JP2004319534A - 複合磁性体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】電磁波吸収特性に優れ、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず耐熱性があり、耐リフロー性が良好であることに加えて、柔軟性にも優れ、電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体を提供すること。
【解決手段】エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工してなる複合磁性体。エチレン−エチルアクリレート共重合体中に磁性粉末を分散させたシート状物を圧延加工する複合磁性体の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工してなる複合磁性体。エチレン−エチルアクリレート共重合体中に磁性粉末を分散させたシート状物を圧延加工する複合磁性体の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合磁性体に関し、さらに詳しくは、電磁波吸収特性を有し、電磁干渉を抑制するための電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の分野において、不要な電磁気信号や雑音によって、電気・電子機器が起こす誤動作や正常機能の低下は、電磁障害(EMI)または電磁妨害(EMD)として重要な問題となっている。
【0003】
電子回路が動作すると、意図するとしないとに関わらず、周囲に電磁界を生じて、電磁波を発生する。この電磁波は、自己の回路または他の電子機器に空間や配線などを介して結合し、誤動作の原因となる。また、自然界には、電波の利用による意図的な電磁波や自然現象に代表される非意図的な電磁波などの外来ノイズが常時発生している。
【0004】
特に、電気・電子機器の高速デジタル化、高周波化が急速に進展するのに伴って、本来電磁エネルギーの放出を意図しない機器からも電磁的なノイズが放出され、それが他の機器に誤動作などの悪影響を及ぼすことが多くなっている。
【0005】
そこで、電気・電子機器には、如何なるものに対しても許容できないような電磁妨害を与えないことと、その電磁環境下において満足に機能することができること、すなわち電磁両立性(EMC)を有することが要求されるに至っている。今後、EMC要求に適合しない電気・電子機器は、製造・販売ができなくなるとさえ言われている。
【0006】
したがって、自己が発生する電磁界や外部からの電磁界を低減したり、外部からの電磁界に対する耐力を高めて、誤動作やノイズを防ぐことは、極めて重要な技術的課題となっている。
【0007】
従来より、電気・電子機器において発生する不要電磁波の外部への漏洩や内部回路間での干渉、外部電磁波による誤動作などの影響を低減するために、電磁干渉抑制体が使用されている。電磁干渉抑制体は、一般に、結着樹脂中に磁性粉末を分散させた複合磁性体であり、シート状などの形態で用いられている。このような電磁干渉抑制体を、例えば、半導体素子または配線基板の配線間に配置することにより、電磁波障害の原因となる電磁結合、不要輻射、伝導ノイズを抑制することができる。
【0008】
しかし、電磁干渉抑制機能と耐熱性を共に備えた電磁干渉抑制体を製造することは極めて困難な課題であった。一般に、高耐熱性のエンジニアリングプラスチックスは、電磁干渉抑制機能を得るために磁性粉末の充填量を多くすると、成形体が脆くなったり、柔軟性が損なわれ、満足できる電磁干渉抑制体を得ることが困難である。他方、耐熱性の低い熱可塑性樹脂の中には、磁性粉末の充填量を多くすることができるものがあるけれども、それにより得られる電磁干渉抑制体の耐熱性も不十分となる。
【0009】
従来、結着樹脂として塩素化ポリエチレンを使用し、その中に偏平状の軟磁性粉末を分散してなる複合磁性体シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、湿式法により、塩素化ポリエチレン中に偏平状軟磁性粉末を分散させた複合磁性体シートを成形し、次いで、複合磁性体シートの面に垂直な方向に加圧することにより、複合磁性体シートの密度を増大させる方法が開示されている。
【0010】
しかし、塩素化ポリエチレンは、耐熱性が不十分であるため、特許文献1に記載の複合磁性体シートは、リフローはんだ付け時のリフロー炉での加熱により、局部的な粉化、ひび、割れなどが発生しやすい。そのため、耐熱性が低い複合磁性体シートを電磁干渉抑制体として塔載した電子部品などは、リフローはんだ付けを行うことができないか、リフローはんだ付け工程で劣化してしまう。基板へのチップ部品等の表面実装技術では、リフローはんだ付けが基本プロセスとなっており、電磁干渉抑制体の塔載をリフローはんだ付け後に行わなければならないことは、プロセス上の重要な欠点となる。
【0011】
電磁波障害を抑制する電磁干渉抑制体を用いた電子部品において、該電磁干渉抑制体を半導体部品または配線基板に熱硬化性樹脂で被覆して固定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、偏平状軟磁性粉末をポリウレタン樹脂からなる結着樹脂中に分散させた電磁干渉抑制体が開示されている。しかし、ポリウレタン樹脂を結着樹脂とする電磁干渉抑制体は、耐熱性が悪く、リフロー工程を通過させることができないものである。
【0012】
そこで、特許文献2には、該電磁干渉抑制体を半導体部品の上面に塔載し、該電磁干渉抑制体を覆うように、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を塗布し固定した後、240℃のはんだリフロー炉を通過させて、熱硬化性樹脂を硬化させ、それによって、電磁干渉抑制体を熱硬化性樹脂で完全に封じ込めて固定する方法が提案されている。特許文献2には、前記方法によれば、リフロー工程後でも、電磁干渉抑制体に変質や不具合が発生しなかったことが記載されている。
【0013】
