JP2004268430A - インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】発熱体としてインクへのエネルギ伝達効率が良く腐食に強い自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を用いると共に、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を防止する。
【解決手段】ヒータ26は、Ta−Si−O系薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって個別流路22のノズル16付近に充填されたインクをノズル16からインク液滴として吐出すると共に、このノズル16を通して個別流路22中に生成された気泡を大気に連通する。これにより、ヒータ26上でのキャビテーションが発生しなくなり、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の機械的破壊が防止される。またヒータ26のTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体には表層部に自己酸化被膜が形成されており、これにより、インクによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の腐蝕が効果的に防止される。
【選択図】 図3
【解決手段】ヒータ26は、Ta−Si−O系薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって個別流路22のノズル16付近に充填されたインクをノズル16からインク液滴として吐出すると共に、このノズル16を通して個別流路22中に生成された気泡を大気に連通する。これにより、ヒータ26上でのキャビテーションが発生しなくなり、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の機械的破壊が防止される。またヒータ26のTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体には表層部に自己酸化被膜が形成されており、これにより、インクによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の腐蝕が効果的に防止される。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギを利用してインクを吐出するオンデマンド型のインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリンタ装置等に用いられるインクジェット記録ヘッドとしては、インクを満たした個別流路中に電気抵抗体(以下、単に「抵抗体」という。)を発熱体とするヒータを設け、その抵抗体にパルス波形の電流(以下、単に「パルス」という。)を通電することにより、インクを急速に加熱して高圧の気泡を発生させ、その気泡の膨張によって個別流路中のインクの一部をインク液滴として吐出するバブル方式のものが知られている。この種のインクジェット記録ヘッドでは、通常、インク液滴の吐出後に気泡が消滅する際のキャビテーションやインクによる腐食(エロージョン)からヒータの抵抗体を保護する必要があり、このため、例えば、抵抗体上に電気絶縁層を挟んでTaなどを素材とする金属保護膜を設けることが多く行われる。しかし、抵抗体上に金属保護膜を設けた場合には、抵抗体とインクとの間に金属保護膜が介在することから、抵抗体からインクへの熱伝達に損失が生じてエネルギ効率が低下するという問題があった。
【0003】
上記のような問題に対し、特許文献1には、保護層を設けることなく抵抗体を直接インクに接触させることにより、エネルギ効率及び記録速度の向上を図った記録ヘッドが記載されている。しかし、保護層を介在させることなく抵抗体をインクに接触させた場合には、抵抗体上に保護層が設けられたヒータと比較し、キャビテーションや腐食の影響によりヒータの寿命が短くなる。
【0004】
そこで、特許文献2には、抵抗体が直接インクに接触するヒータを使用する際に、ヒータ上に発生した気泡をノズルより外気と連通させることによりキャビテーションを防止し、ヒータの高エネルギ効率と長寿命を両立させたインクジェット記録装置が開示されている。しかし、このインクジェット記録装置でも、インクによる腐食の影響を受けることから、抵抗体の素材が電気化学反応的に高強度のものに限定される。しかも、抵抗体の素材は、所要の発熱特性を得るために固有抵抗値が狭い範囲に制限され、かつ加工コストや加工精度の観点からも厳しい制限がある。従って、これらの条件を全て満たすものを抵抗体の素材として選択することは容易ではない。
【0005】
一方、特許文献3には、自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体をヒータとするインクジェット記録ヘッドが開示されている。Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に形成される自己酸化被膜は、数1000Å厚さの従来の金属保護膜と比べると、数10Åから数100Åとたいへん薄く、このヒータは、保護膜が設けられていないヒータとほぼ同レベルのエネルギ効率を実現できる。また自己酸化被膜は、電気絶縁性に優れており、インクによる抵抗体の腐食を防止する効果を有する。しかし、自己酸化被膜は非常に薄いものであるので、Taなどの金属保護膜を有するヒータと比べると、やはり機械的衝撃を伴うキャビテーションに対しては弱く、キャビテーションが生じる条件下では十分な寿命が得られない。
【0006】
また、特許文献4には、特別な保護膜が不要なCR‐Si‐SiO合金薄膜抵抗体をヒータとして用いたインク吐出用ヘッドが開示されており、このインク吐出用ヘッドでは、ヒータ上で発生した気泡により、吐出側インクと残留側インクを分断させることにより、印字品質の低下原因となるサブドロップの発生を抑制している。このインク吐出用ヘッドによってもヒータ上でのキャビテーションが防止され、ヒータの機械的な破壊は抑制されるが、やはり保護層なし抵抗体では、インクの種類によっては腐食によるダメージが大きくなり、十分な寿命が得られない場合がある。
【0007】
【特許文献1】
特開昭55−126462号公報
【特許文献2】
特開平5‐116308号公報
【特許文献3】
特許第3194465号公報
【特許文献4】
特開平7‐227967号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、発熱体としてインクへのエネルギ伝達効率が良く腐食に強い自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を用いると共に、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を防止できるインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェット記録ヘッドを用い、画像記録時における電力消費の小さいインクジェット記録装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出させるためのノズルと、前記ノズルに連通し、インクが充填される複数本の個別流路と、前記個別流路の内面の一部を形成する基板と、前記個別流路における前記ノズル付近に配置されように前記基板上に設けられると共に、少なくともインクとの接触面に自己酸化被膜が形成されたTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体と、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電して該Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを前記ノズルから吐出させるための熱エネルギを発生させる駆動手段とを有し、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって前記個別流路における前記ノズル付近に充填されたインクを前記ノズルからインク液滴として吐出すると共に、前記ノズルを通して前記個別流路中に生成された気泡を大気に連通することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1に記載の構成において、前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に複数の駆動パルスからなる駆動信号列を通電することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項2記載の構成において、前記駆動手段は、気泡を発生させない程度の熱エネルギでインクを前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により予備加熱するためのプレパルス及び、前記予備加熱されたインクに気泡が発生するように前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを加熱するためのメインパルスからなる前記駆動信号列として前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電すると共に、前記基板の温度に応じて前記プレパルスの通電数を増減することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項3に記載の構成において、前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電する前記プレパルスの時間幅を一定にすると共に、前記駆動信号列を構成する前記プレパルス及び前記メインパルスの通電周期を一定にすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1乃至4の何れか1項記載の構成において、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電するための電極を前記基板上に設けると共に、該電極を前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により覆ったことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1乃至5の何れか1項記載の構成において、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面の形状を略正方形としたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項6に記載の構成において、前記ノズルの直径及び該ノズルの入口から出口までのノズル長、並びに前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面から前記ノズルの入口までの距離を、前記インク接触面の一辺の長さの約1/2と略等しくしたことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項8記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項7記載の構成において、