JP2004292930A - 耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】使用中に水素に起因する割れが発生し難い、チェーン部品等に適した高炭素鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.20〜0.35%、Si:0.25%以下、Mn:0.5〜1.8%、P:0.020%以下、Ti:0.01〜0.035%、B:0.0003〜0.0030%を含有することを特徴とする耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。必要に応じ、更にNb:0.01〜0.05%、また更にCr:0.3〜1.0%とMo:0.40%以下のうちの1種又は2種を添加する。
【選択図】 図1
【解決手段】質量%で、C:0.20〜0.35%、Si:0.25%以下、Mn:0.5〜1.8%、P:0.020%以下、Ti:0.01〜0.035%、B:0.0003〜0.0030%を含有することを特徴とする耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。必要に応じ、更にNb:0.01〜0.05%、また更にCr:0.3〜1.0%とMo:0.40%以下のうちの1種又は2種を添加する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高靭性高炭素鋼板、特に熱処理後の耐衝撃性と耐磨耗性に優れ、しかも製造性と加工性が良好な高靭性鋼板に関する。より具体的には、使用中に水素に起因する割れが発生し難い、チェーン部品等に適した高炭素鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にチェーン部品等は、SCM435,SCM445,SAE5046等の高炭素合金鋼板や、S45C,S50Cの高炭素冷延鋼板を素材とし、これらを目的の製品形状に成形加工後、焼入れ、焼戻し等の熱処理により硬化させて製造される。
しかし、焼入れ−焼戻しした高炭素鋼板では、細心の注意を払って熱処理条件を選択しても耐衝撃性が不十分であり、特に焼入れ時のオーステナイト粒界割れの防止は不十分である。そのため、オートバイ用のチェーンに適用した場合、ギヤー、ガイド等に接触した面からの割れを完全に防止することは困難であった。
【0003】
そこでチェーンメーカーでは、このような割れの発生を防止するため、過冷オーステナイトの恒温変態を行うオーステンパー処理によって靭性向上を図っている。しかしこの方法では、焼入れ、焼戻し処理に比べて工程が煩雑になり、熱処理設備も大型化するため、コストの上昇は避けられない。
【0004】
これを解決する技術を開示したものとして、下記特許文献1〜3がある。
特許文献1に開示された技術は、Mo,Cr,Cu等の合金元素を多量に添加すると同時にNb,Tiを添加して、靭性を高める方法である。この方法はMo,Cr,Cu等の合金元素を多量に添加する必要があり、製造コストが高くなる欠点があると共に、粒界割れを完全には防止できない。
【0005】
特許文献2に開示された技術も、良好な靭性を得るためにCr,Mo等の合金元素を添加するものであり、製造コストが高くなると共に、粒界割れを完全には防止できない欠点がある。
特許文献3に開示された技術は、Cr,Mo,Cu等の高価な合金元素の添加が必須の技術であり、製造コストの上昇が避けられないうえ、やはり十分に粒界割れを防止できない。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−149645号公報
【特許文献2】
特開平5−345952号公報
【特許文献3】
特開平5−0983388公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前述したチェーン部品等に関し、今後ますます要求が高まる高い耐衝撃性と耐磨耗性を満足すると共に、単なる焼入れ、焼戻しによってもオーステンパーによって実現される以上の耐衝撃特性と耐粒界割れ特性を有する鋼板を、低コストで提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、焼入れ、焼戻し後の靭性、及びチェーンと他の治具との接触部から生じる粒界割れ性について鋭意検討した結果、前記したような従来技術と異なり、Mo,Cu等の合金元素を添加することなく目的を達成し得る発明を完成した。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1) 質量%で、
C :0.20〜0.35%、 Si:0.25%以下、
Mn:0.5〜1.8%、 P :0.020%以下、
Ti:0.01〜0.035%、 B :0.0003〜0.0030%
を含有することを特徴とする耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
