JP2004246542A - 滞在限界状態報知方法、火災性状報知方法及び火災情報伝達システム - Google Patents

滞在限界状態報知方法、火災性状報知方法及び火災情報伝達システム Download PDF

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Abstract

【課題】火災成長率が大きく異なる火災に対応して滞在限界状態を報知可能とするとともに、火災の性状を報知可能とする。
【解決手段】室の防災特性できまる火災成長率α(ステップS1)と、ステップS4で計算した実測火災成長率αとを比較し(ステップS8)、その結果、実測火災成長率αが火災成長率αより大きい場合(ステップS8でYesと判断された場合)にはステップS9の処理に移行し、実測火災成長率αより輻射熱限界状態での予測天井面煙層温度Ts2を計算し、この予測天井面煙層温度Ts2をその後の検出温度値とする一方、実測火災成長率αが火災成長率αより小さい場合(ステップS8でNoと判断された場合)にはステップS10の処理に移行し、実測火災成長率αより煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度Ts1を計算し、この予測天井面煙層温度Ts1をその後の検出温度値とする。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、出火から火煙が危険なレベルに達する状態である滞在限界状態に至るまでの火災性状を的確に把握し、報知することのできる滞在限界状態報知方法、火災性状報知方法及びその火災性状に応じて出力される火災警報の意味を在館者や防災管理要員等に的確に伝達することのできる火災情報伝達システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の火災報知方法は、火災現象に伴う温度(熱)、輻射(炎)、燃焼生成物(煙)等の物理量が一定レベル以上になったことを検出して発報するものであるが、火災以外の場合にも発報してしまういわゆる非火災報の割合が極めて高い。そのため、従来の火災報知方法の場合には、発報があると直ちに現場に駆けつけて火災の発生をまず人的に確認し、その確認結果により初期消火や避難誘導等を行い、防火・防煙区画の形成を確認するなどの防災設備を作動させるといった初期対応活動を行うという手順がマニュアル化されている。このように、従来の火災報知方法は、火災信号が煙または温度の異常警報でしかないため、火災感知→現場駆けつけ→通報→消火→避難誘導→区画閉鎖確認という人的対応に大きく依存するものであった。
【0003】
初期消火に失敗した場合は、出火室の煙層が人の活動領域まで降下して危険なレベル(すなわち、滞在限界状態)に達する。このような段階では防火戸を閉鎖し、公設消防隊の活動を待つ一方、出火階の在館者の避難を完了させ、その他の階の在館者も避難を開始するように指示する必要がでてくる。この重要な判断をするための情報として出火室の滞在限界状態が位置付けられる。
【0004】
そこで、本発明者は、滞在限界状態の検知レベルとして、当該部屋の大きさ及び収容可燃物の質・量等の防災性状に応じた部屋の天井面の気流温度の値を設定し、当該部屋の天井面に配設した耐熱性を有する温度検知手段の検知温度が上記値に至ったときに当該部屋の火煙が危険なレベルに達したことを報知する滞在限界状態報知方法をすでに提案している(特許文献1参照)。
【0005】
一方、図11は、従来の自動火災報知システムの一構成例を示している。
【0006】
この自動火災報知システムは、火災の発生に伴う天井面気流の煙濃度、温度、温度上昇率が一定レベル以上になったことを熱感知器101や煙感知器102で検知すると、その検知に基づく発報信号が自動火災報知設備の受信機103に送られ、発報区域を表示するとともに主ベル103ba が鳴動して、防災管理要員に知らせるようになっている。
【0007】
感知器の発報を在館者に伝達する手段である警報端末装置としては、自動火災報知設備の受信機103に接続された火災ベル103b 、非常放送設備104に接続された非常用スピーカ104a、誘導灯信号装置105に接続された強い閃光を発するキセノン灯や誘導音声を発する機能を付加した誘導音付点滅形誘導灯105a、日常は電光サインにより業務情報やお知らせを行い非常時は火災の発生等の視覚警報を行う非常文字表示装置106等がある。
【0008】
このような従来の自動火災報知システムでは、自動火災報知設備103、非常放送設備104、誘導音付点滅形誘導灯105a、非常文字表示装置106等は、それぞれに警報制御機能を有しており、それぞれ自動火災報知設備の受信機103からの発報信号を警報機能の起動信号としている。つまり、自動火災報知設備からの発報信号が、それぞれの警報端末装置を起動させる目的に合わせて整合がとれていないのが現状である。例えば、自動火災報知設備からの発報信号は、主ベル103a、火災ベル103b、非常放送設備104にとっては現場確認指令信号であるが、誘導音付点滅形誘導灯105aにとっては火災の発生と避難口の位置を伝達するための信号として運用されている。また、各感知器101,102からの発報信号は、警報端末装置(非常放送設備104、誘導灯信号装置105、非常文字表示装置106)ごとの連動非連動操作機能を介しているため火災警報報知システム全体としての警報端末装置との連携状態の把握・運用管理に課題を残していた。
【0009】
このように、現状は自動火災報知設備の受信機103からの発報信号そのもので警報端末装置を起動させる方式をとっていたことから、非常放送設備104や誘導灯信号装置105などには、予め定型のメッセージが格納されており、発報信号に基づいてこの定型メッセージを報知するようになっている。例えば、非常放送設備104では、発報信号に基づいて「ただいま火災感知器が作動しました。現場を確認して下さい。」といったメッセージをスピーカ104aから報知し、誘導灯信号装置105では、発報信号に基づいて「こちら避難口です。」といったメッセージを誘導音付点滅形誘導灯105aの内蔵スピーカから報知する。そのため、火災性状に応じた内容の警報メッセージを伝達することができなかった。
【0010】
【特許文献1】
特開2002−008155号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
一般に火災は、火源が微小な潜伏段階(すなわち、燻焼段階)を経て着炎火災段階(すなわち、成長段階)へと時系列的に進展する。この場合、火災成長率α、発熱速度Q、火煙が危険なレベルに達するまでの煙層降下限界時間及びそのときの煙層温度は、出火室の床面積、天井高さ、開口部面積、出火原因、着火物、可燃物量等の防災特性データにより大きく異なる。
【0012】
例えば、火災成長率αは、火災室の天井面気流温度の計測値及び上記防災特性データに基づき、下記の式(1)を用いて求めることができる。
【0013】
【数1】
Figure 2004246542
【0014】
また、煙層降下による滞在限界時間tcrit1 及びその時の煙層温度TS1は、火災室の火災成長率α及び上記防災特性データに基づき下式(2)、(3)を用いて求めることができる。
