JP2004238756A - 黒色系吸放湿性繊維製品 - Google Patents
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Abstract
【目的】吸放湿性繊維に要求される特性を維持しながら従来の吸放湿性繊維が抱える、染色堅牢度が不安定であり黒色が得られないという欠点を改良した黒色吸放湿性化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品を提供する。
【構成】20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上である化学繊維であって、該繊維の黒色度がJIS−Z−8730に記載の表示方法による明度が35以下である黒色化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系繊維製品。
【効果】吸放湿性能と黒色度のバランスの取れた、尚且つ最終製品にて良好な染色堅牢度を有する、即ち黒色安定性に優れ、さらに審美性にも優れた黒色系吸放湿性繊維製品を提供できる。
【選択図】 なし
【構成】20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上である化学繊維であって、該繊維の黒色度がJIS−Z−8730に記載の表示方法による明度が35以下である黒色化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系繊維製品。
【効果】吸放湿性能と黒色度のバランスの取れた、尚且つ最終製品にて良好な染色堅牢度を有する、即ち黒色安定性に優れ、さらに審美性にも優れた黒色系吸放湿性繊維製品を提供できる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は黒色系吸放湿性繊維製品に関する。さらに詳しくは、吸放湿性、吸湿発熱性を有しながら、十分な強伸度特性を備えることから加工性に優れ、かつ従来品よりもさらに黒色度が向上し、洗濯を繰り返しても黒色度の安定性に優れる黒色吸放湿性繊維を少なくとも一部に用いた黒色吸放湿性繊維製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋の導入及び加水分解並びに塩型化処理により金属塩型カルボキシル基の導入を施された吸放湿性繊維が知られている(例えば、特許文献1)。かかる繊維は色相が淡桃色から淡褐色であり、かかる繊維の白度を改善する方法も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。これらの方法により、白度に優れた吸放湿性繊維が得られ、白度を要求される分野への応用は可能となっているが、このような吸放湿性繊維は一部のカチオン染料で染色できるものの、色相が限定され、また繊維自身の持っている水膨潤性のために染色堅牢性が悪いことから、特に黒色を要求される衣料分野には応用できるものでなかった。これらの問題点を解決する方法として、混紡相手を染色して吸放湿性繊維は染色しない方法、吸放湿性繊維構造体を内側に、外側を他繊維でリバーシブル編みにする方法が知られている。しかしながら、これらの方法で得られる繊維製品は、所詮淡色及び中色向けであって、濃色、中でも黒色に対する要求を満足する繊維製品は得られていなかった。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−132858号公報
【特許文献2】
特開平9−15804号公報
【特許文献3】
特開2000−303353号公報
【特許文献4】
特開2002−294556号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、繊維に要求される基本物性並びに吸放湿性繊維の有すべき特性を維持しながら、かかる従来の吸放湿性繊維混用繊維製品が抱える、染色堅牢度が不安定であり黒色が得られないという欠点を改良した黒色吸放湿性化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の目的は、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、JIS−L−8730による明度L*が35以下である黒色高吸放湿性化学繊維(以下黒色吸放湿性繊維とも云う)を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品により達成される。
【0006】
さらに本発明の目的は、上述した黒色吸放湿性化学繊維と、該繊維との色差△E*が10以下である繊維とを混用した黒色系吸放湿性繊維製品により、好適に達成することができる。
【0007】
また、黒色吸放湿性化学繊維がカーボンブラックを含有してなるものであること、さらに黒色吸放湿性化学繊維が、アクリロニトリル系重合体に対し0.5〜5重量%のカーボンブラックを含有せしめたアクリロニトリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋の導入および加水分解により0.6〜10meg/gのカルボキシル基(−COO−)の導入並びに必要なら該基のH/金属塩比率調整が施されてなるものであること、加えてカーボンブラックの表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が50〜150ml/100gであることにより好適に達成できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳述する。本発明に採用する黒色吸放湿性繊維とは、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、該繊維のJIS−Z−8730による明度L*が35以下の化学繊維である限り特に限定されるものではない。かかる黒色吸放湿性繊維を少なくとも一部に用いた吸放湿性繊維製品とは、通常の方法によって得られる織物、編物、不織布及びこれらの組み合わせによる複合体を総称して指すものであり、混用される黒色吸放湿性繊維以外の繊維は特に限定されるものではないが、黒色吸放湿性繊維との色差△E*が10以下であることが望ましい。ΔE*が10を超えると、審美性の劣る霜降り状の繊維製品となってしまい、特に均一な色相の繊維製品であることが要求される場合には好ましくない。また、本発明は黒色吸放湿性繊維製品に関するものであり、該製品のJIS−Z−8730による明度L*は35以下であるものが好ましく、ブラックフォーマル用途等の特に黒色の要求される用途では20以下であるものが好ましい。
【0009】
また、本発明の黒色吸放湿性繊維はカーボンブラックを含有してなるものであることが好ましい。カーボンブラックを含有せしめることによって、染色堅牢性に乏しい繊維であっても、黒色度の安定性に優れた繊維とすることが可能となる。
【0010】
なお、上述したように、本発明の黒色系吸放湿性繊維製品において、吸放湿性繊維の量に限定はないが、繊維構造体として該繊維の特徴が明確に発現するという意味で、5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましくは15重量%以上含有されるのがよい。一方黒色吸放湿性繊維以外の繊維素材が残余を占めることは言うまでもないが、必ずしも1種の素材である必要はなく、2種以上の素材を混用することも当然行ない得る。
【0011】
また、本発明に採用する黒色吸放湿性繊維としては、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、該繊維のJIS−Z−8730による明度L*が35以下という特性を有している限りナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、アクリル酸系吸放湿性繊維等の合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維等の化学繊維が利用できる。、中でもアクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋の導入及び加水分解並びに必要なら中和により金属塩型カルボキシル基の導入を施されてなるアクリル酸系吸放湿性繊維であることが好ましい。かかる吸放湿性繊維は、染色堅牢性に乏しいため、上述したようにカーボンブラックを含有してなるものであることが好ましい。
【0012】
