JP2004291076A - ろう付け用複合材及びそれを用いたろう付け製品 - Google Patents

ろう付け用複合材及びそれを用いたろう付け製品 Download PDF

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Abstract

【課題】ろう付け特性が良好で、かつ、ろう付け接合部の耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性が良好なろう付け用複合材、及びろう付け接合部の信頼性が良好で、製造コストが安価なろう付け製品を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るろう付け用複合材10は、被ろう付け材同士をろう付けするものであって、Ti又はTi合金層12と、Cu−Si合金層又はCu−Cr合金層13とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層15で構成したもの、或いはTi又はTi合金層12と、Ni−Si合金層又はNi−Cr合金層16とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層15で構成したものである。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ろう付け用複合材及びそれを用いたろう付け製品に係り、特に、熱交換器及び燃料電池用部材のろう付けに用いられる複合材及びそれを用いたろう付け製品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用オイルクーラの接合材としてステンレス基クラッド材が使用されている。これは、基材であるステンレス鋼板の片面又は両面に、ろう材としての機能を有するCu材がクラッドされている。
【0003】
また、ステンレス鋼や、Ni基又はCo基合金などからなる部材のろう付け材として、ろう付け接合部の耐酸化性や耐食性に優れる各種Niろう材が、JIS規格により規定されている。
【0004】
さらに、熱交換器の接合に用いられるNiろう材として、粉末状のNiろう材に、Ni、Cr、又はNi−Cr合金の中から選択される金属粉末を4〜22wt%添加してなる粉末Niろう材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、基材であるステンレス鋼の表面にNi及びTiからなるろう付け層を有する、即ちNi/Ti/ステンレス鋼というろう付け層構造を有する自己ろう付け性複合材がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−107883号公報
【特許文献2】
特開平7−299592号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のろう材又はろう付け用複合材を、高温・高腐食性のガス又は液体に晒される熱交換器(排ガス再循環装置(以下、EGR(Exhaust Gas Recirculation)と示す)用クーラ)の接合用ろう材として使用する場合、以下に示すような問題があった。
【0008】
▲1▼ 前述したステンレス基クラッド材を自動車用オイルクーラの接合材として使用する場合、耐熱性及び耐食性については全く問題がないが、このステンレス基クラッド材をEGR用クーラの接合材として使用する場合、EGR用クーラ内は高温で、かつ、腐食性の高い排気ガスが循環されることから、ステンレス基クラッド材のろう材(Cu材)では、耐高温腐食性(耐高温酸化性)及び耐食性が十分でないという問題があった。
【0009】
▲2▼ 前述した各種Niろう材は粉末状であることから、各ろう付け接合部に粉末Niろう材をそれぞれ塗布するという作業が必要になる。つまり、ろう付け作業に多大な労力を要するため、ろう付け製品の生産性が著しく低く、その結果、製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0010】
▲3▼ 前述した自己ろう付け性複合材は、耐熱性及び耐食性については十分な効果を発揮するものの、ろう付け時のろう材の濡れ性、湯流れ性が良好でないと共に、ろう付け層自体が脆いため、ろう付け後の製品の性能(強度、疲労特性)が大きく低下するという問題があった。
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の一の目的は、ろう付け特性が良好で、かつ、ろう付け接合部の耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性が良好なろう付け用複合材を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、ろう付け接合部の信頼性が良好で、製造コストが安価なろう付け製品を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係るろう付け用複合材は、被ろう付け材同士をろう付けするろう付け用複合材において、Ti又はTi合金層と、Cu−Si合金層又はCu−Cr合金層とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層で構成したものである。また、Ti又はTi合金層と、Ni−Si合金層又はNi−Cr合金層とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層で構成したものである。また、Ti又はTi合金層と、Cu−Si合金層又はCu−Cr合金層と、Ni−Si合金層又はNi−Cr合金層とを組み合わせたものを3層以上に重ねてなるろう付け層で構成したものである。また、Ti又はTi合金層と、Ni又はNi合金層或いはCu又はCu合金層と、Si又はSi合金層或いはCr又はCr合金層とを組み合わせたものを3層以上に重ねてなるろう付け層で構成したものである。
