JP2004244568A - 絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機材料から成る絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板において、配線の高密度化や絶縁信頼性・導通信頼性をともに満足させることができない。
【解決手段】液晶ポリマー層1の上下面に、熱硬化性樹脂から成る被覆層2を有する絶縁フィルム3であって、被覆層2は平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることを特徴とする。絶縁性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【選択図】 図3
【解決手段】液晶ポリマー層1の上下面に、熱硬化性樹脂から成る被覆層2を有する絶縁フィルム3であって、被覆層2は平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることを特徴とする。絶縁性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種AV機器や家電機器・通信機器・コンピュータやその周辺機器等の電子機器に使用される絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関し、特に液晶ポリマーを一部に用いた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体素子等の能動部品や容量素子・抵抗素子等の受動部品を多数搭載して所定の電子回路を構成した混成集積回路を形成するための多層配線基板は、通常、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムにドリルによって上下に貫通孔を形成し、この貫通孔内部および絶縁層表面に複数の配線導体を形成した配線基板を、多数積層することによって形成されている。
【0003】
一般に、現在の電子機器は、移動体通信機器に代表されるように小型・薄型・軽量・高性能・高機能・高品質・高信頼性が要求されており、このような電子機器に搭載される混成集積回路等の電子部品も小型・高密度化が要求されるようになってきており、このような高密度化の要求に応えるために、電子部品を構成する多層配線基板も、配線導体の微細化や絶縁層の薄層化・貫通孔の微細化が必要となってきている。このため、近年、貫通孔を微細化するために、ドリル加工より微細加工が可能なレーザ加工が用いられるようになってきた。
【0004】
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムは、ガラスクロスをレーザにより穿設加工することが困難なために貫通孔の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一のために均一な孔径の貫通孔を形成することが困難であるという問題点を有していた。
【0005】
このような問題点を解決するために、アラミド樹脂繊維で製作した不織布にエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムや、ポリイミドフィルムにエポキシ系接着剤を塗布して成る絶縁フィルムを絶縁層に用いた多層配線基板が提案されている。
【0006】
しかしながら、アラミド不織布やポリイミドフィルムを用いた絶縁フィルムは吸湿性が高く、吸湿した状態で半田リフローを行なうと半田リフローの熱により吸湿した水分が気化してガスが発生し、絶縁層間で剥離してしまう等の問題点を有していた。
【0007】
このような問題点を解決するために、多層配線基板の絶縁層の材料として液晶ポリマーを用いることが検討されている。液晶ポリマーから成る層は、剛直な分子で構成されているとともに分子同士がある程度規則的に並んだ構成をしており分子間力が強いことから、高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性を示し、ガラスクロスのような強化材を用いる必要がなく、また、微細加工性にも優れるという特徴を有している。さらに、高周波領域においても、低誘電率・低誘電正接であり高周波特性に優れるという特徴を有している。
【0008】
このような液晶ポリマーの特徴を活かし、特開平8−97565号公報には、回路層が第1の液晶ポリマーを含み、この回路層間に第1の液晶ポリマーの融点よりも低い融点を有する第2の液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して成る多層プリント回路基板が提案されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−97565号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平8−97565号公報に提案された多層プリント回路基板は、回路層同士を間に液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して熱圧着により接着する際、液晶ポリマー分子が剛直であるとともにある程度分子が規則正しく配向して分子間力が強くなっているために分子が動き難くなり、回路層の液晶ポリマーと接着剤層の液晶ポリマーの表面のごく一部の分子だけしか絡み合うことができないために密着性が悪く、これに電子部品を搭載する際の熱や電子部品が作動時に発生する熱が印加されると層間で剥離して絶縁不良が発生してしまうという問題点を有していた。
【0011】
また、回路層の導体箔と液晶ポリマーを熱融着により接着する際、液晶ポリマー分子が動き難いために導体箔表面の微細な凹部に入ることができず、その結果、十分なアンカー効果を発揮することができず、導体箔と液晶ポリマーとの密着性が悪くなって、高温高湿環境下において両者間で剥離して導体箔が断線してしまうという問題点も有していた。
【0012】
さらに、回路層の液晶ポリマーにレーザにより穿設加工を行なう際、微細な貫通孔を形成する場合には、液晶ポリマーの熱伝導率が一様なため液晶ポリマーの表面付近と内部に温度分布が生じ、貫通孔の孔径が液晶ポリマーの表面付近で大きくなり、均一な孔径の貫通孔を形成するのが困難であるという問題点も有していた。
【0013】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、絶縁性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の絶縁フィルムは、液晶ポリマー層の上下面に熱硬化性樹脂から成る被覆層を有する絶縁フィルムであって、この被覆層は、平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の絶縁フィルムによれば、被覆層に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルムに配線導体および貫通導体を配設するとともに絶縁フィルムを多層化して多層配線基板を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体の位置ずれや貫通導体の直径のばらつき、さらには被覆層の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0016】
また、この無機絶縁粉末の濃度が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層の熱伝導率が液晶ポリマー層に接する側で小さく、絶縁フィルムの表面付近で大きくなるため、絶縁フィルムにレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルムの表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0017】
さらに、熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルムを多層化した場合においても、絶縁フィルム同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム表面に配線導体を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルムと配線導体との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体が断線してしまうということもない。
【0018】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みが絶縁フィルムの厚みの40〜90%であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みを絶縁フィルムの厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層が熱膨張係数の大きい被覆層を良好に拘束して絶縁フィルム全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作した場合においても、絶縁フィルムの熱膨張係数が配線導体の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルムと配線導体との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0020】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが0.05〜5μmであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層と被覆層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0022】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末はその形状が略球状であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0024】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層および液晶ポリマー層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0026】
さらに、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、熱硬化性樹脂が熱硬化性ポリフェニレンエーテルであることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルムとすることができる。
【0028】
本発明の多層配線基板は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体が配設された上記の絶縁フィルムを複数積層して成るとともに、この絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間を絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続したことを特徴とするものである。
【0029】
本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、耐湿性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた多層配線基板とすることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図であり、図2は図1の絶縁フィルムを用いて製作した本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。なお、図2は、本発明の多層配線基板に半導体素子等の電子部品を搭載して混成集積回路とした場合の例を示している。また、図3は、図2に示す多層配線基板の配線導体の幅方向の要部拡大断面図である。
【0032】
これらの図において1は液晶ポリマー層、2は被覆層であり、主にこれらで本発明の絶縁フィルム3が構成されている。また、4は配線導体、5は貫通導体、7は半導体素子等の電子部品で、主に絶縁フィルム3と配線導体4と貫通導体5とで本発明の多層配線基板6が構成されている。なお、本例の多層配線基板6では、絶縁フィルム3を4層積層して硬化させたものを示している。
【0033】
絶縁フィルム3は、液晶ポリマー層1と、その上下面に被着形成された熱硬化性樹脂に無機絶縁粉末を含有して成る被覆層2とから構成されており、これを用いて多層配線基板6を形成した場合、配線導体4や多層配線基板6に搭載される電子部品7の支持体としての機能を有する。
【0034】
なお、ここで液晶ポリマーとは、溶融状態あるいは溶液状態において、液晶性を示すポリマーあるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマー、あるいは、熱変形温度で分類される1型・2型・3型等のすべての液晶ポリマーを含むものであり、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、温度サイクル信頼性・半田耐熱性・加工性の観点からは230〜420℃の温度、特に270〜380℃の温度に融点を有するものが好ましい。
【0035】
