JP2004240609A - 電動機制御システムの自律設計方法及び自律設計装置並びに電動機制御システム - Google Patents

電動機制御システムの自律設計方法及び自律設計装置並びに電動機制御システム Download PDF

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Abstract

【課題】機台振動を有する制御対象に対する位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを設計する作業時間を短縮する。
【解決手段】電動機17で駆動される位置決め装置を搭載した機台15の振動を有する制御対象に対し、電動機17の回転位置又は位置決め装置の可動部の位置に関する位置情報を用いて位置決め制御系を構成したものにおいて、可動部の特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性も考慮するような位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを遺伝アルゴリズムを用いて自律設計する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機台振動を有する制御対象に対する位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを自律設計する電動機制御システムの自律設計方法及び自律設計装置並びに電動機制御システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電子部品自動装着機等に代表される設備機械においては、電動機と電動機に接続された駆動機構と、電動機と電動機に接続された駆動機構を支える機台で構成される制御対象がばね特性を有する場合、その加減速動作により、機構振動が発生し、位置決め時間の増大や位置決め精度の劣化を招き、更には機台振動の発生により、機械周辺環境へ悪影響を及ぼす場合もある。
【0003】
これらの機台振動を有する位置決め制御問題に対し、サーボ制御手法による解決策を模索した場合、次のような幾つかの手法が考えられる。
【0004】
(A)状態フィードバック制御
機台振動を不可観測な状態量とおき、一部観測量からオブザーバやカルマンフィルタ等を用いた状態推定器と最適レギュレータ等を組み合わせて状態フィードバック制御を行う。
【0005】
(B)フィードフォワード制御
機台振動の伝達特性を考慮した上で、その振動を軽減させられる補償器を設計する。また、機台振動が制御量に陽に現れる場合は、制御量までの伝達特性をモデル化し、二自由度モデルマッチング制御や零位相差制御に適用させる。
【0006】
(C)目標軌道(位置指令)の工夫
各々の位置指令生成アルゴリズムにより、目標軌道を設計する時にその位置指令が持つパワースペクトル分布特性を解析し、機台振動を抑制できるような位置指令アルゴリズムとそのパラメータを選択する。
【0007】
(D)オートチューニング
補償器のパラメータをオートチューニングする(下記特許文献1参照)。また、オンライン同定機構を併用する。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−8477号公報(第2頁〜第5頁等)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述した(A)〜(D)の手法の中から適当な手法を選択して適用することにより、機台振動抑制効果を向上させることが期待できるが、一方で十分な成果が上げられない可能性もある。
【0010】
各々の制御手法の特性に目を向けてゆくと、例えば(A)や(B)の手法は、位置指令の軌道が予め何らかの方法で設計されていることが前提であるため、得られる結果がその軌道に依存してしまうという問題がある。
【0011】
一方、(C)の手法については、位置指令の軌道に可動部が完全追従すれば、可動部の駆動特性も所望のスペクトル分布を有することになるが、制御則との組み合わせにおいて、電動機のピークトルク等の機械の制約条件を満足し、かつ前述の機械周辺環境への悪影響や位置決め精度劣化の問題に対する最適解を与える位置指令の軌道を探し出すには、位置指令の特性だけに着眼するのでは不十分なことが多い。また、完全追従方式等の制御則を適用しない場合は、可動部の駆動特性は位置指令の特性と異なるということもあり、実際には所望の特性を得るために試行錯誤の領域が存在している。つまり、補償器と位置指令を個別に設計する従来の枠組みでは、制御仕様を満足する最適解を探索するのが容易ではなかった。
【0012】
(D)の手法に関しても、同様のことが言え、従来の枠組みで導出された解が必ずしも最適解に成り得ていない状況にあった。
【0013】
また、機台振動を有する位置決めシステムにこれらの手法を適用する際に、制御目標に対する明確な設計規範を有する手法は過去において特に見受けられず、そのことが、試行錯誤による設計作業を更に困難とさせる要因にもなっていた。
【0014】
本発明はこれらの事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、機台振動を有する制御対象に対する位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを設計する作業時間を短縮できる電動機制御システムの自律設計方法及び自律設計装置並びに電動機制御システムを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の電動機制御システムの自律設計方法及び自律設計装置は、電動機で駆動される装置を搭載した機台の振動を有する制御対象に対し、前記電動機の回転位置又は前記装置の可動部の位置に関する位置情報を用いて位置決め制御系を構成したものにおいて、可動部の特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性も考慮するような位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを最適化手法を用いて自律設計するようにしたものである(請求項1,7)。このようにすれば、機台振動を有する制御対象に対する位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを比較的短い時間で自律設計することができる。しかも、諸々の条件により、系の伝達特性が変化する場合においても、位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを安定して自律設計することができる。
