JP2004228002A - 有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機EL素子の陽極バッファー層は、一般的にCuPcが用いられており、同CuPc膜は真空蒸着法で成膜するため、正孔輸送層との密着性が悪く、陽極からの正孔注入効率が改善されない。
【解決手段】陽極バッファー層として、有機高分子、好適例としてはPEDOTを用いることにより、陽極表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成する。これにより陽極からの正孔注入効率の大幅改善、素子の最高発光効率の達成が可能となった。
【選択図】 図1
【解決手段】陽極バッファー層として、有機高分子、好適例としてはPEDOTを用いることにより、陽極表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成する。これにより陽極からの正孔注入効率の大幅改善、素子の最高発光効率の達成が可能となった。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記する。)素子及びその製造方法に関する。有機EL素子は、1987年Tang等によって報告された積層型の素子に端を発し、それ以降、素子としての特性は飛躍的に向上し、すでにパーソナルコンピュータ端末、携帯電話等において実用化されている。
【0002】
【従来の技術】
すでに実用化されている従来例として、陽極としてITO(インジウムと錫の酸化物の透明電極)、陽極バッファー層としてCuPc(銅フタロシアニン)、正孔輸送層としてTPD(トリフェニルジアミン誘導体)、発光層を兼ねた電子輸送層としてAlq3(アルミニウム錯体)、陰極バッファー層としてLiF(フッ化リチウム)、陰極としてAl(アルミニウム)を使用し、この順序で構成した有機EL素子がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】
E.W.Forsythe,M.A.Abkowitz,Y.Gao,and C.W.Tang, ”Influence of copper phthalocynanine on the charge injectionand growth modes for organic light emitting diodes,”J.Vac.Sci.Technol.A,vol.18,no.4,pp.1869−1874,2001.
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、CuPcは真空蒸着法で成膜するため、あたかも野山に雪が降るごとく、下地のITO基板の凹凸をそのまま反映した表面形状となる。そのため、 正孔輸送層との密着性が悪く、陽極からの正孔注入効率が大幅に改善されないという欠点があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極の順で構成させる有機EL素子において、又、発光層と電子輸送層とが別の層として形成される構造の、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順で構成される有機EL素子において、更に又、上記構成に陰極バッファー層を付加した構造である、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順、又は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順で構成される有機EL素子において、陽極バッファー層として有機高分子を用いることを特徴とする。有機高分子としては、poly(3,4−ethylene dioxythiophene)が好適である。
【0006】
有機高分子を用いれば、ITO等の陽極の表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成することが出来、酸化プラズマによる陽極の前処理も不要となり大幅なコストダウンが可能である。又、仮にITO等の基板に凹凸があっても、それら凹凸を埋めつつ表面の平坦な陽極バッファー層が形成でき、もって正孔輸送層との密着性が良くなる。更に、陽極バッファー層の膜厚をスピンコート時の回転数、溶液の濃度で制御でき、有機発光素子における正孔注入効率を容易に調整することができるため、素子の最高発光効率を達成することが可能となる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例につき、図面を参照しつつ、説明する。図1は、本発明の一実施例における有機EL素子の構造を示す図である。
【0008】
