JP2004321055A - 小穂非脱落性遺伝子等についての新規遺伝マーカーおよびその利用法 - Google Patents

小穂非脱落性遺伝子等についての新規遺伝マーカーおよびその利用法 Download PDF

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Abstract

【課題】新規遺伝マーカー、特に、オオムギ3HS染色体における、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2近傍に位置する新規遺伝マーカー、およびその利用法を提供する。
【解決手段】オオムギのゲノムDNAをAFLP処理することにより得られる遺伝マーカーであって、オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置と同じ位置、および上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ0.5cM、1.0cM、2.0cMテロメア側の位置、並びに上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ2.7cM、3.2cM、3.7cM、4.2cM、4.7cM動原体側の位置から選択されるいずれかの位置に座乗する遺伝マーカーは、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の単離・同定等に利用することができる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規遺伝マーカー、特に、オオムギ3HS染色体における新規遺伝マーカー、およびその利用法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
1980年代後半から、植物において遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)とそれらを利用した連鎖地図(染色体地図)作成が急速に行われてきた。このDNAマーカーの検出技術の発展は、形態的形質に関与する標識遺伝子を遺伝マーカーとして用いてきた従来の連鎖解析を飛躍的に進展させた。例えば、イネでは、病虫害抵抗性等に代表される単一遺伝子が関与している形質の連鎖解析が効率化されたばかりでなく、従来の方法では解析が困難とされてきた複数の遺伝子が関与する形質(量的形質)についても、DNAマーカーによる関与遺伝子座の解析が可能となった。
【0003】
ここで、「量的形質」について簡単に説明する。単一主働遺伝子支配の形質に対して、出穂期や稈長に代表される多くの農業上重要な形質は、雑種後代で連続的な変異を示すものが多い。このような形質は一般に複数の遺伝子の作用によって決定されている場合が多く、総称して量的形質と呼ばれている。作物の育種において改良対象とされる形質の多く、例えば収量や品質・食味等はこの量的形質に含まれる。
【0004】
係る量的形質に関与する個々の遺伝子座は量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL)と呼ばれ、DNAマーカーの利用以前は、連鎖がみられる遺伝様式が明瞭な形態や生化学的な形質を司る遺伝子をマーカーとし、これらのマーカーとの連鎖分析によって試みられてきた。しかしながら、形態的なマーカーは多面発現といったそれ自体が目的の形質に影響する場合が多く、さらに染色体全体に分散する形態的なマーカーを用いることは事実上不可能であった。
【0005】
そのため、新しい遺伝的なマーカーを利用した方法が開発された。核DNAを制限酵素により切断すると、個体または系統によりDNA断片の長さが異なることがある。これをDNA多型と呼ぶ。DNA多型は、通常の形態形質を司る遺伝子と同じくメンデル遺伝をすることから、これらを遺伝的なマーカーとして利用し、相互の遺伝的連鎖の程度を推定して距離の指標とすれば、マーカー相互の染色体上の位置を示す連鎖地図が作成できる。このマーカーをRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)マーカーと呼ぶ。1980年代になってRFLPマーカーに代表されるDNAマーカーが開発され、量的形質遺伝子座のマッピングも現実的なものとなった。
【0006】
上記RFLPマーカーのようなDNAマーカーによる詳細な連鎖地図を利用することにより、量的形質を支配する遺伝子座(QTL)の連鎖分析も可能となった。また、単に、連鎖群上のDNAマーカーの数が増えても、該当するDNAマーカーがないと連鎖地図上にギャップができる。しかし、ギャップはDNAマーカーの種類を変えることにより埋まる可能性があり、RFLPマーカーによって作成された連鎖地図上のギャップを、マイクロサテライトマーカーなどを使って補う試みも行われている。現在、図1に示すように、DNAマーカーとしては種々のマーカーが開発され利用されている。
【0007】
さらに上記QTL解析は、これまで解析が困難とされた環境による影響を受け易い耐病性や、培養特性などの遺伝性に関する研究にも利用されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0008】
ところで、オオムギ、コムギ、イネ等の植物では、野生種から栽培種への進化の過程において、諸形質が変化している。なかでも、野生種は成熟すると種子が自然に脱落する(小穂脱落性)が、栽培種は成熟しても人間が収穫して脱穀するまで種子が脱落しない性質(小穂非脱落性)を獲得している。
【0009】
この小穂非脱落性は、オオムギ等の植物における野生種から栽培種への進化の過程において最も大きく、かつ重要な変化の一つである。このため、この遺伝的性質を調べ、遺伝情報の中に刻み込まれた進化の過程をひもとくべく、多くの研究者がその遺伝子分析を行っている。
【0010】
その結果、オオムギの小穂脱落性は、2つの優性補足遺伝子:Btr1およびBtr2によって支配され、その1つが劣性遺伝子(btr1、btr2)である場合は、小穂非脱落性を獲得することがわかった。さらに、これらの遺伝子は、互いに密接に連鎖しているため、小穂非脱落性の栽培種は、btr1 Btr2か、またはBtr1 btr2の遺伝子型であり、両劣性の遺伝子型(btr1 btr2)を有する品種はきわめて稀であることがわかった。また、小穂非脱落性には、地理的分布が存在し、東洋にはBtr1 btr2の遺伝子型(E型)、西洋にはbtr1 Btr2の遺伝子型(W型)が多く見られることがわかっている(非特許文献3参照)。また、btr1、btr2の劣性遺伝子がオオムギの3HS染色体に位置することがわかっている(非特許文献4参照)。しかし、小穂非脱落性は量的形質であるため、その解析は困難を極め、小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2は、いまだ単離・同定されていない。その一方、QTL解析等を利用した最近の研究成果によって、btr1の比較的近傍に位置するAFLP(amplified fragment length polymorphism)マーカーがいくつか開発されている(非特許文献5参照)。
【0011】
【非特許文献1】
Mano, Y., Takahashi, H., Sato, K and Takeda, K.共著、「Mapping Genes for Callus Growth and Shoot Regeneration in Barley (Hordeum vulgare L.) 」、Breeding Science、46: 137〜142、1996
【0012】
【非特許文献2】
Graner, A., Streng, S., Kellermann, A., Schiemann, A., Bauer, E., Waugh, R., pellio, B., Ordon, F共著、「Molecular mapping and genetic fine−structure of the rym5 locus encoding resistance To different strains of the Barley Yellow Mosaic Virus Complex.」、Theor Appl Genet 98:285−290、1999
【0013】
【非特許文献3】
小西 猛朗著、「オオムギの遺伝的分化と地理的分布」、遺伝、1987年、5月号、(41巻、5号)、p6−10
【0014】
【非特許文献4】
TAKAHASHI, R et al.、「Linkage study of two complementary genes for brittle rachis in barely.」、Ber. Ohara lnst. Landw. Biol., Okayama Univ. 12: 99−105.
