JP2004292743A - 光機能材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は生産性に優れ、吸収波長のコントロール性にすぐれ、かつ耐久性と太陽エネルギーの変換効率の高い色素増感型の光電変換セル用の光電変換用増感色素を提供することである。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を含んでなる光機能材料。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、環A、環Bおよび環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を含んでなる光機能材料。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、環A、環Bおよび環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光電変換用増感色素、これを用いた光電変換材料、光電変換電極、およびこれを用いた光電変換セルに関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽光発電は単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、テルル化カドミウムやセレン化インジウム銅などの化合物太陽電池が実用化、もしくは研究開発対象となっているが、普及させる上で製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイムが長い等の問題点を克服する必要がある。一方、大面積化や低価格を指向した有機材料を用いた太陽電池もこれまでに多く提案されているが変換効率が低く、耐久性も悪いという問題があった。
【0003】
こうした状況の中で、色素によって増感された半導体微多孔質体を用いた光電変換電極および光電変換セル、ならびにこれを作成するための材料および製造技術が開示された(非特許文献1および特許文献1参照)。開示された電池は、ルテニウム錯体色素によって分光増感された酸化チタン多孔質薄層を作用電極としヨウ素を主体とする電解質層および対電極から成る色素増感型の光電変換セルである。この方式の第一の利点は酸化チタン等の安価な酸化物半導体を用いるため、安価な光電変換素子を提供できる点であり、第二の利点は用いられるルテニウム錯体色素が可視光域に幅広く吸収を有していることから比較的高い変換効率が得られる点である。
【0004】
このような色素増感型の光電変換セルの問題点のひとつとして、色素の原料にルテニウムを用いていることが挙げられる。ルテニウムはクラーク数が0.01ppmと白金やパラジウムに匹敵する量しか地球に現存せず、大量に使われると枯渇が免れない。さらにルテニウム錯体色素の価格も高価な物となり、光電変換セルの大量普及の妨げとなる。このため脱ルテニウム系の増感色素の研究が近年盛んとなってきている。たとえば特開平10‐92477号公報にはルテニウムを原料としない増感色素が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
最近、色素増感型太陽電池における増感色素として、非ルテニウム錯体色素の研究が盛んに行なわれている。その例としてはフェニルキサンテン系色素、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、シアニン形色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素等があげられる。これらの有機色素はルテニウム錯体に比較して吸光係数が大きく、分子設計の自由度も大きいため、高い光電変換効率が期待されている。しかしながら、色素の光吸収領域がせまかったり、酸化チタンへの電荷の注入が非効率的である等の理由から、良い有機増感色素はなかった。
【0006】
これらの問題を解決するため、酸化チタンとの吸着末端に特徴をもたせた増感色素として、置換アクリル酸部位を持つ増感色素が比較的高い変換効率を有することが開示されている(特許文献3、4参照)。これらの増感色素に特徴的な点はアクリル酸末端のカルボン酸基が結合する炭素原子が同時にシアノ基を代表とする電子吸引性置換基を有することによりアクリル酸末端の電子吸引効果を増大させている点にある。増感色素は末端のカルボン酸基で酸化チタン等の無機酸化物多孔質半導体表面に結着し、増感色素が光吸収することによって生じた励起電子をカルボン酸基を通して無機酸化物側へ注入しているが、この部位の電子吸引効果が強くなることによって電子注入効果が促進され、ひいては高い変換効率を実現している。代表的な例はクマリン骨格とシアノ基を有するアクリル酸末端とを組み合わせた増感色素で、5%以上の高い変換効率を実現している(非特許文献2参照)。
【0007】
しかしクマリン骨格等な骨格単体での基本的な吸収波長領域は可視光領域の中で比較的短波長側に寄っているため、この骨格を基に長波長化を図ろうとすれば長鎖の二重結合部位などを導入することになる。長鎖の二重結合部位は活性酸素等に酸化されやすい等、耐久性の弱い性質を有している。シアニン系色素等も長鎖二重結合部位を有し、耐久性の弱い色素の一例である。とりわけ、二重結合の長鎖化で近赤外領域の太陽光に対応した増感色素を設計した場合、この耐久性の弱さは顕著なものとなってくる。一方、フタロシアニン系色素などの様に元々の吸収波長領域が長波長領域にある色素は分子量が大きくなりがちでかつ、クロモファーを形成するπ電子平面骨格同士のスタッキング特性による会合力が強く、染色溶剤への溶解性が悪い、会合のし易さ等が原因で増感色素同士で光吸収を阻害し合うため変換効率が低い等、増感色素としての利用しにくさを有していた。
【0008】
有機色素の増感色素の場合、一種類の色素で吸収できる吸収帯の吸収幅が狭い場合が多い。この場合、可視光領域に対して幅広く光電変換性能を発揮させるには、特定の色素に対して補色的に光吸収できる増感色素を組み合わせて用いることが考えられる。この目的のためには、容易に補色色素として増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が求められていた。
【0009】
又、二種類以上の増感色素を組み合わせる場合、染色溶液に溶解後、増感色素を無機酸化物半導体多孔質体を有する電極に吸着させる電極の製造工程でその比率を安定的に組み合わせることは困難である。二種類以上の増感色素を組み合わせる場合は、(その1)二種の増感色素それぞれに色素溶液を作り、順番に染色する、(その2)一つの色素溶液に2種の増感色素を混合する、の方法が考えられるが、前者の方法では最初に吸着した色素が2番目の色素溶液に混入し、製造を進めるにつれて2種の色素の吸着比率が変化してくる、後者の方法では2種の色素の吸着能力の違いが原因となって、製造を進めるにつれて2種の色素の吸着比率が変化してくる等が生じ、製造途中での微妙な色素濃度と比率の調整が求められる事になる。2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方を提供する色素設計が求められていた。
【0010】
さらに、色素増感太陽電池への製品要求として、意匠性が求められることがある。色素は本来様々な色表現を求められるものであるので、この性質を利用して様々な色合いの増感色素を組み合わせたカラフル太陽電池等が提案されている(特許文献5参照)。色の違いは吸収波長の大きな変化から生じる。色合いの良非は吸収波長の微妙な差異から生じる。 目的の色彩を有した増感色素を得るには、増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が求められていた。
【0011】
長鎖二重結合部位等のように耐久性の弱い部位の導入にたよらず、耐久性の強い骨格構造を有し、溶解性も良好で、かつ、補色色素や色彩重視の増感色素として吸収波長のコントロールもしやすく、近赤外領域の増感色素の設計をも可能であり、2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方が可能であり、ひいては安価で高い変換効率特性を有した光電変換セルを提供できる増感色素が求められていた。
【0012】
【非特許文献1】Nature(第353巻、第737〜740頁、1991年)
【非特許文献2】Chem.commun.,(6),569−570(2001)
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開平10‐92477号公報
【特許文献3】特開2002−164089号公報
【特許文献4】WO02/11213号パンフレット
【特許文献5】特開2001−176565号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は耐久性の強い骨格構造を有し、溶解性も良好で、補色色素や色彩重視の増感色素として吸収波長のコントロールもしやすく、近赤外領域の増感色素の設計をも可能であり、2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方をも可能であり、ひいては安価で高い変換効率性能を有する色素増感型光電変換セル用の増感色素を提供することである。
さらにはこの増感色素を無機半導体多孔質体表面に連結させた光電変換材料、および光電変換材料を電導性表面を有する透明基材の電導面に積層して成る光電変換電極、および光電変換電極を電解質層を介して導電性対極を組み合わせて成る光電変換セルを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の増感色素を透明導電性基板上に積層させた無機半導体表面に連結させ、良好な光電変換セルを作成することに成功し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む光機能材料に関する。
一般式(1)
【0016】
【化4】
【0017】
(一般式(1)中、環A、環Bおよび環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
【0018】
また、本発明は、下記一般式(2)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体とを含む上記光機能材料に関する。
一般式(2)
【0019】
【化5】
【0020】
(一般式(2)中、環A、環B、環A’、環B’および環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
D’は、炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、あるいはケイ素原子を表す。EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
【0021】
また、本発明は、酸性置換基が、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、酸アミド基、ホウ酸基、スクアリン酸基から選ばれる官能基であることを特徴とする上記光機能材料に関する。
【0022】
また、本発明は、酸性置換基が、直接又は置換基を有して良いビニル基もしくはポリビニル基で環Aと結合しているものである上記光機能材料に関する。
【0023】
また、本発明は、置換基を有して良いビニル基又はポリビニル基が、一般式(3)の構造を含む上記光機能材料に関する。
一般式(3)
【0024】
【化6】
【0025】
(式中、Wは酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体を表し、
Xはシアノ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、トリフルオロアセチル基、置換スルホニル基のいずれかを表し、
Yは水素原子もしくは1価の有機残基を表し、
Zは、一般式(1)または一般式(2)の環A、環B、環A’、環B’、環Cのいずれか、又はいずれかの環に結合するビニル基もしくはポリビニル基を表す。
WとY、YとZは、置換基同士で結合して環を形成してもよい。さらにWとXは入れ替わっても良い。)
【0026】
また、本発明は、一般式(1)又は一般式(2)が置換アミノ基を含む上記光機能材料に関する。
【0027】
また、本発明は、R1、R2、R4、R5の全てが同時に水素となることがないことを特徴とする上記光機能材料。
【0028】
また、本発明は、上記光機能材料を含んでなる光電変換用増感色素に関する。
【0029】
また、本発明は、さらに、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式含まない増感色素を含んでなる上記増感色素に関する。
【0030】
また、本発明は、上記増感色素と、無機半導体多孔質体とを連結させてなる光電変換材料に関する。
【0031】
また、本発明は、上記光電変換材料を透明電極に積層させてなる光電変換電極に関する。
【0032】
また、本発明は、上記光電変換電極、電解質層、および導電性対極を含んでなる光電変換セルに関する。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、詳細にわたって本発明を説明する。
【0034】
本発明において光機能材料とは光を吸収することによって新たに増感効果、発熱効果、発色効果、退色効果、蓄光効果、相変化効果、光電変換効果、光磁気効果、光触媒効果、光変調効果、光記録効果、ラジカル発生効果等の機能を発現する材料、あるいは逆にこれらの効果を受けて発光機能を有する材料のことをさす。当該光機能材料は、例として光電変換材料、発光材料、光記録材料、画像形成材料、フォトクロミック材料、エレクトロルミネッセンス材料、光導電材料、二色性材料、ラジカル発生材料、酸発生材料、塩基発生材料、蓄光材料、非線形光学材料、第2高調波発生材料、第3高調波発生材料、感光材料、光吸収材料、近赤外吸収材料、フォトケミカルホールバーニング材料、光センシング材料、光マーキング材料、光化学治療用増感材料、光相変化記録材料、光焼結記録材料、光磁気記録材料、光線力学療法用色素および光電変換用増感色素等に幅広く用いることができる。
【0035】
本発明においては一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式を含む光機能材料を主として光電変換用増感色素として用いるので、この材料を主として光電変換用増感色素あるいは増感色素、色素などとして呼称するが、前記の幅広い応用を否定するものではない。
【0036】
本発明の増感色素は、ポリフルオレン的な部分構造を有した増感色素である。ここにおいて、フルオレン的な骨格構造とは、少なくとも2つの独立した芳香環又は複素環の間に、平面5員環構造が縮合した構造を有し、これら芳香環又は複素環同士が同一平面に固定化されたところに特徴をもつ。一般式(1)を基に表現すれば式中の環Aと環Bとこれに挟まれた5員環構造のみの部分である。
