JP4058677B2 - 繊維構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は吸湿性合成繊維からなる繊維構造体に関する。さらに詳しくは、難燃性、抗菌性を有しながら、加工性も優れ、かつ従来品よりもさらに白度が向上し染色工程での晒し処理および洗濯を繰り返しても色がほとんど変化しない色安定性に優れる高白度吸湿性合成繊維からなる繊維構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
綿や羊毛等に代表される天然繊維は、その風合いや、むれ感がない等の着心地の良さが好まれている。この快適な着用感の主たる要因は、天然繊維が適度な吸湿性を有することにある。しかしながら、綿はその保水性能により汗をかいた後のベトツキ感が顕著であり、発汗直後は快適であっても、保水した綿が空気で冷やされてからは急激に体温が低下するという問題があるばかりでなく、吸汗や洗濯を繰り返しているうちに黄変する。よって白色の場合、消費者は白度を維持する為には漂白洗濯をする必要があり、それが繊維を劣化させたり、染色された生地を含む縫製品やプリント地であれば退色させてしまう為、製品寿命が短くなってしまうという問題を抱えている。
【0003】
また羊毛製品は高白度を得ることが困難であるばかりでなく、洗濯を繰り返すことで綿と同様に白度が低下してくることや、何より水洗濯することでフェルト化してしまうという大きな問題がある。家庭洗濯が困難であることで用途が制限されてしまい、羊毛のもつ吸湿発熱特性を有しながら、白度の洗濯耐久性に優れた繊維は未だ現われていない。
【0004】
一方、合成繊維、特にポリエステルやナイロンは各種の耐久性に優れるため各種用途に多用されている。しかし天然繊維に比べて低い吸湿性から着用時にムレを感じるだけでなく、空気が乾燥している場合では静電気を帯びやすく不快に感じることが多い。合成繊維の中では比較的吸湿性に優れているナイロンでも公定水分率は4〜5%程度であり、依然ムレ感は解消されていない。
【0005】
また、吸湿性を改善する為に様々な検討がされてきた。繊維状素材による空気中の湿気を除去する手段として、潮解性塩類を高吸水性繊維に含浸させた特開平1−299624号公報の手段が提案されている。この手段により得られた繊維は、編物・織物・不織布等への加工が容易で吸放湿速度が速く、さらに吸湿剤の脱落もない実用性能を備えたものではあるが、繊維表面がヒドロゲルであるため、吸湿すると粘着性を帯び、特に壁紙やふとん綿への適用が困難であること、及び最近社会的ニーズとして高まりつつある難燃性や抗菌性を満たすものではなかった。
【0006】
これらの問題点を解決する方法として、特開平5−132858号公報の手段も提案されている。しかしながら、この方法では塩型カルボキシル基の量が4.5meq/gを超えてしまうと引張強度が0.9cN/dtex以下となり、種々の加工に耐え得るには不十分な繊維物性となってしまい、さらに吸湿率を高める為の障壁となっていた。また、繊維強度0.9cN/dtex以上の高吸湿性繊維を得る為にヒドラジン系化合物による処理によって導入される窒素含有量の増加を8.0重量%をこえたものにした場合、加水分解後の塩型カルボキシル基の導入量が少なくなり、吸湿性が低くなってしまうという問題があった。
【0007】
さらに、特開平5−132858号公報による方法で得られる繊維は、濃いピンク色から濃い茶色を呈する為、利用分野が限定されてしまうという欠点があった。この欠点を克服する手段として提案されている特開平9−158040号公報の発明は、ヒドラジン系化合物による架橋処理の後に酸処理Aを行うこと、アルカリによる加水分解処理の後に酸処理Bを行うこと、を開示し相当に白度の改善を為し得ている。しかしかかる技術によっても、厳しい白度を要求される分野に対しては、十分満足を与えるものではないのが現状である。特開2000−303353号公報では白度を改善する方法として加水分解処理を無酸素雰囲気下で行うことを開示している。しかしながら、該方法で得られる繊維は染色工程での酸化晒し処理や洗濯を繰り返すことにより着色するため、色安定性に乏しいという欠点を有するのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、繊維に要求される基本物性並びに吸湿性繊維の有すべき特性を維持しながら、かかる従来の吸湿性繊維が抱える色が不安定であるという欠点を改良した繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、下記の構成からなる。
