JP2004202004A - 繊維強化樹脂製バット - Google Patents
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Abstract
【課題】実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製バットを提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維9として、平均繊維径が150nm、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバーを3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維としてPAN系炭素繊維を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。前記プリプレグシートをバット成形用に適宜裁断して、内圧成形用のチューブの周囲に巻回積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置させた後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱硬化させて繊維強化樹脂製バットを形成する。
【選択図】 図2
【解決手段】マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維9として、平均繊維径が150nm、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバーを3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維としてPAN系炭素繊維を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。前記プリプレグシートをバット成形用に適宜裁断して、内圧成形用のチューブの周囲に巻回積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置させた後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱硬化させて繊維強化樹脂製バットを形成する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、野球やソフトボール等に使用されるバット(以下、単にバットと称する)に関するものであり、特に繊維強化樹脂から成形されるバットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、バットとしては、木製バット、金属製バット、繊維強化樹脂製(FRP製とも称される)バット等が公知である。現在、アマチュアの野球、ソフトボールにおいては、金属製バットが主流となっているが、最近の傾向としては、繊維強化樹脂製バットを世界的に認可する動きが出てきている。又、繊維強化樹脂製バットは、軽量で、強度、剛性、耐衝撃性に優れ、しかも、必要な形状を得やすいといった設計上の自由度が大きいことから今後益々その市場性が高まる傾向にある。
【0003】
通常、この種のバットは、図4に示すように、中空或いは、中実の芯材11と、その周囲に配置される繊維強化樹脂製の外殻12とから構成されている。又一般に、前記外殻12は、炭素繊維やガラス繊維を主体とする補強繊維を適宜積層し、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂で硬化成形されている。
【0004】
ところで、このような繊維強化樹脂製のバットは、所定の応力、あるいは歪が発生すると補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が剪断破壊し、特に、圧縮方向の歪みが発生する打球部で破損が起き易いという問題がある。
そのため、従来では、バットとして必要な設計強度、特に、圧縮強度を得るために、圧縮方向の歪みが発生し易い打球部を構成する補強繊維の使用量を増加させ、外殻の肉厚を厚く設計する手段が一般に講じられている。又、前記打球部では、必要な圧縮強度を発現させるために、前記補強繊維をバットの長手方向軸に対して±45〜90°に配向させたバイアス層或いは、フープ層を多用している。
【0005】
しかし、このような従来の繊維強化樹脂製バットでは、必要な圧縮強度を発現させることに伴って、必然的に引張り強度や曲げ強度をも向上させてしまい、この結果、バット自体の剛性が一段と高まり、バットの剛さが非常に剛くなる傾向にある。このような剛いバットは、力量のあるハードヒッターには適するものの、一般のプレーヤーには不向きで扱い難いものであった。又、打球部においては、バイアス層或いは、フープ層が多く積層されることから、ボール打撃時に補強繊維の層間で剪断破壊が生じ易い問題があった。
【0006】
更に、必要な圧縮強度を得るために、使用する補強繊維の量を増加し、外殻の肉厚を厚く構成している分、バット自体の質量が増加してしまうという欠点もある。特に、近年では、スイング性が重視され、バットの軽量化が望まれるが、バットの軽量化を図りつつ、実用上十分な圧縮強度を発現させることは難しい問題となっている。
【0007】
従来、このような問題を解決するための手段として、繊維強化樹脂製バットの外殻を形成している補強繊維とマトリックス樹脂において、該マトリックス樹脂に任意のウイスカを強化素材として添加せしめる方法が一般に公知となっている。又、前記ウイスカとしては、窒化ケイ素ウイスカや、炭化ケイ素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ等が使用されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
かかる構成のバットによれば、FRP外殻層において、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が前記ウイスカにより補強されるようになるため、補強繊維の層間剪断強度を大幅に向上させることができる。この結果、バット自体の剛性(剛さ)をあまり変えることなく、実用上十分な圧縮強度を発現させることができた。