ここで、本発明が推奨する黒色吸放湿性繊維であるカーボンブラックを含有せしめたアクリル酸系吸放湿性繊維について詳述する。かかるアクリル酸系吸放湿性繊維の出発アクリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であり、その繊度に限定はないが、0.1〜10dtexが好ましい。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良いが、ANと共重合する単量体としては(メタ)アクリル酸エステル化合物、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等、スルホン酸基含有単量体、例えばメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸及びそれらの塩等、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0013】
アクリル系繊維に含有せしめるカーボンブラックは、0.5〜5重量%(対重合体重量)が必要である。含有量が0.5重量%未満では濃黒色の要求される分野に対応できず、5重量%を超えて含有せしめると、カーボンブラックを含有するアクリル系繊維製造時の紡糸操業性が不良となるばかりでなく、黒色高吸放湿性繊維の乾強度が低くなるので好ましくない。より好ましいカーボンブラックとしては、表面積が50〜300m2/g、DPB吸油量が50〜150ml/100gのものが推奨される。表面積が50m2/g未満であると粒子径が大きくなり、出発アクリル系繊維に賦形する時に原液のフィルター、紡糸の金口詰まり等を起こし易い欠点を有し、300m2/gを超えると粒子が小さくなりすぎてそれを含有せしめた繊維に赤味が強くなる傾向があり、きれいな黒色が得られなくなる可能性がある。
【0014】
DBP吸油量は紡糸原液作成時の溶剤に対する分散性を表わす尺度であり、次のように測定される値であって、カーボンブラックの基本的特性を表わす尺度である。すなわち150℃で1時間乾燥したカーボンブラック試料20.0g(A)をアブソープトメーター(Brabender社製、スプリング張力2.68kg/cm)の混合室に投入し、あらかじめリミットスイッチをスプリング張力の70%に設定した混合室の回転機を回転する。同時に、自動ビューレットからDBP(ジブチルフタレート、比重1.045〜1.050)を4ml/分の割合で添加し始める。トルクが急速に増加してリミットスイッチが切れたところを終点として、それまでに添加したDBP量(B ml)よりDBP吸油量(D ml/100g)を次式により求める。
D=B/Ax100
DBP吸油量が50ml/100g未満のカーボンブラックはアクリル系繊維の溶剤に対して分散性が低い為に紡糸の操業性に難点が出易く、150ml/100gを超えると分散性は良好であるものの繊維に青味が強くなる傾向があり、きれいな黒色が得られ難くなる傾向がある。かかるカーボンブラックであれば好適に使用できるが、表面処理(例えば酸化処理、加熱処理、賦活処理)したカーボンブラックでも構わない。
【0015】
本願発明の出発原料であるカーボンブラックを含有するアクリル系繊維の製造手段は、アクリロニトリル系重合体に、特定量のカーボンブラックが含有されておれば、それ以外に限定はなく、賦形には通常の衣料用繊維の製造に採用される手段すなわち湿式紡糸、乾式紡糸、乾/湿式紡糸等周知の方法を用いることができる。カーボンブラックを含有せしめたアクリル系繊維の製造にあたっては、カーボンブラックを所定量含有したAN系重合体の紡糸原液をこれらの常法に従って紡糸し、水洗、冷延伸、熱延伸配向させ、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理が施される。中でも熱延伸後の長さを基準にし、その後の処理での繊維の収縮の全てを意味する熱延伸後の全収縮率が20〜27%のアクリル系繊維が好ましく使用される。全収縮率が20%未満、あるいは27%を超える場合は、後述する処理 即ち、ヒドラジン化合物により架橋の導入及び加水分解並びに必要ならカルボキシル基(−COO−)のH/金属塩比率調整を施されてなる黒色高吸放湿性繊維の繊維物性が概して低くなり易く、紡績、編み立て、縫製などの加工がやり難い繊維となる傾向がある。
【0016】
一方、全収縮率が20〜27%の出発アクリル系繊維を使用した場合には、製品である黒色高吸放湿性繊維において、繊維乾強度0.8cN/dtex以上を維持しながら、伸度30%以上が得られるという効果を発現する。当業界において、少なくとも伸度について原料繊維の全収縮率が大きい程それから得られる製品繊維の伸度が大きくなるという傾向が常識的であるので、本発明繊維における上述挙動は驚くべき事象である。
【0017】
該カーボンブラックを含有するアクリル系繊維は、ヒドラジン系化合物により架橋導入処理を施され、アクリル系繊維の溶剤では最早溶解されないものとなるという意味で架橋が形成され、同時に結果として窒素含有量の増加が起きるが、その架橋導入処理手段は特に限定されない。この処理による窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段が好ましい。窒素含有量の増加が0.1〜1.0重量%であっても、本発明に採用しうる吸放湿性繊維が得られる手段である限り採用できる。なお、窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段としては、ヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。尚、窒素含有量の増加を低率に抑えるには、反応工学の教える処に従い、これらの条件をよりマイルドな方向にすればよい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物による架橋が導入されたアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。窒素含有量の増加が1.0重量%未満では、後の加水分解処理後に得られた繊維の水に対する膨潤が大きくなり易く、また繊維物性が低くなり易いので実用上問題となる。一方10重量%を超えると、最終的に高吸放湿性が得られなくなり易い。
【0018】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものでなく、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等、この他エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0019】
かかるヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維は、次いでなされる加水分解に先立ち酸処理Aを施しても良い。尚加水分解を酸にて行う場合には、ここで述べる酸処理は通常採用しない。この処理は、繊維の黒色以外への着色が起り難いという意味の繊維の色安定性の向上に寄与がある。
ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。この処理の前に架橋処理で残留したヒドラジン系化合物は、十分に除去しておく。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度3〜20重量%、好ましくは5〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で2〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0020】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維、或いはさらに酸処理Aを経た繊維は、続いて酸の水溶液又はアルカリ性金属塩水溶液により加水分解される。この処理により、アクリル系繊維のヒドラジン系化合物処理による架橋導入処理に関与せずに残留しているCN基、及び架橋処理工程後酸処理を施した場合には残留しているCN基と一部酸処理で加水分解されたCONH2基の加水分解が進められる。これらの基は加水分解によりカルボキシル基−COO−を形成するが、使用している薬剤がアルカリ性金属塩である場合は、金属塩型カルボキシル基(−COOM Mは金属)を、酸を用いた場合はH型カルボキシル基(−COOH)を生成している。ここで使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられ、アルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。加水分解を行う程度は、生成するカルボキシル基(−COO−)の量で表現して0.6〜10meq/gの範囲が好ましく、これを達成する手段として、使用する酸又はアルカリ性金属塩の濃度は特に限定されないが、0.5〜10重量%さらに好ましくは0.5〜5重量%の水溶液中、温度50〜120℃で0.5〜10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。
