JP2004307362A - 水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた性質を有するタンニンの用途を広げることができる水に不溶で各種溶媒への溶解性を高めたタンニン誘導体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】タンニンに、ジアルキルスルホン酸エステル、酸無水物、酸塩化物、ハロゲン化アルキルからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルキル化剤を反応させることによって、タンニン分子中に含まれる水酸基の少なくとも一部をアルキルエーテル基またはアルキルエステル基で置換された分子構造にした。
【選択図】 なし
【解決手段】タンニンに、ジアルキルスルホン酸エステル、酸無水物、酸塩化物、ハロゲン化アルキルからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルキル化剤を反応させることによって、タンニン分子中に含まれる水酸基の少なくとも一部をアルキルエーテル基またはアルキルエステル基で置換された分子構造にした。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリフェノールの代表とも言えるタンニンには、日本薬局方及び食品添加物規格に記載されている加水分解型タンニン(原料は五倍子、没食子、またはタラ)と柿、緑茶、アカシア等から抽出して得られる縮合型タンニンがある(たとえば、非特許文献1等参照)。これらのタンニンは水に溶解するが、一部の有機溶媒に溶解するものの、殆どの有機溶媒あるいは油脂類には溶解しない。このため、優れた抗酸化性などの効果を有するタンニンの用途が限定された状況にある。
【0003】
【非特許文献1】
Plant Polyphenols, Hemingway, R. W., Laks, P. E. Eds.; Plenum Press: New York, 1992.
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みて、優れた性質を有するタンニンの用途を広げることができる水に不溶で各種溶媒への溶解性を高めたタンニン誘導体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体は、タンニン分子中に含まれる水酸基の少なくとも一部がアルキルエーテル基またはアルキルエステル基で置換された分子構造を備えることを特徴としている。
【0006】
一方、本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体の製造方法は、タンニンに、ジアルキルスルホン酸エステル、酸無水物、酸塩化物、ハロゲン化アルキルからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルキル化剤を反応させることを特徴としている。
【0007】
タンニンは大きく分けて、グルコースやキナ酸の中心骨格に没食子酸などが複数縮合した構造が知られている加水分解型と,カテキンやエピカテキンを基本骨格としてオリゴマーや高分子構造を形成している縮合型の2種類があり、その他にも多くのタンニン類がポリフェノールとして知られているが、五倍子から得られる加水分解型タンニンおよびアカシアの樹皮から得られる縮合型タンニン(ワットルタンニン)が工業原料として比較的安価に容易に入手可能である。
五倍子タンニンは、その一例として下式(I)に示したように、グルコース骨格に没食子酸がエステル結合したものでその没食子酸の数により分子量が数百から数千のものの混合物であであって、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分析では平均分子量が約2000であった。
【0008】
【化1】
【0009】
ワットルタンニンは、その一例として下式(II)に示した構造を有する縮合型タンニンで、皮のなめしに最もよく使用される。ワットルタンニンは、五倍子タンニンとその構造が異なるためアルカリなどによる加水分解が起こりにくいと考えられる。
【0010】
【化2】
【0011】
本発明の製造方法において、ジアルキルスルホン酸エステルとしては、特に限定されないが、たとえば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸が安価なメチル化、エチル化剤として用いることができる。
ジアルキルスルホン酸エステルを用いたアルキルエステル化反応あるいはアルキルエーテル化反応は、特に限定されないが、たとえば、タンニンを溶解したアルカリ溶液中にアルキル化剤を滴下することによって行うことができる。
【0012】
