JP2004309430A - 熱レンズ分析装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】熱レンズ分析を安定して行うことができる熱レンズ分析装置を提供する。
【解決手段】熱レンズ分析装置1は、励起光及び検出光を試料溶液に照射する色収差df及び開口数NAを有するロッドレンズ10と、試料溶液中に熱レンズ12が形成される前後の検出光の信号強度を検出する開口半径rad及びPD距離Lを有するPD11を備える。熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡により算出されるTLM出力を最大とするロッドレンズ10の色収差df及び開口数NA、熱レンズ12の深さt及び屈折率差dn、PD11の開口半径rad及びPD距離Lを決定する。
【選択図】 図1
【解決手段】熱レンズ分析装置1は、励起光及び検出光を試料溶液に照射する色収差df及び開口数NAを有するロッドレンズ10と、試料溶液中に熱レンズ12が形成される前後の検出光の信号強度を検出する開口半径rad及びPD距離Lを有するPD11を備える。熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡により算出されるTLM出力を最大とするロッドレンズ10の色収差df及び開口数NA、熱レンズ12の深さt及び屈折率差dn、PD11の開口半径rad及びPD距離Lを決定する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱レンズ分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から注目されており、そのための研究が、世界的に精力的に進められている。
【0003】
化学反応の集積化技術の1つとして微細な流路の中で試料溶液の混合、反応、分離、抽出、検出等を行う所謂マイクロ化学システムがある。このマイクロ化学システムで行われるものとしては反応の例として、ジアゾ化反応、ニトロ化反応、抗原抗体反応などがあり、抽出、分離の例として溶媒抽出、電気泳動分離、カラム分離などがある。マイクロ化学システムは、分離だけを目的としたような単一の機能のみで用いられても良く、また複合的に用いられても良い。
【0004】
これらのマイクロ化学システムでは試料溶液が極微量であるので、高感度な検出方法が必須である。このような方法として、微細な流路内の試料溶液に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力」という。)を検出する熱レンズ分析法が確立され、これによりマイクロ化学システムの実用化の道が開かれている。
【0005】
試料溶液に光を集光照射すると試料溶液中の溶質が光を吸収すると共に熱エネルギーが放出される。この熱エネルギーによって溶媒が局所的に温度上昇すると、屈折率が変化して熱レンズが形成される(熱レンズ効果)。熱レンズ分析法はこの熱レンズ効果を利用するものである。
【0006】
熱レンズ分析法は、熱の拡散、即ち屈折率の変化をTLM出力として観察するものであるので、極微小試料の濃度を検出するのに適している。
【0007】
従来の熱レンズ分析装置においては、マイクロ化学システム用チップが顕微鏡の対物レンズの下方に配置されており、励起光源から出力された所定波長の励起光が顕微鏡に入射して、この顕微鏡の対物レンズによりマイクロ化学システム用チップの流路内の試料に集光照射される。これにより、集光照射位置を中心として試料に熱レンズが形成される。
【0008】
このような熱レンズ分析は流路内の試料溶液の定量的な制御を行なう必要があり、その点で、マイクロ化学システム用チップの流路としては、平面上に存在し、適度な圧力損失を有するキャピラリを用いるのが適している(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、高い分解能による熱レンズ分析を行なうには、対物レンズとして、検出光と励起光の焦点距離の差(以下「色収差」という。)のあるレンズを用いるとよく(例えば、特許文献2参照)、特に、このようなレンズとしてロッドレンズを用いることが有効であることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−165939号公報
【特許文献2】
特開2001−356611号公報
【特許文献3】
特開平2002−214175号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、平面上に存在し、適度な圧力損失を有するキャピラリを流路として用いると、流路内の試料溶液の定量的な制御を行なうことはできるが、それのみでは試料溶液の濃度測定を高い分解能で行なうことはできない。
【0012】
また、熱レンズ分析により試料溶液の濃度測定を高い分解能で行なうために必要なレンズの色収差は、熱レンズを図2(b)に示すようにSNS積層光学系と近似してシミュレーションを行うことで求めることが可能であるが、光線のケラレが生じるため現実に必ずしも即していなかった。
【0013】
本発明の目的は、熱レンズ分析を安定して行うことができる熱レンズ分析装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の熱レンズ分析装置は、深さtの流路中を流れる試料溶液中に所定の屈折率分布の屈折率差dnを有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料溶液に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料溶液に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料溶液を透過したときの透過光を受光する開口半径rad及びPD距離Lの受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有する熱レンズ分析装置において、前記TLM算出手段は、前記熱レンズの所定の屈折率分布をガウス分布で近似し、前記熱レンズ分析装置は、前記算出されるTLM出力が最大になるように前記開口数NA、前記深さt、前記屈折率差dn、前記色収差df、前記開口半径rad、及び前記PD距離Lを決定するパラメータ決定手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項1記載の熱レンズ分析装置によれば、熱レンズの所定の屈折率分布をガウス分布で近似し、算出されるTLM出力が最大になるように開口数NA、深さt、屈折率差dn、色収差df、開口半径rad、及びPD距離Lを決定するので、SNS積層光学系で近似するときに生じる光線のケラレがなく、より実際的なモデルをえることができ、熱レンズ分析を安定して行うことができる。
【0016】
請求項2記載の熱レンズ分析装置は、請求項1記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、前記屈折率差dnが1.0×10−3以下、前記深さtを0.025mm以上と決定することを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、屈折率差dnが1.0×10−3以下、深さtを0.025mm以上と決定するので、TLM信号と屈折率差dnの比例関係が成立し、定量的分析を行うことができる。
【0018】
請求項3記載の熱レンズ分析装置は、請求項1又は2記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記開口数NA、前記色収差df、及び前記深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定することを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NA、色収差df、及び深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定するので、色収差dfに関係なく、TLM出力のピーク位置を一定値とすることができる。
【0020】
請求項4記載の熱レンズ分析装置は、請求項3記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定することを特徴とすることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の熱レンズ分析装置によれば、深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定するので、マイクロチップとして実用可能な深さtの流路に収容可能な熱レンズを形成することができ、且つ強いTLM出力を得ることができる。
【0022】
請求項5記載の熱レンズ分析装置は、請求項3又は4記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定することを特徴とする。
【0023】
請求項5記載の熱レンズ分析装置によれば、色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定するので、開口半径radに関係なく、強いTLM出力を得ることができる。
【0024】
