JP2004266924A - 電力小売事業者の最適調達計画作成方法と装置、そのためのプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することを可能にする。
【解決手段】最適調達計画作成装置1の最適調達計画作成部10は、線形近似手段101と調達量算出手段102を備えている。線形近似手段101は、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する。調達量算出手段102は、記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関するデータと、線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、ラグランジュ緩和法等を用いて各調達先からの調達量を算出する。
【選択図】 図2
【解決手段】最適調達計画作成装置1の最適調達計画作成部10は、線形近似手段101と調達量算出手段102を備えている。線形近似手段101は、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する。調達量算出手段102は、記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関するデータと、線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、ラグランジュ緩和法等を用いて各調達先からの調達量を算出する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達して需要家の負荷に対して供給する場合に、各調達先からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適調達計画作成方法と装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の電力市場自由化に伴い、電力小売事業者は、電力の調達先として、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、また、卸購入電力の公開取引の場であるスポット市場、等の性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合が多くなっている。複数の調達先からの調達量を経済的に最適となるように決定するためには、各調達先から電力を調達するために必要な調達コストを、それぞれ正確に算出することが不可欠であるが、この場合、調達先に応じて、電力を調達するための調達方法や調達コストの性質は異なってくる。この点について以下に説明する。
【0003】
まず、電力小売事業者自身の所有する発電機を調達先とした場合、電力の調達方法は発電であるため、電力の調達コストは燃料費等の発電コストであり、発電出力の単調増加な凸関数で与えられる。また、相対取引やスポット市場等を調達先とした場合、電力の調達方法は購入であるため、電力の調達コストは電力購入コストである。
【0004】
ここで、スポット市場における電力購入コストは、市場に共通の単位価格により一次関数で与えられる。これに対して、相対取引における電力購入コストは、個々の相対契約内容に応じてそれぞれ個別の関数で与えられるものであり、単調増加な凸関数で与えられる場合もあるが、単調増加な凹関数で与えられる場合もあり、さらに、凸関数と凹関数の両方を含む複数の関数で与えられる場合もある。
【0005】
そして、このように調達コストの性質の異なる複数の調達先、すなわち、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適化問題を考えた場合、目的関数は、各調達先からの調達量に応じた調達コストの合計となる。また、この最適化問題の制約条件は、調達量の合計と需要量とを一致させる需給バランス制約、各調達量の最大・最小制約、発電機の起動停止に関する運転パターン制約等となる。
【0006】
このような最適化問題を解く場合には、例えば、発電コストの最小化を目的関数とした発電機の起動停止計画問題の解法(例えば、非特許文献1参照)を適用することが考えられる。この解法は、最小化すべきコストを2次関数等の凸関数で近似し、ラグランジュ緩和法を適用するものであり、コストが凸関数で与えられる限り、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮した、最適な発電出力を算出することができる。
【0007】
しかし、前述したような最適化問題、すなわち、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適化問題に関しては、前述したように、相対取引の調達コストは凹関数で与えられる場合があり、この場合に同じ解法を用いても、調達コストが最小となるような調達量を求めることはできない。
【0008】
また、運用当日のオンライン制御等により経済的に調達量を決定する際に、最小化すべきコストが区分線形で且つ単調増加な凹関数で与えられる場合には、特許文献1に記載されているような経済負荷配分方法を適用することができる。しかし、この特許文献1の提案は、ある時刻における瞬間的なコスト最小化を目的としており、発電機の起動停止に関する運転パターン制約がある場合には不適合である。
【0009】
【特許文献1】
特願2001−394328
【非特許文献1】
電気学会 電力・エネルギー部門電力系統技術委員会 新しい電力システム計画手法調査専門委員会、「新しい電力システム計画手法」、電気学会技術報告 第647号、1997年8月8日、p.45
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、電力小売事業者が自ら所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等の性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合に、従来の手法では経済的に最適となる調達量を求めることができなかった。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することの可能な、最適調達計画作成方法と装置を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような目的を達成するために、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることにより、ラグランジュ緩和法等を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出できるようにしたものである。
【0013】
なお、本発明において、重要な用語の定義は次の通りである。
「電力小売事業者」は、需要家の負荷に対して電力の供給、販売を行う事業者を意味する用語であるが、自ら所有する発電機により発電事業を行う事業者に限らず、自らは発電事業を行わない事業者も含む広い概念である。また、電力小売事業を業とする限り、他の電力小売事業者に対する電力卸売事業を兼業する事業者等も含む広い概念である。
【0014】
「調達先」は、電力小売事業者が電力を調達するための各種の調達先を意味する用語であり、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場または常時バックアップ契約、等を含む広い概念である。
「調達コスト」は、調達先から電力を調達するために必要なコストを意味する用語である。
【0015】
「相対取引」は、電力小売事業者とその電力小売事業者に対して電力を供給、販売する別の事業者との間における相対取引を意味する用語である。
「市場」は、電力卸売市場を意味する用語であるが、市場で決定される単位価格で電力を不特定の電力小売事業者に販売するスポット市場等の一般的に市場と呼ばれるものに限らず、常時バックアップ契約等のように調達コストが共通の単位価格により一次関数で与えられる全ての取引を含む広い概念である。
【0016】
請求項1の発明は、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、線形近似ステップと調達量算出ステップを含むことを特徴としている。ここで、線形近似ステップは、調達先の調達コストに関する調達先データに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の調達先がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似するステップである。また、調達量算出ステップは、調達先データと需要家の負荷に関する需要データに基づき、特定の調達先については近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、かつ、それ以外の調達先については各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用して、単数または複数の調達先からの調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出するステップである。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1の発明を装置の観点から把握したものであり、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成装置において、請求項1の発明における各ステップに対応する各機能を有する線形近似手段と調達量算出手段を備えたことを特徴としている。
【0018】
請求項9の発明は、請求項1、請求項8の発明をコンピュータプログラムの観点から把握したものであり、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成用プログラムにおいて、請求項1の発明における各ステップに対応する線形近似機能と調達量算出機能をコンピュータに実現させることを特徴としている。
【0019】
以上のような発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、その単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることができるため、ラグランジュ緩和法等を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出することができる。したがって、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することができる。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、次のようにして調達先からの調達量を決定するステップを含むことを特徴としている。すなわち、このステップにおいては、各調達先からの調達量を算出する際に、当該調達先からの調達コストが1次関数または近似により得られた1次関数で与えられる場合において、その調達コストの増分単価(λ)と1次係数(a)とが同じになった場合に、予め与えられた需要家の負荷の合計と単数または複数の調達先からの調達量の合計が同じになるように、当該調達先からの調達量を決定する。
【0021】
この発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、かつ、計算過程中においては増分単価(λ)の値に応じて当該調達先からの調達量を容易に求めることができるため、ラグランジュ緩和法においてラグランジュ定数の更新を行う際における発電機の起動停止状態の振動を減少させ、その結果、収束回数を減少させ、計算時間を短縮できる。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、調達コストが減少しなくなるまで逐次計算を繰り返すステップを含むことを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、ラグランジュ緩和法により調達量を算出する際に、計算過程中の現在の調達量に対して調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行うことによって、調達コストの最小化をより厳密に行うことができる。