(2) 質量%でさらに、
Nb:0.01〜0.05%
を含有することを特徴とする前記(1)記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
(3) 質量%でさらに、
Cr:0.3〜1.0%、 Mo:0.40%以下
の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)または(2)記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の構成要件について、以下に説明する。
最初に、チェーンがガイド、ギヤー等と接触し、この面を起点にして生じる耐粒界破壊特性が得られる条件を知見した実験事実について説明する。
真空溶解炉で、Si:0.15%、P:0.005〜0.015%、Mn:1.50%、Ti:0.015%、B:0.0010%を基本とし、C量を0.15〜0.45%に変化させた鋼を溶解し、熱間圧延後に冷間圧延して板厚3.0mmの鋼板を造り、チェーンプレートを打ち抜きで製造し、850℃×40min で加熱後に油焼入れした。
【0011】
このチェーンプレートを、焼戻しにより硬さがHv:480〜500の範囲に調整し、チェーンプレートをチェーンに組み立て、鋼片でチェーン端部に39.2Nで押し付けながら1.96KNの張力をかけて14.8m/Sの速度で駆動し、10分間隔で150ccの水を注水しながら60分間試験し、チェーンにクラックが生じたプレート数で評価した。
【0012】
図1は、C量とチェーンの破断したプレート数の関係を示したものである。同図から、C量が0.35%を超えると急速にクラックが生じたプレート数が多くなることが分かる。特にC量が0.25%以下ではクラックが全く生じていない。この事実からC量の上限を0.35%に特定した。好ましくは0.25%以下である。
【0013】
C量を0.35%以下にすると粒界割れ性が大幅に改善する理由は明確でないが、本発明者らは次のように考えている。
レース用などオフロード用オートバイのチェーンは、ガイドあるいはギヤーと接触し、チェーンの接触部に高転位密度の硬質層が形成される。この硬質層は脆く、クラックが生じ易いため、クラックを起点に粒界割れが生じる。このクラックは硬質層が硬いほど、また硬質層の厚みが厚いほど生じ易い。
しかしC量が低いと、硬質層の硬さが高C鋼に比較して軟らかく、靭性に富んでおり、しかも硬質層が高炭素鋼のそれと比較して磨耗し易く、硬質層の厚みが厚くならないためにクラックが生じ難いためと考えられる。
【0014】
以下、本発明を構成する鋼成分について説明する。
Cは、前述の実験事実により良好な耐粒界破壊特性が得られる範囲として、0.20〜0.35%に特定した。好ましい範囲は同様の理由から0.20〜0.25%である。
【0015】
Siは積極的に添加する必要はないが、0.25%を超えると硬質になり、加工性を劣化させるので、0.25%以下に特定した。下限は特に限定する必要がない。
【0016】
Mnは、焼入れ性を高める元素であり、添加量が多いほど焼入れ性が良好になるが、1.8%を超えて添加すると耐粒界割れ性に悪影響を及ぼすので、上限を1.8%に特定した。一方、添加量が0.50%未満になると、鋼板の製造過程で表面疵が多くなるので、下限を0.50%とした。好ましい範囲は1.00〜1.50%である。
【0017】
Crは、Mnと同様に焼入れ性を高める元素として知られている。しかし添加量が1.0%を超えると、鋼板の硬質化を招き脆化するため、添加する場合は上限を1.0%とするのが望ましい。一方本発明は、耐粒界割れ性を良好にするために、焼入れ性を高めるCを従来の鋼より制限しているため、焼入れ性の確保から、Crを添加する場合は0.30%以上が望ましい。更に好ましい範囲は0.30〜0.50%である。
【0018】
Tiは、鋼中のN,Cと結合し易く、TiN,TiCを形成する。TiN,TiCは適正な添加量の場合、焼入れ時のオーステナイト粒の成長を抑制し、耐粒界割れ性を良好にする作用があると同時に、TiNの生成はBの固溶を促進し、オーステナイトの粒界強化を促進する作用を発揮する。Tiの添加量が0.01%未満になると上記作用による効果を発揮し難い。一方、添加量が多すぎると鋼の硬化につながるだけでなく、鋼板の製造過程で粗大なTiNが生成し、それを起点にして割れが生じ易くなる。この理由からTiの上限を0.035%に特定した。
【0019】
Bは本発明においてめて重要な元素であり、鋼の焼入れ性を向上させると共に、粒界に固溶Bとして偏析することで粒界を強化する作用もある。この作用を発揮させるためには0.0003%が最低必要である。一方、添加量が多すぎると鋼板の製造過程で表面欠陥を生じ易くなり、製造コストの上昇を招く。この理由からBの上限を0.0030%に特定した。
【0020】
