JP2004299123A - 圧電インクジェットヘッド - Google Patents
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Abstract
【解決手段】インク滴吐出のためのノズル部3を、加圧室側の内径が大きく、かつ先端側の内径が小さい先細りになったノズル基部3aと、このノズル基部3aの先端側に連通し、その先端をインク滴吐出のための開口3cとした、内径が一定のノズル先端部3bとを有する形状に形成した。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にプリンター、コピア、ファクシミリ、およびそれらの複合機などに好適に用いることのできる圧電インクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばオンデマンド型のインクジェットプリンタなどに用いる、圧電素子の電歪効果を駆動源とする圧電インクジェットヘッドにおいては、当該圧電素子に電圧を印加して変形させることによって振動板を撓ませて加圧室の容積を減少させることで、当該加圧室内のインクを、連通するノズル部からインク滴として吐出させて、紙面にドットを形成している。
【0003】
上記のうちノズル部は、吐出させるインク量や、あるいは吐出させるインク滴の飛翔速度などに対応して、その先端の、インク滴吐出のための開口の開口径などを設定している。
たとえば特許文献1においては、典型的なノズル部の形状として、先端側の内径が小さく、かつ加圧室側の内径が大きいテーパー状のものが記載されているとともに、開口の開口径、テーパー角度、長さが規定されている。
【0004】
ノズル部をテーパー状とすると、たとえば加圧室とノズル部とを繋ぐ、当該ノズル部よりも径の大きいノズル流路から、たとえば数十μmに絞った小径のノズル部への、インクの流入をスムースに行うことができる。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−147212号公報(請求項1、第0009欄、図5)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特許文献1のようなテーパー状のノズル部の場合、ノズル部内のインクの流速の方向が、当該ノズル部の中心軸の方向と平行にならないために、吐出するインク滴の飛翔方向が乱れやすい。
また、とくにテーパー角度、すなわちノズル部の内周面を構成する円錐の母線が中心軸となす角度が大きい場合、インク滴の形成時に、先頭に飛翔速度が速い小滴、いわゆる高速サテライトが発生する。
【0007】
そしてこのいずれの場合にも、紙面に形成した画像に、これらのインク滴によって、いわゆるチリの不良が発生するという問題があった。
本発明の目的は、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを確実に防止しうる、新規な圧電インクジェットヘッドを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
テーパー状のノズル部であると、ノズル部内の流速は、テーパーに沿って径方向に向かう速度成分を持ったままノズル部の外に出てインク滴を形成する。そのためインク滴の飛翔方向が、外乱によって乱れやすくなってしまう。
インク滴の飛翔の直進性を向上させるためには、できる限り、ノズル部内の流速を中心軸と平行な方向にそろえてやる必要がある。そのためには、ノズル部の先端側に、中心軸と平行な、内径が一定である所定長の領域を設けてやればよい。
【0009】
したがって請求項1記載の発明は、
(A) インクが充てんされる加圧室と、
(B) この加圧室に連通したノズル部と、
(C) 圧電素子と、この圧電素子の変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることで、加圧室内のインクを、ノズル部先端の開口を通してインク滴として吐出させるための振動板とを含む駆動部と、
を備えた圧電インクジェットヘッドであって、
上記ノズル部を、加圧室側の内径が大きく、かつ先端側の内径が小さい先細りになったノズル基部と、このノズル基部の先端側に連通し、その先端をインク滴吐出のための開口とした、内径が一定のノズル先端部とを有する形状に形成したことを特徴とする圧電インクジェットヘッドである。
【0010】
圧電インクジェットヘッドの駆動方法として、ドット形成の直前に加圧室の容量を拡大させる方向に圧電素子を変形させて、ノズル部内のインクメニスカスを引き込み、その後、加圧室の容量を縮小させる方向に圧電素子を変形させることでインク滴をノズル部から吐出させる、いわゆる引き打ち方式が用いられることが多い。