【0024】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、運転パターン制約を考慮する必要がない場合に各調達時刻における前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含むことを特徴としている。ここで、「運転パターン制約を考慮する必要がない場合」は、単数または複数の調達先が電力小売事業者自身の所有する発電機を含む場合であって、その発電機が調達期間内の全ての時間帯で起動停止に関して同じ状態を維持する場合、および、単数または複数の調達先が電力小売事業者自身の所有する発電機を含まない場合、のいずれかの場合である。
【0025】
この発明によれば、電力小売事業者自身の所有する発電機の運転パターンや所有する発電機の有無に応じて、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮する必要がない場合には経済負荷配分計算のみを行うことで調達コストの最小化を行うことができるため、計算時間を短縮できる。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、単数または複数の調達先の中に、調達期間内に予め決められた調達量を調達しなければならない調達先がある場合に、その調達先から予め決められた以上の調達量を調達し、かつ、調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0027】
この発明によれば、相対取引から購入する電力量に対して予め決められた電力量を購入しなければならない場合等、調達先からの調達量の制約がある場合に、調達量制約を考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0028】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、単数または複数の調達先からの調達量に対して、負荷追従のために出力調整余力を持たせる必要がある場合に、その出力調整余力を確保し、かつ、調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0029】
この発明によれば、需要予測の誤差や急激な需要変動に対応しなければならない等、負荷追従のために出力調整余力制約がある場合に、出力調整余力を確保した最適な調達量を決定することができる。
【0030】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、予め与えられた需要家の負荷の中に調整可能な負荷がある場合に、その負荷調整後の調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0031】
以上のような発明によれば、需要家の負荷調整が可能な場合に、負荷調整によるペナルティコストを考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下には、本発明を適用した最適調達計画作成装置の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0033】
[1.基本的な実施形態]
[1−1.基本的な構成]
図1は、本実施形態の最適調達計画作成装置が対象とする電力小売事業者による電力の調達、供給を示す概念図である。本実施形態の最適調達計画作成装置は、電力小売事業者が各時間帯に需要家である顧客に供給・販売すべき電力に対して、電力小売事業者自身の所有する自前発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等の種々の調達先から調達コストが最小となるような調達量の組み合わせを求めるものである。
【0034】
この場合、各調達先については、相対取引やスポット市場から各時間帯にどれだけの電力を購入すべきか、また、電力小売事業者自身の所有する自前発電機においては各時間帯にどれだけの電力を出力すべきか、等を決定することになる。その際、自前発電機においては、各時間帯の起動停止も考えた上での最適な調達量を決定することになる。
【0035】
図2は、本実施形態の最適調達計画作成装置を示すブロック構成図であり、最適調達計画作成装置1は、伝送ライン2を通じて需要予測システム3と通信するようになっている。ここで、需要予測システム3は、予め与えられた1つまたは複数の需要家について、各時間帯毎の需要家の全負荷を予測するシステムであり、この需要予測システム3で予測された需要データ21が、伝送ライン2を通じて最適調達計画作成装置1に送信されるようになっている。
【0036】
最適調達計画作成装置1は、需要予測システム3から送信された需要データ21を受信する伝送装置4と、オペレータにより必要な指示情報を入力したり、オペレータに対して処理途中や処理結果を表示したりするためのマンマシン・インタフェース装置(MMI)5を備えている。
【0037】
最適調達計画作成装置1本体は、最適調達計画作成部10、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13、需要データ記憶手段14、出力データ記憶手段15、需要データ修正手段16、等から構成されている。以下には、この最適調達計画作成装置1の各部について説明する。
【0038】
自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13は、各調達先の調達コストに関する調達先データを保存する手段であり、需要データ記憶手段14は、需要予測システム3から受信した需要データ21を保存する手段である。
【0039】
このうち、自前発電機データ記憶手段11は、電力小売事業者が所有する自前発電機の燃料費特性、起動費特性、最大出力、最小出力、運転パターン(最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン)、その他必要なデータを保存している。また、相対取引データ記憶手段12は、相対取引による電力取引価格特性、最大購入量、最小購入量、その他必要なデータを保存している。さらに、スポット市場データ記憶手段13は、スポット市場による予想価格特性、最大購入量、最小購入量、その他必要なデータを保存している。
【0040】
最適調達計画作成部10は、最適調達計画作成装置1のメインとなる部分であり、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13に保存された各調達先の調達コストに関する調達先データと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、調達コストが最小となるように調達量を決定するようになっている。この最適調達計画作成部10は、線形近似手段101と調達量算出手段102を備えている。
【0041】
線形近似手段101は、相対取引データ記憶手段12に保存された相対取引の調達コストに関するデータに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する手段である。
【0042】
調達量算出手段102は、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13に保存された各調達先の調達コストに関するデータと、線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、各調達先からの調達量を算出する手段である。
【0043】
この場合、調達量算出手段102は、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引については線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、それ以外の調達先については、各記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関するデータに基づき、各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用する。
【0044】
一方、出力データ記憶手段15は、最適調達計画作成部10の出力結果データ22を保存する手段である。また、需要データ修正手段16は、出力データ記憶手段15に保存されている出力結果データ22を基に、需要データ21を修正する手段である。
【0045】
なお、図3は、図2に示す最適調達計画作成装置1を実現するためのコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。このコンピュータシステムにおいて、301は、CPU302、主メモリ303、メモリ304、等を備えた計算機であり、この計算機301の主メモリ303上に記録された処理プログラムにより、計算機301を、図2に示すような最適調達計画作成装置1として動作させるようになっている。すなわち、処理プログラムにより、CPU302と主メモリ303を、最適調達計画作成部10、需要データ修正手段16として動作させると共に、メモリ304を、記憶手段11〜15として動作させる。
【0046】
また、計算機301には、記録媒体305にプログラムを記録する記録媒体書込み装置306が、汎用のSICI等のケーブル307等で接続されており、主メモリ303に記録された処理プログラムを記録媒体書込み装置306により任意に記録媒体305に記録できるようになっている。これにより、記録媒体305あるいは記録媒体305から書込まれた別の記録媒体を用いて、別の計算機でも同じ処理プログラムを実行できるようになっている。
【0047】
[1−2.最適化問題]
以上のような最適調達計画作成装置1において、その最適調達計画作成部10にて解かれる最適化問題の目的関数は、次の(1)式に示すように、各調達先からの調達量に応じた調達コストの合計となる。
【0048】
【数1】
【0049】
また、この最適化問題の目的関数に対する制約条件は、以下に示すように、調達量の合計と需要量とを一致させる需給バランス制約、各調達量の最大・最小制約、発電機の起動停止に関する運転パターン制約等となる。
【0050】
【数2】
【0051】
以上のように表現される最適化問題において、Pi g(t),Pj b (t),Pm (t),は決定すべき調達量である。また、この調達量を決定するために用いられる各データのうち、D(t)は、需要予測システム3から受信する需要データ21であり、他のデータは、各記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関する調達先データである。
【0052】
すなわち、自前発電機iの燃料費特性、起動費特性、最大・最小出力、運転パターン(最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン)は、自前発電機データ記憶手段11に、相対取引jの取引価格特性、最大・最小購入量は、相対取引データ記録手段12に、スポット市場の予想価格特性、最大・最小購入量は、スポット市場データ記録手段13に、それぞれ保存されている。
【0053】
[1−3.全体の動作]
図4は、以上のような構成を有する本実施形態の最適調達計画作成装置1における動作の概略を示すフローチャートである。
【0054】
この図4に示すように、需要予測システム3から送信された需要データ21を伝送装置4により受信する毎(S401のYES)に、需要データ記憶手段14は、受信した需要データ21を保存する(S402)。また、最適調達計画作成部10は、最適な調達量を決定するために予め設定された所定の時刻または所定の周期毎(S403のYES)に、記憶手段11〜14に保存されたデータに基づき、線形近似手段101による線形近似処理(S404)と調達量算出手段102による調達量算出処理(S405)を順次行い、調達コストが最小となるように調達量を決定する。なお、このような最適調達計画作成部10による処理内容は、MMI5によりオペレータに対して処理途中で適宜表示される。
【0055】