図1において、1はガラス基板、2はITOよりなる陽極、3は陽極バッファー層、4はトリフェニルジアミン誘導体N,N´−diphenyl−N,N´−bis(3−methylphenyl)−1,1´−biphenyl−4,4´−diamine(TPD)よりなる正孔輸送層、5はアルミニウム錯体tris(8−hydroxyquinoline)(Alq3)よりなる発光層を兼ねた電子輸送層(発光層・電子輸送層と記す。)、6はLiFよりなる陰極バッファー層、7は低仕事関数のAlよりなる陰極であり、図示のように順に形成されている。
【0009】
ここで、本発明の最大の特徴は、陽極バッファー層として、チオフェン系導電性高分子poly(3,4−ethylene dioxythiophene)(PEDOT)を採用することにある。尚、上記PEDOT、TPD、Alq3の化学構造式は図2のとおりである。
【0010】
素子の作製方法は以下のとおりである。アセトンで十分に洗浄したITO基板にPEDOT水溶液をスピンコートにより成膜(回転数5000rpmで30sec)した後、ホットプレート上で110〜120℃で5分間、150〜180℃で3分間熱処理した。その後、真空度約1.0×10−2PaにてTPD、Alq3、LiF、Alをそれぞれ順に真空蒸着し、サンドウィッチ型の試料を作製した。試料面積は9mm2(3mm×3mm)である。それぞれの膜厚は、TPD50nm、Alq350nm、LiF3nmである。膜厚は触針型の膜厚計で測定した。PEDOTを用いたhole−onlyデバイス(ITO/PEDOT/TPD/Au)の内蔵電位及び電流―電圧特性から以下に説明するように、PEDOTの最適膜厚を決定する。内蔵電位は電極間の仕事関数の差に起因する。
【0011】
尚、PEDOTの最適膜厚の決定には、電子の全く入らないよう考慮し、陰極としてAuを採用した。TPD、ITO、Auの膜厚はそれぞれ1.2μm、224nm、21nmで一定とし、PEDOTの厚さを5nm、10nm、30nmと膜厚を変化させた素子を作製し、夫々の素子の特性を比較しながら説明する。
【0012】
図3は、TPDの蛍光、光吸収及び定常光電流スペクトルを示す図であり、同図3より光吸収の極大位置は3.49eV、蛍光の極大位置は3.09eVであることがわかる。定常光電流は3.15eVに電流値のピークが観測された。
【0013】
なお、蛍光、光吸収スペクトルの測定には石英基板上に膜厚95nmのTPDを真空蒸着した試料を用いた。蛍光スペクトル測定は蛍光分光光度計を用い、光吸収スペクトルの測定には分光光度計を用いた。定常光電流スペクトルの測定には上述のサンドウィッチ試料を用いた。
【0014】
光起電力法に用いた励起光は、300Wキセノンランプ光源をブレーズ波長500nmの回折格子分光器で分光し、出射光を集光した後、試料のITO電極側から入射させた。励起光はTPDの吸収極大付近の3.6eV光(吸収係数:4.13×104cm−1)を照射した(照射光強度:17μW/cm2)。また、暗電流測定は同一の測定系で光を遮断した状態で行った。なお、光電流、暗電流測定にはピコアンメータを用い、試料への電圧印加はピコアンメータの内蔵電源により行った。
【0015】
図4(a)に陽極バッファ層(PEDOT)がない素子(ITO/TPD/Au)のJL、JD、|JL−JD|−Vappl特性を示す。同図4(a)より|JL−JD|が最小値をとる電圧は−0.30Vとなり、Vbiは0.30eVと見積もることができる(ここで得られたVbiの値は励起光強度に依存しなかった。以下に示す図4(b)〜(d)においても同様であった)。なお、この場合のバンド図は図5(a)のように描ける。Vbiの値は、陽極ITO、陰極Auの仕事関数がそれぞれ4.8eV、5.1eVであることから妥当な値である。この事実から図5(a)に示したようにTPD中のバンドベンディングは無視できることがわかる。更に、同じ金属で有機半導体を挟んだサンドウィッチ試料においても光起電力法による測定を行ったが、この際のVbiの値はゼロとなる妥当な結果が得られた。
【0016】
図4(b)〜(d)にPEDOT層を5nm、10nm、30nm設けた素子(ITO/PEDOT/TPD/Au)のJL、JD、|JL−JD|−Vappl特性を示す。PEDOT層厚が5nmの場合Vbi=−0.10eVとなり、PEDOT層厚が10nm、30nmの場合、両者ともVbi=0eVとなった。これは、PEDOT層厚が5nm、10nm、30nmと大きくなるにつれ、ITO/PEDOT陽極の仕事関数が0.20eV、0.30eV、0.30eV増加したことに対応する。すなわち、陽極から注入される正孔にとって注入障壁が低下したことを意味する。図5(b)は10nm以上のPEDOTを挿入した素子の接触後の熱平衡状態におけるバンド図を示す。
【0017】