Nbは、Tiと同様にNbCを生成し、焼入れ時のオーステナイト粒の成長を抑制し、細粒オーステナイト組織となることで、間接的に粒界を弱めるPの粒界偏析量を低くする作用があり、耐粒界割れ性を良好にする。この作用を発揮させるためには0.01%以上添加するのが望ましい。一方、0.05%を超えて添加すると、鋼板の製造過程で粗大なNbCが生成し易く、靭性を劣化させる。そのため、添加する場合はNbの上限を0.05%とするのが望ましい。
【0021】
Pは粒界に偏析し、粒界強度を低める元素である。このためP量を0.020%以下にする必要がある。好ましい範囲は同様の理由から0.015%以下である。
【0022】
Moは焼入れ性、焼戻し抵抗を高める元素として知られている。特に焼入れ性を必要とする場合は、Moを0.40%以下の範囲で添加する。
【0023】
その他の元素、通常の鋼でもSは低い方がよく、特に本発明のように高強度の鋼板では、S含有量を0.005%以下に抑えることが好ましく、その方法はCaの単独添加でもCa−Siインジェクション処理でもよい。
Nは、本発明の場合TiNを生成し、固溶Nは存在しないので靭性劣化の懸念はないが、N含有量が多くなるとTi添加量が多くなるので好ましくない。従ってN含有量は0.0070%以下に抑えることが好ましい。
【0024】
本発明の鋼板は上記成分を含有すると共に、残部が実質的にFeである鋼を溶製し、熱間圧延と冷間圧延により所望の板厚に圧延して製造される。この間に軟化のために焼鈍を行ってもよい。また、冷延後に焼鈍を行っても行わなくても本発明の特徴を損なうことはない。焼鈍を行う場合は650〜700℃の温度で行うことが好ましい。
以上のようにして製造された鋼板は、通常、ユーザーによりチェーンプレートに打ち抜き等の加工を経て、焼入れ、焼戻しにより製造される。
【0025】
【実施例】
本発明を実施例により、比較例と対比して説明する。
まず、表1に示した各成分組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造でスラブを造り、熱間圧延により2.3mm厚の熱延鋼板とし、次いで脱スケールの後、680℃×12hrの焼鈍を行い、引き続いて冷間圧延により2.0mm厚の鋼板を造った。この鋼板からチェーンプレートを打ち抜き、850℃×50分保定後に70℃の油中で焼入れし、Hv:480〜510の硬さが得られる条件で焼戻しを行った。
【0026】
次に上記硬度範囲が得られたものについて、鋼板はJIS4号衝撃試験片を造って20℃で衝撃試験を、チェーンプレートはチェーンを組み立て、鋼片でチェーン端部に39.2Nで押し付けながら1.96KNの張力をかけ、14.8m/Sの速度で駆動し、10分間隔で150ccの水を注水しながら60分間試験し、チェーンにクラックが生じたプレート数で耐粒界割れ性を評価した。その結果を表2に示す。
【0027】
表2において、コイル No.A〜Gは本発明範囲内の実施例であり、コイル No.H〜Oは比較例である。
コイル No.Aは180℃焼戻しでHv:480が得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.BはNb:0.025%添加した例で、やはり180℃焼戻しでHv:480以上の硬さが得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
【0028】
コイル No.Cは、Cr:0.40%、Mo:0.35%を添加し、コイル No.Gは、Cr:0.40%、Mo:0.40%を添加した例で、共に180℃焼戻しでHv:480以上の硬さが得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.DはCrを、コイル No.FはMoを、それぞれ単独添加した例であるが、やはり優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.EはNb,Mo,Crを複合添加した例であるが、十分な硬さレベルを有し、かつ優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
【0029】
一方、比較例であるコイル No.HとIはC量が、コイル No.JはBが、コイル No.KはTiが、コイル No.LはMn量が、それぞ本発明範囲外の例である。いずれも焼入れ硬さが低く、本発明の目的を達成しないことが分かる。
コイル No.MはP量が本発明範囲外であり、衝撃値が低く、耐粒界割れ性も劣っている。
コイル No.NはSAE5046であるが、やはり耐粒界割れ性が不十分である。
コイル No.OはSCM435であるが、これも耐粒界割れ性が不十分である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【発明の効果】