請求項6記載の熱レンズ分析装置は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、規格化されたPD距離L0と反比例するように前記開口数NAを決定することを特徴とする。
【0025】
請求項6記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0と反比例するように開口数NAを決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0026】
請求項7記載の熱レンズ分析装置は、請求項6記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定することを特徴とする。
【0027】
請求項7記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置により生成される熱レンズを図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置を示す図である。
【0030】
図1において、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置1は、色収差df及び開口数NAのロッドレンズ10と、試料溶液に励起光を照射する励起光光源13と、試料溶液に検出光を照射する検出光光源14と、検出光を受光するPD11とを備える。
【0031】
ロッドレンズ10は、開口数NAで励起光及び励起光より長波長の光である検出光を同軸に照射するものであり、試料溶液中で励起光及び検出光が焦点を結ぶように光軸合わせを行なう。また、照射される励起光と検出光についてのロッドレンズ10の各焦点距離には差(以下「色収差」という。)dfがある。
【0032】
上述の試料溶液は、不図示のマイクロ化学システム用チップ内に形成された深さtの流路中を流れるものであり、励起光が試料溶液中に照射されると、その焦点位置を中心として、励起光照射前後の屈折率差dnの熱レンズ12が形成される。一方、検出光が試料溶液に照射されると、励起光の焦点位置から光軸方向にdfだけ離れた位置に形成される円錘形光束(最大角θP)がPD11に照射される。
【0033】
PD11は、励起光の焦点位置からの距離(以下「PD距離」という。)Lに光軸と垂直に設置され、光軸と同心円状の開口半径radの検出部からなるものである。
【0034】
以下、PD距離L、深さt、色収差dfについては水中で行なわれたものとして計算する。
【0035】
また、PD11は、検出光の信号強度(I(out))と、試料溶液に励起光を照射する前に試料溶液に照射した検出光の信号強度(I(0))と、励起光を照射した後に試料溶液に照射した検出光の信号強度(I(dn))とを検出する。その後、不図示のコンピュータにより(I(dn)−I(0))/I(out)の値(以下「TLM出力」という。)を算出することで、熱レンズ分析が行われる。尚、本実施の形態においては、計算を容易にするため、I(out)=1.0とする。
【0036】
上記条件で、形成される図1の熱レンズ12の屈折率差dnのシミュレーションを行なう。このシミュレーションの前提条件を以下のように設定する。
1.熱レンズ12の屈折率分布は励起ビーム伝播強度に応じたものであり、下記式に示すガウス分布となるものと近似する。ここで、計算を容易にするため、開口数NAは空気中の開口数の値を用いる。
n(r,Z)=Nw−dn×(W0/Wz)2×exp(−2×r2/Wz2)
ここでWz及びW0は、
Wz=W0×(1+(λ×Z/(π×n(r,Z)×W0 2))2)0.5
W0=λ/π/NA/n
で表され、Z、r、Nw、n(r,Z)、NA、W0は、夫々、
Z:励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標
r:光軸からの距離
Nw:水の屈折率
n(r,Z):熱レンズ12の屈折率差dn
NA:ロッドレンズ10の開口数
W0:ビームウェスト半径
である。
【0037】
開口数NAについては、以下の表1に示すように、ロッドレンズ10の部分については下記対物レンズの開口数NA0、対物レンズから出て、試料溶液に入るまでの部分については励起光の開口数NA(ピーク強度の1/e2)、試料溶液の部分については水中換算した開口数NAwと定義する。
【0038】
【表1】
【0039】
2.色収差dfを変数とする検出光を熱レンズ12に照射すると、検出光の光線は熱レンズ12の屈折率に応じて広がるように曲げられる。
【0040】
さらに、ロッドレンズ10、PD11、励起光、及び検出光の条件を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
以上のように、熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡によりTLM出力についてシミュレーションを行なった場合(図2(a))と、熱レンズ12の屈折率分布をSNS積層光学系で近似し、実光線追跡によりTLM出力についてシミュレーションを行なった場合(図2(b))を比較すると、ガウス分布で近似した場合は入射開口数と出射開口数は等しくなるのに対し、SNS積層光学系で近似した場合は入射開口数より出射開口数が小さくなる。また、この傾向は色収差dfが大きくなるほど顕著となる。これは、SNS積層光学系で近似すると光線にケラレが生じるためである。従って、熱レンズ12の形状はガウス分布で近似する方が、SNS積層光学系で近似するより、より実際的なモデルをえることができる。
【0043】
以下、開口数NAを0.2、屈折率差dnを1.0×10−4、PD距離Lを20mmとしたときに強いTLM出力が得られる、深さtの値について説明する。
【0044】
まず、図3に示すように、上記条件のときは深さtを0.1mm以上とすると、色収差dfの値に関係なく、TLM出力のピーク位置となる開口半径radを一定値(約1.0mm)となることがわかる(図3(b)〜図3(d))。
【0045】
一方、深さtが0.05mmのとき、色収差dfの値に関係なくTLM出力のピーク位置となる開口半径radは約1.8mmとなり、開口半径radが1.0mmの位置でのTLM出力はそのピークの値の6割程度と微小となることから、深さtが0.1mmより小さい場合、PD11では精度よく検出ができなくなることがわかる(図3(a))。
【0046】
また、深さtが0.20mmのとき、色収差dfの関係なくTLM出力のピーク位置となる開口半径radは約1.0mmとなるが、その最大強度は深さtが0.10mmのとき或いは0.15mmのときの最大強度の8割程度となることから、深さtが0.2mmより大きい場合、PD11では精度よくTLM出力が検出できなくなることがわかる(図3(d))。
【0047】
従って、開口数NAを0.2、屈折率差dnを1.0×10−4、及びPD距離Lを20mmとするときにPD11で確実にTLM出力を検出するには、深さtを0.1mm以上0.2mm以下とするのが望ましい。
【0048】
以下、屈折率差dnを1.0×10−5で固定し、開口数NA、PD距離L、色収差df、及び深さtを変化させたときのTLM出力について説明する。
【0049】
TLM出力は、上述したように(I(dn)−I(0))/I(out)の値であり、また、I(out)は開口数NAの2乗に比例するという性質を有するため、開口数NAの値が大きくなると相対的にTLM出力の値は小さくなる。
【0050】
従って、図4(a)〜(e)に示すように、NA=0.4のTLM出力(図4(d),図4(e))のスケール(最大スケール:1.0×10−3)をNA=0.2のTLM出力(図4(c))のスケール(最大スケール:2.5×10−4)の1/4倍に、NA=0.1のTLM出力(図4(a),図4(b))のスケール(最大スケール:6.25×10−5)をNA=0.2のTLM出力のスケールの4倍にすると、その強度レベルはPD距離L、色収差df、及び深さtの値に関係なく同程度となる。
【0051】
また、開口数NA、PD距離L、及び深さtが下記式(1)に示す比例関係となるとき、具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.05mm)(図4(a)),(0.2,20mm,0.10mm)(図4(c)),(0.1,40mm,0.20mm)(図4(d))のとき、TLM出力が最大値となる開口半径radの値は夫々0.7mm,1.0mm,1.8mmと異なるものとなることがわかる。一方、開口数NA、PD距離L、及び深さtが下記の式(2)に示す比例関係となるとき、具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.025mm)(図4(b)),(0.2,20mm,0.10mm)(図4(c)),(0.1,40mm,0.40mm)(図4(e))のとき、すべてTLM出力が最大値となる開口半径radの値は約1.00mmとなることがわかる。
【0052】
NA∝1/L∝1/t …(1)
NA∝1/L∝1/t1/2 …(2)
従って、PD11で確実にTLM出力を検出するには、開口数NA、PD距離L、及び深さtの関係が式(2)の比例関係を満たすのが望ましいことがわかる。
【0053】
次に、確実にTLM出力を測定するために、開口数NAの値に対して設定すべき深さtの値について説明する。
【0054】