【0009】
しかし、このように従来より使用されているウイスカは、熱伝導率が低く放熱性に劣るという特性を有する。例えば、その代表例として、窒化ケイ素ウイスカの熱伝導率は、5〜30℃(実際にバットが使用に供される温度)の状態下で20〜30W/(m・K)、炭化ケイ素ウイスカは、1.2〜1.4W/(m・K)、チタン酸カリウムウイスカは、5〜6W/(m・K)程度と低く、これらのウイスカをマトリックス樹脂中に添加してバットを形成すると、バット自体の熱伝導率が低下し、ボール打撃時に生起する振動が熱エネルギーとして消費され難くなる。この結果、バットの振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が得られ難くなるという問題があった。
【0010】
又、通常、前記ウイスカは剛直な結晶体であり、これをマトリックス樹脂中に添加して用いると、硬化成形される樹脂の靭性が乏しくなり衝撃強度が劣ってしまうと共に、樹脂の弾力性が乏しくなる為、バットの反発性能が大幅に低下してしまうことが予測される。
【0011】
そこで本発明は、このような従来の問題点に鑑み、バットとして実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製バットを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような構成とした。
即ち、本発明の請求項1に係るバットは、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製バットであって、前記マトリックス樹脂に、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定される微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0013】
又、請求項2は、前記請求項1に係る繊維強化樹脂製バットであって、前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、100〜400cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施例の繊維強化樹脂製バットの外観説明図、図2は、図1のa部領域における構成説明図を示す。
【0015】
即ち、本実施例の繊維強化樹脂製バット1は、図1に示すように、ボールを打撃する円筒形状の打球部2と、該打球部2とグリップ部3とを連結するテーパー部4とから成っている。そして、その構成としては、図2に示すように、芯材5の周囲に、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻6を備えた管状構造を有している。
そして、本実施例の繊維強化樹脂製バット1では、前記外殻6を構成するマトリックス樹脂に、以下に説明する微細炭素繊維7を強化素材として混入している。
【0016】
前記微細炭素繊維7は、例えば、気相成長法、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ合成法等の方法によって生成され、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、ナノメートルオーダーの繊維径を有する非常に微細な炭素繊維素材から成る。かかる微細炭素繊維7としては、カーボンナノチューブ或いは、カーボンナノファイバー等が使用される。
【0017】
この種の微細炭素繊維7は、軽量で比強度に優れる微細な繊維であり、これをマトリックス樹脂中に混入させた場合、前記微細炭素繊維7が前記マトリックス樹脂を補強するフィラーとしての役目を果たす。特に、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0018】
又、前記微細炭素繊維7は、熱伝導率が他の公知素材と比較して極めて高く、繊維強化樹脂製バット1自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時に繊維強化樹脂製バット1に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることが可能となる。
【0019】
更に、前記微細炭素繊維7は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、繊維強化樹脂製バット1自体の反発性能を大幅に向上させることができる。これは、前記微細炭素繊維7が、その中心部に微細な中空部を備えた結晶構造を有するためと推測される。
【0020】
前記微細炭素繊維7は、その繊維径が小さいもの程、優れた補強効果を発現し、且つ熱伝導率が高くなる傾向にある。又、前記中空部の孔径が大きい程、優れた反発性能を発揮し、且つ衝撃強度を高めることができる。本実施例では、繊維強化樹脂製バット1に適したものとして、その平均繊維径は、10〜300nmの範囲内、とりわけ20〜200nmの範囲内に設定し、平均繊維長が2〜30μm、とりわけ5〜20μmの範囲内にあるものが使用される。又、熱伝導率は、5〜30℃(実際にバットが使用に供される温度)の状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内、とりわけ1500〜2000W/(m・K)の範囲内にあるものが使用される。更に、前記中空部の孔径は、前記平均繊維径の10〜60%の範囲内、とりわけ30〜50%の範囲内にあるものが好適に使用される。
【0021】
上記において、前記微細炭素繊維7の平均繊維径の上限値を300nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂の層の補強効果を十分に発現できず、繊維強化樹脂製バット1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、熱伝導率が低くなり良好な振動減衰性を発現できなくなるからである。又、下限値を10nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも小さくなると、取扱い性が難しくなり、マトリックス樹脂中に斑なく均等に含有させることができず、繊維強化樹脂製バット1の品質にバラツキが生じる恐れがあるからである。