1. 20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、白度がJIS−Z−8729に記載の表示方法において、L*85以上、a*±6の範囲内である高白度吸湿性合成繊維を少なくとも一部に有し、高白度吸湿性合成繊維が、共重合成分として(メタ)アクリル酸エステル化合物が5重量%未満であるアクリロニトリル系重合体からなるアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、加水分解、還元処理を施したものであることを特徴とする繊維構造。
2. 高白度吸湿性合成繊維の飽和吸水率が300重量%以下であることを特徴とする上記第1記載の繊維構造体。
3. 高白度吸湿性合成繊維の洗濯5回後の変色がJIS−L0805汚染用グレースケールで評価して3−4級以上であることを特徴とする上記第1又は第2に記載の繊維構造体。
【0010】
以下、本発明を詳述する。
本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する吸湿性繊維は20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上であることが好ましい。さらに、本発明の高白度吸湿性繊維の白度はJIS−Z−8729に記載の表示方法において、L*85以上、a*±6の範囲内であることが好ましい。さらに好ましくはL*が86以上、a*が±4の範囲内である。
【0011】
また、本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維は、洗濯処理においても、その白度の変色が極めて少ない点、即ち洗濯耐久性に優れている点に特徴があり、具体的には、JIS−L0217−103法(洗剤は花王株式会社製アタック使用)で洗濯処理した洗濯5回後の繊維の白度がJIS−Z−8729に記載の表示方法において、L*85以上、a*±6の範囲内、好ましくはL*が86以上、a*が±5の範囲内であることが好ましい。また、洗濯5回後の変色がJIS−L0805汚染用グレースケールで評価して3−4級以上のものであることが好ましい。なお、洗濯処理後であっても、また、衣料用途で最も疎まれるのは、赤みであり、このことから、赤みを表すパラメーターであるa*の値の、洗濯前後における差(Δa*)が0.7以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6以下である。なお、本発明の繊維構造体の洗濯耐久性は、JIS−L0844−B法に準拠して測定した。
【0012】
本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維の飽和吸水率は、300重量%以下であることが好ましい。飽和吸水率が300重量%を超える場合には、吸水した際繊維表面がべとつくため好ましくない。
【0013】
なお、繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維としては、染色工程の酸化晒し等の処理においても、その白色度が低下しないことが望ましく、具体的には、過酸化水素濃度0.5重量%、NaOHによるpH10、浴比1/50、80℃、60分の条件で晒し処理した過酸化水素晒し後の繊維の変色(晒し耐久性)がJIS−L0805汚染用グレースケールで評価して3級以上、繊維を飽和吸水量を超える水の共存下80℃16時間放置した後の変色(放置安定性)がJIS−L0805汚染用グレースケールで評価して3−4級以上であることが好ましい。
【0014】
ここで、晒し耐久性の値(級)は、NaOHによりpH10に調節した過酸化水素0.5重量%の水溶液中に、繊維試料と水溶液の浴比が1/50となるよう繊維試料を投入し、80℃で、60分間晒し処理した繊維の、晒し処理前の繊維試料の色からの変色の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価することによって得られたものである。
【0015】
また、放置安定性の値(級)は試料繊維を純水に浸漬し、十分含水させた後取出し、80℃においても飽和吸水量を超える水が維持できるに十分な量の水を保持させたまま、容器の半分以上が空間となるよう容器に密閉して、80℃に調整した恒温機に入れ、16時間後取出し、脱水、乾燥した繊維の、処理前の繊維試料からの変色の程度をJIS−L0805汚染用グレースケールで評価することによって得られたものである。
なお、飽和吸水量とは、十分含水した繊維の遠心脱水後(160G×5分間)の重量から、同じ試料繊維の乾燥(105℃×16時間)後の重量を引いた量である。また、飽和吸水率は、飽和吸水量を試料繊維の乾燥(105℃×16時間)後の重量で除した値を%で表したものである。
【0016】
かかる、高白度吸湿性繊維の製造方法としては、共重合成分として(メタ)アクリル酸エステル化合物が5重量%未満であるアクリロニトリル系重合体からなるアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、加水分解、還元処理を施すことを特徴とする高白度吸湿性繊維の製造方法が推奨される。以下該方法について詳述する。