図3及び図4より、開口数NAが0.2のときにTLM出力を確実に測定するには、深さtは最小値が0.10mm、最大値が0.20mmとなることから、最適値はその平均値である0.15であるといえる。
【0055】
また、開口数NAと深さtは式(2)の関係を有していることから、開口数NAと深さtは下記式に示すような関係を有する。
【0056】
t=C1/NA2(C1:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの深さtの最適値、最小値、最大値の値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの深さtの最適値、最小値、最大値が算出される。
【0057】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの深さtの最適値、最小値、最大値は表3に示す結果となった。
【0058】
【表3】
【0059】
この結果を開口数NAと深さtの関係としてプロットし(図12(a))、上記C1の値を求めると0.004≦C1≦0.008となった。
【0060】
即ち、0.004/NA2≦t≦0.008/NA2となるように、開口数NAと深さtを設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0061】
次に、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに強いTLM出力が得られる、深さt及び色収差dfの値について説明する。
【0062】
まず、図5〜図7に示すように、上記条件のときは屈折率差dn及び開口半径radに関係なくTLM出力のピーク位置となる色収差dfが約0.02mmとなることがわかる(図5(a)〜図7(d))。
【0063】
従って、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとすると、屈折率差dn及び開口半径radに関係なくTLM出力のピーク位置となる色収差dfを約0.02mmとすることができ、高精度な熱レンズ分析を行うことができる。
【0064】
次に、屈折率差dnが1.0×10−5のときに強いTLM出力をえられる色収差dfの範囲について算出された結果について説明する。
【0065】
図4で上述したように、PD11で確実にTLM出力を検出するには、屈折率差dnを1.0×10−5とするとき、開口数NA、PD距離L、及び深さtの関係が式(2)の比例関係を満たすのが望ましいため、以下に説明する開口数NA、PD距離L、深さtは上述の比例関係を満たすものとした。具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.025mm)(図8(a)),(0.2,20mm,0.10mm)(図8(b)),(0.1,40mm,0.40mm)(図8(c))とした。
【0066】
次に、屈折率差dnを1.0×10−4とし、且つ開口数NA,PD距離L,深さtの値を固定し、色収差dfを変動させたときのTLM出力を算出した。
【0067】
この結果、開口半径radの値を0.2〜2.0まで変動させても、開口数NAが0.4のときは色収差dfが約0.004mmのとき(図8(a))、開口数NAが0.2のときは色収差dfが約0.015mmのとき(図8(b))、開口数NAが0.1のときは色収差dfが約0.060mmのときTLM出力が最大となった(図8(c))。即ち、TLM出力が最大となる色収差df(以下「最適df」という)を確実にえることができるとき、開口数NAと最適dfとの間には以下の式(3)の関係が成立することがわかった。
【0068】
NA∝1/df1/2 …(3)
次に、確実にTLM出力を測定するために、開口数NAの値に対して設定すべき色収差dfの値について説明する。
【0069】
まず、開口数NAが0.2のときに色収差dfのみを変動させたときに、TLM出力が最適dfにおけるTLM出力との差において3割以下に収まる範囲を最適な色収差dfの範囲と仮定し、その範囲における最小の色収差dfの値(最小df)と最大の色収差dfの値(最大df)を図8(b)より読取った。
【0070】
また、開口数NAと色収差dfは式(3)の関係を有していることから、開口数NAと色収差dfは下記式に示すような関係を有する。
【0071】
df=C2/NA2(C2:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの色収差dfの最適df、最小df、最大dfの値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの色収差dfの最適df、最小df、最大dfが算出される。
【0072】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの色収差dfの最適値、最小値、最大値は表4に示す結果となった。
【0073】
【表4】
【0074】
この結果を開口数NAと色収差dfの関係としてプロットし(図12(b))、上記C2の値を求めると0.003≦C1≦0.016となった。
【0075】
即ち、0.003/NA2≦df≦0.016/NA2となるように、開口数NAと色収差dfを設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0076】
次に、屈折率差の値とTLM出力の値とが比例関係にあり、熱レンズ分析を定量的に行なうことができるPD距離L、屈折率差dn、深さt、開口数NA、色収差df、開口半径radの値について説明する。
【0077】
具体的には、この屈折率差dn以外の上述のパラメータを所定の値に固定して屈折率差dnの値を10倍としたときのTLM出力比を算出し、その信号強度が10倍となるか否かを算出した。
【0078】
具体的には、熱レンズ分析を定量的に行うことができる深さtの値の範囲を以下のように算出される。
【0079】
まず、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、屈折率差dnが1.0×10−3〜1.0×10−5の範囲に固定し且つ深さtが0.20mm以下とすると、開口半径rad、色収差dfを変動させると(図9(a)〜図9(d)、図10(a)〜図10(d))、開口半径rad及び色収差dfに関係なく、屈折率差を10倍としたときにTLM出力比が約10となり、熱レンズ分析を定量的に行うことができることがわかった。
【0080】
ただし、屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4のとき、深さtが0.20mm,開口半径radが1.2以上とするとTLM出力比が低下する傾向にある。従って、熱レンズ分析を定量的に行うには、深さtが0.20mm以下、開口半径radを0.8mm以下とすることがより好ましいことがわかった。
【0081】
次に、熱レンズ分析を定量的に行うことができる屈折率差dnの値の範囲、即ち屈折率差dnの変化率とTLM強度比の値がほぼ一致する範囲を、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、深さtを0.10mmに固定し、且つ色収差dfを0〜0.08mmの範囲で、開口数radを0.2〜2.0mmの範囲で変化させたときのTLM強度比を算出することにより求めた。
【0082】
まず、屈折率差dnを1.0×10−3から1.0×10−2に変化させたときのTLM強度比(図11(a))を算出した場合、色収差df及び開口数radを上記範囲で変化させても屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができなかった。
【0083】
次に、屈折率差dnを1.0×10−4から1.0×10−3に変化させたときのTLM強度比(図11(b))を算出した場合、開口数radが1.4mm以下のときは色収差dfの値に関係なく屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができた。
【0084】
さらに、屈折率差dnが1.0×10−5から1.0×10−4に変化させたときのTLM強度比(図11(c))を算出した場合、色収差df及び開口半径radの値に関係なく屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができた。尚、図11(c)において、開口数radが0.4mm以下である場合、TLM強度比はほぼ10であるとはいえない値が算出されているが、これは計算精度の限界によるものである。
【0085】
以上の結果から、開口数NAが0.2のとき、屈折率差dnが1.0×10−3以下とすると、熱レンズ分析を定量的に行うことができることがわかる。
【0086】
次に、ロッドレンズ10の開口数NAと規格化されたPD距離Loの関係について説明する。
【0087】
開口半径rad、PD距離L、及び規格化されたPD距離Loは下記式に示すような関係を有する。
【0088】
Lo=L/(rad×2)
図3(b)のグラフから、色収差dfが0.02、開口数NAが0.2のときのTLM出力のピーク位置となる開口半径は1.00mmであると読み取ることができ、また、このピーク位置のTLM出力との差が4割以下となる開口半径radは、その最小値は0.5mm、最大値は1.8mmとなる。
【0089】