【0015】
【非特許文献5】
KOMATUDA, T., and Y. MANO, 共著、「Molecular mapping of the intermedium spike−c (int−c) and non−brittle rachis 1 (btr1) loci in barley (Hordeum vulgare L.).」、Theor Appl Genet 105: 85−90
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、QTL解析が有効であるための前提条件には、順序の正確な遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)による連鎖地図が作成されていることである。一般に、マーカー間の密度が高いほど新しくマップされるQTLの位置の精度が高くなり、また、インターバルマッピングによるQTLマップの推定精度は、マーカー間の組換え価が小さいほど推定精度が高い傾向にある。さらに高密度な連鎖地図が利用されれば、QTL、すなわち遺伝子の単離・同定も可能になる。
【0017】
しかしながら、上述のような従来のオオムギ3HS染色体における、btr1近傍のAFLPマーカーのみでは、2つの劣性遺伝子btr1、btr2の正確な位置がわからず、また、btr1、btr2の位置の関連性も不明である。このため、これら2つの劣性遺伝子btr1、btr2を単離・同定するための、詳細な連鎖地図を作製できないという問題があった。
【0018】
また、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2を単離・同定できれば、当該遺伝子を用いることにより、穀物の種子の脱落時期を制御できる可能性があり、学術面だけでなく、農業的にも非常に利用価値の高い、有用な遺伝子であると思われる。
【0019】
そこで、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2を単離・同定するための有効な手段である信頼性の高い連鎖地図を作製するために、さらなるオオムギの3HS染色体における、btr1、btr2近傍に位置する遺伝マーカーが強く求められていた。
【0020】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規遺伝マーカー、特に、オオムギ3HS染色体における、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2近傍に位置する新規遺伝マーカー、およびその利用法を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、オオムギの3HS染色体における、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に存在し、これらbtr1、btr2と密接に連鎖する84の遺伝マーカーを開発し、当該遺伝マーカーについてマッピングを行い、連鎖地図を作製するとともに、さらに、84の遺伝マーカーのうち、9つの遺伝マーカーの塩基配列を特定することにより、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明に係る遺伝マーカーは、オオムギのゲノムDNAをAFLP処理することにより得られる遺伝マーカーであって、オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置と同じ位置、および上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ0.5cM、1.0cM、2.0cMテロメア側の位置、並びに上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ2.7cM、3.2cM、3.7cM、4.2cM、4.7cM動原体側の位置から選択されるいずれかの位置に座乗することを特徴としている。
【0023】
上記の遺伝マーカーは、オオムギ小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置の近傍に位置し、上記btr1、btr2と密接に連鎖する。このため、上記遺伝マーカーを利用することで、オオムギ小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2をクローニングすることができると考えられる。
【0024】
なお、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置」とは、オオムギの3HS染色体において、テロメア側から50cM、動原体側から20cMの位置であると考えられている。
【0025】
また、本発明に係る遺伝マーカーは、以下の(a)または(b)に示される塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
(a)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列。(b)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加された塩基配列であって、植物の小穂非脱落性に関与する遺伝子またはQTLと連鎖する塩基配列。
【0026】
上記のような遺伝マーカーは、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2と連鎖するため、作物育種におけるマーカー選抜(marker assisted selection)を可能にするばかりでなく、連鎖地図作製にも利用可能であり、地図情報を利用した遺伝子単離(map−based cloning)の基盤となる。すなわち、上記遺伝マーカーによれば、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子を単離・同定するためのQTL解析等に有用な連鎖地図を作製することができる。さらに、上記遺伝マーカーを指標として、小穂非脱落性の植物を選択的に育種することが可能となる。
【0027】
なお、上記植物は、イネ科植物であることが好ましい。特に、本発明に係る遺伝マーカーは、オオムギ由来であることが好ましい。また、オオムギ3HS染色体における遺伝マーカーであることが好ましい。さらに、上記遺伝マーカーは、AFLPマーカーであることが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る遺伝マーカー群は、上記いずれかの遺伝マーカーを少なくとも含み、オオムギ染色体の連鎖地図の作成に用いられることを特徴としている。さらに、本発明に係る遺伝マーカー群は、制限酵素断片長多型(RFLP)マーカー、AFLPマーカー、STSマーカーおよびマイクロサテライトマーカーから選択される少なくとも1つのマーカーを含むことが好ましい。
【0029】
上記の遺伝マーカー群を利用することにより、より正確な連鎖地図を作成することができる。
【0030】
また、本発明に係る連鎖地図は、上記の遺伝マーカー群を用いて作成されることを特徴としている。上記連鎖地図によれば、小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖する多くの遺伝マーカーを用いているため、小穂非脱落性遺伝子の位置をより正確に特定することができる。
【0031】
また、本発明に係る小穂非脱落性遺伝子の単離方法は、少なくとも、上記の遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を用いて、植物染色体から小穂非脱落性に関与する遺伝子の座乗位置を特定する工程を含むことを特徴としている。上記の小穂非脱落性遺伝子の単離方法によれば、効率的に小穂非脱落性遺伝子を単離することができる。
【0032】
また、本発明に係る小穂非脱落性遺伝子の単離方法は、さらに、上記遺伝マーカーをプライマーまたはプローブとして用いることが好ましい。また、上記遺伝子の座乗位置を特定する工程は、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子についてのQTL解析を行う工程を含むことが好ましい。
【0033】
また、本発明に係る植物個体を選別する方法は、上記の遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を用いて、小穂非脱落性の植物個体を選別することを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、上記の遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を指標として、簡便かつ効率的に小穂非脱落性の植物個体を選別することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