前記インク接触面の面積を、500μm2から1800μm2の範囲内から選択された値とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項9記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項7又は8記載の構成において、前記ノズルから吐出されるインク液滴の体積が2plから16plの範囲内となるように、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により前記個別流路内のインクを加熱することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項10記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項8又は9記載の構成において、記録媒体に対する記録時のインクジェット記録ヘッドの移動方向であるヘッド移動方向に直交する配列方向に沿って複数の前記ノズルを配列すると共に、前記配列方向に沿った複数のノズル間のピッチを、800dpiから1600dpiの解像度に対応する長さとしたことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項11記載のインクジェット記録装置は、請求項1乃至請求項10の何れか1項記載のインクジェット記録ヘッドと、前記インクジェット記録ヘッドをヘッド移動方向に沿って駆動するヘッド駆動手段と、記録媒体を前記インクジェット記録ヘッドに対して前記配列方向に沿って相対的に移動させる送り手段と、を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【0020】
本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって個別流路におけるノズル付近に充填されたインクをノズルからインク液滴として吐出すると共に、このノズルを通して個別流路中に生成された気泡を大気に連通することにより、Ta−Si−O系薄膜抵抗体上におけるキャビテーションを防止できるので、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のキャビテーションによる機械的破壊を防止し、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を効果的に防止できる。
【0021】
また、駆動手段が個別流路内のインクをインク液滴としてノズルから吐出させる際に、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に複数のパルスからなる駆動信号列を通電することにより、温度環境等の影響を受け難くなり、安定してインク液滴吐出後にTa−Si−O系薄膜抵抗体上の気泡を大気に排出させることができるので、確実にキャビテーションを防止できる。
【0022】
このとき、駆動手段が、気泡を発生させない程度の熱エネルギでインクをTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体により予備加熱するためのプレパルス及び、予備加熱されたインクに気泡が発生するようにTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを加熱するためのメインパルスからなる駆動信号列としてTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電すると共に、基板の温度に応じてプレパルスの通電数を増減することにより、基板の温度変化の影響によりインク液滴の吐出及び気泡の大気への連通が不安的になることを防止できる。
【0023】
また、駆動手段が、個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電する複数のパルス(プレパルス及びメインパルス)の時間幅を互いに一定にすると共に、駆動信号列を構成するプレパルス及びメインパルスの通電周期を一定にすることにより、駆動手段の制御回路等の構成を簡素化できる。
【0024】
また、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電するための電極を基板上に設けると共に、この電極をTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体により覆ったことにより、電極をインクから保護するための特別な電極保護層を不要にできるので、電極保護層による生じるエネルギロスを防止し、Ta−Si−O系薄膜抵抗体のエネルギ効率をさらに向上できる。
【0025】
さらに、ノズルの直径、ノズルの入口から出口までの路長、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面からノズル入口までの距離等を、Ta−Si−O系薄膜抵抗体におけるインク接触面の一辺の長さの約1/2と略等しくすることにより、上述の効果を保ちつつ、吐出されるインク液滴体積を変えることができるので、解像度や濃度などから決まる画質の要求に対応することができる。
【0026】
また本発明のインクジェット記録装置によれば、上述したような効果を奏する本発明のインクジェット記録ヘッドを採用したことにより、記録ヘッドに対する交換、修理等のメンテナンスを長期間に亘り不要にでき、かつ電力の消費量を低減できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェットが適用されたインクジェットプリンタについて図面を参照して説明する。
【0028】
先ず、図1を参照し、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」という。)を備えたインクジェットプリンタについて簡単に説明する。インクジェットプリンタ10(以下、単に「プリンタ」という。)は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置から入力した画像情報に対応する画像を記録紙Pにインクを用いて記録するためのものである。プリンタ10には、外殻部としてケーシング12が設けられると共に、このケーシング12内にインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」という。)14が配置されている。またプリンタ10には、記録ヘッド14を所定の主走査方向(図1の矢印S方向)へ移動させるためのヘッド駆動機構(図示省略)及び記録紙Pを走査方向と直交する副走査方向(図1の矢印F方向)へ搬送するための紙送り機構(図示省略)が設けられている。
【0029】
ここで、記録ヘッド14には、後述するように、搬送方向に沿って配列された複数のノズルが設けられており、これらのノズルは、記録される画像の解像度に応じたピッチ毎に配置されている。各ノズルからは、微小体積(本実施形態では、2pl〜16pl)を有するインク液滴がそれぞれ吐出可能とされている。プリンタ10では、記録ヘッド14を走査方向へ所定の走査速度で移動させつつ、画像情報に応じて各ノズルからのインク液滴の吐出及び吐出停止を制御することにより、所定数の主走査ライン上の画像を記録紙P上に形成し、更に主走査ライン上への画像形成に同期して記録紙Pを所定のピッチ単位で搬送することで、記録紙Pへの二次元的な画像記録が可能になっている。
【0030】
図2及び図3には本発明の実施形態に係る記録ヘッドの構成が示されている。この記録ヘッド14は、複数のノズル16が穿設されたノズルプレート18、ヘッダ部20及び個別流路22が形成された樹脂プレート24、ヒータ26及びインレット28が設けられたSi基板30、インレット28のインレット28に接続されるインク供給口32が形成されたマニホールド34、マニホールド34に接続されてインク供給口32へインクを補充するためのインク供給管36を備えている。記録ヘッド14では、ノズルプレート18、樹脂プレート24及びSi基板30が厚さ方向(矢印T方向)に沿って互いに積層されて一体化され、これらがマニホールド34上に固定されている。
【0031】
ここで、ノズルプレート18は、樹脂フィルムや金属板などが加工素材としており、レーザ加工やエッチングによりノズル16が形成されている。また樹脂プレート24はSU‐8などにより成形され、個別流路22及びヘッダ部20がエッチングにより形成されている。Si基板30上のヒータ26は、TaとSiからなるターゲットを用いた反応性スパッタリング法により厚さ約1000ÅのTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体(以下、単に「薄膜抵抗体」という。)40が形成された後、熱処理によって抵抗体上に厚さ数10Åから数100Åの自己酸化被膜を形成することによって作成されている。Si基板30を貫通しているインレット28は、異方性エッチングにより形成されている。またSi基板30には、ヒータ26及びインレット28に加えて、図示されていない電極、ドライバトランジスタ、ロジック回路、パッド等が公知のLSIプロセスにより形成されている。
【0032】
記録ヘッド14のSi基板30にはヘッド駆動回路(図示省略)が接続されており、このヘッド駆動回路から出力された駆動制御信号はパッドを通じてSi基板30上のロジック回路に入力され、これにより、ロジック回路からは各ビットに対応するドライバトランジスタを駆動するための信号(ビット信号)が出力される。ヒータ26の一端は共通電極に接続され、他端は信号電極に接続されており、この信号電極の先には前記ドライバトランジスタが接続されている。これにより、前記駆動制御信号の入力によりドライバトランジスタが駆動されて、各ビットに対応する薄膜抵抗体にパルスが通電される。
【0033】
インク供給管36はマニホールド34をインクタンク(図示省略)に接続しており、このインクタンクのインクは、インク供給管36、インク供給口32、インレット28を通して樹脂プレート24のヘッダ部20へ供給され、ヘッダ部20から櫛歯状に分岐した各個別流路22にそれぞれ流入する。ヘッド非駆動時には、ノズル16内におけるインクメニスカスによる毛管力とインクタンク内で発生している負圧とが釣り合い、各個別流路3中のインクは静止状態となる。
【0034】
図3(A)の平面図及び(B)の断面図にはそれぞれ記録ヘッドにおける個別流路、ヒータ及びノズルが示されている。ノズルプレート18には、図2に示されるように、複数のノズル16が副走査方向に沿って直線的に配列されたノズル列が2列設けられており、ノズル列における各ノズル16のピッチP(図3(A)参照)は42μmとされ、また一方のノズル列におけるノズル16と他方のノズル列におけるノズル16とは互いに半ピッチずれて配置されている。
【0035】
ヒータ26のSi基板30表面に沿った面形状は、ノズル16に対する軸対称性、アスペクト比で決まるヒータ抵抗、加工性等の作製しやすさなどの観点から略正方形とされている。例えば、ヒータ26の面形状をアスペクト比が大きい長方形とすると、ノズル16に対する軸対称性が低下することにより、噴射方向性やエネルギ効率が低下し易くなると共に、ヒータ抵抗値の変動が大きくなって駆動上の問題が発生し易くなる。ここで、駆動上の問題とは、例えば、アスペクト比が1より大きくなりすぎると、ヒータ抵抗値が大きくなるので、駆動電圧を上げなければならず、これに対応するためにドライバトランジスタや電源を大型化しなければならないことであり、一方でアスペクト比が1より小さくなりすぎると、ヒータ抵抗値が小さくなるので、抵抗値の減少に従って駆動電流を増やさなければならず、これに対応するために電極を大型化しなければならない。
