した加工変質層を、物理的な方法で除去して清浄な表面のフッ化物光学素子を得ることは極めて困難であるが、工程(I)に続いて実施される工程(II)において、充分にフッ素化反応が進行した場合には、反応式例<1>〜<5>に一例として示すように、フッ素系ガスとの反応により揮発性の高い物質が生成して、化学的にエッチング除去することが可能となる。
【0017】
SiO2 + 2F2 → SiF4↑ + O2↑ ・・・<1>
SiC + 4F2 → SiF4↑ + CF4↑ ・・・<2>
B4C + 8F2 → 4BF3↑ + CF4↑ ・・・<3>
BN + 3/2F2 → BF3↑ + 1/2N2↑ ・・・<4>
C + 2F2 → CF4↑ ・・・<5>
一方、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化セリウムなどの、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の低い化合物を生成する材質の研磨砥粒の使用は、残留した研磨砥粒が工程(II)において充分に除去されないため好ましくない。
【0018】
たとえば、酸化アルミニウム(アルミナ(Al2O3))を研磨砥粒として用いて工程(I)を行い、従来洗浄を経て得られるフッ化物光学素子表面には、酸化アルミニウム研磨砥粒が刺さっていたり、酸化アルミニウムとフッ化物との化学反応によって加工変質層が生成していたりする。これに対して続く工程(II)を行い、充分にフッ素化反応が進行した場合であっても、残留元素のアルミニウムを除去することは困難である。これは、反応式例<6>に示すように、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や生成した加工変質層とフッ素系ガスとの反応生成物であるフッ化アルミニウムの揮発性が低いために、フッ化物光学素子表面から除去できないためである。
【0019】
Al2O3 + 3F2 → 2AlF3 + 3/2O2↑ ・・・<6>
このように、酸化アルミニウムを研磨砥粒として選択した場合には、反応生成物であるフッ化アルミニウムがフッ化物光学素子表面に残留してしまう。フッ化物光学素子表面に残留するフッ化アルミニウムは、フッ化物光学素子表面に強固に付着または刺さった状態、および/あるいは、フッ化物光学素子表面との化学的な反応により加工変質層を形成した状態として存在していると考えられる。フッ化アルミニウム自体は、真空紫外領域において透明であるため、工程(II)によりフッ化物光学素子表面の光吸収損失は低減されるように推測されるが、実際には、フッ化アルミニウムは化学的に不安定な物質であるため、大気中の酸素や水分との反応によって、真空紫外光を吸収する酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムに変化して、結果として光吸収損失を増加させてしまう場合がある。
【0020】
また、たとえば研磨砥粒として酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムを用いた場合にも、酸化アルミニウムを用いた場合と同様に、フッ素系ガスとの反応生成物であるフッ化ジルコニウムまたはフッ化セリウムの揮発性が低いため、工程(I)で残留した研磨砥粒や加工変質層を工程(II)で充分に除去することは困難である。このため本発明では、研磨砥粒として、フッ素系ガスとの反応により、揮発性の低い化合物を生成する材料を選択することは好ましくない。
【0021】
工程(II)では、工程(I)により表面が研磨されたフッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させることにより、フッ化物光学素子表面に残留した微量の研磨砥粒由来の成分と、フッ素系ガスとを充分に反応させて、揮発性の高いフッ化物を生成させることにより、研磨砥粒由来の成分をフッ化物光学素子表面から除去する洗浄を行う。
【0022】
工程(II)で用いるフッ素系ガスは、フッ素(F)を含有するガスであるが、フッ素ガス(F2)を含むものであることが好ましい。また、フッ素ラジカルまたはフッ素イオンのような活性フッ素を含むガスなどの、反応性が高いフッ素ガス雰囲気を選択することができる。具体的には、フッ素系ガスとして、フッ素ガス;四フッ化炭素などのフッ化炭素;六フッ化硫黄などのフッ化硫黄;三フッ化窒素などのフッ化窒素;四フッ化マンガンや二フッ化銀などの金属フッ化物;フッ化水素;三フッ化塩素などのフッ化ハロゲン;二フッ化キセノンなどの希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む含フッ素化合物を、熱、電気、プラズマからなる群から選ばれるいずれか一つの手段により解離して発生するフッ素を含むガス雰囲気を選択して用いるのが好ましい。また、このようなフッ素系ガスは、研磨砥粒由来の成分と反応を生じない希ガスなどのガスで希釈して用いることも好ましい。