【0022】
又、前記平均繊維長の上限値を30μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂中に均等に含有させることが難しくなるからであり、又、下限値を2μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも小さくなると、取扱いが難しくなるからである。
【0023】
前記熱伝導率の上限値を3000W/(m・K)に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維7において、前記平均繊維径の設定範囲の中で得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を1000W/(m・K)に設定したのは、熱伝導率がこれより小さくなると、繊維強化樹脂製バット1の振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が発現できなくなるからである。
【0024】
又、前記中空部の孔径の上限値を、上記のように前記平均繊維径の60%に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維7の中で良好な品質を確保して生成し得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を10%に設定したのは、これよりも小さいと良好な反発性能及び、衝撃強度を発現し難くなるからである。
【0025】
更に、前記微細炭素繊維7は、常温での粘度が50〜1000cpsの範囲内に設定されたマトリックス樹脂中に1質量%以上、10質量%以下、とりわけ3質量%以上、7質量%以下の割合で混入されることが好ましい。
前記微細炭素繊維7の使用量が1質量%よりも少ないと、マトリックス樹脂の層の補強効果が十分に発現できず、繊維強化樹脂製バット1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、振動減衰性及び、反発特性を十分に高めることができない。又、10質量%よりも多いと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じると共に、前記10質量%を境として、これよりも多く微細炭素繊維7を使用しても繊維強化樹脂製バット1の圧縮強度、振動減衰性、反発特性等において良好な評価は得られなかった。
【0026】
又、前記微細炭素繊維7をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製バット1の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて繊維強化樹脂製バット1を成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後のバットにボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れた繊維強化樹脂製バット1を得ることができる。種々実験を行った結果、前記マトリックス樹脂の粘度が、1000cpsより高いと、補強繊維へマトリックス樹脂が含浸し難くなり、十分な設計強度が得られ難くなるという問題があり、又、50cpsより低いと、フロー制御を十分に行うことが難しくなり、マトリックス樹脂が金型の外に多く流出し、成形後の後工程で手直しが必要となる。前記マトリックス樹脂の粘度は、とりわけ100〜300cpsが好ましい。
【0027】
又更に、前記微細炭素繊維7は、その生成温度により繊維の表面状態が種々異なる。本実施例では、前記マトリックス樹脂とのぬれ性を考慮して、その比表面積が11〜15m2/gの範囲内にあるものが好適に使用される。
前記比表面積が15m2/gよりも大きいと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じ、又、前記比表面積が11m2/gよりも小さいと、マトリックス樹脂とのぬれ性が悪くなり、補強効果が乏しくなる問題が生じる。
【0028】
このような本実施例の繊維強化樹脂製バット1を製造するには、例えば、内圧成形用のチューブの周囲に、バット成形用の複数のプリプレグシートを積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置した後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱するといった繊維強化樹脂製バットの通常の製造法において、前記プリプレグシートを構成するマトリックス樹脂中に前記した微細炭素繊維を混入させて成形する手段が講じられる。
【0029】
本実施例の繊維強化樹脂製バット1を構成する主たる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等種々のものが使用できるが、強度や剛性、質量、コストの面からも炭素繊維が好適である。補強繊維の形態としては、一方向引き揃えの他、ロービング、マット、織物、編物、ブレード等種々の形態としたものが使用できる。又、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できるが、強度、耐久性の点でエポキシ樹脂が好適である。
【0030】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットを用意した。
【0031】
(実施例1)
マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維として、平均繊維径が150nm、平均繊維長が15μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が100であり、その比表面積が13m2/g、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製:VGCF−焼成タイプ)を3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維として繊維径7μmのPAN系炭素繊維(東レ株式会社製:トレカT300)を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。