しかし、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂は、硬化後に硬い被覆層を形成するため、耐屈曲性が必要とされる部分や基板などには使用することができない。しかも、熱硬化性樹脂からなる被覆層は、その分だけ嵩張るため、薄型化や小型化の要請に反することになる。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−243615号公報 (第1頁、実施例)
【特許文献2】
特開平11−307983号公報 (第1頁、実施例)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、結着樹脂中に磁性粉体を分散させた複合磁性体であって、電磁波吸収特性に優れ、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず耐熱性があり、耐リフロー性が良好であることに加えて、柔軟性にも優れ、電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、磁性粉末の結着樹脂として特定のエチレン−エチルアクリレート共重合体(以下、「EEA」ということがある)を使用すると、耐熱性、耐屈曲性、電磁波吸収特性などに優れた複合磁性体の得られることを見出した。
【0017】
さらに、シート状の複合磁性体を圧延加工したところ、電磁波吸収特性が顕著に改善されることが分かった。この圧延加工は、EEA中に磁性粉末を分散させた複合磁性体シートを、単に金属ロール間で圧延加工するだけで効率良く行うことができる。しかも、熱伝導性の良い金属ロールを用いることにより、ロール圧延時の温度条件を容易に制御することができ、適度の高温条件を選択することにより、電磁波吸収特性を更に高めることができる。
【0018】
本発明の複合磁性体は、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず、耐はんだリフロー性が良好である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工してなる複合磁性体が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を成形し、次いで、シート状成形物を圧延加工することを特徴とする複合磁性体の製造方法が提供される。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)は、柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性、電気的特性、耐熱性、熱安定性などが良好で、腐食性のない熱可塑性樹脂である。本発明で用いるEEAは、エチルアクリレート含量(エチルアクリレートの共重合割合;以下、「EA含量」という)が25〜45重量%の範囲内にあることが必要である。EA含量が少なすぎると、エチレン含量が多くなりすぎて、溶剤に対する溶解性が低下して、湿式法による複合磁性体の成形が困難になり、耐熱性も低下する。EA含量が45重量%を超えるEEAは、合成が困難である。耐屈曲性の観点からは、EA含量は30重量%以上であることが好ましい。
【0022】
磁性粉末としては、各種磁性材料を使用することができるが、それらの中でも軟磁性の金属系高透磁率磁性材料が好ましく、その具体例としては、Fe−Ni合金(パーマロイ)、Fe−Si−Al合金(センダスト)、Co−Fe合金、アモルファス合金、純鉄系(メタル粉、窒化鉄粉)などが挙げられる。これらの中でも、複合磁性体の実効透磁率の観点から、Fe−Ni合金、及びFe−Si−Al合金が特に好ましい。
【0023】
軟磁性粉末の形状は、球状、不定形、偏平状など任意であるが、偏平状であることがシート状複合磁性体での面内配向の観点から好ましい。偏平状軟磁性粉末は、磨砕処理などによる偏平化後に焼鈍処理して、応力歪みを除去したものが好ましい。偏平状軟磁性粉末のアスペクト比は、5以上であることが好ましい。
【0024】
磁性粉末は、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤などのカップリング剤によって表面処理することができる。カップリング剤による表面処理によって、磁性粉末と結着樹脂との間の親和性が改善され、複合磁性体への水分の浸透を抑制し、高温高湿下での耐久性を向上させることができる。
【0025】
EEAに対する磁性粉末の配合割合は、EEA100重量部に対して、好ましくは500〜2000重量部、より好ましくは700〜1500重量部である。磁性粉末の配合割合が過小であると、十分な電磁波吸収特性を得ることが困難になり、過大であると、成形性や耐屈曲性が低下しやすくなる。
【0026】
本発明の複合磁性体は、EEA中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工することにより得ることができる。シート状成形物(圧延加工前の複合磁性体シート)は、例えば、EEAと磁性粉末とを溶融混練した樹脂組成物をロールなどによりシート状に成形する乾式法;磁性粉末、EEA、及びEEAを溶解する溶剤を混合し撹拌して、スラリー状溶液を形成し、この溶液を離型用フィルムなどの支持体上に流し、ドクターブレードにより塗布厚みを調整し、加熱乾燥する湿式法;などにより製造することができる。これらの中でも、湿式法によれば、偏平状軟磁性粉末を用いた場合に磁性粉末の配向度を高め、透磁率特性を向上させることができるので、特に好ましい。
【0027】
圧延加工前のシート状成形物の厚みは、特に限定されないが、好ましくは30〜500μm、より好ましくは40〜300μm、特に好ましくは50〜200μmの範囲内である。この厚みが薄すぎると、圧延加工による電磁波吸収特性の改善効果が小さく、厚すぎると、均一な圧延加工が困難になることがあり、しかも得られる複合磁性体シートの厚みが不必要に大きくなる。
【0028】
圧延加工法は、特に限定されず、例えば、熱プレス法、複数のロールにより構成された圧延装置を用いる方法、複数のプーリーによって支持された無端ベルトと複数のロールによって構成された圧延装置を用いる方法など、特許文献1に開示されている各種方法を採用することができる。 ロールを用いた圧延法を採用する場合も、表面に樹脂コーティングを施したロール、ゴム硬度が90以上のゴムまたは高分子材料からなり、表面部分が弾性変形し得るロールなどを用いることができる。
【0029】