【0036】
また、個別流路22のSi基板30表面に沿った流路形状は主走査方向を長手方向とする長方形とする。すなわち、一般に、個別流路22におけるインレット28側の端部に絞り部を設けることにより、気泡の圧力がインレット側へ逃げる割合を調整する方法も多く用いられているが、絞り部の寸法精度を十分に高くできないと、各ノズル間に吐出特性のばらつきが生じ易い。このため、個別流路22の流路形状を単純な長方形としたものである。
【0037】
図4には本実施形態に係る記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示されており、この本実施形態との比較のために、図5には従来の記録ヘッドにおけるにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示されている。
【0038】
先ず、従来の記録ヘッドによるインク吐出時の気泡状態を説明する。図5(A)に示される初期状態からヒータ100へ所定パターンの駆動パルスを通電することにより、図5(B)に示されるように、ヒータ100上の一部のインクIが急速に加熱されて相変化することで、ヒータ100上には高圧の気泡Bが発生する。この気泡Bは、図5(C)〜(E)に示されるように、高圧時に発生したインクIの慣性力により膨張し、この膨張に従って気泡B内は減圧していき、その慣性力と減圧された内圧が釣り合った時に、図5(F)に示されるように最大体積となる。
【0039】
気泡Bは、最大体積に達した後、図5(G)、(H)に示されるように、インクIの静圧を受けて収縮していく。この気泡Bは、図5(I)に示されるように、ヒータ100上で消滅し、消滅時にキャビテーションを引き起こす。この気泡Bの発生から消滅までの間に、図5(F)に示されるように、気泡Bの膨張及び収縮の作用によりノズル102から所定体積のインク液滴Dが噴射される。このインク液滴Dの噴射後に、図5(J)に示されるようにノズル102内には、毛管力によりインクIが個別流路104から再供給される。
【0040】
上記のように、従来の記録ヘッドでは、気泡Bがヒータ100上で消滅することからキャビテーションが生じ、このキャビテーションが繰り返されることにより、ヒータ100におけるTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体上の自己酸化膜が機械的に破壊されて行き、ヒータの寿命が短くなっていた。
【0041】
次に、本実施形態の記録ヘッドによるインク噴射時の気泡状態を説明する。図4(A)に示される初期状態からヒータ26へパルスを通電することにより、図4(B)に示されるようにヒータ26上に高圧の気泡Bが発生する。この気泡Bは、図4(C)〜(D)に示されるように高圧時に発生したインクIの慣性力により膨張して行き、図4(E)に示されるように、その膨張過程においてインク液滴Dをノズル16から噴射させると共に、インク液滴Dの噴射と略同時に、ノズル16を通して大気と連通する。大気と連通した気泡Bは、図4(F)〜(H)に示されるように、ノズル16からのインク液滴Dの噴射後に内部の低圧気体がノズル16を通して大気中へ排出されることにより収縮して行き、図4(I)に示されるように、ノズル16内に凹状のメニスカスを残して消滅する。この後、ノズル16内には、図4(J)に示されるように、毛管力によりインクが再供給される。
【0042】
上記したような、本実施形態の記録ヘッド14におけるインク噴射時の一連の動作では、ヒータ26上にはキャビテーションが発生せず、ヒータ26を構成する自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体にはキャビテーションによる機械的破壊が生じない。ここで、ヒータ26は、厚さ約1000ÅのTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体上に、熱酸化処理により厚さ数10Åから数100Åの自己酸化被膜を形成したものであり、従来のTaなどの金属保護膜を有するヒータに比べると熱エネルギの伝達効率が良く、また自己酸化被膜によりインクとの接触面の腐食が防止される。
【0043】
上記のようなインク噴射動作を可能とする記録ヘッド14の構造について具体的に説明する。記録ヘッド14の特性を決定するためのパラメータ(構造パラメータ)としては、図3に示されるヒータ26表面の主走査方向に沿った幅であるヒータ幅HW、ヒータ26表面の副走査方向に沿った幅であるヒータ長さHL、ノズル径ND、個別流路22の主走査方向に沿った幅である個別流路幅CW、個別流路22の副走査方向に沿った長さである個別流路長さCL、ノズル16の厚さ方向に沿った長さであるノズル長さNH、ヒータ26表面からノズル16の入口部までの距離である個別流路高さCHが挙げられる。なお、本実施形態ではヒータ26の面形状を正方形としたので、ヒータ幅HWとヒータ長さHLは実質的に等しい値となる。
【0044】
下記(表1)には、計算機によるシミュレーション実験により得られた構造パラメータの変化に対するインク液滴Dの噴射状況の変化についての演算結果を示す。また図6〜図14には、それぞれ上記シミュレーションによい得られたモデル1〜モデル9における気泡B及びインクメニスカスの状態が示され、図15(A)〜(H)には、(表1)に示されたインク液滴体積、インク液滴速度等と各構造パラメータとの関係がグラフとして示されている。なお、上記シミュレーション実験は、フローサイエンス社の流体解析ソフトウエアFLOW‐3D(商品名)を用いて行った。このとき、初期条件としては、過去のシミュレーション結果及び実験結果との比較から妥当と考えられる圧力値を有するバブルBをヒータ26上に配置した。またインクIの物性値は、比重1.0、粘度2.0mPa・s、表面張力37mN/mとした。
【0045】
【表1】
【0046】
(表1)のモデル1〜モデル3では、ヒータ26におけるインクIとの接触面の一辺のサイズ(ヒータサイズ)を10μmピッチで小さくした。本実施形態の記録ヘッド14では、ノズル16が42μmピッチで配置されているので、ヒータサイズは30μm×30μm(モデル1)がほぼ上限値である。モデル1(図6参照)に対して、ヒータサイズを20μm×20μmに減少したモデル2(図7参照)では、記録ヘッド14におけるインク液滴Dの体積及び速度はそれぞれ減少する。更に、モデル1に対して、ノズル16のサイズを10μm×10μmまで減少したモデル3(図8参照)では、ノズル16からインク液滴Dが噴射不能になってしまう。
【0047】
また、ノズル径NDが15μmとされたモデル1に対して、ノズル径NDを10μmに縮小したモデル4(図9参照)では、ヒータ26上に生成された気泡Bが大気に連通せず、インク液滴Dの体積及び速度もそれぞれ減少する。一方、モデル1に対して、ノズル径NDを20μmに拡大したモデル5(図10参照)では、インク液滴Dの形状のひずみが大きくなり、インクIの小滴が飛散するスプラッシュが発生し、画質を劣化させる原因となる。
【0048】
また、ノズル長さNHが15μmとされたモデル1に対して、ノズル長さNHを10μmに減少したモデル6(図11参照)では、インク液滴Dの速度は増加するが、スプラッシュが発生しやすくなる。これと逆に、ノズル長さNHを20μmに増加したモデル7(図12参照)では、気泡Bが大気に排出されなくなる。また個別流路長さCLについては、68μm(モデル1)に対して、モデル8(図13参照)のように48μmであっても、モデル9(図14参照)のように88μmであっても、気泡Bの大気との連通状態、インク液滴Dの体積、インク液滴の速度には大きな変化が生じない。
【0049】
以上説明した(表1)の結果からは、インク液滴Dの体積及び速度を確保しつつ、気泡Bを大気に排出し、インクスプラッシュを発生させないためには、ヒータサイズと個別流路22の所定部分の各寸法を、モデル1における各構造パラメータの寸法比等を基準として適宜、設定すれば良いことが推定される。
【0050】
そこで、モデル1のようにノズル径ND、ノズル長さNH、個別流路高さCHが互いに等しく、これらの値がそれぞれヒータ26の一辺の長さ(以下、「ヒータ長さ」という。)の1/2に設定された記録ヘッド14において、ヒータサイズを段階的に変化させつつ、シミュレーションを行った結果を下記(表2)に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
ヒータサイズが30μm×30μmのモデル1に対して、ヒータサイズを24μm×24μmに減少してモデル10、ヒータサイズを36μm×36μmに増加したモデル11、ヒータサイズを更に42μm×42μmに増加したモデル12では、それぞれインク液滴Dの噴射状態は良好であった。
【0053】
図16(A)及び(B)には、モデル1、モデル10、モデル11、モデル12の各記録ヘッド14におけるヒータサイズとインク液滴Dの体積及び速度との関係がそれぞれ示されている。この図16から明らかなように、所定の構造パラメータを有する記録ヘッド14では、ヒータサイズを変えることによりインク液滴Dの速度をほとんど変えることなく、インク液滴Dの体積を広い範囲で変えることができる。ここで、各記録ヘッド14におけるヒータ幅HWに対して、個別流路22を形成する隔壁部分の幅などを確保するためのマージンを12μmとすると、各記録ヘッド14にけるノズル16の配列方向(副走査方向)に沿った間隔(ノズルピッチ)は、下記(表3)に示したようになる。
【0054】
【表3】
【0055】
図2に示されるように、2列のノズル列が1/2ピッチずつずれて並んでいる場合には、ノズル列毎のノズル16のノズルピッチとして、(表3)に示される各ノズルピッチを採用すると、各記録ヘッド14における1インチ当たりのノズル数(ノズル密度)及び、記録画像の1インチ当たりの画素数(解像度)は、それぞれ(表3)に示されるようになる。
【0056】
図17には、(表3)に示された構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積との関係及び、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係をそれぞれ示している。ここでは、構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積との関係が“●”記号のプロット位置により示され、また画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係が“×”記号のプロット位置により示されている。
【0057】
図17から明らかなように、構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積とは、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積と比較的近似したものになっており、ヒータサイズと個別流路22の寸法をさらに微調整することにより、更に画質からの要求値に十分に近似させることが可能である。但し、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係の関係は、通常、使用するインクや記録紙Pの紙質によって多少変化する。
