JP2004229869A - ゴルフクラブヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維8として、平均繊維径が150nm、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバーを3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維としてPAN系炭素繊維を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。前記プリプレグシートをクラウン部成形用に適宜裁断し、これを金型で加熱硬化させて繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維8として、平均繊維径が150nm、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバーを3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維としてPAN系炭素繊維を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。前記プリプレグシートをクラウン部成形用に適宜裁断し、これを金型で加熱硬化させて繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関し、特に、その少なくとも一部が繊維強化樹脂製の外殻にて構成されるゴルフクラブヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ウッド系のゴルフクラブヘッドにおいては、チタン或いは、チタン合金等の比較的軽い金属材料で中空のヘッド本体を形成した、所謂チタンヘッドと称されるものが脚光を浴びている。このような軽い金属材料でヘッド本体を形成すると、ヘッド体積を大きくでき、スイートエリアの拡大を図ることができる。
【0003】
しかし、このような軽い金属材料(チタン或いは、チタン合金)を用いたとしても、スイング特性を加味するとヘッド体積の大きさは270cc程度までが限界である。それよりもヘッド体積が大きくなると、ヘッド自体の質量及び、スイングバランスが重くなりすぎ、一般のゴルファーでは扱い難いものとなってしまう。
【0004】
そのため近年では、ヘッド体積が大きく、軽量なゴルフクラブヘッドを得るために、ゴルフクラブヘッドの外殻を構成する材料として、金属材料よりも、比強度、比剛性の高い繊維強化樹脂材料が多く用いられるようになった。
【0005】
このような繊維強化樹脂材料を用いたゴルフクラブヘッドとしては、ゴルフクラブヘッドを構成する外殻(フェイス殻部、ソール殻部、クラウン殻部、サイドバック殻部及び、ホーゼル部)全体を繊維強化樹脂材料で一体成形してなるものや、前記外殻の一部だけを繊維強化樹脂材料で構成し、他の外殻を金属材料で構成するようにした複合構造を成すものなどが公知である。
【0006】
尚、後者のゴルフクラブヘッドは、例えば、本特許出願人が先に提案した特願2002−348494に開示されるように、ソール部と、フェイス部およびサイド部を金属材料で構成し、クラウンパーツを繊維強化樹脂材料で構成するようにしたゴルフクラブヘッドがある。
【0007】
前記繊維強化樹脂材料から成る外殻は、炭素繊維やガラス繊維を主体とする補強繊維を適宜積層し、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂で硬化成形されている。
【0008】
かかる繊維強化樹脂材料を用いたゴルフクラブヘッドによれば、ヘッド自体の質量を大幅に軽減できるので、ヘッド体積を大きく設計でき、スイートエリアを拡大できる。又、特に、前記のようにクラウンパーツを繊維強化樹脂材料で構成すると、ヘッドの低重心化が図れると共に、インパクト時にクラウンパーツが撓んでロフト角が増加することでギヤ効果が生じる。このギヤ効果によりボールのバックスピン量が減少し、飛距離を伸ばすことができるという利点も兼ね備える。
【0009】
ところで、このような繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドは、所定の応力或いは、歪みが発生すると補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が剪断破壊し、特に、圧縮方向の歪みが発生する箇所で破損が起き易いという問題がある。
そのため、従来では、ゴルフクラブとして必要な設計強度、特に、圧縮強度を得るために、圧縮方向の歪みが発生し易い部位を構成する補強繊維の使用量を増加させ、外殻の肉厚を厚く設計する手段が一般に講じられている。
【0010】
しかし、このような従来の繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドでは、必要な圧縮強度を発現させることに伴って、必然的に引張り強度や曲げ強度をも向上させてしまい、この結果、外殻の剛性が一段と高まり、ゴルフクラブヘッドの剛さが非常に剛くなる傾向にある。このような剛いゴルフクラブヘッドは反発性に劣る。又、インパクト時にクラウンパーツが撓み難くなるため、ロフト角が増加せず、飛距離を伸ばすことができないという問題があった。
【0011】
更に、必要な圧縮強度を得るために、使用する補強繊維の量を増加し、外殻の肉厚を厚く構成している分、ゴルフクラブヘッド自体の質量が増加してしまうという欠点もある。
【0012】
従来、このような問題を解決するための手段として、繊維強化樹脂製の外殻を形成している補強繊維とマトリックス樹脂において、該マトリックス樹脂に任意のウイスカを強化素材として添加せしめる方法が一般に知られる。又、前記ウイスカとしては、窒化ケイ素ウイスカや、炭化ケイ素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ等が使用されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
かかる構成のゴルフクラブヘッドによれば、繊維強化樹脂製の外殻において、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が前記ウイスカにより補強されるようになるため、補強繊維の層間剪断強度を大幅に向上させることができる。この結果、ゴルフクラブヘッドの外殻の剛性(剛さ)をあまり変えることなく、実用上十分な圧縮強度を発現させることができた。
【0014】
しかし、このように従来より使用されているウイスカは、熱伝導率が低く放熱性に劣るという特性を有する。例えば、その代表例として、窒化ケイ素ウイスカの熱伝導率は、5〜30℃(実際にゴルフクラブヘッドが使用供される温度)の状態下で20〜30W/(m・K)、炭化ケイ素ウイスカは、1.2〜1.4W/(m・K)、チタン酸カリウムウイスカは、5〜6W/(m・K)程度と低く、これらのウイスカをマトリックス樹脂中に添加してゴルフクラブヘッドの外殻を形成すると、ゴルフクラブヘッド自体の熱伝導率が低下し、ボールインパクト時に生起する振動が熱エネルギーとして消費され難くなる。この結果、ゴルフクラブヘッドの振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が得られ難くなるという問題があった。