因みに、五倍子タンニン(平均分子量2000)には約30のヒドロキシル基が存在する。従って、タンニン1モルに対して、1〜30モルのアルキル化剤を用いることにより有機溶媒などへの溶解性をコントロールすることができる。反応は、アセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒の存在下行うことができるが、アルキル化剤としてジアルキルスルホン酸エステルを用いる場合、アルカリ水溶液を用いると反応に従って生成物の沈殿が生じるため反応後の処理がしやすく好ましい。用いるアルカリはアルカリ金属水酸化物や炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩を用いることができる。アルカリ濃度は添加するジアルキルのモル数と同等かそれ以上の濃度の添加が必用である。反応は、氷冷下〜100℃の範囲の温度で可能であるが、アルカリによる加水分解を抑制するために60℃以下が好ましい。反応時間は1時間〜24時間であるが、上記のように加水分解を抑制するために2時間〜12時間が好ましい。
【0013】
ハロゲン化アルキルとしては、特に限定されないが、たとえば、炭素数1〜16の直鎖あるいは分岐のアルキル基を持つものが好ましく、ジアルキルスルホン酸エステル類と同様にしてタンニンと反応させることができる。
【0014】
酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば、無水酢酸を始め炭素数2〜12のものが好ましい。
酸無水物によるエステル化反応またはエーテル化反応は、塩基存在下行うこともできるし、アルカリ加水分解によるタンニンの分解を避けるために塩基を用いないでも行わせることができる。
【0015】
酸無水物を用いた反応には、アセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いることができる。また、塩基触媒を用いない場合には室温以上の反応温度が必用であり好ましくは50℃〜60℃である。反応時間は3時間〜24時間必要であるが、酸無水物の添加量が多い場合には反応時間は3時間程度で十分である。
【0016】
有機酸塩化物としては、特に限定されないが、炭素数2〜16のアルキル鎖を持つものが好ましい。
有機酸塩化物によるエステル化反応またはエーテル化反応は、特に限定されないが、ピリジンやトリエチルアミンなどの塩基によって穏和な条件で反応の進行が可能であり、タンニンの加水分解を低減させることが可能である。
【0017】
有機酸塩化物の添加量は、用いるタンニンのヒドロキシル基と等モル以下の量であって、添加量に応じて溶解性の異なるタンニン誘導体が得られる。反応溶媒は、酸塩化物の加水分解を避けるために、水の含有量の少ないアセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)などの各種有機溶媒を用いることができるが、タンニンの溶解性のよいアセトン、アセトニトリルの使用が好ましい。反応は、氷冷下〜100℃の範囲の温度で可能であるが、酸塩化物の反応性が高いため、0〜室温で十分に生成物が得られる。反応時間は1時間〜24時間であるが、上記のように加水分解を抑制するために2時間〜6時間が好ましい。
【0018】
なお、いずれのアルキル化剤を用いる場合においても、導入するアルキル基の種類により油溶性をコントロールすることが可能である。
また、本発明のタンニン誘導体の用途としては、特に限定されないが、たとえば、塗料、潤滑剤、接着剤などの抗酸化剤として有効に用いることができる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
以下の表1に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤としてのジメチル硫酸、ジエチル硫酸、臭化オクチルをそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および精製物とその溶解性についての結果を表1に併せて示した(実験NO.2〜8)。また、比較のため、原料の五倍子タンニン(アセトン精製物)の溶解性についても実験No.1に示した。
なお、生成物のヒドロキシル基の存在比(OH%)はNMR測定による芳香環およびOH基に基づくシグナルの積分比から算出した。
【0021】
【表1】
【0022】
表1から、いずれの処理においても、得られたタンニン誘導体は水に不溶でメチル基あるいはエチル基の導入により、酢酸エチルなどの比較的極性のある溶媒への溶解性が向上することがわかる。また、長鎖のアルキル基を有する臭化オクチルを用いた反応では、メタノールなどへの溶解性が低下し、エーテルやトルエンなどのより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。
【0023】
(実施例2)
以下の表2に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤としての無水酢酸、n−オクタン酸無水物をそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果を表2に併せて示した(実験NO.9〜14)。なお、酸無水物によるエステル生成反応は通常塩基存在下で行われるが、アルカリ加水分解によるタンニンの分解を避けるために塩基を用いないで反応を行った。
【0024】
【表2】
【0025】