そして、最適調達計画作成部10により各調達先からの最適な調達量が決定されると、その結果は、MMI5によりオペレータに対して表示されると共に、出力結果データ22として出力データ記憶手段15により保存される(S406)。なお、最適調達計画作成部10により、需要家の負荷調整後の調達コスト合計が最小となるようにして調達量が決定された場合等、需要データの修正が必要な場合(S407のYES)には、出力データ記憶手段15は、出力結果データ22を需要データ修正手段16に渡し、需要データ修正手段16は、需要データ記憶手段14から需要データを読み出して必要な修正を加え、再び需要データ記憶手段14に保存する(S408)。
【0056】
[1−4.線形近似処理]
図5は、図4に示す動作のうち、最適調達計画作成部10の線形近似手段101による線形近似処理(S404)のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0057】
図5に示すように、線形近似処理において、線形近似手段101は、相対取引データ記憶手段12に保存された相対取引の調達コストに関するデータに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引があるか否かを判断する(S501)。単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引がない場合(S501のNO)には、線形近似処理を終了して図4に示す調達量算出処理(S405)に進む。また、単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引がある場合(S501のYES)には、さらに、相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられるか否かを判断する(S502)。
【0058】
相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられる場合(S502のYES)には、相対取引の調達コストを全て1次関数で近似する(S503)。また、相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられない場合、すなわち、単調増加な凸関数と単調増加な凹関数で与えられた場合(S502のNO)には、その単調増加な凹関数のみに対して調達コストを1次関数で近似する(S504)。そして、調達コストを近似した後は、線形近似処理を終了して図4に示す調達量算出処理(S405)に進む。
【0059】
図6は、単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数に近似するための具体的な手法を示す説明図である。この図6に示すように、特定の相対取引の調達コストが単調増加な凹関数(例えば、上に凸な2次関数)で与えられる場合には、その相対取引における最小購入量での調達コスト(Xmin,Ymin)と、最大購入量での調達コスト(Xmax,Ymax)の2点を通るように線形近似することにより、調達コストを1次関数で近似することができる。なお、図6の601は、近似前の連続的でかつ単調増加な凹関数であり、602は近似後の1次関数である。
【0060】
図6においては、調達コストが連続的でかつ単調増加な凹関数で与えられる場合について示したが、調達コストが区分線形でかつ単調増加な凹関数で与えられる場合についても、同様に、最小・最大購入量での調達コストの2点を通るように線形近似することにより、調達コストを1次関数で近似することができる。
【0061】
以上のような線形近似処理により、全ての調達コストが単調増加な凸関数で表されることになるため、続く調達量算出処理では、ラグランジュ緩和法等の既存の手法を適応することで、調達コストが最小となる調達量を決定することができる。
【0062】
[1−5.調達量算出処理]
図7は、最適調達計画作成部10の調達量算出手段102による調達量算出処理(S405)のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。この図7に示す調達量算出処理は、既存の手法として、特にラグランジュ緩和法を適用した場合の一例を示している。
【0063】
図7に示すように、調達量算出処理において、調達量算出手段102はまず、ラグランジュ定数と各調達量の初期値を設定する(S701)。次に、動的計画(DP)法を用いて、各調達先毎に調達コストを最小にする調達状態(起動停止状態)、を求める(S702)。この場合、自前発電機においては、最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン等の運転パターン制約も考慮する。次に、各調達先毎に、調達コストを最小にする調達状態の調達量を求める(S703)。この場合、各調達先毎の最大・最小(最大・最小購入量)制約を考慮する。
【0064】
各調達先毎に得られた調達量について、需給バランス制約のチェックを行ない(S704)、制約を満足している場合(S704のYES)には、調達量算出処理を終了して図4に示す結果出力・保存処理(S406)に進む。また、需給バランス制約を満足していない(S704のNO)には、各制約に応じてラグランジュ定数を更新した(S705)後、S702に戻る。
【0065】
[1−6.基本的な作用効果]
上記のように、本実施形態によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、その単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることができるため、ラグランジュ緩和法等の既存の手法を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出することができる。したがって、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することができる。
【0066】
なお、図8は、本実施形態の最適調達計画作成装置1により得られる各調達先からの調達量の一例を示すタイムチャートである。この図8に示す例の場合、自前発電機においては、最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン、等の運転パターン制約、すなわち、時間的な制約があるため、その調達コストを最小にする調達量を求めるためには、ラグランジュ緩和法等を採用することになる。これに対し、相対取引やスポット市場においては、運転パターン制約のような時間的な制約がないため、その調達コストを最小にする調達量を求めるためにはラムダ反復法や増分法等を採用することができる。本実施形態は、このように、時間的な制約の異なる複数の調達先に対して、線形近似とラグランジュ緩和法を採用することにより、各調達先毎に異なる制約をそれぞれ考慮した最適な調達量を決定することができるものである。
【0067】
[2.調達量算出処理の変形例]
[2−1.増分単価に応じた調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際には、図7に示すように、ラグランジュ定数を更新しながら制約を満足するまで繰り返し計算を行うことになる。この場合に、調達コストを1次関数で近似したものや、調達コストが卸購入電力の単位価格(1次関数)で与えられるものをそのまま適用すると、繰り返しによる収束計算を行う際に、自前発電機の起動停止状態が振動する可能性がある。
【0068】
このような起動停止状態の振動を抑制するために、調達量を算出するための計算過程においては、以下のようにして、増分単価(λ)の値によって調達量を求める。すなわち、調達コストが(6)式に示すような1次関数で与えられる調達先の増分単価(λ)は、(7)式に示すように定数(1次係数)となり、調達量と増分単価の関係は図9のようになる。
【0069】
【数3】
【0070】
図9から、λ>aでは、調達量は最大購入量(Pmax)、λ<aでは、調達量は最小購入量(Pmin)となる。また、λ=aとなった場合は、調達量が幾らでも増分単価(λ)は一定となるので、需給バランスが取れるように需要データから他の調達量を差し引いた値を、その調達先の調達量に設定する。
【0071】
この調達量算出処理によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、かつ、計算過程中においては増分単価(λ)の値に応じて当該調達先からの調達量を容易に求めることができる。そのため、ラグランジュ緩和法においてラグランジュ定数の更新を行う際における発電機の起動停止状態の振動を減少させ、その結果、収束回数を減少させ、計算時間を短縮できる。
【0072】
[2−2.増分単価を用いた繰り返し計算による調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際に、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられた場合には、調達コストを1次関数に近似することで、ラグランジュ緩和法を適用できる。しかし、調達コストとして1次関数に近似したものを単純に使用した場合には、実際の調達コスト(近似する前の原関数)とは誤差が生じ、厳密なコスト最小化を行うことはできない。
【0073】
そこで、より厳密なコスト最小化を行うために、調達量算出処理におけるS703(図7)で各調達先からの調達量を決定する際に、現在の調達量(計算過程中の調達量)に対して、調達量を上げる方向での増分単価(上げ増分単価)または調達量を下げる方向での増分単価(下げ増分単価)を用いて、調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行う。
【0074】
調達量算出処理において各調達先からの調達量を決定する際(図7のS703)に、このような増分単価を用いた繰り返し計算を行うことにより、ある時刻での瞬間的な調達コストの最小化を行うことができ、かつ、ラグランジュ定数を更新しながら、各調達先の状態決定、調達量決定、需給バランスチェックを繰り返す(図7のS702〜S705)ことにより、調達時間帯全てに亘って調達コストの最小化を行うことができる。
【0075】
この調達量算出処理によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、ラグランジュ緩和法により調達量を算出する際に、計算過程中の現在の調達量に対して調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行うことによって、調達コストの最小化をより厳密に行うことができる。
【0076】
[2−3.運転パターン制約を考慮する必要がない場合の調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際には、ラグランジュ緩和法を適用することで、自前発電機の運転パターンを考慮することができるが、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合もありうる。
【0077】
すなわち、本実施形態の最適調達計画作成装置1によれば、自前発電機、相対取引、スポット市場、という3種類の調達先がある場合に最適調達計画を求めることができるが、本実施形態は、何れか1種類または2種類の調達先がある場合、例えば、電力小売事業者が自前発電機を1機も所有してない場合にも同様に最適調達計画を求めることができる。
【0078】
このように、電力小売事業者が自前発電機を1台も所有してない場合には、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない。また、電力小売事業者が自前発電機を所有している場合であっても、自前発電機が調達期間内の全ての時間帯において起動している場合、若しくは停止している場合には、同様に、運転パターン制約を考慮する必要がないため、各調達時刻毎に調達コストの最小化を行なえばよいということになる。このような場合には、ラグランジュ緩和法による最適化ではなく、ラムダ反復法や増分法等の既存の経済負荷配分計算を適応することで、調達コストを最小化でき、計算時間を短縮できる。
【0079】
