JP2004277791A - 金または白金族元素の濃縮方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯を炉内において酸素ガスまたは酸素含有ガスで酸化し,この酸化によって該メタル溶湯の湯面上に主として銅の酸化物からなる層を形成させ,この酸化物層の形成によって残存するメタル溶湯中に金または白金族元素を濃縮する方法であって,前記の酸素ガスまたは酸素含有ガスを炉内融体物の表面より下方の位置から該融体物内に導入することを特徴とする金または白金族元素の濃縮方法である。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金または白金族元素を含有する物質,たとえば使用済みの石油化学系触媒,自動車排ガス浄化用廃触媒,使用済みの電子基板やリードフレーム等から金または白金族元素を回収する方法に関する。本明細書において「金または白金族元素」を「貴金属元素類」と呼ぶことがある。
【0002】
【従来の技術】
従来,自動車排ガス浄化用廃触媒等の貴金属元素類含有物質から貴金属元素類を回収する方法として,王水などの酸に酸化剤を加えた溶液で貴金属元素類を抽出する方法や,硫酸等を用いて触媒の担体材料等を溶かし,未溶解の貴金属元素類と分離する方法等が知られているが,これらの湿式法では貴金属元素類の抽出率が悪かったり,担体材料を溶かすのに多量の酸を必要とし,回収率やコストの点で問題があって実用的ではなかった。
【0003】
湿式法に変えて,乾式による白金族元素の回収法が特許文献1に記載されている。この乾式方法では自動車排ガス浄化用廃触媒等に含まれる白金族元素を溶融銅に吸収させ,これを濃縮することで高収率,低コストで白金族元素を回収する画期的な方法である。特許文献2には特許文献1の方法をさらに改良した白金族元素の乾式回収法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−317423号公報
【特許文献2】特開2000−248322号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1や2の方法は,高い回収率で低コストで且つ短時間で白金族元素を回収できる点で,湿式法に比べて優れているが,とりわけ,白金族元素中のRhの回収率が湿式法と比べて高くなる点で有利な特徴がある。
【0006】
しかし,電気炉で白金族元素を金属銅中に吸収したあと,さらに白金族元素を濃縮するために,白金族元素を吸収した金属銅を溶体のまま酸化炉に移し替えて酸化する工程において,白金族元素をスラグ中にできるだけ移行させないで銅のみを酸化させる必要があるが,その酸化の効率が悪く,また,溶湯の表面を覆う酸化物を頻繁に除去する必要がある等の作業性が悪くて非効率的な操業を強いられる結果となっていた。
【0007】
また,特許文献1や2では白金族元素の回収を主たる目的としており,金の回収については未知の点があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は,金または白金族元素を含有した主として金属銅からなる溶湯の湯面下に酸素含有ガスを吹き込むという酸化方法によって解決できることがわかった。すなわち,本発明によれば,金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯を炉内において酸素ガスまたは酸素含有ガスで酸化し,この酸化によって該メタル溶湯の湯面上に主として銅の酸化物からなる層を形成させ,この酸化物層の形成によって残存するメタル溶湯中に金または白金族元素を濃縮する方法であって,前記の酸素ガスまたは酸素含有ガスを炉内融体物の表面より下方の位置から該融体物内に導入することを特徴とする金または白金族元素の濃縮方法提供する。
【0009】
炉内融体物の表面下への酸素ガスまたは酸素含有ガスの導入は浸漬ランスを用いて行なうことができ,その浸漬深さはランスのノズル孔の位置が炉内融体物の表面より2〜200mmの深さとして,1〜10Kg/cm2 の圧力で該ガスを吹き込むのがよく,炉内融体物の温度は1100℃〜1600℃に維持するのが好ましい。
【0010】
