JP2004270790A - 電磁摩擦クラッチ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】トルクの入力部5及び出力部7と、磁束循環経路9に磁束を発生させる電磁石13と、入力部5に連結され磁束循環経路9の一部をなすロータ11と、ロータ11と電磁石13との間に配置されてトルクを断続する摩擦面19,21と、電磁石13によって移動操作され摩擦面19,21を押圧して締結するアーマチャ17とで構成され、摩擦面19,21に、ロータ11とアーマチャ17とを介して磁束循環経路9を最短距離で形成させる複数の磁束形成部と、磁束循環経路9での磁束の短絡を軽減させる磁束隔離部と、前記磁束形成部を連結する連結部とを設け、電磁石13で発生した磁束量と前記連結部の磁束許容量との差をアーマチャ17の磁束許容量に近似させている。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、駆動力や制動力を伝達する電磁摩擦クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1に図3のような電磁摩擦クラッチ301が記載されている。この電磁摩擦クラッチ301は、アウターケース303、インナーシャフト305、メインクラッチ307、パイロットクラッチ309、アーマチャ311、電磁石313、カム機構315、第1カム部材317、第2カム部材319から構成されている。電磁摩擦クラッチ301は4輪駆動車の後輪側動力伝達系に配置され、リヤデフにエンジンの駆動力を伝達する。
【0003】
アウターケース303はアルミニューム合金(非磁性部材)のフロントハウジング321と、その開口側に螺着された磁性部材のリヤハウジング323から構成されており、フロントハウジング321はプロペラシャフトを介してトランスファからトランスミッション側に連結され、インナーシャフト305はリヤデフ側に連結されている。また、メインクラッチ307はフロントハウジング321とインナーシャフト305との間に配置されており、パイロットクラッチ309はフロントハウジング321と第1カム部材317との間に配置されている。また、カム機構315は第1カム部材317と第2カム部材319との間に配置されており、第2カム部材319はインナーシャフト305にスプライン連結されている。
【0004】
電磁石313のコイルハウジング325と、リヤハウジング323と、パイロットクラッチ309と、アーマチャ311とによって電磁石313の磁束ループ327が形成される磁束循環経路329が構成されており、電磁石313が励磁されると、磁束ループ327によってアーマチャ311が吸引され、パイロットクラッチ309が押圧されて締結され、アウターケース303とインナーシャフト305の間の伝達トルクがカム機構315に掛かり、生じたカムスラスト力により第2カム部材319を介してメインクラッチ307が締結され、エンジンの駆動力が後輪に送られて車両は4輪駆動状態になる。
【0005】
また、電磁石313の励磁を停止すると、パイロットクラッチ309が開放されてカム機構315のカムスラスト力が消失し、メインクラッチ307が開放されて車両は2輪駆動状態になる。
【0006】
上記のように、パイロットクラッチ309は磁束循環経路329の一部を構成しているが、図4のように、パイロットクラッチ309の外側と内側の各クラッチ板331,333には、磁束ループ327の短絡を軽減させるための開口部335,337(磁束隔離部)と、図5のように、開口部335,337の周方向には、これらの連結部339,341(ブリッジ部)が交互に形成されている。
【0007】
【特許文献1】
特開平11−287258号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにパイロットクラッチ309のクラッチ板331,333には開口部335,337と交互に連結部339,341が形成されているから、図5のように、磁束ループ327からこれらの連結部339,341を通って磁束が回折し、局部的な磁束ループ343(磁束の短絡経路)が生成されて磁束のロス(エネルギーロス)が発生する。
