JP2004307968A - 通電ロール及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】酸化や空隙が少なくかつ硬度が高く耐摩耗性及び電気伝導性に優れた被膜を表面に有する通電ロール及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有する通電ロール。表面に、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に、体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなり、空隙率が3%以下である被膜を有する通電ロール。また、上記の被膜はコールドスプレーにより成膜することによって得られる。
【選択図】 図1
【解決手段】表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有する通電ロール。表面に、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に、体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなり、空隙率が3%以下である被膜を有する通電ロール。また、上記の被膜はコールドスプレーにより成膜することによって得られる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気亜鉛めっきなどの電解めっきラインに使用される通電ロール及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電気亜鉛めっきにおいて使用される通電ロールは、めっき液中に浸漬されてバックアップロールと共に鋼板を挟持し通電するものであり、めっき液による電気腐食と同時に鋼板との接触による摩耗により損耗を受ける。このためこの種の通電ロールには耐食性と共に高い耐摩耗性を有することが要求される。
従来の通電ロールとしては、特許文献1に示すように、ロール本体の外周面をホウ化チタンで被覆(例えば、プラズマ溶射にて被覆)した比抵抗を小さくし耐摩耗性を向上させた通電ロールが開示され、また、特許文献2にはCr、Moを含有したNi基燒結合金からなる層を鋼製パイプの外面に形成し、耐食性及び耐摩耗性を向上させた通電ロールが開示されている。該特許文献2では、燒結合金を熱間静水圧プレス(HIP)によって処理して通電ロールを作製している。
しかしながら、特許文献1に示すような溶射によって被膜を形成した通電ロールは、酸化量が大きくて耐摩耗性の向上はそれほど期待できず、また、HIPによる特許文献2のような通電ロールでは、結晶粒径が1μm以上と大きくて、粒界腐食を生じるおそれがあり、また酸化物の分散も困難であり、加えて処理コストがかさむという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】
特開昭64−42597号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄の[
実施例])
【特許文献2】
特許第2569614号特許公報(特許請求の範囲、第6欄16行〜
第7欄13行)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の従来の通電ロールの問題点を解決するためになされたもので、酸化や空隙が少なく、かつ硬度・強度が高く耐摩耗性に優れ、結晶粒径が微細で粒界腐食を生じ難い被膜を表面に有する通電ロール及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有することを特徴とする通電ロール。
(2) 表面に、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなり、空隙率が3%以下である被膜を表面に有することを特徴とする通電ロール。
(3) 表面に、Cr、Mo、Niの合金及びTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなる初期粒径0.001〜1μmの粉体を造粒した大きさ1〜100μmの造粒粉を原料とし、被膜をコールドスプレーにより成膜することを特徴とする(1)又は(2)記載の通電ロールの製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る通電ロールは、鋼製のロール本体の外周表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有するものである。被膜を構成する主たる成分は、好ましくはCrは20〜35質量%、Moは8〜23質量%、残部がNi及び不可避的不純物からなる。更に、必要に応じて、Fe、W、Co、V、Cu、Nbの一種又は二種以上を添加しても良い。
また、被膜の成分としては、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に体積%で0.01〜2%の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のいずれか一種又は二種以上のセラミックスから構成することもできる。このようなセラミックスを配合することで、通電ロールに要求される導電性、耐食性、耐摩耗性という性能を具備せしめる。