前記プリプレグシートをバット成形用に適宜裁断して、内圧成形用のチューブの周囲に巻回積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置させた後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱硬化させて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0032】
上記のように硬化成形された繊維強化樹脂製バットは、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維に替え、平均繊維径が30nm、平均繊維長が30μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が1000であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で1700W/(m・K)の特性を示すカーボンナノチューブ(CNRI社製)をマトリックス樹脂に5質量%の割合で混入せしめたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0034】
上記のように硬化成形された繊維強化樹脂製バットは、実施例1と同様、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0035】
(比較例1)
前記微細炭素繊維を省いたプリプレグシートを準備し、このプリプレグシートを使用して実施例1、2と同様な方法で繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0036】
尚、このバットの成形時、マトリックス樹脂が金型の外へ多く流出し、硬化成形された繊維強化樹脂製バットには、ボイドやピンホールが多く発生し、後工程でパテ込み等の多くの手直しを要した。
【0037】
(比較例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維に替え、平均繊維径が1.0μm、平均繊維長が50μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が50であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で5.3W/(m・K)の特性を示すチタン酸カリウムウイスカ(大塚化学株式会社製:ティスモD)を混入させたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0038】
これらの実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットについて、打球部における圧縮強度を測定した。この結果を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
前記圧縮強度に関しては、バットの先端から125mmの打球部2を幅50mmで切り出した円環状切片8を図3に示すように、支持具9上に固定し、加圧くさび10を用いて破損に要する荷重を求めた。
【0041】
又、上記試験に加え、シャルピー衝撃強度試験を行ったところ、前記微細炭素繊維を混入した実施例1、2の繊維強化樹脂製バットは、前記微細炭素繊維を混入しない比較例1の繊維強化樹脂製バットに比し、約40%高い衝撃強度が得られた。
【0042】
次に、実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットの反発特性及び、振動減衰性を確認するために実打試験を行った。この実打試験では、一般のアマチュアプレーヤーを対象にして、実際に、実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットでボールを打撃し、その際、プレーヤーが体感した打撃時のフィーリング(手に伝播される振動)や、反発性(飛び)等の評価を行った。この時の結果を以下の表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
このような試験結果より、本実施例1、2の繊維強化樹脂製バットでは、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットに比し、十分な圧縮強度が得られると共に、ボール打撃時の振動減衰性が高く、しかも、反発特性に優れたバットであることが確認できた。
【0045】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製バットにおいて、前記マトリックス樹脂に、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定される微細炭素繊維が混入されていることにより、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0046】
そして、前記微細炭素繊維は、熱伝導率が極めて高く、繊維強化樹脂製バット自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時にバットに生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることができる。
【0047】
更に、前記微細炭素繊維は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、バット自体の反発性能を大幅に向上できる。
【0048】
又、前記微細炭素繊維をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製バットの加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いてバットを成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の繊維強化樹脂製バットにボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたバットを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の繊維強化樹脂製バットの外観説明図。