かかる引き打ち方式の駆動方法においては、インクメニスカスの引き込み時に、引き込まれたインクメニスカスがノズル先端部内にとどまっておれば、インク滴の飛翔の直進性をさらに向上することができる。そのためには、メニスカスの引き込み量が通常、吐出されるインク滴の体積の半分以下であるため、ノズル先端部の内容量を、吐出するインク滴の体積の1/2倍以上に設定するのが好ましい。
【0011】
したがって請求項2記載の発明は、ノズル先端部の内容量を、吐出するインク滴の体積の1/2倍以上とした請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
なお実際に吐出されるインク滴の体積は、圧電インクジェットヘッドの駆動条件などによっても異なってくるので、ここでは、圧電インクジェットヘッドの、設計上の理想的なインク滴の体積を基準として、上述したノズル先端部の内容積を規定することとする。
【0012】
また、ノズル先端部の内容積を規定するためには、まず理想的なインク滴の体積と同等の体積の球を仮定し、その直径と同等になるようにノズル先端部の内径を規定する。理想的なインク滴の体積をV、ノズル先端部の内径をφとすると、式(i):
πφ3/6=V (i)
により、ノズル先端部の内径φを決定できる。
【0013】
次に、ノズル先端部の長さをLとすると、ノズル先端部の内容量をインク滴の体積の1/2倍以上に設定するためには、式(ii):
πφ2L/4≧V/2 (ii)
を満たすようにLを決定すればよい。そしてこれらの式から、L≧φ/3を満たすように、φに対してLを決定すれば、上記のようにノズル先端部の内容積を、吐出する理想的なインク滴の体積の1/2倍以上に規定できることがわかる。
【0014】
したがって請求項3記載の発明は、ノズル先端部の長さを、ノズル先端部の内径の1/3倍以上とした請求項2記載の圧電インクジェットヘッドである。
ノズル基部を、従来のテーパー状のノズル部と同様に先端側の内径が小さく、かつ加圧室側の内径が大きいテーパー状に形成した場合、そのテーパー角度が大きいと、ノズル部の径方向に向かう速度成分が大きくなり、ノズル先端に向かうにつれて、中心軸の近傍の流速が周囲の流速に比べて極端に速くなる。そして、こうした流速の影響を受けて、開口から吐出されたインクによって形成されるインク柱の先端が先鋭になり、その先端から高速の小滴が分離して、前述した高速サテライトを発生する場合がある。
【0015】
こうした高速サテライトの発生をより確実に防ぐためには、ノズル部の径方向に向かう速度成分をできるだけ小さくするべく、ノズル基部のテーパー角度を20°以下にするのが好ましい。
したがって請求項4記載の発明は、ノズル基部をテーパー状に形成し、かつそのテーパー角度を20°以下とした請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
【0016】
またノズル基部内のインクの流れを、ノズル先端部との境界部で、できるだけスムースに、中心軸と平行になるよう案内してやることによって、上記と同様に高速サテライトの発生をより確実に防止することができる。そのためには、テーパー状に形成したノズル基部の内周面と、ノズル先端部の内周面との境界部をアール面で面取りするのが好ましい。
したがって請求項5記載の発明は、ノズル基部をテーパー状に形成し、かつその内周面と、ノズル先端部の内周面との境界部をアール面で面取りした請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
【0017】
またノズル基部をテーパー状ではなく、その内周面が、ノズル先端部の内周面から滑らかに連続する曲面となるように形成しても、同様の効果が得られる。
したがって請求項6記載の発明は、ノズル基部の内周面を、ノズル先端部の内周面から滑らかに連続する曲面に形成した請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
図1は、本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、圧電素子と振動板とを含む駆動部を取り付ける前の状態を示す平面図である。
図の例の圧電インクジェットヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル部3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
【0019】
また図2(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、駆動部を取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図2(b)は1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