【0007】
本発明では、このような成分系の被膜において、酸化物量を0.01〜2体積%と規定すると共に、被膜の空隙率を3%以下に抑えたことに意味を有する。酸化物量を上記の低い範囲に特定すること及び空隙率を3%を上限とすることによって、初めて緻密で酸化が少なく、結晶粒界に部分的に酸化物が均一に分散した状態が得られ、これによって上述した高性能の通電ロール被膜とすることが可能となる。
被膜の空隙率は、コールドスプレーで形成した被膜の断面を研磨してエッチングし、組織写真を走査型電子顕微鏡(SEMという)にて、1000倍で観察し、10視野の写真を撮影し、そのSEM組織写真を用いて、画像処理し、空隙部の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の平均値としても求めれば良い。被膜の酸化物量は、上述のSEM組織写真の空隙部を画像処理によって除外してから、酸化物の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の単純平均値を体積%とすれば良い。画像処理には、図1に示したように、SEM写真を模式化したスケッチ図を用いても良い。図1において、図面の黒く塗りつぶした部分が空隙部、ハッチング部が酸化物である。
【0008】
また、本発明は、上記した被膜を有する通電ロールの製造方法として、その被膜をコールドスプレーによって成膜することを特徴するものである。
「コールドスプレー」とは、技術文献である「溶射技術」VOL.20−NO.2 別刷(2000年8月発行)の「新しい溶射プロセス」及び「溶射技術」VOL.21−NO.3 別刷(2002年2月5日発行)の「コールドスプレーテクノロジー」(いずれも信州大学 榊 和彦氏発表)に説明されているように、溶射材料の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを超音速流にして、前記超音速流のガス中に前記溶射材料の粒子を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成する技術である。これを実現する設備として上記文献には、先細末広形の超音速ガスノズルの後方から所望の溶射粉末材料を加熱・加圧した作動ガスにて送給して基体表面に衝突させる形式のものが開示されている。
このコールドスプレーは、従来のプラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法などに比べ、溶射材料粒子を加熱・加速する作動ガスの温度が著しく低く、溶射粒子をあまり加熱せずに固相状態のまま基材へ高速で衝突させ、そのエネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせて成膜させるものである。これによって得た被膜は、緻密で密度、熱・電気伝導性が高く、酸化や熱変質も少なく、密着性も良好であるという、優れた性質を有する。
【0009】
本発明では、このコールドスプレーを通電ロールの外面被膜形成に利用し、以下の効果を得たものである。すなわち、
(1)ロール表面に形成した被膜は、結晶粒界に部分的に酸化物が均一に分散しているため、高硬度であり、優れた耐摩耗性を発揮する。
(2)被膜の酸化、空隙が少ないため、良好な電気伝導性及び熱伝導性を有する。
(3)従来のHIPによる通電ロールに比し製作コストが非常に低廉である(1/10程度になる)。
本発明は、鋼製などのロール本体に対し、コールドスプレーの原料として、Cr、Mo、Niの合金を、又はCr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなる材料を選択し、これを粒子の形で超音速ガス流にのせて噴射し成膜する。
この場合コールドスプレーの原料が、初期粒径0.001〜1μmのCr、Mo、Ni及び/又はそれらの合金の粉体、必要に応じて、更にTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかの粉体を所望する含有量になるように混合し、燒結或いはバインダーを介して造粒した大きさ1〜100μmの造粒粉であることが望ましい。このような造粒粉を用いた場合、ナノレベルで材料が均一に分散することから、従来のような結晶粒界からの局部腐食が発生しない。この造粒粉をコールドスプレーする際には、空気、窒素或いはヘリウムを作動ガスとして、衝突速度を600m/s以上として10〜50mmの距離でロール本体表面に衝突させて成膜されることが確認された。
【0010】
実際に通電ロール本体の外周面に本発明に係る被膜を形成する場合には、例えば、コールドスプレー設備のノズルを近接して、軸部を回転可能な状態としてロール本体を保持して行う。ノズルはロール本体軸方向へ往復移動でき、ロール本体の回転との組合せによって、任意の厚みの被膜を成膜させることができる。通常、電気亜鉛めっきに使用する通電ロールとしては、成膜厚みは300μm程度である。