【0017】
出発アクリル系繊維(以下、アクリロニトリル系繊維と呼ぶこともある)としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であり、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでも良く、また、製造工程中途品、廃繊維などでも構わない。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良いが、ANと共重合する単量体として(メタ)アクリル酸エステル化合物は最も好ましくは使用を避けたいが、やむを得ず用いる場合は、5重量%未満さらに好ましくは4.0重量%以下である必要がある。尚、(メタ)を付した表記は、アクリル酸エステル,メタアクリル酸エステルの双方を表わしている。また、5重量%未満であれば共重合成分としてもかまわない該エステル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。それ以外の共重合成分としてはメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩;スチレン、酢酸ビニル等の単量体等、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されないが、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系化合物を5〜20重量%共重合させることが望ましい。かかるビニルエステルとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。
【0018】
該アクリル系繊維は、ヒドラジン系化合物により架橋導入処理を施され、アクリル系繊維の溶剤では最早溶解されないものとなるという意味で架橋が形成され、同時に結果として窒素含有量の増加が起きるが、その手段は特に限定されるものではない。この処理による窒素含有量の増加が1.0〜10重量%に調整し得る手段が好ましいが、窒素含有量の増加が0.1〜1.0重量%であっても、本発明繊維の高白度吸湿性繊維が得られる手段である限り採用し得る。なお、窒素含有量の増加が1.0〜10重量%に調整し得る手段としては、ヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。尚、窒素含有量の増加を低率に抑えるには、反応工学の教える処に従い、これらの条件をよりマイルドな方向にすればよい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物による架橋が導入されたアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。
【0019】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものでなく、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等、この他エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0020】
かかるヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維は、酸処理を施しても良い。この処理は、繊維の色安定性の向上に寄与がある。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。この処理の前に架橋導入処理で残留したヒドラジン系化合物は、十分に除去しておく。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度5〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0021】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理工程を経た繊維、或いはさらに酸処理を経た繊維は、続いてアルカリ性金属塩水溶液により加水分解される。この処理により、アクリル系繊維のヒドラジン系化合物処理による架橋導入処理に関与せずに残留しているCN基、及び架橋処理工程後酸処理を施した場合には残留しているCN基と一部酸処理で加水分解されたCONH2基の加水分解が進められる。これらの基は加水分解によりカルボキシル基を形成するが、使用している薬剤がアルカリ性金属塩であるので、結局金属塩型カルボキシル基を生成している。ここで使用するアルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。使用するアルカリ性金属塩の濃度は特に限定されないが、1〜10重量%さらに好ましくは1〜5重量%の水溶液中、温度50〜120度で1〜10時間以内で処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。
