JP2004292321A - Dpm1由来ペプチド - Google Patents
Dpm1由来ペプチド Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004292321A JP2004292321A JP2003083823A JP2003083823A JP2004292321A JP 2004292321 A JP2004292321 A JP 2004292321A JP 2003083823 A JP2003083823 A JP 2003083823A JP 2003083823 A JP2003083823 A JP 2003083823A JP 2004292321 A JP2004292321 A JP 2004292321A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- dmp1
- peptide
- antibody
- antibodies
- bone
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Abstract
【課題】本発明の課題は、石灰化促進因子、特にDMP1由来のペプチドのうち有効なエピトープ配列を特定し、これを使い抗体を作成し、さらにその抗体を使った新規な測定・診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】DMP1由来の種々のペプチドを作成し、その免疫原性を検討し、得られたペプチドを使って抗体を作成し、さらにはこの抗体の有用性を種々検討した。その結果、本発明で特定されたペプチドを使って作製した抗体は、ヒトを含めた哺乳類のDMP1分子を極めて特異的に、かつ高感度に認識することを証明し、次に、ヒトの骨軟化症を引き起こす腫瘍や骨粗鬆症などの代謝性骨疾患の診断に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】DMP1由来の種々のペプチドを作成し、その免疫原性を検討し、得られたペプチドを使って抗体を作成し、さらにはこの抗体の有用性を種々検討した。その結果、本発明で特定されたペプチドを使って作製した抗体は、ヒトを含めた哺乳類のDMP1分子を極めて特異的に、かつ高感度に認識することを証明し、次に、ヒトの骨軟化症を引き起こす腫瘍や骨粗鬆症などの代謝性骨疾患の診断に有効であることを見出し、本発明を完成した。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、骨の石灰化促進因子であるDMP1(Dentin matrix protein 1)由来の免疫原を保持したポリペプチド、該ポリペプチドに対する抗体、及びその抗体を利用した免疫学的測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
骨、象牙質及びセメント質は、細胞外マトリックスにリン酸カルシウムが沈着し、石灰化したものである。該細胞外マトリックスは、主にコラーゲンであるが、非コラーゲン性マトリックスも含まれ、非コラーゲン性マトリックスの殆どは酸性リン酸化蛋白質である。該コラーゲン線維はハイドロキシアパタイト結晶の沈着する足場として機能し、酸性リン酸化蛋白質は細胞外マトリックスの石灰化に関与すると考えられてきた。組み換えDNA技術で同定された該酸性リン酸化蛋白質は、最初AG1と名づけられ(非特許文献1)、後にDMP1と変更された(非特許文献2)。DMP1のcDNAクローンは、ラットの歯のcDNAライブラリーから同定され、歯の象牙質に特異的であると考えられていたが(非特許文献3)、後に他の石灰化組織にも発現することが示された。
最近、本発明者は、歯の形成能を欠失した動物種である鳥類のゲノム中にもDMP1 遺伝子が存在し、骨組織に特異的にDMP1遺伝子の発現がある事から、DMP1は骨組織で重要な働きがある事を示唆した(非特許文献4)。さらに、本発明者は、DMP1遺伝子が骨組織ではその動物種に関係なく石灰化した骨マトリックス中の骨細胞に特異的に発現し、その蛋白は骨細胞周囲の骨マトリックスに分布する事を見い出した(非特許文献5)。
一方、腫瘍誘導性骨軟化症は、McCance RAにより見出された疾患であり(非特許文献6)、骨痛、骨折、筋力低下、全身疲労などの重篤な症状を引き起こすにもかかわらず、これらを引き起こす腫瘍本体は非常に小さく、多彩な組織像を示すため、その同定が困難で、その特異的な検出方法は報告されていない。そのため、診断がおくれたり、筋神経疾患と誤診されたり、治療が後手に回ることとなっていた。
【0003】
【先行技術】
【非特許文献1】J.BiolChem1993;268:12624−12630
【非特許文献2】J. Histchem Cytochem 1994;42:1527−1531
【非特許文献3】J. Histchem Cytochem 1994;42:1527−1531
【非特許文献4】J. Mol Evol 2000; 48:160−166
【非特許文献5】J. Bone Miner Res 2001;16:2017−2026
【非特許文献6】Q.J. Med 1947;16:33−46
【0004】
【発明の解決すべき課題】
本発明の課題は、骨軟化症を引き起こす腫瘍が高率に発現するDMP1に由来するペプチドのうち有効なエピトープ配列を特定し、これを使い抗体を作成し、さらにその抗体を使った新規な測定・診断方法を提供することにある。特に、腫瘍誘導性骨軟化症の判定マーカーとしてDMP1由来の特定ペプチドが極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、DMP1由来の種々のペプチドを作成し、その免疫原性を検討し、得られたペプチドを使って抗体を作成し、さらにはこの抗体の有用性を種々検討した。その結果、本発明で特定されたペプチドを使って作成した抗体は、骨軟化症を引き起こす腫瘍の判定に極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下よりなる。
1.以下から選らばれるポリペプチド;
1)配列番号1のペプチド。
2)配列番号1の少なくとも5つの配列を含む免疫原性を維持したペプチド。
3)配列番号1のペプチドの少なくとも1のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されているが、配列番号1のペプチドと実質的に同一の免疫原性を維持したペプチド。
2.配列番号1のポリペプチドを認識する抗体。
3.前項2の抗体を使った免疫学的測定方法。
4.腫瘍誘導性骨軟化症、又は骨粗鬆症などの骨代謝疾患の検査に使用する前項3の方法。
【0007】
【発明の実施の態様】
DMP1遺伝子は公知の遺伝子であり、ヒトを含む10種の動物からDMP1の配列が報告されている。そのアミノ酸配列及び遺伝子配列は、豊澤等による「J Mol Evol 1999;48:160−166, Gene 1999;234:307−314, J Mol Evol 2000;50:31−38など」に開示され、アミノ酸数400〜550個の細胞外マトリックス蛋白質であって酸性蛋白質である。アミノ酸配列の比較から、全ての種のDMP1は16−21個のアミノ酸を含む疎水性リーダー配列で始まる。細胞接着性のペプチドRGDモチーフはDMP1分子特異的ではないが、多くの他の酸性リン酸化蛋白質、例えばオステオポンチン、骨シアロ蛋白質、及び象牙質シアロリン酸化蛋白質に存在することが確認されている。Arg−Gly−Asp配列は厳格に哺乳動物のDMP1配列で保存され、その重要な生物学的機能をもつことが示唆されている。また、DMP1配列のC末端部も哺乳動物間で厳格に保存されており、DMP1のC末端部の重要性な生物学的機能が示唆されている。
【0008】
本発明のDMP1由来のペプチドは、上記のごとく、重要な生物学的機能が示唆されたDMP1のC末端部の15個のアミノ酸配列(配列表の配列番号1; DAYHNKPIGDQDDND)(なお以下ペプチドC又はペプチド1と称することもある)として示される。DMP1のC末端側のアミノ酸配列は、DMP1の免疫原としてのエピト−プ配列として有用であり、げっ歯類からウシやヒトまでの哺乳類に共通の配列を示している。しかし、これまでにこの部位でのその有用性は認識されていなかった。本発明において有用なペプチドは、必ずしもこの配列に限定されない。当業者であれば、自体公知の手法により、適宜少なくとも3個、好ましくは5個のペプチドを合成して利用可能である。該ペプチドを構成するアミノ酸は、必ずしもDMP1のC末端領域のアミノ酸配列と同一である必要はなく、該ペプチドと同様の免疫原としての機能を有するものであれば、該ペプチドのアミノ酸配列に、適宜、欠失、置換、付加、挿入などの変異を導入したペプチドであってもよい(以下、等価ペプチドと呼ぶこともある)。
【0009】