以上の実施例からも分かるように、本発明は、Cu,Crを多量に添加することなく、C量を低くすることで、高強度の耐粒界割れ性に優れたチェーンプレート用鋼板を安価に提供することが可能であり、工業的に優れた発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】C量と耐粒界割れ性試験でクラックが生じたプレート数との関係を示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、高靭性高炭素鋼板、特に熱処理後の耐衝撃性と耐磨耗性に優れ、しかも製造性と加工性が良好な高靭性鋼板に関する。より具体的には、使用中に水素に起因する割れが発生し難い、チェーン部品等に適した高炭素鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にチェーン部品等は、SCM435,SCM445,SAE5046等の高炭素合金鋼板や、S45C,S50Cの高炭素冷延鋼板を素材とし、これらを目的の製品形状に成形加工後、焼入れ、焼戻し等の熱処理により硬化させて製造される。
しかし、焼入れ−焼戻しした高炭素鋼板では、細心の注意を払って熱処理条件を選択しても耐衝撃性が不十分であり、特に焼入れ時のオーステナイト粒界割れの防止は不十分である。そのため、オートバイ用のチェーンに適用した場合、ギヤー、ガイド等に接触した面からの割れを完全に防止することは困難であった。
【0003】
そこでチェーンメーカーでは、このような割れの発生を防止するため、過冷オーステナイトの恒温変態を行うオーステンパー処理によって靭性向上を図っている。しかしこの方法では、焼入れ、焼戻し処理に比べて工程が煩雑になり、熱処理設備も大型化するため、コストの上昇は避けられない。
【0004】
これを解決する技術を開示したものとして、下記特許文献1〜3がある。
特許文献1に開示された技術は、Mo,Cr,Cu等の合金元素を多量に添加すると同時にNb,Tiを添加して、靭性を高める方法である。この方法はMo,Cr,Cu等の合金元素を多量に添加する必要があり、製造コストが高くなる欠点があると共に、粒界割れを完全には防止できない。
【0005】
特許文献2に開示された技術も、良好な靭性を得るためにCr,Mo等の合金元素を添加するものであり、製造コストが高くなると共に、粒界割れを完全には防止できない欠点がある。
特許文献3に開示された技術は、Cr,Mo,Cu等の高価な合金元素の添加が必須の技術であり、製造コストの上昇が避けられないうえ、やはり十分に粒界割れを防止できない。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−149645号公報
【特許文献2】
特開平5−345952号公報
【特許文献3】
特開平5−0983388公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前述したチェーン部品等に関し、今後ますます要求が高まる高い耐衝撃性と耐磨耗性を満足すると共に、単なる焼入れ、焼戻しによってもオーステンパーによって実現される以上の耐衝撃特性と耐粒界割れ特性を有する鋼板を、低コストで提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、焼入れ、焼戻し後の靭性、及びチェーンと他の治具との接触部から生じる粒界割れ性について鋭意検討した結果、前記したような従来技術と異なり、Mo,Cu等の合金元素を添加することなく目的を達成し得る発明を完成した。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1) 質量%で、
C :0.20〜0.35%、 Si:0.25%以下、
Mn:0.5〜1.8%、 P :0.020%以下、
Ti:0.01〜0.035%、 B :0.0003〜0.0030%
を含有することを特徴とする耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
(2) 質量%でさらに、
Nb:0.01〜0.05%
を含有することを特徴とする前記(1)記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
(3) 質量%でさらに、
Cr:0.3〜1.0%、 Mo:0.40%以下
の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)または(2)記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の構成要件について、以下に説明する。
最初に、チェーンがガイド、ギヤー等と接触し、この面を起点にして生じる耐粒界破壊特性が得られる条件を知見した実験事実について説明する。
真空溶解炉で、Si:0.15%、P:0.005〜0.015%、Mn:1.50%、Ti:0.015%、B:0.0010%を基本とし、C量を0.15〜0.45%に変化させた鋼を溶解し、熱間圧延後に冷間圧延して板厚3.0mmの鋼板を造り、チェーンプレートを打ち抜きで製造し、850℃×40min で加熱後に油焼入れした。