また、液晶ポリマー層1は、層としての物性を損なわない範囲内で、熱安定性を改善するための酸化防止剤や耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛・メタホウ酸バリウム・酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル・高級脂肪酸金属塩・フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤、熱膨張係数を調整するため、および/または機械的強度を向上するための酸化アルミニウム・酸化珪素・酸化チタン・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ジルコニウム・酸化カルシウム・ゼオライト・窒化珪素・窒化アルミニウム・炭化珪素・チタン酸カリウム・チタン酸バリウム・チタン酸ストロンチウム・チタン酸カルシウム・ホウ酸アルミニウム・スズ酸バリウム・ジルコン酸バリウム・ジルコン酸ストロンチウム等の充填材を含有してもよい。
【0036】
液晶ポリマー層1の上下面には、熱硬化性樹脂に無機絶縁粉末を含有して成る被覆層2が積層されている。被覆層2は、後述する配線導体4を絶縁フィルム3に被着形成する際の接着剤の機能を有するとともに、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を構成する際に、絶縁フィルム3同士を積層する際の接着剤の役目を果たす。このような被覆層2は、無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストを従来周知のドクターブレード法等のシート成形法を採用して離型フィルム上に薄く塗布した後、それを乾燥させることにより薄いシートとなし、そのシートを液晶ポリマー層1の表面に圧着することにより液晶ポリマー層1の上下面に積層される。
【0037】
なお、本発明の絶縁フィルム3においては、被覆層2は、平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方からその反対側に向けて多くなっている。そして、本発明においてはこのことが重要である。
【0038】
本発明の絶縁フィルム3によれば、被覆層2に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルム3に配線導体4および貫通導体5を配設するとともに絶縁フィルム3を多層化して多層配線基板6を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層2の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体5の位置ずれや貫通導体5の直径のばらつき、さらには被覆層2の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【0039】
また、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層2の熱伝導率が液晶ポリマー層1に接する側で小さく、絶縁フィルム3の表面付近で熱伝導率が大きくなるため、絶縁フィルム3にレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム3表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルム3の表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0040】
さらに、被覆層2は熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルム3を多層化した場合においても、絶縁フィルム3同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム3表面に配線導体4を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体4表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルム3と配線導体4との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体4が断線してしまうということもない。
【0041】
このように被覆層2を無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1の接する側の方からその反対側にむけて多くなっているものとするには、次に述べるような方法が採用される。
【0042】
例えば従来周知のドクターブレード法等のシート成形法を採用して被覆層2を形成する際に、無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストとして、粘度をせん断速度1000s−1において1000〜3000Pa・sとしたものを離型フィルム上に塗布する。次に、このシートを30〜50℃で15〜60分の1次乾燥後、60〜100℃で15〜60分の2次乾燥を行ない無機絶縁粉末を沈降させることにより、シート上面から離型フィルムに接する側の方に向けて無機絶縁粉末の含有量が多くなったシートを得る。なお、無機絶縁粉末の含有量の分布状態は無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストの粘度や乾燥温度・乾燥時間を調整することにより所望のものとすることができる。次に、このシートをその無機絶縁粉末の含有量が少ない側が液晶ポリマー層1の表面と対向するように積層し、その後、これらを、温度が100〜200℃の範囲で10分〜1時間加熱するとともに、圧力が0.5〜10MPaの範囲で加圧することにより、所望の絶縁フィルム3を製作することができる。
【0043】
なお、被覆層2における無機絶縁粉末の分布状態は、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、被覆層2の内部にクラックが発生することなく、さらに、被覆層2と液晶ポリマー層1との層間や被覆層2と配線導体4との層間で剥離することのないものにするという観点からは、被覆層2に垂直な方向において無機絶縁粉末の含有量の変化は一様であることが好ましい。
【0044】
この無機絶縁粉末の分布状態は定量可能なものであり、絶縁フィルム3をミクロトーム等で切断して断面を面出し、この断面を電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)により観察して無機絶縁粉末の個数を数えることにより行なわれる。なお、被覆層2における無機絶縁粉末の含有量は、たとえば一辺の長さが5μmである正方格子を用いて、この格子内に観察される無機絶縁粉末の個数を数え、この個数を10μm3当たりへ換算することにより求めることができる。被覆層2において上下面と垂直な方向に少なくとも3点で無機絶縁粉末の含有量を測定することにより無機絶縁粉末の分布状態を定量化することができる。
【0045】
なお、無機絶縁粉末の平均粒径が0.1μm未満の場合は、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際に混練性が低下し、被覆層2の熱膨張係数を均一にすることが困難となる傾向があり、2.8μmを超えると、被覆層2において配線導体4を被着する表面の平坦性が低下し、配線導体4を被着形成する際に配線導体4の位置ずれが大きくなる傾向がある。また、無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満であると、被覆層2の流動性を抑制することが困難となり、貫通導体5の位置ずれや被覆層2の厚みばらつきが大きくなる傾向があり、70体積%を超えると、半田リフロー時に液晶ポリマー層1との接着界面および配線導体4との接着界面で剥離し易くなる傾向がある。従って、無機絶縁粉末の平均粒径を0.1〜2.8μmとし、無機絶縁粉末が被覆層2に10〜70体積%含有されていることが重要である。
【0046】
なお、被覆層2内部において、無機絶縁粉末の含有量は、液晶ポリマー層1側の領域で10〜30体積%であることが、液晶ポリマー層1と反対側の領域では40〜70体積%であることが好ましい。
【0047】
被覆層2内部において、液晶ポリマー層1側の無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満であると、液晶ポリマー層1の熱膨張係数と被覆層2の液晶ポリマー層1側の熱膨張係数が大きく異なってしまい、電子部品を搭載する際の熱や電子部品が作動時に発生する熱が印加されると両者間で剥離して絶縁不良が発生しやすくなる傾向があり、30体積%を超えると、樹脂が少なくなって両者間の密着性が低下してしまう傾向にある。
【0048】
また、被覆層2内部において、液晶ポリマー層1と反対側の無機絶縁粉末の含有量が40体積%未満であると、絶縁フィルム3同士を加熱・加圧により接着して配線基板を製作する際に、絶縁フィルム3表面の被覆層2が流動化して絶縁フィルム3の表面や内部に形成される配線導体4や貫通導体5に位置ずれが発生する危険性があり、70体積%を超えると、被覆層2表面の熱硬化性樹脂の量が減少して、被覆層2表面に形成される配線導体4とのアンカー効果が不十分なものとなり、配線導体4との密着性が低下してしまう傾向がある。従って、被覆層2内部において、液晶ポリマー層1側の領域の無機絶縁粉末の含有量は10〜30体積%であることが、液晶ポリマー層1と反対側では40〜70体積%であることが好ましい。
【0049】
また、無機絶縁粉末の形状は、略球状・針状・フレーク状等があり、本発明の絶縁フィルム3においては、無機絶縁粉末の形状は略球状であることが好ましい。
【0050】
本発明の絶縁フィルム3によれば、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0051】
このような無機絶縁粉末としては、酸化アルミニウムや酸化珪素・酸化チタン・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ジルコニウム・酸化カルシウム・ゼオライト・窒化珪素・窒化アルミニウム・炭化珪素・チタン酸カリウム・チタン酸バリウム・チタン酸ストロンチウム・チタン酸カルシウム・ホウ酸アルミニウム・スズ酸バリウム・ジルコン酸バリウム・ジルコン酸ストロンチウム等が用いられる。
【0052】
さらに、本発明の絶縁フィルム3においては、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されたものであることが好ましい。
【0053】
本発明の絶縁フィルム3は、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層2の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層2および液晶ポリマー層1とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0054】
このようなカップリング処理としては、シラン系カップリング処理やチタネート系カップリング処理等の無機絶縁粉末と熱硬化性樹脂および液晶ポリマーとの親和性を高めこれらの接合性向上と機械的強度を高めるためのものを用いるのが好適である。
【0055】
なお、被覆層2に用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やシアネート樹脂・フェノール樹脂・ポリイミド樹脂・熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂・ビスマレイミドトリアジン樹脂等の加熱・乾燥により硬化する樹脂が用いられ、本発明の絶縁フィルム3においては、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体4を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルム3とすることができる。
【0056】
また、被覆層2は、弾性率を調整するためのゴム成分や熱安定性を改善するための酸化防止剤、耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛・メタホウ酸バリウム・酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステルや高級脂肪酸金属塩・フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤を含有してもよい。
【0057】
なお、絶縁フィルム3の厚みは絶縁信頼性を確保するという観点からは10〜300μmであることが好ましく、また、高耐熱性・低吸湿性・高寸法安定性を確保するという観点からは液晶ポリマー層1の厚みを絶縁フィルム3の厚みの40〜90%の範囲としておくことが好ましい。
【0058】
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1の厚みを絶縁フィルム3の厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層1が熱膨張係数の大きい被覆層2を良好に拘束して絶縁フィルム3全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作した場合においても、絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルム3と配線導体4との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【0059】
