JP2004258013A - クロマトグラフィー用充填剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の課題は、微弱な電荷を帯びながらもタンパク質やポリペプチドの吸着が極めて少ないクロマトグラフィー用充填剤を提供することであり、さらには、分子量の違いだけでなくタンパク質やポリペプチドの持つ等電点や疎水性の違いに応じて、極めて高い優れた分離能を有するクロマトグラフィー用充填剤を提供することである。本発明のクロマトグラフィー用充填剤は特にGFCモードにおいて極めて優れた分離特性を有している。
【解決手段】下記式(1)で示されるホスホリルコリン基が担体表面に直接的に化学結合していることを特徴とするクロマトグラフィー用充填剤。
Figure 2004258013

Figure 2004258013

【選択図】 図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はクロマトグラフィー用充填剤に関する。さらに詳しくは、ホスホリルコリン基が担体表面に直接的に化学結合していることを特徴とするクロマトグラフィー用充填剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホスホリルコリン基を有する重合体は生体適合性高分子として検討されている。そして、この重合体を各種基剤に被覆させた生体適合性材料が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1にはホスホリルコリン基を有する重合体で被覆した医療用材料が記載されている。また、特許文献2にはホスホリルコリン基を有する重合体で被覆した分離剤が開示されている。
【0004】
上記の材料は、主に水酸基を有するアクリル系モノマーと2−クロロ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オキシドを反応させ、更にトリメチルアミンにより4級アンモニウムとすることによりホスホリルコリン構造を有するモノマーを合成しこれを重合して得られる重合体により、その表面が被覆されたものである(重合体の製造方法に関しては特許文献3及び4を参照)。
【0005】
特許文献3には、2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステルの共重合体が製造され、特許文献4には2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体が製造されている。
【0006】
一方、タンパク質やタンパク質よりも分子量が小さいポリペプチド等の生体試料をサイズ排除によって分離するGFC用充填剤には、多くの市販品が存在する。このGFC用充填剤には、架橋された親水性高分子を担体とする充填剤と、シリカゲルを担体とする充填剤が存在する。
【0007】
架橋された親水性高分子を担体とする充填剤は、適用できる移動相のpH範囲が広く、汎用性が高い。しかしながら、高分子を担体とする充填剤はシリカゲルを担体とする充填剤よりも、▲1▼細孔径の制御が困難であるために高理論段数を得づらく、また、▲2▼高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で使用される際にかかる高圧条件に対する強度が悪いことと移動相溶媒によって粒子が膨潤することのために再現性のよいクロマトグラムを得られないことも多い。
【0008】
シリカゲルを担体とする充填剤は、タンパク質やポリペプチドのシリカゲル担体表面への吸着が問題となる。そこで、分析試料中のタンパク質やポリペプチドのシリカゲルへの吸着を抑制する目的で、非解離性の親水性基によって表面が修飾されたシリカゲルを用いた充填剤が市販されている。
例えば、シリカゲル系GFC用カラムとして、昭和電工株式会社からは、Shodex PROTEIN KW−803(製品名)が市販されている。このシリカゲル系カラムは、カタログに、分子量数千から100万程度のタンパク質の分析に適したシリカゲル系のGFCモードのカラムであると説明されている。
また、株式会社ワイエムシィからは、YMC−Pack Diol(製品名)が市販されている。これもシリカゲル系のGFC用カラムであり、ジオール構造を有する官能基をシリカゲル担体に化学結合したもので、分子量一万から数十万のタンパク質の分離に適用できると説明されている。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−279512号公報
【特許文献2】
特開2002−98676号公報
【特許文献3】
特開平9−3132号公報
【特許文献4】