【0037】
フルオレンの一般的な定義は、一般式(1)を基に表現すれば、式中の環Aと環Bとこれに挟まれた5員環構造のみの部分であって、たとえば環Aと環Bがフェニル環で5員環のD位置がCH2である物であるが、この5員環の構成原子種や、これに結合する置換基や、環Aと環Bの構造を増感色素に適した形に発展させたものを、ここではフルオレン骨格的な構造等と呼称する。このフルオレン骨格的な構造を繰り返し延長させ、一般式(1)又は一般式(2)の様な部分構造を含む様に発展させたものを、ここではポリフルオレン的な構造等と呼称する。
【0038】
フルオレン骨格的な構造では、2つの独立した芳香環又は複素環を平面に配置できるので、たとえば一方の環に電子供与性を付与させもう一方の環に電子吸引性を付与させる等のドナー−アクセプター構造を設計しやすい上、前出のD位置は骨格の中央部に位置するため、導入した置換基による会合防止や可溶性向上の効果を発現させやすい。これらの点から増感色素設計に適した骨格構造であると言うことができる。
ポリフルオレン的な構造を有する増感色素は、フルオレン的な骨格構造が有する増感色素設計のしやすさと高耐久性等の特性をいかしながら、この構造を繰り返し延長させることによってより長波長領域の光吸収へ対応できるようにした増感色素である。
【0039】
本発明の増感色素はポリフルオレン的な構造を持つ増感色素として、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素として表されるが、さらに詳しくは、繰り返し単位数、n、m、n’、m’ を用いて各々一般式(4)又は一般式(5)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素として表すことができる。
【0040】
一般式(4)
【0041】
【化7】
【0042】
(一般式(4)中、nは1以上の整数。環A、環B、環Cnは、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EnおよびFnの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4nR5n、C=R6n、NR4n、N+R4nR5n、BR1n、B−R4nR5n、あるいはSiR4nR5nを表し、
R4nおよびR5nはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6nは、2価の有機残基を表す。
GおよびHはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基である。)
【0043】
一般式(5)
【化8】
【0044】
(一般式(5)中、nは1以上、m、n’およびm’は0以上の整数。環A、環B、環Cn、環Im、環A’ 、環B’ 、環C’n’、 環I’m’は、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。D’ は、炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、あるいはケイ素原子を表す。EnおよびFnの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4nR5n、C=R6n、NR4n、N+R4nR5n、BR1n、B−R4nR5n、あるいはSiR4nR5nを表し、
R4nおよびR5nはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6nは、2価の有機残基を表す。
JmおよびKmの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR7mR8m、C=R9m、NR7m、N+R7mR8m、BR7m、B−R7mR8m、あるいはSiR7mR8mを表し、
R7mおよびR8mはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R9mは、2価の有機残基を表す。
E’n’およびF’n’の一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4’n’R5’n’、C=R6’n’、NR4’n’、N+R4’n’R5’n’、BR4’n’、B−R4’n’R5’n’、あるいはSiR4’n’R5’n’を表し、
R4’n’およびR5’n’はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6’n’は、2価の有機残基を表す。
J’m’およびK’m’の一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR7’m’R8’m’、C=R9’m’、NR7’m’、N+R7’m’R8’m’、BR7’m’、B−R7’m’R8’m’、あるいはSiR7’m’R8’m’を表し、
R7’m’およびR8’m’はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R9’m’’は、2価の有機残基を表す。
G、H、L、M、G’、H’、L’およびM’ はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基である。)
【0045】
一般式(1)に示す骨格構造のπ電子平面がπ−πスタッキング特性を強く持つので、一般式中の有機残基R1、R2の全てが水素であった場合、物理的に遮蔽するのに有効な置換基がなくなり、骨格同士の会合が起こりやすいので、色素増感太陽電池の製造工程おいては、無機酸化物半導体電極への染色工程で染色溶剤にこの増感色素を溶解させることが困難となる上、析出などもおこりやすくなり、さらには、染色時にも無機酸化物多孔質体への吸着状態でも色素会合したままの吸着となるので、一分子あたりの増感能力が低下しやすくなるので、水素以外の有機残基である方がのぞましい。
【0046】
当該有機残基としてアルキル基等の水素以外の有機残基を有する場合、これらの持つ可溶性基としての効果、極性基としての効果等により染色用溶液への溶解性等を向上させることができる。又、D、E、FがCR1R2、N+R1R2、B−R1R2、あるいはSiR1R2、のように4価の炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、およびホウ素原子である場合、これらの有機残基は必ず骨格平面からはみ出す方向に大きく張り出すので、骨格同士の会合の防止にさらに効果的である。
【0047】
一般式(2)中のD’ は炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、ケイ素原子のいずれかである。
増感色素が一般式(2)の構造をとった場合、環Aを含む骨格構造のπ電子平面と環A’を含む骨格構造のπ電子平面が垂直に交わる構造になるのでπ−πスタッキングによる増感色素同士の会合は起こりにくい。
一般式(2)の構造の増感色素は環A を含む骨格構造のπ電子平面と環A’を含む骨格構造のπ電子平面が同一構造であっても本発明の増感色素に該当するが、さらにそれぞれの骨格構造を違えることにより、各々が有する吸収帯を2種類に違えて分子設計することもできる。
【0048】
この場合、一つの分子構造に幅広波長範囲で光吸収能をもたらすことができる。さらに、製造工程においても、染色溶液に溶解後、増感色素を無機酸化物半導体多孔質体を有する電極に吸着させる電極の製造工程で、2種類の吸収帯の比を常に一定にすることが可能であるので、別々の2種類の色素を吸着させる製造方法より優れている。
【0049】
一般式(2)に類似の骨格構造は色素増感太陽電池の固体電解質(ホール輸送材)の化合物として用いられた例はある(Nature,395,p.583(1998年)が、増感色素としての例は無かった。化学構造の類似性を起因としてこの増感色素はこの固体電解質との間での電子の受け渡しが容易でかつ安定な電池を作成できる等のことが期待できる。
【0050】
一般式(2)の構造で、吸収帯を2種類に違える分子設計としては、環A を含む骨格と環A’を含む骨格のπ電子共役の長さを違えることが手法の一つである。つまり一般式(5)中のn+mとn’+m’’ との差を1以上とすることが手法の一つである。又、垂直に交わるそれぞれの骨格に導入する置換基や芳香族環あるいは複素環の種類を違えることで環Aを含む骨格平面の光吸収と、環A’を含む骨格平面の光吸収の差を、溶液状態の長波長末端の比較で30nm以上の差があるようにすることが第二の手法である。この場合、本発明では、環Aを含む骨格平面だけの増感色素と環A’を含む骨格平面だけの増感色素をそれぞれモデル的に合成し、各々の溶液状態の吸収を参考とすることができる。この場合、各々の増感色素の溶液状態の吸収長波長末端の比較が30nm以上であれば本発明の2種類の吸収帯を1分子中に有した増感色素に該当する。また、一般式(2)で環Aを含む骨格平面と環A’を含む骨格平面が異なる増感色素を合成し、その吸収スペクトルが2種類の吸収帯を有し、この2種類の吸収帯が光学的分析手法等や計算化学手法等、解析方法により明らかに各々の平面骨格に帰属可能な場合も本発明の増感色素に該当する。
【0051】
増感色素が一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む構造をとった場合、骨格構造を形成する5員環とこれに縮合する芳香族環あるいは複素環の全てがπ電子共役平面構造をとっている。このため、一般式(4)又は一般式(5)中のn、n’、 m、m’の数を増やせばそれに応じて吸収波長を順次伸ばす事が容易である。このため増感色素として、波長のコントロールが容易な色素としての特徴を有している。
たとえば、有機色素の増感色素の場合、一種類の色素で吸収できる吸収帯の吸収幅が狭い場合が多いが、この場合、可視光領域に対して幅広く光電変換性能を発揮させるには、特定の色素に対して補色的に光吸収できる増感色素を組み合わせて用いることが考えられる。この色素は、容易に補色色素として増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が可能である。
【0052】
又、色素増感太陽電池への製品要求として、意匠性が求められることがある。色素は本来様々な色表現を求められるものであるので、この性質を利用して様々な色合いの増感色素を組み合わせたカラフル太陽電池等が提案されている。色の違いは吸収波長の大きな変化から生じる。共役構造の長さを変えることで、吸収波長の大きな変化をつけることができる。色合いの良非は吸収波長の微妙な差異から生じる。骨格に導入する置換基を変化させることで吸収波長に微妙なな変化をつけることができる。この色素は、目的の色彩を有した増感色素を得るための、増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が可能である。
【0053】
近赤外領域の太陽光に対応した増感色素を得る場合、共役構造が長く延長された色素骨格構造が必要となる。シアニン系色素による近赤外吸収色素設計等に見られるような二重結合の長鎖化を行った場合、耐久性に劣る色素になる。本発明の一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む増感色素は共役構造を長く延長しても、芳香族環あるいは複素環の繰り返し単位が基本構造であるので、耐久性において非常に強い増感色素となる。芳香族環あるいは複素環の繰り返し単位の構造であっても、本発明の一般式(1)又は一般式(2)ように5員環を介在させる構造でなければ、耐久性は高くとも、吸収波長の長波長化や、容易な波長コントロールが不可能である。
【0054】
又、一般式(1)の構造の複素環がピリジン環であり、Ru金属色素の配位子となり得るポリピリジン構造をとった場合、ピリジン環中の窒素が持つ孤立電子対の張り出し方向をこれまでのポリピリジンでは不可能であった方向へ微調整可能なので、色素構造をより安定で高変換効率を有するものにできる可能性がある。
【0055】
図1は、増感色素として一般式(6)の構造に表(1)中の分子構造繰り返し共鳴単位構造を適用した場合の、分子軌道計算に基づく吸収スペクトルのシュミレーション図である。分子軌道計算において、分子構造の最適化にはAM1ハミルトニアンを用い、これにZIND法を適用して吸収スペクトルを算出した。この場合の様に、ビフェニルやポリフェニル構造を計算の対象に含む場合、分子構造の最適化にPM3ハミルトニアンを用いることは、たとえばビフェニル構造中の2つのフェニルの近接する非結合な水素原子間の相互作用を過大に安定に評価するので、実際の構造とは違って芳香環が平面に並ぶ構造として算出されるので、適切ではないことが指摘されている。
この分子軌道計算では、吸収スペクトルは分子が真空中で1分子孤立状態のものとして計算される。実際の色素溶液ではこれよりも長波長側に相似的にシフトした吸収スペクトルが得られる。さらに酸化チタンに吸着された状態では色素吸収は一般的に溶液中のスペクトルより長波長化するので、実際の色素増感太陽電池用の電極の光吸収領域は図1〜3の吸収スペクトルよりは大きく長波長化したものとして得られるが、色素の分子構造変化に対して吸収スペクトルが長波長化するか否か等の変化の傾向を算出することは可能である。
ポリフェニル的な増感色素が繰り返し共鳴単位を伸ばしても長波長化しにくい(図2)のに対して、ポリフルオレン的な増感色素が繰り返し共鳴単位を伸ばすことで容易に長波長化できる性質を有した構造であることがわかる(図1)。さらにこのポリフルオレン的な構造に組み込まれる芳香族環あるいは複素環の一端の環を電子供与性の複素環、他端を電子吸引性の複素環等にデザインすれば、吸収波長をより長波長化させることが可能である。図3には参考としてポリビニル的な増感色素の計算結果を付け加えた。
【0056】
一般式(6)
【化9】
【0057】
(式中pは繰り返し単位構造の数。Uは任意の繰り返し共鳴単位(ジメチルフルオレン単位、フェニル単位、ビニル単位。ただしp=1の時ジメチルフルオレン単位としてはフェニル構造を適用。)。Upは任意の繰り返し共鳴単位構造がp数に対応して結合して成る骨格構造部で詳しくは表(1)に掲載。)
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む構造をとることによって、高い耐久性と、π電子系の鎖長変化による容易な波長コントロール性とを同時に有した増感色素を初めて提供することができる。
【0060】
次に、一般式(1)及び一般式(2)の構造について説明する。
【0061】
一般式(1)又は一般式(2)中、環A、環B、環A’ 、環B’、環Cは、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
これらには芳香族炭化水素の芳香環、複素環等が挙げられる。
【0062】