各ドット形成部のノズル部3は、図1に白矢印で示す主走査方向に複数列並んでいる。図の例では4列に並んでおり、同一列内のドット形成部間のピッチは90dpiであって、圧電インクジェットヘッドの全体として360dpiを実現している。
【0020】
各ドット形成部は、基板1の、図2(a)において上面側に形成した、矩形状の中央部の両端に半円形の端部を接続した平面形状を有する加圧室2と、上記基板1の下面側の、加圧室2の一端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成したノズル部3とを、上記端部の半円と同径の、断面円形のノズル流路4で繋ぐとともに、上記加圧室2の他端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成した供給口5を介して、加圧室2を、基板1内に、各ドット形成部を繋ぐように形成した共通供給路6(図1に破線で示す)に繋ぐことで構成してある。
【0021】
また上記各部は、図の例では、加圧室2を形成した第1基板1aと、ノズル流路4の上部4aと供給口5とを形成した第2基板1bと、ノズル流路4の下部4bと共通供給路6とを形成した第3基板1cと、ノズル部3を形成した第4基板1dとを、この順に積層、一体化することで形成してある。
また第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1cに形成した共通供給路6を、基板1の上面側で、図示していないインクカートリッジからの配管と接続するためのジョイント部11を構成するための通孔11aを形成してある。
【0022】
さらに各基板1a〜1dは、例えば樹脂や金属などからなり、フォトリソグラフ法を利用したエッチングなどによって上記各部となる通孔を設けた、所定の厚みを有する板体にて形成してある。
基板1の上面側には、当該基板1と同じ大きさを有する1枚の振動板7と、少なくとも各ドット形成部を覆う大きさを有する1枚の薄膜状の共通電極8と、図1中に一点鎖線で示すように各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けた、略矩形状の平面形状を有する横振動モードの薄板状の圧電素子9と、各圧電素子9上に形成した、同じ平面形状を有する個別電極10とを、この順に積層することで駆動部を構成してある。
【0023】
なお圧電素子9を、いくつかのドット形成部の加圧室2にまたがる大きさに一体形成して、個別電極10のみ、図1中に一点鎖線で示すように各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けてもよい。
上記のうち振動板7は、例えばモリブデン、タングステン、タンタル、チタン、白金、鉄、ニッケルなどの単体金属や、これら金属の合金、あるいはステンレス鋼などの金属材料にて、所定の厚みを有する板状に形成してある。また振動板7には、先の基板1の通孔11aとともにジョイント部11を構成する通孔11bを形成してある。
【0024】
共通電極8、個別電極10は、ともに金、銀、白金、銅、アルミニウムなどの導電性に優れた金属の箔や、これらの金属からなるめっき被膜、真空蒸着被膜などで形成してある。なお振動板7を、例えば白金などの導電性の高い金属で形成して共通電極8を省略してもよい。
圧電素子9を形成する圧電材料としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。
【0025】
薄板状の圧電素子9は、従来と同様にして形成することができる。
例えば上記の圧電材料を焼結して形成した焼結体を薄板状に研磨した所定の平面形状を有するチップを、共通電極8上の所定の位置に接着、固定したり、いわゆるゾル−ゲル法(またはMOD法)によって、共通電極8上に、圧電材料のもとになる有機金属化合物から形成したペーストを所定の平面形状に印刷し、乾燥、仮焼成、焼成の工程を経て形成したり、あるいは共通電極8上に、反応性スパッタリング法、反応性真空蒸着法、反応性イオンプレーティング法などの気相成長法によって、圧電材料の薄膜を所定の平面形状に形成したりすることによって、圧電素子9を形成することができる。
【0026】
圧電素子9を、例えば横振動モードとして駆動するためには、圧電材料の分極方向を、当該圧電素子9の厚み方向、より詳しくは個別電極10から共通電極8に向かう方向に配向させる。そのためには、例えば高温分極法、室温分極法、交流電界重畳法、電界冷却法などの従来公知の分極法を採用することができる。また、分極後の圧電素子9をエージング処理してもよい。