本発明では、上記のようなペプチドを認識する抗体が調製される。該抗体は例えば配列番号1のペプチドに対する抗体である。抗体は、抗原性ポリペプチドによって、アジュバンドの存在下または不存在下で、 単独でまたは担体に連結して、細胞性応答および/または体液性応答による誘導によって調製される。
抗原性ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列より設計される。通常5個程度のアミノ酸からなる断片が抗原性領域を特徴付けていることから、配列番号1の配列を中心として、少なくとも5個のアミノ酸配列を抗原性ポリペプチドとする。小さすぎて免疫原性が十分でない場合には,このポリペプチドを,適当な担体に結合させればよい。
このような結合を得るための多くの方法が当該分野で公知であり、 それには、Pierce Company,Rockford,Illinoisから入手されるN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネート(SPDP) およびスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC) を用いてジスルフィド結合を形成する方法が包含される〔例えばImmun.Rev.(1982)62:185〕。担体としては、 それ自身が宿主に対して有害な抗体の生産を誘導しないものであれば、いずれの担体も用いられ得る。適当な担体は、典型的には、タンパク、多糖体、重合アミノ酸、アミノ酸共重合体および不活性ウイルス粒子がある。特に有用なタンパク質には、 血清アルブミン、 キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子、 チログロブリン、卵アルブミン、 テタヌス毒素 および当業者に公知の他のタンパクがある。
【0010】
(抗体の調製)
調製された免疫原性ポリペプチドは、ポリクローナルおよびモノクローナルの両抗体を生産するのに用いられる。ポリクローナル抗体が所望であれば、免疫原性ポリペプチドを用いて、 選択された哺乳動物(例えば、 マウス、 ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫する。免疫された動物から得られた血清を回収し、公知の方法によって処理する。ポリクローナル抗体を含有する血清が所望以外の抗原に対する抗体を含んでいる場合には、このポリクローナル抗体は免疫アフィニティークロマトグラフィーによって精製され得る。ポリクローナルな抗血清を生産し、 加工処理する方法は、 当該分野では公知である。 例えばMayer およびWalker(1987):IMMUNOCHEMICAL METHODS INCELL AND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press, London)。
モノクローナル抗体もまた、当業者により容易に生産され得る。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を調製する一般的な方法は公知である。永久増殖性の抗体産生細胞系は細胞融合によって調製することができる。さらに、腫瘍原性DNA を用いたBリンパ球の直接形質転換、 あるいはEpstein−Barrウイルスを用いたトランスフェクションのような他の方法によってもまた調製することができる。例えば、 J. Virol. 60:1153.Schreier, M.ら(1980); Virology 162:167.Hammerlingら(1981);British Medical J. 295:946.Kennett ら(1980)。また、ヒトの疾患の診断・治療に使用可能なように、これらのモノクローナル抗体をヒト化することをも含む。
【0011】
形成されたモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、 いずれも特に配列番号1の配列の一部を認識可能な抗体であり、抗原抗体反応性においてすぐれている。本発明で得られる抗体は、実験例に示すようにDMP1の他の配列部位、公知の配列部位に比してより特異的で、かつ、高い免疫反応性を有するものである。さらに、げっ歯類からウシやヒトまでの哺乳類に共通のDMP1配列を認識する。その結果、本発明で得られる抗体は、DMP1をマーカーとする各種診断において有用である。
【0012】
(イムノアッセイおよび診断用キット)
本発明の配列番号1のペプチドを認識する抗体は、 イムノアッセイにおいて、 生物学的試料におけるDMP1の存在を検出するために有用である。このイムノアッセイの設計は多くの変更を行うことが可能であり、これらアッセイの多様性については当該技術分野では既知である。このイムノアッセイでは、例えば、DMP1のエピトープに対する1種のモノクローナル抗体、異なるDMP1に対する複数のモノクローナル抗体、同一のDMP1のエピトープに対するポリクローナル抗体、 あるいは異なるDMP1に対するポリクローナル抗体が使用され得る。プロトコールは、例えば、競合分析法、直接反応タイプ分析法、あるいはサンドイッチタイプ分析法を基本とすることができる。このプロトコールでは、また、固体支持体を用いるか、あるいは免疫沈澱法でも可能である。ほとんどのアッセイは標識化抗体あるいはマーカーポリペプチドの使用を含む。この標識物には、例えば、螢光分子、化学発光分子、放射性分子、あるいは色素分子がある。このプローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた公知である。その例としては、ビオチン、アビジンおよびストレプトアビジンを利用するアッセイ、および酵素標識および酵素媒介イムノアッセイ(例えば ELISA アッセイ)がある。
【0013】
免疫診断用標識された試薬を有するキットは、適切な材料を適当な容器中に包装することによって得られる。この適切な材料には、標準DMP1、あるいは配列番号1のペプチドを認識する抗体が含まれる。このキットは、アッセイを実施するのに必要な残りの試薬および材料と、さらにアッセイの指示書の適当なセットとを含む。
【0014】
ELISA 法は、抗原もしくは抗体のいずれかの濃度を測定するのに利用され得る。この方法は、酵素と、抗原もしくは抗体との結合に依存し、定量の標識として、結合した酵素の活性を用いる。DMP1を測定するには、本発明の抗体を固相(例えば、マイクロプレートまたはプラスチック製カップ)に固定し、被検血清の希釈物とともにインキュベートし、固相を洗浄し、酵素で標識した抗体とともにインキュベートし、再び洗浄する。標識化するために好適な酵素は、当該技術分野で公知であり、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼがある。固相に結合した酵素活性は、特異的な基質を添加し、そして生成物の生成または基質の利用率を比色法で測定し抗原濃度に換算される。
【0015】
免疫染色法は、本発明の抗体を適当な標識物質で修飾し、生体内又は生体外で組織及び/又は細胞と接触させ、抗原抗体反応をえて、標識物質を目印にしてDMP1の組織及び/又は細胞の存在を確認する方法である。
【0016】
以上のような測定法によって、本発明では、本発明で提供する抗体を利用する測定系が、骨軟化症を引き起こす腫瘍を特異的に検出すること、又は骨粗鬆症などの骨代謝疾患の診断が可能であることを見出した。実験例は、ヒトから得た組織の免疫染色図を示すが、本測定系の有用性を示唆するものである。
【0017】
実施例
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
(実施例1)
(配列表の配列番号1、2、3のペプチドを認識する抗体の作成)
配列番号1:DAYHNKPIGDQDDND (494−508) (peptide 1)
配列番号2:TRYQNNESEDSEE (20−32) (peptide 2)
配列番号3:SGDDTFGDDDSGPGPKDRQEGG (109−130) (peptide 3)
配列番号1、2、3のペプチドを固相法により常法どおり合成し、このオリゴペプチドを抗原として、アジュバントとともにニュージーランドホワイト種のウサギに免疫して抗血清を得た。得られた抗血清は、プロティンAと配列番号1、2、3のDMP1ペプチドを各結合させたアフィニティーカラムによって精製した。なお、上記494−508、20−32、109−130はDMP1ペプチドのアミノ酸番号を意味する。なお、配列番号1のペプチドをペプチドC又はペプチド1と称することもある。
【0018】
(試験例)
【0019】
A.材料と方法
【0020】
1.抗体の生産