特開平10−298240号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、新規なクロマトグラフィー用充填剤を提供することを目的とする。本発明のクロマトグラフィー用充填剤をGFC用カラムに使用すると、タンパク質やポリペプチドの吸着が極めて少ない上に高い分離能力を発揮する。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、下記式(1)で示されるホスホリルコリン基が担体表面に直接的に化学結合していることを特徴とするクロマトグラフィー用充填剤を提供するものである。
【化2】
Figure 2004258013
Figure 2004258013
【0012】
また、本発明は、担体表面に直接的にアミノ基を導入し、次にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物を該アミノ基に反応させて得られることを特徴とする上記のクロマトグラフィー用充填剤を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記担体が、球状多孔質シリカゲルであることを特徴とする上記のクロマトグラフィー用充填剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記球状多孔質シリカゲルの平均粒径が1〜200μmであることを特徴とする上記のクロマトグラフィー用充填剤を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、前記球状多孔質シリカゲルの細孔の平均径が10〜500オングストロームであることを特徴とする上記のクロマトグラフィー用充填剤を提供するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤において、ホスホリルコリン基が担体表面に直接的に化学結合しているとは、ホスホリルコリン基が担体表面に化学的な結合状態によって導入されていることを意味し、ホスホリルコリン基を有する重合体で被覆することによりホスホリルコリン基を導入した担体は含まないという意味である。
【0018】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は下記のステップにより製造される。すでに担体表面にアミノ基を有しており、それ以上のアミノ基を導入する必要がない場合は、ステップ1は省略される。
ステップ1:任意の担体に、公知の方法若しくは今後開発される方法にてアミノ基を導入する。アミノ基は担体表面に直接的に導入される。直接的とは、アミノ基を有する重合体で被覆する方法は含まないことを意味する。アミノ基は一級アミン若しくは二級アミンである。
ステップ2:アミノ基を有する担体に対し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたアルデヒド体あるいはハイドレート体を、還元的アミノ化反応によって、ホスホリルコリン基を担体表面に直接的に付加させる。
【0019】
本発明で使用する担体には、シリカ、シリカゲル、活性炭、ゼオライト、アルミナ、粘土鉱物等の無機多孔質体、多孔質の有機高分子樹脂がある。担体は粉体が好ましい。好ましくは球型または破砕型多孔質シリカゲルである。球状多孔質シリカゲルの平均粒径は1〜200μm、好ましくは1〜10μm、球状多孔質シリカゲルの細孔の平均径が10〜500オングストローム、好ましくは80〜300オングストロームで、比表面積は50〜800m/g、好ましくは100〜600m/gである。
【0020】
これらの担体にアミノ基を導入する公知の方法(ステップ1)としては、下記が挙げられる。
1.プラズマ処理の表面反応によるアミノ基の導入
窒素ガス雰囲気下で低温プラズマにより担体表面にアミノ基を導入する。具体的には担体となる粉体をプラズマ反応容器内に収容し、反応容器内を真空ポンプで真空にした後、窒素ガスを導入する。続いてグロー放電により、担体表面にアミノ基を導入できる。プラズマ処理した担体を機械的に粉体化することも可能である。プラズマ処理に関する文献を下記に示す。
1. M. Muller, C. oehr
Plasma aminofunctionalisation of PVDF microfiltration membranes: comparison of the in plasma modifications with a grafting method using ESCA and an amino−selective fluorescent probe