【0023】
工程(II)において、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度は、10〜500℃、好ましくは50〜400℃の範囲であることが好ましい。
このような工程(II)では、フッ化物光学素子の表面に残留する研磨砥粒由来の元素と、フッ素系ガスとが反応し、研磨砥粒由来の元素が揮発性物質としてフッ化物光学素子の表面から除去される。これによって、物理的洗浄では除去できなかった、刺さった研磨砥粒や加工変質層がフッ化物光学素子表面から好適に除去され、研磨砥粒および加工変質層に起因する光吸収損失が大幅に低減され、より光学特性に優れたフッ化物光学素子を得ることができる。
【0024】
このようにして得られたフッ化物光学素子は、研磨砥粒あるいは加工変質層に起因する光学素子表面の光吸収損失が小さく、特に短波長の光に対しても高度の透過性を示し、通常、157nmにおける表面の光吸収損失が、フッ素化反応により0.1%以上低減され、優れた光学特性を示す。
このような工程(II)の一例について、本発明を何ら限定するものではないが、図1を参照してさらに具体的に説明する。
【0025】
図1は、フッ化物光学素子表面をフッ素系ガスと接触させて洗浄する本発明の工程(II)を、実施することが可能な洗浄装置の例である。図1において、1はニッケルで製作されたフッ素ガス発生源、2はフッ素ガスを希釈するためのヘリウムガスボンベ、3はフッ素ガス、ヘリウムガス、およびフッ素/ヘリウム混合ガスを供給するためのモネル製ガス配管、4は接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ、5はニッケルで製作された洗浄炉、6はニッケルで製作されたフッ化物光学素子の固定治具、7はフッ化物光学素子、8は温度計測用熱電対、9はPID制御可能な外部ヒーター、10は圧力計、11は流量制御および圧力制御手段、12は排気系、13はフッ素ガス排出手段を示す。
【0026】
洗浄炉5内には、予めフッ素ガスを導入して加熱し、洗浄炉内壁およびフッ化物光学素子の固定治具をフッ素化させて、表面にフッ化ニッケルを析出させて不働態化処理を施しておくことが望ましい。
また、洗浄炉内壁、ガス配管内壁、バルブの接ガス部の材質は、ニッケル、ニッケル系合金、銅、銅系合金、アルミニウムおよびアルミニウム系合金の中の少なくとも一つであることが望ましく、かつ、クロム、チタンの含有濃度が1%以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下である材料で構成されていることが望ましい。
【0027】
フッ化物光学素子を研磨した後のフッ素洗浄方法は、フッ化物光学素子の格納工程、洗浄炉内の水分脱気工程、フッ素化反応工程、フッ化物光学素子の取り出し工程、までの4工程の連続作業により行われる。なお、洗浄炉内の水分脱気工程は省略しても良いが、フッ化物光学素子の格納工程およびフッ素化反応工程およびフッ化物光学素子の取り出し工程は必須の工程である。以下に各工程の詳細を述べる。
【0028】
フッ化物光学素子の格納工程においては、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドからなる群から選ばれる少なくとも一種である研磨砥粒を分散させた懸濁液にて精密研磨(最終研磨)を終え、従来洗浄を施したフッ化物光学素子7を洗浄炉5内のフッ化物光学素子固定治具6に固定した後、洗浄炉5を閉止する。
【0029】
洗浄炉内の水分脱気工程においては、たとえば、洗浄炉5内を排気系12により10−5Paまで排気した後、洗浄炉5内にガス配管3を通じてヘリウムガスを流しながら、外部ヒーター9を用いて洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度を150℃まで加熱しながら12時間保持して、水分を脱気する。温度計測には熱電対8を用いる。この洗浄炉内の水分脱気工程は、洗浄炉5内壁の腐食劣化防止に有効である。なお、洗浄炉内の水分脱気工程を行わない場合でも、フッ化物光学素子の研磨面に対する洗浄効果は低減しないため、洗浄炉内の水分脱気工程を省略することも可能である。