【0021】
さて、かくして加水分解を経た繊維のカルボキシル基の『型』は、用いた薬剤に依存してH型カルボキシル基又は金属塩型カルボキシル基になっており、一般に吸放湿能力については金属塩型である方が高い。カルボキシル基が0.6meq/g未満の量ではその全量を金属塩型としても、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%に至らない場合がある。また、カルボキシル基量が10meq/gを超えると、金属塩型は少なくても飽和吸湿率は容易に充たされるものの繊維の乾強度が低くなるため好ましくない。以上述べたようにカルボキシル基の『型』については繊維の吸湿率や乾強度への影響が大きい。そこで加水分解の後、そのままというケースもあるが必要に応じてこの型の調整即ちH/金属塩比率調整を行い上記の物性のバランスを採ることもある。これについては後述する。
【0022】
ここでH(酸)型には種類は無いが、金属塩の種類即ちカルボキシル基の塩型としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca,Ba、Al等のアルカリ土類金属を挙げることが出来る。加水分解を進める程度即ち金属塩型カルボキシル基の生成量は上述したように0.6〜10meq/gに制御することが好ましく、これは上述した処理の際の薬剤の濃度や温度,処理時間の組合せで容易に行うことができる、尚、かかる加水分解工程を経た繊維は、CN基が残留していてもいなくてもよい。CN基が残留していれば、その反応性を利用して、さらなる機能を付与し得る可能性がある。
【0023】
加水分解工程を経た繊維は黒色であるが、若干の赤味を示す場合がある。この赤味を減少させる意味で、次いで還元処理を施しても良い。還元処理剤としてはハイドロサルファイト塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、二酸化チオ尿素、アスコルビン酸塩、ヒドラジン系化合物からなる群より選ばれた1種類または2種類以上を組み合わせた薬剤が好適に使用できる。該還元処理の条件としては、特に限定されないが、概ね薬剤濃度0.5〜5重量%の水溶液に、温度50℃〜120℃で30分間〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。なお、該還元処理は前述の加水分解時に同時に行ってもよいし、加水分解後に行なってもよい。
【0024】
かくして、本発明の黒色高吸放湿性繊維が得られるが、前述の加水分解または還元処理工程を経た繊維に、酸処理Bを施すことも有用である。この処理は、酸処理Aと同様、繊維の黒色以外への着色が起り難いという意味の色安定性の向上に寄与がある。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0025】
かくして得られる加水分解工程を経た繊維、あるいはさらに還元処理工程及び/又は酸処理B工程も経た繊維は、吸湿率や繊維乾強度のバランスのとれたものとするため、前述のH/金属塩比率調整を施しても良い。具体的にはアルカリ金属塩で加水分解を行っている場合には、カルボキシル基を一旦H型化し、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれる金属塩処理により、該H型カルボキシル基の一部を金属塩型化してH型/金属塩型のモル比を100/0〜0/100に調整する方法も好適に採用できる。
【0026】
またH/金属塩比率調整処理に採用される金属塩の金属種類としては、前述の通りLi、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれるが、Na、K、Ca、Mg等が特に推奨される。又塩の種類としては、これらの金属の水溶性塩であれば良く、例えば水酸化物,ハロゲン化物,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩等が挙げられる。具体的には、夫々の金属で代表的なものとして、Na塩としてはNaOH、Na2CO3、K塩としてはKOH、Ca塩としてはCa(OH)2、Ca(NO3)2、CaCl2が好適である。
加水分解処理を酸で行っていた場合及び酸処理Bを行っていた場合には、既にカルボキシル基は全量H型になっている訳であるから、前述のNa,K等の金属塩処理以降を参考にして行えばよい。
【0027】
カルボキシル基のH/金属塩比率(モル比)は上述した範囲内が好ましいが、繊維に与えようとする機能により、金属の種類と共に適宜設定する。該比率調整処理の具体的な実施にあたっては、処理槽に金属塩の0.2〜30重量%の水溶液を準備し、20℃〜80℃において1〜5Hr程度被処理繊維を浸漬する、あるいは該水溶液を噴霧する等の方法がある。上述の比率に制御するには、緩衝剤共存下での比率調整処理が好ましい。緩衝剤としてはpH緩衝域が5.0〜9.2のものが好適である。また、金属塩型カルボキシル基の金属塩の種類は1種類に限定されるわけではなく、2種類以上が混在してもかまわない。
【0028】
又、比率調整処理をCa,Mg,Ba等の金属塩化合物の如き水溶解度が低い物質で行う場合には、該工程においてH型カルボキシル基からH型/金属塩型のモル比を、金属塩型を高める方向にするのに幾分難がある。かかる場合には、酸を用いた加水分解又は酸処理Bの後でH/金属塩比率調整処理の前処理として、被処理繊維のH型化されているカルボキシル基を、苛性ソーダあるいは苛性カリ等の水溶液で該カルボキシル基の示すpHを調整即ち中和処理(pH=5〜9位)しておくことが推奨される。かかる処方により、中和処理後のカルボキシル基はH型とNa又はK型が共存する状態になっているので、次の比率調整処理はCa等とNa又はKとの交換となって容易に進行するので、提起した難点が解消する。
【0029】
なお、出発アクリル系繊維を、攪拌機能、温度制御機能を備えた容器内に充填し、前述の工程を順次実施する、あるいは複数の容器を並べて連続的に実施する等の手段をとることが、装置上、安全性、均一処理性等の諸点から望ましい。かかる装置としては染色機が例示される。
【0030】
以上説明したカーボンブラックを含有せしめたアクリル酸系吸放湿性繊維は吸放湿性、難燃性、抗菌性さらには光熱変換性を有しながら、加工性も優れ、かつ従来品よりもさらに黒色度が向上し黒色度安定性にも優れた黒色吸放湿性繊維である。
【0031】
本発明の黒色系吸放湿性繊維製品は上述した黒色吸湿性化学繊維を少なくともその一部に採用したものであり、吸湿性を有するため、着用時のムレ感やべたつきを防ぐことができ、さらに優れた審美性を有する黒色系の繊維製品をも提供することができる。
【0032】
尚、ここで用いる明度L*は黒色度を表現するためのJIS−Z8730に依拠するものであり、理想的な黒体を0、理想的白体を100として数値化したものである。
【0033】
本発明の黒色系吸放湿性繊維製品の用途としては、特に限定は無く、下着、肌着、ランジェリー、パジャマ、乳児用製品、ガードル、ブラジャー、手袋、靴下、タイツ、レオタード、トランクス等衣料品全般、セーター、トレーナー、ポロシャツ、スーツ、スポーツウェア、マフラー、等の中外衣料用途、ハンカチ、タオル、カーテン、布団地、シーツ、毛布、パッド等の寝装寝具、カーペット、マット、サポーター、芯地、靴の中敷き、インソール、スリッパ、壁紙等の建材、メディカル分野への黒色が要求される用途に好適に適用される。
【0034】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。これらは例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で表す。なお、黒色度、染色堅牢度、飽和吸湿率、色差△E*は以下の方法により求めた。
【0035】
(1)吸放湿性繊維試料の黒色度
吸放湿性繊維試料を、ミノルタ株式会社製測色計CR300にて測定し、JIS−Z−8730の「L*a*b*表色計による物体色の表示方法」に従って、黒色度を明度L*で表示した。
(2)吸放湿性繊維製品試料の黒色度
吸放湿性繊維製品試料についても吸放湿性繊維試料と同様の方法で黒色度を測定した。
(3)染色堅牢度(級)
(i)洗濯に対する染色堅牢度
洗剤:石けん 添付布:綿・絹
繊維製品試料をJIS−L0844 A−2法に記載の方法で洗濯処理した後の繊維製品の変褪色の程度をJIS−0804変褪色用グレースケールで、また添付布への汚染の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価しそれぞれ1〜5級の等級付けを行った。等級が高いほど染色堅牢度が良好であることを示す。
(ii)汗に対する染色堅牢度
添付布:綿・絹