従って、PD11の開口直径(=rad×2)で規格化されたPD距離Loは、最適値が10(=20/(1.00×2))、最小値が5.56(=20/(1.8×2))、最大値が20(=20/(0.5×2))となる。
【0090】
また、開口数NAとPD距離Lは反比例の関係(式(2))であることから、開口数NAと規格されたPD距離Loは下記式に示すような関係を有する。
【0091】
Lo=L/(rad×2)=C3/NA(C3:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの規格されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値の値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの規格化されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値が算出される。
【0092】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの規格化されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値は表5に示す結果となった。
【0093】
【表5】
【0094】
この結果を開口数NAと規格化されたPD距離Loの関係としてプロットし(図12(c))、上記C3の値を求めると1.1≦C3≦4.0となった。
【0095】
即ち、1.1/NA≦L0≦4.0/NAとなるように、開口数NAと規格されたPD距離L0を設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0096】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、請求項1記載の熱レンズ分析装置によれば、熱レンズの屈折率分布をガウス分布で近似し、算出されるTLM出力が最大になるように開口数NA、深さt、屈折率差dn、色収差df、開口半径rad、及びPD距離Lを決定するので、SNS積層光学系で近似するときに生じる光線のケラレがなく、より実際的なモデルをえることができ、熱レンズ分析を安定して行うことができる。
【0097】
請求項2記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、屈折率差dnが1.0×10−3以下、深さtを0.025mm以上と決定するので、TLM信号と屈折率差dnの比例関係が成立し、定量的分析を行うことができる。
【0098】
請求項3記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NA、色収差df、及び深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定するので、色収差dfに関係なく、TLM出力のピーク位置を一定値とすることができる。
【0099】
請求項4記載の熱レンズ分析装置によれば、深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定するので、マイクロチップとして実用可能な深さtの流路に収容可能な熱レンズを形成することができ、且つ強いTLM出力を得ることができる。
【0100】
請求項5記載の熱レンズ分析装置によれば、色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0101】
請求項6記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0と反比例するように開口数NAを決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0102】
請求項7記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置を示す図である。
【図2】図1における熱レンズ12について実光線追跡によりTLM出力をシミュレーションした結果を示す図であり、(a)は熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似した場合を示し、(b)は熱レンズ12の屈折率分布をSNS積層光学系で近似した場合を示す。
【図3】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mm、屈折率差dnを1.0×10−4としたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図4】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5としたときに、開口数NA、深さt、PD距離L、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は開口数NAが0.4、深さtが0.05mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(b)は開口数NAが0.4、深さtが0.025mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(c)は開口数NAが0.2、深さtが0.10mm、PD距離Lが20mmの場合を示し、(d)は開口数NAが0.1、深さtが0.20mm、PD距離Lが40mmの場合を示し、(e)は開口数NAが0.1、深さtが0.40mm、PD距離Lが40mmの場合を示す。
【図5】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−3、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図6】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−4、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図7】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図8】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5としたときに、開口数NA、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は開口数NAが0.4、深さtが0.025mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(b)は開口数NAが0.2、深さtが0.10mm、PD距離Lが20mmの場合を示し、(c)は開口数NAが0.1、深さtが0.40mm、PD距離Lが40mmの場合を示す。
【図9】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、色収差dfに対する屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4のときのTLM出力比を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図10】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、色収差dfに対する屈折率差dnが1.0×10−4と1.0×10−5のときのTLM出力比を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図11】図1の熱レンズ分析装置1において、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、深さtを0.10mmに固定したときに、色収差dfに対するTLM出力比の関係を示すグラフであり、(a)は、屈折率差dnが1.0×10−2と1.0×10−3の場合を示し、(b)は、屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4の場合を示し、(c)は、屈折率差dnが1.0×10−4と1.0×10−5の場合を示す。
【図12】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAに対して最適となるパラメータの範囲を示すグラフであり、(a)は深さtとの関係を示し、(b)は色収差dfとの関係を示し、(c)は規格化されたPD距離L0との関係を示すグラフである。
【符合の説明】
1 熱レンズ分析装置
10 ロッドレンズ
11 PD
12 熱レンズ
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱レンズ分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から注目されており、そのための研究が、世界的に精力的に進められている。
【0003】
化学反応の集積化技術の1つとして微細な流路の中で試料溶液の混合、反応、分離、抽出、検出等を行う所謂マイクロ化学システムがある。このマイクロ化学システムで行われるものとしては反応の例として、ジアゾ化反応、ニトロ化反応、抗原抗体反応などがあり、抽出、分離の例として溶媒抽出、電気泳動分離、カラム分離などがある。マイクロ化学システムは、分離だけを目的としたような単一の機能のみで用いられても良く、また複合的に用いられても良い。