前記方法で処理対象とする金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯としては,例えば電気炉において金または白金族元素を含有する物質と金属銅または酸化銅の少なくとも1種をフラックス成分および還元剤と共に加熱溶融し,金または白金族元素を吸収したメタル溶湯を,その上に形成された溶融酸化物から分離し,この分離された金または白金族元素を含有するメタル溶湯を使用することができる。この場合,電気炉に装入する酸化銅としては,前記方法で酸素ガスまたは酸素含有ガスの吹き込みによって生成した酸化物を使用することができ,実際には,この溶融酸化物を炉外に排出するさいに多量の水で急冷することによって水砕化し,この水砕化した酸化物を使用するのがよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に従う「金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯」は,特許文献1や2に記載されているように,白金族元素を含有する物質と金属銅または酸化銅の少なくとも1種をフラックス成分および還元剤と共に予め電気炉において加熱溶融し,これによって,溶融酸化物の層の下方に,白金族元素を吸収したメタル溶湯の層を形成させ,この白金族元素を吸収したメタル溶湯を電気炉から出湯したものであるのが望ましい。そのさい,電気炉に装入する「白金族元素を含有する物質」として「金または白金族元素を含有する物質」を使用することによって,「金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯」を得ることができる。
【0012】
前記のようにして電気炉操業で得られた白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯に,さらに「金または白金族元素を含有する物質」を追加することによって,本発明に従う「金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯」を得ることもできる。この場合,「金または白金族元素を含有する物質」(例えば廃触媒や電子基板やリードフレームなど)は,酸化炉において酸素ガスまたは酸素含有ガス吹き込み前または途中の該メタル溶湯中に追加することができる。
【0013】
いずれにしても,「金または白金族元素を含有する物質」としては,例えば金,プラチナ,パラジウム等を含有する使用済み石油化学系触媒,プラチナ,パラジウムさらにはロジウム等を含有する使用済みの自動車排ガス浄化用触媒,それらの触媒の製造工程から得られるロットアウト品やスクラップ等,さらには金やパラジウム等を含有する使用済みの電子基板,デジタル部品,リードフレーム等を挙げることができる。
【0014】
本発明においては「金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯」を,好ましくは前記のように電気炉での加熱溶融・還元法によって得たあと,このメタル溶湯を好ましくは傾動式の酸化炉に装入し,このメタル溶湯に酸素ガスまたは酸素含有ガスを導入して酸化処理し,この酸化処理によって特に銅を部分的に酸化させてメタル溶湯の上にその酸化物を浮上分離させ,この酸化物の浮上分離に伴って,残存するメタル溶湯中の貴金属元素類の濃度を相対的に増加させて,メタル溶湯中での濃縮を図る。
【0015】
このとき,酸素ガスまたは空気等の酸素含有ガスを,炉内融体物(酸化物が形成された後は酸化物溶融層)の表面より下部から導入して酸化処理を行う。湯面の上部から吹きつけた場合には,湯面に発生する酸化銅がメタル溶湯の酸化の進行を妨げるように作用するので好ましくない。この場合には,生成する酸化物を頻繁に除去することが必要となる。
【0016】
酸素ガスまたは酸素含有ガスを,生成する該酸化物溶融層の表面より下部から導入する手段として浸漬ランスを用いるのが好ましいが,これに限定されることはなく,例えば炉の側壁に設けた羽口から酸素または酸素含有ガスを導入してもよい。浸漬ランスを使用する場合には,ランスのノズル孔の位置が炉内融体物の表面より2〜200mmの深さになるように浸漬するのが好ましく,特に,上層の酸化物溶融層と下層のメタル溶湯層の界面の位置がさらに好ましい。