図6に図3(a)〜(d)で得られた結果をまとめておく。図6中におけるJOはPEDOTバッファー層を挿入していないITO/TPD/Au構造の素子の1V、10Vそれぞれの印加電圧における電流値、JはITO/PEDOT/TPD/Au構造の素子のそれぞれの印加電圧における電流値である。PEDOTバッファー層の膜厚が厚くなるにつれVbiが低下し、Vbiがゼロとなる10nm以上の膜厚において電流値が30倍程度と大きくなり飽和の傾向が見られる。PEDOTを発光素子のバッファー層として用いる場合、膜厚は薄く設定するのが一般的であるので、ITO/PEDOT陽極とTPDの接触の場合、PEDOT膜厚は10nm程度が最適であることがわかる。
【0018】
PEDOTバッファー層により正孔注入効率が増大する機構としては、PEDOT層がない場合、ITOの凹凸に起因しITOと正孔輸送層との接触面積が制限されていたのが、PEDOT層をITOと正孔輸送層間に挿入することにより接触面積の拡大が図られるため電流値が増大するとの見方がある。ウェットプロセスで作成する場合と異なり、有機低分子化合物の蒸着膜の場合、このような界面に凹凸がある場合の密着性は大きな問題となる。しかし、ITO陽極とTPD間の接触面積の増加のみではPEDOT層厚によるVbiの変化を理解することはできない。
【0019】
PEDOTのHOMOレベルと真空準位とのエネルギー差は5.2±0.1eVと報告されている。この値は、ちょうど、PEDOTのHOMOレベルがITOの仕事関数とTPDのHOMOレベル(真空準位から見て5.5eV)との間に存在することを意味し、ITOから正孔がまずPEDOT層に注入され、さらにPEDOT層からTPD層へと注入される段階的な注入現象により正孔注入効率が上昇したと考えることができる。この機構によりITO/PEDOT陽極を用いた場合の正孔の注入障壁は低下し、電流値も上昇すると結論することができる。
【0020】
以上のように、本発明は、有機EL素子において、その陽極バッファー層として有機高分子、好適例としてはPEDOTを用いることにより、陽極からの正孔の注入障壁が低下することにより、正孔注入効率の向上が図れた。
【0021】
【発明の効果】
有機EL素子における陽極バッファー層として有機高分子を用いれば、ITO等の陽極の表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成することが出来、酸化プラズマによる陽極の前処理も不要となり大幅なコストダウンが可能である。又、仮に陽極基板に凹凸があっても、それら凹凸を埋めつつ表面の平坦な陽極バッファー層が形成でき、もって正孔輸送層との密着性が良くなり、陽極からの正孔注入効率が大幅に改善される。更に、陽極バッファー層の膜厚をスピンコート時の回転数、溶液の濃度で制御でき、有機発光素子における正孔注入効率を容易に調整することができるため、素子の最高発光効率を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における有機EL素子の構造を示す図。
【図2】本発明の一実施例に用いられる主要部材の化学構造を示す図。
【図3】有機EL素子の構成部材の蛍光、光吸収及び定常光電流スペクトルを示す図。
【図4】有機EL素子において、PEDOTのない素子及びPEDOTの存在する素子でその膜厚を変化させたときの諸特性を示す図。
【図5】本発明の作用効果を説明するためのエネルギーバンド図。
【図6】本発明の作用効果を説明するための図。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 陽極(ITO)
3 陽極バッファー層(PEDOT)
4 正孔輸送層(TPD)
5 発光層・電子輸送層(Alq3)
6 陰極バッファー層(LiF)
7 陰極(Al)
【発明の属する技術分野】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記する。)素子及びその製造方法に関する。有機EL素子は、1987年Tang等によって報告された積層型の素子に端を発し、それ以降、素子としての特性は飛躍的に向上し、すでにパーソナルコンピュータ端末、携帯電話等において実用化されている。
【0002】
【従来の技術】
すでに実用化されている従来例として、陽極としてITO(インジウムと錫の酸化物の透明電極)、陽極バッファー層としてCuPc(銅フタロシアニン)、正孔輸送層としてTPD(トリフェニルジアミン誘導体)、発光層を兼ねた電子輸送層としてAlq3(アルミニウム錯体)、陰極バッファー層としてLiF(フッ化リチウム)、陰極としてAl(アルミニウム)を使用し、この順序で構成した有機EL素子がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】
E.W.Forsythe,M.A.Abkowitz,Y.Gao,and C.W.Tang, ”Influence of copper phthalocynanine on the charge injectionand growth modes for organic light emitting diodes,”J.Vac.Sci.Technol.A,vol.18,no.4,pp.1869−1874,2001.