液晶ポリマー層1の厚みが絶縁フィルム3の厚みの40%未満であると液晶ポリマー層1が被覆層2の熱膨張や収縮を拘束することが困難となり、例えばこの絶縁フィルム3を用いて多層配線基板を製作した際、絶縁フィルム3の熱膨張係数や収縮率が配線導体4のものより大きくなり、これらの熱膨張差や収縮による応力により絶縁フィルム3にクラックが発生し易くなる傾向にある。また、液晶ポリマー層1の厚みが90%を超えると、被覆層2の熱膨張が絶縁フィルム3の熱膨張に寄与する効果が小さくなって絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数よりも小さくなり、これらの熱膨張差により配線導体4の剥離を生じる傾向にある。したがって、液晶ポリマー層1の厚みは絶縁フィルム3の厚みの40〜90%としておくことが好ましく、特に多層配線基板6を製作し電子部品7を実装したときの接続信頼性の観点からは50〜85%の範囲としておくことが好ましい。
【0060】
さらに、液晶ポリマー層1の上下面の算術平均粗さRaが0.05〜5μmであることが好ましい。
【0061】
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層1の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層2と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層1と被覆層2とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0062】
なお、液晶ポリマー層1の算術平均粗さRaは、半田リフローの際に液晶ポリマー層1と被覆層2との剥離を防止するという観点からは0.05μm以上であることが好ましく、表面に被覆層2を形成する際に空気のかみ込みを防止するという観点からは5μm以下であることが好ましい。したがって、液晶ポリマー層1は、その表面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとすることが好ましい。
【0063】
かくして本発明の絶縁フィルム3によれば、熱が繰り返し印加されても絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1と被覆層2との層間や絶縁フィルム3同士の層間で剥離して絶縁不良が発生したり、高温高湿環境下において絶縁フィルム3に被着形成された配線導体4と絶縁フィルム3との層間で剥離して配線導体4が断線したりしてしまうということもない。さらに、絶縁フィルム3をレーザにより穿設加工を行ない、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルム3の表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0064】
次に、本発明の多層配線基板6について説明する。多層配線基板6は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体4が配設された絶縁フィルム3を複数積層して成るとともに、この絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間を絶縁フィルム3に形成された貫通導体5を介して電気的に接続することにより形成されている。
【0065】
なお、このような多層配線基板6は、先ず複数の絶縁フィルム3にレーザ加工により貫通導体5を形成するための貫通孔を穿孔し、次にそれらの貫通孔内に貫通導体5用の熱硬化性の導電性ペーストを充填した後、その絶縁フィルム3の上面および/または下面に配線導体4を転写により埋設し、最後にそれらの絶縁フィルム3を上下に積層して加熱プレスすることにより絶縁フィルム3および導電性ペーストを熱硬化させることにより製作される。
【0066】
配線導体4は、その厚みが2〜30μmで銅・金等の良導電性の金属箔から成り、多層配線基板6に搭載される電子部品7を外部電気回路(図示せず)に電気的に接続する機能を有する。
【0067】
このような配線導体4は、絶縁フィルム3を複数積層する際、配線導体4の周囲にボイドが発生するのを防止するという観点から、図3の要部拡大断面図に示すように、被覆層2に少なくとも配線導体4の表面と被覆層2の表面とが平坦となるように埋設されていることが好ましい。また、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%としておくと、配線導体4周囲に被覆層2の樹脂の盛り上がりを生じさせず平坦化することができるとともに配線導体4と被覆層2の間に挟まれる空気の排出を容易にして気泡の巻き込みを防止することができる。なお、乾燥状態での気孔率が40体積%を超えると、複数積層した絶縁フィルム3を加圧・加熱硬化した後に被覆層2内に気孔が残存し、この気孔が空気中の水分を吸着して絶縁性が低下してしまうおそれがあるので、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%の範囲としておくことが好ましい。
【0068】
このような被覆層2の乾燥状態での気孔率は、被覆層2を離型フィルム上に塗布し乾燥する際に、乾燥温度や昇温速度等の乾燥条件を適宜調整することにより所望の値とすることができる。
【0069】
さらに、絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることが好ましい。絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることにより、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、配線導体4を被覆層2に容易に埋設して配線導体4を埋設した後の被覆層2表面をほぼ平坦にすることができ、積層の際に空気をかみ込んで絶縁性を低下させることのない多層配線基板6とすることができる。なお、気泡をかみ込むことなく埋設するという観点からは、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95°以上とすることが好ましく、配線導体2を微細化するという観点からは150°以下とすることが好ましい。
【0070】
また、絶縁フィルム3の層間において、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1との間に位置する被覆層2の厚みx(μm)が、上下の液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μm(ただし、8μm≦T≦70μm、1μm≦t≦32μm)であることが好ましい。
【0071】
液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の熱硬化性樹脂から成る被覆層2の厚みx(μm)を3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmとすることにより、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の距離および配線導体4の長さの長い底辺と隣接する液晶ポリマー層1間の距離の差をt(μm)未満と小さくすることができ、被覆層2の厚みが大きく異なることから生じる多層配線基板6の反りを防止することができる。したがって、配線導体4の台形状の上底側表面と液晶ポリマー層1の間に位置する、被覆層2の厚みx(μm)を、液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmの範囲とすることが好ましい。
【0072】
このような配線導体4は、先ず、転写用支持フィルム上に銅から成る金属箔を接着剤を介して接着した金属箔付き転写フィルムを用意し、次に、フィルム上の金属箔を公知のフォトレジストを用いたサブトラクティブ法を使用してパターン状にエッチングし、次にこの金属箔がパターン状にエッチングされた転写フィルムを絶縁フィルム3に積層し、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間加熱プレスした後、転写用支持フィルムを剥離除去して金属箔を絶縁フィルム3表面に転写させることにより各絶縁フィルム3の表面に配設される。この時、パターンの表面側の側面は、フィルム側の側面に較べてエッチング液に接する時間が長いためにエッチングされやすく、パターンの幅方向の断面形状を台形状とすることができる。なお、台形の形状は、エッチング液の濃度やエッチング時間を調整することにより短い底辺と側辺とのなす角度を95〜150°の台形状とすることができる。そして、台形状の上底側が被覆層2に埋設された配線導体4を形成することができる。
【0073】
なお、配線導体4の長さの短い底辺と対向する液晶ポリマー層1間の被覆層2の厚みx(μm)は、金属箔転写時の加熱プレスの圧力を調整することにより所望の範囲とすることができる。また、配線導体4は被覆層2との密着性を高めるためにその表面にバフ研磨・ブラスト研磨・ブラシ研磨・薬品処理等の処理で表面を粗化しておくことが好ましい。
【0074】
また、絶縁フィルム3には、直径が20〜150μm程度の貫通導体5が形成されている。貫通導体5は、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4を電気的に接続する機能を有し、絶縁フィルム3にレーザにより穿設加工を施すことにより貫通孔を形成した後、この貫通孔に銅・銀・金・半田等から成る導電性ペーストを従来周知のスクリーン印刷法により埋め込むことにより形成される。
【0075】
本発明の多層配線基板6によれば、絶縁フィルム3を液晶ポリマー層1の上下面に熱硬化性樹脂から成る被覆層2を有したものとしたことから、液晶ポリマー層1が高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性であり、ガラスクロスのような強化材を用いなくとも絶縁フィルム3を構成することが可能となり、その結果、レーザによる穿設加工が容易となり微細で均一な貫通孔を形成できる。
【0076】
そして、絶縁フィルム3の所望の位置に貫通導体5を形成した後、パターン形成した例えば銅の金属箔を、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間加熱プレスして転写し、これらを積層して最終的に温度が150〜300℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で30分〜24時間加熱プレスして完全硬化させることにより本発明の多層配線基板6が完成する。
【0077】
かくして本発明の多層配線基板6によれば、上記構成の多層配線基板6の上面に形成した配線導体4の一部から成る接続パッド8に半田等の導体バンプ9を介して半導体素子等の電子部品7を電気的に接続することにより配線密度が高く絶縁性に優れた混成集積回路とすることができる。
【0078】
なお、本発明の多層配線基板6は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能であり、例えば、上述の実施例では4層の絶縁フィルム3を積層することによって多層配線基板6を製作したが、2層や3層、あるいは5層以上の絶縁フィルム3を積層して多層配線基板6を製作してもよい。また、本発明の多層配線基板6の上下表面に、1層や2層、あるいは3層以上の有機樹脂を主成分とする絶縁層から成るビルドアップ層やソルダーレジスト層10、あるいは多層配線基板6に電子部品7を搭載後、多層配線基板6と電子部品6との間にアンダーフィル材11を形成してもよい。
【0079】
【実施例】
次に本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を、以下の試料を用いて評価した。
【0080】
(実験例1)
先ず、熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂に平均粒径が0.5μmの球状溶融酸化珪素を含有量が5〜80体積%となるように加え、これに溶剤としてトルエン、さらに有機樹脂の硬化を促進させるための触媒を添加し、1時間混合してペーストの粘度がせん断速度1000s−1において2000Pa・sとなるように調整した。
【0081】
次に、融点が290℃であるとともに、かつ上下面に平行な方向における熱膨張係数が−3×10−6/℃の厚みが140μmの液晶ポリマー層を準備し、この表面を減圧プラズマ装置を用いて、電圧を27kV、雰囲気をCF4およびO2(ガス流量がそれぞれ80cm3/分)の条件でプラズマ処理した。
【0082】
次に、ドクターブレード法を用いて、被覆層となる厚みが30μmの熱硬化性ポリフェニレンエーテルシートを成形し、その後、温度が30〜50℃で15〜60分の範囲で1次乾燥の条件を調整し、さらに、温度が60〜100℃で15〜60分の範囲で2次乾燥の条件を調整することで、被覆層における無機絶縁粉末の含有量の分布状態が各種のものとなるようにした。
【0083】
次に、熱硬化性ポリフェニレンエーテルシートの上面がプラズマ処理した液晶ポリマー層の上下面に対向するように積層し、2MPaの圧力下で140℃の温度で20分間加熱プレスして絶縁フィルムを得た。さらに、この絶縁フィルムをミクロトームで切断して断面を面出し、この断面を電子顕微鏡により観察して、被覆層における無機絶縁粉末の含有量を測定した。測定は、液晶ポリマーに接する側の方から5μm、15μm、さらに25μm離れた任意の3点をとり、これらの点を中心にして一辺の長さが5μmである正方格子を用いて行なった。
【0084】
次に、この絶縁フィルムに、UV−YAGレーザにより直径50μmの貫通孔を形成し、この貫通孔に銅粉末と有機バインダを含有する導体ペーストをスクリーン印刷により埋め込むことにより貫通導体を形成した。
【0085】
次に、厚みが9μmで、回路状に形成した銅箔が付いた転写フィルムと、貫通導体が形成された絶縁フィルムとを位置合わせした後に真空積層機により5MPaの圧力で30秒加圧して、配線導体を絶縁フィルムに埋設し、しかる後、転写用支持フィルムを剥離した。最後に、この配線導体が形成された絶縁フィルムを4枚重ね合わせ、3MPaの圧力下で200℃の温度で5時間加熱プレスして完全硬化させて本発明によるテスト基板(試料No.2〜5)および比較のためのテスト基板(試料No.1、6、7)を得た。
