JP2004299238A - ポリオレフィン被覆鋼材 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリオレフィン被覆鋼材に関し、詳しくは、ポリオレフィン樹脂層−鋼材間の密着力の向上が図れ、防食性能に優れたポリオレフィン被覆鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリオレフィン樹脂を表面に被覆した鋼材(以下、ポリオレフィン被覆鋼材という)は、長期間の防食性能が優れているため、従来より鋼管、鋼管杭、鋼矢板等の用途に加えて、近年、海底、極寒冷地、熱帯などで使用される建材用鋼材や原油・重質油、天然ガスを輸送するパイプライン用鋼材としても使用されるようになってきた。
このように幅広い温度環境下や高温接水環境下で使用されるようになってきたため、従来にも増して防食性能の向上、即ち、耐温水性、耐ヒートショック性の向上が要求されている。加えて、電気防食が併用される環境下では、過防食電流による陰極剥離が問題となるため、耐陰極剥離性の向上も課題となっている。
【0003】
ポリオレフィン被覆鋼材に関する従来技術として、鋼材と変性ポリオレフィン樹脂接着剤層の間にクロメート処理層を施す方法がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、エポキシプライマー層を介在させる方法がある(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。さらに、クロメート処理層上に、エポキシプライマー層を介在させて、より防食性能を向上させる方法がある(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開昭54−120681公報
【特許文献2】
特開平l−280545公報
【特許文献3】
特開昭56−143223公報
【特許文献4】
特開昭59−222275公報
【特許文献5】
特開昭60−245544公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1乃至4に開示されたクロメート処理を施す方法、エポキシプライマー層を介在させる方法は、60℃以下の接水環境下に対しては満足した性能が得られるが、60℃を越える接水環境下では、耐温水性、耐陰極剥離性において満足した性能が得られないという問題があった。
また、特許文献5に開示されたクロメート処理とプライマー処理を併用する方法は、80℃以下の接水環境下に対しては満足した性能が得られるが、80℃を越える接水環境下では、耐温水性、耐陰極剥離性において満足した性能が得られない。特にポリオレフィン樹脂層−鋼材間の密着力は著しく低下して、長期間の防食性能を維持することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ポリオレフィン樹脂層−鋼材間の密着力の向上が得られ、80℃を越える高温接水下での耐温水性、耐陰極剥離性、耐ヒートショック性が良好な、防食性能に優れたポリオレフィン被覆鋼材を提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るポリオレフィン被覆鋼材は、下記(イ)および(ロ)の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物をプライマー層に用いることを特徴とするものである。
(イ)エポキシ当量156〜280のビスフェノールA系エポキシ樹脂、ビスフェノールF系エポキシ樹脂の一方または両者の混合物からなるエポキシ樹脂、
(ロ)キシリレンジアミン変性物である化学式(1),(2)に示す構造の混合物からなる変性ポリアミン。
【化5】
【化6】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に係わる被覆層を、鋼材表面からクロメート処理層、上記(イ)および(ロ)の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物から形成されるプライマー層、変性ポリオレフィン樹脂からなる接着層(これを変性ポリオレフィン接着剤層という)、ポリオレフィン樹脂層の順序で積層させた構成とする。
【0009】
このような構成かつ順序で積層させた被覆層としたのは、以下の理由による。先ず、ポリオレフィン樹脂は無極性であるため、直接、鋼材表面と接着しない。