芳香族炭化水素の芳香環としては、特に制限はないが、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、フェナンスレン、インデン、アズレン、ペリレン、フルオレン、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
【0063】
複素環としては、特に制限はないが、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピラゾール、ピラゾリジン、ピラン、クロメン、ピロール、ベンゾイミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、トリアジン、ジアゾール、モルホリン、インドリン、チオフェン、フラン、オキサゾール、チアジン、チアゾール、インドール、ベンゾチアゾール、ナフトチアゾール、ベンゾオキサゾール、ナフトオキサゾール、インドレニン、ベンゾインドレニン、ピラジン、キノリン、キナゾリン、カルバゾール、クマリン等が挙げられる。
また、これらの複素環は4級化されていてもよく、対イオンを有しても良い。この場合の対イオンは、特に制限はなく、一般的な陰イオンでよい。例としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフッ化ホウ素イオン、ヘキサフッ化リンイオン、水酸化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間のカルボキシル基等の酸性基で中和されていても良い。
【0064】
上記の芳香族炭化水素の芳香環、複素環は有機残基で置換されていても良い。本発明において、置換基および有機残基は特に制限はないが、例えば、アルキル基、アリール基、シアノ基、イソシアノ基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、ニトロ基、ニトロシル基、アシル基、ハロゲン原子、ケトン基、ヒドロキシル基、置換基を有しても良いメルカプト基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いアミド基、アルコキシル基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シリル基等があげられる。又、これらの結合体であってもよく、2重結合を介した結合体であっても良い。
【0065】
アルキル基としては、置換基を有しても良い炭素数1〜30の直鎖、分岐及び環状の炭化水素基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基といった炭素数1〜30のアルキル基があげられる。
【0066】
また、アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基といった炭素数1〜20のアルコキシル基があげられる。
【0067】
また、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アンスリルオキシ基といった炭素数6〜20のアリールオキシ基があげられる。
【0068】
また、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基といった炭素数1〜20のアルキルチオ基があげられる。
【0069】
また、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、2−メチルフェニルチオ基、4−tert−ブチルフェニルチオ基といった炭素数6〜20のアリールチオ基があげられる。
【0070】
また、アリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシリル基、p−クメニル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、9−フェナントリル基、1−アセナフチル基、2−アズレニル基、1−ピレニル基、2−トリフェニレル基等の炭素数6〜30のアリール基があげられる。
【0071】
また、置換アミノ基としては、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−フェニル−N−メチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ビス(m−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−ビフェニリル)アミノ基、ビス[4−(4−メチル)ビフェニリル]アミノ基、N−p−ビフェニリル−N−フェニルアミノ基、N−α−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−β−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−フェナントリル−N−フェニルアミノ基等の炭素数1〜30の置換アミノ基があげられる。
【0072】
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ピバロイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、アニソイル基、シンナモイル基等があげられる。
【0073】
また、アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等があげられる。
【0074】
また、アルキルスルホニル基としては、メシル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基等があげられる。
【0075】
また、アリールスルホニル基としては、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基等があげられる。
【0076】
また、シリル基としては、アルキルシリル基、アリールシリル基等があげられ、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等があげられる。
【0077】
一般式(1)中のDは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。R3は、2価の有機残基を表す。さらに、EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。R6は、2価の有機残基を表す。有機残基については前述の通りである。
一般式(2)中のD’ は炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、ケイ素原子のいずれかである。一般式(1)中のDがN+R1R2、又は一般式(2)中のD’が4価の窒素原子又はEかFがN+R4R5であった場合、陰イオンで等で中和する。陰イオンの例としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフッ化ホウ素イオン、ヘキサフッ化リンイオン、水酸化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間のカルボキシル基等の酸性基で中和されていても良い。又、一般式(1)中のDがB−R1R2、又は一般式(2)中のD’が4価のホウ素原子又はEかFがB−R4R5であった場合、陽イオンで等で中和する。陽イオンの例としては4級アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間の4級化された複素環構造等で中和されていても良い。
【0078】
次に、一般式(1)又は一般式(2)中の酸性置換基について説明する。酸性置換基は増感色素の構造中で無機酸化物多孔質半導体表面に連結することができる置換基として存在する。光励起された色素の励起電子は無機酸化物多孔質半導体の電導帯にこの酸性置換基を通じて電子注入を行うことができる。酸性置換基は具体的には、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、酸アミド基、ホウ酸基、スクアリン酸を挙げることができる。酸性置換基は、水素原子の一部が、陽イオンもしくは置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、置換されてもよいシリル基で置換されてもよい。
ここでいう陽イオンとは、酸性基と塩を形成しうる各種の陽イオンを意味し、具体的には、4級アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等があげられる。
【0079】
4級アンモニウムイオンの例としては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオンや、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンといった含窒素複素芳香族のイオン等があげられる。
【0080】
また、アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等があげられる。
また、酸性置換基の水素原子の一部が、アルキル基、アリール基、シリル基で置換された場合、これらは前述の置換基の説明と同じものが例示できる。
これらアルキル基、アリール基、シリル基を含んだ化合物の場合、酸化チタン電極等に増感色素を吸着させる時に染色溶剤中に適切量の水と必要に応じて酸又はアルカリを含ませて適切な温度条件でエステル加水分解を行いながら電極表面に吸着させることができる。
【0081】
一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む増感色素は酸性置換基を直接あるいは2価の有機残基を介して有している。酸性置換基が2価の有機残基を介する場合に、当該有機残基は置換基を有して良いビニル基又はポリビニル基であることが望ましい。さらにこのビニル基又はポリビニル基が一般式(3)の部分構造を含むことが望ましい。
【0082】
一般式(3)
【化10】
【0083】
(式中、Wは酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体を表し、
Xはシアノ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、トリフルオロアセチル基、置換スルホニル基のいずれかを表し、
Yは水素原子もしくは1価の有機残基を表し、
Zは、一般式(1)または一般式(2)の環A、環B、環A’、環B’、環Cのいずれか、又はいずれかの環に結合するビニル基又はポリビニル基を表す。
WとY、YとZは、置換基同士で結合して環を形成してもよい。さらにWとXは入れ替わっても良い。)
【0084】
一般式(3)の構造をとることによって初めて酸性置換基は、最も近傍に電子吸引基を有しながら、かつ酸性置換基近傍まで色素クロモファーであるπ電子共役平面骨格からのπ電子共役を繋げることができる。この構造により、色素クロモファーが光吸収することによって生じた励起電子をπ電子共役系を通って酸性置換基へ伝え、さらに電子吸引基の存在により励起電子を酸性置換基近傍に局在化させ、さらには酸性置換基を介して、これが吸着する無機酸化物半導体多孔質表面に有効に電子注入することが可能となり、ひいては高い光電変換効率を有する光電変換セルの作成が可能となる。
【0085】
以下、表2に、本発明の光電変換用増感色素として用いることができる化合物の代表例を示すが、本発明は、なんらこれらに限定されるものではない(表2中、Phはフェニル基を表す。)。さらに、本明細書では化合物の代表構造式として2重結合構造に起因するシス−トランス異性体の一部を示すが、これは存在し得る同異性体の全てを含んでいる。
表2
【0086】
【表2】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
ところで、本発明において用いられる光電変換用増感色素は、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式を含む増感色素がカバーしきれない領域の太陽光吸収を補うために他の増感色素と組み合わせて用いる事ができる。ここにおいて他の増感色素としてはアゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素等、およびその誘導体等が挙げられる。
【0094】
以下、本発明で使用される光電変換用増感色素以外の材料について説明する。好ましい材料の種類、量比等について具体的に述べるが必ずしもこれに限定されるものではない。
【0095】
(無機酸化物)
本発明において用いられる光電変換用増感色素は連結基を介して無機半導体多孔質体表面に連結することによって無機半導体多孔質体が増感された光電変換材料を形成する。無機半導体は一般的に一部の領域の光に対して光電変換機能を有しているが、この表面が増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となる。無機半導体多孔質体の材質としては主に無機酸化物が用いられるが、増感色素を連結することによって光電変換機能を有する無機半導体多孔質体ならこれに限らない。無機半導体としてはシリコン、ゲルマニウム、III族‐V族系半導体、金属カルコゲニド等が挙げられる。本発明で用いられる無機酸化物半導体多孔質体としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、酸化バナジウム等の多孔質体を挙げることができるが、これらの表面が増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となるものであればこれに限らない。無機酸化物半導体多孔質体表面が増感色素によって増感されるためには無機酸化物の電導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが望ましい。このため前記無機酸化物半導体多孔質体の中でも酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ等が特に用いられる。さらに、価格や環境衛生性等の点から、酸化チタンが特に用いられる。本発明においては前記無機酸化物半導体多孔質体から一種又は複数の種類を選択して組み合わせることができる。
【0096】
(無機酸化物の多孔質化)
無機半導体多孔質体は多量の増感色素をその表面に連結し、ひいては高率な光電変換能力を有する目的で、多孔質化することにより広い表面積を有している。多孔質化の方法としては、粒子径が数から数十ナノメートルの酸化チタン等の無機酸化物粒子をペースト化した後に焼結する方法が広く知られているが、多孔質化して広い表面積を得る方法であればこれに限らない。
【0097】
(光電変換電極)
本発明において用いられる光電変換材料は電導性表面を有する透明基材の電導面に積層することによって光電変換電極を形成する。
【0098】
(電導性表面)