【0015】
又、通常、前記ウイスカは剛直な結晶体であり、これをマトリックス樹脂中に添加して用いると、硬化成形される樹脂の靭性が乏しくなり衝撃強度が劣ってしまうと共に、樹脂の弾力性が乏しくなる為、ゴルフクラブヘッドの反発性能が大幅に低下してしまうことが予測される。
【0016】
そこで本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ゴルフクラブヘッドとして実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような構成とした。
即ち、本発明の請求項1に係るゴルフクラブヘッドは、ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻の少なくとも一部が補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻で構成されるゴルフクラブヘッドにおいて、前記マトリックス樹脂に、熱伝導率が5〜30℃の温度状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内にある微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0018】
又、請求項2は、前記請求項1に係るゴルフクラブヘッドであって、前記微細炭素繊維は、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定されるものであることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3は、前記請求項1又は、2に係るゴルフクラブヘッドであって、前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、50〜1000cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4は、前記請求項1、2又は、3に係るゴルフクラブヘッドであって、ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻を、金属材料製外殻と、繊維強化樹脂製外殻とで形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記繊維強化樹脂製外殻を形成するマトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、内部が中空に形成された本実施例のゴルフクラブヘッドを示す斜視図である。ゴルフクラブヘッド1は、ボールの打撃面を構成するフェイス部2と、クラウン部3、ソール部4、サイドバック部5及び、ホーゼル部6とから成り、前記ホーゼル部6にシャフトの下端部が挿入固定されてゴルフクラブが構成される。
【0022】
かかるゴルフクラブヘッド1は、その少なくとも一部が補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻7により構成されている。前記ゴルフクラブヘッド1の全体を繊維強化樹脂により構成することもできるが、その一部だけを繊維強化樹脂により構成することもできる。その際、ゴルフクラブヘッド1のうちの少なくともクラウン部3が、繊維強化樹脂製の外殻7で構成することが好ましい。クラウン部3を繊維強化樹脂製の外殻7で構成すると、低重心化が図れると共に、ボールインパクト時にソール部4よりもクラウン部3を大きく撓ませることができるため、飛距離を伸ばすことが可能となる。
このように、ゴルフクラブヘッド1の一部だけを繊維強化樹脂製の外殻7で構成した場合、他のゴルフクラブヘッド部分は、チタン、チタン合金、マグネシウム合金等の比較的軽量な金属材料により構成される。
【0023】
そして、本実施例のゴルフクラブヘッド1では、前記繊維強化樹脂製の外殻7を構成するマトリックス樹脂に、以下に説明する微細炭素繊維8を強化素材として混入している。
【0024】
前記微細炭素繊維8は、例えば、気相成長法、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ合成法等の方法によって生成され、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、ナノメートルオーダーの繊維径を有する非常に微細な炭素繊維素材から成る。かかる微細炭素繊維8としては、カーボンナノチューブ或いは、カーボンナノファイバー等が使用される。又、この他、結晶構造が異なるフラーレンも使用可能である。
【0025】
この種の微細炭素繊維8は、軽量で比強度に優れる微細な繊維であり、これをマトリックス樹脂中に混入させた場合、前記微細炭素繊維8が前記マトリックス樹脂を補強するフィラーとしての役目を果たす。特に、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0026】
又、前記微細炭素繊維8は、熱伝導率が他の公知素材と比較して極めて高く、ゴルフクラブヘッド1自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時にゴルフクラブヘッド1に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることが可能となる。
【0027】
更に、前記微細炭素繊維8は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、ゴルフクラブヘッド1自体の反発性能を大幅に向上させることができる。これは、前記微細炭素繊維8が、その中心部に微細な中空部を備えた結晶構造を有するためと推測される。
【0028】
前記微細炭素繊維8は、その繊維径が小さいもの程、優れた補強効果を発現し、且つ熱伝導率が高くなる傾向にある。又、前記中空部の孔径が大きい程、優れた反発性能を発揮し、且つ衝撃強度を高めることができる。本実施例では、ゴルフクラブヘッド1に適したものとして、その平均繊維径は、10〜300nmの範囲内、とりわけ20〜200nmの範囲内に設定し、平均繊維長が2〜30μm、とりわけ5〜20μmの範囲内にあるものが使用される。又、熱伝導率は、5〜30℃(実際にゴルフクラブヘッドが使用に供される温度)の状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内、とりわけ1500〜2000W/(m・K)の範囲内にあるものが使用される。更に、前記中空部の孔径は、前記平均繊維径の10〜60%の範囲内、とりわけ30〜50%の範囲内にあるものが好適に使用される。
【0029】