図10は、このような、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図10に示すように、自前発電機が調達期間内の全ての時間帯において同じ状態を維持する場合、もしくは、自前発電機が1台もない場合(S1001のYES)には、経済負荷配分により最適な調達量を計算し(S1002)、そうでない場合(S1001のNO)は、ラグランジュ緩和法により最適な調達量を計算する(S1003)。この場合、S1003の「最適調達量計算処理」は、図7に示すS701〜S705の処理に相当する。
【0080】
この調達量算出処理によれば、電力小売事業者自身の所有する発電機の運転パターンや所有する発電機の有無に応じて、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮する必要がない場合には経済負荷配分計算のみを行うことで調達コストの最小化を行うことができるため、計算時間を短縮できる。
【0081】
なお、これ以降の説明において、用語「調達量算出処理」は、各調達先からの調達量を算出するための全体の処理を示すために使用し、用語「最適調達量計算処理」は、その「調達量算出処理」中に含まれる基本的な計算処理、すなわち、図7のS701〜S705に示すようなラグランジュ緩和法による基本的な計算処理を示すために使用する。
【0082】
[2−4.調達量制約を考慮した調達量算出処理]
相対取引においては、購入する電力量に対して予め決められた電力量を調達(購入)することを契約内容に含める場合もある。図11は、このような調達量制約を考慮した場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図11に示すように、まず、調達量制約を設定せずに最適調達量計算処理を行った(S1101)後、得られた相対取引からの調達量(購入量)と、実際に購入しなければならない電力量(制約量)とを比較する(S1102)。
【0083】
この場合に、得られた調達量の方が大きい場合(S1102のYES)には、調達量制約を満たしているため、調達量算出処理をそのまま終了する。また、調達量よりも制約量の方が大きい場合(S1102のNO)には、実際に購入しなければならない電力量を制約量として設定した(S1103)上で、再度、最適調達量計算処理を行う(S1104)。この場合、前述した最適化問題の目的関数に対する制約条件に以下の(8),(9)式を追加する。
【0084】
【数4】
【0085】
この調達量算出処理によれば、調達先からの調達量の制約がある場合に、調達量制約を考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0086】
[2−5.出力調整余力制約を考慮した調達量算出処理]
前述したように、本実施の最適調達計画作成部10においては、予測された需要データを基に、各調達先からの調達量を決定するが、当日のオンラインでは、需要データの予測誤差や、急激な需要変動が起きる可能性があることから、予備力を確保する必要がある。例えば、需要変動が大きく変わるような時間帯(朝の負荷立ち上がり)については、大きく予備力を持たせる。逆に、負荷変動が比較的小さい時間帯(深夜帯)については、小さい予備力を持たせることで、出力調整可能な調達先を確保する。
【0087】
具体的には、最適調達計画作成部10による調達量算出処理を行う際に、前述した最適化問題の目的関数に対する制約条件に以下の(10),(11)式を追加する。
【0088】
【数5】
【0089】
この調達量算出処理によれば、需要予測の誤差や急激な需要変動に対応しなければならない等、負荷追従のために出力調整余力制約がある場合に、出力調整余力を確保した最適な調達量を決定することができる。
【0090】
[2−6.需要家の負荷調整を考慮した調達量算出処理]
前述したように、本実施の最適調達計画作成部10においては、需要予測システム3で予測された需要データ21、すなわち、予め与えられた1つまたは複数の需要家の全負荷を需要データとして、需給バランス制約を満足するように、各調達先からの調達量を決定する。この場合、それぞれの需要家に対して、負荷調整が可能(契約電力に対して負荷を幾らかカットし、調達対象から外すことが可能)な契約を結んでいる場合には、その負荷調整を考慮した調達量算出処理を行うことができる。
【0091】
電力小売事業者は、調達対象から外す負荷を何らかの手段により設定した場合には、その対象となる負荷の需要家に対してペナルティを支払うこととなる。この場合のペナルティは、調達対象から外す負荷に対して、例えば、単位コスト[円/kW]でコスト換算できるため、そのコスト換算したものを負荷調整コストとして調達量を算出することができる。
【0092】
図12は、このような負荷調整コストを考慮した場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図12に示すように、まず、負荷調整をせずに、最適調達量計算処理を行った(S1201)後、負荷調整可能な需要家に対して、需要データの負荷を調整する(S1202)。この場合、カットする負荷に対するコスト換算は、例えば、図13に示すように、カットする負荷によって価格が変動するような単位コストであってもよい。次に、このように負荷調整した需要データを用いて最適調達量計算処理を行い、調達コストに負荷調整コストを加算して得られた値を負荷調整後の調達コストとする(S1203)。
【0093】
続いて、今回の負荷調整後の調達コストを負荷調整前の前回の調達コストと比較する(S1204)。前回の調達コストの方が安い場合(S1204のYES)には、その前回の最適調達量計算処理で得られた調達量に決定して(S1205)、調達量算出処理を終了する。また、今回の負荷調整後の調整コストが前回より安い場合(S1204のNO)には、S1202に戻り、調整コストが安くなる限り、S1202〜S1205の処理を繰り返す。なお、このS1204における調整コスト比較による終了判定は、人間系による判断も可能とし、終了判定が満足されていない場合でも、処理の終了は可能とする。
【0094】
この調達量算出処理によれば、需要家の負荷調整が可能な場合に、負荷調整によるペナルティコストを考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0095】
[3.他の実施形態]
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。例えば、前述した変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0096】
また、前記実施形態においては、調達先が、自前発電機、相対取引、スポット市場、である場合について説明したが、本発明の調達先はこれに限定されるものではない。例えば、スポット市場が開設されておらず、電力会社による常時バックアップ契約が存在する場合には、前述した(1)式に示す目的関数におけるスポット市場の予想価格特性を常時バックアップ契約の契約価格特性で置き換えれば、同様に定式化可能である。
【0097】
さらに、前記実施形態で示した最適調達計画作成装置の構成や処理手順は、一例にすぎず、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出する限り、具体的な装置構成や処理手順は自由に変更可能である。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出することにより、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することの可能な、最適調達計画作成方法と装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した実施形態の最適調達計画作成装置が対象とする電力小売事業者による電力の調達、供給を示す概念図。
【図2】本発明を適用した実施形態の最適調達計画作成装置を示すブロック構成図。
【図3】図2に示す最適調達計画作成装置を実現するためのコンピュータシステムの一例を示すブロック図。
【図4】図2に示す最適調達計画作成装置における動作の概略を示すフローチャート。
【図5】図4に示す線形近似処理のサブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図6】図5に示す線形近似処理において、単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数に近似するための具体的な手法を示す説明図。
【図7】図4に示す調達量算出処理のサブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図8】図2に示す最適調達計画作成装置により得られる各調達先からの調達量の一例を示すタイムチャート。
【図9】調達コストが1次関数で与えられる調達先の増分単価と調達量の関係を示すグラフ。
【図10】図4に示す調達量算出処理の変形例として、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合の一例を示すフローチャート。
【図11】図4に示す調達量算出処理の変形例として、調達量制約を考慮した場合の一例を示すフローチャート。
【図12】図4に示す調達量算出処理の変形例として、負荷調整コストを考慮した場合の一例を示すフローチャート。
【図13】需要家の負荷調整を考慮した場合における、カットする負荷量と負荷調整コストとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1…最適調達計画作成装置
2…伝送ライン
3…需要予測システム
4…伝送装置
5…マンマシン・インタフェース装置(MMI)
10…最適調達計画作成部
11…自前発電機データ記憶手段
12…相対取引データ記憶手段
13…スポット市場データ記憶手段
14…需要データ記憶手段
15…出力データ記憶手段
16…需要データ修正手段
21…需要データ
22…出力結果データ
101…線形近似手段
102…調達量算出手段
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達して需要家の負荷に対して供給する場合に、各調達先からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適調達計画作成方法と装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の電力市場自由化に伴い、電力小売事業者は、電力の調達先として、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、また、卸購入電力の公開取引の場であるスポット市場、等の性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合が多くなっている。複数の調達先からの調達量を経済的に最適となるように決定するためには、各調達先から電力を調達するために必要な調達コストを、それぞれ正確に算出することが不可欠であるが、この場合、調達先に応じて、電力を調達するための調達方法や調達コストの性質は異なってくる。この点について以下に説明する。
【0003】
まず、電力小売事業者自身の所有する発電機を調達先とした場合、電力の調達方法は発電であるため、電力の調達コストは燃料費等の発電コストであり、発電出力の単調増加な凸関数で与えられる。また、相対取引やスポット市場等を調達先とした場合、電力の調達方法は購入であるため、電力の調達コストは電力購入コストである。
【0004】
ここで、スポット市場における電力購入コストは、市場に共通の単位価格により一次関数で与えられる。これに対して、相対取引における電力購入コストは、個々の相対契約内容に応じてそれぞれ個別の関数で与えられるものであり、単調増加な凸関数で与えられる場合もあるが、単調増加な凹関数で与えられる場合もあり、さらに、凸関数と凹関数の両方を含む複数の関数で与えられる場合もある。
【0005】
そして、このように調達コストの性質の異なる複数の調達先、すなわち、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適化問題を考えた場合、目的関数は、各調達先からの調達量に応じた調達コストの合計となる。また、この最適化問題の制約条件は、調達量の合計と需要量とを一致させる需給バランス制約、各調達量の最大・最小制約、発電機の起動停止に関する運転パターン制約等となる。