そこで、本発明では、極性基を持ち、接着性を有する変性ポリオレフィン接着剤層を、鋼材とポリオレフィン樹脂層との間に介在させることにより、両者の密着力向上が図れる。
次に変性ポリオレフィン接着剤層と鋼材との間に、クロメート処理層とプライマー層を設けることによりさらに両者の密着力は向上する。つまり、クロメート処理層を形成させることにより、耐陰極剥離性(陰極剥離とは電気防食が施される環境下での過防食電流によって被覆欠陥を起点として容易に被覆樹脂が剥離すること)が向上し、またプライマー層を形成することにより高温接水環境下での長期防食性能がある程度確保できる。
【0010】
本発明に係わるプライマー層は、主剤として(イ)の成分のエポキシ樹脂と、硬化剤として(ロ)の成分の変性ポリアミンとを配合、硬化させて形成される層である。
ここで、上記(イ)の成分のエポキシ樹脂は、エポキシ当量156〜280のビスフェノールA系エポキシ樹脂、ビスフェノールF系エポキシ樹脂の一方または両者の混合物からなるエポキシ樹脂である。
上記(イ)の成分のエポキシ樹脂は、対称性の高い、しかも剛直なビスフェノール骨格を持つため、安定した高温特性(耐温水性)を有する。また骨格中にエーテル結合を有するため適度の可撓性を有する。さらにエポキシ基が反応した結果、水酸基が生成することから接着力が上がる。
【0011】
同様に、本発明者らは、硬化剤に関しても、耐温水性および可撓性を有する成分を得るべく鋭意検討した。この結果、硬化剤をキシリレンジアミンとするだけでは、高温特性(耐温水性)を有するものの、可撓性を欠く。そこで、さらに鋭意検討した結果、キシリレンジアミンとフェノールをマンニッヒ付加反応して、さらに第三級脂肪酸モノグリシジルエステルをアダクトして得られる変性ポリアミンを硬化剤として用いることにより、高い可撓性を示す硬化物(プライマー層)が得られることがわかった。また、このプライマー層を有する樹脂被覆鋼材は長期間に亘る耐温水性、ヒートショック性に優れたプライマー層が得られることを見いだした。ここで上記反応生成物である変性ポリアミンは、上記化学式(1),(2)に示す子構造を有する材料である。
【0012】
このような変性ポリアミンを硬化剤とし、前述の特性を有するエポキシ樹脂を主剤とすることにより、80℃を越える耐温水性、および耐ヒートショック性が良好なプライマー層が形成される。
【0013】
本発明は、ポリオレフィン被覆鋼材に関するものであり、鋼材表面を上述した構成で被覆し、プライマー層として、上述した熱硬化性樹脂組成物を用いることで、ポリオレフィン樹脂層−鋼材間の密着力が向上し、80℃を越える高温接水環境下における耐温水性、耐陰極剥離性、耐ヒートショック性が良好な防食性能に優れたポリオレフィン被覆鋼材が得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる鋼材は、炭素鋼、低合金鋼等を形鋼、鋼板、棒鋼、鋼管杭、鋼矢板、原油・重質油・天然ガス輸送用の鋼管などに加工したものを対象とし、屋外、地中、海水中等で用いられるものを対象とする。
【0015】
上記(イ)の成分のエポキシ樹脂には、酸化チタン、シリカ、タルク、白雲母、酸化クロム、リン酸亜鉛等の無機顔料を添加しても良い。また、エポキシ樹脂との接着性を良くするために、無機顔料にシランカップリング処理等の化学処理を施しても良い。
ビスフェノールA系エポキシ樹脂としては、エポキシ当量170〜280のものが使用できるが、取り扱い作業性を考慮すると、好ましくはエポキシ当量が184〜194の範囲のもの(油化シェルエポキシ(株)製、商品名:エピコート828が該当する)が望ましい。
ビスフェノールF系エポキシ樹脂としては、エポキシ当量156〜280のものが使用できるが、取り扱い作業性を考慮すると、好ましくはエポキシ当量が160〜175の範囲のもの(油化シェルエポキシ(株)製、商品名:エピコート807が該当する)が望ましい。
【0016】
上記(ロ)の成分の変性ポリアミンは、主として上記化学式(1),(2)の分子構造を有するキシリレンジアミンの変性物であるが、この変性物を合成するときに生成する不純物および未反応のキシリレンジアミンが残留していても良い。またキシリレンジアミンは、O−(オルト−)、m−(メタ−)、P(パラ−)の異性体の内、どれでも良いが、好ましくは取り扱い作業性、反応性の点からメタキシリレンジアミンが望ましい。