Surface and Coatings Technology 116−119 (1999) 802−807
2. Lidija Tusek, Mirko Nitschke, Carsten Werner, Karin Stana−Kleinschek, Volker Ribitsch
Surface characterization of NH3 plasma treated polyamide 6 foilsColloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 195 (2001) 81−95
3. Fabienne Poncin−Epaillard, Jean−Claude Brosse, Thierry FalherReactivity of surface groups formed onto a plasma treated poly (propylene) film
Macromol. Chem. Phys. 200. 989−996 (1999)
【0021】
2.表面改質剤によるアミノ基の導入
アミノ基を有するアルコキシシラン、クロロシラン、シラザンなどの表面改質剤を用いて、シラノール含有粉体、酸化チタン等の担体表面を処理する。
例えば、1級アミノ基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシランにより、シリカゲル粉体を処理してアミノ基を導入する。具体的には、シリカゲルを水−2−プロパノール混合液中に浸し、3−アミノプロピルトリメトキシシランを添加後、100℃に加熱し6時間反応させる。室温に冷却後、シリカゲルをメタノールで洗浄し、乾燥してアミノ基がシリカ表面に直接導入された粉体が得られる。本法において好ましく処理される担体としては、シリカゲル以外に、ガラス、アルミナ、タルク、クレー、アルミニウム、鉄、マイカ、アスベスト、酸化チタン、亜鉛華、酸化鉄等の粉体が挙げられる。
【0022】
次に、アミノ化された担体表面にホスホリルコリン基を導入する方法(ステップ2)を以下に示す。
担体をメタノール中に漬し、ホスファチジルグリセロアルデヒドを添加し、室温で6時間放置する。そして、シアノホウ素酸ナトリウムを0℃で添加、一晩加熱攪拌し、アミノ基にホスホリルコリン基を付加させる。担体をメタノールで洗浄後、乾燥し、ホスホリルコリン基を表面に直接有する担体が得られる。反応溶媒はメタノール以外にも水、エタノール、2−プロパノール等プロトン性溶媒であれば使用可能であるが、メタノールを用いた場合の導入率が高い傾向にある。
【0023】
表面改質剤に3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いて、ホスホリルコリン基(PCと略す)を導入する方法のスキームを下記に示す。
【化3】
Figure 2004258013
【0024】
上記で説明したように、アミノ基を有する担体を調製し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたアルデヒド体あるいはハイドレート体との還元的アミノ化反応によりホスホリルコリン基が担体表面に直接付加した担体を製造する方法よって、本発明のカラム充填剤が容易に得られる。本発明のクロマトグラフィー用充填剤の製造方法は、ホスホリルコリン基の導入率が高く、また、様々な担体の表面を修飾できるという大きな利点がある。
【0025】
上記の製造方法において、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物は、公知のグリセロホスホリルコリン基を、公知の方法により酸化的解裂を行わせるもので、極めて簡単なステップである。この反応は、1,2−ジオールを過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸塩を用いて酸化することにより結合を開裂させ、2つのアルデヒド体を得るものであり、本法の場合、ホスホリルコリンアルデヒド体とホルムアルデヒドを生成する。反応は通常水中または水を含む有機溶媒中で行われる。反応温度は0度から室温である。アルデヒド体は水中で平衡反応を経てハイドレートとなることもあるが、続くアミンとの反応には影響しない。下記にホスホリルコリン基を含有する一官能のアルデヒド体を調製するスキームを示す。
【化4】
Figure 2004258013
【0026】
アミノ基を有する担体は、担体の表面、場合によっては多孔質の担体の内部表面にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体が反応できるアミノ基があればよい。担体はシリカゲルが好ましい。
【0027】
グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体(若しくはハイドレート体)を担体のアミノ基に結合させる還元的アミノ化反応は、両者を溶媒中にて攪拌することにより容易に行うことが出来る。この反応は両者を水或いはアルコール中に溶解または分散し(第三成分の有機溶媒を混合しても良い)、イミンを形成させた後、これを還元剤により還元して2級アミンを得るものである。還元剤としてはシアノホウ素酸ナトリウム等マイルドな還元剤が好ましいが、ホスホリルコリンが安定な限り、他の還元剤を用いることも可能である。反応は通常0度から室温で行われるが、場合により加熱することもある。
【0028】
上記の製造方法により、親水性のホスホリルコリン基を任意の量で含有する担体が簡単に得られる。また、担体が合成ポリマーの場合、その親水部として、カルボン酸基、水酸基、1級〜3級アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、ポリオキシエチレン基、アンモニウム基、アミド、カルボキシベタイン、糖類等を含有してもよく、これらの種類及び含有量で、充填剤の機能を設計できる。さらに、その疎水部として、炭素原子数2〜22の直鎖状または分岐アルキル、コレステロール等の環状アルキル、オレイル等不飽和結合を含むアルキル基、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレンをはじめとする炭化水素系芳香族、ピリジン環、イミダゾール、チアゾール、インドール等のヘテロ系芳香族、パーフルオロアルキル、ポリアルキルシロキサン等の疎水基を含有してもよく、粉体の用途に応じて選択し、設計できる。合成ポリマー粉体の疎水基の結合形態は、エステル、エーテル、アミド、ウレタン、尿素結合等により直接ポリマー主鎖と結合されていても良いし、スペーサーを介して主鎖と結合されていても良い。スペーサーの種類としては、親水性のポリエチレンオキサイド、疎水性のポリプロピレンオキサイド、直鎖状アルキル(炭素原子数2〜22)等が挙げられる。
また、担体表面に存在するアミノ基の1部をホスホリルコリン基により修飾し、残部を他の官能基で修飾することで、新たな機能を発現する充填剤を設計できる。担体に導入されたアミノ基を元素分析等により定量し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物を、付加させたい量だけ使用することにより製造される。そして、残りのアミノ基に任意の官能基を付加させることが出来る。
【0029】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、タンパク質およびポリペプチドの吸着を抑制することに優れたカラム充填剤である。したがって、タンパク質およびポリペプチドを分子量の違いによって分離するモード(GFCモード)に適用することが可能である。
さらに、ホスホリルコリン基の有する双電荷によって試料の分子量の違いのみならず、試料の持つ微弱な電荷の違いに基づいた、より高い分離能力を有するカラム充填剤である。このように、双電荷を有する官能基がタンパク質の吸着を抑制するために導入された例は無く、全く新しいタイプのGFC用カラム充填剤であると言える。この電荷を有するという特徴によって、タンパク質やポリペプチドを分子量の違い以上に分離できるだけでなく、移動相のpHを変化させることによって充填剤表面とタンパク質やポリペプチドとの相互作用の強さを制御することも可能であることを示している。したがって、移動相のpHを最適化することで目的とするタンパク質やポリペプチドを自由に保持させることができる可能性がある。
GFCモードはタンパク質や酵素を失活させずにこれらを分離、精製できることから、未知生体試料の単離や医療用途の面でも本発明のカラム充填剤の高分離能が役立つことが期待される。
本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、具体的には、タンパク質およびポリペプチドの吸着が極めて少ない高分離能カラム充填剤として、例えばヒト血清中のタンパク質の分離、または、タンパク質をトリプシン消化して得られた試料に含まれるポリペプチドの分離に優れている。
【0030】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
合成例1 ホスホリルコリン基を含有するアルデヒド体
L−α−グリセロホスホリルコリン(450mg)を蒸留水15mlに溶解し、氷水浴中で冷却する。過ヨウ素酸ナトリウム(750mg)を添加し、2時間攪拌する。更にエチレングリコール(150mg)を添加して1晩攪拌する。反応液を減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより目的物を抽出する。