繊維製品試料を、JIS−L0848(酸・アルカリ)に記載の方法で処理した後の繊維製品の変褪色の程度をJIS−0804変褪色用グレースケールで、また添付布への汚染の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価しそれぞれ1〜5級の等級付けを行った。
(4)飽和吸湿率(%)
吸放湿性繊維又は吸放湿性繊維製品試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に試料を温度20℃で65%RHの恒湿槽に24時間入れておく。このようにして飽和吸湿した試料の重量を測定する(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(飽和吸湿率 %)={(W2−W1)/W1}×100
(5)色差△E*
繊維製品試料を糸に分解し、更に解撚し、混紡してある黒色吸放湿性繊維と混紡相手である他繊維に分け、それぞれを上述の黒色度と同様にして、L*a*b*を測定し、△E*を求めた。
【0036】
実施例1
アクリロニトリル(以下ANという)90重量%、アクリル酸メチル(以下MAと云う)10重量%からなるAN系重合体(30%ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液に、三菱化学(株)製カーボンブラック#50(表面積103m2/g、DBP給油量65ml/100g)0.2部を混合し、周知の湿式紡糸法に従って紡糸、冷/熱延伸(全延伸倍率;10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、緻密化した後、全収縮率を25%とするように湿熱処理して単繊維繊度1.0dtexの原料繊維を得た。
該原料繊維に、加水ヒドラジン20重量%水溶液中で、98℃×5Hr架橋導入処理を行った。次に硝酸の8重量%水溶液中、90℃で2時間酸処理(酸処理A)をした。次いで苛性ソーダの3重量%水溶液中で、90℃×2Hr加水分解処理を行い、純水で洗浄した。この処理により、繊維にNa型カルボキシル基が6.3meq/g生成していた。
該加水分解後の繊維を、ハイドロサルファイトナトリウム塩(以下、SHSと云う)の1重量%水溶液中で、90℃×2Hr還元処理を行い、純水で洗浄した。続いて、硝酸3重量%水溶液中、90℃×2Hr酸処理(酸処理B)を行った。これにより6.3meq/g生成していたNa型カルボキシル基は全量がH型カルボキシル基となっていた。該酸処理後の繊維を純水中に投入し、濃度40%の苛性ソーダ水溶液をH型カルボキシル基に対し、Na中和度70%モルになる様に添加し、60℃×3HrH/金属塩比率調整処理を行った。以上の工程を経た繊維を水洗、油剤付与、脱水、乾燥し実施例1の原料となる黒色吸放湿性繊維(繊維A)を得た。得られた繊維の、黒色度、飽和吸湿率を測定し、窒素増加量等と共に表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
得られた黒色吸放湿性繊維(繊維A)を30重量%、東洋紡績株式会社製ポリエステル繊維2T38を70重量%混綿し、常法に従って紡績して綿番手50/1の黒色吸放湿性繊維を含有するポリエステル混紡品である紡績糸を作製した。該紡績糸試料を、口径14寸総針1020本の丸編機でフライス編みして、目付が約200g/m2の編物試料を作製した。分散染料を使用し常法によりエステル繊維を黒色に染色した。水洗後乾燥して染色編地を得た。次いで、該染色編地を裁断、縫製して、黒色系吸放湿繊維製品であるスポーツインナー試料を作製した。得られた試料の黒色度、飽和吸湿率、L*、色差△E*、染色堅牢度を評価し、結果を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
比較例1
紡糸原液に三菱化学(株)製カーボンブラック#50を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして吸放湿性繊維(繊維B)を作製した。得られた繊維の、評価結果は表1に併記した。かかる吸放湿性繊維(繊維B)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のスポーツインナー試料を作成した。評価結果は表2に併記した。
【0041】
実施例2
酸処理B後のH型カルボキシル基を苛性ソーダで中和処理した後、硝酸カルシウムでCa型カルボキシル基とした以外は実施例1と同様にして、黒色吸放湿性繊維(繊維C)を得た。該繊維の、評価結果も表1に併記した。
得られた黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K805−0.9T38を10重量%、木綿を60重量%混綿し、常法に従って紡績して綿番手30/1の紡績糸を作製した。これを常法の木綿混紡品染色方法(アクリル繊維:カチオン染料、綿:反応染料)にて黒色に染色した。水洗後、染色糸試料に対して酢酸が6重量%となるよう添加した水溶液中、浴比1/30、温度60℃、時間10分の中和処理を施し、水洗後乾燥して染色糸を得た。次いで、該染色糸を常法に従って編み立て、実施例2の黒色系吸放湿繊維製品であるビジネスソックス試料を得た。得られたソックス試料の評価結果も表2に併記した。
【0042】
比較例2
紡糸原液に三菱化学(株)製カーボンブラック#50を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして吸放湿性繊維(繊維D)を作製した。得られた繊維の、評価結果は表1に併記した。かかる吸放湿性繊維(繊維D)を用いた以外は、実施例2と同様にして、比較例1のビジネスソックス試料を作成した。得られたソックス試料の評価結果も表2に併記した。
【0043】
実施例3、比較例3
実施例2の黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、羊毛60トップを70重量%混綿し、常法に従って紡績して32メートル番手双糸の黒色吸放湿性繊維を含有する羊毛混紡品である紡績糸を作製した。該紡績糸を酸性染料で常法により羊毛を黒色に染色した。次いで該染色糸を横編機で8ゲージ2プライで天竺編みして実施例3の黒色系吸放湿繊維製品であるセーター試料を作製した。得られたセーター試料の評価結果も表2に併記した。なお、比較例3は比較例2の吸放湿性繊維(繊維D)使用した以外は、実施例3と同様に作製したセーター試料であり、その評価結果も表2に併記した。
【0044】
実施例4、比較例4
実施例2の黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K822−1.0T38を35重量%、タイプ:K862−1.0T38を35重量%混綿し、常法に従って紡績してメートル番手1/52の黒色吸放湿性繊維を含有するアクリル混紡品である紡績糸を作製した。この紡績糸を常法に従って口径14寸総針1392本の丸編機で天竺編みして、目付けが約200g/m2の丸編試料を作製した。該丸編試料をカチオン染料で常法にてアクリル繊維を黒色に染色し、水洗後乾燥して染色編地を得た。次いで、該染色編地を裁断、縫製し、実施例4の黒色系吸放湿繊維製品である婦人用肌着試料を得た。得られた肌着試料の評価結果も表2に併記した。比較例4は比較例2の吸放湿性繊維(繊維D)使用した以外は、実施例4と同様にして作製した婦人用肌着試料であり、この試料の評価結果も表2に示した。また、参考例は、吸放湿性繊維を用いないで、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K8−2.2T51のみで、実施例4と同様にして作製した婦人用肌着試料である。
【0045】
表2から明らかなように、実施例1〜4の繊維製品は優れた黒色度であり、参考例の吸放湿性繊維を含有しないアクリル繊維100%の繊維製品と同等の黒色度が得られ、染色堅牢度も優れたものであった。飽和吸湿率も従来のカーボンブラックを含有しないアクリル酸系吸放湿性繊維製品と遜色のない吸放湿性繊維製品であった。
これに対し比較例1〜4の繊維製品の黒色度は実施例に対し劣るものであり、吸放湿性繊維は染色されていないことから、染色堅牢度は実施例と遜色ないものの、黒色系と白色系の繊維が混ざった霜降り状の繊維製品となっており審美性に劣るものであった。
【0046】
【発明の効果】
本発明により、吸放湿性能と黒色度のバランスの取れた、尚且つ最終製品にて良好な染色堅牢性を有する、即ち黒色安定性に優れ、さらに審美性にも優れた黒色系吸放湿性繊維製品の提供が可能になった。
【発明の属する技術分野】