DMP1残基の「DAYHNKPIGDQDDND」をコードするペプチド1配列(配列番号1)は、ヒト、ウシ、ラットそしてマウスのDMP1のC末端(C−terminals)のアミノ酸配列と共通する(図1)。各ペプチド1、2、3は、ABI433Aペプチド合成装置(Applied Biosystems, FosterCity,CA,USA)により、NH2末端にシステインを付加して調製した。合成ペプチドの純度は高速液体クロマトグラフィーとアミノ酸分析により確認した。システイン化した各ペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin)と共有結合させ、透析した。結合又は非結合ペプチドの混合物を、TiterMax Gold(CytRx Co., Norcross, Ga, USA)と混合し、ニュージーランドホワイトラビットに皮下注射し、その後、2回の追加免疫を行った。各抗血清の抗体価の評価は、各DMP1ペプチドをコートしたマイクロプレートを用い、ELISA法で測定した。次に、各DMP1ペプチドに対する抗DMP1抗血清を、各ペプチドを結合させたSulfoLink Column(Pierce, Rockford, IL, USA)よりアフィニティー精製した。
【0021】
2.免疫ブロット
上記アフィニティー精製を行った各DMP1ペプチドに対する抗DMP1抗体を、組換えラットDMP1(非特許文献5)を用いたウエスタン・ブロットに使用した。組換えラットDMP1をSDS−PAGEによる電気泳動上で展開し、セミドライ・トランスファーシステム(Nihon Eido, Tokyo, Japan)を使用してポリビニリデンジフルオロイド(PVDF)トランスファーメンブレン(Millipore, Bedford, MA., USA)に移した。メンブレンを、5%のウシ血清アルブミンと0.05%Tween−20含有トリス緩衝生理食塩水で、1時間ブロックし、希釈度1:10000で抗DMP1抗体と共に一晩インキュベートした。1:1000に希釈したビオチニン化ブタ抗ウサギIgG抗体(DakoCytomation, Glopstrup, Denmark)を反応後、1:500に希釈したアルカリ性ホスファターゼ結合ストレプトアビジン (Dakocytomation)と共にインキュベートし、その後NTB(nitoroblue tetrazolium chroride)/BCIP(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−phosphate solution)溶液(Roche Diagnostics, Rotkreuz,Switzerland)で30分間発色した。
【0022】
3.検査症例
本実験では、腫瘍誘導性骨軟化症を引き起こす腫瘍の3症例を検討した。症例1は、54歳の女性で、骨の疼痛と筋肉の衰弱を訴えて当病院に入院した。患者は左臀部に小さな皮内腫瘍があり、低リン血症性骨軟化症(hypophosphatemic osteomlacia)の典型的な特徴を示した。他の2症例の臨床経過も、低リン血症性骨軟化症の典型的な特徴を示した(Pathol Int. 1996; 46:238−241)(J Bone Miner Metab 2001; 19:61−64)。これら3症例の血清リン酸値レベルは、手術による腫瘍の除去後、正常に回復した。また、病理組織検査の結果、3症例の腫瘍は、血管周皮腫様(hemangiopericytoma−like)の組織像を呈していた。これらの3症例とともに、組織学的に類似する腫瘍として、悪性線維性組織球腫(MFH)、滑膜肉腫(synovial sarcoma)、悪性神経鞘腫(malignant shwannoma)などについても検討を行った(表1)。
【0023】
4.組織サンプルと免疫組織化学的分析
使用した組織は、大阪大学大学院医学系研究科臨床調査合同委員会のガイドラインに従って得たものである。これらのサンプルは、10%中性ホルマリンで固定し、通法によりパラフィン包埋した。陽性コントロールとして、ヒトとラットの正常の骨組織を使用した。5μmの厚さに切断した組織切片は、ペルオキシダーゼ法で免疫染色〔Avidin−Biotin Complex (ABC) method〕し、その一部はヘマトキシリン・エオジン染色を行った。骨組織のサンプルは、中性ホルマリンで固定後、10%EDTA溶液中で、4℃で7日間攪拌し、脱灰した。処理後、骨組織サンプルを洗浄し、パラフィン包埋した。5μmの厚さに切断した組織切片は、抗DMP1抗体及び他の各種市販抗体(ビメンチン、CD34、F−XIII等に対する抗体。表2及び3)を用いて、ペルオキシダーゼ法で免疫染色(Avidin−Biotin Complex (ABC) method)を行い、その一部はヘマトキシリン・エオジン染色を行った。各一次抗体に対する抗原賦活法、希釈、及び販売元は表2に示した。免疫染色後、核染色をメチルグリーンにて行った。また、ネガティブコントロールには、正常ウサギ又はマウスIgG血清(DakoCytomation)を一次抗体として用い、陰性反応を確認した。
【0024】
B.結果
【0025】
1.各抗DMP1ペプチド抗体の特徴
ELISA法で、DMP1ペプチド1、3に対する抗血清には抗体価の上昇を認めたが、ペプチド2に対する抗体価の上昇は認められなかった。そこで、DMP1ペプチド1及び3に対する抗血清を、各々のDMP1ペプチドを結合させたカラムでアフィニティー精製した。次に、アフィニティー精製した各々の抗DMP1抗体を、ウエスタン・ブロットにて、組換えラットDMP1と反応させた。その結果、DMP1の分子量に一致する100kDaのシングルバンドが検出できることを確認した(図2Aのレーン3と4)。また、該抗体の代わりに正常血清を用いるとその反応は見られなかった(図2Aのレーン5と6)。さらに、該抗体を各々のDMP1ペプチドで吸収すると、100kDaのシングルバンドが消失することを確認した。
次に、各々の抗DMP1抗体を用いて、ラットとヒトの骨組織サンプルを免疫組織染色することにより、骨細胞周囲の骨マトリックスに陽性反応が認められ(図2B,2C)、これらの結果は、すでに報告したラット骨組織におけるDMP1分布と一致していた(J. Bone Miner Res 2001;16:2017−2026)。なお、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、極めて特異的に骨細胞周囲の骨マトリックスのみに陽性反応を示すのに対し、抗DMP1(ペプチド3)抗体は、筋肉組織にも弱い陽性反応を示した。ゆえに、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、ラットと同様にヒトのDMP1分子を極めて特異的に認識することが証明された。
【0026】
2.臨床病理学的特徴
3症例の骨軟化症を引き起こす腫瘍は、すべてmixed connective tissue tumorsに分類され、悪性血管周皮腫(malignant hemangiopericytomas)に類似の組織像を示した(Cancer 1987; 59:1442−1454)(図3A1〜図3C1、図4A1〜図4E1)。
【0027】
3.骨軟化症を引き起こす腫瘍及び他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイル
骨軟化症を引き起こす腫瘍及び他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイルを表3に示した。骨軟化症を引き起こす腫瘍の免疫組織化学的プロファイルは、悪性血管周皮腫(malignant hemangiopericytomas)のものと類似しており、ビメンチン、CD34、F−XIIIaに対する抗体について陽性反応を示した(表3;図3A3〜図3D3 )。しかし、DMP1発現については、骨軟化症を引き起こす腫瘍では強いDMP1発現がDMP1(ペプチド1)抗体によって観察されたのに対し(図3A2〜図3C2)、悪性血管周皮腫ではその発現は認められなかった(図3D2)。さらに、検討した他のいずれの腫瘍(表3)にもDMP1発現はDMP1(ペプチド1)抗体によって認められなかった。ゆえに、DMP1は骨軟化症を引き起こす腫瘍を同定するのに極めて有効なマーカーであり、DMP1(ペプチド1)抗体が有効な試薬になりうることが証明された。
【0028】
4.骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の分布
次に、腫瘍におけるDMP1の詳細な分布をDMP1(ペプチド1)抗体を使って検討した。DMP1は、腫瘍細胞周囲の細胞外基質にその分布が認められた(図4A〜4C)。粘液腫様の間質や多数の毛細血管を含む領域の間質には、多量の顆粒状DMP1沈着物が認められた(図4Aと4B)。また、異栄養性石灰化部にもDMP1の分布が認められた(図4C)。小嚢胞状の変性所見を示す領域では、DMP1は腫瘍細胞の核近傍の細胞質内に分布しているのが認められた(図4Dと、図4Dの差込図)。
【0029】
【発明の効果】
本発明のDMP1(ペプチド1)抗体は、DMP1由来の抗体として従来にない高い免疫反応性を保持し、さらにDMP1に対する反応性において極めて高い特異性を保持している。そして、この抗体は、骨軟化症を誘導する腫瘍の診断に極めて有用な手段になりうることを見い出した。