【0022】
ここで金属塩の種類即ちカルボキシル基の塩型としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca,Ba等のアルカリ土類金属を挙げることが出来る。加水分解を進める程度即ち金属塩型カルボキシル基の生成量は4〜10meq/gに制御すべきであり、これは上述した処理の際の薬剤の濃度や温度,処理時間の組合せで容易に行うことができる。尚、かかる加水分解工程を経た繊維は、CN基が残留していてもいなくてもよい。CN基が残留していれば、その反応性を利用して、さらなる機能を付与する可能性がある。
【0023】
次いで行なわれる還元処理において使用する還元処理剤としてはハイドロサルファイト塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、二酸化チオ尿素、アスコルビン酸塩、ヒドラジン系化合物からなる群より選ばれた1種類または2種類以上を組み合わせた薬剤が好適に使用できる。該還元処理の条件としては、特に限定されないが、概ね薬剤濃度0.5〜5重量%の水溶液に、温度50℃〜120℃で30分間〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。なお、該還元処理は前述の加水分解時に同時に行ってもよいし、加水分解後に行なってもよい。
【0024】
かくして、本発明の高白度吸湿性繊維が得られるが、より色を安定化させるため、前述の還元処理工程を経た繊維に、酸処理を施し、該金属塩型カルボキシル基をH型化し、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれる金属塩処理により、該H型カルボキシル基の一部を金属塩型化(塩型調整処理)してH型/金属塩型のモル比を90/10〜0/100に調整することが好ましい。
【0025】
ここに酸処理に使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度1〜10重量%、好ましくは2〜10重量%の水溶液に、温度50〜120℃で2〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0026】
また塩型調整処理に採用される金属塩の金属種類としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれるが、Na、K、Ca、Mg等が特に推奨される。又塩の種類としては、これらの金属の水溶性塩であれば良く、例えば水酸化物,ハロゲン化物,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩等が挙げられる。具体的には、夫々の金属で代表的なものとして、Na塩としてはNaOH、Na2CO3、K塩としてはKOH、Ca塩としてはCa(OH)2、Ca(NO3)2、CaCl2が好適である。
【0027】
カルボキシル基のH型/金属塩型モル比は上述した範囲内であるが、繊維に与えようとする機能により、金属の種類と共に適宜設定する。塩型調整処理の具体的な実施にあたっては、処理槽に金属塩の0.2〜30重量%の水溶液を準備し、20℃〜80℃において0.25〜5Hr程度被処理繊維を浸漬する、あるいは該水溶液を噴霧する等の方法がある。上述の比率に制御するには、緩衝剤共存下での塩型調整処理が好ましい。緩衝剤としてはpH緩衝域が5.0〜9.2のものが好適である。また、金属塩型カルボキシル基の金属塩の種類は1種類に限定されるわけではなく、2種類以上が混在してもかまわない。
【0028】
以上説明した本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維は、吸湿性,難燃性,抗菌性を有しながら、加工性も優れ、かつ従来品よりもさらに白度が向上し色安定性にも優れた吸湿性繊維である。
【0029】
また、塩型調整処理をCa,Mg,Ba等の金属塩化合物の如き水溶解度が低い物質で行う場合には、該工程においてH型カルボキシル基からH型/金属塩型のモル比を、金属塩型を高める方向にするのに幾分難がある。かかる場合には、酸処理の後で塩型調整処理の前処理として、酸処理工程においてH型化されているカルボキシル基を、苛性ソーダあるいは苛性カリ等の水溶液で該カルボキシル基の示すpHを調整即ち中和処理(pH=5〜11位)しておくことが推奨される。かかる処方により、中和処理後のカルボキシル基はH型とNa又はK型が共存する状態になっているので、次の塩型調整処理はCa等とNa又はKとの交換となって容易に進行するので、提起した難点が解消する。