構造式及びNMRスペクトルを図1に示す。
【0032】
実施例1 クロマトグラフィー用充填剤
ホスホリルコリン基結合シリカゲル担体の調製(細孔径300オングストローム)
平均粒子径が5μm、平均細孔径が300オングストロームの多孔性シリカゲル10gを水(15ml)−2−プロパノール(15ml)に分散、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5g)を添加後、100℃に加熱し6時間反応させる。室温に冷却後、シリカゲルをろ過、洗浄し、減圧乾燥してアミノプロピル基の導入されたシリカゲルを得る。このシリカゲルの反射型FT−IRスペクトルを図2に示す。
このアミノプロピル基が導入されたシリカゲルをメタノール100mlに分散し、合成例1により得られた化合物10gと混合、室温で6時間撹拌する。続いてこの混合液を氷浴中で冷却し、シアノヒドロホウ酸ナトリウム3gを添加し、室温で一晩撹拌した後、シリカゲルをろ過し、メタノールで洗浄し、減圧乾燥して目的とするホスホリルコリン基を表面に直接有するシリカゲル10.3gを得る。このシリカゲルの反射型FT−IRスペクトルを図3に示す。
図3から1250cm−1付近にリン酸基由来のピークが出現しており、ホスホリルコリン基が粉体表面に導入されたことがわかる。
また、以上の手続きによって得られた粉体の元素分析値を表1に示す。
【表1】
Figure 2004258013
上記元素分析値より、実施例1の粉体にはホスホリルコリン基がシリカゲル表面に導入されたことが分かる。実際にホスホリルコリン基と反応したアミノ基は、全体のアミノ基の約38%であることがわかる。
【0033】
次に、実施例1のクロマトグラフィー用充填剤を、内径4.6mm、長さ250mmのステンレスカラムにスラリー法により充填した。50mmol/lリン酸バッファー(NaHPOおよびKHPOより調製)に500mmol/lの塩化ナトリウムを添加した移動相を用い、流速を0.1ml/min、カラムオーブン温度40℃にてヒト血清試料(コンセーラN(製品名)を生理食塩水にて二倍に希釈した)のタンパク質の分離を試みた。検出はUV280nmで行った。結果を図4に示す。
【0034】
比較例1
次に、市販品のクロマトグラフィー用カラム(YMC−Pack Diol 300、株式会社ワイエムシィ製)を市販の状態のまま用いてヒト血清試料(コンセーラN(製品名)を生理食塩水にて二倍に希釈した)のタンパク質の分離を試みた。比較例で挙げた本カラムは、実施例1で述べたカラムと同じ内径と長さである。
この充填剤は多孔性シリカゲルの表面に、ジオール構造を持つ官能基を化学結合させたサイズ排除モード用の充填剤であると説明されている。平均細孔径300オングストローム、平均粒子径5μmであり、実施例1で述べた充填剤との比較に好適である。分子量1万から数十万のタンパク質の分離に適していると説明されている。YMC−Pack Diolは、親水性基として非解離性のジオールを用いているために、本願発明の充填剤と違って電荷を帯びた官能基を有していない。したがってタンパク質とのイオン的な相互作用はほとんど無いと考えられる。
実施例1と同様に、50mmol/lリン酸バッファー(NaHPOおよびKHPOから調製)に500mmol/lの塩化ナトリウムを加えた移動相を用い、流速を0.1ml/min、カラムオーブン温度40℃にてヒト血清試料(コンセーラN(製品名)を生理食塩水にて二倍に希釈した)のタンパク質の分離を試みた。検出はUV280nmで行った。結果を図5に示す。
【0035】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤を使用したクロマトグラム(図4)においては、ヒト血清において主要なタンパク質であるγ−グロブリンとアルブミンの他に、トランスフェリンが分離されていることが大きな特徴である。ピークの帰属は単離された各タンパク質の市販品を用いて行った。
従来のクロマトグラフィー用充填剤を使用した場合は(図3)、アルブミンとトランスフェリンの分離が不完全である。これは、単離された市販品の各タンパク質の溶出時間が同じであったことから確認された。アルブミンとトランスフェリンの分子量はそれぞれ、約69,000と75,000であり、分子量が近いと言える。従来のGFC用カラムではアルブミンとトランスフェリンのような分子量の近い試料を分離することはできない。本発明のクロマトグラフィー用充填剤はタンパク質の吸着が極めて少ないだけでなく、ホスホリルコリン基の持つ双電荷によってタンパク質と微弱なイオン的相互作用を持つために、分子量の近いタンパク質についても等電点や疎水性の違いに基づいて分離することができることが分かる。すなわち、本発明のクロマトグラフィー用充填剤はGFCモードにおいて、分子量の違いだけでなくタンパク質の持つ等電点や疎水性の違いに応じて試料を分離することができることが分かる。