圧電材料の分極方向を上記の方向に配向させた圧電素子9は、共通電極8を接地した状態で、個別電極10から正の駆動電圧VPを印加することによって、分極方向と直交する面内で収縮する。しかし圧電素子9は、共通電極8を介して振動板7に固定されているため、結果的に、圧電素子9と振動板7とが加圧室方向に撓むことになる。
【0027】
このため、撓みが発生する際の力が加圧室2内のインクに圧力変化として伝えられ、この圧力変化によって、供給口5、加圧室2、ノズル流路4、およびノズル部3内のインクが振動を起こす。そして振動の速度が、結果的にノズル部3の外に向かうことによって、ノズル部3内のインクメニスカスが外部へと押し出されて、インク柱が形成される。
インク柱は、やがて振動の速度がノズル部内方向に向かうことによってノズル部3内のインクメニスカスに吸収されるが、その際、前記のようにインク柱の先端部が切り離されて、インク滴となって紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
【0028】
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル部3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、ジョイント部11、共通供給路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル部3に再充てんされる。
この例では、上記各部のうちノズル部3を、図2(a)(b)および図3(a)(b)に示すように、加圧室2側の内径が大きく、かつ先端側の内径が小さい先細りになったテーパー状のノズル基部3aと、このノズル基部3aの先端側に連通し、その先端をインク滴吐出のための開口3cとした、内径がノズル基部3aの先端側の内径と等しい一定値であるノズル先端部3bとを有する形状に形成してある。そしてこれにより、先に述べたようにインク滴の飛翔の直進性を向上させて、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを防止することができる。
【0029】
なお、圧電インクジェットヘッドの駆動方法が、先に述べた引き打ち方式である場合には、上記ノズル先端部3bの内容量を、吐出するインク滴の体積の1/2倍以上とする。そうすると、これも前述したように、インク滴の飛翔の直進性をさらに向上して、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのをさらに確実に防止することができる。
ノズル先端部3bの内容量を調整するためには、開口3cの開口径と一致するノズル先端部3bの内径は、インク滴の体積との関係で数十μm前後に規定されるため、中心軸CL方向の長さを調整してやればよい。
【0030】
具体的には、理想的なインク滴の体積と同等体積の球の直径と同等になるように、ノズル先端部3bの内径を規定した場合、ノズル先端部3bの内容量を理想的なインク滴の体積の1/2倍以上に設定するためには、ノズル先端部3bの中心軸CL方向の長さを、上記内径の1/3倍以上としてやればよい。
ただし、ノズル先端部3bの長さがあまりに長すぎる場合にはインク滴の飛翔の妨げになる上、ノズル部3を形成した第4基板1dの厚みが大きくなりすぎるなどのデメリットが多い。このため、当該長さを規定するノズル先端部3bの内容量は、吐出するインク滴の体積の2倍以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
具体的には、理想的なインク滴の体積と同等体積の球の直径と同等になるように、ノズル先端部3bの内径を規定した場合、ノズル先端部3bの内容量を理想的なインク滴の体積の2倍以下に設定するためには、ノズル先端部3bの中心軸CL方向の長さを、上記内径の4/3倍以下としてやればよい。
また上記のノズル部3において、ノズル基部3aのテーパー角度、つまりノズル基部3aの内周面を構成する円錐の母線が中心軸CLとなす角度(図3(a)中のθ1)は、先に述べたように20°以下であるのが好ましい。
【0032】
テーパー角度θ1が20°以下であれば、やはり先に述べたように、ノズル部3の径方向に向かう速度成分をできるだけ小さくして、開口3cから吐出されたインクによって形成されるインク柱の先端が先鋭になるのを防止して、高速サテライトが発生するのを防止することができる。したがって、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのをさらに確実に防止することができる。
なおテーパー角度θ1は、上記の範囲内でもとくに10°以上であるのがさらに好ましい。テーパー角度θ1がこの範囲未満では、ノズル基部3aの加圧室2側の内径、つまりノズル流路4に臨む開口の径が小さくなり過ぎて、当該ノズル基部3aをテーパー状にしたことによる、ノズル流路4からノズル部3への、インクの流入をスムースに行う効果が得られなくなるおそれがある。