【0006】
このような最適化問題を解く場合には、例えば、発電コストの最小化を目的関数とした発電機の起動停止計画問題の解法(例えば、非特許文献1参照)を適用することが考えられる。この解法は、最小化すべきコストを2次関数等の凸関数で近似し、ラグランジュ緩和法を適用するものであり、コストが凸関数で与えられる限り、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮した、最適な発電出力を算出することができる。
【0007】
しかし、前述したような最適化問題、すなわち、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等からの調達量を経済的に最適となるように決定するための最適化問題に関しては、前述したように、相対取引の調達コストは凹関数で与えられる場合があり、この場合に同じ解法を用いても、調達コストが最小となるような調達量を求めることはできない。
【0008】
また、運用当日のオンライン制御等により経済的に調達量を決定する際に、最小化すべきコストが区分線形で且つ単調増加な凹関数で与えられる場合には、特許文献1に記載されているような経済負荷配分方法を適用することができる。しかし、この特許文献1の提案は、ある時刻における瞬間的なコスト最小化を目的としており、発電機の起動停止に関する運転パターン制約がある場合には不適合である。
【0009】
【特許文献1】
特願2001−394328
【非特許文献1】
電気学会 電力・エネルギー部門電力系統技術委員会 新しい電力システム計画手法調査専門委員会、「新しい電力システム計画手法」、電気学会技術報告 第647号、1997年8月8日、p.45
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、電力小売事業者が自ら所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等の性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合に、従来の手法では経済的に最適となる調達量を求めることができなかった。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することの可能な、最適調達計画作成方法と装置を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような目的を達成するために、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることにより、ラグランジュ緩和法等を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出できるようにしたものである。
【0013】
なお、本発明において、重要な用語の定義は次の通りである。
「電力小売事業者」は、需要家の負荷に対して電力の供給、販売を行う事業者を意味する用語であるが、自ら所有する発電機により発電事業を行う事業者に限らず、自らは発電事業を行わない事業者も含む広い概念である。また、電力小売事業を業とする限り、他の電力小売事業者に対する電力卸売事業を兼業する事業者等も含む広い概念である。
【0014】
「調達先」は、電力小売事業者が電力を調達するための各種の調達先を意味する用語であり、電力小売事業者自身の所有する発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場または常時バックアップ契約、等を含む広い概念である。
「調達コスト」は、調達先から電力を調達するために必要なコストを意味する用語である。
【0015】
「相対取引」は、電力小売事業者とその電力小売事業者に対して電力を供給、販売する別の事業者との間における相対取引を意味する用語である。
「市場」は、電力卸売市場を意味する用語であるが、市場で決定される単位価格で電力を不特定の電力小売事業者に販売するスポット市場等の一般的に市場と呼ばれるものに限らず、常時バックアップ契約等のように調達コストが共通の単位価格により一次関数で与えられる全ての取引を含む広い概念である。
【0016】
請求項1の発明は、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、線形近似ステップと調達量算出ステップを含むことを特徴としている。ここで、線形近似ステップは、調達先の調達コストに関する調達先データに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の調達先がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似するステップである。また、調達量算出ステップは、調達先データと需要家の負荷に関する需要データに基づき、特定の調達先については近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、かつ、それ以外の調達先については各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用して、単数または複数の調達先からの調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出するステップである。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1の発明を装置の観点から把握したものであり、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成装置において、請求項1の発明における各ステップに対応する各機能を有する線形近似手段と調達量算出手段を備えたことを特徴としている。
【0018】
請求項9の発明は、請求項1、請求項8の発明をコンピュータプログラムの観点から把握したものであり、コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成用プログラムにおいて、請求項1の発明における各ステップに対応する線形近似機能と調達量算出機能をコンピュータに実現させることを特徴としている。
【0019】
以上のような発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、その単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることができるため、ラグランジュ緩和法等を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出することができる。したがって、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することができる。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、次のようにして調達先からの調達量を決定するステップを含むことを特徴としている。すなわち、このステップにおいては、各調達先からの調達量を算出する際に、当該調達先からの調達コストが1次関数または近似により得られた1次関数で与えられる場合において、その調達コストの増分単価(λ)と1次係数(a)とが同じになった場合に、予め与えられた需要家の負荷の合計と単数または複数の調達先からの調達量の合計が同じになるように、当該調達先からの調達量を決定する。
【0021】
この発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、かつ、計算過程中においては増分単価(λ)の値に応じて当該調達先からの調達量を容易に求めることができるため、ラグランジュ緩和法においてラグランジュ定数の更新を行う際における発電機の起動停止状態の振動を減少させ、その結果、収束回数を減少させ、計算時間を短縮できる。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、調達コストが減少しなくなるまで逐次計算を繰り返すステップを含むことを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、ラグランジュ緩和法により調達量を算出する際に、計算過程中の現在の調達量に対して調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行うことによって、調達コストの最小化をより厳密に行うことができる。
【0024】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、運転パターン制約を考慮する必要がない場合に各調達時刻における前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含むことを特徴としている。ここで、「運転パターン制約を考慮する必要がない場合」は、単数または複数の調達先が電力小売事業者自身の所有する発電機を含む場合であって、その発電機が調達期間内の全ての時間帯で起動停止に関して同じ状態を維持する場合、および、単数または複数の調達先が電力小売事業者自身の所有する発電機を含まない場合、のいずれかの場合である。
【0025】
この発明によれば、電力小売事業者自身の所有する発電機の運転パターンや所有する発電機の有無に応じて、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮する必要がない場合には経済負荷配分計算のみを行うことで調達コストの最小化を行うことができるため、計算時間を短縮できる。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、単数または複数の調達先の中に、調達期間内に予め決められた調達量を調達しなければならない調達先がある場合に、その調達先から予め決められた以上の調達量を調達し、かつ、調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0027】
この発明によれば、相対取引から購入する電力量に対して予め決められた電力量を購入しなければならない場合等、調達先からの調達量の制約がある場合に、調達量制約を考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0028】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、単数または複数の調達先からの調達量に対して、負荷追従のために出力調整余力を持たせる必要がある場合に、その出力調整余力を確保し、かつ、調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0029】
この発明によれば、需要予測の誤差や急激な需要変動に対応しなければならない等、負荷追従のために出力調整余力制約がある場合に、出力調整余力を確保した最適な調達量を決定することができる。
【0030】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかの電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、調達量算出ステップが、予め与えられた需要家の負荷の中に調整可能な負荷がある場合に、その負荷調整後の調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップ、を含むことを特徴としている。
【0031】
以上のような発明によれば、需要家の負荷調整が可能な場合に、負荷調整によるペナルティコストを考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下には、本発明を適用した最適調達計画作成装置の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0033】
[1.基本的な実施形態]
[1−1.基本的な構成]
図1は、本実施形態の最適調達計画作成装置が対象とする電力小売事業者による電力の調達、供給を示す概念図である。本実施形態の最適調達計画作成装置は、電力小売事業者が各時間帯に需要家である顧客に供給・販売すべき電力に対して、電力小売事業者自身の所有する自前発電機、発電事業者との相対取引、スポット市場、等の種々の調達先から調達コストが最小となるような調達量の組み合わせを求めるものである。