本発明では、驚くべきことに、金属ロールを用いたロール圧延法を好適に採用することができる。特許文献1には、表面が弾性変形しない金属ロールのみからなる圧延装置では、加圧前よりも高い透磁率特性を具備した複合磁性体シートを得るのは、実質的に不可能であると記載されている〔段落番号(0064)〕。ところが、結着樹脂として特定のEEAを使用し、その両面に離型用フィルムを配置してロール圧延する方法を採用すると、金属ロールを用いた圧延法により、電磁波吸収特性が改善された複合磁性体を得ることが可能である。
【0030】
具体的には、シート状成形物の両面に離型用フィルムを配置して多層シートとし、この多層シートをロール圧延により圧延加工を行う。ロールとして、金属ロールを用いることができる。離型用フィルムとしては、離型性を有するか、離型処理を施したフィルムが好ましく、離型処理を施した離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。EEAは、接着性があるため、EEA層の離型用フィルムを両面に配置して、ロール面への付着を防ぐ。圧延加工後、離型用フィルムを剥離する。
【0031】
前述の湿式法によりシート状成形物を成形する際に、離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体として使用し、乾燥後にEEA層上に他の離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ、この多層シートをロール圧延する方法が特に好ましい。
【0032】
ロール間のギャップは、圧延前のシート状成形物の厚みや、所望の複合磁性体の厚みに応じて適宜選択することができるが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜150μm程度である。
【0033】
EEA中に磁性粉末を分散させたシート状成形物の圧延加工は、低温若しくは常温で行うことができるが、EEAの融点以上の高温の領域でも行うことができる。ロールによる圧延加工は、一般に、ロール温度を20〜130℃の範囲内に調整して行う。ロール温度を高めると、圧延加工後に得られる複合磁性体の電磁波吸収特性が顕著に改善されることが判明した。
【0034】
圧延加工時のロール温度は、好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、特に好ましくは50〜100℃の範囲内である。ロール温度を所望の範囲内に制御するには、熱伝導性に優れた金属ロールが好適である。樹脂被覆ロールやゴムロールなどは、熱伝導性が悪いため、ロール温度を高温条件下に制御して圧延加工を行う方法には必ずしも適していない。
【0035】
圧延加工により、圧延前のシート状成形物の厚みの通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下の厚みを有する複合成形体を製造することが望ましい。圧延率が不十分であると、電磁波吸収特性の改善効果が小さくなる。圧延加工後の本発明の複合成形体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10〜200μm、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。
【0036】
本発明の複合磁性体は、不要な電磁波の反射・散乱を抑制する特性、すなわち電磁波吸収特性を有している。電磁波吸収特性は、透磁率の複素成分μ”により評価することができる。本発明の複合磁性体の透磁率の複素成分μ”は、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5〜8.0、多くの場合6.0〜7.0の範囲内である。
【0037】
本発明の複合磁性体は、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)で一部に膨れが生じることがあるものの、リフロー工程に耐えるだけの耐熱性を有している。しかも、本発明の複合磁性体は、はんだリフロー試験後にも、非常に優れた耐屈曲性を示す。さらに、本発明の複合磁性体は、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるEEAであるため、はんだリフロー試験後の表面平滑性に優れている。
【0038】
本発明の複合磁性体は、耐熱性をさらに向上させるために、ポリイミドフィルムと多層化することが好ましい。ポリイミドフィルムは、耐熱性、可撓性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性などに優れたフィルムである。ポリイミドフィルム上に、EA含量が25〜45重量%のEEAからなる結着樹脂中に磁性体粉末が分散された複合磁性体層を形成して、多層構造の複合磁性体とすることにより、リフローはんだ付け工程において、複合磁性体層がボイドや膨れを発生するのを防止することができる。
【0039】
本発明の多層構造の複合磁性体は、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)の結果、複合磁性体層が変化することがなく、極めて優れた耐熱性を示す。また、本発明の多層構造の複合磁性体は、単層品と同水準の優れた電磁波吸収特性を示す。ポリイミドフィルムとの多層化に際し、ポリイミドフィルムの表面を予めプラズマ処理することにより、複合磁性体層との密着性が改善される。
【0040】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(EEA;EA含量=33重量%、三井デュポンポリケミカル製「A709」)100gを、重量比で10倍量のトルエンに溶解した。得られた溶液に、厚さ約1μm、外径20〜50μmの偏平状の鉄−ニッケル合金磁性粉末1,055g、並びに酸化防止剤としてイルガノックス(登録商標)1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)、スミライザーMB(住友化学製)、及び亜鉛華3号(堺化学工業製)を合わせて20g加え、攪拌混合した。
【0042】