【0016】
この場合、最適化手法として遺伝アルゴリズムを用いると良い(請求項2)。この遺伝アルゴリズムを用いれば、比較的少ない測定数でも、精度の良いパラメータを設計することができる。
遺伝アルゴリズムの処理は、次のような工程を経て行われる(請求項3)。
【0017】
[初期工程]
位置指令生成パラメータもしくは位置指令生成パラメータと補償器パラメータの両方を保存するための染色体から構成される、決められた個体数分の初期集団を生成する。
【0018】
[第一工程]
それぞれの個体に対するシミュレータ回路部による応答結果を評価関数の入力値として用いて適応度を評価する。
【0019】
[第二工程]
適応度に基づき評価の高い個体が多く残るように親個体を選択する。
【0020】
[第三工程]
第二工程で選択された親個体の染色体を交叉させて、次世代の染色体候補を生成する。
【0021】
[第四工程]
前記第三工程で生成された次世代の染色体候補に対し、突然変異を判定し、実行した結果を次世代の染色体候補に反映させる。
【0022】
[第五工程]
集団内で最も適応度の良い個体はそのまま親個体に残すエリート保存を行い、それ以外は次世代の染色体候補を親個体の染色体に保存する。
【0023】
[第六工程]
任意の世代数まで第一工程から第五工程を繰り返す。
【0024】
[第七工程]
任意の試行回数まで初期工程から第六工程まで繰り返し、終了後に最も適応度の良い個体の染色体情報を位置指令最適化パラメータもしくは位置指令と補償器の同時最適化パラメータとして位置決め制御系へ提供する。
以上の工程を経て、位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータが最適化される。
【0025】
更に、前記第一工程で適応度を評価する際に、位置決め仕様を満足しない場合にペナルティを与える評価規範と、動作上危険を及ぼす可能性のある場合にペナルティを与える評価規範と、位置決め仕様を満足しているものの、位置決め性能と機台振動抑制性能を劣化させてしまう要因に対しペナルティを与える評価規範を持ち合わす評価関数を用いることにより適合度を評価するようにすると良い(請求項4)。このように3種類の評価規範を組み合わせた評価関数を用いれば、適合度を精度良く評価することができる。
【0026】
また、シミュレータ回路部は、位置決め制御量と、位置決め制御系で採取可能な信号と、制御対象の任意の箇所に計測器を取り付けた際に観測できる機台振動を再現できるように構成すると良い(請求項5,8)。このようにすれば、機台振動抑制効果を高めた位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを自律設計することができる。
【0027】
また、出荷後の機台の設置状況(床の硬さ等)によって機台振動特性が変化するという事情を考慮して、出荷後の機台振動特性の変化に応じて前記シミュレータ回路部の特性を補正する機台振動同定手段を設けると良い(請求項6,9)。このようにすれば、出荷後の機台の設置状況(床の硬さ等)によって機台振動特性が変化しても、それに応じてシミュレータ回路部を補正することで、機台の設置状況(機台振動特性の変化)を考慮した位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを自律設計することができる。
【0028】
この場合、シミュレータ回路部の補正前と補正後で、制御性能の劣化率を計算して制御性能を評価する制御性能診断手段を設けると良い(請求項10)。このようにすれば、劣化率が小さくなように自律設計することができる。
本発明の技術的思想の適用範囲は、電動機制御システムの自律設計方法や自律設計装置のみに限定されず、電動機制御システム自体にも適用可能である。
【0029】
本発明を電動機制御システムに適用する場合は、上述した自律設計装置と、この自律設計装置より提供されたパラメータを用いた補償器により電動機電流指令又はトルク指令を提供する位置決め制御装置を兼ね備えた電動機制御システムとして構成しても良い(請求項11)。このようにすれば、優れた自律設計機能付きの電動機制御システムを構成することができる。
【0030】
この場合、電動機制御システムは、後述する実施形態(7)に例示するように、前記シミュレータ回路部と、前記自律設計装置が実測データを用いて機台振動を規定するパラメータを同定して前記シミュレータ回路部の特性を補正する機台振動同定部とを用いて、前記シミュレータ回路部の補正前と補正後で制御性能の劣化率を計算し、制御性能の良否を判定する制御性能診断部と、前記制御性能診断部による判定結果に応じて自律設計を行う遺伝アルゴリズム処理部を兼ね備えた構成とすれば良い(請求項12)。
【0031】
更に、制御性能診断部で制御性能を評価する際に、保存されている位置決め制御装置内で使用されている、それぞれの移動距離に対する位置指令並びに補償器のパラメータと、そのパラメータでシミュレータ回路部を駆動させた時に遺伝アルゴリズム処理部の第一工程内にある評価関数を用いて得た評価値を保存させておくと良い(請求項13)。このようにすれば、実際の駆動条件下での制御性能を評価することができ、シミュレータ回路部の補正前の結果を演算する必要もないため、制御性能の劣化率を精度良くかつ出来るだけ速く計算することができる。また、保存されているパラメータならびに評価値は、自律設計実施後に更新されるため、自律設計を繰り返し実施しなければならない状況下においても、上述したような効果が得られる。
【0032】