【図2】図1のa部における構成説明図。
【図3】圧縮強度の試験方法を表す説明図。
【図4】従来の繊維強化樹脂製バットの構成説明図。
【符号の説明】
1 繊維強化樹脂製バット
2 打球部
3 グリップ部
4 テーパー部
5 芯材
6 外殻
7 微細炭素繊維
8 円環状切片
9 支持具
10加圧くさび
11 芯材
12 外殻
【発明の属する技術分野】
本発明は、野球やソフトボール等に使用されるバット(以下、単にバットと称する)に関するものであり、特に繊維強化樹脂から成形されるバットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、バットとしては、木製バット、金属製バット、繊維強化樹脂製(FRP製とも称される)バット等が公知である。現在、アマチュアの野球、ソフトボールにおいては、金属製バットが主流となっているが、最近の傾向としては、繊維強化樹脂製バットを世界的に認可する動きが出てきている。又、繊維強化樹脂製バットは、軽量で、強度、剛性、耐衝撃性に優れ、しかも、必要な形状を得やすいといった設計上の自由度が大きいことから今後益々その市場性が高まる傾向にある。
【0003】
通常、この種のバットは、図4に示すように、中空或いは、中実の芯材11と、その周囲に配置される繊維強化樹脂製の外殻12とから構成されている。又一般に、前記外殻12は、炭素繊維やガラス繊維を主体とする補強繊維を適宜積層し、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂で硬化成形されている。
【0004】
ところで、このような繊維強化樹脂製のバットは、所定の応力、あるいは歪が発生すると補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が剪断破壊し、特に、圧縮方向の歪みが発生する打球部で破損が起き易いという問題がある。
そのため、従来では、バットとして必要な設計強度、特に、圧縮強度を得るために、圧縮方向の歪みが発生し易い打球部を構成する補強繊維の使用量を増加させ、外殻の肉厚を厚く設計する手段が一般に講じられている。又、前記打球部では、必要な圧縮強度を発現させるために、前記補強繊維をバットの長手方向軸に対して±45〜90°に配向させたバイアス層或いは、フープ層を多用している。
【0005】
しかし、このような従来の繊維強化樹脂製バットでは、必要な圧縮強度を発現させることに伴って、必然的に引張り強度や曲げ強度をも向上させてしまい、この結果、バット自体の剛性が一段と高まり、バットの剛さが非常に剛くなる傾向にある。このような剛いバットは、力量のあるハードヒッターには適するものの、一般のプレーヤーには不向きで扱い難いものであった。又、打球部においては、バイアス層或いは、フープ層が多く積層されることから、ボール打撃時に補強繊維の層間で剪断破壊が生じ易い問題があった。
【0006】
更に、必要な圧縮強度を得るために、使用する補強繊維の量を増加し、外殻の肉厚を厚く構成している分、バット自体の質量が増加してしまうという欠点もある。特に、近年では、スイング性が重視され、バットの軽量化が望まれるが、バットの軽量化を図りつつ、実用上十分な圧縮強度を発現させることは難しい問題となっている。
【0007】
従来、このような問題を解決するための手段として、繊維強化樹脂製バットの外殻を形成している補強繊維とマトリックス樹脂において、該マトリックス樹脂に任意のウイスカを強化素材として添加せしめる方法が一般に公知となっている。又、前記ウイスカとしては、窒化ケイ素ウイスカや、炭化ケイ素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ等が使用されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
かかる構成のバットによれば、FRP外殻層において、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層が前記ウイスカにより補強されるようになるため、補強繊維の層間剪断強度を大幅に向上させることができる。この結果、バット自体の剛性(剛さ)をあまり変えることなく、実用上十分な圧縮強度を発現させることができた。
【0009】
しかし、このように従来より使用されているウイスカは、熱伝導率が低く放熱性に劣るという特性を有する。例えば、その代表例として、窒化ケイ素ウイスカの熱伝導率は、5〜30℃(実際にバットが使用に供される温度)の状態下で20〜30W/(m・K)、炭化ケイ素ウイスカは、1.2〜1.4W/(m・K)、チタン酸カリウムウイスカは、5〜6W/(m・K)程度と低く、これらのウイスカをマトリックス樹脂中に添加してバットを形成すると、バット自体の熱伝導率が低下し、ボール打撃時に生起する振動が熱エネルギーとして消費され難くなる。この結果、バットの振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が得られ難くなるという問題があった。
【0010】
又、通常、前記ウイスカは剛直な結晶体であり、これをマトリックス樹脂中に添加して用いると、硬化成形される樹脂の靭性が乏しくなり衝撃強度が劣ってしまうと共に、樹脂の弾力性が乏しくなる為、バットの反発性能が大幅に低下してしまうことが予測される。
【0011】
そこで本発明は、このような従来の問題点に鑑み、バットとして実用上十分な強度を有し、且つ、反発性能に優れ、しかも、良好な打球感が発現できる繊維強化樹脂製バットを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような構成とした。
即ち、本発明の請求項1に係るバットは、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製バットであって、前記マトリックス樹脂に、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定される微細炭素繊維が混入されていることを特徴とするものである。
【0013】