【0058】
ところで、図5に示されるように、ヒータ100上で発生した気泡Bが大気へ連通しない従来の記録ヘッドでは、駆動パルスの時間長及び通電数が固定の場合、ヘッド温度が環境温度やプリントパターンのパターン密度などによって随時変化することから、その影響を受けてヒータ100上に発生する気泡Bの最大体積が変化し、インク液滴Dの体積や速度が変化することが良く知られている。一般に、ヘッド温度が高くなるほど気泡Bの最大体積は大きくなり、インク液滴Dの体積と速度は大きくなる傾向を示す。
【0059】
一方、本実施形態の記録ヘッド14では、ヒータ26上に発生した気泡Bは最大体積になる前に大気と連通してしまうが、ヘッド温度が変化すると、前述のように調整したヒータサイズと個別流路22の各寸法とのバランスがくずれて、インク液滴Dの噴射状態が不安定になって、所要のインク液滴Dの体積及び速度が得られなくなるおそれがある。そこで、記録ヘッド14では、ヘッド温度に応じて駆動パルスの通電パターンを変えることにより、インク液滴Dの噴射状態を安定化している。ここで、ヘッド温度とは、基本的に記録ヘッド14におけるインクIと接触し、かつヒータに十分に近接した任意の部分であれば良いが、本実施形態では、インク液滴Dへの影響が特に大きいSi基板30の表面温度をヘッド温度とし、このヘッド温度を制御パラメータとして駆動パルスの通電パターンを変更する。
【0060】
具体的には、本実施形態の記録ヘッド14では、図18に示されるように、インク液滴Dを噴射する際に、1個又は複数個のプレパルス及び1個のメインパルスからなる駆動信号列をヒータ26に通電する。ここで、プレパルスの時間幅は0.1μsec、メインパルスの時間幅は1μsec、パルスオフからオンまでの通電間隔は0.5μsecで、それぞれ固定されている。またプレパルスの通電数(プレパルス数)は、適宜、0個〜10個の範囲で増減する。
【0061】
下記(表4)には、ヘッド温度とプレパルス数をパラメータとしたインク液滴Dの噴射状態の観察結果を示す。各ヘッド温度に対して、噴射状態が良好となるプレパルス数はシフトしていく。(表4)からは、プレパルス数が多すぎるとスプラッシュが多くなり、プレパルス数が少ないとインク液滴速度が遅くなり噴射が不安定または噴射不能となることが理解される。
【0062】
【表4】
【0063】
記録ヘッド14には、図2に示されるように、Si基板30表面にサーミスタなどの温度センサ38が設けられており、この温度センサ38はSi基板30の温度を検出して検出信号をヘッド駆動回路へ出力する。ヘッド駆動回路は、インク液滴Dを噴射する際に、温度センサ38による検出温度に応じたプレパルス数を選択し、Si基板30のロジック回路へ選択されたプレパルス数に対応する駆動制御信号を出力する。これにより、ロジック回路は、駆動制御信号に対応するビット信号によりドライバトランジスタを駆動することにより、ドライバトランジスタにより選択されたプレパルス数のプレパルスをヒータ26に通電した後、1個のメインパルスを通電する。
【0064】
以上説明したように本実施形態の記録ヘッド14では、インク液滴Dを噴射する際に、ヘッド温度に応じてヒータ26に通電するプレパルス数を増減することにより、ヘッド温度の変化に伴ってインク液滴Dの噴射状態が悪化することを防止できるので、ヘッド温度に関係なく常にインク液滴Dの噴射状態を良好に維持でき、かつインク液滴Dの噴射状態を良好に維持できるヘッド温度の対応範囲を十分に広くできる。
【0065】
また記録ヘッド14では、各プレパルスの時間幅を全て一定とし、かつプレパルス及びメインパルスの通電間隔も一定としたことにより、電気的な制御フローが簡単になり、ロジック回路、ドライブトランジスタ等の駆動回路の構成を単純化できる。またプレパルスの通電数は、記録ヘッド14の個体差等により生じるインク液滴Dの噴射特性のバラツキを補正するために用いても良い。
【0066】
図19には本実施形態に係る自己酸化被膜が形成されたTa−Si−O系薄膜抵抗体を発熱体とするヒータが示され、また図20には薄膜抵抗体上に金属保護層が形成された従来のヒータが示されている。
【0067】
先ず、本実施形態に係るヒータ26との比較のため従来の記録ヘッド(図5参照)におけるヒータ100の構造について説明する。図20(B)に示されるように、ヒータ100には、Si基板に形成された薄膜抵抗体108が設けられると共に、この薄膜抵抗体108上に電極114が形成されており、更に電極114上には電気絶縁層110を介して金属保護膜112が形成されている。薄膜抵抗体108は、例えばTaNなどを素材として厚さ1000Å程度に形成されている。電極114は、Alなどを素材として厚さ5000Å程度に形成されている。電気絶縁層110は、SiNやSiO2などを素材として厚さ2000Å程度に形成されている。また金属保護膜112は、例えばTaなどを素材として厚さ2000Å程度に形成されている。
【0068】
しかし、上記のようなヒータ100では、薄膜抵抗体108による発熱領域のうち電極114先端付近の領域(図20(A)で斜線が付された領域)LSからの熱エネルギの大部分が電気絶縁層110及び金属保護層112により吸収されてエネルギロスとなり、薄膜抵抗体108からインクIへの熱エネルギの伝達効率を著しく低下させている。
【0069】
一方、図19(A)及び(B)に示されるように、本実施形態に係るヒータ26では、Si基板30上に一対の電極42が形成されており、これらの電極42は、その先端部を互いに対向させるように配置されている。抵抗体40は、一対の電極42を覆うように厚さ1000Å程度で形成されており、一対の電極42の先端部間が発熱領域(図19(A)で斜線が付された領域)HT(となっている。また抵抗体40の表層部には、厚さ数10Åから数100Å程度の非常に薄い自己酸化被膜(図示省略)が形成されている。
【0070】
本実施形態に係るヒータ26によれば、図20に示された従来のヒータ100と比較し、インクIとの間に電気絶縁層及び保護層が介在せず、これらと比較して非常に薄く熱容量が小さい自己酸化被膜が介在するだけなので、抵抗体40からインクIへ熱エネルギを効率的に伝達できるようになり、プリンタ10へ適用されることで、画像記録時の消費電力の低減を容易に実現できる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、発熱体としてインクへのエネルギ伝達効率が良く腐食に強い自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を用いると共に、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を防止できる。
【0072】
また本発明のインクジェット記録装置によれば、本発明のインクジェット記録ヘッドを用いたことにより、画像記録時における電力消費を効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを用いたインクジェットプリンタの概略を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示されるインクジェット記録ヘッドの平面図及び側面断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示された側面断面図である。
【図5】従来の記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示された側面断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル1における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル2における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル3における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル4における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル5における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル6における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル7における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル8における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル9における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図15】(表1)に示されたインク液滴体積、インク液滴速度等と各構造パラメータとの関係示されたグラフである。
【図16】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル1、モデル10、モデル11及びモデル12におけるヒータサイズとインク液滴の体積及び速度との関係が示されたグラフである。
【図17】(表3)に示された構造パラメータから決まる解像度とインク液滴の体積との関係及び画質から要求される解像度とインク液滴の体積との関係が示されたグラフである。
【図18】本発明の実施形態に係るヒータに通電されるプレパルス及びメインパルスの制御パターンが示されたタイミングチャートである。
【図19】本発明の実施形態に係るヒータの構造を示す平面図及び側面断面図である。
【図20】従来のヒータの構造を示す平面図及び側面断面図である。
【符号の説明】
10 インクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)
14 インクジェット記録ヘッド
16 ノズル
22 個別流路
26 ヒータ
30 Si基板(基板)
38 温度センサ
40 抵抗体(Ta−Si−O系薄膜抵抗体)
42 電極
【発明の属する技術分野】
本発明は、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギを利用してインクを吐出するオンデマンド型のインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリンタ装置等に用いられるインクジェット記録ヘッドとしては、インクを満たした個別流路中に電気抵抗体(以下、単に「抵抗体」という。)を発熱体とするヒータを設け、その抵抗体にパルス波形の電流(以下、単に「パルス」という。)を通電することにより、インクを急速に加熱して高圧の気泡を発生させ、その気泡の膨張によって個別流路中のインクの一部をインク液滴として吐出するバブル方式のものが知られている。この種のインクジェット記録ヘッドでは、通常、インク液滴の吐出後に気泡が消滅する際のキャビテーションやインクによる腐食(エロージョン)からヒータの抵抗体を保護する必要があり、このため、例えば、抵抗体上に電気絶縁層を挟んでTaなどを素材とする金属保護膜を設けることが多く行われる。しかし、抵抗体上に金属保護膜を設けた場合には、抵抗体とインクとの間に金属保護膜が介在することから、抵抗体からインクへの熱伝達に損失が生じてエネルギ効率が低下するという問題があった。
【0003】