離型用に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用意した。離型用PETフィルム上に、前記で調製したスラリー状溶液を流し、ドクターブレードを用いて塗布厚みを調整した後、熱板70℃上に載せて昇温し、最終温度が140℃に達する時点まで乾燥した。全厚みが151μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、101μmであると計算される。
【0043】
このシートのもう片面にも、離型処理した厚み50μmのPETフィルムを貼り付け、「PETフィルム/EEA層/PETフィルム」の層構成とした。この多層シートを、ロール温度20℃で金属ロール間(50〜100μmギャップ)に通して圧延した。全厚みが198μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、48μmであると計算される。その後、離型用PETフィルムを剥離して、磁性粉末を含有するEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
製膜時のEEA層の厚みを120μmとし、ロール圧延時の金属ロールの温度を60℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚み51μmのEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
製膜時のEEA層の厚みを122μmとし、ロール圧延時の金属ロールの温度を100℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚み50μmのEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0046】
[参考例1]
製膜時のEEA層の厚みを52μmに変えて、ロール圧延を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚みEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
EEAに代えて塩素化ポリエチレンを用いたこと以外は、参考例1と同様にして、ロール圧延をしていない磁性粉末を含有する塩素化ポリエチレンシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0048】
<物性の測定法>
(1)電磁波吸収測定:
実施例及び比較例で得られたサンプルを内径3mm×外径7mmのリング状に打ち抜き、ネットワークアナライザHP8720B(アジレントテクノロジー社製)を用い、同軸導波管法により周波数2GHzでsパラメータを採取した。このsパラメータから、計算により得られる透磁率の複素成分μ”を得た。複素成分μ”は、大きいほど電磁波吸収性が良い。
【0049】
次に、磁性粉末を含有するシート層に50μm厚の粘着剤を貼り、更にプリント回路のカバーレイを模擬したポリイミドフィルム50μmを貼った試料を作製した。このようにして得られた積層試料を以下の試験に供した。
【0050】
(2)はんだ耐熱性試験:
JIS C−5012「プリント配線板試験方法」10.4.1「はんだフロート法」に記載される方法により、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)を実施した。老化の判定は、5cm長×0.5cm幅の試料を肉眼で観察し、局部的な粉化、ひび、割れがあるものはC、一部のみ膨れがあるものはB、特に変化していないものはAと評価することにより行った。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果から明らかなように、本発明の圧延加工された複合磁性体(実施例1〜3)は、圧延加工されていない複合磁性体(参考例1)に比べて電磁波吸収特性が改善されており、特にロール温度を高めた場合(実施例2〜3)には、その改善効果が顕著である。また、実施例1〜3で得られた複合磁性体シートは、いずれも柔軟性のあるものであった。
【0053】
これに対して、塩素化ポリエチレンを結着樹脂とする複合磁性体(比較例1)は、電磁波吸収特性が比較的良好であるものの、耐熱性が悪く、はんだリフロー試験に耐えることができない。
【0054】
[実施例4]
離型用PETフィルムに代えて、厚み25μmのポリイミドフィルム上に、実施例1と同様にして調製したスラリー状溶液を流し、ドクターブレードを用いて塗布厚みを調整した後、熱板70℃上に載せて昇温し、最終温度が140℃に達する時点まで乾燥した。全厚みが130μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、105μmであると計算される。ポリイミドフィルムは、剥離することなく積層した状態とした。
【0055】
EEA層の他方の面に厚み50μmの離型用PETフィルムを貼り付けて、「ポリイミドフィルム/EEA層/PETフィルム」の層構成とした。この多層シートを、ロール温度60℃で金属ロール間に通して圧延した。全厚みが127μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、52μmであると計算される。離型用PETフィルムは、剥離した。このようにして、ポリイミドフィルム上に磁性粉末を含有するEEA層が形成された多層シート(多層構造の複合磁性体)を得た。この多層構造の複合磁性体の電磁波吸収特性(複素成分μ”)は、6.6であり、耐熱性の評価は、Aであった。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、結着樹脂中に磁性粉体を分散させた複合磁性体であって、電磁波吸収特性に優れ、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず耐熱性があり、耐リフロー性が良好であることに加えて、柔軟性にも優れ、電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体が提供される。
【0057】