又、請求項2は、前記請求項1に係る繊維強化樹脂製バットであって、前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、100〜400cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施例の繊維強化樹脂製バットの外観説明図、図2は、図1のa部領域における構成説明図を示す。
【0015】
即ち、本実施例の繊維強化樹脂製バット1は、図1に示すように、ボールを打撃する円筒形状の打球部2と、該打球部2とグリップ部3とを連結するテーパー部4とから成っている。そして、その構成としては、図2に示すように、芯材5の周囲に、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製の外殻6を備えた管状構造を有している。
そして、本実施例の繊維強化樹脂製バット1では、前記外殻6を構成するマトリックス樹脂に、以下に説明する微細炭素繊維7を強化素材として混入している。
【0016】
前記微細炭素繊維7は、例えば、気相成長法、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ合成法等の方法によって生成され、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、ナノメートルオーダーの繊維径を有する非常に微細な炭素繊維素材から成る。かかる微細炭素繊維7としては、カーボンナノチューブ或いは、カーボンナノファイバー等が使用される。
【0017】
この種の微細炭素繊維7は、軽量で比強度に優れる微細な繊維であり、これをマトリックス樹脂中に混入させた場合、前記微細炭素繊維7が前記マトリックス樹脂を補強するフィラーとしての役目を果たす。特に、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0018】
又、前記微細炭素繊維7は、熱伝導率が他の公知素材と比較して極めて高く、繊維強化樹脂製バット1自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時に繊維強化樹脂製バット1に生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることが可能となる。
【0019】
更に、前記微細炭素繊維7は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、繊維強化樹脂製バット1自体の反発性能を大幅に向上させることができる。これは、前記微細炭素繊維7が、その中心部に微細な中空部を備えた結晶構造を有するためと推測される。
【0020】
前記微細炭素繊維7は、その繊維径が小さいもの程、優れた補強効果を発現し、且つ熱伝導率が高くなる傾向にある。又、前記中空部の孔径が大きい程、優れた反発性能を発揮し、且つ衝撃強度を高めることができる。本実施例では、繊維強化樹脂製バット1に適したものとして、その平均繊維径は、10〜300nmの範囲内、とりわけ20〜200nmの範囲内に設定し、平均繊維長が2〜30μm、とりわけ5〜20μmの範囲内にあるものが使用される。又、熱伝導率は、5〜30℃(実際にバットが使用に供される温度)の状態下で1000〜3000W/(m・K)の範囲内、とりわけ1500〜2000W/(m・K)の範囲内にあるものが使用される。更に、前記中空部の孔径は、前記平均繊維径の10〜60%の範囲内、とりわけ30〜50%の範囲内にあるものが好適に使用される。
【0021】
上記において、前記微細炭素繊維7の平均繊維径の上限値を300nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂の層の補強効果を十分に発現できず、繊維強化樹脂製バット1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、熱伝導率が低くなり良好な振動減衰性を発現できなくなるからである。又、下限値を10nmに設定したのは、前記繊維径がこれよりも小さくなると、取扱い性が難しくなり、マトリックス樹脂中に斑なく均等に含有させることができず、繊維強化樹脂製バット1の品質にバラツキが生じる恐れがあるからである。
【0022】
又、前記平均繊維長の上限値を30μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも大きくなると、マトリックス樹脂中に均等に含有させることが難しくなるからであり、又、下限値を2μmに設定したのは、前記平均繊維長がこれよりも小さくなると、取扱いが難しくなるからである。
【0023】
前記熱伝導率の上限値を3000W/(m・K)に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維7において、前記平均繊維径の設定範囲の中で得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を1000W/(m・K)に設定したのは、熱伝導率がこれより小さくなると、繊維強化樹脂製バット1の振動減衰性が劣ってしまい、良好な打球感が発現できなくなるからである。
【0024】
又、前記中空部の孔径の上限値を、上記のように前記平均繊維径の60%に設定したのは、現在知り得る微細炭素繊維7の中で良好な品質を確保して生成し得ることのできる上限値がこの値であるからであり、又、下限値を10%に設定したのは、これよりも小さいと良好な反発性能及び、衝撃強度を発現し難くなるからである。
【0025】
更に、前記微細炭素繊維7は、常温での粘度が50〜1000cpsの範囲内に設定されたマトリックス樹脂中に1質量%以上、10質量%以下、とりわけ3質量%以上、7質量%以下の割合で混入されることが好ましい。
前記微細炭素繊維7の使用量が1質量%よりも少ないと、マトリックス樹脂の層の補強効果が十分に発現できず、繊維強化樹脂製バット1として満足のできる圧縮強度を得ることができなくなると共に、振動減衰性及び、反発特性を十分に高めることができない。又、10質量%よりも多いと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じると共に、前記10質量%を境として、これよりも多く微細炭素繊維7を使用しても繊維強化樹脂製バット1の圧縮強度、振動減衰性、反発特性等において良好な評価は得られなかった。