【0011】
【実施例】
本発明を電気亜鉛めっきラインの通電ロールに適用した場合を実施例として示す。実施例のNo.1〜5が主にCr、Mo、Niからなる合金の被膜を形成した場合、No.6〜11が前記合金とセラミックスを配合した被膜を示す。コールドスプレーの条件及びスプレー設備は、すべて前掲した技術文献(「溶射技術」)に記載された範囲内での条件や設備を用いた。めっき条件は次のとおりである。・ライン速度:180m/m
・通電ロール:外径300mm、長さ1800mm
・電流:1600A
・めっき液:硫酸亜鉛280g/l、硫酸30g/l、pH1.2、浴温60℃
【0012】
表1の酸化物量及び空隙率は、次のようにして算定した。すなわち、コールドスプレーで形成した被膜の断面を研磨し、エッチングして組織をSEMにて1000倍で観察し、10視野の写真を撮影し、図1に例示したように模式化したスケッチ図とした。このスケッチ図を用いて画像処理により、空隙率及び酸化物量を求めた。まず、図1の黒く塗りつぶした空隙部の、単位面積当りの面積率を測定し、10視野の平均値を空隙率とした。次に、空隙部を除外して、図1のハッチング部である酸化物の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の単純平均値を体積%とした。表1のvol%は体積率を意味する。
なお、比較例としてNo.1、2を示すが、比較例の被膜はいずれもHIPにて形成したものである。
【0013】
本発明により形成された被膜は、いずれも酸化物量は高くとも1.6%であり、空隙率も2.5%を超えるものは見られない。また、実施結果としてロールの寿命延長効果について表1に示すが、いずれも比較例に比し高い寿命延長効果を有することが認められる。表1の寿命延長効果は、括弧内の数字で示した比較例を100%として、本発明の寿命を百分率で示したものである。また、表には示していないが、密着性も良好であり、耐摩耗性や電気伝導性についても十分実用に耐える程度のものが得られた。
【0014】
【表1】
【0015】
【発明の効果】
本発明により、酸化や空隙が少なく、かつ硬度・強度が高く耐摩耗性に優れ、結晶粒径が微細で粒界腐食を生じ難い被膜を表面に有する通電ロール及びその製造方法の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】コールドスプレーで形成した被膜の断面組織写真をエッチングしてから模式化したスケッチ図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気亜鉛めっきなどの電解めっきラインに使用される通電ロール及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電気亜鉛めっきにおいて使用される通電ロールは、めっき液中に浸漬されてバックアップロールと共に鋼板を挟持し通電するものであり、めっき液による電気腐食と同時に鋼板との接触による摩耗により損耗を受ける。このためこの種の通電ロールには耐食性と共に高い耐摩耗性を有することが要求される。
従来の通電ロールとしては、特許文献1に示すように、ロール本体の外周面をホウ化チタンで被覆(例えば、プラズマ溶射にて被覆)した比抵抗を小さくし耐摩耗性を向上させた通電ロールが開示され、また、特許文献2にはCr、Moを含有したNi基燒結合金からなる層を鋼製パイプの外面に形成し、耐食性及び耐摩耗性を向上させた通電ロールが開示されている。該特許文献2では、燒結合金を熱間静水圧プレス(HIP)によって処理して通電ロールを作製している。
しかしながら、特許文献1に示すような溶射によって被膜を形成した通電ロールは、酸化量が大きくて耐摩耗性の向上はそれほど期待できず、また、HIPによる特許文献2のような通電ロールでは、結晶粒径が1μm以上と大きくて、粒界腐食を生じるおそれがあり、また酸化物の分散も困難であり、加えて処理コストがかさむという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】
特開昭64−42597号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄の[
実施例])
【特許文献2】
特許第2569614号特許公報(特許請求の範囲、第6欄16行〜
第7欄13行)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の従来の通電ロールの問題点を解決するためになされたもので、酸化や空隙が少なく、かつ硬度・強度が高く耐摩耗性に優れ、結晶粒径が微細で粒界腐食を生じ難い被膜を表面に有する通電ロール及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有することを特徴とする通電ロール。
(2) 表面に、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなり、空隙率が3%以下である被膜を表面に有することを特徴とする通電ロール。