上記において、前記微細炭素繊維8の平均繊維径の上限値を300nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂の層の補強効果を十分に発現できず、ゴルフクラブヘッドとして満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、熱伝導率が低くなり良好な振動減衰性を発現できなくなるからである。又、下限値を10nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも小さくなると、取扱い性が難しくなり、マトリックス樹脂中に斑なく均等に含有させることができず、ゴルフクラブヘッド1の品質にバラツキが生じる恐れがあるからである。
【0030】
又、前記平均繊維長の上限値を30μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂中に均等に含有させることが難しくなるからであり、又、下限値を2μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも小さくなると、取扱いが難しくなるからである。
【0031】
前記熱伝導率の上限値を3000W/(m・K)に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維において、前記平均繊維径の設定範囲の中で得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を1000W/(m・K)に設定したのは、熱伝導率がこれより小さくなると、ゴルフクラブヘッド1の振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が発現できなくなるからである。
【0032】
又、前記中空部の孔径の上限値を、上記のように前記平均繊維径の60%に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維8の中で良好な品質を確保して生成し得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を10%に設定したのは、これよりも小さいと良好な反発性能及び、衝撃強度を発現し難くなるからである。
【0033】
更に、前記微細炭素繊維8は、常温での粘度が50〜1000cpsの範囲内に設定されたマトリックス樹脂中に1質量%以上、10質量%以下、とりわけ3質量%以上、7質量%の割合で混入されることが好ましい。
前記微細炭素繊維8の使用量が1質量%よりも少ないと、マトリックス樹脂の層の補強効果が十分に発現できず、ゴルフクラブヘッド1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、振動減衰性及び、反発特性を十分に高めることができない。又、10質量%よりも多いと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じると共に、前記10質量%を境として、これよりも多く微細炭素繊維8を使用してもゴルフクラブヘッド1の圧縮強度、振動減衰性、反発特性等において良好な評価は得られなかった。
【0034】
又、前記微細炭素繊維8をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製外殻7の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行なえるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて前記外殻7を成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の外殻7にボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたゴルフクラブヘッド1を得ることができる。種々実験を行なった結果、前記マトリックス樹脂の粘度が1000cpsより高いと、補強繊維へマトリックス樹脂が含浸し難くなり、十分な設計強度が得られ難くなるという問題があり、又、50cpsより低いと、フロー制御を十分に行なうことが難しくなり、マトリックス樹脂が金型の外に多く流出し、成形後の後工程で手直しが必要となる。前記マトリックス樹脂の粘度は、とりわけ100〜300cpsが好ましい。
【0035】
又更に、前記微細炭素繊維8は、その生成温度により繊維の表面状態が種々異なる。本実施例では、前記マトリックス樹脂とのぬれ性を考慮して、その比表面積が11〜15m2/gの範囲内にあるものが好適に使用される。
前記比表面積が15m2/gよりも大きいと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じ、又、前記比表面積が11m2/gよりも小さいと、マトリックス樹脂とのぬれ性が悪くなり、補強効果が乏しくなる問題が生じる。
【0036】
本実施例の前記外殻7を構成する主たる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等種々のものが使用できるが、強度や剛性、質量、コストの面からも炭素繊維が好適である。補強繊維の形態としては、一方向引き揃えの他、ロービング、マット、織物、編物、ブレード等種々の形態としたものが使用できる。又、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できるが、強度、耐久性の点でエポキシ樹脂が好適である。
【0037】
尚、上記のように本実施例では、ゴルフクラブヘッド1のクラウン部3を繊維強化樹脂製の外殻7で構成する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、図2乃至図3に示すように、フェイス部2を除く殆どの部位を繊維強化樹脂製の外殻7で構成することも可能である。この例では、外殻が金属材料から成る第一外殻部材9と繊維強化樹脂製の第二外殻部材10とからなるもので、前記第一外殻部材9が、ホーゼル部6とフェイス部2と第一ソール部11から構成され、繊維強化樹脂製の第二外殻部材10が、クラウン部3とサイドバック部5と第二ソール部12から構成されている。
このような構成によれば、クラウン部3、サイドバック部5、ソール部4が、単位質量あたりの強度や剛性が金属材料よりも飛躍的に高い繊維強化樹脂材料で構成されるため、軽量化が図られ、ヘッド体積をより一層大きく形成することができる。
【0038】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドを用意した。
(実施例1)
マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維8として、平均繊維径が150nm、平均繊維長が15μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が100であり、その比表面積が13m2/g、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製:VGCF−焼成タイプ)を3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維として繊維径7μmのPAN系炭素繊維(東レ株式会社製:トレカT300)を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。