オオムギは、野生種から栽培種に進化する過程で、成熟しても人間が刈り取るまで、種子を落とさない小穂非脱落性という性質を獲得した。かかるオオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2(non−brittle rachis 1 (btr1) and 2 (btr2))は、オオムギ3HS染色体に位置することが知られている。しかし、小穂非脱落性は量的形質であり、単純なbtr1、btr2の単離・同定は困難であり、QTL解析を通じての解析が最も効率的であると考えられる。しかし、これまで知られている、btr1、btr2近傍のDNAマーカーだけでは、上記btr1、btr2の位置を正確に特定することができない。
【0036】
そこで、本発明では、3HS染色体におけるbtr1、btr2の位置をより正確に特定すべく、新規遺伝マーカー、およびその利用法を提供する。なお、これらの発明を利用して、小穂非脱落性遺伝子であるbtr1、btr2を単離・同定することが最終的な目的である。以下に、本発明の遺伝マーカーおよびその利用法に関する実施の一形態について図1〜図11に基づいて順に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。また、本発明では、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2のことを、小穂非脱落性に関与する遺伝子、小穂非脱落性遺伝子、または単にbtr1、btr2と称することもある。
【0037】
(1)本発明に係る遺伝マーカー
本発明に係る遺伝マーカーは、上述のように、オオムギのゲノムDNAをAFLP処理することにより得られる遺伝マーカーであって、オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置と同じ位置、および上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ0.5cM、1.0cM、2.0cMテロメア側の位置、並びに上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ2.7cM、3.2cM、3.7cM、4.2cM、4.7cM動原体側の位置から選択されるいずれかの位置に座乗する遺伝マーカーであればよい。
【0038】
本発明でいう「AFLP処理」とは、後述する実施例に示すように、被検植物(オオムギ)から調製したDNA試料を2種類の制限酵素で処理した後、当該制限酵素により切断された粘着末端に選択的に結合する所定のAFLPアダプタを接続し、このアダプタに相補的なプライマーを用いたPCRを行い、当該制限酵素断片の第1次増幅産物を得て、この第1次増幅産物を鋳型とし、前述のAFLPアダプタに相補的なプライマーに、制限酵素断片の中に数塩基(本実施例の場合は3塩基)伸長した選択ヌクレオチドを加えたプライマーを用いて、選択的にPCRを行い、遺伝マーカーを得る従来公知のAFLP処理(方法)であればよい。
【0039】
上記2種類の制限酵素としては、例えば、EcoRIおよびMseIを用いることができるが、特に限定されるものではない。また、「制限酵素断片の中に数塩基伸長した選択ヌクレオチドを加えたプライマー」としては、上記第1次増幅産物を鋳型として、PCRによって選択的に遺伝マーカーを増幅できるプライマーであればよく、「数塩基伸長した」とは、例えば、3塩基伸長したプライマーを挙げられるが、特に限定されるものではない1塩基〜十数塩基程度まで伸長したものでもかまわない。また、PCR等のその他のAFLP処理の条件は、従来公知のAFLP処理に基づいて適宜設定でき、特に限定されるものではない。
【0040】
上記の遺伝マーカーとしては、例えば、図2に示される連鎖地図に位置付けられた84の遺伝マーカーを挙げることができる(図2中、上方向がテロメア側、下方向が動原体側)。すなわち、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置と同じ位置」に座乗する(位置する)遺伝マーカーとしては、例えば、e09m−25−08、e24m42−08、e26m58−13、e30m07−09、e45m11−11、e50m21−01、e57m10−07、e58m61−09−1、e58m61−09−2、e59m33−13の10個の遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から0.5cMテロメア側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e01m12−09、e23m23−07、e40m19−08、e62m32−08の4つの遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から1.0cMテロメア側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e05m15−09、e51m34−13が挙げられる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から2.0cMテロメア側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e07m31−09、e22m24−13−1、e22m24−13−2等と図中同じ枠内に含まれる11個の遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から2.7cM動原体側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e37−m44−13が挙げられる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から3.2cM動原体側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e23m12−13−1、e23m12−13−2、e23m44−13、e48m02−08の4つの遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から3.7cM動原体側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e04m55−09、e06m49−08等と図中同じ枠内に含まれる14個の遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から4.2cM動原体側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e34m11−10、e39m08−08等と図中同じ枠内に含まれる6個の遺伝マーカーを挙げることができる。また、「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から4.7cM動原体側の位置」に座乗する遺伝マーカーとしては、例えば、e03m36−13−1、e03m36−13−2等と図中同じ枠内に含まれる32個の遺伝マーカーを挙げることができる。
【0041】
これらの遺伝マーカーのうちでも、特に、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2と同じ染色体上の位置に座乗する10個の遺伝マーカー、および小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置の比較的近傍であって、btr1/btr2の染色体上の位置を挟む両側の位置である「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から0.5cMテロメア側の位置」と「オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置から2.7cM動原体側の位置」とに座乗する遺伝マーカーは、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2のクローニング等のために非常に有用である。
【0042】
また、本発明に係る遺伝マーカーは、上述のように、以下の(a)または(b)に示される塩基配列を有する遺伝マーカーであればよい。(a)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列。(b)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加された塩基配列であって、植物の小穂非脱落性に関与する遺伝子またはQTLと連鎖する塩基配列。
【0043】
本発明でいう、「QTL(Quantitative Trait Loci)」とは量的形質遺伝子座のことである。また、「連鎖」とは、同じ染色体上に位置する2つ以上の遺伝子あるいは遺伝形質が組になって遺伝する現象をいう。
【0044】
また、上記植物は、イネ科植物であることが好ましい。ここでいう「イネ科植物」とは、オオムギ属(Hordeum)、コムギ属、イネ等の植物であればよく、特に限定されるものではない。また、上記遺伝マーカーは、オオムギ由来であることが好ましく、オオムギのゲノムDNAまたはcDNA由来であってもよい。オオムギ属は、二条、六条等の条性、裸性、皮性、並・渦性等の諸性質は特に限定されないことは、いうまでもない。さらに、上記遺伝マーカーは、オオムギの3HS染色体における遺伝マーカーであることが好ましい。