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、CuPcは真空蒸着法で成膜するため、あたかも野山に雪が降るごとく、下地のITO基板の凹凸をそのまま反映した表面形状となる。そのため、 正孔輸送層との密着性が悪く、陽極からの正孔注入効率が大幅に改善されないという欠点があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極の順で構成させる有機EL素子において、又、発光層と電子輸送層とが別の層として形成される構造の、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順で構成される有機EL素子において、更に又、上記構成に陰極バッファー層を付加した構造である、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順、又は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順で構成される有機EL素子において、陽極バッファー層として有機高分子を用いることを特徴とする。有機高分子としては、poly(3,4−ethylene dioxythiophene)が好適である。
【0006】
有機高分子を用いれば、ITO等の陽極の表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成することが出来、酸化プラズマによる陽極の前処理も不要となり大幅なコストダウンが可能である。又、仮にITO等の基板に凹凸があっても、それら凹凸を埋めつつ表面の平坦な陽極バッファー層が形成でき、もって正孔輸送層との密着性が良くなる。更に、陽極バッファー層の膜厚をスピンコート時の回転数、溶液の濃度で制御でき、有機発光素子における正孔注入効率を容易に調整することができるため、素子の最高発光効率を達成することが可能となる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例につき、図面を参照しつつ、説明する。図1は、本発明の一実施例における有機EL素子の構造を示す図である。
【0008】
図1において、1はガラス基板、2はITOよりなる陽極、3は陽極バッファー層、4はトリフェニルジアミン誘導体N,N´−diphenyl−N,N´−bis(3−methylphenyl)−1,1´−biphenyl−4,4´−diamine(TPD)よりなる正孔輸送層、5はアルミニウム錯体tris(8−hydroxyquinoline)(Alq3)よりなる発光層を兼ねた電子輸送層(発光層・電子輸送層と記す。)、6はLiFよりなる陰極バッファー層、7は低仕事関数のAlよりなる陰極であり、図示のように順に形成されている。
【0009】
ここで、本発明の最大の特徴は、陽極バッファー層として、チオフェン系導電性高分子poly(3,4−ethylene dioxythiophene)(PEDOT)を採用することにある。尚、上記PEDOT、TPD、Alq3の化学構造式は図2のとおりである。
【0010】
素子の作製方法は以下のとおりである。アセトンで十分に洗浄したITO基板にPEDOT水溶液をスピンコートにより成膜(回転数5000rpmで30sec)した後、ホットプレート上で110〜120℃で5分間、150〜180℃で3分間熱処理した。その後、真空度約1.0×10−2PaにてTPD、Alq3、LiF、Alをそれぞれ順に真空蒸着し、サンドウィッチ型の試料を作製した。試料面積は9mm2(3mm×3mm)である。それぞれの膜厚は、TPD50nm、Alq350nm、LiF3nmである。膜厚は触針型の膜厚計で測定した。PEDOTを用いたhole−onlyデバイス(ITO/PEDOT/TPD/Au)の内蔵電位及び電流―電圧特性から以下に説明するように、PEDOTの最適膜厚を決定する。内蔵電位は電極間の仕事関数の差に起因する。
【0011】
尚、PEDOTの最適膜厚の決定には、電子の全く入らないよう考慮し、陰極としてAuを採用した。TPD、ITO、Auの膜厚はそれぞれ1.2μm、224nm、21nmで一定とし、PEDOTの厚さを5nm、10nm、30nmと膜厚を変化させた素子を作製し、夫々の素子の特性を比較しながら説明する。
【0012】
図3は、TPDの蛍光、光吸収及び定常光電流スペクトルを示す図であり、同図3より光吸収の極大位置は3.49eV、蛍光の極大位置は3.09eVであることがわかる。定常光電流は3.15eVに電流値のピークが観測された。
【0013】
なお、蛍光、光吸収スペクトルの測定には石英基板上に膜厚95nmのTPDを真空蒸着した試料を用いた。蛍光スペクトル測定は蛍光分光光度計を用い、光吸収スペクトルの測定には分光光度計を用いた。定常光電流スペクトルの測定には上述のサンドウィッチ試料を用いた。
【0014】