上記のような問題に対し、特許文献1には、保護層を設けることなく抵抗体を直接インクに接触させることにより、エネルギ効率及び記録速度の向上を図った記録ヘッドが記載されている。しかし、保護層を介在させることなく抵抗体をインクに接触させた場合には、抵抗体上に保護層が設けられたヒータと比較し、キャビテーションや腐食の影響によりヒータの寿命が短くなる。
【0004】
そこで、特許文献2には、抵抗体が直接インクに接触するヒータを使用する際に、ヒータ上に発生した気泡をノズルより外気と連通させることによりキャビテーションを防止し、ヒータの高エネルギ効率と長寿命を両立させたインクジェット記録装置が開示されている。しかし、このインクジェット記録装置でも、インクによる腐食の影響を受けることから、抵抗体の素材が電気化学反応的に高強度のものに限定される。しかも、抵抗体の素材は、所要の発熱特性を得るために固有抵抗値が狭い範囲に制限され、かつ加工コストや加工精度の観点からも厳しい制限がある。従って、これらの条件を全て満たすものを抵抗体の素材として選択することは容易ではない。
【0005】
一方、特許文献3には、自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体をヒータとするインクジェット記録ヘッドが開示されている。Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に形成される自己酸化被膜は、数1000Å厚さの従来の金属保護膜と比べると、数10Åから数100Åとたいへん薄く、このヒータは、保護膜が設けられていないヒータとほぼ同レベルのエネルギ効率を実現できる。また自己酸化被膜は、電気絶縁性に優れており、インクによる抵抗体の腐食を防止する効果を有する。しかし、自己酸化被膜は非常に薄いものであるので、Taなどの金属保護膜を有するヒータと比べると、やはり機械的衝撃を伴うキャビテーションに対しては弱く、キャビテーションが生じる条件下では十分な寿命が得られない。
【0006】
また、特許文献4には、特別な保護膜が不要なCR‐Si‐SiO合金薄膜抵抗体をヒータとして用いたインク吐出用ヘッドが開示されており、このインク吐出用ヘッドでは、ヒータ上で発生した気泡により、吐出側インクと残留側インクを分断させることにより、印字品質の低下原因となるサブドロップの発生を抑制している。このインク吐出用ヘッドによってもヒータ上でのキャビテーションが防止され、ヒータの機械的な破壊は抑制されるが、やはり保護層なし抵抗体では、インクの種類によっては腐食によるダメージが大きくなり、十分な寿命が得られない場合がある。
【0007】
【特許文献1】
特開昭55−126462号公報
【特許文献2】
特開平5‐116308号公報
【特許文献3】
特許第3194465号公報
【特許文献4】
特開平7‐227967号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、発熱体としてインクへのエネルギ伝達効率が良く腐食に強い自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を用いると共に、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を防止できるインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェット記録ヘッドを用い、画像記録時における電力消費の小さいインクジェット記録装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1記載のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出させるためのノズルと、前記ノズルに連通し、インクが充填される複数本の個別流路と、前記個別流路の内面の一部を形成する基板と、前記個別流路における前記ノズル付近に配置されように前記基板上に設けられると共に、少なくともインクとの接触面に自己酸化被膜が形成されたTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体と、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電して該Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを前記ノズルから吐出させるための熱エネルギを発生させる駆動手段とを有し、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって前記個別流路における前記ノズル付近に充填されたインクを前記ノズルからインク液滴として吐出すると共に、前記ノズルを通して前記個別流路中に生成された気泡を大気に連通することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1に記載の構成において、前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に複数の駆動パルスからなる駆動信号列を通電することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項2記載の構成において、前記駆動手段は、気泡を発生させない程度の熱エネルギでインクを前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により予備加熱するためのプレパルス及び、前記予備加熱されたインクに気泡が発生するように前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを加熱するためのメインパルスからなる前記駆動信号列として前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電すると共に、前記基板の温度に応じて前記プレパルスの通電数を増減することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項3に記載の構成において、前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電する前記プレパルスの時間幅を一定にすると共に、前記駆動信号列を構成する前記プレパルス及び前記メインパルスの通電周期を一定にすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1乃至4の何れか1項記載の構成において、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電するための電極を前記基板上に設けると共に、該電極を前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により覆ったことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項1乃至5の何れか1項記載の構成において、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面の形状を略正方形としたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項6に記載の構成において、前記ノズルの直径及び該ノズルの入口から出口までのノズル長、並びに前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面から前記ノズルの入口までの距離を、前記インク接触面の一辺の長さの約1/2と略等しくしたことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項8記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項7記載の構成において、前記インク接触面の面積を、500μm2から1800μm2の範囲内から選択された値とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項9記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項7又は8記載の構成において、前記ノズルから吐出されるインク液滴の体積が2plから16plの範囲内となるように、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により前記個別流路内のインクを加熱することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項10記載のインクジェット記録ヘッドは、請求項8又は9記載の構成において、記録媒体に対する記録時のインクジェット記録ヘッドの移動方向であるヘッド移動方向に直交する配列方向に沿って複数の前記ノズルを配列すると共に、前記配列方向に沿った複数のノズル間のピッチを、800dpiから1600dpiの解像度に対応する長さとしたことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項11記載のインクジェット記録装置は、請求項1乃至請求項10の何れか1項記載のインクジェット記録ヘッドと、前記インクジェット記録ヘッドをヘッド移動方向に沿って駆動するヘッド駆動手段と、記録媒体を前記インクジェット記録ヘッドに対して前記配列方向に沿って相対的に移動させる送り手段と、を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【0020】
本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって個別流路におけるノズル付近に充填されたインクをノズルからインク液滴として吐出すると共に、このノズルを通して個別流路中に生成された気泡を大気に連通することにより、Ta−Si−O系薄膜抵抗体上におけるキャビテーションを防止できるので、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のキャビテーションによる機械的破壊を防止し、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を効果的に防止できる。
【0021】
また、駆動手段が個別流路内のインクをインク液滴としてノズルから吐出させる際に、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に複数のパルスからなる駆動信号列を通電することにより、温度環境等の影響を受け難くなり、安定してインク液滴吐出後にTa−Si−O系薄膜抵抗体上の気泡を大気に排出させることができるので、確実にキャビテーションを防止できる。
【0022】
このとき、駆動手段が、気泡を発生させない程度の熱エネルギでインクをTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体により予備加熱するためのプレパルス及び、予備加熱されたインクに気泡が発生するようにTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを加熱するためのメインパルスからなる駆動信号列としてTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電すると共に、基板の温度に応じてプレパルスの通電数を増減することにより、基板の温度変化の影響によりインク液滴の吐出及び気泡の大気への連通が不安的になることを防止できる。
