以下、本発明の実施形態を図1乃至図11に基いて説明する。
本発明は、軸13と、焼結金属で形成され、軸の外周面と軸受隙間を介して対向するラジアル軸受面11bを備えた軸受本体11aに油を含浸させてなり、軸13と軸受本体11aとの相対回転時にラジアル軸受面11bで生じる動圧作用により軸13を非接触支持する動圧型焼結含油軸受11とを具備するものにおいて、動圧型焼結含油軸受11の少なくとも一方の軸受端面と軸13に設けたフランジ部13aとでスラスト軸受部14を構成し、上記一方の軸受端面と軸受内周面との直角度、およびフランジ部13aと軸13の外周面との直角度を、軸13と軸受本体11aとの相対回転時に、上記一方の軸受端面とフランジ部13aとが片当りしない公差に管理したものである。
上記構成のスラスト軸受部14では、回転側と固定側の面当りが確保されるので、接触面圧を下げて摩耗を防止することができ、ピボット軸受のように、スラストワッシャの変形や摩耗による窪みのため軸位置が変化することはなく、また軸受を薄型化した場合でもモーメント剛性を高く保持することができる。さらに、軸と軸受本体との相対回転時に、一方の軸受端面とフランジ部とが片当りしないので、トルクロスが小さく、かつトルク変動を抑制して情報機器に要求される高い回転精度を実現することができる。
スラスト軸受部14において、軸受端面11f1の精度、あるいはフランジ部13aの精度が十分でないと、図16に示すように、フランジ部13aが軸受端面11f1に面接触せずに片当りとなるおそれがある。片当りでは、トルクロスが大きく、かつトルク変動の要因となって情報機器に要求される高い回転精度が得られない。また、たとえ軸受端面11f1に動圧溝を設けてスラスト軸受部を非接触に保とうとしても、動圧効果が不十分であるために、軸受端面とフランジ部との接触・摩耗を生じ、回転精度や耐久性を改善することができない。
そこで、本発明では、スラスト軸受部14を構成する少なくとも一方の軸受端面と軸受内周面との直角度、およびフランジ部13aと軸13の外周面(特にラジアル軸受面11bと対向する軸の外周面)との直角度を、軸13と軸受本体11aとの相対回転時に、上記一方の軸受端面とフランジ部13aとが片当りしない公差に管理することとした。
この場合、例えば軸受端面11f1と軸受内周面との直角度が4μm以上で、フランジ部13aと軸の外周面との直角度が3μm以上であると、フランジ部13aが軸受端面11f1に面当りせずに片当りするおそれがある。従って、軸受端面11f1と軸受内周面との直角度は3μm以内に、フランジ部13aと軸の外周面との直角度は2μm以内にそれぞれ設定する。
なお、ここでいう「直角度」とは、直角であるべき平面部分と基準となる面との組合わせにおいて、この基準面に対して直角な幾何学的平面からの直角であるべき平面部分の狂いの大きさをいう。
従来の動圧型焼結含油軸受では、軸受端面の精度が十分でなく(軸受内周面に対する軸受端面の直角度は10μm程度)、上記数値範囲内の精度を持つ軸受本体を量産することは難しい。対策としては、例えば軸受をハウジングに固定した後、軸受内径面を基準に、あるいは軸受内径面に対して同軸度が確保された外径面などを基準として軸受端面を機械加工で仕上げる方法があるが、その場合には、(1)加工によって生じた削り粉が軸受内周面に付着するため、加工後に洗浄が必要となり、(2)また、後加工、洗浄などの工程が別途必要となるため、コストが大幅にアップし、動圧型焼結含油軸受の最大の特徴である低コスト性が損なわれる等の問題が生じる。
そこで、本発明では、ラジアル軸受面11bにおける動圧溝11cを成形する成形型21aを軸受本体素材11’の内周面に挿入すると共に、軸受本体素材11’の両端面を一対のパンチ面22a、23aで保持した状態で軸受本体素材11’に圧迫力を加えることにより、成形型21aで軸受本体素材11’の内周面に軸方向に対して傾斜した動圧溝11cを有するラジアル軸受面11bを成形すると共に、少なくとも一方のパンチ面で軸受本体素材11’の一方の端面に軸13との間でスラスト軸受部14を構成するスラスト軸受面を成形するに際し、上記少なくとも一方のパンチ面と、成形型21aの外周面との直角度を2μm以内(望ましくは1μm以内)に設定した。