【0014】
具体的には、請求項5に示すように、上記ろう付け層は、Pを0.02〜10wt%含んでいることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るろう付け用複合材は、前述したろう付け層を、基材表面に形成したものである。
【0016】
また、請求項7に示すように、上記基材はFeを主成分とする合金で形成される。
【0017】
また、請求項8に示すように、上記Feを主成分とする合金はステンレス鋼であることが好ましい。
【0018】
これによって、ろう付け特性が良好で、かつ、ろう付け接合部の耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性が良好なろう付け用複合材が得られる。
【0019】
一方、本発明に係るろう付け用複合材を用いたろう付け製品は、上述したろう付け用複合材を用いて接合したものである。
【0020】
これによって、ろう付け接合部の信頼性が良好で、製造コストが安価なろう付け製品が得られる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0022】
本発明者らは、ろう付け特性が良好で、かつ、ろう付け接合部の耐高温酸化性及び耐食性が良好で、かつ、ろう付け加工のコストを大幅に低減させるろう付け用複合材の構成について種々検討した。その結果、従来、Tiは融点が約1670℃と高いため、そのまま(単体)ではステンレス鋼部材を接合するためのろう材としての使用が困難であったが、Ti又はTi合金と、Ni又はNi合金及び/又はCu又はCu合金とをクラッドし、ろう付け時に合金化することで融点を下げることができ、980〜1200℃近傍でのろう付けが可能となることを見出した。
【0023】
(第1の実施の形態)
本発明に係るろう付用複合材の第1実施形態の断面図を図1に示す。
【0024】
図1に示すように、第1の実施形態のろう付用複合材10は、被ろう付け材同士をろう付けするためのものであり、薄板状の、Ti又はTi合金層12と、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)とを2層に重ねてなる(クラッドしてなる)ろう付け層15で構成したものである。
【0025】
この複合材10に、適宜、圧延加工を施すことで、所望の厚さのろう付け用複合材(最終製品)が得られる。
【0026】
Ti又はTi合金層12の構成材として、具体的には純Ti、Ti−Si合金、Ti−Cr合金等が挙げられ、また、Cu又はCu合金層13の構成材として、具体的には純Cu、Cu−Si合金、Cu−Cr合金等が挙げられる(或いは、Ni又はNi合金層16の構成材として、具体的には純Ni、Ni−Si合金、Ni−Cr合金等が挙げられる)。ここで、層12と層13(或いは層16)の少なくとも一方が、Si又はCrを含有していればよい。
【0027】
また、ろう付け層15に、Pを0.02〜10wt%、好ましくは5〜10wt%含有させることで、ろう材の湯流れ性、耐酸化性を著しく改善することができる。Pの含有量を0.02〜10wt%と限定したのは、0.02wt%未満だと、湯流れ性の向上が期待できないためであり、逆に10wt%を超えると、ろう付け層15が脆化し、振動疲労特性及び接合強度が著しく低下するためである。
【0028】
本実施の形態においては、薄板状を呈した複合材10を用いて説明を行ったが、複合材の形状は薄板状に特に限定するものではなく、図1の変形例を図2に示すように、棒状又はワイヤ状のTi又はTi合金22の表面に、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)を形成し、ろう付け用複合材20としてもよい。この場合のCu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)の形成は、メッキ法、押出法、造管法などによって行う。
【0029】
次に、本実施の形態に係る複合材10(又は20)の作用について説明する。本実施の形態に係る複合材10(又は20)においては、ろう付け層を、Ti又はTi合金層12(或いはTi又はTi合金22)と、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)とで構成しているため、ろう付けの際、Tiろう材中にCuろう材のCu成分(或いはNiろう材のNi成分)が混入する(溶け込む)。これによって、耐熱性及び耐食性に優れるものの、その融点の高さからろう材として機能させることが困難であったTi又はTi合金を含むろう材の融点を下げることができ、このろう材を用いたろう付けを980〜1200℃近傍で行うことが可能となる。その結果、本実施の形態に係る複合材10(又は20)を、高温・高腐食性のガス又は液体に晒されるEGR用クーラの接合用ろう材として使用しても、優れた耐熱性及び耐食性を有し、かつ、優れたろう付け性を有するCu−Ti系(又はNi−Ti系)ろう付け接合部を得ることができる。
【0030】
