JP2004285428A - 浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【構成】浸炭処理前の第二浸炭部材に浸炭処理を施し、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層より浅い浸炭深さの予備浸炭層を成形する予備浸炭工程と、第一浸炭部材が係合する第二浸炭部材の第二結合部に成形された予備浸炭層を切削加工等により取り除く切除工程と、第二浸炭部材の第二結合部に浸炭処理前の第一浸炭部材を溶接固着して溶接品を形成する溶接工程と、溶接品に浸炭焼入焼戻し処理を施し、第一浸炭部材に所定の浸炭硬化層深さの第一硬化層を成形するとともに、第二浸炭部材の予備浸炭層の浸炭深さを更に深くし、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層を成形する浸炭焼入焼戻し工程とからなる。
【選択図】 図2
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、浸炭硬化層深さが異なる浸炭部材からなる浸炭品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車などのエンジンでは、図7に示す如く、図示せぬ始動モータからの駆動力をスターターギヤ161、ワンウェイクラッチ101を介して動力伝達軸であるクランクシャフト131に伝達し、エンジンを始動していた。ワンウェイクラッチ101は、環状のインナーレース171と、インナーレース171の外周側に同心状に配置されるアウターレース102と、インナーレース171とアウターレース102との間に介在されるローラー109とを備え、軸方向に延出するインナーレース171の延出部172外周にスターターギヤ161が溶接により一体的に固着されていた。
【0003】
インナーレース171及びスターターギヤ161は表面硬度を高めるため浸炭焼入焼戻し処理が施され、表面に硬化層165,175が成形される。ここで、図8に示す如く、スターターギヤ(第一浸炭部材)161における第一硬化層165の浸炭硬化層深さhに比較して、ローラー109が当接して多大な荷重のかかるインナーレース(第二浸炭部材)171における第二硬化層175の浸炭硬化層深さgは深く設定されていた。
【0004】
このような浸炭硬化層深さh,gが異なる第一浸炭部材161と第二浸炭部材171とからなる浸炭品151を製造する場合、図9に示す如く、予め塑性加工により所定形状に成形した第一浸炭部材161及び第二浸炭部材171に各々異なる浸炭焼入焼戻し処理を施し、第一浸炭部材161には浸炭硬化層深さhが浅い、例えば0.4mmの第一硬化層165が形成され、第二浸炭部材171には浸炭硬化層深さgが深い、例えば1.0mmの第二硬化層175が成形される。
次に、図10に示す如く、第二浸炭部材171と当接する第一浸炭部材161の第一結合部163に成形された第一硬化層165、及び第一浸炭部材161と当接する第二浸炭部材171の第二結合部173に成形された第二硬化層175をバイト199による切削加工により取り除き、続いて図11に示す如く、第一及び第二結合部163,173が対向するように第一浸炭部材161及び第二浸炭部材171を組付ける。そして最後に、結合部163,173をレーザビーム溶接にて固着して、図8に示す如き浸炭品151を製造していた。
【0005】
ここで上記浸炭品151の製造方法では、レーザビーム溶接前に第一及び第二結合部163,173に成形された第一及び第二硬化層165,175を取り除いたが、この硬化層165,175が存在する状態でレーザビーム溶接を施すと、硬化層165,175の溶融に基づく炭素含有量の増加により溶接金属中に亀裂が発生する可能性が高くなるため、硬化層165,175を取り除いている。あるいは、予め結合部163,173に防炭処理を施し、結合部163,173に硬化層165,175が成形されることを防止する方法もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述の如く、浸炭硬化層深さh,gが異なる第一浸炭部材161及び第二浸炭部材171を溶接にて固着し浸炭品151を製造するときに、第一浸炭部材161の第一結合部163に成形される第一硬化層165及び第二浸炭部材171の第二結合部173に成形される第二硬化層175を取り除く、または第一及び第二硬化層165,175の成形を防止することにより、溶接金属中の亀裂の発生を抑え、信頼性の高い溶接を実現できるという利点がある。
【0007】