【0011】
このチェーンプレートを、焼戻しにより硬さがHv:480〜500の範囲に調整し、チェーンプレートをチェーンに組み立て、鋼片でチェーン端部に39.2Nで押し付けながら1.96KNの張力をかけて14.8m/Sの速度で駆動し、10分間隔で150ccの水を注水しながら60分間試験し、チェーンにクラックが生じたプレート数で評価した。
【0012】
図1は、C量とチェーンの破断したプレート数の関係を示したものである。同図から、C量が0.35%を超えると急速にクラックが生じたプレート数が多くなることが分かる。特にC量が0.25%以下ではクラックが全く生じていない。この事実からC量の上限を0.35%に特定した。好ましくは0.25%以下である。
【0013】
C量を0.35%以下にすると粒界割れ性が大幅に改善する理由は明確でないが、本発明者らは次のように考えている。
レース用などオフロード用オートバイのチェーンは、ガイドあるいはギヤーと接触し、チェーンの接触部に高転位密度の硬質層が形成される。この硬質層は脆く、クラックが生じ易いため、クラックを起点に粒界割れが生じる。このクラックは硬質層が硬いほど、また硬質層の厚みが厚いほど生じ易い。
しかしC量が低いと、硬質層の硬さが高C鋼に比較して軟らかく、靭性に富んでおり、しかも硬質層が高炭素鋼のそれと比較して磨耗し易く、硬質層の厚みが厚くならないためにクラックが生じ難いためと考えられる。
【0014】
以下、本発明を構成する鋼成分について説明する。
Cは、前述の実験事実により良好な耐粒界破壊特性が得られる範囲として、0.20〜0.35%に特定した。好ましい範囲は同様の理由から0.20〜0.25%である。
【0015】
Siは積極的に添加する必要はないが、0.25%を超えると硬質になり、加工性を劣化させるので、0.25%以下に特定した。下限は特に限定する必要がない。
【0016】
Mnは、焼入れ性を高める元素であり、添加量が多いほど焼入れ性が良好になるが、1.8%を超えて添加すると耐粒界割れ性に悪影響を及ぼすので、上限を1.8%に特定した。一方、添加量が0.50%未満になると、鋼板の製造過程で表面疵が多くなるので、下限を0.50%とした。好ましい範囲は1.00〜1.50%である。
【0017】
Crは、Mnと同様に焼入れ性を高める元素として知られている。しかし添加量が1.0%を超えると、鋼板の硬質化を招き脆化するため、添加する場合は上限を1.0%とするのが望ましい。一方本発明は、耐粒界割れ性を良好にするために、焼入れ性を高めるCを従来の鋼より制限しているため、焼入れ性の確保から、Crを添加する場合は0.30%以上が望ましい。更に好ましい範囲は0.30〜0.50%である。
【0018】
Tiは、鋼中のN,Cと結合し易く、TiN,TiCを形成する。TiN,TiCは適正な添加量の場合、焼入れ時のオーステナイト粒の成長を抑制し、耐粒界割れ性を良好にする作用があると同時に、TiNの生成はBの固溶を促進し、オーステナイトの粒界強化を促進する作用を発揮する。Tiの添加量が0.01%未満になると上記作用による効果を発揮し難い。一方、添加量が多すぎると鋼の硬化につながるだけでなく、鋼板の製造過程で粗大なTiNが生成し、それを起点にして割れが生じ易くなる。この理由からTiの上限を0.035%に特定した。
【0019】
Bは本発明においてめて重要な元素であり、鋼の焼入れ性を向上させると共に、粒界に固溶Bとして偏析することで粒界を強化する作用もある。この作用を発揮させるためには0.0003%が最低必要である。一方、添加量が多すぎると鋼板の製造過程で表面欠陥を生じ易くなり、製造コストの上昇を招く。この理由からBの上限を0.0030%に特定した。
【0020】
Nbは、Tiと同様にNbCを生成し、焼入れ時のオーステナイト粒の成長を抑制し、細粒オーステナイト組織となることで、間接的に粒界を弱めるPの粒界偏析量を低くする作用があり、耐粒界割れ性を良好にする。この作用を発揮させるためには0.01%以上添加するのが望ましい。一方、0.05%を超えて添加すると、鋼板の製造過程で粗大なNbCが生成し易く、靭性を劣化させる。そのため、添加する場合はNbの上限を0.05%とするのが望ましい。
【0021】
Pは粒界に偏析し、粒界強度を低める元素である。このためP量を0.020%以下にする必要がある。好ましい範囲は同様の理由から0.015%以下である。
【0022】
Moは焼入れ性、焼戻し抵抗を高める元素として知られている。特に焼入れ性を必要とする場合は、Moを0.40%以下の範囲で添加する。
【0023】
その他の元素、通常の鋼でもSは低い方がよく、特に本発明のように高強度の鋼板では、S含有量を0.005%以下に抑えることが好ましく、その方法はCaの単独添加でもCa−Siインジェクション処理でもよい。
Nは、本発明の場合TiNを生成し、固溶Nは存在しないので靭性劣化の懸念はないが、N含有量が多くなるとTi添加量が多くなるので好ましくない。従ってN含有量は0.0070%以下に抑えることが好ましい。