本発明者が証明したのは、通常の病理組織切片をDMP1(ペプチド1)抗体を使って免疫組織化学的染色法で検討すると、骨軟化症を引き起こす腫瘍はDMP1陽性反応を示すのに対し、その他の腫瘍はDMP1には反応を示さないということである。一方、従来から病理診断に有用とされていたCD34やF−XIIIaのマーカーは、悪性血管周皮腫や悪性線維性組織球腫の両者にも陽性反応を示すことから、CD34やF−XIIIaは、骨軟化症を引き起こす腫瘍を同定することができない。ゆえに、DMP1は他の腫瘍から骨軟化症を引き起こす腫瘍を診断するのに唯一の診断マーカーとなること、及びDMP1(ペプチド1)抗体が唯一の診断試薬となることが判明した。
腫瘍誘導性骨軟化症の臨床症状は重篤にもかかわらず、腫瘍本体は非常に小さく、体のどこにでも発生する腫瘍であり、しかも多彩な病理組織像を示すため、その同定が臨床的にも病理学的にも非常に困難である。腫瘍細胞で生産されたDMP1は、腫瘍細胞内にも分布するが、主に腫瘍細胞周囲の細胞外基質に蓄積される。そこで、DMP1(ペプチド1)抗体をヒト化し標識化することにより、腫瘍の細胞外基質に蓄積したDMP1を明確に認識でき、患者の本腫瘍の位置を同定できる。また、外科切除の際、本腫瘍とその周囲の結合組織の境界が明らかではなく、病理診断によるセーフティー・マージンの判定はほとんど不可能である。そこで、外科切除後の本腫瘍の残存が問題になるが、病理組織切片におけるDMP1(ペプチド1)抗体によるDMP1の免疫組織化学的検討により、本腫瘍のセーフティー・マージンを判定することが可能である。
また、ヒトなどの哺乳動物の正常の骨組織では、DMP1は骨細胞周囲の骨基質にのみ分布するが、骨軟化症などの骨代謝疾患ではDMP1の分布が異常になることが分かっている。ゆえに、骨粗鬆症などの骨代謝疾患の骨組織サンプルをDMP1(ペプチド1)抗体を使いDMP1の免疫組織化学的染色法で検討することにより、その疾患の診断や病状の把握に有効であると考えられる。
さらに、DMP1はウエスタン・ブロットにより正常のヒト血清中にもその存在を確認することができる(J Biol Chem 2002; 277:13700−13708)。同様に、腫瘍誘導性骨軟化症の患者血清中のDMP1レベルをDMP1(ペプチド1)抗体で測定することにより、DMP1は腫瘍誘導性骨軟化症を診断する血清マーカーにもなりうる。同様に、骨軟化症などの骨代謝疾患ではDMP1の分布が異常になることから、DMP1は骨粗鬆症などの骨代謝疾患を診断する血清マーカーになり、DMP1(ペプチド1)抗体は診断試薬にもなりうる。
以上述べたように、本発明は、腫瘍誘導性骨軟化症や骨粗鬆症などの骨代謝疾患の新規の診断ツールを開発するのに有用であると考えられる。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト、ウシ、ラット、及びマウスのDMP1のアミノ酸配列アラインメントを示す。囲みのある配列(ペプチドC)は、ヒト、ウシ、ラット、及びマウスのDMP1配列のC末端で、抗DMP1抗体作製に使用される。アスタリスク(*)はアラインメントギャップを示す。アミノ酸残基はIUPAC−IUB一文字コードで示される。
【図2】抗DMP1(ペプチド1)抗体の特徴を示す。
(A):レーン1、2は、E.coli内で生産された組換えラットDMP1のSDS−PAGE (7%)を示す。レーン3−6は、抗DMP1(ペプチド1)抗体による組換えラットDMP1のウエスタン・ブロット解析を示す。レーン1は組換えDMP1−GST融合タンパク質を示す。レーン2はPreScisson Proteaseで消化した後の組換えDMP1を示す。組換えDMP1−GST融合タンパク質(レーン3)、そして組換えDMP1タンパク質(レーン4)は、アフィニティー精製した抗DMP1(ペプチド1)抗体により検出されるが、いずれの組換えタンパク質も免疫前血清(レーン5、6)では検出されない。
(B)(C):ラットとヒトの正常の骨組織におけるDMP1の免疫組織化学的検出(下図)を示す。生後15日目のラット(下左図)、および胎生23週目のヒト胎児(下右図)の骨幹端部海面骨組織において、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、骨細胞と骨細管を含む周囲の骨基質に陽性反応を示す。メチレングリーン対比染色である。
【図3】骨軟化症を引き起こす腫瘍及びその他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイルを示す。各横列は、H&E染色した切片 (A1、B1、C1、D1)(最上段列)、DMP1(A2、B2、C2、D2)(中段列)そしてCD34(A3、B3、C3、D3)の免疫組織化学的発現を示す。各縦列は、腫瘍の連続切片でのDMP1とCD34発現の免疫組織化学的パターンを示す。各々の縦列の「A1〜A3とB1〜B3とC1〜C3」は、骨軟化症を引き起こす腫瘍の各々の症例1〜3の写真に代わる図面を示す。縦列の「D1〜D3」は悪性血管周皮腫の写真に代わる図面を示す。「A1、B1、C1、D1」はH&E染色、「A2〜A3、B2〜B3、C2〜C3、D2〜D3」はメチルグリーン対比染色である。骨軟化症を引き起こす腫瘍(A、B、C) では、DMP1の免疫反応は腫瘍細胞や血管細胞周囲の間質に観察される。CD34免疫反応も腫瘍細胞に観察される。悪性血管周皮腫 (D) では、CD34 免疫反応が腫瘍細胞に観察されるが、DMP1免疫反応は全く観察されない。
【図4】骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の免疫組織化学的分布を示す。左欄の「A1、B1、C1、D1」は、H&E 染色された切片であり、右欄の「A2、B2、C2、D2」はその連続切片でDMP1の免疫組織化学的発現部位を示す。「A1、B1、C1、D1」はH&E染色、「A2、B2、C2、D2」はメチルグリーン対比染色を示す。
骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の分布パターンは多彩である。Aでは、粘液腫様間質領域には、DMP1の顆粒状沈着物が多量に蓄積している。Bでは豊富な毛細血管を有する領域では、DMP1の顆粒状沈着物が毛管血管周囲の間質に蓄積している。 Cでは、異栄養性石灰化部にDMP1の免疫反応が観察される。 Dでは、小嚢胞の変性所見の見られる領域ではDMP1は腫瘍細胞内の核近傍に分布する。その拡大図を D2の差込図に示す。
【0034】
【配列表】
【産業上の利用分野】
本発明は、骨の石灰化促進因子であるDMP1(Dentin matrix protein 1)由来の免疫原を保持したポリペプチド、該ポリペプチドに対する抗体、及びその抗体を利用した免疫学的測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
骨、象牙質及びセメント質は、細胞外マトリックスにリン酸カルシウムが沈着し、石灰化したものである。該細胞外マトリックスは、主にコラーゲンであるが、非コラーゲン性マトリックスも含まれ、非コラーゲン性マトリックスの殆どは酸性リン酸化蛋白質である。該コラーゲン線維はハイドロキシアパタイト結晶の沈着する足場として機能し、酸性リン酸化蛋白質は細胞外マトリックスの石灰化に関与すると考えられてきた。組み換えDNA技術で同定された該酸性リン酸化蛋白質は、最初AG1と名づけられ(非特許文献1)、後にDMP1と変更された(非特許文献2)。DMP1のcDNAクローンは、ラットの歯のcDNAライブラリーから同定され、歯の象牙質に特異的であると考えられていたが(非特許文献3)、後に他の石灰化組織にも発現することが示された。
最近、本発明者は、歯の形成能を欠失した動物種である鳥類のゲノム中にもDMP1 遺伝子が存在し、骨組織に特異的にDMP1遺伝子の発現がある事から、DMP1は骨組織で重要な働きがある事を示唆した(非特許文献4)。さらに、本発明者は、DMP1遺伝子が骨組織ではその動物種に関係なく石灰化した骨マトリックス中の骨細胞に特異的に発現し、その蛋白は骨細胞周囲の骨マトリックスに分布する事を見い出した(非特許文献5)。
一方、腫瘍誘導性骨軟化症は、McCance RAにより見出された疾患であり(非特許文献6)、骨痛、骨折、筋力低下、全身疲労などの重篤な症状を引き起こすにもかかわらず、これらを引き起こす腫瘍本体は非常に小さく、多彩な組織像を示すため、その同定が困難で、その特異的な検出方法は報告されていない。そのため、診断がおくれたり、筋神経疾患と誤診されたり、治療が後手に回ることとなっていた。
【0003】
【先行技術】
【非特許文献1】J.BiolChem1993;268:12624−12630
【非特許文献2】J. Histchem Cytochem 1994;42:1527−1531
【非特許文献3】J. Histchem Cytochem 1994;42:1527−1531
【非特許文献4】J. Mol Evol 2000; 48:160−166
【非特許文献5】J. Bone Miner Res 2001;16:2017−2026