【0023】
また、駆動手段が、個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電する複数のパルス(プレパルス及びメインパルス)の時間幅を互いに一定にすると共に、駆動信号列を構成するプレパルス及びメインパルスの通電周期を一定にすることにより、駆動手段の制御回路等の構成を簡素化できる。
【0024】
また、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電するための電極を基板上に設けると共に、この電極をTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体により覆ったことにより、電極をインクから保護するための特別な電極保護層を不要にできるので、電極保護層による生じるエネルギロスを防止し、Ta−Si−O系薄膜抵抗体のエネルギ効率をさらに向上できる。
【0025】
さらに、ノズルの直径、ノズルの入口から出口までの路長、Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面からノズル入口までの距離等を、Ta−Si−O系薄膜抵抗体におけるインク接触面の一辺の長さの約1/2と略等しくすることにより、上述の効果を保ちつつ、吐出されるインク液滴体積を変えることができるので、解像度や濃度などから決まる画質の要求に対応することができる。
【0026】
また本発明のインクジェット記録装置によれば、上述したような効果を奏する本発明のインクジェット記録ヘッドを採用したことにより、記録ヘッドに対する交換、修理等のメンテナンスを長期間に亘り不要にでき、かつ電力の消費量を低減できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド及び、このインクジェットが適用されたインクジェットプリンタについて図面を参照して説明する。
【0028】
先ず、図1を参照し、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」という。)を備えたインクジェットプリンタについて簡単に説明する。インクジェットプリンタ10(以下、単に「プリンタ」という。)は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置から入力した画像情報に対応する画像を記録紙Pにインクを用いて記録するためのものである。プリンタ10には、外殻部としてケーシング12が設けられると共に、このケーシング12内にインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」という。)14が配置されている。またプリンタ10には、記録ヘッド14を所定の主走査方向(図1の矢印S方向)へ移動させるためのヘッド駆動機構(図示省略)及び記録紙Pを走査方向と直交する副走査方向(図1の矢印F方向)へ搬送するための紙送り機構(図示省略)が設けられている。
【0029】
ここで、記録ヘッド14には、後述するように、搬送方向に沿って配列された複数のノズルが設けられており、これらのノズルは、記録される画像の解像度に応じたピッチ毎に配置されている。各ノズルからは、微小体積(本実施形態では、2pl〜16pl)を有するインク液滴がそれぞれ吐出可能とされている。プリンタ10では、記録ヘッド14を走査方向へ所定の走査速度で移動させつつ、画像情報に応じて各ノズルからのインク液滴の吐出及び吐出停止を制御することにより、所定数の主走査ライン上の画像を記録紙P上に形成し、更に主走査ライン上への画像形成に同期して記録紙Pを所定のピッチ単位で搬送することで、記録紙Pへの二次元的な画像記録が可能になっている。
【0030】
図2及び図3には本発明の実施形態に係る記録ヘッドの構成が示されている。この記録ヘッド14は、複数のノズル16が穿設されたノズルプレート18、ヘッダ部20及び個別流路22が形成された樹脂プレート24、ヒータ26及びインレット28が設けられたSi基板30、インレット28のインレット28に接続されるインク供給口32が形成されたマニホールド34、マニホールド34に接続されてインク供給口32へインクを補充するためのインク供給管36を備えている。記録ヘッド14では、ノズルプレート18、樹脂プレート24及びSi基板30が厚さ方向(矢印T方向)に沿って互いに積層されて一体化され、これらがマニホールド34上に固定されている。
【0031】
ここで、ノズルプレート18は、樹脂フィルムや金属板などが加工素材としており、レーザ加工やエッチングによりノズル16が形成されている。また樹脂プレート24はSU‐8などにより成形され、個別流路22及びヘッダ部20がエッチングにより形成されている。Si基板30上のヒータ26は、TaとSiからなるターゲットを用いた反応性スパッタリング法により厚さ約1000ÅのTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体(以下、単に「薄膜抵抗体」という。)40が形成された後、熱処理によって抵抗体上に厚さ数10Åから数100Åの自己酸化被膜を形成することによって作成されている。Si基板30を貫通しているインレット28は、異方性エッチングにより形成されている。またSi基板30には、ヒータ26及びインレット28に加えて、図示されていない電極、ドライバトランジスタ、ロジック回路、パッド等が公知のLSIプロセスにより形成されている。
【0032】
記録ヘッド14のSi基板30にはヘッド駆動回路(図示省略)が接続されており、このヘッド駆動回路から出力された駆動制御信号はパッドを通じてSi基板30上のロジック回路に入力され、これにより、ロジック回路からは各ビットに対応するドライバトランジスタを駆動するための信号(ビット信号)が出力される。ヒータ26の一端は共通電極に接続され、他端は信号電極に接続されており、この信号電極の先には前記ドライバトランジスタが接続されている。これにより、前記駆動制御信号の入力によりドライバトランジスタが駆動されて、各ビットに対応する薄膜抵抗体にパルスが通電される。
【0033】
インク供給管36はマニホールド34をインクタンク(図示省略)に接続しており、このインクタンクのインクは、インク供給管36、インク供給口32、インレット28を通して樹脂プレート24のヘッダ部20へ供給され、ヘッダ部20から櫛歯状に分岐した各個別流路22にそれぞれ流入する。ヘッド非駆動時には、ノズル16内におけるインクメニスカスによる毛管力とインクタンク内で発生している負圧とが釣り合い、各個別流路3中のインクは静止状態となる。
【0034】
図3(A)の平面図及び(B)の断面図にはそれぞれ記録ヘッドにおける個別流路、ヒータ及びノズルが示されている。ノズルプレート18には、図2に示されるように、複数のノズル16が副走査方向に沿って直線的に配列されたノズル列が2列設けられており、ノズル列における各ノズル16のピッチP(図3(A)参照)は42μmとされ、また一方のノズル列におけるノズル16と他方のノズル列におけるノズル16とは互いに半ピッチずれて配置されている。
【0035】
ヒータ26のSi基板30表面に沿った面形状は、ノズル16に対する軸対称性、アスペクト比で決まるヒータ抵抗、加工性等の作製しやすさなどの観点から略正方形とされている。例えば、ヒータ26の面形状をアスペクト比が大きい長方形とすると、ノズル16に対する軸対称性が低下することにより、噴射方向性やエネルギ効率が低下し易くなると共に、ヒータ抵抗値の変動が大きくなって駆動上の問題が発生し易くなる。ここで、駆動上の問題とは、例えば、アスペクト比が1より大きくなりすぎると、ヒータ抵抗値が大きくなるので、駆動電圧を上げなければならず、これに対応するためにドライバトランジスタや電源を大型化しなければならないことであり、一方でアスペクト比が1より小さくなりすぎると、ヒータ抵抗値が小さくなるので、抵抗値の減少に従って駆動電流を増やさなければならず、これに対応するために電極を大型化しなければならない。
【0036】
また、個別流路22のSi基板30表面に沿った流路形状は主走査方向を長手方向とする長方形とする。すなわち、一般に、個別流路22におけるインレット28側の端部に絞り部を設けることにより、気泡の圧力がインレット側へ逃げる割合を調整する方法も多く用いられているが、絞り部の寸法精度を十分に高くできないと、各ノズル間に吐出特性のばらつきが生じ易い。このため、個別流路22の流路形状を単純な長方形としたものである。
【0037】
図4には本実施形態に係る記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示されており、この本実施形態との比較のために、図5には従来の記録ヘッドにおけるにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示されている。
【0038】
先ず、従来の記録ヘッドによるインク吐出時の気泡状態を説明する。図5(A)に示される初期状態からヒータ100へ所定パターンの駆動パルスを通電することにより、図5(B)に示されるように、ヒータ100上の一部のインクIが急速に加熱されて相変化することで、ヒータ100上には高圧の気泡Bが発生する。この気泡Bは、図5(C)〜(E)に示されるように、高圧時に発生したインクIの慣性力により膨張し、この膨張に従って気泡B内は減圧していき、その慣性力と減圧された内圧が釣り合った時に、図5(F)に示されるように最大体積となる。
【0039】
気泡Bは、最大体積に達した後、図5(G)、(H)に示されるように、インクIの静圧を受けて収縮していく。この気泡Bは、図5(I)に示されるように、ヒータ100上で消滅し、消滅時にキャビテーションを引き起こす。この気泡Bの発生から消滅までの間に、図5(F)に示されるように、気泡Bの膨張及び収縮の作用によりノズル102から所定体積のインク液滴Dが噴射される。このインク液滴Dの噴射後に、図5(J)に示されるようにノズル102内には、毛管力によりインクIが個別流路104から再供給される。
【0040】
上記のように、従来の記録ヘッドでは、気泡Bがヒータ100上で消滅することからキャビテーションが生じ、このキャビテーションが繰り返されることにより、ヒータ100におけるTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体上の自己酸化膜が機械的に破壊されて行き、ヒータの寿命が短くなっていた。
【0041】
次に、本実施形態の記録ヘッドによるインク噴射時の気泡状態を説明する。図4(A)に示される初期状態からヒータ26へパルスを通電することにより、図4(B)に示されるようにヒータ26上に高圧の気泡Bが発生する。この気泡Bは、図4(C)〜(D)に示されるように高圧時に発生したインクIの慣性力により膨張して行き、図4(E)に示されるように、その膨張過程においてインク液滴Dをノズル16から噴射させると共に、インク液滴Dの噴射と略同時に、ノズル16を通して大気と連通する。大気と連通した気泡Bは、図4(F)〜(H)に示されるように、ノズル16からのインク液滴Dの噴射後に内部の低圧気体がノズル16を通して大気中へ排出されることにより収縮して行き、図4(I)に示されるように、ノズル16内に凹状のメニスカスを残して消滅する。この後、ノズル16内には、図4(J)に示されるように、毛管力によりインクが再供給される。
【0042】