本発明は黒色系吸放湿性繊維製品に関する。さらに詳しくは、吸放湿性、吸湿発熱性を有しながら、十分な強伸度特性を備えることから加工性に優れ、かつ従来品よりもさらに黒色度が向上し、洗濯を繰り返しても黒色度の安定性に優れる黒色吸放湿性繊維を少なくとも一部に用いた黒色吸放湿性繊維製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋の導入及び加水分解並びに塩型化処理により金属塩型カルボキシル基の導入を施された吸放湿性繊維が知られている(例えば、特許文献1)。かかる繊維は色相が淡桃色から淡褐色であり、かかる繊維の白度を改善する方法も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。これらの方法により、白度に優れた吸放湿性繊維が得られ、白度を要求される分野への応用は可能となっているが、このような吸放湿性繊維は一部のカチオン染料で染色できるものの、色相が限定され、また繊維自身の持っている水膨潤性のために染色堅牢性が悪いことから、特に黒色を要求される衣料分野には応用できるものでなかった。これらの問題点を解決する方法として、混紡相手を染色して吸放湿性繊維は染色しない方法、吸放湿性繊維構造体を内側に、外側を他繊維でリバーシブル編みにする方法が知られている。しかしながら、これらの方法で得られる繊維製品は、所詮淡色及び中色向けであって、濃色、中でも黒色に対する要求を満足する繊維製品は得られていなかった。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−132858号公報
【特許文献2】
特開平9−15804号公報
【特許文献3】
特開2000−303353号公報
【特許文献4】
特開2002−294556号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、繊維に要求される基本物性並びに吸放湿性繊維の有すべき特性を維持しながら、かかる従来の吸放湿性繊維混用繊維製品が抱える、染色堅牢度が不安定であり黒色が得られないという欠点を改良した黒色吸放湿性化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の目的は、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、JIS−L−8730による明度L*が35以下である黒色高吸放湿性化学繊維(以下黒色吸放湿性繊維とも云う)を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品により達成される。
【0006】
さらに本発明の目的は、上述した黒色吸放湿性化学繊維と、該繊維との色差△E*が10以下である繊維とを混用した黒色系吸放湿性繊維製品により、好適に達成することができる。
【0007】
また、黒色吸放湿性化学繊維がカーボンブラックを含有してなるものであること、さらに黒色吸放湿性化学繊維が、アクリロニトリル系重合体に対し0.5〜5重量%のカーボンブラックを含有せしめたアクリロニトリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋の導入および加水分解により0.6〜10meg/gのカルボキシル基(−COO−)の導入並びに必要なら該基のH/金属塩比率調整が施されてなるものであること、加えてカーボンブラックの表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が50〜150ml/100gであることにより好適に達成できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳述する。本発明に採用する黒色吸放湿性繊維とは、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、該繊維のJIS−Z−8730による明度L*が35以下の化学繊維である限り特に限定されるものではない。かかる黒色吸放湿性繊維を少なくとも一部に用いた吸放湿性繊維製品とは、通常の方法によって得られる織物、編物、不織布及びこれらの組み合わせによる複合体を総称して指すものであり、混用される黒色吸放湿性繊維以外の繊維は特に限定されるものではないが、黒色吸放湿性繊維との色差△E*が10以下であることが望ましい。ΔE*が10を超えると、審美性の劣る霜降り状の繊維製品となってしまい、特に均一な色相の繊維製品であることが要求される場合には好ましくない。また、本発明は黒色吸放湿性繊維製品に関するものであり、該製品のJIS−Z−8730による明度L*は35以下であるものが好ましく、ブラックフォーマル用途等の特に黒色の要求される用途では20以下であるものが好ましい。
【0009】
また、本発明の黒色吸放湿性繊維はカーボンブラックを含有してなるものであることが好ましい。カーボンブラックを含有せしめることによって、染色堅牢性に乏しい繊維であっても、黒色度の安定性に優れた繊維とすることが可能となる。
【0010】
なお、上述したように、本発明の黒色系吸放湿性繊維製品において、吸放湿性繊維の量に限定はないが、繊維構造体として該繊維の特徴が明確に発現するという意味で、5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましくは15重量%以上含有されるのがよい。一方黒色吸放湿性繊維以外の繊維素材が残余を占めることは言うまでもないが、必ずしも1種の素材である必要はなく、2種以上の素材を混用することも当然行ない得る。
【0011】
また、本発明に採用する黒色吸放湿性繊維としては、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、該繊維のJIS−Z−8730による明度L*が35以下という特性を有している限りナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、アクリル酸系吸放湿性繊維等の合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維等の化学繊維が利用できる。、中でもアクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋の導入及び加水分解並びに必要なら中和により金属塩型カルボキシル基の導入を施されてなるアクリル酸系吸放湿性繊維であることが好ましい。かかる吸放湿性繊維は、染色堅牢性に乏しいため、上述したようにカーボンブラックを含有してなるものであることが好ましい。
【0012】
ここで、本発明が推奨する黒色吸放湿性繊維であるカーボンブラックを含有せしめたアクリル酸系吸放湿性繊維について詳述する。かかるアクリル酸系吸放湿性繊維の出発アクリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であり、その繊度に限定はないが、0.1〜10dtexが好ましい。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良いが、ANと共重合する単量体としては(メタ)アクリル酸エステル化合物、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等、スルホン酸基含有単量体、例えばメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸及びそれらの塩等、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0013】
アクリル系繊維に含有せしめるカーボンブラックは、0.5〜5重量%(対重合体重量)が必要である。含有量が0.5重量%未満では濃黒色の要求される分野に対応できず、5重量%を超えて含有せしめると、カーボンブラックを含有するアクリル系繊維製造時の紡糸操業性が不良となるばかりでなく、黒色高吸放湿性繊維の乾強度が低くなるので好ましくない。より好ましいカーボンブラックとしては、表面積が50〜300m2/g、DPB吸油量が50〜150ml/100gのものが推奨される。表面積が50m2/g未満であると粒子径が大きくなり、出発アクリル系繊維に賦形する時に原液のフィルター、紡糸の金口詰まり等を起こし易い欠点を有し、300m2/gを超えると粒子が小さくなりすぎてそれを含有せしめた繊維に赤味が強くなる傾向があり、きれいな黒色が得られなくなる可能性がある。
【0014】
DBP吸油量は紡糸原液作成時の溶剤に対する分散性を表わす尺度であり、次のように測定される値であって、カーボンブラックの基本的特性を表わす尺度である。すなわち150℃で1時間乾燥したカーボンブラック試料20.0g(A)をアブソープトメーター(Brabender社製、スプリング張力2.68kg/cm)の混合室に投入し、あらかじめリミットスイッチをスプリング張力の70%に設定した混合室の回転機を回転する。同時に、自動ビューレットからDBP(ジブチルフタレート、比重1.045〜1.050)を4ml/分の割合で添加し始める。トルクが急速に増加してリミットスイッチが切れたところを終点として、それまでに添加したDBP量(B ml)よりDBP吸油量(D ml/100g)を次式により求める。