また、遺伝アルゴリズム処理部の初期工程で生成する初期集団のある特定の個体には、前記位置決め制御装置内で用いられている位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを染色体情報として保有するようにすると良い(請求項14)。このようにすれば、遺伝アルゴリズムによって位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを比較的短い時間で精度良く自律設計することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明は、図1の概念図に基づいて実施される。位置決め制御装置11は主に位置指令生成部12、位置制御部13及びパラメータ記憶部14から構成されている。機台15(図2参照)と一体となった制御対象16は、剛体系もしくは電動機17と可動部18との間にばね特性を有する共振振動系であり、また、機台15は可動部18の加減速動作時に発生する負荷トルクにより、弾性変形を起こし、更には負荷トルクの反作用を吸収しきれない場合には機台15の固有振動数に依存した振動を起こす場合がある。
【0034】
この状況下で、本発明は、各請求項で記述した制御仕様に基づき、位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータの最適化を行う。この最適化を行う際には自律設計装置19(自律設計手段)を用いる。この自律設計装置19では、遺伝アルゴリズム(以下「GA」と略記する)を採用し、更に、位置指令と補償器の同時最適化処理を可能としている。
【0035】
ここで、自律設計装置19で用いるGA処理の基本概念について説明する。このGA処理は、図3に示すGA処理のフローチャートに従って、次のような工程を経て行われる。
【0036】
[初期工程]
位置指令生成パラメータもしくは位置指令生成パラメータと補償器パラメータの両方を保存するための染色体から構成される、決められた個体数分の初期集団を生成する(S1)。
【0037】
初期集団を構成する染色体には最適化を行うパラメータが設定されるが、この際、位置指令と補償器の同時最適化を可能とするために、ある特定の移動距離において位置指令の軌道を規定する各パラメータと、補償器の特性を規定する各パラメータを染色体情報として保有することができるようになっている。
【0038】
[第一工程]
それぞれの個体に対するシミュレータ回路部22による応答結果を評価関数の入力値として用いて適応度を評価する(S2)。
【0039】
[第二工程]
適応度に基づき評価の高い個体が多く残るように親個体を選択する(S3)。この際、特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性を保証するようなパラメータが適合度の高いものとなるように、評価関数は、以下の三種類の評価規範(A)〜(C)を持ち合わせた評価関数が用いられる。
【0040】
(A)位置決め仕様を満足しない場合にペナルティを与える評価規範
(B)動作上危険を及ぼす可能性のある場合にペナルティを与える評価規範
(C)位置決め仕様を満足しているものの、位置決め性能と機台振動抑制性能を劣化させてしまう要因に対しペナルティを与える評価規範
【0041】
評価関数の性質上、それの入力値は位置決め制御量と位置決め制御装置11内で採取可能な信号と機台加速度応答が用いられる。この評価関数への入力値はシミュレータ回路部22により、再現させている。例えば,GA処理過程で動作上危険を及ぼす可能性のあるパラメータが生成されても、制御対象16を損傷させる心配はない。また、制御対象16が製品として出荷された後には位置決め制御装置11では採取できない応答に対しても再現できることから、自律設計装置19は製品の試作段階から量産出荷後の全ての状況において適用可能となる。
【0042】
また、シミュレータ回路部22内の機台振動特性を規定するパラメータは、自律設計装置19内にある機台振動同定部を介して様々な条件により変化する機台振動応答に応じて変更させることが可能である。
【0043】
[第三工程]
第二工程で選択された親個体の染色体を交叉させて、次世代の染色体候補を生成する(S4)。
【0044】
[第四工程]
前記第三工程で生成された次世代の染色体候補に対し、突然変異を判定し、実行した結果を次世代の染色体候補に反映させる(S5)。
【0045】
[第五工程]
集団内で最も適応度の良い個体はそのまま親個体に残すエリート保存を行い、それ以外は次世代の染色体候補を親個体の染色体に保存する(S6)。
【0046】
[第六工程]
任意の世代数まで第一工程から第五工程を繰り返す(S7)。
【0047】
[第七工程]
任意の試行回数まで初期工程から第六工程まで繰り返し、終了後に最も適応度の良い個体の染色体情報を位置指令最適化パラメータもしくは位置指令と補償器の同時最適化パラメータとして位置決め制御装置11へ提供する。
【0048】
《実施形態(1)》
本発明を図2に示す装置に適用した実施形態(1)を説明する。図2に示す装置は、サーボモータ17(電動機)によってボールねじ20を駆動してテーブル18(可動部)をスライド移動させる、いわゆるボールねじシステムを機台15に搭載した構成となっている。本実施形態(1)では、このボールねじシステムの位置決め制御装置11を図4のように構成した。パラメータ記憶部14は自律設計装置19と接続されており、また、位置指令生成部12と位置制御部13へ必要なパラメータを転送する。位置指令生成部12は変形正弦曲線のアルゴリズムが搭載されており、L、T、Tmaにより位置指令の軌道が決定される。ここで、Lは移動距離(パルス)、Tは移動時間(サンプル数)、Tmaは加速時間に対する動作開始から最高加速度に到達するまでの時間の割合(=減速時間に対する最高減速度から停止するまでの時間の割合)である。ただし、1サンプルを位置決め制御装置11内の制御周期とする。
【0049】
位置制御部13には、電動機エンコーダの信号を位置情報として入力し、補償器演算結果を電動機電流指令(トルク指令)として出力するセミクロ−ズドループを構成している。補償器は既約分解表現に基づく二自由度制御系が構成されている。