上記したような、本実施形態の記録ヘッド14におけるインク噴射時の一連の動作では、ヒータ26上にはキャビテーションが発生せず、ヒータ26を構成する自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体にはキャビテーションによる機械的破壊が生じない。ここで、ヒータ26は、厚さ約1000ÅのTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体上に、熱酸化処理により厚さ数10Åから数100Åの自己酸化被膜を形成したものであり、従来のTaなどの金属保護膜を有するヒータに比べると熱エネルギの伝達効率が良く、また自己酸化被膜によりインクとの接触面の腐食が防止される。
【0043】
上記のようなインク噴射動作を可能とする記録ヘッド14の構造について具体的に説明する。記録ヘッド14の特性を決定するためのパラメータ(構造パラメータ)としては、図3に示されるヒータ26表面の主走査方向に沿った幅であるヒータ幅HW、ヒータ26表面の副走査方向に沿った幅であるヒータ長さHL、ノズル径ND、個別流路22の主走査方向に沿った幅である個別流路幅CW、個別流路22の副走査方向に沿った長さである個別流路長さCL、ノズル16の厚さ方向に沿った長さであるノズル長さNH、ヒータ26表面からノズル16の入口部までの距離である個別流路高さCHが挙げられる。なお、本実施形態ではヒータ26の面形状を正方形としたので、ヒータ幅HWとヒータ長さHLは実質的に等しい値となる。
【0044】
下記(表1)には、計算機によるシミュレーション実験により得られた構造パラメータの変化に対するインク液滴Dの噴射状況の変化についての演算結果を示す。また図6〜図14には、それぞれ上記シミュレーションによい得られたモデル1〜モデル9における気泡B及びインクメニスカスの状態が示され、図15(A)〜(H)には、(表1)に示されたインク液滴体積、インク液滴速度等と各構造パラメータとの関係がグラフとして示されている。なお、上記シミュレーション実験は、フローサイエンス社の流体解析ソフトウエアFLOW‐3D(商品名)を用いて行った。このとき、初期条件としては、過去のシミュレーション結果及び実験結果との比較から妥当と考えられる圧力値を有するバブルBをヒータ26上に配置した。またインクIの物性値は、比重1.0、粘度2.0mPa・s、表面張力37mN/mとした。
【0045】
【表1】
【0046】
(表1)のモデル1〜モデル3では、ヒータ26におけるインクIとの接触面の一辺のサイズ(ヒータサイズ)を10μmピッチで小さくした。本実施形態の記録ヘッド14では、ノズル16が42μmピッチで配置されているので、ヒータサイズは30μm×30μm(モデル1)がほぼ上限値である。モデル1(図6参照)に対して、ヒータサイズを20μm×20μmに減少したモデル2(図7参照)では、記録ヘッド14におけるインク液滴Dの体積及び速度はそれぞれ減少する。更に、モデル1に対して、ノズル16のサイズを10μm×10μmまで減少したモデル3(図8参照)では、ノズル16からインク液滴Dが噴射不能になってしまう。
【0047】
また、ノズル径NDが15μmとされたモデル1に対して、ノズル径NDを10μmに縮小したモデル4(図9参照)では、ヒータ26上に生成された気泡Bが大気に連通せず、インク液滴Dの体積及び速度もそれぞれ減少する。一方、モデル1に対して、ノズル径NDを20μmに拡大したモデル5(図10参照)では、インク液滴Dの形状のひずみが大きくなり、インクIの小滴が飛散するスプラッシュが発生し、画質を劣化させる原因となる。
【0048】
また、ノズル長さNHが15μmとされたモデル1に対して、ノズル長さNHを10μmに減少したモデル6(図11参照)では、インク液滴Dの速度は増加するが、スプラッシュが発生しやすくなる。これと逆に、ノズル長さNHを20μmに増加したモデル7(図12参照)では、気泡Bが大気に排出されなくなる。また個別流路長さCLについては、68μm(モデル1)に対して、モデル8(図13参照)のように48μmであっても、モデル9(図14参照)のように88μmであっても、気泡Bの大気との連通状態、インク液滴Dの体積、インク液滴の速度には大きな変化が生じない。
【0049】
以上説明した(表1)の結果からは、インク液滴Dの体積及び速度を確保しつつ、気泡Bを大気に排出し、インクスプラッシュを発生させないためには、ヒータサイズと個別流路22の所定部分の各寸法を、モデル1における各構造パラメータの寸法比等を基準として適宜、設定すれば良いことが推定される。
【0050】
そこで、モデル1のようにノズル径ND、ノズル長さNH、個別流路高さCHが互いに等しく、これらの値がそれぞれヒータ26の一辺の長さ(以下、「ヒータ長さ」という。)の1/2に設定された記録ヘッド14において、ヒータサイズを段階的に変化させつつ、シミュレーションを行った結果を下記(表2)に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
ヒータサイズが30μm×30μmのモデル1に対して、ヒータサイズを24μm×24μmに減少してモデル10、ヒータサイズを36μm×36μmに増加したモデル11、ヒータサイズを更に42μm×42μmに増加したモデル12では、それぞれインク液滴Dの噴射状態は良好であった。
【0053】
図16(A)及び(B)には、モデル1、モデル10、モデル11、モデル12の各記録ヘッド14におけるヒータサイズとインク液滴Dの体積及び速度との関係がそれぞれ示されている。この図16から明らかなように、所定の構造パラメータを有する記録ヘッド14では、ヒータサイズを変えることによりインク液滴Dの速度をほとんど変えることなく、インク液滴Dの体積を広い範囲で変えることができる。ここで、各記録ヘッド14におけるヒータ幅HWに対して、個別流路22を形成する隔壁部分の幅などを確保するためのマージンを12μmとすると、各記録ヘッド14にけるノズル16の配列方向(副走査方向)に沿った間隔(ノズルピッチ)は、下記(表3)に示したようになる。
【0054】
【表3】
【0055】
図2に示されるように、2列のノズル列が1/2ピッチずつずれて並んでいる場合には、ノズル列毎のノズル16のノズルピッチとして、(表3)に示される各ノズルピッチを採用すると、各記録ヘッド14における1インチ当たりのノズル数(ノズル密度)及び、記録画像の1インチ当たりの画素数(解像度)は、それぞれ(表3)に示されるようになる。
【0056】
図17には、(表3)に示された構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積との関係及び、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係をそれぞれ示している。ここでは、構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積との関係が“●”記号のプロット位置により示され、また画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係が“×”記号のプロット位置により示されている。
【0057】
図17から明らかなように、構造パラメータから決まる解像度とインク液滴Dの体積とは、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積と比較的近似したものになっており、ヒータサイズと個別流路22の寸法をさらに微調整することにより、更に画質からの要求値に十分に近似させることが可能である。但し、画質から要求される解像度とインク液滴Dの体積との関係の関係は、通常、使用するインクや記録紙Pの紙質によって多少変化する。
【0058】
ところで、図5に示されるように、ヒータ100上で発生した気泡Bが大気へ連通しない従来の記録ヘッドでは、駆動パルスの時間長及び通電数が固定の場合、ヘッド温度が環境温度やプリントパターンのパターン密度などによって随時変化することから、その影響を受けてヒータ100上に発生する気泡Bの最大体積が変化し、インク液滴Dの体積や速度が変化することが良く知られている。一般に、ヘッド温度が高くなるほど気泡Bの最大体積は大きくなり、インク液滴Dの体積と速度は大きくなる傾向を示す。
【0059】
一方、本実施形態の記録ヘッド14では、ヒータ26上に発生した気泡Bは最大体積になる前に大気と連通してしまうが、ヘッド温度が変化すると、前述のように調整したヒータサイズと個別流路22の各寸法とのバランスがくずれて、インク液滴Dの噴射状態が不安定になって、所要のインク液滴Dの体積及び速度が得られなくなるおそれがある。そこで、記録ヘッド14では、ヘッド温度に応じて駆動パルスの通電パターンを変えることにより、インク液滴Dの噴射状態を安定化している。ここで、ヘッド温度とは、基本的に記録ヘッド14におけるインクIと接触し、かつヒータに十分に近接した任意の部分であれば良いが、本実施形態では、インク液滴Dへの影響が特に大きいSi基板30の表面温度をヘッド温度とし、このヘッド温度を制御パラメータとして駆動パルスの通電パターンを変更する。
【0060】
具体的には、本実施形態の記録ヘッド14では、図18に示されるように、インク液滴Dを噴射する際に、1個又は複数個のプレパルス及び1個のメインパルスからなる駆動信号列をヒータ26に通電する。ここで、プレパルスの時間幅は0.1μsec、メインパルスの時間幅は1μsec、パルスオフからオンまでの通電間隔は0.5μsecで、それぞれ固定されている。またプレパルスの通電数(プレパルス数)は、適宜、0個〜10個の範囲で増減する。
【0061】
下記(表4)には、ヘッド温度とプレパルス数をパラメータとしたインク液滴Dの噴射状態の観察結果を示す。各ヘッド温度に対して、噴射状態が良好となるプレパルス数はシフトしていく。(表4)からは、プレパルス数が多すぎるとスプラッシュが多くなり、プレパルス数が少ないとインク液滴速度が遅くなり噴射が不安定または噴射不能となることが理解される。
【0062】
【表4】
【0063】
記録ヘッド14には、図2に示されるように、Si基板30表面にサーミスタなどの温度センサ38が設けられており、この温度センサ38はSi基板30の温度を検出して検出信号をヘッド駆動回路へ出力する。ヘッド駆動回路は、インク液滴Dを噴射する際に、温度センサ38による検出温度に応じたプレパルス数を選択し、Si基板30のロジック回路へ選択されたプレパルス数に対応する駆動制御信号を出力する。これにより、ロジック回路は、駆動制御信号に対応するビット信号によりドライバトランジスタを駆動することにより、ドライバトランジスタにより選択されたプレパルス数のプレパルスをヒータ26に通電した後、1個のメインパルスを通電する。
【0064】
以上説明したように本実施形態の記録ヘッド14では、インク液滴Dを噴射する際に、ヘッド温度に応じてヒータ26に通電するプレパルス数を増減することにより、ヘッド温度の変化に伴ってインク液滴Dの噴射状態が悪化することを防止できるので、ヘッド温度に関係なく常にインク液滴Dの噴射状態を良好に維持でき、かつインク液滴Dの噴射状態を良好に維持できるヘッド温度の対応範囲を十分に広くできる。
【0065】
また記録ヘッド14では、各プレパルスの時間幅を全て一定とし、かつプレパルス及びメインパルスの通電間隔も一定としたことにより、電気的な制御フローが簡単になり、ロジック回路、ドライブトランジスタ等の駆動回路の構成を単純化できる。またプレパルスの通電数は、記録ヘッド14の個体差等により生じるインク液滴Dの噴射特性のバラツキを補正するために用いても良い。