また、ろう付け層15のCu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)を、Si又はCrを含んだCu合金(或いはNi合金)で構成しているため、ろう付け接合部の表面に、酸化ケイ素又は酸化クロムからなる緻密な酸化膜が形成され、耐高温酸化性を著しく向上させることができる。その結果、高温(約600〜800℃)酸化に伴うろう付け接合部の接合強度の低下が生じにくくなり、ろう付け製品の接合部の信頼性が良好となる。
【0031】
本実施の形態に係る複合材10(又は20)を用いたろう付け製品は、接合を行う一組の被ろう付け材(図示せず)間に、複合材10(又は20)を配置して加熱することで得られる。
【0032】
よって、第1の実施の形態に係る複合材10(又は20)を用いてろう付けすることで、耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性に優れたろう付け接合部を得ることができ、高温・高腐食性のガス又は液体に晒されるEGR用クーラ等のろう付け接合部のろう付け材として最適となる。
【0033】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0034】
(第2の実施の形態)
本発明に係るろう付用複合材の第2実施形態の断面図を図3に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については詳細な説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、第2の実施形態のろう付用複合材30は、薄板状の基材31の表面(図3中では上面のみ)に、Ti又はTi合金層12と、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)とを2層に重ねてなるろう付け層15を形成したものである。言い換えれば、複合材30は、基材31の表面(図3中では上面のみ)に、図1に示したろう付け層15を、Ti又はTi合金層12を基材31側にして重ねて形成したものである。ここで言う基材31の表面は、外部に露出する全ての面を示している。
【0036】
この複合材30に、適宜、圧延加工を施すことで、所望の厚さのろう付け用複合材(最終製品)が得られる。
【0037】
基材31の構成材は、Feを主成分とするFe基合金が好ましく、特にステンレス鋼が好ましい。
【0038】
図3に示した本実施形態のろう付用複合材30は、基材31の片面(図3中では上面)のみにろう付け層15を形成しているが、基材31の両面(図3中では上・下面)にろう付け層15を形成してもよい。
【0039】
また、本実施の形態においては、薄板状を呈した複合材30を用いて説明を行ったが、複合材の形状は薄板状に特に限定するものではなく、図3の変形例を図4に示すように、棒状又はワイヤ状の基材41の表面に、内層側がTi又はTi合金層12、外層側がCu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)からなるろう付け層15を形成し、ろう付け用複合材40としてもよい。この場合、基材41としては基材31と同じものが適用可能であり、Ti又はTi合金層12、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)の形成は、メッキ法、押出法、造管法などによって行う。
【0040】
次に、本実施の形態に係る複合材30(又は40)の作用について説明する。本実施の形態に係る複合材30(又は40)においても、前実施の形態に係る複合材10(又は20)と同様の作用効果が得られる。
【0041】
また、複合材30(又は40)は、基材31(又は41)の表面にろう付け層15を一体に設けているため、ろう付けの際、従来の各種Niろう材のように、各ろう付け接合部に粉末Niろう材をそれぞれ塗布する必要、又は前実施の形態に係る複合材10(又は20)のように、接合を行う一組の被ろう付け材間に複合材10(又は20)を配置する必要はなく、ろう付け作業に多大な労力を要することはない(ろう付け作業性が良好となる)。つまり、本実施の形態に係る複合材30(又は40)を用いたろう付け製品は、接合を行う一組の被ろう付け材の内、一方の被ろう付け材を基材31として複合材30(又は40)を形成し、この複合材30(又は40)と他方の被ろう付け材を重ね合わせて加熱することで得られる。その結果、ろう付け製品の歩留まり・生産性が良好となり、延いては製造コストの低減を図ることができる。
【0042】
よって、第2の実施の形態に係る複合材30(又は40)を用いてろう付けすることで、耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性に優れたろう付け接合部を、更に容易、安価に得ることができ、高温・高腐食性のガス又は液体に晒されるEGR用クーラ等のろう付け接合部のろう付け材として最適となる。
【0043】
(第3の実施の形態)
本発明に係るろう付用複合材の第3実施形態の断面図を図5、図6に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については詳細な説明を省略する。
【0044】
第1の実施の形態に係る複合材10は、薄板状の、Ti又はTi合金層12と、Cu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)とを2層に重ねてなるろう付け層15で構成されるものであった。
【0045】