前記プリプレグシートをクラウン部成形用に適宜裁断し、これを金型で加熱硬化させて肉厚が0.9mmの繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成した。
【0039】
上記のように硬化成形されたクラウン部外殻13は、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0040】
その後、前記クラウン部外殻13を、チタン合金製のヘッド本体部14に接着剤を用いて接着固定することにより図1に示すような本実施例1のゴルフクラブヘッドを得た。
(実施例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維8に替え、平均繊維径が30nm、平均繊維長が30μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が1000であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で1700W/(m・K)の特性を示すカーボンナノチューブ(CNRI社製)をマトリックス樹脂に5質量%の割合で混入せしめたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成し、ゴルフクラブヘッドを得た。
【0041】
上記のように硬化成形されたクラウン部外殻13は、実施例1と同様、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0042】
(比較例1)
前記微細炭素繊維8を省いたプリプレグシートを準備し、このプリプレグシートを使用して実施例1、2と同様な方法でゴルフクラブヘッドを形成した。
【0043】
比較例1において、クラウン部外殻13の成形時、マトリックス樹脂が金型の外へ多く流出し、硬化成形されたクラウン部外殻13には、ボイドやピンホールが多く発生し、後工程でパテ込み等の多くの手直しを要した。
【0044】
(比較例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維8に替え、平均繊維径が1.0μm、平均繊維長が50μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が50であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で5.3W/(m・K)の特性を示すチタン酸カリウムウイスカ(大塚化学株式会社製:ティスモD)を混入させたプリプレグシートを用いて同様な方法でゴルフクラブヘッドを得た。
【0045】
これらの実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドの耐久強度を確認するために、ヘッドスピード45m/sで連続した打撃試験を行った。この結果、比較例1のゴルフクラブヘッドは、打撃回数4000回、比較例2のゴルフクラブヘッドは、打撃回数5000回でクラウン部外殻にクラックが発生した。これに対し、実施例1、2のゴルフクラブヘッドでは、打撃回数10000回を経てもクラウン部外殻13が破損するようなことはなかった。
【0046】
又、上記試験に加え、シャルピー衝撃試験を行なったところ、前記微細炭素繊維8を混入した実施例1、2のクラウン部外殻13は、前記微細炭素繊維8を混入しない比較例1に比し、約40%高い衝撃強度が得られた。
【0047】
次に、実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドの反発特性及び、振動減衰性を確認するために実打試験を行なった。この実打試験では、一般のアマチュアゴルファーを対象にして、実際に、実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドを装着したゴルフクラブでボールを打撃し、その際、ゴルファーが体感した打撃時のフィーリング(手に伝播される振動)や、反発性(飛び)等の評価を行った。この時の結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
このような試験結果より、本実施例1、2のゴルフクラブヘッドでは、比較例1、2のゴルフクラブヘッドに比し、十分な強度が得られると共に、ボール打撃時の振動減衰性が高く、しかも、反発特性に優れたゴルフクラブヘッドであることが確認できた。
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドにおいて、前記マトリックス樹脂に、熱伝導率が5〜30℃の温度状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内にある微細炭素繊維が混入されていることにより、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上できる。
【0051】
そして、前記微細炭素繊維は、熱伝導率が極めて高く、ゴルフクラブヘッド自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボールインパクト時に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることができる。
【0052】
更に、前記微細炭素繊維は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、ゴルフクラブヘッド自体の反発性能を大幅に向上できる。
【0053】
又、前記微細炭素繊維をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の繊維強化樹脂製外殻にボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたゴルフクラブヘッドを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例のゴルフクラブヘッドの斜視図。
【図2】その他の実施例のゴルフクラブヘッドを表す説明図。
【図3】その他の実施例のゴルフクラブヘッドを表す説明図。
【符号の説明】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェイス部
3 クラウン部
4 ソール部
5 サイドバック部
6 ホーゼル部
7 外殻
8 微細炭素繊維
9 第一外殻部材
10 第二外殻部材
11 第一ソール部材
12 第二ソール部材
13 クラウン部外殻
14 ヘッド本体部