【0034】
この場合、各調達先については、相対取引やスポット市場から各時間帯にどれだけの電力を購入すべきか、また、電力小売事業者自身の所有する自前発電機においては各時間帯にどれだけの電力を出力すべきか、等を決定することになる。その際、自前発電機においては、各時間帯の起動停止も考えた上での最適な調達量を決定することになる。
【0035】
図2は、本実施形態の最適調達計画作成装置を示すブロック構成図であり、最適調達計画作成装置1は、伝送ライン2を通じて需要予測システム3と通信するようになっている。ここで、需要予測システム3は、予め与えられた1つまたは複数の需要家について、各時間帯毎の需要家の全負荷を予測するシステムであり、この需要予測システム3で予測された需要データ21が、伝送ライン2を通じて最適調達計画作成装置1に送信されるようになっている。
【0036】
最適調達計画作成装置1は、需要予測システム3から送信された需要データ21を受信する伝送装置4と、オペレータにより必要な指示情報を入力したり、オペレータに対して処理途中や処理結果を表示したりするためのマンマシン・インタフェース装置(MMI)5を備えている。
【0037】
最適調達計画作成装置1本体は、最適調達計画作成部10、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13、需要データ記憶手段14、出力データ記憶手段15、需要データ修正手段16、等から構成されている。以下には、この最適調達計画作成装置1の各部について説明する。
【0038】
自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13は、各調達先の調達コストに関する調達先データを保存する手段であり、需要データ記憶手段14は、需要予測システム3から受信した需要データ21を保存する手段である。
【0039】
このうち、自前発電機データ記憶手段11は、電力小売事業者が所有する自前発電機の燃料費特性、起動費特性、最大出力、最小出力、運転パターン(最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン)、その他必要なデータを保存している。また、相対取引データ記憶手段12は、相対取引による電力取引価格特性、最大購入量、最小購入量、その他必要なデータを保存している。さらに、スポット市場データ記憶手段13は、スポット市場による予想価格特性、最大購入量、最小購入量、その他必要なデータを保存している。
【0040】
最適調達計画作成部10は、最適調達計画作成装置1のメインとなる部分であり、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13に保存された各調達先の調達コストに関する調達先データと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、調達コストが最小となるように調達量を決定するようになっている。この最適調達計画作成部10は、線形近似手段101と調達量算出手段102を備えている。
【0041】
線形近似手段101は、相対取引データ記憶手段12に保存された相対取引の調達コストに関するデータに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する手段である。
【0042】
調達量算出手段102は、自前発電機データ記憶手段11、相対取引データ記憶手段12、スポット市場データ記憶手段13に保存された各調達先の調達コストに関するデータと、線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストと、需要データ記憶手段14に保存された需要データ21とに基づき、各調達先からの調達量を算出する手段である。
【0043】
この場合、調達量算出手段102は、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の相対取引については線形近似手段101で近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、それ以外の調達先については、各記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関するデータに基づき、各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用する。
【0044】
一方、出力データ記憶手段15は、最適調達計画作成部10の出力結果データ22を保存する手段である。また、需要データ修正手段16は、出力データ記憶手段15に保存されている出力結果データ22を基に、需要データ21を修正する手段である。
【0045】
なお、図3は、図2に示す最適調達計画作成装置1を実現するためのコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。このコンピュータシステムにおいて、301は、CPU302、主メモリ303、メモリ304、等を備えた計算機であり、この計算機301の主メモリ303上に記録された処理プログラムにより、計算機301を、図2に示すような最適調達計画作成装置1として動作させるようになっている。すなわち、処理プログラムにより、CPU302と主メモリ303を、最適調達計画作成部10、需要データ修正手段16として動作させると共に、メモリ304を、記憶手段11〜15として動作させる。
【0046】
また、計算機301には、記録媒体305にプログラムを記録する記録媒体書込み装置306が、汎用のSICI等のケーブル307等で接続されており、主メモリ303に記録された処理プログラムを記録媒体書込み装置306により任意に記録媒体305に記録できるようになっている。これにより、記録媒体305あるいは記録媒体305から書込まれた別の記録媒体を用いて、別の計算機でも同じ処理プログラムを実行できるようになっている。
【0047】
[1−2.最適化問題]
以上のような最適調達計画作成装置1において、その最適調達計画作成部10にて解かれる最適化問題の目的関数は、次の(1)式に示すように、各調達先からの調達量に応じた調達コストの合計となる。
【0048】
【数1】
【0049】
また、この最適化問題の目的関数に対する制約条件は、以下に示すように、調達量の合計と需要量とを一致させる需給バランス制約、各調達量の最大・最小制約、発電機の起動停止に関する運転パターン制約等となる。
【0050】
【数2】
【0051】
以上のように表現される最適化問題において、Pi g(t),Pj b (t),Pm (t),は決定すべき調達量である。また、この調達量を決定するために用いられる各データのうち、D(t)は、需要予測システム3から受信する需要データ21であり、他のデータは、各記憶手段11〜13に保存された各調達先の調達コストに関する調達先データである。
【0052】
すなわち、自前発電機iの燃料費特性、起動費特性、最大・最小出力、運転パターン(最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン)は、自前発電機データ記憶手段11に、相対取引jの取引価格特性、最大・最小購入量は、相対取引データ記録手段12に、スポット市場の予想価格特性、最大・最小購入量は、スポット市場データ記録手段13に、それぞれ保存されている。
【0053】
[1−3.全体の動作]
図4は、以上のような構成を有する本実施形態の最適調達計画作成装置1における動作の概略を示すフローチャートである。
【0054】
この図4に示すように、需要予測システム3から送信された需要データ21を伝送装置4により受信する毎(S401のYES)に、需要データ記憶手段14は、受信した需要データ21を保存する(S402)。また、最適調達計画作成部10は、最適な調達量を決定するために予め設定された所定の時刻または所定の周期毎(S403のYES)に、記憶手段11〜14に保存されたデータに基づき、線形近似手段101による線形近似処理(S404)と調達量算出手段102による調達量算出処理(S405)を順次行い、調達コストが最小となるように調達量を決定する。なお、このような最適調達計画作成部10による処理内容は、MMI5によりオペレータに対して処理途中で適宜表示される。
【0055】
そして、最適調達計画作成部10により各調達先からの最適な調達量が決定されると、その結果は、MMI5によりオペレータに対して表示されると共に、出力結果データ22として出力データ記憶手段15により保存される(S406)。なお、最適調達計画作成部10により、需要家の負荷調整後の調達コスト合計が最小となるようにして調達量が決定された場合等、需要データの修正が必要な場合(S407のYES)には、出力データ記憶手段15は、出力結果データ22を需要データ修正手段16に渡し、需要データ修正手段16は、需要データ記憶手段14から需要データを読み出して必要な修正を加え、再び需要データ記憶手段14に保存する(S408)。
【0056】
[1−4.線形近似処理]
図5は、図4に示す動作のうち、最適調達計画作成部10の線形近似手段101による線形近似処理(S404)のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0057】
図5に示すように、線形近似処理において、線形近似手段101は、相対取引データ記憶手段12に保存された相対取引の調達コストに関するデータに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引があるか否かを判断する(S501)。単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引がない場合(S501のNO)には、線形近似処理を終了して図4に示す調達量算出処理(S405)に進む。また、単調増加な凹関数を含む関数で与えられる相対取引がある場合(S501のYES)には、さらに、相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられるか否かを判断する(S502)。
【0058】
相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられる場合(S502のYES)には、相対取引の調達コストを全て1次関数で近似する(S503)。また、相対取引の調達コストが全て単調増加な凹関数で与えられない場合、すなわち、単調増加な凸関数と単調増加な凹関数で与えられた場合(S502のNO)には、その単調増加な凹関数のみに対して調達コストを1次関数で近似する(S504)。そして、調達コストを近似した後は、線形近似処理を終了して図4に示す調達量算出処理(S405)に進む。
【0059】
図6は、単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数に近似するための具体的な手法を示す説明図である。この図6に示すように、特定の相対取引の調達コストが単調増加な凹関数(例えば、上に凸な2次関数)で与えられる場合には、その相対取引における最小購入量での調達コスト(Xmin,Ymin)と、最大購入量での調達コスト(Xmax,Ymax)の2点を通るように線形近似することにより、調達コストを1次関数で近似することができる。なお、図6の601は、近似前の連続的でかつ単調増加な凹関数であり、602は近似後の1次関数である。
【0060】
図6においては、調達コストが連続的でかつ単調増加な凹関数で与えられる場合について示したが、調達コストが区分線形でかつ単調増加な凹関数で与えられる場合についても、同様に、最小・最大購入量での調達コストの2点を通るように線形近似することにより、調達コストを1次関数で近似することができる。
【0061】
以上のような線形近似処理により、全ての調達コストが単調増加な凸関数で表されることになるため、続く調達量算出処理では、ラグランジュ緩和法等の既存の手法を適応することで、調達コストが最小となる調達量を決定することができる。
【0062】
[1−5.調達量算出処理]
