JP2004238360A - エスクレチン誘導体、その製造方法、ならびにエスクレチンの精製方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の技術分野】
本発明は、新規なエスクレチン誘導体、その製造方法、ならびに該エスクレチン誘導体を介するエスクレチンの精製方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
エスクレチン(6,7−ジオキシクマリン)は、各種医薬品、化粧料、またはプラスチック繊維や成形体といった化学品などの広い用途における中間体あるいは出発原料として用いられている。
これらの用途のうち、特に各種医薬品や化粧料などの中間体あるいは出発原料として用いられる場合には、高い純度を有することが要求される。
【0003】
エスクレチンは、トリアセトキシベンゼンに酸触媒存在下でリンゴ酸を反応させるなどの方法で化学合成できることが知られているが(非特許文献1参照)、このような化学合成による場合には、目的物であるエスクレチンと副生物との分離が困難であり、高純度のエスクレチンを得ることはできなかった。
一方、天然物、たとえば、セイヨウトチノキの樹皮などからエスクリン(エスクレチン−6−β−グルコシド)を抽出し、これを酸処理する方法によれば、高純度(純度99%以上)のエスクレチンが得られることが知られている。
【0004】
したがって、高純度のエスクレチンが必要とされる場合には、このような天然物からの抽出による方法が主流となっている。
しかしながら、天然物からの抽出による方法では、抽出できるエスクリンの量が極めて少ないため、得られるエスクレチンが高価になるという問題があった。
本発明者らは、このような実情に鑑みて鋭意研究した結果、エスクレチンのクマリン環の6位と7位の双方、あるいは7位のみに特定の炭酸エステル基を有する新規なエスクレチン誘導体を介してエスクレチンを精製すれば、化学合成した場合にも高純度(純度90%以上)のエスクレチンを効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
なお、エスクレチンのクマリン環の6位と7位の双方、あるいは7位のみに、炭素数2〜25のアルキルエステル基を有するエスクレチン誘導体は知られていたが(特許文献1参照)、クマリン環の6位と7位の双方、あるいは7位のみに、特定の炭酸エステル基を有するエスクレチン誘導体は知られていない。
【0006】
【非特許文献1】
G. Amiard and A. Allais, Bull. Soc. Chim. France, 512 (1947)
【特許文献1】
特開平6−312925号公報
【0007】
【発明の目的】
本発明は、新規なエスクレチン誘導体、その製造方法、ならびに該エスクレチン誘導体を介するエスクレチンの精製方法を提供することを目的としている。
より詳しくは、本発明は、高純度のエスクレチンを安価に効率よく提供しうる方法を与えることを目的としている。
【0008】
【発明の概要】
本発明に係るエスクレチン誘導体は、下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体である;
【0009】
【化11】
【0010】
式中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表し、
Xは、水素原子または
【0011】
【化12】
【0012】
を表す。
また、本発明に係るエスクレチン誘導体(式(I))の製造方法は、エスクレチンと下記式(II)で示される化合物とを塩基触媒存在下で反応させることを特徴としている;
【0013】
【化13】
【0014】
式中、Yは、塩基触媒存在下で脱離可能な基を表し、
Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表す。
さらに、本発明に係るエスクレチン誘導体の製造方法では、前記塩基触媒存在下で脱離可能な基Yは、ハロゲン原子、N−オキシスクシンイミド基または下記式(III)で示される官能基であることが好ましい;
【0015】
【化14】
【0016】
式中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表す。
さらに、本発明に係るエスクレチン誘導体の製造方法では、前記式(II)で示される化合物は、ジ−tert−ブチルジカルボネートであることが望ましい。
また、本発明に係るエスクレチンの精製方法は、
エスクレチンと下記式(II)で示される化合物とを塩基触媒存在下で反応させ、下記式(I)のエスクレチン誘導体を生成し、
その後、得られたエスクレチン誘導体と、酸またはアルカリとを反応させ、エスクレチンを生成することを特徴としている;
【0017】
【化15】
【0018】
【化16】
【0019】
式中、Yは、塩基触媒存在下で脱離可能な基を表し、
Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表し、
Xは、水素原子または
【0020】
【化17】
【0021】
を表す。
さらに、本発明に係るエスクレチンの精製方法では、前記塩基触媒存在下で脱離可能な基Yは、ハロゲン原子またはN−オキシスクシンイミド基または下記式(III)で示される官能基であることが好ましい;
【0022】