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関し、特に、その少なくとも一部が繊維強化樹脂製の外殻にて構成されるゴルフクラブヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ウッド系のゴルフクラブヘッドにおいては、チタン或いは、チタン合金等の比較的軽い金属材料で中空のヘッド本体を形成した、所謂チタンヘッドと称されるものが脚光を浴びている。このような軽い金属材料でヘッド本体を形成すると、ヘッド体積を大きくでき、スイートエリアの拡大を図ることができる。
【0003】
しかし、このような軽い金属材料(チタン或いは、チタン合金)を用いたとしても、スイング特性を加味するとヘッド体積の大きさは270cc程度までが限界である。それよりもヘッド体積が大きくなると、ヘッド自体の質量及び、スイングバランスが重くなりすぎ、一般のゴルファーでは扱い難いものとなってしまう。
【0004】
そのため近年では、ヘッド体積が大きく、軽量なゴルフクラブヘッドを得るために、ゴルフクラブヘッドの外殻を構成する材料として、金属材料よりも、比強度、比剛性の高い繊維強化樹脂材料が多く用いられるようになった。
【0005】
このような繊維強化樹脂材料を用いたゴルフクラブヘッドとしては、ゴルフクラブヘッドを構成する外殻(フェイス殻部、ソール殻部、クラウン殻部、サイドバック殻部及び、ホーゼル部)全体を繊維強化樹脂材料で一体成形してなるものや、前記外殻の一部だけを繊維強化樹脂材料で構成し、他の外殻を金属材料で構成するようにした複合構造を成すものなどが公知である。
【0006】
尚、後者のゴルフクラブヘッドは、例えば、本特許出願人が先に提案した特願2002−348494に開示されるように、ソール部と、フェイス部およびサイド部を金属材料で構成し、クラウンパーツを繊維強化樹脂材料で構成するようにしたゴルフクラブヘッドがある。
【0007】
前記繊維強化樹脂材料から成る外殻は、炭素繊維やガラス繊維を主体とする補強繊維を適宜積層し、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂で硬化成形されている。
【0008】
かかる繊維強化樹脂材料を用いたゴルフクラブヘッドによれば、ヘッド自体の質量を大幅に軽減できるので、ヘッド体積を大きく設計でき、スイートエリアを拡大できる。又、特に、前記のようにクラウンパーツを繊維強化樹脂材料で構成すると、ヘッドの低重心化が図れると共に、インパクト時にクラウンパーツが撓んでロフト角が増加することでギヤ効果が生じる。このギヤ効果によりボールのバックスピン量が減少し、飛距離を伸ばすことができるという利点も兼ね備える。
【0009】
ところで、このような繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドは、所定の応力或いは、歪みが発生すると補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が剪断破壊し、特に、圧縮方向の歪みが発生する箇所で破損が起き易いという問題がある。
そのため、従来では、ゴルフクラブとして必要な設計強度、特に、圧縮強度を得るために、圧縮方向の歪みが発生し易い部位を構成する補強繊維の使用量を増加させ、外殻の肉厚を厚く設計する手段が一般に講じられている。
【0010】
しかし、このような従来の繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドでは、必要な圧縮強度を発現させることに伴って、必然的に引張り強度や曲げ強度をも向上させてしまい、この結果、外殻の剛性が一段と高まり、ゴルフクラブヘッドの剛さが非常に剛くなる傾向にある。このような剛いゴルフクラブヘッドは反発性に劣る。又、インパクト時にクラウンパーツが撓み難くなるため、ロフト角が増加せず、飛距離を伸ばすことができないという問題があった。
【0011】
更に、必要な圧縮強度を得るために、使用する補強繊維の量を増加し、外殻の肉厚を厚く構成している分、ゴルフクラブヘッド自体の質量が増加してしまうという欠点もある。
【0012】
従来、このような問題を解決するための手段として、繊維強化樹脂製の外殻を形成している補強繊維とマトリックス樹脂において、該マトリックス樹脂に任意のウイスカを強化素材として添加せしめる方法が一般に知られる。又、前記ウイスカとしては、窒化ケイ素ウイスカや、炭化ケイ素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ等が使用されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
かかる構成のゴルフクラブヘッドによれば、繊維強化樹脂製の外殻において、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が前記ウイスカにより補強されるようになるため、補強繊維の層間剪断強度を大幅に向上させることができる。この結果、ゴルフクラブヘッドの外殻の剛性(剛さ)をあまり変えることなく、実用上十分な圧縮強度を発現させることができた。
【0014】
しかし、このように従来より使用されているウイスカは、熱伝導率が低く放熱性に劣るという特性を有する。例えば、その代表例として、窒化ケイ素ウイスカの熱伝導率は、5〜30℃(実際にゴルフクラブヘッドが使用供される温度)の状態下で20〜30W/(m・K)、炭化ケイ素ウイスカは、1.2〜1.4W/(m・K)、チタン酸カリウムウイスカは、5〜6W/(m・K)程度と低く、これらのウイスカをマトリックス樹脂中に添加してゴルフクラブヘッドの外殻を形成すると、ゴルフクラブヘッド自体の熱伝導率が低下し、ボールインパクト時に生起する振動が熱エネルギーとして消費され難くなる。この結果、ゴルフクラブヘッドの振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が得られ難くなるという問題があった。
【0015】
又、通常、前記ウイスカは剛直な結晶体であり、これをマトリックス樹脂中に添加して用いると、硬化成形される樹脂の靭性が乏しくなり衝撃強度が劣ってしまうと共に、樹脂の弾力性が乏しくなる為、ゴルフクラブヘッドの反発性能が大幅に低下してしまうことが予測される。
【0016】
そこで本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ゴルフクラブヘッドとして実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような構成とした。
即ち、本発明の請求項1に係るゴルフクラブヘッドは、ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻の少なくとも一部が補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻で構成されるゴルフクラブヘッドにおいて、前記マトリックス樹脂に、熱伝導率が5〜30℃の温度状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内にある微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0018】