【非特許文献6】Q.J. Med 1947;16:33−46
【0004】
【発明の解決すべき課題】
本発明の課題は、骨軟化症を引き起こす腫瘍が高率に発現するDMP1に由来するペプチドのうち有効なエピトープ配列を特定し、これを使い抗体を作成し、さらにその抗体を使った新規な測定・診断方法を提供することにある。特に、腫瘍誘導性骨軟化症の判定マーカーとしてDMP1由来の特定ペプチドが極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、DMP1由来の種々のペプチドを作成し、その免疫原性を検討し、得られたペプチドを使って抗体を作成し、さらにはこの抗体の有用性を種々検討した。その結果、本発明で特定されたペプチドを使って作成した抗体は、骨軟化症を引き起こす腫瘍の判定に極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下よりなる。
1.以下から選らばれるポリペプチド;
1)配列番号1のペプチド。
2)配列番号1の少なくとも5つの配列を含む免疫原性を維持したペプチド。
3)配列番号1のペプチドの少なくとも1のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されているが、配列番号1のペプチドと実質的に同一の免疫原性を維持したペプチド。
2.配列番号1のポリペプチドを認識する抗体。
3.前項2の抗体を使った免疫学的測定方法。
4.腫瘍誘導性骨軟化症、又は骨粗鬆症などの骨代謝疾患の検査に使用する前項3の方法。
【0007】
【発明の実施の態様】
DMP1遺伝子は公知の遺伝子であり、ヒトを含む10種の動物からDMP1の配列が報告されている。そのアミノ酸配列及び遺伝子配列は、豊澤等による「J Mol Evol 1999;48:160−166, Gene 1999;234:307−314, J Mol Evol 2000;50:31−38など」に開示され、アミノ酸数400〜550個の細胞外マトリックス蛋白質であって酸性蛋白質である。アミノ酸配列の比較から、全ての種のDMP1は16−21個のアミノ酸を含む疎水性リーダー配列で始まる。細胞接着性のペプチドRGDモチーフはDMP1分子特異的ではないが、多くの他の酸性リン酸化蛋白質、例えばオステオポンチン、骨シアロ蛋白質、及び象牙質シアロリン酸化蛋白質に存在することが確認されている。Arg−Gly−Asp配列は厳格に哺乳動物のDMP1配列で保存され、その重要な生物学的機能をもつことが示唆されている。また、DMP1配列のC末端部も哺乳動物間で厳格に保存されており、DMP1のC末端部の重要性な生物学的機能が示唆されている。
【0008】
本発明のDMP1由来のペプチドは、上記のごとく、重要な生物学的機能が示唆されたDMP1のC末端部の15個のアミノ酸配列(配列表の配列番号1; DAYHNKPIGDQDDND)(なお以下ペプチドC又はペプチド1と称することもある)として示される。DMP1のC末端側のアミノ酸配列は、DMP1の免疫原としてのエピト−プ配列として有用であり、げっ歯類からウシやヒトまでの哺乳類に共通の配列を示している。しかし、これまでにこの部位でのその有用性は認識されていなかった。本発明において有用なペプチドは、必ずしもこの配列に限定されない。当業者であれば、自体公知の手法により、適宜少なくとも3個、好ましくは5個のペプチドを合成して利用可能である。該ペプチドを構成するアミノ酸は、必ずしもDMP1のC末端領域のアミノ酸配列と同一である必要はなく、該ペプチドと同様の免疫原としての機能を有するものであれば、該ペプチドのアミノ酸配列に、適宜、欠失、置換、付加、挿入などの変異を導入したペプチドであってもよい(以下、等価ペプチドと呼ぶこともある)。
【0009】
本発明では、上記のようなペプチドを認識する抗体が調製される。該抗体は例えば配列番号1のペプチドに対する抗体である。抗体は、抗原性ポリペプチドによって、アジュバンドの存在下または不存在下で、 単独でまたは担体に連結して、細胞性応答および/または体液性応答による誘導によって調製される。
抗原性ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列より設計される。通常5個程度のアミノ酸からなる断片が抗原性領域を特徴付けていることから、配列番号1の配列を中心として、少なくとも5個のアミノ酸配列を抗原性ポリペプチドとする。小さすぎて免疫原性が十分でない場合には,このポリペプチドを,適当な担体に結合させればよい。
このような結合を得るための多くの方法が当該分野で公知であり、 それには、Pierce Company,Rockford,Illinoisから入手されるN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネート(SPDP) およびスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC) を用いてジスルフィド結合を形成する方法が包含される〔例えばImmun.Rev.(1982)62:185〕。担体としては、 それ自身が宿主に対して有害な抗体の生産を誘導しないものであれば、いずれの担体も用いられ得る。適当な担体は、典型的には、タンパク、多糖体、重合アミノ酸、アミノ酸共重合体および不活性ウイルス粒子がある。特に有用なタンパク質には、 血清アルブミン、 キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子、 チログロブリン、卵アルブミン、 テタヌス毒素 および当業者に公知の他のタンパクがある。
【0010】
(抗体の調製)
調製された免疫原性ポリペプチドは、ポリクローナルおよびモノクローナルの両抗体を生産するのに用いられる。ポリクローナル抗体が所望であれば、免疫原性ポリペプチドを用いて、 選択された哺乳動物(例えば、 マウス、 ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫する。免疫された動物から得られた血清を回収し、公知の方法によって処理する。ポリクローナル抗体を含有する血清が所望以外の抗原に対する抗体を含んでいる場合には、このポリクローナル抗体は免疫アフィニティークロマトグラフィーによって精製され得る。ポリクローナルな抗血清を生産し、 加工処理する方法は、 当該分野では公知である。 例えばMayer およびWalker(1987):IMMUNOCHEMICAL METHODS INCELL AND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press, London)。
モノクローナル抗体もまた、当業者により容易に生産され得る。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を調製する一般的な方法は公知である。永久増殖性の抗体産生細胞系は細胞融合によって調製することができる。さらに、腫瘍原性DNA を用いたBリンパ球の直接形質転換、 あるいはEpstein−Barrウイルスを用いたトランスフェクションのような他の方法によってもまた調製することができる。例えば、 J. Virol. 60:1153.Schreier, M.ら(1980); Virology 162:167.Hammerlingら(1981);British Medical J. 295:946.Kennett ら(1980)。また、ヒトの疾患の診断・治療に使用可能なように、これらのモノクローナル抗体をヒト化することをも含む。
【0011】
形成されたモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、 いずれも特に配列番号1の配列の一部を認識可能な抗体であり、抗原抗体反応性においてすぐれている。本発明で得られる抗体は、実験例に示すようにDMP1の他の配列部位、公知の配列部位に比してより特異的で、かつ、高い免疫反応性を有するものである。さらに、げっ歯類からウシやヒトまでの哺乳類に共通のDMP1配列を認識する。その結果、本発明で得られる抗体は、DMP1をマーカーとする各種診断において有用である。
【0012】
(イムノアッセイおよび診断用キット)
本発明の配列番号1のペプチドを認識する抗体は、 イムノアッセイにおいて、 生物学的試料におけるDMP1の存在を検出するために有用である。このイムノアッセイの設計は多くの変更を行うことが可能であり、これらアッセイの多様性については当該技術分野では既知である。このイムノアッセイでは、例えば、DMP1のエピトープに対する1種のモノクローナル抗体、異なるDMP1に対する複数のモノクローナル抗体、同一のDMP1のエピトープに対するポリクローナル抗体、 あるいは異なるDMP1に対するポリクローナル抗体が使用され得る。プロトコールは、例えば、競合分析法、直接反応タイプ分析法、あるいはサンドイッチタイプ分析法を基本とすることができる。このプロトコールでは、また、固体支持体を用いるか、あるいは免疫沈澱法でも可能である。ほとんどのアッセイは標識化抗体あるいはマーカーポリペプチドの使用を含む。この標識物には、例えば、螢光分子、化学発光分子、放射性分子、あるいは色素分子がある。このプローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた公知である。その例としては、ビオチン、アビジンおよびストレプトアビジンを利用するアッセイ、および酵素標識および酵素媒介イムノアッセイ(例えば ELISA アッセイ)がある。