【0030】
表面が研磨されたフッ化物光学素子7とフッ素系ガスとを接触させることにより行うフッ素化反応工程においては、たとえば、フッ素ガス発生源1から供給されるフッ素ガスを、ヘリウムガスにより1%程度の濃度に希釈し、ガス配管3およびバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入する。洗浄炉5内のガス雰囲気の温度を100℃として、フッ化物光学素子の研磨面におけるフッ素化反応を進行させる。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示値が0.1MPa(大気圧)となるように調節して、計時開始する。排気系を開放して、ガス流通を継続する開放系洗浄炉としても良いし、排気系を閉止して、ガスを流通しない密閉系洗浄炉としても良い。この状態で所定時間経過させる。なお、フッ素化反応工程においては、フッ化物光学素子の研磨面におけるフッ素化反応が進行する条件を選択すれば良く、洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度、すなわち、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度は10〜500℃、好ましくは50〜400℃、より好ましくは100〜300℃に設定する。10℃未満の温度では、フッ素化反応の進行速度が遅いために洗浄効率が低くなり、500℃を越える温度では、洗浄炉5内壁やフッ化物光学素子固定用治具6の材料が腐食劣化する問題が生じる場合がある。フッ素ガスの濃度は1ppm〜100%の任意の濃度を選択することができる。ガスの圧力についても10−5〜107Paの任意の圧力を選択することができる。また、所定時間とは、フッ化物光学素子の研磨面を充分に洗浄するのに必要な時間を意味しており、フッ化物光学素子の材質、精密研磨(最終研磨)工程における研磨砥粒の材質や研磨条件、フッ素化反応工程における洗浄炉5内のガス雰囲気の温度およびフッ素ガス濃度、およびガスの圧力によって決定される。これまでの実験結果から、二酸化ケイ素(SiO2)系研磨砥粒を用いて蛍石(フッ化カルシウム)表面を研磨した後の洗浄では、洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度を100℃として、フッ素濃度を1%とした場合には、所定時間は1時間で充分であることが確認されている。所定時間経過後に、洗浄炉5内を加熱している場合には加熱を停止して、洗浄炉5内におけるフッ化物光学素子7の温度が室温程度となるまで冷却させる。
【0031】
フッ素化反応工程においては、フッ素系ガス雰囲気として、反応性が高いフッ素ガス雰囲気を選択することが好ましいが、フッ素ガス、四フッ化炭素などのフッ化炭素、六フッ化硫黄などのフッ化硫黄、三フッ化窒素などのフッ化窒素、四フッ化マンガンや二フッ化銀などの金属フッ化物、フッ化水素、三フッ化塩素などのフッ化ハロゲン、二フッ化キセノンなどの希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むフッ素化合物を、熱、電気、プラズマからなる群から選ばれるいずれか一つの手段により解離して発生するフッ素を含むガス雰囲気を選択しても良い。
【0032】
フッ化物光学素子の取り出し工程においては、フッ素系ガスの導入を停止して、洗浄炉5内を排気し、続いてヘリウムガスで充分に置換する。その後、ヘリウムガスによる置換を停止して、洗浄炉5を開放し、洗浄処理を完了したフッ化物光学素子を取り出す。
フッ素化反応工程において、フッ化物光学素子表面に刺さった研磨砥粒や加工変質層が、フッ素化反応により除去されて、フッ化物光学素子表面が洗浄される。本発明で得られる洗浄後のフッ化物光学素子の表面は、内部と同様な化学量論組成のフッ化物となる。
【0033】
本発明のフッ化物光学素子は、上述した本発明のフッ化物光学素子の製造方法により得られたものであり、研磨砥粒由来の元素が揮発性物質としてフッ化物光学素子の表面から除去されることにより、研磨砥粒の残留に起因する光吸収損失がほぼゼロまたは極めて小さく、特に短波長の光に対しても高度の透過性を示し、通常、157nmにおける表面の光吸収損失が、フッ素化反応により0.1%以上低減され、優れた光学特性を示す。
【0034】