【0004】
これらのマイクロ化学システムでは試料溶液が極微量であるので、高感度な検出方法が必須である。このような方法として、微細な流路内の試料溶液に励起光を照射する前後の検出光の信号強度の差を照射する前の検出光の信号強度で割った値(以下「TLM出力」という。)を検出する熱レンズ分析法が確立され、これによりマイクロ化学システムの実用化の道が開かれている。
【0005】
試料溶液に光を集光照射すると試料溶液中の溶質が光を吸収すると共に熱エネルギーが放出される。この熱エネルギーによって溶媒が局所的に温度上昇すると、屈折率が変化して熱レンズが形成される(熱レンズ効果)。熱レンズ分析法はこの熱レンズ効果を利用するものである。
【0006】
熱レンズ分析法は、熱の拡散、即ち屈折率の変化をTLM出力として観察するものであるので、極微小試料の濃度を検出するのに適している。
【0007】
従来の熱レンズ分析装置においては、マイクロ化学システム用チップが顕微鏡の対物レンズの下方に配置されており、励起光源から出力された所定波長の励起光が顕微鏡に入射して、この顕微鏡の対物レンズによりマイクロ化学システム用チップの流路内の試料に集光照射される。これにより、集光照射位置を中心として試料に熱レンズが形成される。
【0008】
このような熱レンズ分析は流路内の試料溶液の定量的な制御を行なう必要があり、その点で、マイクロ化学システム用チップの流路としては、平面上に存在し、適度な圧力損失を有するキャピラリを用いるのが適している(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、高い分解能による熱レンズ分析を行なうには、対物レンズとして、検出光と励起光の焦点距離の差(以下「色収差」という。)のあるレンズを用いるとよく(例えば、特許文献2参照)、特に、このようなレンズとしてロッドレンズを用いることが有効であることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−165939号公報
【特許文献2】
特開2001−356611号公報
【特許文献3】
特開平2002−214175号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、平面上に存在し、適度な圧力損失を有するキャピラリを流路として用いると、流路内の試料溶液の定量的な制御を行なうことはできるが、それのみでは試料溶液の濃度測定を高い分解能で行なうことはできない。
【0012】
また、熱レンズ分析により試料溶液の濃度測定を高い分解能で行なうために必要なレンズの色収差は、熱レンズを図2(b)に示すようにSNS積層光学系と近似してシミュレーションを行うことで求めることが可能であるが、光線のケラレが生じるため現実に必ずしも即していなかった。
【0013】
本発明の目的は、熱レンズ分析を安定して行うことができる熱レンズ分析装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の熱レンズ分析装置は、深さtの流路中を流れる試料溶液中に所定の屈折率分布の屈折率差dnを有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料溶液に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料溶液に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料溶液を透過したときの透過光を受光する開口半径rad及びPD距離Lの受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有する熱レンズ分析装置において、前記TLM算出手段は、前記熱レンズの所定の屈折率分布をガウス分布で近似し、前記熱レンズ分析装置は、前記算出されるTLM出力が最大になるように前記開口数NA、前記深さt、前記屈折率差dn、前記色収差df、前記開口半径rad、及び前記PD距離Lを決定するパラメータ決定手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項1記載の熱レンズ分析装置によれば、熱レンズの所定の屈折率分布をガウス分布で近似し、算出されるTLM出力が最大になるように開口数NA、深さt、屈折率差dn、色収差df、開口半径rad、及びPD距離Lを決定するので、SNS積層光学系で近似するときに生じる光線のケラレがなく、より実際的なモデルをえることができ、熱レンズ分析を安定して行うことができる。
【0016】
請求項2記載の熱レンズ分析装置は、請求項1記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、前記屈折率差dnが1.0×10−3以下、前記深さtを0.025mm以上と決定することを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、屈折率差dnが1.0×10−3以下、深さtを0.025mm以上と決定するので、TLM信号と屈折率差dnの比例関係が成立し、定量的分析を行うことができる。
【0018】
請求項3記載の熱レンズ分析装置は、請求項1又は2記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記開口数NA、前記色収差df、及び前記深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定することを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NA、色収差df、及び深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定するので、色収差dfに関係なく、TLM出力のピーク位置を一定値とすることができる。
【0020】
請求項4記載の熱レンズ分析装置は、請求項3記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定することを特徴とすることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の熱レンズ分析装置によれば、深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定するので、マイクロチップとして実用可能な深さtの流路に収容可能な熱レンズを形成することができ、且つ強いTLM出力を得ることができる。
【0022】
請求項5記載の熱レンズ分析装置は、請求項3又は4記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定することを特徴とする。
【0023】
請求項5記載の熱レンズ分析装置によれば、色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定するので、開口半径radに関係なく、強いTLM出力を得ることができる。
【0024】
請求項6記載の熱レンズ分析装置は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、規格化されたPD距離L0と反比例するように前記開口数NAを決定することを特徴とする。
【0025】
請求項6記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0と反比例するように開口数NAを決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0026】
請求項7記載の熱レンズ分析装置は、請求項6記載の熱レンズ分析装置において、前記パラメータ決定手段は、前記規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定することを特徴とする。
【0027】
請求項7記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置により生成される熱レンズを図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置を示す図である。
【0030】
図1において、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置1は、色収差df及び開口数NAのロッドレンズ10と、試料溶液に励起光を照射する励起光光源13と、試料溶液に検出光を照射する検出光光源14と、検出光を受光するPD11とを備える。
【0031】
ロッドレンズ10は、開口数NAで励起光及び励起光より長波長の光である検出光を同軸に照射するものであり、試料溶液中で励起光及び検出光が焦点を結ぶように光軸合わせを行なう。また、照射される励起光と検出光についてのロッドレンズ10の各焦点距離には差(以下「色収差」という。)dfがある。
【0032】
上述の試料溶液は、不図示のマイクロ化学システム用チップ内に形成された深さtの流路中を流れるものであり、励起光が試料溶液中に照射されると、その焦点位置を中心として、励起光照射前後の屈折率差dnの熱レンズ12が形成される。一方、検出光が試料溶液に照射されると、励起光の焦点位置から光軸方向にdfだけ離れた位置に形成される円錘形光束(最大角θP)がPD11に照射される。