【0015】
【数2】
Figure 2004246542
【0016】
上記(1)〜(3)式から明らかなように、実際の火災では火災成長率αの大きさが出火原因及び着火物により大きく異なるため、特許公報1の滞在限界状態報知方法のように検知レベルを予め設定して滞在限界状態での天井面温度を監視する方法には問題があった。つまり、火災成長率αの大きさによって煙層降下限界時の煙層温度TS1が異なるため、予め設定された検知レベルで天井面温度を監視していたのでは、このような煙層降下限界時の煙層温度TS1の変動に充分に対応できていないといった問題が残されていた。
【0017】
また、特許文献1の滞在限界状態報知方法は、煙層降下のみによって滞在限界状態を報知するものであり、輻射熱による滞在限界状態については報知できないといった問題が残されていた。
【0018】
さらに、特許文献1の滞在限界状態報知方法では、耐熱特性を有する温度検知手段を用いているが、温度検知手段の耐熱限界を超えてしまった場合には、滞在限界状態の報知がされなくなり、在館者等に危険を報知できなくなってしまうといった問題が残されていた。
【0019】
また、現行の熱感知器や煙感知器は、一定の温度上昇や温度上昇率、一定の煙濃度等に達したときに単に発報するだけの異常警報であり、火災室の面積、天井高さ、開口部の大きさ等により、感知器が発報したときの火源の大きさ、火災の進展速度、滞在限界状態までの余裕時間が異なる等の火災安全上必要となる意味情報が不足していた。そのため、人が現地に駆けつけて状況を確認しなければ火災の性状(進展状況等)が把握できないので、人的対応の範囲を超えた高層・大規模建築物では実際には緊急時の対応が間に合わないといった問題があった。
【0020】
一方、従来の自動火災報知システムでは、異常を知らせる熱感知器101や煙感知器102からの発報信号は、自火報設備では人的活動開始信号として、その他の非常放送設備104や誘導音付点滅形誘導灯105a等では避難開始信号として個別に制御されているため、システム全体として統一された円滑な運用ができないといった問題があった。また、各警報端末装置(非常放送設備104、誘導灯信号装置105、非常文字表示装置106)の連動、非連動も、各警報端末装置ごとに個別に制御していたため、実際にシステムとして連動しているかどうかの全体的な管理も行えないといった問題があった。
【0021】
さらに、従来の自動火災報知システムでは、各警報端末装置(非常放送設備104、誘導灯信号装置105、非常文字表示装置106)が熱感知器101や煙感知器102からの発報信号に基づいて各装置に予め内蔵されている定型メッセージを起動させることしかできず、火災の進展状況に応じた警報メッセージをそれぞれの警報端末装置から報知することができないといった問題があった。
【0022】
本発明は上記問題点を解決すべく創案されたもので、第1の目的は、火災成長率が大きく異なる火災に対応して滞在限界状態を報知することのできる滞在限界状態報知方法を提供することにある。また、第2の目的は、温度検知手段が耐熱限界を超えて故障する前に予め滞在限界状態を報知できるようにした滞在限界状態報知方法を提供することにある。また、第3の目的は、火災の発生を単に報知するのではなく、火災の性状を報知することのできる火災性状報知方法を提供することにある。また、第4の目的は、火災の発生及び火災の進展状況を的確に把握できるように火災フェーズを表す意味情報の形で各警報端末装置に伝達することのできる火災情報伝達システムを提供することにある。また、第5の目的は、火災発報を言語メッセージ化し、各種マルチメディア設備を使用して異常警報を一元的に伝達することのできる火災情報伝達システムを提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、天井面に配設した温度検知手段で天井面気流温度を一定時間ごとに計測し、その計測温度値から火災成長率αを計算し、この計算した火災成長率αに基づく煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度と前記温度検知手段で検知される天井面気流温度とを比較して滞在限界状態を報知することを特徴とする。
【0024】
このような特徴を有する請求項1記載の発明によれば、実際の火災での火災成長率αは上記式(1)を用いて計算することができ、その火災成長率αに対応した煙層降下限界時の予測天井面煙層温度TS1は、上記式(3)を用いて計算できるので、その計算した予測天井面煙層温度TS1と温度検知手段で検知される天井面気流温度とを比較することにより、滞在限界状態を報知することができる。すなわち、温度検知手段で検知される天井面気流温度が煙層降下限界時の予測天井面煙層温度TS1に達したとき、滞在限界状態であることを報知する。このように、本発明によれば、火災の発生だけでなく、火災室の滞在限界状態を検知できるので、この検知信号を利用して、火災の進展に応じて自動的に的確な防災設備の制御を行うことができる。
【0025】
また、請求項2記載の発明は、天井面に配設した温度検知手段で天井面気流温度を一定時間ごとに計測し、その計測温度値から火災成長率αを計算し、この計算した火災成長率αが予め予測計算された当該部屋についての煙層降下時間と輻射限界時間が同じになる火災成長率αよりも大きい場合は、輻射熱限界状態での予測天井面煙層温度を比較基準値として前記温度検知手段で検知される実測天井面気流温度と比較し、前記実測天井面気流温度が前記予測天井面煙層温度に達した場合に滞在限界状態を報知する一方、前記火災成長率αが前記火災成長率αよりも小さい場合は、煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度を比較基準値として前記温度検知手段で検知される実測天井面気流温度と比較し、前記実測天井面気流温度が前記予測天井面煙層温度に達した場合に滞在限界状態を報知することを特徴とする。
【0026】
このような特徴を有する請求項2記載の発明によれば、実際の火災での火災成長率αは、上記式(1)を利用して計算することができ、その火災成長率αに対応した煙層降下限界時の予測天井面煙層温度TS1は、上記式(3)を用いて計算できる。
【0027】
また、輻射熱限界時間(輻射熱による滞在限界時間)tcrit2 は、下式(4)の輻射熱限界値Iの計算式より計算できるので、輻射熱限界時の予測天井面煙層温度TS2は、この輻射熱限界時間tcrit2 と上記の火災成長率αとに基づき、下式(5)を用いて計算することができる。
【0028】
【数3】
Figure 2004246542
【0029】
ここで、上記式(4)では、輻射熱限界値Iを2.5kW/m2としている。
【0030】
また、予め予測計算された当該部屋についての煙層降下限界時間と輻射限界時間が同じになる火災成長率αは、煙層降下限界時間を計算する上記式(2)と、輻射熱限界時間を計算する上記式(4)から求め、その時の煙層温度TS1=TS2は上記式(3)または(5)から計算することができる。