【化18】
【0023】
式中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表す。
さらに、本発明に係るエスクレチンの精製方法では、前記式(II)で示される化合物は、ジ−tert−ブチルジカルボネートであることが望ましい。
【0024】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
<エスクレチン誘導体およびその製造方法>
本発明に係るエスクレチン誘導体は、下記式(I)で示されるエスクレチン誘導体である。
【0025】
【化19】
【0026】
式中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表し、
Xは、水素原子または
【0027】
【化20】
【0028】
を表す。
すなわち、本願発明のエスクレチン誘導体は、クマリン環の6位と7位の双方、あるいは7位のみに、炭酸エステル結合を含む置換基を有することを特徴としている。なお、クマリン環の6位と7位の双方に該置換基を有する場合には、前記Rは同一でも異なってもよいが、好ましくは同一である。
【0029】
該置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表すRと、炭酸エステル結合とからなり、
炭素数1〜12のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。さらに、これらのうちでは、メチル基、エチル基、tert−ブチル基が好ましく挙げられる。
【0030】
また、アルキルビニル基としては、具体的には、イソプロペニル基、アリル基、3−ブテニル基などが挙げらる。
本発明に係るエスクレチン誘導体のうち、クマリン環の6位と7位の双方に置換基を有するエスクレチン誘導体としては、具体的には、6,7−ジ−メトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−エトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−プロポキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−n−ブトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−イソブトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−sec−ブトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−tert−ブトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ペントキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ネオペントキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−アミロキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ヘキトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ヘプトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−オクトキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−(2−エチルヘキトキシ)カルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ノニノキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−デシロキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ウンデシロキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−ドデシロキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−イソプロペニルオキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−アリルオキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−(3−ブテニル)オキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジ−フェノキシカルボニルエスクレチン、6,7−ジーベンジルオキシカルボニルエスクレチンなどが挙げられる。
【0031】