フッ素化反応によって低減された157nmにおける表面の光吸収損失は、真空紫外分光測定の結果から、以下のように計算することができる。
光学素子の157nmにおける光吸収損失L157nm%は、<A>式で表される。
ここで、表面吸収損失は、光の入射面と出射面の2面で生じるものである。
【0035】
一方、光学素子の157nmにおける透過率(T157nm:%)および反射率(R157nm:%)は、真空紫外分光器を用いて測定が可能であるため、工程(I)および工程(II)実施後の光学素子の157nmにおける光吸収損失L157nm(I)%およびはL157nm(II)%は、それぞれ<B>式および<C>式で求められる。
【0036】
L157nm(I)=100−T157nm(I)−R157nm(I) ・・・<B>
L157nm(II)=100−T157nm(II)−R157nm(II) ・・・<C>
ここで、T157nm(I)およびR157nm(I)は工程(I)実施後の光学素子の157nmにおける透過率および反射率を、T157nm(II)およびR157nm(II)は工程(II)実施後の光学素子の157nmにおける透過率および反射率を示す。
【0037】
本発明のフッ素化反応によって、157nmにおける内部吸収損失は変化しないと考えられることから、フッ素化反応によって低減された157nmにおける表面の光吸収損失ΔL157nm%は、<D>式により算出される。
ΔL157nm=〔L157nm(I)−L157nm(II)〕/2 ・・・<D>
【0038】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
【実施例1】
フッ化カルシウム(CaF2)の単結晶である蛍石を、平行平板形状に加工した。表面の精密研磨(最終研磨)として、二酸化ケイ素(SiO2)研磨砥粒を水に分散した懸濁液をスウェード布にまぶしてバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。得られた蛍石製光学素子を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで順次洗浄して、蛍石製光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などを取り除く従来の方法による洗浄を行った。
【0040】
次いで、図1に示す洗浄装置を用いて、蛍石製光学素子を純ニッケル製の洗浄炉5内の、純ニッケル製フッ化物光学素子固定治具6に固定した後、洗浄炉5を閉止し、蛍石製光学素子を格納した。
次に、洗浄炉5内を排気系12により10−5Paまで排気した後、モネル製フッ素ガス配管3を通じてヘリウムガスを洗浄炉5内に流しながら、PID制御可能な外部ヒーター9を用いて洗浄炉5内のガス雰囲気の温度を150℃まで加熱し、12時間保持して、洗浄炉5内の水分を脱気した。
【0041】
次に、フッ素ガス発生源1から供給されるフッ素ガスを、ヘリウムガスにより1%の濃度に希釈し、ガス配管3および接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入した。ここで、フッ素ガス発生源1では、フルオロニッケル化合物が充填されたニッケル製の容器を使用し、外部ヒーター14を用いてフッ素ガス発生源1を350℃に加熱して、フルオロニッケル化合物の熱分解反応により解離してフッ素ガスを発生させた。洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度は、100℃に設定した。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示値が0.1MPa(大気圧)となるように調節して、計時を開始した。排気系12を開放して、ガス流通を1時間継続し、蛍石製光学素子表面の研磨面におけるフッ素化反応を進行させた。1時間経過後に、洗浄炉5内の温度を室温まで冷却させ、フッ素化反応を終了した。
【0042】
次に、フッ素ガスの導入を停止して、洗浄炉5内を排気し、続いてヘリウムガスで充分に置換した。その後、ヘリウムガスによる置換を停止して、洗浄炉を開放し、洗浄処理を完了した蛍石製光学素子1を取り出した。
得られた蛍石製光学素子1の研磨表面を、TOF−SIMS(時間飛行型二次イオン質量分析)で測定した結果を図2に示す。図2より、実施例1で得られた蛍石製光学素子1は、後述する比較例1で得られた蛍石製光学素子2の表面に比べてCa原子およびF元素の両元素の検出量が共に高く、F/Ca比がほぼ化学量論組成の2であることが確認された。また、Si原子は全く検出されず、O原子は極僅かに検出される程度であった。なお、極僅かに検出されたO原子は物理吸着水由来のものであると考えられる。