【0050】
図4において、D(s)/Na(s)は、電動機電流指令からテーブル18までの近似伝達特性の逆特性であり、Nm(s)/Na(s)は、電動機17の位置からテーブル18までの近似伝達特性の逆特性である。そして、K(s)は、D(s)/Na(s)とNm(s)/Na(s)をプロパーにし、かつ、機台15の振動を抑制するように目標値追従特性を変更させたフィルタである。また、Cpos(s)は、テーブル18の位置や駆動条件に依存しないロバスト安定なフィードバック補償器(例えばPID補償器、H∞補償器等)である。尚、sはラプラス変換演算子を示す。
【0051】
位置制御部13はディジタル制御を行っているため、各々の補償器は何らかの離散化手法を用いて実装されている。ここで、自律設計装置19と位置決め制御装置11と電動機電流増幅装置は、必ずしも別々のハードウェアに分離して構成したものに限らず、一つのハードウェア内に一つもしくは複数の数値演算装置を用いて構成するようにしても良く、ハードウェア構成を限定するものではない。
【0052】
この位置決め制御装置11において、移動距離8712パルスに対して、テーブル18・電動機17の位置決め時間160サンプル、位置決め完了幅60パルスを要求位置決め仕様として設定し、機台振動抑制に関しては、前述した従来の問題の解決策として、駆動時に発生する機台振動のエネルギーの総和を出来るだけ少なくするように駆動させることを目標とする。今回、各パラメータをチューニングするにあたり、D(s)/Na(s)、Nm(s)/Na(s)、K(s)は固定とし、変形正弦曲線のパラメータT,TmaとK(s)を規定するパラメータを可変とする条件を設けた。
【0053】
まず、自律設計装置19を用いずに手動設計で補償器パラメータと位置指令パラメータのチューニングを行った。補償器を設計するにあたり、電動機電流指令から図2の箇所Aから採取した機台加速度応答までの伝達特性を測定したところ、図5の通りとなった。機台振動の一次モードの固有振動数が約29Hzであることから、その帯域のゲインを落とし込むような特性を持つようにK(s)を設計した。K(s)・D(s)/Na(s)とK(s)・Nm(s)/Na(s)の伝達特性を図6と図7に示す。
【0054】
補償器パラメータを決定後、図2のテーブル18の位置がボールネジ20の中央にある時に位置決め仕様を満たしつつ、駆動時に発生する機台振動のエネルギー和を減少させるような変形正弦のパラメータを探索したところ、以下のようなパラメータとなった。
T=106
Tma=0.1
【0055】
以上説明した手動設計による位置決め応答と機台振動応答の測定結果を図8に示す。
次に、自律設計装置19で補償器パラメータと位置指令パラメータのチューニングを行った。GA処理を行う際に、以下の内部変数を設定する。
【0056】
・最大個体数→N
・1個体中の染色体数
・GA処理中の最小評価値
・染色体長(bit数)
・染色体の取り得る最大値(ここでは2の染色体長乗−1)
・交叉確率(0〜1.0,ここでは、0.9)
・突然変異確率(0〜1.0,ここでは、0.03)
・個体番号(0≦j≦N)
・エリート個体番号
・染色体
・親染色体
・次世代の染色体候補
・個体の評価値
・最大世代数
・世代数
・最大試行回数→M
・試行回数→i(1≦i≦M)
・各試行毎において最も適合度が高かった個体の染色体情報
【0057】
染色体には変形正弦曲線のパラメータT,Tmaと、K(s)を規定するパラメータが保存されており、それらは任意ビット長のバイナリで表現されている。
【0058】
染色体バイナリデータは、その最小値を最適化パラメータの探索範囲における最小値とし、探索範囲の最大値までを染色体のbit数分の分解能で表現できる構造となっている。各々の個体に初期保存される染色体は、ある一つの個体には手動設計で用いたパラメータ群が設定されており、それ以外はランダムに生成した。
【0059】
GA処理の第一工程で用いられるシミュレータ回路部22の構成とGA処理部21ならびに機台振動同定部23(機台振動同定手段)との関係は図9のように表される。
【0060】
ここで、Tij,Tmaijは、i番目の試行におけるj番目の個体に保存されている染色体情報で規定される変形正弦曲線のパラメータT,Tmaである。
(s)は、i番目の試行におけるj番目の個体に保存されている染色体情報で規定される補償器パラメータで設計されたK(s)である。
【0061】
Nak(s)/Dk(s)は、テーブル18がk番目の区分に存在する時の電動機電流指令からテーブル18の位置までの伝達特性である。
Nmk(s)/Dk(s)は、テーブル18がk番目の区分に存在する時の電動機電流指令から電動機17の位置までの伝達特性である。
Gbasek(s)は、テーブル18がk番目の区分に存在する時の電動機電流指令から機台加速度までの伝達特性である。
【0062】
ただし、ボールねじシステムがテーブル18の位置により伝達特性が変化することを考慮し、テーブル18の可動領域を幾つかの区分に分け、その区分を番号で識別することによりテーブル18のおおよその位置が一義的に決まることを前提としており、ここではk番目の区分が、ボールねじ20の中央付近であることを示している。
【0063】
シミュレータ回路部22の位置指令生成部は、図4の位置決め制御装置11と同一の演算方法で実現する。補償器も同様である。電動機電流指令以降の制御対象は、今回は連続時間系で表現し、状態の微分係数を数値積分して連続状態を計算している。ただし、実機応答を再現するものであれば、特に実現方式に拘るものではない。例えば、位置制御部13のサンプリング周期の零次ホールドで離散化したパルス伝達関数や状態空間モデルで演算することも可能である。機台加速度は、図2に示した計測箇所Aの応答を再現するようにシミュレータ回路部22内で設定さている。
【0064】
また、機台振動の測定個所は必ずしも図2に示したような箇所Aに限定されるわけではなく、シミュレータ回路部22で応答を再現できるという条件下で、振動抑制したい箇所は任意に設定できるものとする。機台振動同定部は機台の固有振動数と減衰係数を推定し、電動機電流指令以降の伝達特性を更新させることが出来る。これの実施例は後述する。