【0086】
また、これらとは別に、表面に銅箔を熱溶融により接着した融点が320℃の液晶ポリマー層から成る絶縁フィルムにフォトレジストを用いて回路状の配線導体を形成し、次に、UV−YAGレーザにより直径50μmの貫通孔を形成し、さらにこの貫通孔に銅粉末と有機バインダを含有する導体ペーストをスクリーン印刷により埋め込むことにより貫通導体を形成して回路基板を作製した後、これらの回路基板を融点が280℃の液晶ポリマー層を間に挟んで1MPaの圧力下で285℃の温度で5分間加熱プレスすることにより比較のための別のテスト基板(試料No.8)を製作した。
【0087】
なお、これらのテスト基板は、絶縁フィルムを介して上下に位置する2層の配線導体とこの両者を電気的に接続する貫通導体とでビアピッチが220μmおよび180μmのビアチェーンを形成したものとし、貫通孔の穿設加工は、隣接したものを連続で行なうようにした。また、レーザ加工性の評価は、テスト基板を切断して断面を面出し、配線導体との接続部付近のビア径に対する液晶ポリマー層中心付近のビア径の比が75%以上を良、75%未満を否とした。表1にレーザ加工性の試験結果を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1からは、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満のテスト基板(試料No.1)および70体積%を超えるテスト基板(試料No.6)では、ビアピッチが220μmでのビア径の比は良好であるものの、180μmではビア径の比が74%以下と劣化する傾向があることがわかった。また、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が一定のテスト基板(試料No.7)では、ビアピッチが220μmでのビア径の比は良好であるものの、180μmではビア径の比が62%と劣化する傾向があることがわかった。さらに、絶縁フィルムが液晶ポリマーのみのテスト基板(試料No.8)では、ビアピッチが220μmでもビア径の比が72%と劣化しレーザ加工性に劣ることがわかった。
【0090】
それらに対して本発明によるテスト基板(試料No.2〜5)では、ビアピッチが180μmでも76%以上であり、レーザ加工性において特に優れていることがわかった。
【0091】
(実験例2)
実験例2用のテスト基板として、被覆層における無機絶縁粉末の平均粒径が種々の値になるように変更した以外は、実験例1用のテスト基板における試料No.2〜5と同様の方法により製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.10〜13)および比較のためのテスト基板(試料No.9、14)を用意した。なお、実験例2のテスト基板では、その内部に直径が4mmの一対の円形の導体パターンを絶縁フィルムを挟んで対向するように形成し、これらのテスト基板を130℃、相対湿度が85%の条件で、印加電圧5.5Vの高温バイアス試験を行ない、円形の導体パターン間の絶縁抵抗を測定し、試験前後の変化量を比較することにより絶縁信頼性を評価した。絶縁信頼性の良否の判断は、絶縁抵抗が1.0×108Ω以上を良、1.0×108Ω未満を否とした。表2に絶縁信頼性の試験結果を示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2からは、被覆層における無機絶縁粉末の平均粒径が0.1μm未満のテスト基板(試料No.9)および平均粒径が2.8μmを超えるテスト基板(試料No.14)では、高温バイアス試験168時間後の絶縁抵抗は良好であるものの、240時間以上では絶縁抵抗が8.2×107Ω以下と劣化する傾向があることがわかった。
【0094】
それらに対して本発明によるテスト基板(試料No.10〜13)では、高温バイアス試験240時間後でも2.7×108Ω以上であり、絶縁信頼性において特に優れていることがわかった。
【0095】
(実験例3)
実験例3用のテスト基板として、液晶ポリマー層を、その絶縁フィルムに対する厚みが種々の割合になるように変更した以外は、実験例1用のテスト基板おける試料No.2〜5と同様の方法により製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.15〜20)を用意した。このとき、絶縁フィルムの厚みが200μmとなるように被覆層の厚みを調整した。なお、実験例3用のテスト基板は、その内部に絶縁フィルムを挟んで上下に位置する2層の配線導体とこの両者を電気的に接続する貫通導体とでビアチェーンを形成したものとし、これに温度が−55℃の条件で30分、125℃の条件で30分を1サイクルとする温度サイクル試験を行ない、試験前に対する導通抵抗の変化率により導通信頼性の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3からは、液晶ポリマー層の絶縁フィルムに対する厚みの割合が40%未満のテスト基板(試料No.15)および90%を超えるテスト基板(試料No.20)では、温度サイクル試験1000サイクル後でも導通抵抗は変化率が13%以下と小さいが、1500サイクル後で導通抵抗は変化率が19%以上と大きく、導通信頼性にやや劣る傾向があることがわかった。
【0098】
それらに対して液晶ポリマー層の絶縁フィルムに対する厚みの割合が40〜90容量%のテスト基板(試料No.16〜19)では、いずれも温度サイクル試験1000サイクル後で導通抵抗の変化率は11%以下と小さく、さらに1500サイクル後でも導通抵抗の変化率は14%以下と小さく、導通信頼性において特に優れていることがわかった。
【0099】
(実験例4)
実験例4用のテスト基板として、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが種々の値になるように変更した以外は、実施例1用の多層配線基板と同様の方法で製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.21〜26)を用意した。これらのテスト基板を温度が280℃の半田浴に20秒間浸漬し、これを5回または10回繰り返した後、テスト基板の外観を観察することにより密着性の評価を行なった。表4に密着性の評価結果を示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4からは、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが0.05μm未満のテスト基板(試料No.21)および5μmを超えるテスト基板(試料No.26)では、半田浴への浸漬を5回繰り返してもテスト基板の外観に変化は無かったが、浸漬を10回繰り返した時点で、液晶ポリマー層と被覆層間で剥がれて膨れが発生し、密着性にやや劣る傾向があった。それらに対し、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さが0.05〜5.02μmのテスト基板(試料No.22〜25)では、半田浴への浸漬を10回繰り返しても多層配線基板の外観に変化は無く、密着性において特に優れていることがわかった。
【0102】
【発明の効果】
本発明の絶縁フィルムによれば、被覆層に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルムに配線導体および貫通導体を配設するとともに絶縁フィルムを多層化して多層配線基板を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体の位置ずれや貫通導体の直径のばらつき、さらには被覆層の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0103】
また、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層の熱伝導率が液晶ポリマー層に接する側で小さく、絶縁フィルムの表面付近で熱伝導率が大きくなるため、絶縁フィルムをレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、より微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルムの表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0104】
さらに、熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルムを多層化した場合においても、絶縁フィルム同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム表面に配線導体を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルムと配線導体との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体が断線してしまうということもない。
【0105】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みを絶縁フィルムの厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層が熱膨張係数の大きい被覆層を良好に拘束して絶縁フィルム全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作した場合においても、絶縁フィルムの熱膨張係数が配線導体の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルムと配線導体との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0106】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層と被覆層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0107】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0108】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層および液晶ポリマー層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0109】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルムとすることができる。
【0110】
本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、耐湿性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた多層配線基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の多層配線基板に半導体素子を搭載して成る混成集積回路の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図3】図2に示す多層配線基板の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
1・・・・・・・・液晶ポリマー層
2・・・・・・・・被覆層
3・・・・・・・・絶縁フィルム
4・・・・・・・・配線導体
5・・・・・・・・貫通導体
6・・・・・・・・多層配線基板
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種AV機器や家電機器・通信機器・コンピュータやその周辺機器等の電子機器に使用される絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関し、特に液晶ポリマーを一部に用いた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体素子等の能動部品や容量素子・抵抗素子等の受動部品を多数搭載して所定の電子回路を構成した混成集積回路を形成するための多層配線基板は、通常、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムにドリルによって上下に貫通孔を形成し、この貫通孔内部および絶縁層表面に複数の配線導体を形成した配線基板を、多数積層することによって形成されている。
【0003】
一般に、現在の電子機器は、移動体通信機器に代表されるように小型・薄型・軽量・高性能・高機能・高品質・高信頼性が要求されており、このような電子機器に搭載される混成集積回路等の電子部品も小型・高密度化が要求されるようになってきており、このような高密度化の要求に応えるために、電子部品を構成する多層配線基板も、配線導体の微細化や絶縁層の薄層化・貫通孔の微細化が必要となってきている。このため、近年、貫通孔を微細化するために、ドリル加工より微細加工が可能なレーザ加工が用いられるようになってきた。
【0004】
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムは、ガラスクロスをレーザにより穿設加工することが困難なために貫通孔の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一のために均一な孔径の貫通孔を形成することが困難であるという問題点を有していた。
【0005】