【0009】
従って、パイロットクラッチ309を所望の強さで締結し、あるいは、電磁摩擦クラッチ301において所望のトルク伝達特性(制御特性)を得るには、電磁石313のエネルギー効率を磁束のロスだけ低く見積もり、例えば、電磁石313をそれだけ大型にし、バッテリーの負荷を大きく見積もった上で、制御特性を設定せざるを得なかった。
【0010】
そこで、この発明は、クラッチ部での磁束の短絡を軽減し、エネルギー効率を向上させることにより、電磁石の大型化と消費電力の増大とを伴わずに、所望のクラッチ制御特性が得られる電磁摩擦クラッチの提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の電磁摩擦クラッチは、トルクの入力部及び出力部と、磁束循環経路に磁束を発生させる電磁石と、前記入力部と前記出力部のいずれか一方に連結され、前記磁束循環経路の一部をなすロータと、前記電磁石と前記ロータとの間に配置され、前記入力部と前記出力部間のトルクを断続する摩擦面と、前記磁束循環経路を透過する前記電磁石の磁束によって移動操作され、前記摩擦面を押圧して締結するアーマチャとで構成された電磁摩擦クラッチであって、前記摩擦面に、前記ロータと前記アーマチャとを介して前記磁束循環経路を形成させる複数の磁束形成部と、前記磁束形成部での磁束の短絡を軽減させる磁束隔離部と、前記磁束形成部間を連結する連結部とを設け、前記電磁石で発生する磁束量と前記連結部の磁束許容量との差が、前記アーマチャの磁束許容量に近似することを特徴としている。
【0012】
本発明の電磁摩擦クラッチのように、電磁石でアーマチャを吸引し摩擦クラッチ(摩擦面)を締結する装置では、電磁石で発生した磁束量とアーマチャの磁束許容量(飽和磁束量)が近似するように設定する。例えば、電磁石の発生磁束量がアーマチャの磁束許容量を超えると、超えた分の磁束量がアーマチャの吸引力に寄与しないので、無駄になり、また、電磁石の発生磁束量がアーマチャの磁束許容量より小さい場合は、磁束循環経路で磁束のロスにより所望のクラッチ締結力を得られなくなる恐れがあり、いずれも、エネルギー効率が低下する。
【0013】
そこで、請求項1の電磁摩擦クラッチでは、摩擦クラッチの摩擦面での磁束形成部を連結する連結部での磁束許容量(磁束のロス)を調整することによって、電磁石の発生磁束量と連結部の磁束許容量との差を、アーマチャの磁束許容量に近似させている。
【0014】
こうしたことにより、摩擦面での磁束の回折による局所的な磁束ループの形成されても、電磁石で発生した磁束が磁束循環経路を透過しアーマチャへ到達する磁束量が所定量に保たれ、エネルギー効率が向上する。
【0015】
従って、摩擦クラッチの制御特性が向上すると共に、磁束のロスを補うために電磁石を大型化する必要がなくなり、これに伴う、消費電力の増大(バッテリー負担の増加)と、エンジン燃費の低下と、電磁摩擦クラッチの車載性低下が避けられる。
【0016】
なお、連結部での磁束許容量(磁束のロス)の調整は、例えば、連結部の個数(個所数)を増減することによって行われる。
【0017】
また、電磁石の発生磁束量と連結部の磁束許容量の差と、アーマチャの磁束許容量は、所望の摩擦クラッチ締結力を得られる範囲内で前者を後者より大きくしても、あるいは、前者を後者より小さくしても、また、両者を等しくしてもよい。
【0018】
また、摩擦面の磁束隔離部は、空隙(開口)であっても、あるいは、非磁性材料で構成してもよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1と図2によって電磁摩擦クラッチ1(本発明の一実施形態)と、これを用いて構成された電磁カップリング3の説明をする。図1は電磁摩擦クラッチ1と電磁カップリング3を示している。電磁カップリング3は4輪駆動車の動力系に用いられており、左右の方向はこの車両の左右の方向であり、図1の左方はこの4輪駆動車の前方(エンジン側)に相当する。
【0020】