【0065】
GA処理部21からi番目の試行におけるj番目の個体の染色体情報を受信し、バイナリデータをシミュレータ回路部22で用いるパラメータデータに変換した後、シミュレータ回路部22により、時間応答を演算する。このシミュレータ回路部22の出力結果である電動機位置応答、テーブル位置応答、機台加速度応答、電動機電流指令は適応度の評価に用いるため、GA処理部21へ転送される。このGA部21に転送されたシミュレータ回路部22の出力結果を用いて、i番目の個体の適合度を調べる。適合度は複数の評価規範によって構成される評価関数を用いて得られる評価値により判明する。今回設定した制御目標に対し、以下のような評価規範をもつ評価関数を設定した。
【0066】
(1)位置決め条件(位置決め時間と位置決め完了幅)を満足しない場合、評価値に大きなペナルティを加える。
(2)電動機電流指令が飽和してしまった場合、評価値に大きなペナルティを加える。
(3)位置決め応答波形に対して30パルス以上オーバーシュートした場合、そのオーバーシュート量の総和に所定の重み値を乗じた値を評価値に加える。
(4)機台加速度の絶対値積分値を評価値に加える。
【0067】
ここで、(1)は制御仕様を満足しない場合にペナルティを与える評価規範、
(2)は動作上危険を及ぼす可能性のある場合にペナルティを与える評価規範、
(3),(4)は位置決め仕様を満足しているものの、位置決め性能と機台振動抑制性能を劣化させてしまう要因に対してペナルティを与える評価規範である。評価値は初期値を0とし、(1)から(4)の評価規範に基づいて構成された評価関数により得られる。この評価値が小さいほど適合度が高いことを示す。全ての個体の評価値が出揃った後、第二工程に移行し、トーナメント方式で最大個体数分の親染色体を生成する。
【0068】
次に、第三工程で次世代の染色体候補を、0から1の範囲で設定できる交叉確率に基づいて実施される親染色体同士の多点交叉処理により生成する。
【0069】
第四工程で、次世代の染色体候補を、0から1の範囲で設定できる突然変異確率に基づいて実施される突然変異処理によりbit反転処理を実施する。
【0070】
第五工程では、その世代の中で最も評価値の小さかった個体番号をエリート個体番号として保存し、その番号以外の個体の染色体を次世代の染色体候補に上書き保存する。
【0071】
第六工程では、最大世代数まで到達しない場合は次世代へ更新し、第一工程へ戻す。最大世代数まで到達した場合には、その試行において最も適合度が高かった個体の染色体情報を保存し、第七工程へ移る。
【0072】
第七工程では、最大試行回数まで到達しない場合は試行回数を更新し、初期工程へ戻す。最大試行回数まで到達した場合には、各々の試行において最も適合度の高かった個体を比較し、その中でも最も適合度の高い個体に保存されている染色体情報を自律設計結果として位置決め制御装置11へ受け渡す。
【0073】
以上の方法で最大個体数30,最大世代数30、最大試行回数10回としてGA処理を行った。図10に各々の試行における最小評価値を示す。二回目の試行における評価値が最小であることから、その評価値を得た個体の染色体情報が第七工程で位置決め制御装置11へ受け渡されることとなる。自律設計装置19で得られた変形正弦曲線のパラメータ値は、T=142、Tma=0.41となった。同様にして得られたK(s)のパラメータを用いて設計されたK(s)・D(s)/Na(s)とK(s)・Nm(s)/Na(s)の伝達特性は図11と図12のように測定された。
【0074】
自律設計パラメータで実機を動かした結果を図13に示す。位置決め応答に関しては位置決め仕様を満足しており、手動設計と比較して同等程度の精度が得られている。また、機台振動に関しては、機台加速度の最大値が若干小さくなっていることが分かる。今回設定した、「駆動時に発生する機台振動のエネルギーの総和を出来るだけ少なくするように駆動させる」という制御目標に対する改善効果を確認するために、機台加速度のパワースペクトル密度を推定し、5Hzから100Kzまでのオーバーオール値を比較した。
【0075】
その結果、手動設計が、−20.7238dB/Hzに対して、自律設計は、−21.8464dB/Hzとなり、約23%の振動エネルギー低減を実現できることが確認された。手動設計と自律設計のパワースペクトル密度分布を比較した結果を図14に示す。
【0076】
以上説明した本実施形態(1)においては、フィードフォワード補償器を手動設計した後に位置指令を設計する従来の手法の欠点(つまり機台振動抑制効果を高めるような位置指令軌道の探索範囲が最適解を得る保証もされないまま制限されてしまう欠点)を克服し、位置指令とフィードフォワード補償器を同時最適化することにより、探索範囲を拡大して、機台振動抑制性能を向上できるパラメータ群を提供できることを示した。
【0077】
《実施形態(2)》
上記実施形態(1)を複数の移動距離に対して実施する場合、各々の移動距離に対して自律設計装置19を適用し、得られたパラメータを位置決め制御装置11内のパラメータ記憶部12に保存することで、適宜パラメータを選択して駆動できる。また、これら測定結果より、移動距離に対して各々のパラメータが一義的に決まる曲線式を作成することで、自律設計装置19により最適化しなかった移動距離に対してもパラメータを提供することができる。
【0078】
《実施形態(3)》
上記実施形態(2)の自律設計結果を適用して複数の移動距離に対する連続動作が行われる時に補償器を切り替える場合、最適化パラメータの結果次第では、電動機電流指令値に不連続点が発生し、そのことで振動を発生してしまう可能性がある。その場合の対策方法としては、次の方法▲1▼,▲2▼のいずれかを採用すれば良い。
【0079】
▲1▼実施形態(1)での補償器パラメータ切り替え時の電動機電流指令値の不連続点が振動発生要因にならない程度のパラメータ探索範囲を設ける。
▲2▼使用頻度の高い移動距離に対して、補償器と目標軌道の同時最適化を行い、それ以外の移動距離に対しては目標軌道だけを最適化する。
【0080】