また、クマリン環の7位に置換基を有するエスクレチン誘導体としては、具体的には、7−メトキシカルボニルエスクレチン、7−エトキシカルボニルエスクレチン、7−プロポキシカルボニルエスクレチン、7−n−ブトキシカルボニルエスクレチン、7−イソブトキシカルボニルエスクレチン、7−sec−ブトキシカルボニルエスクレチン、7−tert−ブトキシカルボニルエスクレチン、7−ペントキシカルボニルエスクレチン、7−ネオペントキシカルボニルエスクレチン、7−アミロキシカルボニルエスクレチン、7−ヘキトキシカルボニルエスクレチン、7−ヘプトキシカルボニルエスクレチン、7−オクトキシカルボニルエスクレチン、7−(2−エチルヘキトキシ)カルボニルエスクレチン、7−ノニノキシカルボニルエスクレチン、7−デシロキシカルボニルエスクレチン、7−ウンデシロキシカルボニルエスクレチン、7−ドデシロキシカルボニルエスクレチン、7−イソプロペニルオキシカルボニルエスクレチン、7−アリルオキシカルボニルエスクレチン、7−(3−ブテニル)オキシカルボニルエスクレチン、7−フェノキシカルボニルエスクレチン、7−ベンジルオキシカルボニルエスクレチンなどが挙げられる。
【0032】
このようなエスクレチン誘導体(式(I))は、エスクレチンと下記式(II)で示される化合物とを塩基触媒存在下で反応させることによって製造することができる。
【0033】
【化21】
【0034】
式中、Yは、塩基触媒存在下で脱離可能な基を表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表す。
また、前記塩基触媒存在下で脱離可能な基Yは、好ましくは、ハロゲン原子、N−オキシスクシンイミド基または下記式(III)で示される官能基である。
【0035】
【化22】
【0036】
式(III)中、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルビニル基、フェニル基、またはベンジル基を表す。
まず、クマリン環の6位と7位の双方に前記特定の置換基を有するエスクレチン誘導体の製造方法について説明する。
この場合、エスクレチンと、2倍モル量〜2倍モル量に加えて小過剰量の式(II)の化合物を、塩基触媒存在下で、常圧、室温で2〜24時間程度反応させることにより、クマリン環の6位と7位の双方に特定の置換基を有するエスクレチン誘導体を得ることができる。
【0037】
このような反応は、下記反応式に従って進行すると考えられ、塩基性触媒存在下で式(II)の化合物からYが脱離することにより、エスクレチンのクマリン環の6位と7位の双方に置換基を有するエスクレチン誘導体が生成すると考えられる。
【0038】
【化23】
【0039】
なお、反応促進の観点から、反応温度を室温〜40℃の範囲で適宜変更してもよい。
前記反応に使用される塩基触媒としては、ジメチルアミノピリジン(以下、DMAPと略す。)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクテン(以下、DABCOと略す。)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(以下、DBUと略す。)などが好ましく挙げられる。
【0040】
該塩基触媒は、通常0.05〜2.4当量、好ましくは2.0〜2.4当量の量で前記反応に用いられる。触媒の使用量が上記の範囲内であると、クマリン環の6位と7位の双方に所望の置換基を容易に導入することができるため好ましい。
さらに、前記反応に用いられる前記式(II)の化合物の脱離基Yは、ハロゲン原子あるいは前記式(III)の官能基であることがより好ましい。
【0041】
前記脱離基Yがハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられるが、化合物の取り扱いおよび入手容易性の観点からは塩素原子であることが好ましい。
このように脱離基Yが塩素原子である場合、式(II)の化合物としては、具体的には、メチルクロロカルボネート、エチルクロロカルボネート、イソプロピルクロロカルボネート、プロピルクロロカルボネート、n−ブチルクロロカルボネート、イソブチルクロロカルボネート、sec−ブチルクロロカルボネート、ネオペンチルクロロカルボネート、ヘキシルクロロカルボネート、2−エチルヘキシルクロロカルボネート、デシルクロロカルボネート、ドデシルクロロカルボネート、アリルクロロカルボネート、フェニルクロロカルボネート、ベンジルクロロカルボネートなどのクロロ炭酸エステル類が好ましく挙げられる。
【0042】
また、前記脱離基Yが式(III)の官能基である場合には、式(II)中のRと式(III)中のRとは、同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。
前記脱離基Yが式(III)の官能基である場合、式(II)の化合物としては、具体的には、たとえば、ジ−tert−ブチルジカルボネート(以下、DIBOCと略す。)が好ましく挙げられる。なお、この化合物はアイバイツ(株)から入手可能である。
【0043】
また、前記反応は、有機溶剤(非水系溶剤)中で行われることが好ましい。ここで、有機溶剤(非水系溶剤)とは、後述する水系溶剤以外の有機溶剤を意味し、そのような有機溶剤であればいずれでもよいが、具体的には、たとえば、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す。)、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ニトロベンゼン、ニトロメタンなどを挙げることができる。
【0044】
次に、クマリン環の7位のみに前記特定の置換基を有するエスクレチン誘導体の製造方法について説明する。