【0036】
実施例2 クロマトグラフィー用充填剤
ホスホリルコリン基結合シリカゲル担体の調製(細孔径120オングストローム)
平均粒子径が5μm、平均細孔径が120オングストロームの多孔性シリカゲルを使用し、実施例1と同様の処理により、ホスホリルコリン基結合シリカゲル担体を調製した。これを、実施例1と同一のカラムに充填した。
50mmol/lリン酸バッファー(NaHPOおよびKHPOより調製)に500mmol/lの塩化ナトリウムを添加した移動相を用い、流速を0.2ml/min、カラムオーブン温度40℃にてミオグロビンのトリプシン消化によって生じたペプチドの分離を試みた。検出はUV280nmで行った。結果を図6に示す。
ミオグロビンのトリプシン消化の手順を以下に示す。8.8mgのミオグロビン結晶(市販品)を20mmol/l(pH8.3)のリン酸バッファー(NaHPOおよびKHPOより調製)に溶解させる。一方でトリプシン結晶(市販品)を5mmol/l(pH5.0)のリン酸バッファー(NaHPOおよびKHPOより調製)に溶解させる。ミオグロビンのリン酸バッファー溶液360μlを湯浴中で95℃に加熱し、1時間熱変成させる。この後にトリプシン溶液を3000rpm、15分間遠心分離にかけ、沈殿を分離する。遠心分離後の試料の上清を360μlを分取し、これに先に述べたトリプシン溶液を80μl添加し、35℃で5時間インキュベートしてトリプシン消化物を得る。この後、孔径0.2μmのフィルターで消化物をろ過し、サンプルとした。
【0037】
本発明のクロマトグラフィー用充填剤を使用したクロマトグラム(図5)から、ミオグロビンのトリプシンによる消化によって生成したポリペプチドが分離されていることがわかる。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、微弱な電荷を帯びながらもタンパク質やポリペプチドの吸着が極めて少ないクロマトグラフィー用充填剤を提供出来る。
本発明のクロマトグラフィー用充填剤の特徴は、分子量の違いだけでなくタンパク質やポリペプチドの持つ等電点や疎水性の違いに応じた、優れた分離能を有することである。
特にGFCモードにおいて優れた分離特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成例1の構造式及びNMRスペクトルである。
【図2】実施例1のアミノプロピル基が導入されたシリカゲルの反射型FT−IRスペクトルである。
【図3】実施例1のホスホリルコリン基が導入されたシリカゲルの反射型FT−IRスペクトルである。
【図4】本発明のクロマトグラフィー用充填剤を使用してヒト血清タンパク質の分離を行った液体クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図5】従来のクロマトグラフィー用充填剤を使用してヒト血清タンパク質の分離を行った液体クロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図6】本発明のクロマトグラフィー用充填剤を使用してミオグロビンのトリプシン消化物の分離を行った液体クロマトグラフィーのクロマトグラムである。

Claims (5)

  1. 下記式(1)で示されるホスホリルコリン基が担体表面に直接的に化学結合していることを特徴とするクロマトグラフィー用充填剤。
    Figure 2004258013
    Figure 2004258013
  2. 担体表面に直接的にアミノ基を導入し、次にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物を該アミノ基に反応させて得られることを特徴とする請求項1記載のクロマトグラフィー用充填剤。
  3. 前記担体が、球状多孔質シリカゲルであることを特徴とする請求項1又は2記載のクロマトグラフィー用充填剤。
  4. 前記球状多孔質シリカゲルの平均粒径が1〜200μmであることを特徴とする請求項3記載のクロマトグラフィー用充填剤。
  5. 前記球状多孔質シリカゲルの細孔の平均径が10〜500オングストロームであることを特徴とする請求項3または4記載のクロマトグラフィー用充填剤。
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