用いられる電導性表面としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない導電材料なら特に限定されないが、ITO(インジウム−スズ酸化物)や酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等の電導性の良好な金属酸化物が好適である。
【0099】
(透明基材)
用いられる透明基材としては太陽光の可視から近赤外領域に対して光り吸収が少ない材料であれば特に限定されない。石英、並ガラス、BK7、鉛ガラス等のガラス基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニール等の樹脂基材等を用いることができる。
【0100】
(積層方法)
本発明において用いられる光電変換材料を電導性表面を有する透明基材の電導面に積層する方法としては、電導面にペースト化した無機酸化物粒子を塗布後乾燥又は焼結させて無機酸化物半導体多孔質体を形成し、これを透明基材ごと増感色素を溶解させた溶液中に浸すことにより無機多孔質表面と増感色素の連結器の親和性を利用して増感色素を無機多孔質表面に結合させる方法が一般的であるが、この方法に限定されない。無機酸化物粒子をペースト化させるためには無機酸化物粒子を水又は適当な有機溶剤中に分散させる。均質で表面積が大きい無機多孔質表面として積層させるには分散性の良いペーストにすることが大切なので、必要に応じて、硝酸やアセチルアセトン等の酸やポリエチレングリコール、トリトンX−100等の分散剤をペースト成分に混合し、ペイントシェーカー等を用いてペースト化する。ペーストを透明基材の電導面に塗布する方法としてはスピンコーターによる塗布方法やスクリーン印刷法、スキージーを用いた塗布方法、ディップ法、吹き付け法、ローラー法等が用いられる。塗布された無機酸化物ペーストは乾燥又は焼成後ペースト中の揮発成分が除去され透明基材の電導面上に無機酸化物半導体多孔質体を形成する。乾燥又は焼成の条件としてはたとえば400℃から500℃の温度で30分〜1時間程度の熱エネルギーを与える方法が一般的であるが、透明基材の電導面に密着性を有し、太陽光照射時に良好な起電力が得られる乾燥又は焼成方法であるならこれに限らない。
【0101】
増感色素を溶解させた溶液を作るためには、溶剤としてエタノールベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、サクサンブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の炭水化物系位溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3‐ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水等を用いることができるがこれに限らない。
透明基材の電導面上に形成される無機酸化物半導体多孔質体の膜厚は0.5μm以上200μm以下であることが望ましい。膜厚がこの範囲未満である場合有効な変換効率が得られない。又膜厚がこの範囲より厚い場合成膜時に割れや剥がれが生じる等作成が困難になる反面、無機酸化物半導体多孔質体表層と電導面との距離が増えるために発生電荷が電導面に有効に伝えられなくなるので、良好な変換効率を得にくくなる。
【0102】
(光電変換セル)
本発明において用いられる光電変換電極は、電解質層を介して導電性対極を組み合わせることによって光電変換セルを形成する。
【0103】
(電解質層)
本発明で用いられる電解質層は電解質、媒体、および添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI2、CaI2、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等)の混合物、Br2と臭化物(例としてLiBr等)の混合物、Inorg. Chem. 1996,35,1168−1178に記載の溶融塩等を用いることができるがこの限りではない。この中でもI2とヨウ化物の組み合わせとしてLiI、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等を混合した電解質が本発明では好ましいがこの組み合わせ方に限らない。
好ましい電解質濃度は媒体中I2が0.01M以上0.5M以下でありヨウ化物の混合物が0.1M以上15M以下である。
【0104】
本発明で電解質層に用いられる媒体は、良好なイオン電導性を発現できる化合物であることが望ましい。溶液状の媒体としては、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3‐メチル‐2‐オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
又、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、ポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを前記溶液状媒体中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを前記溶液状媒体中で重合させて媒体を固体状にする。
電解質層としてはこの他、CuI、CuSCN媒体を必要としない電解質および、Nature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583−585記載の2,2’,7,7’‐テトラキス(N,N‐ジ‐p‐メトキシフェニルアミン)9,9’‐スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
本発明に用いられる電解質層には光電変換セルの電気的出力を向上させたり、耐久性を向上させる働きをする添加物を添加することができる。電気的出力を向上させる添加物として4‐t‐ブチルピリジンや、2‐ピコリン、2,6‐ルチジン等が挙げられる。耐久性を向上させる添加物としてMgI等が挙げられる。
【0105】
(導電性対極)
本発明で用いられる電導性対極は光電変換セルの正極として機能するものである。具体的に対極に用いる導電性の材料としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウム‐スズ酸化物)や酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛)、または炭素等が挙げられる。対極の膜厚は、特に制限はないが、5nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0106】
(組み立て方)
前記の光電変換電極と導電性対極を電解質層を介して組み合わせることによって光電変換セルを形成する。必要に応じて電解質層の漏れや揮発を防ぐために、光電変換セルの周囲に封止を行う。封止には熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、ガラスフリット等を封止材料として用いることができる。光電変換セルは必要に応じて小面積の光電変換セルを連結させて作る。光電変換セルを直列に組み合わせることによって起電圧を高くすることができる。
【0107】
【実施例】
以下に実施例を具体的に示すが本発明は以下に限定されるものではない。
(実施例1)
・化合物(1)の合成
下式により化合物(1)の合成を行った。式中のアルデヒド誘導体は、フルオレン誘導体を臭素化エチルでエチル化した後、両末端のフェニル部位をそれぞれ臭素化した後、一方の臭素化部位をパラジウム触媒を用いてジフェニルアミンで置換し、もう一方の臭素化部位をn−ブチルリチウム、DMFでホルミル化することにより合成した。マススペクトル、NMRスペクトル、IRスペクトルにより、化合物(1)の構造を確認した。
【0108】
【化11】
【0109】
化合物(1)
【化12】
【0110】
・増感色素のエタノールへの溶解性確認試験
増感色素の溶解性を下記の方法で試験した。
エタノール10mlに増感色素10mgを添加し、振とうしながら溶解性を肉眼で確認した。得られた結果に下記の分類を行った。
1分以内で溶解 ◎
5分以内で溶解 ○
30分以内で溶解 △
30分たっても不溶分が残る ×
【0111】
・光電変換電極の光暴露保存安定性試験
後述する増感色素の吸着の方法で光電変換電極を作成し、これを蛍光灯下3000luxの条件で3日間照射して光暴露保存安定性を調べた。光電変換電極の色素濃度をマクベス濃度計で測定し、光暴露前後で濃度比較をして光電変換電極に吸着した色素の光暴露に対する保存安定性を調べた。
濃度低下率が10%未満 ◎
濃度低下率が25%未満 ○
濃度低下率が50%未満 △
濃度低下率が50%以上 ×
【0112】
光電変換用色素の評価について説明する。
・透明電極
フッ素ドープ酸化スズ層付ガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−TCO)を使用した。
【0113】
・酸化チタンペーストの調整
下記処方でジルコニアビーズと混合し、ペイントシェーカーを用いて分散して酸化チタンペーストを得た。
酸化チタン(日本アエロジル社製 P25 粒子径 21nm) 6 重量部
水(硝酸添加でpH2に調整した物) 14 重量部
アセチルアセトン 0.6重量部
界面活性剤(ICN社製 Triton X−100) 0.04重量部
PEG‐#500,000 0.3重量部
【0114】
・酸化チタン多孔質層の作成
透明電極の電導面に厚さ60μmのメンディングテープを張り、1cm角のテープを除去することでマスクを作り、空いた部分にペーストを数的垂らした後にスキージーで余分なペーストを除去した。風乾後全てのマスクを除去し、450℃のオーブンで1時間焼成することで有効面積1cm2の酸化チタン多孔質層を有した酸化チタン電極を得た。
【0115】
・増感色素の吸着
増感色素をアルコール、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、Nメチルピロリドン等の溶剤に溶解し、必要に応じてメンブランフィルターで不溶分を除去し、この色素溶液に酸化チタン電極を浸し、室温又は必要に応じて加熱し数時間から数日の間これを放置する。着色した電極表面を使用溶剤およびアルコールで洗浄した後、4‐t‐ブチルピリジンの2mol%溶液に30分浸した後乾燥させることで増感色素の吸着した光電変換電極を得た。
【0116】
・電解質溶液の調整
下記処方で電解質溶液を得た。
溶媒 メトキシアセトニトリル
LiI 0.1M
I2 0.05M
4‐t‐ブチルピリジン 0.5M
1‐プロピル‐2,3‐ジメチルイミダゾリウムヨージド 0.6M
【0117】
・光電変換セルの組み立て
図1の様に光電変換セルの試験サンプルを組み立てた。
導電性対極にはフッ素ドープ酸化スズ層付ガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−TCO)の導電層上にスパッタリング法により150nmの白金層を積層した物を用いた。
樹脂フィルム製スペーサーとしては、三井・デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」フィルムの25μm厚の物を用いた。
【0118】
・変換効率の測定方法
ORIEL社製ソーラーシュミレーター(#8116)をエアマスフィルターとを組み合わせ、光量計で100mW/cm2 の光量に調整して測定用光源とし、光電変換セルの試験サンプルに光照射をしながら英弘精機社製I‐Vカーブトレーサー(MP160)を使用してI‐Vカーブ特性を測定した。変換効率ηは、I‐Vカーブ特性測定から得られたVoc(開放電圧値)、Isc(短絡電流値)、ff(フィルファクター値)を用いて下式により算出した。
【0119】
【式1】
【0120】
(実施例2〜3)
実施例1と同様の方法で化合物(2)〜(3)を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。
【0121】
化合物(2)
【化13】
【0122】
化合物(3)
【化14】
【0123】
(比較例)
(比較例1)
一般式(1)と、電子供与基−酸性置換基間の共鳴単位の繰り返し数が同数で、吸収帯の長波長端位置も近似の増感色素例として比較化合物を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。
【0124】
比較化合物(101) (化合物(1)に対する比較化合物 )
【化15】
【0125】
(比較例2)
一般式(1)よりも電子供与基−酸性置換基間の共鳴単位の繰り返し数が少ない感色素例として比較化合物を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。比較例に用いた増感色素は一般式(1)のR1R2の両方共水素である構造なので耐久性や溶解性の結果が悪いものとなっている。
【0126】
比較化合物(102) (化合物(1)に対する比較化合物 )
【化16】
【0127】
(結果)
実施例と比較例の結果を表(3)にまとめた。
【0128】
表(3)
【表3】
【0129】
【発明の効果】
本発明において一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素を用い、枯渇性のない材料でかつ高い光電変換効率を有する光電変換セルを提供することができた。さらには太陽光に対して幅広い波長領域で光電変換機能を発現でき、吸収波長のコントロール性を有しかつエタノール等の環境負荷の小さな溶剤に対して溶解性が高く生産性の良い増感色素を提供できた。
ひいては高効率で量産性のある光電変換材料、光電変換電極および光電変換セルを作成することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は一般式(6)の繰り返し構造U部としてジメチルフルオレン単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図2】図2は一般式(6)の繰り返し構造U部としてフェニル単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図3】図3は一般式(6)の繰り返し構造U部としてビニル単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図4】図4は、光電変換セル試験サンプルを表す。
【符号の説明】
1.酸化チタン多孔質層(光電変換用増感色素が吸着済)
2.電解質溶液層
3.透明電極層(フッ素ドープ型酸化スズ)
4.Pt電極層
5.ガラス基盤
6.樹脂フィルム製スペーサー
7.変換効率測定用導線
【発明の属する技術分野】