【0013】
免疫診断用標識された試薬を有するキットは、適切な材料を適当な容器中に包装することによって得られる。この適切な材料には、標準DMP1、あるいは配列番号1のペプチドを認識する抗体が含まれる。このキットは、アッセイを実施するのに必要な残りの試薬および材料と、さらにアッセイの指示書の適当なセットとを含む。
【0014】
ELISA 法は、抗原もしくは抗体のいずれかの濃度を測定するのに利用され得る。この方法は、酵素と、抗原もしくは抗体との結合に依存し、定量の標識として、結合した酵素の活性を用いる。DMP1を測定するには、本発明の抗体を固相(例えば、マイクロプレートまたはプラスチック製カップ)に固定し、被検血清の希釈物とともにインキュベートし、固相を洗浄し、酵素で標識した抗体とともにインキュベートし、再び洗浄する。標識化するために好適な酵素は、当該技術分野で公知であり、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼがある。固相に結合した酵素活性は、特異的な基質を添加し、そして生成物の生成または基質の利用率を比色法で測定し抗原濃度に換算される。
【0015】
免疫染色法は、本発明の抗体を適当な標識物質で修飾し、生体内又は生体外で組織及び/又は細胞と接触させ、抗原抗体反応をえて、標識物質を目印にしてDMP1の組織及び/又は細胞の存在を確認する方法である。
【0016】
以上のような測定法によって、本発明では、本発明で提供する抗体を利用する測定系が、骨軟化症を引き起こす腫瘍を特異的に検出すること、又は骨粗鬆症などの骨代謝疾患の診断が可能であることを見出した。実験例は、ヒトから得た組織の免疫染色図を示すが、本測定系の有用性を示唆するものである。
【0017】
実施例
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
(実施例1)
(配列表の配列番号1、2、3のペプチドを認識する抗体の作成)
配列番号1:DAYHNKPIGDQDDND (494−508) (peptide 1)
配列番号2:TRYQNNESEDSEE (20−32) (peptide 2)
配列番号3:SGDDTFGDDDSGPGPKDRQEGG (109−130) (peptide 3)
配列番号1、2、3のペプチドを固相法により常法どおり合成し、このオリゴペプチドを抗原として、アジュバントとともにニュージーランドホワイト種のウサギに免疫して抗血清を得た。得られた抗血清は、プロティンAと配列番号1、2、3のDMP1ペプチドを各結合させたアフィニティーカラムによって精製した。なお、上記494−508、20−32、109−130はDMP1ペプチドのアミノ酸番号を意味する。なお、配列番号1のペプチドをペプチドC又はペプチド1と称することもある。
【0018】
(試験例)
【0019】
A.材料と方法
【0020】
1.抗体の生産
DMP1残基の「DAYHNKPIGDQDDND」をコードするペプチド1配列(配列番号1)は、ヒト、ウシ、ラットそしてマウスのDMP1のC末端(C−terminals)のアミノ酸配列と共通する(図1)。各ペプチド1、2、3は、ABI433Aペプチド合成装置(Applied Biosystems, FosterCity,CA,USA)により、NH2末端にシステインを付加して調製した。合成ペプチドの純度は高速液体クロマトグラフィーとアミノ酸分析により確認した。システイン化した各ペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin)と共有結合させ、透析した。結合又は非結合ペプチドの混合物を、TiterMax Gold(CytRx Co., Norcross, Ga, USA)と混合し、ニュージーランドホワイトラビットに皮下注射し、その後、2回の追加免疫を行った。各抗血清の抗体価の評価は、各DMP1ペプチドをコートしたマイクロプレートを用い、ELISA法で測定した。次に、各DMP1ペプチドに対する抗DMP1抗血清を、各ペプチドを結合させたSulfoLink Column(Pierce, Rockford, IL, USA)よりアフィニティー精製した。
【0021】
2.免疫ブロット
上記アフィニティー精製を行った各DMP1ペプチドに対する抗DMP1抗体を、組換えラットDMP1(非特許文献5)を用いたウエスタン・ブロットに使用した。組換えラットDMP1をSDS−PAGEによる電気泳動上で展開し、セミドライ・トランスファーシステム(Nihon Eido, Tokyo, Japan)を使用してポリビニリデンジフルオロイド(PVDF)トランスファーメンブレン(Millipore, Bedford, MA., USA)に移した。メンブレンを、5%のウシ血清アルブミンと0.05%Tween−20含有トリス緩衝生理食塩水で、1時間ブロックし、希釈度1:10000で抗DMP1抗体と共に一晩インキュベートした。1:1000に希釈したビオチニン化ブタ抗ウサギIgG抗体(DakoCytomation, Glopstrup, Denmark)を反応後、1:500に希釈したアルカリ性ホスファターゼ結合ストレプトアビジン (Dakocytomation)と共にインキュベートし、その後NTB(nitoroblue tetrazolium chroride)/BCIP(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−phosphate solution)溶液(Roche Diagnostics, Rotkreuz,Switzerland)で30分間発色した。
【0022】
3.検査症例
本実験では、腫瘍誘導性骨軟化症を引き起こす腫瘍の3症例を検討した。症例1は、54歳の女性で、骨の疼痛と筋肉の衰弱を訴えて当病院に入院した。患者は左臀部に小さな皮内腫瘍があり、低リン血症性骨軟化症(hypophosphatemic osteomlacia)の典型的な特徴を示した。他の2症例の臨床経過も、低リン血症性骨軟化症の典型的な特徴を示した(Pathol Int. 1996; 46:238−241)(J Bone Miner Metab 2001; 19:61−64)。これら3症例の血清リン酸値レベルは、手術による腫瘍の除去後、正常に回復した。また、病理組織検査の結果、3症例の腫瘍は、血管周皮腫様(hemangiopericytoma−like)の組織像を呈していた。これらの3症例とともに、組織学的に類似する腫瘍として、悪性線維性組織球腫(MFH)、滑膜肉腫(synovial sarcoma)、悪性神経鞘腫(malignant shwannoma)などについても検討を行った(表1)。
【0023】
4.組織サンプルと免疫組織化学的分析
使用した組織は、大阪大学大学院医学系研究科臨床調査合同委員会のガイドラインに従って得たものである。これらのサンプルは、10%中性ホルマリンで固定し、通法によりパラフィン包埋した。陽性コントロールとして、ヒトとラットの正常の骨組織を使用した。5μmの厚さに切断した組織切片は、ペルオキシダーゼ法で免疫染色〔Avidin−Biotin Complex (ABC) method〕し、その一部はヘマトキシリン・エオジン染色を行った。骨組織のサンプルは、中性ホルマリンで固定後、10%EDTA溶液中で、4℃で7日間攪拌し、脱灰した。処理後、骨組織サンプルを洗浄し、パラフィン包埋した。5μmの厚さに切断した組織切片は、抗DMP1抗体及び他の各種市販抗体(ビメンチン、CD34、F−XIII等に対する抗体。表2及び3)を用いて、ペルオキシダーゼ法で免疫染色(Avidin−Biotin Complex (ABC) method)を行い、その一部はヘマトキシリン・エオジン染色を行った。各一次抗体に対する抗原賦活法、希釈、及び販売元は表2に示した。免疫染色後、核染色をメチルグリーンにて行った。また、ネガティブコントロールには、正常ウサギ又はマウスIgG血清(DakoCytomation)を一次抗体として用い、陰性反応を確認した。
【0024】
B.結果
【0025】
1.各抗DMP1ペプチド抗体の特徴
ELISA法で、DMP1ペプチド1、3に対する抗血清には抗体価の上昇を認めたが、ペプチド2に対する抗体価の上昇は認められなかった。そこで、DMP1ペプチド1及び3に対する抗血清を、各々のDMP1ペプチドを結合させたカラムでアフィニティー精製した。次に、アフィニティー精製した各々の抗DMP1抗体を、ウエスタン・ブロットにて、組換えラットDMP1と反応させた。その結果、DMP1の分子量に一致する100kDaのシングルバンドが検出できることを確認した(図2Aのレーン3と4)。また、該抗体の代わりに正常血清を用いるとその反応は見られなかった(図2Aのレーン5と6)。さらに、該抗体を各々のDMP1ペプチドで吸収すると、100kDaのシングルバンドが消失することを確認した。