【0043】
この結果より、実施例1では、研磨砥粒として用いたSiO2が、蛍石製光学素子表面に刺さった研磨砥粒、および/あるいは、蛍石製光学素子表面においてSiO2とCaF2との間で化学的な反応により生じた加工変質層(CaxSiyOmFn)が、たとえば前記反応式例<1>や下記反応式例<7>に示すようにフッ素ガスと反応して、化学的にエッチング除去され、洗浄されたことがわかる。
【0044】
また、得られた蛍石製光学素子1の透過率スペクトルT(%)、反射率スペクトルR(%)を真空紫外分光器で測定し、光吸収損失(100−T−R(%))を算出した。透過率スペクトルT(%)を図3に、光吸収損失(100−T−R(%))図4にそれぞれ示す。
【0045】
図3および図4より、実施例1で得た蛍石製光学素子1では、後述する従来の研磨・洗浄を施した比較例1で得た蛍石製光学素子2と比べて、波長が160nm以下の領域における吸収損失が小さく、透過率が高いことがわかる。さらに、波長が短くなるほど両者の差は顕著になっている。
これより、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素(SiO2)研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できていることが確認できた。
【0046】
なお、実施例1で得た蛍石製光学素子1においても、短波長域では1%程度の吸収損失が認められるが、これは蛍石内部の吸収に起因するものと考えられる。
これより、次世代のF2(157nm)リソグラフィなど、160nm以下の光学用途において、本発明のフッ化物光学素子の製造方法に係る研磨・洗浄は極めて有効であり、しかも、使用波長が短くなるほど従来の方法での研磨・洗浄に対する有効性は増加することがわかる。
【0047】
また、得られた蛍石製光学素子1と、後述する比較例1で得られた蛍石製光学素子2について、表面の凹凸を原子間力顕微鏡で観察した結果、両者の表面平滑度に顕著な差異は認められなかったので、本発明の製造方法はフッ化物光学素子に問題なく適用できる。
【0048】
【比較例1】
実施例1と同様にして、平行平板形状に加工した蛍石にバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。
次いで、得られた蛍石製光学素子を、中性洗剤、蒸留水、イソプロピルアルコールで順次洗浄して、蛍石製光学素子表面に残留している研磨砥粒や有機物などを取り除く従来の方法による洗浄を行い、蛍石製光学素子2を得た。
【0049】
得られた蛍石製光学素子2の研磨表面を、実施例1と同様にTOF−SIMS(時間飛行型二次イオン質量分析)で測定した結果を実施例1の結果と併せて図2に示す。蛍石製光学素子2では、F/Ca比は化学量論組成の2に比べてかなり小さく、Ca原子とF原子の他に、Si原子とO原子が非常に多く検出されている。これより、蛍石製光学素子2は、研磨砥粒として用いた二酸化ケイ素(SiO2)が、蛍石製光学素子表面に刺さった研磨砥粒、および/あるいは、蛍石製光学素子表面においてSiO2とCaF2が化学的な反応により加工変質層(CaxSiyOmFn)が形成された状態であると考察される。この結果から、従来の研磨・洗浄方法では、研磨後の蛍石製光学素子表面に残留する研磨砥粒(Si原子やO原子)を除去できないことが明らかである。
【0050】
また、得られた蛍石製光学素子2の透過率スペクトルT(%)、反射率スペクトルR(%)を実施例1と同様に真空紫外分光器で測定し、光吸収損失(100−T−R(%))を算出した。透過率スペクトルT(%)を図3に、光吸収損失(100−T−R(%))を図4にそれぞれ実施例1の結果と併せて示す。波長が160nm以下になると、蛍石製光学素子表面に残留する研磨砥粒に由来する光吸収が発生するために、透過率が低下していることがわかる。
【0051】
【実施例2】
実施例1において、図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、図5に示すようなフッ化水素(HF)の電解槽とした以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