このような問題点を解決するために、アラミド樹脂繊維で製作した不織布にエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムや、ポリイミドフィルムにエポキシ系接着剤を塗布して成る絶縁フィルムを絶縁層に用いた多層配線基板が提案されている。
【0006】
しかしながら、アラミド不織布やポリイミドフィルムを用いた絶縁フィルムは吸湿性が高く、吸湿した状態で半田リフローを行なうと半田リフローの熱により吸湿した水分が気化してガスが発生し、絶縁層間で剥離してしまう等の問題点を有していた。
【0007】
このような問題点を解決するために、多層配線基板の絶縁層の材料として液晶ポリマーを用いることが検討されている。液晶ポリマーから成る層は、剛直な分子で構成されているとともに分子同士がある程度規則的に並んだ構成をしており分子間力が強いことから、高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性を示し、ガラスクロスのような強化材を用いる必要がなく、また、微細加工性にも優れるという特徴を有している。さらに、高周波領域においても、低誘電率・低誘電正接であり高周波特性に優れるという特徴を有している。
【0008】
このような液晶ポリマーの特徴を活かし、特開平8−97565号公報には、回路層が第1の液晶ポリマーを含み、この回路層間に第1の液晶ポリマーの融点よりも低い融点を有する第2の液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して成る多層プリント回路基板が提案されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−97565号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平8−97565号公報に提案された多層プリント回路基板は、回路層同士を間に液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して熱圧着により接着する際、液晶ポリマー分子が剛直であるとともにある程度分子が規則正しく配向して分子間力が強くなっているために分子が動き難くなり、回路層の液晶ポリマーと接着剤層の液晶ポリマーの表面のごく一部の分子だけしか絡み合うことができないために密着性が悪く、これに電子部品を搭載する際の熱や電子部品が作動時に発生する熱が印加されると層間で剥離して絶縁不良が発生してしまうという問題点を有していた。
【0011】
また、回路層の導体箔と液晶ポリマーを熱融着により接着する際、液晶ポリマー分子が動き難いために導体箔表面の微細な凹部に入ることができず、その結果、十分なアンカー効果を発揮することができず、導体箔と液晶ポリマーとの密着性が悪くなって、高温高湿環境下において両者間で剥離して導体箔が断線してしまうという問題点も有していた。
【0012】
さらに、回路層の液晶ポリマーにレーザにより穿設加工を行なう際、微細な貫通孔を形成する場合には、液晶ポリマーの熱伝導率が一様なため液晶ポリマーの表面付近と内部に温度分布が生じ、貫通孔の孔径が液晶ポリマーの表面付近で大きくなり、均一な孔径の貫通孔を形成するのが困難であるという問題点も有していた。
【0013】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、絶縁性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の絶縁フィルムは、液晶ポリマー層の上下面に熱硬化性樹脂から成る被覆層を有する絶縁フィルムであって、この被覆層は、平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の絶縁フィルムによれば、被覆層に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルムに配線導体および貫通導体を配設するとともに絶縁フィルムを多層化して多層配線基板を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体の位置ずれや貫通導体の直径のばらつき、さらには被覆層の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0016】
また、この無機絶縁粉末の濃度が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層の熱伝導率が液晶ポリマー層に接する側で小さく、絶縁フィルムの表面付近で大きくなるため、絶縁フィルムにレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルムの表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0017】
さらに、熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルムを多層化した場合においても、絶縁フィルム同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム表面に配線導体を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルムと配線導体との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体が断線してしまうということもない。
【0018】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みが絶縁フィルムの厚みの40〜90%であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みを絶縁フィルムの厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層が熱膨張係数の大きい被覆層を良好に拘束して絶縁フィルム全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作した場合においても、絶縁フィルムの熱膨張係数が配線導体の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルムと配線導体との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0020】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが0.05〜5μmであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層と被覆層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0022】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末はその形状が略球状であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0024】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層および液晶ポリマー層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0026】
さらに、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、熱硬化性樹脂が熱硬化性ポリフェニレンエーテルであることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルムとすることができる。
【0028】
本発明の多層配線基板は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体が配設された上記の絶縁フィルムを複数積層して成るとともに、この絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間を絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続したことを特徴とするものである。
【0029】
本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、耐湿性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた多層配線基板とすることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図であり、図2は図1の絶縁フィルムを用いて製作した本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。なお、図2は、本発明の多層配線基板に半導体素子等の電子部品を搭載して混成集積回路とした場合の例を示している。また、図3は、図2に示す多層配線基板の配線導体の幅方向の要部拡大断面図である。
【0032】
これらの図において1は液晶ポリマー層、2は被覆層であり、主にこれらで本発明の絶縁フィルム3が構成されている。また、4は配線導体、5は貫通導体、7は半導体素子等の電子部品で、主に絶縁フィルム3と配線導体4と貫通導体5とで本発明の多層配線基板6が構成されている。なお、本例の多層配線基板6では、絶縁フィルム3を4層積層して硬化させたものを示している。
【0033】
絶縁フィルム3は、液晶ポリマー層1と、その上下面に被着形成された熱硬化性樹脂に無機絶縁粉末を含有して成る被覆層2とから構成されており、これを用いて多層配線基板6を形成した場合、配線導体4や多層配線基板6に搭載される電子部品7の支持体としての機能を有する。
【0034】
なお、ここで液晶ポリマーとは、溶融状態あるいは溶液状態において、液晶性を示すポリマーあるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマー、あるいは、熱変形温度で分類される1型・2型・3型等のすべての液晶ポリマーを含むものであり、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、温度サイクル信頼性・半田耐熱性・加工性の観点からは230〜420℃の温度、特に270〜380℃の温度に融点を有するものが好ましい。
【0035】
また、液晶ポリマー層1は、層としての物性を損なわない範囲内で、熱安定性を改善するための酸化防止剤や耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛・メタホウ酸バリウム・酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル・高級脂肪酸金属塩・フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤、熱膨張係数を調整するため、および/または機械的強度を向上するための酸化アルミニウム・酸化珪素・酸化チタン・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ジルコニウム・酸化カルシウム・ゼオライト・窒化珪素・窒化アルミニウム・炭化珪素・チタン酸カリウム・チタン酸バリウム・チタン酸ストロンチウム・チタン酸カルシウム・ホウ酸アルミニウム・スズ酸バリウム・ジルコン酸バリウム・ジルコン酸ストロンチウム等の充填材を含有してもよい。
【0036】
液晶ポリマー層1の上下面には、熱硬化性樹脂に無機絶縁粉末を含有して成る被覆層2が積層されている。被覆層2は、後述する配線導体4を絶縁フィルム3に被着形成する際の接着剤の機能を有するとともに、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を構成する際に、絶縁フィルム3同士を積層する際の接着剤の役目を果たす。このような被覆層2は、無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストを従来周知のドクターブレード法等のシート成形法を採用して離型フィルム上に薄く塗布した後、それを乾燥させることにより薄いシートとなし、そのシートを液晶ポリマー層1の表面に圧着することにより液晶ポリマー層1の上下面に積層される。
【0037】
なお、本発明の絶縁フィルム3においては、被覆層2は、平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方からその反対側に向けて多くなっている。そして、本発明においてはこのことが重要である。
【0038】
本発明の絶縁フィルム3によれば、被覆層2に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルム3に配線導体4および貫通導体5を配設するとともに絶縁フィルム3を多層化して多層配線基板6を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層2の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体5の位置ずれや貫通導体5の直径のばらつき、さらには被覆層2の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【0039】
また、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層2の熱伝導率が液晶ポリマー層1に接する側で小さく、絶縁フィルム3の表面付近で熱伝導率が大きくなるため、絶縁フィルム3にレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム3表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルム3の表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0040】