又、請求項2は、前記請求項1に係るゴルフクラブヘッドであって、前記微細炭素繊維は、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定されるものであることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3は、前記請求項1又は、2に係るゴルフクラブヘッドであって、前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、50〜1000cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4は、前記請求項1、2又は、3に係るゴルフクラブヘッドであって、ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻を、金属材料製外殻と、繊維強化樹脂製外殻とで形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記繊維強化樹脂製外殻を形成するマトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、内部が中空に形成された本実施例のゴルフクラブヘッドを示す斜視図である。ゴルフクラブヘッド1は、ボールの打撃面を構成するフェイス部2と、クラウン部3、ソール部4、サイドバック部5及び、ホーゼル部6とから成り、前記ホーゼル部6にシャフトの下端部が挿入固定されてゴルフクラブが構成される。
【0022】
かかるゴルフクラブヘッド1は、その少なくとも一部が補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻7により構成されている。前記ゴルフクラブヘッド1の全体を繊維強化樹脂により構成することもできるが、その一部だけを繊維強化樹脂により構成することもできる。その際、ゴルフクラブヘッド1のうちの少なくともクラウン部3が、繊維強化樹脂製の外殻7で構成することが好ましい。クラウン部3を繊維強化樹脂製の外殻7で構成すると、低重心化が図れると共に、ボールインパクト時にソール部4よりもクラウン部3を大きく撓ませることができるため、飛距離を伸ばすことが可能となる。
このように、ゴルフクラブヘッド1の一部だけを繊維強化樹脂製の外殻7で構成した場合、他のゴルフクラブヘッド部分は、チタン、チタン合金、マグネシウム合金等の比較的軽量な金属材料により構成される。
【0023】
そして、本実施例のゴルフクラブヘッド1では、前記繊維強化樹脂製の外殻7を構成するマトリックス樹脂に、以下に説明する微細炭素繊維8を強化素材として混入している。
【0024】
前記微細炭素繊維8は、例えば、気相成長法、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ合成法等の方法によって生成され、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、ナノメートルオーダーの繊維径を有する非常に微細な炭素繊維素材から成る。かかる微細炭素繊維8としては、カーボンナノチューブ或いは、カーボンナノファイバー等が使用される。又、この他、結晶構造が異なるフラーレンも使用可能である。
【0025】
この種の微細炭素繊維8は、軽量で比強度に優れる微細な繊維であり、これをマトリックス樹脂中に混入させた場合、前記微細炭素繊維8が前記マトリックス樹脂を補強するフィラーとしての役目を果たす。特に、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0026】
又、前記微細炭素繊維8は、熱伝導率が他の公知素材と比較して極めて高く、ゴルフクラブヘッド1自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時にゴルフクラブヘッド1に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることが可能となる。
【0027】
更に、前記微細炭素繊維8は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、ゴルフクラブヘッド1自体の反発性能を大幅に向上させることができる。これは、前記微細炭素繊維8が、その中心部に微細な中空部を備えた結晶構造を有するためと推測される。
【0028】
前記微細炭素繊維8は、その繊維径が小さいもの程、優れた補強効果を発現し、且つ熱伝導率が高くなる傾向にある。又、前記中空部の孔径が大きい程、優れた反発性能を発揮し、且つ衝撃強度を高めることができる。本実施例では、ゴルフクラブヘッド1に適したものとして、その平均繊維径は、10〜300nmの範囲内、とりわけ20〜200nmの範囲内に設定し、平均繊維長が2〜30μm、とりわけ5〜20μmの範囲内にあるものが使用される。又、熱伝導率は、5〜30℃(実際にゴルフクラブヘッドが使用に供される温度)の状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内、とりわけ1500〜2000W/(m・K)の範囲内にあるものが使用される。更に、前記中空部の孔径は、前記平均繊維径の10〜60%の範囲内、とりわけ30〜50%の範囲内にあるものが好適に使用される。
【0029】
上記において、前記微細炭素繊維8の平均繊維径の上限値を300nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂の層の補強効果を十分に発現できず、ゴルフクラブヘッドとして満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、熱伝導率が低くなり良好な振動減衰性を発現できなくなるからである。又、下限値を10nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも小さくなると、取扱い性が難しくなり、マトリックス樹脂中に斑なく均等に含有させることができず、ゴルフクラブヘッド1の品質にバラツキが生じる恐れがあるからである。
【0030】
又、前記平均繊維長の上限値を30μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂中に均等に含有させることが難しくなるからであり、又、下限値を2μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも小さくなると、取扱いが難しくなるからである。
【0031】
前記熱伝導率の上限値を3000W/(m・K)に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維において、前記平均繊維径の設定範囲の中で得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を1000W/(m・K)に設定したのは、熱伝導率がこれより小さくなると、ゴルフクラブヘッド1の振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が発現できなくなるからである。