【0026】
又、前記微細炭素繊維7をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製バット1の加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いて繊維強化樹脂製バット1を成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後のバットにボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れた繊維強化樹脂製バット1を得ることができる。種々実験を行った結果、前記マトリックス樹脂の粘度が、1000cpsより高いと、補強繊維へマトリックス樹脂が含浸し難くなり、十分な設計強度が得られ難くなるという問題があり、又、50cpsより低いと、フロー制御を十分に行うことが難しくなり、マトリックス樹脂が金型の外に多く流出し、成形後の後工程で手直しが必要となる。前記マトリックス樹脂の粘度は、とりわけ100〜300cpsが好ましい。
【0027】
又更に、前記微細炭素繊維7は、その生成温度により繊維の表面状態が種々異なる。本実施例では、前記マトリックス樹脂とのぬれ性を考慮して、その比表面積が11〜15m2/gの範囲内にあるものが好適に使用される。
前記比表面積が15m2/gよりも大きいと、マトリックス樹脂中に均等に混入させ難くなるという問題が生じ、又、前記比表面積が11m2/gよりも小さいと、マトリックス樹脂とのぬれ性が悪くなり、補強効果が乏しくなる問題が生じる。
【0028】
このような本実施例の繊維強化樹脂製バット1を製造するには、例えば、内圧成形用のチューブの周囲に、バット成形用の複数のプリプレグシートを積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置した後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱するといった繊維強化樹脂製バットの通常の製造法において、前記プリプレグシートを構成するマトリックス樹脂中に前記した微細炭素繊維を混入させて成形する手段が講じられる。
【0029】
本実施例の繊維強化樹脂製バット1を構成する主たる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等種々のものが使用できるが、強度や剛性、質量、コストの面からも炭素繊維が好適である。補強繊維の形態としては、一方向引き揃えの他、ロービング、マット、織物、編物、ブレード等種々の形態としたものが使用できる。又、マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できるが、強度、耐久性の点でエポキシ樹脂が好適である。
【0030】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットを用意した。
【0031】
(実施例1)
マトリックス樹脂として、粘度が100cpsのエポキシ樹脂を準備し、これに微細炭素繊維として、平均繊維径が150nm、平均繊維長が15μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が100であり、その比表面積が13m2/g、熱伝導率が15℃の温度状態下で1500W/(m・K)の特性を示すカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製:VGCF−焼成タイプ)を3質量%の割合で混入せしめたマトリックス樹脂素材を得た。又、補強繊維として繊維径7μmのPAN系炭素繊維(東レ株式会社製:トレカT300)を準備し、繊維量(Vf)が55%のプリプレグシートを得た。
前記プリプレグシートをバット成形用に適宜裁断して、内圧成形用のチューブの周囲に巻回積層し、これを金型のバット形状としたキャビティ内に配置させた後に、前記チューブ内に圧縮空気を注入し加熱硬化させて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0032】
上記のように硬化成形された繊維強化樹脂製バットは、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維に替え、平均繊維径が30nm、平均繊維長が30μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が1000であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で1700W/(m・K)の特性を示すカーボンナノチューブ(CNRI社製)をマトリックス樹脂に5質量%の割合で混入せしめたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0034】
上記のように硬化成形された繊維強化樹脂製バットは、実施例1と同様、ボイドやピンホール等が生じることがなく、成形品質に優れ、後工程での手直しを要することがなかった。
【0035】
(比較例1)
前記微細炭素繊維を省いたプリプレグシートを準備し、このプリプレグシートを使用して実施例1、2と同様な方法で繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0036】
尚、このバットの成形時、マトリックス樹脂が金型の外へ多く流出し、硬化成形された繊維強化樹脂製バットには、ボイドやピンホールが多く発生し、後工程でパテ込み等の多くの手直しを要した。
【0037】
(比較例2)
実施例1で使用した微細炭素繊維に替え、平均繊維径が1.0μm、平均繊維長が50μm、アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)が50であり、熱伝導率が15℃の温度状態下で5.3W/(m・K)の特性を示すチタン酸カリウムウイスカ(大塚化学株式会社製:ティスモD)を混入させたプリプレグシートを用いて繊維強化樹脂製バットを形成した。
【0038】