(3) 表面に、Cr、Mo、Niの合金及びTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなる初期粒径0.001〜1μmの粉体を造粒した大きさ1〜100μmの造粒粉を原料とし、被膜をコールドスプレーにより成膜することを特徴とする(1)又は(2)記載の通電ロールの製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る通電ロールは、鋼製のロール本体の外周表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有するものである。被膜を構成する主たる成分は、好ましくはCrは20〜35質量%、Moは8〜23質量%、残部がNi及び不可避的不純物からなる。更に、必要に応じて、Fe、W、Co、V、Cu、Nbの一種又は二種以上を添加しても良い。
また、被膜の成分としては、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に体積%で0.01〜2%の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のいずれか一種又は二種以上のセラミックスから構成することもできる。このようなセラミックスを配合することで、通電ロールに要求される導電性、耐食性、耐摩耗性という性能を具備せしめる。
【0007】
本発明では、このような成分系の被膜において、酸化物量を0.01〜2体積%と規定すると共に、被膜の空隙率を3%以下に抑えたことに意味を有する。酸化物量を上記の低い範囲に特定すること及び空隙率を3%を上限とすることによって、初めて緻密で酸化が少なく、結晶粒界に部分的に酸化物が均一に分散した状態が得られ、これによって上述した高性能の通電ロール被膜とすることが可能となる。
被膜の空隙率は、コールドスプレーで形成した被膜の断面を研磨してエッチングし、組織写真を走査型電子顕微鏡(SEMという)にて、1000倍で観察し、10視野の写真を撮影し、そのSEM組織写真を用いて、画像処理し、空隙部の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の平均値としても求めれば良い。被膜の酸化物量は、上述のSEM組織写真の空隙部を画像処理によって除外してから、酸化物の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の単純平均値を体積%とすれば良い。画像処理には、図1に示したように、SEM写真を模式化したスケッチ図を用いても良い。図1において、図面の黒く塗りつぶした部分が空隙部、ハッチング部が酸化物である。
【0008】
また、本発明は、上記した被膜を有する通電ロールの製造方法として、その被膜をコールドスプレーによって成膜することを特徴するものである。
「コールドスプレー」とは、技術文献である「溶射技術」VOL.20−NO.2 別刷(2000年8月発行)の「新しい溶射プロセス」及び「溶射技術」VOL.21−NO.3 別刷(2002年2月5日発行)の「コールドスプレーテクノロジー」(いずれも信州大学 榊 和彦氏発表)に説明されているように、溶射材料の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを超音速流にして、前記超音速流のガス中に前記溶射材料の粒子を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成する技術である。これを実現する設備として上記文献には、先細末広形の超音速ガスノズルの後方から所望の溶射粉末材料を加熱・加圧した作動ガスにて送給して基体表面に衝突させる形式のものが開示されている。
このコールドスプレーは、従来のプラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法などに比べ、溶射材料粒子を加熱・加速する作動ガスの温度が著しく低く、溶射粒子をあまり加熱せずに固相状態のまま基材へ高速で衝突させ、そのエネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせて成膜させるものである。これによって得た被膜は、緻密で密度、熱・電気伝導性が高く、酸化や熱変質も少なく、密着性も良好であるという、優れた性質を有する。
【0009】
本発明では、このコールドスプレーを通電ロールの外面被膜形成に利用し、以下の効果を得たものである。すなわち、
(1)ロール表面に形成した被膜は、結晶粒界に部分的に酸化物が均一に分散しているため、高硬度であり、優れた耐摩耗性を発揮する。
(2)被膜の酸化、空隙が少ないため、良好な電気伝導性及び熱伝導性を有する。
(3)従来のHIPによる通電ロールに比し製作コストが非常に低廉である(1/10程度になる)。
本発明は、鋼製などのロール本体に対し、コールドスプレーの原料として、Cr、Mo、Niの合金を、又はCr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなる材料を選択し、これを粒子の形で超音速ガス流にのせて噴射し成膜する。