さらに、被覆層2は熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルム3を多層化した場合においても、絶縁フィルム3同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム3表面に配線導体4を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体4表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルム3と配線導体4との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体4が断線してしまうということもない。
【0041】
このように被覆層2を無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層1の接する側の方からその反対側にむけて多くなっているものとするには、次に述べるような方法が採用される。
【0042】
例えば従来周知のドクターブレード法等のシート成形法を採用して被覆層2を形成する際に、無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストとして、粘度をせん断速度1000s−1において1000〜3000Pa・sとしたものを離型フィルム上に塗布する。次に、このシートを30〜50℃で15〜60分の1次乾燥後、60〜100℃で15〜60分の2次乾燥を行ない無機絶縁粉末を沈降させることにより、シート上面から離型フィルムに接する側の方に向けて無機絶縁粉末の含有量が多くなったシートを得る。なお、無機絶縁粉末の含有量の分布状態は無機絶縁粉末を含有する熱硬化性樹脂のペーストの粘度や乾燥温度・乾燥時間を調整することにより所望のものとすることができる。次に、このシートをその無機絶縁粉末の含有量が少ない側が液晶ポリマー層1の表面と対向するように積層し、その後、これらを、温度が100〜200℃の範囲で10分〜1時間加熱するとともに、圧力が0.5〜10MPaの範囲で加圧することにより、所望の絶縁フィルム3を製作することができる。
【0043】
なお、被覆層2における無機絶縁粉末の分布状態は、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、被覆層2の内部にクラックが発生することなく、さらに、被覆層2と液晶ポリマー層1との層間や被覆層2と配線導体4との層間で剥離することのないものにするという観点からは、被覆層2に垂直な方向において無機絶縁粉末の含有量の変化は一様であることが好ましい。
【0044】
この無機絶縁粉末の分布状態は定量可能なものであり、絶縁フィルム3をミクロトーム等で切断して断面を面出し、この断面を電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)により観察して無機絶縁粉末の個数を数えることにより行なわれる。なお、被覆層2における無機絶縁粉末の含有量は、たとえば一辺の長さが5μmである正方格子を用いて、この格子内に観察される無機絶縁粉末の個数を数え、この個数を10μm3当たりへ換算することにより求めることができる。被覆層2において上下面と垂直な方向に少なくとも3点で無機絶縁粉末の含有量を測定することにより無機絶縁粉末の分布状態を定量化することができる。
【0045】
なお、無機絶縁粉末の平均粒径が0.1μm未満の場合は、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際に混練性が低下し、被覆層2の熱膨張係数を均一にすることが困難となる傾向があり、2.8μmを超えると、被覆層2において配線導体4を被着する表面の平坦性が低下し、配線導体4を被着形成する際に配線導体4の位置ずれが大きくなる傾向がある。また、無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満であると、被覆層2の流動性を抑制することが困難となり、貫通導体5の位置ずれや被覆層2の厚みばらつきが大きくなる傾向があり、70体積%を超えると、半田リフロー時に液晶ポリマー層1との接着界面および配線導体4との接着界面で剥離し易くなる傾向がある。従って、無機絶縁粉末の平均粒径を0.1〜2.8μmとし、無機絶縁粉末が被覆層2に10〜70体積%含有されていることが重要である。
【0046】
なお、被覆層2内部において、無機絶縁粉末の含有量は、液晶ポリマー層1側の領域で10〜30体積%であることが、液晶ポリマー層1と反対側の領域では40〜70体積%であることが好ましい。
【0047】
被覆層2内部において、液晶ポリマー層1側の無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満であると、液晶ポリマー層1の熱膨張係数と被覆層2の液晶ポリマー層1側の熱膨張係数が大きく異なってしまい、電子部品を搭載する際の熱や電子部品が作動時に発生する熱が印加されると両者間で剥離して絶縁不良が発生しやすくなる傾向があり、30体積%を超えると、樹脂が少なくなって両者間の密着性が低下してしまう傾向にある。
【0048】
また、被覆層2内部において、液晶ポリマー層1と反対側の無機絶縁粉末の含有量が40体積%未満であると、絶縁フィルム3同士を加熱・加圧により接着して配線基板を製作する際に、絶縁フィルム3表面の被覆層2が流動化して絶縁フィルム3の表面や内部に形成される配線導体4や貫通導体5に位置ずれが発生する危険性があり、70体積%を超えると、被覆層2表面の熱硬化性樹脂の量が減少して、被覆層2表面に形成される配線導体4とのアンカー効果が不十分なものとなり、配線導体4との密着性が低下してしまう傾向がある。従って、被覆層2内部において、液晶ポリマー層1側の領域の無機絶縁粉末の含有量は10〜30体積%であることが、液晶ポリマー層1と反対側では40〜70体積%であることが好ましい。
【0049】
また、無機絶縁粉末の形状は、略球状・針状・フレーク状等があり、本発明の絶縁フィルム3においては、無機絶縁粉末の形状は略球状であることが好ましい。
【0050】
本発明の絶縁フィルム3によれば、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0051】
このような無機絶縁粉末としては、酸化アルミニウムや酸化珪素・酸化チタン・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ジルコニウム・酸化カルシウム・ゼオライト・窒化珪素・窒化アルミニウム・炭化珪素・チタン酸カリウム・チタン酸バリウム・チタン酸ストロンチウム・チタン酸カルシウム・ホウ酸アルミニウム・スズ酸バリウム・ジルコン酸バリウム・ジルコン酸ストロンチウム等が用いられる。
【0052】
さらに、本発明の絶縁フィルム3においては、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されたものであることが好ましい。
【0053】
本発明の絶縁フィルム3は、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層2の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層2および液晶ポリマー層1とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0054】
このようなカップリング処理としては、シラン系カップリング処理やチタネート系カップリング処理等の無機絶縁粉末と熱硬化性樹脂および液晶ポリマーとの親和性を高めこれらの接合性向上と機械的強度を高めるためのものを用いるのが好適である。
【0055】
なお、被覆層2に用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やシアネート樹脂・フェノール樹脂・ポリイミド樹脂・熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂・ビスマレイミドトリアジン樹脂等の加熱・乾燥により硬化する樹脂が用いられ、本発明の絶縁フィルム3においては、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体4を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルム3とすることができる。
【0056】
また、被覆層2は、弾性率を調整するためのゴム成分や熱安定性を改善するための酸化防止剤、耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛・メタホウ酸バリウム・酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステルや高級脂肪酸金属塩・フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤を含有してもよい。
【0057】
なお、絶縁フィルム3の厚みは絶縁信頼性を確保するという観点からは10〜300μmであることが好ましく、また、高耐熱性・低吸湿性・高寸法安定性を確保するという観点からは液晶ポリマー層1の厚みを絶縁フィルム3の厚みの40〜90%の範囲としておくことが好ましい。
【0058】
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1の厚みを絶縁フィルム3の厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層1が熱膨張係数の大きい被覆層2を良好に拘束して絶縁フィルム3全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作した場合においても、絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルム3と配線導体4との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【0059】
液晶ポリマー層1の厚みが絶縁フィルム3の厚みの40%未満であると液晶ポリマー層1が被覆層2の熱膨張や収縮を拘束することが困難となり、例えばこの絶縁フィルム3を用いて多層配線基板を製作した際、絶縁フィルム3の熱膨張係数や収縮率が配線導体4のものより大きくなり、これらの熱膨張差や収縮による応力により絶縁フィルム3にクラックが発生し易くなる傾向にある。また、液晶ポリマー層1の厚みが90%を超えると、被覆層2の熱膨張が絶縁フィルム3の熱膨張に寄与する効果が小さくなって絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数よりも小さくなり、これらの熱膨張差により配線導体4の剥離を生じる傾向にある。したがって、液晶ポリマー層1の厚みは絶縁フィルム3の厚みの40〜90%としておくことが好ましく、特に多層配線基板6を製作し電子部品7を実装したときの接続信頼性の観点からは50〜85%の範囲としておくことが好ましい。
【0060】
さらに、液晶ポリマー層1の上下面の算術平均粗さRaが0.05〜5μmであることが好ましい。
【0061】
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層1の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層2と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層1と被覆層2とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0062】
なお、液晶ポリマー層1の算術平均粗さRaは、半田リフローの際に液晶ポリマー層1と被覆層2との剥離を防止するという観点からは0.05μm以上であることが好ましく、表面に被覆層2を形成する際に空気のかみ込みを防止するという観点からは5μm以下であることが好ましい。したがって、液晶ポリマー層1は、その表面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとすることが好ましい。
【0063】
かくして本発明の絶縁フィルム3によれば、熱が繰り返し印加されても絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1と被覆層2との層間や絶縁フィルム3同士の層間で剥離して絶縁不良が発生したり、高温高湿環境下において絶縁フィルム3に被着形成された配線導体4と絶縁フィルム3との層間で剥離して配線導体4が断線したりしてしまうということもない。さらに、絶縁フィルム3をレーザにより穿設加工を行ない、微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルム3の表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0064】
次に、本発明の多層配線基板6について説明する。多層配線基板6は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体4が配設された絶縁フィルム3を複数積層して成るとともに、この絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間を絶縁フィルム3に形成された貫通導体5を介して電気的に接続することにより形成されている。
【0065】