この動力系は、エンジン(原動機)、トランスミッション、トランスファ、トランスファの内部に設けられた2ー4切り換え機構、フロントデフ(エンジンの駆動力を左右の前輪に配分するデファレンシャル装置)、前車軸、左右の前輪、前側のプロペラシャフト、電磁カップリング3、後側のプロペラシャフト、リヤデフ(エンジンの駆動力を左右の後輪に配分するデファレンシャル装置)、後車軸、左右の後輪などから構成されている。
【0021】
エンジンの駆動力は、トランスミッションからフロントデフに伝達され、フロントデフから前車軸を介して左右の前輪に配分される。また、2ー4切り換え機構が連結されると、エンジンの回転はトランスファから前側のプロペラシャフトを介して電磁カップリング3に伝達される。電磁カップリング3が連結されると、エンジンの駆動力は後側のプロペラシャフトを介してリヤデフに伝達され、リヤデフから後車軸を介して左右の後輪に配分され、車両は4輪駆動状態になる。また、電磁カップリング3の連結が解除されると、後側のプロペラシャフト以下が切り離されて車両は2輪駆動状態になる。
【0022】
電磁カップリング3は、このように4輪駆動車の後輪側動力伝達系に配置された前側と後側の各プロペラシャフトの間に介在し、後輪側の連結と切り離しを行うと共に、後輪側に伝達される駆動力の大きさを制御する。
【0023】
[電磁摩擦クラッチ1の構成]
電磁摩擦クラッチ1は、エンジンの駆動力によって回転駆動される回転ケース5(トルクの入力部)と、
カムリング7(トルクの出力部)と、
回転ケース5に連結され、磁束循環経路9の一部をなすロータ11と、
磁束循環経路9に磁束を発生させる電磁石13と、
ロータ11と電磁石13との間に配置され、回転ケース5とカムリング7の間でトルクを断続するパイロットクラッチ15(摩擦クラッチ)と、
磁束循環経路9を透過する電磁石13の磁束によって移動操作され、パイロットクラッチ15を押圧して締結するアーマチャ17と、
図2のように、パイロットクラッチ15のアウタープレート19(摩擦面)に設けられ、ロータ11とアーマチャ17とを介して上記の磁束循環経路9を最短距離で形成させる複数の磁束形成部23と、磁束形成部23の間で磁束の短絡を軽減させる磁束隔離部25と、磁束形成部23を連結する連結部27と、パイロットクラッチ15のインナープレート21(摩擦面)に設けられ、ロータ11とアーマチャ17とを介して磁束循環経路9を最短距離で形成させる複数の磁束形成部と、磁束形成部の間で磁束の短絡を軽減させる磁束隔離部と、磁束形成部を連結する連結部とから構成されている。
【0024】
電磁石13を励磁すると、磁束循環経路9に磁束が発生してアーマチャ17が吸引され、パイロットクラッチ15が押圧されて締結される。また、下記のように、電磁石13はアーマチャ17の吸引力を調整してパイロットクラッチ15の押圧力(締結力)を調整し、電磁カップリング3によって後輪側に伝達される駆動力を調整する。
【0025】
このとき、パイロットクラッチ15では、複数の磁束形成部23によってロータ11とアーマチャ17の間で磁束循環経路9が最短距離で形成される。また、磁束隔離部25は開口部(空隙部)であり、その磁気抵抗により磁束形成部23の間で磁束の短絡を軽減させている。
【0026】
電磁摩擦クラッチ1では、アウタープレート19の連結部27とインナープレート21の連結部の個数を低減する(調整する)ことにより、電磁石13で発生した磁束量と連結部27の磁束許容量との差を、アーマチャ17の磁束許容量とほぼ等しくしてある。
【0027】
[電磁摩擦クラッチ1を構成する上記各部材の説明]
回転ケース5は、上記のロータ11と、アルミニューム合金(非磁性体)で作られている有底の円筒部材29から構成されている。ロータ11は、円筒部材29の後部に設けられた開口に螺着され、ナット31のダブルナット機能によって固定されている。ロータ11と円筒部材29との間にはOリング33が配置されている。円筒部材29の前端は、防護ケーシング35のケーシング本体37に設けられた開口部から露出しており、密封型のボールベアリング39を介して防護ケーシング35(ケーシング本体37)に支承され、ロータ11は、両側シール型のボールベアリング41と電磁石13のコイルハウジング43とを介して防護ケーシング35の防護カバーに支承されている。また、円筒部材29の前端はスタッドボルト45によってコンパニオンフランジが固定されており、このコンパニオンフランジには継ぎ手のジョイントフォークが一体に形成されている。円筒部材29はこの継ぎ手を介してトランスファ側の(前側の)プロペラシャフトに連結されており、エンジンの駆動力はこれらの動力伝達部材を介して円筒部材29(回転ケース5)に伝達される。