【0033】
図4(a)は、ノズル部3の変形例を示しており、図の例では、テーパー状に形成したノズル基部3aの内周面と、ノズル先端部3bの内周面との境界部をアール面3dで面取りしてある。そしてこれにより、ノズル基部3a内のインクの流れを、ノズル先端部3bとの境界部のアール面3dによって、スムースに、中心軸CLと平行になるよう案内してやることができる。
また図4(b)は、ノズル部3の別の変形例を示しており、図の例では、ノズル基部3a内周面を、テーパー状ではなく、ノズル先端部3bの内周面から滑らかに連続する曲面3eに形成してある。そしてこれにより、ノズル基部3a内のインクの流れを、上記曲面3eによって、スムースに、中心軸CLと平行になるよう案内してやることができる。
【0034】
このため、このいずれの例においても、やはり先に述べたように、ノズル部3の径方向に向かう速度成分をできるだけ小さくして、開口3cから吐出されたインクによって形成されるインク柱の先端が先鋭になるのを防止して、高速サテライトが発生するのを防止し、それによって紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのをさらに確実に防止することができる。
ノズル部3を、以上で説明した各例の形状に形成するためには、たとえばその形状に対応した外形を有するパンチを用いて、第4基板1dを打ち抜き加工する方法などを挙げることができる。
【0035】
本発明の圧電インクジェットヘッドは、前述した引き打ち方式、および押し打ち方式のいずれの駆動方法によって駆動してもよい。
【0036】
【実施例】
以下に本発明を、実施例に基づいて説明する。
圧電インクジェットヘッドの作製I
図1および図2(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が30μm、長さが40μmであるとともに、下記のいずれかのノズル部3を有する3種の圧電インクジェットヘッドを作製した。
【0037】
ノズル部その1:図2(a)(b)および図3(a)(b)に示す形状を有し、このうちノズル基部3aの、先端側の内径が30μm、中心軸CL方向の長さが50μm、テーパー角度が20°であるとともに、ノズル先端部3bの内径が30μm、中心軸CLの方向の長さが30μm、内容積が、上記内径から計算される理想的なインク滴としての球の体積〔=14pl(ピコリットル)〕の1.5倍であるノズル部3。
【0038】
ノズル部その2:図2(a)(b)および図3(a)(b)に示す形状を有し、このうちノズル基部3aの、先端側の内径が30μm、中心軸CL方向の長さが50μm、テーパー角度が25°であるとともに、ノズル先端部3bの内径が30μm、中心軸CLの方向の長さが30μmで、かつ内容積が上記と同じであるノズル部3。
ノズル部C:図2(a)(b)および図3(a)(b)に示す形状を有し、このうちノズル基部3aの、先端側の内径が30μm、中心軸CL方向の長さが50μm、テーパー角度が30°であるとともに、ノズル先端部3bの内径が30μm、中心軸CLの方向の長さが30μmで、かつ内容積が上記と同じであるノズル部3。
【0039】
インク滴の形成状態の観察
上記3種の圧電インクジェットヘッドを、引き打ち式の駆動電圧波形を有する20Vの駆動電圧を印加して駆動した際の、インク滴の飛翔状態を観察した。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
電気等価回路の作成
上記3種の圧電インクジェットヘッドについて、上記各部を集中定数で近似して、図5に示す音響系の電気等価回路を作成した。
図の電気等価回路において駆動部は、等価的に音響容量CaとイナータンスMaと音響抵抗Raで表すことができ、加圧室2は音響容量Ccで表すことができる。
【0042】
また供給口5は、イナータンスMsと音響抵抗Rsで表すことができるとともに、ノズル部3のインクメニスカスの液面と、図示しないインクカートリッジ内のインクの液面との高低差に基づく水頭圧が作用している。
さらにノズル部3は、イナータンスMnと音響抵抗Rnで表すことができるとともに、当該ノズル部3のインクメニスカスの表面張力が作用している。
上記の電気等価回路においては、駆動部に駆動電圧VPを印加して圧を発生させると、ノズル部3に、図中に矢印で示す方向のインクの流れが発生する。そしてその体積速度を求めることができる。また求めた体積速度と、ノズル部3の直径やインクの表面張力などから、インク滴の飛翔速度と、インク滴の体積とを、演算により求めることができる。
【0043】
また上記の電気等価回路と、ノズル部を差分法でモデル化したものとを連成解析することでインク滴の形状を演算することができる。なお自由表面の表現にはVOF法を利用することとする。