【0031】
そして、計算した火災成長率αが火災成長率αよりも大きい場合には輻射熱限界時の予測天井面煙層温度TS2を比較基準値とし、火災成長率αが火災成長率αよりも小さい場合には煙層降下限界時の予測天井面煙層温度TS1を比較基準値として、温度検知手段で検知される実測天井面気流温度と比較し、実測天井面気流温度が予測天井面煙層温度TS1またはTS2に達したとき、滞在限界状態であることを報知する。このように、本発明によれば、火煙の危険なレベルを煙層降下と輻射熱の双方から検知できるので、この検知信号を利用して、火災の進展に応じて自動的に的確な防災設備の制御を行うことができる。
【0032】
また、請求項3記載の発明は、前記温度検知手段自体に耐熱温度を検出する機能を内蔵し、前記耐熱温度の検知信号に基づいて次の火災フェーズ段階の制御を行うことを特徴とする。
【0033】
このような特徴を有する請求項3記載の発明によれば、温度検知手段が耐熱温度を超えてしまって機能を果たさなくなった場合には、滞在限界状態を報知できなくなり危険であるので、その前に内蔵の耐熱温度検知機能による検知信号に基づいて次の火災フェーズ段階の制御を行う。例えば、滞在限界状態を報知することにより、滞在限界でのフェイルセーフ機能(予め故障の発生を想定して、被害を最小限にとどめるように工夫した安全機能)を果たすことができる。この方法によれば、温度検知手段の耐熱性能を強化することに較べ、コストが削減でこるのが特徴である。
【0034】
また、請求項4記載の発明は、天井面に配設した温度検知手段において一定時間ごとに計測した計測温度値から火災の発熱速度Q及び火災成長率αを計算し、この計算した発熱速度Q及び火災成長率αに基づいて火災の性状を報知することを特徴とする。ここで、発熱速度Qは、天井面気流温度の計測値と火災室の防災特性データとに基づき、下式(6)を用いて計算することができる。
【0035】
【数4】
Figure 2004246542
【0036】
このような特徴を有する請求項4記載の発明によれば、例えば火災成長率αの大きさに基づき、例えばFast火災(α≧0.05)、Medium火災(0.05>α≧0.0125)、Slow火災(0.0125>α≧0.005)に区分し、一定の煙濃度値、温度上昇値、発熱速度になった時、及び滞在限界状態になった時に併せて表示(報知)する。これにより、火災の初期から滞在限界状態に至るまでの火災の性状を把握することができ、人的活動及び対応策の制御における判断情報として役立てることができる。
【0037】
また、請求項5記載の発明は、天井面に配設された温度検知手段及び煙検知手段と、これら温度検知手段からの天井面気流温度及び煙検知手段からの煙濃度のデータ信号を取り込み、そのデータを火災フェーズの進展区分を表す情報に変換する火災信号処理手段と、前記変換された情報に基づいて火災フェーズの進展警報及びそれに対応した行動指示を言語メッセージに作成する警報メッセージ作成手段と、作成した言語メッセージ情報をインターフェース仕様の異なる複数の警報端末装置に対し、それらの入出力形式に変換して出力する出力制御手段とを一元的に集約したことを特徴とする。
【0038】
ここで、火災フェーズの進展区分を、例えば図7すように、煙の発生は見られるが発熱速度は一定レベル以下の燻焼火災フェーズ、可燃物に着火し温度上昇が見られる状態である着炎火災フェーズ、炎が大きくなり発熱速度が一定レベル以上になった火災確定フェーズ、火煙で人が出火室に滞在できず、消火活動等ができなくなる出火階限界フェーズ、階段室等の避難経路が火煙により在館者の避難に危険な状態になった上階拡大フェーズに区分する。
【0039】
警報メッセージ作成手段は、その火災フェーズ進展警報及びそれに対応した行動指示を、誰にでも理解できる意味情報としての言語メッセージの形に作成する。例えば、煙発生(燻焼火災フェーズ)または温度異常(着炎火災フェーズ)で防災管理要員に活動開始を指示し、火災の確定(火災確定フェーズ)で火災階の避難開始を指示し、出火室が滞在限界状態になった(出火階限界フェーズ)ことで全館の避難開始を指示し、階段室等の避難経路が危険な状態になった(上階拡大フェーズ)ことで安全な避難経路への誘導指示及び消防隊による救助活動を要請するなどのように、火災の進展状況と人的活動を対応させて伝達すべき情報を言語メッセージの形に作成する。
【0040】
出力制御手段は、この言語メッセージ情報を機器インターフェース仕様またはネットワークインターフェース仕様の異なる複数方式の警報端末装置に対し、それらの入出力形式及び信号形式に変換して出力する。例えば、非常放送設備に対しては、文字情報をテキスト/ボイスコンバータによって音声に変換し、増幅器の信号供給方式に合わせて出力する。非常文字表示装置に対しては、JIS漢字コード、ASCIIコード等で規定された文字コードで構成されたファイルをテキスト出力する。テレビやパソコン等に対しては、それぞれのグラフィック表現方法、画像フォーマット等に応じた方式に文字情報を変換して映像出力する。ただし、インターネットや構内LAN等のオープンネットワークを介して言語メッセージ情報を伝達するためには、ネットワーク機能を使うための電気的、ソフトウエア的な仕様、手順、規約等に適合したネットワークインターフェース機能が必要である。警報情報をインターネット接続インターフェースを介して伝達するためには、メールサーバを自前のものにするか、インターネットサーバを提供するプロバイダーにクライアント契約するなどして、警報メールで伝達する。
【0041】
このように、火災信号処理手段、警報メッセージ作成手段及び出力制御手段を一元的に集約し管理することにより、本システムに接続される各種警報端末装置に対し、火災の発生及び火災の進展状況に応じた緊急時の円滑な情報伝達が可能な手段を提供できる。
【0042】
また、請求項6記載の発明は、上記請求項5記載の発明において、前記出力制御手段から情報ネットワークを通じて全ての火災情報を言語メッセージ情報の形で伝送し、前記警報端末装置において音声警報及び/または視覚表示の形に変換して出力することを特徴とする。
【0043】
警報サーバから構内回線やLAN等の情報ネットワークを介して警報端末装置に音声警報と視覚表示警報の双方を伝送しようとすると、個々の警報端末装置に定型メッセージが格納されている方式では、火災性状に応じた内容の情報伝達及び火災情報伝達システム全体としての機能設定、運用管理の一元化は難しかった。請求項6記載の発明によれば、警報端末装置である例えば誘導灯に点滅装置と音声装置を組み込み、かつ非常文字表示装置を併設している場合、文字信号を音声警報及び視覚表示警報の双方に変換する機能を警報端末装置側に持たせることで、伝送回線に誘導灯回路を使った電灯線搬送方式を採用することができる。すなわち、LAN等を含むあらゆる伝送路を利用してあらゆる警報端末装置を接続することが可能となり、これら警報端末装置に一元管理された言語メッセージを緊急情報として伝達することが可能となる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0045】