【0033】
PD11は、励起光の焦点位置からの距離(以下「PD距離」という。)Lに光軸と垂直に設置され、光軸と同心円状の開口半径radの検出部からなるものである。
【0034】
以下、PD距離L、深さt、色収差dfについては水中で行なわれたものとして計算する。
【0035】
また、PD11は、検出光の信号強度(I(out))と、試料溶液に励起光を照射する前に試料溶液に照射した検出光の信号強度(I(0))と、励起光を照射した後に試料溶液に照射した検出光の信号強度(I(dn))とを検出する。その後、不図示のコンピュータにより(I(dn)−I(0))/I(out)の値(以下「TLM出力」という。)を算出することで、熱レンズ分析が行われる。尚、本実施の形態においては、計算を容易にするため、I(out)=1.0とする。
【0036】
上記条件で、形成される図1の熱レンズ12の屈折率差dnのシミュレーションを行なう。このシミュレーションの前提条件を以下のように設定する。
1.熱レンズ12の屈折率分布は励起ビーム伝播強度に応じたものであり、下記式に示すガウス分布となるものと近似する。ここで、計算を容易にするため、開口数NAは空気中の開口数の値を用いる。
n(r,Z)=Nw−dn×(W0/Wz)2×exp(−2×r2/Wz2)
ここでWz及びW0は、
Wz=W0×(1+(λ×Z/(π×n(r,Z)×W0 2))2)0.5
W0=λ/π/NA/n
で表され、Z、r、Nw、n(r,Z)、NA、W0は、夫々、
Z:励起光の焦点位置を0とし、光の伝播方向を正とする座標
r:光軸からの距離
Nw:水の屈折率
n(r,Z):熱レンズ12の屈折率差dn
NA:ロッドレンズ10の開口数
W0:ビームウェスト半径
である。
【0037】
開口数NAについては、以下の表1に示すように、ロッドレンズ10の部分については下記対物レンズの開口数NA0、対物レンズから出て、試料溶液に入るまでの部分については励起光の開口数NA(ピーク強度の1/e2)、試料溶液の部分については水中換算した開口数NAwと定義する。
【0038】
【表1】
【0039】
2.色収差dfを変数とする検出光を熱レンズ12に照射すると、検出光の光線は熱レンズ12の屈折率に応じて広がるように曲げられる。
【0040】
さらに、ロッドレンズ10、PD11、励起光、及び検出光の条件を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
以上のように、熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似し、実光線追跡によりTLM出力についてシミュレーションを行なった場合(図2(a))と、熱レンズ12の屈折率分布をSNS積層光学系で近似し、実光線追跡によりTLM出力についてシミュレーションを行なった場合(図2(b))を比較すると、ガウス分布で近似した場合は入射開口数と出射開口数は等しくなるのに対し、SNS積層光学系で近似した場合は入射開口数より出射開口数が小さくなる。また、この傾向は色収差dfが大きくなるほど顕著となる。これは、SNS積層光学系で近似すると光線にケラレが生じるためである。従って、熱レンズ12の形状はガウス分布で近似する方が、SNS積層光学系で近似するより、より実際的なモデルをえることができる。
【0043】
以下、開口数NAを0.2、屈折率差dnを1.0×10−4、PD距離Lを20mmとしたときに強いTLM出力が得られる、深さtの値について説明する。
【0044】
まず、図3に示すように、上記条件のときは深さtを0.1mm以上とすると、色収差dfの値に関係なく、TLM出力のピーク位置となる開口半径radを一定値(約1.0mm)となることがわかる(図3(b)〜図3(d))。
【0045】
一方、深さtが0.05mmのとき、色収差dfの値に関係なくTLM出力のピーク位置となる開口半径radは約1.8mmとなり、開口半径radが1.0mmの位置でのTLM出力はそのピークの値の6割程度と微小となることから、深さtが0.1mmより小さい場合、PD11では精度よく検出ができなくなることがわかる(図3(a))。
【0046】
また、深さtが0.20mmのとき、色収差dfの関係なくTLM出力のピーク位置となる開口半径radは約1.0mmとなるが、その最大強度は深さtが0.10mmのとき或いは0.15mmのときの最大強度の8割程度となることから、深さtが0.2mmより大きい場合、PD11では精度よくTLM出力が検出できなくなることがわかる(図3(d))。
【0047】
従って、開口数NAを0.2、屈折率差dnを1.0×10−4、及びPD距離Lを20mmとするときにPD11で確実にTLM出力を検出するには、深さtを0.1mm以上0.2mm以下とするのが望ましい。
【0048】
以下、屈折率差dnを1.0×10−5で固定し、開口数NA、PD距離L、色収差df、及び深さtを変化させたときのTLM出力について説明する。
【0049】
TLM出力は、上述したように(I(dn)−I(0))/I(out)の値であり、また、I(out)は開口数NAの2乗に比例するという性質を有するため、開口数NAの値が大きくなると相対的にTLM出力の値は小さくなる。
【0050】
従って、図4(a)〜(e)に示すように、NA=0.4のTLM出力(図4(d),図4(e))のスケール(最大スケール:1.0×10−3)をNA=0.2のTLM出力(図4(c))のスケール(最大スケール:2.5×10−4)の1/4倍に、NA=0.1のTLM出力(図4(a),図4(b))のスケール(最大スケール:6.25×10−5)をNA=0.2のTLM出力のスケールの4倍にすると、その強度レベルはPD距離L、色収差df、及び深さtの値に関係なく同程度となる。
【0051】
また、開口数NA、PD距離L、及び深さtが下記式(1)に示す比例関係となるとき、具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.05mm)(図4(a)),(0.2,20mm,0.10mm)(図4(c)),(0.1,40mm,0.20mm)(図4(d))のとき、TLM出力が最大値となる開口半径radの値は夫々0.7mm,1.0mm,1.8mmと異なるものとなることがわかる。一方、開口数NA、PD距離L、及び深さtが下記の式(2)に示す比例関係となるとき、具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.025mm)(図4(b)),(0.2,20mm,0.10mm)(図4(c)),(0.1,40mm,0.40mm)(図4(e))のとき、すべてTLM出力が最大値となる開口半径radの値は約1.00mmとなることがわかる。
【0052】
NA∝1/L∝1/t …(1)
NA∝1/L∝1/t1/2 …(2)
従って、PD11で確実にTLM出力を検出するには、開口数NA、PD距離L、及び深さtの関係が式(2)の比例関係を満たすのが望ましいことがわかる。
【0053】
次に、確実にTLM出力を測定するために、開口数NAの値に対して設定すべき深さtの値について説明する。
【0054】
図3及び図4より、開口数NAが0.2のときにTLM出力を確実に測定するには、深さtは最小値が0.10mm、最大値が0.20mmとなることから、最適値はその平均値である0.15であるといえる。
【0055】
また、開口数NAと深さtは式(2)の関係を有していることから、開口数NAと深さtは下記式に示すような関係を有する。
【0056】
t=C1/NA2(C1:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの深さtの最適値、最小値、最大値の値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの深さtの最適値、最小値、最大値が算出される。
【0057】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの深さtの最適値、最小値、最大値は表3に示す結果となった。
【0058】
【表3】
【0059】
この結果を開口数NAと深さtの関係としてプロットし(図12(a))、上記C1の値を求めると0.004≦C1≦0.008となった。
【0060】
即ち、0.004/NA2≦t≦0.008/NA2となるように、開口数NAと深さtを設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0061】
次に、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに強いTLM出力が得られる、深さt及び色収差dfの値について説明する。
【0062】
まず、図5〜図7に示すように、上記条件のときは屈折率差dn及び開口半径radに関係なくTLM出力のピーク位置となる色収差dfが約0.02mmとなることがわかる(図5(a)〜図7(d))。
【0063】
従って、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとすると、屈折率差dn及び開口半径radに関係なくTLM出力のピーク位置となる色収差dfを約0.02mmとすることができ、高精度な熱レンズ分析を行うことができる。
【0064】
次に、屈折率差dnが1.0×10−5のときに強いTLM出力をえられる色収差dfの範囲について算出された結果について説明する。