しかし、浸炭焼入焼戻し処理を施した第一浸炭部材161及び第二浸炭部材171は硬度が高くなるため、切削加工による硬化層165,175の取り除きに時間がかかり、更に切削に使用されるバイト199等の切削工具の寿命も短くなるということがある。また、第一浸炭部材161の第一結合部163及び第二浸炭部材171の第二結合部173に防炭処理を施し、第一及び第二硬化層165,175の成形を防止する方法は効果的ではあるが、防炭処理の工程が増加するとともに処理に時間がかかり、費用も増加するということがある。
【0008】
従って本発明は上述の如き課題を解決し、製造にかかる時間短縮が計れ、費用の増加を抑制できる浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法は以下のとおりである。
【0010】
表面に浸炭硬化層深さの浅い第一硬化層が設けられる第一浸炭部材と、第一硬化層より浸炭硬化層深さの深い第二硬化層が設けられる第二浸炭部材とからなる浸炭品の製造方法において、浸炭処理前の第二浸炭部材に浸炭処理を施し、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層より浅い浸炭深さの予備浸炭層を成形する予備浸炭工程と、第一浸炭部材が係合する第二浸炭部材の第二結合部に成形された予備浸炭層を切削加工等により取り除く切除工程と、第二浸炭部材の第二結合部に浸炭処理前の第一浸炭部材を溶接固着して溶接品を形成する溶接工程と、溶接品に浸炭焼入焼戻し処理を施し、第一浸炭部材に所定の浸炭硬化層深さの第一硬化層を成形するとともに、第二浸炭部材の予備浸炭層の浸炭深さを更に深くし、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層を成形する浸炭焼入焼戻し工程とからなる。
【0011】
【実施例】
以下本発明の実施例の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法について図1乃至図6に基づいて説明する。
【0012】
図1は、浸炭硬化層深さh,gが異なる第一浸炭部材61及び第二浸炭部材71からなる浸炭品51、この場合、スターターギヤ61及びインナーレース71からなる浸炭品51を備える自動車用エンジンのワンウェイクラッチ1付近を表す。31はエンジンの動力伝達軸であるクランクシャフトで、軸線垂直方向に偏心するバランスウェイト34,34を備え、バランスウェイト34はピン35により連結される。このピン35には、図示せぬシリンダ内に収容されるピストン38の端部に揺動可能に取着されたコンロッド37の反ピストン側端部が回転自在に嵌挿される。
【0013】
クランクシャフト31の端部には、先端に向かって漸次小径となる外周テーパ32が形成され、外周テーパ32の大径側に隣接して、その外周に焼き付き防止部材、ここではローラベアリング23を介してワンウェイクラッチ1が設けられる。このようなワンウェイクラッチ1は、クランクシャフト31に対して上記ローラベアリング23により回転自在に挿嵌されるインナーレース71と、インナーレース71の外周側に同心状に配置されるアウターレース2と、インナーレース71とアウターレース2との間に介在されるトルク伝達部材である複数のローラー9とを備える。
【0014】
アウターレース2は、径方向内側へ延び更に軸線方向へ延出する断面L字状の延出部6が一体に設けられ、延出部6内周の内周テーパ7がクランクシャフト31の外周テーパ32に係着され、クランクシャフト31の先端雄裸子に螺合するナット36により固定される。このアウターレース2の延出部6は、周方向内側に延びる壁がローラー9の一方側面を規制し、他方側面がアウターレース2の外周にカシメ固定されるがカバー19により規制される。またインナーレース71は、軸方向へ延出する延出部72を有し、延出部72外周にスターターギヤ61が一体的に固着される。
【0015】
上記エンジンの作動状態を説明すると、まず図示せぬ始動モータを駆動させ、その駆動力をスターターギヤ61を介してワンウェイクラッチ1のインナーレース71に伝達する。そしてワンウェイクラッチ1は、複数介在されるローラー9がインナーレース71とアウターレース2との間で摩擦係合され、インナーレース71と一体的にアウターレース2も回転する。そしてこの回転の駆動力は、アウターレース2の延出部6が係着するクランクシャフト31を一体的に回転させるとともに、クランクシャフト31に対し偏心するピン35に取着されるコンロッド37を介してピストン38が図示せぬシリンダ内を直線的に駆動し、エンジンが始動する。エンジンが始動すると、ピストン38の直線運動の速度が増加し、クランクシャフト31、更にクランクシャフト31に係着するアウターレース2の回転速度も増加し、アウターレース2の回転速度が始動モータにより回転するインナーレース71の回転速度より速くなり、ワンウェイクラッチ1はローラー9の摩擦係合によるロックが解除され、アウターレース2はインナーレース71に関係なく回転する。