図5において、15は電解槽、16は水素ガス、17は陰極、18は隔膜、19は直流電圧源、20は絶縁碍子、21はフッ素ガス、22は陽極、23は電解液を示す。ここで、電解液23はフッ化水素とフッ化カリウム(KF)の溶融混合物(HF/KFのモル組成比2)として、約100℃の温度で電気分解してフッ素ガスを発生させた。
【0052】
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源としてフッ化水素の電解槽を選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0053】
【実施例3】
図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、フッ素ガスが充填されたモネル製のシリンダーとした以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
【0054】
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源としてフッ素ガスを充填したシリンダーを選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0055】
【実施例4】
図1に示す洗浄装置におけるフッ素ガス発生源1を、図6に示すような四フッ化炭素ガス(CF4)のプラズマ発生装置として、フッ素化反応による洗浄処理条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、蛍石製光学素子の洗浄処理を行った。
【0056】
図6において、24はプラズマチャンバー、25は四フッ化炭素ガス、26は陽極、27および28はアース、29は高周波電源、30はブロッキングコンデンサ、31は絶縁碍子、32は陰極、33はフッ素を含むガス、34はプラズマを示す。ここで、高周波の周波数を13.56MHz、出力を100Wとして、プラズマチャンバー内のガス圧力を10Paとして、四フッ化炭素をプラズマ分解してフッ素(F)を含むガスを発生させた。プラズマチャンバーから発生されるフッ素(F)を含むガスを、ガス配管3および接ガス部をニッケルコーティングしたバルブ4を通じて洗浄炉5内に導入した。洗浄炉5内におけるガス雰囲気の温度は、300℃に設定した。洗浄炉5よりも下流側に設置された流量制御および圧力制御装置11を用いて、圧力計10の指示が10Paとなるように調整して、経時を開始した。排気系12を開放して、ガス流通を1時間継続し、蛍石製光学素子表面におけるフッ素化反応を進行させた。1時間経過後に、洗浄炉5内の温度を室温まで冷却させ、フッ素化反応を終了した。
【0057】
処理により得られた蛍石製光学素子を、実施例1と同様の方法により分析した結果、実施例1で得られた蛍石製光学素子1と同等であることが確認できた。
この結果から、本発明のフッ化物光学素子の製造方法によれば、フッ素ガス発生源として四フッ化炭素のプラズマ発生装置を選択した場合でも、従来の研磨・洗浄方法では除去できなかった二酸化ケイ素研磨砥粒由来の加工変質層を容易に除去することができ、かつ、平滑で研磨面における吸収損失が少ない、ほぼ完全なフッ化物光学素子表面を形成できることが明らかである。
【0058】
【比較例2】
実施例1と同様にして、平行平板形状に加工した蛍石にバフ研磨を行い、表面が研磨された蛍石製光学素子を得た。得られた蛍石製光学素子を、酸化セリウムなどの他の研磨砥粒を用いて、加工変質層を物理的に取り除くことを試みた。その後、中性洗剤、蒸留水およびイソプロピルアルコールで順次洗浄する従来の方法による洗浄を行ったが、研磨後の蛍石製光学素子表面には必ず最終研磨に使用した研磨砥粒が残留して、研磨砥粒に由来する光吸収を生じることが確認された。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、フッ化物光学素子表面に刺さっている研磨砥粒、および、フッ化物光学素子表面と研磨砥粒との化学的な反応によって形成された加工変質層を、効率よく除去することができ、表面部の組成が内部とほぼ同一であって、平滑で清浄な表面性状を有し、短波長光に対しても表面における光吸収損失が極めて少ないフッ化物光学素子を、容易にかつ効率よく製造する方法、およびフッ化物光学素子を提供することができる。本発明に係るフッ化物光学素子は、平滑で清浄な表面を有し、短波長光に対しても光吸収損失が極めて少なく、特に真空紫外領域用の光学素子として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の工程(II)を実施することができる洗浄装置の一例を示す。