これに対して、図5に示すように、第3の実施の形態に係る複合材50は、薄板状の、Ti又はTi合金層12とCu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)53a,53bとを、層53a、層12、層53bと交互に3層に重ねたろう付け層55で構成されるものである。また、図6に示すように、第3の実施の形態に係る複合材60は、薄板状の、Ti又はTi合金層12,12とCu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)63a〜63cとを、層63a、層12、層63b、層12、層63cと交互に5層に重ねたろう付け層65で構成されるものである。
【0046】
ここで、Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)53a,53b、Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)63a〜63cの構成材としては、Cu−Si合金、Cu−Cr合金(或いはNi−Si合金、Ni−Cr合金)等が挙げられる。
【0047】
本実施の形態においては、3層構造のろう付け層55、5層構造のろう付け層65について説明を行ったが、これに限定するものではなく、4層構造又は6層以上の構造のろう付け層であってもよい。
【0048】
また、本実施の形態においては、薄板状を呈した複合材50,60を用いて説明を行ったが、複合材の形状は薄板状に特に限定するものではなく、図5の変形例を図7に示すように、棒状又はワイヤ状のCu又はCu合金73aの表面に、内層側がTi又はTi合金層12、外層側がCu又はCu合金層73bからなるろう付け層75を形成し、ろう付け用複合材70としてもよい。また、図6の変形例を図8に示すように、棒状又はワイヤ状のCu又はCu合金83aの表面に、内層側から順に層12、層83b、層12、層83cと積層してなるろう付け層85を形成し、ろう付け用複合材80としてもよい。
【0049】
また、本実施の形態においては、層53a,53b、層63a〜63c、合金73a及び層73b、合金83a及び層83b,83cの材質が全て同じ場合について説明を行ったが、これに限定するものではない。例えば、
▲1▼ 層53a、層63a,63c、合金73a、合金83a及び層83cをCu−Si合金(又はNi−Si合金)で構成し、層53b、層63b、層73b、層83bをNi−Si合金(又はCu−Si合金)で構成、
▲2▼ 層53a、層63a,63c、合金73a、合金83a及び層83cをCu−Cr合金(又はNi−Cr合金)で構成し、層53b、層63b、層73b、層83bをNi−Cr合金(又はCu−Cr合金)で構成、
▲3▼ 層53a、層63a,63c、合金73a、合金83a及び層83cをCu−Si合金(又はNi−Si合金)で構成し、層53b、層63b、層73b、層83bをCu−Cr合金(又はNi−Cr合金)で構成、
▲4▼ 層53a、層63a,63c、合金73a、合金83a及び層83cをCu−Si合金(又はNi−Si合金)で構成し、層53b、層63b、層73b、層83bをNi−Cr合金(又はCu−Cr合金)で構成、
▲5▼ 層63a〜63c、合金83a及び層83b,83cを全て異なる材質で構成(Cu−Si合金、Cu−Cr合金、Ni−Si合金、及びNi−Cr合金の中からそれぞれを選択)、
するようにしてもよい。
【0050】
第3の実施の形態に係る複合材50,60(又は70,80)においても、前実施の形態に係る複合材10(又は20)と同様の作用効果が得られる。
【0051】
(第4の実施の形態)
本発明に係るろう付用複合材の第4実施形態の断面図を図9、図10に示す。尚、図3と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については詳細な説明を省略する。
【0052】
第2の実施の形態に係る複合材30は、薄板状の基材31の表面(図3中では上面のみ)に、Ti又はTi合金層12とCu又はCu合金層13(或いはNi又はNi合金層16)とを2層に重ねてなるろう付け層15を形成したものであった。
【0053】
これに対して、図9に示すように、第4の実施の形態に係る複合材90は、基材31の表面(図9中では上面のみ)に、図5に示したろう付け層55を、Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)53aを基材31側にして重ねて形成してなるものである。また、図10に示すように、第4の実施の形態に係る複合材100は、基材31の表面(図10中では上面のみ)に、図6に示したろう付け層65を、Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)63aを基材31側にして重ねて形成してなるものである。
【0054】
図9、図10に示した本実施形態のろう付用複合材90,100は、基材31の片面(図9、図10中では上面)のみにろう付け層55,65を形成しているが、基材31の両面(図9、図10中では上・下面)にろう付け層55,65を形成してもよい。
【0055】
本実施の形態においては、薄板状を呈した複合材90,100を用いて説明を行ったが、複合材の形状は薄板状に特に限定するものではなく、図9の変形例を図11に示すように、棒状又はワイヤ状の基材41の表面に、内層側から順に層53a、層12、層53bと積層してなるろう付け層55を形成し、ろう付け用複合材110としてもよい。また、図10の変形例を図12に示すように、棒状又はワイヤ状の基材41の表面に、内層側から順に層63a、層12、層63b、層12、層63cと積層してなるろう付け層65を形成し、ろう付け用複合材120としてもよい。