光起電力法に用いた励起光は、300Wキセノンランプ光源をブレーズ波長500nmの回折格子分光器で分光し、出射光を集光した後、試料のITO電極側から入射させた。励起光はTPDの吸収極大付近の3.6eV光(吸収係数:4.13×104cm−1)を照射した(照射光強度:17μW/cm2)。また、暗電流測定は同一の測定系で光を遮断した状態で行った。なお、光電流、暗電流測定にはピコアンメータを用い、試料への電圧印加はピコアンメータの内蔵電源により行った。
【0015】
図4(a)に陽極バッファ層(PEDOT)がない素子(ITO/TPD/Au)のJL、JD、|JL−JD|−Vappl特性を示す。同図4(a)より|JL−JD|が最小値をとる電圧は−0.30Vとなり、Vbiは0.30eVと見積もることができる(ここで得られたVbiの値は励起光強度に依存しなかった。以下に示す図4(b)〜(d)においても同様であった)。なお、この場合のバンド図は図5(a)のように描ける。Vbiの値は、陽極ITO、陰極Auの仕事関数がそれぞれ4.8eV、5.1eVであることから妥当な値である。この事実から図5(a)に示したようにTPD中のバンドベンディングは無視できることがわかる。更に、同じ金属で有機半導体を挟んだサンドウィッチ試料においても光起電力法による測定を行ったが、この際のVbiの値はゼロとなる妥当な結果が得られた。
【0016】
図4(b)〜(d)にPEDOT層を5nm、10nm、30nm設けた素子(ITO/PEDOT/TPD/Au)のJL、JD、|JL−JD|−Vappl特性を示す。PEDOT層厚が5nmの場合Vbi=−0.10eVとなり、PEDOT層厚が10nm、30nmの場合、両者ともVbi=0eVとなった。これは、PEDOT層厚が5nm、10nm、30nmと大きくなるにつれ、ITO/PEDOT陽極の仕事関数が0.20eV、0.30eV、0.30eV増加したことに対応する。すなわち、陽極から注入される正孔にとって注入障壁が低下したことを意味する。図5(b)は10nm以上のPEDOTを挿入した素子の接触後の熱平衡状態におけるバンド図を示す。
【0017】
図6に図3(a)〜(d)で得られた結果をまとめておく。図6中におけるJOはPEDOTバッファー層を挿入していないITO/TPD/Au構造の素子の1V、10Vそれぞれの印加電圧における電流値、JはITO/PEDOT/TPD/Au構造の素子のそれぞれの印加電圧における電流値である。PEDOTバッファー層の膜厚が厚くなるにつれVbiが低下し、Vbiがゼロとなる10nm以上の膜厚において電流値が30倍程度と大きくなり飽和の傾向が見られる。PEDOTを発光素子のバッファー層として用いる場合、膜厚は薄く設定するのが一般的であるので、ITO/PEDOT陽極とTPDの接触の場合、PEDOT膜厚は10nm程度が最適であることがわかる。
【0018】
PEDOTバッファー層により正孔注入効率が増大する機構としては、PEDOT層がない場合、ITOの凹凸に起因しITOと正孔輸送層との接触面積が制限されていたのが、PEDOT層をITOと正孔輸送層間に挿入することにより接触面積の拡大が図られるため電流値が増大するとの見方がある。ウェットプロセスで作成する場合と異なり、有機低分子化合物の蒸着膜の場合、このような界面に凹凸がある場合の密着性は大きな問題となる。しかし、ITO陽極とTPD間の接触面積の増加のみではPEDOT層厚によるVbiの変化を理解することはできない。
【0019】
PEDOTのHOMOレベルと真空準位とのエネルギー差は5.2±0.1eVと報告されている。この値は、ちょうど、PEDOTのHOMOレベルがITOの仕事関数とTPDのHOMOレベル(真空準位から見て5.5eV)との間に存在することを意味し、ITOから正孔がまずPEDOT層に注入され、さらにPEDOT層からTPD層へと注入される段階的な注入現象により正孔注入効率が上昇したと考えることができる。この機構によりITO/PEDOT陽極を用いた場合の正孔の注入障壁は低下し、電流値も上昇すると結論することができる。
【0020】
以上のように、本発明は、有機EL素子において、その陽極バッファー層として有機高分子、好適例としてはPEDOTを用いることにより、陽極からの正孔の注入障壁が低下することにより、正孔注入効率の向上が図れた。
【0021】
【発明の効果】
有機EL素子における陽極バッファー層として有機高分子を用いれば、ITO等の陽極の表面にスピンコートするだけで陽極バッファー層を形成することが出来、酸化プラズマによる陽極の前処理も不要となり大幅なコストダウンが可能である。又、仮に陽極基板に凹凸があっても、それら凹凸を埋めつつ表面の平坦な陽極バッファー層が形成でき、もって正孔輸送層との密着性が良くなり、陽極からの正孔注入効率が大幅に改善される。更に、陽極バッファー層の膜厚をスピンコート時の回転数、溶液の濃度で制御でき、有機発光素子における正孔注入効率を容易に調整することができるため、素子の最高発光効率を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における有機EL素子の構造を示す図。