また、本発明によれば、金属ロールを用いたロール圧延法などの圧延加工を行うことにより、耐熱性、柔軟性に優れ、しかも電磁波吸収特性が顕著に改善された複合磁性体の製造方法が提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合磁性体に関し、さらに詳しくは、電磁波吸収特性を有し、電磁干渉を抑制するための電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の分野において、不要な電磁気信号や雑音によって、電気・電子機器が起こす誤動作や正常機能の低下は、電磁障害(EMI)または電磁妨害(EMD)として重要な問題となっている。
【0003】
電子回路が動作すると、意図するとしないとに関わらず、周囲に電磁界を生じて、電磁波を発生する。この電磁波は、自己の回路または他の電子機器に空間や配線などを介して結合し、誤動作の原因となる。また、自然界には、電波の利用による意図的な電磁波や自然現象に代表される非意図的な電磁波などの外来ノイズが常時発生している。
【0004】
特に、電気・電子機器の高速デジタル化、高周波化が急速に進展するのに伴って、本来電磁エネルギーの放出を意図しない機器からも電磁的なノイズが放出され、それが他の機器に誤動作などの悪影響を及ぼすことが多くなっている。
【0005】
そこで、電気・電子機器には、如何なるものに対しても許容できないような電磁妨害を与えないことと、その電磁環境下において満足に機能することができること、すなわち電磁両立性(EMC)を有することが要求されるに至っている。今後、EMC要求に適合しない電気・電子機器は、製造・販売ができなくなるとさえ言われている。
【0006】
したがって、自己が発生する電磁界や外部からの電磁界を低減したり、外部からの電磁界に対する耐力を高めて、誤動作やノイズを防ぐことは、極めて重要な技術的課題となっている。
【0007】
従来より、電気・電子機器において発生する不要電磁波の外部への漏洩や内部回路間での干渉、外部電磁波による誤動作などの影響を低減するために、電磁干渉抑制体が使用されている。電磁干渉抑制体は、一般に、結着樹脂中に磁性粉末を分散させた複合磁性体であり、シート状などの形態で用いられている。このような電磁干渉抑制体を、例えば、半導体素子または配線基板の配線間に配置することにより、電磁波障害の原因となる電磁結合、不要輻射、伝導ノイズを抑制することができる。
【0008】
しかし、電磁干渉抑制機能と耐熱性を共に備えた電磁干渉抑制体を製造することは極めて困難な課題であった。一般に、高耐熱性のエンジニアリングプラスチックスは、電磁干渉抑制機能を得るために磁性粉末の充填量を多くすると、成形体が脆くなったり、柔軟性が損なわれ、満足できる電磁干渉抑制体を得ることが困難である。他方、耐熱性の低い熱可塑性樹脂の中には、磁性粉末の充填量を多くすることができるものがあるけれども、それにより得られる電磁干渉抑制体の耐熱性も不十分となる。
【0009】
従来、結着樹脂として塩素化ポリエチレンを使用し、その中に偏平状の軟磁性粉末を分散してなる複合磁性体シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、湿式法により、塩素化ポリエチレン中に偏平状軟磁性粉末を分散させた複合磁性体シートを成形し、次いで、複合磁性体シートの面に垂直な方向に加圧することにより、複合磁性体シートの密度を増大させる方法が開示されている。
【0010】
しかし、塩素化ポリエチレンは、耐熱性が不十分であるため、特許文献1に記載の複合磁性体シートは、リフローはんだ付け時のリフロー炉での加熱により、局部的な粉化、ひび、割れなどが発生しやすい。そのため、耐熱性が低い複合磁性体シートを電磁干渉抑制体として塔載した電子部品などは、リフローはんだ付けを行うことができないか、リフローはんだ付け工程で劣化してしまう。基板へのチップ部品等の表面実装技術では、リフローはんだ付けが基本プロセスとなっており、電磁干渉抑制体の塔載をリフローはんだ付け後に行わなければならないことは、プロセス上の重要な欠点となる。
【0011】
電磁波障害を抑制する電磁干渉抑制体を用いた電子部品において、該電磁干渉抑制体を半導体部品または配線基板に熱硬化性樹脂で被覆して固定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、偏平状軟磁性粉末をポリウレタン樹脂からなる結着樹脂中に分散させた電磁干渉抑制体が開示されている。しかし、ポリウレタン樹脂を結着樹脂とする電磁干渉抑制体は、耐熱性が悪く、リフロー工程を通過させることができないものである。
【0012】
そこで、特許文献2には、該電磁干渉抑制体を半導体部品の上面に塔載し、該電磁干渉抑制体を覆うように、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を塗布し固定した後、240℃のはんだリフロー炉を通過させて、熱硬化性樹脂を硬化させ、それによって、電磁干渉抑制体を熱硬化性樹脂で完全に封じ込めて固定する方法が提案されている。特許文献2には、前記方法によれば、リフロー工程後でも、電磁干渉抑制体に変質や不具合が発生しなかったことが記載されている。
【0013】
しかし、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂は、硬化後に硬い被覆層を形成するため、耐屈曲性が必要とされる部分や基板などには使用することができない。しかも、熱硬化性樹脂からなる被覆層は、その分だけ嵩張るため、薄型化や小型化の要請に反することになる。
【0014】
【特許文献1】
特開2000−243615号公報 (第1頁、実施例)
【特許文献2】
特開平11−307983号公報 (第1頁、実施例)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、結着樹脂中に磁性粉体を分散させた複合磁性体であって、電磁波吸収特性に優れ、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず耐熱性があり、耐リフロー性が良好であることに加えて、柔軟性にも優れ、電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、磁性粉末の結着樹脂として特定のエチレン−エチルアクリレート共重合体(以下、「EEA」ということがある)を使用すると、耐熱性、耐屈曲性、電磁波吸収特性などに優れた複合磁性体の得られることを見出した。
【0017】