図1は、本発明の滞在限界状態報知方法及び火災性状報知方法の処理手順を示すフローチャートである。以下、図1に示すフローチャートを参照して、本発明の滞在限界状態報知方法及び火災性状報知方法の全体的な処理の流れを一通り説明し、その後で、請求項1〜4に対応した個別の処理を具体的に説明する。
【0046】
<全体的な処理の流れの説明>
まず最初に、個々の室について、室の大きさ、及び内装、収納可燃物の量・種類(質)等から、上記式(2)、(3)、(4)、(5)を用いて、煙層降下限界状態での煙層温度と輻射熱限界状態での煙層温度とが同じになる火災成長率αを計算する(ステップS1)。
【0047】
一方、天井面に設けられた温度検知手段により天井面の気流温度を一定時間(例えば、10秒等)ごとに計測し(ステップS2)、天井面に設けられた煙検知手段により天井面煙濃度を一定時間(例えば、10秒等)ごとに計測する(ステップS3)。
【0048】
そして、計測温度値から温度上昇率を計算し、その温度上昇率より、上記式(1)を用いて実際の火災成長率(実測火災成長率)αを計算する(ステップS4)。
【0049】
また、ステップS3で計測した同一室内の煙検知手段の煙濃度値に基づき、例えば煙濃度データが減光率で10%/m以上に達すると燻焼火災が発生したと判断して報知する(ステップS5)。また、ステップS2で計測した同一室内の温度検知手段の温度計測値に基づき、例えば温度データが65℃以上、または20℃/分以上に達すると着炎火災が発生したと判断して報知する(ステップS6)。
【0050】
また、ステップS2で計測した同一室内の温度検知手段の温度計測値と、建築空間の構造、防災特性データとに基づき、上記式(6)を用いて、火災による発熱速度Qを計算し、その計算した発熱速度Qの値が一定レベル(例えば、20〜100kWの範囲内で設定された任意の値)以上になったとき火災が確定したと判断して報知する(ステップS7)。
【0051】
また、室の防災特性できまる火災成長率α(ステップS1)と、ステップS4で計算した実測火災成長率αとを比較する(ステップS8)。その結果、実測火災成長率αが火災成長率αより大きい場合(ステップS8でYesと判断された場合)にはステップS9の処理に移行し、実測火災成長率αが火災成長率αより小さい場合(ステップS8でNoと判断された場合)にはステップS10の処理に移行する。
【0052】
ステップS9では、実測火災成長率αより、上記式(1)、(4)、(5)を用いて輻射熱限界状態での予測天井面煙層温度Ts2を計算し、この予測天井面煙層温度Ts2をその後の検出温度値とする。そして、この予測天井面煙層温度Ts2と、温度検知手段で計測される天井面気流温度Tとを随時比較し、実測天井面気流温度Tが予測天井面煙層温度Ts2に達したとき(T>=Ts2と判断されたとき)、出火室が滞在限界状態に達したと判断して報知する(ステップS11)。
【0053】
一方、ステップS10では、実測火災成長率αより、上記式(1)、(2)、(3)を用いて煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度Ts1を計算し、この予測天井面煙層温度Ts1をその後の検出温度値とする。そして、この予測天井面煙層温度Ts1と、温度検知手段で計測される天井面気流温度Tとを随時比較し、実測天井面気流温度Tが予測天井面煙層温度Ts1に達したとき(T>=Ts1と判断されたとき)、出火室が滞在限界状態に達したと判断して報知する(ステップS12)。
【0054】
さらに、ステップS4で求めた実測火災成長率αに基づき、その実測火災成長率αの大きさを複数に区分し、煙濃度が一定レベルを超えたとき(ステップS5での燻焼火災の報知時)、気流温度が一定レベルを超えたとき(ステップS6の着炎火災の報知時)、発熱速度Qが一定レベルを超えたとき(ステップS7の火災確定の報知時)、及びステップS11、ステップS12での火災室の滞在限界状態の報知時に、併せて表示する(ステップS13)。
【0055】
すなわち、燻焼火災、着炎火災、火災確定の報知や滞在限界状態の報知時に、火災成長率αの区分を併せて表示することで、出火階の避難を開始させる等、円滑な避難誘導を図ることができる。
【0056】
また、温度検知手段に内蔵された耐熱温度の検知機能により、温度検知手段自体の温度を監視し(ステップS14)、温度検知手段自体が耐熱限界に達したことを報知する(ステップS15)。この場合も、ステップS13で求めた火災成長率αの区分を併せて表示しても良い。
【0057】
以上が、本発明の滞在限界状態報知方法及び火災性状報知方法の全体的な処理の流れである。
【0058】
次に、本発明の請求項1〜4に対応した具体的な実施例について説明するが、その前に、上記各滞在限界時間tcrit1 、tcrit2 やその時点での各天井面煙層温度TS1、TS2が、出火室の大きさ、内装仕様、収容可燃物の種類・量・密度から計算される火災成長率αの値によって大きく変わってくる点について、図2ないし図5を参照して説明する。
【0059】
図2は、出火室の床面積Aroomが100m 、出火室の天井高さHroomが2.7mの場合の火災成長率αの変化に対応した輻射熱による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号51で示す曲線)と、煙層降下による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号52で示す曲線)とを示している。この例では、出火室の床面積が小さいため、実火災データから求められた火災成長率αの値が例えば設計火災成長率である0.05から、0.0125、0.005と変わっても、輻射熱による限界状態(符号51)での煙層温度よりも煙層降下による限界状態(符号52)での煙層温度の方が常に低い値となっている。例えば、火災成長率αが設計火災成長率である0.05の場合では、輻射熱による滞在限界時間が107秒であり、そのときの煙層温度が108℃であるのに対し、煙層降下による滞在限界時間が67秒であり、そのときの煙層温度が109℃となる。
【0060】
また、図3は、出火室の床面積Aroomが200m、出火室の天井高さHroomが2.7mの場合の火災成長率αの変化に対応した輻射熱による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号53で示す曲線)と、煙層降下による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号54で示す曲線)とを示している。この例では、出火室の床面積がまだ小さいため、上記式(1)により計算された火災成長率αの値が例えば設計火災成長率である0.05から、0.0125、0.005と変わっても、輻射熱による限界状態(符号53)での煙層温度よりも煙層降下による限界状態(符号54)での煙層温度の方が常に低い値となっている。例えば、火災成長率αが設計火災成長率である0.05の場合の発熱速度Q21では、輻射熱による滞在限界時間が121秒であり、そのときの煙層温度が185℃であるのに対し、煙層降下による滞在限界時間が101秒であり、そのときの煙層温度が151℃となる。