【0016】
ここで上記インナーレース71及びスターターギヤ61からなる浸炭品51は、高い動力伝達に耐えるため、表面硬度を高める浸炭焼入焼戻し処理が施され、図2示す如く、表面に硬化層65,75が成形される。この硬化層65,75を詳細に説明すると、スターターギヤ、つまり第一浸炭部材61における第一硬化層65の浸炭硬化層深さHに比較して、ローラー9により摩擦係合され多大な荷重のかかるインナーレース、つまり第二浸炭部材71における第二硬化層75の浸炭硬化層深さGは深く設定される。
【0017】
このような浸炭硬化層深さH,Gが異なる第一浸炭部材61と第二浸炭部材71とからなる浸炭品51を製造する場合、図3に示す如く、予め塑性加工により第一浸炭部材61及び第二浸炭部材71を所定形状に成形し、その後、第二浸炭部材71に浸炭処理のみ(焼入焼戻し無し)を施し、第二浸炭部材71に所定の浸炭硬化層深さG、例えば1.0mmの第二硬化層75より浅い浸炭深さF,例えば0.7〜0.8mmの予備浸炭層74を成形する。次に、図4に示す如く、第一浸炭部材61の第一結合部63が係合する第二浸炭部材71の第二結合部73に成形された予備浸炭層74をバイト99による切削加工により取り除き、続いて図5に示す如く、第一及び第二結合部63,73が対向するように、浸炭未処理の第一浸炭部材61及び浸炭処理を施した第二浸炭部材71を組付け、組付品51aを形成する。そしてその組付状態で図6に示す如く、結合部63,73をレーザビーム溶接にて固着して溶接品51bを形成する。最後に、この溶接品51bに浸炭焼入焼戻し処理を施し、図2示す如く、第一浸炭部材61に所定の浸炭硬化層深さH、例えば0.4mmの第一硬化層65を成形するとともに、第二浸炭部材71の予備浸炭層74の浸炭深さF、例えば0.7〜0.8mmを更に深くし、第二浸炭部材71に所定の浸炭硬化層深さG、例えば1.0mmの第二硬化層75を成形し、浸炭品51の製造が完了する。
【0018】
従って、上述の如き浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法では、浸炭処理前の第二浸炭部材71に浸炭処理を施し、所定の浸炭硬化層深さGの第二硬化層75より浅い浸炭深さFの予備浸炭層74を成形する予備浸炭工程と、第一浸炭部材61が係合する第二浸炭部材71の第二結合部73に成形された予備浸炭層74を切削加工等により取り除く切除工程と、第二浸炭部材71の第二結合部73に浸炭処理前の第一浸炭部材61を溶接固着して溶接品51bを形成する溶接工程と、溶接品51bに浸炭焼入焼戻し処理を施し、第一浸炭部材61に所定の浸炭硬化層深さHの第一硬化層65を成形するとともに、第二浸炭部材71の予備浸炭層74の浸炭深さFを更に深くし、所定の浸炭硬化層深さGの第二硬化層75を成形する浸炭焼入焼戻し工程とからなるため、浸炭処理のみされた第二浸炭部材71の予備浸炭層74は硬度が低く、容易に切削等により取り除くことが可能であり、溶接後の浸炭焼入焼戻し処理により、所定の浸炭硬化層深さH,G及び硬度の第二硬化層75及び第一硬化層65を容易に成形することができる。
【0019】
【発明の効果】
以上のように本発明の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法によれば、表面に浸炭硬化層深さの浅い第一硬化層が設けられる第一浸炭部材と、第一硬化層より浸炭硬化層深さの深い第二硬化層が設けられる第二浸炭部材とからなる浸炭品の製造方法において、浸炭処理前の第二浸炭部材に浸炭処理を施し、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層より浅い浸炭深さの予備浸炭層を成形する予備浸炭工程と、第一浸炭部材が係合する第二浸炭部材の第二結合部に成形された予備浸炭層を切削加工等により取り除く切除工程と、第二浸炭部材の第二結合部に浸炭処理前の第一浸炭部材を溶接固着して溶接品を形成する溶接工程と、溶接品に浸炭焼入焼戻し処理を施し、第一浸炭部材に所定の浸炭硬化層深さの第一硬化層を成形するとともに、第二浸炭部材の予備浸炭層の浸炭深さを更に深くし、所定の浸炭硬化層深さの第二硬化層を成形する浸炭焼入焼戻し工程とからなるため、浸炭処理のみされた第二浸炭部材の予備浸炭層は硬度が低く、容易に切削等により取り除くことが可能であり、溶接後の浸炭焼入焼戻し処理により、所定の浸炭硬化層深さ及び硬度の第二硬化層及び第一硬化層を容易に成形することができるので、製造にかかる時間の短縮が可能であり、費用削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による製造方法により製造される浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を使用するワンウェイクラッチ付近を表す部分断面平面図である。