【0030】
なお、出発原料であるアクリル系繊維の製造手段は特に限定されるものではなく、通常の衣料用繊維の製造に採用される手段を用いることができる。また、このような繊維を出発繊維として用いる事が好ましいが、必ずしも最終工程まで済んでいる必要はなく、アクリル系繊維製造工程途中のものであっても、あるいは最終繊維に紡績加工等を施した後のものでも良い。中でも出発アクリル系繊維として、アクリル系繊維の製造工程途中である延伸後熱処理前の繊維(AN系重合体の紡糸原液を常法に従って紡糸し、延伸配向され、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理の施されてない繊維、中でも湿式又は乾/湿式紡糸、延伸後の水膨潤ゲル状繊維:水膨潤度 30〜150%)を使用すると、処理液中への繊維の分散性、繊維中への処理液の浸透性などが改善され、以て架橋結合の導入や加水分解反応が均一かつ速やかに行われるので望ましい。
【0031】
なお、これらの出発アクリル系繊維を、攪拌機能、温度制御機能を備えた容器内に充填し、前述の工程を順次実施する、あるいは複数の容器を並べて連続的に実施する等の手段をとることが、装置上、安全性、均一処理性等の諸点から望ましい。かかる装置としては染色機が例示される。
【0032】
本発明の、繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維を製造する他の方法としては、アクリル系繊維に、上述してきたヒドラジン系化合物による架橋導入処理、加水分解、還元処理、酸処理を施し、更に還元処理、酸処理を繰り返す方法が挙げられる。還元処理、酸処理を繰り返すことにより、白度及び色安定性が向上し、L*85以上、a*±6の範囲内であり、且つ洗濯耐久性が3−4級以上という高白度吸湿性繊維が得られる。本方法によると、アクリル系繊維を形成するアクリロニトリル系重合体の共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル化合物が5重量%以上であっても、本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維を得ることが出来るが、還元処理、酸処理を繰り返すことが必要であることから、繊維物性が低下したり、生産コストが高くなったりするため、上述した本発明が推奨する製造方法を採用する方が有利である。
【0033】
本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する繊維は、繊維加工に耐える強伸度を備え、色安定性に優れた高白度吸湿性繊維であり、吸湿に伴って発熱も起こる。又、窒素を含有した架橋構造や高い吸湿率に起因すると思われる難燃性、抗菌性、消臭性、耐薬品性等も備えている。
【0034】
本発明の繊維構造体は上記のような高白度吸湿性合成繊維を少なくとも一部に含んでいれば良い。必要に応じて他の繊維と混用して用いられることも好ましい。混紡、精紡交撚、コアヤーン、均一混合複合紡績、合撚、混繊、交編、交織などの方法で他のステープル繊維やフィラメント繊維との混用が可能である。但し、ポリエステル繊維等疎水性繊維と混用する場合、あまりに該高白度吸湿性合成繊維の含有率が小さいと吸湿性が乏しくなるため、少なくとも5重量%以上、より好ましくは10重量%以上含有させておくのが好ましい。また、本発明の繊維構造体は不織布であっても構わない。もちろん、該高白度吸湿性合成繊維100%で紡績、製編織してもよいし、不織布としても構わない。
【0035】
本発明の吸湿性と白度に優れた繊維構造体は該高白度吸湿性合成繊維を少なくとも一部に用いたものであり、例えば糸を交錯して形成した構造として織物、編物、組物、レース、網等があげられ、そのなかでも織物では平織物、朱子織物、綾織物、それらを組合わせた変化組織からなる織物、高密度織物、低密度織物、多重織物、パイル織物、袋織物、交織織物等、編物では経編物、横編物、丸編物、交編物、パール編物、天竺編物、ゴム編物、リブ編物、両面編物、シングルトリコット、シングルバンダイク、シングルコード編物、プレーントリコット、アトラス、それらを組合わせた変化組織からなる編物等、組物では平打ち組物、丸打ち組物等、網では結節網、無結節網等が挙げられる。また、糸を並列ないし積層して形成した構造として一方向プリプレグ等、積層した繊維を接着又は絡合した構造としてニードルパンチ不織布、スパンボンド、紙、フェルト等が挙げられる。その他各構造を組合わせたものであっても構わず、例えば糸入れ強化不織布や緯糸挿入経編物等であっても本発明の繊維構造物であるが、上記以外のもの例えば布団綿、中綿等であっても構わない。
【0036】