【0032】
又、前記中空部の孔径の上限値を、上記のように前記平均繊維径の60%に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維8の中で良好な品質を確保して生成し得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を10%に設定したのは、これよりも小さいと良好な反発性能及び、衝撃強度を発現し難くなるからである。
【0033】
更に、前記微細炭素繊維8は、常温での粘度が50〜1000cpsの範囲内に設定されたマトリックス樹脂中に1質量%以上、10質量%以下、とりわけ3質量%以上、7質量%の割合で混入されることが好ましい。
前記微細炭素繊維8の使用量が1質量%よりも少ないと、マトリックス樹脂の層の補強効果が十分に発現できず、ゴルフクラブヘッド1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、振動減衰性及び、反発特性を十分に高めることができない。又、10質量%よりも多いと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じると共に、前記10質量%を境として、これよりも多く微細炭素繊維8を使用してもゴルフクラブヘッド1の圧縮強度、振動減衰性、反発特性等において良好な評価は得られなかった。
【0034】
又、前記微細炭素繊維8をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製外殻7の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行なえるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて前記外殻7を成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の外殻7にボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたゴルフクラブヘッド1を得ることができる。種々実験を行なった結果、前記マトリックス樹脂の粘度が1000cpsより高いと、補強繊維へマトリックス樹脂が含浸し難くなり、十分な設計強度が得られ難くなるという問題があり、又、50cpsより低いと、フロー制御を十分に行なうことが難しくなり、マトリックス樹脂が金型の外に多く流出し、成形後の後工程で手直しが必要となる。前記マトリックス樹脂の粘度は、とりわけ100〜300cpsが好ましい。
【0035】
又更に、前記微細炭素繊維8は、その生成温度により繊維の表面状態が種々異なる。本実施例では、前記マトリックス樹脂とのぬれ性を考慮して、その比表面積が11〜15m2/gの範囲内にあるものが好適に使用される。
前記比表面積が15m2/gよりも大きいと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じ、又、前記比表面積が11m2/gよりも小さいと、マトリックス樹脂とのぬれ性が悪くなり、補強効果が乏しくなる問題が生じる。
【0036】
本実施例の前記外殻7を構成する主たる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等種々のものが使用できるが、強度や剛性、質量、コストの面からも炭素繊維が好適である。補強繊維の形態としては、一方向引き揃えの他、ロービング、マット、織物、編物、ブレード等種々の形態としたものが使用できる。又、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できるが、強度、耐久性の点でエポキシ樹脂が好適である。
【0037】
尚、上記のように本実施例では、ゴルフクラブヘッド1のクラウン部3を繊維強化樹脂製の外殻7で構成する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、図2乃至図3に示すように、フェイス部2を除く殆どの部位を繊維強化樹脂製の外殻7で構成することも可能である。この例では、外殻が金属材料から成る第一外殻部材9と繊維強化樹脂製の第二外殻部材10とからなるもので、前記第一外殻部材9が、ホーゼル部6とフェイス部2と第一ソール部11から構成され、繊維強化樹脂製の第二外殻部材10が、クラウン部3とサイドバック部5と第二ソール部12から構成されている。
このような構成によれば、クラウン部3、サイドバック部5、ソール部4が、単位質量あたりの強度や剛性が金属材料よりも飛躍的に高い繊維強化樹脂材料で構成されるため、軽量化が図られ、ヘッド体積をより一層大きく形成することができる。
【0038】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドを用意した。
(実施例1)
マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維8として、平均繊維径が150nm、平均繊維長が15μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が100であり、その比表面積が13m2/g、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製:VGCF−焼成タイプ)を3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維として繊維径7μmのPAN系炭素繊維(東レ株式会社製:トレカT300)を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。
前記プリプレグシートをクラウン部成形用に適宜裁断し、これを金型で加熱硬化させて肉厚が0.9mmの繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成した。
【0039】
上記のように硬化成形されたクラウン部外殻13は、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0040】
その後、前記クラウン部外殻13を、チタン合金製のヘッド本体部14に接着剤を用いて接着固定することにより図1に示すような本実施例1のゴルフクラブヘッドを得た。
(実施例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維8に替え、平均繊維径が30nm、平均繊維長が30μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が1000であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で1700W/(m・K)の特性を示すカーボンナノチューブ(CNRI社製)をマトリックス樹脂に5質量%の割合で混入せしめたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製のクラウン部外殻13を形成し、ゴルフクラブヘッドを得た。