この場合、エスクレチンと、等モル量〜等モル量に加えて小過剰量の式(II)の化合物を、塩基触媒存在下で、常圧、室温で2〜24時間程度、反応させることにより、クマリン環の7位のみに特定の置換基を有するエスクレチン誘導体を得ることができる。
【0045】
このような反応は、下記反応式に従って進行すると考えられ、塩基性触媒存在下で式(II)の化合物からYが脱離することにより、エスクレチンのクマリン環の7位に置換基を有するエスクレチン誘導体が生成すると考えられる。
【0046】
【化24】
【0047】
なお、反応促進の観点から、反応温度を室温〜40℃の範囲で適宜変更してもよい。
前記反応に使用される塩基触媒としては、DABCO、トリエチルアミン(以下、TEAと略す。)、DMAPなどが好ましく挙げられる。
該塩基触媒は、通常0.1〜2.4当量、好ましくは2.0〜2.4当量の量で前記反応に用いられる。触媒の使用量が上記の範囲内であると、クマリン環の7位に所望の置換基を容易に導入することができるため好ましい。
【0048】
さらに、前記反応に用いられる前記式(II)の化合物の脱離基Yは、N−オキシスクシンイミド基あるいは前記式(III)の官能基であることがより好ましい。
前記脱離基Yが、N−オキシスクシンイミド基である場合には、式(II)の化合物は、N−ヒドロキシスクシンイミドと、上述したクロロ炭酸エステル類とを反応させて得ることができる。
【0049】
具体的には、等モル量のN−ヒドロキシスクシンイミドと、上述したクロロ炭酸エステル類とを、塩基触媒の存在下、有機溶剤中で反応させることで式(II)の化合物が得られる。
なお、脱離基YがN−オキシスクシンイミド基である式(II)の化合物を用いる場合には、エスクレチンとの反応は、有機溶剤(非水系溶剤)中で行うことが好ましい。ここで、有機溶剤(非水系溶剤)とは、後述する水系溶剤以外の有機溶剤を意味し、そのような有機溶剤であればいずれでもよいが、具体的には、たとえば、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す。)、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ニトロベンゼン、ニトロメタンなどを挙げることができる。
【0050】
また、前記脱離基Yが式(III)の官能基である場合の式(II)の化合物としては、既述したものと同様のものが好ましく挙げられる。
前記脱離基Yが式(III)の官能基である場合には、エスクレチンとの反応は、水系溶剤中で行われることが好ましい。ここで、水系溶剤とは、溶剤全量中に50体積%以上の水を含有する溶剤を意味し、たとえば、水、水/ジオキサン、水/メタノールなどを挙げることができる。
【0051】
このように、前記脱離基Yが式(III)の官能基である場合に、式(II)の化合物とエスクレチンとを、有機溶剤(非水系溶剤)中で反応させた場合には、選択的にクマリン環の6位と7位の双方に置換基を導入することができ、一方、水系溶剤中で反応させた場合には、選択的にクマリン環の7位のみに置換基を導入することができる。
【0052】
なお、得られたエスクレチン誘導体は、必要に応じて公知の精製方法、たとえば、ろ過、抽出、クロマトグラフィー、再結晶などの方法で精製することができる。
該エスクレチン誘導体の構造は、核磁気共鳴スペクトル(以下、NMRと略す。)、赤外線吸収スペクトル、紫外線吸収スペクトル、元素分析、質量スペクトルなどにより確認することができる。
【0053】
<エスクレチンの精製方法>
本発明に係るエスクレチンの精製方法は、
エスクレチンと前記式(II)で示される化合物とを塩基触媒存在下で反応させ、前記式(I)のエスクレチン誘導体を生成し、
その後、得られたエスクレチン誘導体と、酸またはアルカリとを反応させ、エスクレチンを生成することを特徴としている。
【0054】
この際、反応物として用いるエスクレチンは、市販のものを使用することも可能であるが、精製操作により高純度のエスクレチンを安価で効率よく得ようとする本発明の目的に鑑みれば、化学合成した粗エスクレチン(副生物を含む)を使用することが好ましい。
このような粗エスクレチンを用いて、前記式(I)のエスクレチン誘導体を得るまでの工程は、前述したエスクレチン誘導体の製造方法と同様である。
【0055】
前記エスクレチン誘導体としては、クマリン環の6位と7位の双方に置換基を有するエスクレチン誘導体、クマリン環の7位のみに置換基を有するエスクレチン誘導体のいずれも用いることができるが、前者の2つの置換基を有するエスクレチン誘導体は、後者よりも親油性で抽出がより容易であり、副生物を含む粗エスクレチンを反応物とした場合でも高純度のエスクレチン誘導体が得られること、さらに、後述する脱保護工程でも加熱等の必要がないことなどから好ましく用いられる。
【0056】
次に、前記エスクレチン誘導体を脱保護してエスクレチンを生成する工程について説明する。
すなわち、得られた前記式(I)のエスクレチン誘導体と、酸またはアルカリとを反応させ、エスクレチンを生成し、高純度のエスクレチンを得る工程である。
【0057】
エスクレチンを構成するクマリン環はアルカリに弱く、脱保護の際に水酸化ナトリウムなどの強アルカリを使用すると、開環する可能性がある。したがって、前記アルカリとしては、弱アルカリ、具体的には、たとえば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることが好ましい。これらは単独でも組み合わせて用いてもよく、使用するアルカリの種類やその組合せにより、メタノールなどの有機溶剤や水などで適宜希釈して用いることができる。