以上詳述した、本発明の繊維構造体の少なくとも一部に採用する高白度吸湿性繊維が、優れた白度及び色安定性を有する理由は、十分解明するに至っていないが、概ね次のように考えられる。即ち、ヒドラジン系化合物により架橋構造を導入される際に、原料であるアクリル系繊維が共重合成分として(メタ)アクリル酸エステル化合物を5重量%以上含む場合は該共重合成分のカルボニル炭素の部分にヒドラジン系化合物が反応することにより結果的に架橋構造に酸素分子を含む結合が導入され発色しやすく、即ち色安定性が劣ることとなるが、本発明が推奨する製造方法では該結合の生成を原料段階で抑制したために発色が抑えられ、過酸化水素晒し処理や洗濯繰り返し等の処理によっても発色しにくいと推定される。また、(メタ)アクリル酸エステル化合物を5重量%以上含む場合であっても、還元処理、酸処理を繰り返すことにより、過酸化水素晒し処理や洗濯繰り返し等の処理によっても、発色する分子構造に変化しにくい安定した分子構造を持つためであると推定される。
【0037】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。なお、金属塩型カルボキシル基量、白度および吸湿率は以下の方法により求めた。
【0038】
(1)金属塩型カルボキシル基量(meq/g)
十分乾燥した加水分解後の繊維約1gを精秤し(Xg)、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/l苛性ソーダ水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された苛性ソーダ水溶液消費量(Yml)を求め、次式によってカルボキシル基量(meq/g)を算出した。
(カルボキシル基量)=0.1Y/X
別途、上述のカルボキシル基量測定操作中の1mol/l塩酸水溶液の添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求めH型カルボキシル基量(meq/g)を求めた。これらの結果から次式により金属塩型カルボキシル基量を算出した。
(金属塩型カルボキシル基量)=(カルボキシル基量)−(H型カルボキシル基量)
【0039】
(2)白度
カード機にて解繊した試料繊維4.0gを回転式測色セル(35mlの透明円筒セル)に充填し、東京電色社製色差計TC−1500MC−88型(D65光源)にて、60回/分の割合で回転させながら測色した。この測定を3回繰返し、L*、a*の値(平均値)を求めた。
(3)吸湿率(%)
試料繊維約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に試料を温度20℃で65%RHの恒湿槽に24時間入れておく。このようにして吸湿した試料の重量を測定する(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(吸湿率 %)={(W2−W1)/W1}×100
(4)布帛白度
白度とはASTM E 313に基づきミノルタ(株)製分光測色計CM−3700dを使用し測定したものである。
JIS白度(W)=L*+3×a*−3×b*
(5)布帛吸湿率
上記に記載の繊維の吸湿率測定に準ずる。
【0040】
実施例1
AN96重量%、アクリル酸メチル(以下、MAという)4重量%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率;10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度1.7dtexの原料繊維を得た。
【0041】
該原料繊維に、水加ヒドラジンの20重量%水溶液中で、98℃×5Hr架橋導入処理を行った。本処理により、架橋が導入され、窒素含有量が増加する。なお、窒素増加量は、原料繊維と架橋導入処理後の繊維を元素分析にて窒素含有量を求め、その差から算出した。次に、苛性ソーダの3重量%水溶液中で、90℃×2Hr加水分解処理を行い、純水で洗浄した。この処理により、繊維にNa型カルボキシル基が5.5meq/g生成していた。
【0042】
該加水分解後の繊維を、ハイドロサルファイトナトリウム塩(以下、SHSという)の1重量%水溶液中で、90℃×2Hr還元処理を行い、純水で洗浄した。
続いて、硝酸の3重量%水溶液中、90℃×2Hr酸処理を行った。これにより5.5meq/g生成していたNa型カルボキシル基は全量がH型カルボキシル基になっていた。該酸処理後の繊維を、純水中に投入し、濃度48%の苛性ソーダ水溶液をH型カルボキシル基に対し、Na中和度70モル%になる様に添加し、60℃×3Hr塩型調整処理を行った。
【0043】