図7は、最適調達計画作成部10の調達量算出手段102による調達量算出処理(S405)のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。この図7に示す調達量算出処理は、既存の手法として、特にラグランジュ緩和法を適用した場合の一例を示している。
【0063】
図7に示すように、調達量算出処理において、調達量算出手段102はまず、ラグランジュ定数と各調達量の初期値を設定する(S701)。次に、動的計画(DP)法を用いて、各調達先毎に調達コストを最小にする調達状態(起動停止状態)、を求める(S702)。この場合、自前発電機においては、最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン等の運転パターン制約も考慮する。次に、各調達先毎に、調達コストを最小にする調達状態の調達量を求める(S703)。この場合、各調達先毎の最大・最小(最大・最小購入量)制約を考慮する。
【0064】
各調達先毎に得られた調達量について、需給バランス制約のチェックを行ない(S704)、制約を満足している場合(S704のYES)には、調達量算出処理を終了して図4に示す結果出力・保存処理(S406)に進む。また、需給バランス制約を満足していない(S704のNO)には、各制約に応じてラグランジュ定数を更新した(S705)後、S702に戻る。
【0065】
[1−6.基本的な作用効果]
上記のように、本実施形態によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、その単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して単調増加な凸関数とすることができるため、ラグランジュ緩和法等の既存の手法を適用して、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮しながら、調達コストの合計が最小となるような調達量を算出することができる。したがって、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することができる。
【0066】
なお、図8は、本実施形態の最適調達計画作成装置1により得られる各調達先からの調達量の一例を示すタイムチャートである。この図8に示す例の場合、自前発電機においては、最小運転時間、最小停止時間、起動停止パターン、等の運転パターン制約、すなわち、時間的な制約があるため、その調達コストを最小にする調達量を求めるためには、ラグランジュ緩和法等を採用することになる。これに対し、相対取引やスポット市場においては、運転パターン制約のような時間的な制約がないため、その調達コストを最小にする調達量を求めるためにはラムダ反復法や増分法等を採用することができる。本実施形態は、このように、時間的な制約の異なる複数の調達先に対して、線形近似とラグランジュ緩和法を採用することにより、各調達先毎に異なる制約をそれぞれ考慮した最適な調達量を決定することができるものである。
【0067】
[2.調達量算出処理の変形例]
[2−1.増分単価に応じた調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際には、図7に示すように、ラグランジュ定数を更新しながら制約を満足するまで繰り返し計算を行うことになる。この場合に、調達コストを1次関数で近似したものや、調達コストが卸購入電力の単位価格(1次関数)で与えられるものをそのまま適用すると、繰り返しによる収束計算を行う際に、自前発電機の起動停止状態が振動する可能性がある。
【0068】
このような起動停止状態の振動を抑制するために、調達量を算出するための計算過程においては、以下のようにして、増分単価(λ)の値によって調達量を求める。すなわち、調達コストが(6)式に示すような1次関数で与えられる調達先の増分単価(λ)は、(7)式に示すように定数(1次係数)となり、調達量と増分単価の関係は図9のようになる。
【0069】
【数3】
【0070】
図9から、λ>aでは、調達量は最大購入量(Pmax)、λ<aでは、調達量は最小購入量(Pmin)となる。また、λ=aとなった場合は、調達量が幾らでも増分単価(λ)は一定となるので、需給バランスが取れるように需要データから他の調達量を差し引いた値を、その調達先の調達量に設定する。
【0071】
この調達量算出処理によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、かつ、計算過程中においては増分単価(λ)の値に応じて当該調達先からの調達量を容易に求めることができる。そのため、ラグランジュ緩和法においてラグランジュ定数の更新を行う際における発電機の起動停止状態の振動を減少させ、その結果、収束回数を減少させ、計算時間を短縮できる。
【0072】
[2−2.増分単価を用いた繰り返し計算による調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際に、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられた場合には、調達コストを1次関数に近似することで、ラグランジュ緩和法を適用できる。しかし、調達コストとして1次関数に近似したものを単純に使用した場合には、実際の調達コスト(近似する前の原関数)とは誤差が生じ、厳密なコスト最小化を行うことはできない。
【0073】
そこで、より厳密なコスト最小化を行うために、調達量算出処理におけるS703(図7)で各調達先からの調達量を決定する際に、現在の調達量(計算過程中の調達量)に対して、調達量を上げる方向での増分単価(上げ増分単価)または調達量を下げる方向での増分単価(下げ増分単価)を用いて、調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行う。
【0074】
調達量算出処理において各調達先からの調達量を決定する際(図7のS703)に、このような増分単価を用いた繰り返し計算を行うことにより、ある時刻での瞬間的な調達コストの最小化を行うことができ、かつ、ラグランジュ定数を更新しながら、各調達先の状態決定、調達量決定、需給バランスチェックを繰り返す(図7のS702〜S705)ことにより、調達時間帯全てに亘って調達コストの最小化を行うことができる。
【0075】
この調達量算出処理によれば、調達コストが調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる場合に、調達コストを1次関数で近似し、ラグランジュ緩和法により調達量を算出する際に、計算過程中の現在の調達量に対して調達コストが減少しなくなるまで繰り返し計算を行うことによって、調達コストの最小化をより厳密に行うことができる。
【0076】
[2−3.運転パターン制約を考慮する必要がない場合の調達量算出処理]
前述したように、本実施形態の最適調達計画作成部10により調達量算出処理を行う際には、ラグランジュ緩和法を適用することで、自前発電機の運転パターンを考慮することができるが、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合もありうる。
【0077】
すなわち、本実施形態の最適調達計画作成装置1によれば、自前発電機、相対取引、スポット市場、という3種類の調達先がある場合に最適調達計画を求めることができるが、本実施形態は、何れか1種類または2種類の調達先がある場合、例えば、電力小売事業者が自前発電機を1機も所有してない場合にも同様に最適調達計画を求めることができる。
【0078】
このように、電力小売事業者が自前発電機を1台も所有してない場合には、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない。また、電力小売事業者が自前発電機を所有している場合であっても、自前発電機が調達期間内の全ての時間帯において起動している場合、若しくは停止している場合には、同様に、運転パターン制約を考慮する必要がないため、各調達時刻毎に調達コストの最小化を行なえばよいということになる。このような場合には、ラグランジュ緩和法による最適化ではなく、ラムダ反復法や増分法等の既存の経済負荷配分計算を適応することで、調達コストを最小化でき、計算時間を短縮できる。
【0079】
図10は、このような、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図10に示すように、自前発電機が調達期間内の全ての時間帯において同じ状態を維持する場合、もしくは、自前発電機が1台もない場合(S1001のYES)には、経済負荷配分により最適な調達量を計算し(S1002)、そうでない場合(S1001のNO)は、ラグランジュ緩和法により最適な調達量を計算する(S1003)。この場合、S1003の「最適調達量計算処理」は、図7に示すS701〜S705の処理に相当する。
【0080】
この調達量算出処理によれば、電力小売事業者自身の所有する発電機の運転パターンや所有する発電機の有無に応じて、発電機の起動停止に関する運転パターン制約を考慮する必要がない場合には経済負荷配分計算のみを行うことで調達コストの最小化を行うことができるため、計算時間を短縮できる。
【0081】
なお、これ以降の説明において、用語「調達量算出処理」は、各調達先からの調達量を算出するための全体の処理を示すために使用し、用語「最適調達量計算処理」は、その「調達量算出処理」中に含まれる基本的な計算処理、すなわち、図7のS701〜S705に示すようなラグランジュ緩和法による基本的な計算処理を示すために使用する。
【0082】
[2−4.調達量制約を考慮した調達量算出処理]
相対取引においては、購入する電力量に対して予め決められた電力量を調達(購入)することを契約内容に含める場合もある。図11は、このような調達量制約を考慮した場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図11に示すように、まず、調達量制約を設定せずに最適調達量計算処理を行った(S1101)後、得られた相対取引からの調達量(購入量)と、実際に購入しなければならない電力量(制約量)とを比較する(S1102)。
【0083】
この場合に、得られた調達量の方が大きい場合(S1102のYES)には、調達量制約を満たしているため、調達量算出処理をそのまま終了する。また、調達量よりも制約量の方が大きい場合(S1102のNO)には、実際に購入しなければならない電力量を制約量として設定した(S1103)上で、再度、最適調達量計算処理を行う(S1104)。この場合、前述した最適化問題の目的関数に対する制約条件に以下の(8),(9)式を追加する。
【0084】
【数4】
【0085】
この調達量算出処理によれば、調達先からの調達量の制約がある場合に、調達量制約を考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0086】
[2−5.出力調整余力制約を考慮した調達量算出処理]
前述したように、本実施の最適調達計画作成部10においては、予測された需要データを基に、各調達先からの調達量を決定するが、当日のオンラインでは、需要データの予測誤差や、急激な需要変動が起きる可能性があることから、予備力を確保する必要がある。例えば、需要変動が大きく変わるような時間帯(朝の負荷立ち上がり)については、大きく予備力を持たせる。逆に、負荷変動が比較的小さい時間帯(深夜帯)については、小さい予備力を持たせることで、出力調整可能な調達先を確保する。
【0087】
具体的には、最適調達計画作成部10による調達量算出処理を行う際に、前述した最適化問題の目的関数に対する制約条件に以下の(10),(11)式を追加する。
【0088】
【数5】
【0089】
この調達量算出処理によれば、需要予測の誤差や急激な需要変動に対応しなければならない等、負荷追従のために出力調整余力制約がある場合に、出力調整余力を確保した最適な調達量を決定することができる。
【0090】
[2−6.需要家の負荷調整を考慮した調達量算出処理]
前述したように、本実施の最適調達計画作成部10においては、需要予測システム3で予測された需要データ21、すなわち、予め与えられた1つまたは複数の需要家の全負荷を需要データとして、需給バランス制約を満足するように、各調達先からの調達量を決定する。この場合、それぞれの需要家に対して、負荷調整が可能(契約電力に対して負荷を幾らかカットし、調達対象から外すことが可能)な契約を結んでいる場合には、その負荷調整を考慮した調達量算出処理を行うことができる。