【0056】
また、複合材90,100(又は110,120)のろう付け層55,65において、基材31(又は41)と接する層(図9,図11では層53a、図10,図12中では層63a)を、純Si又は純Crで構成してもよい。この場合、残りの層(層12、層53b、層63b,63c)を、Si又はCrを含有しない金属(純Ti、純Cu、或いは純Ni)で構成してもよい。
【0057】
第4の実施の形態に係る複合材90,100(又は110,120)においても、前実施の形態に係る複合材30(又は40)と同様の作用効果が得られる。また、本実施の形態に係る複合材90,100(又は110,120)は、基材31(又は41)と直接接する層およびろう付け層55,65の最内層及び最外層が、Ti又はTi合金層12ではなく、Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)53a,53b及び63a,63cであることから、ろう付けの際に、ステンレス鋼からなる基材31(又は41)とTiとの反応を抑制することができ、その結果、ろう付け接合部の信頼性がより高まる。
【0058】
本実施の形態に係る複合材10〜120は、EGR用クーラなどの高温・高腐食性のガス又は液体に晒される熱交換器のみに、その用途を限定するものではなく、その他にも、例えば、燃料電池の改質器用クーラや、燃料電池部材などの各種用途にも適用可能である。特に、複合材20,40,70,80,110,120は、径サイズが小さく、取り扱い性が良好であることから、EGR用クーラや、燃料電池の改質器用クーラ等の熱交換器、燃料電池部材などの他にも、オイルクーラ、ラジエータ、二次電池部材などにも適用可能である。
【0059】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0060】
【実施例】
(実施例1)
厚さ0.21mmのNi−Si条材、厚さ0.66mmのTi条材、および厚さ0.14mmのCu−Si条材を圧延法によりクラッドし、積層構造がCu−Si/Ti/Ni−Si、ろう付け層全体の組成がNi−49Ti−20Cu−1.5Si(wt%)である複合材を作製した。その後、この複合材に対して圧延を繰り返し行い、ろう付け層全体の厚さが70μm(0.07mm)のろう付け用複合材を作製した。この複合材を、厚さが0.6mmのSUS304(JIS規格)条材の上に配置し(SUS+Cu−Si/Ti/Ni−Si)、1200℃の管状炉内で加熱を行ってろう付け層を溶融させ、ろう付け特性を評価した。
【0061】
(実施例2)
SUS304(JIS規格)からなり、厚さ2.5mmのステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.30mmのTi条材と厚さ0.15mmのCu−Si条材とを圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Ti/Cu−Si、ろう付け層全体の組成がCu−50Ti−1.8Si(wt%)である複合材を作製した。その後、この複合材に対して圧延を繰り返し行い、ろう付け層全体の厚さが70μm(0.07mm)のろう付け用複合材を作製した。この複合材を、1200℃の管状炉内で加熱を行ってろう付け層を溶融させ、ろう付け特性を評価した。
【0062】
(実施例3)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.37mmのTi条材と厚さ0.15mmのNi−Si条材とを圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Ti/Ni−Si、ろう付け層全体の組成がNi−55Ti−1.0Si(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0063】
(実施例4)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.56mmのTi条材と厚さ0.12mmのNi条材とを重ねる。その後、ステンレス鋼条材とTi条材との間に平均粒径が200μmのSi粉末を約1g/cmの割合で略均等に分散配置した後、圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Si/Ti/Ni、ろう付け層全体の組成がNi−55Ti−2.0Si(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0064】
(実施例5)
厚さ0.20mmのNi−Cr条材、厚さ0.66mmのTi条材、および厚さ0.13mmのCu−Cr条材を圧延法によりクラッドし、積層構造がCu−Si/Ti/Ni−Si、ろう付け層全体の組成がNi−49Ti−20Cu−10Cr(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例1と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0065】
(実施例6)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.30mmのTi条材と厚さ0.15mmのCu−Cr条材とを圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Ti/Cu−Cr、ろう付け層全体の組成がCu−50Ti−5Cr(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0066】