次に、各々の抗DMP1抗体を用いて、ラットとヒトの骨組織サンプルを免疫組織染色することにより、骨細胞周囲の骨マトリックスに陽性反応が認められ(図2B,2C)、これらの結果は、すでに報告したラット骨組織におけるDMP1分布と一致していた(J. Bone Miner Res 2001;16:2017−2026)。なお、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、極めて特異的に骨細胞周囲の骨マトリックスのみに陽性反応を示すのに対し、抗DMP1(ペプチド3)抗体は、筋肉組織にも弱い陽性反応を示した。ゆえに、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、ラットと同様にヒトのDMP1分子を極めて特異的に認識することが証明された。
【0026】
2.臨床病理学的特徴
3症例の骨軟化症を引き起こす腫瘍は、すべてmixed connective tissue tumorsに分類され、悪性血管周皮腫(malignant hemangiopericytomas)に類似の組織像を示した(Cancer 1987; 59:1442−1454)(図3A1〜図3C1、図4A1〜図4E1)。
【0027】
3.骨軟化症を引き起こす腫瘍及び他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイル
骨軟化症を引き起こす腫瘍及び他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイルを表3に示した。骨軟化症を引き起こす腫瘍の免疫組織化学的プロファイルは、悪性血管周皮腫(malignant hemangiopericytomas)のものと類似しており、ビメンチン、CD34、F−XIIIaに対する抗体について陽性反応を示した(表3;図3A3〜図3D3 )。しかし、DMP1発現については、骨軟化症を引き起こす腫瘍では強いDMP1発現がDMP1(ペプチド1)抗体によって観察されたのに対し(図3A2〜図3C2)、悪性血管周皮腫ではその発現は認められなかった(図3D2)。さらに、検討した他のいずれの腫瘍(表3)にもDMP1発現はDMP1(ペプチド1)抗体によって認められなかった。ゆえに、DMP1は骨軟化症を引き起こす腫瘍を同定するのに極めて有効なマーカーであり、DMP1(ペプチド1)抗体が有効な試薬になりうることが証明された。
【0028】
4.骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の分布
次に、腫瘍におけるDMP1の詳細な分布をDMP1(ペプチド1)抗体を使って検討した。DMP1は、腫瘍細胞周囲の細胞外基質にその分布が認められた(図4A〜4C)。粘液腫様の間質や多数の毛細血管を含む領域の間質には、多量の顆粒状DMP1沈着物が認められた(図4Aと4B)。また、異栄養性石灰化部にもDMP1の分布が認められた(図4C)。小嚢胞状の変性所見を示す領域では、DMP1は腫瘍細胞の核近傍の細胞質内に分布しているのが認められた(図4Dと、図4Dの差込図)。
【0029】
【発明の効果】
本発明のDMP1(ペプチド1)抗体は、DMP1由来の抗体として従来にない高い免疫反応性を保持し、さらにDMP1に対する反応性において極めて高い特異性を保持している。そして、この抗体は、骨軟化症を誘導する腫瘍の診断に極めて有用な手段になりうることを見い出した。
本発明者が証明したのは、通常の病理組織切片をDMP1(ペプチド1)抗体を使って免疫組織化学的染色法で検討すると、骨軟化症を引き起こす腫瘍はDMP1陽性反応を示すのに対し、その他の腫瘍はDMP1には反応を示さないということである。一方、従来から病理診断に有用とされていたCD34やF−XIIIaのマーカーは、悪性血管周皮腫や悪性線維性組織球腫の両者にも陽性反応を示すことから、CD34やF−XIIIaは、骨軟化症を引き起こす腫瘍を同定することができない。ゆえに、DMP1は他の腫瘍から骨軟化症を引き起こす腫瘍を診断するのに唯一の診断マーカーとなること、及びDMP1(ペプチド1)抗体が唯一の診断試薬となることが判明した。
腫瘍誘導性骨軟化症の臨床症状は重篤にもかかわらず、腫瘍本体は非常に小さく、体のどこにでも発生する腫瘍であり、しかも多彩な病理組織像を示すため、その同定が臨床的にも病理学的にも非常に困難である。腫瘍細胞で生産されたDMP1は、腫瘍細胞内にも分布するが、主に腫瘍細胞周囲の細胞外基質に蓄積される。そこで、DMP1(ペプチド1)抗体をヒト化し標識化することにより、腫瘍の細胞外基質に蓄積したDMP1を明確に認識でき、患者の本腫瘍の位置を同定できる。また、外科切除の際、本腫瘍とその周囲の結合組織の境界が明らかではなく、病理診断によるセーフティー・マージンの判定はほとんど不可能である。そこで、外科切除後の本腫瘍の残存が問題になるが、病理組織切片におけるDMP1(ペプチド1)抗体によるDMP1の免疫組織化学的検討により、本腫瘍のセーフティー・マージンを判定することが可能である。
また、ヒトなどの哺乳動物の正常の骨組織では、DMP1は骨細胞周囲の骨基質にのみ分布するが、骨軟化症などの骨代謝疾患ではDMP1の分布が異常になることが分かっている。ゆえに、骨粗鬆症などの骨代謝疾患の骨組織サンプルをDMP1(ペプチド1)抗体を使いDMP1の免疫組織化学的染色法で検討することにより、その疾患の診断や病状の把握に有効であると考えられる。
さらに、DMP1はウエスタン・ブロットにより正常のヒト血清中にもその存在を確認することができる(J Biol Chem 2002; 277:13700−13708)。同様に、腫瘍誘導性骨軟化症の患者血清中のDMP1レベルをDMP1(ペプチド1)抗体で測定することにより、DMP1は腫瘍誘導性骨軟化症を診断する血清マーカーにもなりうる。同様に、骨軟化症などの骨代謝疾患ではDMP1の分布が異常になることから、DMP1は骨粗鬆症などの骨代謝疾患を診断する血清マーカーになり、DMP1(ペプチド1)抗体は診断試薬にもなりうる。
以上述べたように、本発明は、腫瘍誘導性骨軟化症や骨粗鬆症などの骨代謝疾患の新規の診断ツールを開発するのに有用であると考えられる。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト、ウシ、ラット、及びマウスのDMP1のアミノ酸配列アラインメントを示す。囲みのある配列(ペプチドC)は、ヒト、ウシ、ラット、及びマウスのDMP1配列のC末端で、抗DMP1抗体作製に使用される。アスタリスク(*)はアラインメントギャップを示す。アミノ酸残基はIUPAC−IUB一文字コードで示される。
【図2】抗DMP1(ペプチド1)抗体の特徴を示す。
(A):レーン1、2は、E.coli内で生産された組換えラットDMP1のSDS−PAGE (7%)を示す。レーン3−6は、抗DMP1(ペプチド1)抗体による組換えラットDMP1のウエスタン・ブロット解析を示す。レーン1は組換えDMP1−GST融合タンパク質を示す。レーン2はPreScisson Proteaseで消化した後の組換えDMP1を示す。組換えDMP1−GST融合タンパク質(レーン3)、そして組換えDMP1タンパク質(レーン4)は、アフィニティー精製した抗DMP1(ペプチド1)抗体により検出されるが、いずれの組換えタンパク質も免疫前血清(レーン5、6)では検出されない。
(B)(C):ラットとヒトの正常の骨組織におけるDMP1の免疫組織化学的検出(下図)を示す。生後15日目のラット(下左図)、および胎生23週目のヒト胎児(下右図)の骨幹端部海面骨組織において、抗DMP1(ペプチド1)抗体は、骨細胞と骨細管を含む周囲の骨基質に陽性反応を示す。メチレングリーン対比染色である。
【図3】骨軟化症を引き起こす腫瘍及びその他の腫瘍の免疫組織化学的プロファイルを示す。各横列は、H&E染色した切片 (A1、B1、C1、D1)(最上段列)、DMP1(A2、B2、C2、D2)(中段列)そしてCD34(A3、B3、C3、D3)の免疫組織化学的発現を示す。各縦列は、腫瘍の連続切片でのDMP1とCD34発現の免疫組織化学的パターンを示す。各々の縦列の「A1〜A3とB1〜B3とC1〜C3」は、骨軟化症を引き起こす腫瘍の各々の症例1〜3の写真に代わる図面を示す。縦列の「D1〜D3」は悪性血管周皮腫の写真に代わる図面を示す。「A1、B1、C1、D1」はH&E染色、「A2〜A3、B2〜B3、C2〜C3、D2〜D3」はメチルグリーン対比染色である。骨軟化症を引き起こす腫瘍(A、B、C) では、DMP1の免疫反応は腫瘍細胞や血管細胞周囲の間質に観察される。CD34免疫反応も腫瘍細胞に観察される。悪性血管周皮腫 (D) では、CD34 免疫反応が腫瘍細胞に観察されるが、DMP1免疫反応は全く観察されない。