【0017】
酸素ガスまたは酸素含有ガスは,1〜10Kg/cm2 の圧力で銅の酸化物層の表面より下方の位置に導入する。圧力が10kg/cm2 より高いとバブリングの発生によりメタル溶湯中の貴金属元素類が酸化物の層の側に混入するようになる。しかし1kg/cm2 未満の圧力では浸漬ランスが詰まりやすくなるので好ましくない。そのさい,炉内の融体物の温度は1100℃〜1600℃であるのがよい。1100℃未満では酸化物層・メタル溶湯層の凝固が発生して酸化の進行を阻害し,1600℃を越えると炉体の損傷が生じるようになる。
【0018】
前記の酸化処理によって,メタル溶湯の上に,酸化銅を主体とする酸化物の層が適度に形成されたら,酸化炉を傾けてこの酸化物を炉外に流出させる。この酸化物は銅の酸化物が殆んどであるが,僅かな貴金属元素類が同伴する可能性もあり,この酸化物は,金または白金族元素を含有する物質と共に電気炉に装入する酸化銅の一部または全部として再利用することができる。再利用にあたって,電気炉への装入物はその径が0.1mm以上10mm未満であることが好ましいが,このような粒状物を得るには,酸化炉から該酸化物を排出するときに,急水冷して水滓化すればよい。得られた水滓は,必要に応じて乾燥し,さらには必要な粒度に篩分けて電気炉装入用原料として利用すればよい。
【0019】
酸化炉から該酸化物を排出させたあと,その減量分を,電気炉から貴金属元素類を含有するメタル溶湯を補給し,場合によっては,金または白金族元素を含有する物質を補給し,再び酸化処理を繰り返し,酸化物を形成させると共にメタル溶湯中に貴金属元素類をさらに濃縮させることができる。これによると,メタル溶湯中の貴金属元素類の含有量を10〜77wt%にまで濃縮できる。酸化炉での処理を終えて,貴金属元素類を濃縮したメタル溶湯を酸化炉から取り出したあとは,これを冷却固化し,高濃度で含有している貴金属元素類を殆どが銅であるメタル分から分離する次工程に送り,貴金属元素類を高い効率で回収することができる。
【0020】
以下に本発明の実施例を挙げる。
【実施例】
〔実施例1〕
平均でPt約1300ppm,Pd約420ppm,Rh約100ppm含有する自動車排ガス浄化用廃触媒(平均でAl2O3 約39.5wt%,SiO2約41.5wt%,MgO約9.0wt%含有する)を10mm以下に粉砕した粉砕物1000Kgと,平均でPt約10000ppm,Au約5000ppmを含有する石油化学系触媒(SiO2約98.2wt%とその他の酸化物)200Kgに対し,フラックス成分としてのCaO1000kgとFe2O3 200kg,還元剤としてのコークス60kg,および酸化銅(0.1mm以上10mm以下の粒状物が約80wt%)600kgを配合して混合した。
【0021】
この混合物を電気炉に装入し,ほぼ1450℃で加熱溶融し,この温度で5時間保持したのち,上層のスラグを電気炉の側面より流出させ,冷却固化させた。次いで,主として金属銅からなるメタル溶湯約300kgを電気炉下部より取鍋に受けたうえ,この溶湯を,前工程の処理を終えた貴金属元素類含有の溶融金属銅300kgの入った酸化炉に装入して炉内で合わせ湯とし,この炉内のメタル溶湯に対し,内径25mmφの浸漬ノズルを用いて,そのノズル孔の位置を湯面から100mmの深さにセットして,酸素含有率40%の酸素富化空気を5Kg/cm2圧で約1時間吹き込んだ。この間,炉内融体物の温度は1400〜1450℃に維持された。
【0022】
その後,酸化炉を傾動させて上層の溶融酸化物を,水冷した回転ロールに注いで冷却固化した。その酸化物の全重量は約320kgであった。また,その酸化物中のAu,PtおよびRhの分析を行ったところ,それぞれ,Au=20ppm,Pt=50ppm,Pd=20ppm,Rh=3ppmであり,酸化物中への貴金属元素類の混入は非常に軽微であった。
【0023】
〔実施例2〕