【0065】
図4で上述したように、PD11で確実にTLM出力を検出するには、屈折率差dnを1.0×10−5とするとき、開口数NA、PD距離L、及び深さtの関係が式(2)の比例関係を満たすのが望ましいため、以下に説明する開口数NA、PD距離L、深さtは上述の比例関係を満たすものとした。具体的には、(NA,L,t)=(0.4,10mm,0.025mm)(図8(a)),(0.2,20mm,0.10mm)(図8(b)),(0.1,40mm,0.40mm)(図8(c))とした。
【0066】
次に、屈折率差dnを1.0×10−4とし、且つ開口数NA,PD距離L,深さtの値を固定し、色収差dfを変動させたときのTLM出力を算出した。
【0067】
この結果、開口半径radの値を0.2〜2.0まで変動させても、開口数NAが0.4のときは色収差dfが約0.004mmのとき(図8(a))、開口数NAが0.2のときは色収差dfが約0.015mmのとき(図8(b))、開口数NAが0.1のときは色収差dfが約0.060mmのときTLM出力が最大となった(図8(c))。即ち、TLM出力が最大となる色収差df(以下「最適df」という)を確実にえることができるとき、開口数NAと最適dfとの間には以下の式(3)の関係が成立することがわかった。
【0068】
NA∝1/df1/2 …(3)
次に、確実にTLM出力を測定するために、開口数NAの値に対して設定すべき色収差dfの値について説明する。
【0069】
まず、開口数NAが0.2のときに色収差dfのみを変動させたときに、TLM出力が最適dfにおけるTLM出力との差において3割以下に収まる範囲を最適な色収差dfの範囲と仮定し、その範囲における最小の色収差dfの値(最小df)と最大の色収差dfの値(最大df)を図8(b)より読取った。
【0070】
また、開口数NAと色収差dfは式(3)の関係を有していることから、開口数NAと色収差dfは下記式に示すような関係を有する。
【0071】
df=C2/NA2(C2:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの色収差dfの最適df、最小df、最大dfの値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの色収差dfの最適df、最小df、最大dfが算出される。
【0072】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの色収差dfの最適値、最小値、最大値は表4に示す結果となった。
【0073】
【表4】
【0074】
この結果を開口数NAと色収差dfの関係としてプロットし(図12(b))、上記C2の値を求めると0.003≦C1≦0.016となった。
【0075】
即ち、0.003/NA2≦df≦0.016/NA2となるように、開口数NAと色収差dfを設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0076】
次に、屈折率差の値とTLM出力の値とが比例関係にあり、熱レンズ分析を定量的に行なうことができるPD距離L、屈折率差dn、深さt、開口数NA、色収差df、開口半径radの値について説明する。
【0077】
具体的には、この屈折率差dn以外の上述のパラメータを所定の値に固定して屈折率差dnの値を10倍としたときのTLM出力比を算出し、その信号強度が10倍となるか否かを算出した。
【0078】
具体的には、熱レンズ分析を定量的に行うことができる深さtの値の範囲を以下のように算出される。
【0079】
まず、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、屈折率差dnが1.0×10−3〜1.0×10−5の範囲に固定し且つ深さtが0.20mm以下とすると、開口半径rad、色収差dfを変動させると(図9(a)〜図9(d)、図10(a)〜図10(d))、開口半径rad及び色収差dfに関係なく、屈折率差を10倍としたときにTLM出力比が約10となり、熱レンズ分析を定量的に行うことができることがわかった。
【0080】
ただし、屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4のとき、深さtが0.20mm,開口半径radが1.2以上とするとTLM出力比が低下する傾向にある。従って、熱レンズ分析を定量的に行うには、深さtが0.20mm以下、開口半径radを0.8mm以下とすることがより好ましいことがわかった。
【0081】
次に、熱レンズ分析を定量的に行うことができる屈折率差dnの値の範囲、即ち屈折率差dnの変化率とTLM強度比の値がほぼ一致する範囲を、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、深さtを0.10mmに固定し、且つ色収差dfを0〜0.08mmの範囲で、開口数radを0.2〜2.0mmの範囲で変化させたときのTLM強度比を算出することにより求めた。
【0082】
まず、屈折率差dnを1.0×10−3から1.0×10−2に変化させたときのTLM強度比(図11(a))を算出した場合、色収差df及び開口数radを上記範囲で変化させても屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができなかった。
【0083】
次に、屈折率差dnを1.0×10−4から1.0×10−3に変化させたときのTLM強度比(図11(b))を算出した場合、開口数radが1.4mm以下のときは色収差dfの値に関係なく屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができた。
【0084】
さらに、屈折率差dnが1.0×10−5から1.0×10−4に変化させたときのTLM強度比(図11(c))を算出した場合、色収差df及び開口半径radの値に関係なく屈折率差dnの変化率(=10)とほぼ一致するTLM強度比をえることができた。尚、図11(c)において、開口数radが0.4mm以下である場合、TLM強度比はほぼ10であるとはいえない値が算出されているが、これは計算精度の限界によるものである。
【0085】
以上の結果から、開口数NAが0.2のとき、屈折率差dnが1.0×10−3以下とすると、熱レンズ分析を定量的に行うことができることがわかる。
【0086】
次に、ロッドレンズ10の開口数NAと規格化されたPD距離Loの関係について説明する。
【0087】
開口半径rad、PD距離L、及び規格化されたPD距離Loは下記式に示すような関係を有する。
【0088】
Lo=L/(rad×2)
図3(b)のグラフから、色収差dfが0.02、開口数NAが0.2のときのTLM出力のピーク位置となる開口半径は1.00mmであると読み取ることができ、また、このピーク位置のTLM出力との差が4割以下となる開口半径radは、その最小値は0.5mm、最大値は1.8mmとなる。
【0089】
従って、PD11の開口直径(=rad×2)で規格化されたPD距離Loは、最適値が10(=20/(1.00×2))、最小値が5.56(=20/(1.8×2))、最大値が20(=20/(0.5×2))となる。
【0090】
また、開口数NAとPD距離Lは反比例の関係(式(2))であることから、開口数NAと規格されたPD距離Loは下記式に示すような関係を有する。
【0091】
Lo=L/(rad×2)=C3/NA(C3:係数)
従って、開口数NAが0.2のときの規格されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値の値から、開口数NAが0.1及び0.4のときの規格化されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値が算出される。
【0092】
以上より、NA=0.4,0.2,0.1としたときの規格化されたPD距離Loの最適値、最小値、最大値は表5に示す結果となった。
【0093】
【表5】
【0094】
この結果を開口数NAと規格化されたPD距離Loの関係としてプロットし(図12(c))、上記C3の値を求めると1.1≦C3≦4.0となった。
【0095】
即ち、1.1/NA≦L0≦4.0/NAとなるように、開口数NAと規格されたPD距離L0を設定すると、強いTLM出力を得られることがわかった。
【0096】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、請求項1記載の熱レンズ分析装置によれば、熱レンズの屈折率分布をガウス分布で近似し、算出されるTLM出力が最大になるように開口数NA、深さt、屈折率差dn、色収差df、開口半径rad、及びPD距離Lを決定するので、SNS積層光学系で近似するときに生じる光線のケラレがなく、より実際的なモデルをえることができ、熱レンズ分析を安定して行うことができる。
【0097】
請求項2記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、屈折率差dnが1.0×10−3以下、深さtを0.025mm以上と決定するので、TLM信号と屈折率差dnの比例関係が成立し、定量的分析を行うことができる。
【0098】
請求項3記載の熱レンズ分析装置によれば、開口数NA、色収差df、及び深さtをこれらの関係がNA2∝1/df∝1/tを満たすように決定するので、色収差dfに関係なく、TLM出力のピーク位置を一定値とすることができる。