【0058】
前記アルカリは、通常、エスクレチン誘導体に対して、2〜20モル倍量、好ましくは5〜20モル倍量で用い、常圧で、室温〜30℃の範囲で、2〜24時間反応させることが望ましい。
また、アルカリの代わりに酸を用いることができれば、前記エスクレチン誘導体をより安定に脱保護することができるためより好ましい。
【0059】
このように酸により脱保護できるエスクレチン誘導体としては、具体的には、6,7−ジ−tert−ブトキシカルボニルエスクレチンを好ましく挙げることができる。
前記酸としては、具体的には、HF、HCl、HBr、酢酸、トリフルオロ酢酸、BF3、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。これらは単独でも組み合わせて用いてもよく、使用する酸の種類やその組合せにより、酢酸エチルなどの有機溶剤や水などで適宜希釈して用いることができる。
【0060】
前記酸は、通常、エスクレチン誘導体に対して、2〜20モル倍量、好ましくは5〜20モル倍量で用い、常圧で、室温〜30℃の範囲で、2〜24時間反応させることが望ましい。
このようにして、エスクレチン誘導体から得られたエスクレチンは、必要に応じて、公知の精製方法、たとえば、ろ過、抽出、クロマトグラフィー、再結晶などの方法で精製することができる。
【0061】
該エスクレチンの構造は、NMR、赤外線吸収スペクトル、紫外線吸収スペクトル、元素分析、質量スペクトルなどにより確認することができる。
また、本発明に係る精製方法を経て得られたエスクレチンの純度は、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略す。)のピーク面積を解析することによって確認することができる。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば、新規なエスクレチン誘導体およびその製造方法を提供することができ、さらに該エスクレチン誘導体を介して、エスクレチンを精製することができる。このような本発明に係るエスクレチンの精製方法によれば、従来、高純度のエスクレチンを得ることのできなかった化学合成的手法によっても、高純度(純度90%以上)のエスクレチンを得ることができ、高純度のエスクレチンを安価で効率よく提供することができる。このような高純度のエスクレチンは、各種医薬品あるいは化粧料などの用途に好ましく用いることができる。
【0063】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
【合成例1】
<エスクレチンの合成>
温度計および撹拌機付きのフラスコに、無水酢酸280ml(2.95mol)を入れ、冷却・撹拌しながら濃硫酸32mlを滴下した後、内温を40℃に保ちつつ、1,4−ベンゾキノン100g(0.925mol)を加え撹拌した。
【0065】
30分後、粘性を帯びてきたところで、氷水で冷却して反応を停止させた。その後、水、水/メタノールで順次洗浄して、乾燥し、トリアセトキシベンゼン219.5g(0.870mol、収率94.1%)を得た。
次に、温度計および撹拌機付きのフラスコに、得られたトリアセトキシベンゼン56.4g(223.6mmol)、DL−リンゴ酸60.0g(447.2mmol)を入れ、これに濃硫酸26mlを滴下し、撹拌して100℃で3時間反応させた。これを放冷後、氷水で冷却して反応を停止させ、水酸化ナトリウムを添加して中和し、酢酸エチルで抽出・洗浄した。抽出液を乾燥・濃縮した後、クロロホルム140mlに再分散させ、乾燥し、粗エスクレチン11.5g(収率28.9%)を得た。得られた粗エスクレチンの純度は、HPLC(東ソー社製;St−8010/CCPD/MX−8010/UV−8010/PP−8010、以下同じ。)によれば60%であった。
【0066】
【実施例1】
<エスクレチン誘導体の合成>
合成例1で得られた粗エスクレチン11.4gをフラスコに入れ、THF100mlを加えて溶解し、DMAP 0.486g(3.2mmol、0.05当量)を添加した。次に、該フラスコ内にDIBOC 33.4g(153.6mmol、2.4当量)をゆっくり加え、室温で2時間撹拌した。その後、この反応液を濃縮し、10重量%クエン酸溶液30mlを加え、酢酸エチルで抽出・洗浄した後、メタノールに溶解して再結晶を行い、エスクレチン誘導体12.6g(33.3mmol、収率52%)を得た。
【0067】
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMR(JEOL社製;JNM−GSX270、以下同じ。)から6,7−ジ−tert−ブトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
1H−NMR(DMSO、270MHz)δppm;1.49(s,18H,(CH3)3C−O−CO−)、6.53(d,1H,−CH=CH−CO)、7.55(s,1H,Ar−H)、7.78(s,1H,Ar−H)、8.03(d,1H,−CH=CH−CO)
<エスクレチンの精製>