浸漬ランスのノズル孔の位置を湯面から200mmの深さとし,酸素富化空気の圧力を10Kg/cm2とした以外は,ほぼ実施例1と同様の操業を行った。得られた酸化物の全重量は約410Kg,酸化物中の貴金属元素類の品位はAu=30ppm,Pt=60ppm,Pd=20ppm,Rh=5ppmであり,酸化物中への貴金属元素類の混入は軽微であった。
【0024】
〔実施例3〕
浸漬ランスのノズル孔の位置を湯面から5mmの深さとし,酸素富化空気の圧力を2Kg/cm2とした以外は,ほぼ実施例1と同様の操業を行った。得られた酸化物の全重量は約220Kg,酸化物中の貴金属元素類の品位はAu=10ppm,Pt=20ppm,Pd=10ppm,Rh=2ppmであり,酸化物中への貴金属元素類の混入は軽微であった。
【0025】
〔比較例1〕
ランスのノズル孔の位置を湯面から50mmの高さとし,酸素富化空気を5Kg/cm2圧で炉内融体物に対して上吹きで吹付けた以外は,ほぼ実施例1と同様の操業を行った。得られた酸化物中の貴金属元素類の品位はAu=10ppm,Pt=30ppm,Pd=12ppm,Rh=2ppmと軽微であったが,得られた酸化物の重量は約105kgであり,実施例1の1/3程度になって,実施例1に比べると,メタル溶湯への貴金属元素類の濃縮が十分には行われなかった。
【0026】
〔比較例2〕
浸漬ランスのノズル孔の位置を湯面から100mmの深さとし,酸素富化空気の圧力を15Kg/cm2とした以外は,ほぼ実施例1と同様の操業を行った。得られた酸化物の全重量は約460Kg,酸化物中の貴金属元素類の品位はAu=220ppm,Pt=310ppm,Pd=240ppm,Rh=48ppmであり,酸化物中への貴金属元素類の混入が大きくなった。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によると,自動車排ガス浄化用廃触媒や石油化学系廃触媒などの金または白金族元素を含有する物質から金または白金族元素を乾式処理によって高い収率で且つ作業性よく回収することができ,廃資源から経済的有利に有価金属を採集することができる。
Claims (7)
- 金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯を炉内において酸素ガスまたは酸素含有ガスで酸化し,この酸化によって該メタル溶湯の湯面上に主として銅の酸化物からなる層を形成させ,この酸化物層の形成によって残存するメタル溶湯中に金または白金族元素を濃縮する方法であって,前記の酸素ガスまたは酸素含有ガスを炉内融体物の表面より下方の位置から該融体物内に導入することを特徴とする金または白金族元素の濃縮方法。
- 酸素ガスまたは酸素含有ガスの導入は浸漬ランスを用いて行なう請求項1に記載の金または白金族元素の濃縮方法。
- 浸漬ランスは,該ランスのノズル孔の位置が炉内融体物の表面より2〜200mmの深さになるように浸漬される請求項2に記載の金または白金族元素の濃縮方法。
- 酸素ガスまたは酸素含有ガスは,1〜10Kg/cm2 の圧力で銅の酸化物層の表面より下方の位置に導入される請求項1ないし3に記載の金または白金族元素の濃縮方法。
- 炉内融体物の温度は1100℃〜1600℃である請求項1ないし4に記載の金または白金族元素の濃縮方法。
- 金または白金族元素を含有する物質と金属銅または酸化銅の少なくとも1種をフラックス成分および還元剤と共に加熱溶融し,金または白金族元素を吸収したメタル溶湯を,その上に形成された溶融酸化物から分離し,得られた金または白金族元素を含有する主として金属銅からなるメタル溶湯を炉内において酸素ガスまたは酸素含有ガスで酸化し,この酸化によって該メタル溶湯の湯面上に主として銅の酸化物からなる層を形成させ,この酸化物層の形成によって残存するメタル溶湯中に金または白金族元素を濃縮する方法であって,前記の酸素ガスまたは酸素含有ガスを炉内融体物の表面より下方の位置から該融体物内に導入することを特徴とする金または白金族元素の濃縮方法。
- 請求項1において形成した酸化物層はいったん炉外に排出されて水砕化されたあと,金または白金族元素を含有する物質と共に加熱溶融される酸化銅の一部または全部として利用される請求項6に記載の金または白金族元素の濃縮方法。
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