(実施例7)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.37mmのTi条材と厚さ0.15mmのNi−Cr条材とを圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Ti/Ni−Cr、ろう付け層全体の組成がNi−55Ti−9Cr(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0067】
(実施例8)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.56mmのTi条材と厚さ0.12mmのNi条材とを重ねる。その後、ステンレス鋼条材とTi条材との間に平均粒径が200μmのCr粉末を約1g/cmの割合で略均等に分散配置した後、圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Cr/Ti/Ni、ろう付け層全体の組成がNi−56Ti−20Cr(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0068】
(比較例1)
厚さが0.6mmのSUS304(JIS規格)条材の上に、直接、厚さ0.07mmのCu箔を配置し、1200℃の管状炉内で加熱を行ってCu箔を溶融させ、ろう付け特性を評価した。
【0069】
(比較例2)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、厚さ0.15mmのTi条材を圧延法によりクラッドし、複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0070】
(比較例3)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.10mmのCu条材、厚さ0.49mmのTi条材、および厚さ0.11mmのNi条材を圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Cu/Ti/Ni、ろう付け層全体の組成がNi−49Ti−30Cu(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0071】
(比較例4)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、そのステンレス鋼条材側から順に、厚さ0.20mmのTi条材と厚さ0.15mmのCu条材とを圧延法によりクラッドし、積層構造がSUS/Ti/Cu、ろう付け層全体の組成がTi−60Cu(wt%)である複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0072】
(従来例1)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、厚さ0.12mmのCu条材を圧延法によりクラッドし、複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0073】
(従来例2)
実施例2と同じステンレス鋼条材の表面に、市販の粉末Niろう材(組成:Ni−25Cr−7.3Si−1.5B(wt%))を合成樹脂バインダで溶いた混練物を塗布し、ろう付け用複合材を作製した。その後は実施例2と同様にして、ろう付け用複合材のろう付け特性を評価した。
【0074】
実施例1〜8、比較例1〜4、及び従来例1,2の各複合材について、ろう付け特性の評価、具体的には、フィレット形成状態(湯流れ性)、腐食発生の有無(耐食性)、耐高温酸化性、ろう付け生産性の評価(作業性)、及び各特性の総合評価を行った。ろう付け特性の評価結果を表1に示す。
【0075】
ここで、湯流れ性の評価は、各複合材のろう付け層の表面にSUS304からなるステンレス鋼パイプを載せ、1200℃に加熱してろう付けした際の、ろう付け部のフィレット形状及びフィレットの断面積によって評価を行った。
【0076】
また、耐食性の評価は、ろう付け後の各複合材を、0.5mol/Lの塩素イオンを含む0.5mol/Lの硫酸溶液中に1000時間浸漬して腐食試験を行い、その後、ろう付け後の各複合材を溶液中から取出してろう付け部の組織観察を行い、腐食発生の有無を調べることによって行った。
【0077】
また、耐高温酸化性は、実施例1〜4、比較例1〜4、及び従来例1,2の各複合材について、1気圧の大気中、200℃及び600℃で50時間保持し、試験前後の重量変化、酸化スケール剥離の有無、断面観察による酸化被膜の厚さにより評価した。また、実施例5〜8、比較例1〜4、及び従来例1,2の各複合材については、1気圧の大気中、400℃及び800℃で100時間保持し、試験前後の重量変化、酸化スケール剥離の有無、断面観察による酸化被膜の厚さにより評価した。
【0078】
【表1】
Figure 2004291076
【0079】
表1に示すように、本発明に係るろう付け用複合材である実施例1〜8の複合材は、ろう付け層を、Ti層とCu合金層及び/又はNi合金層とのクラッド層としているため、ろう付け時においてTiの融点を低下させることができ、1200℃でのろう付けが可能である。その結果、実施例1〜8の複合材は、湯流れ性がいずれも良好であった。また、実施例1〜8の複合材は、耐食性、高温酸化性、及びろう付け生産性がいずれも良好であり、総合評価はいずれも良好であった。特に、耐高温酸化性については、実施例1,3〜5,7,8の複合材、とりわけ実施例5,7,8の複合材が極めて良好である。また、ろう付け生産性については、基材とろう付け層とを一体化した実施例2〜4,6〜8の複合材が極めて良好である。