本発明は、光電変換用増感色素、これを用いた光電変換材料、光電変換電極、およびこれを用いた光電変換セルに関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽光発電は単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、テルル化カドミウムやセレン化インジウム銅などの化合物太陽電池が実用化、もしくは研究開発対象となっているが、普及させる上で製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイムが長い等の問題点を克服する必要がある。一方、大面積化や低価格を指向した有機材料を用いた太陽電池もこれまでに多く提案されているが変換効率が低く、耐久性も悪いという問題があった。
【0003】
こうした状況の中で、色素によって増感された半導体微多孔質体を用いた光電変換電極および光電変換セル、ならびにこれを作成するための材料および製造技術が開示された(非特許文献1および特許文献1参照)。開示された電池は、ルテニウム錯体色素によって分光増感された酸化チタン多孔質薄層を作用電極としヨウ素を主体とする電解質層および対電極から成る色素増感型の光電変換セルである。この方式の第一の利点は酸化チタン等の安価な酸化物半導体を用いるため、安価な光電変換素子を提供できる点であり、第二の利点は用いられるルテニウム錯体色素が可視光域に幅広く吸収を有していることから比較的高い変換効率が得られる点である。
【0004】
このような色素増感型の光電変換セルの問題点のひとつとして、色素の原料にルテニウムを用いていることが挙げられる。ルテニウムはクラーク数が0.01ppmと白金やパラジウムに匹敵する量しか地球に現存せず、大量に使われると枯渇が免れない。さらにルテニウム錯体色素の価格も高価な物となり、光電変換セルの大量普及の妨げとなる。このため脱ルテニウム系の増感色素の研究が近年盛んとなってきている。たとえば特開平10‐92477号公報にはルテニウムを原料としない増感色素が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
最近、色素増感型太陽電池における増感色素として、非ルテニウム錯体色素の研究が盛んに行なわれている。その例としてはフェニルキサンテン系色素、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、シアニン形色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素等があげられる。これらの有機色素はルテニウム錯体に比較して吸光係数が大きく、分子設計の自由度も大きいため、高い光電変換効率が期待されている。しかしながら、色素の光吸収領域がせまかったり、酸化チタンへの電荷の注入が非効率的である等の理由から、良い有機増感色素はなかった。
【0006】
これらの問題を解決するため、酸化チタンとの吸着末端に特徴をもたせた増感色素として、置換アクリル酸部位を持つ増感色素が比較的高い変換効率を有することが開示されている(特許文献3、4参照)。これらの増感色素に特徴的な点はアクリル酸末端のカルボン酸基が結合する炭素原子が同時にシアノ基を代表とする電子吸引性置換基を有することによりアクリル酸末端の電子吸引効果を増大させている点にある。増感色素は末端のカルボン酸基で酸化チタン等の無機酸化物多孔質半導体表面に結着し、増感色素が光吸収することによって生じた励起電子をカルボン酸基を通して無機酸化物側へ注入しているが、この部位の電子吸引効果が強くなることによって電子注入効果が促進され、ひいては高い変換効率を実現している。代表的な例はクマリン骨格とシアノ基を有するアクリル酸末端とを組み合わせた増感色素で、5%以上の高い変換効率を実現している(非特許文献2参照)。
【0007】
しかしクマリン骨格等な骨格単体での基本的な吸収波長領域は可視光領域の中で比較的短波長側に寄っているため、この骨格を基に長波長化を図ろうとすれば長鎖の二重結合部位などを導入することになる。長鎖の二重結合部位は活性酸素等に酸化されやすい等、耐久性の弱い性質を有している。シアニン系色素等も長鎖二重結合部位を有し、耐久性の弱い色素の一例である。とりわけ、二重結合の長鎖化で近赤外領域の太陽光に対応した増感色素を設計した場合、この耐久性の弱さは顕著なものとなってくる。一方、フタロシアニン系色素などの様に元々の吸収波長領域が長波長領域にある色素は分子量が大きくなりがちでかつ、クロモファーを形成するπ電子平面骨格同士のスタッキング特性による会合力が強く、染色溶剤への溶解性が悪い、会合のし易さ等が原因で増感色素同士で光吸収を阻害し合うため変換効率が低い等、増感色素としての利用しにくさを有していた。
【0008】
有機色素の増感色素の場合、一種類の色素で吸収できる吸収帯の吸収幅が狭い場合が多い。この場合、可視光領域に対して幅広く光電変換性能を発揮させるには、特定の色素に対して補色的に光吸収できる増感色素を組み合わせて用いることが考えられる。この目的のためには、容易に補色色素として増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が求められていた。
【0009】
又、二種類以上の増感色素を組み合わせる場合、染色溶液に溶解後、増感色素を無機酸化物半導体多孔質体を有する電極に吸着させる電極の製造工程でその比率を安定的に組み合わせることは困難である。二種類以上の増感色素を組み合わせる場合は、(その1)二種の増感色素それぞれに色素溶液を作り、順番に染色する、(その2)一つの色素溶液に2種の増感色素を混合する、の方法が考えられるが、前者の方法では最初に吸着した色素が2番目の色素溶液に混入し、製造を進めるにつれて2種の色素の吸着比率が変化してくる、後者の方法では2種の色素の吸着能力の違いが原因となって、製造を進めるにつれて2種の色素の吸着比率が変化してくる等が生じ、製造途中での微妙な色素濃度と比率の調整が求められる事になる。2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方を提供する色素設計が求められていた。
【0010】
さらに、色素増感太陽電池への製品要求として、意匠性が求められることがある。色素は本来様々な色表現を求められるものであるので、この性質を利用して様々な色合いの増感色素を組み合わせたカラフル太陽電池等が提案されている(特許文献5参照)。色の違いは吸収波長の大きな変化から生じる。色合いの良非は吸収波長の微妙な差異から生じる。 目的の色彩を有した増感色素を得るには、増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が求められていた。
【0011】
長鎖二重結合部位等のように耐久性の弱い部位の導入にたよらず、耐久性の強い骨格構造を有し、溶解性も良好で、かつ、補色色素や色彩重視の増感色素として吸収波長のコントロールもしやすく、近赤外領域の増感色素の設計をも可能であり、2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方が可能であり、ひいては安価で高い変換効率特性を有した光電変換セルを提供できる増感色素が求められていた。
【0012】
【非特許文献1】Nature(第353巻、第737〜740頁、1991年)
【非特許文献2】Chem.commun.,(6),569−570(2001)
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開平10‐92477号公報
【特許文献3】特開2002−164089号公報
【特許文献4】WO02/11213号パンフレット
【特許文献5】特開2001−176565号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は耐久性の強い骨格構造を有し、溶解性も良好で、補色色素や色彩重視の増感色素として吸収波長のコントロールもしやすく、近赤外領域の増感色素の設計をも可能であり、2種類以上の吸収を有した増感色素の安定な組み合わせ方をも可能であり、ひいては安価で高い変換効率性能を有する色素増感型光電変換セル用の増感色素を提供することである。
さらにはこの増感色素を無機半導体多孔質体表面に連結させた光電変換材料、および光電変換材料を電導性表面を有する透明基材の電導面に積層して成る光電変換電極、および光電変換電極を電解質層を介して導電性対極を組み合わせて成る光電変換セルを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の増感色素を透明導電性基板上に積層させた無機半導体表面に連結させ、良好な光電変換セルを作成することに成功し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む光機能材料に関する。
一般式(1)
【0016】
【化4】
【0017】
(一般式(1)中、環A、環Bおよび環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
【0018】
また、本発明は、下記一般式(2)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体とを含む上記光機能材料に関する。
一般式(2)
【0019】
【化5】
【0020】
(一般式(2)中、環A、環B、環A’、環B’および環Cは、それぞれ独立に5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
D’は、炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、あるいはケイ素原子を表す。EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。)
【0021】
また、本発明は、酸性置換基が、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、酸アミド基、ホウ酸基、スクアリン酸基から選ばれる官能基であることを特徴とする上記光機能材料に関する。
【0022】
また、本発明は、酸性置換基が、直接又は置換基を有して良いビニル基もしくはポリビニル基で環Aと結合しているものである上記光機能材料に関する。
【0023】
また、本発明は、置換基を有して良いビニル基又はポリビニル基が、一般式(3)の構造を含む上記光機能材料に関する。
一般式(3)
【0024】
【化6】
【0025】
(式中、Wは酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体を表し、
Xはシアノ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、トリフルオロアセチル基、置換スルホニル基のいずれかを表し、
Yは水素原子もしくは1価の有機残基を表し、
Zは、一般式(1)または一般式(2)の環A、環B、環A’、環B’、環Cのいずれか、又はいずれかの環に結合するビニル基もしくはポリビニル基を表す。
WとY、YとZは、置換基同士で結合して環を形成してもよい。さらにWとXは入れ替わっても良い。)
【0026】
また、本発明は、一般式(1)又は一般式(2)が置換アミノ基を含む上記光機能材料に関する。
【0027】
また、本発明は、R1、R2、R4、R5の全てが同時に水素となることがないことを特徴とする上記光機能材料。
【0028】
また、本発明は、上記光機能材料を含んでなる光電変換用増感色素に関する。
【0029】
また、本発明は、さらに、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式含まない増感色素を含んでなる上記増感色素に関する。
【0030】
また、本発明は、上記増感色素と、無機半導体多孔質体とを連結させてなる光電変換材料に関する。
【0031】
また、本発明は、上記光電変換材料を透明電極に積層させてなる光電変換電極に関する。
【0032】
また、本発明は、上記光電変換電極、電解質層、および導電性対極を含んでなる光電変換セルに関する。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、詳細にわたって本発明を説明する。
【0034】
本発明において光機能材料とは光を吸収することによって新たに増感効果、発熱効果、発色効果、退色効果、蓄光効果、相変化効果、光電変換効果、光磁気効果、光触媒効果、光変調効果、光記録効果、ラジカル発生効果等の機能を発現する材料、あるいは逆にこれらの効果を受けて発光機能を有する材料のことをさす。当該光機能材料は、例として光電変換材料、発光材料、光記録材料、画像形成材料、フォトクロミック材料、エレクトロルミネッセンス材料、光導電材料、二色性材料、ラジカル発生材料、酸発生材料、塩基発生材料、蓄光材料、非線形光学材料、第2高調波発生材料、第3高調波発生材料、感光材料、光吸収材料、近赤外吸収材料、フォトケミカルホールバーニング材料、光センシング材料、光マーキング材料、光化学治療用増感材料、光相変化記録材料、光焼結記録材料、光磁気記録材料、光線力学療法用色素および光電変換用増感色素等に幅広く用いることができる。
【0035】
本発明においては一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式を含む光機能材料を主として光電変換用増感色素として用いるので、この材料を主として光電変換用増感色素あるいは増感色素、色素などとして呼称するが、前記の幅広い応用を否定するものではない。
【0036】
本発明の増感色素は、ポリフルオレン的な部分構造を有した増感色素である。ここにおいて、フルオレン的な骨格構造とは、少なくとも2つの独立した芳香環又は複素環の間に、平面5員環構造が縮合した構造を有し、これら芳香環又は複素環同士が同一平面に固定化されたところに特徴をもつ。一般式(1)を基に表現すれば式中の環Aと環Bとこれに挟まれた5員環構造のみの部分である。
【0037】
フルオレンの一般的な定義は、一般式(1)を基に表現すれば、式中の環Aと環Bとこれに挟まれた5員環構造のみの部分であって、たとえば環Aと環Bがフェニル環で5員環のD位置がCH2である物であるが、この5員環の構成原子種や、これに結合する置換基や、環Aと環Bの構造を増感色素に適した形に発展させたものを、ここではフルオレン骨格的な構造等と呼称する。このフルオレン骨格的な構造を繰り返し延長させ、一般式(1)又は一般式(2)の様な部分構造を含む様に発展させたものを、ここではポリフルオレン的な構造等と呼称する。
【0038】
フルオレン骨格的な構造では、2つの独立した芳香環又は複素環を平面に配置できるので、たとえば一方の環に電子供与性を付与させもう一方の環に電子吸引性を付与させる等のドナー−アクセプター構造を設計しやすい上、前出のD位置は骨格の中央部に位置するため、導入した置換基による会合防止や可溶性向上の効果を発現させやすい。これらの点から増感色素設計に適した骨格構造であると言うことができる。
ポリフルオレン的な構造を有する増感色素は、フルオレン的な骨格構造が有する増感色素設計のしやすさと高耐久性等の特性をいかしながら、この構造を繰り返し延長させることによってより長波長領域の光吸収へ対応できるようにした増感色素である。
【0039】