以上の工程を経た繊維を、水洗、油剤付与、脱水、乾燥し実施例1の高白度吸湿性繊維(2dtex×38mm)を得た。得られた繊維の吸湿率、白度、色安定性を調べ、塩型カルボキシル基量、窒素増加量などと共に表1に示した。得られた繊維を3:7の割合でポリエステルフルダルステープル(1.5dtex×38mm、TiO2を2wt%含有)と混紡し、40/1の紡績糸とし経糸に、一方該高白度吸湿性繊維(2dtex×38mm)とポリエステルセミダルステープル(1.5dtex×38mm)の紡績糸を芯部に、ポリエステルフィラメントを鞘部に用いたカバード糸を緯糸にして平織組織にて製織し、蛍光増白剤を用いて白色染色を施した。布帛白度は135.2であり、吸湿性は5.5%であった。洗濯後変色は5級であった。
【0044】
比較例1
AN90重量%、MA10重量%からなるAN系重合体を用いた以外は実施例1と同様にして得られた吸湿性繊維を使用し、実施例1にしたがって布帛を作成した。布帛白度は122.3であり、吸湿性は4.9%であった。洗濯後変色は3級であった。
【0045】
実施例2
塩型調整処理を苛性カリで行い高白度吸湿性繊維(1dtex×28mm)を得、2:8の割合で、アクリル繊維(エクスラン1.8dtex×48mm)と混紡し、スパンデックス繊維(東洋紡エスパ)と経編交編した以外は、実施例1と同様にして布帛を得た。布帛白度は58.8であり、吸湿性は5.1%であった。
【0046】
実施例3
実施例1の繊維を塩化カルシウム水溶液で処理して、Na型カルボキシル基をCa型カルボキシル基とした以外は実施例1と同様にして布帛を得た。布帛白度は133.6であり、吸湿性は4.9%であった。
【0047】
比較例2
AN94重量%、MA6重量%からなるAN系重合体を用い、還元処理後の酸処理及び塩型調整処理を行わなかった以外は実施例1と同様にした。布帛白度は110.3であり、吸湿性は6.9%であった。洗濯後変色は2級であった。
【0048】
実施例4
実施例1で得られた高白度吸湿性繊維と綿を3:7で混綿し、側地には綿の晒し生地を用いてクッションにした。混合綿の白度は66.3であり、吸湿性は12.5%であった。
【0049】
実施例1の高白度吸湿性繊維は35%の吸湿率を示し、白度もL*88.4、a*0.99と良好であった。また、晒し耐久性、洗濯耐久性および放置安定性もそれぞれ3−4級、4−5級、4−5級と色安定性に優れた繊維であった。実施例1と金属塩の種類が異なる実施例2、3は、実施例1に比べ、吸湿率が若干低下するものの、白度、色安定性は実施例1繊維と遜色のない結果であった。一方、比較例1はアクリル酸エステル化合物であるMAを10重量%含む原料繊維を使用した。白度は良好であったが、晒し耐久性、洗濯耐久性および放置安定性は、それぞれ2級、3級、3級と色安定性が劣り加工段階あるいは最終製品としての使用段階で問題となるレベルであった。比較例2では還元処理を省略しているため赤色に着色していた。
以上、本発明は従来、吸湿性繊維については特開2000−303353号公報の技術により得られるものが、吸湿性能と白度のバランスのとれたものとされてきたが、本発明の繊維構造体は従来に比較し、格段の向上を示すものである。
【0050】
【表1】
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、高白度吸湿性繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造体としたことで、繊維構造体に要求される基本物性並びに吸湿性繊維の有すべき特性を維持しながら、かかる従来の吸湿性繊維が抱える色が不安定であるという欠点の改良を可能としたものである。
Claims (3)
- 20℃65%RHにおける飽和吸湿率が10重量%以上、白度がJIS−Z−8729に記載の表示方法において、L*85以上、a*±6の範囲内であり、且つJIS−L0217−103法で洗濯処理した洗濯5回後の繊維の白度がJIS−Z−8729に記載の表示方法において、L*85以上、a*±6の範囲内である高白度吸湿性合成繊維を少なくとも一部に有し、高白度吸湿性合成繊維が、共重合成分として(メタ)アクリル酸エステル化合物が5重量%未満であるアクリロニトリル系重合体からなるアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、加水分解、還元処理を施したものであることを特徴とする繊維構造体。
- 高白度吸湿性合成繊維の飽和吸水率が300重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の繊維構造体。
- 高白度吸湿性合成繊維の洗濯5回後の変色がJIS−L0805汚染用グレースケールで評価して3−4級以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維構造体。
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