【0066】
図19には本実施形態に係る自己酸化被膜が形成されたTa−Si−O系薄膜抵抗体を発熱体とするヒータが示され、また図20には薄膜抵抗体上に金属保護層が形成された従来のヒータが示されている。
【0067】
先ず、本実施形態に係るヒータ26との比較のため従来の記録ヘッド(図5参照)におけるヒータ100の構造について説明する。図20(B)に示されるように、ヒータ100には、Si基板に形成された薄膜抵抗体108が設けられると共に、この薄膜抵抗体108上に電極114が形成されており、更に電極114上には電気絶縁層110を介して金属保護膜112が形成されている。薄膜抵抗体108は、例えばTaNなどを素材として厚さ1000Å程度に形成されている。電極114は、Alなどを素材として厚さ5000Å程度に形成されている。電気絶縁層110は、SiNやSiO2などを素材として厚さ2000Å程度に形成されている。また金属保護膜112は、例えばTaなどを素材として厚さ2000Å程度に形成されている。
【0068】
しかし、上記のようなヒータ100では、薄膜抵抗体108による発熱領域のうち電極114先端付近の領域(図20(A)で斜線が付された領域)LSからの熱エネルギの大部分が電気絶縁層110及び金属保護層112により吸収されてエネルギロスとなり、薄膜抵抗体108からインクIへの熱エネルギの伝達効率を著しく低下させている。
【0069】
一方、図19(A)及び(B)に示されるように、本実施形態に係るヒータ26では、Si基板30上に一対の電極42が形成されており、これらの電極42は、その先端部を互いに対向させるように配置されている。抵抗体40は、一対の電極42を覆うように厚さ1000Å程度で形成されており、一対の電極42の先端部間が発熱領域(図19(A)で斜線が付された領域)HT(となっている。また抵抗体40の表層部には、厚さ数10Åから数100Å程度の非常に薄い自己酸化被膜(図示省略)が形成されている。
【0070】
本実施形態に係るヒータ26によれば、図20に示された従来のヒータ100と比較し、インクIとの間に電気絶縁層及び保護層が介在せず、これらと比較して非常に薄く熱容量が小さい自己酸化被膜が介在するだけなので、抵抗体40からインクIへ熱エネルギを効率的に伝達できるようになり、プリンタ10へ適用されることで、画像記録時の消費電力の低減を容易に実現できる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、発熱体としてインクへのエネルギ伝達効率が良く腐食に強い自己酸化被膜を有するTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を用いると共に、キャビテーションによるTa−Si−O系薄膜抵抗体の寿命低下を防止できる。
【0072】
また本発明のインクジェット記録装置によれば、本発明のインクジェット記録ヘッドを用いたことにより、画像記録時における電力消費を効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを用いたインクジェットプリンタの概略を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示されるインクジェット記録ヘッドの平面図及び側面断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示された側面断面図である。
【図5】従来の記録ヘッドにおけるインク噴射時の気泡の発生から消滅までの状態が時系列的に示された側面断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル1における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル2における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル3における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル4における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル5における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル6における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル7における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル8における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図14】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル9における気泡及びインクメニスカスの状態変化が示された側面断面図である。
【図15】(表1)に示されたインク液滴体積、インク液滴速度等と各構造パラメータとの関係示されたグラフである。
【図16】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドのモデル1、モデル10、モデル11及びモデル12におけるヒータサイズとインク液滴の体積及び速度との関係が示されたグラフである。
【図17】(表3)に示された構造パラメータから決まる解像度とインク液滴の体積との関係及び画質から要求される解像度とインク液滴の体積との関係が示されたグラフである。
【図18】本発明の実施形態に係るヒータに通電されるプレパルス及びメインパルスの制御パターンが示されたタイミングチャートである。
【図19】本発明の実施形態に係るヒータの構造を示す平面図及び側面断面図である。
【図20】従来のヒータの構造を示す平面図及び側面断面図である。
【符号の説明】
10 インクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)
14 インクジェット記録ヘッド
16 ノズル
22 個別流路
26 ヒータ
30 Si基板(基板)
38 温度センサ
40 抵抗体(Ta−Si−O系薄膜抵抗体)
42 電極
Claims (11)
- インクを吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通し、インクが充填される複数本の個別流路と、前記個別流路の内面の一部を形成する基板と、前記個別流路における前記ノズル付近に配置されように前記基板上に設けられると共に、少なくともインクとの接触面に自己酸化被膜が形成されたTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体と、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電して該Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを前記ノズルから吐出させるための熱エネルギを発生させる駆動手段とを有し、
前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体からの熱エネルギによりインク中に発生した気泡の膨張によって前記個別流路における前記ノズル付近に充填されたインクを前記ノズルからインク液滴として吐出すると共に、前記ノズルを通して前記個別流路中に生成された気泡を大気に連通することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。 - 前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に1個又は複数個の駆動パルスからなる駆動信号列を通電することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記駆動手段は、気泡を発生させない程度の熱エネルギでインクを前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により予備加熱するためのプレパルス及び、前記予備加熱されたインクに気泡が発生するように前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体によりインクを加熱するためのメインパルスからなる前記駆動信号列として前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電すると共に、前記基板の温度に応じて前記プレパルスの通電数を増減することを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記駆動手段は、前記個別流路内のインクをインク液滴として前記ノズルから吐出させる際に、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電する前記プレパルスの時間幅を一定にすると共に、前記駆動信号列を構成する前記プレパルス及び前記メインパルスの通電間隔を一定にすることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体に通電するための電極を前記基板上に設けると共に、該電極を前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により覆ったことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面の形状を略正方形としたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記ノズルの直径及び該ノズルの入口から出口までのノズル長、並びに前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体のインク接触面から前記ノズルの入口までの距離を、前記インク接触面の一辺の長さの約1/2と略等しくしたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記インク接触面の面積を、500μm2から1800μm2の範囲内から選択された値とすることを特徴とする請求項7記載のインクジェット記録ヘッド。
- 前記ノズルから吐出されるインク液滴の体積が2plから16plの範囲内となるように、前記Ta−Si−O三元合金薄膜抵抗体により前記個別流路内のインクを加熱することを特徴とする請求項7又は8記載のインクジェット記録ヘッド。
- 記録媒体に対する記録時のインクジェット記録ヘッドの移動方向であるヘッド移動方向に直交する配列方向に沿って複数の前記ノズルを配列すると共に、前記配列方向に沿った複数のノズル間のピッチを、800dpiから1600dpiの解像度に対応する長さとしたことを特徴とする請求項8又は9記載のインクジェット記録ヘッド。
- 請求項1乃至請求項10の何れか1項記載のインクジェット記録ヘッドと、
前記インクジェット記録ヘッドをヘッド移動方向に沿って駆動するヘッド駆動手段と、
記録媒体を前記インクジェット記録ヘッドに対して前記配列方向に沿って相対的に移動させる送り手段と、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
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