【0045】
また、上記遺伝マーカーは、AFLPマーカーであることが好ましい。ここでいう、「AFLPマーカー」とは、サンプルDNAを2種類の制限酵素で切断し、それらの粘着末端にアダプタを連結させ、当該アダプタに特異的で、かつ制限酵素断片の中にも数塩基伸長したプライマーを用いて、当該制限酵素断片を増幅させた遺伝マーカーをいう。
【0046】
なお、本発明でいう「ポリヌクレオチド」には、RNA及びDNAが含まれるものとする。RNAにはmRNAが含まれ、DNAには、例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。また、DNAは二本鎖でも一本鎖でもよく、一本鎖DNAは、センス鎖となるコードDNAでもよく、アンチセンス鎖となるアンチコード鎖でもよい。さらに、本発明の「遺伝マーカー」は、上記(a)または(b)の塩基配列以外に、その他の塩基配列、例えば、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの塩基配列を含むものであってもよい。
【0047】
本発明に係る遺伝マーカーは、配列番号1〜9で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドそのものであってもよいが、その一部の塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。ここでいう「一部の塩基配列」とは、遺伝マーカーとして使用可能な程度の長さの塩基配列を示すものであり、その長さは特に限定されるものではない。
【0048】
また、本発明でいう「1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、公知の人為的な手法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加される変異を意味する。また、上記変異は、人為的に導入された変異ではなくてもよい。例えば、天然に存在する植物のゲノムから同様の変異を有するポリヌクレオチドを単離して、本発明に係る遺伝マーカーとして用いてもよい。
【0049】
上記の遺伝マーカーとして、本実施の形態では、例えば、▲1▼配列番号1に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e05m15−09)、▲2▼配列番号2に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e23m23−07)、▲3▼配列番号3に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e50m21−01)、▲4▼配列番号4に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e09m25−08)、▲5▼配列番号5に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e45m11−11)、▲6▼配列番号6に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e30m07−09)、▲7▼配列番号7に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e40m19−08)、▲8▼配列番号8に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e39m23−11)、▲9▼配列番号9に示される塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー名:e04m55−09)のほか、上記ゲノムDNAの塩基配列に対応する塩基配列を有するmRNA等が例示される。
【0050】
以下、上記▲1▼〜▲9▼の遺伝マーカー(DNAマーカー)について詳細に説明する。なお、上記▲1▼〜▲9▼の遺伝マーカーは、いずれもSTS化されたマーカーである。また、図3〜図11中下線部で示す配列は、プライマーの塩基配列を示す。これは、植物から抽出したDNAを鋳型にして、直接下記に示すDNAマーカーを増幅させる(AFLP処理ではなく)ためのプライマーとして利用することができ、非常に有用である。
【0051】
▲1▼DNAマーカー:e05m15−09
e05m15−09は、配列番号1に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0052】
具体的には、e05m15−09は、図3に示すように、166塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Azumamugi」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」においては、増幅されない。
【0053】
▲2▼DNAマーカー:e23m23−07
e23m23−07は、配列番号2に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0054】
具体的には、e23m23−07は、図4に示すように、280塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0055】
▲3▼DNAマーカー:e50m21−01
e50m21−01は、配列番号3に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0056】
具体的には、e50m21−01は、図5に示すように、1209塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「A(アデニン)」の位置は、1塩基多型(SNPs(Single Nucleotide Polymorphisms)、スニップスとも称する)を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Ava IIによって検出することができる。
【0057】
▲4▼DNAマーカー:e09m25−08
e09m25−08は、配列番号4に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0058】
具体的には、e09m25−08は、図6に示すように、207塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0059】
▲5▼DNAマーカー:e45m11−11
e45m11−11は、配列番号5に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0060】
具体的には、e45m11−11は、図7に示すように、105塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0061】
▲6▼DNAマーカー:e30m07−09
e30m07−09は、配列番号6に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0062】
具体的には、e30m07−09は、図8に示すように、166塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Azumamugi」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」においては、増幅されない。
【0063】
▲7▼DNAマーカー:e40m19−08
e40m19−08は、配列番号7に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0064】
具体的には、e40m19−08は、図9に示すように、247塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「A(アデニン)」の位置は、1塩基多型を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Dra Iによって検出することができる。
【0065】
▲8▼DNAマーカー:e39m23−11
e39m23−11は、配列番号8に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0066】
具体的には、e39m23−11は、図10に示すように、95塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0067】
▲9▼DNAマーカー:e04m55−09
e04m55−09は、配列番号9に示される塩基配列のポリヌクレオチドを有するDNAマーカーであって、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置し、当該小穂非脱落性遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0068】