本発明の増感色素はポリフルオレン的な構造を持つ増感色素として、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素として表されるが、さらに詳しくは、繰り返し単位数、n、m、n’、m’ を用いて各々一般式(4)又は一般式(5)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素として表すことができる。
【0040】
一般式(4)
【0041】
【化7】
【0042】
(一般式(4)中、nは1以上の整数。環A、環B、環Cnは、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EnおよびFnの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4nR5n、C=R6n、NR4n、N+R4nR5n、BR1n、B−R4nR5n、あるいはSiR4nR5nを表し、
R4nおよびR5nはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6nは、2価の有機残基を表す。
GおよびHはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基である。)
【0043】
一般式(5)
【化8】
【0044】
(一般式(5)中、nは1以上、m、n’およびm’は0以上の整数。環A、環B、環Cn、環Im、環A’ 、環B’ 、環C’n’、 環I’m’は、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。D’ は、炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、あるいはケイ素原子を表す。EnおよびFnの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4nR5n、C=R6n、NR4n、N+R4nR5n、BR1n、B−R4nR5n、あるいはSiR4nR5nを表し、
R4nおよびR5nはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6nは、2価の有機残基を表す。
JmおよびKmの一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR7mR8m、C=R9m、NR7m、N+R7mR8m、BR7m、B−R7mR8m、あるいはSiR7mR8mを表し、
R7mおよびR8mはそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R9mは、2価の有機残基を表す。
E’n’およびF’n’の一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR4’n’R5’n’、C=R6’n’、NR4’n’、N+R4’n’R5’n’、BR4’n’、B−R4’n’R5’n’、あるいはSiR4’n’R5’n’を表し、
R4’n’およびR5’n’はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6’n’は、2価の有機残基を表す。
J’m’およびK’m’の一方は直接結合で、一方はそれぞれ独立に
CR7’m’R8’m’、C=R9’m’、NR7’m’、N+R7’m’R8’m’、BR7’m’、B−R7’m’R8’m’、あるいはSiR7’m’R8’m’を表し、
R7’m’およびR8’m’はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R9’m’’は、2価の有機残基を表す。
G、H、L、M、G’、H’、L’およびM’ はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基である。)
【0045】
一般式(1)に示す骨格構造のπ電子平面がπ−πスタッキング特性を強く持つので、一般式中の有機残基R1、R2の全てが水素であった場合、物理的に遮蔽するのに有効な置換基がなくなり、骨格同士の会合が起こりやすいので、色素増感太陽電池の製造工程おいては、無機酸化物半導体電極への染色工程で染色溶剤にこの増感色素を溶解させることが困難となる上、析出などもおこりやすくなり、さらには、染色時にも無機酸化物多孔質体への吸着状態でも色素会合したままの吸着となるので、一分子あたりの増感能力が低下しやすくなるので、水素以外の有機残基である方がのぞましい。
【0046】
当該有機残基としてアルキル基等の水素以外の有機残基を有する場合、これらの持つ可溶性基としての効果、極性基としての効果等により染色用溶液への溶解性等を向上させることができる。又、D、E、FがCR1R2、N+R1R2、B−R1R2、あるいはSiR1R2、のように4価の炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、およびホウ素原子である場合、これらの有機残基は必ず骨格平面からはみ出す方向に大きく張り出すので、骨格同士の会合の防止にさらに効果的である。
【0047】
一般式(2)中のD’ は炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、ケイ素原子のいずれかである。
増感色素が一般式(2)の構造をとった場合、環Aを含む骨格構造のπ電子平面と環A’を含む骨格構造のπ電子平面が垂直に交わる構造になるのでπ−πスタッキングによる増感色素同士の会合は起こりにくい。
一般式(2)の構造の増感色素は環A を含む骨格構造のπ電子平面と環A’を含む骨格構造のπ電子平面が同一構造であっても本発明の増感色素に該当するが、さらにそれぞれの骨格構造を違えることにより、各々が有する吸収帯を2種類に違えて分子設計することもできる。
【0048】
この場合、一つの分子構造に幅広波長範囲で光吸収能をもたらすことができる。さらに、製造工程においても、染色溶液に溶解後、増感色素を無機酸化物半導体多孔質体を有する電極に吸着させる電極の製造工程で、2種類の吸収帯の比を常に一定にすることが可能であるので、別々の2種類の色素を吸着させる製造方法より優れている。
【0049】
一般式(2)に類似の骨格構造は色素増感太陽電池の固体電解質(ホール輸送材)の化合物として用いられた例はある(Nature,395,p.583(1998年)が、増感色素としての例は無かった。化学構造の類似性を起因としてこの増感色素はこの固体電解質との間での電子の受け渡しが容易でかつ安定な電池を作成できる等のことが期待できる。
【0050】
一般式(2)の構造で、吸収帯を2種類に違える分子設計としては、環A を含む骨格と環A’を含む骨格のπ電子共役の長さを違えることが手法の一つである。つまり一般式(5)中のn+mとn’+m’’ との差を1以上とすることが手法の一つである。又、垂直に交わるそれぞれの骨格に導入する置換基や芳香族環あるいは複素環の種類を違えることで環Aを含む骨格平面の光吸収と、環A’を含む骨格平面の光吸収の差を、溶液状態の長波長末端の比較で30nm以上の差があるようにすることが第二の手法である。この場合、本発明では、環Aを含む骨格平面だけの増感色素と環A’を含む骨格平面だけの増感色素をそれぞれモデル的に合成し、各々の溶液状態の吸収を参考とすることができる。この場合、各々の増感色素の溶液状態の吸収長波長末端の比較が30nm以上であれば本発明の2種類の吸収帯を1分子中に有した増感色素に該当する。また、一般式(2)で環Aを含む骨格平面と環A’を含む骨格平面が異なる増感色素を合成し、その吸収スペクトルが2種類の吸収帯を有し、この2種類の吸収帯が光学的分析手法等や計算化学手法等、解析方法により明らかに各々の平面骨格に帰属可能な場合も本発明の増感色素に該当する。
【0051】
増感色素が一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む構造をとった場合、骨格構造を形成する5員環とこれに縮合する芳香族環あるいは複素環の全てがπ電子共役平面構造をとっている。このため、一般式(4)又は一般式(5)中のn、n’、 m、m’の数を増やせばそれに応じて吸収波長を順次伸ばす事が容易である。このため増感色素として、波長のコントロールが容易な色素としての特徴を有している。
たとえば、有機色素の増感色素の場合、一種類の色素で吸収できる吸収帯の吸収幅が狭い場合が多いが、この場合、可視光領域に対して幅広く光電変換性能を発揮させるには、特定の色素に対して補色的に光吸収できる増感色素を組み合わせて用いることが考えられる。この色素は、容易に補色色素として増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が可能である。
【0052】
又、色素増感太陽電池への製品要求として、意匠性が求められることがある。色素は本来様々な色表現を求められるものであるので、この性質を利用して様々な色合いの増感色素を組み合わせたカラフル太陽電池等が提案されている。色の違いは吸収波長の大きな変化から生じる。共役構造の長さを変えることで、吸収波長の大きな変化をつけることができる。色合いの良非は吸収波長の微妙な差異から生じる。骨格に導入する置換基を変化させることで吸収波長に微妙なな変化をつけることができる。この色素は、目的の色彩を有した増感色素を得るための、増感色素の波長をコントロールしやすい色素設計が可能である。
【0053】
近赤外領域の太陽光に対応した増感色素を得る場合、共役構造が長く延長された色素骨格構造が必要となる。シアニン系色素による近赤外吸収色素設計等に見られるような二重結合の長鎖化を行った場合、耐久性に劣る色素になる。本発明の一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む増感色素は共役構造を長く延長しても、芳香族環あるいは複素環の繰り返し単位が基本構造であるので、耐久性において非常に強い増感色素となる。芳香族環あるいは複素環の繰り返し単位の構造であっても、本発明の一般式(1)又は一般式(2)ように5員環を介在させる構造でなければ、耐久性は高くとも、吸収波長の長波長化や、容易な波長コントロールが不可能である。
【0054】
又、一般式(1)の構造の複素環がピリジン環であり、Ru金属色素の配位子となり得るポリピリジン構造をとった場合、ピリジン環中の窒素が持つ孤立電子対の張り出し方向をこれまでのポリピリジンでは不可能であった方向へ微調整可能なので、色素構造をより安定で高変換効率を有するものにできる可能性がある。
【0055】
図1は、増感色素として一般式(6)の構造に表(1)中の分子構造繰り返し共鳴単位構造を適用した場合の、分子軌道計算に基づく吸収スペクトルのシュミレーション図である。分子軌道計算において、分子構造の最適化にはAM1ハミルトニアンを用い、これにZIND法を適用して吸収スペクトルを算出した。この場合の様に、ビフェニルやポリフェニル構造を計算の対象に含む場合、分子構造の最適化にPM3ハミルトニアンを用いることは、たとえばビフェニル構造中の2つのフェニルの近接する非結合な水素原子間の相互作用を過大に安定に評価するので、実際の構造とは違って芳香環が平面に並ぶ構造として算出されるので、適切ではないことが指摘されている。
この分子軌道計算では、吸収スペクトルは分子が真空中で1分子孤立状態のものとして計算される。実際の色素溶液ではこれよりも長波長側に相似的にシフトした吸収スペクトルが得られる。さらに酸化チタンに吸着された状態では色素吸収は一般的に溶液中のスペクトルより長波長化するので、実際の色素増感太陽電池用の電極の光吸収領域は図1〜3の吸収スペクトルよりは大きく長波長化したものとして得られるが、色素の分子構造変化に対して吸収スペクトルが長波長化するか否か等の変化の傾向を算出することは可能である。
ポリフェニル的な増感色素が繰り返し共鳴単位を伸ばしても長波長化しにくい(図2)のに対して、ポリフルオレン的な増感色素が繰り返し共鳴単位を伸ばすことで容易に長波長化できる性質を有した構造であることがわかる(図1)。さらにこのポリフルオレン的な構造に組み込まれる芳香族環あるいは複素環の一端の環を電子供与性の複素環、他端を電子吸引性の複素環等にデザインすれば、吸収波長をより長波長化させることが可能である。図3には参考としてポリビニル的な増感色素の計算結果を付け加えた。
【0056】
一般式(6)
【化9】
【0057】
(式中pは繰り返し単位構造の数。Uは任意の繰り返し共鳴単位(ジメチルフルオレン単位、フェニル単位、ビニル単位。ただしp=1の時ジメチルフルオレン単位としてはフェニル構造を適用。)。Upは任意の繰り返し共鳴単位構造がp数に対応して結合して成る骨格構造部で詳しくは表(1)に掲載。)
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む構造をとることによって、高い耐久性と、π電子系の鎖長変化による容易な波長コントロール性とを同時に有した増感色素を初めて提供することができる。
【0060】
次に、一般式(1)及び一般式(2)の構造について説明する。
【0061】
一般式(1)又は一般式(2)中、環A、環B、環A’ 、環B’、環Cは、それぞれ独立に水素又は有機残基を有する5〜20員の芳香族環あるいは複素環を表す。
これらには芳香族炭化水素の芳香環、複素環等が挙げられる。
【0062】
芳香族炭化水素の芳香環としては、特に制限はないが、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、フェナンスレン、インデン、アズレン、ペリレン、フルオレン、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
【0063】
複素環としては、特に制限はないが、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピラゾール、ピラゾリジン、ピラン、クロメン、ピロール、ベンゾイミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、トリアジン、ジアゾール、モルホリン、インドリン、チオフェン、フラン、オキサゾール、チアジン、チアゾール、インドール、ベンゾチアゾール、ナフトチアゾール、ベンゾオキサゾール、ナフトオキサゾール、インドレニン、ベンゾインドレニン、ピラジン、キノリン、キナゾリン、カルバゾール、クマリン等が挙げられる。
また、これらの複素環は4級化されていてもよく、対イオンを有しても良い。この場合の対イオンは、特に制限はなく、一般的な陰イオンでよい。例としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフッ化ホウ素イオン、ヘキサフッ化リンイオン、水酸化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間のカルボキシル基等の酸性基で中和されていても良い。
【0064】