インク滴の飛翔速度、および形状の演算
前記3種の圧電インクジェットヘッドを、引き打ち式の駆動電圧波形を有する20Vの駆動電圧を印加して駆動した際の、1滴目と2滴目のインク滴の飛翔速度、体積、およびインク滴の形状を、前記の電気等価回路、およびノズル部の差分法でのモデルを用いて演算した。
【0044】
結果を表2および図6〜8に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
結論その1
表1、2および図6〜8より、テーパー状のノズル基部3aと、内径が一定であるノズル先端部3bとを有するノズル部3を備えた圧電インクジェットヘッドにおいては、主にノズル先端部3bの機能によって、インク滴の飛翔方向の乱れを無くして、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを防止できることが確認された。また、ノズル基部3aのテーパー角度を小さくするほど、高速サテライトの発生を抑制して、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを、さらに確実に防止できることも確認された。
【0047】
圧電インクジェットヘッドの作製II
図1および図2(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が30μm、長さが40μmであるとともに、下記のいずれかのノズル部3を有する3種の圧電インクジェットヘッドを作製した。
【0048】
ノズル部その4:図4(b)に示すようにノズル基部3aの内周面を、ノズル先端部4bの内周面から滑らかに連続する曲面としたノズル部3であって、このうちノズル基部3aの、ノズル流路4側の開口の内径が90μm、先端側の内径が30μm、中心軸CL方向の長さが50μmであるとともに、ノズル先端部3bの内径が30μm、中心軸CLの方向の長さが30μmで、かつ内容積が前記と同じであるノズル部3。
【0049】
ノズル部その5:図3(a)(b)に示すようにノズル基部3aをテーパー状としたノズル部3であって、このうちノズル基部3aの、先端側の内径が30μm、中心軸CL方向の長さが50μm、テーパー角度が30°であるとともに、ノズル先端部3bの内径が30μm、中心軸CLの方向の長さが30μmで、かつ内容積が前記と同じであるノズル部3。
インク滴の形成状態の観察
上記2種の圧電インクジェットヘッドを、引き打ち式の駆動電圧波形を有する20Vの駆動電圧を印加して駆動した際の、インク滴の飛翔状態を観察した。
【0050】
結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
電気等価回路の作成
上記2種の圧電インクジェットヘッドについて、前記と同様にして、図5に示す電気等価回路と、そして今回はノズル部、およびノズル流路のノズル部と繋がる段差部の、差分法によるモデルとを作成した。
インク滴の飛翔速度、および形状の演算
上記2種の圧電インクジェットヘッドを、引き打ち式の駆動電圧波形を有する20Vの駆動電圧を印加して駆動した際の、1滴目と2滴目のインク滴の飛翔速度、体積、および全インク滴の形状を、上記の電気等価回路と、ノズル部、およびノズル流路の段差部の、差分法によるモデルとを用いて演算した。
【0053】
結果を表4および図9、10に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
結論その2
表3、4および図9、10より、ノズル基部3aの内周面を、ノズル先端部3bの内周面から滑らかに連続する曲面3eに形成したノズル部3を備えた圧電インクジェットヘッドは、ノズル基部3aをテーパー状に形成したノズル部3を備えたものと同様に、やはり内径が一定であるノズル先端部3bの機能によって、インク滴の飛翔方向の乱れを無くして、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを防止できることが確認された。また前者の圧電インクジェットヘッドは、ノズル基部3aの内周面を、上記のようにノズル先端部3bの内周面から滑らかに連続する曲面3eに形成したことによって高速サテライトの発生を抑制して、紙面に形成した画像にチリの不良が発生するのを、さらに確実に防止できることも確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電インクジェットヘッドの一例における、圧電素子と振動板とを含む駆動部を取り付ける前の状態を示す平面図である。
【図2】同図(a)は、図1の例の圧電インクジェットヘッドにおいて、駆動部を取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