上記表2からアルキル化剤(酸無水物)として無水酢酸を用いた場合には、OH%の低下とともに極性の低い溶媒への溶解性が向上し、n−オクタン酸無水物を用いた場合には、OH%の低下とともにさらに極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。また、OH基がほぼアルキル基で置換されたタンニン誘導体はトルエンやヘキサンに溶解することがわかる。なお、得られたタンニン誘導体のGPCによる分子量測定の結果では、タンニンの加水分解による分子量の低下は抑制されていることが認められた。
【0026】
(実施例3)
以下の表3に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤(有機酸塩化物)としての塩化プロピオニル、塩化ヘキサノイル、塩化ラウロイル、をそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果を表3に併せて示した(実験NO.15〜21)。
【0027】
【表3】
【0028】
上記表3から得られたタンニン誘導体は、いずれも水には溶解せず、アルキル鎖長が長くなるかあるいはOH%の減少に伴ってより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。特に、塩化ラウロイルで処理を行った場合には、メタノールからトルエンまでの幅広い溶媒への溶解性を得られることがわかる。
【0029】
(実施例4)
五味タンニンに代えてワットルタンニンを用いた以外は、実施例1から3と同様に反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果(実験NO.23〜29)を表4に示した。また、比較のためにワットルタンニンの溶解性の結果(実験NO.22)についても表4に併せて示した。
【0030】
【表4】
【0031】
上記表4から得られたタンニン誘導体は、いずれも水には溶解せず、アルキル鎖長が長くなるかあるいはOH%の減少に伴ってより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。
【0032】
(実施例5)
上記実施例1〜4と同様の方法で得られたタンニン誘導体の抗酸化能について、リノール酸の酸化抑制効果を以下のようにして測定することにより調べた。すなわち、測定方法は、タンニン誘導体50mgをエタノール(99.5%)に溶解し、全量を10mLとして試料溶液を調整した。0.1mLの試料溶液に1mLの0.05Mリノール酸エタノール溶液、1mLの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)、0.4mLの蒸留水、さらに10μL の0.5M2,2−アゾビス−(2−アミジノプロパン)―ジヒドロキシクロリド(AAPH)溶液を試験管に混合し、50℃の水浴で1〜5時間放置した。適当な時間間隔で上記反応溶液を0.1mL採取し、4.7mLの75%エタノール水、0.1mLの30%チオシアン酸アンモニウム水溶液、さらに0.1mLの0.002M塩化第一鉄3.5%塩酸溶液を添加して3分後に500nmの吸光度を測定した。そして、抗酸化活性を下記の式を用いて算出し、その結果をタンニン誘導体の製造に用いたタンニン、アルキル化剤およびOH基の未置換率と併せて表5および表6に示した。
抗酸化活性(%)={(A0−As)/(A0−Ac)}×100
A0:試料溶液としてエタノールを使用した場合の吸光度
As:試料溶液を用いた場合の吸光度
Ac:反応溶液の代わりに蒸留水を用いた場合の吸光度
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
上記表5および表6からいずれの処理方法によって得られたタンニン誘導体も無処理のタンニンに匹敵する高い抗酸化活性を有することがわかる。
【0036】
【発明の効果】
本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法は、以上のように、タンニンがその分子内に持っている水に馴染もうとする基であるヒドロキシル基を溶媒(油)に馴染みやすい各種アルキル基に変換したので、水に不溶であるが、各種溶媒への溶解性が高くなり、塗料、潤滑剤、接着剤などの抗酸化剤として有効に用いることができる。また、植物タンニンの有効利用は再生可能な植物から得られた材料を使用すること等により最近注目されているグリーンケミストリーの技術(環境に優しい化成品や化成品製造技術)を開発する事となり、社会的に大きく貢献できるものと考えられる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリフェノールの代表とも言えるタンニンには、日本薬局方及び食品添加物規格に記載されている加水分解型タンニン(原料は五倍子、没食子、またはタラ)と柿、緑茶、アカシア等から抽出して得られる縮合型タンニンがある(たとえば、非特許文献1等参照)。これらのタンニンは水に溶解するが、一部の有機溶媒に溶解するものの、殆どの有機溶媒あるいは油脂類には溶解しない。このため、優れた抗酸化性などの効果を有するタンニンの用途が限定された状況にある。
【0003】
【非特許文献1】
Plant Polyphenols, Hemingway, R. W., Laks, P. E. Eds.; Plenum Press: New York, 1992.