D=B/Ax100
DBP吸油量が50ml/100g未満のカーボンブラックはアクリル系繊維の溶剤に対して分散性が低い為に紡糸の操業性に難点が出易く、150ml/100gを超えると分散性は良好であるものの繊維に青味が強くなる傾向があり、きれいな黒色が得られ難くなる傾向がある。かかるカーボンブラックであれば好適に使用できるが、表面処理(例えば酸化処理、加熱処理、賦活処理)したカーボンブラックでも構わない。
【0015】
本願発明の出発原料であるカーボンブラックを含有するアクリル系繊維の製造手段は、アクリロニトリル系重合体に、特定量のカーボンブラックが含有されておれば、それ以外に限定はなく、賦形には通常の衣料用繊維の製造に採用される手段すなわち湿式紡糸、乾式紡糸、乾/湿式紡糸等周知の方法を用いることができる。カーボンブラックを含有せしめたアクリル系繊維の製造にあたっては、カーボンブラックを所定量含有したAN系重合体の紡糸原液をこれらの常法に従って紡糸し、水洗、冷延伸、熱延伸配向させ、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理が施される。中でも熱延伸後の長さを基準にし、その後の処理での繊維の収縮の全てを意味する熱延伸後の全収縮率が20〜27%のアクリル系繊維が好ましく使用される。全収縮率が20%未満、あるいは27%を超える場合は、後述する処理 即ち、ヒドラジン化合物により架橋の導入及び加水分解並びに必要ならカルボキシル基(−COO−)のH/金属塩比率調整を施されてなる黒色高吸放湿性繊維の繊維物性が概して低くなり易く、紡績、編み立て、縫製などの加工がやり難い繊維となる傾向がある。
【0016】
一方、全収縮率が20〜27%の出発アクリル系繊維を使用した場合には、製品である黒色高吸放湿性繊維において、繊維乾強度0.8cN/dtex以上を維持しながら、伸度30%以上が得られるという効果を発現する。当業界において、少なくとも伸度について原料繊維の全収縮率が大きい程それから得られる製品繊維の伸度が大きくなるという傾向が常識的であるので、本発明繊維における上述挙動は驚くべき事象である。
【0017】
該カーボンブラックを含有するアクリル系繊維は、ヒドラジン系化合物により架橋導入処理を施され、アクリル系繊維の溶剤では最早溶解されないものとなるという意味で架橋が形成され、同時に結果として窒素含有量の増加が起きるが、その架橋導入処理手段は特に限定されない。この処理による窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段が好ましい。窒素含有量の増加が0.1〜1.0重量%であっても、本発明に採用しうる吸放湿性繊維が得られる手段である限り採用できる。なお、窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段としては、ヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。尚、窒素含有量の増加を低率に抑えるには、反応工学の教える処に従い、これらの条件をよりマイルドな方向にすればよい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物による架橋が導入されたアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。窒素含有量の増加が1.0重量%未満では、後の加水分解処理後に得られた繊維の水に対する膨潤が大きくなり易く、また繊維物性が低くなり易いので実用上問題となる。一方10重量%を超えると、最終的に高吸放湿性が得られなくなり易い。
【0018】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものでなく、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等、この他エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0019】
かかるヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維は、次いでなされる加水分解に先立ち酸処理Aを施しても良い。尚加水分解を酸にて行う場合には、ここで述べる酸処理は通常採用しない。この処理は、繊維の黒色以外への着色が起り難いという意味の繊維の色安定性の向上に寄与がある。
ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。この処理の前に架橋処理で残留したヒドラジン系化合物は、十分に除去しておく。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度3〜20重量%、好ましくは5〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で2〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0020】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維、或いはさらに酸処理Aを経た繊維は、続いて酸の水溶液又はアルカリ性金属塩水溶液により加水分解される。この処理により、アクリル系繊維のヒドラジン系化合物処理による架橋導入処理に関与せずに残留しているCN基、及び架橋処理工程後酸処理を施した場合には残留しているCN基と一部酸処理で加水分解されたCONH2基の加水分解が進められる。これらの基は加水分解によりカルボキシル基−COO−を形成するが、使用している薬剤がアルカリ性金属塩である場合は、金属塩型カルボキシル基(−COOM Mは金属)を、酸を用いた場合はH型カルボキシル基(−COOH)を生成している。ここで使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられ、アルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。加水分解を行う程度は、生成するカルボキシル基(−COO−)の量で表現して0.6〜10meq/gの範囲が好ましく、これを達成する手段として、使用する酸又はアルカリ性金属塩の濃度は特に限定されないが、0.5〜10重量%さらに好ましくは0.5〜5重量%の水溶液中、温度50〜120℃で0.5〜10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。
【0021】
さて、かくして加水分解を経た繊維のカルボキシル基の『型』は、用いた薬剤に依存してH型カルボキシル基又は金属塩型カルボキシル基になっており、一般に吸放湿能力については金属塩型である方が高い。カルボキシル基が0.6meq/g未満の量ではその全量を金属塩型としても、20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%に至らない場合がある。また、カルボキシル基量が10meq/gを超えると、金属塩型は少なくても飽和吸湿率は容易に充たされるものの繊維の乾強度が低くなるため好ましくない。以上述べたようにカルボキシル基の『型』については繊維の吸湿率や乾強度への影響が大きい。そこで加水分解の後、そのままというケースもあるが必要に応じてこの型の調整即ちH/金属塩比率調整を行い上記の物性のバランスを採ることもある。これについては後述する。
【0022】
ここでH(酸)型には種類は無いが、金属塩の種類即ちカルボキシル基の塩型としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca,Ba、Al等のアルカリ土類金属を挙げることが出来る。加水分解を進める程度即ち金属塩型カルボキシル基の生成量は上述したように0.6〜10meq/gに制御することが好ましく、これは上述した処理の際の薬剤の濃度や温度,処理時間の組合せで容易に行うことができる、尚、かかる加水分解工程を経た繊維は、CN基が残留していてもいなくてもよい。CN基が残留していれば、その反応性を利用して、さらなる機能を付与し得る可能性がある。
【0023】
加水分解工程を経た繊維は黒色であるが、若干の赤味を示す場合がある。この赤味を減少させる意味で、次いで還元処理を施しても良い。還元処理剤としてはハイドロサルファイト塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、二酸化チオ尿素、アスコルビン酸塩、ヒドラジン系化合物からなる群より選ばれた1種類または2種類以上を組み合わせた薬剤が好適に使用できる。該還元処理の条件としては、特に限定されないが、概ね薬剤濃度0.5〜5重量%の水溶液に、温度50℃〜120℃で30分間〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。なお、該還元処理は前述の加水分解時に同時に行ってもよいし、加水分解後に行なってもよい。