上記の芳香族炭化水素の芳香環、複素環は有機残基で置換されていても良い。本発明において、置換基および有機残基は特に制限はないが、例えば、アルキル基、アリール基、シアノ基、イソシアノ基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、ニトロ基、ニトロシル基、アシル基、ハロゲン原子、ケトン基、ヒドロキシル基、置換基を有しても良いメルカプト基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いアミド基、アルコキシル基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シリル基等があげられる。又、これらの結合体であってもよく、2重結合を介した結合体であっても良い。
【0065】
アルキル基としては、置換基を有しても良い炭素数1〜30の直鎖、分岐及び環状の炭化水素基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基といった炭素数1〜30のアルキル基があげられる。
【0066】
また、アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基といった炭素数1〜20のアルコキシル基があげられる。
【0067】
また、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アンスリルオキシ基といった炭素数6〜20のアリールオキシ基があげられる。
【0068】
また、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基といった炭素数1〜20のアルキルチオ基があげられる。
【0069】
また、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、2−メチルフェニルチオ基、4−tert−ブチルフェニルチオ基といった炭素数6〜20のアリールチオ基があげられる。
【0070】
また、アリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシリル基、p−クメニル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、9−フェナントリル基、1−アセナフチル基、2−アズレニル基、1−ピレニル基、2−トリフェニレル基等の炭素数6〜30のアリール基があげられる。
【0071】
また、置換アミノ基としては、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−フェニル−N−メチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ビス(m−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−ビフェニリル)アミノ基、ビス[4−(4−メチル)ビフェニリル]アミノ基、N−p−ビフェニリル−N−フェニルアミノ基、N−α−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−β−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−フェナントリル−N−フェニルアミノ基等の炭素数1〜30の置換アミノ基があげられる。
【0072】
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ピバロイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、アニソイル基、シンナモイル基等があげられる。
【0073】
また、アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等があげられる。
【0074】
また、アルキルスルホニル基としては、メシル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基等があげられる。
【0075】
また、アリールスルホニル基としては、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基等があげられる。
【0076】
また、シリル基としては、アルキルシリル基、アリールシリル基等があげられ、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等があげられる。
【0077】
一般式(1)中のDは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。R3は、2価の有機残基を表す。さらに、EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。R6は、2価の有機残基を表す。有機残基については前述の通りである。
一般式(2)中のD’ は炭素原子、4価の窒素原子、4価のホウ素原子、ケイ素原子のいずれかである。一般式(1)中のDがN+R1R2、又は一般式(2)中のD’が4価の窒素原子又はEかFがN+R4R5であった場合、陰イオンで等で中和する。陰イオンの例としては、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフッ化ホウ素イオン、ヘキサフッ化リンイオン、水酸化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間のカルボキシル基等の酸性基で中和されていても良い。又、一般式(1)中のDがB−R1R2、又は一般式(2)中のD’が4価のホウ素原子又はEかFがB−R4R5であった場合、陽イオンで等で中和する。陽イオンの例としては4級アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。また、対イオンを有さない場合は、分子内または分子間の4級化された複素環構造等で中和されていても良い。
【0078】
次に、一般式(1)又は一般式(2)中の酸性置換基について説明する。酸性置換基は増感色素の構造中で無機酸化物多孔質半導体表面に連結することができる置換基として存在する。光励起された色素の励起電子は無機酸化物多孔質半導体の電導帯にこの酸性置換基を通じて電子注入を行うことができる。酸性置換基は具体的には、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、酸アミド基、ホウ酸基、スクアリン酸を挙げることができる。酸性置換基は、水素原子の一部が、陽イオンもしくは置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、置換されてもよいシリル基で置換されてもよい。
ここでいう陽イオンとは、酸性基と塩を形成しうる各種の陽イオンを意味し、具体的には、4級アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等があげられる。
【0079】
4級アンモニウムイオンの例としては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオンや、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンといった含窒素複素芳香族のイオン等があげられる。
【0080】
また、アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等があげられる。
また、酸性置換基の水素原子の一部が、アルキル基、アリール基、シリル基で置換された場合、これらは前述の置換基の説明と同じものが例示できる。
これらアルキル基、アリール基、シリル基を含んだ化合物の場合、酸化チタン電極等に増感色素を吸着させる時に染色溶剤中に適切量の水と必要に応じて酸又はアルカリを含ませて適切な温度条件でエステル加水分解を行いながら電極表面に吸着させることができる。
【0081】
一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式を含む増感色素は酸性置換基を直接あるいは2価の有機残基を介して有している。酸性置換基が2価の有機残基を介する場合に、当該有機残基は置換基を有して良いビニル基又はポリビニル基であることが望ましい。さらにこのビニル基又はポリビニル基が一般式(3)の部分構造を含むことが望ましい。
【0082】
一般式(3)
【化10】
【0083】
(式中、Wは酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体を表し、
Xはシアノ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、トリフルオロアセチル基、置換スルホニル基のいずれかを表し、
Yは水素原子もしくは1価の有機残基を表し、
Zは、一般式(1)または一般式(2)の環A、環B、環A’、環B’、環Cのいずれか、又はいずれかの環に結合するビニル基又はポリビニル基を表す。
WとY、YとZは、置換基同士で結合して環を形成してもよい。さらにWとXは入れ替わっても良い。)
【0084】
一般式(3)の構造をとることによって初めて酸性置換基は、最も近傍に電子吸引基を有しながら、かつ酸性置換基近傍まで色素クロモファーであるπ電子共役平面骨格からのπ電子共役を繋げることができる。この構造により、色素クロモファーが光吸収することによって生じた励起電子をπ電子共役系を通って酸性置換基へ伝え、さらに電子吸引基の存在により励起電子を酸性置換基近傍に局在化させ、さらには酸性置換基を介して、これが吸着する無機酸化物半導体多孔質表面に有効に電子注入することが可能となり、ひいては高い光電変換効率を有する光電変換セルの作成が可能となる。
【0085】
以下、表2に、本発明の光電変換用増感色素として用いることができる化合物の代表例を示すが、本発明は、なんらこれらに限定されるものではない(表2中、Phはフェニル基を表す。)。さらに、本明細書では化合物の代表構造式として2重結合構造に起因するシス−トランス異性体の一部を示すが、これは存在し得る同異性体の全てを含んでいる。
表2
【0086】
【表2】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
ところで、本発明において用いられる光電変換用増感色素は、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式を含む増感色素がカバーしきれない領域の太陽光吸収を補うために他の増感色素と組み合わせて用いる事ができる。ここにおいて他の増感色素としてはアゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素等、およびその誘導体等が挙げられる。
【0094】
以下、本発明で使用される光電変換用増感色素以外の材料について説明する。好ましい材料の種類、量比等について具体的に述べるが必ずしもこれに限定されるものではない。
【0095】
(無機酸化物)
本発明において用いられる光電変換用増感色素は連結基を介して無機半導体多孔質体表面に連結することによって無機半導体多孔質体が増感された光電変換材料を形成する。無機半導体は一般的に一部の領域の光に対して光電変換機能を有しているが、この表面が増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となる。無機半導体多孔質体の材質としては主に無機酸化物が用いられるが、増感色素を連結することによって光電変換機能を有する無機半導体多孔質体ならこれに限らない。無機半導体としてはシリコン、ゲルマニウム、III族‐V族系半導体、金属カルコゲニド等が挙げられる。本発明で用いられる無機酸化物半導体多孔質体としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、酸化バナジウム等の多孔質体を挙げることができるが、これらの表面が増感色素を連結することによって可視光および/又は近赤外光領域までの光電変換が可能となるものであればこれに限らない。無機酸化物半導体多孔質体表面が増感色素によって増感されるためには無機酸化物の電導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが望ましい。このため前記無機酸化物半導体多孔質体の中でも酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ等が特に用いられる。さらに、価格や環境衛生性等の点から、酸化チタンが特に用いられる。本発明においては前記無機酸化物半導体多孔質体から一種又は複数の種類を選択して組み合わせることができる。
【0096】
(無機酸化物の多孔質化)
無機半導体多孔質体は多量の増感色素をその表面に連結し、ひいては高率な光電変換能力を有する目的で、多孔質化することにより広い表面積を有している。多孔質化の方法としては、粒子径が数から数十ナノメートルの酸化チタン等の無機酸化物粒子をペースト化した後に焼結する方法が広く知られているが、多孔質化して広い表面積を得る方法であればこれに限らない。
【0097】
(光電変換電極)
本発明において用いられる光電変換材料は電導性表面を有する透明基材の電導面に積層することによって光電変換電極を形成する。
【0098】
(電導性表面)
用いられる電導性表面としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない導電材料なら特に限定されないが、ITO(インジウム−スズ酸化物)や酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等の電導性の良好な金属酸化物が好適である。
【0099】
(透明基材)
用いられる透明基材としては太陽光の可視から近赤外領域に対して光り吸収が少ない材料であれば特に限定されない。石英、並ガラス、BK7、鉛ガラス等のガラス基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニール等の樹脂基材等を用いることができる。
【0100】
(積層方法)
本発明において用いられる光電変換材料を電導性表面を有する透明基材の電導面に積層する方法としては、電導面にペースト化した無機酸化物粒子を塗布後乾燥又は焼結させて無機酸化物半導体多孔質体を形成し、これを透明基材ごと増感色素を溶解させた溶液中に浸すことにより無機多孔質表面と増感色素の連結器の親和性を利用して増感色素を無機多孔質表面に結合させる方法が一般的であるが、この方法に限定されない。無機酸化物粒子をペースト化させるためには無機酸化物粒子を水又は適当な有機溶剤中に分散させる。均質で表面積が大きい無機多孔質表面として積層させるには分散性の良いペーストにすることが大切なので、必要に応じて、硝酸やアセチルアセトン等の酸やポリエチレングリコール、トリトンX−100等の分散剤をペースト成分に混合し、ペイントシェーカー等を用いてペースト化する。ペーストを透明基材の電導面に塗布する方法としてはスピンコーターによる塗布方法やスクリーン印刷法、スキージーを用いた塗布方法、ディップ法、吹き付け法、ローラー法等が用いられる。塗布された無機酸化物ペーストは乾燥又は焼成後ペースト中の揮発成分が除去され透明基材の電導面上に無機酸化物半導体多孔質体を形成する。乾燥又は焼成の条件としてはたとえば400℃から500℃の温度で30分〜1時間程度の熱エネルギーを与える方法が一般的であるが、透明基材の電導面に密着性を有し、太陽光照射時に良好な起電力が得られる乾燥又は焼成方法であるならこれに限らない。