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みて、優れた性質を有するタンニンの用途を広げることができる水に不溶で各種溶媒への溶解性を高めたタンニン誘導体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体は、タンニン分子中に含まれる水酸基の少なくとも一部がアルキルエーテル基またはアルキルエステル基で置換された分子構造を備えることを特徴としている。
【0006】
一方、本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体の製造方法は、タンニンに、ジアルキルスルホン酸エステル、酸無水物、酸塩化物、ハロゲン化アルキルからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルキル化剤を反応させることを特徴としている。
【0007】
タンニンは大きく分けて、グルコースやキナ酸の中心骨格に没食子酸などが複数縮合した構造が知られている加水分解型と,カテキンやエピカテキンを基本骨格としてオリゴマーや高分子構造を形成している縮合型の2種類があり、その他にも多くのタンニン類がポリフェノールとして知られているが、五倍子から得られる加水分解型タンニンおよびアカシアの樹皮から得られる縮合型タンニン(ワットルタンニン)が工業原料として比較的安価に容易に入手可能である。
五倍子タンニンは、その一例として下式(I)に示したように、グルコース骨格に没食子酸がエステル結合したものでその没食子酸の数により分子量が数百から数千のものの混合物であであって、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分析では平均分子量が約2000であった。
【0008】
【化1】
【0009】
ワットルタンニンは、その一例として下式(II)に示した構造を有する縮合型タンニンで、皮のなめしに最もよく使用される。ワットルタンニンは、五倍子タンニンとその構造が異なるためアルカリなどによる加水分解が起こりにくいと考えられる。
【0010】
【化2】
【0011】
本発明の製造方法において、ジアルキルスルホン酸エステルとしては、特に限定されないが、たとえば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸が安価なメチル化、エチル化剤として用いることができる。
ジアルキルスルホン酸エステルを用いたアルキルエステル化反応あるいはアルキルエーテル化反応は、特に限定されないが、たとえば、タンニンを溶解したアルカリ溶液中にアルキル化剤を滴下することによって行うことができる。
【0012】
因みに、五倍子タンニン(平均分子量2000)には約30のヒドロキシル基が存在する。従って、タンニン1モルに対して、1〜30モルのアルキル化剤を用いることにより有機溶媒などへの溶解性をコントロールすることができる。反応は、アセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒の存在下行うことができるが、アルキル化剤としてジアルキルスルホン酸エステルを用いる場合、アルカリ水溶液を用いると反応に従って生成物の沈殿が生じるため反応後の処理がしやすく好ましい。用いるアルカリはアルカリ金属水酸化物や炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩を用いることができる。アルカリ濃度は添加するジアルキルのモル数と同等かそれ以上の濃度の添加が必用である。反応は、氷冷下〜100℃の範囲の温度で可能であるが、アルカリによる加水分解を抑制するために60℃以下が好ましい。反応時間は1時間〜24時間であるが、上記のように加水分解を抑制するために2時間〜12時間が好ましい。
【0013】
ハロゲン化アルキルとしては、特に限定されないが、たとえば、炭素数1〜16の直鎖あるいは分岐のアルキル基を持つものが好ましく、ジアルキルスルホン酸エステル類と同様にしてタンニンと反応させることができる。
【0014】
酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば、無水酢酸を始め炭素数2〜12のものが好ましい。
酸無水物によるエステル化反応またはエーテル化反応は、塩基存在下行うこともできるし、アルカリ加水分解によるタンニンの分解を避けるために塩基を用いないでも行わせることができる。
【0015】
酸無水物を用いた反応には、アセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いることができる。また、塩基触媒を用いない場合には室温以上の反応温度が必用であり好ましくは50℃〜60℃である。反応時間は3時間〜24時間必要であるが、酸無水物の添加量が多い場合には反応時間は3時間程度で十分である。