このようにパンチ面と成形型21aとを高精度に仕上げる方法としては、上記一方のパンチ面と成形型21aとを一体的に構成することが考えられる。例えば、パンチと成形型を同一部材から一体的に削り出すか、あるいはそれぞれ別体として製作し、圧入などの方法で一体的に固着した後、パンチ面と成形型21aの外周面との直角度を2μm以内に仕上げる等の手段が可能である。軸とフランジ部は同一部材で一体的に製作してもよいし、別体として製作してから何れかを相手側に圧入し、所定の直角度に仕上げてもよい。
軸受本体素材11’を所定寸法に成形した後は、圧迫力を解除して軸受本体素材11’をスプリングバックさせると共に、軸受本体素材11’と成形型21aとの間に軸受本体素材11’の内径と成形型21aの外径との寸法差が拡大するような熱膨張差を生じさせて、上記成形型21aを軸受本体素材11’の内周面から離型するのがよい。これにより、成形型21aと軸受本体素材11’との干渉が回避され、成形した動圧溝を崩すことなく、軸受本体素材の内周面から成形型を抜き取ることが可能となる。
上記熱膨張差を生じさせるには、軸受面を成形した後、例えば軸受本体素材側から加熱すればよい。成形型の材料としては、通常、超硬材が使用されるが、この材料の線膨張係数は5.1×10-6[1/℃]である。一方、軸受本体素材は銅粉、鉄粉が主成分であり、線膨張係数の一例としては12.9×10-6[1/℃]である。従って、軸受本体素材を加熱して高温にすると、両者の熱膨張差から軸受本体素材の内径と成形型の外径との間の寸法差が大きくなり、軸受本体素材から成形型を抜きやすくなる。
図1は、本発明にかかる動圧型焼結含油軸受ユニットの断面図である。軸受ユニットは、動圧型の焼結含油軸受11と、焼結含油軸受11を内径部に固定した円筒状のハウジング12と、焼結含油軸受11の内径部に挿入された回転軸13とを具備する。
動圧型焼結含油軸受11は、回転軸13の外周面と軸受隙間を介して対向するラジアル軸受面11bを有する焼結金属からなる円筒状の軸受本体11aに、潤滑油あるいは潤滑グリースを含浸させて構成される。焼結金属からなる軸受本体11aは、銅系あるいは鉄系、またはその双方を主成分とする焼結金属で形成され、望ましくは銅を20〜95重量%使用して、密度6.4〜7.2g/cm3 に成形される。軸受本体11aの材質として、鋳鉄、合成樹脂、セラミックスなどを焼結または発泡成形し、多数の細孔を有する多孔質体としたものも用いることができる。動圧型焼結含油軸受の表面開孔率は、ラジアル軸受面11bで10%以下(望ましくは5%以下)、後述するスラスト軸受部14を構成するスラスト軸受面11f1、11f2で5%以下(望ましくは2%以下)に設定するのがよい。ラジアル軸受面11bの表面開孔率が10%以下であれば、圧力降下を防止しつつ油の循環を確保することができ、スラスト軸受面11f1、11f2の表面開孔率を5%以下とすれば、動圧溝を設けた場合でも圧力発生に伴う開孔部からの油の逃げを防止することができる。「開孔部」とは、多孔質体組織の細孔が外表面に開口した部分をいい、「表面開孔率」とは、外表面の単位面積内に占める表面開孔の面積割合をいう。
軸受本体11aの内周面11hに設けられたラジアル軸受面11bは1箇所のみに形成されており、軸受面11bには軸方向に対して傾斜した複数の動圧溝11c(へリングボーン型)が円周方向に配列形成される。動圧溝11cは、軸方向に対して傾斜して形成されていれば足り、この条件を満たす限りへリングボーン型以外の他の形状、例えばスパイラル型でもよい。焼結含油軸受11の外周には、軸受11の内径部に軸13を挿入する際の空気抜きとなる1または複数の溝11gが軸方向に沿って形成されている。なお、スピンドルモータの薄型化を図るべく、軸受内径dと軸受幅Lは、L≦1.2dを満たすように設定される。