上記のようにして得られた6,7−ジ−tert−ブトキシカルボニルエスクレチン5.0g(13.2mmol)をフラスコに入れ、4N HCl/酢酸エチル(国産化学(株)社製)20mlを加え、室温で一晩撹拌した。
【0068】
次に、水酸化ナトリウムを添加して中和し、酢酸エチルで抽出・洗浄し、クロロホルム50mlに再分散し、真空乾燥して、エスクレチン2.19g(12.3mmol、収率93.1%)を得た。得られたエスクレチンの純度は、HPLCによれば99.725%であった。
【0069】
【実施例2】
<エスクレチン誘導体の合成>
200ml四つ口フラスコに、上記合成例1と同様にして合成した粗エスクレチン5.0g(28.1mmol)、DABCO 7.56g(67.4mmol、2.4当量)を入れ、クロロホルム50mlを加え懸濁させた。氷浴で冷却し撹拌しながら、該フラスコ内に、クロロホルム20mlに溶解させたメチルクロロカルボネート6.37g(67.4mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。
【0070】
次に、該反応液に5重量%クエン酸溶液100mlを加え、クロロホルムで抽出・洗浄し、乾燥・濃縮したところ、黒色液体10.6gが得られた。この液体にメタノール50mlを加えて溶解し、−5℃に冷却して結晶化した。その後、ろ過して結晶を回収し、該結晶を酢酸エチルに溶解し、活性炭を加えて撹拌した。これをセライトろ過し、不純物を除去後、ろ液を濃縮し、エスクレチン誘導体3.21g(10.6mmol、収率37.7%)を得た。
【0071】
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから6,7−ジ−メトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;3.95(s,6H)、6.63(d,1H)、7.73(s,1H)、7.97(s,1H)、8.14(d,1H)
<エスクレチンの精製>
20mlナスフラスコに、上記のようにして得られた6,7−ジ−メトキシカルボニルエスクレチン0.206g(0.700mmol)を入れ、メタノール5mlを加えて溶解した。このフラスコ内に、4mol/l酢酸ナトリウム溶液1mlを加えて、室温で2時間撹拌した。その後、飽和食塩水30mlを加え、酢酸エチルで抽出・洗浄し、乾燥・濃縮した後、クロロホルム20mlを加えて再分散した。結晶をろ過して回収し、真空乾燥してエスクレチン0.087g(0.488mmol、収率69.8%)を得た。得られたエスクレチンの純度は、HPLCによれば90.904%であった。
【0072】
【実施例3】
<エスクレチン誘導体の合成>
20mlナスフラスコに、上記合成例1と同様にして合成した粗エスクレチン0.051g(0.286mmol)、DABCO 0.077g(0.686mmol、2.4当量)を入れ、クロロホルム5mlを加えて懸濁させた。氷浴で冷却し撹拌しながら該フラスコ内に、クロロホルム5mlに溶解させたメチルクロロカルボネート0.207g(2.19mmol、7.66当量)を滴下し、室温で3日間撹拌した。
【0073】
次に、該反応液に10重量%クエン酸溶液30mlを加え、クロロホルムで抽出(20ml×3回)し、飽和食塩水30mlで洗浄した。その後、乾燥、濃縮し、真空乾燥して白色粉体状のエスクレチン誘導体0.08g(0.272mmol、収率95.1%)を得た。
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから6,7−ジ−メトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
【0074】
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;4.0(s,6H)、6.6(d,1H)、7.7(s,1H)、7.9(s,1H)、8.1(d,1H)
【0075】
【実施例4】
<エスクレチン誘導体の合成>
50mlナスフラスコに、上記合成例1と同様にして合成した粗エスクレチン0.1g(0.561mmol)、DABCO 0.151g(1.35mmol、2.4当量)を入れ、クロロホルム10mlを加えて懸濁させた。氷浴で冷却し撹拌しながら該フラスコ内に、クロロホルム10mlに溶解させたエチルクロロカルボネート0.147g(1.35mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。
【0076】
次に、該反応液に10重量%クエン酸溶液30mlを加え、クロロホルムで抽出(30ml×3回)し、飽和食塩水30mlで洗浄した。その後、乾燥、濃縮し、真空乾燥してエスクレチン誘導体0.14g(0.434mmol、収率77.4%)を得た。
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから6,7−ジ−エトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
【0077】
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;1.3(t,6H)、4.4(d,4H)、6.6(d,1H)、7.7(s,1H)、7.9(s,1H)、8.1(d,1H)
【0078】
【実施例5】
<エスクレチン誘導体の合成>