具体的には、e04m55−09は、図11に示すように、164塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「C(シトシン)」の位置は、1塩基多型を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Msl Iによって検出することができる。
【0069】
なお、上記▲1▼〜▲9▼の遺伝マーカーは、後述する実施例や図2に示す84の遺伝マーカーのうち、染色体上の小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の位置に近い、断片が短すぎない(100bp程度)、断片サイズが小さすぎない等の理由から塩基配列を特定したものである。
【0070】
以上のように、上記▲1▼〜▲9▼の遺伝マーカーは、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2と密接に連鎖すると考えられるため、btr1、btr2対する遺伝マーカーとして利用できる。したがって、上記▲1▼〜▲9▼の遺伝マーカーは、作物育種におけるマーカー選抜を可能にするばかりでなく、オオムギ3HS染色体における連鎖地図作製にも利用可能であり、当該地図情報を利用したbtr1、btr2の単離にも利用可能である。
【0071】
また、本発明に係る遺伝マーカーの一部配列をプローブやプライマーとして用いることができる。このようにプローブに用いる場合としては、例えば、本発明の遺伝マーカーの一部配列をチップやシリコン等の担体上に固定した、いわゆるDNAチップ(マイクロアレイを含む)を構成し、当該DNAチップを各種検査・診断用に用いるような場合が挙げられる。
【0072】
また、上記プローブの配列を、本発明に係る遺伝マーカーの塩基配列の中から選択し、コムギ、イネ、その他の植物のゲノムDNA(またはcDNA)ライブラリーをスクリーニングすれば、上記各遺伝マーカーと同様の機能を有する相同分子や類縁分子をコードする遺伝マーカーを単離できる可能性が高い。
【0073】
したがって、上記遺伝マーカーを利用すれば、オオムギだけでなく、他の植物、例えば、コムギ、イネ等の小穂非脱落性に関与する遺伝子をも、QTL解析によって単離・同定することが可能となると考えられる。
【0074】
なお、本発明にかかる遺伝マーカーの作製方法は、上記の方法や後述する実施例で詳細に説明するように、オオムギの葉から抽出されたDNAをAFLP処理することにより作製している。
【0075】
具体的には、まず被検植物から調製したDNA試料を2種類の制限酵素(本実施例では、EcoRIおよびMseI)で処理した後、当該制限酵素により切断された粘着末端に所定のAFLPアダプタを接続し、このアダプタに相補的なプライマーを用いたPCRを行い、当該制限酵素断片の増幅産物を得る。この増幅産物を鋳型とし、前述のプライマーに、制限酵素断片の中に数塩基(本実施例の場合は3塩基)伸長した選択ヌクレオチドを加えたプライマーを用いてPCRを行い、遺伝マーカーを得ている。なお、得られた増幅産物を電気泳動によって解析し、バンドパターンを親品種と比較し、どちらの親の形質を有するのかを判定することができる。
【0076】
もちろん、本発明にかかる遺伝マーカーの作製方法は、これに限定されるものではなく、公知の他の方法を用いて作製してもよい。すなわち、本発明では、前述した遺伝マーカー(SNPマーカー)やこれを含む遺伝マーカー群を作製できるような方法であれば、どのような方法を採用してもよい。
【0077】
(2)本発明に係る遺伝マーカーの利用法(有用性)
本発明に係る遺伝マーカーの用途としては、遺伝子のクローニングや細胞融合、交配等の実験において目的とする遺伝子の所在を追跡するためのマーカーとして広く用いることができる。特に、本発明に係る遺伝マーカーのうち、塩基配列中に1塩基多型(SNPs)を含んでいるものは、検出が容易であるという利点がある。
【0078】
また、本発明に係る遺伝マーカーを用いる対象となる生物は特に限定されるものではないが、これら遺伝マーカーがオオムギ由来のものであるので、特に好ましい対象としては、オオムギおよびオオムギの属するコムギ連、イネ科植物を挙げることができる。もちろん、用途によってはイネ科植物以外の植物や場合によっては動物も対象とすることができる。
【0079】
本発明に係る遺伝マーカーは、それぞれ単独で上述した各種用途に用いることもできるが、特に、オオムギ染色体の連鎖地図の作成に用いるために、複数を組み合わせて遺伝マーカー群として用いることが好ましい。なお、本発明でいう「連鎖地図」とは、いわゆる遺伝子地図、遺伝地図、染色体地図とよばれるものをも含む広い意味の連鎖地図である。そのため、以下、連鎖地図のことを遺伝子地図、遺伝地図、染色体地図と称する場合もある。
【0080】
本発明に係る遺伝マーカー群をマッピングして得られた連鎖地図は、染色体から目的とする遺伝子を特定する用途に好適に用いることができるが、本発明では、特に、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の座乗位置を特定する用途に好適に用いることができる。
【0081】
上述したように、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2は、穀物の種子の脱落時期を制御することができる可能性があり、農業的に非常に利用価値の高い、有用な遺伝子であると思われる。このように小穂非脱落性遺伝子は、学術上でも産業上でも有用なものであり、本発明に係る遺伝マーカーまたは遺伝マーカー群を利用すれば、少なくともオオムギから小穂非脱落性遺伝子を有効に単離・同定することが可能となる。
【0082】
本発明に係る遺伝マーカー群は、前述したオリゴヌクレオチドからなる遺伝マーカーを含んでいればよいが、さらに他の遺伝マーカーを含んでいてもよい。他の遺伝マーカーとしては、染色体上で遺伝的な標識として用いることができるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、制限酵素断片長多型(RFLP、Restriction Fragment Length Polymorphism)マーカー、マイクロサテライトマーカー(SSR(Simple Sequenced Repeat)マーカー)、AFLPマーカー、STS(Sequence Tagged Site、配列認識部位)マーカー等の従来公知の遺伝マーカーを挙げることができる。
【0083】
後述する実施例で説明するように、本発明では、オオムギのゲノムからAFLPにより、STS化された遺伝マーカーを作製している。それゆえ、本発明に係る遺伝マーカーは、ゲノム上で唯一存在するような特異的な塩基配列を含んでいるため、RFLPマーカーやSSRマーカーよりも有用性が高い。しかしながら、本発明に係る遺伝マーカーと、他のRFLPマーカー、SSRマーカー、AFLPマーカー、STSマーカーとを組み合わせて遺伝マーカー群として用いれば、より詳細な連鎖地図を作成することができるので、その有用性はさらに一層向上する。
【0084】
例えば、本発明では、図2に示すように、本発明に係る遺伝マーカーと、その他のAFLPマーカーとを組み合わせてオオムギの連鎖地図を作成することができる。この連鎖地図では、オオムギの3HS染色体について、次のように遺伝マーカーが位置付けられている。なお、図2において、上方向がテロメア側であって、下方向が動原体側である。
【0085】
すなわち、図2に示すように、オオムギ3H染色体において、86個の遺伝マーカーが位置付けられる。そのうち、上記▲1▼〜▲9▼に示す9つの本発明に係る遺伝マーカーは、いずれも小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置しているのがわかる(図中網かけされたマーカー)。具体的には、従来知られていた遺伝マーカー:e14m−27−04−01、e15m19−07(非特許文献5参照、図2中太字で示すマーカー)は、図2に示すように、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2が含まれる領域から、それぞれテロメア側に距離約2.0cM、動原体側に4.7cMはなれている。一方、上記▲3▼〜▲6▼の遺伝マーカーは、btr1、btr2が含まれる領域と同じ領域に含まれることがわかった。また、▲1▼の遺伝マーカーは、btr1、btr2が含まれる領域からテロメア側に距離約1.0cM離れており、▲2▼および▲7▼の遺伝マーカーは、btr1、btr2が含まれる領域からテロメア側に距離約0.5cM離れており、▲8▼および▲9▼の遺伝マーカーは、btr1、btr2が含まれる領域から動原体側に距離約3.7〜4.7cM離れている。なお、図2に示す3H染色体の全長は9.9cMである。
【0086】
つまり、本発明に係る遺伝マーカーはいずれも、これまで公表されている遺伝マーカー:e14m−27−04−01、e15m19−07に比べて、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2のより近傍に座乗することがわかった。つまり、本発明に係る遺伝マーカーは小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2とより密接に連鎖するといえることから、この点からも本発明の有用性が明らかである。