【図3】同図(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドのうちノズル部の付近を拡大した拡大断面図、同図(b)は、ノズル部とノズル流路の立体形状を透視した斜視図である。
【図4】同図(a)(b)はそれぞれ、ノズル部の変形例を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の、実施例で作製した圧電インクジェットヘッドを構成する各部を集中定数で近似して作成した電気等価回路を示す回路図である。
【図6】本発明の実施例で作製した、ノズル基部のテーパー角度が20°である圧電インクジェットヘッドに駆動電圧波形を印加してインクを吐出させた際の、インク滴の形状変化を、図5の電気等価回路と、ノズル部の、差分法でのモデルとを用いて演算した結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例で作製した、ノズル基部のテーパー角度が25°である圧電インクジェットヘッドに駆動電圧波形を印加してインクを吐出させた際の、インク滴の形状変化を、図5の電気等価回路と、ノズル部の、差分法でのモデルとを用いて演算した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例で作製した、ノズル基部のテーパー角度が30°である圧電インクジェットヘッドに駆動電圧波形を印加してインクを吐出させた際の、インク滴の形状変化を、図5の電気等価回路と、ノズル部の、差分法でのモデルとを用いて演算した結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例で作製した、ノズル基部の内周面を、ノズル先端部の内周面から滑らかに連続する曲面に形成した圧電インクジェットヘッドに駆動電圧波形を印加してインクを吐出させた際の、インク滴の形状変化を、図5の電気等価回路と、ノズル部、およびノズル流路のノズル部と繋がる段差部の、差分法でのモデルとを用いて演算した結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例で作製した、ノズル基部を、テーパー角度が30°であるテーパー状に形成した圧電インクジェットヘッドに駆動電圧波形を印加してインクを吐出させた際の、インク滴の形状変化を、図5の電気等価回路と、ノズル部、およびノズル流路のノズル部と繋がる段差部の、差分法でのモデルとを用いて演算した結果を示す図である。
【符号の説明】
2 加圧室
3 ノズル部
7 振動板
9 圧電素子
Claims (6)
- (A) インクが充てんされる加圧室と、
(B) この加圧室に連通したノズル部と、
(C) 圧電素子と、この圧電素子の変形によって撓んで加圧室の容積を減少させることで、加圧室内のインクを、ノズル部先端の開口を通してインク滴として吐出させるための振動板とを含む駆動部と、
を備えた圧電インクジェットヘッドであって、
上記ノズル部を、加圧室側の内径が大きく、かつ先端側の内径が小さい先細りになったノズル基部と、このノズル基部の先端側に連通し、その先端をインク滴吐出のための開口とした、内径が一定のノズル先端部とを有する形状に形成したことを特徴とする圧電インクジェットヘッド。 - ノズル先端部の内容量を、吐出するインク滴の体積の1/2倍以上とした請求項1記載の圧電インクジェットヘッド。
- ノズル先端部の長さを、ノズル先端部の内径の1/3倍以上とした請求項2記載の圧電インクジェットヘッド。
- ノズル基部をテーパー状に形成し、かつそのテーパー角度を20°以下とした請求項1記載の圧電インクジェットヘッド。
- ノズル基部をテーパー状に形成し、かつその内周面と、ノズル先端部の内周面との境界部をアール面で面取りした請求項1記載の圧電インクジェットヘッド。
- ノズル基部の内周面を、ノズル先端部の内周面から滑らかに連続する曲面に形成した請求項1記載の圧電インクジェットヘッド。
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JP2015231679A (ja) * | 2014-06-09 | 2015-12-24 | セーレン株式会社 | インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法 |
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- 2003-03-28 JP JP2003092658A patent/JP2004299123A/ja active Pending
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