【0061】
また、図4は、出火室の床面積Aroomが500m、出火室の天井高さHroomが2.7mの場合の火災成長率αの変化に対応した輻射熱による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号55で示す曲線)と、煙層降下による滞在限界状態での煙層温度の変化(図中の符号56で示す曲線)とを示している。この例では、出火室の床面積が比較的大きいため、実火災データから求めた火災成長率αの値が大きい場合は、輻射熱による限界状態(符号55)での煙層温度の方が低く、火災成長率αの値が小さい場合は、煙層降下による限界状態(符号56)での煙層温度の方が低い。
【0062】
具体的には、火災成長率αが0.014より大きい場合は煙層降下による限界状態(符号56)での煙層温度より輻射熱による限界状態(符号55)での煙層温度の方が低い。
【0063】
火災成長率αが0.014の場合には、煙層降下による限界状態(符号56)での煙層温度と輻射熱による限界状態(符号55)での煙層温度とが同じ値になる。すなわち、滞在限界時間が共に225秒であり、そのときの煙層温度が共に185℃となる。
【0064】
また、火災成長率αが0.014よりも小さい場合は煙層降下による限界状態(符号56)での煙層温度の方が輻射熱による限界状態(符号55)での煙層温度よりも低い値となる。
【0065】
また、図5は、出火室の床面積Aroomが1000m、出火室の天井高さHroomが2.7mの場合の火災成長率αの変化に対応した輻射熱による滞在限界状態の変化(図中の符号57で示す曲線)と、煙層降下による滞在限界状態の変化(図中の符号58で示す曲線)とを示している。この例では、出火室の床面積が大きいため、実火災データから求めた火災成長率αの値が0.006より大きい場合は、輻射熱による限界状態(符号57)での煙層温度の方が煙層降下による限界状態(符号58)での煙層温度よりも低い。
【0066】
火災成長率αが0.006の場合には、煙層降下による限界状態(符号58)での煙層温度と輻射熱による限界状態(符号57)での煙層温度とが共に396秒であり、そのときの煙層温度が共に185℃となる。
【0067】
現行の火災感知器は、火災発生を検知するのが目的であるため、このような高温(185℃)の煙層中に400秒近くも耐えて、温度検知機能を保証できる耐熱性能はないのが一般的である。その耐熱性能は、温度検知部の熱時定数と煙層温度の積に比例する。
【0068】
図5では、その特性例を符号61の曲線で表す。このような大きな室での場合、理想的には輻射熱限界(符号57)と煙層降下限界(符号58)で検出すべきであるが、天井面気流温度が温度検知手段の耐熱限界(符号61)に達したことで、滞在限界状態に達したと同様の警報・制御を行おうとするものである。
【0069】
具体的には、輻射熱限界のP1点で検知すべきところがP2点で、あるいは煙層降下限界のP3点で検出すべきところがP4点で発報することになる。
【0070】
この温度検知手段自体に耐熱限界検知機能を付加する方法は、温度検知手段に十分な耐熱性能を持たせるよりもコストが低減できるという特徴がある。
【0071】
このように、滞在限界時間tcrit1 、tcrit2 やその時点での各天井面煙層温度TS1、TS2が、火災成長率αの値によって大きく変わることを踏まえて、次に、本発明の請求項1〜3に対応した滞在限界状態報知方法、及び請求項4に対応した火災性状報知方法の具体的な実施例について説明する。
【0072】
<実施例1>
本実施例1は、火災の進展状況に応じて火災成長率αの大きさが異なることを考慮した実施例であり請求項1に対応している。以下、図3を参照して本実施例1を説明する。
【0073】
図3に示すように、出火室の面積が比較的小さい場合には、火災成長率αの値に係わらず、輻射熱による限界状態での煙層温度よりも煙層降下による限界状態での煙層温度の方が常に低い値となっている。煙層降下による限界状態での煙層温度は、火災成長率αが0.05の場合は151℃となっており、火災成長率αが0.0125の場合は100℃となっており、火災成長率αが0.005の場合は77℃となっている。
【0074】
煙層降下限界状態での煙層温度を検出温度値として設定しようとすると、図3に示すように、火災成長率αが0.05の場合には検出温度設定値としては151℃であり、火災成長率αが0.0125の場合には検出温度設定値としては100℃であり、火災成長率αが0.005の場合には検出温度設定値としては77℃であり、これらの検出温度設定値と実測天井面気流温度Tとを比較して限界状態を検知する。この場合、煙層降下限界状態の検出温度設定値をどの値にするかが問題である。火災成長率αが0.05の時の煙層降下状態での煙層温度である151℃に設定すれば、実火災の火災成長率αが0.05よりも小さい場合は、限界状態に達しても報知しないことが起こり、また、火災成長率αが0.005での煙層降下時の煙層温度である77℃に設定すれば、設計火災成長率0.05での限界時間101秒よりも早く発報してしまい、計画どおりに避難が完了していないのに、次段階の警報・制御が行われることになり、システム運用に混乱を招く恐れがある。
【0075】
そこで、本発明は、予め検出温度の設定を行うのではなく、天井面気流温度の計測データより、実火災の火災成長率αを求め、その火災成長率αに対応した予測限界温度と計測気流温度を比較して、滞在限界状態の検出を行おうとするものである。
これにより、出火原因や着火物により異なる火災成長率の大きさに応じて滞在限界状態を的確に報知することが可能となる。
【0076】
<実施例2>
本実施例2は、煙層降下による滞在限界での煙層温度と輻射熱による滞在限界での煙層温度との双方を考慮した実施例であり請求項2に対応している。以下、図4を参照して本実施例2を説明する。
【0077】
図4に示す出火室の面積が比較的大きい場合の例では、火災成長率αが0.014の場合に、煙層降下による限界状態での煙層温度と輻射熱による限界状態での煙層温度とが同じ185℃になる。従って、天井面気流温度の計測データから求めた火災成長率αが予め求めたαの値である0.014よりも大きい場合は、輻射熱限界での煙層温度を比較基準値とし、αが0.014よりも小さい場合は、煙層降下限界での煙層温度を比較基準値とする。
【0078】
具体的には、火災成長率αが0.05の場合には、煙層降下による限界状態での煙層温度291℃に対して輻射熱による限界状態での煙層温度185℃が低いので、この場合には輻射熱による限界状態での煙層温度である185℃を検出温度値とする。また、火災成長率α(=α)が0.014の場合には、煙層降下による限界状態での煙層温度と輻射熱による限界状態での煙層温度とが同じ185℃であるので、この場合の検出温度値は185℃である。また、火災成長率αが0.0125の場合には、輻射熱による限界状態での煙層温度185℃に対して煙層降下による限界状態での煙層温度177℃が低いので、この場合には煙層降下による限界状態での煙層温度である177℃を検出温度値とする。また、火災成長率αが0.005の場合には、輻射熱による限界状態での煙層温度185℃に対して煙層降下による限界状態での煙層温度129℃が低いので、この場合には煙層降下による限界状態での煙層温度である129℃を検出温度値とする。これにより、出火原因や着火物により異なる火災成長率の大きさに応じた煙層降下及び輻射熱からの双方の滞在限界状態を的確に報知することが可能となる。