上記焼結含油軸受11では、回転軸13の回転に伴う圧力発生と昇温による油の熱膨張によって軸受本体11aの内部の潤滑剤(潤滑油または潤滑グリースの基油)が軸受本体11aの表面からにじみ出し、動圧溝11cの作用によって軸受隙間に引き込まれる。軸受隙間に引き込まれた油は潤滑油膜を形成して回転軸を非接触支持する。すなわち、軸受面11bに、上記傾斜した動圧溝11cを設けると、その動圧作用によってにじみ出した軸受本体11a内部の潤滑剤が軸受隙間に引き込まれると共に、軸受面11bに潤滑剤が押し込まれ続けるので、油膜力が高まり、軸受の剛性を向上させることができる。なお、軸受ユニットの組立時において、軸受11に回転軸13を挿入する際には、軸受隙間および軸受周辺が油で満たされるよう注油しておくのが望ましい。
軸受隙間に正圧が発生すると、軸受面11bの表面に孔があるため、潤滑剤は軸受本体の内部に還流するが、次々と新たな潤滑剤が軸受隙間に押し込まれ続けるので油膜力および剛性は高い状態で維持される。この場合、連続しかつ安定した油膜が形成されるので、高回転精度が得られ、軸振れやNRRO、ジッタ等が低減される。また、回転軸13と軸受本体11aが非接触で回転するために低騒音であり、しかも低コストである。
ラジアル軸受面11bは、一方に傾斜する動圧溝11cが配列された第1の溝領域m1と、第1の溝領域m1から軸方向に離隔し、他方に傾斜する動圧溝11cが配列された第2の溝領域m2と、2つの溝領域m1、m2の間に位置する環状の平滑部nとを備えており、2つの溝領域m1、m2の動圧溝11cは平滑部nで区画されて非連続になっている。平滑部nと動圧溝11c間の背の部分11eとは同一レベルにある。この種の非連続型の動圧溝11cは、連続型、すなわち平滑部nを省略し、動圧溝11cを両溝領域m1、m2間で互いに連続するV字状に形成した場合に比べ、平滑部nを中心として油が集められるために油膜圧力が高く、また溝のない平滑部nを有するので軸受剛性が高いという利点を有する。
焼結含油軸受11の軸方向一端側には、スラスト軸受部14が設けられる。図1は、焼結含油軸受11の上端側にスラスト軸受部14を設けた実施形態で、焼結含油軸受11の上軸受端面11f1(スラスト軸受面)と、回転軸13に固定した円盤状のフランジ部13aとを対向させて構成される。回転軸13とフランジ部13aは、同一部材で一体に製作したり、あるいは別体として製作してから相互に嵌合固定し、回転軸13の外周面、特に軸受11に組み込んだ際に軸受面11bと対向する外周面の直角度がフランジ部13aの軸受11側の端面13a1に対して2μm以内、望ましくは1μm以内となるように仕上げ加工される。
このようなスラスト軸受部14であれば、摺動接触部分が面当りとなるため、ピボット軸受で問題となる軸位置の変動を防止しつつ、単列の軸受面11bであってもモーメント剛性を高め、軸を高精度に支持することが可能となる。
ところで、上記のように回転軸13にフランジ部13aを設けた場合、回転軸13の上端には、ロータケース8やターンテーブル(5:図13参照)などの部品が固定されるため、軸受11の上端を従来のようなシールワッシャ8(図15参照)でシールすることは難しくなる。そこで、軸受11上端からの油漏れは、フランジ部13a外周面とハウジング12内周面の微小隙間による毛細管シールで行う。シール隙間cは0.05mm以下、望ましくは0.02mm以下とするのがよく、シール幅aは0.5mm以上、望ましくは1mm以上とする。シールを構成するフランジ部13a外周面やハウジング12内周面に揆油剤を塗布しておけば油漏れ防止により有効となる。
一方、軸受11下端側からの油漏れは、例えば底板15をハウジング12の底部開口部に圧入してからかしめることによって防止することができる。底板15とハウジング12との間の隙間を接着剤でシールしておけば、油漏れ防止にさらに有効である。