【0080】
これに対して、比較例1及び従来例1の複合材は、湯流れ性及びろう付け生産性はいずれも良好であったものの、ろう付け層がCuのみで構成されるため、耐食性及び耐高温酸化性が十分でなく、高温酸化試験については200℃の試験でも酸化が観察された。以上より、総合評価は不良であった。
【0081】
比較例2の複合材は、ろう付け生産性は良好であったものの、ろう付け層がTiのみで構成されるため、1200℃のろう付け温度ではろう付け層が溶融せず、ろう材として機能しなかった。以上より、総合評価は不良であった。
【0082】
比較例3,4の複合材は、湯流れ性、耐食性、及びろう付け生産性はいずれも良好であった。また、200℃、400℃の耐高温酸化性は良好であるものの、ろう付け層中にSi又はCrが含まれていないため、600℃、800℃の耐高温酸化性は不良であった。以上より、総合評価は不良であった。
【0083】
従来例2の複合材は、湯流れ性、耐食性、及び耐高温酸化性はいずれも良好であったものの、ろう付け層のろう材が粉末Niろう材であり、ろう付け層の形成にバインダを必要とするため、ろう付け生産性が悪い。以上より、総合評価は不良であった。
【0084】
以上、本発明に係るろう付け用複合材である実施例1〜8の複合材は、ろうの湯流れ性、ろう付け接合部の耐食性・耐高温酸化性、及びろう付け生産性がいずれも良好であることから、ろう付け特性及びろう付け接合部の信頼性に優れたろう付け用複合材であることがわかる。
【0085】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
(1) Ti又はTi合金層とCu合金層及び/又はNi合金層とのクラッド層で構成されるろう付け層を形成することで、ろう付け特性が良好で、かつ、ろう付け接合部の耐熱性、耐食性、及び耐高温酸化性が良好なろう付け用複合材を得ることができる。
(2) (1)のろう付け用複合材を用いてろう付けすることで、ろう付け接合部の信頼性が良好で、製造コストが安価なろう付け製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るろう付用複合材の第1実施形態の断面図である。
【図2】図1の変形例を示す断面図である。
【図3】本発明に係るろう付用複合材の第2実施形態の断面図である。
【図4】図3の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明に係るろう付用複合材の第3実施形態の断面図である。
【図6】図5の第1変形例を示す断面図である。
【図7】図5の第2変形例を示す断面図である。
【図8】図5の第3変形例を示す断面図である。
【図9】本発明に係るろう付用複合材の第3実施形態の断面図である。
【図10】図9の第1変形例を示す断面図である。
【図11】図9の第2変形例を示す断面図である。
【図12】図9の第3変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120 ろう付け用複合材
12 Ti又はTi合金層
13 Cu又はCu合金層
15,55,65,75,85 ろう付け層
16 Ni又はNi合金層
22 Ti又はTi合金
31,41 基材
53a,53b,63a〜63c,73b,83b,83c Cu又はCu合金層(或いはNi又はNi合金層)
73a,83a Cu又はCu合金

Claims (9)

  1. 被ろう付け材同士をろう付けするろう付け用複合材において、Ti又はTi合金層と、Cu−Si合金層又はCu−Cr合金層とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層で構成したことを特徴とするろう付け用複合材。
  2. 被ろう付け材同士をろう付けするろう付け用複合材において、Ti又はTi合金層と、Ni−Si合金層又はNi−Cr合金層とをそれぞれ交互に2層以上に重ねてなるろう付け層で構成したことを特徴とするろう付け用複合材。
  3. 被ろう付け材同士をろう付けするろう付け用複合材において、Ti又はTi合金層と、Cu−Si合金層又はCu−Cr合金層と、Ni−Si合金層又はNi−Cr合金層とを組み合わせたものを3層以上に重ねてなるろう付け層で構成したことを特徴とするろう付け用複合材。
  4. 被ろう付け材同士をろう付けするろう付け用複合材において、Ti又はTi合金層と、Ni又はNi合金層或いはCu又はCu合金層と、Si又はSi合金層或いはCr又はCr合金層とを組み合わせたものを3層以上に重ねてなるろう付け層で構成したことを特徴とするろう付け用複合材。
  5. 上記ろう付け層が、Pを0.02〜10wt%含む請求項1から4いずれかに記載のろう付け用複合材。
  6. 請求項1から5いずれかに記載のろう付け層を、基材表面に形成したことを特徴とするろう付け用複合材。
  7. 上記基材をFeを主成分とする合金で形成した請求項6記載のろう付け用複合材。
  8. 上記Feを主成分とする合金がステンレス鋼である請求項7記載のろう付け用複合材。
  9. 請求項1から8いずれかに記載のろう付け用複合材を用いて接合したことを特徴とするろう付け用複合材を用いたろう付け製品。
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