【0024】
かくして、本発明の黒色高吸放湿性繊維が得られるが、前述の加水分解または還元処理工程を経た繊維に、酸処理Bを施すことも有用である。この処理は、酸処理Aと同様、繊維の黒色以外への着色が起り難いという意味の色安定性の向上に寄与がある。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0025】
かくして得られる加水分解工程を経た繊維、あるいはさらに還元処理工程及び/又は酸処理B工程も経た繊維は、吸湿率や繊維乾強度のバランスのとれたものとするため、前述のH/金属塩比率調整を施しても良い。具体的にはアルカリ金属塩で加水分解を行っている場合には、カルボキシル基を一旦H型化し、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれる金属塩処理により、該H型カルボキシル基の一部を金属塩型化してH型/金属塩型のモル比を100/0〜0/100に調整する方法も好適に採用できる。
【0026】
またH/金属塩比率調整処理に採用される金属塩の金属種類としては、前述の通りLi、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれるが、Na、K、Ca、Mg等が特に推奨される。又塩の種類としては、これらの金属の水溶性塩であれば良く、例えば水酸化物,ハロゲン化物,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩等が挙げられる。具体的には、夫々の金属で代表的なものとして、Na塩としてはNaOH、Na2CO3、K塩としてはKOH、Ca塩としてはCa(OH)2、Ca(NO3)2、CaCl2が好適である。
加水分解処理を酸で行っていた場合及び酸処理Bを行っていた場合には、既にカルボキシル基は全量H型になっている訳であるから、前述のNa,K等の金属塩処理以降を参考にして行えばよい。
【0027】
カルボキシル基のH/金属塩比率(モル比)は上述した範囲内が好ましいが、繊維に与えようとする機能により、金属の種類と共に適宜設定する。該比率調整処理の具体的な実施にあたっては、処理槽に金属塩の0.2〜30重量%の水溶液を準備し、20℃〜80℃において1〜5Hr程度被処理繊維を浸漬する、あるいは該水溶液を噴霧する等の方法がある。上述の比率に制御するには、緩衝剤共存下での比率調整処理が好ましい。緩衝剤としてはpH緩衝域が5.0〜9.2のものが好適である。また、金属塩型カルボキシル基の金属塩の種類は1種類に限定されるわけではなく、2種類以上が混在してもかまわない。
【0028】
又、比率調整処理をCa,Mg,Ba等の金属塩化合物の如き水溶解度が低い物質で行う場合には、該工程においてH型カルボキシル基からH型/金属塩型のモル比を、金属塩型を高める方向にするのに幾分難がある。かかる場合には、酸を用いた加水分解又は酸処理Bの後でH/金属塩比率調整処理の前処理として、被処理繊維のH型化されているカルボキシル基を、苛性ソーダあるいは苛性カリ等の水溶液で該カルボキシル基の示すpHを調整即ち中和処理(pH=5〜9位)しておくことが推奨される。かかる処方により、中和処理後のカルボキシル基はH型とNa又はK型が共存する状態になっているので、次の比率調整処理はCa等とNa又はKとの交換となって容易に進行するので、提起した難点が解消する。
【0029】
なお、出発アクリル系繊維を、攪拌機能、温度制御機能を備えた容器内に充填し、前述の工程を順次実施する、あるいは複数の容器を並べて連続的に実施する等の手段をとることが、装置上、安全性、均一処理性等の諸点から望ましい。かかる装置としては染色機が例示される。
【0030】
以上説明したカーボンブラックを含有せしめたアクリル酸系吸放湿性繊維は吸放湿性、難燃性、抗菌性さらには光熱変換性を有しながら、加工性も優れ、かつ従来品よりもさらに黒色度が向上し黒色度安定性にも優れた黒色吸放湿性繊維である。
【0031】
本発明の黒色系吸放湿性繊維製品は上述した黒色吸湿性化学繊維を少なくともその一部に採用したものであり、吸湿性を有するため、着用時のムレ感やべたつきを防ぐことができ、さらに優れた審美性を有する黒色系の繊維製品をも提供することができる。
【0032】
尚、ここで用いる明度L*は黒色度を表現するためのJIS−Z8730に依拠するものであり、理想的な黒体を0、理想的白体を100として数値化したものである。
【0033】
本発明の黒色系吸放湿性繊維製品の用途としては、特に限定は無く、下着、肌着、ランジェリー、パジャマ、乳児用製品、ガードル、ブラジャー、手袋、靴下、タイツ、レオタード、トランクス等衣料品全般、セーター、トレーナー、ポロシャツ、スーツ、スポーツウェア、マフラー、等の中外衣料用途、ハンカチ、タオル、カーテン、布団地、シーツ、毛布、パッド等の寝装寝具、カーペット、マット、サポーター、芯地、靴の中敷き、インソール、スリッパ、壁紙等の建材、メディカル分野への黒色が要求される用途に好適に適用される。
【0034】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。これらは例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で表す。なお、黒色度、染色堅牢度、飽和吸湿率、色差△E*は以下の方法により求めた。
【0035】
(1)吸放湿性繊維試料の黒色度
吸放湿性繊維試料を、ミノルタ株式会社製測色計CR300にて測定し、JIS−Z−8730の「L*a*b*表色計による物体色の表示方法」に従って、黒色度を明度L*で表示した。
(2)吸放湿性繊維製品試料の黒色度
吸放湿性繊維製品試料についても吸放湿性繊維試料と同様の方法で黒色度を測定した。
(3)染色堅牢度(級)
(i)洗濯に対する染色堅牢度
洗剤:石けん 添付布:綿・絹
繊維製品試料をJIS−L0844 A−2法に記載の方法で洗濯処理した後の繊維製品の変褪色の程度をJIS−0804変褪色用グレースケールで、また添付布への汚染の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価しそれぞれ1〜5級の等級付けを行った。等級が高いほど染色堅牢度が良好であることを示す。
(ii)汗に対する染色堅牢度
添付布:綿・絹
繊維製品試料を、JIS−L0848(酸・アルカリ)に記載の方法で処理した後の繊維製品の変褪色の程度をJIS−0804変褪色用グレースケールで、また添付布への汚染の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価しそれぞれ1〜5級の等級付けを行った。
(4)飽和吸湿率(%)
吸放湿性繊維又は吸放湿性繊維製品試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に試料を温度20℃で65%RHの恒湿槽に24時間入れておく。このようにして飽和吸湿した試料の重量を測定する(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(飽和吸湿率 %)={(W2−W1)/W1}×100
(5)色差△E*
繊維製品試料を糸に分解し、更に解撚し、混紡してある黒色吸放湿性繊維と混紡相手である他繊維に分け、それぞれを上述の黒色度と同様にして、L*a*b*を測定し、△E*を求めた。
【0036】
実施例1
アクリロニトリル(以下ANという)90重量%、アクリル酸メチル(以下MAと云う)10重量%からなるAN系重合体(30%ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液に、三菱化学(株)製カーボンブラック#50(表面積103m2/g、DBP給油量65ml/100g)0.2部を混合し、周知の湿式紡糸法に従って紡糸、冷/熱延伸(全延伸倍率;10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、緻密化した後、全収縮率を25%とするように湿熱処理して単繊維繊度1.0dtexの原料繊維を得た。
該原料繊維に、加水ヒドラジン20重量%水溶液中で、98℃×5Hr架橋導入処理を行った。次に硝酸の8重量%水溶液中、90℃で2時間酸処理(酸処理A)をした。次いで苛性ソーダの3重量%水溶液中で、90℃×2Hr加水分解処理を行い、純水で洗浄した。この処理により、繊維にNa型カルボキシル基が6.3meq/g生成していた。