本実施形態(3)では、図2に対して後者の方法▲2▼を適用した例を説明する。最適化する移動距離は8712パルス、16000パルス、24000パルスとする。その中で8712パルスが最も使用頻度の高い移動距離であるとして、補償器と目標軌道の同時最適化を行い、それ以外は目標軌道だけを最適化する。8712パルスに対する自律設計結果は、前記実施形態(1)で説明した通りである。残り二つの移動距離に対しては、8712パルス移動時に得られた補償器パラメータで固定し、位置指令パラメータだけを染色体情報として設定し、最適化を行った。移動距離16000,24000パルスに対する要求位置決め仕様は、テーブル18・電動機17の位置決め時間を218,268サンプルとし、位置決め完了幅を共に60パルスとする。自律設計結果として、以下の目標軌道パラメータを得た。
【0081】
16000パルス時 T=203 Tma=0.46
24000パルス時 T=256 Tma=0.54
【0082】
移動距離16000,24000パルスに対し、自律設計パラメータで実機を動かした時の測定結果を図15、図16に示す。両方とも要求位置決め仕様を満足していることが分かる。機台加速度応答に関しても、8712パルス時に比べ、最大値を小さく抑えられていることが分かる。5Hzから100Hzまでのオーバーオール値で比較すると、16000パルス移動時に−24.7449dG/Hz、24000パルス移動時に−26.0379dB/Hzとなり、8712パルス移動時に比べ、それぞれ、48.7%、62%の振動エネルギー低減を実現できた。
【0083】
以上の方法で移動距離毎に目標軌道を最適化した後、前記実施形態(2)と同様に、移動距離に対して目標軌道を規定するパラメータが一義的に決まる曲線式を作成することで、自律設計装置19により最適化しなかった移動距離に対しても目標軌道パラメータを提供することが可能である。
【0084】
本実施形態(3)では、最も使用頻度の高い移動距離に対して、目標軌道と補償器の同時最適化を実施し、それ以外の移動距離に対しては位置指令の軌道のみ最適化を実施することにより、補償器の切り替えによる弊害を排除した。そのような場合においても、あらゆる移動距離に対して位置決め仕様を満足し、かつ機台振動抑制効果を高めるパラメータ群を提供できることを示した。
【0085】
《実施形態(4)》
これまでの実施形態(1)〜(3)では、使用する目標軌道は変形正弦曲線に限定していた。しかしながら、それ以外の種々の目標軌道生成アルゴリズムと補償器の組み合わせで自律設計装置19を適用し、それぞれ得た評価値を比較すれば、より広範なパラメータ探索も可能である。この作業を行う際、本発明は実機を用いずにかつ膨大なパラメータ探索を自動的に行うことからも、実機を用いてチューニングを行う場合に比べて作業時間を短縮できることが分かる。また、同時に複数の自律設計装置19を用いることが出来る場合には大幅な作業短縮も可能である。
【0086】
《実施形態(5)》
本発明は、制御目標に応じて、自律設計装置19のGA処理部21の評価数を自由に設定できるものであり、それにより制御目標に適したパラメータ探索が可能である。例えば、前記実施形態(1)〜(4)では、機台振動抑制に対する制御目標を「駆動時に発生する機台振動のエネルギーの総和を出来るだけ少なくする」としていたため、GA処理部21の評価関数に「(4)機台加速度の絶対値積分値を評価値に加える」という評価規範を設けていたが、位置決め精度の劣化の問題を考慮した制御目標にする場合には、位置決め完了付近での機台振動を重視した評価規範に変更すれば良い。
【0087】
《実施形態(6)》
前記実施形態(1)においては、電動機電流指令以降の特性をテーブル18の位置がボールねじ20の中央付近に存在していることを前提としていた。従って、テーブル18の位置により、系が大きく変化する制御対象の場合は、自律設計結果19の位置決め応答、機台振動抑制効果のロバスト性が保証されない可能性がある。本発明によると、例えば、図2のボールねじシステムに対して、以下の方法により、テーブル18の位置による系の変動に対するロバスト性を確保した最適化パラメータ群を提供できる。
【0088】
▲1▼テーブル18の位置が電動機側(左)、中央、反電動機側(右)の時の各種応答を再現する3種類のシミュレータ回路部を設定する。
▲2▼ある個体の染色体情報をそれぞれのシミュレータ回路部へ送信し、時間応答結果をGA処理部へ転送する。
▲3▼3種類の時間応答結果から3つの評価値を計算し、それを合算したものをその個体値の評価値とし、後はこれまでと同様の方法で処理を行う。
【0089】
本発明は駆動部の位置のみならず、例えば負荷変動や設置条件によりで系が変動する場合において、それらの特性が既知であれば同様の方法で最適化パラメータの探索が行えることが容易に想像できる。
【0090】
本発明は系が変動する制御対象に対して、常に位置決め要求仕様を満足し、かつ機台振動抑制効果を考慮するようなパラメータ探索を行う際、実機を用いずに自動的にパラメータ探索が行えることからも、実機を用いてチューニングを行う場合に比べて作業時間を短縮できることが分かる。
【0091】
《実施形態(7)》
本実施形態(7)では、機械出荷後の再チューニングを実施する。機台振動の発生状況は、機械の設置条件により変化する。これは、機台の固有振動数が機械のみならず設置箇所の鋼性にも依存するからである。前記実施形態(6)で説明した手法を用いれば、機台振動特性の変動に対するロバスト性を考慮したパラメータの探索も行えるが、変動範囲外の振動特性を有する場合には、機械出荷前にチューニングしたパラメータでは、機械出荷後には機台振動抑制性能が劣化してしまう可能性がある。
【0092】
本実施形態(7)では、本発明を用いて機械出荷後も理想的な機台振動抑制を確保したパラメータ群を提供するシステムが構築できることを説明する。図17、図18は、機械出荷後のパラメータ補正システムの構成例とその処理の流れを示している。以下、処理手順について説明する。
【0093】
(手順1)クライアントからパラメータ補正システム実行の指示をサーバへ送る。
【0094】