50mlナスフラスコに、上記合成例1と同様にして合成した粗エスクレチン0.1g(0.561mmol)、DABCO 0.151g(1.35mmol、2.4当量)を入れ、クロロホルム10mlを加えて懸濁させた。氷浴で冷却し撹拌しながら該フラスコ内に、クロロホルム10mlに溶解させたフェニルクロロカルボネート0.211g(1.35mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。
【0079】
次に、該反応液に10重量%クエン酸溶液30mlを加え、クロロホルムで抽出(30ml×3回)し、飽和食塩水30mlで洗浄した。その後、乾燥、濃縮し、真空乾燥してエスクレチン誘導体0.11g(0.263mmol、収率46.9%)を得た。
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから6,7−ジ−フェノキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
【0080】
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;6.6(d,1H)、7.1〜8.0(m,7H)、8.1(d,1H)
【0081】
【実施例6】
<スクシンイミド誘導体の合成>
200ml四つ口フラスコに、メチルクロロカルボネート2.0g(19.1mmol)N−ヒドロキシスクシンイミド2.42g(21.0mmol、1.1当量)をクロロホルム30mlに溶解させた。これを氷浴で冷却し撹拌しながら、該フラスコ内に、クロロホルム20mlに溶解させたTEA 2.12g(21.0mmol、1.1当量)を滴下し、室温で一晩撹拌した。
【0082】
次に、該反応液に10重量%クエン酸溶液30mlを加え、クロロホルムで抽出し、有機層を5重量%炭酸水素ナトリウム溶液50mlで、ついで飽和食塩水50mlで洗浄した。これを乾燥・濃縮し、3.41gの粗生成物を得た。この粗生成物を、酢酸エチル30mlおよびヘキサン20mlを用いて結晶化し、白色粉体2.82g(16.3mmol,収率85.3%)を得た。
【0083】
得られた白色粉体は、1H−NMRからN−メトキシカルボニルスクシンイミドであることが確認された。
1H−NMR(CDCl3、270MHz)、δppm;2.85(s,4H)、4.00(s,3H)
<エスクレチン誘導体の合成>
20mlナスフラスコに、上記実施例1で精製したエスクレチン0.0430g(0.241mmol、純度99.725%)、DABCO 0.0649g(0.578mmol、2.4当量)を入れ、THF2mlを加えて懸濁させた。該フラスコ内にTHF3mlに溶解させた前記N−メトキシカルボニルスクシンイミド0.086g(0.497mmol)を滴下した。これを湯浴で40℃に加温し、2.5時間撹拌した。
【0084】
次に、該反応液を濃縮し、10重量%クエン酸溶液30mlを加え、酢酸エチルで抽出(10ml×3回)し、飽和食塩水10mlで洗浄した。その後、乾燥、ろ過、濃縮し、粗生成物0.11gを得た。該粗生成物をカラムで分離精製し、エスクレチン誘導体0.05g(0.212mmol、収率87.8%)を得た。
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから7−メトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
【0085】
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;3.91(s,3H、−CH3)、6.37(d,1H,−CH=CH−CO)、6.95(s,1H,Ar−H)、7.61(s,1H,Ar−H)、7.99(d,1H,−CH=CH−CO)、11.3(br,1H,−OH)
【0086】
【実施例7】
<エスクレチン誘導体の合成>
20mlフラスコに、上記実施例1で精製したエスクレチン0.0356g(0.20mmol、純度99.725%)を水5ml/ジオキサン5mlに溶解して入れ、TEA 0.0446g(0.44mmol、2.2当量)を添加した。該フラスコ内にDIBOC 0.0960g(0.44mmol、2.2当量)をゆっくり加え、室温で一晩撹拌した。
【0087】
次に該反応液を濃縮し、カラムで精製し、エスクレチン誘導体0.04g(0.144mmol、収率71.9%)を得た。
得られたエスクレチン誘導体は、1H−NMRから7−tert−ブトキシカルボニルエスクレチンであることが確認された。
1H−NMR(DMSO、270MHz)、δppm;1.47(s,9H、(CH3)3C−O−CO−)、6.25(d,1H,−CH=CH−CO)、6.85(s,1H,Ar−H)、7.49(s,1H,Ar−H)、7.89(d,1H,−CH=CH−CO)、11.1(br,1H,−OH)
Claims (7)
- 前記式(II)で示される化合物が、ジ−tert−ブチルジカルボネートであることを特徴とする請求項2に記載のエスクレチン誘導体の製造方法。
- 前記式(II)で示される化合物が、ジ−tert−ブチルジカルボネートであることを特徴とする請求項5に記載のエスクレチンの精製方法。
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