【0101】
増感色素を溶解させた溶液を作るためには、溶剤としてエタノールベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、サクサンブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の炭水化物系位溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3‐ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水等を用いることができるがこれに限らない。
透明基材の電導面上に形成される無機酸化物半導体多孔質体の膜厚は0.5μm以上200μm以下であることが望ましい。膜厚がこの範囲未満である場合有効な変換効率が得られない。又膜厚がこの範囲より厚い場合成膜時に割れや剥がれが生じる等作成が困難になる反面、無機酸化物半導体多孔質体表層と電導面との距離が増えるために発生電荷が電導面に有効に伝えられなくなるので、良好な変換効率を得にくくなる。
【0102】
(光電変換セル)
本発明において用いられる光電変換電極は、電解質層を介して導電性対極を組み合わせることによって光電変換セルを形成する。
【0103】
(電解質層)
本発明で用いられる電解質層は電解質、媒体、および添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI2、CaI2、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等)の混合物、Br2と臭化物(例としてLiBr等)の混合物、Inorg. Chem. 1996,35,1168−1178に記載の溶融塩等を用いることができるがこの限りではない。この中でもI2とヨウ化物の組み合わせとしてLiI、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等を混合した電解質が本発明では好ましいがこの組み合わせ方に限らない。
好ましい電解質濃度は媒体中I2が0.01M以上0.5M以下でありヨウ化物の混合物が0.1M以上15M以下である。
【0104】
本発明で電解質層に用いられる媒体は、良好なイオン電導性を発現できる化合物であることが望ましい。溶液状の媒体としては、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3‐メチル‐2‐オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
又、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、ポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを前記溶液状媒体中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを前記溶液状媒体中で重合させて媒体を固体状にする。
電解質層としてはこの他、CuI、CuSCN媒体を必要としない電解質および、Nature,Vol.395, 8 Oct. 1998,p583−585記載の2,2’,7,7’‐テトラキス(N,N‐ジ‐p‐メトキシフェニルアミン)9,9’‐スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
本発明に用いられる電解質層には光電変換セルの電気的出力を向上させたり、耐久性を向上させる働きをする添加物を添加することができる。電気的出力を向上させる添加物として4‐t‐ブチルピリジンや、2‐ピコリン、2,6‐ルチジン等が挙げられる。耐久性を向上させる添加物としてMgI等が挙げられる。
【0105】
(導電性対極)
本発明で用いられる電導性対極は光電変換セルの正極として機能するものである。具体的に対極に用いる導電性の材料としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウム‐スズ酸化物)や酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛)、または炭素等が挙げられる。対極の膜厚は、特に制限はないが、5nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0106】
(組み立て方)
前記の光電変換電極と導電性対極を電解質層を介して組み合わせることによって光電変換セルを形成する。必要に応じて電解質層の漏れや揮発を防ぐために、光電変換セルの周囲に封止を行う。封止には熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、ガラスフリット等を封止材料として用いることができる。光電変換セルは必要に応じて小面積の光電変換セルを連結させて作る。光電変換セルを直列に組み合わせることによって起電圧を高くすることができる。
【0107】
【実施例】
以下に実施例を具体的に示すが本発明は以下に限定されるものではない。
(実施例1)
・化合物(1)の合成
下式により化合物(1)の合成を行った。式中のアルデヒド誘導体は、フルオレン誘導体を臭素化エチルでエチル化した後、両末端のフェニル部位をそれぞれ臭素化した後、一方の臭素化部位をパラジウム触媒を用いてジフェニルアミンで置換し、もう一方の臭素化部位をn−ブチルリチウム、DMFでホルミル化することにより合成した。マススペクトル、NMRスペクトル、IRスペクトルにより、化合物(1)の構造を確認した。
【0108】
【化11】
【0109】
化合物(1)
【化12】
【0110】
・増感色素のエタノールへの溶解性確認試験
増感色素の溶解性を下記の方法で試験した。
エタノール10mlに増感色素10mgを添加し、振とうしながら溶解性を肉眼で確認した。得られた結果に下記の分類を行った。
1分以内で溶解 ◎
5分以内で溶解 ○
30分以内で溶解 △
30分たっても不溶分が残る ×
【0111】
・光電変換電極の光暴露保存安定性試験
後述する増感色素の吸着の方法で光電変換電極を作成し、これを蛍光灯下3000luxの条件で3日間照射して光暴露保存安定性を調べた。光電変換電極の色素濃度をマクベス濃度計で測定し、光暴露前後で濃度比較をして光電変換電極に吸着した色素の光暴露に対する保存安定性を調べた。
濃度低下率が10%未満 ◎
濃度低下率が25%未満 ○
濃度低下率が50%未満 △
濃度低下率が50%以上 ×
【0112】
光電変換用色素の評価について説明する。
・透明電極
フッ素ドープ酸化スズ層付ガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−TCO)を使用した。
【0113】
・酸化チタンペーストの調整
下記処方でジルコニアビーズと混合し、ペイントシェーカーを用いて分散して酸化チタンペーストを得た。
酸化チタン(日本アエロジル社製 P25 粒子径 21nm) 6 重量部
水(硝酸添加でpH2に調整した物) 14 重量部
アセチルアセトン 0.6重量部
界面活性剤(ICN社製 Triton X−100) 0.04重量部
PEG‐#500,000 0.3重量部
【0114】
・酸化チタン多孔質層の作成
透明電極の電導面に厚さ60μmのメンディングテープを張り、1cm角のテープを除去することでマスクを作り、空いた部分にペーストを数的垂らした後にスキージーで余分なペーストを除去した。風乾後全てのマスクを除去し、450℃のオーブンで1時間焼成することで有効面積1cm2の酸化チタン多孔質層を有した酸化チタン電極を得た。
【0115】
・増感色素の吸着
増感色素をアルコール、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、Nメチルピロリドン等の溶剤に溶解し、必要に応じてメンブランフィルターで不溶分を除去し、この色素溶液に酸化チタン電極を浸し、室温又は必要に応じて加熱し数時間から数日の間これを放置する。着色した電極表面を使用溶剤およびアルコールで洗浄した後、4‐t‐ブチルピリジンの2mol%溶液に30分浸した後乾燥させることで増感色素の吸着した光電変換電極を得た。
【0116】
・電解質溶液の調整
下記処方で電解質溶液を得た。
溶媒 メトキシアセトニトリル
LiI 0.1M
I2 0.05M
4‐t‐ブチルピリジン 0.5M
1‐プロピル‐2,3‐ジメチルイミダゾリウムヨージド 0.6M
【0117】
・光電変換セルの組み立て
図1の様に光電変換セルの試験サンプルを組み立てた。
導電性対極にはフッ素ドープ酸化スズ層付ガラス基板(旭ガラス社製 タイプU−TCO)の導電層上にスパッタリング法により150nmの白金層を積層した物を用いた。
樹脂フィルム製スペーサーとしては、三井・デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」フィルムの25μm厚の物を用いた。
【0118】
・変換効率の測定方法
ORIEL社製ソーラーシュミレーター(#8116)をエアマスフィルターとを組み合わせ、光量計で100mW/cm2 の光量に調整して測定用光源とし、光電変換セルの試験サンプルに光照射をしながら英弘精機社製I‐Vカーブトレーサー(MP160)を使用してI‐Vカーブ特性を測定した。変換効率ηは、I‐Vカーブ特性測定から得られたVoc(開放電圧値)、Isc(短絡電流値)、ff(フィルファクター値)を用いて下式により算出した。
【0119】
【式1】
【0120】
(実施例2〜3)
実施例1と同様の方法で化合物(2)〜(3)を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。
【0121】
化合物(2)
【化13】
【0122】
化合物(3)
【化14】
【0123】
(比較例)
(比較例1)
一般式(1)と、電子供与基−酸性置換基間の共鳴単位の繰り返し数が同数で、吸収帯の長波長端位置も近似の増感色素例として比較化合物を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。
【0124】
比較化合物(101) (化合物(1)に対する比較化合物 )
【化15】
【0125】
(比較例2)
一般式(1)よりも電子供与基−酸性置換基間の共鳴単位の繰り返し数が少ない感色素例として比較化合物を合成し、実施例1と同様に増感色素の評価を行った。比較例に用いた増感色素は一般式(1)のR1R2の両方共水素である構造なので耐久性や溶解性の結果が悪いものとなっている。
【0126】
比較化合物(102) (化合物(1)に対する比較化合物 )
【化16】
【0127】
(結果)
実施例と比較例の結果を表(3)にまとめた。
【0128】
表(3)
【表3】
【0129】
【発明の効果】
本発明において一般式(1)又は一般式(2)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む増感色素を用い、枯渇性のない材料でかつ高い光電変換効率を有する光電変換セルを提供することができた。さらには太陽光に対して幅広い波長領域で光電変換機能を発現でき、吸収波長のコントロール性を有しかつエタノール等の環境負荷の小さな溶剤に対して溶解性が高く生産性の良い増感色素を提供できた。
ひいては高効率で量産性のある光電変換材料、光電変換電極および光電変換セルを作成することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は一般式(6)の繰り返し構造U部としてジメチルフルオレン単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図2】図2は一般式(6)の繰り返し構造U部としてフェニル単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図3】図3は一般式(6)の繰り返し構造U部としてビニル単位を有した場合の繰り返し単位数pに応じたAM3‐ZIND法による吸収スペクトル変化のシュミレーション結果である。
【図4】図4は、光電変換セル試験サンプルを表す。
【符号の説明】
1.酸化チタン多孔質層(光電変換用増感色素が吸着済)
2.電解質溶液層
3.透明電極層(フッ素ドープ型酸化スズ)
4.Pt電極層
5.ガラス基盤
6.樹脂フィルム製スペーサー
7.変換効率測定用導線
Claims (12)
- 下記一般式(1)の部分構造式と、酸性置換基またはその塩もしくはエステル誘導体と、を含む光機能材料。
一般式(1)
Dは、CR1R2、C=R3、NR1、N+R1R2、BR1、B−R1R2、あるいはSiR1R2を表し、
R1およびR2はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R3は、2価の有機残基を表す。
EおよびFの一方は直接結合で、一方はCR4R5、C=R6、NR4、N+R4R5、BR1、B−R4R5、あるいはSiR4R5を表し、
R4およびR5はそれぞれ独立に水素あるいは1価の有機残基を表す。
R6は、2価の有機残基を表す。) - 酸性置換基が、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、酸アミド基、ホウ酸基、スクアリン酸基から選ばれる官能基であることを特徴とする請求項1または2記載の光機能材料。
- 酸性置換基が、直接又は置換基を有して良いビニル基もしくはポリビニル基で環Aと結合しているものである請求項1〜3いずれか記載の光機能材料。
- 一般式(1)又は一般式(2)が置換アミノ基を含む請求項1〜5いずれか記載の光機能材料。
- R1、R2、R4、R5の全てが同時に水素となることがないことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の光機能材料。
- 請求項1〜7いずれか記載の光機能材料を含んでなる光電変換用増感色素。
- さらに、一般式(1)又は一般式(2)で表される部分構造式含まない増感色素を含んでなる請求項8記載の増感色素。
- 請求項8または9記載の増感色素と、無機半導体多孔質体とを連結させてなる光電変換材料。
- 請求項10記載の光電変換材料を透明電極に積層させてなる光電変換電極。
- 請求項11記載の光電変換電極、電解質層、および導電性対極を含んでなる光電変換セル。
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