これらの実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットについて、打球部における圧縮強度を測定した。この結果を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
前記圧縮強度に関しては、バットの先端から125mmの打球部2を幅50mmで切り出した円環状切片8を図3に示すように、支持具9上に固定し、加圧くさび10を用いて破損に要する荷重を求めた。
【0041】
又、上記試験に加え、シャルピー衝撃強度試験を行ったところ、前記微細炭素繊維を混入した実施例1、2の繊維強化樹脂製バットは、前記微細炭素繊維を混入しない比較例1の繊維強化樹脂製バットに比し、約40%高い衝撃強度が得られた。
【0042】
次に、実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットの反発特性及び、振動減衰性を確認するために実打試験を行った。この実打試験では、一般のアマチュアプレーヤーを対象にして、実際に、実施例1、2と、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットでボールを打撃し、その際、プレーヤーが体感した打撃時のフィーリング(手に伝播される振動)や、反発性(飛び)等の評価を行った。この時の結果を以下の表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
このような試験結果より、本実施例1、2の繊維強化樹脂製バットでは、比較例1、2の繊維強化樹脂製バットに比し、十分な圧縮強度が得られると共に、ボール打撃時の振動減衰性が高く、しかも、反発特性に優れたバットであることが確認できた。
【0045】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製バットにおいて、前記マトリックス樹脂に、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定される微細炭素繊維が混入されていることにより、補強繊維の層間に介在するマトリックス樹脂の層を効果的に補強できるため、補強繊維の層間剪断強度を著しく向上でき、この結果、圧縮強度を大幅に高めることができる。
【0046】
そして、前記微細炭素繊維は、熱伝導率が極めて高く、繊維強化樹脂製バット自体の熱伝導率を高めることができる。この結果、ボール打撃時にバットに生起する振動が素早く熱エネルギーとして消費されるようになるため、振動減衰性が高まり、良好な打球感を得ることができる。
【0047】
更に、前記微細炭素繊維は、優れた反発特性を有し、硬化成形される樹脂に適度な弾力性を与えるため、バット自体の反発性能を大幅に向上できる。
【0048】
又、前記微細炭素繊維をマトリックス樹脂中に混入すると、繊維強化樹脂製バットの加熱硬化成形時に、前記マトリックス樹脂が金型の外に流れ出す量を抑制することができる。即ち、樹脂のフロー制御が行えるため、補強繊維への浸透性に優れた50〜1000cpsといった比較的低粘度のマトリックス樹脂を用いてバットを成形することができる。これにより、補強繊維への樹脂の含浸性を高め、しかも、成形時に樹脂の流出が抑えられることから、成形後の繊維強化樹脂製バットにボイドやピンホール等が生じ難く、後工程で手直しを要しない成形品質に優れたバットを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の繊維強化樹脂製バットの外観説明図。
【図2】図1のa部における構成説明図。
【図3】圧縮強度の試験方法を表す説明図。
【図4】従来の繊維強化樹脂製バットの構成説明図。
【符号の説明】
1 繊維強化樹脂製バット
2 打球部
3 グリップ部
4 テーパー部
5 芯材
6 外殻
7 微細炭素繊維
8 円環状切片
9 支持具
10加圧くさび
11 芯材
12 外殻
Claims (2)
- 補強繊維とマトリックス樹脂とで形成される繊維強化樹脂製のバットにおいて、前記マトリックス樹脂に、炭素六角網面の結晶が円筒形に巻かれる単層構造或いは、多層構造を成し、その中心部に微細な中空部を有する結晶素材であって、平均繊維径が10〜300nmの範囲内に設定される微細炭素繊維が混入されていることを特徴とする繊維強化樹脂製バット。
- 前記マトリックス樹脂の常温における粘度が、50〜1000cpsの範囲内に設定されると共に、該マトリックス樹脂に前記微細炭素繊維が1質量%以上、10質量%以下の割合で混入されていることを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂製バット。
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JP2006051063A (ja) * | 2004-08-10 | 2006-02-23 | Mizuno Technics Kk | 木製バット |
JP2011148214A (ja) * | 2010-01-22 | 2011-08-04 | Doshisha | 繊維強化複合体 |
WO2012096317A1 (ja) | 2011-01-12 | 2012-07-19 | 保土谷化学工業株式会社 | 微細炭素繊維が分散した熱硬化性樹脂含有液およびそれらの熱硬化性樹脂成形品 |
RU2474594C2 (ru) * | 2011-05-10 | 2013-02-10 | Федеральное государственное бюджетное образовательное учреждение высшего профессионального образования "Кабардино-Балкарский государственный университет им. Х.М. Бербекова" | Полимерные нанокомпозиты и способ их получения |
-
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- 2002-12-26 JP JP2002375737A patent/JP2004202004A/ja active Pending
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