なお、このような多層配線基板6は、先ず複数の絶縁フィルム3にレーザ加工により貫通導体5を形成するための貫通孔を穿孔し、次にそれらの貫通孔内に貫通導体5用の熱硬化性の導電性ペーストを充填した後、その絶縁フィルム3の上面および/または下面に配線導体4を転写により埋設し、最後にそれらの絶縁フィルム3を上下に積層して加熱プレスすることにより絶縁フィルム3および導電性ペーストを熱硬化させることにより製作される。
【0066】
配線導体4は、その厚みが2〜30μmで銅・金等の良導電性の金属箔から成り、多層配線基板6に搭載される電子部品7を外部電気回路(図示せず)に電気的に接続する機能を有する。
【0067】
このような配線導体4は、絶縁フィルム3を複数積層する際、配線導体4の周囲にボイドが発生するのを防止するという観点から、図3の要部拡大断面図に示すように、被覆層2に少なくとも配線導体4の表面と被覆層2の表面とが平坦となるように埋設されていることが好ましい。また、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%としておくと、配線導体4周囲に被覆層2の樹脂の盛り上がりを生じさせず平坦化することができるとともに配線導体4と被覆層2の間に挟まれる空気の排出を容易にして気泡の巻き込みを防止することができる。なお、乾燥状態での気孔率が40体積%を超えると、複数積層した絶縁フィルム3を加圧・加熱硬化した後に被覆層2内に気孔が残存し、この気孔が空気中の水分を吸着して絶縁性が低下してしまうおそれがあるので、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%の範囲としておくことが好ましい。
【0068】
このような被覆層2の乾燥状態での気孔率は、被覆層2を離型フィルム上に塗布し乾燥する際に、乾燥温度や昇温速度等の乾燥条件を適宜調整することにより所望の値とすることができる。
【0069】
さらに、絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることが好ましい。絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることにより、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、配線導体4を被覆層2に容易に埋設して配線導体4を埋設した後の被覆層2表面をほぼ平坦にすることができ、積層の際に空気をかみ込んで絶縁性を低下させることのない多層配線基板6とすることができる。なお、気泡をかみ込むことなく埋設するという観点からは、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95°以上とすることが好ましく、配線導体2を微細化するという観点からは150°以下とすることが好ましい。
【0070】
また、絶縁フィルム3の層間において、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1との間に位置する被覆層2の厚みx(μm)が、上下の液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μm(ただし、8μm≦T≦70μm、1μm≦t≦32μm)であることが好ましい。
【0071】
液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の熱硬化性樹脂から成る被覆層2の厚みx(μm)を3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmとすることにより、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の距離および配線導体4の長さの長い底辺と隣接する液晶ポリマー層1間の距離の差をt(μm)未満と小さくすることができ、被覆層2の厚みが大きく異なることから生じる多層配線基板6の反りを防止することができる。したがって、配線導体4の台形状の上底側表面と液晶ポリマー層1の間に位置する、被覆層2の厚みx(μm)を、液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmの範囲とすることが好ましい。
【0072】
このような配線導体4は、先ず、転写用支持フィルム上に銅から成る金属箔を接着剤を介して接着した金属箔付き転写フィルムを用意し、次に、フィルム上の金属箔を公知のフォトレジストを用いたサブトラクティブ法を使用してパターン状にエッチングし、次にこの金属箔がパターン状にエッチングされた転写フィルムを絶縁フィルム3に積層し、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間加熱プレスした後、転写用支持フィルムを剥離除去して金属箔を絶縁フィルム3表面に転写させることにより各絶縁フィルム3の表面に配設される。この時、パターンの表面側の側面は、フィルム側の側面に較べてエッチング液に接する時間が長いためにエッチングされやすく、パターンの幅方向の断面形状を台形状とすることができる。なお、台形の形状は、エッチング液の濃度やエッチング時間を調整することにより短い底辺と側辺とのなす角度を95〜150°の台形状とすることができる。そして、台形状の上底側が被覆層2に埋設された配線導体4を形成することができる。
【0073】
なお、配線導体4の長さの短い底辺と対向する液晶ポリマー層1間の被覆層2の厚みx(μm)は、金属箔転写時の加熱プレスの圧力を調整することにより所望の範囲とすることができる。また、配線導体4は被覆層2との密着性を高めるためにその表面にバフ研磨・ブラスト研磨・ブラシ研磨・薬品処理等の処理で表面を粗化しておくことが好ましい。
【0074】
また、絶縁フィルム3には、直径が20〜150μm程度の貫通導体5が形成されている。貫通導体5は、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4を電気的に接続する機能を有し、絶縁フィルム3にレーザにより穿設加工を施すことにより貫通孔を形成した後、この貫通孔に銅・銀・金・半田等から成る導電性ペーストを従来周知のスクリーン印刷法により埋め込むことにより形成される。
【0075】
本発明の多層配線基板6によれば、絶縁フィルム3を液晶ポリマー層1の上下面に熱硬化性樹脂から成る被覆層2を有したものとしたことから、液晶ポリマー層1が高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性であり、ガラスクロスのような強化材を用いなくとも絶縁フィルム3を構成することが可能となり、その結果、レーザによる穿設加工が容易となり微細で均一な貫通孔を形成できる。
【0076】
そして、絶縁フィルム3の所望の位置に貫通導体5を形成した後、パターン形成した例えば銅の金属箔を、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間加熱プレスして転写し、これらを積層して最終的に温度が150〜300℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で30分〜24時間加熱プレスして完全硬化させることにより本発明の多層配線基板6が完成する。
【0077】
かくして本発明の多層配線基板6によれば、上記構成の多層配線基板6の上面に形成した配線導体4の一部から成る接続パッド8に半田等の導体バンプ9を介して半導体素子等の電子部品7を電気的に接続することにより配線密度が高く絶縁性に優れた混成集積回路とすることができる。
【0078】
なお、本発明の多層配線基板6は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能であり、例えば、上述の実施例では4層の絶縁フィルム3を積層することによって多層配線基板6を製作したが、2層や3層、あるいは5層以上の絶縁フィルム3を積層して多層配線基板6を製作してもよい。また、本発明の多層配線基板6の上下表面に、1層や2層、あるいは3層以上の有機樹脂を主成分とする絶縁層から成るビルドアップ層やソルダーレジスト層10、あるいは多層配線基板6に電子部品7を搭載後、多層配線基板6と電子部品6との間にアンダーフィル材11を形成してもよい。
【0079】
【実施例】
次に本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を、以下の試料を用いて評価した。
【0080】
(実験例1)
先ず、熱硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂に平均粒径が0.5μmの球状溶融酸化珪素を含有量が5〜80体積%となるように加え、これに溶剤としてトルエン、さらに有機樹脂の硬化を促進させるための触媒を添加し、1時間混合してペーストの粘度がせん断速度1000s−1において2000Pa・sとなるように調整した。
【0081】
次に、融点が290℃であるとともに、かつ上下面に平行な方向における熱膨張係数が−3×10−6/℃の厚みが140μmの液晶ポリマー層を準備し、この表面を減圧プラズマ装置を用いて、電圧を27kV、雰囲気をCF4およびO2(ガス流量がそれぞれ80cm3/分)の条件でプラズマ処理した。
【0082】
次に、ドクターブレード法を用いて、被覆層となる厚みが30μmの熱硬化性ポリフェニレンエーテルシートを成形し、その後、温度が30〜50℃で15〜60分の範囲で1次乾燥の条件を調整し、さらに、温度が60〜100℃で15〜60分の範囲で2次乾燥の条件を調整することで、被覆層における無機絶縁粉末の含有量の分布状態が各種のものとなるようにした。
【0083】
次に、熱硬化性ポリフェニレンエーテルシートの上面がプラズマ処理した液晶ポリマー層の上下面に対向するように積層し、2MPaの圧力下で140℃の温度で20分間加熱プレスして絶縁フィルムを得た。さらに、この絶縁フィルムをミクロトームで切断して断面を面出し、この断面を電子顕微鏡により観察して、被覆層における無機絶縁粉末の含有量を測定した。測定は、液晶ポリマーに接する側の方から5μm、15μm、さらに25μm離れた任意の3点をとり、これらの点を中心にして一辺の長さが5μmである正方格子を用いて行なった。
【0084】
次に、この絶縁フィルムに、UV−YAGレーザにより直径50μmの貫通孔を形成し、この貫通孔に銅粉末と有機バインダを含有する導体ペーストをスクリーン印刷により埋め込むことにより貫通導体を形成した。
【0085】
次に、厚みが9μmで、回路状に形成した銅箔が付いた転写フィルムと、貫通導体が形成された絶縁フィルムとを位置合わせした後に真空積層機により5MPaの圧力で30秒加圧して、配線導体を絶縁フィルムに埋設し、しかる後、転写用支持フィルムを剥離した。最後に、この配線導体が形成された絶縁フィルムを4枚重ね合わせ、3MPaの圧力下で200℃の温度で5時間加熱プレスして完全硬化させて本発明によるテスト基板(試料No.2〜5)および比較のためのテスト基板(試料No.1、6、7)を得た。
【0086】
また、これらとは別に、表面に銅箔を熱溶融により接着した融点が320℃の液晶ポリマー層から成る絶縁フィルムにフォトレジストを用いて回路状の配線導体を形成し、次に、UV−YAGレーザにより直径50μmの貫通孔を形成し、さらにこの貫通孔に銅粉末と有機バインダを含有する導体ペーストをスクリーン印刷により埋め込むことにより貫通導体を形成して回路基板を作製した後、これらの回路基板を融点が280℃の液晶ポリマー層を間に挟んで1MPaの圧力下で285℃の温度で5分間加熱プレスすることにより比較のための別のテスト基板(試料No.8)を製作した。
【0087】
なお、これらのテスト基板は、絶縁フィルムを介して上下に位置する2層の配線導体とこの両者を電気的に接続する貫通導体とでビアピッチが220μmおよび180μmのビアチェーンを形成したものとし、貫通孔の穿設加工は、隣接したものを連続で行なうようにした。また、レーザ加工性の評価は、テスト基板を切断して断面を面出し、配線導体との接続部付近のビア径に対する液晶ポリマー層中心付近のビア径の比が75%以上を良、75%未満を否とした。表1にレーザ加工性の試験結果を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1からは、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満のテスト基板(試料No.1)および70体積%を超えるテスト基板(試料No.6)では、ビアピッチが220μmでのビア径の比は良好であるものの、180μmではビア径の比が74%以下と劣化する傾向があることがわかった。また、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が一定のテスト基板(試料No.7)では、ビアピッチが220μmでのビア径の比は良好であるものの、180μmではビア径の比が62%と劣化する傾向があることがわかった。さらに、絶縁フィルムが液晶ポリマーのみのテスト基板(試料No.8)では、ビアピッチが220μmでもビア径の比が72%と劣化しレーザ加工性に劣ることがわかった。
【0090】
それらに対して本発明によるテスト基板(試料No.2〜5)では、ビアピッチが180μmでも76%以上であり、レーザ加工性において特に優れていることがわかった。
【0091】
(実験例2)