【図2】本発明の実施例による製造方法により製造される浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を表し、(ア)は断面平面図、(イ)は(ア)のA部拡大説明図である。
【図3】本発明の実施例による浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第一段階を表す断面平面図である。
【図4】本発明の実施例による浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第二段階を表す断面平面図である。
【図5】本発明の実施例による浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第三段階を表し、(ア)は断面平面図、(イ)は(ア)のB部拡大説明図である。
【図6】本発明の実施例による浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第四段階を表し、(ア)は断面平面図、(イ)は(ア)のC部拡大説明図である。
【図7】従来の製造方法により製造される浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を使用するワンウェイクラッチ付近を表す部分断面平面図である。
【図8】従来の製造方法により製造される浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を表し、(ア)は断面平面図、(イ)は(ア)のD部拡大説明図である。
【図9】従来の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第一段階を表す断面平面図である。
【図10】従来の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第二段階を表す断面平面図である。
【図11】従来の浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品を製造する第三段階を表し、(ア)は断面平面図、(イ)は(ア)のE部拡大説明図である。
【符号の説明】
51b 溶接品
61 第一浸炭部材
65 第一硬化層
71 第二浸炭部材
73 第二結合部
74 予備浸炭層
75 第二硬化層
F (予備浸炭層の)浸炭深さ
G (第二硬化層の)浸炭硬化層深さ
H (第一硬化層の)浸炭硬化層深さ
Claims (1)
- 表面に浸炭硬化層深さ(H)の浅い第一硬化層(65)が設けられる第一浸炭部材(61)と、該第一硬化層(65)より浸炭硬化層深さ(G)の深い第二硬化層(75)が設けられる第二浸炭部材(71)とからなる浸炭品の製造方法において、浸炭処理前の前記第二浸炭部材(71)に浸炭処理を施し、所定の浸炭硬化層深さ(G)の第二硬化層(75)より浅い浸炭深さ(F)の予備浸炭層(74)を成形する予備浸炭工程と、前記第一浸炭部材(61)が係合する第二浸炭部材(71)の第二結合部(73)に成形された予備浸炭層(74)を切削加工等により取り除く切除工程と、該第二浸炭部材(71)の第二結合部(73)に浸炭処理前の前記第一浸炭部材(61)を溶接固着して溶接品(51b)を形成する溶接工程と、該溶接品(51b)に浸炭焼入焼戻し処理を施し、前記第一浸炭部材(61)に所定の浸炭硬化層深さ(H)の第一硬化層(65)を成形するとともに、前記第二浸炭部材(71)の予備浸炭層(74)の浸炭深さ(F)を更に深くし、所定の浸炭硬化層深さ(G)の第二硬化層(75)を成形する浸炭焼入焼戻し工程とからなることを特徴とする浸炭硬化層深さが異なる部材からなる浸炭品の製造方法。
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2003
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