【0099】
請求項4記載の熱レンズ分析装置によれば、深さtを4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2と決定するので、マイクロチップとして実用可能な深さtの流路に収容可能な熱レンズを形成することができ、且つ強いTLM出力を得ることができる。
【0100】
請求項5記載の熱レンズ分析装置によれば、色収差dfを3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2と決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0101】
請求項6記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0と反比例するように開口数NAを決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【0102】
請求項7記載の熱レンズ分析装置によれば、規格化されたPD距離L0を1.1/NA≦L0≦4.0/NAと決定するので、強いTLM出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱レンズ分析装置を示す図である。
【図2】図1における熱レンズ12について実光線追跡によりTLM出力をシミュレーションした結果を示す図であり、(a)は熱レンズ12の屈折率分布をガウス分布で近似した場合を示し、(b)は熱レンズ12の屈折率分布をSNS積層光学系で近似した場合を示す。
【図3】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mm、屈折率差dnを1.0×10−4としたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図4】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5としたときに、開口数NA、深さt、PD距離L、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は開口数NAが0.4、深さtが0.05mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(b)は開口数NAが0.4、深さtが0.025mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(c)は開口数NAが0.2、深さtが0.10mm、PD距離Lが20mmの場合を示し、(d)は開口数NAが0.1、深さtが0.20mm、PD距離Lが40mmの場合を示し、(e)は開口数NAが0.1、深さtが0.40mm、PD距離Lが40mmの場合を示す。
【図5】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−3、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図6】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−4、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図7】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図8】図1の熱レンズ分析装置1において、屈折率差dnを1.0×10−5としたときに、開口数NA、深さt、開口半径rad、及び色収差dfに対するTLM出力を示すグラフであり、(a)は開口数NAが0.4、深さtが0.025mm、PD距離Lが10mmの場合を示し、(b)は開口数NAが0.2、深さtが0.10mm、PD距離Lが20mmの場合を示し、(c)は開口数NAが0.1、深さtが0.40mm、PD距離Lが40mmの場合を示す。
【図9】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、色収差dfに対する屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4のときのTLM出力比を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図10】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAを0.2、PD距離Lを20mmとしたときに、色収差dfに対する屈折率差dnが1.0×10−4と1.0×10−5のときのTLM出力比を示すグラフであり、(a)は深さtが0.05mmの場合を示し、(b)は深さtが0.10mmの場合を示し、(c)は深さtが0.15mmの場合を示し、(d)は深さtが0.20mmの場合を示す。
【図11】図1の熱レンズ分析装置1において、PD距離Lを20mm、開口数NAを0.2、深さtを0.10mmに固定したときに、色収差dfに対するTLM出力比の関係を示すグラフであり、(a)は、屈折率差dnが1.0×10−2と1.0×10−3の場合を示し、(b)は、屈折率差dnが1.0×10−3と1.0×10−4の場合を示し、(c)は、屈折率差dnが1.0×10−4と1.0×10−5の場合を示す。
【図12】図1の熱レンズ分析装置1において、開口数NAに対して最適となるパラメータの範囲を示すグラフであり、(a)は深さtとの関係を示し、(b)は色収差dfとの関係を示し、(c)は規格化されたPD距離L0との関係を示すグラフである。
【符合の説明】
1 熱レンズ分析装置
10 ロッドレンズ
11 PD
12 熱レンズ
Claims (7)
- 深さtの流路中を流れる試料溶液中に所定の屈折率分布の屈折率差dnを有する熱レンズを形成すべく開口数NAのレンズを介して前記試料溶液に励起光を照射する第1の照射手段と、前記レンズを介して前記励起光と同軸的に前記試料溶液に検出光を照射する第2の照射手段と、前記熱レンズが形成される前後で前記検出光が前記試料溶液を透過したときの透過光を受光する開口半径rad及びPD距離Lの受光部と、前記受光部の受光量に基づいてTLM出力を算出するTLM算出手段とを備え、前記レンズは前記励起光及び前記検出光についての色収差dfを有する熱レンズ分析装置において、
前記TLM算出手段は、前記熱レンズの所定の屈折率分布をガウス分布で近似し、
前記熱レンズ分析装置は、前記算出されるTLM出力が最大になるように前記開口数NA、前記深さt、前記屈折率差dn、前記色収差df、前記開口半径rad、及び前記PD距離Lを決定するパラメータ決定手段を備えることを特徴とする熱レンズ分析装置。 - 前記パラメータ決定手段は、前記開口数NAが0.1〜0.4の範囲で、前記屈折率差dnが1.0×10−3以下、前記深さtを0.025mm以上と決定することを特徴とする請求項1記載の熱レンズ分析装置。
- 前記パラメータ決定手段は、前記開口数NA、前記色収差df、及び前記深さtをこれらの関係が
NA2∝1/df∝1/t
を満たすように決定することを特徴とする請求項1又は2記載の熱レンズ分析装置。 - 前記パラメータ決定手段は、前記深さtを
4×10−3/NA2≦t≦8×10−3/NA2
と決定することを特徴とする請求項3記載の熱レンズ分析装置。 - 前記パラメータ決定手段は、前記色収差dfを
3×10−4/NA2≦df≦16×10−4/NA2
と決定することを特徴とする請求項3又は4記載の熱レンズ分析装置。 - 前記パラメータ決定手段は、規格化されたPD距離L0と反比例するように前記開口数NAを決定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱レンズ分析装置。
- 前記パラメータ決定手段は、前記規格化されたPD距離L0を
1.1/NA≦L0≦4.0/NA
と決定することを特徴とする請求項6記載の熱レンズ分析装置。
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JP2003106657A JP2004309430A (ja) | 2003-04-10 | 2003-04-10 | 熱レンズ分析装置 |
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WO2006123468A1 (ja) * | 2005-05-20 | 2006-11-23 | Nippon Sheet Glass Company, Limited | マイクロ化学システム及びそのtlm出力算出方法 |
-
2003
- 2003-04-10 JP JP2003106657A patent/JP2004309430A/ja not_active Withdrawn
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WO2006123468A1 (ja) * | 2005-05-20 | 2006-11-23 | Nippon Sheet Glass Company, Limited | マイクロ化学システム及びそのtlm出力算出方法 |
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