さらに、シート状の複合磁性体を圧延加工したところ、電磁波吸収特性が顕著に改善されることが分かった。この圧延加工は、EEA中に磁性粉末を分散させた複合磁性体シートを、単に金属ロール間で圧延加工するだけで効率良く行うことができる。しかも、熱伝導性の良い金属ロールを用いることにより、ロール圧延時の温度条件を容易に制御することができ、適度の高温条件を選択することにより、電磁波吸収特性を更に高めることができる。
【0018】
本発明の複合磁性体は、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず、耐はんだリフロー性が良好である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工してなる複合磁性体が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を成形し、次いで、シート状成形物を圧延加工することを特徴とする複合磁性体の製造方法が提供される。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)は、柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性、電気的特性、耐熱性、熱安定性などが良好で、腐食性のない熱可塑性樹脂である。本発明で用いるEEAは、エチルアクリレート含量(エチルアクリレートの共重合割合;以下、「EA含量」という)が25〜45重量%の範囲内にあることが必要である。EA含量が少なすぎると、エチレン含量が多くなりすぎて、溶剤に対する溶解性が低下して、湿式法による複合磁性体の成形が困難になり、耐熱性も低下する。EA含量が45重量%を超えるEEAは、合成が困難である。耐屈曲性の観点からは、EA含量は30重量%以上であることが好ましい。
【0022】
磁性粉末としては、各種磁性材料を使用することができるが、それらの中でも軟磁性の金属系高透磁率磁性材料が好ましく、その具体例としては、Fe−Ni合金(パーマロイ)、Fe−Si−Al合金(センダスト)、Co−Fe合金、アモルファス合金、純鉄系(メタル粉、窒化鉄粉)などが挙げられる。これらの中でも、複合磁性体の実効透磁率の観点から、Fe−Ni合金、及びFe−Si−Al合金が特に好ましい。
【0023】
軟磁性粉末の形状は、球状、不定形、偏平状など任意であるが、偏平状であることがシート状複合磁性体での面内配向の観点から好ましい。偏平状軟磁性粉末は、磨砕処理などによる偏平化後に焼鈍処理して、応力歪みを除去したものが好ましい。偏平状軟磁性粉末のアスペクト比は、5以上であることが好ましい。
【0024】
磁性粉末は、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤などのカップリング剤によって表面処理することができる。カップリング剤による表面処理によって、磁性粉末と結着樹脂との間の親和性が改善され、複合磁性体への水分の浸透を抑制し、高温高湿下での耐久性を向上させることができる。
【0025】
EEAに対する磁性粉末の配合割合は、EEA100重量部に対して、好ましくは500〜2000重量部、より好ましくは700〜1500重量部である。磁性粉末の配合割合が過小であると、十分な電磁波吸収特性を得ることが困難になり、過大であると、成形性や耐屈曲性が低下しやすくなる。
【0026】
本発明の複合磁性体は、EEA中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工することにより得ることができる。シート状成形物(圧延加工前の複合磁性体シート)は、例えば、EEAと磁性粉末とを溶融混練した樹脂組成物をロールなどによりシート状に成形する乾式法;磁性粉末、EEA、及びEEAを溶解する溶剤を混合し撹拌して、スラリー状溶液を形成し、この溶液を離型用フィルムなどの支持体上に流し、ドクターブレードにより塗布厚みを調整し、加熱乾燥する湿式法;などにより製造することができる。これらの中でも、湿式法によれば、偏平状軟磁性粉末を用いた場合に磁性粉末の配向度を高め、透磁率特性を向上させることができるので、特に好ましい。
【0027】
圧延加工前のシート状成形物の厚みは、特に限定されないが、好ましくは30〜500μm、より好ましくは40〜300μm、特に好ましくは50〜200μmの範囲内である。この厚みが薄すぎると、圧延加工による電磁波吸収特性の改善効果が小さく、厚すぎると、均一な圧延加工が困難になることがあり、しかも得られる複合磁性体シートの厚みが不必要に大きくなる。
【0028】
圧延加工法は、特に限定されず、例えば、熱プレス法、複数のロールにより構成された圧延装置を用いる方法、複数のプーリーによって支持された無端ベルトと複数のロールによって構成された圧延装置を用いる方法など、特許文献1に開示されている各種方法を採用することができる。 ロールを用いた圧延法を採用する場合も、表面に樹脂コーティングを施したロール、ゴム硬度が90以上のゴムまたは高分子材料からなり、表面部分が弾性変形し得るロールなどを用いることができる。
【0029】
本発明では、驚くべきことに、金属ロールを用いたロール圧延法を好適に採用することができる。特許文献1には、表面が弾性変形しない金属ロールのみからなる圧延装置では、加圧前よりも高い透磁率特性を具備した複合磁性体シートを得るのは、実質的に不可能であると記載されている〔段落番号(0064)〕。ところが、結着樹脂として特定のEEAを使用し、その両面に離型用フィルムを配置してロール圧延する方法を採用すると、金属ロールを用いた圧延法により、電磁波吸収特性が改善された複合磁性体を得ることが可能である。
【0030】
具体的には、シート状成形物の両面に離型用フィルムを配置して多層シートとし、この多層シートをロール圧延により圧延加工を行う。ロールとして、金属ロールを用いることができる。離型用フィルムとしては、離型性を有するか、離型処理を施したフィルムが好ましく、離型処理を施した離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。EEAは、接着性があるため、EEA層の離型用フィルムを両面に配置して、ロール面への付着を防ぐ。圧延加工後、離型用フィルムを剥離する。
【0031】