【0028】
カムリング7は、エンジンの駆動力を後輪側に出力するインナーシャフト47の外周に相対回転自在に配置されている。
【0029】
磁束循環経路9は、コイルハウジング43、ロータ11、コイルハウジング43とロータ11の間に設けられたエアギャップ、パイロットクラッチ15、アーマチャ17によって構成されている。
【0030】
ロータ11は、鉄系合金(磁性体)で作られていると共に、非磁性体であるオーステナイト系ステンレス鋼のリング49によって径方向の外側と内側に分断されている。パイロットクラッチ15の各プレート19,21に設けられた上記の磁束隔離部はこのリング49と対応する径方向位置に設けられており、このリング49によって磁束循環経路9上での磁束の短絡がさらに軽減されている。
【0031】
電磁石13のコイルハウジング43は、防護ケーシング35の防護カバーに形成された円筒形の孔に圧入され、連結部材を介して防護カバー側に回り止めされていると共に、上記のように、ロータ11に形成された凹部51に所定間隔のエアギャプを介して貫入している。電磁石13のリード線はグロメットを通して防護ケーシング35の外部に引き出され、コントローラを介して車載のバッテリに接続されている。
【0032】
パイロットクラッチ15は、回転ケース5とカムリング7との間に配置されている。アウタープレート19は外周に設けられたスプライン部53により、回転ケース5(円筒部材29)の内周に設けられたスプライン部55に連結されており、インナープレート21は内周に設けられたスプライン部により、カムリング7の外周に設けられたスプライン部57に連結されている。また、図2のように、アウタープレート19には、互いに交差したオイル溝59,61が形成されており、インナープレート21との摺動面に効率よくオイルを供給して焼き付きを防止すると共に、パイロットクラッチ15の連結トルクを安定させている。
【0033】
アーマチャ17は、パイロットクラッチ15とプレッシャープレート63との間に配置され、外周を回転ケース5のスプライン部55に連結して軸方向移動自在に配置されている。
【0034】
[電磁カップリング3の構成]
電磁カップリング3は、上記の電磁摩擦クラッチ1と防護ケーシング35とインナーシャフト47に加えて、メインクラッチ65と、ボールカム67と、コントローラから構成されている。
【0035】
防護ケーシング35は、ケーシング本体37と、その後部側に設けられた開口にボルト止めされた防護カバーからなり、車体のフロアーパネルに固定された支持金具と可撓性の支持部材とによって車体側に支持され、回り止めされている。ケーシング本体37と防護カバーは、それぞれが鉄系合金で作られており、スタッドピンによって位置合わせをした後、上記のようにボルトで互いに連結されている。防護ケーシング35は電磁カップリング3を内部に収容し、走行中に飛来する小石などの異物や、走行中に遭遇する段差部や凸部との衝突から電磁カップリング3を保護している。
【0036】
また、ダストカバー69が回転ケース5の外周に圧入され、ケーシング本体37の前端部との間でシール機能を得ており、ケーシング本体37の開口部内周にはダストシール71が装着され、回転ケース5の外周及びダストカバー69と接触して、シール機能を強化している。
【0037】
インナーシャフト47は、後方から回転ケース5に貫入し、前端部をボールベアリング73により、円筒部材29に設けられた壁部75に支承され、後部側をニードルベアリング77によってロータ11に支承されている。また、インナーシャフト47には連結軸がスプライン連結されている。この連結軸はボルトによってコンパニオンフランジに連結されており、このコンパニオンフランジには継ぎ手のジョイントフォークが一体に形成されている。さらに、上記の連結軸はこの継ぎ手を介してリヤデフ側の(後側の)プロペラシャフトに連結されており、インナーシャフト47の回転はこれらの動力伝達部材を介してリヤデフに伝達される。