【0041】
上記のように硬化成形されたクラウン部外殻13は、実施例1と同様、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0042】
(比較例1)
前記微細炭素繊維8を省いたプリプレグシートを準備し、このプリプレグシートを使用して実施例1、2と同様な方法でゴルフクラブヘッドを形成した。
【0043】
比較例1において、クラウン部外殻13の成形時、マトリックス樹脂が金型の外へ多く流出し、硬化成形されたクラウン部外殻13には、ボイドやピンホールが多く発生し、後工程でパテ込み等の多くの手直しを要した。
【0044】
(比較例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維8に替え、平均繊維径が1.0μm、平均繊維長が50μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が50であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で5.3W/(m・K)の特性を示すチタン酸カリウムウイスカ(大塚化学株式会社製:ティスモD)を混入させたプリプレグシートを用いて同様な方法でゴルフクラブヘッドを得た。
【0045】
これらの実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドの耐久強度を確認するために、ヘッドスピード45m/sで連続した打撃試験を行った。この結果、比較例1のゴルフクラブヘッドは、打撃回数4000回、比較例2のゴルフクラブヘッドは、打撃回数5000回でクラウン部外殻にクラックが発生した。これに対し、実施例1、2のゴルフクラブヘッドでは、打撃回数10000回を経てもクラウン部外殻13が破損するようなことはなかった。
【0046】
又、上記試験に加え、シャルピー衝撃試験を行なったところ、前記微細炭素繊維8を混入した実施例1、2のクラウン部外殻13は、前記微細炭素繊維8を混入しない比較例1に比し、約40%高い衝撃強度が得られた。
【0047】
次に、実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドの反発特性及び、振動減衰性を確認するために実打試験を行なった。この実打試験では、一般のアマチュアゴルファーを対象にして、実際に、実施例1、2と、比較例1、2のゴルフクラブヘッドを装着したゴルフクラブでボールを打撃し、その際、ゴルファーが体感した打撃時のフィーリング(手に伝播される振動)や、反発性(飛び)等の評価を行った。この時の結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
このような試験結果より、本実施例1、2のゴルフクラブヘッドでは、比較例1、2のゴルフクラブヘッドに比し、十分な強度が得られると共に、ボール打撃時の振動減衰性が高く、しかも、反発特性に優れたゴルフクラブヘッドであることが確認できた。
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻を有するゴルフクラブヘッドにおいて、前記マトリックス樹脂に、熱伝導率が5〜30℃の温度状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内にある微細炭素繊維が混入されていることにより、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上できる。
【0051】
そして、前記微細炭素繊維は、熱伝導率が極めて高く、ゴルフクラブヘッド自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボールインパクト時に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることができる。
【0052】
更に、前記微細炭素繊維は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、ゴルフクラブヘッド自体の反発性能を大幅に向上できる。
【0053】
又、前記微細炭素繊維をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の繊維強化樹脂製外殻にボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたゴルフクラブヘッドを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例のゴルフクラブヘッドの斜視図。
【図2】その他の実施例のゴルフクラブヘッドを表す説明図。
【図3】その他の実施例のゴルフクラブヘッドを表す説明図。
【符号の説明】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェイス部
3 クラウン部
4 ソール部
5 サイドバック部
6 ホーゼル部
7 外殻
8 微細炭素繊維
9 第一外殻部材
10 第二外殻部材
11 第一ソール部材
12 第二ソール部材
13 クラウン部外殻
14 ヘッド本体部
Claims (4)
- ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻の少なくとも一部が補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻で構成されるゴルフクラブヘッドにおいて、前記マトリックス樹脂に、熱伝導率が5〜30℃の温度状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内にある微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
- 前記微細炭素繊維は、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定されるものであることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
- 前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、50〜1000cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とする請求項1又は、2記載のゴルフクラブヘッド。
- ホーゼル部、フェイス部、クラウン部、サイドバック部及び、ソール部から成り、その内部が中空とされたヘッド外殻を、金属材料製外殻と、繊維強化樹脂製外殻とで形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記繊維強化樹脂製外殻を形成するマトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が混入されていることを特徴とする請求項1、2又は、3記載のゴルフクラブヘッド。
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