【0087】
以上のように、本発明に係る連鎖地図は、上記の遺伝マーカー群を用いて作製されているオオムギ染色体における連鎖地図であればよく、特に限定されるものではない。
【0088】
連鎖地図では、マーカー間の密度が高いほど、遺伝子の位置の精度が高くなることは上述したが、本発明に係る連鎖地図はまさに、高密度な連鎖地図であり、これを利用すれば、小穂非脱落性遺伝子の単離・同定も可能になると考えられる。
【0089】
なお、本発明にかかる連鎖地図の作製方法には、従来公知の方法が利用でき、特に限定されるものではない。例えば、計算ソフトを使った通常の方法が挙げられる(LANDER, E., P. GREEN, J. ABRAHAMSON, A. BARLOW, M. DALY et al., 1987 Mapmaker: an interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics 1: 174−181.、またはLINCOLN, S., M. DALY and E. LANDER, 1993 Constructing genetic linkage maps with Mapmaker/Exp 3.0. Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report. 3rd ed, Cambridge, MA, USA.等)。
【0090】
また、本発明に係る遺伝マーカー群は、小穂非脱落性遺伝子を特定する用途では、特に、オオムギの3HS染色体に位置付けられる遺伝マーカーを含むことが好ましい。前述したようにオオムギにおける小穂非脱落性遺伝子は、3HS染色体に座乗すると報告されている。それゆえ、当該遺伝子を単離・同定するために利用する遺伝子地図を作成するには、3HS染色体に位置付けられる遺伝マーカーを多く含むことが非常に好ましい。
【0091】
上記のように、本発明に係る遺伝マーカーや遺伝マーカー群を用いれば、小穂非脱落性遺伝子を特定するための遺伝子地図を作成することができる。このため、本発明には、上記遺伝マーカーや遺伝マーカー群、または上記連鎖地図を用いて、植物染色体から小穂非脱落性遺伝子の座乗位置を特定する工程を含む小穂非脱落性遺伝子の単離方法(クローニング方法)が含まれる。
【0092】
小穂非脱落性遺伝子のクローニング方法としては、具体的には、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明に係る上記遺伝マーカーや遺伝マーカー群をプライマーまたはプローブとして用いることにより、小穂非脱落性遺伝子を単離・同定すればよい。
【0093】
また、上記遺伝マーカー、または遺伝マーカー群を位置付けた連鎖地図をもとに、小穂非脱落性遺伝子の染色体上の位置をより詳細に特定しクローニングを行う、いわゆるマップベースクローニングを行うことで、小穂非脱落性遺伝子を単離・同定することも可能である。そのための具体的な方法の1つとして、いわゆるQTL解析を利用した方法が挙げられる。
【0094】
上記QTL解析方法は、上記いずれかの遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図(以下、遺伝マーカー等と称する場合もある)を用いて、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2についてのQTL解析を行う方法であればよく、その他の条件、方法等は、従来公知のQTL解析方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0095】
QTL解析の原理は、雑種集団の各個体をマーカーの遺伝子型グループに分類し、それらの平均値を比較することから始まる。マーカーと解析対象形質に関与するQTLの一つとが連鎖していれば、遺伝子型グループの平均値間に偏りが生じる。連鎖していなければ、それらの間に偏りはない。これを発展させ、マーカーの存在しないマーカー間に対応させた解析が、インターバルマッピング法によるQTL解析である。解析対象の生物種の染色体全体に分散するマーカーを用いてこの解析を繰り返すと、解析対象形質に関与する染色体領域が明らかになる。
【0096】
また、QTL解析で重要な項目の中に、交配親として解析対象の形質について大きな差異、すなわち遺伝的に異なる品種の選抜が重要となる。それにより、形質に関与するQTL中の主要なものが検出されると期待できる。
【0097】
すなわち、「QTL解析」とはQTLのマッピングであればよい。さらに,マップされたQTLを単離する具体的な方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、2品種の親個体を交配させ、実験材料として多数の系統群の作出を行う。次に、目的とする形質を指標にこの系統群のゲノムを解析し、目的遺伝子の近傍に存在すると考えられる遺伝マーカー(DNAマーカー)を統計的に解析し、見つけ出す。この遺伝マーカーを用いて連鎖地図を作製し、それぞれの遺伝マーカーを指標としながら片方の親で戻し交雑を繰り返して、目的遺伝子の周辺のみがもう片方の親由来である個体を作製する。ここで得られた個体は、準同質遺伝子系統と呼ばれ、この準同質遺伝子系統を利用して、目的遺伝子の染色体上の位置を絞り込んでいくことで、目的のQTL、すなわち遺伝子を単離する。
【0098】
本発明に係るQTL解析方法によれば、上記遺伝マーカーまたは上記の連鎖地図を利用しているため、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子についてのQTL解析を行った結果、btr1、btr2の位置の正確性と信頼性とを高めることができる。したがって、本発明のQTL解析によって、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2の位置をより正確に特定することができ、当該遺伝子を単離・同定することができると考えられる。
【0099】
さらに、例えば、上記いずれかの遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を指標として、小穂非脱落性を有する植物(個体)を選抜することができる。上記植物(個体)選抜方法は、上記の遺伝マーカー等を指標として用いていればよく、その他の工程、条件、材料等は特に限定されるものではない。
【0100】
上記植物選抜方法の具体的方法としては、植物育種における従来公知の手法が利用でき、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、交配等により作出した植物のゲノムDNAを抽出し、本発明に係る遺伝マーカーまたは遺伝マーカー群を有するか否かを指標として植物を選抜する方法が挙げられる。なお、上記遺伝マーカーまたは遺伝マーカー群を検出する手段としては、例えば、上記遺伝マーカー等の一部の配列を固定化させたDNAチップを用いる方法、または上記遺伝マーカー等の一部の配列をプライマーとするPCRにより上記遺伝マーカー等を増幅させる方法等の従来公知の方法が利用でき、特に限定されるものではない。
【0101】
また、その他にも、例えば、上記いずれかの遺伝マーカー等を指標として、小穂非脱落性を有する植物を生産することができる可能性がある。上記植物生産方法は、上記遺伝マーカーを指標としていればよく、その他の工程、条件、材料等は、特に限定されるものではない。
【0102】
本発明に係る植物生産方法の具体的な方法としては、植物育種における従来公知の手法または遺伝子工学的な手法が利用でき、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、上記遺伝マーカーを有する植物を親個体として交配させて上記遺伝マーカーを有する植物個体を生産する方法、または上記遺伝マーカーを含むDNA領域をベクター等を利用した遺伝子導入等の遺伝子工学的な手法によって、上記遺伝マーカーを有する植物を生産する方法が挙げられる。なお、生産した植物個体が上記遺伝マーカーを有するか否かは、上述のDNAチップやPCR法を利用して簡便に調べることができる。
【0103】
なお、ここでいう「植物」には、オオムギ、コムギ、イネ等のイネ科植物が好ましい。
【0104】
上記のように、上記植物選抜方法によれば、非常に簡便かつ高確率で、小穂非脱落性を有する植物を選抜することができる。また、上記植物生産方法によれば、非常に簡便かつ高確率で、小穂非脱落性を有する植物を生産することができる。
【0105】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0106】
【実施例】
オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2について、染色体上の位置を詳細に特定し、かかる遺伝子btr1、btr2を単離・同定することを目的として、遺伝マーカーを作製した。具体的には、以下のように行った。
【0107】