また、(ロ)の成分の変性ポリアミンは、化学式(1),(2)の分子構造を持つ化合物の単独もしくは混合物であれば良い。
【0017】
また、上記(イ)および(ロ)の成分の配合に関しては、上記(イ)の成分のエポキシ樹脂(主剤)中のエポキシ基のモル数(a)と、上記(ロ)の成分の変性ポリアミン(硬化剤)中の活性水素のモル数(b)の比(b/a)が、0.7〜1.2の範囲で配合することで優れた耐温水性を有するプライマー層が得られる。
ここで、そのモル数の比(b/a)が0.7未満、1.2を越えると、硬化物のガラス転移温度が低下してしまい、耐温水性が低下するので好ましくない。
【0018】
クロメート処理剤としては、高分子有機質の還元剤で全クロムに対する6価クロムの重量比を、0.35〜0.65の範囲になるよう部分還元したクロム酸水溶液にシリカ微粉末を添加したシリカ系クロメート処理剤を用いることができる。
【0019】
本発明に係わるポリオレフィン樹脂層の材料となるポリオレフィン樹脂とは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の従来より公知のポリオレフィン等である。
【0020】
また、変性ポリオレフィン接着剤層の材料となる変性ポリオレフィン樹脂とは、上記のポリオレフィン樹脂をマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸またはその酸無水物で変性したもの、あるいはその変性物をポリオレフィン樹脂で適宜希釈したもの等であり、従来より公知の変性ポリオレフィンである。
【0021】
次に、本発明に係るポリオレフィン被覆鋼材の一実施形態として、ポリエチレン被覆鋼管の製造方法を説明する。
先ず、錆を除去した鋼管の表面に、クロメート処理剤塗布装置によってクロメート処理剤を塗布し、加熱装置でクロメート処理剤を焼き付けて、クロメート処理層を形成させる。クロメート処理剤塗布装置の出口には、しごき治具を設けてクロメート処理層の表面を均一にさせる。次に、エポキシ樹脂供給容器からは上記(イ)の成分のエポキシ樹脂を、硬化剤供給容器からは上記(ロ)の成分の硬化剤を、それぞれ所定の割合(重量比)で送り出し、エアースプレーのガンの直前で、ミキサーによって混合し、エアースプレーガンでクロメート処理層が形成された鋼管の表面上に吹き付け、塗装されたのち、後加熱装置によって加熱硬化し、プライマー層を形成する。
【0022】
次に、プライマー層が形成された鋼管の表面上に、丸型ダイス(またはT型ダイスでも良い)によって変性ポリエチレン樹脂とポリエチレン樹脂を二層同時に押出し被覆する。この後、冷却装置によって冷却し、ポリエチレン被覆鋼管を得る。この際に、変性ポリエチレン樹脂とポリエチレン樹脂とをそれぞれ単層毎押し出し被覆しても良い。上記製造法の場合、鋼管の表面にクロメート処理剤を塗布し、焼き付けてから後、鋼管が丸型ダイスに達するまでの間に鋼管の表面にプライマー層を形成して十分硬化していればよく、上記エポキシプライマーの塗布方法は、ロール塗布、しごき塗り等の従来公知の方法の中から適宜選択して用いることかできる。また、後加熱装置による鋼管の加熱方法は、高周波誘導加熱、遠赤外線加熱、ガス加熱等の従来公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を越えない限り、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
【実施例】
本発明の効果を確認するため、上述の被覆鋼管製造法によりポリエチレン被覆鋼管を製造し、これより試験片を採取して、防食性能を確性した。
ポリエチレン被覆鋼管の製造は、先ず外径89.1mm(80A)の鋼管表面を、ショットブラストしてスケール等を除去した後、クロメート処理剤を塗布し焼付けた。このクロメート処理層上に、後述する表1、2に示す主剤および硬化剤からなるプライマーを40〜50ミクロン厚に塗布し、130℃で加熱硬化させて、プライマー層を形成した。
その後、プライマー層上に、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂層、ポリエチレン樹脂層の順に丸型ダイスを使用して二層同時に溶融押出し、被覆層を形成させた。この際の変性ポリエチレン接着層、ポリエチレン樹脂層の厚みはそれぞれ0.5mm、3.0mmであった。
なお、表1は、上述した本発明に係るプライマー層の生成に用いたエポキシ樹脂(主剤)および硬化剤の物質と、それらの配合割合を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