【0024】
本発明の鋼板は上記成分を含有すると共に、残部が実質的にFeである鋼を溶製し、熱間圧延と冷間圧延により所望の板厚に圧延して製造される。この間に軟化のために焼鈍を行ってもよい。また、冷延後に焼鈍を行っても行わなくても本発明の特徴を損なうことはない。焼鈍を行う場合は650〜700℃の温度で行うことが好ましい。
以上のようにして製造された鋼板は、通常、ユーザーによりチェーンプレートに打ち抜き等の加工を経て、焼入れ、焼戻しにより製造される。
【0025】
【実施例】
本発明を実施例により、比較例と対比して説明する。
まず、表1に示した各成分組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造でスラブを造り、熱間圧延により2.3mm厚の熱延鋼板とし、次いで脱スケールの後、680℃×12hrの焼鈍を行い、引き続いて冷間圧延により2.0mm厚の鋼板を造った。この鋼板からチェーンプレートを打ち抜き、850℃×50分保定後に70℃の油中で焼入れし、Hv:480〜510の硬さが得られる条件で焼戻しを行った。
【0026】
次に上記硬度範囲が得られたものについて、鋼板はJIS4号衝撃試験片を造って20℃で衝撃試験を、チェーンプレートはチェーンを組み立て、鋼片でチェーン端部に39.2Nで押し付けながら1.96KNの張力をかけ、14.8m/Sの速度で駆動し、10分間隔で150ccの水を注水しながら60分間試験し、チェーンにクラックが生じたプレート数で耐粒界割れ性を評価した。その結果を表2に示す。
【0027】
表2において、コイル No.A〜Gは本発明範囲内の実施例であり、コイル No.H〜Oは比較例である。
コイル No.Aは180℃焼戻しでHv:480が得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.BはNb:0.025%添加した例で、やはり180℃焼戻しでHv:480以上の硬さが得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
【0028】
コイル No.Cは、Cr:0.40%、Mo:0.35%を添加し、コイル No.Gは、Cr:0.40%、Mo:0.40%を添加した例で、共に180℃焼戻しでHv:480以上の硬さが得られ、優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.DはCrを、コイル No.FはMoを、それぞれ単独添加した例であるが、やはり優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
コイル No.EはNb,Mo,Crを複合添加した例であるが、十分な硬さレベルを有し、かつ優れた耐衝撃特性と耐粒界割れ性を有することが分かる。
【0029】
一方、比較例であるコイル No.HとIはC量が、コイル No.JはBが、コイル No.KはTiが、コイル No.LはMn量が、それぞ本発明範囲外の例である。いずれも焼入れ硬さが低く、本発明の目的を達成しないことが分かる。
コイル No.MはP量が本発明範囲外であり、衝撃値が低く、耐粒界割れ性も劣っている。
コイル No.NはSAE5046であるが、やはり耐粒界割れ性が不十分である。
コイル No.OはSCM435であるが、これも耐粒界割れ性が不十分である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【発明の効果】
以上の実施例からも分かるように、本発明は、Cu,Crを多量に添加することなく、C量を低くすることで、高強度の耐粒界割れ性に優れたチェーンプレート用鋼板を安価に提供することが可能であり、工業的に優れた発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】C量と耐粒界割れ性試験でクラックが生じたプレート数との関係を示す図。
Claims (3)
- 質量%で、
C :0.20〜0.35%、
Si:0.25%以下、
Mn:0.5〜1.8%、
P :0.020%以下、
Ti:0.01〜0.035%、
B :0.0003〜0.0030%
を含有することを特徴とする耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。 - 質量%でさらに、
Nb:0.01〜0.05%
を含有することを特徴とする請求項1記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。 - 質量%でさらに、
Cr:0.3〜1.0%、
Mo:0.40%以下
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐粒界割れ性の優れたチェーンプレート用鋼板。
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