(手順2)サーバは機台振動特性を同定するための動作指示をM/C(マシーン)内の位置決め制御装置へ送る。
【0095】
(手順3)位置決め制御装置で動作指示を受けてM/Cを駆動させ、その時の機台振動同定に用いる実応答データを自律設計装置内のパラメータ記憶部へ転送する。
【0096】
(手順4−1)パラメータ記憶部は機台振動同定部(手順3)で得た同定用データを転送する。
【0097】
(手順4−2)自律設計装置内の機台振動同定部は、受信したデータを用いて機台の固有振動数と減衰係数を同定する。同定後、シミュレータ回路内にある、電動機電流指令以降の各々の特性を示す伝達特性が、機台固有振動数に依存した振動を表現するモードパラメータを包含する場合にそれの固有振動数と減衰係数を更新し、シミュレータ回路を補正する。
【0098】
(手順4−3)自律設計装置内の制御性能診断部(制御性能診断手段)には、位置決め制御装置で使用しているパラメータ群と、そのパラメータ群で補正前のシミュレータ回路部を駆動させた時に得た評価値が予め保存されている。そのパラメータ群をシミュレータ回路部へ転送する。
【0099】
(手順4−4)自律設計装置内のシミュレータ回路部は、転送されたパラメータ群を用いてシミュレーションを実行し、そのシミュレーション応答結果を制御性能診断部へ転送する。
【0100】
(手順4−5)自律設計装置内の制御性能診断部は応答結果とGA処理部の第一工程で用いる同一の評価関数を用いて評価値を計算する。予め保存されていた評価値と新たに得た評価値とを比較し、性能劣化率を計算する。その結果、劣化率がある一定の値を下回った場合、劣化率だけをデータ記憶部へ転送する。反対に、劣化率がある一定の値を上回った場合には、GA処理部へ位置決め制御装置で使用しているパラメータ群を転送し、自律設計の指示を行う。
【0101】
(手順4−6)自律設計装置内のGA処理部には、前記各実施形態と同様の方法で最適化パラメータを探索し、自律設計結果をデータ記憶部へ転送する。ただし、初期工程のある特定の個体には、制御性能診断部から転送されたパラメータ群が染色体に保存されているものとする。
【0102】
(手順4−7)自律設計装置内のデータ記憶部は、(手順4−6)が実施された場合に、新たに自律設計されたパラメータ群とその時の評価値を転送し、制御性能診断部に保存させる。
【0103】
(手順5)自律設計装置内のデータ記憶部は、(手順4−6)が実施された場合に自律設計結果により得たパラメータ群を位置決め制御装置へ転送する。
【0104】
(手順6)自律設計装置内のデータ記憶部は、劣化率と自律設計結果により得たパラメータ群をクライアントへ転送する。クライアントは劣化率とパラメータ群を表示する。
【0105】
ここで、(手順4−2)の機台振動同定部ではFFTや最小二乗法を用いて、機台の固有振動数と減衰係数を同定する。また、機台振動の固有振動数が電動機電流指令から位置観測量の伝達特性、例えば、前記実施形態(1)のNmk(s)/Dk(s)が機台固有振動数に依存した振動を表現するモードパラメータを包含している場合は、位置観測量を同定データに用いる。Nmk(s)/Dk(s)がモードパラメータを包含していない場合は、機台加速度応答を採取できるセンサ入力情報を用いる。
【0106】
尚、上記各実施形態では、位置指令と補償器の両方を同時に最適化するようにしたが、位置指令のみを最適化するようにしても良い。
その他、本発明の適用範囲は、ボールねじシステムに限定されず、電動機を駆動源とする各種の位置決め制御装置に本発明を適用して実施できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の概要を説明するシステム全体の概念図
【図2】本発明を適用するボールねじシステムの概念図
【図3】GA処理の流れを示すフローチャート
【図4】位置決め制御装置の構成例を示すブロック図
【図5】電動機電流指令から機台加速度応答までの伝達特性の測定結果を示す図
【図6】手動設計によるK(s)・D(s)/Na(s)の伝達特性の測定結果を示す図
【図7】手動設計によるK(s)・Nm(s)/Na(s)の伝達特性の測定結果を示す図
【図8】手動設計による位置決め応答と機台振動応答の測定結果を示す図
【図9】シミュレータ回路部の構成とGA処理部ならびに機台振動同定部との関係を示すブロック図
【図10】試行回数と最小評価値との関係を示す図
【図11】自律設計で得たK(s)・D(s)/Na(s)の伝達特性の測定結果を示す図
【図12】自律設計で得たK(s)・Nm(s)/Na(s)の伝達特性の測定結果を示す図
【図13】実施形態(1)の自律設計による位置決め応答と機台振動応答の測定結果を示す図
【図14】実施形態(1)の自律設計と手動設計のパワースペクトル密度分布を測定した結果を示す図
【図15】実施形態(3)の自律設計による移動距離16000パルスでの位置決め応答と機台振動応答の測定結果を示す図
【図16】実施形態(3)の自律設計による移動距離24000パルスでの位置決め応答と機台振動応答の測定結果を示す図
【図17】実施形態(7)の機械出荷後のパラメータ補正システムの構成例とその処理の流れを示す図(その1)
【図18】実施形態(7)の機械出荷後のパラメータ補正システムの構成例とその処理の流れを示す図(その2)
【符号の説明】
11…位置決め制御装置、12…位置指令生成部、13…位置制御部、14…パラメータ記憶部、15…機台、16…制御対象、17…電動機、18…テーブル(可動部)、19…自律設計装置(自律設計手段)、20…ボールねじ、21…GA処理部、22…シミュレータ回路部、23…機台振動同定部(機台振動同定手段)。

Claims (14)

  1. 電動機で駆動される装置を搭載した機台の振動を有する制御対象に対し、前記電動機の回転位置又は前記装置の可動部の位置に関する位置情報を用いて位置決め制御系を構成した電動機制御システムの自律設計方法において、
    前記可動部の特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性も考慮するような位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを最適化手法を用いて自律設計することを特徴とする電動機制御システムの自律設計方法。