〔1〕実験材料と実験方法
〔1−1〕使用した植物
本実施例では、以下に示すオオムギ品種を使用した。Hordeum vulgare ssp. vulgare cvs. Azumamugi, Kanto Nakate Gold (Barley Breeding Laboratory, National Institute of Crop Science, Tsukuba)。
【0108】
上記オオムギ品種からゲノムDNAを抽出し、以下のAFLPマーカーの作製に用いた。
【0109】
〔1−2〕AFLPマーカーの作製
AFLPマーカーの作製は、基本的には、MANOらの方法に従った(MANO,Y.,et al.、「Construction of a genetic map of barley (Hordeum vulgare L.) cross ’Azumamugi’ x ’Kanto Nakate Gold’ using a simple and efficient amplified fragment−length polymorphism system.」、Genome 44: 284−292)。具体的には、まず上記オオムギ品種の植物個体から調製したDNA試料を制限酵素EcoRIおよびMseIで処理した後、生じた制限酵素断片に対して、制限酵素の粘着末端に特異的に結合するAFLPアダプタを接続させた。上記AFLPアダプタとしては、制限酵素EcoRIによる粘着末端に結合するE−側AFLPアダプタと、制限酵素MseIによる粘着末端に結合するM−側AFLPアダプタとを用いた。これらAFLPアダプタは、2本鎖DNAであり、具体的には、E−側AFLPアダプタとして、配列番号10に示される塩基配列を有するE−adapter1と配列番号11に示される塩基配列を有するE−adapter2とを混ぜて使用し、M−側AFLPアダプタとして、配列番号12に示される塩基配列を有するM−adapter1と配列番号13に示される塩基配列を有するM−adapter2とを混ぜて使用した。
【0110】
次に、上記AFLPアダプタに相補的なプライマーを用いてPCRを行い、第1次増幅産物を得る。具体的には、E−側AFLPアダプタに相補的なプライマーとして、配列番号14に示される塩基配列を有するE−000を使用し、M−側AFLPアダプタに相補的なプライマーとして、配列番号15に示される塩基配列を有するM−000を使用した。
【0111】
続いて、この第1次増幅産物を鋳型とし、上記AFLPアダプタに相補的なプライマーである、E−000またはM−000に3個の選択ヌクレオチドを加えたプライマーを用いてPCRを行った。なお、上記E−000に3個の選択ヌクレオチドを加えたプライマーとしては、配列番号16〜79のいずれかに示される塩基配列を有する64種類のプライマーe01〜e64を用い、また、上記M−000に3個の選択ヌクレオチドを加えたプライマーは、配列番号80〜143のいずれかに示される塩基配列を有する64種類のプライマーm01〜m64を用いた。そして、上記PCRの結果、得られた増幅産物をAFLPマーカーとし、その塩基配列を決定した。なお、PCR等の詳細な条件は、上記文献に従った。
【0112】
〔1−3〕QTL解析
Composite interval mapping(CIM)のQTL解析は、コンピュータープログラムQTL Cartographer Version 1.14 (Basten et al.、「A reference manual and tutorial for QTL mapping.」、Department of Statictics, North Carolina State University, Raleigh, NC, USA)によって行い、データのbrittleness (%)は、arcsin√p変換を行った。
【0113】
ベースマップのために100個のマーカーを用いた。CIMは、デフォルト用意されたモデル6(5つのバックグラウンドマーカーと10cMのwindowサイズ)にて実行した。バックグラウンドマーカーの包括は、正確に解析され、効率的なQTLsマッピングが可能となる。Log−likelihood(LOD)スコアの3.0の閾値は、形質と関連する仮想の位置を含む領域が用いられている。
【0114】
〔1−4〕AFLPマーカーのマッピング
上記〔1−2〕で得たAFLPマーカーを位置付けた連鎖地図の作製方法は、基本的には、MANOらの方法に従った(MANO,Y.,et al.、「Construction of a genetic map of barley (Hordeum vulgare L.) cross ’Azumamugi’ x ’Kanto Nakate Gold’ using a simple and efficient amplified fragment−length polymorphism system.」、Genome 44: 284−292)。具体的には、計算ソフトを使った通常の方法で行った(LANDER, E., P. GREEN, J. ABRAHAMSON, A. BARLOW, M. DALY et al., 1987 Mapmaker: an interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics 1: 174−181.、またはLINCOLN, S., M. DALY and E. LANDER, 1993 Constructing genetic linkage maps with Mapmaker/Exp 3.0. Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report. 3rd ed, Cambridge, MA, USA.)。
【0115】
〔2〕結果
オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置を特定するために、まず上記〔1−3〕に示す方法により、QTL解析を行った。その結果、図1に示すように、オオムギの3H染色体において従来から知られていたAFLPマーカー:e14m27−4−1とe15m19−7との間に大きなピークが検出された。このことから、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2は、AFLPマーカー:e14m27−4−1とe15m19−7との間に座乗すると考えられた。
【0116】
そして、AFLPマーカー:e14m27−4−1とe15m19−7との間に座乗し、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2のより近傍に位置する遺伝マーカーを作製するために、上記〔1−2〕に示す方法により、84のAFLPマーカーを得た。次いで、これら84のAFLPマーカーを〔1−4〕の方法にしたがって、位置付けた連鎖地図を作製した。図2にこの連鎖地図を示す。図中、太字で示したマーカーは、従来から知られているAFLPマーカー:e14m27−4−1とe15m19−7である。それ以外が今回作製したAFLPマーカーである。なお、図2において、上方向がテロメア側であって、下方向が動原体側である。
【0117】
同図に示すように、上記84のAFLPマーカーはいずれも、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置の近傍に座乗することがわかった。
【0118】
そして、上記84のAFLPマーカーのうち、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2により近い、断片が短すぎない(100bp程度)などの基準に従い、9つのAFLPマーカーの塩基配列を決定した。この9つのマーカーは、図2の連鎖地図における網かけされたマーカーである。
【0119】
これら9つのAFLPマーカーの塩基配列を、それぞれ配列番号1〜9に示す。具体的には、▲1▼配列番号1はe05m15−09の塩基配列を、▲2▼配列番号2はe23m23−07の塩基配列を、▲3▼配列番号3はe50m21−01の塩基配列を、▲4▼配列番号4はe09m25−08の塩基配列を、▲5▼配列番号5はe45m11−11の塩基配列を、▲6▼配列番号6はe30m07−09の塩基配列を、▲7▼配列番号7はe40m19−08の塩基配列を、▲8▼配列番号8はe39m23−11の塩基配列を、▲9▼配列番号9はe04m55−09の塩基配列をそれぞれ示している。
【0120】
▲1▼e05m15−09は、図3に示すように、166塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Azumamugi」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」においては、増幅されない。
【0121】
▲2▼e23m23−07は、図4に示すように、280塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0122】