【0038】
インナーシャフト47とロータ11との間には、ニードルベアリング77の後方に、断面がX字状のシールであるXリング79が配置されている。上記のOリング33とこのXリング79とによって電磁カップリング3(回転ケース5)は密封されている。密封された回転ケース5には、円筒部材29の壁部75に設けられたオイル孔81からオイルが注入されており、オイルを注入した後このオイル孔81はチェックボール83を圧入してシールされている。Oリング33とXリング79はオイル漏れと外部からの異物の侵入を防止している。インナーシャフト47は中空に形成されており、この中空部は壁部85によって前後に区画され、オイルの封入量を増大させる容量増大空間部87が壁部85の前方に形成されており、回転ケース5の円筒部材29には、上記のオイル孔81と対応した位置に、オイル流路を兼ねた容量増大空間部空間89が設けられている。これらの容量増大空間部87,89には、回転ケース5内部の他の部分と同様に、注入されたオイルと空気が収容されている。
【0039】
メインクラッチ65は、回転ケース5(円筒部材29)とインナーシャフト47との間に配置されており、アウタープレート91は円筒部材29のスプライン部55に連結され、インナープレート93はインナーシャフト47の外周に形成されたスプライン部95に連結されている。また、各インナープレート93にはオイル孔97が設けられている。
【0040】
ボールカム67は、カムリング7とプレッシャープレート63と複数個のボール99とで構成されている。上記のようにカムリング7はインナーシャフト47の外周に相対回転自在に配置されており、プレッシャープレート63は内周をインナーシャフト47のスプライン部95に連結されて軸方向移動自在に配置されている。また、プレッシャープレート63には貫通孔101が形成されている。カムリング7とロータ11との間には、ボールカム67のカム反力を受けるスラストベアリング103とワッシャ105が配置されている。各ボール99は、プレッシャープレート63とカムリング7に設けられた周方向等間隔のカム溝にそれぞれ係合しており、プレッシャープレート63とカムリング7との間にトルクが働くと、ボール99がカム溝のカム斜面を転がり上がることによって、プレッシャープレート63とカムリング7に反対方向(互いの間隔が大きくなる方向)のカムスラスト力が与えられる。カムリング7はスラストベアリング103とワッシャ105とによってロータ11側に位置決めされているから、このカムスラスト力によってプレッシャープレート63が前方に移動し、下記のように、メインクラッチ65を回転ケース5(円筒部材29の壁部75)との間で押圧し、締結させる。
【0041】
[電磁摩擦クラッチ1と電磁カップリング3の動作及び作用]
コントローラは、電磁石13の励磁、励磁電流の制御、励磁停止などを行う。
【0042】
上記のように、電磁石13が励磁されアーマチャ17がパイロットクラッチ15を締結させるとパイロットトルクが発生し、パイロットトルクが発生すると、回転ケース5からパイロットクラッチ15とカムリング7とを介してボールカム67に、パイロットトルクの大きさに応じて、エンジンの駆動力が掛かり、発生したカムスラスト力によってプレッシャープレート63がメインクラッチ65を締結させ、電磁カップリング3が連結される。このとき、プレッシャープレート63の貫通孔101は、オイルによるプレッシャープレート63の移動抵抗を軽減してメインクラッチ65の操作レスポンスを向上させる。
【0043】
電磁カップリング3が連結されると、エンジンの駆動力はインナーシャフト47から後側のプロペラシャフトなどを介してリヤデフに伝達され、リヤデフから左右の後輪に配分されて車両は4輪駆動状態になり、悪路などの走破性や、車体の安定性が向上する。
【0044】