【0079】
<実施例3>
本実施例3は、煙層温度に基づいて滞在限界を報知する前に温度検知手段が耐熱限界を超えてしまった場合の不具合を考慮した実施例であり請求項3に対応している。以下、図5を参照して本実施例3を説明する。
【0080】
図5に示すように、大きな部屋で火災が発生した場合は滞在限界時間が長くなる。特に、火災成長率αが小さい時は、温度検知手段が高い温度に長時間さらされることになる。そのため、温度検知手段が耐熱限界を超えてしまって故障する可能性がある。
【0081】
そこで、温度検知手段に自体の温度を監視する機能を内蔵させ、耐熱限界に到達したことを報知するようにする。
【0082】
具体的には、火災成長率αが0.0125の場合には、輻射熱による限界状態の煙層温度である185℃が検出温度値であるので煙層温度が185℃に達するP1点で滞在限界状態が報知されることになる。しかし、図5から分かるように、このP1点より前のP2点で、温度検知手段が耐熱限界に達してしまう場合は、P1点ではすでに温度検知手段が壊れており、滞在限界状態を報知できない可能性が高い。
【0083】
そのため、本実施例3では、温度検知手段に内蔵されている耐熱温度の検知機能を利用し、温度検知手段が耐熱限界に達したP2点を報知し、滞在限界状態を報知しないまま火災が進展してしまうことを防止する。
【0084】
<実施例4>
本実施例4は、火災の発生を単に報知するのではなく、火災の性状及び拡大状況を報知できるように考慮した実施例であり請求項4に対応している。以下、図1及び図6を参照して本実施例4を説明する。
【0085】
図1は、天井面気流の温度検知手段及び煙濃度検知手段からの計測データに基き、火災の発生及び火災の拡大状況を報知するシーケンスフローを示したものである。
【0086】
火災発生の報知は、火災に伴う煙及び温度上昇が一定レベルを超えたことを検知することで行う。
【0087】
火災は出火原因、着火物、出火室の防災特性等で、その性状は大きく異なる。従って、出火原因がたばこや電気火災等の、火源が微小な潜伏段階(すなわち、燻焼過程)を経て着炎火災段階へと進展する火災の場合と、出火原因が店舗の衣料品等に放火され急激に拡大する恐れの大きい火災の場合は、同じ「煙または温度異常」という警報に加えて火災性状を把握できる情報が求められる。
【0088】
図6は、火災の性状を火災成長率αの大きさで区分した例を示したものである。上記したように、実際の火災における火災成長率αは、天井面気流温度の計測値と出火室の防災特性データとに基づき、上記式(1)を用いて計算することができる。この火災成長率αの大きさに基づき、Fast火災(α≧0.05)、Medium火災(0.05>α≧0.0125)、Slow火災(0.0125>α≧0.005)に区分して、燻焼火災、着炎火災、火災確定、滞在限界の各段階で併せて表示することで、火災性状を表す情報内容の水準を向上させることができる。
【0089】
また、煙異常警報は必ずしも燻焼火災を意味しない。急激に燃焼する火災からの煙である場合もあるからである。この時、火源の大きさを表す上記式(6)から求められる発熱速度Qの値が、例えば5KW以下であれば燻焼火災と判断して報知することができる。単に温度上昇を伴うか否かを検出して判断する方法では、出火室の床面積や天井高さ等の違いにより、判断基準となる火源の大きさが一定ではなくなることから、発熱速度Qを判断基準とすることを特徴とする。
【0090】
同じ理由で、火源が一定の大きさ以上になったことをもって火災と断定し(火災確定)、在館者に避難を開始したり、防火・防煙区画を形成するよう制御する場合も、発熱速度Qの値を判断基準にすることで、発報信号に意味付けができる。
【0091】
さらに、出火室において煙層が人の活動領域まで降下したり、輻射熱が危険なレベルに達した滞在限界状態が報知される段階は、初期消火の失敗であり、全在館者に避難を開始させ、防火・防煙区画を閉鎖して上階への煙伝播及び延焼を防止する制御がなされる。この滞在限界警報に、火災成長率αの区分及び/又は発熱速度Qの値を加えることで対応活動の緊急度を報知(表示)することができる。
【0092】
以上で、請求項1〜4に対応した実施例の説明を終了する。
【0093】
図8は、本発明の火災情報伝達システムの概略構成図である。
【0094】
この火災情報伝達システムは、火災の発生及び火災の拡大・進展状況を監視するために、天井面に取り付けられた1または複数個の温度検知手段2と、1または複数個の煙濃度検知手段3との出力が警報サーバ4に接続されている。温度検知手段2はアナログ式の熱感知器が用いられており、煙濃度検知手段3はアナログ式の煙感知器が用いられている。また、温度検知手段2は、自身の耐熱温度を検知する機能を内蔵している。
【0095】
警報サーバ4は、温度検知手段2からの天井面気流温度データ及び煙検知手段3からの煙濃度データを取り込む入力インターフェース部41と、入力インターフェース部41で取り込んだデータを火災フェーズの進展区分を表す情報に変換する火災信号処理部42と、区分された火災フェーズの進展警報及びそれに対応した行動指示を言語メッセージに作成する警報メッセージ作成部43と、作成した言語メッセージ情報をインターフェース仕様の異なる複数の警報端末装置に対し、それらの入出力形式に変換して出力する出力制御手段である出力制御部44とを備えている。
【0096】
出力制御部部44は、接点出力インターフェース部441、音声出力インターフェース部442、テキスト出力インターフェース部443、ネットワークインターフェース部444からなる。
【0097】
また、この出力制御部44に接続される非常放送設備11には、起動信号としての接点出力及び/又は音声出力が送られ、非常放送用スピーカ12から音声で報知される。また、出力制御部44に接続される非常文字表示装置14には、インターフェース盤13を介して起動信号としての接点出力及び/又はテキスト信号出力が送られ、電光文字で報知される。さらに、出力制御部44に接続される誘導音付点滅形誘導灯16には、誘導灯信号装置15を介して起動信号としての接点出力及び/又は音声出力が送られ、キセノン灯からの強い閃光及びスピーカからの音声で報知される。
【0098】
また、ネットワーク出力インターフェース部444は、通信回線網Nを介して他の警報端末装置17に接続されている。この言語メッセージ情報を受信して音声警報及び/又は視覚警報に変換して情報伝達する警報端末装置17としては、テレビジョン受像機、パソコン、携帯電話、ファクシミリ装置、テレキャスト、データ放送受信器、LEDディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置などにその機能を持たせることができる。
【0099】