【0016】
有機酸塩化物としては、特に限定されないが、炭素数2〜16のアルキル鎖を持つものが好ましい。
有機酸塩化物によるエステル化反応またはエーテル化反応は、特に限定されないが、ピリジンやトリエチルアミンなどの塩基によって穏和な条件で反応の進行が可能であり、タンニンの加水分解を低減させることが可能である。
【0017】
有機酸塩化物の添加量は、用いるタンニンのヒドロキシル基と等モル以下の量であって、添加量に応じて溶解性の異なるタンニン誘導体が得られる。反応溶媒は、酸塩化物の加水分解を避けるために、水の含有量の少ないアセトンやアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)などの各種有機溶媒を用いることができるが、タンニンの溶解性のよいアセトン、アセトニトリルの使用が好ましい。反応は、氷冷下〜100℃の範囲の温度で可能であるが、酸塩化物の反応性が高いため、0〜室温で十分に生成物が得られる。反応時間は1時間〜24時間であるが、上記のように加水分解を抑制するために2時間〜6時間が好ましい。
【0018】
なお、いずれのアルキル化剤を用いる場合においても、導入するアルキル基の種類により油溶性をコントロールすることが可能である。
また、本発明のタンニン誘導体の用途としては、特に限定されないが、たとえば、塗料、潤滑剤、接着剤などの抗酸化剤として有効に用いることができる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
以下の表1に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤としてのジメチル硫酸、ジエチル硫酸、臭化オクチルをそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および精製物とその溶解性についての結果を表1に併せて示した(実験NO.2〜8)。また、比較のため、原料の五倍子タンニン(アセトン精製物)の溶解性についても実験No.1に示した。
なお、生成物のヒドロキシル基の存在比(OH%)はNMR測定による芳香環およびOH基に基づくシグナルの積分比から算出した。
【0021】
【表1】
【0022】
表1から、いずれの処理においても、得られたタンニン誘導体は水に不溶でメチル基あるいはエチル基の導入により、酢酸エチルなどの比較的極性のある溶媒への溶解性が向上することがわかる。また、長鎖のアルキル基を有する臭化オクチルを用いた反応では、メタノールなどへの溶解性が低下し、エーテルやトルエンなどのより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。
【0023】
(実施例2)
以下の表2に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤としての無水酢酸、n−オクタン酸無水物をそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果を表2に併せて示した(実験NO.9〜14)。なお、酸無水物によるエステル生成反応は通常塩基存在下で行われるが、アルカリ加水分解によるタンニンの分解を避けるために塩基を用いないで反応を行った。
【0024】
【表2】
【0025】
上記表2からアルキル化剤(酸無水物)として無水酢酸を用いた場合には、OH%の低下とともに極性の低い溶媒への溶解性が向上し、n−オクタン酸無水物を用いた場合には、OH%の低下とともにさらに極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。また、OH基がほぼアルキル基で置換されたタンニン誘導体はトルエンやヘキサンに溶解することがわかる。なお、得られたタンニン誘導体のGPCによる分子量測定の結果では、タンニンの加水分解による分子量の低下は抑制されていることが認められた。
【0026】
(実施例3)
以下の表3に示すように、五倍子タンニンを溶媒に溶解し、アルキル化剤(有機酸塩化物)としての塩化プロピオニル、塩化ヘキサノイル、塩化ラウロイル、をそれぞれ加えて反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果を表3に併せて示した(実験NO.15〜21)。
【0027】
【表3】
【0028】
上記表3から得られたタンニン誘導体は、いずれも水には溶解せず、アルキル鎖長が長くなるかあるいはOH%の減少に伴ってより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。特に、塩化ラウロイルで処理を行った場合には、メタノールからトルエンまでの幅広い溶媒への溶解性を得られることがわかる。