また、コントローラにより電磁石13の励磁電流を調整し磁力を制御すると、パイロットクラッチ15の滑り率が変化してパイロットトルクが変わり、ボールカム67のカムスラスト力が変化し、メインクラッチ65の連結力(電磁カップリング3を介して後輪側に送られる伝達トルクの大きさ)を調整することができる。この連結力調整によって、前後輪間の駆動力配分比を任意に制御することが可能であり、例えば、旋回走行中にこのような制御を行うと、車両の操縦性や安定性などを向上させることができる。
【0045】
また、電磁石13の励磁を停止すると、パイロットクラッチ15が開放されてボールカム67のカムスラスト力が消失し、メインクラッチ65が開放されて電磁カップリング3の連結が解除される。電磁カップリング3の連結が解除されると、リヤデフ側プロペラシャフトから後輪までが切り離されて車両は前輪駆動の2輪駆動状態になり、エンジンの燃費が向上する。
【0046】
上記のように、回転ケース5の円筒部材29が非磁性体のアルミニューム合金で作られているから、磁束循環経路9から円筒部材29側に磁束が漏洩することが軽減され、パイロットクラッチ15のアウタープレート19に設けられた磁束隔離部25と、インナープレート21に設けられた磁束隔離部とによって磁束の短絡がさらに軽減されるから、アーマチャ17に磁束が効率良く導かれる。従って、パイロットクラッチ15は所定のパイロットトルクが得られ、電磁カップリング3は所定の連結トルク(伝達トルク)と所望の制御特性が得られる。
【0047】
また、上記のように、アウタープレート19の連結部27とインナープレート21の連結部の個数を調整し、電磁石13で発生した磁束量と、各プレート19,21の連結部27の磁束許容量との差を、アーマチャ17の磁束許容量とほぼ等しくしてある。
【0048】
こうすることによって、電磁石13で発生した磁束量がアーマチャ17の磁束許容量を超えないから磁束の無駄が防止されると共に、磁束循環経路9では、アウタープレート19の連結部27及びインナープレート21の連結部による磁束のロスが軽減されている。
【0049】
従って、電磁摩擦クラッチ1のエネルギー効率が高く保たれると共に、電磁カップリング3は、上記のように所望の制御特性が得られる。
【0050】
また、電磁カップリング3(インナーシャフト47)が回転すると、容量増大空間部87のオイルは遠心力によってボールベアリング73と、インナーシャフト47の複数箇所に設けられた径方向流路を通り、メインクラッチ65(各プレート91,93の摺動部)、ボールカム67、パイロットクラッチ15(各プレート19,21の摺動部)、スラストベアリング103、ワッシャ105などを潤滑・冷却する。
【0051】
また、メインクラッチ65のインナープレート93に設けられているオイル孔97は、ボールカム67、パイロットクラッチ15、ベアリング103側へのオイルの移動を促進し、これらの潤滑・冷却効果を向上させている。
【0052】
また、プレッシャープレート63の貫通孔101は、上記のようにメインクラッチ65の操作レスポンスを向上させると共に、オイルの流路になり、ボールカム67、パイロットクラッチ15側へのオイルの移動を促進し、これらの潤滑・冷却効果を向上させている。
【0053】
[電磁摩擦クラッチ1と電磁カップリング3の効果]
電磁摩擦クラッチ1と電磁カップリング3は、上記のように構成されたことによって次のような効果が得られる。
【0054】
電磁石13で発生した磁束量とパイロットクラッチ15の各プレート19,21の連結部での磁束許容量との差をアーマチャ17の磁束許容量とほぼ等しくしたことによってパイロットクラッチ15で磁束のロスが軽減されるから、磁束循環経路9を透過しアーマチャ17へ到達する磁束量が所定量に保たれ、エネルギー効率が向上する。
【0055】
従って、パイロットクラッチ15及びメインクラッチ65の制御特性が向上すると共に、磁束のロスを補うために電磁石13を大型化する必要がなくなり、これに伴う、消費電力の増大(バッテリー負担の増加)と、エンジン燃費の低下と、電磁カップリング3の車載性低下が避けられる。
【0056】