図9は、上記火災情報伝達システムにおける警報サーバ4の機能を、図1に示した火災信号処理手順を実施する火災信号処理部42、及び警報メッセージ作成部43での処理を機能的に分解して例示した説明図である。
【0100】
火災信号処理部42は、火災フェーズの進展を検知する機能を受け持ち、異常煙濃度を監視して燻焼火災を検出すると防災要員に現地確認活動の開始を指示するメッセージを発する。また、異常温度または温度上昇率を監視して着炎火災を検出すると現地での消火活動の開始を指示するメッセージを発する。また、発熱速度を監視して火災確定を検出(判断)すると火災階にいる在館者に避難の開始を指示するメッセージを発する。また、煙層降下と輻射熱を監視して限界状態を検出(判断)すると全館にいる在館者に避難の開始を指示するメッセージを発する。また、避難経路の安全を監視して上階拡大を検出(判断)すると消防隊への救急・救助を指示するメッセージを発する。
【0101】
警報メッセージ制御部43は、予め火災フェーズの進展と対応した活動指示を言語メッセージの形で出力する機能を受け持ち、燻焼火災の検出信号を、火災確認指令メッセージに変換して出力制御部44に出力する。また、着炎火災の検出信号を、消火活動指令メッセージに変換して出力制御部44に出力する。また、火災確定の検出信号を、出火階避難指令メッセージに変換して出力制御部44に出力する。また、限界状態の検出信号を、全館避難開始指令メッセージに変換して出力制御部44に出力する。また、上階拡大の検出信号を、救援指令メッセージに変換して出力制御部44に出力する。
【0102】
出力制御部44は、送られてきた言語メッセージ(警報情報)を各警報端末装置及び/又はネットワークの接続条件に合わせて出力する機能を受け持つ。例えば、非常放送設備11へは、放送区域を制御する起動信号と共に、音声に変換されて送出される。また、非常文字表示装置14へは、テキスト信号の形で送出される。
【0103】
また、警報サーバ4からの警報メッセージは、警報端末装置に直接送出される場合の他に、ネットワーク出力インターフェース部444を介して言語メッセージの形で送出される場合がある。通信回線網Nを介して送出される場合は、警報端末装置側において警報メッセージを音声警報及び/又は視覚警報に変換して出力する。このように言語メッセージの形に一元的に作成・配信する形態をとることで、火災情報伝達システム全体の運用状況の把握が可能となり、緊急時の円滑な対応に役立つ。また、複数設備にまたがる警報端末装置のシステム設定機能を警報サーバに集約することで、専門技術者が一元的に火災性状に応じた緊急対応活動計画の立案、システム設定を行い、全体を調整した上でシステム構築をすることができる。
【0104】
図10は、警報サーバ4のネットワークインターフェースから分電盤21の電灯線モデム21a、誘導灯電源回路22を利用した電灯線LAN端末制御部23のモデム23a及び入出力インターフェース部23bを介して、誘導音付点滅形誘導灯16及び非常文字表示装置14が接続されている火災情報伝達システムの構成の例を示したものである。
【0105】
即ち、階段室への入口(すなわち、避難口)近傍には、誘導音に加え、煙中でも避難口の位置が分かり易いように、強い閃光を発するキセノン灯や音声誘導機能を付加した誘導音点滅形誘導灯16を配設し、聴覚障害者のために電光サインの文字情報で避難情報等を伝達することのできる非常文字表示装置14を設置する。
【0106】
この場合、言語情報の形で伝送し、誘導音付点滅形誘導灯16及び非常文字表示装置14のところで音声警報や視覚警報に変換することで、新たな信号線や制御線の敷設を伴わず、火災の進展に応じた避難情報等の伝達、機能拡張及び管理の一元化を行うことができる。
【0107】
さらに、防災センターで集中監視された火災の進展状況や指示を言語情報の形で伝達し、携帯無線装置(PHSや携帯電話機等)18で自衛消防隊員等に連絡することもできる。携帯無線装置18は最も強い電波を受けた基地局19を自動的に選んでネットワークに接続する仕組みを内蔵させることができるので、おおまかではあるが消防隊員の位置を把握でき、隊員の安否確認機能として運用することができる。
【0108】
このように、システム機能設定及び運用管理機能を警報サーバ4に一元的に集約させることで、警報の意味を整合することが容易になり、迅速かつ円滑な運用を図ることができる。
【0109】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、天井面に配設した温度検知手段からの天井面気流温度計測データから、出火原因や着火物等で大きく変化する火災成長率にも対応しうる滞在限界状態の検知方法を実現できる。このことは、火災の発生を検知するだけでなく、火災の進展状況も把握できる手段を獲得することでもある。天井面気流の温度上昇又は温度上昇率を検出した異常を報知するだけの、人的対応活動を開始するトリガー信号として運用される現行の自動火災報知設備に比べ、火災の進展に応じて自動的に的確な防災設備の制御及び離れた場所への火災の意味情報を伝達することができるため、人的対応では限界のある超高層・大規模建築物に対して有効的な防火管理手段を提供できる。
【0110】
また、請求項2記載の発明によれば、監視対象となる部屋の天井面に配設した温度検知手段からの天井面気流温度の計測データから、出火原因や着火物等で大きく変化する火災成長率にも対応しうる滞在限界状態の検知方法において、煙層降下による滞在限界状態に加えて輻射熱による滞在限界状態の双方を検出する方法を提供する。すなわち、火煙の危険なレベルを煙層降下と輻射熱の双方から検知できるので、この検知信号を利用して、火災の進展に応じて自動的に的確な防災設備の制御及び離れた場所への、さらに高度な火災の意味情報を伝達することができるため、人的対応では限界のある超高層・大規模建築物に対して有効的な防火管理手段を提供できる。
【0111】
また、請求項3記載の発明によれば、温度検知手段自体に耐熱温度を検出する機能を内蔵し、この耐熱温度検知信号に基づいて次の火災フェーズ段階の制御を行う構成としている。すなわち、温度検知手段が耐熱限界温度を超えると、滞在限界状態の報知機能が破壊され、失報の危険が生ずるため温度検知手段が耐熱温度を超える前に次の火災フェーズ段階の制御(具体的には、滞在限界状態の報知)を行うことができるので、滞在限界でのフェイルセーフ機能として役立てることができる。このフェイルセーフ機能は、温度検知手段の耐熱性能を強化するコストに比べ安価にできるので、滞在限界報知システムの普及に貢献できる。
【0112】
また、請求項4記載の発明によれば、天井面に配設した温度検知手段からの計測データから火災の発熱速度及び火災成長率を計算して報知する。現行の火災信号は、天井面の温度上昇、温度上昇率、煙濃度の値が一定レベルを超えたという「異常発生」を報知するもので、人的に異常の内容を確認する作業のトリガー信号としての位置付けであった。このリアルタイムに報知される発熱速度及び火災成長率に基づいて、発熱速度は火源の大きさ、火災成長率は火災の拡大速度として煙濃度異常警報、温度異常警報、滞在限界警報と併せて判断情報とし、発報信号を意味情報化することができ、火災の初期から滞在限界状態に至るまでの火災の性状を把握することが容易になる。