該加水分解後の繊維を、ハイドロサルファイトナトリウム塩(以下、SHSと云う)の1重量%水溶液中で、90℃×2Hr還元処理を行い、純水で洗浄した。続いて、硝酸3重量%水溶液中、90℃×2Hr酸処理(酸処理B)を行った。これにより6.3meq/g生成していたNa型カルボキシル基は全量がH型カルボキシル基となっていた。該酸処理後の繊維を純水中に投入し、濃度40%の苛性ソーダ水溶液をH型カルボキシル基に対し、Na中和度70%モルになる様に添加し、60℃×3HrH/金属塩比率調整処理を行った。以上の工程を経た繊維を水洗、油剤付与、脱水、乾燥し実施例1の原料となる黒色吸放湿性繊維(繊維A)を得た。得られた繊維の、黒色度、飽和吸湿率を測定し、窒素増加量等と共に表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
得られた黒色吸放湿性繊維(繊維A)を30重量%、東洋紡績株式会社製ポリエステル繊維2T38を70重量%混綿し、常法に従って紡績して綿番手50/1の黒色吸放湿性繊維を含有するポリエステル混紡品である紡績糸を作製した。該紡績糸試料を、口径14寸総針1020本の丸編機でフライス編みして、目付が約200g/m2の編物試料を作製した。分散染料を使用し常法によりエステル繊維を黒色に染色した。水洗後乾燥して染色編地を得た。次いで、該染色編地を裁断、縫製して、黒色系吸放湿繊維製品であるスポーツインナー試料を作製した。得られた試料の黒色度、飽和吸湿率、L*、色差△E*、染色堅牢度を評価し、結果を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
比較例1
紡糸原液に三菱化学(株)製カーボンブラック#50を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして吸放湿性繊維(繊維B)を作製した。得られた繊維の、評価結果は表1に併記した。かかる吸放湿性繊維(繊維B)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のスポーツインナー試料を作成した。評価結果は表2に併記した。
【0041】
実施例2
酸処理B後のH型カルボキシル基を苛性ソーダで中和処理した後、硝酸カルシウムでCa型カルボキシル基とした以外は実施例1と同様にして、黒色吸放湿性繊維(繊維C)を得た。該繊維の、評価結果も表1に併記した。
得られた黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K805−0.9T38を10重量%、木綿を60重量%混綿し、常法に従って紡績して綿番手30/1の紡績糸を作製した。これを常法の木綿混紡品染色方法(アクリル繊維:カチオン染料、綿:反応染料)にて黒色に染色した。水洗後、染色糸試料に対して酢酸が6重量%となるよう添加した水溶液中、浴比1/30、温度60℃、時間10分の中和処理を施し、水洗後乾燥して染色糸を得た。次いで、該染色糸を常法に従って編み立て、実施例2の黒色系吸放湿繊維製品であるビジネスソックス試料を得た。得られたソックス試料の評価結果も表2に併記した。
【0042】
比較例2
紡糸原液に三菱化学(株)製カーボンブラック#50を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして吸放湿性繊維(繊維D)を作製した。得られた繊維の、評価結果は表1に併記した。かかる吸放湿性繊維(繊維D)を用いた以外は、実施例2と同様にして、比較例1のビジネスソックス試料を作成した。得られたソックス試料の評価結果も表2に併記した。
【0043】
実施例3、比較例3
実施例2の黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、羊毛60トップを70重量%混綿し、常法に従って紡績して32メートル番手双糸の黒色吸放湿性繊維を含有する羊毛混紡品である紡績糸を作製した。該紡績糸を酸性染料で常法により羊毛を黒色に染色した。次いで該染色糸を横編機で8ゲージ2プライで天竺編みして実施例3の黒色系吸放湿繊維製品であるセーター試料を作製した。得られたセーター試料の評価結果も表2に併記した。なお、比較例3は比較例2の吸放湿性繊維(繊維D)使用した以外は、実施例3と同様に作製したセーター試料であり、その評価結果も表2に併記した。
【0044】
実施例4、比較例4
実施例2の黒色吸放湿性繊維(繊維C)を30重量%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K822−1.0T38を35重量%、タイプ:K862−1.0T38を35重量%混綿し、常法に従って紡績してメートル番手1/52の黒色吸放湿性繊維を含有するアクリル混紡品である紡績糸を作製した。この紡績糸を常法に従って口径14寸総針1392本の丸編機で天竺編みして、目付けが約200g/m2の丸編試料を作製した。該丸編試料をカチオン染料で常法にてアクリル繊維を黒色に染色し、水洗後乾燥して染色編地を得た。次いで、該染色編地を裁断、縫製し、実施例4の黒色系吸放湿繊維製品である婦人用肌着試料を得た。得られた肌着試料の評価結果も表2に併記した。比較例4は比較例2の吸放湿性繊維(繊維D)使用した以外は、実施例4と同様にして作製した婦人用肌着試料であり、この試料の評価結果も表2に示した。また、参考例は、吸放湿性繊維を用いないで、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維タイプ:K8−2.2T51のみで、実施例4と同様にして作製した婦人用肌着試料である。
【0045】
表2から明らかなように、実施例1〜4の繊維製品は優れた黒色度であり、参考例の吸放湿性繊維を含有しないアクリル繊維100%の繊維製品と同等の黒色度が得られ、染色堅牢度も優れたものであった。飽和吸湿率も従来のカーボンブラックを含有しないアクリル酸系吸放湿性繊維製品と遜色のない吸放湿性繊維製品であった。
これに対し比較例1〜4の繊維製品の黒色度は実施例に対し劣るものであり、吸放湿性繊維は染色されていないことから、染色堅牢度は実施例と遜色ないものの、黒色系と白色系の繊維が混ざった霜降り状の繊維製品となっており審美性に劣るものであった。
【0046】
【発明の効果】
本発明により、吸放湿性能と黒色度のバランスの取れた、尚且つ最終製品にて良好な染色堅牢性を有する、即ち黒色安定性に優れ、さらに審美性にも優れた黒色系吸放湿性繊維製品の提供が可能になった。
Claims (5)
- 20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上である吸放湿性化学繊維であって、該繊維のJIS−Z−8730による明度L*が35以下である黒色吸放湿性化学繊維を少なくとも一部に用いた黒色系吸放湿性繊維製品。
- 黒色吸放湿性化学繊維と、該繊維との色差△E*が10以下である繊維とを混用したことを特徴とする請求項1に記載の黒色系吸放湿性繊維製品。
- 黒色吸放湿性化学繊維がカーボンブラックを含有してなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の黒色系吸放湿性繊維製品。
- 黒色系吸放湿性化学繊維が、アクリロニトリル系重合体に対し0.5〜5重量%のカーボンブラックを含有せしめたアクリロニトリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋の導入及び加水分解により0.6〜10meq/gのカルボキシル基(―COO−)の導入並びに必要なら該基のH/金属塩比率調整が施されて成るものであることを特徴とする請求項3に記載の黒色系吸放湿性繊維製品。
- カーボンブラックの表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が50〜150ml/100gであることを特徴とする請求項3又は4に記載の黒色系吸放湿性繊維製品。
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JP2008115499A (ja) * | 2006-11-06 | 2008-05-22 | Unitika Textiles Ltd | 涼感性獣毛繊維布帛及びそれを用いてなるフォーマル衣料 |
JP2012077431A (ja) * | 2010-09-08 | 2012-04-19 | Japan Exlan Co Ltd | 保温性繊維 |
JP5700316B1 (ja) * | 2014-05-29 | 2015-04-15 | 東洋紡株式会社 | 吸湿発熱性短繊維混入羽毛ワタの製造方法 |
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2003
- 2003-02-05 JP JP2003028158A patent/JP2004238756A/ja active Pending
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