この場合コールドスプレーの原料が、初期粒径0.001〜1μmのCr、Mo、Ni及び/又はそれらの合金の粉体、必要に応じて、更にTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかの粉体を所望する含有量になるように混合し、燒結或いはバインダーを介して造粒した大きさ1〜100μmの造粒粉であることが望ましい。このような造粒粉を用いた場合、ナノレベルで材料が均一に分散することから、従来のような結晶粒界からの局部腐食が発生しない。この造粒粉をコールドスプレーする際には、空気、窒素或いはヘリウムを作動ガスとして、衝突速度を600m/s以上として10〜50mmの距離でロール本体表面に衝突させて成膜されることが確認された。
【0010】
実際に通電ロール本体の外周面に本発明に係る被膜を形成する場合には、例えば、コールドスプレー設備のノズルを近接して、軸部を回転可能な状態としてロール本体を保持して行う。ノズルはロール本体軸方向へ往復移動でき、ロール本体の回転との組合せによって、任意の厚みの被膜を成膜させることができる。通常、電気亜鉛めっきに使用する通電ロールとしては、成膜厚みは300μm程度である。
【0011】
【実施例】
本発明を電気亜鉛めっきラインの通電ロールに適用した場合を実施例として示す。実施例のNo.1〜5が主にCr、Mo、Niからなる合金の被膜を形成した場合、No.6〜11が前記合金とセラミックスを配合した被膜を示す。コールドスプレーの条件及びスプレー設備は、すべて前掲した技術文献(「溶射技術」)に記載された範囲内での条件や設備を用いた。めっき条件は次のとおりである。・ライン速度:180m/m
・通電ロール:外径300mm、長さ1800mm
・電流:1600A
・めっき液:硫酸亜鉛280g/l、硫酸30g/l、pH1.2、浴温60℃
【0012】
表1の酸化物量及び空隙率は、次のようにして算定した。すなわち、コールドスプレーで形成した被膜の断面を研磨し、エッチングして組織をSEMにて1000倍で観察し、10視野の写真を撮影し、図1に例示したように模式化したスケッチ図とした。このスケッチ図を用いて画像処理により、空隙率及び酸化物量を求めた。まず、図1の黒く塗りつぶした空隙部の、単位面積当りの面積率を測定し、10視野の平均値を空隙率とした。次に、空隙部を除外して、図1のハッチング部である酸化物の単位面積当りの面積率を測定し、10視野の単純平均値を体積%とした。表1のvol%は体積率を意味する。
なお、比較例としてNo.1、2を示すが、比較例の被膜はいずれもHIPにて形成したものである。
【0013】
本発明により形成された被膜は、いずれも酸化物量は高くとも1.6%であり、空隙率も2.5%を超えるものは見られない。また、実施結果としてロールの寿命延長効果について表1に示すが、いずれも比較例に比し高い寿命延長効果を有することが認められる。表1の寿命延長効果は、括弧内の数字で示した比較例を100%として、本発明の寿命を百分率で示したものである。また、表には示していないが、密着性も良好であり、耐摩耗性や電気伝導性についても十分実用に耐える程度のものが得られた。
【0014】
【表1】
【0015】
【発明の効果】
本発明により、酸化や空隙が少なく、かつ硬度・強度が高く耐摩耗性に優れ、結晶粒径が微細で粒界腐食を生じ難い被膜を表面に有する通電ロール及びその製造方法の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】コールドスプレーで形成した被膜の断面組織写真をエッチングしてから模式化したスケッチ図である。
Claims (3)
- 表面に、Cr、Mo、Niの合金と体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物からなり、空隙率が3%以下である被膜を有することを特徴とする通電ロール。
- 表面に、Cr、Mo、Niの合金を10〜90質量%含有し、更に体積%で0.01〜2%の前記合金の酸化物を含有し、残部がTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなり、空隙率が3%以下である被膜を表面に有することを特徴とする通電ロール。
- 表面に、Cr、Mo、Niの合金及びTiB2、CrB2、TiC、TiN、WC、Cr3C2のセラミックスのいずれかからなる初期粒径0.001〜1μmの粉体を造粒した大きさ1〜100μmの造粒粉を原料とし、被膜をコールドスプレーにより成膜することを特徴とする請求項1又は2記載の通電ロールの製造方法。
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JP2003105538A JP2004307968A (ja) | 2003-04-09 | 2003-04-09 | 通電ロール及びその製造方法 |
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-
2003
- 2003-04-09 JP JP2003105538A patent/JP2004307968A/ja active Pending
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