実験例2用のテスト基板として、被覆層における無機絶縁粉末の平均粒径が種々の値になるように変更した以外は、実験例1用のテスト基板における試料No.2〜5と同様の方法により製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.10〜13)および比較のためのテスト基板(試料No.9、14)を用意した。なお、実験例2のテスト基板では、その内部に直径が4mmの一対の円形の導体パターンを絶縁フィルムを挟んで対向するように形成し、これらのテスト基板を130℃、相対湿度が85%の条件で、印加電圧5.5Vの高温バイアス試験を行ない、円形の導体パターン間の絶縁抵抗を測定し、試験前後の変化量を比較することにより絶縁信頼性を評価した。絶縁信頼性の良否の判断は、絶縁抵抗が1.0×108Ω以上を良、1.0×108Ω未満を否とした。表2に絶縁信頼性の試験結果を示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2からは、被覆層における無機絶縁粉末の平均粒径が0.1μm未満のテスト基板(試料No.9)および平均粒径が2.8μmを超えるテスト基板(試料No.14)では、高温バイアス試験168時間後の絶縁抵抗は良好であるものの、240時間以上では絶縁抵抗が8.2×107Ω以下と劣化する傾向があることがわかった。
【0094】
それらに対して本発明によるテスト基板(試料No.10〜13)では、高温バイアス試験240時間後でも2.7×108Ω以上であり、絶縁信頼性において特に優れていることがわかった。
【0095】
(実験例3)
実験例3用のテスト基板として、液晶ポリマー層を、その絶縁フィルムに対する厚みが種々の割合になるように変更した以外は、実験例1用のテスト基板おける試料No.2〜5と同様の方法により製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.15〜20)を用意した。このとき、絶縁フィルムの厚みが200μmとなるように被覆層の厚みを調整した。なお、実験例3用のテスト基板は、その内部に絶縁フィルムを挟んで上下に位置する2層の配線導体とこの両者を電気的に接続する貫通導体とでビアチェーンを形成したものとし、これに温度が−55℃の条件で30分、125℃の条件で30分を1サイクルとする温度サイクル試験を行ない、試験前に対する導通抵抗の変化率により導通信頼性の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3からは、液晶ポリマー層の絶縁フィルムに対する厚みの割合が40%未満のテスト基板(試料No.15)および90%を超えるテスト基板(試料No.20)では、温度サイクル試験1000サイクル後でも導通抵抗は変化率が13%以下と小さいが、1500サイクル後で導通抵抗は変化率が19%以上と大きく、導通信頼性にやや劣る傾向があることがわかった。
【0098】
それらに対して液晶ポリマー層の絶縁フィルムに対する厚みの割合が40〜90容量%のテスト基板(試料No.16〜19)では、いずれも温度サイクル試験1000サイクル後で導通抵抗の変化率は11%以下と小さく、さらに1500サイクル後でも導通抵抗の変化率は14%以下と小さく、導通信頼性において特に優れていることがわかった。
【0099】
(実験例4)
実験例4用のテスト基板として、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが種々の値になるように変更した以外は、実施例1用の多層配線基板と同様の方法で製作し、被覆層における無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマーに接する側の方から反対側に向けて多くなるようにして本発明によるテスト基板(試料No.21〜26)を用意した。これらのテスト基板を温度が280℃の半田浴に20秒間浸漬し、これを5回または10回繰り返した後、テスト基板の外観を観察することにより密着性の評価を行なった。表4に密着性の評価結果を示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4からは、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaが0.05μm未満のテスト基板(試料No.21)および5μmを超えるテスト基板(試料No.26)では、半田浴への浸漬を5回繰り返してもテスト基板の外観に変化は無かったが、浸漬を10回繰り返した時点で、液晶ポリマー層と被覆層間で剥がれて膨れが発生し、密着性にやや劣る傾向があった。それらに対し、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さが0.05〜5.02μmのテスト基板(試料No.22〜25)では、半田浴への浸漬を10回繰り返しても多層配線基板の外観に変化は無く、密着性において特に優れていることがわかった。
【0102】
【発明の効果】
本発明の絶縁フィルムによれば、被覆層に平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有することから、絶縁フィルムに配線導体および貫通導体を配設するとともに絶縁フィルムを多層化して多層配線基板を製作する場合において、無機絶縁粉末が被覆層の流動性を抑制し、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向、すなわち層方向における貫通導体の位置ずれや貫通導体の直径のばらつき、さらには被覆層の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0103】
また、この無機絶縁粉末の含有量が液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることから、被覆層の熱伝導率が液晶ポリマー層に接する側で小さく、絶縁フィルムの表面付近で熱伝導率が大きくなるため、絶縁フィルムをレーザにより穿設加工を行なう際、絶縁フィルム表面の温度上昇を抑制することができ、さらに、温度分布の発生を抑制することができることから、より微細な貫通孔を形成する場合においても、貫通孔の孔径が絶縁フィルムの表面付近で大きくなることもなく、均一な孔径の貫通孔を形成することができる。
【0104】
さらに、熱硬化性樹脂の分子が液晶ポリマー分子ほど剛直ではなく、また、規則正しい配向性も示さないことから分子が比較的動きやすく、その結果、絶縁フィルムを多層化した場合においても、絶縁フィルム同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し印加されたりしてもフィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。さらに、絶縁フィルム表面に配線導体を配設した場合においても、熱硬化性樹脂の分子が配線導体表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルムと配線導体との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下に曝されても両者間で剥離して配線導体が断線してしまうということもない。
【0105】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の厚みを絶縁フィルムの厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し印加されたり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層が熱膨張係数の大きい被覆層を良好に拘束して絶縁フィルム全体の熱膨張を小さなものとすることができ、また、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作した場合においても、絶縁フィルムの熱膨張係数が配線導体の熱膨張係数に近似し、絶縁フィルムと配線導体との熱膨張差による応力をより小さなものとすることができ、その結果、両者間で剥離することのない密着性により優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0106】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、液晶ポリマー層の上下面の算術平均粗さRaを0.05〜5μmとした場合には、液晶ポリマー層の上下面が熱硬化性樹脂から成る被覆層と良好なアンカー効果を有する密着性の良好なものとなり、液晶ポリマー層と被覆層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0107】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、無機絶縁粉末の形状を略球状とした場合には、無機絶縁粉末を熱硬化性樹脂へ充填する際の充填性や混練性をより良好なものとすることができる。
【0108】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されている場合には、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層の熱硬化性樹脂や液晶ポリマーと濡れやすくなり、無機絶縁粉末と被覆層および液晶ポリマー層とがより強固に密着した絶縁フィルムとすることができる。
【0109】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、熱硬化性樹脂を熱硬化性ポリフェニレンエーテルとした場合には、熱硬化性ポリフェニレンエーテルが耐熱性に優れるとともに寸法安定性に優れることから、温度サイクル信頼性に優れるとともに、配線導体を接着する際の位置精度の良好な絶縁フィルムとすることができる。
【0110】
本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、耐湿性・導通信頼性・レーザ加工性に優れた多層配線基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の多層配線基板に半導体素子を搭載して成る混成集積回路の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図3】図2に示す多層配線基板の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
1・・・・・・・・液晶ポリマー層
2・・・・・・・・被覆層
3・・・・・・・・絶縁フィルム
4・・・・・・・・配線導体
5・・・・・・・・貫通導体
6・・・・・・・・多層配線基板
Claims (7)
- 液晶ポリマー層の上下面に熱硬化性樹脂から成る被覆層を有する絶縁フィルムであって、前記被覆層は、平均粒径が0.1〜2.8μmである無機絶縁粉末を10〜70体積%含有するとともに、該無機絶縁粉末の含有量が前記液晶ポリマー層に接する側の方からその反対側に向けて多くなっていることを特徴とする絶縁フィルム。
- 前記液晶ポリマー層は、その厚みが前記絶縁フィルムの厚みの40〜90%であることを特徴とする請求項1記載の絶縁フィルム。
- 前記液晶ポリマー層は、前記上下面の算術平均粗さRaが0.05〜5μmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁フィルム。
- 前記無機絶縁粉末は、その形状が略球状であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルム。
- 前記無機絶縁粉末の表面はカップリング処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁フィルム。
- 前記熱硬化性樹脂が熱硬化性ポリフェニレンエーテルであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁フィルム。
- 上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体が配設された請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の絶縁フィルムを複数積層して成るとともに、該絶縁フィルムを挟んで上下に位置する前記配線導体間を前記絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続したことを特徴とする多層配線基板。
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JP2003037956A JP2004244568A (ja) | 2003-02-17 | 2003-02-17 | 絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板 |
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003037956A JP2004244568A (ja) | 2003-02-17 | 2003-02-17 | 絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板 |
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JP (1) | JP2004244568A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009144010A (ja) * | 2007-12-12 | 2009-07-02 | Tomoegawa Paper Co Ltd | 接着フィルム及びその製造方法 |
-
2003
- 2003-02-17 JP JP2003037956A patent/JP2004244568A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2009144010A (ja) * | 2007-12-12 | 2009-07-02 | Tomoegawa Paper Co Ltd | 接着フィルム及びその製造方法 |
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