【図2】図2は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、TOF−SIMSによる測定結果を示す。
【図3】図3は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、真空紫外域透過率スペクトルを示す。
【図4】図4は、実施例1および比較例1で得た光学素子の、真空紫外域光吸収損失スペクトルを示す。
【図5】図5は、実施例2に使用したフッ素発生源の概略図を示す。
【図6】図6は、実施例4に使用したフッ素発生源の概略図を示す。
【符号の説明】
1 … フッ素ガス発生源
2 … ヘリウムガスボンベ
3 … ガス供給配管
4 … バルブ
5 … 洗浄炉
6 … フッ化物光学素子の固定治具
7 … フッ化物光学素子
8 … 温度計測用熱電対
9 … 外部ヒーター
10 … 圧力計
11 … 流量・圧力制御手段
12 … 排気系
13 … フッ素ガス排出手段
14 … 外部ヒーター
15 … 電解槽
16 … 水素ガス
17 … 陰極
18 … 隔膜
19 … 直流電圧源
20 … 絶縁碍子
21 … フッ素ガス
22 … 陽極
23 … 電解液
24 … プラズマチャンバー
25 … 四フッ化炭素ガス
26 … 陽極
27 … アース
28 … アース
29 … 高周波電源
30 … ブロッキングコンデンサ
31 … 絶縁碍子
32 … 陰極
33 … フッ素(F)を含むガス
34 … プラズマ
Claims (9)
- (I)研磨砥粒を用いて、フッ化物固体の表面を研磨してフッ化物光学素子とする工程と、
(II)前記フッ化物光学素子を、フッ素系ガスと接触させて洗浄する工程と
を有することを特徴とするフッ化物光学素子の製造方法。 - 前記研磨砥粒が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 前記研磨砥粒が二酸化ケイ素である請求項2に記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 前記フッ化物固体が、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ランタン、フッ化アルミニウム、フッ化ネオジム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ディスプロシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ビスマス、フッ化ストロンチウム、フッ化鉛、フッ化セレン、クライオライトおよびチオライトよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ化物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 前記フッ素系ガスが、フッ素ガスを含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 前記フッ素系ガスが、フッ素ガス、フッ化炭素、フッ化硫黄、フッ化窒素、金属フッ化物、フッ化水素、フッ化ハロゲンおよび希ガスのフッ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む含フッ素化合物を、熱、電気またはプラズマにより解離して発生するフッ素を含むガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 前記工程(II)における、フッ化物光学素子をフッ素系ガスと接触させる温度が、10〜500℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のフッ化物光学素子の製造方法により得られることを特徴とするフッ化物光学素子。
- 前記工程(I)と前記工程(II)におけるフッ化物光学素子の157nmにおける表面の光吸収損失の差が、0.1%以上であることを特徴とする請求項8に記載のフッ化物光学素子。
Priority Applications (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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