図2(A)は、底板15側からの油漏れを防止するため、樹脂、ゴムなどの弾性材料15aを底板15の上に重ねてパッキンとして使用した実施形態である。この場合も底板15は、ハウジング12に圧入した後、必要であればかしめた方が望ましい。
図2(B)は、フランジ部13aの外周面と対向するハウジング12の内周面に環状の凹部12aを設けた実施形態である。フランジ部13aが回転することにより、油が遠心力で凹部12aに溜まるため、ハウジング12上端からの油漏れを確実に防止することができる(遠心シール)。遠心シールのみだと、軸姿勢が横向きの場合に油漏れを生じるおそれがあるので、毛細管シールとの併用が望ましい。
図3(A)は、フランジ部13aの外周面に、回転時に軸受11側への気流が発生するような傾斜溝13a2を設けた例である。発生した気流により、油が軸受11側に押し戻されるため、軸受上端からの油漏れを防止することができる(停止中は毛細管シールで油漏れを防止する)。上記傾斜溝13a2は油漏れを防止できさえすればよいので、ラジアル軸受面11bの動圧溝11cのように高精度に加工する必要はない。溝深さは5〜30μm程度が適当で、転造などの手法で加工することができる。
この傾斜溝13a2は、図3(A)に示すようにフランジ部13aの幅(軸方向寸法)の全長にわたって形成すると、軸受11側に過剰の空気を送り込む場合があるので、図3(B)に示すように部分的に設けてもよい。この場合、ハウジング12内周面のうち、傾斜溝13a2の非形成領域との対向部に環状の凹部12aを設けておくのが望ましい。
図4は、軸受11の下軸受端面11f2と、軸端に設けたフランジ部13aとでスラスト軸受部14を構成した実施形態である。回転中は、回転軸13がロータ7bとステータ7a(図13参照)間の励磁力により浮上力を受けて底板15から浮いた状態となり、下軸受端面11f2(スラスト軸受面)とフランジ部13bの上面13b2とでスラスト力が支持される。底板15の上面でかつ回転軸13の直下には、潤滑性に富む樹脂材料等からなるスラストワッシャ15aが配置され、モータの起動直後や停止直前の軸端との間の摩擦低減が図られている。ハウジング12の上端開口は、油漏れ防止用のスラストワッシャ16によって閉塞され、軸との間隙を0.2mm以下とすることで外部への油の漏れ出しを防止している(毛細管作用)。シールワッシャ16の内周面や内周部の上下面、あるいはシールワッシャ16の内周面と対向する軸13の外周面に揆油剤を塗布することにより、さらに有効な油漏れ防止が図られる。
図5は、動圧型焼結含油軸受11の軸受内周面11hに軸方向に対して傾斜した油供給用の動圧溝11jを設け、この動圧溝11jで生じる動圧作用でスラスト軸受部14に油を供給するようにしたものである。動圧溝11jは、ラジアル軸受面11bの溝形成領域(スラスト軸受部14側)の動圧溝11cと連続したV字状に形成される。油供給用の動圧溝11jを設けることにより、スラスト軸受部14に油膜が形成されやすくなって潤滑性が向上し、また、スラスト軸受部14での摩耗も著しく低減されるので耐久性も飛躍的に向上する。なお、スラスト軸受部14に供給された油は、軸受端面やチャンファ部から吸収されて軸受内部に回収され、再び軸受内周面から軸受隙間に供給される。
図6および図7は、スラスト軸受部14を、回転軸13の回転時に生じる動圧作用により回転軸13を非接触支持するようにしたものである。非接触支持であれば、スラスト軸受部14における摩擦がなくなり、耐久性が飛躍的に向上する。動圧作用は、スラスト軸受部14を構成する軸受端面11f1とこれに対向するフランジ部13aの何れか一方に、円周方向に配設された複数(3箇所以上に設けるのが望ましい)の凹部11kを有する動圧発生部17を設けることによって得ることができる。この場合、凹部11kが油溜りとなり、回転に伴って凹部内の油が隣接する凸部に引き出される際に圧力が発生し、油膜圧力が高まるのでスラスト軸受部14を安定して非接触状態に保持できる。凹部11kとしては、例えば動圧溝が考えられる。