【図4】骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の免疫組織化学的分布を示す。左欄の「A1、B1、C1、D1」は、H&E 染色された切片であり、右欄の「A2、B2、C2、D2」はその連続切片でDMP1の免疫組織化学的発現部位を示す。「A1、B1、C1、D1」はH&E染色、「A2、B2、C2、D2」はメチルグリーン対比染色を示す。
骨軟化症を引き起こす腫瘍におけるDMP1の分布パターンは多彩である。Aでは、粘液腫様間質領域には、DMP1の顆粒状沈着物が多量に蓄積している。Bでは豊富な毛細血管を有する領域では、DMP1の顆粒状沈着物が毛管血管周囲の間質に蓄積している。 Cでは、異栄養性石灰化部にDMP1の免疫反応が観察される。 Dでは、小嚢胞の変性所見の見られる領域ではDMP1は腫瘍細胞内の核近傍に分布する。その拡大図を D2の差込図に示す。
【0034】
【配列表】
Claims (4)
- 以下から選らばれるポリペプチド;
1)配列番号1のペプチド。
2)配列番号1の少なくとも5つの配列を含む免疫原性を維持したペプチド。
3)配列番号1のペプチドの少なくとも1のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されているが、配列番号1のペプチドと実質的に同一の免疫原性を維持したペプチド。 - 配列番号1のポリペプチドを認識する抗体。
- 請求項2の抗体を使った免疫学的測定方法。
- 腫瘍誘導性骨軟化症(oncogenic osteomalacia)又は骨粗鬆症などの骨代謝疾患の検査に使用する請求項3の方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003083823A JP2004292321A (ja) | 2003-03-25 | 2003-03-25 | Dpm1由来ペプチド |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003083823A JP2004292321A (ja) | 2003-03-25 | 2003-03-25 | Dpm1由来ペプチド |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004292321A true JP2004292321A (ja) | 2004-10-21 |
Family
ID=33399190
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003083823A Pending JP2004292321A (ja) | 2003-03-25 | 2003-03-25 | Dpm1由来ペプチド |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004292321A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007178356A (ja) * | 2005-12-28 | 2007-07-12 | Japan Health Science Foundation | 骨質を評価する方法,骨質の評価キット,骨質劣化予防又は改善剤のスクリーニング方法,及び骨質劣化予防又は改善剤のスクリーニング用キット |
-
2003
- 2003-03-25 JP JP2003083823A patent/JP2004292321A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007178356A (ja) * | 2005-12-28 | 2007-07-12 | Japan Health Science Foundation | 骨質を評価する方法,骨質の評価キット,骨質劣化予防又は改善剤のスクリーニング方法,及び骨質劣化予防又は改善剤のスクリーニング用キット |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP2008513536A (ja) | プロガストリンに対するモノクローナル抗体 | |
US7867725B2 (en) | Monoclonal antibodies against osteopontin | |
KR20110000548A (ko) | 신장암의 진단 또는 검출을 위한 조성물 및 방법 | |
US5972623A (en) | Collagen-peptide assay method | |
JP2011503620A (ja) | リン酸化脂肪酸シンターゼ及び癌 | |
US20100035360A1 (en) | Reagent for detection of autoantibody and kit for diagnosis of autoimmune disease | |
US6117646A (en) | Assaying protein fragments in body fluids | |
US9115190B2 (en) | Sequences, antibodies, methods and kits for detection and in vitro assay of periostin, in order to provide a diagnosis, follow-up or prognosis of diseases and biological phenomena involving periostin | |
US6541275B1 (en) | Immunoassay for F1.2 prothrombin fragment | |
CA2671633C (en) | Diagnostic agent for mesothelioma, diagnosis kit for mesothelioma, and diagnosis method for mesothelioma | |
JP2000512123A (ja) | ネフロパシー―関連免疫グロブリンg及びそのための抗体 | |
CN110183530A (zh) | 瘦素免疫原、杂交瘤细胞、单克隆抗体、多克隆抗体及应用 | |
US20220034890A1 (en) | Use of bmmf1 rep protein as a biomarker for breast cancer | |
CN111656196A (zh) | 肾癌的检测方法和检查试剂 | |
KR101329344B1 (ko) | 돼지인플루엔자 바이러스 헤마글루티닌 검출용 항체 및 이의 용도 | |
JP2004292321A (ja) | Dpm1由来ペプチド | |
WO2022221877A2 (en) | Lateral flow analysis and breast cancer | |
US20240118284A1 (en) | Compositions and methods for detecting plxdc1 and plxcd2 in human tissues | |
US7629131B2 (en) | Rabbit monoclonal antibodies against mouse/human Id3 proteins | |
KR20070042994A (ko) | 항시노비올린 항체 | |
WO1996027134A1 (en) | Perspiration assay for assessing bone resorption | |
JP2010536715A (ja) | Nesfatin−1特異的抗体およびその用途、ならびにNesfatin特異的抗体およびその用途 | |
JP2013003066A (ja) | Dmp1の測定方法 | |
TW200920749A (en) | Anti-human caveolin-1 polyclonal antibody, and antigen peptide sequence and method for preparing the same | |
CN114624445A (zh) | 用于诊断膜性肾病的方法和试剂 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20050419 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Effective date: 20080108 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 |
|
A521 | Written amendment |
Effective date: 20080306 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20080625 |