前述の湿式法によりシート状成形物を成形する際に、離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体として使用し、乾燥後にEEA層上に他の離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ、この多層シートをロール圧延する方法が特に好ましい。
【0032】
ロール間のギャップは、圧延前のシート状成形物の厚みや、所望の複合磁性体の厚みに応じて適宜選択することができるが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜150μm程度である。
【0033】
EEA中に磁性粉末を分散させたシート状成形物の圧延加工は、低温若しくは常温で行うことができるが、EEAの融点以上の高温の領域でも行うことができる。ロールによる圧延加工は、一般に、ロール温度を20〜130℃の範囲内に調整して行う。ロール温度を高めると、圧延加工後に得られる複合磁性体の電磁波吸収特性が顕著に改善されることが判明した。
【0034】
圧延加工時のロール温度は、好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、特に好ましくは50〜100℃の範囲内である。ロール温度を所望の範囲内に制御するには、熱伝導性に優れた金属ロールが好適である。樹脂被覆ロールやゴムロールなどは、熱伝導性が悪いため、ロール温度を高温条件下に制御して圧延加工を行う方法には必ずしも適していない。
【0035】
圧延加工により、圧延前のシート状成形物の厚みの通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下の厚みを有する複合成形体を製造することが望ましい。圧延率が不十分であると、電磁波吸収特性の改善効果が小さくなる。圧延加工後の本発明の複合成形体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10〜200μm、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。
【0036】
本発明の複合磁性体は、不要な電磁波の反射・散乱を抑制する特性、すなわち電磁波吸収特性を有している。電磁波吸収特性は、透磁率の複素成分μ”により評価することができる。本発明の複合磁性体の透磁率の複素成分μ”は、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5〜8.0、多くの場合6.0〜7.0の範囲内である。
【0037】
本発明の複合磁性体は、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)で一部に膨れが生じることがあるものの、リフロー工程に耐えるだけの耐熱性を有している。しかも、本発明の複合磁性体は、はんだリフロー試験後にも、非常に優れた耐屈曲性を示す。さらに、本発明の複合磁性体は、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるEEAであるため、はんだリフロー試験後の表面平滑性に優れている。
【0038】
本発明の複合磁性体は、耐熱性をさらに向上させるために、ポリイミドフィルムと多層化することが好ましい。ポリイミドフィルムは、耐熱性、可撓性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性などに優れたフィルムである。ポリイミドフィルム上に、EA含量が25〜45重量%のEEAからなる結着樹脂中に磁性体粉末が分散された複合磁性体層を形成して、多層構造の複合磁性体とすることにより、リフローはんだ付け工程において、複合磁性体層がボイドや膨れを発生するのを防止することができる。
【0039】
本発明の多層構造の複合磁性体は、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)の結果、複合磁性体層が変化することがなく、極めて優れた耐熱性を示す。また、本発明の多層構造の複合磁性体は、単層品と同水準の優れた電磁波吸収特性を示す。ポリイミドフィルムとの多層化に際し、ポリイミドフィルムの表面を予めプラズマ処理することにより、複合磁性体層との密着性が改善される。
【0040】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(EEA;EA含量=33重量%、三井デュポンポリケミカル製「A709」)100gを、重量比で10倍量のトルエンに溶解した。得られた溶液に、厚さ約1μm、外径20〜50μmの偏平状の鉄−ニッケル合金磁性粉末1,055g、並びに酸化防止剤としてイルガノックス(登録商標)1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)、スミライザーMB(住友化学製)、及び亜鉛華3号(堺化学工業製)を合わせて20g加え、攪拌混合した。
【0042】
離型用に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用意した。離型用PETフィルム上に、前記で調製したスラリー状溶液を流し、ドクターブレードを用いて塗布厚みを調整した後、熱板70℃上に載せて昇温し、最終温度が140℃に達する時点まで乾燥した。全厚みが151μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、101μmであると計算される。
【0043】
このシートのもう片面にも、離型処理した厚み50μmのPETフィルムを貼り付け、「PETフィルム/EEA層/PETフィルム」の層構成とした。この多層シートを、ロール温度20℃で金属ロール間(50〜100μmギャップ)に通して圧延した。全厚みが198μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、48μmであると計算される。その後、離型用PETフィルムを剥離して、磁性粉末を含有するEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
製膜時のEEA層の厚みを120μmとし、ロール圧延時の金属ロールの温度を60℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚み51μmのEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