図6は、動圧発生部17を有するスラスト軸受部14の一例で、スラスト軸受面11f1に、軸受端面に描いた放射状の仮想線に対して傾斜した部分を持つ動圧溝11kを設けたものである。動圧溝11kは、へリングボーン型、すなわち半径方向のほぼ中心部に屈曲部分を有するV字状をなし、この動圧溝は、円周方向に等間隔で配列して形成される。この場合、回転に伴ってスラスト軸受部14およびその周辺の油が動圧溝11kの屈曲部分に集められて油膜圧力が高まるため、スラスト軸受部14を安定して非接触状態に保持できる。動圧溝形状としては、へリングボーン型の他にスパイラル型も適用することができる。また、動圧溝11kをフランジ部端面13a1に設け、スラスト軸受面11f1を動圧溝のない平滑面としてもよい。
図7は、図6と同様にスラスト軸受面11f1に動圧溝11kを設けると共に、図5と同様に軸受内周面に油供給用の動圧溝11jを設けたものである。
図8および図9は、スラスト軸受部14a、14bを軸方向に離隔した2箇所に設けて、両方向のスラスト荷重を支持できるようにしたものである。図8は軸受の両端側にフランジ部13a、13bを配し、各フランジ部13a、13bと両軸受端面11f1、11f2との間に形成された2つのスラスト軸受部14a、14bで両方向のスラスト荷重を支持できるようにしたものである。スラスト軸受部14を構成するスラスト軸受面11f1、11f2と、これに対向するフランジ部13a、13b端面との何れか一方(図面ではスラスト軸受面11f1、11f2)には、同図(b)(c)に示すように、図6と同様の動圧溝11kが形成されている。この構造であれば、両方向のスラスト支持だけでなく、回転軸13の軸受11からの抜けを防止できるので、回転軸13に衝撃荷重が加わった場合でもモータの損傷を回避することができる。特にHDD装置のように読み取り用ヘッドがディスクと僅かな隙間を介して配置されているような場合、衝撃荷重が加わってもヘッドがディスクと衝突する事態を回避することができる。
図9は、軸受11と底板15との間にフランジ部13bを設け、フランジ部13bの両側にスラスト軸受部14a、14bを構成したものである。すなわち、フランジ部13bの上端面13a1と下側の軸受端面11f2の何れか一方、および、フランジ部13bの下端面13b2と底板15の上面の何れか一方(図面では下軸受端面11f2およびフランジ部の下端面13b2)にそれぞれ図6と同様の動圧溝11kを設けたもので、図8の構造と同様の効果が奏される。
上記動圧型焼結含油軸受11の軸受本体11aは、上記金属粉末を圧縮成形し、さらに焼成して得られた円筒状の焼結金属素材(軸受本体素材)に対して、例えば、サイジング→回転サイジング→軸受面成形加工を施して製造することができる。
サイジング工程は、焼結金属素材の外周面と内周面のサイジングを行って焼結工程での曲がりなどを矯正する工程で、焼結金属素材の外周面を円筒状のダイに圧入すると共に、内周面にサイジングピンを圧入して行われる。回転サイジング工程は、断面略多角形状の回転サイジングピン(断面円形のピンの外周面を部分的に平坦加工して、円周等配位置に円弧部分を残したもの)を焼結金属素材の内周面に押付けながら、サイジングピンを回転させて内周面のサイジングを行う工程である。この回転サイジングにより焼結金属素材の内周面の真円度、円筒度が矯正され、かつ表面開孔率が例えば3〜15%に仕上げられる。軸受面成形工程は、上記のようなサイジング加工を施した焼結金属素材の内周面に、完成品の軸受面に対応した形状の成形型を加圧することによって、軸受面の動圧溝の形成領域とそれ以外の領域(背11eおよび環状の平滑領域n)とを同時成形する工程である。