【0113】
また、請求項5記載の発明によれば、火災信号処理手段、警報メッセージ作成手段及び出力制御手段を一元的に集約して管理し、火災の発生及び火災の進展状況を的確に把握できるように火災フェーズを表す意味情報の形で各警報端末装置に伝達する構成としている。すなわち、火災フェーズの進展区分を表すように防火安全上の意味情報化を行って伝達することによって、火災現場から離れた場所にいる人に対しても、在館者に対してもマルチメディア設備を活用して火災の進展状況を的確に伝えることができるとともに、火災の進展状況に応じた各種防災設備の自動制御が可能となる。特に、建築物の高層化、大規模化に伴い、異常を知らせる感知器の発報を受けて、防災要員が現地確認をした上で対応する方法では間に合わないという問題に対し、防災要員に依存しない自動化システムあるいは建物の利用者それぞれが対応できるように的確な情報を提供する分散管理システムの構築を支援する手段として期待できる。
【0114】
また、請求項6記載の発明によれば、火災情報伝達システムの機能設定、運用管理機能を警報サーバに一元的に集約し、出力制御手段から情報ネットワークを通じて送信されてくる言語メッセージ情報を、警報端末装置において音声警報及び/または視覚表示の形に変換して出力する構成としたので、LAN等を含むあらゆる伝送路を利用して接続された警報端末装置から定型メッセージではなく火災の進展・性状に応じた柔軟な指示メッセージを伝達することが可能となる。すなわち、火災信号を単なる防災設備及び/又は人的活動のトリガー信号から、火災の進展状況を表す意味情報へと高度化することで、火災シナリオを予測し、火災の進展に対応した警報メッセージの設計、作成、配信が可能となり、多様な情報媒体を活用した緊急情報伝達や火災弱者のためのユニバーサルデザインへの対応が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の滞在限界状態報知方法及び火災性状報知方法による火災発生時の処理動作を示すフローチャートである。
【図2】煙層降下限界状態での煙層温度が火災成長率により変化し、小居室では煙層降下限界状態が輻射熱限界状態より先に到達し、その時の天井面気流温度も低いことを示すグラフである。
【図3】煙層降下限界状態での煙層温度が火災成長率により変化し、比較的小居室では煙層降下限界状態が輻射熱限界状態より先に到達し、その時の天井面気流温度も低いことを示すグラフである。
【図4】高い火災成長率では輻射熱限界状態が先に到達し、一定火災成長率以下では煙層降下状態が先に滞在限界となることを示すグラフである。
【図5】大居室では輻射熱限界状態が先に到達し、火災成長率が小さい場合は、温度検知手段が長時間高温にさらされる状況を示すグラフである。
【図6】火災の拡大速度を火災成長率で区分した例を示す説明図である。
【図7】防火安全対策全体から見た警報信号の意味を区別するために、火災フェーズを5段階に区分した例を示す説明図である。
【図8】本発明の火災情報伝達システムの概略構成図である。
【図9】本発明の警報サーバを利用して、図1に示した滞在限界状態を報知する処理手順を実施する場合の実施例を機能的に示した説明図である。
【図10】警報サーバから電灯線LANを介して誘導音付点滅形誘導灯へ音声警報を文字信号の形で伝送し、非常文字表示装置へ視覚警報を文字信号の形で伝送するシステム構成の例を示す説明図である。
【図11】従来の自動火災報知システムの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
2 温度検知手段
3 煙濃度検知手段
4 警報サーバ
11 非常放送設備
12 非常放送用スピーカ
13 インターフェース盤
14 非常文字表示装置
15 誘導灯信号装置
16 誘導音付点滅形誘導灯
17 警報端末装置
41 入力インターフェース部
42 火災信号処理部
43 警報メッセージ制御部
44 出力制御部
441 接点出力インターフェース部
442 音声出力インターフェース部
443 テキスト出力インターフェース部
444 ネットワークインターフェース部
N 通信回線網

Claims (6)

  1. 天井面に配設した温度検知手段で天井面気流温度を一定時間ごとに計測し、その計測温度値から火災成長率αを計算し、この計算した火災成長率αに基づく煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度と前記温度検知手段で検知される天井面気流温度とを比較して滞在限界状態を報知することを特徴とする滞在限界状態報知方法。
  2. 天井面に配設した温度検知手段で天井面気流温度を一定時間ごとに計測し、その計測温度値から火災成長率αを計算し、この計算した火災成長率αが予め予測計算された当該部屋についての煙層降下時間と輻射限界時間が同じになる火災成長率αよりも大きい場合は、輻射熱限界状態での予測天井面煙層温度を比較基準値として前記温度検知手段で検知される実測天井面気流温度と比較し、前記実測天井面気流温度が前記予測天井面煙層温度に達した場合に滞在限界状態を報知する一方、前記火災成長率αが前記火災成長率αよりも小さい場合は、煙層降下限界状態での予測天井面煙層温度を比較基準値として前記温度検知手段で検知される実測天井面気流温度と比較し、前記実測天井面気流温度が前記予測天井面煙層温度に達した場合に滞在限界状態を報知することを特徴とする滞在限界状態報知方法。
  3. 前記温度検知手段自体に耐熱温度を検知する機能を内蔵し、前記耐熱温度の検知信号に基づいて次の火災フェーズ段階の制御を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滞在限界状態報知方法。
  4. 天井面に配設した温度検知手段において一定時間ごとに計測した計測温度値から火災の発熱速度及び火災成長率を計算し、この計算した発熱速度及び火災成長率に基づいて火災の発生及び火災の拡大状況を報知することを特徴とする火災性状報知方法。
  5. 天井面に配設された温度検知手段及び煙検知手段と、
    これら温度検知手段からの天井面気流温度及び煙検知手段からの煙濃度のデータ信号を取り込み、そのデータを火災フェースの進展区分を表す情報に変換する火災信号処理手段と、
    前記変換された情報に基づいて火災フェーズの進展警報及びそれに対応した行動指示を言語メッセージに作成する警報メッセージ作成手段と、
    作成した言語メッセージ情報をインターフェース仕様の異なる複数の警報端末装置に対し、それらの入出力形式に変換して出力する出力制御手段とを一元的に集約したことを特徴とする火災情報伝達システム。
  6. 前記出力制御手段から情報ネットワークを通じて全て言語メッセージ情報の形で警報を伝送し、前記警報端末装置において音声警報及び/または視覚表示の形に変換して出力することを特徴とする請求項5に記載の火災情報伝達システム。
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