【0091】
電力小売事業者は、調達対象から外す負荷を何らかの手段により設定した場合には、その対象となる負荷の需要家に対してペナルティを支払うこととなる。この場合のペナルティは、調達対象から外す負荷に対して、例えば、単位コスト[円/kW]でコスト換算できるため、そのコスト換算したものを負荷調整コストとして調達量を算出することができる。
【0092】
図12は、このような負荷調整コストを考慮した場合の調達量算出処理の一例を示すフローチャートである。この図12に示すように、まず、負荷調整をせずに、最適調達量計算処理を行った(S1201)後、負荷調整可能な需要家に対して、需要データの負荷を調整する(S1202)。この場合、カットする負荷に対するコスト換算は、例えば、図13に示すように、カットする負荷によって価格が変動するような単位コストであってもよい。次に、このように負荷調整した需要データを用いて最適調達量計算処理を行い、調達コストに負荷調整コストを加算して得られた値を負荷調整後の調達コストとする(S1203)。
【0093】
続いて、今回の負荷調整後の調達コストを負荷調整前の前回の調達コストと比較する(S1204)。前回の調達コストの方が安い場合(S1204のYES)には、その前回の最適調達量計算処理で得られた調達量に決定して(S1205)、調達量算出処理を終了する。また、今回の負荷調整後の調整コストが前回より安い場合(S1204のNO)には、S1202に戻り、調整コストが安くなる限り、S1202〜S1205の処理を繰り返す。なお、このS1204における調整コスト比較による終了判定は、人間系による判断も可能とし、終了判定が満足されていない場合でも、処理の終了は可能とする。
【0094】
この調達量算出処理によれば、需要家の負荷調整が可能な場合に、負荷調整によるペナルティコストを考慮した上で最適な調達量を決定することができる。
【0095】
[3.他の実施形態]
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。例えば、前述した変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0096】
また、前記実施形態においては、調達先が、自前発電機、相対取引、スポット市場、である場合について説明したが、本発明の調達先はこれに限定されるものではない。例えば、スポット市場が開設されておらず、電力会社による常時バックアップ契約が存在する場合には、前述した(1)式に示す目的関数におけるスポット市場の予想価格特性を常時バックアップ契約の契約価格特性で置き換えれば、同様に定式化可能である。
【0097】
さらに、前記実施形態で示した最適調達計画作成装置の構成や処理手順は、一例にすぎず、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出する限り、具体的な装置構成や処理手順は自由に変更可能である。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、調達量に対して単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数で近似して調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出することにより、電力小売事業者が性質の異なる複数の調達先から電力を調達する場合において、凹関数で与えられる調達コストを含み、かつ、発電機の起動停止に関する運転パターン制約が存在するような場合であっても、経済的に最適となる調達量を決定することの可能な、最適調達計画作成方法と装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した実施形態の最適調達計画作成装置が対象とする電力小売事業者による電力の調達、供給を示す概念図。
【図2】本発明を適用した実施形態の最適調達計画作成装置を示すブロック構成図。
【図3】図2に示す最適調達計画作成装置を実現するためのコンピュータシステムの一例を示すブロック図。
【図4】図2に示す最適調達計画作成装置における動作の概略を示すフローチャート。
【図5】図4に示す線形近似処理のサブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図6】図5に示す線形近似処理において、単調増加な凹関数で与えられる調達コストを1次関数に近似するための具体的な手法を示す説明図。
【図7】図4に示す調達量算出処理のサブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図8】図2に示す最適調達計画作成装置により得られる各調達先からの調達量の一例を示すタイムチャート。
【図9】調達コストが1次関数で与えられる調達先の増分単価と調達量の関係を示すグラフ。
【図10】図4に示す調達量算出処理の変形例として、自前発電機の運転パターン制約を考慮する必要がない場合の一例を示すフローチャート。
【図11】図4に示す調達量算出処理の変形例として、調達量制約を考慮した場合の一例を示すフローチャート。
【図12】図4に示す調達量算出処理の変形例として、負荷調整コストを考慮した場合の一例を示すフローチャート。
【図13】需要家の負荷調整を考慮した場合における、カットする負荷量と負荷調整コストとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1…最適調達計画作成装置
2…伝送ライン
3…需要予測システム
4…伝送装置
5…マンマシン・インタフェース装置(MMI)
10…最適調達計画作成部
11…自前発電機データ記憶手段
12…相対取引データ記憶手段
13…スポット市場データ記憶手段
14…需要データ記憶手段
15…出力データ記憶手段
16…需要データ修正手段
21…需要データ
22…出力結果データ
101…線形近似手段
102…調達量算出手段
Claims (9)
- コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成方法において、
前記調達先の調達コストに関する調達先データに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の調達先がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する線形近似ステップと、
前記調達先データと前記需要家の負荷に関する需要データに基づき、前記特定の調達先については前記近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、かつ、それ以外の調達先については各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用して、前記単数または複数の調達先からの調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出する調達量算出ステップと、
を含むことを特徴とする電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
前記各調達先からの調達量を算出する際に、当該調達先からの調達コストが1次関数または前記近似により得られた1次関数で与えられる場合において、その調達コストの増分単価(λ)と1次係数(a)とが同じになった場合に、前記予め与えられた需要家の負荷の合計と前記単数または複数の調達先からの調達量の合計が同じになるように、当該調達先からの調達量を決定するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
調達コストが減少しなくなるまで逐次計算を繰り返すステップを含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
前記単数または複数の調達先が前記電力小売事業者自身の所有する発電機を含む場合であって、その発電機が調達期間内の全ての時間帯で起動停止に関して同じ状態を維持する場合、および、
前記単数または複数の調達先が前記電力小売事業者自身の所有する発電機を含まない場合に、
各調達時刻における前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
前記単数または複数の調達先の中に、調達期間内に予め決められた調達量を調達しなければならない調達先がある場合に、その調達先から予め決められた以上の調達量を調達し、かつ、前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
前記単数または複数の調達先からの調達量に対して、負荷追従のために出力調整余力を持たせる必要がある場合に、その出力調整余力を確保し、かつ、前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - 前記調達量算出ステップは、
前記予め与えられた需要家の負荷の中に調整可能な負荷がある場合に、その負荷調整後の前記調達コスト合計が最小となるように調達量を算出するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電力小売事業者の最適調達計画作成方法。 - コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成装置において、
前記調達先の調達コストに関する調達先データに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の調達先がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する線形近似手段と、
前記調達先データと前記需要家の負荷に関する需要データに基づき、前記特定の調達先については前記近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、かつ、それ以外の調達先については各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用して、前記単数または複数の調達先からの調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出する調達量算出手段と、
を備えたことを特徴とする電力小売事業者の最適調達計画作成装置。 - コンピュータを利用して、単数または複数の調達先からの調達量を、予め与えられた需要家の負荷に対して調達コストが最小となるように決定する電力小売事業者の最適調達計画作成用プログラムにおいて、
前記調達先の調達コストに関する調達先データに基づき、調達コストが単調増加な凹関数を含む関数で与えられる特定の調達先がある場合に、その単調増加な凹関数に対して調達コストを1次関数で近似する線形近似機能と、
前記調達先データと前記需要家の負荷に関する需要データに基づき、前記特定の調達先については前記近似により得られた1次関数の調達コストを使用し、かつ、それ以外の調達先については各調達先に応じた関数で与えられる調達コストを使用して、前記単数または複数の調達先からの調達コスト合計が最小となるように各調達先からの調達量を算出する調達量算出機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする電力小売事業者の最適調達計画作成用プログラム。
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JPWO2013032026A1 (ja) * | 2011-08-30 | 2015-03-23 | 日本電気株式会社 | システムの制御方法およびシステム |
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-
2003
- 2003-02-28 JP JP2003053768A patent/JP2004266924A/ja active Pending
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