【0029】
(実施例4)
五味タンニンに代えてワットルタンニンを用いた以外は、実施例1から3と同様に反応を行った。反応条件および生成物とその溶解性についての結果(実験NO.23〜29)を表4に示した。また、比較のためにワットルタンニンの溶解性の結果(実験NO.22)についても表4に併せて示した。
【0030】
【表4】
【0031】
上記表4から得られたタンニン誘導体は、いずれも水には溶解せず、アルキル鎖長が長くなるかあるいはOH%の減少に伴ってより極性の低い溶媒への溶解性が向上することがわかる。
【0032】
(実施例5)
上記実施例1〜4と同様の方法で得られたタンニン誘導体の抗酸化能について、リノール酸の酸化抑制効果を以下のようにして測定することにより調べた。すなわち、測定方法は、タンニン誘導体50mgをエタノール(99.5%)に溶解し、全量を10mLとして試料溶液を調整した。0.1mLの試料溶液に1mLの0.05Mリノール酸エタノール溶液、1mLの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)、0.4mLの蒸留水、さらに10μL の0.5M2,2−アゾビス−(2−アミジノプロパン)―ジヒドロキシクロリド(AAPH)溶液を試験管に混合し、50℃の水浴で1〜5時間放置した。適当な時間間隔で上記反応溶液を0.1mL採取し、4.7mLの75%エタノール水、0.1mLの30%チオシアン酸アンモニウム水溶液、さらに0.1mLの0.002M塩化第一鉄3.5%塩酸溶液を添加して3分後に500nmの吸光度を測定した。そして、抗酸化活性を下記の式を用いて算出し、その結果をタンニン誘導体の製造に用いたタンニン、アルキル化剤およびOH基の未置換率と併せて表5および表6に示した。
抗酸化活性(%)={(A0−As)/(A0−Ac)}×100
A0:試料溶液としてエタノールを使用した場合の吸光度
As:試料溶液を用いた場合の吸光度
Ac:反応溶液の代わりに蒸留水を用いた場合の吸光度
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
上記表5および表6からいずれの処理方法によって得られたタンニン誘導体も無処理のタンニンに匹敵する高い抗酸化活性を有することがわかる。
【0036】
【発明の効果】
本発明にかかる水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法は、以上のように、タンニンがその分子内に持っている水に馴染もうとする基であるヒドロキシル基を溶媒(油)に馴染みやすい各種アルキル基に変換したので、水に不溶であるが、各種溶媒への溶解性が高くなり、塗料、潤滑剤、接着剤などの抗酸化剤として有効に用いることができる。また、植物タンニンの有効利用は再生可能な植物から得られた材料を使用すること等により最近注目されているグリーンケミストリーの技術(環境に優しい化成品や化成品製造技術)を開発する事となり、社会的に大きく貢献できるものと考えられる。
Claims (2)
- タンニン分子中に含まれる水酸基の少なくとも一部がアルキルエーテル基またはアルキルエステル基で置換された分子構造を備える水不溶性タンニン誘導体。
- タンニンに、ジアルキルスルホン酸エステル、酸無水物、酸塩化物、ハロゲン化アルキルからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルキル化剤を反応させる請求項1に記載の水不溶性タンニン誘導体の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003100093A JP2004307362A (ja) | 2003-04-03 | 2003-04-03 | 水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法 |
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JP2003100093A JP2004307362A (ja) | 2003-04-03 | 2003-04-03 | 水不溶性タンニン誘導体およびその製造方法 |
Publications (1)
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---|---|
JP2004307362A true JP2004307362A (ja) | 2004-11-04 |
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ID=33464325
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