製造したポリエチレン被覆鋼管から、所定の大きさの試験片を採取して、温水浸漬試験、陰極剥離試験、熱サイクル試験を行った。なお、各試験法は以下の通りであり、表3に試験結果を示す。
【0028】
<温水浸漬試験>
この試験は、耐温水性を評価するための試験である。
製造したポリエチレン被覆鋼管から幅10mm、長さ200mmの試験片を切出し、サンプルとした。この試験片を試験温度:85℃の水槽内に、浸漬時間:10000hr浸漬した後、被覆樹脂層を引張り試験機で引張り、剥離させた場合の引張強度(これをピール強度という)を測定する。引張試験の測定条件は、温度:室温、剥離角:90度、剥離速度:10mm/minとし、単位はN/cm。ピール強度は、29.4N/cmを越えると80℃を越える耐温水性が良好であると判定する。
【0029】
<高温陰極剥離試験>
この試験は、耐陰極剥離性を評価するための試験である。
試験温度:85℃、電解液:3%食塩水、印加電圧:−1.5VvsAg/AgCl、初期ホリデー径:直径9mm、試験時間:50日間、試験終了後の被覆樹脂剥離面積を測定する。被覆樹脂剥離面積が8cm2 以下であると、耐陰極剥離性が良好であると判定する。
【0030】
<熱サイクル試験>
この試験は、耐ヒートショック性を評価するための試験である。
試験条件:−70℃(8hr)→23℃水中(8hr)→+45℃(8hr)を1サイクルとし、25サイクル繰り返した後の試験片の端部剥離の有無を目視観察する。被覆樹脂の端部剥離がないと、耐ヒートショック性が良好であると判定する。
【0031】
【表3】
【0032】
実施例1〜6は、エポキシ樹脂((イ)の成分=主剤)として、エピコート828、エピコート807の2種類のものを使用し、キシリレンジアミン変性物(((ロ)の成分=硬化剤)として、活性水素当量が76の化合物を使用した。そして、エポキシ樹脂とキシリレンジアミン変性物を表1、2に示す配合割合で配合し、得られた硬化物をプライマー層とした。
ここで、配合割合とは、エポキシ樹脂(主剤)100重量部に対して変性ポリアミン(硬化剤)の重量で示したものである。
【0033】
実施例1〜6に対して温水浸漬試験、陰極剥離試験、熱サイクル試験を行った結果、表3からわかるように、温水浸漬試験後のピール強度は29.4N/cmを越え、高温陰極剥離試験による被膜樹脂剥離面積は、8cm2 以下が得られた。また、熱サイクル試験による被覆樹脂の端部剥離は認められなかった。この結果80℃を越える耐温水性、耐陰極剥離性、耐ヒートショック性のいずれも良好で、防食性能に優れたポリエチレン被覆鋼管が得られた。
【0034】
比較例1〜6は、エポキシ樹脂(主剤)としてエピコート828を使用し、硬化剤としては(ロ)の成分のもの以外にB002、またはB002とMXDAの混合物を使用した。
ここで、B002は、特開昭56−143223号公報に開示されているように、下記化学式(3)の分子構造を有する複素環状ミン2モルに対してブチルグリシジルエーテル1モルを反応させた変性複素環状アミンであり、MXDAは下記化学式(4)の分子構造を有するm−キシリレンジアミンである。
【化7】
【化8】
【0035】
比較例1〜6に対して温水浸漬試験、陰極剥離試験、熱サイクル試験を行った結果、表3からわかるように、ピール強度および被覆樹脂剥離面積の値は良好でなく、さらに被覆樹脂の端部剥離も認められた。また、比較例4〜6は、耐ヒートショック性は良好であるが、80℃を越える耐温水性、耐陰極剥離性は、いずれも良好と判断できず、防食性能に優れたポリエチレン被覆鋼管であると評価できない。
【0036】
【発明の効果】
以上のように本発明に係るポリオレフィン被覆鋼材は、鋼材表面からクロメート処理層、プライマー層、変性ポリオレフィン接着剤層、ポリオレフィン樹脂層を順次鋼材表面に被覆したポリオレフィン被覆鋼材であって、上記(イ)および(ロ)の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物をプライマー層に用いたので、ポリオレフィン樹脂層−鋼材間の密着力が向上し、80℃を越える耐温水性、耐陰極剥離性、耐ヒートショック性が良好な、防食性能に優れたポリオレフィン被覆鋼材が得られる。
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