  2. 前記最適化手法として遺伝アルゴリズムを用いることを特徴とする請求項1に記載の電動機制御システムの自律設計方法。
  3. 位置指令生成パラメータもしくは位置指令生成パラメータと補償器パラメータの両方を保存するための染色体から構成される、決められた個体数分の初期集団を生成する初期工程と、
    それぞれの個体に対するシミュレータ回路部による応答結果を評価関数の入力値として用いて適応度を評価する第一工程と、
    前記適応度に基づき評価の高い個体が多く残るように親個体を選択する第二工程と、
    前記第二工程で選択された親個体の染色体を交叉させて、次世代の染色体候補を生成する第三工程と、
    前記第三工程で生成された次世代の染色体候補に対し、突然変異を判定し、実行した結果を次世代の染色体候補に反映させる第四工程と、
    集団内で最も適応度の良い個体はそのまま親個体に残すエリート保存を行い、それ以外は次世代の染色体候補を親個体の染色体に保存する第五工程と、
    任意の世代数まで第一工程から第五工程を繰り返す第六工程と、
    任意の試行回数まで初期工程から第六工程まで繰り返し、終了後に最も適応度の良い個体の染色体情報を位置指令最適化パラメータもしくは位置指令と補償器の同時最適化パラメータとして前記位置決め制御系へ提供する第七工程と
    を実行することを特徴とする請求項2に記載の電動機制御システムの自律設計方法。
  4. 前記第一工程で適応度を評価する際に、位置決め仕様を満足しない場合にペナルティを与える評価規範と、動作上危険を及ぼす可能性のある場合にペナルティを与える評価規範と、位置決め仕様を満足しているものの、位置決め性能と機台振動抑制性能を劣化させてしまう要因に対しペナルティを与える評価規範を持ち合わす評価関数を用いることにより適合度を評価することを特徴とする請求項3に記載の電動機制御システムの自律設計方法。
  5. 前記シミュレータ回路部は、位置決め制御量と、前記位置決め制御系で採取可能な信号と、前記制御対象の任意の箇所に計測器を取り付けた際に観測できる機台振動を再現することを特徴とする請求項3又は4に記載の電動機制御システムの自律設計方法。
  6. 出荷後の機台振動特性の変化に応じて前記シミュレータ回路部の特性を補正することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の電動機制御システムの自律設計方法。
  7. 電動機で駆動される装置を搭載した機台の振動を有する制御対象に対し、前記電動機の回転位置又は前記装置の可動部の位置に関する位置情報を用いて位置決め制御系を構成した電動機制御システムの自律設計装置において、
    前記可動部の特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性も考慮するような位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを最適化手法を用いて自律設計する自律設計手段を備えていることを特徴とする電動機制御システムの自律設計装置。
  8. 位置決め制御量と、前記位置決め制御系で採取可能な信号と、前記制御対象の任意の箇所に計測器を取り付けた際に観測できる機台振動を再現できるシミュレータ回路部を有することを特徴とする請求項7に記載の電動機制御システムの自律設計装置。
  9. 出荷後の機台振動特性の変化に応じて前記シミュレータ回路部の特性を補正する機台振動同定手段を有することを特徴とする請求項8に記載の電動機制御システムの自律設計装置。
  10. 前記シミュレータ回路部の補正前と補正後で、制御性能の劣化率を計算して制御性能を評価する制御性能診断手段を有することを特徴とする請求項9に記載の電動機制御システムの自律設計装置。
  11. 電動機で駆動される装置を搭載した機台の振動を有する制御対象に対し、前記電動機の回転位置又は前記装置の可動部の位置に関する位置情報を用いて位置決め制御系を構成する時に、前記可動部の特定の移動距離もしくは複数の移動距離に対して、(1)位置決め仕様を満足し、(2)機台振動抑制に関する制御目標を考慮し、(3)動作上の安全性も考慮するような位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータを最適化手法を用いて自律設計する自律設計装置と、前記自律設計装置より提供されたパラメータを用いた補償器により電動機電流指令又はトルク指令を提供する位置決め制御装置を兼ね備えていることを特徴とする電動機制御システム。
  12. 位置決め制御量と、前記位置決め制御系で採取可能な信号と、前記制御対象の任意の箇所に計測器を取り付けた際に観測できる機台振動を再現できるシミュレータ回路部と、前記自律設計装置が実測データを用いて機台振動を規定するパラメータを同定して前記シミュレータ回路部の特性を補正する機台振動同定部とを用いて、前記シミュレータ回路部の補正前と補正後で制御性能の劣化率を計算し、制御性能の良否を判定する制御性能診断部と、前記制御性能診断部による判定結果に応じて自律設計を行う遺伝アルゴリズム処理部を兼ね備えたことを特徴とする請求項11に記載の電動機制御システム。
  13. 前記制御性能診断部は、前記位置決め制御装置内で使用されている、それぞれの移動距離に対する位置指令並びに補償器のパラメータと、そのパラメータで前記シミュレータ回路部を駆動させた時に前記遺伝アルゴリズム処理部の第一工程内にある評価関数を用いて得た評価値を保存していることを特徴とする請求項12に記載の電動機制御システム。
  14. 前記遺伝アルゴリズム処理部の初期工程で生成する初期集団のある特定の個体には、前記位置決め制御装置内で用いられている位置指令パラメータもしくは位置指令と補償器の両方のパラメータが染色体情報として保有されていることを特徴とする請求項12又は13に記載の電動機制御システム。
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