製膜時のEEA層の厚みを122μmとし、ロール圧延時の金属ロールの温度を100℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚み50μmのEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0046】
[参考例1]
製膜時のEEA層の厚みを52μmに変えて、ロール圧延を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、磁性粉末を含有する厚みEEAシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
EEAに代えて塩素化ポリエチレンを用いたこと以外は、参考例1と同様にして、ロール圧延をしていない磁性粉末を含有する塩素化ポリエチレンシート(複合磁性体)を得た。結果を表1に示す。
【0048】
<物性の測定法>
(1)電磁波吸収測定:
実施例及び比較例で得られたサンプルを内径3mm×外径7mmのリング状に打ち抜き、ネットワークアナライザHP8720B(アジレントテクノロジー社製)を用い、同軸導波管法により周波数2GHzでsパラメータを採取した。このsパラメータから、計算により得られる透磁率の複素成分μ”を得た。複素成分μ”は、大きいほど電磁波吸収性が良い。
【0049】
次に、磁性粉末を含有するシート層に50μm厚の粘着剤を貼り、更にプリント回路のカバーレイを模擬したポリイミドフィルム50μmを貼った試料を作製した。このようにして得られた積層試料を以下の試験に供した。
【0050】
(2)はんだ耐熱性試験:
JIS C−5012「プリント配線板試験方法」10.4.1「はんだフロート法」に記載される方法により、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)を実施した。老化の判定は、5cm長×0.5cm幅の試料を肉眼で観察し、局部的な粉化、ひび、割れがあるものはC、一部のみ膨れがあるものはB、特に変化していないものはAと評価することにより行った。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果から明らかなように、本発明の圧延加工された複合磁性体(実施例1〜3)は、圧延加工されていない複合磁性体(参考例1)に比べて電磁波吸収特性が改善されており、特にロール温度を高めた場合(実施例2〜3)には、その改善効果が顕著である。また、実施例1〜3で得られた複合磁性体シートは、いずれも柔軟性のあるものであった。
【0053】
これに対して、塩素化ポリエチレンを結着樹脂とする複合磁性体(比較例1)は、電磁波吸収特性が比較的良好であるものの、耐熱性が悪く、はんだリフロー試験に耐えることができない。
【0054】
[実施例4]
離型用PETフィルムに代えて、厚み25μmのポリイミドフィルム上に、実施例1と同様にして調製したスラリー状溶液を流し、ドクターブレードを用いて塗布厚みを調整した後、熱板70℃上に載せて昇温し、最終温度が140℃に達する時点まで乾燥した。全厚みが130μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、105μmであると計算される。ポリイミドフィルムは、剥離することなく積層した状態とした。
【0055】
EEA層の他方の面に厚み50μmの離型用PETフィルムを貼り付けて、「ポリイミドフィルム/EEA層/PETフィルム」の層構成とした。この多層シートを、ロール温度60℃で金属ロール間に通して圧延した。全厚みが127μmとなったので、磁性粉末を含有するEEA層の厚みは、52μmであると計算される。離型用PETフィルムは、剥離した。このようにして、ポリイミドフィルム上に磁性粉末を含有するEEA層が形成された多層シート(多層構造の複合磁性体)を得た。この多層構造の複合磁性体の電磁波吸収特性(複素成分μ”)は、6.6であり、耐熱性の評価は、Aであった。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、結着樹脂中に磁性粉体を分散させた複合磁性体であって、電磁波吸収特性に優れ、結着樹脂が熱可塑性樹脂であるにもかかわらず耐熱性があり、耐リフロー性が良好であることに加えて、柔軟性にも優れ、電磁干渉抑制体として好適な複合磁性体が提供される。
【0057】
また、本発明によれば、金属ロールを用いたロール圧延法などの圧延加工を行うことにより、耐熱性、柔軟性に優れ、しかも電磁波吸収特性が顕著に改善された複合磁性体の製造方法が提供される。
Claims (5)
- エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を圧延加工してなる複合磁性体。
- エチルアクリレート含量が25〜45重量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体からなる結着樹脂中に磁性粉末が分散されているシート状成形物を成形し、次いで、シート状成形物を圧延加工することを特徴とする複合磁性体の製造方法。
- シート状成形物の両面に離型用フィルムを配置して多層シートとし、この多層シートをロール圧延により圧延加工する請求項2記載の製造方法。
- シート状成形物の両面に離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムを配置して多層シートとし、この多層シートを金属ロール間でのロール圧延により圧延加工する請求項3記載の製造方法。
- ロール圧延時のロール温度を20〜130℃の範囲内に調整する請求項2乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
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Cited By (2)
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-
2003
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