▲3▼e50m21−01は、図5に示すように、1209塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「A(アデニン)」の位置は、1塩基多型(SNPs(Single Nucleotide Polymorphisms)、スニップスとも称する)を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Ava IIによって検出することができる。
【0123】
▲4▼e09m25−08は、図6に示すように、207塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0124】
▲5▼e45m11−11は、図7に示すように、105塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0125】
▲6▼e30m07−09は、図8に示すように、166塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Azumamugi」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」においては、増幅されない。
【0126】
▲7▼e40m19−08は、図9に示すように、247塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「A(アデニン)」の位置は、1塩基多型を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Dra Iによって検出することができる。
【0127】
▲8▼e39m23−11は、図10に示すように、95塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーであるが、オオムギ品種「Azumamugi」においては、増幅されない。
【0128】
▲9▼e04m55−09は、図11に示すように、164塩基対からなるDNAマーカーであり、オオムギ品種「Kanto Nakate Gold」において増幅されるAFLPマーカーである。さらに、図中二重下線で示す塩基「C(シトシン)」の位置は、1塩基多型を有する位置であり、当該1塩基多型は制限酵素Msl Iによって検出することができる。
【0129】
これら9つのAFLPマーカーは、図2の連鎖地図に示すように、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の近傍に位置することから、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2と密接に連鎖していると考えられる。
【0130】
また、図2に示す連鎖地図は、高密度のAFLPマーカーを位置付けた連鎖地図であるため、正確に小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の座乗位置を特定することができ、ひいては、小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2を単離・同定できる。
【0131】
【発明の効果】
以上のように、本発明の遺伝マーカーによれば、信頼性の高い連鎖地図を作製することができるだけでなく、小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2について、より精度の高いQTL解析を行うことができるという効果を奏する。したがって、小穂非脱落性に関与する遺伝子btr1、btr2を単離・同定するための非常に有用な手段となるという効果を奏する。
【0132】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】オオムギの小穂非脱落性についてのQTL解析の結果を示す図である。
【図2】本実施の一形態における遺伝マーカーを位置付けたオオムギ3HS染色体における連鎖地図を示す図である。
【図3】本実施の一形態における遺伝マーカー▲1▼:e05m15−09の塩基配列を示す図である。
【図4】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲2▼:e23m23−07の塩基配列を示す図である。
【図5】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲3▼:e50m21−01の塩基配列を示す図である。
【図6】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲4▼:e09m25−08の塩基配列を示す図である。
【図7】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲5▼:e45m11−11の塩基配列を示す図である。
【図8】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲6▼:e30m07−09の塩基配列を示す図である。
【図9】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲7▼:e40m19−08の塩基配列を示す図である。
【図10】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲8▼:e39m23−11の塩基配列を示す図である。
【図11】本実施の一形態における他の遺伝マーカー▲9▼:e04m55−09の塩基配列を示す図である。

Claims (13)

  1. オオムギのゲノムDNAをAFLP処理することにより得られる遺伝マーカーであって、オオムギの小穂非脱落性遺伝子btr1、btr2の染色体上の位置と同じ位置、および上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ0.5cM、1.0cM、2.0cMテロメア側の位置、並びに上記btr1、btr2の染色体上の位置からそれぞれ2.7cM、3.2cM、3.7cM、4.2cM、4.7cM動原体側の位置から選択されるいずれかの位置に座乗することを特徴とする遺伝マーカー。
  2. 以下の(a)または(b)に示される塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを含むことを特徴とする遺伝マーカー。
    (a)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列。
    (b)配列番号1〜9のいずれかに示される塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加された塩基配列であって、植物の小穂非脱落性に関与する遺伝子またはQTLと連鎖する塩基配列。
  3. 上記植物とは、イネ科植物であることを特徴とする請求項2に記載の遺伝マーカー。
  4. 上記遺伝マーカーは、オオムギ由来であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝マーカー。
  5. 上記遺伝マーカーは、オオムギ3HS染色体における遺伝マーカーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝マーカー。
  6. 上記遺伝マーカーは、AFLPマーカーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の遺伝マーカー。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝マーカーを少なくとも含み、オオムギ染色体の連鎖地図の作成に用いられることを特徴とする遺伝マーカー群。
  8. さらに、制限酵素断片長多型マーカー、AFLPマーカー、STSマーカーおよびマイクロサテライトマーカーから選択される少なくとも1つのマーカーを含むことを特徴とする請求項7に記載の遺伝マーカー群。
  9. 請求項7または8に記載の遺伝マーカー群を用いて作成されることを特徴とするオオムギ染色体の連鎖地図。
  10. 少なくとも、請求項1〜9のいずれか1項に記載の遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を用いて、植物染色体から小穂非脱落性に関与する遺伝子の座乗位置を特定する工程を含むことを特徴とする小穂非脱落性遺伝子の単離方法。
  11. 上記遺伝マーカーをプライマーまたはプローブとして用いることを特徴とする請求項10に記載の小穂非脱落性遺伝子の単離方法。
  12. 上記遺伝子の座乗位置を特定する工程は、オオムギの小穂非脱落性に関与する遺伝子についてのQTL解析を行う工程を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の小穂非脱落性遺伝子の単離方法。
  13. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の遺伝マーカー、遺伝マーカー群、または連鎖地図を用いて、小穂非脱落性の植物個体を選別する方法。
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