なお、パイロットクラッチ15での電磁石13の発生磁束量と連結部27の磁束許容量との差と、アーマチャ17の磁束許容量は、所望の摩擦クラッチ締結力を得られる範囲内で前者を後者より大きくしても、あるいは、前者を後者より小さくしても、また、両者を等しくしてもよい。又、磁束形成部に比して連結部の回転軸心方向の成形長さを短く設定することによって行われる。
【0057】
また、磁束隔離部(25)を連結する連結部(27)の個数調整及び回転軸心方向の成形長さ調整は、アウタープレート19とインナープレート21のいずれか一方だけで行ってもよい。
【0058】
また、アウタープレート19の磁束隔離部25と、インナープレート21の磁束隔離部は、上記のような空隙(開口部)にする他に、非磁性材料を配置してもよい。
【0059】
[本発明の範囲に含まれる他の態様]
本発明の電磁摩擦クラッチは、駆動力を伝達する実施形態のような装置だけではなく、制動力を伝達する装置(電磁ブレーキ)として用いてもよい。
【0060】
また、摩擦クラッチは、多板式に限らず単板式でもよく、コーンクラッチでもよい。
【0061】
【発明の効果】
請求項1の電磁摩擦クラッチは、摩擦クラッチの摩擦面で磁束のロスを軽減させたことにより、正規の磁束循環経路を透過しアーマチャへ到達する磁束量が所定量に保たれ、エネルギー効率が向上する。
【0062】
従って、摩擦クラッチの制御特性が向上すると共に、磁束のロスを補うために電磁石を大型化する必要がなくなり、これに伴う、消費電力の増大(バッテリー負担の増加)と、エンジン燃費や車載性の低下が避けられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態の断面図である。
【図2】一実施形態に用いられたアウタープレートの正面図である。
【図3】従来例の断面図である。
【図4】クラッチ板とアーマチャの断面図であり、クラッチ板の磁束隔離部で磁束の短絡が防止される様子を示している。
【図5】クラッチ板とアーマチャの断面図であり、クラッチ板の連結部で磁束の短絡が生じている様子を示している。
【符号の説明】
1 電磁摩擦クラッチ
5 回転ケース(トルクの入力部)
7 カムリング(トルクの出力部)
9 磁束循環経路
11 ロータ
13 電磁石
15 パイロットクラッチ(摩擦クラッチ)
17 アーマチャ
19 アウタープレート(摩擦面)
21 インナープレート(摩擦面)
23 磁束形成部
25 磁束隔離部
27 連結部
Claims (1)
- トルクの入力部及び出力部と、
磁束循環経路に磁束を発生させる電磁石と、
前記入力部と前記出力部のいずれか一方に連結され、前記磁束循環経路の一部をなすロータと、
前記電磁石と前記ロータとの間に配置され、前記入力部と前記出力部間のトルクを断続する摩擦面と、
前記磁束循環経路を透過する前記電磁石の磁束によって移動操作され、前記摩擦面を押圧して締結するアーマチャとで構成された電磁摩擦クラッチであって、
前記摩擦面に、前記ロータと前記アーマチャとを介して前記磁束循環経路を形成させる複数の磁束形成部と、
前記磁束形成部での磁束の短絡を軽減させる磁束隔離部と、
前記磁束形成部間を連結する連結部とを設け、
前記電磁石で発生する磁束量と前記連結部の磁束許容量との差が、前記アーマチャの磁束許容量に近似することを特徴とする電磁摩擦クラッチ。
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JP2003061739A JP2004270790A (ja) | 2003-03-07 | 2003-03-07 | 電磁摩擦クラッチ |
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JP2011161964A (ja) * | 2010-02-05 | 2011-08-25 | Toyota Motor Corp | 車両の駆動装置 |
-
2003
- 2003-03-07 JP JP2003061739A patent/JP2004270790A/ja active Pending
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