【図2】本発明の一実施例に用いられる主要部材の化学構造を示す図。
【図3】有機EL素子の構成部材の蛍光、光吸収及び定常光電流スペクトルを示す図。
【図4】有機EL素子において、PEDOTのない素子及びPEDOTの存在する素子でその膜厚を変化させたときの諸特性を示す図。
【図5】本発明の作用効果を説明するためのエネルギーバンド図。
【図6】本発明の作用効果を説明するための図。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 陽極(ITO)
3 陽極バッファー層(PEDOT)
4 正孔輸送層(TPD)
5 発光層・電子輸送層(Alq3)
6 陰極バッファー層(LiF)
7 陰極(Al)
Claims (5)
- 陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極の順、又は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順で構成された有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記陽極バッファー層が有機高分子からなる有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層・電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順、又は、陽極、陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極バッファー層、陰極の順で構成された有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記陽極バッファー層が有機高分子からなる有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 有機高分子が、poly(3,4−ethylene dioxythiophene)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 陽極バッファー層の膜厚が約10nmであることを特徴とする請求項1、2、3の何れかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1、2、3、4の何れかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、陽極上に有機高分子の水溶液をスピンコートすることにより陽極バッファー層を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003016405A JP2004228002A (ja) | 2003-01-24 | 2003-01-24 | 有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003016405A JP2004228002A (ja) | 2003-01-24 | 2003-01-24 | 有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004228002A true JP2004228002A (ja) | 2004-08-12 |
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---|---|---|---|
JP2003016405A Pending JP2004228002A (ja) | 2003-01-24 | 2003-01-24 | 有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
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Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006303412A (ja) * | 2004-08-27 | 2006-11-02 | Showa Denko Kk | 有機発光素子及びその製造方法 |
JP2007035793A (ja) * | 2005-07-25 | 2007-02-08 | Optrex Corp | 有機led素子 |
JP2014192164A (ja) * | 2013-03-26 | 2014-10-06 | Kenichi Nakayama | トランジスタ素子 |
JP2020077863A (ja) * | 2011-03-23 | 2020-05-21 | 株式会社半導体エネルギー研究所 | 材料および発光装置 |
-
2003
- 2003-01-24 JP JP2003016405A patent/JP2004228002A/ja active Pending
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