図11は、軸受面成形工程で使用する成形装置の概略構造を例示している。この装置は焼結金属素材11’の外周面を圧入する円筒状のダイ20、焼結金属素材11’の内周面を成形する超硬合金製のコアロッド21、焼結金属素材11’の両端面を上下方向から押さえる上下のパンチ22、23を主要な要素として構成される。コアロッド21と上パンチ22は一体となっており、コアロッド21の外周面と上パンチ22のパンチ面22aの直角度は2μm以内に仕上げられている。
図10に示すように、コアロッド21の外周面には、完成品の軸受面11bの形状に対応した凹凸状の成形型21aが設けられている。成形型21aの凸部分21a1は軸受面11bにおける動圧溝11cの領域を成形し、凹部分21a2は動圧溝11c以外の領域(背11eおよび環状の平滑領域n)を成形するものである。成形型21aにおける凸部分21a1と凹部分21a2との段差は、軸受面11bにおける動圧溝11cの深さと同程度(例えば2〜5μm程度)で微小なものであるが、図面ではかなり誇張して図示されている。なお、上下軸受端面11f1、11f2に動圧溝11kを設ける場合(図6〜9参照)は、上下のパンチ22、23のパンチ面22a、23aにも当該動圧溝11kに対応した形状の転写用成形型が設けられる。
この成形装置による成形は、図11に示すA〜Dの手順で行われる。
先ず、焼結金属素材11’をダイ20の上面に位置合わせして配置した後、上パンチ22およびコアロッド21を降下させ、焼結金属素材11’をダイ20に圧入し、さらに下パンチ23に押付けて上下方向から加圧する(A)。
焼結金属素材11’は、ダイ20と上下パンチ22・23から圧迫力を受けて変形を起こし、内周面がコアロッド21の成形型21aに加圧される。これにより、成形型21aの形状が焼結金属素材11’の内周面に転写され、軸受面11bが所定の形状および寸法に成形される(同時に焼結金属素材11’の外周面および両端面もサイジングされる)。
軸受面11bの成形が完了した後、焼結金属素材11’とコアロッドの位置関係を保持したまま上下のパンチ22、23およびコアロッド21を一体的に上昇させ(B)、焼結金属素材11’をダイ20から抜く。次に、クランパ24で掴んだ焼結金属素材11’の外周面に熱風発生器等の加熱機25で熱風を吹き付けて焼結金属素材11’を加熱し(C)、その後、焼結金属素材11’をコアロッド21から抜く(D)。この時、焼結金属素材11’をダイ20から抜くと同時に焼結金属素材11’にスプリングバックが生じてその内径寸法が拡大する。また、加熱によって焼結金属素材の温度がコアロッド21によりも高くなり、かつコアロッド21(超硬合金製)よりも焼結金属素材11’(銅を主成分とする)の熱膨張係数が大きいため、焼結金属素材11’の内径寸法がさらに拡大する。そのため、コアロッド21と焼結金属素材11’との干渉が回避され、動圧溝11cを崩すことなく、焼結金属素材11’の内周面からコアロッド21を抜き取ることが可能となる。スプリングバックのみでスムーズに焼結金属素材11’を抜ける場合は、加熱機25による加熱工程を省略しても構わない。
以上の工程を経て製造した焼結金属素材11’を洗浄し、これに潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて油を保有させると、図1に示す動圧型滑り軸受(動圧型多孔質含油軸受)が完成する。この軸受11は、ハウジング12の内周面に例えば接着によって固定される。なお、軸受11のハウジング12への組み込み後に、含浸油とは別に注油によって軸受隙間および軸受周辺の空間を油で満たしておくと、潤滑性が著しく向上する。
上記のようにコアロッド21の外周面と上パンチ22のパンチ面22aの直角度を2μm以内に設定しておけば、軸受内周面11hに対するスラスト軸受面11f1の直角度が3μm以内の焼結含油軸受11が提供可能となる。この軸受11と、フランジ部13aと外周面の直角度を所定範囲に設定した回転軸13とを組み合わせることにより、スラスト軸受部14での片当りを防止し、確実に面当りを実現することができる。